説明

ポリマレイミド系組成物

【課題】ロボットハンドに要求されるような高度な高温耐久性を有する硬化物を与えるポリマレイミド系組成物を提供する。
【解決手段】(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1〜100重量部、(D)成分を5〜300重量部、(E)成分を5〜300重量部含み、(D)成分と(E)成分との合計に対する(D)成分の割合(重量比)が0.01〜0.99であるポリマレイミド系組成物。(A):1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物(B):脂肪族ビスマレイミド化合物(D):特定式で表されるビスフェノール化合物(E):特定式で表されるベンゼン系化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用途の樹脂組成物として有用なポリマレイミド系組成物に係り、特に長期高温耐久性に優れ、ロボットハンド等の、1000時間を超える長期に亘って250℃以上の高い耐熱性が要求される用途にも好適に用いることができる硬化物を与えるポリマレイミド系組成物に関する。
本発明はまた、このようなポリマレイミド系組成物を用いた繊維強化プリプレグと、このポリマレイミド系組成物および繊維強化プリプレグを硬化させてなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維やアラミド繊維などの強化繊維とから成り、一般に軽量かつ高強度の特徴を有する。このような繊維強化複合材料は、旅客機の機体や翼などの航空宇宙材料、ロボットハンドアームに代表される工作機械部材や、建築・土木補修材としての用途、さらにはゴルフシャフトやテニスラケットなどのレジャー用品用途などに幅広く用いられている。
【0003】
特に近年は、炭素繊維強化複合材料(以下「CFRP」と称する)が工作機械部材として利用され、液晶ディスプレー製造時のガラス搬送ロボットのハンドとして、従来のアルミ製ハンドに代わり用いられるようになった。しかして、液晶ディスプレーの大型化と高性能化による処理温度の上昇のために、この液晶ガラス搬送用のロボットハンドには、室温から約200℃までの温度範囲で剛性を保ち、かつ耐熱性が十分高いこと、すなわち長期の高温条件下での使用においても減肉が少なく、剛性などの物性低下が少ないことが要求されている。
【0004】
CFRPは通常、炭素繊維を一方向またはクロス編みしたシートにマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグとした後、形状を付与しながら加熱硬化させて成型することにより製造される。マトリックス樹脂としては、従来、エポキシ系樹脂が広く使用されているが、エポキシ系樹脂は、耐熱性が低く液晶ガラス搬送用のロボットハンド用途には不適である。
【0005】
耐熱性が高く、200℃以上の使用環境にも耐えうるマトリックス樹脂としては、マレイミド樹脂が広く知られている。マレイミド樹脂の主剤としては、ビスマレイミド化合物が使用されているが、このものだけでは硬化性が悪く、かつ成型品が脆くなるため、これを改善するために各種変性剤が開発されている。
【0006】
例えば、ケルイミド樹脂(仏ローヌ・プーラン社)は常温で固体の4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドをメチレンジアニリンのような芳香族ジアミンで変性し、マレイミド基の重合による架橋の密度を低下させて剛性化している。しかし、ケルイミド樹脂は一般に固形であるため、炭素繊維シートに含浸する際には溶剤を使用する必要があり、用いた溶剤の除去が難しく、最終的にCFRPを加熱硬化させる際に残留溶剤の影響によりボイドが発生するため、CFRPの品質上好ましくない。
【0007】
マレイミド樹脂をアリル化合物で変性する方法も公知である。例えば、マトリミド樹脂(チバガイギー社)は、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドを常温で液状であるo,o’−ジアリルビスフェノールAと加熱溶融混合して得られる樹脂であり、無溶剤で炭素繊維シートに含浸させることが可能である。しかし、得られるプリプレグの保存安定性が悪く、室温で徐々にマレイミド成分が析出し、プリプレグに必要なタック性やドレープ性が失われるという問題がある。
【0008】
この問題を解決するために、コンピミド353樹脂(またはH353樹脂、独テクノヘミー社)が提案されている(非特許文献1参照)。これは、用いるビスマレイミド化合物として、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドと4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミドの共融混合物に対して、さらに1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンを10〜15%添加することによりマレイミド成分の析出固化を防止したものである。この樹脂に対してo,o’−ジアリルビスフェノールAを配合してCFRPの製造に適したマトリックス樹脂とすることができる。
しかし、本樹脂を用いて成型したCFRPは脆く、成型品にはクラックが多く観察される。さらに長期高温下に置いたときの重量減少が大きいため、分解物によるガラス基板の汚染が大きいことから、液晶ガラス搬送用CFRPロボットハンドとしての信頼性を含めた製品品質に問題がある。
【0009】
このような問題を解決し、液晶ガラス搬送用CFRPロボットハンド等に好適な耐熱性を有するマトリックス樹脂において、無溶剤含浸性、プリプレグのタック性、ドレープ性、保存安定性を損なわずに、CFRPのクラックが低減され、かつ長期高温下に置いたときの重量減少が少ない、即ち耐熱性がより向上されたマトリックス樹脂を提供するべく、本出願人は、先に、ビスマレイミド化合物として特定の芳香族ビスマレイミド化合物と脂肪族ビスマレイミド化合物とを併用したビスマレイミド系組成物を提案した(特許文献1)。
【0010】
特許文献1のビスマレイミド系組成物であれば、特定の芳香族ビスマレイミド化合物と脂肪族ビスマレイミド化合物を併用することにより、特に、1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物を配合することにより、無溶剤であっても適度な粘度を有し、従って含浸性に優れ、また、プリプレグとしたときのタック性、ドレープ性、および保存安定性に優れる上に、成型品のクラックも低減された高耐熱性のマレイミド樹脂が提供される。
【0011】
ビスマレイミド系組成物は、一般に、ビスマレイミド化合物と、芳香族液状反応性希釈剤と、重合促進剤と、更に必要に応じて用いられるカップリング剤、離型剤、難燃性付与剤等のその他の成分を所定の割合で混合して調製され、このうち、芳香族液状反応性希釈剤としては、各種のフェノール系化合物やベンゼン系化合物が用いられており、この芳香族液状反応性希釈剤として、o,o’−ジアリルビスフェノールAと4,4’−ビス−(o−プロペニルフェノキシ)−ベンゾフェノンを併用した例もある(特許文献2)。この特許文献2では、ビスマレイミド化合物として芳香族ビスマレイミド化合物を1種類のみ用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−263624号公報
【特許文献2】特開平7−165825号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Technical Papers−Society of Plastics Enginners、第20巻、88頁(1974年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ロボットハンドに要求されるような高度な高温耐久性、即ち、長期高温下に晒されたときの重量減少が少ない;高温条件下でのクラックの発生やへたり(たわみ)の問題がない;といった著しく高い高温耐久性を満足するためには、従来の配合組成では十分であるとは言えず、より一層の改良が望まれる。
【0015】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ロボットハンドに要求されるような高度な高温耐久性を有する硬化物を与えるポリマレイミド系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ビスマレイミド化合物として特定の芳香族ビスマレイミド化合物と脂肪族ビスマレイミド化合物とを併用すると共に、芳香族液状反応性希釈剤として特定のビスフェノール化合物とベンゼン化合物とを併用することにより、更には、ビスマレイミド化合物として更に異なる芳香族ビスマレイミド化合物を併用することにより、高温耐久性に著しく優れる硬化物を与えると共に、ポリマレイミド系組成物としての取り扱い性にも優れたポリマレイミド系組成物を実現することができることを見出した。
【0017】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0018】
[1] 下記の(A),(B),(D),(E)成分を含有するポリマレイミド系組成物であって、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1〜100重量部、(D)成分を5〜300重量部、(E)成分を5〜300重量部含み、(D)成分と(E)成分との合計に対する(D)成分の割合(重量比)が0.01〜0.99であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(A):1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物
(B):脂肪族ビスマレイミド化合物
(D):下記式(1)で表されるビスフェノール化合物
(E):下記式(2)で表されるベンゼン系化合物
【0019】
【化1】

【0020】
(式(1)中、R11は、単結合、CH、O、S、SO、またはC(CHを表し、R12はアリル基またはメタリル基を表す。)
【0021】
【化2】

【0022】
(式(2)中、R24およびR25は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、R21、R22およびR23は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、C=O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R26、R27、R28およびR29は、それぞれ独立にヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、mは0以上5以下の整数を表し、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0023】
[2] [1]において、さらに、下記(C)成分を、(A)成分100重量部に対して5〜300重量部含むことを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(C):1分子中に芳香環を2個または1個含む芳香族ビスマレイミド化合物
【0024】
[3] [1]または[2]において、さらに下記(F)成分を、(A)成分100重量部に対して0.01〜5重量部含むことを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(F):重合促進剤
【0025】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、(A)成分が下記式(3)で表される芳香族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0026】
【化3】

【0027】
(式(3)中、R31、R32およびR33は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R34、R35、R36およびR37は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、nは1以上5以下の整数を表し、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0028】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、(B)成分が下記式(4)で表される脂肪族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0029】
【化4】

【0030】
(式(4)中、Qは1以上の置換基で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基で主に構成され、芳香環を含まない2価の連結基を表す。)
【0031】
[6] [2]ないし[5]のいずれかにおいて、(C)成分が、下記式(5)または下記式(6)で表される芳香族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0032】
【化5】

【0033】
(式(5)中、Rは、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、pおよびqはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0034】
【化6】

(式(6)中、R10は、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、rは0以上4以下の整数を表す。)
【0035】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、式(1)におけるR12がアリル基であることを特徴とするビスマレイミド系組成物。
【0036】
[8] [3]ないし[7]のいずれかにおいて、(F)成分がアニオン重合促進剤および/またはラジカル重合促進剤であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0037】
[9] [8]において、アニオン重合促進剤が下記式(X)で表されるイミダゾール類であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0038】
【化7】

【0039】
(式(X)中、R(1)、R(2)、R(4)およびR(5)は、それぞれ独立に水素原子、または任意の置換基を表し、R(1)とR(2)、R(4)とR(5)、R(1)とR(5)は、それぞれ互いに結合してイミダゾール環に縮合する環を形成していてもよい。)
【0040】
[10] [9]において、式(X)中、R(2)およびR(4)は、それぞれ独立に、メチル基または水素原子であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0041】
[11] [8]ないし[10]のいずれかにおいて、ラジカル重合促進剤が有機過酸化物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【0042】
[12] [1]ないし[11]のいずれかにおいて、下記測定方法で測定されるガラス転移温度Tgが300℃以上であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
<ガラス転移温度(Tg)>
約70℃に加熱脱泡したポリマレイミド系組成物を2mm厚のスペーサーを介した2枚のガラス板間に注ぎ、170℃で3時間処理後、ガラス板の型から取り出し、その後、190℃で1時間、220℃で1時間、250℃で4時間、さらに260℃で12時間加熱処理したサンプルを5mm×5mmに切断し、SII社製TMA/SS120を用いて、このサンプルを窒素雰囲気下、40℃から400℃に10℃/minで昇温し、圧縮プローブの歪変化よりTgを評価する。
【0043】
[13] [1]ないし[12]のいずれかに記載のポリマレイミド系組成物を含むことを特徴とする繊維強化プリプレグ。
【0044】
[14] [1]ないし[12]のいずれかに記載のポリマレイミド系組成物を硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【0045】
[15] [13]に記載の繊維強化プリプレグを硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【0046】
[16] ロボットハンドであることを特徴とする[14]または[15]に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、著しく高度な高温耐久性を示し、長期高温下に晒されたときの重量減少が少なく、また、高温条件下でのクラックの発生やへたり(たわみ)の問題がない硬化物を与えるポリマレイミド系組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0049】
[ポリマレイミド系組成物]
本発明のポリマレイミド系組成物は、
下記の(A),(B),(D),(E)成分を含有するポリマレイミド系組成物であって、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1〜100重量部、(D)成分を5〜300重量部、(E)成分を5〜300重量部含み、(D)成分と(E)成分との合計に対する(D)成分の割合(重量比)が0.01〜0.99であることを特徴とするものであり、好ましくは、さらに下記(C)成分を、(A)成分100重量部に対して5〜300重量部含み、また、下記(F)成分を、(A)成分に対して0.01〜5重量%含む。
【0050】
(A):1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物
(B):脂肪族ビスマレイミド化合物
(C):1分子中に芳香環を2個または1個含む芳香族ビスマレイミド化合物
(D):下記式(1)で表されるビスフェノール化合物
(E):下記式(2)で表されるベンゼン系化合物
(F):重合促進剤
【0051】
【化8】

【0052】
(式(1)中、R11は、単結合、CH、O、S、SO、またはC(CHを表し、R12はアリル基またはメタリル基を表す。)
【0053】
【化9】

【0054】
(式(2)中、R24およびR25は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、R21、R22およびR23は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、C=O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R26、R27、R28およびR29は、それぞれ独立にヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、mは0以上5以下の整数を表し、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0055】
<(A)成分>
(A)成分の1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物としては、好ましくは、下記式(3)で表される芳香族ビスマレイミド化合物が挙げられる。
【0056】
【化10】

【0057】
(式(3)中、R31、R32およびR33は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R34、R35、R36およびR37は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、nは1以上5以下の整数を表し、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0058】
前記式(3)中、R31、R32およびR33は、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)であり、同じでも異なっていてもよいが、経済性の観点から、特に単結合、CH、O、またはC(CHであることが好ましい。
nは1以上5以下、好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上3以下、特に好ましくは1以上2以下である。
【0059】
34、R35、R36およびR37は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの分岐していてもよい炭素数6以下のアルキル基;メトキシ基のような炭素数6以下の脂肪族アルコキシ基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基のような炭素数6以下のアシルオキシ基(脂肪族アシルオキシ基);アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基、フッ素、塩素、臭素原子のようなハロゲン原子が挙げられるが、好ましくはこれらのうち、炭素数3以下のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0060】
e、f、g、hは、それぞれ独立に、0以上4以下、好ましくは0以上3以下の整数、より好ましくは0または1である。
なお、e、f、g、hが2以上の場合、複数あるR34、R35、R36、R37は同一であっても異なるものであってもよい。
【0061】
前記式(3)で表される1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物(以下「芳香族ビスマレイミド化合物(3)」と称す場合がある。)の具体例としては、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−マレイミド(4−フェノキシフェニル)]スルホン、1,1’−[1,4−フェニレンビス(オキシ−4,1−フェニレン)]ビスマレイミド(CAS Registry No.[82577−60−4])、1,1’−[スルホニルビス(4,1−フェニレンオキシ−3,1−フェニレン)]ビスマレイミド([99391−93−2])、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,1’−[オキシビス(4,1−フェニレンチオ−4,1-フェニレン)]ビスマレイミド([294890−20−3])、1,1’−[(2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタフルオロ[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイル)ビス(オキシ−3,1−フェニレン)]ビスマレイミド([352217−51−7])等が挙げられる。好ましくは、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−マレイミド(4−フェノキシフェニル)]スルホン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンであり、中でも下記式(3A)で表される2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンが最も好適である。
【0062】
【化11】

【0063】
<(B)成分>
(B)成分の脂肪族ビスマレイミド化合物としては、好ましくは下記式(4)で表されるものが挙げられる。
【0064】
【化12】

【0065】
(式(4)中、Qは1以上の置換基で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基で主に構成され、芳香環を含まない2価の連結基を表す。)
【0066】
前記式(4)において、Qは、1以上の置換基で置換されていてもよい炭化水素基で主に構成される2価の連結基である。この連結基には、エーテル基、スルフィド基あるいはケトン基、エステル基、アミド基などが含まれていてもよいが、その分子構造に芳香環を含まない。連結基の炭化水素基は直鎖であっても環状であってもよく、それらがさらに分岐鎖を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。
【0067】
主鎖の炭化水素基に置換する置換基には特に制限はないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの分岐していてもよい炭素数6以下のアルキル基;メトキシ基のような炭素数6以下の脂肪族アルコキシ基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基のような炭素数6以下のアシルオキシ基(脂肪族アシルオキシ基);アセチル基、プロピオニル基などの脂肪族アシル基、フッ素、塩素、臭素原子のようなハロゲン原子などの1種または2種以上が挙げられる。
Qは、置換基を有していてもよい炭素数1以上30以下のアルキレン基(この炭素数には、アルキレン基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含む)が好ましく、特に炭素数4以上20以下、とりわけ炭素数4以上9以下のアルキレン基であることが好ましい。
【0068】
式(4)で表される脂肪族ビスマレイミド化合物(以下「脂肪族ビスマレイミド化合物(4)」と称す場合がある。)の具体例として、1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、1,6−ビスマレイミド−(2,4,4−トリメチル)ヘキサン、N,N’−デカメチレンビスマレイミド、N,N’−デカメチレンビスマレイミド、N,N’−オクタメチレンビスマレイミド、N,N’−ヘプタメチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−ペンタメチレンビスマレイミド、N,N’−テトラメチレンビスマレイミド、N,N’−トリメチレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−(オキシジメチレン)ビスマレイミド、1,13−ビスマレイミド−4,7,10−トリオキサトリデカン、1,11−ビス(マレイミド)−3,6,9−トリオキサウンデカン等が挙げられるが、これらのうち、下記式(4A)で表される1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンやN,N’−ヘキサメチレンビスマレイミドが好適に用いられる。
【0069】
【化13】

【0070】
<(C)成分>
(C)成分の1分子中に芳香環を2個または1個含む芳香族ビスマレイミド化合物としては、好ましくは、下記式(5)または下記式(6)で表される芳香族ビスマレイミド化合物が挙げられる。
【0071】
【化14】

【0072】
(式(5)中、Rは、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、pおよびqはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0073】
【化15】

【0074】
(式(6)中、R10は、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、rは0以上4以下の整数を表す。)
【0075】
前記式(5)中、Rは、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)であり、経済性の観点から、特に単結合、CH、O、SOまたはC(CHであることが好ましい。
【0076】
およびRは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの分岐していてもよい炭素数6以下のアルキル基;メトキシ基のような炭素数6以下の脂肪族アルコキシ基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基のような炭素数6以下のアシルオキシ基(脂肪族アシルオキシ基);アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基、フッ素、塩素、臭素原子のようなハロゲン原子が挙げられるが、好ましくはこれらのうち、炭素数3以下のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0077】
pおよびqは、それぞれ独立に、0以上4以下、好ましくは0以上3以下の整数、より好ましくは0または1である。
なお、pおよびqが2以上の場合、複数あるRおよびRは同一であっても異なるものであってもよい。
【0078】
前記式(5)で表される1分子中に芳香環を2個含む芳香族ビスマレイミド化合物(以下「芳香族ビスマレイミド化合物(5)」と称す場合がある。)としては、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ビフェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(スルホニルジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(オキシジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニリレン)ビスマレイミド、N,N’−(ベンジリデンジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’−ベンゾフェノンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、1,1’−[1,4−ブタンジイルビス(オキシ−p−フェニレン)]ビスマレイミド等が挙げられ、中でも、4,4’−ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、または下記式(5A)で表される4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドが好適に用いられる。
【0079】
【化16】

【0080】
前記式(6)中、R10は、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの分岐していてもよい炭素数6以下のアルキル基;メトキシ基のような炭素数6以下のアルコキシ基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基のような炭素数6以下のアシルオキシ基(脂肪族アシルオキシ基);アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基、フッ素、塩素、臭素原子のようなハロゲン原子が挙げられるが、好ましくはこれらのうち、炭素数3以下のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0081】
rは、0以上4以下、好ましくは0以上3以下の整数、より好ましくは0または1である。
なお、rが2以上の場合、複数あるR10は同一であっても異なるものであってもよい。
【0082】
前記式(6)で表される1分子中に芳香環を1個含む芳香族ビスマレイミド化合物(以下「芳香族ビスマレイミド化合物(6)」と称す場合がある。)としては、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、1,3−フェニレンビスマレイミド、1,4−フェニレンビスマレイミド、1,2−フェニレンビスマレイミド、ナフタレン−1,5−ジマレイミド、4−クロロ−1,3-フェニレンビスマレイミド等が挙げられ、中でも下記式(6A)で表される4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、または下記式(6B)で表される1,3−フェニレンビスマレイミドが好適に用いられる。
【0083】
【化17】

【0084】
<その他のポリマレイミド化合物>
本発明において、ビスマレイミド化合物としては、前述の(A)成分と(B)成分を必須成分とし、さらに好ましくは(C)成分を用いるが、本発明においては、上記(A)〜(C)成分のビスマレイミド化合物に限らず、さらにマレイミド基を3個以上有するポリマレイミド化合物を併用してもよく、他のポリマレイミド化合物としては、例えば、ポリフェニルメタンマレイミド等が挙げられる。ポリマレイミド化合物としては具体的には下記式(7)の混合物で表される市販のポリフェニルメタンマレイミド(大和化成工業社製「BMI−2000」「BMI−2300」)であってもよい。
【0085】
【化18】

(式(7)中、tは0以上20以下の整数を表す。両末端のマレイミドフェニル基はp結合。)
【0086】
<(D)成分および(E)成分>
本発明においては、芳香族液状反応性希釈剤として、下記式(1)で表されるビスフェノール化合物である(D)成分と、下記式(2)で表されるベンゼン系化合物である(E)成分とを併用する。
【0087】
【化19】

【0088】
(式(1)中、R11は、単結合、CH、O、S、SO、またはC(CHを表し、R12はアリル基またはメタリル基を表す。)
【0089】
【化20】

【0090】
(式(2)中、R24およびR25は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、R21、R22およびR23は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、C=O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R26、R27、R28およびR29は、それぞれ独立にヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、mは0以上5以下の整数を表し、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【0091】
式(1)中、R11は特にCH、O、またはC(CHであることが好ましく、R12はアリル基(−CH−CH=CH基)、メタリル基(−CH−C(CH)=CH基)のうち、アリル基であることが好ましい。
【0092】
式(1)で表されるベンゼン系化合物(以下「ビスフェノール化合物(1)」と称す場合がある。)の具体例としては、o,o’−ジアリルビスフェノールA、o,o’−ジアリルビスフェノールF、o,o’−ジアリルビスフェノールS、2,2’−ジアリル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジアリル−4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルエーテル、3,3’−ジアリル−4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルスルフィド、o,o’−ジメタリルビスフェノールA、o,o’−ジメタリルビスフェノールF等が挙げられ、中でも下記式(1A)で表されるo,o’−ジアリルビスフェノールAが好適に用いられる。
【0093】
【化21】

【0094】
式(2)中、R24およびR25としては、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基が好ましく、より好ましくはアルケニル基であり、さらに好ましくはプロペニル基またはアリル基である。
また、R21、R22およびR23としては、それぞれ独立に、単結合、−CH−、−O−、−C(=O)−、−S−、−SO−、−C(CH−または−NHC(=O)−が好ましく、より好ましくはO、−C(=O)−であり、mは好ましくは0、1または2である。
【0095】
また、R26、R27、R28およびR29としては、それぞれ独立に、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの分岐していてもよい炭素数6以下のアルキル基;メトキシ基のような炭素数6以下のアルコキシ基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基のような炭素数6以下のアシルオキシ基(脂肪族アシルオキシ基);アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基、フッ素、塩素、臭素原子のようなハロゲン原子が挙げられるが、好ましくはこれらのうち、炭素数3以下のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。
a、b、c、dは、それぞれ独立に、好ましくは0〜2である。なお、a、b、c、dが2の場合、2個のR26、R27、R28、R29は同一であっても異なるものであってもよい。
【0096】
式(2)で表されるベンゼン系化合物(以下「ポリフェニレン化合物(2)と称す場合がある。」の具体例としては、4,4’−ビス−(o−プロペニルフェノキシ)−ベンゾフェノン、2,2’−ジプロペニルビスフェノールA、1,3−ジ(4−アリルフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アリルフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられ、中でも下記式(6A)で表される4,4’−ビス−(o−プロペニルフェノキシ)−ベンゾフェノンが好適に用いられる。
【0097】
【化22】

【0098】
<(F)成分>
本発明のビスマレイミド系組成物には、特に必須ではないが、硬化速度を速める目的で(F)成分として公知の重合促進剤をさらに添加することができる。
【0099】
本発明で用いる重合促進剤としては、特に制限はなく、各種のアニオン重合促進剤、ラジカル重合促進剤などを用いることができる。
また、アニオン重合促進剤とラジカル重合促進剤とを併用してもよい。即ち、アニオン重合促進剤は、重合促進効果に優れるものの、一部の成分に対しては重合促進効果が低いために重合の完結度において、ラジカル重合促進剤よりも低く、この結果、重合促進剤としてアニオン重合促進剤のみを用いたポリマレイミド系組成物から得られる硬化物は、その耐熱性の指標となるTgが低くなる傾向にある。
一方、ラジカル重合促進剤は、本発明で使用する(A)〜(E)成分に対して重合促進効果を発揮するが、一部の成分の末端に対して不安定な酸素−炭素結合を形成する。この酸素−炭素結合は、高温になると燃焼して熱重量減少の原因となるため、重合促進剤としてラジカル重合促進剤のみを用いたポリマレイミド系組成物から得られる硬化物は、長期間高温条件下においた場合の熱重量減少率が大きくなることがある。
アニオン重合促進剤とラジカル重合促進剤を併用することにより、各々の長所を生かした上で短所を補い合い、これにより、耐熱性の向上と熱重量減少の抑制を図ることができる。
【0100】
アニオン重合促進剤としては、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール、1−メチル−2−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、TBZ(2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニル−イミダゾリウムトリメリテイト、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライドのようなイミダゾール化合物や、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、1,4−ジメチルピペラジン、トリフェニルアミン、N,N’−ジシクロヘキシル尿素、トリブチルアミン、1−ベンジル−4−ピペリドン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−フェニルジベンジルアミン、1−ベンジルピペリジン、1−メチル−2,2−ジメチル−6,6−ジメチルピペリジン、キノキサリン、キノリン、テトラメチレンヘキサミン、ピラゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)のような3級アミン化合物、トリフェニルホスフィンまたは亜リン酸トリフェニルのような3価のリン化合物といったアニオン系重合促進剤が挙げられるが、これらのうち、イミダゾール系重合促進剤が好適である。
【0101】
イミダゾール系重合促進剤としては、下記式(X)で表されるイミダゾール類が好ましい。
【0102】
【化23】

【0103】
(式(X)中、R(1)、R(2)、R(4)およびR(5)は、それぞれ独立に水素原子、または任意の置換基を表し、R(1)とR(2)、R(4)とR(5)、R(1)とR(5)は、それぞれ互いに結合してイミダゾール環に縮合する環を形成していてもよい。)
【0104】
ここで、R(1)とR(2)、R(4)とR(5)の任意の置換基としては、本発明におけるイミダゾール類として特に好ましいイミダゾール類である、式(X)において、R(2)及びR(4)が、それぞれ独立に、メチル基または水素原子である場合の、R(1)、R(5)の任意の置換基として例示した後掲のものが挙げられる。
【0105】
R(1)は、R(2)またはR(5)と結合して、イミダゾール環に縮合する環(脂肪族環、芳香族環、複素環のいずれであってもよい)を形成してもよい。R(1)は、好ましくは、炭素数4以下の鎖状アルキル基または水素原子である。
【0106】
R(2)はR(1)と結合して、イミダゾール環に縮合する環(脂肪族環、芳香族環、複素環のいずれであってもよい)を形成してもよい。R(2)は、好ましくは、炭素数4以下の鎖状アルキル基または水素原子であり、より好ましくは炭素数2以下の鎖状アルキル基または水素原子、さらに好ましくはメチル基または水素原子である。
【0107】
R(4)はR(5)と結合して、イミダゾール環に縮合する環(脂肪族環、芳香族環、複素環のいずれであってもよい)を形成してもよい。R(4)は、好ましくは、炭素数3以下の鎖状アルキル基または水素原子であり、より好ましくは水素原子である。
【0108】
R(5)は、R(4)またはR(1)と結合して、イミダゾール環に縮合する環(脂肪族環、芳香族環、複素環のいずれであってもよい)を形成してもよい。R(5)は、好ましくは、炭素数18以下の鎖状アルキル基、環状アルキル基、芳香族基(例えばフェニル基、ベンジル基、ナフチル基)、複素環基(例えばピリジル基、フリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基)、または水素原子である。
【0109】
イミダゾール系重合促進剤の具体例としては、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール、1−メチル−2−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、TBZ(2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1.2−a]ベンズイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
前述の如く、重合促進剤としてのイミダゾール類は公知であり、イミダゾール系重合促進剤として従来最も一般的に用いられているものは、2−エチル−4−メチルイミダゾールであるが、重合促進剤に用いられるイミダゾール類は、ポリマレイミド系組成物の他の配合成分に比べて比較的高価なものであることから、触媒活性(重合促進効果)が高く、少量配合でポリマレイミド系組成物のゲル化温度を適当な温度に低下させることができるイミダゾール系重合促進剤を用いることにより、イミダゾール系重合促進剤の必要量を低減してポリマレイミド系組成物の原材料コストを低減すること、ひいては製品コストを低減することが望まれる。
また、重合促進剤の多量配合は、得られる硬化物の耐熱性を低下させる原因ともなるため、この点においても、重合促進剤の使用量を低減することが望まれる。
さらに、重合促進剤の多量配合は、熱硬化時に揮発する重合促進剤量を増大させることになり、設備保護の観点から重合促進剤の低減が望まれる。
【0111】
本発明者は、重合促進剤であるイミダゾール類の構造に着目して鋭意検討した結果、イミダゾール環の2位と4位の炭素原子に結合する基を制限したイミダゾール類、即ち、前記式(X)中、R(2)およびR(4)が、それぞれ独立に、メチル基または水素原子であるものが、触媒活性に優れ、少量配合で高い重合促進効果を示すことを知見した。
【0112】
この理由の詳細は明らかではないが、次のように推定される。
イミダゾール類が触媒活性を示す重合活性点は、イミダゾール環の3位の窒素原子であると推定され、この3位の窒素原子が高い重合活性を発揮するためには、3位の窒素原子の周囲に重合開始点としての空間を確保することが必要であり、そのためには、3位の窒素原子の両隣の2位の炭素原子と4位の炭素原子には、嵩高い置換基が存在しないことが有利であると推考される。このようなことから、イミダゾール環の2位および4位の炭素原子に結合する基は、炭素数1以下の基、即ち、メチル基または水素原子であることが触媒活性の発現に有利である。
【0113】
従って、重合促進剤として用いるイミダゾール類は、前記式(X)において、R(2)およびR(4)が、それぞれ独立に、メチル基または水素原子であることが好ましく、特に、R(4)については水素原子であることが好ましい。
【0114】
この場合においても、R(1)、R(5)は、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基である。ここで、任意の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、或いは、更に置換基を有していてもよい以下の基、即ち、
炭素数12以下のアルキル基(直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状であってもよい。)、
炭素数12以下のアルケニル基(直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状であってもよい。)、
炭素数12以下の芳香族基、
炭素数12以下の複素環基、
炭素数12以下のアルコキシ基、
炭素数12以下のアシルオキシ基、
炭素数12以下のアシル基
が挙げられる(なお、ここで、アルキル基、アルケニル基、芳香族基、複素環基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基が置換基を有する場合、上記の炭素数は、いずれもその置換基を含めた全体の炭素数をさす。)。
【0115】
ただし、重合促進剤としてのイミダゾール類には、触媒活性だけでなく、反応系への溶解性が要求され、反応系への溶解性、その他の観点から、R(1)、R(5)には、以下のように、好適な置換基が存在する。
【0116】
即ち、イミダゾール環の1位が無置換であると、1位の水素を介した水素結合により、溶剤に対する溶解性が悪くなる。また、置換基が過度に低分子量であると、化合物全体の分子量が小さくなり、低沸点化合物となる結果、高温の反応系における揮発による損失が大きくなる。このような観点から、イミダゾール環には、ある程度以上の置換基が結合して化合物としての不規則性を高めると共に、分子量を高めることも必要となるが、本発明に係るイミダゾール類は、R(2)、R(4)がメチル基または水素原子であるため、R(1)およびR(5)は、ある程度以上の分子量のある置換基であることが望まれる場合もある。
【0117】
また、上述の如く、イミダゾール類の活性点は、3位の窒素原子であるが、イミダゾール環の結合に寄与しないフリーな電子対が重合活性に関与していると考えられる。このような観点において、イミダゾール環内部の電子密度が低いと、孤立電子対の電子供与性が上がらず、この部分での重合活性が得られ難くなる。
これに対して、イミダゾール環の1位の窒素原子に、アルキル基等の電子供与性の置換基が結合していると、イミダゾール環に電子を押し出してイミダゾール環内部の電子密度を高めることができることから、1位の窒素原子に結合する置換基のR(1)は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ベンジル基等の置換基を有していてもよい直鎖または分岐アルキル基、ビニル基等のアルケニル基等の電子供与性の置換基が好ましい。
【0118】
また、溶解性、沸点、重合活性等の観点から、式(X)中のR(1)とR(2)とR(4)の合計の炭素数については、0以上8以下、特に、4、5または6であることが好ましい。より具体的には、R(1)は、炭素数1〜6、好ましくは3〜6の、フェニル基等の置換基を有していてもよい直鎖または分岐アルキル基、アルケニル基、置換基を有していてもよいアシル基等が挙げられる。
【0119】
また、R(5)としては、水素原子、炭素数1〜6、好ましくは3〜6の直鎖または分岐アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられ、好ましくは市販品の入手の容易さより水素原子である。
【0120】
前記式(X)において、R(2)およびR(4)が、それぞれ独立に、メチル基または水素原子であるイミダゾール類としては、具体的には、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−メチル−2−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1,1’−カルボニルビス−1H−イミダゾールが挙げられ、中でも1−イソブチル−2−メチルイミダゾールが好ましく用いられる。
【0121】
これらのイミダゾール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0122】
一方、ラジカル重合促進剤としては、有機過酸化物系重合促進剤、或いはアゾビスイソブチロニトリルのようなラジカル系重合促進剤が挙げられるが、好ましくは有機過酸化物系重合促進剤である。
【0123】
重合促進剤としての有機過酸化物としては次のようなものが挙げられるが、何ら以下のものに限定されるものではない。
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスティルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘキサネート、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート。
【0124】
これらの有機過酸化物のうち、分解してラジカルを発生する温度が、ある程度以上高いものが好ましい。すなわち、(A)〜(E)成分を混合してポリマレイミド系組成物を調製する工程や、これを繊維に含浸させてプリプレグを製造する工程における温度では分解せず、硬化させて成型品を製造する温度(通常、混合、含浸工程より温度は高い)で効率良く分解する性質を持つものが好ましい。この様な有機過酸化物として、t−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等が挙げられ、特にジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0125】
これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0126】
上記のアニオン重合促進剤とラジカル重合促進剤とを併用する場合、これらを併用することによる効果を有効に得る上で、アニオン重合促進剤とラジカル重合促進剤の合計100重量部に対するアニオン重合促進剤の含有量は1重量部以上99重量部以下、特に10重量部以上90重量部以下、とりわけ20重量部以上80重量部以下であることが好ましい。この範囲よりもアニオン重合促進剤が多くても少なくても、アニオン重合促進剤とラジカル重合促進剤とを併用することによる本発明の効果を十分に得ることができない場合がある。
【0127】
<配合量>
本発明のポリマレイミド系組成物は、(A)成分、(B)成分、(D)成分および(E)成分を必須成分として、好ましくはさらに(C)成分および(F)成分を含むものである。
本発明のポリマレイミド系組成物は、(A)成分の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。同様に、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分および(F)成分についても1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0128】
各成分の配合量は次の通りである。
【0129】
(B)成分は、(A)成分100重量部に対して1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部用いられる。
(B)成分は(A)成分と(C)成分の相溶性に有効な成分であり、上記範囲より(B)成分が少ないと、耐熱性は向上するものの硬化物が脆くなり、かつクラックの数も増加するため、成型品の品質が低下する。上記範囲より(B)成分が多いと、組成物の耐熱性が著しく悪化する。
【0130】
(C)成分は、(A)成分100重量部に対して300重量部以下、特に5〜300重量部、とりわけ10〜200重量部用いられる。
(C)成分を配合することにより、得られるポリマレイミド系組成物のガラス転移温度を上げ、耐熱性を高めることができるが、(C)成分の配合量が過度に多いと組成物の不均一性が増し成形に必要なタック性、ドレープ性が失われることがある。
【0131】
(D)成分は、(A)成分100重量部に対して5〜300重量部、好ましくは10〜200重量部用いられる。
(D)成分は、(E)成分による粘度上昇を相殺して適度な粘度に調整するために用いられるが、(D)成分が多過ぎると耐熱性が低下する。
【0132】
(E)成分は、(A)成分100重量部に対して5〜300重量部、好ましくは10〜200重量部用いられる。
(E)成分は、得られる硬化物の高温耐久性に有効であるが、(E)成分が多過ぎるとポリマレイミド系組成物の粘度が高くなり過ぎ、取り扱い性が劣るものとなる。
【0133】
本発明においては、(D)成分による粘度調整効果と、(E)成分による耐熱性向上効果を有効に得るために、(D)成分と(E)成分との合計に対する(D)成分の割合(重量比)は0.01〜0.99、好ましくは0.1〜0.9とする。この範囲よりも(D)成分が少なく(E)成分が多いと粘度上昇で取り扱い性に劣るものとなり、この範囲よりも(D)成分が多く、(E)成分が少ないと耐熱性が劣るものとなる。
なお、(D)成分と(E)成分との合計の配合量は、(A)〜(C)成分であるビスマレイミド化合物の合計100重量部に対して10〜200重量部とすることが好ましい。
【0134】
(F)成分を用いる場合、(F)成分は、(A)成分100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.02〜2重量部用いることが好ましい。
【0135】
重合促進剤である(F)成分の配合量が上記下限よりも少ないと十分な重合促進効果が得られないが、上記上限よりも多いと、重合が過度に進行し、反応の制御が困難となったり、得られる硬化物の耐熱性が損なわれたりするため、好ましくない。
【0136】
<その他の成分>
本発明のポリマレイミド系組成物は、前記(A)〜(F)成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
このような任意成分としては特に制限はないが、シラン、チタネート化合物等のカップリング剤、高級脂肪酸およびワックス等の離型剤、ハロゲン、リン化合物等の難燃性付与剤、消泡剤、着色剤、紫外線吸収剤、低温発泡剤、酸化防止剤等が挙げられ、その配合量は、通常(A)成分100重量部に対して各々50重量部以下程度である。
【0137】
<製造方法>
本発明のポリマレイミド系組成物を製造するには、(A)、(B)、(D)、および(E)成分、並びに必要に応じて用いられる(C)成分および(F)成分、その他の任意成分を混合して均一に溶解または均一に分散した組成物とすればよく、その方法に特に制限はないが、重合促進剤である(F)成分を用いる場合、(F)成分を予め(D)成分および/または(E)成分(以下「反応性希釈剤成分」と称す。)の一部に溶解した溶液とし、この溶液を、(A)成分と(B)成分、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分の残部との混合物に添加、混合することが、少量成分である(F)成分の組成物への均一分散混合性の面で好ましい。
【0138】
この場合、(F)成分と反応性希釈剤成分との混合温度には特に制限はなく、40℃以上150℃以下の幅広い温度で混合することができ、また、その混合時間も、(F)成分が反応性希釈剤成分中に均一に溶解する時間であれば特に制限はない。
(A)成分と(B)成分と、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分との混合は、50℃以上150℃以下、特に80℃以上130℃以下、とりわけ90℃以上120℃以下で加熱混合することが好ましい。この温度が低すぎるとこれらの成分の均一な混合が困難となり、高すぎると混合中に重合反応が促進され、混合中に重合固化にいたる可能性がある。
また、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分との混合時間は、昇降温に要する時間を除き通常10分以上6時間以下、好ましくは20分以上5時間以下、より好ましくは30分以上4時間以下である。必要以上に長い混合時間は、重合により粘度が上昇しマトリックス樹脂としてのハンドリング性を損なう。
【0139】
また、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分の混合物と、(F)成分を反応性希釈剤成分に溶解させた溶液は、30℃以上120℃以下、特に50℃以上100℃以下、とりわけ60℃以上90℃以下で加熱混合することが好ましい。この温度が低すぎると触媒の均一混合が困難となり、高すぎると混合中に重合反応が促進され、混合中に重合固化にいたる可能性がある。また、混合時間は、昇降温に要する時間を除き通常1分以上3時間以下、好ましくは2分以上2時間以下、より好ましくは5分以上1時間以下である。必要以上に長い混合時間は、重合により粘度が上昇しマトリックス樹脂としてのハンドリング性を損なう。
【0140】
なお、予め(F)成分を溶解させる反応性希釈剤成分の量としては、組成物に配合する(F)成分および反応性希釈剤成分、更には(A)〜(C)成分の種類や量によっても異なり一概には決めることはできないが、通常、全反応性希釈剤成分量の0.1重量%以上50重量%以下、特に0.5重量%以上30重量%以下を(F)成分の溶解に用い、(F)成分の反応性希釈剤成分溶液中の(F)成分濃度が0.1重量%以上50重量%以下、特に0.5重量%以上30重量%以下となるようにすることが好ましい。(F)成分の溶解に用いる反応性希釈剤成分の量が少な過ぎても多過ぎても、各成分が均一に混合した組成物を得ることができないおそれがある。
【0141】
なお、その他の任意成分については、その混合時期には特に制限はないが、通常、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分との混合時、或いは、(A)成分と(B)成分と、必要に応じて用いられる(C)成分と反応性希釈剤成分の混合物に(F)成分を溶解した溶液を混合する時に混合することが好ましい。
【0142】
[プリプレグ]
本発明のポリマレイミド系組成物は、公知の複合化手法により炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維やアラミド繊維などの強化繊維の1種または2種以上と複合化して繊維強化プリプレグとすることができる(例えば、宮入裕夫、後藤卒土民著「製品開発に役立つ強化プラスチック材料入門」(日刊工業新聞社、2007年)参照)。
用いる強化繊維に制限は無いが、耐熱性ロボットハンド用途としては特に炭素繊維が好ましい。強化繊維の形態にも特に制限は無く、一方向材、織物状(クロス)、組紐状織物等が例として挙げられる。
【0143】
これらの強化繊維に本発明のポリマレイミド系組成物を含浸させる方法にも特に制限はないが、溶剤を使用しない方法が好ましいため、本発明のポリマレイミド系組成物を60〜110℃に加温し、流動性がある状態で含浸させるホットメルト法が好ましい。
【0144】
得られるプリプレグ(強化繊維にポリマレイミド系組成物を含浸させたもの)に占めるポリマレイミド系組成物の割合は、強化繊維の形態にもよるが通常20重量%以上80重量%以下、好ましくは25重量%以上65重量%以下、より好ましくは30重量%以上50%以下である。
この範囲よりもポリマレイミド系組成物の割合が多いと相対的に強化繊維の割合が減ることにより十分な補強効果が得られず、逆にポリマレイミド系組成物が少ないと成型性が損なわれる。
【0145】
このプリプレグは公知の手法により硬化させて最終成型品とすることができる。例えば、プリプレグを積層して、オートクレーブ中で2ないし10kgf/cm2に加圧し、150℃から200℃で30分ないし3時間加熱硬化させて成型体とすることができるが、さらに耐熱性を向上させるため、ポストキュアとして180℃ないし280℃の温度範囲で温度をステップ的に加温しながら1時間ないし12時間処理することにより繊維強化複合材成型品とすることができる。
【0146】
[ガラス転移温度(Tg)]
本発明のポリマレイミド系組成物は、以下の測定方法で測定されたガラス転移温度(Tg)が250℃以上、特に300℃以上であることが好ましく、このようなガラス転移温度(Tg)が得られるように、各成分の配合量を調整することが好ましい。
なお、このガラス転移温度(Tg)の上限は特に制限はないが、通常600℃以下である。
【0147】
<ガラス転移温度(Tg)>
約70℃に加熱脱泡したポリマレイミド系組成物を2mm厚のスペーサーを介した2枚のガラス板間に注ぎ、170℃で3時間処理後、ガラス板の型から取り出し、その後、190℃で1時間、220℃で1時間、250℃で4時間、さらに260℃で12時間加熱処理したサンプルを5mm×5mmに切断し、SII社製TMA/SS120を用いて、このサンプルを窒素雰囲気下、40℃から400℃に10℃/minで昇温し、圧縮プローブの歪変化よりTgを評価する。
【0148】
[用途]
このようにして得られる本発明のポリマレイミド系組成物またはプリプレグの硬化物、特にプリプレグの硬化物は、特に液晶ガラス基板搬送用ロボットハンド用途として有用である。ただし、本発明の硬化物の用途は液晶ガラス基板搬送用ロボットハンド等の各種ロボットハンド用途に限定されるものではなく、その他、シリコンウェハー搬送用ディスク用途、航空宇宙向け部材用途、自動車のエンジン部材用途など、軽量で高強度かつ高耐熱性が要求される部材に広く適用することができる。
【実施例】
【0149】
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下において、組成物の物性の測定方法は次の通りである。
【0150】
<ガラス転移温度(Tg)>
約70℃に加熱脱泡したポリマレイミド系組成物を2mm厚のスペーサーを介した2枚のガラス板間に注ぎ、170℃で3時間処理後、ガラス板の型から取り出し、その後、190℃で1時間、220℃で1時間、250℃で4時間、さらに260℃で12時間加熱処理したサンプルを5mm×5mmに切断した。SII社製TMA/SS120を用いて、このサンプルを窒素雰囲気下、40℃から400℃に10℃/minで昇温し、圧縮プローブの歪変化よりTgを評価した。
【0151】
<加熱減量>
ポリマレイミド系組成物を250℃または280℃で1000時間加熱し、加熱前後の重量から、下記式により加熱による重量減少率を算出した。
重量減少率(%)={(W−W)/W}×100
:加熱前の重量
:加熱後の重量
【0152】
<耐クラック性>
280℃で1000時間加熱処理したCFRP断面の光学顕微鏡写真を撮影した。この写真を画像解析ソフト「イメージJ」を用いて、画像解析し、CFRP全断面積に対するクラック部分の面積比を求めた。
【0153】
また、用いた各成分の詳細は次の通りである。
【0154】
<(A)成分>
2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン:ケイ・アイ化成社製「BMI−80」(以下「BMI−80」と略記する。)
【化24】

【0155】
<(B)成分>
1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン:大和化成工業社製「BMI−TMH」(以下「BMI−TMH」と略記する。)
【化25】

【0156】
<(C)成分>
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド:大和化成工業社製「BMI−1000H」(以下「BMI−1000H」と略記する。BMI−1000Hは、大阪ケミカル社製ワンダークラッシュミルWDL−1で粉砕して用いた。)
【化26】

【0157】
<(D)成分>
o,o’−ジアリルビスフェノールA:エボニックデグサジャパン社製「コンピミドTM124」(以下「DABA」と略記する。)
【化27】

【0158】
<(E)成分>
4,4’−ビス−(o−プロペニルフェノキシ)−ベンゾフェノン:エボニックデグサジャパン社製「コンピミドTM123」(以下「TM123」と略記する。)
【化28】

【0159】
<(F)成分>
1−イソブチル−2−メチルイミダゾール:三菱化学社製jERキュア「IBMI12」(以下「IBMI」と略記する。)
ジクミルペルオキシド:日油社製「パークミルD」(以下「DCPO」と略記する。)
【0160】
[実施例1]
機械式攪拌機を備えたガラス製容器に、室温で、約80℃に加熱したTM−123:20.0gとDABA:37.8gを入れた。この容器をオイルバスに浸し、内温が100℃に到達したところでBMI−TMH:15.0gを5分かけて投入した。次いで、BMI−80:42.5gを5分かけて投入した。次いで、BMI−1000H:42.5g(大阪ケミカル社製ワンダークラッシュミルWDL−1で粉砕したもの)を5分かけて投入した。このとき、内温が90℃以下にならないように投入量と投入間隔を調節した。その後、内温を100℃に保持しながら30分間攪拌した。粉状のビスマレイミドが均一に分散したことを確認した後、攪拌しながら15分かけて内温を75℃とした。ここへ、IBMI:0.24gをDABA:2.2gに溶解した溶液を攪拌しながら添加し、引き続き、内温75℃で15分間攪拌した後、混合物を取り出し、室温まで冷却して目的とするビスマレイミド系組成物を得た。このビスマレイミド系組成物は0℃の冷蔵庫で1ヶ月以上保管することができた。
このビスマレイミド系組成物の製造に用いた原料組成と評価結果を表1に示した。
【0161】
[実施例2〜6]
各成分の使用量を表1に示す通り変更したこと以外は実施例1と同様にビスマレイミド系組成物を製造し、その評価結果を表1に示した。
【0162】
なお、DCPOは、IBMIを溶解したDABAに添加し、次いで溶解させて用いた。
【0163】
[比較例1]
TM123を用いず、DABAのみを用い、表1に示す原料使用量としたこと以外は実施例1と同様にビスマレイミド系組成物を製造し、その評価結果を表1に示した。
【0164】
【表1】

【0165】
表1より、芳香族液状反応性希釈剤としてTM123とDABAとを併用すると共に、ビスマレイミド化合物として(A)成分と(B)成分とを併用した本発明のポリマレイミド系組成物は、耐熱耐久性に優れ、高温加熱時の重量減少が少なく、また、高温下でのクラックの問題もないことが分かる。また、ビスマレイミド化合物として、更に(C)成分を併用した実施例1〜3,5,6では、Tgが300℃以上の高耐熱性を有し、高温条件下でのへたり(たわみ)の問題がないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A),(B),(D),(E)成分を含有するポリマレイミド系組成物であって、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1〜100重量部、(D)成分を5〜300重量部、(E)成分を5〜300重量部含み、(D)成分と(E)成分との合計に対する(D)成分の割合(重量比)が0.01〜0.99であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(A):1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物
(B):脂肪族ビスマレイミド化合物
(D):下記式(1)で表されるビスフェノール化合物
(E):下記式(2)で表されるベンゼン系化合物
【化1】

(式(1)中、R11は、単結合、CH、O、S、SO、またはC(CHを表し、R12はアリル基またはメタリル基を表す。)
【化2】

(式(2)中、R24およびR25は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、R21、R22およびR23は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、C=O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R26、R27、R28およびR29は、それぞれ独立にヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、mは0以上5以下の整数を表し、a、b、cおよびdはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1において、さらに、下記(C)成分を、(A)成分100重量部に対して5〜300重量部含むことを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(C):1分子中に芳香環を2個または1個含む芳香族ビスマレイミド化合物
【請求項3】
請求項1または2において、さらに下記(F)成分を、(A)成分100重量部に対して0.01〜5重量部含むことを特徴とするポリマレイミド系組成物。
(F):重合促進剤
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、(A)成分が下記式(3)で表される芳香族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【化3】

(式(3)中、R31、R32およびR33は、それぞれ独立に、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、R34、R35、R36およびR37は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、nは1以上5以下の整数を表し、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、(B)成分が下記式(4)で表される脂肪族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【化4】

(式(4)中、Qは1以上の置換基で置換されていてもよい炭素数1以上30以下の炭化水素基で主に構成され、芳香環を含まない2価の連結基を表す。)
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、(C)成分が、下記式(5)または下記式(6)で表される芳香族ビスマレイミド化合物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【化5】

(式(5)中、Rは、単結合、CH、O、S、SO、C(CHまたはNHC(=O)を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、pおよびqはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。)
【化6】

(式(6)中、R10は、ヒドロキシ基、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、アシルオキシ基、アシル基、複素環基、またはハロゲン原子を表し、rは0以上4以下の整数を表す。)
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、式(1)におけるR12がアリル基であることを特徴とするビスマレイミド系組成物。
【請求項8】
請求項3ないし7のいずれか1項において、(F)成分がアニオン重合促進剤および/またはラジカル重合促進剤であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【請求項9】
請求項8において、アニオン重合促進剤が下記式(X)で表されるイミダゾール類であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【化7】

(式(X)中、R(1)、R(2)、R(4)およびR(5)は、それぞれ独立に水素原子、または任意の置換基を表し、R(1)とR(2)、R(4)とR(5)、R(1)とR(5)は、それぞれ互いに結合してイミダゾール環に縮合する環を形成していてもよい。)
【請求項10】
請求項9において、式(X)中、R(2)およびR(4)は、それぞれ独立に、メチル基または水素原子であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、ラジカル重合促進剤が有機過酸化物であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、下記測定方法で測定されるガラス転移温度Tgが300℃以上であることを特徴とするポリマレイミド系組成物。
<ガラス転移温度(Tg)>
約70℃に加熱脱泡したポリマレイミド系組成物を2mm厚のスペーサーを介した2枚のガラス板間に注ぎ、170℃で3時間処理後、ガラス板の型から取り出し、その後、190℃で1時間、220℃で1時間、250℃で4時間、さらに260℃で12時間加熱処理したサンプルを5mm×5mmに切断し、SII社製TMA/SS120を用いて、このサンプルを窒素雰囲気下、40℃から400℃に10℃/minで昇温し、圧縮プローブの歪変化よりTgを評価する。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のポリマレイミド系組成物を含むことを特徴とする繊維強化プリプレグ。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のポリマレイミド系組成物を硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項15】
請求項13に記載の繊維強化プリプレグを硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項16】
請求項14または15において、ロボットハンドであることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2012−197372(P2012−197372A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62790(P2011−62790)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】