説明

ポリペプチド足場としてのヘモペキシン様構造

【課題】所定の標的分子に対する特異的な結合特性を有するポリペプチドの作製方法、結合特異性の最適化および作製のプロセス、さらに、ポリペプチド足場内の特異的なアミノ酸位置の同定および修飾の方法を提供する。
【解決手段】所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドであって、特定の配列を有するポリペプチドの少なくとも一つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換されており、該標的分子に対する特異的結合特性が、該ポリペプチドに天然では固有でないポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのポリペプチドに天然では固有でない所定の標的分子に対する特異的結合特性を有するポリペプチドの調製方法に関する。同時に、結合特異性(specifity)の最適化のためのプロセスおよび作製のプロセスが記載される。本発明はさらに、ポリペプチド足場内の改変可能なアミノ酸位置の同定および修飾の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
近年、アフィニティ試薬に関する出願および公開の数は、着実に増加した。それらの大多数は、抗体、即ち、モノクローナルまたはポリクローナルの免疫グロブリン(immunoglobulines)に関するものである。ごく一部のみが、代替物となり得るものを扱っている。そのうちの一つが、タンパク質足場の使用である。この概念は、一次構造レベルでの複数の置換または挿入を容認する安定したタンパク質の構成を必要とする(Nygren, P-A., Skerra, A., J. Immun. Meth. 290(2004)3-28)(非特許文献1)。
【0003】
修飾されたタンパク質足場は、既存の問題を克服し、アフィニティ試薬の適用分野を拡張することができる。数ある問題のうちの一つは、抗体の細胞内適用である。このタンパク質ノックアウト技術の障害となっているのは、細胞内で発現された抗体が全て十分に機能するわけではないということである。これは「ジスルフィド結合問題」と呼ばれる。この問題を克服するためには、複雑なパラメータのリストを最適化するため、時間のかかる実験が実施されなければならない(Visintin, M., et al., J. Immun. Meth. 290(2004)135-153)(非特許文献2)。
【0004】
この点に関して、タンパク質はいくつかの利点を保有している。利点には、低い分子量、微生物による作製の容易さ、修飾の単純さ、および広い適用可能性がある。これに関して、種々のタンパク質足場、例えば、DNA認識のためのジンクフィンガータンパク質(Segal, D.J., et al., Biochem. 42(2003)2137-2148)(非特許文献3);活性部位ループへの可変ポリペプチド配列の導入により修飾されたチオレドキシンに基づくペプチドアプタマー(Klevenz, B., et al., Cell. Mol. Life Sci. 59(2002)1993-1998)(非特許文献4);「アフィボディ(Affibody)」足場としてのプロテインA(Sandstrom, K., et al., Prot. Eng. 16(2003)691-697(非特許文献5);Andersson, M., et al., J. Immun. Meth. 283(2003)225-234(非特許文献6));第10フィブロネクチンIII型ドメインのmRNA-タンパク質分子(Xu,L., et al., Chem. Biol. 9(2002)933-942)(非特許文献7)、またはαアミラーゼ阻害剤に基づく結合分子(McConnell, S. J., and Hoess, R. H., J. Mol. Biol. 250(1995)460-470)(非特許文献8)が記載されている。
【0005】
二つの基準が、適用可能なタンパク質足場を実質的に特徴付ける:第一に、タンパク質は、明確な疎水性コアを示すファミリーに属するべきである。個々のファミリーメンバー間の密接な関係は有益である(Skerra, A., J. Mol. Recognit. 13(2000)167-187)(非特許文献9)。第二に、タンパク質は、空間的に分離され機能的に独立した利用可能な活性部位または結合ポケットを保有しているべきである。これは、内因的なコア安定性に寄与するべきではない(Predki, P. F., et al., Nature Struct. Biol. 3(1996)54-58)(非特許文献10)。理想的には、このタンパク質ファミリーは、複数の無関係な標的の認識に固有に関与している。
【0006】
Nygren, P-A., and Skerra, A., J. Immun. Meth.290(2004)3-28(非特許文献1)に記載されたように、いくつかのポリペプチド足場が、新規のアフィニティタンパク質の開発のために利用されている。これらの足場は、以下の三つの群に分類される:(i)単一ペプチドループ、(ii)操作された界面、および(iii)非連続的な超可変性ループ。
【0007】
第一の群の足場では、露出ループ内の単一のアミノ酸が多様化されるか、または小さなポリペプチド配列がこの露出ループに挿入される(例えば、Roberts, B. L., et al., PNAS 89(1992)2429-2433 (非特許文献11)および Gene 121(1992)9-16(非特許文献12);Rottgen, P., and Collins, J., Gene 164(1995)243(非特許文献13);Lu, Z., et al., Bio/Technology 13(1995)366-372(非特許文献14)を参照のこと)。このアプローチの一つの欠点は、完全に新規の標的に対する親和性は、たとえ存在したとしても、達成するのが困難であることである(Klevenz, B., et al., Cell. Mol. Life Sci.59(2002)1993-1998)(非特許文献4)。天然のまたは近縁の標的に対する固有の結合親和性は変更され得るが、標的または標的クラスはほとんど変化し得ない。もう一つの欠点は、小さなランダム化されたポリペプチドを挿入する場合には、標的が既知でなければならず、既に確立されている知識に基づいて、予めこれらの配列が作製されなければならないことである。
【0008】
第二の群の足場には、例えば、ブドウ球菌性のプロテインAの免疫グロブリン結合ドメイン(例えば、Sandstrom, K., et al., Prot. Eng.16(2003)691-697(非特許文献5))、真菌T.リーセイ(T.reesei)のセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase)IのC末端セルロース結合ドメイン(Smith, G. P., et al., J. Mol. Biol. 277(1998)317-322)(非特許文献15)、およびγクリスタリン(gamma-crystallines)(Fiedler, U., and Rudolph, R., WO 01/04144)(特許文献1)が属する。
【0009】
第三のクラスは、免疫グロブリン自体および遠縁のフィブロネクチンIII型ドメイン、ならびに神経毒のいくつかのクラスに代表される。
【0010】
所定の標的分子に対する特異的結合の特徴の作製のための足場としての適性の他に、適用条件が考慮されなければならない。特に、アフィニティポリペプチドの安定性、選択性、溶解度、および機能的な作製が、考慮されなければならない。既に言及された例として、タンパク質ノックアウト技術の障害となっているのは、細胞内でアフィニティ分子として発現された抗体が全て機能的に作製されるわけではないということである(「ジスルフィド結合問題」、Visintin, M., et al., J. Immun. Meth. 290(2004)135-153(非特許文献2))。
【0011】
従って、そのポリペプチドに天然では固有でない所定の標的分子に対する特異的結合特性を有する代替的なポリペプチド足場を提供することにより、これらの欠点を克服することが、本発明の目的である。これは、アミノ酸のランダム化、結合特徴の最適化、および特異的結合特性を有する最適化されたポリペプチドの作製の方法を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】Fiedler, U., and Rudolph, R., WO 01/04144
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Nygren, P-A., Skerra, A., J. Immun. Meth. 290(2004)3-28
【非特許文献2】Visintin, M., et al., J. Immun. Meth. 290(2004)135-153
【非特許文献3】Segal, D.J., et al., Biochem. 42(2003)2137-2148
【非特許文献4】Klevenz, B., et al., Cell. Mol. Life Sci. 59(2002)1993-1998
【非特許文献5】Sandstrom, K., et al., Prot. Eng. 16(2003)691-697
【非特許文献6】Andersson, M., et al., J. Immun. Meth. 283(2003)225-234
【非特許文献7】Xu,L., et al., Chem. Biol. 9(2002)933-942
【非特許文献8】McConnell, S. J., and Hoess, R. H., J. Mol. Biol. 250(1995)460-470
【非特許文献9】Skerra, A., J. Mol. Recognit. 13(2000)167-187
【非特許文献10】Predki, P. F., et al., Nature Struct. Biol. 3(1996)54-58
【非特許文献11】Roberts, B. L., et al., PNAS 89(1992)2429-2433
【非特許文献12】Roberts, B. L., et al., Gene 121(1992)9-16
【非特許文献13】Rottgen, P., and Collins, J., Gene 164(1995)243
【非特許文献14】Lu, Z., et al., Bio/Technology 13(1995)366-372
【非特許文献15】Smith, G. P., et al., J. Mol. Biol. 277(1998)317-322
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
本発明は、所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドであって、該ポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号:02〜配列番号:61からなる群より選択され、該アミノ酸配列中、表Vにおける少なくとも一つのアミノ酸が改変されていることを特徴とするポリペプチドを提供する。
【0015】
本発明は、原核微生物または真核微生物における所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドの作製のためのプロセスであって、該微生物が該ポリペプチドをコードする遺伝子を含有しており、かつ該ポリペプチドが発現されることを特徴とするプロセスをさらに含む。
【0016】
本発明は、原核微生物または真核微生物における所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドの発現のためのベクターをさらに含む。
【0017】
ポリペプチドは、当業者に公知の方法により、単離され精製され得る。
【0018】
本発明のもう一つの態様において、所定の標的分子は、ヘッジホッグタンパク質、骨形成タンパク質、増殖因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G-CSF、インターロイキン、およびインターフェロンからなる群のうちの一つのメンバーである。
【0019】
本発明は以下の工程を含むことを特徴とする、標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸をDNAライブラリーから同定する方法をさらに提供する:
(a)配列番号:02〜配列番号:61からなる群より配列を選択する工程;
(b)表Vにおける少なくとも一つのアミノ酸位置が改変されている、選択された配列のDNAライブラリーを調製する工程;
(c)調製されたDNAライブラリーを、所定の標的分子と特異的に結合するコードされたポリペプチドに関してスクリーニングする工程;
(d)工程(c)において同定された一つの特異的なバインダー(binder)をコードする核酸を選出する工程;
(e)工程(b)〜(d)を2〜5回繰り返す工程;および
(f)所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする前記核酸を単離する工程。
【0020】
もう一つの態様において、標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸をDNAライブラリーから同定する方法は、直鎖発現エレメントを含む。
【0021】
もう一つの態様において、ポリペプチドのライブラリーは、リボソームにおけるディスプレイにより発現される。
【0022】
もう一つの態様において、ポリペプチドのライブラリーは、バクテリオファージにおけるディスプレイにより発現される。
【0023】
本発明は、以下の工程を含む、ポリペプチド内の改変可能なアミノ酸位置の決定方法をさらに含む:
(a)同一のおよび/または異なる生物から、構造および/または機能が相同な複数のポリペプチドの配列を集める工程;ならびに
(b)共通の構造モチーフおよび/またはコンセンサス配列モチーフおよび/または機能モチーフにより配列を整列化する工程;ならびに
(c)配列の各位置について見出される異なるアミノ酸の数を計数することにより、アラインメント中の全てのアミノ酸位置の可変性を決定する工程;ならびに
(d)改変可能なアミノ酸位置を、異なるアミノ酸の総数が8個またはそれ以上であるアミノ酸位置として同定する工程。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドであって、該ポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号:02〜配列番号:61からなる群より選択され、該アミノ酸配列中、表Vにおける少なくとも一つのアミノ酸が改変されていることを特徴とするポリペプチドを提供する。本発明は、所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸をDNAライブラリーから同定する方法、およびポリペプチド内の改変可能なアミノ酸位置の決定の方法をさらに提供する。
【0025】
ポリペプチドは、そのアミノ酸配列、およびそれに由来するDNA配列により定義され得る。
【0026】
本発明に係るポリペプチドは、組換え手段により、または合成により作製され得る。
【0027】
組換えDNA技術の使用は、ポリペプチドの多数の誘導体の作製を可能にする。そのような誘導体は、例えば、置換、改変、または交換により、個々のまたはいくつかのアミノ酸位置において修飾され得る。誘導体化は、例えば、部位特異的突然変異誘発手段によって実施され得る。そのような変動は、当業者によって容易に実施され得る(Sambrook, J, et al., Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA;Hames, B. D., and Higgins, S. G., Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985)IRL Press, Oxford, England)。
【0028】
本発明は、微生物がポリペプチドをコードする核酸配列を含有しており、かつ該ポリペプチドが発現されることを特徴とする、原核微生物または真核微生物における所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドの作製のためのプロセスをさらに含む。従って、本発明は、本発明による外因性の核酸分子の原核生物または真核生物における発現の産物であるポリペプチドにさらに関する。そのような核酸を用いて、本発明に係るポリペプチドは、大量に再現可能な方法で入手され得る。真核宿主細胞または原核宿主細胞における発現のため、ポリペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸は、当業者が精通している方法によって適当な発現ベクターへ組み込まれる。そのような発現ベクターは、好ましくは、調節可能または誘導可能なプロモーターを含有している。次いで、これらの組換えベクターは、発現のため、例えば、原核宿主細胞としての大腸菌(E.coli)、または真核宿主細胞としてのサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞、もしくはCHO細胞のような適当な宿主細胞へと導入され、形質転換または形質導入された宿主細胞が、異種遺伝子の発現を可能にする条件の下で培養される。
【0029】
ポリペプチドは、組換え作製の後、当業者に公知の方法により、例えば、免疫沈降、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィ、クロマトフォーカシング、等電点電気泳動、選択的沈殿、電気泳動等を含む公知のタンパク質精製技術を使用したアフィニティクロマトグラフィにより単離し精製することができる(例えば、Ausubel, I., and Frederick, M., Curr. Prot. Mol. Biol.(1992)John Wiley and Sons, New York;Sambrook, J., et al., Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA;Hames, B. D., and Higgins, S. G., Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985)IRL Press, Oxford, Englandを参照のこと)。
【0030】
以下の略語および定義が、本発明において使用される。
【0031】
「ポリペプチド」とは、天然に、または合成により作製され得る、ペプチド結合により結びつけられたアミノ酸残基のポリマーである。アミノ酸残基が約20未満のポリペプチドは「ペプチド」と呼ばれることがあり;アミノ酸残基が約100より多いポリペプチドは「タンパク質」と呼ばれることがある。
【0032】
「ヘモペキシン様ドメイン」(PEX)という用語は、血液タンパク質ヘモペキシンとの配列および構造の相同性を示すポリペプチドを表す。このドメインは、約200アミノ酸の平均の配列を有し、四つの反復サブドメインからなる。
【0033】
「PEX2」という略語は、全長タンパク質のアミノ酸466〜660位を含む、ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ2のC末端ドメインを表す。
【0034】
「コンセンサス配列」という用語は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のいずれかの推定された配列を表す。この配列は、複数の類似配列を代表する。コンセンサス配列内の各位置は、三つまたはそれ以上の配列を整列化することにより決定される、その位置に最も高頻度に存在する塩基またはアミノ酸に対応する。
【0035】
「改変する」という用語は、核酸配列またはアミノ酸配列のいずれかの配列において定義された位置が修飾されるプロセスを表す。これは、アミノ酸または核酸(ヌクレオチド)の異なるアミノ酸または核酸(ヌクレオチド)への置き換え、ならびに欠失または挿入を含む。
【0036】
「分子と結合するポリペプチド」という表現は、標的分子と結合する能力を有するポリペプチドを表す。「特異的に結合する」という用語は、10 E 7(107)リットル/モル超の親和性定数を有する結合活性を表す。
【0037】
「所定の標的分子」という表現は、ヘッジホッグタンパク質、骨形成タンパク質、増殖因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G-CSF、インターロイキンおよびインターフェロン、免疫グロブリン、酵素、阻害剤、活性化剤、ならびに細胞表面タンパク質を含むタンパク質の群のメンバーである分子を表す。
【0038】
「発現ベクター」または「ベクター」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸配列、プロモーター配列、ターミネーター配列、選択マーカー、および複製開始点を少なくとも含む、天然のまたは人工のDNA配列を表す。
【0039】
「核酸分子」または「核酸」という用語は、例えば、DNA、RNA、またはそれらの誘導体であり得るポリヌクレオチド分子を表す。遺伝暗号の縮重のため、異なる核酸配列が、同一のポリペプチドをコードする。これらの変形物も含まれる。
【0040】
「アミノ酸」という用語は、アラニン(三文字表記:ala、一文字表記:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)を表す。
【0041】
「アミノ酸多様性数」という用語は、アミノ酸配列の特定の位置に存在する異なるアミノ酸の数を表す。この数は、同一のおよび/または異なる生物由来の構造および/または機能が相同な複数のポリペプチドの配列の集合の配列を、参照またはコンセンサス配列に対して整列化し、全ての整列化された配列において特定の位置に存在する異なるアミノ酸の総数を同定することにより、決定される。
【0042】
「整列化」という用語は、同一性および保存のレベルを最大にするために二つまたはそれ以上の配列を並べるプロセスを表す。このプロセスは、相同分子のアミノ酸またはヌクレオチドの並置を含む、分子配列についての位置的な相同性の決定を含む。その結果、比較された配列は、統計的に最も類似している領域が示される形態で提示される。このプロセスにおいては、いくつかの配列が、他の整列化された配列の全ての位置を含有していないことが見出される場合があり、即ち、配列は一つまたはそれ以上の欠失を含有している可能性がある。同一性および保存のレベルを最大にするため、ギャップがこれらの配列に導入され得る。ギャップは、アラインメントの例示においてハイフンにより表される。
【0043】
「オーバーラッピングエクステンションライゲーション(Overlapping Extension Ligation)PCR」(OEL-PCR)および「直鎖発現エレメント(Linear Expression Element)」(LEE)という用語は、DNA断片を連結する方法を表し、この方法において使用され入手される直鎖状のDNA断片を示す(例えば、Ho, S. N., et al., Gene 77(1989)51-59;Kain, K. C., et al., Biotechniques 10(1991)366-374;Shuldiner, A. R., et al., Anal. Biochem. 194(1991)9-15を参照のこと)。遺伝子転写物は、「プロモーターモジュール」、「遺伝子モジュール」、および「ターミネーターモジュール」というモジュールへと分割される。プロモーターモジュールは、T7ファージ転写プロモーター配列、翻訳制御配列(RBS=リボソーム結合部位)、およびT7ファージエンハンサー配列(g10ε)をコードする(Lee, S. S., and Kang, C., Kor. Biochem. J. 24(1991)673-679)。これらの調節配列は、ラピッドトランスレーションシステム、例えば、Roche Applied Sciences, Mannheim, GermanyのRTS 100 E.coli HY Systemにおける転写および翻訳の連関を可能にする。ターミネーターモジュールは、翻訳終止コドンおよびパリンドロームT7ファージ終結モチーフ(T7T)をコードする。任意で、これらのモジュールは、その後のアフィニティ精製または標識手法において使用され得るポリペプチドをコードするDNA配列を含んでいた。直鎖発現エレメント(Sykes, K. F., and Johnston, S. A., Nature Biotechnol.17(1999)355-359)は、二工程PCRによりこれらのモジュールにより組み立てられた。ピロコッカスオエシー(Pyrococcus woesii)DNAポリメラーゼ(PWO-PCR)を使用した第一の標準的なPCRにおいて、プロモーターモジュールおよびターミネーターモジュールにオーバーラップする相補的な配列を導入する、配列特異的な隣接プライマーオリゴヌクレオチドにより、イントロン無しのオープンリーディングフレーム、即ち遺伝子モジュールが増幅される。これらのDNA断片のPCRにより媒介されるライゲーションは、-25kcal/molのΔGより低くなければならない、相補配列のフリーハイブリダイゼーションエネルギーを必要とする。これは、平均25bpの長さである配列伸張により達成される。プライマーオリゴヌクレオチドは、48℃〜55℃の温度で遺伝子テンプレートとハイブリダイズするよう設計されている。これにより、45bp〜55bpの平均長を有するプライマーオリゴヌクレオチドの使用が強化される。30PCRサイクルの後、伸長した遺伝子モジュールDNAを約50ng含有しているPCR混合物が、第二のPCR混合物へ移される。このPCRには、それぞれ50ng〜100ngのプロモーターDNAモジュールおよびターミネーターDNAモジュール、ならびに配列特異的末端プライマーが供給される。DNAポリメラーゼの存在下で、ハイブリダイズした相補DNA断片の3'末端が、3つのモジュール全てを含む全長DNA転写物へと酵素により伸長する(Barik, S., Meth. Mol. Biol. 192(2002)185-196)。
【0044】
「微生物」という用語は、原核微生物および真核微生物を表す。「微生物」は、好ましくは、大腸菌株、枯草菌(Bacillus subtilis)株、クレブシエラ(Klebsiella)株、サルモネラ(Salmonella)株、シュードモナス(Pseudomonas)株、またはストレプトミセス(Streptomyces)株、および酵母株からなる群より選択される。例えば、大腸菌株は、大腸菌-K12、UT5600、HB101、XLl、X1776、W3110を含み;酵母株は、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、ハンセヌラ(Hansenula)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、および分裂酵母(Schizosaccharomyces)を含む。
【0045】
二つの基準が、適用可能なタンパク質足場を実質的に特徴付ける:第一に、タンパク質は、明確な疎水性コアを示すファミリーに属さなくてはならない。個々のファミリーメンバー間の密接な関係は有益である(Skerra, A., J. Mol. Recognit. 13(2000)167-187)。第二に、タンパク質は、空間的に分離され機能的に独立した利用可能な活性部位または結合ポケットを保有しなければならない。これは、内因的なコア安定性に寄与してはならない(Predki, P. F., et al., Nature Struct.Biol.3(1996)54-58)。理想的には、このタンパク質ファミリーは、複数の無関係な標的の認識に固有に関与している。
【0046】
ヘモペキシン様(PEX)タンパク質足場は、これらの基準を果たす。この構造モチーフは、複数の異なるタンパク質およびタンパク質ファミリー、例えば、ヘモペキシン(Altruda, F. et al., Nucleic Acids Res. 13(1985)3841-3859)、ビトロネクチン(Jenne, D., and Stanley, K.K., Biochemistry 26(1987)6735-6742)、またはエンドウ種子アルブミン2(Jenne, D., Biochem. Biophys. Res. Commun. 176(1991)1000-1006)に存在する。
【0047】
ヘモペキシン様ドメインを含有しているタンパク質の結晶構造分析は、このドメインが四ブレードのβプロペラトポロジーをとっていることを示している(Li, J., et al., Structure 3(1995)541-549;Faber, H. R., et al., Structure 3(1995)551-559)。ブレードは、各々、アンチパラレル方向の四つのβシートから構成される。それらは一緒になって分子の中心に空洞を形成する。四つのブレードは、先のブレードの4番目の最も外側のβ鎖から次のブレードの最初の最も内側のβ鎖へと、ループを介して共に連結されている。ジスルフィド結合が、構造の終端、即ち、ブレード4およびブレード1を接続している。
【0048】
PEX足場は、種々の、しかし極めて特異的なタンパク質-タンパク質相互作用およびタンパク質-リガンド相互作用に関与している。従って、ヘモペキシン様構造は、分子認識のための多用途のフレームワークを形成する(Bode, W., Structure 3(1995)527-530)。例えば、カルシウム、ナトリウム、および塩化物のようなイオンのための結合部位(Libson, A. M., et al., Nat. Struct. Biol. 2(1995)938-942;Gohlke, U., et al., FEBS Lett. 378(1996)126-130)、ならびにフィブロネクチン、TIMP-1/2(ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼの組織阻害因子1/2)、インテグリン、およびヘパリンとの相互作用のための結合部位が既知である(Wallon, U. M., and Overall, C. M., J. Biol. Chem. 272(1997)7473-7481;Willenbrock, F., et al, Biochemistry 32(1993)4330-4337;Brooks, P. C., et al., Cell 92(1998)391-400;Bode, W., Structure 3(1995)527-530)。
【0049】
ヘモペキシン様タンパク質ドメインは、そのタンパク質ファミリーメンバー間の高い構造的相同性を示す。例えば、ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ1、2、および13のヘモペキシンドメインの高い構造的等価性が報告されている(Gomis-Ruth, F. X., et al., J. Mol. Biol. 264(1996)556-566)。隣接した垂直方向のβシート間の主に疎水性の相互作用が、必要とされる構造的安定性の大部分を提供する(Gomis-Ruth, F. X., et al., J. Mol. Biol. 264(1996)556-566;Fulop, V., and Jones, D. T., Curr. Opin. Struct. Biol. 9(1999)715-721)。
【0050】
SMART(Schultz, J., et al., PNAS 95(1998)5857-5864;Letunic, I,, et al., Nuc. Acids Res. 30(2002)242-244)のようなタンパク質データベースが、適当なタンパク質フレームワークにおいて保存されておらず、従って、理論上改変可能な、即ちランダム化可能なアミノ酸位置を同定するために、相同配列およびタンパク質フォールド(folds)を比較するために最近使用された(Binz, H. K., et al., J. Mol. Biol. 332(2003)489-503;Forrer, P., et al., ChemBioChem 5(2004)183-189)。
【0051】
PEXフォールドにおいて潜在的に改変可能、即ち、ランダム化可能であるアミノ酸位置を同定するために、類似したアプローチがSMARTデータベースを使用して実施された。タンパク質の構造、機能的立体配座、および安定性に影響を与えることなくランダム化可能なアミノ酸位置が、PEXドメインにおいて同定された。
【0052】
SMARTデータベースから、異なる種に由来する以下の表Iに記載される60個のPEXドメインが、スコアリングマトリックスblosum 62を使用して、Pretty バイオインフォマティクスツール(GCG)により整列化された。
【0053】
(表I)PEXドメインを含有する60個のタンパク質のリスト


(表I終)
【0054】
ヘモペキシン様ドメインは、全長タンパク質の小さな部分を占めるに過ぎない。以下の表は、全長タンパク質における整列化されたヘモペキシン様ドメインの位置を記載する。
【0055】
(表II)表Iのタンパク質におけるヘモペキシン様ドメインの位置



(表II終)
【0056】
210位置のコンセンサス配列が、上記に記載されたヘモペキシン様ドメインのアラインメントにより決定された(配列番号:01、配列番号:88)。
【0057】
各位置の異なるアミノ酸の数が、アミノ酸多様性数を集計するために決定された(「可変性の決定」;表IIIを参照のこと)。配列内のギャップは、ハイフン(-)によりマークされる(全ての配列のアラインメントに関しては表IVを参照のこと)。コンセンサス配列の全ての位置について、異なるアミノ酸の数(アミノ酸多様性数)が与えられる。可能な最大数は21である(20個の異なるアミノ酸+1個のギャップ)。低い多様性数は、高度に保存された位置を示す。高い多様性数は、その位置における柔軟性を示す。
【0058】
(表III)コンセンサス配列の210位置の各位置についてのアミノ酸多様性数
ギャップを含まないコンセンサス配列については配列番号:01を、ギャップを含むコンセンサス配列については配列番号:88を参照のこと。


(表III終)
【0059】
(表IV)配列番号:02の配列〜配列番号:61の配列についてのアラインメント表

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV続)

(表IV終)
【0060】
アミノ酸多様性数の決定のための本方法は、汎用的な方法であり、一般に適用可能であり、特定のアミノ酸配列、ポリペプチド、ドメイン、またはタンパク質に限定されない。従ってその手順は、高い可変性を有し、かつ構造の安定性および機能性に強い影響を及ぼすことなく改変を受けることができるアミノ酸位置を決定し同定するため、他の配列にも同様に相応じて適用され得る。
【0061】
アミノ酸多様性の計算により、低い多様性数、即ち、6未満の多様性数を有するアミノ酸位置が同定された。この低い多様性数は、例えば、分析された60個の配列(表IVを参照のこと)のうち57個において保存されていることが見出された位置Nr.4(表IIIを参照のこと)におけるシステイン残基のような高度の保存に類似している。位置Nr.210におけるシステイン残基は、分析されたヘモペキシン様配列全てにおいて保存されていることが見出された。これらの二つのシステイン残基は足場において極めて重要であるため、このことは、このアプローチの優れた適用可能性を証明している。これらの二つの残基は、4番目のブレードをポリペプチドの最初のブレードと連結することにより、ヘモペキシン様構造の形成に不可欠なジスルフィド結合を形成する。
【0062】
集計され表IIIに記載されたようなアミノ酸多様性数から、高い多様性/可変性を有するコンセンサス配列内のアミノ酸位置が同定され得る。コンセンサス配列の同定された高多様性アミノ酸の番号から、全長ポリペプチドの対応するアミノ酸番号を直接入手することはできないため、表Vは、配列番号:02〜配列番号:61の全長ポリペプチドの、同定された高多様性アミノ酸の、即ち、改変可能アミノ酸のアミノ酸番号を記載する。
【0063】
(表V)配列番号:02の配列〜配列番号:61の配列の各々における改変可能なアミノ酸位置のリスト
各配列における位置の番号付けは、対応する全長タンパク質のアミノ酸番号付けと一致している。

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V続)

(表V終)
【0064】
高い多様性数、即ち、8もしくはそれ以上または10もしくはそれ以上もの多様性数を有する位置もまた決定された。本分析により、これらが主としてループ領域に位置することが明らかになった。これらは高い可変性、即ち柔軟性を呈し、その結果、ブレードを連結させているループから表面に露出したいくつかのアミノ酸を空間的にまとめている。結果は、ランダム化実験のためのトンネルの内表面を使用しないことも示唆している。各ブレードの内側の三つのβシートも、高度の保存に類似しており、タンパク質のコア安定性に寄与していたため、重要であった。従って、タンパク質の疎水性コア安定性に寄与せず、十分に高い多様性数、従って、低い保存を示した溶媒露出アミノ酸が、突然変異誘発アプローチの関心の対象の中心である。
【0065】
この方法により、アラインメントにおいて利用された全てのタンパク質における、全てのタンパク質についての、可変性の、即ち、改変可能なアミノ酸位置のリストを同時に入手することが可能である。ヘモペキシン様ドメインについて、先に例証されたように60個のタンパク質のヘモペキシン様ドメインが利用され、従って、60個のドメイン全てについて、改変可能な、即ち可変性のアミノ酸の位置が同定された。これらの位置は、表Vに記載される(番号付けは全長ポリペプチド/タンパク質による)。
【0066】
表Vに、60個のヘモペキシン様ドメイン(配列番号:02〜配列番号:61)の可変性のアミノ酸位置が記載されている。アミノ酸位置は、ヘモペキシン様ドメインを含有しているタンパク質の全長配列に従って番号付けられている。例えば、配列番号:02のヘモペキシン様ドメインについて、これらは、表Vの配列番号:02の小見出しの後に記載されたアミノ酸位置であり、従って、470、471、475、476、477、484、501、502、503、504、505、506、507、510、514、515、522、529、530、531、534、541、547、549、550、553、558、559、566、567、568、569、570、577、578、579、580、589、590、597、598、600、604、608、611、612、617、618、619、620、626、627、628、629、638、639、645、646、647、648、650、652、654、655、658、663である。従って、配列番号:03〜配列番号:61についての改変可能なアミノ酸位置が、表V中に各小見出しの後に記載されている。
【0067】
配列番号:01〜配列番号:61について入手可能であった改変可能なアミノ酸位置により、これらの配列は各々、さらなる操作のための出発点として用いられ得る。
【0068】
合理的に操作されたタンパク質変異体の細胞を用いない作製および分析は、自動化され得るが、加工される合理的に設計されたタンパク質構築物のライブラリーサイズは、依然として、各系の技術的な処理量により常に制限されている。従って、莫大な数の遺伝子産物の結合特性の分析は、さらなる努力を要する。
【0069】
ポリペプチドライブラリーのディスプレイおよびスクリーニングについては、例えば、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、または細菌ディスプレイのような複数の技術が利用可能である(Smith, G. P., Science 228(1985)1315-1317;Hanes, J., and Pluckthun, A., PNAS 94(1997)4937-4942;Stahl, S., and Uhlen, M., TIBTECH 15(1997)185-192)。
【0070】
本発明は、リボソームディスプレイ技術(例えば、Hanes, J., and Pluckthun, A., PNAS 94(1997)4937-4942;Mattheakis, L. C., et al., PNAS 91(1994)9022-9026;He, M., and Taussig, M. J., Nuc. Acids Res.25(1997)5132-5134を参照のこと)により例証されると考えられるが、その他の技術も適用可能である。
【0071】
定向進化技術は、ハイスループットなタンパク質作製プラットフォームの技術的な性能を補足するために好適である。無細胞タンパク質合成技術に基づき、リボソームディスプレイは、ハイスループットなタンパク質の作製および分析のプロセスに実行される優れた方法である。リボソームディスプレイの目標は、そのメッセンジャーRNA(mRNA)により特徴付けられる遺伝子型が、発現されたポリペプチドにより特徴付けられるそのコードされた表現型に、リボソームによって物理的に連結されている三元複合体の作製である。
【0072】
この目的のため、遺伝子ライブラリーをコードする直鎖DNAテンプレートがインビトロで転写され翻訳される。遺伝子配列の下流にはスペーサー配列が融合しており、その主要な特色は翻訳終止コドンの欠如である。このスペーサードメインは、リボソームに結合されたままの、翻訳され、翻訳と同時に折り畳まれた新生ポリペプチドのディスプレイを容易にする。これらの複合体は、リボソームによってディスプレイされたポリペプチドが、所定のリガンド分子と結合させられるパニング手法に供される。強固に結合した複合体からmRNAが単離され、可逆的に転写され、PCRにより増幅される。PCR産物のベクター系へのサブクローニングおよび継続的なDNA配列決定は、結合したポリペプチドの表現型と関係のある遺伝子型に関する情報を明らかにする。突然変異誘発の、およびリボソームディスプレイの反復的なサイクルにおいて、最大1014メンバーの範囲のライブラリーから特異的なタンパク質結合剤が同定され得る(Mattheakis, L. C., et al., PNAS 91(1994)9022-9026;Hanes, J., and Pluckthun, A., PNAS 94(1997)4937-4942;Lamia, T., and Erdmann, V. A., J. Mol. Biol. 329(2003)381-388)。
【0073】
一般に、リボソームディスプレイは、リボソームサブユニットの解離なしにリボソームがmRNAの3'末端に到達しつつ停止することを必要とする。リボソームがmRNAの3'末端に遭遇した後、リボソームのトランスファーRNA(tRNA)エントリー部位(A部位)は占有されていない。原核生物において、この状態は、tmRNA(トランスファーメッセンジャーRNA;Abo, T., et al. EMBO J.19(2000)3762-3769;Hayes, C. S., and Sauer, R. T., Mol. Cell. 12(2003)903-911;Keiler, K. C., et al., Science 271(1996)990-993)により誘導されるリボソームレスキューメカニズムの活性化をもたらす。リボソームディスプレイ選択に関して、このメカニズムは、機能的な三元複合体の量を低下させ、PCR産物収率が有意に低下する(Hanes, J., and Pluckthun, A., PNAS 94(1997)4937-4942)。
【0074】
このtmRNAにより誘導されるリボソームレスキューメカニズムは、リボソームがmRNAの3'末端に遭遇する前にリボソーム翻訳機構が停止させられた場合、回避され得る。誘導された翻訳阻止のため、リボソームA部位はなお占有されている。リボソームディスプレイ構築物のディスプレイスペーサーは、配列番号:62に表されるような配列を有する。このスペーサーにより、完全なポリペプチドが翻訳された後、かつリボソームレスキューメカニズムが作動する前に、翻訳が阻止され得る。
【0075】
これは、リボソームディスプレイ構築物のDNAスペーサー配列から翻訳終止コドン(Mattheakis, L. C., et al., PNAS 91(1994)9022-9026;Hanes, J., and Pluckthun, A., PNAS 94(1997)4937-4942)を除去することにより達成された。結果として、mRNA、リボソーム、および翻訳停止ポリペプチドからなる高分子量複合体が作製される。
【0076】
ライブラリーの作製のためには、多数の技術が当業者に既知である。例証的な手順を、以下に概説する。
【0077】
DNAライブラリーの基礎としての直鎖発現エレメント(LEE)が、モジュール様式で作製された。ランダム化されたDNA断片を用いたオーバーラッピングエクステンションライゲーションPCR(OEL-PCR)を迅速に支持するため、DNAモジュールのライブラリーを予め作製した。十分なPCR産物収率を得るためには、HPLCにより精製されたプライマーオリゴヌクレオチド、および平滑末端DNA断片を生ずる3'-5'エキソヌクレオリティックな(exonucleolytic)活性を有するDNAポリメラーゼを使用することが必要条件であった(Garrity, P. A., and Wold, B. J., PNAS 89(1992)1021-1025)。
【0078】
例示的に、タンパク質PEX2(ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ2のc末端ヘモペキシン様ドメイン)、TIMP2(ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼの組織阻害因子2)、HDAC-I(ヒトヒストンデアシラーゼI)、BirA(大腸菌ビオチンホロ酵素リガーゼ)、およびGFP(緑色蛍光タンパク質)をコードする遺伝子は、DNAモジュールの異なる組み合わせと融合した。PCR産物の濃度は、LUMI Imager System(Roche Applied Sciences, Mannheim, Germany)を使用して、比較濃度測定定量化により決定された。得られた直鎖発現エレメントの平均PCR産物収率は、約60ng/μl±20ng/μl(PCR混合物1μl当たりのng数)であった。P.オエシー(P. woesii)DNAポリメラーゼ(PWO)を使用して、2000bpまでの長さのLEEを作製することが可能であった。
【0079】
一例において、PEX2ポリペプチドの8つのアミノ酸位置がランダム化された小さなライブラリーが、作製された。この目的のため、これらの位置、従って以下のアミノ酸が、表Vに記載されたような配列番号:10についてのリストから選出された:528(Gln)、529(Glu)、550(Arg)、576(Lys)、577(Asn)、578(Lys)、594(Val)、および596(Lys)。本ライブラリーは、実施例2に記載されるようなテンプレートフリーのPCR合成により作製された。リボソームディスプレイテンプレートは、例えば、モジュールT7P-g10ε-ATG(配列番号:74)、作製されたライブラリーからのポリペプチド、およびリボソームディスプレイスペーサー(配列番号:62)により組み立てられた。
【0080】
適当なタンパク質足場のための必要条件は、複数の置換されたアミノ酸の負荷を保持しなければならない条件の下においても、活性型立体配座へと安定的に折り畳まれるその能力である。これは、既知のタンパク質結合パートナーに対してライブラリーをターゲティングすることにより調査され得る。一例において、PEX2ライブラリーが、組織メタロプロテイナーゼ阻害剤2(TIMP2)タンパク質リガンドを認識するようディスプレイされた。PEX2ライブラリーからのランダム化されたポリペプチドは、リボソームディスプレイアプローチにおいて固有のそのTIMP2結合パートナーを依然として認識することができた。これは、足場が多重突然変異していても、足場の構造-機能が維持されることを示した。
【0081】
足場が固有に結合しない所定の標的分子に対する、ポリペプチド足場に基づく特異的結合剤を調製し、その結合特性を最適化するためには、四つの主要な工程を含むサイクルを数回経なければならない。これらの工程は、(i)表Vにおける少なくとも一つのアミノ酸位置の改変、(ii)ディスプレイ構築物の調製、(iii)特異的結合変異体のディスプレイおよび選択、ならびに(iv)選択された変異体の単離および配列決定である。一般に、足場において新たな特異的結合特徴を確立するのには、2〜5サイクルが必要である。
【0082】
所定の標的分子は、特定のポリペプチドの群に制限されない。所定のポリペプチドは、例えば、ヘッジホッグタンパク質、骨形成タンパク質、増殖因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、G-CSF、インターロイキン、およびインターフェロンの群のうちの一つ、ならびに免疫グロブリン、酵素、阻害剤、活性化剤、および細胞表面タンパク質の群に属し得る。
【0083】
一例において、非PEX2結合剤IGF-Iが、PEX2足場に基づく特異的結合剤の作製のための所定の標的分子として選出された。標的分子は、ビオチン化されたリガンドとしてプレートに提示された。PEX2ライブラリーによるリボソームディスプレイの第二サイクルの後、可視のPCR産物シグナルが保持された。これは、タンパク質/ポリペプチドが固有に結合しない所定の標的分子と特異的に結合するタンパク質/ポリペプチドの選択に、ライブラリーが十分に適していることを示している。
【0084】
以下の実施例、参照、および配列表は、本発明の理解を補助するために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱することなく、示された手法において変更がなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0085】
実施例
実施例1
オーバーラッピングエクステンションライゲーションPCR(OEL-PCR)
オーバーラッピングDNAライゲーション原理を使用した二工程PCRプロトコルにより、直鎖発現エレメントをモジュール方式で組み立てた。標準的なPWO-PCRにおいて、イントロン無しのオープンリーディングフレームを、配列特異的な末端架橋プライマーにより増幅し、隣接DNA配列とオーバーラップする相同配列を作製した。伸長した遺伝子断片(遺伝子モジュール)およそ50ngを含有している第一のPCR混合物2μlを、第二のPWO-PCR混合物へ移した。この混合物に、予め作製したDNA断片(プロモーターモジュールおよびターミネーターモジュール)50ng〜100ngおよび各1μMのそれぞれの配列に特異的な末端プライマーを供給した。典型的には、この第二のPCR工程は30サイクルを含んでいた。PCRプロファイルの物理的パラメーターは、ライゲートさせるDNA断片の要件に応じて調整された。
【0086】
実施例2
PEX2 DNAライブラリーの合成
(全長ヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ2の528(Gln)、529(Glu)、550(Arg)、576(Lys)、577(Asn)、578(Lys)、594(Val)、および596(Lys)に等しい)ヘモペキシン様ドメインのアミノ酸座標64、65、86、112、113、114、130、および132をコードするPEX2三つ組コドンを、NNKモチーフによりランダム化した。ヒト野生型PEX2 DNA配列を、三つの配列セクションへと分割した。10ngのベクターテンプレートpIVEX2.1MCS PEX2ならびに各1μMのプライマーPEX2forw(配列番号:63)およびPEXR4(配列番号:64)が供給された標準的なPWO-PCRにより、1bp〜218bpの断片を増幅した。402bp〜605bpの断片を、10ngのベクターテンプレートpIVEX2.1MCS PEX2ならびに各1μMのプライマーPEXF4(配列番号:65)およびPEX2rev(配列番号:66)を用いた標準的なPWO-PCRにおいて増幅した。形成された配列196bp〜432bpは、DNA断片1bp〜218bpおよび402bp〜605bpとオーバーラップしており、各1μMのプライマーPEXFl(配列番号:67)およびPEXRl(配列番号:68)、ならび各0.25μMのPEXR3(配列番号:69)、PEXR2(配列番号:70)、およびPEXF2(配列番号:71)を用いたテンプレートフリーのPCRにより合成された。PCRプロファイルは三つのPCR全てについて同一であった:TIM(初期融解温度):94℃で1分、TM(融解温度):94℃で20秒、TA(アニーリング温度):60℃で30秒、TE(伸長温度):72℃で15秒、25サイクル、TFE(最終伸長温度):72℃で2分。各1μMの架橋プライマーT7P_PEX2(配列番号:72)およびPEX2_RD(配列番号:73)を用いた標準的なPWO-PCRに各DNA配列断片70ngが適用された場合、全長のランダム化されたPEX2配列(588bp)が得られた。PCRプロファイルは以下の通りであった:TIM:94℃で1分、TM:94℃で20秒、TA:60℃で30秒、TE:72℃で60秒、25サイクル、TFE:72℃で5分。架橋プライマーは、OEL-PCRによるリボソームディスプレイテンプレートへのPEX2遺伝子ライブラリー構築のため相同DNAのオーバーラップを導入した。
【0087】
実施例3
無細胞タンパク質インビトロ転写および翻訳
製造業者の説明に従い、RTS 100 HY E.coli Systemにおいて直鎖発現エレメントを転写し翻訳した。直鎖DNAテンプレート(100ng〜500ng)を30℃でインキュベートした。任意で、GroE-supplement(Roche)6μlを添加した。
【0088】
実施例4
融合タンパク質の部位特異的ビオチン化
RTS 100 E.coli HY Systemを、配列特異的な酵素的ビオチン化のため修飾した。RTS混合物60μlを、製造業者の説明に従い構築した。この混合物に、2μlのストック溶液コンプリートEDTAフリープロテアーゼインヒビター、2μM d-(+)-ビオチン、大腸菌ビオチンリガーゼ(BirA, EC6.3.4.15)をコードするT7P_BirA_T7T直鎖発現エレメント(1405bp)50ng、および基質融合タンパク質をコードする直鎖テンプレート100ng〜500ngを補足した。基質融合タンパク質は、ビオチンアクセプティングペプチド配列(Biotin Accepting Peptide sequence)(BAP)とN末端またはC末端で融合していた。全ての実験において、Schatz(Schatz, P. J., Biotechnology(NY)11(1993)1138-1143;Beckett, D. et al., Protein Sci. 8(1999)921-929)により同定されたような配列#85の15merの残基変異体が使用された(Avitag, Avidity Inc., Denver, Colo. USA)。ビオチンリガーゼを、直鎖テンプレートT7Pg10ε_birA_T7Tから同時発現させた。
【0089】
実施例5
(a)リボソームディスプレイプロトコル
全ての緩衝液を氷上で維持した。全ての装置が、無菌であり、Dnase-およびRnase-フリーであった。実験台はRnase-ZAPにより洗浄した。
10×ストックウォッシングバッファー(ストック WB)リボソームディスプレイ:0.5M TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン)、AcOH(酢酸)によりpH7.5(4℃)に調整;1.5M NaCl;0.5M酢酸マグネシウム、-20℃で保存
10×エリューションバッファー(ストックEB)リボソームディスプレイ:0.5M TRIS、AcOHによりpH7.5(4℃)に調整;1.5M NaCl;200mM EDTA、-20℃で保存
10mlリボソームディスプレイウォッシングバッファー(WB):1200μl 10×ストックWB pH7.5、0.05%TWEEN20(50μL 10%TWEEN20)、5%BSA(5mlブロッカーBSA 10%)、5μg/ml t-RNA、670mM KCl(0.5g KCl)PCRグレード水で10mlに調節
10mlリボソームディスプレイストップバッファー(SB):1200μL 10×ストックWB pH7.5、0.05%TWEEN20(50μL 10%TWEEN20)、5%BSA(5mlブロッカーBSA 10%)、5μg/ml t-RNA、670mM KCl(0.5g KCl)、4mM GSSG(酸化グルタチオン)、25μM cAMP(10μlストック溶液)、PCRグレード水で10mlに調節
2mlリボソームディスプレイエリューションバッファー:200μL 10×ストックEB、0.25%BSA(50μlブロッカーBSA 10%)、5000 A260単位r-RNA 16S-23Sリボソーム、5μg/ml t-RNA、PCRグレード水で2mlに調節
ブロッキング試薬:5%BSA Puffer(2.5mlブロッカーBSA 10%)、50%コンジュゲートバッファーユニバーサル(Conjugate Buffer Universal)
10×PBSバッファー:0.1M NaH2PO4;0.01M KH2PO4(10×pH7.0;1×pH7.4);1.37M NaCl;27mM KCl。
【0090】
(b)外部ドメインerbB2およびerbB3の調製
ヒト受容体外部ドメインerbB2およびerbB3を、受容体キメラとしてR&D Systemsより入手した。受容体外部ドメインは、ヒトタンパク質IgG1FC(ヒトIgG1抗体FC断片)に遺伝子融合していた。両方の分子が、96kDaという分子量を示し、C末端にヘキサヒスチジンペプチドを含有していた。グリコシル化の結果として、タンパク質の分子量は130〜140kDaに増加した。キメラタンパク質は凍結乾燥タンパク質として入手され、0.1%BSAを含有しているPBSバッファーにおいて再可溶化された。タンパク質は、使用時まで-80℃で保存された。
【0091】
(c)マイクロタイタープレートのコーティング
1反応容量(RV)のマイクロタイター(MT)プレートを、コンジュゲートバッファーユニバーサルにより3回洗浄した。2.5μgのリガンドを100μlのブロッキング試薬において分離した。ビオチン化リガンドを、ストレプトアビジンおよびアビジンでコーティングされたMTプレートのウェルに交互に固定化した。erbB2/FCキメラおよびerbB3/FCキメラを、プロテインAおよびプロテインGでコーティングされたMTプレートのウェルに交互に固定化した。リガンド溶液を、Biorobot 8000ロボットシェーカープラットフォーム(robotic shaker platform)上で振とうしながら500rpmでMTプレートで室温で1時間インキュベートした。バックグラウンドシグナルを決定するため、リガンドを含まないブロッキング試薬100μlによりウェルをコーティングした。ウェルを3RVのブロッキング試薬により洗浄した。ブロッキング試薬(300μl)を、4℃および200rpmで1時間、各ウェルでインキュベートした。中止された翻訳混合物を適用する前に、ウェルを3RVの氷冷緩衝液WBにより洗浄した。
【0092】
(d)リボソームディスプレイテンプレートの作製
標準的なリボソームディスプレイ手法のため、単一遺伝子または遺伝子ライブラリーを特異的架橋プライマーにより伸長させた。伸長したDNA断片を、OEL-PCRにより、末端プライマーT7Pfor(配列番号:75)およびR1A(配列番号:76)

を使用して、DNAモジュールT7Pg10ε(配列番号:74)およびリボソームディスプレイスペーサー(配列番号:62)と融合させた。PCR構築のためのPCRプロファイルは、以下の通りであった:TIM:94℃で1分、TM:94℃で20秒、TA:60℃で30秒、TE:72℃で1000bpにつき60秒、30サイクル、TFE:72℃で5分。
【0093】
直鎖発現エレメント(LEE)T7PAviTagFXa-PEX2-T7Tの作製:配列番号:77および配列番号:78による架橋プライマーを使用して、プラスミドテンプレートpDSPEX2(Roche)10ngから、標準的なPWO-PCRにおいて、ヒトPEX2遺伝子を増幅した。オーバーラップする遺伝子を、OEL-PCRにより、プライマーT7Pfor(配列番号:82)およびT7Trev(配列番号:81)を使用して、DNAモジュールT7PAviTagFXa(配列番号:79)およびT7T(配列番号:80)と融合させた。
【0094】
(e)リボソームディスプレイ翻訳混合物の調製
RTS E.coli 100 HY Systemを、製造の説明に従って調製した。PWO-PCR混合物20μlにおいて、混合物100μlに、40単位(1μl)のRnasin、2μM(2μl)のアンチssrA-オリゴヌクレオチド

、1μLのコンプリートミニプロテアーゼインヒビターEDTAフリーのストック溶液、および500ngの直鎖リボソームディスプレイDNAテンプレートを補足した。リボソームディスプレイDNAテンプレートを、550rpmで振とうしながら30℃で40分間1.5mlの反応チューブにおいて転写し翻訳した。mRNA、リボソーム、およびディスプレイされたポリペプチドからなる複合体が安定化された時点で、直ちに500μlの氷冷緩衝液SBにより反応を中止させた。混合物を2℃で10分間15.000gで遠心分離した。上清を、新しい氷冷1.5ml反応チューブへ移した。混合物250μlを、リガンドによりコーティングされたMTプレートウェルに移し(シグナル)、別の250μlをリガンドによりコーティングされていないウェルに移した(バックグラウンド)。混合物を4℃および300rpmで1時間インキュベートした。バックグラウンドタンパク質および弱結合三元複合体を除去するため、ウェルを氷冷緩衝液WBにより洗浄した。結合した三元複合体から、4℃および750rpmで10分間、100μlの氷冷緩衝液EBにより、メッセンジャーRNAを溶出させた。
【0095】
(f)プロテインGによりコーティングされた磁気ビーズの調製
プロテインGによりコーティングされた磁気ビーズを、IgG1-FC結合剤を非特異的に認識したタンパク質誘導体から、中止されたリボソームディスプレイ翻訳混合物を枯渇させるために使用した。ビーズを緩衝液SB 500μlで5回洗浄することにより、磁気ビーズ懸濁物100μlを停止バッファーSBで平衡化した。IgG1FCタンパク質50μgを含有している緩衝液SB 500μl中で、4℃で1時間、ビーズをインキュベートした。ビーズを緩衝液SBにより3回洗浄し、緩衝液SB 100μl中に氷上で保存した。使用前に、ビーズを磁気的に分離し、氷上に保存した。中止されたリボソームディスプレイ翻訳混合物を、ビーズに添加した。750rpmで4℃で30分間、混合物をインキュベートした。使用前に、ビーズを混合物から磁気的に分離した。
【0096】
(g)mRNAの精製および残存するDNAの除去
メッセンジャーRNAは、ハイピュアRNAアイソレーションキット(Roche Applied Science, Mannheim, Germany)を使用して精製された。溶出液中の残存するDNAテンプレートは、Ambion DNA-freeキット(ambion Inc., USA)の修飾されたプロトコルにより除去された。溶出液50μlに、DNAseI緩衝液5.7μlおよびDNAseI含有溶液1.3μlを補足した。混合物を37℃で30分間インキュベーションした後、DNAseI不活化試薬6.5μlを添加した。スラリーを、室温で3分間、消化アッセイにおいてインキュベートした後、11,000gで1分間遠心分離した。上清を逆転写において使用した。
【0097】
(h)逆転写およびcDNA増幅
mRNAの逆転写のため、C.therm.RTポリメラーゼキット(Roche Applied Sciences, Mannheim, Germany)を使用した。20μlの反応物を構築した:4μl 5×RT緩衝液、1μl DTT(ジチオスレイトール)溶液、1.6μl dNTP、1μl DMSO溶液、0.1μM(1μl)

、40単位(1μl)Rnasin、1.5μl C.therm.RNAポリメラーゼ、9μl mRNA含有溶出液。転写を70℃で35分間実施した。cDNAのさらなる増幅を、 MgSO4を含む10×PWO-PCR緩衝液10μl、dNTP200μM、転写混合物12μl、PWO DNAポリメラーゼ2.5単位、およびプライマー

各1μMを含有しているPWO-PCR 100μlにおいて実施した。PCRプロファイルは、TIM:94℃で1分、TM:94℃で20秒、TA:60℃で30秒、TE:72℃で60秒、20サイクル、TFE:72℃で5分であった。標準的なPWO-PCRによる再増幅を実施した。PCR混合物2μlを第二の標準的なPWO-PCRへ移した。可能な限り、遺伝子特異的架橋プライマーを使用した。PCRプロファイルは、遺伝子テンプレートおよびオリゴヌクレオチドプライマーの物理的パラメーターによった。25PCRサイクルを実施した。さらなるOEL-PCRにおいて、DNAモジュールT7Pg10εおよびリボソームディスプレイスペーサーとハイブリダイズするよう、DNAオーバーラップにより、遺伝子配列を伸長させた。次いで、リボソームディスプレイDNAテンプレートを、さらなるリボソームディスプレイサイクルにおいて再使用した。
【0098】
(i)リボソームディスプレイ後の遺伝子のサブクローニング
PCR産物を、当業者に公知の技術によりベクター系へサブクローニングした。PEX2のライブラリーメンバーを、プライマーNdeI-PEX2for(配列番号:83)およびEcoRI-PEX2rev(配列番号:84)を使用してベクターpUC18へとNdel/EcoRI部位を介してサブクローニングした。
【0099】
参照文献リスト



【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドであって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列が配列番号:10であり、該アミノ酸配列中、アミノ酸位置2、3、7、8、9、16、33、34、35、36、37、38、39、42、46、47、54、61、62、63、64、66、73、79、81、82、85、90、91、98、99、100、101、102、109、110、111、112、113、121、122、129、130、131、132、136、140、143、144、149、150、151、152、158、159、160、161、170、171、177、178、179、180、182、184、186、187、190、195の少なくとも一つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換されており、
該所定の標的分子に対する特異的結合特性が該ポリペプチドに天然では固有でなく、
かつ該所定の標的分子が増殖因子、エリスロポエチン、インターロイキンおよびインターフェロン、免疫グロブリン、酵素、ならびに細胞表面タンパク質を含むタンパク質の群のメンバーであることを特徴とする、ポリペプチド。
【請求項2】
原核微生物または真核微生物における請求項1記載のポリペプチドの作製のための方法であって、該微生物が該ポリペプチドをコードする核酸配列を含有しており、かつ該ポリペプチドが発現されることを特徴とする方法。
【請求項3】
ポリペプチドが該生物から単離され精製されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸をDNAライブラリーから同定する方法であって、
(a)配列番号:10の配列を選択する工程;
(b)アミノ酸位置2、3、7、8、9、16、33、34、35、36、37、38、39、42、46、47、54、61、62、63、64、66、73、79、81、82、85、90、91、98、99、100、101、102、109、110、111、112、113、121、122、129、130、131、132、136、140、143、144、149、150、151、152、158、159、160、161、170、171、177、178、179、180、182、184、186、187、190、195の少なくとも一つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換されている、該選択された配列のDNAライブラリーを調製する工程;
(c)調製されたDNAライブラリーを、所定の標的分子と特異的に結合するコードされたポリペプチドに関してスクリーニングする工程;
(d)工程(c)において同定された特定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸を選出する工程;
(e)工程(b)〜(d)を2〜5回繰り返す工程;および
(f)所定の標的分子と特異的に結合するポリペプチドをコードする前記核酸を単離する工程
を含み、
該所定の標的分子が増殖因子、エリスロポエチン、インターロイキンおよびインターフェロン、免疫グロブリン、酵素、ならびに細胞表面タンパク質を含むタンパク質の群のメンバーであることを特徴とする方法。
【請求項5】
DNAライブラリーが直鎖発現エレメントを含むことを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
該選択された配列のDNA ライブラリーのメンバーが、リボソームにおけるディスプレイにより発現されることを特徴とする、請求項4 または5 記載の方法。
【請求項7】
該選択された配列のDNA ライブラリーのメンバーが、バクテリオファージにおけるディスプレイにより発現されることを特徴とする、請求項4 または5 記載の方法。
【請求項8】
原核微生物または真核微生物におけるポリペプチドの発現のための適当なベクターであって、請求項1記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするベクター。

【公開番号】特開2012−143235(P2012−143235A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45269(P2012−45269)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【分割の表示】特願2007−548834(P2007−548834)の分割
【原出願日】平成18年1月2日(2006.1.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】