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ポリマー−核酸複合体、並びにこれ用いた腫瘍細胞等のイメージング方法及び癌の治療用医薬組成物
説明

ポリマー−核酸複合体、並びにこれ用いた腫瘍細胞等のイメージング方法及び癌の治療用医薬組成物

【課題】腫瘍細胞特異的に目的遺伝子を発現させるための遺伝子キャリアや、それを用いた腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法、及び癌の治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明の遺伝子キャリアとしてのカチオン性ポリマーは、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチド部分と、親水性ポリマー部分とを含むことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞特異的な遺伝子発現のための遺伝子キャリア、腫瘍細胞等のイメージング方法、及び癌の治療用医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
安全かつ効率よい遺伝子治療を目指した遺伝子キャリアの開発は、最近20年間、幅広く研究されてきた。現在、疾病に特異的な遺伝子を発現させる手法は遺伝子治療において最も重要な課題の一つである。これは、癌および炎症性疾患の治療に対して用いる細胞を死滅させる薬理活性の強い治療用遺伝子においては、特に重要である。これらの観点から、以下のような二つの戦略、すなわち、疾病細胞特異的なリガンド分子を利用するアクティブターゲッティング法と、疾病細胞特異的プロモーターを搭載したプラスミドDNA(pDNA) を利用する手法とが開発された。
【0003】
これに対し、上記の戦略とは全く異なる新しい疾病細胞特異的な遺伝子ターゲッティングの戦略として、近年、疾病細胞内に存在するシグナル伝達経路の異常を認識する遺伝子転写制御システムが開発された。このシステムでは、カチオン性ペプチドを担持した親水性ポリマーが、pDNAとの複合体の形成に用いられた。pDNAの転写は複合体の状態では立体障害によって抑制される。一方、親水性ポリマーに担持されたカチオン性ペプチドは、疾病細胞内で活性化されているシグナル伝達酵素(以下STPs)に選択的に応答する基質配列を有するものであり、STPsに応答して当該ペプチドの荷電(カチオン)が減少すると、pDNAは複合体から解離される。このターゲッティング戦略は、細胞内シグナル応答型薬物及び遺伝子デリバリーシステム(D-RECS)と称され、ある特定のSTPs、具体的にはプロテインキナーゼA及びカスパーゼ3に応答して細胞内で目的の遺伝子を発現させることに成功している(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、プロテインキナーゼA及びカスパーゼ3は細胞内での活性が低く、細胞内での目的遺伝子の発現のためには、これらSTPsを活性化させる刺激剤を使用する必要があり、実用的ではなかった。さらに、複合体の表面電荷が中性であったため、低い導入効率も問題であり、導入効率を向上するために、複合体を不活性化したウイルス殻(エンベロープ)へ封入することも必要であり、複雑な工程が必要であった。
【0005】
ところで、癌の治療及び予防においては、腫瘍細胞の存在位置及び大きさ等を他の正常細胞と明確に区別して確認(イメージング)することが非常に重要であり、また、実際に遺伝子治療を行う場合も他の正常細胞にはなるべく影響を与えずに腫瘍細胞特異的に治療効果を発揮させることが、患者への負担軽減等の点で望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−33178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下において、腫瘍細胞特異的に目的遺伝子を発現させるための遺伝子キャリアや、それを用いた腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法、及び癌の治療用医薬組成物の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、カチオン性ポリマー、ポリマー−核酸複合体、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法、及び癌の治療用医薬組成物などを提供するものである。
(1)腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチド部分と、親水性ポリマー部分とを含む、カチオン性ポリマー。
【0009】
本発明のカチオン性ポリマーにおいて、前記酵素としては、例えばプロテインキナーゼCαが挙げられる。また、前記ペプチドとしては、例えば塩基性アミノ酸残基を含むものが挙げられ、当該塩基性アミノ酸としては、例えばリジン及び/又はアルギニンが挙げられる。さらに、前記ペプチドとしては、そのアミノ酸配列が、例えばFKKQGSFAKKK(配列番号1)で示されるアミノ酸配列を含むものが好ましく挙げられる。
【0010】
本発明のカチオン性ポリマーは、例えば、前記親水性ポリマーに前記ペプチドが複数結合したものが挙げられる。ここで、当該結合としては、例えばグラフト結合が挙げられる。
【0011】
本発明のカチオン性ポリマーとしては、例えば、下記一般式(I)で示される構造を有するものが挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式(I)中、Rは、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチドを表す。mは50〜99の整数を表し、nは1〜50の整数を表す。「/」の表記は、その左右に示された(m+n)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕
(2)上記(1)に記載のカチオン性ポリマーと核酸とを含む、ポリマー−核酸複合体。
【0014】
本発明の複合体としては、例えば、前記カチオン性ポリマーと前記核酸とが静電的相互作用により結合したものが挙げられる。
【0015】
本発明の複合体において、前記核酸としては、例えばDNA、RNA、PNA及びsiRNAからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
(3)上記(2)に記載の複合体を含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング用デバイス。
【0016】
本発明のデバイスにおいて、前記複合体に含まれる核酸としては、例えばGFP若しくはルシフェラーゼ又はその誘導体をコードするDNAが挙げられる。
(4)上記(2)に記載の複合体を、被験者に投与する又は被験細胞若しくは被験組織に添加することを含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法。
【0017】
本発明のイメージング方法において、前記複合体に含まれる核酸としては、例えばGFP若しくはルシフェラーゼ又はその誘導体をコードするDNAが挙げられる。
(5)上記(2)に記載の複合体を含む、癌の治療用医薬組成物。
【0018】
本発明の医薬組成物において、前記複合体に含まれる核酸としては、例えば抗腫瘍活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
(6)上記(2)に記載の複合体を被験者に投与することを含む、癌の治療方法。
【0019】
本発明の治療方法において、前記複合体に含まれる核酸としては、例えば抗腫瘍活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、腫瘍細胞特異的な遺伝子発現のための遺伝子キャリアとして用い得るカチオン性ポリマー、当該ポリマーと目的遺伝子の核酸とを含むポリマー−核酸複合体を提供することができる。
【0021】
本発明のポリマー−核酸複合体は、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージングや癌の治療(遺伝子治療)に簡便かつ有効に用い得るものである点で、癌の治療又は予防分野において、極めて実用性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カチオン性基質ペプチドを担持した親水性ポリマーとプラスミドDNAとの複合体形成および基質ペプチドがプロテインキナーゼにリン酸化されることによる正電荷減少とそれによる複合体の解離の模式図である。プロテインキナーゼCα(PKCα)応答型ポリマー1とネガティブコントロールとなるポリマー2の化学構造(アミノ酸配列;それぞれ配列番号1及び配列番号2)は下に示した。
【図2】(a) 複合体のマイクロインジェクションから24時間後、B16皮膚がん細胞でのGFPの発現を示す図である。赤および緑色はそれぞれテキサスレッドとGFP。スケールバー、10μm。(b) 複合体[正電荷/負電荷(C/A)比]の導入から24時間後、B16皮膚がん細胞でのルシフェラーゼの発現を示す図である。エラーバーは三度の実験に対する標準偏差を示したものである。**、P <0.01。(c) ポリマー1と2、それぞれの複合体(C/A比 2.0) を局所投与してから24時間後の正常皮下組織およびB16担がんマウスでのルシフェラーゼ活性を示したイメージを示す図である。総マウスに対してルシフェラーゼ発現が確認できたマウスの個体数は下に示した。矢印および丸印はそれぞれ複合体の投与部位と担がんマウスでのがん組織を示している。
【図3】がん細胞、がん組織、および正常組織の抽出液によるペプチド1のリン酸化反応の結果を示す図である。リン酸化率はマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS) の結果より算出した。エラーバーは三度行った実験の平均に対する標準偏差である。
【図4】合成したポリマーの細胞に対する毒性実験の結果を示す図である。細胞はポリマー(0 から30 μg/mL)およびリポフェクタミン2000 (10 μg/mL)の存在下あるいは非存在下で、48穴シャーレ上で24時間培養した。C/A比 2.0でのポリマー濃度は10 μg/mL以下である。細胞生存率(%)は非処理のコントロール細胞に対する処理した細胞の吸光度で標準化したものである。エラーバーは三度行った実験の平均に対する標準偏差である。
【図5】(a) PKCαの酵素反応開始後、ポリプレックス分散に対する相対散乱強度の変化を示す図である。(b) 複合体形成後、カップルド−エンザイムアッセイによるペプチドのリン酸化反応の追跡の結果を示す図である。酵素反応は複合体とPKCαとの混合液にATP添加することで開始し、その時を0分とした。複合体の電荷(C/A) 比は2.0とした。
【図6】マイクロインジェクションしたB16メラノーマ細胞でのGFP強度(n=8)の測定結果を示す図である。GFP強度はGFP発現に対するAdobe Photoshop 6.0ソフトウェアの分析によって得た。阻害剤、Ro31-7549; NS, 有意でない; *, P < 0.001。
【図7】(a) 複合体のマイクロインジェクションから24時間後、HuH-7細胞でのGFP発現の結果を示す図である。赤と緑の色はそれぞれテキサスレッドとGFPによるものである。スケールバー、10μm。(b)マイクロインジェクションしたHuH-7細胞でのGFP強度(n=8)の測定結果を示す図である。GFP強度はGFP発現に対するAdobe Photoshop 6.0ソフトウェアの分析によって得られた。阻害剤、Ro31-7549; *, P < 0.0005。 (c) 複合体(C/A比 2.0)の導入から24時間後、HuH-7細胞でのルシフェラーゼ発現の結果を示す図である。エラーバーは三度の実験に対する標準偏差を示したものである。阻害剤、Ro31-7549; **, P < 0.05。
【図8】複合体またはリポフェクタミン2000 (10μg/mL)とpDNA、それぞれの導入から24時間後、B16皮膚がん細胞でのルシフェラーゼ発現(C/A比 1.0および2.0)の結果を示す図である。エラーバーは三度の実験に対する標準偏差を示したものである。阻害剤、Ro31-7549; *, P < 0.05; **, P < 0.01。
【図9】複合体の導入から24時間後、皮膚およびB16皮膚がん組織でのルシフェラーゼ活性(C/A比2.0)の測定結果を示す図である。エラーバーは三度の実験に対する標準偏差を示したものである。*, P < 0.05。
【図10】正常皮膚およびB16がん組織の抽出物のウエスタンブロッティングの結果を示す図である。pPKCαはセリン657残基がリン酸化された活性型PKCαを示したものである。ウエスタンブロッティングの結果から活性型PKCαのレベルは正常皮膚組織よりB16皮膚がん組織で高かった。したがって、B16メラノーマ担癌マウスをモデルマウスとして用いた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

1.本発明の概要
本発明の目的は、疾病細胞特異的なSTPs(疾病細胞内で活性化されているシグナル伝達酵素)に選択的に応答し、かつ、細胞透過能を持つ遺伝子送達システムを開発することである(図1参照)。本発明者は、ほとんど全ての癌種で異常発現し、正常組織では発現していないプロテインキナーゼCα(PKCα)を癌細胞の標的マーカーとして選択した。一般的に、あるキナーゼに対して、優れた選択性と感度を持つ基質ペプチドの探索は、非常に難しいと考えられている。特に、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリーには多数のアイソザイムが存在するため、PKCα選択的基質の探索は極めて困難であった。本発明者は、コンピュータプログラム(スキャンサイト) に基づき、1,700以上もの候補ペプチドを持つライブラリーを作製し、その中からH-FKKQGSFAKKK-NH2(配列番号1)というアミノ酸配列を有するペプチド(以下、ペプチド1)がPKCαに対する最良の選択性と感度を示すことを見出した(図1参照)。
【0024】
本発明者は、種々の癌細胞株を用いて癌細胞内のPKCαに対する基質ペプチドの反応性を調べたところ、使用したすべての癌細胞株の抽出液は高いリン酸化率を示した。一方、PKCα選択的阻害剤の存在下では、リン酸化反応はほぼ抑制された。これらの結果から、ペプチド1はPKCαに対する特異性を有していることが示された。さらに、移植した癌組織より作製した抽出液からも高いリン酸化率が得られたが、正常組織の抽出液によるリン酸化率は極めて低かった。これらの結果から、ペプチド1は癌細胞および組織に対する選択的かつ高感度な基質であることが示された。
【0025】
本発明者は、ペプチド1と、ネガティブコントロールペプチド(ペプチド1中のリン酸化部位であるセリン(Ser)をアラニン(Ala)に置換したもの;以下、ペプチド2)とを、それぞれ別に、親水性ポリマーに担持(結合)させて生成したカチオン性ポリマー1及び2を合成した。次いで、種々の正電荷/負電荷(C/A) のチャージ比で、カチオン性ポリマー1及び2と、プラスミドDNA(pDNA)との複合体を調製した。複合体の平均粒径はC/A比によらず一定サイズ以下(200 nm以下)であった。複合体のゼータ電位値はC/A比の増加に伴い増加した。また、上記カチオン性ポリマーは、細胞毒性を全く示さなかった。
【0026】
次に、本発明者は、上記複合体中のペプチドがリン酸化されることで、pDNAが解離できるかを、散乱光強度の変化を追跡することで確認したところ、ポリマー1を含む複合体では散乱光強度の急激な減少がみられ、この減少は、340 nm(A340) の吸光度の減少(ATPの消費を意味する) と経時的に一致した。一方、ポリマー2を含む複合体では散乱光強度とA340の変化は確認できなかった。これらの結果から、ペプチド1がリン酸化されることで、ポリマー1の正味の正電荷が減少(+5から+3)し、複合体中のポリマー1とpDNAとの静電相互作用が弱体化して、pDNAが解離することが示された。
【0027】
次に、本発明者は、細胞内に存在するPKCαに応答してpDNAが解離されるのか、さらに、解離されたpDNAによって遺伝子発現は起こるのかを確認するため、ポリマー1及び2とGFPをコードするpDNAとの複合体をPKCαが過剰発現されているB16皮膚癌細胞へ直接マイクロインジェクションしたところ、ポリマー2を用いた場合は、GFPの発現はC/A比2.0で完全に抑えられた。一方、ポリマー1を用いた場合は、複合体からはGFPの発現が観察できた(図2(a)参照)。さらに、PKCα選択的阻害剤の存在下では、ポリマー1を用いた複合体でも遺伝子発現は抑制された(図2(a)参照)。これらの結果は、細胞内PKCαによる酵素反応を引き金となり、ポリマー1の複合体の遺伝子発現が活性化されたことを示している。この結果は、HuH-7(ヒト由来肝臓癌)細胞を用いた実験でも同様に確認できた。
【0028】
さらに、上記複合体のトランスフェクション能を確認するため、ルシフェラーゼをコードするpDNAを用いて実験を行ったところ、トランスフェクション実験においても上記マイクロインジェクション実験と類似の結果が得られた(図2(b)参照)。すなわち、ポリマー1を用いた複合体(C/A比2.0)の方が、ポリマー2を用いた複合体より高いルシフェラーゼ発現量を示した(図2(b)参照)。したがって、高い正のゼータ電位を持つ複合体は膜透過が可能であることが確認された。
【0029】
次に、本発明者は、動物モデル(in vivo)での評価も行った。B16皮膚癌細胞をマウス皮内に投与して作製した担癌マウスモデルを用い、ポリマー1及び2とルシフェラーゼをコードするpDNAとの複合体(C/A比2.0)を担癌マウスおよび正常皮内組織へ直接投与した後、生体用発光イメージャーにより遺伝子発現を評価した(図2(c)参照)。ポリマー1を用いた複合体を正常皮下組織へ投与すると全てのマウスからルシフェラーゼ活性は確認できなかったが、担癌マウスへ投与すると半数以上の癌組織(6/9)からルシフェラーゼ活性が確認できた(図2(c)参照)。一方、ポリマー2を用いた複合体の場合は、正常皮下組織へ投与しても、担癌マウスへ投与しても、ルシフェラーゼ活性は確認できず、遺伝子発現が完全に抑えられた。また、活性型PKCαのレベルは正常皮膚組織よりB16皮膚癌組織で高かった。これらの結果から、ポリマー1を用いた複合体は、癌細胞内のPKCα活性に応答し、癌細胞選択的な遺伝子発現が可能であることが明らかとなった。
【0030】
以上の通り、本発明は、腫瘍細胞特異的な遺伝子発現のためにプロテインキナーゼ活性を応用した遺伝子デリバリーシステムを見出した。腫瘍細胞の死滅を目的とする癌の遺伝子治療では、正常細胞での外来遺伝子の発現は極力避けるべきであるが、当該システムは、腫瘍細胞選択的かつ安全な遺伝子治療が実現できる点で、極めて有用なものである。また、当該システムは、従来一般的に、疾病部位ターゲッティング法としてよく利用されるレセプター介在型遺伝子送達や、pDNAプロモーターの改良などの技術との融合が可能であり、さらに一層選択性及び安全性を高めることもできる。

2.カチオン性ポリマー−核酸複合体
(1)カチオン性ポリマー
本発明のカチオン性ポリマーは、前述した通り、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチド部分と、親水性ポリマー部分とを含むものである。
【0031】
上記ペプチド部分は、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となるアミノ酸配列、及びカチオン性を与えるアミノ酸残基を含有してなるペプチドであり、その他、当該酵素の基質となるアミノ酸配列とカチオン性を与えるアミノ酸残基とを結合させるリンカーとなるアミノ酸配列や、親水性ポリマー部分の骨格に結合するためのリンカーとなる配列を有してもよい。ここで、腫瘍細胞特異的に発現する酵素としては、プロテインキナーゼCα(PKCα)が好ましく挙げられる。また、カチオン性を与えるアミノ酸残基としては、例えば、塩基性アミノ酸残基に含まれるもの、具体的にはリジン、アルギニン及びヒスチジンが挙げられ、中でもリジン及びアルギニンが好ましい。さらに、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となるアミノ酸配列としては、標的とする酵素(PKCα)により選択的に認識されるものであり、認識箇所又はその近傍においてリン酸化されるものが好ましい。結果として、標的とする酵素の作用(リン酸化)により、ペプチド全体(ひいてはカチオン性ポリマー全体)のカチオンの一部又は全部が中和されることになればよい。
【0032】
上記ペプチドの長さは、特に限定はされないが、例えば、10〜50アミノ酸残基程度が好ましく、より好ましくは10〜30アミノ酸残基、さらに好ましくは10〜20アミノ酸残基である。
【0033】
上記ペプチドとしては、そのアミノ酸配列は、特に限定はされないが、アミノ酸の一文字表記で、FKKQGSFAKKK(配列番号1)で示されるアミノ酸配列を含むペプチドが好ましく、当該配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドが、PKCαに対する選択性及び感度が高く、より好ましい。また、上記ペプチドとしては、当該配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(例えば1〜5個程度、好ましくは1〜3個程度、より好ましくは1〜2個程度)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むものであって、腫瘍細胞特異的に発現する酵素(特にPKCα)の基質となるアミノ酸配列及びカチオン性を与えるアミノ酸残基を含有してなるペプチドも好ましく挙げられる。ここで、当該配列番号1で示されるアミノ酸配列中、セリン残基(S)は、PKCαにより特異的かつ選択的に認識されるために特に重要なアミノ酸であるため、上記欠失又は置換の対象残基ではないことが好ましい。
【0034】
上記ペプチドは、従来公知の各種自動ペプチド合成装置等により、目的のアミノ酸配列を有するように適宜調製することができる。
【0035】
上記親水性ポリマー部分は、本発明のカチオン性ポリマーの骨格構造を担うものであり、親水性(水溶性)のポリマーであればよく、特に制限はされないが、生体内において格別の生理活性を持っていないものや、生体親和性を有するものが好ましい。また、当該親水性ポリマーは、前述したペプチド部分を結合(好ましくはグラフト結合)させて使用する態様が好ましいため、当該ペプチドを結合することができる何らかの官能基を有するものが好ましい。当該親水性ポリマーとしては、具体的には、例えば、アクリル酸系ポリマーやメタクリル酸系ポリマーが好ましく例示できるが、限定はされず、後述する核酸等の長さや分子量又は細胞への親和性などを考慮して適宜選択することができる。また、当該親水性ポリマーは、ホモポリマーでもコポリマーでもよいし、コポリマーの場合はブロックコポリマーでもランダムコポリマーでもよく、限定はされない。なお、当該親水性ポリマーにおいて、不溶性の物質に前記ペプチドが結合されている場合には、親水性の高分子を形成できるモノマー成分を使用することにより、ポリマー全体として親水性となるように設計してもよい。
【0036】
本発明のカチオン性ポリマーとしては、限定はされないが、下記一般式(I)で示される構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
上記式(I)中、Rは、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチドを表すが、当該ペプチドの説明については前述した通りである。ここで、上記式(I)で示される本発明の複合体としては、下記一般式(I')で示される構造を有するものがさらに好ましいものとして挙げられる。

【0039】
【化3】


【0040】
また、上記式(I)及び式(I')中、mは50〜99(好ましくは60〜99、より好ましくは70〜99、さらに好ましくは80〜99)の整数を表し、nは1〜50(好ましくは1〜40、より好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜20)の整数を表す。
【0041】
さらに、上記式(I)及び式(I')中、「/」の表記は、その左右に示された各モノマー単位の配列順序が任意であることを意味する。例えば、A及びBというモノマー単位から構成され、[−(A)m―/―(B)n−]と表記されている場合は、m個のAとn個のBとからなる合計(m+n)個の各モノマー単位が、ランダムにどのような並び順で連結していてもよいことを意味する。但し、すべてのA及びBは、直鎖状に連結しているものである。
【0042】
上記親水性ポリマー、及び当該ポリマーに上記ペプチド部分を結合させた本発明のカチオン性ポリマーは、例えば後述する実施例に示す方法など、従来公知の合成方法を用いて適宜調製することができる。具体的には、上記親水性ポリマーとしてアクリル酸−メタクリル酸共重合体を用いる場合は、上記ペプチドのN末端でメタクリル酸をアミド化し、N-ペプチドメタクリル酸としたものと、アクリル酸アミドとを共重合して、本発明のカチオン性ポリマーを合成する方法が好ましく挙げられる。この合成方法の概要を、以下のスキームに示す。

【0043】
【化4】

【0044】
(2)核酸
本発明で用いられる核酸としては、全体としてアニオン性を示すものであればよく、限定はされず、例えば、DNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴDNA及びsiRNA等が好ましく挙げられるが、DNA、特にプラスミドDNAが好ましい。
【0045】
なお、本発明においては、必要に応じ、上記核酸と共に、又は上記核酸に代えて、他の高分子量又は低分子量の「アニオン性物質」を用いることもできる。具体的には、全体としてアニオン性を示す物質(マイナス電荷を搭載したものも含む)であればよく、蛍光タンパク質(GFP等)や酵素等の各種生理活性タンパク質や、ペプチド、ペプチドホルモン、あるいは分子内に荷電性官能基を有する低分子物質(水溶性化合物)等を適宜同様に用いることもできる。

(3)カチオン性ポリマー−核酸複合体
本発明の複合体は、前述した通り、カチオン性ポリマーと核酸とを含む、ポリマー−核酸複合体である。なお、本発明においては、前述したように、カチオン性ポリマーとの組合せとして、核酸と共に又は核酸の代わりに、高分子量又は低分子量の「アニオン性物質」を用いる態様も、核酸の場合と同様に提供され得る(以下同様)。
【0046】
本発明の複合体における複合化の態様としては、限定はされないが、カチオン性ポリマーと核酸とが静電的相互作用により結合したものが好ましい。
【0047】
本発明のカチオン性ポリマーは、カチオン性のペプチド部分を有するものであるため、核酸等と、静電相互作用による強固なイオンコンプレックスを形成して、安定な複合体として使用することができる。本発明の複合体は、腫瘍細胞や腫瘍組織における特定のシグナル応答に対応した酵素(PKCα)の作用(リン酸化)により、特異的にペプチド部分にマイナス電荷が付与されることで、カチオン性を喪失又は低減する。これにより、イオンコンプレックスの構造が崩壊し、核酸等が開放され得る。イオンコンプレックスを形成していた際には、例えば、遺伝子の転写に必要なタンパク質が当該核酸に接近できず遺伝子の転写発現が抑制されていたが、上記のように核酸等が開放されることにより、遺伝子の転写に必要なタンパク質が当該核酸に接近できるようになり、遺伝子の転写が活性化される。この機能を利用することにより、本発明のカチオン性ポリマー−核酸複合体は、以下に述べる各種用途に用いることができる。

3.腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法
本発明は、前述したカチオン性ポリマー−核酸複合体を、被験者(癌患者若しくは健常者)に投与する、又は被験細胞若しくは被験組織(被験者から採取したもの等)に添加することを含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法を提供することができる。
【0048】
本発明のイメージング方法においては、上記複合体に用いる核酸として、各種蛍光タンパク質など蛍光イメージング技術において用いられる各種タンパク質をコードするDNAを用いることができ、好ましくはGFP(緑色蛍光タンパク質)若しくはルシフェラーゼ又はその誘導体をコードするDNAである。なお、具体的なイメージング装置については、特に限定はされず、従来蛍光イメージング技術において汎用されている装置等を適宜組合せて用いることができる。
【0049】
なお、本発明においては、前述したカチオン性ポリマー−核酸複合体を含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング用デバイス又はキットを提供することもできる。

4.癌の治療用医薬組成物
本発明は、前述したカチオン性ポリマー−核酸複合体を含む、癌の治療用医薬組成物を提供することができる。
【0050】
本発明の医薬組成物においては、上記複合体に用いる核酸として、公知の抗腫瘍活性を有する各種タンパク質をコードするDNAを用いることができる。
【0051】
上記複合体は、前述した通り、腫瘍細胞及び腫瘍組織に対して極めて特異的かつ選択的に核酸を送達することができるため、本発明の医薬組成物は、他の正常細胞に悪影響を与えることなく(すなわち副作用を伴うことなく)、癌の治療効果を発揮することができる。
【0052】
なお、本発明においては、前述したカチオン性ポリマー−核酸複合体を被験者(癌患者)に投与することを含む、癌の治療方法も提供することができる。患者への投与形態は、経口投与であっても非経口投与(静注)であってもよく限定はされず、また投与量等は、患者の年齢、体重、性別、病態等の各種事情を考慮し、適宜設定することができる。

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
<癌細胞特異的な遺伝子発現のための遺伝子キャリア等の調製>
1.ペプチドの合成
ペプチドおよびペプチドマクロモノマーを、APEX 396 Multiple Peptide Synthesizer (Advanced ChemTch社, アメリカ) を用い、Fmoc法にて合成した。具体的には、下記のペプチド1及びペプチド2を合成した(いずれもアミノ酸の一文字表記で示した;図1参照)。
【0054】
H-FKKQGSFAKKK-NH2 (配列番号1)
H-FKKQGAFAKKK-NH2 (配列番号2)
得られた粗ペプチドはエレクトロスプレーイオン化質量分析装置を搭載した逆相液体クロマトグラフィー[Waters Alliance HPLC system にMicromass Platform IIを接続、Phenomenex LUNA C18カラム(2.1 x 50 mm)]を用いて精製した。展開溶媒は0.1%のトリフルオロ酢酸を含んだアセトニトリル、超純水を用い、流速を3.0 mL/minとした。精製したペプチドを凍結乾燥し、白色固体を得た。MALDI TOF-MS(PerSeptive Biosystems社)にて目的物であることを確認した。

2.細胞、組織抽出物によるペプチドのリン酸化反応
細胞抽出物の調製は以下の手順で行った。種々の細胞(1 x 107個) を0.2 mLの緩衝溶液[250 mM スクロース、CompleteTMプロテアーゼ阻害剤カクテル(EDTAなし) (Roche社) を含む20 mM Tris-HCl (pH 7.5)]で均質化した。10秒間超音波処理し、5,000 x g、4℃で15分間遠心した後、上清をペプチドのリン酸化反応に使用した。正常および癌組織の抽出物の調製は以下の手順で行った。マウスから取出した組織を1 mLの緩衝溶液[250 mM スクロース、CompleteTMプロテアーゼ阻害剤カクテル(EDTAなし) (Roche社) を含む20 mM Tris-HCl (pH 7.5)] で均質化し、900 x g、4℃で10分間遠心した後、上清を捨てた。沈殿物を1 mLの上記緩衝溶液加え、遠心し洗浄した。新たに1 mLの緩衝溶液を添加し、30秒間超音波処理し、5,000 x g、4℃で15分間遠心した後、上清をペプチドのリン酸化反応に使用した。抽出物中のタンパク質濃度はBio-Rad Protein Assay Dye reagent(BIO-RAD Laboratories社)をおよび、標準サンプルとしてウシ血清アルブミンを用い決定した。リン酸化反応は以下の条件で行った。30μM ペプチド、10 mM MgCl2、100μM ATP、200μg/mL タンパク質(抽出物中)、20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、総体積30μLに混合後、37℃で60分間インキュベートした。リン酸化率はMALDI-TOF MSの結果から算出した。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS) の測定は、“J.-H. Kang et al, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2007, vol. 18, p. 106-112.”に記載の方法に従い行った。この結果を、図3に示した。

3.ペプチド結合型親水性ポリマー(カチオン性ポリマー)の合成
当該ポリマーの合成は、次のように行った。アクリアミド(27.3 mg, 385μmol)と基質ペプチド(8.0 mg, 5.9μmol)とを純水に溶解し、窒素ガスの存在下で5分間バブリングした。これに、過硫酸アンモニウム(2.6 mg, 11.4μmol)とテトラメチレン-エチレンジアミン(3.4μl, 22.6μmol)を添加して重合した。溶液を透析膜(分画分子量50,000)に入れ、純水で透析を行った後、凍結乾燥して白色の目的ポリマーを得た。具体的には、前記ペプチド1を結合させた親水性ポリマーを、カチオン性ポリマー1(単にポリマー1と言うことがある)として調製し、前記ペプチド2を結合させた親水性ポリマーを、カチオン性ポリマー2(単にポリマー2と言うことがある)として調製した。ポリマー1及びポリマー2におけるペプチドの導入率(mol%)は元素分析の結果から算出した。ポリマー1及びポリマー2の分子量はゲルろ過クロマトグラフィー(GPC) から算出した。GPC分析は2本のカラム(TSKgel G5000PWXL, TSKG6000PWXL)を搭載したShimadzu GPC systemにて行った。0.1 M NaNO3を含んだ0.5 M酢酸緩衝液(pH 4.1)を展開溶媒、流速0.45 mL/min、ポリエチレンオキシドを標準物質としてGPC測定および分子量を決定した。これらの結果を以下の表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
4.プラスミドDNA
ホタルルシフェラーゼをコードし、CMVプロモーターを持つpCMV-lucプラスミドDNA(pDNA)を、“T. Kawano et al., J. Control. Release, 2006, vol. 111, p. 382-389.”に記載の方法に従って調製した。また、GFPをコードし、CMVプロモーターを持つpEGFP-C1 pDNAは、Clontech Laboratries社から購入した。

5.カチオン性ポリマーとpDNAとの複合体の調製
当該複合体は、超純水中で様々な電荷比(C/A = 0.5, 1.0, 2.0) (50μg pDNA/mL)になるようにポリマー(ポリマー1及びポリマー2)水溶液と、pDNA(pCMV-lucあるいはpEGFP-C1)水溶液とを混合し、室温で15分間静置することで調製した。得られた複合体水溶液を緩衝溶液で希釈し、それぞれの実験に用いた。

6.複合体のゼータ電位、粒子径の測定
複合体のゼータ電位、粒子径の測定はZetasizer(Malvern Instruments社、UK) を用いて行った。測定はHe/Neレーザーを用い、検出角度173度、温度25℃とした。pDNAの最終濃度は10 mM Tris-HCl緩衝溶液(pH 7.5) で5μg/mLに調製した。これらの結果を以下の表2に示した。
【0057】
【表2】

【実施例2】
【0058】
<癌細胞で異常亢進しているプロテインキナーゼCαの利用>
1.プロテインキナーゼC(PKC)αに応答した複合体の崩壊挙動の追跡
PKCαによるリン酸化に応答した複合体(実施例1の5項で調製した複合体;以下同様)の崩壊はZetasizerの散乱光強度を追跡することで確認した。複合体水溶液を以下の測定溶液に希釈した(15μL); 25.6 nM ペプチド、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、100μM ATP、2.0 mg/mL DAG、2.5μg/mL PS、1 ng/mL PKCα、10 mM HEPES (pH 7.3)。反応は25℃でPKCα添加することで開始した。この結果を、図5(a)に示した。

2.カップルドエンザイムアッセイによる複合体のリン酸化反応の追跡
複合体形成時の側鎖ペプチドのリン酸化反応の追跡はカップルドエンザイムアッセイにて行った。複合体水溶液を以下の測定溶液に希釈した(100μL); 32μM ペプチド、1 mM phosphoenolepyruvate、nicotinamide adenine dinucleotide (NADH)、1 U/μL lactate dehydrogenase (LDH)、4 U/μL pyruvate kinase、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、100μM ATP、2.0 mg/mL DAG、2.5μg/mL PS、1 ng/mL PKCα、10 mM HEPES (pH 7.3)。反応は25℃でPKCα添加することで開始した。NADHの消費量はSPR-8 temperature controller ペルチエ(Shimazdu社)を搭載した可視/紫外域スペクトロメーター(UV-2550, Shimazdu社、日本)にて340 nmの吸光度変化から算出した。この結果を、図5(b)に示した。

3.ポリマーの細胞毒性評価
細胞毒性の評価は4-[3-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-2-(4-nitrophenyl)-2H-5-tetrazolio]-1,3-benzene disulfonate sodium saltを含むWST-1 cell counting kit(DOJINDO Labolatories社、熊本、日本) を用いて行った。HuH-7肝臓癌細胞およびB16皮膚癌細胞を48穴シャーレに培養し、ポリマー(ポリマー1及びポリマー2;0〜30μg/mL)あるいはリポフェクタミン2000(10μg/mL)を添加し24時間インキュベートした。それぞれのウェルの培地を、WST-1を含んだ新しい培地に交換し、3時間インキュベート後、440 nmの吸光度を測定した。細胞生存率(%)は未処理の細胞(コントロール細胞) と処理した細胞の吸光度から算出した。この結果を、図4に示した。

4.マイクロインジェクション実験
HuH-7肝臓癌細胞およびB16皮膚癌細胞を6穴シャーレに24時間培養した。これらの培養細胞に、0.5μm ± 0.2μmのインジェクションピペットを搭載したマイクロインジェクション装置CELLINJECTOR CI-2000(Fujitsu社、日本) を用いて、複合体の細胞内への導入実験を行った。Pi = 30-50 hPa、Pc = 8 hPaで、複合体を細胞質へ導入した。複合体水溶液をTE緩衝液(pDNA: 100 ng/μL) で希釈し、テキサスレッド修飾したデキストラン(1 mg/mL) と混合した。導入24時間後、GFPの発現を蛍光顕微鏡で観察した。阻害剤実験は、マイクロインジェクションする6時間前に1μM Ro31-7549を含んだ培地で処理して行った。GFP強度の測定は、それぞれのグループから8個の細胞を選択した。GFP強度の算出は0から255の範囲でAdobe Photoshop 6.0 softwareを用いて行った。この結果を、図6、図7(a)及び図7(b)に示した。

5.複合体の細胞へのトランスフェクション
HuH-7肝臓癌細胞およびB16皮膚癌細胞を6穴シャーレに24時間培養した。24時間後、複合体のOpti-MEM溶液(Gibco社) (C/A =1.0, 2.0; pDNA 2.5μg/mL) 500μLを添加した。また、同様の条件で阻害剤Ro31-7549を添加したサンプルも行った。さらに、リポフェクタミン2000 (10μg/mL)とpDNA (2.5μg/mL)の複合体もB16細胞にトランスフェクションした。37℃で6時間インキュベート後、ペニシリン(100 U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、アンポテリシンB(0.25μg/mL)、10% FBS(血清) を含むDMEM培地に交換し、さらに24時間インキュベートした。細胞を剥離し、200μLの溶解緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH 7.2, 0.05% トリトン-X 100、2 mM EDTA)で細胞を溶解した。サンプルを10,000 x g、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。得られた上清10μLと40μLのルシフェリン基質を混合し、化学発光をMiniLumant LB 9506(EG & G Berthold社、Wildbad、Germany)で測定し、relative luminescent units(RLU) /mg total proteinで示した。この結果を、図7(c)及び図8に示した。

6.ウエスタンブロティング
細胞抽出液の調製は以下の手法で行った。細胞(5 x 106個) に溶解緩衝液[20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.15 M NaCl、1% Nonidet P-40、2 mM EDTA、50 mM NaF、0.2 mM Na3VO4、CompleteTMプロテアーゼ阻害剤カクテル(EDTAなし) (Roche社)]を添加し、氷上で15分間静置することで細胞抽出液を調製した。細胞抽出液を遠心し不溶性物質を取除き、抗PKCα抗体(Cell Signaling社)、抗リン酸化PKCα抗体(Ser657) (UPSTATE社)、抗アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いてイミュノブロティングを行い、化学発光にてタンパク質を可視化した。正常皮膚組織およびB16皮膚癌組織の抽出液の調製は以下の手法で行った。それぞれの組織をマウスから取出し、1 mLの緩衝溶液[CompleteTMプロテアーゼ阻害剤カクテル(EDTAなし) (Roche社) を含む20 mM Tris-HCl (pH 7.5)]で均質化した。10秒間超音波処理し、5,000 x g、4℃で15分間遠心した後、上清をペプチドのリン酸化反応に使用した。正常および癌組織の抽出物の調製は以下の手順で行った。マウスから取出した組織を1 mLの緩衝溶液[250 mM スクロース、CompleteTMプロテアーゼ阻害剤カクテル(EDTAなし) (Roche社) を含む20 mM Tris-HCl (pH 7.5)] で均質化し、900 x g、4℃で10分間遠心した後、上清を捨てた。沈殿物を1 mLの上記緩衝溶液加え、遠心し洗浄した。新たに1 mLの緩衝溶液を添加し、30秒間超音波処理し、5,000 x g、4℃で15分間遠心した後、上清をウエスタンブロティングに使用した。この結果を、図10に示した。

7.動物実験
動物実験は九州大学の動物実験ガイドラインを遵守し行った。本実施例ではオス、5週齢のBALB/cマウスを使用した。100μLのHank's balanced salt solution(Gibco社) にB16皮膚癌細胞 1 x 107個を懸濁し、皮膚組織に移植した。癌組織は約8 mmまで成長させて使用した。複合体水溶液を20 mM Tris-HCl緩衝溶液 (pH 7.5) (pDNA 1.0μg/mL)に希釈した。この複合体溶液(100μL) をB16皮膚癌組織、正常組織に局所投与した。24時間後、マウスに麻酔をかけ、15 mg/mL D-ルシフェリンのリンゲル溶液300μLを腹腔投与した。化学発光を冷却C4742-98-26G02 CCDカメラ(Hamamatsu Photonics Systems社)で検出し、コントラストおよび明度をAdobe Photoshop 6.0 softwareで分析した。なお化学発光の収光時間は10分間とした。
【0059】
化学発光を検出後、トランスフェクションしたマウス3匹(C/A = 2.0) のルシフェラーゼ活性を測定した; ポリマー1を導入した担癌マウスの場合、ルシフェラーゼ発現が確認されたものを用いた。マウスを安楽死させ、皮膚および癌組織を取出した。次に、1 mLの溶解緩衝液(100 mM Tris-HCl, pH 7.2, 0.05% トリトン-X 100、2 mM EDTA)で細胞を溶解した。サンプルを10,000 x g、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。得られた上清10μLと40μLのルシフェリン基質を混合し、化学発光をMiniLumant LB 9506(EG & G Berthold社、Wildbad、Germany)で測定し、relative luminescent units(RLU) /mg total proteinで示した。この結果を、図9に示した。
【配列表フリーテキスト】
【0060】
配列番号1:合成ペプチド
配列番号2:合成ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチド部分と、親水性ポリマー部分とを含む、カチオン性ポリマー。
【請求項2】
前記酵素がプロテインキナーゼCαである、請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
前記ペプチドが塩基性アミノ酸残基を含むものである、請求項1又は2記載のポリマー。
【請求項4】
前記塩基性アミノ酸がリジン及び/又はアルギニンである、請求項3記載のポリマー。
【請求項5】
前記親水性ポリマーに前記ペプチドが複数結合したものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項6】
前記結合がグラフト結合である、請求項5記載のポリマー。
【請求項7】
前記ペプチドのアミノ酸配列が、FKKQGSFAKKK(配列番号1)で示されるアミノ酸配列を含むものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項8】
下記一般式(I):
【化5】


〔式(I)中、Rは、腫瘍細胞特異的に発現する酵素の基質となり且つカチオン性を有するペプチドを表す。mは50〜99の整数を表し、nは1〜50の整数を表す。「/」の表記は、その左右に示された(m+n)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕
で示される構造を有するものである、請求項1記載のポリマー。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のカチオン性ポリマーと核酸とを含む、ポリマー−核酸複合体。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーと前記核酸とが静電的相互作用により結合したものである、請求項9記載の複合体。
【請求項11】
前記核酸がDNA、RNA、PNA及びsiRNAからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9又は10記載の複合体。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合体を含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング用デバイス。
【請求項13】
前記複合体に含まれる核酸が、GFP若しくはルシフェラーゼ又はその誘導体をコードするDNAである、請求項12記載のデバイス。
【請求項14】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合体を、被験者に投与する又は被験細胞若しくは被験組織に添加することを含む、腫瘍細胞又は腫瘍組織のイメージング方法。
【請求項15】
前記複合体に含まれる核酸が、GFP若しくはルシフェラーゼ又はその誘導体をコードするDNAである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合体を含む、癌の治療用医薬組成物。
【請求項17】
前記複合体に含まれる核酸が、抗腫瘍活性を有するタンパク質をコードするDNAである、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合体を被験者に投与することを含む、癌の治療方法。
【請求項19】
前記複合体に含まれる核酸が、抗腫瘍活性を有するタンパク質をコードするDNAである、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−158522(P2012−158522A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101391(P2009−101391)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年1月21日http://jstshingi.jp/kyushu/index.html、2009年1月21日http://jstshingi.jp/kyushu/program.html、2009年1月21日http://jstshingi.jp/abst/2008/kyushu/program.html#5、2009年3月11日http://jstshingi.jp/abst/p/08/835/kyushu5.pdf、2008年10月17日http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja805364s、2008年10月18日http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18928283?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(細胞対話型分子システムを用いる革新的遺伝子送達概念の創製)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適応を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】