説明

ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料

【課題】従来技術と比べてより高い導電性を達成して維持する、銀ナノ粒子のポリマーへの配合方法に対する要求、およびそのような銀ナノ粒子を含有するポリマーに対する要求が存在する。
【解決手段】ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料であって、ポリマー材料と銀ナノ粒子の重量比が10:90〜50:50の範囲であることを特徴とするポリマー材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料に関する。そのような材料は、特に、電極としての使用に適している。とりわけ、本発明は、ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料であって、ポリマー材料と銀ナノ粒子の重量比が10:90〜50:50の範囲であるポリマー材料に関する。本発明は更に、そのようなポリマー材料の製造方法、およびポリマー基材と本発明のポリマー材料とを含んでなるポリマー積層複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁材料に導電性を与えるために、例えば、多くの導電性粒子(例えばカーボンブラックまたは金属ナノ粒子)が添加剤として使用されている。得られた材料が十分導電性かつ可撓性であれば、電気機械変換の種々の用途(例えばアクチュエーター技術または発電技術)における伸縮性電極として使用できる。
【0003】
例えば、S. R. Ghaffarianらによる刊行物"Electrode structures in high strain actuator technology"、Journal of Optoelectronics and Advanced Materials 2007, 9, 3585-3591は、グラファイト粉末、炭素入り導電性潤滑グリース、銀入り導電性潤滑グリース、および炭素入り導電性ゴムに基づく電極材料を調べている。
【0004】
高い導電性と環境条件に関する安定性との故に、銀を使用することが好ましい。銀ナノ粒子の製造方法は基本的に知られている。1つの方法は、液相中での溶解金属イオンの直接化学的還元である。そのような方法の変法では主に、反応条件、および反応を実施する方法が異なる。別の可能性は金属酸化物ナノ粒子の合成であり、該粒子を後の工程で還元する。
【0005】
ナノ粒子の凝集を回避するため、その合成の際にポリマー分散剤を添加できる。しかしながら、得られたナノ粒子をポリマーに配合する場合、該ポリマー分散剤の存在は常には望ましくない。更に、そのような分散剤は、ナノ粒子間の直接接触を必然的に低減または抑制するので、ナノ粒子含有系の導電性を低減させる。
【0006】
US 2010/0040863 A1は、そのような補助ポリマーを用いることなくナノ粒子を安定化するために、カルボン酸を添加することを提案している。詳細には、この特許出願は、銀塩、カルボン酸および第三級アミンを含んでなる混合物を加熱する、カルボン酸安定化銀ナノ粒子の製造方法を記載している。同方法では、溶媒および還元剤として、第三級アミンを使用している。同特許出願は更に、12個未満の炭素原子を有するカルボン酸を含有するナノ粒子が、12個超の炭素原子を有するカルボン酸を含有するナノ粒子より、有機溶媒中に溶解しにくいことも記載している。しかしながら、同文献に記載されている方法では、溶媒のコストに加えて、第三級アミンの使用によってもたらされる不快臭が明らかである。
【0007】
US 2009/0297829 A1は、ポリマー表面層の中にナノ粒子を形成するための金属塩の化学的還元を記載している。この特許出願は、ポリマー対象物表面層へのナノ粒子状金属の配合方法、および得られたポリマー対象物に関する。同方法は、対象物の少なくとも一部と、(a)水および(b)R−[−O−(CHOR[ここで、RおよびRは相互に独立に、直鎖または分枝C1〜8アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フェニル、或いはHであり、nの値は2または3であり、mの値は1〜35である。]で示されるキャリヤーを含有する溶媒混合物とを接触させる工程を含む。混合物は、(c)金属前駆体および任意に(d)均展剤も含有する。処理済み表面層を有する対象物を得るために、金属前駆体の少なくとも一部が対象物に入り込むのに十分な期間、該接触を実施する。その後、ナノ粒子状金属を得るために、還元剤で表面層を処理する。
【0008】
WO 2005/079 353 A2は、例えばバインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA)またはポリビニルブチラール(PVB)を含有する、マトリックス中に、銀ナノ粒子を含有するナノスケール金属ペーストであって、硝酸銀をクエン酸ナトリウムおよび硫酸鉄で還元して銀ナノ粒子を製造する、ナノスケール金属ペーストを開示している。金属ペーストは、銀ナノ粒子の凝集を防ぐことが意図された分散安定剤も含有する。そのような分散安定剤の例として、脂肪酸、魚油、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリアクリル酸およびポリスチレンスルホネートが挙げられている。そのような分散安定剤は、銀ナノ粒子の凝集を立体的に妨害する。XiaらによってAdv. Mater., 2003, 15, No. 9, 695-699に既に記載されているように、これらの立体分散安定剤は、得られる導電性被膜における銀粒子表面の被覆によって、粒子間の直接接触、従って被膜の導電性を低減するといった欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US 2010/0040863 A1
【特許文献2】US 2009/0297829 A1
【特許文献3】WO 2005/079 353 A2
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Electrode structures in high strain actuator technology
【非特許文献2】Journal of Optoelectronics and Advanced Materials 2007, 9, 3585-3591
【非特許文献3】Adv. Mater., 2003, 15, No. 9, 695-699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術と比べてより高い導電性を達成して維持する、銀ナノ粒子のポリマーへの配合方法に対する要求がなお存在する。そのような銀ナノ粒子を含有するポリマーに対する要求もまた存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料を提案する。ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料であって、ポリマー材料と銀ナノ粒子の重量比が10:90〜50:50の範囲であるポリマー材料が好ましい。銀含有量が90重量%を超えると、ポリマー材料の伸長性および引裂強さは急激に低下し、銀含有量が50重量%未満になると、ポリマー材料の導電性が急激に低下する。銀の含有量が70重量%未満になると、導電性が著しく低下し始め、50重量%で、導電性が非常に低くなるか、もはや測定不可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】応力−歪み曲線における電気抵抗変化を示す。
【図2】歪みの上昇に伴った比導電率変化を示す。
【図3】歪みの上昇に伴った別の比導電率変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、ポリマーと銀ナノ粒子の重量比は、好ましくは20:80〜30:70の範囲、特に好ましくは40:60〜45:55の範囲である。
【0015】
本発明では、銀ナノ粒子は、分散安定剤の存在下、分散媒中で、分散安定剤とは異なる還元剤で銀塩を還元することによって得られ、分散安定剤は、C1〜6カルボン酸、C1〜6カルボン酸塩、スルフェートおよび/またはホスフェートからなる群から選択される。
【0016】
ポリマー材料は特に、ポリマー電極の製造に適している。未伸長状態での本発明の材料の表面抵抗は、例えば、1Ω/sq〜5Ω/sq、または1.5Ω/sq〜5Ω/sqであり得る。標準規格ASTM D257−07を参照して測定できる。
【0017】
フィルム厚さに関して、未伸長状態での体積抵抗率は、例えば、0.0001Ωcm〜0.01Ωcm、または0.0002Ωcm〜0.0005Ωcmであり得る。標準規格ASTM D257−07を参照して測定できる。
【0018】
未伸長状態での比導電率は、例えば、300S/cm〜6000S/cm、2000S/cm〜5000S/cm、または3000S/cm〜4000S/cmであり得る。標準規格ASTM D257−07を参照して測定できる。
【0019】
用語「ポリマー」は、連鎖延長剤と反応して分子量を上昇させることができるプレポリマーも包含する。ポリマー分散体からポリマーを得ることが好ましい。
【0020】
本発明の意味において、ナノ粒子は特に、動的光散乱によって測定された、200nm未満、好ましくは100nm未満、特に好ましくは60nm未満のd50値を有する粒子である。例えば、Brookhaven Instrument Corporation製のZetaPlusゼータ電位分析器を、動的光散乱による測定のために使用できる。粒子は、好ましくは球状またはほぼ球状である。
【0021】
銀ナノ粒子の前駆体として適当な銀塩は、例えば、酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトネート、安息香酸塩、臭素酸塩、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、フッ化物、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、亜硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硫化物、および/またはトリフルオロ酢酸塩である。
【0022】
本発明によれば、銀ナノ粒子の製造において、分散安定剤および分散安定剤とは異なる還元剤が存在する。このことは、分散安定剤が、銀塩の還元に全く寄与しないかまたはほとんど寄与しないことを意味する。これは、酸化還元電位が分散安定剤の対応する電位よりかなり負であり、従って熱力学的理由で好ましい還元剤を用いることによって達成できる。別の方法は、動的阻害によるか、または分散安定剤より迅速に反応する還元剤の使用による。熱力学的態様および動的態様は、分散安定剤および還元剤の相対的割合によって、並びに選択した反応温度によって影響され得る。
【0023】
カルボン酸塩、好ましくは、モノカルボン酸塩、ジカルボン酸塩およびトリカルボン酸塩は、好適には、アルカリ塩またはアンモニウム塩、特に、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、或いはテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩またはテトラプロピルアンモニウム塩であり得る。
【0024】
記載したカルボン酸を分散安定剤として使用するならば、所望のpHに調整するために、アミンと一緒に使用することができる。適当なアミンは、モノアルキルアミン、ジアルキルアミンまたはジアルカノールアミン、例えば、ジエタノールアミンである。
【0025】
過剰の静電的分散安定剤は、既知の精製法(例えば、膜分離、逆浸透および膜濾過)によって除去することができる。
【0026】
静電的分散安定剤は、ポリマー分散剤を用いた場合のように、立体障害によって、望ましくない凝集に対して銀ナノ粒子を安定化するのではない。代わりに、静電斥力がナノ粒子間に作用し、粒子の凝集を促す引力であるファン・デル・ワールス力を弱める。粒子表面が立体的に作用する安定剤で被覆されないので、銀ナノ粒子およびそれから製造される材料は、より高い導電性を示すことができる。このようにして、WO 2005/079 353 A2の序論に記載されている欠点を解決する。別の重要な因子は、本発明では、C1〜6カルボン酸、C1〜6カルボン酸塩、スルフェートおよび/またはホスフェートからなる群から選択される分散安定剤とは異なる還元剤によって、銀塩を還元することである。選択される分散剤は、例えばクエン酸またはクエン酸塩であり、従って、実質的に、銀ナノ粒子の還元より分散をもたらす。
【0027】
このようにして得られた銀ナノ粒子の更なる利点は、対応してより高い導電性を有する、より大きい巨視的な構造への(アニールとして知られている)熱変換が、従来のナノ粒子と比べて著しく低い温度で起こり得ることである。他のナノ粒子に対する200℃超の温度と比べて、本発明の熱変換は、たった80℃で起こり得る。
【0028】
適当な還元剤は、例えば、チオ尿素、ヒドロキシアセトン、水素化ホウ素、ヒドロキノン、アスコルビン酸、ジチオナイト、ヒドロキシメタンスルフィン酸、ジサルファイト、ホルムアミジンスルフィン酸、硫酸、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、および/または硫酸ヒドロキシルアミンである。本発明では、水素化ホウ素、特に水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。
【0029】
本発明のポリマー材料の1つの態様では、製造に使用される分散安定剤の存在下で製造に使用される分散媒中の銀ナノ粒子は、pH2〜pH10のpH範囲で、−5mV〜−40mVのゼータ電位を有する。ゼータ電位は、懸濁液中の移動粒子の剪断層での電位である。換言すると、ゼータ電位は、分散粒子上の静止流体層と分散媒の間の電位差である。
【0030】
この電位レベルは基本的に、ナノ粒子を取り巻く分散媒、特に分散媒に含まれるイオン、とりわけ分散媒のpHに依存する。
【0031】
ゼータ電位は電気泳動によって測定される。当業者に知られている種々の機器がこの目的のために適しており、その例は、Brookhaven Instruments Corporation製のZetaPlusまたはZetaPALSのシリーズである。粒子の電気泳動移動度は電気泳動光散乱(ELS)によって測定される。電界において移動する粒子による光散乱は、ドップラー効果に起因して周波数変動を起こし、これを、移動速度の測定に使用することができる。非常に小さい電位を測定するために、或いは無極性媒体においてまたは高い塩濃度で測定するために、(例えばZetaPALS機器を使用して)位相解析光散乱(PALS)を使用することもできる。
【0032】
そのようなゼータ電位を有する銀ナノ粒子は、非常に良好な耐凝集性を示す。先に記載したように、該銀ナノ粒子は、銀塩の還元の際に上記分散安定剤を用いることによって得られる。pH6〜pH8のpH範囲で、水中で測定されるゼータ電位は、好ましくは−25mV〜−40mV、特に好ましくは−25mV〜−35mVである。
【0033】
上記ゼータ電位は、銀ナノ粒子を取り巻く液状分散媒、特に分散媒のpHに依存し、そのようなゼータ電位は、そのような分散体以外では著しく低下するので、分散媒を除去すると上記静電斥力は継続せず、従って、分散体における銀ナノ粒子の著しい耐凝集性にもかかわらず、分散体を用いて製造された材料の結果としての導電率は、損なわれないかまたはほとんど損なわれない。
【0034】
本発明のポリマー材料の別の態様では、銀ナノ粒子の製造における分散媒は、水、C1〜4アルコール、エチレングリコール、C1〜4アルデヒド、および/またはC3〜4ケトンからなる群から選択される。好ましい分散媒は水である。例えばポリマー溶液をナノ粒子と混合し、後に溶媒を除去するならば、非水性溶媒、例えばアセトンを使用できる。
【0035】
本発明のポリマー材料の別の態様では、銀ナノ粒子の製造における分散安定剤は、クエン酸および/またはクエン酸塩である。クエン酸は153℃で溶融し、175℃超の温度で分解するので、クエン酸および/またはクエン酸塩を使用することが好ましい。このようにして、最終生成物から分散安定剤を熱的に除去することができる。
【0036】
本発明のポリマー材料では、ポリマーは好ましくはエラストマーである。
【0037】
ポリマーがエラストマーであれば本発明の伸縮性電極を製造でき、例えば、電気機械変換器、特にポリマーに基づく電気機械変換器、好ましくはエラストマー(例えば、シリコーン、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスチレン、天然ゴム、合成ゴム、加硫ゴム、ガタパーチャ、またはラテックス)に基づく電気機械変換器において使用され得る。例えば、エラストマー材料として、300%までの歪みに耐える3M社製アクリルエラストマーVHB 4910を使用できる。
【0038】
電気機械変換器は、例えばUS 5 977 685Aから知られている。そのような電気機械変換器の電極は、変換器の長さの変化に適応しなければならない。そうでなければ、電極は(特に歪み下で)裂けおよび/または(特に圧縮下で)分解する。例えばUS 6 583 533 B2およびUS 7 518 284 B2では、この問題を、例えば銀製の、波形電極の適用によって解決している。しかしながら、該電極の適用は、技術的に複雑であり、高価である。加えて、銀の使用量が多いので、該電極は高価である。本発明のポリマー材料を使用すると、これらの欠点を有することのない、可撓性および伸縮性電極を製造できる。本発明のポリマー材料の特に好ましい態様では、ポリマーはポリウレタンである。用語「ポリウレタン」は、ポリイソシアヌレート、アロファネート、並びにポリイソシアネートおよびポリイソシアネートプレポリマーとポリオールおよび/またはポリアミンとの他の反応生成物を包含する。ポリウレタンの好ましい群は、ポリウレタンキャストエラストマーである。銀ナノ粒子との混合後、エラストマーを熱的に硬化でき、同時にナノ粒子をより大きい単位に転化できる。ポリウレタンの別の好ましい形態は、ポリウレタンが水性エマルションを形成し、乾燥後に融合してフィルムを形成できることである。例えば、このようにしてポリウレタン水性分散体および銀ナノ粒子水性分散体の混合物を調製でき、これを噴霧またはナイフ塗布によって基材に適用できる。水の除去後、本発明のポリマー材料を使用が得られる。
【0039】
本発明で使用できるポリウレタンの例は、ポリウレタン水性分散体、例えばヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体、例えばBayhydrol U、高分子量ポリウレタン分散体(PUD)、例えばBayhydrol(登録商標) UH、ポリウレタン−ポリアクリレートハイブリッド分散体(PUR−PAC分散体)、例えばBayhydrol(登録商標) UA、布地被覆用ポリウレタン分散体、例えばImpranil(登録商標)、好ましくは、アニオン性脂肪族ポリエーテルウレタン分散体、例えばImpranil(登録商標) 43032、Impranil(登録商標) DLH、Impranil(登録商標) DLN、Impranil(登録商標) DLN-SD、Impranil(登録商標) DLN W 50、Impranil(登録商標) DLP、Impranil(登録商標) LP RSC 3040またはImpranil(登録商標) LP RSC 4002、アニオン性芳香族ポリエーテル−ポリウレタン分散体、例えば、Impranil(登録商標) XP 2745またはImpranil(登録商標) XP 27であり、種々のImpranilシリーズが、低粘度および高弾性の故に好ましい。Impranil(登録商標) LP DSB 1069が特に好ましい。
【0040】
本発明の1つの態様では、ポリウレタンは、下記成分:
A)ポリイソシアネート、
B)ポリイソシアネートプレポリマー
C)少なくとも2個のイソシアネート反応性ヒドロキシル基を含有する化合物
を含んでなる反応混合物から得られる。
【0041】
ポリイソシアネートおよび成分A)として、例えば以下が適している:1,4−ブチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよび/または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス−(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタンまたは任意の異性体含有量を有するそれらの混合物、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(ノナントリイソシアネート)、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルイレンジイソシアネートおよび/または2,6−トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび/または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−ビス−(2−イソシアナトプロプ−2−イル)ベンゼン(TMXDI)および/または1,4−ビス−(2−イソシアナトプロプ−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン(XDI)、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基を含有するアルキル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート(リジンジイソシアネート)、およびそれらの混合物。更に、成分A)の適当な構成単位は、ウレトジオン構造、イソシアヌレート構造、ビウレット構造、イミノオキサジアジンジオン構造、またはオキサジアジントリオン構造を含有する化合物、および上記ジイソシアネートに基づく化合物である。
【0042】
1つの態様では、成分A)は、もっぱら脂肪族的または脂環式的に結合したイソシアネート基を含有する平均NCO官能価2〜4を有する、ポリイソシアネートまたはポリイソシアネート混合物であり得る。それらは好ましくは、ウレトジオン構造、イソシアヌレート構造、ビウレット構造、イミノオキサジアジンジオン構造、またはオキサジアジントリオン構造、およびそれらの混合物を含有し、かつ2〜4、好ましくは2〜2.6、特に好ましくは2〜2.4の平均NCO官能価を有する、上記したタイプのポリイソシアネートまたはポリイソシアネート混合物である。
【0043】
ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、または異性体ビス−(4,4’−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、および上記ジイソシアネートの混合物に基づくポリイソシアネートが、成分A)として特に好ましく使用され得る。
【0044】
成分B)として使用され得るポリイソシアネートプレポリマーは、任意に触媒、助剤および添加剤の添加を伴った、1種以上のジイソシアネートと1種以上のヒドロキシ官能性の、特にポリマーの、ポリオールとの反応によって得られる。更に、連鎖延長のための成分、例えば、第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を含有する成分(NH官能性成分および/またはNH官能性成分)を、ポリイソシアネートプレポリマーの生成のために、付加的に使用することもできる。
【0045】
成分B)としてのポリイソシアネートプレポリマーは、好ましくは、ポリマーポリオールと脂肪族ジイソシアネートとの反応から得られる。本発明では、成分B)として、ポリオールとしてのポリプロピレングリコールと脂肪族ジイソシアネートとしてのヘキサメチレンジイソシアネートとに基づくポリイソシアネートプレポリマーが好ましい。
【0046】
ポリイソシアネートプレポリマーB)を生成するための反応のためのヒドロキシ官能性ポリマーポリオールは、例えば、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリアクリレートポリオール、ポリウレタンポリエステルポリオール、ポリウレタンポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリカーボネートポリオール、および/またはポリエステルポリカーボネートポリオールであってもよい。ポリイソシアネートプレポリマーを調製するために、これらを、単独でまたは互いの所望の混合物として使用できる。
【0047】
ポリイソシアネートプレポリマーB)の調製に適当なポリエステルポリオールは、ジオールおよび任意にトリオールおよび任意にテトラオールとジカルボン酸および任意にトリカルボン酸および任意にテトラカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸またはラクトンとの重縮合物であってもよい。遊離ポリカルボン酸に代えて、対応するポリカルボン酸無水物、または低級アルコールの対応するポリカルボン酸エステルを、ポリエステルの調製に使用することもできる。
【0048】
適当なジオールの例は、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール(1,3)、ブタンジオール(1,4)、ヘキサンジオール(1,6)および異性体、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、またはそれらの混合物であり、ヘキサンジオール(1,6)および異性体、ブタンジオール(1,4)、ネオペンチルグリコール、およびヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルが好ましい。加えて、ポリオール、例えば、トリメチロールプロパン、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールベンゼン、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、またはそれらの混合物を使用することもできる。
【0049】
本発明では、ジカルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、テトラクロロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸、スベリン酸、2−メチルコハク酸、3,3−ジエチルグルタル酸、および/または2,2−ジメチルコハク酸を使用できる。酸の供給源として、対応する無水物を使用することもできる。
【0050】
エステル化されるポリオールの平均官能価が2以上ならば、モノカルボン酸、例えば、安息香酸およびヘキサンカルボン酸を付加的に配合できる。
【0051】
好ましい酸は、上記したタイプの脂肪族酸または芳香族酸である。アジピン酸、イソフタル酸、およびフタル酸が特に好ましい。
【0052】
末端ヒドロキシル基含有ポリエステルポリオールの調製における反応体として配合できるヒドロキシカルボン酸は、例えば、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシステアリン酸、またはそれらの混合物である。適当なラクトンは、カプロラクトン、ブチロラクトン、或いはそれらの同族体または混合物である。本発明では、カプロラクトンが好ましい。
【0053】
ヒドロキシル基含有ポリカーボネート、例えばポリカーボネートポリオール、好ましくはポリカーボネートジオールも同様に、ポリイソシアネートプレポリマーB)を調製するために使用できる。それらは、例えば400g/mol〜8000g/mol、好ましくは600g/mol〜3000g/molの数平均分子量Mを有し得る。それらは、炭酸誘導体(例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲン)とポリオール(好ましくはジオール)との反応によって得られる。
【0054】
この目的に適したジオールの例は、エチレングリコール、1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールおよび1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール−1、3、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ポリブチレングリコール、ビスフェノールA、上記したタイプのラクトン変性ジオール、またはそれらの混合物である。
【0055】
ジオール成分は好ましくは、40重量%〜100重量%のヘキサンジオール、好ましくは1,6−ヘキサンジオールおよび/またはヘキサンジオール誘導体を含有する。そのようなヘキサンジオール誘導体は、ヘキサンジオールに基づき、末端OH基に加えてエステル基またはエーテル基を含有し得る。そのような誘導体は、例えば、ヘキサンジオールと過剰のカプロラクトンとの反応によって、またはジヘキシレングリコールまたはトリヘキシレングリコールを生成するためのヘキサンジオール同士のエーテル化によって得られる。本発明では、これらおよび他の成分の量は、それらの和が100重量%を超えないように、特に合計100重量%となるように、既知の方法で選択される。
【0056】
ヒドロキシル基含有ポリカーボネート、特にポリカーボネートポリオールは、好ましくは直鎖構造を有する。
【0057】
ポリイソシアネートプレポリマーB)を調製するために、ポリエーテルポリオールを使用することもできる。例として、例えばカチオン開環によるテトラヒドロフランの重合によって得られるような、ポリテトラメチレングリコールポリエーテルが適している。同様に適当なポリエーテルポリオールは、二官能性または多官能性スターター分子への、スチレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよび/またはエピクロロヒドリンの付加生成物であり得る。例えば、適当なスターター分子として、水、ブチルジグリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、1,4−ブタンジオール、またはそれらの混合物を使用できる。
【0058】
ポリイソシアネートプレポリマーB)の調製に好ましい成分は、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールポリエーテル、ポリカーボネートポリオール、またはそれらの混合物であり、ポリプロピレングリコールが特に好ましい。
【0059】
本発明では、400g/mol〜8000g/mol、好ましくは400g/mol〜6000g/mol、特に好ましくは600g/mol〜3000g/molの数平均分子量Mを有するポリマーポリオールを使用し得る。これらは、好ましくは1.5〜6、特に好ましくは1.8〜3、最も好ましくは1.9〜2.1のOH官能価を有する。
【0060】
ポリイソシアネートプレポリマーB)の調製において、上記したポリマーポリオールに加えて、短鎖ポリオールを使用することもできる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、水素化ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセロール、ペンタエリスリトール、またはそれらの混合物を使用できる。
【0061】
上記した分子量範囲のエステルジオール、例えば、α−ヒドロキシブチル−ε−ヒドロキシヘキサン酸エステル、ω−ヒドロキシヘキシル−γ−ヒドロキシ酪酸エステル、アジピン酸−(β−ヒドロキシエチル)エステル、またはテレフタル酸−ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルも適している。
【0062】
ポリイソシアネートプレポリマーB)を調製するために、単官能性イソシアネート反応性ヒドロキシル基含有化合物を使用することもできる。そのような単官能性化合物の例は、エタノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、またはそれらの混合物である。
【0063】
ポリイソシアネートプレポリマーB)を調製するために、ジイソシアネートを、好ましくは2:1〜20:1、例えば8:1のイソシアネート基とヒドロキシル基の比(NCO/OH比)で、ポリオールと反応させ得る。この工程において、ウレタン構造および/またはアロファネート構造が生成され得る。次いで、未反応ポリイソシアネートの一部を分離してもよい。このために、例えば膜蒸留法を使用でき、例えば1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下の残留モノマー含有量を有する低残留モノマー生成物が得られる。反応温度は20℃〜120℃、好ましくは60℃〜100℃であり得る。調製の際、任意に、安定剤、例えば、塩化ベンゾイル、塩化イソフタロイル、リン酸ジブチル、3−クロロプロピオン酸、またはメチルトシレートを添加できる。
【0064】
更に、ポリイソシアネートプレポリマーB)の調製の際、連鎖延長のために、NH官能性成分および/またはNH官能性成分を付加的に使用することもできる。
【0065】
連鎖延長に適当な成分は、有機のジアミンまたはポリアミンである。例えば、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、イソホロンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの異性体混合物、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジメチルエチレンジアミン、またはそれらの混合物を使用できる。
【0066】
更に、ポリイソシアネートプレポリマーB)の調製のために、第一級アミノ基に加えて第二級アミノ基も含有するか、(第一級または第二級)アミノ基に加えてOH基も含有する化合物を使用することもできる。その例は、第一級/第二級アミン、例えば、ジエタノールアミン、3−アミノ−1−メチルアミノプロパン、3−アミノ−1−エチルアミノプロパン、3−アミノ−1−シクロヘキシルアミノプロパン、3−アミノ−1−メチルアミノブタン、アルカノールアミン、例えば、N−アミノエチルエタノールアミン、エタノールアミン、3−アミノプロパノール、ネオペンタノールアミンである。通常は、イソシアネート反応性基含有アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、イソノニルオキシプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン、ジエチル(メチル)アミノプロピルアミン、モルホリン、ピペリジン、またはそれらの適当な置換誘導体、第一級/第一級アミンおよびモノカルボン酸のアミドアミン、第一級/第一級アミンのモノケチム(monoketime)、第一級/第三級アミン、例えばN,N−ジメチルアミノプロピルアミンを連鎖延長のために使用する。
【0067】
成分B)として使用されるポリイソシアネートプレポリマーまたはその混合物は、好ましくは1.8〜5、特に好ましくは2〜3.5、最も好ましくは2〜2.5の平均NCO官能価を有する。
【0068】
成分C)は、少なくとも2個のイソシアネート反応性ヒドロキシル基を含有する化合物である。例えば、成分C)は、少なくとも2個のイソシアネート反応性ヒドロキシル基を含有する、ポリアミンまたはポリオールであり得る。
【0069】
成分C)として、ヒドロキシ官能性の、特にポリマーの、ポリオール、例えばポリエーテルポリオールを使用することができる。例として、例えばカチオン開環によるテトラヒドロフランの重合によって得られるような、ポリテトラメチレングリコールポリエーテルが適している。同様に適当なポリエーテルポリオールは、二官能性または多官能性スターター分子への、スチレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよび/またはエピクロロヒドリンの付加生成物であり得る。例えば、適当なスターター分子として、水、ブチルジグリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、1,4−ブタンジオール、またはそれらの混合物を使用できる。
【0070】
成分C)は、好ましくは、一分子あたり2〜4個のヒドロキシル基を含有するポリマー、最も好ましくは、一分子あたり2〜3個のヒドロキシル基を含有するポリプロピレングリコールである。
【0071】
本発明によれば、成分C)のポリマーポリオールは好ましくは、特に狭い分子量分布、換言すれば1.0〜1.5の多分散度(PD=Mw/Mn)と、1.9超のOH官能価とを有する。上記したポリエーテルポリオールは好ましくは、1.0〜1.5の多分散度と、1.9超、特に好ましくは1.95以上のOH官能性とを有する。
【0072】
そのようなポリエーテルポリオールは、特に複金属シアン化物触媒(DMC触媒)を用いた、適当なスターター分子のアルコキシル化による、それ自体既知の方法で調製され得る。この方法は、例えば、US 5,158,922およびEP 0 654 302 A1に記載されている。
【0073】
ポリウレタンの反応混合物は、成分A)、B)およびC)を混合することによって得られる。本発明では、イソシアネート反応性ヒドロキシル基と遊離イソシアネート基との比は、好ましくは1:1.5〜1.5:1、特に好ましくは1:1.02〜1:0.95である。
【0074】
ポリマー要素に分岐または架橋を導入するため、成分A)、B)またはC)の少なくとも1つは、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上の官能価を有する。用語「官能価」は、成分A)およびB)においては一分子あたりの平均NCO基数、成分C)においては一分子あたりの平均OH基数を指称する。この分岐または架橋は、良好な機械的性質および良好なゴム状弾性、特に良好な歪み特性をもたらす。
【0075】
ポリウレタンは、有利には、良好な機械的性質と高い弾性とを有し得る。ポリウレタンは、とりわけ0.2MPa以上、特に0.4MPa〜50MPaの最大応力、および250%以上、特に350%以上の最大歪みを有し得る。50%〜200%の使用歪み範囲では、ポリウレタンは更に、0.1MPa〜1MPa、例えば0.1MPa〜0.8MPa、特に0.1MPa〜0.3MPaの(DIN 53504に従って測定された)応力を有し得る。更に、ポリウレタンは、100%の歪みで、0.1MPa〜10MPa、例えば0.2MPa〜5MPaの(DIN EN 150672 1−1に従って測定された)弾性率を有し得る。
【0076】
加えて、ポリウレタンは有利には、良好な電気的性質を有し得る。電気的性質は、絶縁破壊強さについてはASTM D 149に従って、誘電率測定についてはASTM D 150に従って測定できる。
【0077】
成分A)、B)およびC)に加えて、反応混合物は付加的に、助剤および添加剤を含有してもよい。そのような助剤および添加剤の例は、架橋剤、増粘剤、共溶媒、チキソトロープ剤、安定剤、酸化防止剤、光安定剤、乳化剤、界面活性剤、接着剤、可塑剤、疎水化剤、顔料、充填剤、および流れ制御剤である。本発明のポリマー材料の別の態様では、ポリマーと銀ナノ粒子の重量比は、10:90〜50:50である。この比は20:80〜30:70の範囲であってもよい。1つの理論に縛られるわけではないが、そのような重量含有量を用いると、過剰量の材料を使用する必要なく、ある意味で銀ナノ粒子についてのパーコレーション限界を超えると考えられる。
【0078】
本発明は更に、
・ポリマーを供給する工程、
・分散安定剤の存在下、分散媒中で、分散安定剤とは異なる還元剤で銀塩を還元することによって得られた銀ナノ粒子を供給する工程であって、分散安定剤がC1〜6カルボン酸、C1〜6カルボン酸塩、スルフェートおよび/またはホスフェートからなる群から選択される工程;および
・ポリマーおよび銀ナノ粒子を混合する工程
を含む、ポリマーと該ポリマー中に溶解された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料の製造方法に関する。
【0079】
成分の詳細は、本発明のポリマー材料に関連して既に記載した。繰り返しを避けるため、それらを参照する。
【0080】
本発明の方法の1つの態様では、製造に使用される分散安定剤の存在下で製造に使用される分散媒中の銀ナノ粒子は、pH2〜pH10のpH範囲で、−5mV〜−40mVのゼータ電位を有する。その詳細は、既に先に記載した。
【0081】
本発明の方法の別の態様では、銀ナノ粒子の製造における分散安定剤は、クエン酸および/またはクエン酸塩である。その詳細は、既に先に記載した。
【0082】
本発明の方法の別の態様では、ポリマーは、エラストマー、好ましくは、シリコーン、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスチレン、天然ゴム、合成ゴム、加硫ゴム、ガタパーチャ、またはラテックスである。その詳細は、既に先に記載した。
【0083】
本発明の方法の別の態様では、ポリマーおよび銀ナノ粒子を、分散媒に分散する。次いで、2つの液相を一緒に混合できる。これにより、銀ナノ粒子の均質な分散体を得る。
【0084】
有利には、ポリマーのための分散媒および銀ナノ粒子のための分散媒は、水、C1〜4アルコール、エチレングリコール、C1〜4アルデヒド、および/またはC3〜4ケトンからなる群から互いに独立に選択される。先に記載したように、共通の分散媒が水であることが好ましい。
【0085】
本発明の方法の別の態様では、本発明の方法は更に、ポリマーおよび銀ナノ粒子を含んで得られた混合物を、30℃〜180℃の温度に加熱する工程を含む。この温度は、好ましくは50℃〜150℃、特に好ましくは80℃〜100℃である。先に記載したように、そのような低温で、使用される銀ナノ粒子は、より大きく、より導電性でさえある構造に転化され得る。更に、その後、ポリマー分散体から得られたフィルムを同時に乾燥するか、またはキャストエラストマーを硬化することができる。
【0086】
本発明のポリマー材料は特に、可撓性および/または伸縮性電極として使用され得る。従って、本発明は、本発明のポリマー材料を含んでなる可撓性および/または伸縮性電極も提供する。
【0087】
本発明のポリマー材料並びに本発明のポリマー材料を含む可撓性および/または伸縮性電極の考えられる用途は、特に、電気機械変換器の分野にある。従って、本発明は、ポリマー基材と本発明のポリマー材料とを含んでなるポリマー積層複合材料も提供する。ポリマー基材の材料は、好ましくは誘電エラストマーであり、ポリマー基材は、特に好ましくは可撓性である。ポリマー基材が、裏表に本発明のポリマー材料を有して供給されることが更に好ましい。ポリマー材料は、ナイフ塗布、グラビア印刷、噴霧、浸漬、スクリーン印刷によって基材に適用することができる。本発明のポリマー材料をポリマー材料に良好に接着するために、例えば水および/または界面活性剤をそれに添加することができる。
【0088】
その後、好ましくは焼結工程を実施する。焼結工程は、熱焼結または光焼結によって実施できる。
【0089】
その方法は、US 20080020304 A1に既に記載されている。光焼結の機構は、金属ナノ粒子はポリマー基材とは異なり、光子放射線、従ってエネルギーを非常に強く吸収し、このことが低温でのナノ粒子の焼結をもたらすといった事実に基づく。ナノ粒子は、より低い反射傾向および熱伝導傾向を有するので、光子放射線をほとんど吸収できないポリマーマトリックスは、この方法によって損傷を受けない。粒子を非常に短時間で高温に加熱する、パルス状の光子の供給源が、特に有利であることが分かった。それらは、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、またはマイクロ波、電波、或いは種々の放射線の組み合わせであり得る。
【0090】
本発明のポリマー材料は、ポリマー基材と少なくとも部分的に接触し得る。しかしながら、別の層、例えば接着層が、ポリマー基材とポリマー材料との間に存在することもできる。
【0091】
本発明を、図1〜3と併せて後の実施例によって、より詳細に説明するが、これらに限定されることはない。
【0092】
図1は、応力−歪み曲線における電気抵抗変化を示す。
図2は、歪みの上昇に伴った比導電率変化を示す。
図3は、歪みの上昇に伴った別の比導電率変化を示す。
【実施例】
【0093】
実施例1:銀ナノ粒子分散体の調製
2リットル容のフラスコに1Lの蒸留水を入れた。次いで、0.7重量%クエン酸三ナトリウム水溶液100ml、続いて、0.2重量%水素化ホウ素ナトリウム水溶液200mlを撹拌しながら添加した。得られた混合物に、硝酸銀水溶液0.045molを、撹拌しながら0.2L/時の体積流量で1時間にわたって添加した。この工程中に銀ナノ粒子分散体が生じた。これを、膜分離によって精製および濃縮した。
【0094】
特性評価のために、得られた分散体を水で1:200の比で希釈し、7つの試料について、濃NaOH溶液でpH調整した。種々のpH値に対してゼータ電位を測定した。pHおよびゼータ電位(括弧内に記載、単位:mV)は以下である。
pH10(−43.9mV);pH8.8(−34.2mV);pH7.5(−38.3mV);pH6.3(−29.1mV);pH4.9(−23.3mV);pH2.4(−23.7mV)
【0095】
試料についての全測定は3回実施し、結果としての標準偏差±0.5が測定された。ZetaPlus粒度測定ソフトウェアバージョン3.59を伴ったBrookhaven Instruments Corporation 90 Plus instrumentを用いて、ゼータ電位を測定した。測定試料の総重量に基づいて0.05重量%の固形分を有する分散体において、測定を実施した。
【0096】
実施例2:本発明のポリマー材料の製造および基材の被覆
丸底フラスコ内で、実施例1の銀ナノ粒子分散体(固形分:水中17重量%)10gを、ポリウレタン水性分散体(固形分:水中50重量%)2gと混合した。添加剤混合物1gも添加した(添加剤混合物の配合:水40g、Triton(登録商標)-X(非イオン性界面活性剤、オクチルフェノールエトキシレート)0.3g、およびヒドロキシエチルセルロース0.2g)。相対的な固形分は、ポリウレタン37%および銀ナノ粒子63%であった。混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、超音波浴において30分間処理した。誘電ポリウレタンエラストマーを被覆基材として選択した。先に得た混合物を、ナイフを用いて75μmの湿潤フィルム厚さで該基材に適用した。次いで、被覆試料を炉内にて80℃で30分間乾燥させた。プロフィルメーターを用いて1.1μmでフィルム厚さを測定した。
【0097】
NAGY Mess-Systeme社製SD-600四点測定装置を用い、ASTM D257−07に従って、未伸長試料の表面抵抗を測定し、21Ω/sqの値を得た。測定フィルム厚さに関して算出体積抵抗率は0.00234Ωcmであり、比導電率は428S/cmであった。
【0098】
図1に示したように、応力−歪み測定において、得られた積層複合材料の可撓性を試験した。ここで、曲線1は、歪みDの上昇に伴った力Fの変化を示す。曲線2は、歪みDの関数としての、対応する電気抵抗Rの変化を示す。
【0099】
図2は、歪みDの関数としての、比導電率σを示す。例えば、約90%の歪みまで、1S/cm以上の比導電率に達することが分かる。
【0100】
実施例3:本発明のポリマー材料の製造および基材の被覆
丸底フラスコ内で、実施例1の銀ナノ粒子分散体(固形分:水中17重量%)9.1gを、ポリウレタン水性分散体(固形分:水中50重量%)0.9gと混合した。添加剤混合物0.4gおよびエチレングリコール0.08gも添加した(添加剤混合物の配合:水40g、Triton(登録商標)-X(非イオン性界面活性剤、オクチルフェノールエトキシレート)0.3g、およびヒドロキシエチルセルロース0.2g)。相対的な固形分は、ポリウレタン22%および銀ナノ粒子77%であった。混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、超音波浴において30分間処理した。誘電ポリウレタンエラストマーを被覆基材として選択した。先に得た混合物を、2mbarの圧力下で、0.3mmノズルアタッチメントを備えたプレーガンを用いて、連続して3回、基材に適用した。次いで、被覆試料を炉内にて80℃で2時間乾燥した。プロフィルメーターを用いて3μmでフィルム厚さを測定した。
【0101】
四点測定装置を用いて、ASTM D257−07に従って、未伸長試料の表面抵抗を測定し、1.75Ω/sqの値を得た。測定フィルム厚さに関して算出体積抵抗率は0.0002Ωcmであり、比導電率は5714S/cmであった。
【0102】
図3は、歪みDの関数としての、比導電率σを示す。例えば、約140%の歪みまで、1S/cm以上の比導電率に達することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと該ポリマー中に分散された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料であって、ポリマー材料と銀ナノ粒子の重量比が10:90〜50:50の範囲であることを特徴とするポリマー材料。
【請求項2】
銀ナノ粒子が、分散安定剤の存在下、分散媒中で、分散安定剤とは異なる還元剤で銀塩を還元することによって得られ、分散安定剤が、C1〜6カルボン酸、C1〜6カルボン酸塩、スルフェートおよび/またはホスフェートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項3】
製造に使用される分散安定剤の存在下で製造に使用される分散媒中の銀ナノ粒子が、pH2〜pH10のpH範囲で、−5mV〜−40mVのゼータ電位を有する、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項4】
銀ナノ粒子の製造における分散媒が、水、C1〜4アルコール、エチレングリコール、C1〜4アルデヒド、および/またはC3〜4ケトンからなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項5】
銀ナノ粒子の製造における分散安定剤がクエン酸および/またはクエン酸塩である、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項6】
ポリマーが、エラストマー、好ましくは、ポリウレタン、シリコーン、アクリル樹脂、ポリスチレン、天然ゴム、合成ゴム、加硫ゴム、ガタパーチャ、またはラテックスである、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項7】
・ポリマーを供給する工程、
・分散安定剤の存在下、分散媒中で、分散安定剤とは異なる還元剤で銀塩を還元することによって得られた銀ナノ粒子を供給する工程であって、分散安定剤がC1〜6カルボン酸、C1〜6カルボン酸塩、スルフェートおよび/またはホスフェートからなる群から選択される工程;および
・ポリマーおよび銀ナノ粒子を混合する工程
を含む、ポリマーと該ポリマー中に溶解された銀ナノ粒子とを含んでなるポリマー材料の製造方法。
【請求項8】
製造に使用される分散安定剤の存在下で製造に使用される分散媒中の銀ナノ粒子が、pH2〜pH10のpH範囲で、−5mV〜−40mVのゼータ電位を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
銀ナノ粒子の製造における分散安定剤がクエン酸および/またはクエン酸塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ポリマーが、エラストマー、好ましくは、ポリウレタン、シリコーン、アクリル樹脂、ポリスチレン、天然ゴム、合成ゴム、加硫ゴム、ガタパーチャ、またはラテックスである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
ポリマーおよび銀ナノ粒子を分散媒中に分散させる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
ポリマーのための分散媒および銀ナノ粒子のための分散媒が、水、C1〜4アルコール、エチレングリコール、C1〜4アルデヒド、および/またはC3〜4ケトンからなる群から互いに独立に選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ポリマーおよび銀ナノ粒子を含んで得られた混合物を、30℃〜180℃の温度に加熱する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
得られた被膜を焼結する工程のための、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、またはマイクロ波、電波、或いは種々の放射線の組み合わせの使用。
【請求項14】
可撓性および/または伸縮性電極を製造するための、請求項1に記載のポリマー材料の使用。
【請求項15】
請求項1に記載のポリマー材料を含んでなる可撓性および/または伸縮性電極。
【請求項16】
ポリマー基材と請求項1に記載のポリマー材料とを含んでなるポリマー積層複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216487(P2011−216487A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−78723(P2011−78723)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】