説明

ポリマーがいし

【課題】汚損湿潤条件下であっても部分放電を抑制でき、トラッキングやエロージョンの発生を抑制できるポリマーがいしを提供することである。
【解決手段】外被12は、機械的荷重を分担するFRPコア11を被覆するとともに絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための笠12A、12Bが形成されている。FRPコア11の端部に設けられた端子金具13は、鉄塔などの構造物や電線に接続される。そして、課電端側の端子金具から所定範囲において、笠径と胴径との比を2.87以下とした構造である。または、外被の表面のうち笠部を除く胴体部の全表面に半導電性処理を施した構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料として有機絶縁物を用いたポリマーがいしに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、がいしの絶縁材料としては磁器が用いられているが、軽量性や耐震性を考慮して有機絶縁物を用いたポリマーがいしも用いられるようになっている。図3は、従来の送電用のポリマーがいしの一例を示す構造図である。
【0003】
図3に示すように、ポリマーがいしは、機械的荷重を分担するFRP(Fiber-glass Reinforced Plastics)コア11と、FRPコア11を紫外線やオゾンなどから保護するゴム製の外被12と、鉄塔などの構造物や電線など充電部と接続するための端子金具13とから構成されている。そして、外被12の胴体部には、汚損湿潤時の絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための複数の長短の笠部12A、12Bが形成されている。笠部12Aは笠部12Bより出張長さが大きく形成されている。このようなポリマーがいしは軽くて衝撃に強く、外被のゴム表面の撥水性のため汚損湿潤時の絶縁特性に優れるなどの特徴を有している。
【0004】
ここで、外被に使用される高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物を改良し、過酷な大気汚染、塩害あるいは気候に晒された条件下でも、耐吸水性、耐候性、撥水性、防汚性、耐電圧性、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージョン性等の高電圧電気特性に優れたポリマー碍子を与えるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−180044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、外被12として、ゴムやエポキシ樹脂などの有機絶縁物を使っているため、紫外線やオゾン、水、放電などによる経年劣化が避けられない。特に、汚損湿潤時の放電による外被の劣化が懸念される。
【0007】
すなわち、外被12の表面に海塩などの汚損物が付着し湿潤すると、表面抵抗Rが下がり、課電下では漏れ電流Iが流れる。漏れ電流Iが流れると、ジュール熱RIが発生し湿潤した表面は乾燥するが、一様には乾燥せず、電流密度が高い胴部など乾燥し易い箇所と、電流密度が低い笠部などの乾燥し難い箇所が生じる。漏れ電流Iは課電端から接地端まで同じ電流が流れるので、乾いて抵抗の高い箇所で発生するジュール熱RIは、抵抗の低い他の部分より大きく、益々乾燥が進み、他の部分に比べ何桁も大きな抵抗になる。がいし全体に加わる電圧は、表面の抵抗分布に比例して分布するので、表面抵抗が高くなった乾燥帯の分担電圧は非常に高くなり、その部分の表面の空気の絶縁が破壊し部分放電が発生する。
【0008】
このような部分放電が発生すると、外被12の表面ゴムなどが酸素の不足した条件で過熱されることがあり、トラッキング(導電性の通路)が発生する。また、酸素が充分供給されているとエロージョン(絶縁性の侵食)などを引き起こす恐れがある。トラッキングが生じると、がいしの絶縁機能が失われ、エロージョンが生じ進展しFRPコア11が露出すると、脆性破壊によりがいしが離断する場合がある。
【0009】
本発明の目的は、汚損湿潤条件下であっても部分放電を抑制でき、トラッキングやエロージョンの発生を抑制できるポリマーがいしを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係るポリマーがいしは、機械的荷重を分担するFRPコアと、前記FRPコアを被覆するとともに絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための笠部が間隔を保って胴体部に形成された外被と、前記FRPコアの端部に設けられ鉄塔などの構造物や電線に接続される端子金具とからなり、課電端側の前記端子金具からの所定範囲において前記外被の笠部の径(笠径)と前記外被の胴体部の径(胴径)との比を2.87以下としたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明に係るポリマーがいしは、機械的荷重を分担するFRPコアと、前記FRPコアを被覆するとともに絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための笠部が形成された外被と、前記FRPコアの端部に設けられ鉄塔などの構造物や電線に接続される端子金具とからなり、前記外被の表面のうち前記笠部を除く胴体部の全表面に半導電性処理を施したこと特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明よれば、課電端側の端子金具から所定範囲において、笠径と胴径との比を2.87以下としたので、汚損湿潤条件下であっても部分放電電圧を高く保持できる。従って、放電を抑制できトラッキングやエロージョンの発生を抑制できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、外被の表面のうち前記笠部を除く胴体部の全表面に半導電性処理を施したので、外被表面のうち胴体部の電位分布の集中を緩和でき、これにより部分放電電圧を高く保持できる。従って、放電を抑制できトラッキングやエロージョンの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係るポリマーがいしの一例を示す構造図。
【図2】本発明の実施形態2に係るポリマーがいしの一例を示す構造図。
【図3】従来の送電用のポリマーがいしの一例を示す構造図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明に至った経緯について説明する。出願人は、同じ長さの送電用ポリマーがいしと磁器長幹がいしの表面に、同じシリコーンゴムを塗布し、人工加速劣化試験を行った。その結果、送電用ポリマーがいしが放電を発生し易く劣化し易いことを把握した。
【0016】
ポリマーがいしが劣化しやすい要因としては、胴径の違いと笠部形状の違いが考えられる。そこで、各種のポリマーがいし類と磁器がいし類とを用意し、全表面に同じシリコーンゴムを塗布し、人工加速劣化試験を行った。
【0017】
表1は、3種類のポリマーがいし(送電用ポリマーがいし、SPがいし(ステーションポストがいし)、ポリマーがい管)、2種類の磁器がいし(磁器エアロ長幹がいし、磁器JIS長幹がいし)の寸法及び形状を示した表である。
【表1】

【0018】
人工加速劣化試験の結果、同じ笠部形状、同じ外被材、同じ長さでも送電用ポリマーがいしのみが劣化し易いことが判った。
【0019】
表1に基づいて、放電を発生しやすい送電用ポリマーがいしが他のがいしと構造上異なる点を抽出することとした。その結果、送電用ポリマーがいしは他のがいしと比較して、胴径が細いという知見を得た。
【0020】
表1に示すように、送電用ポリマーがいしの笠径/胴径は4.08、SPがいしの笠径/胴径は2.34、ポリマーがい管の笠径/胴径は1.25、磁器エアロ長幹がいしの笠径/胴径は2.87、磁器JIS長幹がいしの笠径/胴径は2.00であり、放電を発生しやすい送電用ポリマーがいしの笠径/胴径は4.08であるのに対し、放電を発生し難い他のがいしの笠径/胴径は2.87以下である。
【0021】
そこで、本発明では、胴径を太くして、笠径/胴径の比を2.87以下にすることを検討するとともに、がいしの課電端に電位が集中し放電が発生し易いことを考慮に入れ、がいしの課電端への電位分布の集中を緩和することを検討した。
【0022】
以上の検討結果を踏まえ、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態1に係るポリマーがいしの一例を示す構造図である。この実施形態1に係るポリマーがいしは、図3に示した従来の送電用ポリマーがいしに対し、課電端側の端子金具13から所定範囲において、笠径と胴径との比を2.87以下としたものである。図3と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0023】
図1に示すように、送電用ポリマーがいしは両端に端子金具13を有する棒状がいしであり、図中の下側が電線を支持する課電端である。この課電端側の端子金具13から所定範囲において、胴径を太くし、笠径と胴径との比が2.87以下となるようにしている。これは、ポリマーがいしは棒状形状のため、電線を支持する課電端に電位が集中するので、課電端でも特に劣化が生じ易い胴部への、乾燥による更なる電位の集中を緩和するためである。
【0024】
このように実施形態1では、課電端胴部の電界を緩和すれば、ポリマーがいしの寿命を左右するような劣化を抑えることができると考え、送電用ポリマーがいしの課電端側の笠部12A、12Bの5ピッチ分(約30cm分)の胴径を、約26mmから約46mmにして、胴径に対する笠径の比を約2.3にした。笠径/胴径が約2.3である場合には、放電が発生し難いSPがいし(笠径/胴径2.34)や磁器エアロ長幹がいし(笠径/胴径2.87)より笠径/胴径が小さい値となっており、胴径が太くなっている。従って、放電を発生し難くできる。ここで、笠径/胴径の値は、本発明の実施の形態では、2.87以下とする。これは、部分放電が発生し難かった磁器エアロ長幹がいしの笠径/胴径2.87以下とするためである。
【0025】
図2は本発明の実施形態2に係るポリマーがいしの一例を示す構造図である。この実施形態2に係るポリマーがいしは、図3に示した従来の送電用ポリマーがいしに対し、外被の表面のうち笠部12A、12Bを除く胴体部の全表面に半導電性処理14を施したものである。図3と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0026】
図2に示すように、ポリマーがいしの外被の表面のうち、笠部12A、12Bを除く胴体部の全表面に半導電性処理14を施す。
【0027】
本発明の実施形態1、実施形態2、従来例の各ポリマーがいしについて、汚損湿潤条件下で部分放電試験を行い部分放電開始電圧を調査した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0028】
表2に示すように、従来の送電用ポリマーがいしでは電圧70kVで課電端において部分放電を開始した。実施形態1のポリマーがいしでは電圧120kVで胴径の細い箇所において部分放電を開始し、実施形態2のポリマーがいしでは電圧100kVで課電端半導電化処理端部において部分放電を開始した。
【0029】
このように、実施形態1の胴部太径化したポリマーがいしの場合は1.7倍以上となり、実施形態2の胴部半導電化したポリマーがいしの場合は1.4倍以上となり、優れた部分放電抑制効果が認められ、ポリマーがいしの劣化防止効果が確認できた。
【符号の説明】
【0030】
11…FRPコア、12…外被、12A、12B…笠部、13…端子金具、14…半導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的荷重を分担するFRPコアと、
前記FRPコアを被覆するとともに絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための笠部が間隔を保って胴体部に形成された外被と、
前記FRPコアの端部に設けられ鉄塔などの構造物や電線に接続される端子金具とからなり、
課電端側の前記端子金具からの所定範囲において笠径と胴径との比を2.87以下としたことを特徴とするポリマーがいし。
【請求項2】
機械的荷重を分担するFRPコアと、
前記FRPコアを被覆するとともに絶縁性能上必要な表面漏れ距離を確保するための笠部が形成された外被と、
前記FRPコアの端部に設けられ鉄塔などの構造物や電線に接続される端子金具とからなり、
前記外被の表面のうち前記笠部を除く胴体部の全表面に半導電性処理を施したこと特徴とするポリマーがいし。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−248525(P2012−248525A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122000(P2011−122000)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】