説明

ポリマー、ポリマーの製造方法、光学材料用樹脂組成物、成形体、光学材料およびレンズ

【課題】高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性を有する樹脂材料を提供すること。
【解決手段】脂肪族多環構造を有する繰り返し単位を含むポリマーであって、前記繰り返し単位内において主鎖を構成する原子から酸素1原子または硫黄1原子を介して前記脂肪族多環構造が結合しており、かつ、前記繰り返し単位がスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有していることを特徴とするポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環含有ポリマー、該ポリマーの製造方法、並びに該ポリマーを用いた光学材料用樹脂組成物、成形体、光学材料およびレンズに関する。特に、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性を有する光学材料およびレンズと、それを製造するための樹脂材料に関する。本発明は、例えば眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ等の光学部品に応用できる。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂材料はガラスに比べて軽量性、耐衝撃性、成形性に優れ、かつ経済的である等の長所を有している。このため、近年ではレンズ等の光学部品においても、樹脂による光学ガラスの代替化が進んでいる。
【0003】
代表的な透明熱可塑性樹脂材料としてポリカーボネート樹脂があり、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)を原料としたものは、透明性に優れているうえにガラスに比べて軽く、耐衝撃性に優れ、溶融成形が可能であるため大量生産が容易である等の特徴から、多くの分野において、光学部品として応用が図られている。しかし、屈折率は1.58程度と比較的高い値を有しているものの、屈折率の分散性の程度を表すアッベ数が30と低く、屈折率と分散特性とのバランスが悪く、光学部品を構成する樹脂として、その用途が限られているのが現状である。例えば光学部品の代表例である眼鏡レンズは、視覚機能を考慮すると眼鏡レンズ素材のアッベ数は40以上が望ましいことが知られており(非特許文献1)、ビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂をそのまま使用しても所望の特性を得ることは難しい。
【0004】
また、非特許文献2によると、撮像機器の光学系内で発生する収差には、球面収差、コマ収差、非点収差、歪曲収差、像面収差といった単色収差と色収差がある。特に、色収差が大きくなると色にじみが大きくなり、カラー画像としての画質が極端に低下する。この色収差補正は、高屈折率レンズとアッベ数の大きいレンズを組み合わせた、組み合わせレンズによって改善できることが記載されている。
【0005】
アッベ数の大きい光学樹脂材料として全炭化水素からなる環状オレフィン樹脂が知られている。環状オレフィン樹脂は、アッベ数が50〜57程度とある程度高い値を示すが、屈折率は1.50〜1.53程度に過ぎない。近年の携帯機器の軽量化、小型化の観点で更なる高屈折率を有する材料が求められていることから、環状オレフィン樹脂より優れた樹脂が必要とされている。
【0006】
硫黄原子を含む樹脂として、例えば特許文献1には、硫黄原子を環骨格の構成原子として含む脂肪族環状オレフィンをメタセシス重合したポリマーが記載されている。このポリマーを用いれば、1.58〜1.59の比較的高い屈折率を実現できるが、アッベ数は低く50以上を達成することができなかった。また、この文献には、スルホニル基を環骨格の構成基として導入することについては何も記載されていなかった。
一方、特許文献2には、スルホニル基を有する複素環骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルを樹脂材料として用いれば、高屈折率で高アッベ数を有するレンズを提供しうることが記載されている。このポリマーは1.51〜1.52の屈折率を示し、60〜61のアッベ数を示すが、吸水率が高いために実用性に劣るという問題があった。
このため、従来は硫黄原子を含む樹脂を用いても、高屈折性、高アッベ数、低吸水性のすべてを達成することはできなかった。
【0007】
一方、本発明のポリマーに近い構造を有するものとして、幾つかのポリマーが提案されている。
例えば、特許文献3には、官能基で置換されていてもよい脂肪族多環オレフィンと極性ビニルオレフィンとを共重合させたポリマーが記載されている。その官能基として種々の多岐にわたる官能基が記載されており、その中にスルホニルアルキル基が挙げられている。しかしながら、スルホニルアルキル基を有するポリマーの合成例や物性値はまったく記載されていないうえ、この文献にはレンズに応用できることも記載されていない。また、スルホニル基を環骨格の構成基として含むものではないことから、ポリマーの構造も異なる。
特許文献4および5には、多環式オレフィンを重合させた樹脂が記載されている。この樹脂を用いれば、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性を実現できることが記載されている。しかしながら、この文献にはスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環含有ポリマーについては記載されていない。また、特許文献4では無機微粒子と混合して用いることが要求されており、特許文献5ではフッ素原子で置換された多環ポリマーを用いることが要求されており、いずれも使用態様に制限があった。さらに、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性のすべてを満たす樹脂材料を提供するという観点では、なお改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−9178号公報
【特許文献2】国際公開第2006/075646号パンフレット
【特許文献3】特表2008−519882号公報
【特許文献4】特開2010−77280号公報
【特許文献5】特開2010−145959号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】季刊化学総説No.39 透明ポリマーの屈折率制御 日本化学会編
【非特許文献2】プラスチックレンズの技術と応用、シーエムシー出版(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、従来提供されている樹脂材料は、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性のいずれかに問題があるか、ポリマーの構造や使用態様に制限があるために、より実用性の高い新たな材料を開発することが必要とされている。このような従来技術の課題を考慮して、本発明者らは、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性のすべてを満足する新しい樹脂材料を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、本発明者らは、環骨格の構成基としてスルホニル基を含む脂肪族環を含んでいて、特徴的な構造を有する繰り返し単位を採用することにより、優れたポリマーを提供しうることを見出した。従来技術では、このような特徴的な繰り返し単位を有するポリマーはまったく提案されておらず、また、当該ポリマーが高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性のすべてを満足するものであることはまったく示唆されていなかった。本発明はこのような予想外の知見に基づいてなされたものであり、以下の態様を包含するものである。
[1] 脂肪族多環構造を有する繰り返し単位を含むポリマーであって、前記繰り返し単位内において主鎖を構成する原子から酸素1原子または硫黄1原子を介して前記脂肪族多環構造が結合しており、かつ、前記繰り返し単位がスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有していることを特徴とするポリマー。
[2] 前記スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環が、前記脂肪族多環構造の一部を構成する環であることを特徴とする[1]に記載のポリマー。
[3] 前記スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環が、前記脂肪族多環構造に連結基を介して結合していることを特徴とする[1]に記載のポリマー。
[4] 前記繰り返し単位内において前記主鎖を構成する原子と前記脂肪族多環構造とを連結する基が、エーテル基、チオエーテル基またはスルホニル基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のポリマー。
[5] 脂肪族環構造を有する繰り返し単位も含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のポリマー。
[6] 前記脂肪族環構造を有する繰り返し単位が、フッ素原子、酸素原子または硫黄原子を含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のポリマー。
[7] 前記脂肪族多環構造を有する繰り返し単位が後掲の一般式(1)で表されることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のポリマー。
[8] 前記脂肪族多環構造を有する繰り返し単位が後掲の一般式(2a)または後掲の一般式(2b)で表されることを特徴とする[7]に記載のポリマー。
[9] 前記一般式(2a)のnおよび前記一般式(2b)のnがともに0であり、前記一般式(2a)のXおよび前記一般式(2b)のXがともにメチレン基(−CH2−)であることを特徴とする[8]に記載のポリマー。
[10] 前記一般式(1)で表される繰り返し単位の他に、後掲の一般式(21)で表される繰り返し単位も含むことを特徴とする[7]〜[9]のいずれか一項に記載のポリマー。
[11] 一般式(21)のnが0であり、Xがメチレン基(−CH2−)であり、かつ、R21〜R24、R29、R30の少なくとも1つはフッ素原子またはフッ化アルキル基であるか或いはR21〜R24のうちの2つ以上が互いに結合してフッ素原子、酸素原子または硫黄原子を含む環を形成していることを特徴とする[10]に記載のポリマー。
[12] 前記一般式(1)で表される繰り返し単位の他に、後掲の一般式(22a)または一般式(22b)で表される繰り返し単位も含むことを特徴とする[7]〜[11]のいずれか一項に記載のポリマー。
【0012】
[13] 後掲の一般式(31)で表される重合性モノマーを重合させることを特徴とするポリマーの製造方法。
[14] 前記一般式(31)で表される重合性モノマーとともに、後掲の一般式(41)で表される重合性モノマーも重合させることを特徴とする[13]に記載のポリマーの製造方法。
[15] 前記一般式(31)で表される重合性モノマーとともに、後掲の一般式(42a)または後掲の一般式(42b)で表される重合性モノマーも重合させることを特徴とする[13]または[14]に記載のポリマーの製造方法。
[16] [13]〜[15]のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるポリマー。
[17] 数平均分子量が1000〜500000である、[1]〜[12]、[16]のいずれか一項に記載のポリマー。
【0013】
[18] [1]〜[12]、[16]、[17]のいずれか一項に記載のポリマーを用いた光学材料用樹脂組成物。
[19] [1]〜[12]、[16]、[17]いずれか一項に記載のポリマーを用いた成形体。
[20] [1]〜[12]、[16]、[17]のいずれか一項に記載のポリマーを用いた光学材料。
[21] [1]〜[12]、[16]、[17]のいずれか一項に記載のポリマーを用いたレンズ。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリマーは、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性を備えている。このため、本発明のポリマーを用いれば、これらの性質を備えた成形体、光学材料、レンズ等を提供することが可能である。また、本発明の製造方法によれば、本発明のポリマーを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明のポリマー、光学材料用樹脂組成物、成形体、光学材料、レンズについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[ポリマー]
本発明のポリマーは、脂肪族多環構造を有する繰り返し単位を含むポリマーであって、前記繰り返し単位内において主鎖を構成する原子から酸素1原子または硫黄1原子を介して前記脂肪族多環構造が結合しており、かつ、前記繰り返し単位がスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有していることを特徴とする。
【0017】
ここでいう「脂肪族多環構造」とは、2以上の非芳香族環が縮合(fuse)した構造を意味する。例えば、ビシクロ環構造、トリシクロ環構造、テトラシクロ環構造、ペンタシクロ環構造、ヘキサシクロ環構造などを挙げることができ、ビシクロ環構造、トリシクロ環構造、テトラシクロ環構造が好ましく、ビシクロ環構造、トリシクロ環構造がより好ましい。脂肪族多環構造を構成する各脂肪族環は通常3〜12原子からなる環骨格を有しており、環骨格の構成原子数は4〜10原子であることが好ましく、5〜8原子であることがより好ましく、5〜7原子であることがさらにより好ましく、5または6原子であることが特に好ましい。環骨格を構成する原子の総数は通常6〜20原子であり、6〜15原子であることが好ましく、6〜13原子であることがより好ましく、7〜12原子であることがさらにより好ましい。環骨格を構成する原子として、例えば、炭素原子、硫黄原子、酸素原子、窒素原子を挙げることができ、炭素原子、硫黄原子、酸素原子が好ましく、炭素原子、硫黄原子がより好ましい。また、環骨格を構成する原子の少なくとも1つはスルホニル基を構成する硫黄原子であることが好ましい。
【0018】
環骨格の具体例として、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格、ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格、トリシクロ [5.2.1.02,6]デカン骨格、トリシクロ [6.2.1.02,7]ウンデカン骨格、トリシクロ [6.2.2.02,6]ウンデカン骨格、トリシクロ [7.2.2.02,7]ドデカン骨格、テトラシクロ[7.2.1.02,7.03,6]ドデカン骨格、テトラシクロ[7.2.2.12,7.03,6]ドデカン骨格、テトラシクロ[7.2.2.23,6.02,7]トリデカン骨格であって、環骨格を構成する炭素原子がスルホニル基を構成する硫黄原子に置換された構造を挙げることができる。
【0019】
本発明のポリマーでは、脂肪族多環構造の環骨格を構成する原子とは別の原子がポリマーの主鎖を構成している。ポリマーの主鎖を構成する原子は、炭素原子であることが好ましい。繰り返し単位内で主鎖を構成する原子の数は、2〜4原子が好ましく、2原子がより好ましい。主鎖を構成する原子と脂肪族多環構造とは、酸素1原子または硫黄1原子を介して結合している。結合に係る基は、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、スルホニル基(−SO2−)であることが好ましい。
【0020】
本発明のポリマーでは、脂肪族多環構造を有する繰り返し単位が、スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有している。ここでいうスルホニル基は、脂肪族多環構造の環骨格の構成基として含まれていてもよいし、脂肪族多環構造に結合している置換基の一部または全部を構成する脂肪族環の環骨格の構成基として含まれていてもよい。本発明では、スルホニル基が脂肪族多環構造の環骨格の構成基として含まれている態様が好ましい。
スルホニル基が脂肪族多環構造の環骨格の構成基として含まれている場合、環骨格におけるスルホニル基の位置は特に制限されない。したがって、ポリマーの主鎖を構成する原子が含まれている環(環構成原子数が最小の環)にスルホニル基が含まれていても良いし、ポリマーの主鎖を構成する原子が含まれている環(環構成原子数が最小の環)以外の環にスルホニル基が含まれていてもよい。好ましいのは、ポリマーの主鎖を構成する原子が含まれている環(環構成原子数が最小の環)以外の環にスルホニル基が含まれている場合であり、例えば、ポリマーの主鎖を構成する原子が含まれている環(環構成原子数が最小の環)から最も離れている環の骨格を構成基する基としてスルホニル基が含まれている場合を挙げることができる。脂肪族環の環骨格に含まれるスルホニル基の数は、1〜3個であることが好ましく、1〜2個であることがより好ましく、1個であることがさらに好ましい。
スルホニル基が、脂肪族多環構造に結合している置換基の一部または全部を構成する脂肪族環の環骨格の構成基として含まれている場合も、スルホニル基の位置は特に制限されない。この場合、スルホニル基を骨格構成基として含む環は、脂肪族多環構造に対して単結合で結合していてもよいし、アルキレン基やアリーレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、スルホニル基を骨格構成基として含む環と脂肪族多環構造とがスピロ構造を形成していてもよい。スルホニル基を骨格構成基として含む環は、単環構造であってもよいし、多環構造であってもよい。スルホニル基を骨格構成基として含む環の具体例として、テトラヒドロチオフェン 1,1−ジオキシド環、7−チアビシクロ[2.2.1]ヘプタン 7,7−ジオキシド環などを挙げることができる。
【0021】
脂肪族多環構造を有する繰り返し単位に含まれる環構造には、種々の置換基を置換することができる。例えば、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜12、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜3のものであり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜12、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜3であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜12、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜3であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる。)を挙げることができる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。本発明では、特にアルキル基やハロゲン原子で置換されている場合が好ましく、ハロゲン化アルキル基やハロゲン原子で置換されている場合がより好ましく、パーフルオロアルキル基やフッ素原子で置換されている場合がさらに好ましい。
【0022】
本発明のポリマーを構成する、上記の脂肪族多環構造を有する繰り返し単位の構造例として、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位を挙げることができる。
【化1】

【0023】
一般式(1)において、R1〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R1〜R13のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。置換基としては、上記のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基を例示することができる。これらの置換基は更に置換されてもよく、置換基が二つ以上ある場合は、同じであっても異なっていてもよい。R1〜R13は、下記の(条件1)〜(条件3)の少なくとも1つを満足する。
(条件1)R1〜R4の少なくとも1つが、スルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を有する置換基である。
(条件2)R1とR2、もしくはR3とR4が互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
(条件3)R1,R2のいずれかとR3,R4のいずれかが互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
スルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環については、上で説明した通りである。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−)、チオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表す。L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表す。nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR6、2つのR7、2つのR8はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。nは0または1であるのが好ましく、0であるのがより好ましい。
【0024】
一般式(1)で表される繰り返し単位の中では、R2とR3が互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む構造を形成しているものを好ましい例として挙げることができる。そのような構造の中でも特に下記の一般式(2a)または一般式(2b)で表される構造を有する繰り返し単位が好ましい。
【化2】

【0025】
一般式(2a)および一般式(2b)において、R1、R4〜R14はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R1、R4〜R14のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。置換基としては、上記のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基を例示することができる。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−)、チオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表す。L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表す。nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR6、2つのR7、2つのR8はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。nは0または1であるのが好ましく、0であるのがより好ましい。特に、nが0であってXがメチレン基であるものを好ましい繰り返し単位として挙げることができる。
【0026】
一般式(1)〜(2b)のいずれかで表される繰り返し単位の具体例を以下に例示する。ただし、本発明で採用することができる繰り返し単位の範囲は、これらの例示によって限定的に解釈されることはない。
【0027】
【化3】

【0028】
本発明のポリマーには、上記の条件を満たす繰り返し単位が1種だけ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、本発明のポリマーには、上記の条件を満たさない繰り返し単位が含まれていてもよい。本発明のポリマーにおける上記の条件を満たす繰り返し単位の割合は、通常10〜100重量%であり、20〜100重量%であることが好ましく、30〜100重量%であることがより好ましい。
【0029】
上記の条件を満たさない繰り返し単位として、種々の繰り返し単位を選択することが可能であるが、なかでも環状構造を有する繰り返し単位や、ハロゲン原子やハロゲン化アルキル基を含む繰り返し単位を好ましく採用することができる。例えば、下記の一般式(21)で表される繰り返し単位を例示することができる。
【化4】

一般式(21)において、R11〜R13、R21〜R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R11〜R13、R21〜R30のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。置換基としては、上記のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基を例示することができる。これらの置換基は更に置換されてもよく、置換基が二つ以上ある場合は、同じであっても異なっていてもよい。X,Y,Z、L11、nの定義と好ましい範囲は一般式(1)と同じである。
【0030】
一般式(21)で表される繰り返し単位の中では、nが0であり、Xがメチレン基(−CH2−)であり、かつ、R21〜R24、R29、R30の少なくとも1つはフッ素原子またはフッ化アルキル基であるか或いはR21〜R24のうちの2つ以上が互いに結合してフッ素原子、酸素原子または硫黄原子を含む環を形成しているものが好ましい。
【0031】
その他の繰り返し単位として、下記の一般式(22a)または一般式(22b)で表される構造を有する繰り返し単位も好ましい例として挙げることができる。
【化5】

一般式(22a)および一般式(22b)において、R11〜R13、R31〜R38はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R11〜R13、R31〜R38のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例と好ましい範囲は一般式(21)と同じである。X,Y,Z、L11、nの定義と好ましい範囲は一般式(11)と同じである。
【0032】
一般式(21)〜(22b)のいずれかで表される繰り返し単位の具体例を以下に例示する。ただし、本発明で採用することができる繰り返し単位の範囲は、これらの例示によって限定的に解釈されることはない。
【0033】
【化6】

【0034】
[ポリマーの製造方法]
本発明のポリマーは、本発明のポリマーを構成する繰り返し単位に対応する重合性モノマーを重合することにより合成することができる。例えば、下記の一般式(31)で表される重合性モノマーを重合させる本発明の製造方法によれば、本発明のポリマーを簡便に製造することができる。
【化7】

一般式(31)において、R1〜R10,X,Y,nの定義と好ましい範囲は一般式(1)と同じである。環骨格構成基としてスルホニル基を含む一般式(31)の重合性モノマーは、公知の合成方法を組み合わせて適宜合成することができる。例えば、環骨格構成基としてチオエーテル基を含む化合物にペルオキソ硫酸水素カリウムを作用させてチオエーテル基をスルホニル基に酸化する方法などを挙げることができる(J. Org. Chem. 1985, 50, 1544-1545参照)。
【0035】
前記一般式(31)で表される重合性モノマーの重合法として、通常のエチレン性不飽和結合を有するモノマーの重合法で用いられている重合条件を適宜選択し組み合わせて採用することができる。
【0036】
本発明の製造方法では、一般式(31)で表される重合性モノマーとともに、種々の重合性モノマーを共重合させることができる。そのような共重合可能な重合性モノマーとして、好ましいものとして下記の一般式(41)〜(42b)で表されるものを例示することができる。
【化8】

一般式(41)において、R21〜R30,X,Y,nの定義と好ましい範囲は一般式(21)と同じである。Qは酸素原子または硫黄原子である。
【0037】
【化9】

一般式(42a)および一般式(42b)において、R31〜R38,X,Yの定義と好ましい範囲は一般式(22a)および一般式(22b)と同じである。
【0038】
[光学材料用樹脂組成物]
本発明の光学材料用樹脂組成物は、上記の本発明のポリマーを含む組成物である。すなわち、脂肪族多環構造を有する繰り返し単位を含むポリマーであって、前記脂肪族多環構造の環骨格を構成する2以上の原子が前記ポリマーの主鎖を構成しており、かつ、前記繰り返し単位がスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有しているポリマーを含有することを特徴とする光学材料用樹脂組成物である。本発明の光学材料用樹脂組成物は、本発明のポリマーとして1種のみを単独で含んでいてもよいし、2種以上を混合して含んでいてもよい。
【0039】
本発明の光学材料用樹脂組成物には、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、熱安定剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本発明の光学材料用樹脂組成物に含まれる本発明のポリマーの割合は40〜100重量%であることが好ましく、60〜100重量%であることがより好ましく、80〜100重量%であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の成形体は、ガラス転移温度が70℃以上であることが好ましく、80〜300℃であることがより好ましく、100〜270℃であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することが、光学部品へ用いる観点から好ましい。前記光線透過率は、厚み1mm換算で70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることを特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が50%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、光学材料用樹脂組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0042】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、屈折率nDが1.54以上であることが好ましく、1.55以上であることがより好ましく、1.57以上であることが特に好ましい。また、本発明の光学材料用樹脂組成物は、レンズ用途に用いるときに色収差を低減する観点から、アッベ数νDが50以上であることが好ましく、52以上であることがより好ましく、55以上であることが特に好ましい。本明細書におけるアッベ数νDは、波長589nm、486nm、656nmにおけるそれぞれの屈折率nD、nF、nCを測定することで、下記式(A)により算出される。
【数1】

【0043】
本発明の光学材料用樹脂組成物の吸水率は、本発明のポリマーを含んでいるために低くすることができる。本発明でいう吸水率は、粉末状の試料を、恒温恒湿室で調湿した後、カールフィッシャー法により測定したものである。本発明の光学材料用樹脂組成物の吸水率は1.8以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.1以下であることがさらに好ましい。
【0044】
[成形体]
本発明の光学材料用樹脂組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。 本発明の光学材料用樹脂組成物は、溶媒を用いてキャスト成形して成形体を得ることもできるが、溶媒を用いずに固体状態で射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
また本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上であることが好ましい。最大厚みは、好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは1〜3mmである。これらの厚みを有する成形体は、高屈折率の光学部品として特に有用である。このような厚い成形体は、溶液キャスト法で製造しようとしても溶剤が抜けにくいため一般に容易ではない。しかしながら、本発明の光学材料用樹脂組成物を用いれば成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に実現することができる。このように、本発明によれば、高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する成形体を得ることができる。
【0045】
[光学部品]
本発明の成形体は、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、光学材料用樹脂組成物の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かかる光学部品を備えた光学機能装置としては、例えば、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0046】
また、光学機能装置に用いられる前記パッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0047】
[レンズ]
本発明の光学材料用樹脂組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の光学材料用樹脂組成物を用いて製造されたレンズ基材は、高アッベ数であって、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、光学材料用樹脂組成物を構成するモノマーの種類を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0048】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0049】
以下において製造例、実施例、比較例および試験例を挙げて、本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
(製造例1)
メタンスルホン酸3−メタンスルホニルオキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−イルメチル(1)の合成
【化10】

温度計、2つの滴下ロート、窒素導入環を装着し、スターラーチップを入れた100mL三口フラスコに脱水ピリジン23mLを入れて窒素置換した後、内温0℃まで冷却した。窒素フロー下で、一方の滴下ロートに塩化メタンスルホニル8.2g(71.3mmol)を充填し、フラスコの内温が0℃を超えないように注意しながら1時間かけて滴下した後、0℃で1時間撹拌した。他方の滴下ロートに、脱水ピリジン20mLに溶解させた5−ノルボルネン−2−エキソ−3−エキソ−ジメタノール5.0g(32.4mmol)を充填し、反応液を5℃に保ちながら5時間かけて滴下した後、0℃で15時間撹拌した。反応液を5%塩酸水溶液に再沈し、析出した茶色固体を吸引ろ過で回収した。回収固体を水800mLで2回洗浄した後、真空下、50℃で8時間乾燥させ、エタノール250mLで再結晶を行い、化合物(1)の白色固体8.45gを得た(収率83.7%)。
【0051】
(製造例2)
4−チアトリシクロ [5.2.1.02,6]デカ−8−エン(2)の合成
【化11】

温度計、還流管、100mL滴下ロートを装着し、スターラーチップを入れた200mL三口フラスコに、製造例1で合成した化合物(1)と無水メタノールを入れて窒素置換した後、還流して溶解させた。ここで、硫化ナトリウム九水和物21.2g(88.4mmol)と水51mLの混合物を滴下ロートを通じて1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間還流した後、反応液を室温まで冷却し、酢酸エチルで抽出した。有機層を10%水酸化ナトリウム水溶液100mLで洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた後、ろ過して硫酸マグネシウムを除去し、ろ液をロータリーエバポレーターで乾燥させた。ヘキサンを展開溶媒としてシリカゲルクロマトグラフィー精製を行い、化合物(2)の無色透明液体3.49gを得た(収率58.0%)。
【0052】
(製造例3)
4−チアトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン 4,4−ジオキシド(3)の合成
【化12】

温度計、窒素導入管を装着した空冷環、100mL滴下ロートを装着し、スターラーチップを入れた200mL三口フラスコに、製造例2で合成した化合物(2)2.3g(15.1mmol)と無水メタノール60mLを入れ、0℃まで冷却した。オキソン(登録商標:2KHSO5・KHSO4・K2SO4)13.9g(22.7mmol)と、水 60mLを混合した水溶液を滴下ロートを通じて滴下した後、0℃で4時間撹拌した。反応系に水50mLを加えた後、塩化メチレンで抽出し、亜硫酸ナトリウム水溶液、水、塩水でそれぞれ洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過して硫酸マグネシウムを除去し、ろ液をロータリーエバポレーターで乾燥させた。酢酸エチル/ヘキサン=1/1を展開溶媒として、シリカゲルクロマトグラフィー精製を行い、化合物(3)の白色結晶1.33gを得た(収率47.8%)。
【0053】
(製造例4)
4−チア−8−ヒドロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン 4,4−ジオキシド(4)の合成
【化13】

温度計、窒素導入管を装着した空冷管、セプタプラバーを装着し、攪拌子を入れた200mL三口フラスコに、化合物(3)5.0g(27.1mmol)、テトラヒドロフラン9.0mLを入れ、0℃まで冷却した。0℃で攪拌を行いながら、三フッ化ホウ素−テトラヒドロフランコンプレックス10mLを滴下し、0℃で1時間攪拌した。30%過酸化水素水溶液9.3g、3mol/L水酸化ナトリウム水溶液27mLを添加した後、内温を50℃まで加熱し、1時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、塩化メチレンで抽出を行った後、塩水で洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過して硫酸マグネシウムを除去し。ろ液をロータリーエバポレーターで乾燥させた。酢酸エチル/ヘキサン=1/1を展開溶媒としてシリカゲルクロマトグラフィー精製を行い、化合物(4)の無色透明オイル状物質4.5gを得た(収率82.3%)。
【0054】
(製造例5)
4−チア−8−ビニルオキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン 4,4−ジオキシド(M−1)の合成
【化14】

温度計、窒素導入管を装着した空冷管、平栓を装着し、攪拌子を入れた200mL三口フラスコにブチルビニルエーテル58.2mL(450mmol)、パラジウムトリフルオロアセタート37.5mg(0.11mmol)、4,7−ジフェニルフェナントロリン37.5mg(0.11mmol)を入れ、室温で攪拌した。化合物(4)4.5g(22.2mol)、トリエチルアミン2.2mLを添加し、75℃で13時間攪拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、活性炭でろ過を行い、触媒を除去した。酢酸エチル/ヘキサン=1/1を展開溶媒としてシリカゲルクロマトグラフィー精製を行い、化合物(M−1)の無色透明オイル状物質3.5gを得た(収率72.3%)。
【0055】
製造例1〜5で合成した各化合物は、以下の実施例においてポリマーを合成する際の原料として必要に応じて使用した。
【0056】
(実施例1)
ポリマー(P−1)の合成
【化15】

窒素導入管、滴下ロート、温度計を装着し、撹拌子を入れた300mL三口フラスコを150℃のオイルバス中で15分間減圧乾燥し、室温まで冷却した後、乾燥窒素をフローしながら、化合物(M−1)5.0g、乾燥クロロホルム25mLを入れ、ドライアイス/メタノールバスへ浸し、撹拌しながら−78℃まで冷却した。ここへ、滴下ロートを用いて、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテルコンプレックス50.6μL、乾燥ジクロロメタン25mLの混合液を1時間かけて滴下した。−78℃で1時間撹拌した後、2Mアンモニア−メタノール溶液を添加し、中和した。反応液を室温まで戻した後、メタノール再沈を行い、沈殿固体をろ過・乾燥し、ポリマー(P−1)の白色固体1.26gを得た(収率25.1%)。
【0057】
(実施例2)
ポリマー(P−2)の合成
【化16】

化合物(M−1)2.3gと化合物(M−2)2.0gを用いて、実施例1と同様にして重合を行い、ポリマー(P−2)の白色固体を得た。
【0058】
(実施例3)
ポリマー(P−3)の合成
【化17】

化合物(M−1)2.3gと化合物(M−3)1.8gを用いて、実施例1と同様にして重合を行い、ポリマー(P−3)の白色固体を得た。
【0059】
(実施例4)
ポリマー(P−4)の合成
【化18】

化合物(M−4)2.8gを用いて、実施例1と同様にして重合を行い、ポリマー(P−4)の白色固体を得た。
【0060】
(実施例5)
ポリマー(P−5)の合成
【化19】

温度計、窒素導入管を装着した空冷環、100mL滴下ロートを装着し、スターラーチップを入れた200mL三口フラスコに、ポリマー(P−4)2.0g(7.3mmol)とメタノール30mL、クロロベンゼン30mLを入れ、0℃まで冷却した。オキソン(登録商標:2KHSO5・KHSO4・K2SO4)7.0g(11.3mmol)と水30mLを混合した水溶液を滴下ロートを通じて滴下した後、4時間還流しながら撹拌した。室温まで冷却した後、メタノールに再沈して、ポリマー(P−5)1.6gを得た(収率80.1%)。
【0061】
(比較例1)
ポリマー(P−7)の合成
【化20】

国際公開WO/075646号パンフレットに記載される方法に習い、化合物(M−6)5.0gを用いてラジカル重合を行うことにより、ポリマー(P−7)の白色固体を得た。
【0062】
(比較例2)
ポリマー(P−8)の合成
【化21】

特許第4136886号公報に記載される方法に習い、化合物(M−7)の重合を行うことにより、ポリマー(P−8)の白色固体を得た。
【0063】
(比較例3)
ポリマー(P−9)の合成
【化22】

特開2010−145959号公報の[0040]〜[0041]に記載される方法に従い、化合物(M−8)5.0gを用いて配位重合を行うことにより、ポリマー(P−9)の白色固体を得た。
【0064】
(比較例4)
ポリマー(P−10)の合成
【化23】

特開2010−77280号公報の[0090]〜[0091]に記載される方法に従い、化合物(M−9)6.4g,(M−10)6.4g,(M−11)1.1gを用いて配位重合を行うことにより、ポリマー(P−10)の白色固体を得た。
【0065】
(試験例1)
実施例1〜5と比較例1〜2で合成した各ポリマーの屈折率、アッベ数、ガラス転移温度(Tg)、光線透過率、吸水率を以下の方法にしたがって測定し、結果を表1に示した。
(1)屈折率
各ポリマーを加熱圧縮成形して厚さ200μmのフィルムを作製し、波長589nmの光を用いてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M2」)により測定した。
(2)アッベ数
各ポリマーを加熱圧縮成形して厚さ200μmのフィルムを作製し、波長486nm、589nm、656nmの光を用いてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M2」)により測定した結果に基づいて算出した。
(3)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、窒素中、昇温温度10℃/分の条件で測定した。
(4)光線透過率
測定するポリマーを成形して厚さ1.0mmの小片を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
(5)吸水率
各ポリマー200mgを粉末状に粉砕し、25℃/相対湿度60%の恒温恒湿室で24時間調湿した後、カールフィッシャー水分計(AQUACOUNTER AQV-2100、平沼産業(株)製、発生液:ハイドラナールアクアライトRS−A(シグマアルドリッチ)、対極液:アクアライトCN(関東化学))で2回測定し、平均値を求めた。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から明らかなように、本発明のポリマーは屈折率、アッベ数、Tg、光線透過率、吸水率のすべてにおいて満足しうるレベルにある(実施例1〜5)。比較例1〜4のポリマーは特に屈折率の点で劣るものであった。
【0068】
(実施例6)
ポリマー(P−6)の合成
【化24】

化合物(M−1)2.3gと化合物(M−6)2.6gを用いて、実施例1と同様にして重合を行い、ポリマー(P−6)の白色固体を得た。このポリマーは、実施例1〜5よりもアッベ数が高くて、吸水率が低いものであった。
【0069】
(実施例7)
ポリマー(P−2)の成形
実施例2で得られたポリマー(P−2)の粉末を加熱した金型に投入し、160℃で圧縮成形し、直径8mm、厚さ1mmのレンズ成形体を作製した。
ポリマーの溶融粘度が低い場合には溶融成形も可能であり、外径20mmの試験管に樹脂粉末を投入して過熱溶融後、冷却し、さらに切削、研磨してレンズ成形体とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のポリマーは、高屈折性、高アッベ数、高耐熱性、高光線透過率、低吸水性を示す。このため、本発明のポリマーは光学部材を始めとする各種成形体として有用である。また、本発明の製造方法によれば、本発明のポリマーを簡便に製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族多環構造を有する繰り返し単位を含むポリマーであって、前記繰り返し単位内において主鎖を構成する原子から酸素1原子または硫黄1原子を介して前記脂肪族多環構造が結合しており、かつ、前記繰り返し単位がスルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環を有していることを特徴とするポリマー。
【請求項2】
前記スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環が、前記脂肪族多環構造の一部を構成する環であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記スルホニル基を環骨格の構成基として含む脂肪族環が、前記脂肪族多環構造に連結基を介して結合していることを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
前記繰り返し単位内において前記主鎖を構成する原子と前記脂肪族多環構造とを連結する基が、エーテル基、チオエーテル基またはスルホニル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
脂肪族環構造を有する繰り返し単位も含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
前記脂肪族環構造を有する繰り返し単位が、フッ素原子、酸素原子または硫黄原子を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記脂肪族多環構造を有する繰り返し単位が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマー。
【化1】


[一般式(1)において、R1〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R1〜R13のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。ただし、下記の(条件1)〜(条件3)の少なくとも1つを満足する。
(条件1)R1〜R4の少なくとも1つが、スルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を有する置換基である。
(条件2)R1とR2、もしくはR3とR4が互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
(条件3)R1,R2のいずれかとR3,R4のいずれかが互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−)、チオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR6、2つのR7、2つのR8はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項8】
前記脂肪族多環構造を有する繰り返し単位が下記一般式(2a)または下記一般式(2b)で表されることを特徴とする請求項7に記載のポリマー。
【化2】


[一般式(2)および一般式(3)において、R1、R4〜R14はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R1、R4〜R14のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−)、チオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR6、2つのR7、2つのR8はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項9】
前記一般式(2a)のnおよび前記一般式(2b)のnがともに0であり、前記一般式(2a)のXおよび前記一般式(2b)のXがともにメチレン基(−CH2−)であることを特徴とする請求項8に記載のポリマー。
【請求項10】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位の他に、下記一般式(21)で表される繰り返し単位も含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のポリマー。
【化3】


[一般式(21)において、R11〜R13、R21〜R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R11〜R13、R21〜R30のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−),チオエーテル基(−S−),エーテル基(−O−),スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR26、2つのR27、2つのR28はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項11】
一般式(21)のnが0であり、Xがメチレン基(−CH2−)であり、かつ、R21〜R24、R29、R30の少なくとも1つはフッ素原子またはフッ化アルキル基であるか或いはR21〜R24のうちの2つ以上が互いに結合してフッ素原子、酸素原子または硫黄原子を含む環を形成していることを特徴とする請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位の他に、下記一般式(22a)または一般式(22b)で表される繰り返し単位も含むことを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項に記載のポリマー。
【化4】

[一般式(22a)および一般式(22b)において、R11〜R13、R31〜R38はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R11〜R13、R31〜R38のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−),チオエーテル基(−S−),エーテル基(−O−)のいずれかを表すが、XとYのいずれか一方はチオエーテル基(−S−)またはエーテル基(−O−)である。L11はチオエーテル基(−S−)、エーテル基(−O−)、スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表す。]
【請求項13】
下記一般式(31)で表される重合性モノマーを重合させることを特徴とするポリマーの製造方法。
【化5】


[一般式(31)において、R1〜R10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R1〜R10のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。ただし、下記の(条件1)〜(条件3)の少なくとも1つを満足する。
(条件1)R1〜R4の少なくとも1つが、スルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を有する置換基である。
(条件2)R1とR2、もしくはR3とR4が互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
(条件3)R1,R2のいずれかとR3,R4のいずれかが互いに結合してスルホニル基を環骨格構成基として含む脂肪族環を形成している。
X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−),チオエーテル基(−S−),エーテル基(−O−),スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR6、2つのR7、2つのR8はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項14】
前記一般式(31)で表される重合性モノマーとともに、下記一般式(41)で表される重合性モノマーも重合させることを特徴とする請求項13に記載のポリマーの製造方法。
【化6】


[一般式(41)において、R21〜R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R21〜R30のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−),チオエーテル基(−S−),エーテル基(−O−),スルホニル基(−SO2−)のいずれかを表し、nは0〜2の整数を表す。nが2であるとき、2つのY、2つのR5、2つのR26、2つのR27、2つのR28はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項15】
前記一般式(31)で表される重合性モノマーとともに、下記一般式(42a)または下記一般式(42b)で表される重合性モノマーも重合させることを特徴とする請求項13または14に記載のポリマーの製造方法。
【化7】



[一般式(42a)および一般式(42b)において、R31〜R38はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R31〜R38のうちの2つ以上が互いに結合して環を形成していてもよい。X,Yはそれぞれ独立にメチレン基(−CH2−),チオエーテル基(−S−),エーテル基(−O−)のいずれかを表すが、XとYのいずれか一方はチオエーテル基(−S−)またはエーテル基(−O−)である。]
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるポリマー。
【請求項17】
数平均分子量が1000〜500000である、請求項1〜12、16のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項18】
請求項1〜12、16、17のいずれか一項に記載のポリマーを用いた光学材料用樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1〜12、16、17のいずれか一項に記載のポリマーを用いた成形体。
【請求項20】
請求項1〜12、16、17のいずれか一項に記載のポリマーを用いた光学材料。
【請求項21】
請求項1〜12、16、17のいずれか一項に記載のポリマーを用いたレンズ。

【公開番号】特開2012−41481(P2012−41481A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185529(P2010−185529)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】