ポリマーに担持された遷移金属触媒錯体、及びその使用方法
遷移金属錯体を形成するために遷移金属含有化合物と結合する多座配位子で官能化されたポリマーと、該多座配位子と錯形成する遷移金属とを含み、該官能化されたポリマーが約5,000〜30,000g/モルの数平均分子量と、約1.0〜2.0の多分散性指数を有する、触媒組成物。この触媒はヒドロホルミル化反応(液相が圧縮ガスを用いて体積を増やされているヒドロホルミル化反応が好ましい)で利用され、ナノ濾過を利用して容易に回収できる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒドロホルミル化反応は、水素と一酸化炭素を1分子ずつ炭素-炭素二重結合に付加することで出発材料のオレフィンをそのオレフィンよりも炭素が1個多いアルデヒド生成物に変換するための触媒法として従来からよく知られている。有機基質が2つ以上の炭素-炭素二重結合を含んでいる場合には、2つ以上のホルミル基をその基質に添加することができ、そのことによって生成物分子に含まれる炭素原子の数が2個以上増える。
【0002】
触媒によって高級オレフィン(すなわち6個以上の炭素を有するオレフィン)をヒドロホルミル化する工業的方法は、いくつかの課題に直面している。それは例えば、効率的な触媒の回収/リサイクル、液体反応相へのガス性反応物質(H2とCO)の限られた溶解度などである。Frohling他、『有機金属化合物を用いた応用均一触媒作用』(VCH社、ヴァインハイム、ドイツ国)、27〜104ページ (1996年)を参照のこと。低級オレフィン法で用いられている市販の触媒は、たいていロジウムをベースとしているが、高級オレフィンのヒドロホルミル化には適用されない。なぜなら生成物の分離/蒸溜に必要な温度で不安定だからである。そのためより安価なコバルトをベースとした触媒が用いられるが、より厳しい条件(140〜200℃、5〜30 MPa)をしばしば利用して触媒を活性化させ、安定化させている。それに加え、触媒の回収には一般に、一連の多数の作業ユニットにおいて大量の溶媒、酸、塩基が関係する。GartonらのPCT国際出願WO 2003/082789を参照のこと。したがって、より穏やかな条件で非常に活性な触媒を用いて方法を強化するため、相対的により単純で環境によりやさしい触媒回収法を必要とするように設計されたシステムが望まれている。ヒドロホルミル化以外の方法(例えば水素化、酸化、カルボニル化)を実行する際にも同様の課題と必要性に遭遇する。
【0003】
触媒を回収する方法がいくつか文献に報告されている。第1の方法は、“相転移切り換え”を利用する。この方法では、一様に反応させた後、相転移を通じて生成物の蒸気から触媒を回収する。相転移が起こるきっかけとなるのは、系の温度の変化(Horvath他、「水なしの容易な触媒分離:オレフィンのフッ素二相ヒドロホルミル化」、Science 第266巻 (5182号) 72〜75ページ (1994年);Zheng他、「熱で制御される相間移動配位子と触媒作用。III。熱で制御される相間移動触媒作用による高級オレフィンの水/有機物二相ヒドロホルミル化」、Catalysis Today 第44巻 175〜182 ページ(1998年)を参照のこと)または圧力の変化(Koch他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒としたヒドロホルミル化」、Journal of American Chemical Society 第120巻 13398〜13404ページ (1998年);Palo他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒とした均一ヒドロホルミル化に対する配位子改変の効果」、Organometallics 第19巻 81〜86ページ (2000年)を参照のこと)である。
【0004】
第2の方法には、二相媒体が関係する。それは例えば、水/有機物(Peng他、「スルホン化トリフェニルホスフィン類似体からなる両親媒性配位子を有するロジウム錯体を触媒とした高級オレフィンの水性二相ヒドロホルミル化」、Catalysis Letters 第88巻 219〜225ページ (2003年)を参照のこと)、水/CO2(Haumann他、「マイクロエマルジョンの中でのヒドロホルミル化:内部長鎖アルケンから直線状アルデヒドへの水溶性コバルト触媒を用いた変換」、Catalysis Today 第79〜80巻 43〜49ページ (2003年);McCarthy他、「反転した超臨界CO2/水二相媒体での触媒作用」、Green Chemistry 第4巻(5) 501〜504ページ (2002年)を参照のこと)、室温イオン性液体/CO2 (Webb、「超臨界流体-イオン性液体二相系におけるアルケンの連続流ヒドロホルミル化」、Journal of American Chemical Society 第125巻 15577〜15588ページ (2003年)を参照のこと)である。触媒は水またはイオン性液相の中に封鎖されるのに対し、生成物は有機相またはCO2相の中へと選択的に分離される。
【0005】
第3の方法は、均一なロジウム(“Rh”)触媒をさまざまな担持体の表面に固定化し、固定された床またはスラリー型反応装置に容易に適用できる不均一な触媒を形成する操作を含んでいる。さまざまな担持体とは、ケイ酸塩MCM-41(Marteel他、「超臨界二酸化炭素の中で1-ヘキセンをヒドロホルミル化するための触媒としての担持された白金/スズ錯体」、Catalysis Communications 第4巻 309〜314ページ (2003年)を参照のこと)、ゼオライト(Mukhopadhyay他、「孔のサイズが小さい担持体と孔のサイズが中間の担持体の中に封止されたHRh(CO)-(PPh3)3:ヒドロホルミル化のための新しい不均一触媒」、Chemical Materials 第15巻 1766〜1777ページ (2003年)を参照のこと)、ナノチューブ(Yoon他、「オレフィンのヒドロホルミル化用のRhをベースとした触媒と、固定化用担持体のサイズに依存したその触媒活性の変化」、Inorganica Chimica Acta. 第345巻 228〜234ページ (2003年)を参照のこと)、担持された水相触媒作用(“SAPC”)(Dessoudeix他、「 担持された水相触媒作用(SAPC)のための新しいスマートな固体としてのアパタイト性リン酸三カルシウム」、Advanced Synthetic Catalysis 第344巻 406〜412ページ (2002年)を参照のこと)、ポリマー(Lu他、「樹脂表面のリサイクル可能なロジウム錯体化デンドリマーとのヒドロホルミル化反応」、Journal of American Chemical Society 第125巻 13126〜13131ページ (2003年)と、Lopez他、「超臨界二酸化炭素の中での1-オクテンのヒドロホルミル化におけるポリマーに担持されたロジウム触媒の評価」、Industrial & Engineering Chemistry Research 第42巻 3893〜3899ページ (2003年)を参照のこと)である。しかしこのような方法には、市場で生き残ることを妨げる以下のようないくつかの欠点が相変わらず存在している:(a)担持体からの金属の浸出;および/または(b)均一な対応物と比べて低下した活性と選択性;および/または(c)得られる不均一触媒の一様でない構造;および/または(d)拡散が邪魔されることによる質量移動の制限;および/または(e)低い活性;および/または(f)大きな作業圧および/または高い作業温度。
【0006】
以前にいくつかの研究グループが、ロジウム触媒のリサイクルを容易にするポリスチレン担持体を開発している。Uozumi他、「水中でのC-C結合形成反応のための、VII-B-1両新媒性樹脂に担持されたロジウム-ホスフィン触媒」、Synth. Catal. 第344巻 274ページ(2002年);Otomaru他、「両新媒性樹脂に担持されたBINAP配位子の調製と、その配位子を利用して水中でロジウムを触媒としてフェニルボロン酸を非対称に1,4-付加すること」、Org. Lett. 第6巻 3357ページ (2004年);Miao他、「イオン性液体の助けを借りたアタパルジャイト表面へのRhの固定化と、それを応用したシクロヘキサン水素化」、J. Phys. Chem. C 第111巻 2185〜2190ページ (2007年);Grubbs他、「ポリマーに担持されたロジウム(I)触媒を触媒として用いたオレフィンの還元」、J. Am. Chem. Soc. 第93巻 3062〜3063ページ (1971年);Nozaki他、「高度に架橋したポリマー・マトリックスにおけるオレフィンの非対称ヒドロホルミル化」、J. Am. Chem. Soc. 第120巻 4051〜4052ページ (1998年);Nozaki他、「高度に架橋したポリマー・マトリックスにおけるオレフィンの非対称ヒドロホルミル化」、Bull. Chem. Soc. Jpn. 第72巻 1911〜1918ページ (1999年);Shibahara他、「高度に架橋したポリスチレンに担持された(R,S)-BINAPHOS-Rh(I)錯体を触媒とした、溶媒なしの非対称なオレフィン・ヒドロホルミル化」、J. Am. Chem. Soc. 第125巻 8555〜8560ページ (2003年)。しかし典型的なポリマー担持体は、不溶性、ゲル形成、ポリマーを膨張させるための退屈な手続き、ポリマー骨格へのリン・配位子の限られた負荷(例えば0.17ミリモル/g)といった深刻な制約を抱えている。これらの課題の多くは、市場で購入するポリマー、またはスチレンのラジカル重合という従来法によって調製されるポリマーが、大きな分子量および/または分子量の広い分布を持つという事実と関係している。したがってこのようなポリマーは溶解度が小さい。ゲル相または固相の触媒を用いた反応の速度がより遅いことも、実際上は重要な効果を持つ。例えばエノンへのアリールボロン酸の共役付加には、高価なボロン酸の加水分解と競合するという問題がある。触媒がより遅いほど、加水分解がより起こりやすい。したがってポリスチレンに担持された不均一触媒を共役付加で用いるときには、4〜5倍の過剰なボロン酸が必要とされる。
【0007】
本発明の発明者は、CO2で増やした液体(“CXL”)を反応媒体として使用することにより注目するようになった。CXLは、さまざまな量の高密度相の二酸化炭素を有機溶媒に添加したときに生じる圧縮可能な連続媒体である。CXLは、反応と環境の両方で利点がある。臨界に近い二酸化炭素は、ガス様の拡散性から液体様の粘度まで、非常に調節しやすい輸送特性を有する。Subramaniam他、「超臨界流体の中での反応 - 概説」、Industrial & Engineering Chemistry Process Design and Development 第25巻 1〜12ページ (1986年)を参照のこと。高密度CO2の存在は、CXLにも同様の調節可能性を与える。CXLへの多くのガス試薬(すなわちCO2、H2)の溶解度は、純粋な液相(すなわちいかなるCXLもない液相)と比べて数倍増加する。Hert他、「二酸化炭素を用いた1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドへの酸素とメタンの溶解度の増加」、Chemical Communications 第20巻 2603〜2605ページ (2005年);Wei他、「CO2で増やした液体中の酸素によるコバルト・シッフ塩基触媒を用いた2,6-ジ-t-ブチル-フェノールの自動酸化」、Green Chemistry 第6巻 387〜393ページ (2004年);Solinas他、「イオン性液体/二酸化炭素媒体中でのイミンのエナンチオ選択性水素化」、Journal of American Chemical Society 第126巻 16142〜16147ページ (2004年);Bezanehtak他、「二酸化炭素 + 水素 + メタノール 三元系のための蒸気-液体平衡」、Journal of Chemical Engineering Data 第49巻 430〜434ページ (2004年);Xie他、「三元系である二酸化炭素 + メタノール + 水素の313.2Kでの沸点と露点の測定」、Journal of Chemical Engineering Data 第50巻 780〜783ページ (2005年)を参照のこと。たいていの遷移金属錯体は超臨界CO2(ScCO2)にほんのわずかしか溶けないが、適量の有機液体がCXLの中に存在していると、CXL相の中で均一な触媒反応をさせるのに十分な可溶性が遷移金属錯体に保証される。さらに、このような溶解度は、scCO2媒体の中でフッ素化配位子を用いてRh触媒錯体を可溶化するのに必要とされるよりも数桁小さい圧力で実現される。Palo他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒とした均一なヒドロホルミル化に対する配位子改変の効果」、Organometallics 第19巻 81〜86ページ (2000年)を参照のこと。
【0008】
最近、本発明の発明者は、CO2で増やしたアセトンの中で改変していないロジウム触媒を用いた均一なヒドロホルミル化を報告した。Jin他、「CO2で増やした溶媒媒体の中で、触媒を用いた1-オクテンの均一なヒドロホルミル化」、Chemical Engineering Science 第59巻 4887〜4893ページ (2004年)を参照のこと。30℃と60℃では、CO2で増やしたアセトンにおける交代頻度(“TOF”)は、純粋なアセトン(極性溶媒)または圧縮CO2で得られる場合の4倍までの大きさであった。CXLにおける増加した速度は、溶媒の大量の交換(体積で80%まで)と、穏やかな作業圧(12MPa未満)で実現された。ヒドロホルミル化の速度は増大したが、直線状アルデヒドと分岐したアルデヒドに対する位置選択性(n/i比)は、アセトン/CO2比または温度の変化の影響を受けないままだった。Subramaniamらのアメリカ合衆国特許第7,365,234号(参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)には、改善されたヒドロホルミル化法が記載されていた。液相中の圧縮ガスの量を変えると、生成物の化学的選択性が変化する。それに加え、液体中の圧縮ガスの中身を変えると、生成物の位置選択性が変化する。添加する圧縮ガスの量を増やしていくと、驚くべきことに、ヒドロホルミル化の間の分岐したアルデヒドに対する直線状アルデヒドの比が改善され、逆も同様である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、可溶性ポリマーに担持されたロジウム触媒として分子量の分布が狭いものを調製した。この化合物は、沈殿と濾過によって容易にリサイクルすることができる。分子量の制御に加え、多座式にRhが結合できるポリマー担持体を設計することが重要であった。このような結合は、ロジウム触媒を特定部位によりよく隔離するとともに、ポリマーからロジウムが漏れることを防止することが予想された。さらに、このような触媒はCXLで使用できることがわかった。
【0010】
本発明は、新規な触媒組成物とその利用法に関する。この触媒組成物は、遷移金属含有化合物を結合させるための多座配位子を用いて官能化したポリマーを含んでいる。この官能性ポリマーは、遷移金属とで遷移金属錯体を形成する。1つの特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が約5,000〜30,000g/モルであり、多分散性指数が約1.0〜2.0である。別の特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が、約5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000g/モルのいずれか、またはその間の範囲である。この官能性ポリマーは、例えば、約6,000〜25,000 g/モル、7,000〜20,000 g/モル、8,000〜15,000 g/モル、9,000〜12,000 g/モルからなる範囲の中から選択した数平均分子量を持つことができる。さらに別の特徴では、多分散性指数は、約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0のいずれか、またはその間の範囲である。好ましい触媒組成物は、ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2' ジイル)ビス(オキシ)ジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピンを含んでいる。
【0011】
別の1つの特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレンイミン、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンイミノ二酢酸)、ポリファゼン、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、樹枝状ポリマーからなるグループの中からなされ、その中にはこれらのブロックポリマーまたはコポリマーが含まれる。官能基は、1つ以上のモノマー(この明細書に記載したように、例えば実施例1の化合物(5)やスチレン)との共重合によってポリマー鎖に結合させることができる。あるいは官能性ポリマーは、すでに形成されているポリマーを官能化することによって調製できる。そのことが、例えばBergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。官能性ポリマーは、架橋されていてもいなくてもよい。1つの特徴では、ポリマーは架橋しており、架橋モノマーのモル数に対するモノマーのモル数が8〜12の範囲の架橋比を持つ。ポリマー骨格のクラスの例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に開示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0012】
1つの特徴では、官能性ポリマー(例えばポリスチレン)は、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を含むことが好ましい。別の特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、配位子は、ホスフィン部分、ホスフィナン部分、ホスフィニン部分、ホスフィナイト部分、亜リン酸塩部分、亜ホスホン酸塩部分のいずれかを含んでいる。官能性ポリマーの一例として、亜リン酸塩をベースとした二座配位子がある。ビス(リン酸塩)官能性ポリマー・配位子は、遷移金属(ロジウム)を2つの亜リン酸塩で封鎖することができる。
【0013】
別の特徴では、触媒組成物は、金属のモル数に対するスチレン・モノマーのモル数が約1 :10〜1:20 モル:モルの比でポリエステルに共有結合するかキレート化された遷移金属錯体を有する。
【0014】
別の特徴では、遷移金属錯体の遷移金属の選択は、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる。
【0015】
さらに別の特徴では、本発明は、反応物質と、基質と、この明細書に記載した触媒組成物とを含む反応混合物に関する。この反応混合物は、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0016】
反応混合物の少なくとも一部は液相であることが好ましい。基質と触媒は液相であることが好ましい。反応物質も液相であってよい(例えば過酸化水素を用いた酸化可能な基質の酸化)。反応混合物に含まれる基質は、ケトン、アルデヒド、エノン、エナール、オレフィン、アルキン、アルコール、酸化可能な基質のいずれか、またはこれらの混合物を含むことができる。反応物質は、CO、O2、H2、H2/CO合成ガスからなるグループの中から選択した反応ガスを含むことができる。
【0017】
別の特徴では、圧縮ガスを反応混合物に添加する。圧縮ガスは不活性ガスであることが好ましく、例えば窒素、二酸化炭素、キセノン、SF6、アルゴン、ヘリウムからなるグループの中から選択される。反応物質は、やはり圧縮ガスである反応ガスを含んでいてもよいことがわかるであろう。
【0018】
さらに別の特徴では、圧縮ガスを反応混合物に添加してその反応混合物の体積を増やす。圧縮ガスを添加すると反応混合物の液相の粘度も低下する。したがって本発明により、例えば改善されたヒドロホルミル化法として、圧縮ガス(例えば超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素)で体積を増やした状態の液体の中で、本発明のヒドロホルミル化触媒組成物の存在下にてオレフィンをCOおよびH2と反応させる操作を含む方法が提供される。
【0019】
体積増加用の圧縮ガスの選択は、一般に、二酸化炭素、N2O、キセノン、SF6からなるグループの中からなされるが、コストと使用しやすさが理由で、加圧された亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素が通常は選択されるガスである。体積増加用ガスは、反応混合物の中に、触媒を沈殿させるよりも少ないレベルで存在している。すなわち触媒は、通常は反応混合物中で最も溶けにくい成分であり、よい結果を得るには、反応混合物の中に一様に溶けた状態に留まっていなければならない。したがって体積増加用ガスは、この明細書に記載した分子量と狭いPDIを持つポリマーをベースとした本発明の触媒組成物が一様に溶けている状態が維持されるレベルで導入される。このレベルは、もちろん反応混合物の成分(特に触媒)によって変化する。したがって通常は、個々の反応混合物に合わせることのできる体積増加用ガスを補充する程度をあらかじめ決めておく必要がある。Subramaniamの「超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素で体積を増やした有機溶媒媒体の中での遷移金属錯体触媒による有機基質の酸化」という名称のアメリカ合衆国特許第6,740,785号と、Subramaniamの「二酸化炭素で増やした液体との触媒ヒドロホルミル化反応における生成物の選択性の調節」という名称のアメリカ合衆国特許第7,365,234号を参照のこと(これらはすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。圧縮ガスは、液相中の体積が典型的には10%〜90%である。上述のように、反応物質は、反応混合物の液相の体積を増やすのに用いるやはり圧縮ガスである反応ガスを含むことができる。
【0020】
別の特徴では、多座配位子で官能化した本発明のポリマーを含む触媒組成物は、リサイクル可能である。したがって本発明は、反応混合物から触媒組成物を分離する方法にも関する。この方法のステップには、反応物質と、基質と、場合によっては含まれる溶媒と、この明細書に記載した触媒とを含む反応混合物を形成する操作が含まれる。基質と触媒組成物は液相である。次に、液相をフィルタで濾過して保持組成物と透過組成物を形成する。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。遷移金属の全損失量は10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、2%未満であることが最も好ましい。
【0021】
そこで1つの特徴では、本発明において、(a)遷移金属(例えばRh)がポリマーに担持されたかさばる触媒錯体を特別に設計して合成し、そのかさばる錯体が実質的に保持組成物の中に保持されるようにすることで、Rhと他の金属がナノ濾過膜を通過して透過組成物の中に漏れる量を数十ppbまで下げ;(b)圧縮ガスで増やした液体(例えばCXL)を用いて濾過される液相の粘度を下げ、そのことによって濾過速度を向上させ;(c)圧縮ガスで増やした液体(例えばCXL)をナノ濾過装置/反応装置の中で用いて連続的に反応させることで、CXLによってもたらされる方法強化の利点と改善された選択性を利用するだけでなく、生成物をナノ濾過膜で分離すると同時に触媒組成物を保持組成物の中に実質的に保持することにより、ナノ濾過が利用される。
【0022】
一例として、本発明は、狭い分子量分布と小さなPDIを持つ可溶性のポリマーに担持された二座亜リン酸塩配位子を含んでいてRh含有化合物に結合する触媒組成物に関する。その結果として、官能性ポリマーのより大きな分子量の部分がCXLの中に沈殿することと、官能性ポリマーのより小さな分子量の部分が(結合したRhとともに)膜を通過して漏れることが同時に回避される。沈殿と漏れによって触媒の活性と金属が失われるが、その両方とも、このプロセスにとって経済的な損害となる。さらに、圧縮ガス(例えばCO2)の使用により、ナノ濾過の圧力が提供されるだけでなく、錯体が沈殿することなく溶液に溶けるために溶液の粘度も下がる。
【0023】
本発明の触媒組成物を用いたヒドロホルミル化反応とそれ以外の反応は、0.2〜30MPa、0.3〜20MPa、0.5〜10MPa、1〜5MPaからなるグループの中から選択した圧力範囲で起こることが好ましい。本発明の触媒組成物を用いた反応は、10〜200℃、15〜150℃、20〜100℃、25〜80℃からなるグループの中から選択した温度範囲で起こることが好ましい。圧力および/温度は一定でもよいし、反応の間に変化してもよい。
【0024】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物は、ヒドロホルミル化反応で用いるのに特に適しており、その反応において、ポリマーに担持された本発明の触媒組成物がリサイクルされる。したがって本発明は、COとH2を反応物質として含む反応混合物を形成するステップを含むヒドロホルミル化法に関するものであり、そのステップでは、遷移金属と錯体を形成する官能性ポリマーを含む触媒組成物と、オレフィン基質が液相である。液相は、圧縮ガス(例えば圧縮二酸化炭素)を反応混合物に添加することによって体積を増やした状態であることが好ましい。次に、液相をフィルタを通過させて保持組成物と透過組成物を形成し、保持組成物が触媒組成物を保持してリサイクルされるようにする。好ましいヒドロホルミル化触媒組成物は、ロジウム含有化合物とリン含有配位子をポリマー(例えばビス(亜リン酸塩) ポリスチレン)の中に含んでいる。有機溶媒(例えばアセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン)を液相の反応混合物に添加することができる。このプロセスは、30℃〜90℃の温度と12MPa未満の圧力に維持することが好ましい。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0025】
この明細書に記載してあるように、触媒組成物は、ナノ濾過技術を利用してリサイクルできる。透過組成物は、遷移金属の濃度が100ppb未満であることが期待される。この濃度は50ppb未満であることが好ましく、30ppb未満であることさえ好ましい。例えばこの明細書に記載した触媒組成物の例では、保持液のロジウムの濃度は約250ppmであるのに対し、透過液のロジウムの濃度は30ppb未満である。
【0026】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物を酸化反応で使用し、この反応で金属触媒組成物をリサイクルする。圧縮ガスは、酸素、空気、またはこれらの組み合わせの中から選択したガスを含むことができる。過酸化水素を基質とともに液相で用意することにより、過酸化水素も酸化剤として使用できる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0027】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物を水素化反応で使用し、この反応で金属触媒をリサイクルする。圧縮ガスはH2を含んでいる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0028】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物をカルボニル化反応で使用し、この反応で金属触媒をリサイクルする。圧縮ガスはCOを含んでいる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0029】
本発明の別の特徴と、それに伴う利点および新規な特徴は、一部が以下の説明に現われるであろうし、一部が以下の説明を検討したときに当業者に明らかになろう。あるいはそのような特徴と利点は、本発明を実施することで学べる可能性がある。本発明の目的と利点は、添付の請求項で特に指摘する手段と組み合わせによって実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】化合物PPB10(8)の31P NMRスペクトルである。
【図1B】Rh(acac)(CO)2と結合した後の化合物PPB10(8)の31P NMRスペクトルである。
【図2】実施例で利用した膜濾過装置である。
【図3】各配位子を含む触媒溶液の濾過前、濾過中、濾過後の透過流束である。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa;初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。
【図4】溶けたさまざまな触媒と配位子の組み合わせを含む溶液のバッチ式濾過について、透過液に含まれているロジウムの濃度と通過するRhを示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。初期触媒溶液:体積=40〜60ml、[Rh]=70〜110ppm、[P]=90〜300ppm、モルP/Rh比=4〜8。
【図5】異なる配位子を含む各触媒溶液について、透過液に含まれているロジウムの濃度と通過するRhを示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa;初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。初期触媒溶液:体積= 40〜60ml、[Rh]=70〜110ppm、[P]=90〜300ppm、モルP/Rh比=4〜8。
【図6】1回目の連続濾過操作について、膜流束と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液:[Rh]=121ppm、[P]=144ppm、モルP/Rh比=4。
【図7】2回目の連続濾過操作について、膜流束と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液:[Rh]=117ppm、[P]=142ppm、モルP/Rh比=4。作業をしていない間は、触媒溶液を1.0MPaの窒素圧でMETセルの中に密封した。
【図8】インサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。
【図9】合成ガスの圧力をさまざまにしてインサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。実験条件:T=60℃、合成ガスの圧力一定、最初の15時間はP=0.6MPa、次の15時間はP=2.0MPa、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=139ppm、[P]=184ppm、モルP/Rh比=4.4.。最初の15時間の操作終了時に触媒溶液をMETセルの中に密封した。反応は継続し、過剰な1-オクテンを含む触媒溶液は、最終的に合成ガスが欠乏した環境になるであろう。
【図10】1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化操作を2回続けて行なったときの透過液に含まれるRhとPの濃度を示している。実験条件:T=60℃、合成ガスの圧力一定、最初の15時間はP=0.6MPa、次の15時間はP=2.0MPa 、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=139ppm、[P]=184ppm、モルP/Rh比=4.4。最初の15時間の操作終了時に触媒溶液をMETセルの中に密封した。反応は継続し、過剰な1-オクテンを含む触媒溶液は、最終的に合成ガスが欠乏した環境になるであろう。
【図11】インサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。実験条件:T=50℃、合成ガスの圧力一定、P=3.0MPa、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=241.6ppm、[P]=400.4ppm、モルP/Rh比=5.6。
【図12】図11に示した1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化操作で透過液に含まれるRhとPの濃度を示している。
【図13】さまざまな混合物の異なる温度における曇点圧を示している。
【図14】さまざまな温度とさまざまなCO2圧でのトルエン+0.7%のPBB10cの粘度を示している。
【図15】トルエン+0.7質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまな温度でCO2圧とともにどう変化するかを示している。
【図16】トルエン+1.8質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまなCO2圧で温度とともにどう変化するかを示している。
【図17】トルエン+1.8質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまな温度でCO2圧とともにどう変化するかを示している。
【図18】60℃のトルエン + 1.0質量%のPBB10cの混合物とトルエン + 0.7質量%のPBB10cの混合物について、粘度とCO2圧の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この明細書では、“二酸化炭素で増やした液体”または“CXL”という用語は、高密度相の二酸化炭素を有機液体媒体に添加するときに生じる連続した圧縮可能媒体を表わす。通常は、加圧した亜臨界二酸化炭素または腸臨界二酸化炭素が、選択されるガスである。
【0032】
この明細書では、“高級オレフィン”という用語は、鎖の中に6個以上の炭素を有するオレフィンを表わす。
【0033】
この明細書では、“内部”オレフィンという用語は、二重結合が、α-オレフィンとは異なって末端になく、オレフィン分子の内部に位置するオレフィンである。
【0034】
この明細書では、“交代頻度”または“TOF”という用語は、一定時間のバッチ実行中に1時間で触媒1モルにつき任意の生成物へと変換される基質(例えば1-オクテン)のモル数を表わす。
【0035】
この明細書では、“化学選択性”または“Sa”という用語は、ヒドロホルミル化プロセスの間に変換される基質(例えばオクテン)のモル数に対する、形成されるアルデヒドまたはオクテン異性体のモル数を表わす。
【0036】
この明細書では、“位置選択性”または“n/i”という用語は、生成物中の分岐アルデヒドに対する直線状アルデヒドの比を表わす。
【0037】
この明細書では、“遷移金属錯体”という用語は、遷移金属イオンと、ポリマー骨格に結合した配位子とを含む独立した分子を意味する。1つの特徴では、遷移金属錯体は配位化合物である。別の特徴では、金属錯体は“有機金属錯体”である。これは、その錯体が、遷移金属イオンと、炭素含有化合物を含む配位子上の炭素とに挟まれていることを意味する。本発明の金属錯体出発材料を形成するための適切な遷移金属として、例えばCo、Cr、Fe、V、Mg、Ni、Ru、Zn、Al、Sc、Zr、Ti、Sn、La、Os、Yb、Ceといった遷移金属がある。好ましい遷移金属イオンは、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中から選択される。
【0038】
この明細書では、“多分散性”または“多分散性指数”という用語は、ポリマーの重量平均分子量とポリマーの数平均分子量の関係を表わす。より詳細には、多分散性指数は、重量平均分子量と数平均分子量の比である。
【0039】
本発明は、新規な触媒組成物とその利用法に関する。この触媒組成物は、遷移金属含有化合物と結合して遷移金属錯体を形成するための多座配位子で官能化されたポリマーを含んでいる。この官能性ポリマーは、遷移金属とで遷移金属錯体を形成する。この官能性ポリマーは、数平均分子量が5,000〜30,000g/モルであり、多分散性指数が約1.0〜2.0である。別の特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が、約5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、1 1,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000g/モルのいずれか、またはその間の範囲である。この官能性ポリマーは、例えば、約6,000〜25,000g/モル、7,000〜20,000g/モル、8,000〜15,000g/モル、and 9,000〜12,000g/モルからなる範囲の中から選択した数平均分子量を持つことができる。多分散性指数は、約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0のいずれか、またはその間の範囲である。
【0040】
官能性ポリマーの選択は、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピロリジン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレンイミン、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンイミノ二酢酸)、ポリファゼン、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、樹枝状ポリマーからなるグループの中からなされ、その中にはこれらのブロックポリマーやコポリマーが含まれる。官能基は、1つ以上のモノマー(この明細書に記載してあるように、例えば実施例1の化合物(5)とスチレン)との共重合によってポリマー鎖に結合させることができる。あるいは官能性ポリマーは、すでに形成されているポリマーを官能化することによって調製できる。その例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。官能性ポリマーは、架橋していてもいなくてもよい。1つの特徴では、ポリマーは架橋しており、架橋モノマーのモル数に対するモノマーのモル数が8〜12という架橋比を持つ。ポリマー骨格のクラスの例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10), 3345〜3384ページ (2002年)に開示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0041】
官能性ポリマー(例えばポリスチレン)は、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を含むことが好ましい。 別の特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、配位子は、この明細書に開示されているようなホスフィン部分、ホスフィナン部分、ホスフィニン部分、ホスフィナイト部分、亜リン酸塩部分、亜ホスホン酸塩部分のいずれかを含んでいる。官能性ポリマーの一例として、亜リン酸塩をベースとした二座配位子がある。ビス(リン酸塩)官能性ポリマー・配位子は、遷移金属(ロジウム)を2つの亜リン酸塩で封鎖することができる。
【0042】
本発明は、反応剤と、基質と、この明細書に記載した触媒組成物とを含む反応混合物に関する。この反応混合物は、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0043】
ヒドロホルミル化反応混合物
【0044】
ヒドロホルミル化は、均一な反応系の中で実施する。“均一な反応系”という用語は、一般に、ガスで増やした液体(例えばCXL)と、この明細書に記載した触媒組成物と、合成ガスと、オレフィン型不飽和化合物と、反応生成物とからなる一様な溶液を表わす。
【0045】
触媒組成物に含まれるロジウム化合物(または他の遷移金属化合物)の量には特に制限がないが、場合によっては、触媒の活性と経済に関して好ましい結果が得られるように選択される。一般に、反応媒体に含まれるロジウムの濃度は、遊離金属として計算して10〜10,000ppmである。この量は、50〜500ppmであることがより好ましい。
【0046】
合成ガス中の一酸化炭素と水素の体積比は、一般に、10:1〜1:10の範囲である。この比は6:1〜1:6であることが好ましく、2:1〜1:2であること、特に1:1であることが最も好ましい。
【0047】
本発明のオレフィン基質として、少なくとも1つのエチレン型不飽和官能基(すなわち炭素-炭素二重結合)を有する任意の有機化合物が可能であり、例えば芳香族オレフィン、脂肪族オレフィン、芳香族-脂肪族混合オレフィン(例えばアラルキル)、環式オレフィン、分岐鎖オレフィン、直鎖オレフィンが挙げられる。好ましいオレフィンはC2〜C20オレフィンであり、最も好ましいのは“高級オレフィン”である。これは、6個以上の炭素原子を含む化合物を表わす。オレフィンには2つ以上の炭素-炭素二重結合が存在していてもよいため、ジエン、トリエンや、他の多不飽和基質も使用できる。オレフィンは、場合によっては炭化水素置換基以外の置換基を含んでいてもよい。そのような置換基として、ハロゲン化物、カルボン酸、エーテル、ヒドロキシ、チオール、ニトロ、シアノ、ケトン、エステル、無水物、アミノなどがある。
【0048】
本発明の方法に適したオレフィンの例として、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、イソプレン、1-ヘキセン、3-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、ジイソブチレン、1-ノネン、1 -テトラデセン、ペンタミルセン、カンフェン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1 -テトラデセン、1-ペンタデセン、1 -ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、プロピレンの三量体と四量体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、メタリルケトン、アリルクロリド、アリルブロミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、クロチルクロリド、メタリルクロリド、ジクロロブテン、アリルアルコール、炭酸アリル、酢酸アリル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、不飽和トリグリセリド(例えばダイズ油)、不飽和脂肪酸(例えばオレイン酸、リノレン酸、リノール酸、エルカ酸、パルミトレイン酸、リシノレイン酸と、これらのエステル(その中には、モノグリセリドエステル、ジグリセリドエステル、トリグリセリドエステルが含まれる))、アルケニル芳香族化合物(例えばスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,2-ジヒドロナフタレン、インデン、スチルベン、シンナミルアルコール、2-メチル-1-フェニル-1-プロペン、2-メチル-3-フェニル-2-プロペン-1-オール、酢酸シンナミル、シンナミルブロミド、シンナミルクロリド、4-スチルベンメタノール、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-クロロスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、ビニルベンジルクロリド、ビニルナフタレン、ビニル安息香酸、α-アセトキシスチレン、α-ヒドロキシスチレン (すなわちビニルフェノール)、2-メチルインデン、3-メチルインデン、2,4,6-トリメチルスチレン、1-フェニル-1-シクロヘキセン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、ビニルアントラセン、ビニルアニソール)などがある。
【0049】
一例では、オレフィンは脂肪化合物(例えばモノ不飽和遊離脂肪酸、 ポリ不飽和遊離脂肪酸、脂肪エステル、トリグリセリド油、または他の脂肪由来材料)である。適切なオレフィンは、Frankelのアメリカ合衆国特許第4,083,816号に記載されている(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0050】
これらのうちで、直線状の高級オレフィンが最も好ましい。オレフィンは、反応混合物の約0.1〜99.99モル%が存在していることが好ましい。当業者には、反応が起こる液相中のオレフィンの濃度(すなわち利用可能性)が最も重要であることがわかるであろう。沸点が低いオレフィンでは、これは作業圧力と作業温度によって決まる。
【0051】
本発明のヒドロホルミル化触媒組成物は、触媒を用いた変換を実行できる任意の遷移金属を含んでいる。この点に関して任意の遷移金属が考えられる。好ましい金属は、周期表のVIII族 (8〜10族)に含まれる金属である。ヒドロホルミル化のための好ましい金属は、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金である。VIII族の金属はロジウムであることが好ましい。
【0052】
ヒドロホルミル化に適したVIII族の触媒は、従来からよく知られている技術に従って調製すること、または生成させることができる。
【0053】
ポリマーに組み込まれる配位子は単座または多座が可能であり、キラル・配位子の場合には、ラセミ化合物、1つの鏡像異性体、ジアステレオマーのいずれかを使用できる。好ましい配位子は、ドナー原子として窒素、リン、ヒ素、アンチモンのいずれかを含む配位子である。特に好ましいのはリン含有配位子であり、例えばホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩などがある。
【0054】
ホスフィンの例は、トリフェニルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、プロピルジフェニルホスフィン、t-ブチルジフェニルホスフィン、n-ブチルジフェニルホスフィン、n-ヘキシルジフェニルホスフィン、c-ヘキシルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(1-ナフチル)ホスフィン、トリ-2-フリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、ベンジルジフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-i-ブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、ビス(2-メトキシフェニル)フェニルホスフィン、ネオメンチルジフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(2,5-ジエチルホスホラノ)ベンゼン [Et-DUPHOS]、1,2-ビス(2,5-ジエチルホスホラノ)エタン [Et-BPE]、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(2,5-ジメチルホスホラノ)ベンゼン [Me-DUPHOS]、1,2-ビス(2,5-ジメチルホスホラノ)エタン [Me-BPE]、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン [NORPHOS]、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル [BINAP]、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビフェニル [BISBI]、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1 ,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、2,2'-ビス(ジ-p-トリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル、O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン [DIOP]、2-(ジフェニルホスフィノ)-2'-メトキシ-1,1'-ビナフチル、1-(2-ジフェニルホスフィノ-1-ナフチル)イソキノリン、1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィンである。
【0055】
ホスフィナンの例として、2,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1-オクチル-4-フェニルホスフィナン、1-オクチル-2,4,6-トリフェニルホスフィナンや、WO 02/00669に記載されているさらに別の配位子がある。
【0056】
ホスフィニンの例として、2,6-ジメチル-4-フェニルホスフィニン、2,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-4-フェニルホスフィニンや、WO 00/55164に記載されているさらに別の配位子がある。
【0057】
亜リン酸塩は、 ホスホン酸トリメチル 、ホスホン酸トリエチル、ホスホン酸トリ-n-プロピル、ホスホン酸トリ-i-プロピル、ホスホン酸トリ-n-ブチル、ホスホン酸トリ-i-ブチル、ホスホン酸トリ-t-ブチル、ホスホン酸トリス(2-エチルヘキシル)、ホスホン酸トリフェニル、ホスホン酸トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)、ホスホン酸トリス(2-t-ブチル-4-メトキシフェニル)、ホスホン酸トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)、ホスホン酸トリス(p-クレシル)である。さらに別の例は、立体障害の亜リン酸塩配位子であり、それが記載されているのは特に、ヨーロッパ特許第155 508号;アメリカ合衆国特許第4,668,651号;アメリカ合衆国特許第4,748,261号;アメリカ合衆国特許第4,769,498号;アメリカ合衆国特許第4,774,361号;アメリカ合衆国特許第4,835,299号;アメリカ合衆国特許第4,885,401号 ;アメリカ合衆国特許第5,059,710号;アメリカ合衆国特許第5,113,022号;アメリカ合衆国特許第5,179,055号;アメリカ合衆国特許第5,260,491号;アメリカ合衆国特許第5,264,616号;アメリカ合衆国特許第5,288,918号;アメリカ合衆国特許第5,360,938号;ヨーロッパ特許第472 071号;ヨーロッパ特許第518 241号 ;WO 97/20795である。フェニル環上で(ホスホン酸エステル基に対してオルト位が好ましい)1個または2個のイソプロピル基および/またはt-ブチル基によって置換されたホスホン酸トリフェニルを用いることが好ましい。特にヨーロッパ特許第1 099 677号;ヨーロッパ特許第1 099 678号;WO 02/00670;日本国特開10-279587;ヨーロッパ特許第472017号;WO 01/21627;WO 97/40001;WO 97/40002;アメリカ合衆国特許第4,769,498号;ヨーロッパ特許第213639号;ヨーロッパ特許第214622号に記載されているビス亜リン酸塩配位子を用いることが好ましい。
【0058】
通常用いられるホスフィナイト・配位子は、特に、アメリカ合衆国特許第5,710,344号;WO 95/06627;アメリカ合衆国特許第5,360,938号;日本国特開07082281に記載されている。例は、ジフェニル(フェノキシ) ホスフィンと、その誘導体のうちで水素原子のすべてまたはいくつかがアルキル基、アリール基、ハロゲン原子のいずれかで置換されたもの、ジフェニル(メトキシ)ホスフィン、ジフェニル(エトキシ)ホスフィンなどである。
【0059】
亜ホスホン酸塩の例は、メチルジエトキシホスフィン、フェニルジメトキシホスフィン、フェニルジフェノキシホスフィン、6-フェノキシ-6H-ジベンズ[c,e][1,2]オキサホスホリンと、これらの誘導体のうちで水素原子のすべてまたはいくつかがアルキル基、アリール基、ハロゲン原子のいずれかで置換されたものと、WO 98/43935;日本国特開09-268152;ドイツ国特許第198 10 794号、ドイツ国特許出願第199 54 721号と第199 54 510号に記載されている配位子である。
【0060】
例として調べた触媒の構造は、Subramaniamらのアメリカ合衆国特許第7,365,234号にまとめられている(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0061】
液体反応混合物に含まれるロジウムの濃度は、一般に、10〜500重量ppmである。この値は30〜350ppmであることが好ましく、50〜300ppmであることが特に好ましい。
【0062】
本発明のヒドロホルミル化法は、溶媒の存在下で実施できることが望ましい。一般に、溶媒の極性が位置選択性に影響を与え、非極性溶媒は一般により大きなn/i比となる。圧縮ガス(例えばCO2)を溶媒に添加すると、溶媒系の極性を連続的に調節してより非極性の系にすることができる。溶媒として、個々のオレフィンをヒドロホルミル化する際に形成されるアルデヒドと、その下流反応生成物でより沸点の高いもの、すなわちアルドール縮合の生成物を用いることが好ましい。同様に適している溶媒は、オレフィンそのもの、芳香族化合物(例えばトルエンやキシレン)、炭化水素または炭化水素混合物である。これらも、上記のアルデヒドと、アルデヒドの下流生成物を希釈するのに役立つ。可能なさらに別の溶媒は、脂肪族カルボン酸とアルカノールのエステル(例えば酢酸エチルやTexano(登録商標)、エーテル(例えばt-ブチルメチルエーテルやテトラヒドロフラン)である。非極性溶媒であるアルコール (例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール)やケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン)などを用いることも可能である。“イオン性液体”も溶媒として使用できる。これは液体塩であり、例えばN,N'-ジアルキルイミダゾリウム塩(N-ブチル-N'-メチルイミダゾリウム塩など)、テトラアルキルアンモニウム塩(テトラ-n-ブチルアンモニウム塩など)、N-アルキルピリジニウム塩(n-ブチルピリジニウム塩など)、テトラアルキルホスホニウム塩(トリスヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩など)、テトラフルオロホウ酸塩、酢酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、塩化物、トシラートがある。
【0063】
他の反応混合物系
【0064】
この明細書の触媒組成物と、その触媒組成物をバッチ操作または連続操作の間保持しリサイクルする方法は、ヒドロホルミル化系に加えて他の反応混合物系(例えば水素化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物、またはこれらの組み合わせ)にも容易に適合させうることが予想される。一般論については、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)を参照のこと(この論文は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。例えば「超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素で増やした有機溶媒媒体の中で遷移金属錯体を触媒とした有機物質の酸化」という題名のSubramaniamのアメリカ合衆国特許第6,740,785号(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)には、酸化反応混合物が開示されている。酸化反応混合物には、広く、反応混合物の体積を増やして酸化を容易にするとともに酸化を加速するための二酸化炭素などの圧縮ガスを補足した酸化可能な基質と酸化触媒が含まれる。増量ガスとして圧縮可能なガス性基質または酸化剤が可能だが、典型的には、不活性ガスとは別の基質または酸化剤が使用される。したがって圧縮ガスは、酸化剤としての酸素、空気、またはこれらの組み合わせからなるグループの中から選択できる。あるいは酸化剤(例えば過酸化水素)は液相で提供することができる。一般に、反応混合物には有機溶媒系が含まれる。本発明の触媒組成物は、この明細書に記載した遷移金属錯体で容易に置換することができる。
【0065】
膜濾過
【0066】
本発明には、ポリマーに担持された本発明の触媒を膜濾過を利用してリサイクルする方法も含まれる。フィルタは、溶質が90%拒否されることを基準として100〜1000g/モル、または150〜600g/モル、または200〜500g/モルからなるグループの中から選択した分子量カット-オフ範囲を持つことが好ましい。いくつかの膜(例えば溶媒耐性ナノ濾過(SRNF)膜として知られる膜)が、有機溶媒中でのナノ濾過が可能であることを特徴とする。Koch SelRO(登録商標)膜システム(アメリカ合衆国)は溶媒に対して安定で市販されており、湿潤形態で提供される。最も広く調べられている膜(MPF-60、MPF-44、MPF-50))のうちで、MPF-50が、多くの用途で最もよく研究されている市販のSRNFである。メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)のSTARMEM(登録商標)とソルセップBV-ロバスト・メンブレン・テクノロジー社(オランダ国)のSolsep膜が最近市場に登場し、有機溶媒ナノ濾過に関してうまくいくことが文献で明らかにされている。別の一連の膜としてGEオスモニクス社(アメリカ合衆国)のDesal-5とDesal-5-DKが水の用途用に設計されているが、これらは SRNFにおいても選択的である。Vandezande他、「溶媒耐性ナノ濾過:分子レベルでの分離」、Chemical Society Reviews 第37巻(2) 365〜405ページ (2008年)に、膜に関するより多くの情報がまとめられている。
【0067】
文献に記載されている膜ナノ濾過の構成は、膜表面に対する流れの方向によって2つのグループに分類できる。すなわち行き止まりフィルタ(垂直)と横断流フィルタ(平行)である。市販されている行き止まり濾過セルとして、ミリポア社(アメリカ合衆国)の溶媒耐性撹拌セル、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)のMET、スターリテック・コーポレーション社(アメリカ合衆国)のHP4750などがある。しかし別の装置GE SepaTM CF II Med/Highファウラントにより、任意の膜で横断流濾過が可能になる。横断流濾過装置が記載されているのは、Nair他、「非常に安定な触媒系を用い、ナノ濾過と組み合わせたヘック反応のために増大させた触媒生産性」、Green Chemistry 第4巻(4) 319〜324ページ (2002年) ;Patterson他、「トリアルキルアミン塩基の有機溶媒ナノ濾過における膜選択性」、Desalination 第218巻(1〜3) 248〜256ページ (2008年);Roengpithya他、「膜支援二容器プロセスを利用した1-フェニルエチルアミンの連続的でダイナミックな動的分離に向けて」、Chemical Communications 第33巻 3462〜3463ページ (2007年);Peeva他、「有機溶媒ナノ濾過において濃度局在と浸透圧が流速に及ぼす効果」、Journal of Membrane Science 第236巻 (1〜2)、121〜136ページ (2004年)である。
【0068】
本発明を以下の実施例によって説明するが、実施例が以下のものに限られることはない。
【実施例1】
【0069】
ポリマーに担持された亜リン酸塩配位子の合成
【0070】
この実施例では、分子量が比較的小さくて分子量の分布が狭い、特徴がよくわかったポリマー(1.2×104g/モル、多分散性指数=1.3)を、以下のスキームを利用して調製した。官能性モノマー(5)は重合に対してスチレンと同じように活性であることがわかっているため、PDIは、純粋なポリスチレンで報告されているのと似た値になることが予想された。Dollin他、「添加剤なしでのスチレンの安定なフリーラジカル重合」、J. Polym. Sci. Part A 第45巻 5487〜5493ページ (2007年)を参照のこと。分子量と分布の制御は、安定なニトロキシル・ラジカルTEMPOを媒介とした現在のフリーラジカル重合技術を採用することによって実現した。官能性モノマー(5)とスチレン(比1:10)を123℃で共重合することにより、ポリスチレン骨格への配位子の組み込みが1H NMRスペクトルから10%と推定される官能性モノマーが製造された。興味深いことに、1H NMRスペクトルのビニル領域の末端基の分析から、このポリマーはこの条件下で架橋していないことが示唆される。言い換えるならば、ビス-アルケン(1)に含まれる1つのアルケンだけが重合する。得られたポリマーは保護が外れていて、ポリマー骨格に亜リン酸塩配位子が導入されていた。その結果は、ビフェホス誘導体に担持されたポリマーであり、“JanaPhos”または化合物PBB10と名づけられた。ポリマーへの亜リン酸塩の組み込みが完全であったなら、1.10ミリモル/gというP負荷が期待されるため、配位子の負荷は0.55ミリモル/gになったであろう。31P NMR分光によるP負荷の評価から、P負荷が0.65ミリモル/gであることがわかる。この値は、ポリマーの誘導結合プラズマ発光分光(“ICP-OES”)分析によってさらに確認され、ポリマーは、1gにつき0.32ミリモルのロジウムを担持できることがわかった。
【0071】
可溶性ポリマーに担持された亜リン酸塩配位子の合成を以下のスキームに示す。
【0072】
【化1】
【0073】
化合物PBB10(8)は2つのポリスチレン結合を持つように示してあるが、この明細書に記載してあるように、ポリスチレンは表示した芳香族基のうちの1つだけに結合すると考えられる。
【0074】
5,5'-ジメトキシ-3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2'-ジオール(1)の合成:化合物(1)を報告されている手続きに従って調製した。Vlugt他、「立体的な条件のあるジ亜ホスホン酸塩配位子 - ニッケルを触媒とした2-メチル-3-ブテンニトリルの異性化における合成と応用」、Adv. Synth. Catal. 第346巻 993〜1003ページ (2004年)を参照のこと。 3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(10.00g、55.5ミリモル)を メタノール(300ml)に溶かした溶液を調製し、 KOH(11.07g、198ミリモル)とK3Fe(CN)6(18.32 g、55.5ミリモル)を水(300ml)に溶かした溶液を室温にて一滴ずつ1時間かけて添加した。得られた混合物を2時間にわたって撹拌した後、水200ml を添加した。この懸濁液を500mlの酢酸エチルで2回抽出した。この水溶液を150mlのエーテルで抽出し、有機相を1つにまとめ、200mlの飽和ブラインで洗浄した。有機相をNa2SO4上で乾燥させた。真空下で溶媒を除去すると、明るい茶色の固形物が得られた。n-ヘキサンで洗浄すると、灰白色の粉末が得られた;収量:9.80g(98%)。
【0075】
5,5'-ジメトキシ-3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2'-ジオール(1):茶色っぽい固形物、融点220〜222℃;1H NMR (400MHz, CD2Cl2) δppm 6.99 (d, J=4.12Hz, 2H)、6.66 (d, J=4.12Hz, 2H)、5.15 (s, br, 2H)、3.79 (s, 6H)、1.47 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 153.33 (2C)、145.82 (2C)、138.80 (2C)、123.55 (2C)、115.02 (2C)、111.92 (2C)、55.63 (2C)、35.03 (2C)、29.25 (6C);IR (CH2Cl2):ν3533 (br)、3001、2985、1596、1414、1392、1215、1159cm-1;C22H30O4 (M+)に関するHRMSの計算値、358.2144;実測値、358.2123。
【0076】
3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2',5,5'-テトラオール(2)の合成:化合物1(3.6g、10ミリモル)をCH2Cl2(150 ml)に溶かして撹拌している溶液に、三臭化ホウ素(24ml、24ミリモル、DCMの中に1M)を0℃にて一滴ずつ1時間かけて添加した。添加後、反応混合物を室温まで戻し、30分間にわたって撹拌した。それに氷水を添加してクエンチさせた後、ジエチルエーテルを添加して白い沈殿物を溶かした。それを分離用漏斗に入れ、1(N)のHClとブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させた。減圧下で溶媒を除去すると、白色のチョーク状固形物が残る。それは、次の反応で用いるのに十分なほど純粋である。収量(3.1g、93%)。
【0077】
3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2',5,5'-テトラオール(2):無色のチョーク状固形物、融点224℃ ;1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δppm 8.88 (s, 2H)、8.41 (s, 2H)、6.71 (d, J= 4.00Hz, 2H)、6.51 (d, J=4.00Hz, 2H)、1.38 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.46 (2C)、144.14 (2C)、140.81 (2C)、131.58 (2C)、115.41 (2C)、113.65 (2C)、35.10 (2C)、30.32 (6C);IR (CH2Cl2):ν3533 (br)、3001、2985、1596、1414、1392、1215、1159、927、741cm-1、C20H26O4 (M+l)に関するHRMSの計算値、331.1909;実測値、331.1912。
【0078】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)5,5'-ジ-t-ブチル-6,6'-ジヒドロキシビフェニル-3,3'-ジイル(3)の合成:化合物2(3.30g、10ミリモル)を250mlの乾燥ジクロロメタンに溶かした。この溶液を-78℃に冷却し、ピリジン(3.2ml、40ミリモル)を一滴ずつ添加した。無水トリフルオロ酢酸(3.5ml、20ミリモル)をジクロロメタン(100 ml)に希釈した溶液を1時間かけて添加した。添加後、反応混合物を室温まで戻し、30分間にわたって撹拌した。反応混合物をEt2Oとブラインと1(N)のHClに分けた。有機層を水とブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させた。それを濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製すると、明るい茶色のゴム状液体が得られた(5.24g、収率92%)。
【0079】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)5,5'-ジ-t-ブチル-6,6'-ジヒドロキシビフェニル-3,3'-ジイル(3):ゴム状液体;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.29 (d, J= 4.00Hz, 2H)、7.04 (d, J= 4.0Hz, 2H)、5.37 (s, br, 2H)、1.44 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.66 (2C)、142.88 (2C)、140.56 (2C)、122.28 (2C)、121.87 (2C)、121.24 (2C)、121.19、120.36、117.17、114.17、113.96 (2SO2CF3)、35.47 (2C)、29.19 (6C);IR (CH2Cl2):ν3554 (br)、2970、1583、1425、1371、1263、1245、1217、745cm-1;C22H24F6O8S2 (M+Na)に関するHRMSの計算値、617.0714;実測値、617.0716。
【0080】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)6,6'-ビス(t-ブトキシカルボニルオキシ)-5,5'-ジ-t-ブチルビフェニル-3,3'-ジイル(4)の合成:化合物3(5.94g、10ミリモル)をCH2Cl2(120 ml)に溶かして撹拌している溶液に、ジ炭酸ジ-t-ブチル(5.5ml、24ミリモル)と4-ジメチルアミノピリジン(0.12g、1.0ミリモル)を添加した。得られた溶液を25℃で一晩にわたって撹拌した後、 Et2Oとブラインと1(N)のHClに分けた。有機層をNaHCO3水溶液で2回洗浄し、ブラインで1回洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製すると、無色の固形物が得られたため、それをヘキサンの中で再結晶させた(7.62g、収率96%)。
【0081】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)6,6'-ビス(t-ブトキシカルボニルオキシ)-5,5'-ジ-t-ブチルビフェニル-3,3'-ジイル(4):無色の固形物、融点132〜134℃;1H NMR (400MHz, CD2Cl2) δppm 7.39 (d, J=4.00Hz, 2H)、7.17 (d, J=4.0Hz, 2H)、1.45 (s, 18H)、1.23 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 150.12 (2C)、146.72 (2C)、146.28 (2C)、145.33 (2C)、133.61 (2C)、122.62 (2C)、120.76 (2C)、123.57、120.39、117.20、114.01 (2SO2CF3)、83.49 (2C)、35.27 (2C)、29.80 (6C)、26.91 (6C);IR (CH2Cl2):ν3053、2985、2304、1760、1425、1263、1245、1217、1139、746cm-1;C32H40F6O12S2 (M+Na)に関するHRMSの計算値、817.1763;実測値、817.1719。
【0082】
ジ炭酸t-ブチル-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル(5)の合成:化合物4 (4.76g、6.0ミリモル)を80mlの乾燥1,4-ジオキサンに溶かした。トリ-n-ブチル(ビニル)スズ (4.2ml、13.2ミリモル)と、Pd(PPh3)4(0.28g、0.24ミリモル)と、塩化リチウム(1.52g、36ミリモル)と、 2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールのいくつかの結晶を添加した。得られた反応混合物を98℃にて4時間にわたって還流させた。反応が完了した(TLC)後、室温まで冷却した。ジオキサンを除去した後、残留物をEt2Oに溶かし、次いで5%のKF水溶液を添加した。得られた溶液を25℃にて2時間にわたって撹拌した。この溶液が分離した後、Et2O(3×50ml)で抽出した。有機部を1つにまとめ、ブラインで1回洗浄し、無水Na2SO4 上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去すると粗材料が得られたため、それを、酢酸エチル:ヘキサン(10:90)を用いたシリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製した。MeOHの中で再結晶させると無色の固形物が得られた(2.8g、収率87%)。
【0083】
ジ炭酸t-ブチル 3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル(5):無色の固形物、融点82℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.40 (s, 2H)、7.29 (s, 2H)、6.71 (dd, J1 = 16.0Hz, J2 = 12.0Hz, 2H)、5.70 (d, J= 20.0Hz, 2H)、5.22 (d, J=12.0Hz, 2H)、1.44 (s, 18H)、1.15 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.21 (2C)、146.95 (2C)、141.62 (2C)、136.51 (2C)、135.29 (2C)、133.13 (2C)、127.97 (2C)、125.01 (2C)、113.79 (2C)、82.26 (2C)、34.93 (2C)、30.58 (6C)、27.33 (6C);IR (CH2Cl2):ν3088、2877、1757、1580、1475、1456、1397、1275、1216、766cm-1;C34H47O6 (M+l)に関するHRMS の計算値、551.3373;実測値、551.3355。
【0084】
ポリ[スチレン-コ-(2,2'-ジ-t-ブトキシカルボニルオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニル-1,1'-ビフェニル)](6)の合成:化合物4(2.201g、4ミリモル)とスチレン(4.6ml、40ミリモル)の混合物をシェンク・フラスコの中に入れた。TEMPO(40mg、0.25ミリモル)と過酸化ベンゾイルBPO(48mg、0.20ミリモル)を添加し、アルゴンをその混合物に半時間にわたって吹き込んだ後、加熱した。次にこの混合物を4時間にわたって123℃に加熱した。室温まで冷却した後、 MeOH(300ml)を入れたビーカーに注ぐと、白色の固形沈殿物が得られた。トルエン/MeOHを用いて溶解-沈殿を2回繰り返すことによってさらに精製した。最終生成物を減圧下で乾燥させると、白色の固形物が得られた(1.25g、収率52%)。
【0085】
ポリ[スチレン-コ-(2,2'-ジ-t-ブトキシカルボニルオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニル-1,1'-ビフェニル)](6):糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2) δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、5.63 (m, C=CH, 反応せず)、5.14 (m, C=CH, 反応せず)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (s,t-ブチル)、1.31 (s, t-ブトキシ);13C NMR (125MHz, CD2Cl2) δppm 145.82、144.23、135.60、1135.45、134.39、132.33、127.07、124.93、81.04、39.84、33.96、29.45、26.15;IR (CH2Cl2) ν3103、3083、3027、3001、1757、1601、1584、1493、1452、1352、1276、1260、745cm-1。
【0086】
ポリスチレン-コ-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジオール)(7)の合成:コポリマー 5(2.0g)を乾燥CH2Cl2(60ml)に溶かした溶液にTFA(2.0ml)を添加した。IRと1H NMRによってBocが完全に除去されたことがわかるまで、この混合物を25℃ にて48時間にわたって撹拌した。0℃まで冷却した後、溶液が中性になるまで飽和NaHCO3水溶液を添加した。有機層が二相溶液から分離し、水層をCH2Cl2(3×50ml))で抽出した。1つにまとめた有機抽出液をブラインで2回洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去すると、淡い茶色の固形物が得られた。トルエン/MeOHを用いて溶解-沈殿を2回繰り返すことによってさらに精製した。最終ポリマーを真空下で一晩にわたって乾燥させた(収率83%)。
【0087】
ポリスチレン-コ-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジオール) (7):糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2):δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (m, br, t-ブチル);13C NMR (125MHz, CD2Cl2) δ 145.01、128.96、128.84、127.92、125.7、124.90、43.24、39.61、29.64;IR (CH2Cl2) ν3524、3510、3065、2926、1493、1434、1417、1269、1283、1261cm-1。
【0088】
ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピン(8)の合成:反応容器の中で、コポリマー6をCH2Cl2に溶かした溶液に、15当量のEt3N と10当量の2,2'-ビスフェノキシリンクロリドを0℃にてゆっくりと添加した。この反応混合物を36時間にわたって還流させた。25℃まで冷却した後に溶液を乾燥,MeOHに注ぐと白色の沈殿物が得られたため、CH2Cl2/MeOH、トルエン/MeOH 、THF/MeOHを用いて溶解-沈殿を3回繰り返すことによってさらに精製した。最終生成物を真空下で一晩にわたって乾燥させた(収率86%)。
【0089】
ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l-3,2]ジオキサホスフェピン(8) または“JanaPhos”:糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2):δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (m, br, t-ブチル);13C NMR:δ (125MHz, CD2Cl2) 145.01、128.96、128.84、127.92、125.7、124.90、43.24、39.61、34.17、29.92、28.63;31P NMR:δppm 145.4;IR ν(CH2Cl2) 3027、2994、2925、2851、1493、1477、1453、1373、1269、1259、1254、1194、768、746、723、712、697cm-1。
【0090】
内部標準としてトリフェニルホスフィンを用い、ポリマー骨格(8)中のリンの含有量を31P NMRによって見積もった。リンの含有量は1.06ミリモル/gであり、それはさらにICP-OES分析によって確認された。したがって配位子の組み込みは、ポリマー1gにつき0.53ミリモルである。
【実施例2】
【0091】
ポリマーに担持されたロジウム触媒の合成
【0092】
以下の実施例のため、ポリマーに担持されたロジウム触媒をトルエンの中で12時間にわたって調製した後、ヒドロホルミル化反応を実施した。不活性雰囲気下でポリマーを乾燥トルエン(最大溶解度は60g/1)に溶かした後、Rh(acac)(CO)2(Rh/P=1/3)を添加し、一晩にわたって撹拌した。溶液は黄色っぽくなる。配位子へのRhの結合を31P NMRによって確認した。NMRにおける変化を図1Aと図1Bに示す。
【実施例3】
【0093】
ポリマーに担持されたロジウム触媒を用いたヒドロアリール化
【0094】
この実施例は、触媒を用いたエノンのヒドロアリール化において、実施例2に従って製造した触媒組成物を利用する方法に関する。典型的な実験手続きは直截的かつ単純である。エノン(1ミリモル)とアリールボロン酸(1.3当量)の混合物を丸底フラスコの中に入れた後、Rh(acac)(CO)2と実施例2で調製したJanaPhosを含むトルエン溶液(3ml)を不活性雰囲気下で添加した。最後に、メタノールと水の溶液(1:1、0.5ml)を注射器でそのフラスコに添加し、得られた反応混合物を50℃に加熱した。反応の改善によってリンの負荷が実施例1の1.06ミリモル/gになったことがわかるであろう。しかしこの実施例で報告する実験では、リンの負荷がより少ない(0.65ミリモル/g)ポリマーを用いた。
【0095】
表1からわかるように、脂肪族エノン、カルコン、環式エノンのどれからも、触媒を用いてヒドロアリール化生成物が高い収率で得られる。重要なことだが、こうした高い収率は、ちょうど1.3当量のボロン酸パートナーを用いたときに得られた。ポリマーに担持されたロジウム触媒を用いた以前の反応では4〜5倍の過剰なボロン酸が必要とされる。実際、リサイクル可能な触媒は、一般に1.3〜10当量のボロン酸を用いる典型的な小分子触媒と同程度、またはそれ以上の性能である。
【0096】
【表1】
【0097】
3-フェニルプロパナール(エントリー1、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.85 (t, J=4.00Hz, IH)、7.31〜7.33 (m, 2H)、7.22〜7.26 (m, 3H)、2.99 (t, J=8.00Hz, 2H)、2.80〜2.83 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 201.70、140.43、128.70 (2C)、128.39 (2C)、126.40、45.39、28.21。
【0098】
4-フェニルブタン-2-オン(エントリー2、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.31 (d, J= 8.13Hz, 2H)、7.21〜7.24 (m, 3H)、2.93 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.78 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.16 (s, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 208.02、141.04、128.54 (2C)、128.35 (2C)、126.15、45.18、30.11、29.74。
【0099】
l-(4-メトキシフェニル)-3,3-ジフェニルプロパン-l-オン(エントリー3、表1):無色の固形物、融点113℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.96 (d, J= 8.13Hz, 2H)、7.28〜7.30 (m, 8H)、7.19〜7.22(m, 2H)、6.94 (d, J=8.13Hz, 2H)、4.86 (t, J= 8.17Hz, IH)、3.88 (s, 3H)、3.72 (d, J= 4.13Hz, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 196.63、163.57、144.39 (2C)、130.45 (2C)、130.25、128.64 (4C)、127.96 (4C)、126.43 (2C)、113.82 (2C)、55.58、46.13、44.43。
【0100】
3-フェニルシクロペンタノン(エントリー4、表l)5:無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.36 (t, J= 8.13Hz, 2H)、7.25〜7.27 (m, 3H)、3.38〜3.47 (m, IH)、2.66 (dd, J= 8.12Hz, IH)、2.25〜2.51 (m, 4H)、1.94〜2.05 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 218.51、143.03、128.68 (2C)、126.73 (2C)、45.81、42.22、38.89、31.02。
【0101】
3-フェニルシクロヘキサノン(エントリー5、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.36 (t, J=8.17Hz, 2H)、7.24〜7.28 (m, 3H)、3.01〜3.05 (m, IH)、2.40〜2.65 (m, 4H)、2.07〜2.17 (m, 2H)、1.78〜1.90 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 211.13、144.39、128.73 (2C)、126.74、126.62 (2C)、49.00、44.79、41.24、32.82、25.60。
【0102】
3-フェニルシクロヘプタノン(エントリー6、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.31〜7.38 (m, 2H)、7.19〜7.24 (m, 3H)、2.92〜2.99 (m, 2H)、2.60〜2.69 (m, 3H)、2.00〜2.14 (m, 3H)、1.71〜1.79 (m, 2H)、1.51〜1.63 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 213.65、147.01、128.75 (2C)、126.52 (2C)、126.45、51.36、44.05、42.84、39.31、29.35、24.27。
【0103】
次に、使用可能なボロン酸の範囲を簡単に調べた。より詳細には、エノンにアリールボロン酸を1,4-付加するための一般的な実験手続きを、2-シクロヘキセン-l-オンとフェニルボロン酸を用いて記述する。2-シクロヘキセン-l-オン(96mg、1ミリモル)とフェニルボロン酸(158mg、1.3ミリモル)の混合物を丸底フラスコに入れた。 Rh(acac)(CO)2(5mg、0.02ミリモル)とJanaPhos(70mg、0.03ミリモル、Rh/P=1/3)を含むトルエン溶液(3ml)を不活性雰囲気中でそのフラスコに添加した。メタノールと水の溶液(1:1、0.5ml)を注射器でそのフラスコに添加した。TLCによって出発材料が消費されたことがわかるまで、得られた反応混合物を15時間にわたって50℃に加熱した。次いで25mlのメタノールをその混合物に添加すると、触媒が白色の固形物として沈殿した。その沈殿物をシュレンク・フィルタで濾過して除去し、続けて操作を実行した。濾液を減圧下で蒸発させると粗生成物が得られたため、それをカラム・クロマトグラフィ(10%の酢酸エチルを含むヘキサン)でさらに精製すると、純粋な生成物が得られた(144mg、収率83%)。
【0104】
さまざまなエナールとエノンを用いると、単純なアリールボロン酸とビアリールボロン酸はすべて、アリール化された生成物を高収率で生成させた(表2)。さらに、ジベンジリデンアセトンは、選択的モノアリール化により、二重付加生成物をほんの5%しか生成させなかった(表2、エントリー4)。最後に、ビニルボロン酸は適切な反応パートナーであり、γ/δ不飽和ケトンへのアクセスを可能にした(表2、エントリー7と8)。
【0105】
【表2】
【0106】
l-p-トリルペンタン-3-オン(エントリー1、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.10〜7.15 (m, 4H)、2. 91 (t, J=8.12Hz, 2H)、2. 75 (t, J=8.12Hz, 2H)、2.44 (q, J=8.12Hz, 2H)、2.36 (s, 3H)、1.09 (t, J=8.12Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.77、138.11、135.54、129.18 (2C)、128.21 (2C)、44.06、36.13、29.47、21.02、7.79。
【0107】
l-(ビフェニル-4-イル)ペンタン-3-オン(エントリー2、表2):無色の固形物、融点62℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.63 (d, J= 8.12Hz, 2H)、7.57 (d, J= 8.12Hz, 2H)、7.48 (t, J= 8.00Hz, 2H)、7.38〜7.40 (m, IH)、7.31 (d, J= 8.00Hz1 2H)、3.00 (t, J=8.00Hz, 2H)、2.81 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.47 (q, J= 8.00Hz, 2H)、1.11 (t, J= 8.00Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.60、140.99、140.36、139,08、128.81 (2C)、128.80 (2C)、127.25 (2C)、127.16、127.03 (2C)、43.84、36.18、29.49、7.84;IR (CH2Cl2):ν2979、2939、1712、1519、1487、1409、1377、1363、1112、831、765cm-1。C17H18ONa (M+Na)に関するHRMSの計算値、261.1255;実測値、261.1294。
【0108】
3-(ビフェニル-4-イル)ブタナール(エントリー3、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.77 (t, J= 4.00Hz, IH)、7.57〜7.62 (m, 4H)、7.47 (t, J=8.00Hz, 2H)、7.28〜7.39 (m, 3H)、3.42〜3.48 (m, IH)、2.70〜2.86 (m, 2H)、1.39 (d, J= 4.00Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCI3) δppm 201.93、144.64、140.92、139.60、128.85 (2C)、127.51 (2C)、127.30 (3C)、127.12 (2C)、51.83、34.03、22.28。
【0109】
(E)-l,5-ジフェニル-5-p-トリルペント-l-エン-3-オン(エントリー4、表2):無色の固形物、融点120℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.48〜7.53 (m, 3H)、7.37〜7.39 (m, 3H)、7.26〜7.27 (m, 4H)、7.14〜7.7.16 (m, 3H)、7.08 (d, J=8.00Hz, 2H)、6.69 (d, J=16.0Hz, IH)、4.69 (d, J= 8.00Hz, IH)、3.41 (d, J= 8.00Hz, 2H)、2.28 (s, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 198.31、144.38、142.87、141.14、136.04、134.56、130.61、129.37 (2C)、129.04 (2C)、128.65 (2C)、128.42 (2C)、127.88 (2C)、127.79 (2C)、126.45、126.39、47.17、45.88、21.09;IR (CH2Cl2):ν3060、2350、16087、1604、1589、1421、1367、1259、757cm-1. C24H22ONa (M+Na)に関するHRMSの計算値、349.1568;実測値、349.1581。
【0110】
3-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)シクロヘキサノン(エントリー5、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.58 (d, J=8.00Hz, 2H)、7.33 (d, J=8.00Hz, 2H)、3.05〜3.08 (m, IH)、2.38〜2.62 (m, 4H)、2.14〜2.19 (m, IH)、2.07〜2.11 (m, IH)、1.72〜1.89 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.37、148.29、129.29、127.09 (4C)、125.79、122.89、48.60、44.58、41.18、32.59、25.49。
【0111】
3-(4-アセチルフェニル)シクロヘキサノン(エントリー6、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.91 (d, J=8.00Hz, 2H)、7.31 (d, J=8.00Hz, 2H)、3.04〜3.09 (m, IH)、2.57 (s, 3H)、2.35〜2.55 (m, 4H)、2.07〜2.17 (m, 2H)、2.07〜2.11 (m, IH)、1.77〜1.90 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.40、197.75、149.73、135.83、128.94 (2C)、126.93 (2C)、48.48、44.70、41.17、32.49、26.68、25.49。
【0112】
(E)-7-フェニルヘプト-6-エン-3-オン(エントリー7、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.28〜7.37 (m, 4H)、7.21〜7.24 (m, IH)、6.43 (d, J=8.12Hz, IH)、6.19〜6.26 (m, IH)、2.63 (t, J=4.13Hz, 2H)、2.45〜2.54 (m, 4H)、1.10 (t, J=8.12Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.84、137.51、130.75、129.10、128.58 (2C)、127.15、126.07 (2C)、41.92、36.14、27.28、7.88。
【0113】
(E)-5-フェニルペント-4-エナール(エントリー8、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.83 (t, J=4.00Hz, IH)、7.27〜7.34(m, 6H)、7.19〜7.23 (m, IH)、6.43 (d, J=8.00Hz, IH)、6.17〜6.24 (m, IH)、2.62〜2.66 (m, 2H)、2.53〜2.58 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 201.96、137.32、131.25、128.67 (2C)、128.27、127.37、126.17 (2C)、43.46、25.64。
【0114】
最後に、触媒の有用性をいくらかより大きなスケールで調べるため、シクロヘキセノンとフェニルボロン酸の反応を20ミリモルのスケールで実施したところ、生成物である2-フェニルシクロヘキサノンが小スケールの反応と同じ収率(83%)で分離された(表1、エントリー5)。したがってこの明細書に記載した配位子は、より大きなスケールの反応において実用性を有するであろう。
【実施例4】
【0115】
ヒドロアリール化反応からの触媒のリサイクル
【0116】
実施例3のヒドロアリール化反応で用いるポリマーに担持された亜リン酸塩は、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トルエンによく溶ける(例えばトルエンには60mg/ml)が、メタノールには溶けない、したがってポリマーに担持された亜リン酸塩は、過剰なメタノールを用いた単純な沈殿と濾過によって大量に回収される。また、ヒドロアリール化で用いるMeOH/H2O共溶媒は触媒を沈殿させるには十分でないことに注意することが重要である。実際、共溶媒として水を用いると、反応の収率に対して顕著なプラスの効果がある。プロトン性溶媒がないと、シクロヘキセノンのヒドロアリール化は、15時間後に35%の変換率までしか進まない。
【0117】
この実施例では、シクロヘキセノンとフェニルボロン酸の反応を調べた。(実施例3に記載してあるようにして)触媒系の再利用可能性も連続した5回のヒドロアリール化操作まで調べた。その結果、空気中での濾過は、生成物の収率に関して触媒の活性が徐々に失われることと関係していることが観察されたのに対し、シュレンク系のもとでの濾過では、その後の操作で触媒活性の顕著な喪失はなかった。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【実施例5】
【0119】
均一な有機溶液からのロジウム触媒のバッチ式膜ナノ/限外濾過
【0120】
この実施例では、設計したポリマー結合Rh錯体触媒のナノ/限外濾過が、均一なヒドロアリール化反応系にとって有効なその場での触媒回収法であることがわかった。トルエンに溶かしたさまざまな可溶性ポリマー結合ロジウム錯体を用いたバッチ式膜濾過実験において、金属ロジウムの回収量と、リンをベースとした配位子の回収量を調べた。有機マトリックス中のRhとPを分析するためICP技術を利用した。
【0121】
実験装置
【0122】
STARMEM(登録商標)ナノ/限外濾過膜はW.R. Grace-Davison(アメリカ合衆国)によって製造され、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)によって供給された。この膜は高度に架橋したポリイミドからなり、濾過する溶液と接触する活性な側を有する非対称なものである。この膜は直径が90mmであり、活性面積は54cm2である。活性層の厚さは0.2mm未満、小孔のサイズは50オングストローム未満である。この膜の分子量カット-オフ(MWCO)は、溶質が90%拒否されることを基準として200〜400ダルトンの範囲である。この膜は、従来からあるたいていの有機溶媒(例えばアルカン、アルデヒド、アルコール、芳香族)に適合性がある。この膜の使用可能期間は、最大動作温度75℃で1年までである。
【0123】
METセルは316ステンレス鋼でできており、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(ロンドン、イギリス国)から購入した。平らな紙のようなこの膜をMETセルの底に置き、焼結した多孔性ステンレス鋼製円板で担持した。この円板は膜に機械的強度を与える。したがってこの膜は、行き止まりフィルタとして機能する。METセルの最大有効体積は270mlであり、滞留体積が5mlである。2つの入口(1つは供給用、他方は加圧ガス用)によって空気なしの連続動作が可能になる。このセルには、テフロン(登録商標)で被覆した磁気撹拌棒が取り付けられている。磁気撹拌棒は、頂部の蓋にハンダ付けした金属製ブラケットに固定されている。最大動作圧は1000psi(69バール)である。これは、平坦な膜シートを有する行き止まり式フィルタである。
【0124】
図2は、膜濾過装置の模式図である。セル本体を加熱用テープと絶縁体で包み、混合と加熱のため磁気撹拌器とホット・プレートの上に置いた(撹拌器の設定値が1〜12で、撹拌速度が60〜1200rpmの範囲のBarnstead Cimarec撹拌器)。LabView(登録商標)データ取得装置をインターフェイスとして用い、熱電対で溶液の温度を測定する。ポンプを用い、0.01〜20ml/分の範囲の一定流速で溶媒または基質をセルに入れる。供給物リザーバと透過液レシーバの両方とも不活性な窒素ガスで覆った。この装置により、空気なしの条件下でバッチ式濾過または連続濾過が可能になる。さまざまな不活性ガスを加圧ガスとして利用できる。この実施例では窒素を用いた。CO2で増やした粘度がより小さい溶媒媒体を作り出すため、CO2も将来の研究で用いることになろう。均一なヒドロホルミル化反応を行なわせると同時に触媒錯体を濾過するため、合成ガス(CO/H2=モル比1:1)、またはそれをCO2と混合したものを加圧ガスとして使用する。濾過後、弁を調節してセルの圧力を徐々に解放し、突然の圧力変化によって膜が半球状に膨らむのを回避する。透過液はリサイクルしてセルに戻すが、分析を目的としてサンプルを取り出せるようにしておく。
【0125】
触媒系と分析法
【0126】
濾過に関してテストした均一な触媒系は、触媒前駆体Rh(acac)(CO)2(Rh-50)とさまざまなリン・配位子をトルエンに溶かしたものからなる。トリフェニルホスフィン(TPPine)を、分子量が最も小さいベンチマーク・配位子として用いた。ビフェホスとBiPhPhMというかさばる二座亜リン酸塩配位子は、カンサス大学、化学部で合成されて提供された。配位子をポリマーで担持した後は、同じ合成手続きの後の異なるポリマー・バッチを指定するため、記号で表記したプロトコル(a、b、c)を利用する。1つのPBB10サンプルのPDIは1.3であると見積もられたが、PDIはバッチごとに大きく異なるはずがないことが予想される。表2に、すべてのリン・配位子の構造とその分子量を示してある。影を付けた丸はポリマー骨格を表わす。表4に、調べた触媒系を示す。
【0127】
【表4】
【0128】
量がわかっているRh(acac)(CO)2(Rh-50)と他の配位子をトルエンに溶かし、グローブ・ボックスの中で一晩にわたって溶液を撹拌したままにしてRhを結合させることにより、触媒溶液を調製した。混合中、結合中、移送中には、この溶液を不活性ガスで覆った。触媒錯体または配位子を含む出発溶液、すなわち供給する溶液をFで表わす。膜を通過する溶液を透過液と呼び(Pで表わす)、膜によって拒否された溶液を保持液と呼ぶ(文字Rで表わす)。
【0129】
改変されていない純度99%のロジウム触媒Rh(acac)(CO)2(Rh-50と表記)と、配位子である純度99%のトリフェニルホスフィン(PPh3)をアルファ・イーサー社から取得した。Sure/Seal(登録商標)に入った純度99.8%の無水トルエンをシグマオールドリッチ社から購入した。
【0130】
誘導結合プラズマ発光分光(“ICP-OES”)を利用し、出発触媒溶液と、保持液と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を測定した。ICPは、励起されたイオンから出る光の強度が分析する溶液中の各元素の濃度に比例するという原理に基づく発光分光技術である。励起エネルギーは、電磁誘導によって生じる電流から供給される。ICPは、冶金学、農業、生物学、環境、地質学の材料の元素分析に広く利用されている。たいていの場合、不均一なサンプルを酸で消化させた後に水溶液を分析することが好ましい。逆に、有機マトリックス分析は、有機マトリックスの基準が少なくて貯蔵寿命が短いため、稀にしか用いられない。この実施例では、リン結合ロジウム錯体の調製にトルエンを溶媒として選択した。なぜなら、触媒錯体とヒドロホルミル化反応混合物に関しては溶媒和力が強いからである。
【0131】
この実験で用いたICP装置は、径方向プラズマ・ビューとモノクロメータ光学系を有するJobin Yvon 2000 2であった。溶液となった液体サンプルを蠕動ポンプで導入した後、マインハート社の同軸噴霧器でスプレーしてエーロゾルに変換した。エーロゾルはサイクロン式スプレー・チェンバーによって選別するため、10μmよりも小さい液滴だけがトーチとプラズマに到達する。プラズマが消滅しないようにするため、少量のエーロゾル・サンプルだけが許されることに注意されたい。ラジオ周波数発生装置が、プラズマを維持するエネルギーを供給するとともに、高周波電磁場を誘導コイルの中に作り出す。その出力パワーは、40.68MHzの周波数で800〜1500Wである。高温プラズマの内部において、アルゴン・ガスによって運ばれたエーロゾルをあらかじめ加熱して乾燥させた後、イオン化したガスによって高エネルギーの原子とイオンへと励起する。これらの粒子は照射領域を通過した後、所定の周波数または波長を持つ光子の形態でエネルギーを放出する。各元素は、固有の特徴的な発光線を有する。原子発光の原理、操作の安全性、マトリックスの選択、メンテナンスは、製造者が提供するマニュアル「ユーザー・マニュアルJobin-Yvon ICP分光器」と「ユーザー・マニュアルICP V5ソフトウエア」に詳述されている。
【0132】
較正の基準は、Rh(acac)(CO)2とトリフェニルホスフィン(“TPPine”)をトルエンに溶かして作った。トルエンは、サンプルと較正溶液を希釈してサンプル溶液の粘度をより小さくするのにも使用し、結果に対する粘度の影響を小さくした。較正グラフから、RhとPの両方で、ppbレベルまでの数桁にわたって線形性が優れていることがわかった。例えば溶けたRhは、数十ppbという小さな濃度まで定量的に検出することができる。付録IIIに、ICP法の開発、較正手続き、分析プロトコル、操作に関する詳細を提示してある。
【0133】
実験手続き:事前コンディショニングと流束測定
【0134】
濾過の前に、窒素圧を3.0MPaにして純粋なトルエンを1時間にわたって流して膜を通過させることで、膜の条件を整えた。このコンディショニング操作からの透過液は廃棄した。なぜなら溶媒は、膜を潤滑にする保護油で汚染されているからである。この事前コンディショニング・ステップの後、新鮮なトルエンを流し続けた。このトルエンは、連続的に循環してセルに戻る。膜を通過する流束(1分あたりのトルエンのml数)が一定になって膜が平衡したことがわかるまで、このステップを続けた。この平衡ステップは、通常は約3日間かかる。これら前処理ステップの後、膜は、溶けた触媒錯体を含む溶液のナノ濾過の研究を行なえる状態になる。濾過操作と次の濾過操作の間には必ず膜を3回洗浄し、トルエンに一晩浸す。
【0135】
各濾過操作の間、透過する流束を定期的に記録して濾過プロセスを通じて一定速度であることが保証されるようにすることで、膜の物理的損傷(すなわち割れ、詰まりや、膜表面における他の欠陥)に起因するあらゆる変動を除去した。さらに、溶けた触媒錯体を含む溶液を用いた各濾過の前後に純粋なトルエンを用いたブランクの濾過操作を実施した。同じガス圧のもとでは、溶けた触媒錯体を用いた濾過操作において、純粋なトルエンと比べてより小さい流束が一般に観察された。これは、溶けたポリマー担持体を含む触媒溶液の粘度が大きくなったことに帰せられる。
【0136】
透過液の体積を100mlのビュレットで測定した。そのビュレットの目盛のない底部は5.5mlであった。このビュレットの精度は±0.2mlである。精度が±1秒のストップウォッチを用い、所定体積の透過液を回収する時間を記録した。透過流束は、短時間の平均流束によってJ=ΔV/AΔtという形に表わされる。ここに、Jは膜の流束(リットル/m2・時間)であり、ΔVは透過する体積(リットル)であり、Δtは時間(時間)であり、Aは膜の活性な表面の面積(m2)であり、製造者は54cm2に等しいとしている。膜の流束を特徴づける別のパラメータは、膜の透過率である。これは、過渡的透過流束を圧力に対する比として規格化した値であり、単位はリットル/m2・時間・バールである。
【0137】
バッチ式濾過の実験手続き
【0138】
バッチ式濾過を開始するため、気密な注射器で触媒溶液を供給用入口を通じてMETセルに移す。そのとき、数psiという低圧の窒素を同時に流してパージした。初期溶液の典型的な体積は60mlである。次にセルを窒素で望む圧力(1.0MPa)に加圧する。膜を通って流出する溶けたガスに代わる新鮮な窒素を供給源のガス・シリンダから補充することにより、セルの圧力を一定に維持する。磁気撹拌の速度を0〜12のうちの4に設定し、100mlのビュレットを用いた透過液レシーバを窒素でパージする。透過液弁を開放して濾過を開始し、最初の体積の半分が透過液として回収されるまで、膜でセルの中身を濾過する。濾過液の流束は、流れの中に配置した100mlのビュレットを用いて体積流を計測することによって計算する。望む量の透過液を回収した後、透過液逆止め弁を閉じて濾過を停止する。次に保持液と透過液の蒸気を採取し、ICPによってRhとPの元素分析を行なう。手続きに関する上記の全ステップは、室温(約21℃)で実施した。次に、METセルをグローブ・ボックスに移し、3回洗浄して一晩浸した後に保持液を回収する。膜を再利用する前に目視検査と流束測定を行なって膜がよい状態であることを確認する。
【0139】
金属の通過率は以下のようにして計算した。
通過率=(透過液に含まれるすべてのRhまたはP)/(出発溶液に含まれるすべてのRhまたはP)
【0140】
バッチ式濾過実験の結果
【0141】
ポリマーに担持された3種類の配位子(PBB10a、PBB10b、PBB10c)と1つの二座配位子(BiPhPhM)をテストした。P負荷は、調べた3つのバッチ(それぞれPBB10a、PBB10b、PBB10c)でそれぞれ0.949、0.634、0.645ミリモル/gであった。触媒溶液は、表5に示してあるように、ロジウムとリンをそれぞれ70〜110ppm、90〜300ppmの濃度で含んでおり、モルP/Rh比は4〜8であった。
【0142】
【表5】
【0143】
すべての濾過と流束の測定は、室温(21℃)で実施した。膜の流束の再現性をチェックして膜がよい状態であることを保証するため、ブランクとしての純粋なトルエンを用いて各濾過操作の前後に透過流束を測定した。表6に、各操作で使用した膜と窒素圧を示す。
【0144】
【表6】
【0145】
図3は、異なる溶液と異なる膜を用いて実施したさまざまな濾過操作において得られた透過流束を示している。白い棒は、純粋なトルエンだけを用いたブランクの濾過操作を表わしているのに対し、斜線のある棒と点のある棒は、溶けた触媒錯体を含む溶液を用いて実施した1回目の濾過と2回目の濾過をそれぞれ表わしている。予想通り、粘度がより小さい純粋なトルエンは、一定のガス圧では、触媒溶液と比べて透過流束が大きい。
【0146】
ポリマーに担持された3種類の配位子PBB10a、PBB10b、PBB10cのそれぞれについて、同じ膜で2回連続した操作を行なうと、透過流束はほぼ同じであった。これは、膜が安定であることの確認になっている。二座配位子(BiPhPhM)に関しては、2つの異なる膜でそれぞれ操作を2回繰り返した。その流束にはやはり再現性があった。
【0147】
図4と図5は、各バッチ操作で透過液の蒸気に含まれるRhとPの濃度をICPで測定した結果である。金属の通過率は以下のように計算した。
通過率=(透過液に含まれるすべてのRhまたはP)/(出発溶液に含まれるすべてのRhまたはP)
【0148】
PBB10a配位子に関しては、透過液に含まれるRhの濃度は、1回目の操作と2回目の操作でそれぞれ約5.5μg/g(ppm)と約3.8μg/g(ppm)である。Rhの通過率推定値は、初期溶液の体積の半分を濾過することを基準にして約3%と約4%である。通過率の値が比較的大きいことは、より大きなMWCO膜では小孔がより大きいことに帰される。また、膜の平衡の不完全さ、および/またはポリマーに含まれていて膜の表面を劣化させる不純物も原因である可能性がある。
【0149】
PBB10b配位子とPBP10a配位子に関しては、膜の流束速度を一定にした最初の2回の操作で、数十ppb程度の顕著に小さなRh通過率の値になる。2回目の操作では透過液に含まれるロジウムの濃度がいくらかそれよりも大きくなったが、やはりppbのレベルである。
【0150】
二座配位子(BiPhPhM)に関しては、透過液に含まれるRhの濃度は、予想されるように、ポリマーに担持された配位子(PBB10bとPBP10a)よりも大きい。これは、非ポリマーに担持された配位子と錯体がほぼ1/10のサイズであることに帰される。図5は、透過液に含まれるPの濃度がRhと同じ傾向であることを示している。ポリマーに担持された配位子(PBB10bとPBP10a)は、透過液に含まれるPの濃度が最低であるため、それに対応して透過液の通過率の値も最低である。
【実施例6】
【0151】
インサイチュ膜濾過を利用した1-オクテンの連続的均一ヒドロホルミル化
【0152】
この実施例では、高温高圧での連続的膜濾過とヒドロホルミル化反応の組み合わせを取り扱い、一定の流束と安定な基質の変換と選択性を特徴とする安定な動作が長期にわたって保証されるかどうかを明らかにする。実施例5に記載したバッチ式濾過操作と連続濾過操作のときに最高の保持特性を示した可溶性ポリマー・配位子を、ヒドロホルミル化の条件下での研究に使用した。
【0153】
連続的な膜濾過の実験手続き(反応なし)
【0154】
連続濾過に関しては、膜とサンプルの調製手続きはすべて、上記のバッチ式操作の場合と同じである。主な違いは、HPLCポンプを用いて純粋なトルエンを所定の流速でセルの中に連続して入れることで、濾過中にセル内の液体の体積が一定に維持されるようにすることである。蒸気流の中で計量弁を用い、供給物の流速と透過液の流速が一定に維持されていることを確認する。分析のため透過液のサンプルを定期的に採取する。高温での操作時にはセルをあらかじめ加熱し、濾過を開始する前にセルの中身の温度を安定にする。
【0155】
連続的な膜濾過の実験手続き(反応あり)
【0156】
トルエンと1-オクタン(v/v=70:30)からなる基質溶液を調製した。膜を反応装置の中に取り付けた後、3.0MPaという窒素圧のもとで無水トルエンを用いて膜の条件を整え、平衡させた。
【0157】
窒素雰囲気下にて、Rh(acac)(CO)2とポリマー結合配位子を含む60mlのトルエン溶液を注射器でMETセルに注入した。このシステムを合成ガスで再加圧しながらこの混合物を撹拌し、温度を60℃まで上げた。ストック供給ポンプを0.1〜0.5ml/分の流速からスタートさせると同時に、透過液弁をゆっくりと開いて透過液の流速が供給物の流速と同じになるように調節した。この範囲の流速にすることで、基質が触媒反応装置の中で十分な滞留時間(少なくとも120分間)になることが保証される。1時間ごとに透過液の蒸気からサンプルを採取した。このサンプルのわずかな一部をジクロロメタンで希釈し、ガス・クロマトグラフィVarian GC 5800(CP-Si 15CB Chromapack(登録商標)キャピラリー・カラム)で分析した。このサンプルの残りを用い、ICP JY 2000 2でRhとPを分析した。
【0158】
各操作は、合成ガスの供給を停止し、供給弁と透過液弁を閉じることによって終わらせた。しかし反応は、平衡に達するまで膜反応装置の中で相変わらず続くであろう。それは合成ガスの圧力低下によって示され、基質である1-オクテンが過剰であるときにはゼロまで下がることがある。合成ガスを再度確立し、ストックしてある供給物を流し、透過液弁を開くことによって連続操作を再開する。変換率と時間の関係を示すグラフは、開始段階を通じて上昇した後、安定状態に達するという挙動を示していた。
【0159】
反応なしの連続的な膜濾過:結果
【0160】
トルエンをベースとした中にポリマーに担持された配位子(PBB10c)が溶けている溶液を用いて2つの新鮮な膜(MWCOは200ダルトン)で濾過操作を2回繰り返した。この触媒溶液は、RhとPを100〜150ppmの範囲の濃度で含んでおり、モルP/Rh比は4である。
【0161】
図6に示した最初の連続濾過操作は7.5時間続いた。操作中を通じて透過流束は8リットル/m2・時間という一定値に留まった。これは、セルの圧力が同じ場合に純粋なトルエンを用いて得られる流束の約40%である。流れの中のRhとPの濃度は最初は大きく、時間経過とともに低下した。これは、おそらく、初期混合物からの結合しなかったRhとPと、ポリマーのうちで膜のMWCOよりも軽い部分からの結合しなかったRhとPが除去されたことを示している。RhとPの濃度は、数時間後にppbのレベル(約50ppb)までラインアウトした。このラインアウト期間中のRhとPの全損失量はそれぞれ2.1%と1.9%であり、これらの値は、実験的にフィットさせた濃度-時間曲線の下の面積を積分することによって得られる。これは、RhとPの約98%がセルの中に保持されたことを意味する。この直線的な期間中のRhとPの漏れが実質的にすべてであり、その値に留まったと仮定すると、1回の通過ごとのロジウムの目標回収率99.8%がこの直線的な期間を越えて容易に達成される。
【0162】
図7は、2回目の連続濾過操作について、透過流束と、透過液に含まれるRhとPの濃度を時間に対して示している。この濾過操作は合計で17時間継続させ、以下の3段階で実施した。第1段階(最初の8時間)は、第1の連続操作の繰り返しである。この操作の後はセルの中身を一定圧力の窒素雰囲気中に2週間にわたって保持した。その後に濾過を再開してさらに6時間継続させた。1回目の操作と同様、透過流束は一定に留まる。透過液に含まれるロジウムとリンの濃度は、濾過を14時間実施した後にそれぞれ20ppbと90ppbまで低下した。直線的な期間の間のRhとPの全損失量はそれぞれ1.9%と2.6%であり、これらの値は、実験的にフィットさせた濃度-時間曲線の下の面積を積分することによって得られる。RhとPの損失量は、1回目の操作の直線的な期間で得られたのと同様である。
【0163】
温度の効果を調べるため、前のセルの混合物の濾過を、セルを50℃に加熱して2週間後まで続けた。直線的な期間の後に透過液に含まれるRhとPの濃度がより大きいのは、膜流束が約2.5倍大きいことに帰され、一部はより高温で混合物の粘度がより小さいことに帰される。しかしRhの濃度は相変わらず数十ppbのレベルである。
【0164】
Pの濃度曲線は、各連続操作の開始時にスパイクを示す。これは、(膜装置の下の)滞留体積に溜まった可能性のあるRhとPが2週間の間に膜を通ってゆっくりと拡散することによって流れたことに帰される。図7からわかるように、濾過を再開すると、溜まったRhとPが最初に洗い流された後、曲線は以前に到達した値(数十ppbのレベル)に戻る。
【0165】
反応ありの連続的な膜濾過:結果
【0166】
PBB10dで改変したロジウム錯体を触媒とした1-オクタン・ヒドロホルミル化の連続実験を、60℃の温度にて0.6MPaの合成ガス圧下で実施した。溶液を1000rpmに等しい設定で撹拌し続けた。初期溶液に含まれるRhとPの濃度は、それぞれ139ppmと184ppmである。モルP/Rh比は4.4である。
【0167】
図8からわかるように、変換率は最初の操作の最初の8時間にゆっくりと上昇した後、次の8時間は11%に留まるのに対し、滞留時間は一定の3.5時間に維持される。位置選択性n/i比は、最初のサンプルの13という値から、15時間の操作の最後には6という値まで低下する。アルデヒド生成物に対する選択性は60〜65%の範囲の安定な値に到達し、変動は比較的少ない。
【0168】
反応混合物を前の反応と同じ撹拌速度で反応装置の中に8日間密封した後、連続操作をより大きな合成ガス圧(2.0MPa)で再開してさらに15時間実施した。平均滞留時間は約3時間である。この操作の目的は、合成ガスの部分圧が変換率と選択性に及ぼす効果を調べることであった。図9からわかるように、2.0MPaの合成ガス圧下での反応により、0.6MPaの合成ガス圧下での反応と比較してより大きな変換率(40%超)と、アルデヒドに対するより大きな選択性(90%超)が得られる。逆に、n/i比は6から3.5へと徐々に低下する。
【0169】
異なる動作条件で2回続けて行なった連続操作で透過液に含まれるRhとPの濃度のIPC分析結果を図10に示してある。合成ガスが0.6MPaでの1回目の連続操作では、透過液に含まれるRhの量は、15時間の操作中に120ppb未満であり、Pの量は、ポリマーに結合した配位子のサイズがより小さくて通過するために1.3ppmから570ppbへと低下する。
【0170】
合成ガス圧が2.0MPaでの2回目の連続操作におけるRhとPのレベルは、数ppmのレベルである。通過が増大した理由は今回は明確ではないが、2回目の連続操作の後、保持液の色(濃い赤)は、バッチ式操作の保持液の色(黄色)とまったく異なっていた。続けて実施する2回の操作の間の時間に、合成ガスが欠乏した環境で60℃という高温によってロジウム二量体が形成されたと推測される。しばしば報告されるロジウム二量体の形成は、低い水素圧と高いロジウム濃度で起こる。色の変化は、トリフェニルホスフィン(PPh3)を配位子とする以下の反応と関係している可能性がある。
【0171】
【化2】
【0172】
ポリマー結合配位子を用いると同じタイプの反応が起こる可能性があろう。得られるロジウム二量体とポリマー結合配位子PBB10の間の結合は弱い可能性があるため、二量体のサイズがPBB10ロジウム錯体よりも小さいことが原因でRhが膜を通じて多く漏れる。
【0173】
連続実験の最初の8時間で安定な1-オクタンの変換と生成物の選択性が得られるが、これらの量の実際の値は、バッチ式実験の間に得られた値よりもはるかに小さい。これは、受け取ったままのMETセルの中での激しい混合が欠けていることが原因であったことが疑われる。つまり不十分な混合によって液相中で“合成ガスの欠乏”が起こったのであろう。これは、変換と生成物の選択性の両方にマイナスの影響があることが知られている。混合を改善するため、METセルに磁気駆動の撹拌装置を取り付け、液相がはるかによく撹拌されるようにした。結果を以下の第2の実施例に示す。
【0174】
反応ありの連続的な膜濾過:結果(第2の実施例)
【0175】
関連した実施例において、PBB10dで改変したロジウム錯体を触媒とする1-オクタンのヒドロホルミル化の連続実験を、50℃の温度で合成ガスの圧力を3.0MPaにして実施した。1000rpmに等しい設定にした新しい撹拌装置で溶液を撹拌し続けた。初期溶液に含まれるRhとPの濃度は、それぞれ241.6ppmと400.4ppmである。モルP/Rh比は5.6である。
【0176】
図11からわかるように、変換率はゆっくりと増大し、8時間後に約50%の安定状態に到達した。位置選択性n/i比は約3.0〜3.5という一定値に留まった。アルデヒド生成物に対する選択性は、安定状態の値である90%以上の範囲に到達した。この値の典型値は95%よりも大きい。変換率と選択性の値の改善は、膜反応装置の中での十分な混合が、望む変換率と選択性を実現する上で重要であることを証明している。
【0177】
RhとPの濃度に関するICP分析の結果を図12に示してある。どちらの濃度も、透過液の中で8時間後に安定値に到達している。膜を通過する流速は、22時間の操作の間を通じてほぼ一定であった。これは、膜が詰まっていなかったことを示している。透過液に含まれるRhの量は140ppb未満であり、8〜22時間の間は30ppb未満であった。透過液に含まれるPの量は、より小さいサイズのポリマー結合配位子が通過することが原因で6.7ppmから1.5ppmに低下する。22時間の操作の間のRhとPの全損失量は、0.08質量%と3.43質量%であった。
【実施例7】
【0178】
触媒組成物を用いた1-オクテンのバッチ式ヒドロホルミル化
【0179】
この実施例では、本発明の触媒組成物を用いて1-オクテンのヒドロホルミル化を調べた。そのとき、液相の体積を増やすのに加圧した二酸化炭素を用いた。厚いガラス窓と磁気撹拌棒を備えるステンレス鋼製の高圧反応装置の中で、不活性雰囲気下にて、Rh(acac)(CO)2(2.6mg、0.01ミリモル)とポリマー(Rh/P=1/3)をトルエン(3.6ml)に溶かした。この溶液を25℃にて一晩にわたって撹拌すると、溶液は黄色っぽい色に変化する。不活性雰囲気下で1-オクテン(1.5ml、10.0ミリモル)を添加した後、反応装置に合成ガス(CO:H2、1:1v/v)を装填した。反応装置の周囲に巻いた熱コイルを用いて反応装置を加熱した。60℃に到達した後(約12時間かかる)、反応混合物に合成ガスを5回流し、合成ガスの圧力を6バールの一定値に維持した。2時間後、反応混合物を室温まで冷却し、合成ガスを効果的な換気装置の内部でゆっくりと放出することによって圧力を低下させた。次いで反応混合物を回収し、メタノールを5回添加した。白い触媒沈殿物を濾過によって大量に分離し、洗浄して乾燥させた後に次の操作で再利用した。生成物をGCによって分析し、直線状/分岐アルデヒドの比を1H NMR分光の積分値から決定した。
【0180】
同じ実験を、CO2で増やした液体系でも実施した。その場合、反応装置をCO2(32バール)で加圧して1時間放置し、60℃で平衡に到達させた。合成ガスの圧力は6バール(合計の圧力は38バール)であった。結果を表7に示す。
【0181】
【表7】
【実施例8】
【0182】
粘度と曇点の測定
【0183】
触媒をより容易に保持するのに用いるこの明細書の溶けたポリマー結合亜リン酸塩配位子は、特に高濃度において、ヒドロホルミル化反応混合物の粘度を顕著に増大させることができた。CO2を有機溶媒(ここではトルエン)に添加すると有機溶媒は体積が増え、このCO2で増やした溶媒の物理的特性はCO2圧とともに変化する。それに関する一般的なことが、Jin他、「CO2で増やした媒体における、触媒を用いたオレフィンのヒドロホルミル化の増強」、AIChE Journal 第52巻(7) 2575〜2581ページ (2006年);Jin他、「CO2で増やした媒体における、触媒を用いた1-オクテンの均一なヒドロホルミル化」、Chemical Engineering Science 第59巻 4887〜4893ページ (2004年);Subramaniam他、 アメリカ合衆国特許第7,365,234号に記載されている(これらはすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0184】
透過流束は、膜フィルタのスループットの予測、サイズとその投資コストの推定をするカギとなるパラメータである。多孔性膜に大きな濃度勾配がない場合には、ポリイミド膜に関し、ハーゲン-ポワズイユの式を用い溶媒の流束と粘度を相関させた。
J=(εrp2/8ητ)・(ΔP/ι)=(εrp2/8τι)・(ΔP/η)
ここにJは溶媒の体積流束(m3/m2秒)であり、ΔPは膜を横断する圧力低下(Pa)であり、ηは溶液の粘度(kg/m秒)であり、εは膜の空孔度であり、rpは膜の小孔の半径(m)であり、τは湾曲度であり、ιは膜の厚さ(m)である。P. Vandezande他、「溶媒耐性ナノ濾過:分子レベルでの分離」、Chemical Society Reviews 第37巻(2) 365〜405ページ (2008年)を参照のこと。溶媒の流束Jは、膜を横断する圧力低下が上昇するときと粘度が低下するときに増加する。明らかに、粘度は、他のすべての膜パラメータ以外に溶媒の流束に影響を与える唯一の溶液パラメータである。膜の小孔のサイズは、使用する溶媒のタイプによって変化する可能性がある。なぜなら溶媒のタイプによって膜ポリマーの膨張状態が異なるからである。それに加え、濃度の局在と、溶液が理想的でないことは、この明細書では考慮しない。
【0185】
有機溶媒にCO2を溶かすと粘度が低下し、有機溶媒の拡散性が増大する。CO2は、他の不活性ガス(例えば窒素)と比べると、加圧ガスとしてだけでなく、有機混合物の粘度を調節する試薬としても機能することができた。トルエンさまざまなリン・配位子が溶けた有機混合物の粘度を異なるCO2圧と異なる温度で測定した結果から、CO2の調節能力に関する証拠が得られるであろう。
【0186】
粘度測定は、ViscoPro 2000システム4の中で、ケンブリッジ・アプライド・システムズ社(現在はケンブリッジ・ヴィスコシティ社)が供給しているSPL-440高圧粘度計とViscolabソフトウエアを用いて実施した。実験全体の構成は、空気バス・ユニットと、供給ポンプと、CO2供給システムからなる。一様な温度環境を得るため、Jergusonビュー・セルと循環ポンプと粘度計を収容する空気浴を、ヤマト低温炉DKN400というディジタル制御装置で制御する。Jergusonビュー・セルは5000psiにされ、全サンプルの体積は30mlである。装備を取り付けたJergusonビュー・セルを用いると、曇点と膨張データも回収することができた。循環用マイクロポンプは5000psiにされ、圧力ヘッドは75psi、最大温度は250℃である。供給ポンプ(エルデクス・ラボラトリーズ社、1020 BBB-4)を用いて有機溶媒をシステムの中に入れる。CO2をシリンジ・ポンプ(ISCOモデル260D)で加圧する。CO2を一定温度に維持するため、このポンプは循環する水浴(Isotemp 30165 Sisher Scientific)で断熱されている。最大圧力限界が30000psiのその場での圧力変換器とHeiseディジタル圧力インディケータを用いてシステムの圧力を記録する。
【0187】
粘度計は、ピストンを内部に備える円筒形セルである。流体がピストンと円筒形セル壁部の間に捕獲される。センサー本体の内部にある2つの磁気コイルがピストンを固定された距離で振動させるため、流体は、ピストンとチェンバーに挟まれた環状スペースを通り抜ける。ピストンが二方向サイクルを完了するのに必要な時間は流体の粘度に直接関係している。粘度センサーは、粘度を0.02cPから10,000cPまで測定することができ、最大動作圧力は20,000psi(1379バール)、動作温度は-40〜+190℃の範囲である。
【0188】
粘度計を45°傾け、内部に捕獲された気体の泡をすべて容易にパージできるようにする。製造者の仕様書によると、粘度測定の精度は、粘度の測定値の±1%である。粘度計の温度は、粘度計の底部に位置する温度センサーで測定され、精度は±0.01℃である。この装置から読み取る粘度の生データは、製造者が提供するプログラムを用いて温度と圧力による補正をした。
【0189】
粘度測定の前に、Jergusonビュー・セルの中で、トルエンにさまざまなリン・配位子が溶けた有機混合物の体積を増やした。この混合物にCO2を少しずつ添加し、温度と圧力が安定化した後、この混合物が雲のようになる最大CO2圧に達するまで、混合物の体積を望むそれぞれの温度と圧力で記録した。この最大CO2圧は曇点圧と呼ばれ、有機混合物が均一な状態を維持しながら許容できる最大CO2圧である。曇点は、リン・配位子の濃度が異なっているそれぞれの具体的な混合物で異なる。膨張と曇点を測定している間、曇点が近づくと粘度計をバイパスさせ、粒子による引っかき傷がピストンにつくのを防止する。
【0190】
図13に示したこの実験でテストしたシステムのうちで、純粋なトルエンと、トルエンとBiPhPhM配位子の混合物がCO2と混和し、調べた圧力と温度の範囲では曇点を示さない。ポリマーに担持された配位子PBB10b、PBP10a、PBB10cは、図面に示した最大CO2圧で沈殿する。曇点圧は温度が上昇するにつれて上昇する。曇点の測定は、本質的に動作温度と動作圧力の範囲を与える。その範囲では、CO2を添加したときにポリマーに担持された触媒が溶液の状態に留まるため、均一な触媒反応が容易になる。
【0191】
図14は、トルエンと0.7質量%のPBB10cの混合物について、4つの温度と、曇点圧よりも低い5つのCO2圧で測定した粘度を示している。粘度は、同じCO2圧では温度の上昇とともに低下し、同じ温度ではCO2圧の上昇とともに低下する。粘度は、温度30℃と60℃でCO2を40バールまで添加することによってそれぞれ50%と30%低下する。CO2圧が40バールだと、粘度は温度が変化しても無視できる程度の変化しかしないことが観察された。ヒドロホルミル化反応混合物にCO2を添加すると直線状アルデヒドの選択性が向上する(Subramaniam他、アメリカ合衆国特許第7,365,234号に示されており、この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)だけでなく、粘度も低下するため、膜流束を調節する能力が生じる。
【0192】
同じ温度において圧力が同じ55バールの窒素ではなくCO2で純粋なトルエンの流束が2〜3倍大きいことが観察されたという別の証拠により、CO2の添加によって溶媒の透過を容易にできることが証明された。トルエンと0.7質量%の濃度のPBB10cの混合物について、さまざまな温度での粘度とCO2圧の関係を図15にプロットしてある。明らかに、どの温度でも、CO2圧が上昇すると粘度は低下する。より低温では、粘度はより高温におけるよりも急速に低下する。この観察結果は、同じCO2圧だと高温よりも低温で混合物の体積の増加がより多い(CO2の溶解度がより大きい)という事実と合致している。
【0193】
より大きな濃度(1.8質量%)のポリマー結合配位子を含む系について、同じ傾向が、図16に示した粘度の温度変化と、図17に示した粘度のCO2圧による変化で観察された。
【0194】
図18は、異なる濃度のポリマーについて、60℃でCO2圧によって粘度が変化することを示している。同じ温度と同じCO2圧では、粘度はポリマーの濃度が上昇すると増大する。CO2を添加したときの粘度の低下は、ポリマーの濃度が小さい混合物と大きい混合物の両方で同様である。
【0195】
有機溶媒にCO2を溶かすと粘度が低下し、有機溶媒の拡散性が増大する。CO2は、他の不活性ガス(例えば窒素)と比べると、加圧ガスとしてだけでなく、有機混合物の粘度を調節する試薬としても機能することができた。さまざまなリン・配位子を溶かしたトルエンを用いた異なるCO2圧と異なる温度での有機混合物の粘度の測定から、CO2の調節能力に関する証拠が得られる。
【0196】
以上から、本発明は、冒頭に示したすべての目的のほか、明白であって本発明に固有の他の利点を達成するのに非常に適していることがわかるであろう。本発明の範囲を逸脱することなく、多くの可能な実施態様が可能であるため、この明細書に開示するか添付の図面に示したあらゆる事柄は、例示であって本発明を制限する意味はないことを理解すべきである。特定の実施態様を示して議論してきたが、もちろんさまざまな改変が可能であり、本発明が、この明細書に記載した部品およびステップの特定の形態や配置に限定されることはない。ただし、そのような制限が以下の請求項に含まれている場合は別である。さらに、いくつかの特徴と下位の組み合わせは有用であり、他の特徴および下位の組み合わせに言及することなく利用できるものと理解する。これは請求項によって考慮され、請求項の範囲に含まれる。
【背景技術】
【0001】
ヒドロホルミル化反応は、水素と一酸化炭素を1分子ずつ炭素-炭素二重結合に付加することで出発材料のオレフィンをそのオレフィンよりも炭素が1個多いアルデヒド生成物に変換するための触媒法として従来からよく知られている。有機基質が2つ以上の炭素-炭素二重結合を含んでいる場合には、2つ以上のホルミル基をその基質に添加することができ、そのことによって生成物分子に含まれる炭素原子の数が2個以上増える。
【0002】
触媒によって高級オレフィン(すなわち6個以上の炭素を有するオレフィン)をヒドロホルミル化する工業的方法は、いくつかの課題に直面している。それは例えば、効率的な触媒の回収/リサイクル、液体反応相へのガス性反応物質(H2とCO)の限られた溶解度などである。Frohling他、『有機金属化合物を用いた応用均一触媒作用』(VCH社、ヴァインハイム、ドイツ国)、27〜104ページ (1996年)を参照のこと。低級オレフィン法で用いられている市販の触媒は、たいていロジウムをベースとしているが、高級オレフィンのヒドロホルミル化には適用されない。なぜなら生成物の分離/蒸溜に必要な温度で不安定だからである。そのためより安価なコバルトをベースとした触媒が用いられるが、より厳しい条件(140〜200℃、5〜30 MPa)をしばしば利用して触媒を活性化させ、安定化させている。それに加え、触媒の回収には一般に、一連の多数の作業ユニットにおいて大量の溶媒、酸、塩基が関係する。GartonらのPCT国際出願WO 2003/082789を参照のこと。したがって、より穏やかな条件で非常に活性な触媒を用いて方法を強化するため、相対的により単純で環境によりやさしい触媒回収法を必要とするように設計されたシステムが望まれている。ヒドロホルミル化以外の方法(例えば水素化、酸化、カルボニル化)を実行する際にも同様の課題と必要性に遭遇する。
【0003】
触媒を回収する方法がいくつか文献に報告されている。第1の方法は、“相転移切り換え”を利用する。この方法では、一様に反応させた後、相転移を通じて生成物の蒸気から触媒を回収する。相転移が起こるきっかけとなるのは、系の温度の変化(Horvath他、「水なしの容易な触媒分離:オレフィンのフッ素二相ヒドロホルミル化」、Science 第266巻 (5182号) 72〜75ページ (1994年);Zheng他、「熱で制御される相間移動配位子と触媒作用。III。熱で制御される相間移動触媒作用による高級オレフィンの水/有機物二相ヒドロホルミル化」、Catalysis Today 第44巻 175〜182 ページ(1998年)を参照のこと)または圧力の変化(Koch他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒としたヒドロホルミル化」、Journal of American Chemical Society 第120巻 13398〜13404ページ (1998年);Palo他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒とした均一ヒドロホルミル化に対する配位子改変の効果」、Organometallics 第19巻 81〜86ページ (2000年)を参照のこと)である。
【0004】
第2の方法には、二相媒体が関係する。それは例えば、水/有機物(Peng他、「スルホン化トリフェニルホスフィン類似体からなる両親媒性配位子を有するロジウム錯体を触媒とした高級オレフィンの水性二相ヒドロホルミル化」、Catalysis Letters 第88巻 219〜225ページ (2003年)を参照のこと)、水/CO2(Haumann他、「マイクロエマルジョンの中でのヒドロホルミル化:内部長鎖アルケンから直線状アルデヒドへの水溶性コバルト触媒を用いた変換」、Catalysis Today 第79〜80巻 43〜49ページ (2003年);McCarthy他、「反転した超臨界CO2/水二相媒体での触媒作用」、Green Chemistry 第4巻(5) 501〜504ページ (2002年)を参照のこと)、室温イオン性液体/CO2 (Webb、「超臨界流体-イオン性液体二相系におけるアルケンの連続流ヒドロホルミル化」、Journal of American Chemical Society 第125巻 15577〜15588ページ (2003年)を参照のこと)である。触媒は水またはイオン性液相の中に封鎖されるのに対し、生成物は有機相またはCO2相の中へと選択的に分離される。
【0005】
第3の方法は、均一なロジウム(“Rh”)触媒をさまざまな担持体の表面に固定化し、固定された床またはスラリー型反応装置に容易に適用できる不均一な触媒を形成する操作を含んでいる。さまざまな担持体とは、ケイ酸塩MCM-41(Marteel他、「超臨界二酸化炭素の中で1-ヘキセンをヒドロホルミル化するための触媒としての担持された白金/スズ錯体」、Catalysis Communications 第4巻 309〜314ページ (2003年)を参照のこと)、ゼオライト(Mukhopadhyay他、「孔のサイズが小さい担持体と孔のサイズが中間の担持体の中に封止されたHRh(CO)-(PPh3)3:ヒドロホルミル化のための新しい不均一触媒」、Chemical Materials 第15巻 1766〜1777ページ (2003年)を参照のこと)、ナノチューブ(Yoon他、「オレフィンのヒドロホルミル化用のRhをベースとした触媒と、固定化用担持体のサイズに依存したその触媒活性の変化」、Inorganica Chimica Acta. 第345巻 228〜234ページ (2003年)を参照のこと)、担持された水相触媒作用(“SAPC”)(Dessoudeix他、「 担持された水相触媒作用(SAPC)のための新しいスマートな固体としてのアパタイト性リン酸三カルシウム」、Advanced Synthetic Catalysis 第344巻 406〜412ページ (2002年)を参照のこと)、ポリマー(Lu他、「樹脂表面のリサイクル可能なロジウム錯体化デンドリマーとのヒドロホルミル化反応」、Journal of American Chemical Society 第125巻 13126〜13131ページ (2003年)と、Lopez他、「超臨界二酸化炭素の中での1-オクテンのヒドロホルミル化におけるポリマーに担持されたロジウム触媒の評価」、Industrial & Engineering Chemistry Research 第42巻 3893〜3899ページ (2003年)を参照のこと)である。しかしこのような方法には、市場で生き残ることを妨げる以下のようないくつかの欠点が相変わらず存在している:(a)担持体からの金属の浸出;および/または(b)均一な対応物と比べて低下した活性と選択性;および/または(c)得られる不均一触媒の一様でない構造;および/または(d)拡散が邪魔されることによる質量移動の制限;および/または(e)低い活性;および/または(f)大きな作業圧および/または高い作業温度。
【0006】
以前にいくつかの研究グループが、ロジウム触媒のリサイクルを容易にするポリスチレン担持体を開発している。Uozumi他、「水中でのC-C結合形成反応のための、VII-B-1両新媒性樹脂に担持されたロジウム-ホスフィン触媒」、Synth. Catal. 第344巻 274ページ(2002年);Otomaru他、「両新媒性樹脂に担持されたBINAP配位子の調製と、その配位子を利用して水中でロジウムを触媒としてフェニルボロン酸を非対称に1,4-付加すること」、Org. Lett. 第6巻 3357ページ (2004年);Miao他、「イオン性液体の助けを借りたアタパルジャイト表面へのRhの固定化と、それを応用したシクロヘキサン水素化」、J. Phys. Chem. C 第111巻 2185〜2190ページ (2007年);Grubbs他、「ポリマーに担持されたロジウム(I)触媒を触媒として用いたオレフィンの還元」、J. Am. Chem. Soc. 第93巻 3062〜3063ページ (1971年);Nozaki他、「高度に架橋したポリマー・マトリックスにおけるオレフィンの非対称ヒドロホルミル化」、J. Am. Chem. Soc. 第120巻 4051〜4052ページ (1998年);Nozaki他、「高度に架橋したポリマー・マトリックスにおけるオレフィンの非対称ヒドロホルミル化」、Bull. Chem. Soc. Jpn. 第72巻 1911〜1918ページ (1999年);Shibahara他、「高度に架橋したポリスチレンに担持された(R,S)-BINAPHOS-Rh(I)錯体を触媒とした、溶媒なしの非対称なオレフィン・ヒドロホルミル化」、J. Am. Chem. Soc. 第125巻 8555〜8560ページ (2003年)。しかし典型的なポリマー担持体は、不溶性、ゲル形成、ポリマーを膨張させるための退屈な手続き、ポリマー骨格へのリン・配位子の限られた負荷(例えば0.17ミリモル/g)といった深刻な制約を抱えている。これらの課題の多くは、市場で購入するポリマー、またはスチレンのラジカル重合という従来法によって調製されるポリマーが、大きな分子量および/または分子量の広い分布を持つという事実と関係している。したがってこのようなポリマーは溶解度が小さい。ゲル相または固相の触媒を用いた反応の速度がより遅いことも、実際上は重要な効果を持つ。例えばエノンへのアリールボロン酸の共役付加には、高価なボロン酸の加水分解と競合するという問題がある。触媒がより遅いほど、加水分解がより起こりやすい。したがってポリスチレンに担持された不均一触媒を共役付加で用いるときには、4〜5倍の過剰なボロン酸が必要とされる。
【0007】
本発明の発明者は、CO2で増やした液体(“CXL”)を反応媒体として使用することにより注目するようになった。CXLは、さまざまな量の高密度相の二酸化炭素を有機溶媒に添加したときに生じる圧縮可能な連続媒体である。CXLは、反応と環境の両方で利点がある。臨界に近い二酸化炭素は、ガス様の拡散性から液体様の粘度まで、非常に調節しやすい輸送特性を有する。Subramaniam他、「超臨界流体の中での反応 - 概説」、Industrial & Engineering Chemistry Process Design and Development 第25巻 1〜12ページ (1986年)を参照のこと。高密度CO2の存在は、CXLにも同様の調節可能性を与える。CXLへの多くのガス試薬(すなわちCO2、H2)の溶解度は、純粋な液相(すなわちいかなるCXLもない液相)と比べて数倍増加する。Hert他、「二酸化炭素を用いた1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドへの酸素とメタンの溶解度の増加」、Chemical Communications 第20巻 2603〜2605ページ (2005年);Wei他、「CO2で増やした液体中の酸素によるコバルト・シッフ塩基触媒を用いた2,6-ジ-t-ブチル-フェノールの自動酸化」、Green Chemistry 第6巻 387〜393ページ (2004年);Solinas他、「イオン性液体/二酸化炭素媒体中でのイミンのエナンチオ選択性水素化」、Journal of American Chemical Society 第126巻 16142〜16147ページ (2004年);Bezanehtak他、「二酸化炭素 + 水素 + メタノール 三元系のための蒸気-液体平衡」、Journal of Chemical Engineering Data 第49巻 430〜434ページ (2004年);Xie他、「三元系である二酸化炭素 + メタノール + 水素の313.2Kでの沸点と露点の測定」、Journal of Chemical Engineering Data 第50巻 780〜783ページ (2005年)を参照のこと。たいていの遷移金属錯体は超臨界CO2(ScCO2)にほんのわずかしか溶けないが、適量の有機液体がCXLの中に存在していると、CXL相の中で均一な触媒反応をさせるのに十分な可溶性が遷移金属錯体に保証される。さらに、このような溶解度は、scCO2媒体の中でフッ素化配位子を用いてRh触媒錯体を可溶化するのに必要とされるよりも数桁小さい圧力で実現される。Palo他、「超臨界二酸化炭素の中でのロジウムを触媒とした均一なヒドロホルミル化に対する配位子改変の効果」、Organometallics 第19巻 81〜86ページ (2000年)を参照のこと。
【0008】
最近、本発明の発明者は、CO2で増やしたアセトンの中で改変していないロジウム触媒を用いた均一なヒドロホルミル化を報告した。Jin他、「CO2で増やした溶媒媒体の中で、触媒を用いた1-オクテンの均一なヒドロホルミル化」、Chemical Engineering Science 第59巻 4887〜4893ページ (2004年)を参照のこと。30℃と60℃では、CO2で増やしたアセトンにおける交代頻度(“TOF”)は、純粋なアセトン(極性溶媒)または圧縮CO2で得られる場合の4倍までの大きさであった。CXLにおける増加した速度は、溶媒の大量の交換(体積で80%まで)と、穏やかな作業圧(12MPa未満)で実現された。ヒドロホルミル化の速度は増大したが、直線状アルデヒドと分岐したアルデヒドに対する位置選択性(n/i比)は、アセトン/CO2比または温度の変化の影響を受けないままだった。Subramaniamらのアメリカ合衆国特許第7,365,234号(参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)には、改善されたヒドロホルミル化法が記載されていた。液相中の圧縮ガスの量を変えると、生成物の化学的選択性が変化する。それに加え、液体中の圧縮ガスの中身を変えると、生成物の位置選択性が変化する。添加する圧縮ガスの量を増やしていくと、驚くべきことに、ヒドロホルミル化の間の分岐したアルデヒドに対する直線状アルデヒドの比が改善され、逆も同様である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、可溶性ポリマーに担持されたロジウム触媒として分子量の分布が狭いものを調製した。この化合物は、沈殿と濾過によって容易にリサイクルすることができる。分子量の制御に加え、多座式にRhが結合できるポリマー担持体を設計することが重要であった。このような結合は、ロジウム触媒を特定部位によりよく隔離するとともに、ポリマーからロジウムが漏れることを防止することが予想された。さらに、このような触媒はCXLで使用できることがわかった。
【0010】
本発明は、新規な触媒組成物とその利用法に関する。この触媒組成物は、遷移金属含有化合物を結合させるための多座配位子を用いて官能化したポリマーを含んでいる。この官能性ポリマーは、遷移金属とで遷移金属錯体を形成する。1つの特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が約5,000〜30,000g/モルであり、多分散性指数が約1.0〜2.0である。別の特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が、約5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000g/モルのいずれか、またはその間の範囲である。この官能性ポリマーは、例えば、約6,000〜25,000 g/モル、7,000〜20,000 g/モル、8,000〜15,000 g/モル、9,000〜12,000 g/モルからなる範囲の中から選択した数平均分子量を持つことができる。さらに別の特徴では、多分散性指数は、約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0のいずれか、またはその間の範囲である。好ましい触媒組成物は、ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2' ジイル)ビス(オキシ)ジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピンを含んでいる。
【0011】
別の1つの特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレンイミン、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンイミノ二酢酸)、ポリファゼン、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、樹枝状ポリマーからなるグループの中からなされ、その中にはこれらのブロックポリマーまたはコポリマーが含まれる。官能基は、1つ以上のモノマー(この明細書に記載したように、例えば実施例1の化合物(5)やスチレン)との共重合によってポリマー鎖に結合させることができる。あるいは官能性ポリマーは、すでに形成されているポリマーを官能化することによって調製できる。そのことが、例えばBergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。官能性ポリマーは、架橋されていてもいなくてもよい。1つの特徴では、ポリマーは架橋しており、架橋モノマーのモル数に対するモノマーのモル数が8〜12の範囲の架橋比を持つ。ポリマー骨格のクラスの例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に開示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0012】
1つの特徴では、官能性ポリマー(例えばポリスチレン)は、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を含むことが好ましい。別の特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、配位子は、ホスフィン部分、ホスフィナン部分、ホスフィニン部分、ホスフィナイト部分、亜リン酸塩部分、亜ホスホン酸塩部分のいずれかを含んでいる。官能性ポリマーの一例として、亜リン酸塩をベースとした二座配位子がある。ビス(リン酸塩)官能性ポリマー・配位子は、遷移金属(ロジウム)を2つの亜リン酸塩で封鎖することができる。
【0013】
別の特徴では、触媒組成物は、金属のモル数に対するスチレン・モノマーのモル数が約1 :10〜1:20 モル:モルの比でポリエステルに共有結合するかキレート化された遷移金属錯体を有する。
【0014】
別の特徴では、遷移金属錯体の遷移金属の選択は、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる。
【0015】
さらに別の特徴では、本発明は、反応物質と、基質と、この明細書に記載した触媒組成物とを含む反応混合物に関する。この反応混合物は、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0016】
反応混合物の少なくとも一部は液相であることが好ましい。基質と触媒は液相であることが好ましい。反応物質も液相であってよい(例えば過酸化水素を用いた酸化可能な基質の酸化)。反応混合物に含まれる基質は、ケトン、アルデヒド、エノン、エナール、オレフィン、アルキン、アルコール、酸化可能な基質のいずれか、またはこれらの混合物を含むことができる。反応物質は、CO、O2、H2、H2/CO合成ガスからなるグループの中から選択した反応ガスを含むことができる。
【0017】
別の特徴では、圧縮ガスを反応混合物に添加する。圧縮ガスは不活性ガスであることが好ましく、例えば窒素、二酸化炭素、キセノン、SF6、アルゴン、ヘリウムからなるグループの中から選択される。反応物質は、やはり圧縮ガスである反応ガスを含んでいてもよいことがわかるであろう。
【0018】
さらに別の特徴では、圧縮ガスを反応混合物に添加してその反応混合物の体積を増やす。圧縮ガスを添加すると反応混合物の液相の粘度も低下する。したがって本発明により、例えば改善されたヒドロホルミル化法として、圧縮ガス(例えば超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素)で体積を増やした状態の液体の中で、本発明のヒドロホルミル化触媒組成物の存在下にてオレフィンをCOおよびH2と反応させる操作を含む方法が提供される。
【0019】
体積増加用の圧縮ガスの選択は、一般に、二酸化炭素、N2O、キセノン、SF6からなるグループの中からなされるが、コストと使用しやすさが理由で、加圧された亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素が通常は選択されるガスである。体積増加用ガスは、反応混合物の中に、触媒を沈殿させるよりも少ないレベルで存在している。すなわち触媒は、通常は反応混合物中で最も溶けにくい成分であり、よい結果を得るには、反応混合物の中に一様に溶けた状態に留まっていなければならない。したがって体積増加用ガスは、この明細書に記載した分子量と狭いPDIを持つポリマーをベースとした本発明の触媒組成物が一様に溶けている状態が維持されるレベルで導入される。このレベルは、もちろん反応混合物の成分(特に触媒)によって変化する。したがって通常は、個々の反応混合物に合わせることのできる体積増加用ガスを補充する程度をあらかじめ決めておく必要がある。Subramaniamの「超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素で体積を増やした有機溶媒媒体の中での遷移金属錯体触媒による有機基質の酸化」という名称のアメリカ合衆国特許第6,740,785号と、Subramaniamの「二酸化炭素で増やした液体との触媒ヒドロホルミル化反応における生成物の選択性の調節」という名称のアメリカ合衆国特許第7,365,234号を参照のこと(これらはすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。圧縮ガスは、液相中の体積が典型的には10%〜90%である。上述のように、反応物質は、反応混合物の液相の体積を増やすのに用いるやはり圧縮ガスである反応ガスを含むことができる。
【0020】
別の特徴では、多座配位子で官能化した本発明のポリマーを含む触媒組成物は、リサイクル可能である。したがって本発明は、反応混合物から触媒組成物を分離する方法にも関する。この方法のステップには、反応物質と、基質と、場合によっては含まれる溶媒と、この明細書に記載した触媒とを含む反応混合物を形成する操作が含まれる。基質と触媒組成物は液相である。次に、液相をフィルタで濾過して保持組成物と透過組成物を形成する。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。遷移金属の全損失量は10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、2%未満であることが最も好ましい。
【0021】
そこで1つの特徴では、本発明において、(a)遷移金属(例えばRh)がポリマーに担持されたかさばる触媒錯体を特別に設計して合成し、そのかさばる錯体が実質的に保持組成物の中に保持されるようにすることで、Rhと他の金属がナノ濾過膜を通過して透過組成物の中に漏れる量を数十ppbまで下げ;(b)圧縮ガスで増やした液体(例えばCXL)を用いて濾過される液相の粘度を下げ、そのことによって濾過速度を向上させ;(c)圧縮ガスで増やした液体(例えばCXL)をナノ濾過装置/反応装置の中で用いて連続的に反応させることで、CXLによってもたらされる方法強化の利点と改善された選択性を利用するだけでなく、生成物をナノ濾過膜で分離すると同時に触媒組成物を保持組成物の中に実質的に保持することにより、ナノ濾過が利用される。
【0022】
一例として、本発明は、狭い分子量分布と小さなPDIを持つ可溶性のポリマーに担持された二座亜リン酸塩配位子を含んでいてRh含有化合物に結合する触媒組成物に関する。その結果として、官能性ポリマーのより大きな分子量の部分がCXLの中に沈殿することと、官能性ポリマーのより小さな分子量の部分が(結合したRhとともに)膜を通過して漏れることが同時に回避される。沈殿と漏れによって触媒の活性と金属が失われるが、その両方とも、このプロセスにとって経済的な損害となる。さらに、圧縮ガス(例えばCO2)の使用により、ナノ濾過の圧力が提供されるだけでなく、錯体が沈殿することなく溶液に溶けるために溶液の粘度も下がる。
【0023】
本発明の触媒組成物を用いたヒドロホルミル化反応とそれ以外の反応は、0.2〜30MPa、0.3〜20MPa、0.5〜10MPa、1〜5MPaからなるグループの中から選択した圧力範囲で起こることが好ましい。本発明の触媒組成物を用いた反応は、10〜200℃、15〜150℃、20〜100℃、25〜80℃からなるグループの中から選択した温度範囲で起こることが好ましい。圧力および/温度は一定でもよいし、反応の間に変化してもよい。
【0024】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物は、ヒドロホルミル化反応で用いるのに特に適しており、その反応において、ポリマーに担持された本発明の触媒組成物がリサイクルされる。したがって本発明は、COとH2を反応物質として含む反応混合物を形成するステップを含むヒドロホルミル化法に関するものであり、そのステップでは、遷移金属と錯体を形成する官能性ポリマーを含む触媒組成物と、オレフィン基質が液相である。液相は、圧縮ガス(例えば圧縮二酸化炭素)を反応混合物に添加することによって体積を増やした状態であることが好ましい。次に、液相をフィルタを通過させて保持組成物と透過組成物を形成し、保持組成物が触媒組成物を保持してリサイクルされるようにする。好ましいヒドロホルミル化触媒組成物は、ロジウム含有化合物とリン含有配位子をポリマー(例えばビス(亜リン酸塩) ポリスチレン)の中に含んでいる。有機溶媒(例えばアセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン)を液相の反応混合物に添加することができる。このプロセスは、30℃〜90℃の温度と12MPa未満の圧力に維持することが好ましい。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0025】
この明細書に記載してあるように、触媒組成物は、ナノ濾過技術を利用してリサイクルできる。透過組成物は、遷移金属の濃度が100ppb未満であることが期待される。この濃度は50ppb未満であることが好ましく、30ppb未満であることさえ好ましい。例えばこの明細書に記載した触媒組成物の例では、保持液のロジウムの濃度は約250ppmであるのに対し、透過液のロジウムの濃度は30ppb未満である。
【0026】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物を酸化反応で使用し、この反応で金属触媒組成物をリサイクルする。圧縮ガスは、酸素、空気、またはこれらの組み合わせの中から選択したガスを含むことができる。過酸化水素を基質とともに液相で用意することにより、過酸化水素も酸化剤として使用できる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0027】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物を水素化反応で使用し、この反応で金属触媒をリサイクルする。圧縮ガスはH2を含んでいる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0028】
さらに別の特徴では、本発明の触媒組成物をカルボニル化反応で使用し、この反応で金属触媒をリサイクルする。圧縮ガスはCOを含んでいる。反応ステップと濾過ステップは、バッチ式で実施しても連続式で実施してもよい。
【0029】
本発明の別の特徴と、それに伴う利点および新規な特徴は、一部が以下の説明に現われるであろうし、一部が以下の説明を検討したときに当業者に明らかになろう。あるいはそのような特徴と利点は、本発明を実施することで学べる可能性がある。本発明の目的と利点は、添付の請求項で特に指摘する手段と組み合わせによって実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】化合物PPB10(8)の31P NMRスペクトルである。
【図1B】Rh(acac)(CO)2と結合した後の化合物PPB10(8)の31P NMRスペクトルである。
【図2】実施例で利用した膜濾過装置である。
【図3】各配位子を含む触媒溶液の濾過前、濾過中、濾過後の透過流束である。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa;初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。
【図4】溶けたさまざまな触媒と配位子の組み合わせを含む溶液のバッチ式濾過について、透過液に含まれているロジウムの濃度と通過するRhを示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。初期触媒溶液:体積=40〜60ml、[Rh]=70〜110ppm、[P]=90〜300ppm、モルP/Rh比=4〜8。
【図5】異なる配位子を含む各触媒溶液について、透過液に含まれているロジウムの濃度と通過するRhを示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa;初期触媒溶液の約半分をそれぞれの場合に濾過した。初期触媒溶液:体積= 40〜60ml、[Rh]=70〜110ppm、[P]=90〜300ppm、モルP/Rh比=4〜8。
【図6】1回目の連続濾過操作について、膜流束と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液:[Rh]=121ppm、[P]=144ppm、モルP/Rh比=4。
【図7】2回目の連続濾過操作について、膜流束と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を示している。濾過条件:T=21℃かつ一定の窒素圧1.0MPa。初期触媒溶液:[Rh]=117ppm、[P]=142ppm、モルP/Rh比=4。作業をしていない間は、触媒溶液を1.0MPaの窒素圧でMETセルの中に密封した。
【図8】インサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。
【図9】合成ガスの圧力をさまざまにしてインサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。実験条件:T=60℃、合成ガスの圧力一定、最初の15時間はP=0.6MPa、次の15時間はP=2.0MPa、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=139ppm、[P]=184ppm、モルP/Rh比=4.4.。最初の15時間の操作終了時に触媒溶液をMETセルの中に密封した。反応は継続し、過剰な1-オクテンを含む触媒溶液は、最終的に合成ガスが欠乏した環境になるであろう。
【図10】1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化操作を2回続けて行なったときの透過液に含まれるRhとPの濃度を示している。実験条件:T=60℃、合成ガスの圧力一定、最初の15時間はP=0.6MPa、次の15時間はP=2.0MPa 、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=139ppm、[P]=184ppm、モルP/Rh比=4.4。最初の15時間の操作終了時に触媒溶液をMETセルの中に密封した。反応は継続し、過剰な1-オクテンを含む触媒溶液は、最終的に合成ガスが欠乏した環境になるであろう。
【図11】インサイチュ膜を用いた1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化の実験結果を示している。実験条件:T=50℃、合成ガスの圧力一定、P=3.0MPa、配位子:PBB10d;初期触媒溶液:[Rh]=241.6ppm、[P]=400.4ppm、モルP/Rh比=5.6。
【図12】図11に示した1-オクテンの連続的ヒドロホルミル化操作で透過液に含まれるRhとPの濃度を示している。
【図13】さまざまな混合物の異なる温度における曇点圧を示している。
【図14】さまざまな温度とさまざまなCO2圧でのトルエン+0.7%のPBB10cの粘度を示している。
【図15】トルエン+0.7質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまな温度でCO2圧とともにどう変化するかを示している。
【図16】トルエン+1.8質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまなCO2圧で温度とともにどう変化するかを示している。
【図17】トルエン+1.8質量%のPBB10cの混合物の粘度がさまざまな温度でCO2圧とともにどう変化するかを示している。
【図18】60℃のトルエン + 1.0質量%のPBB10cの混合物とトルエン + 0.7質量%のPBB10cの混合物について、粘度とCO2圧の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この明細書では、“二酸化炭素で増やした液体”または“CXL”という用語は、高密度相の二酸化炭素を有機液体媒体に添加するときに生じる連続した圧縮可能媒体を表わす。通常は、加圧した亜臨界二酸化炭素または腸臨界二酸化炭素が、選択されるガスである。
【0032】
この明細書では、“高級オレフィン”という用語は、鎖の中に6個以上の炭素を有するオレフィンを表わす。
【0033】
この明細書では、“内部”オレフィンという用語は、二重結合が、α-オレフィンとは異なって末端になく、オレフィン分子の内部に位置するオレフィンである。
【0034】
この明細書では、“交代頻度”または“TOF”という用語は、一定時間のバッチ実行中に1時間で触媒1モルにつき任意の生成物へと変換される基質(例えば1-オクテン)のモル数を表わす。
【0035】
この明細書では、“化学選択性”または“Sa”という用語は、ヒドロホルミル化プロセスの間に変換される基質(例えばオクテン)のモル数に対する、形成されるアルデヒドまたはオクテン異性体のモル数を表わす。
【0036】
この明細書では、“位置選択性”または“n/i”という用語は、生成物中の分岐アルデヒドに対する直線状アルデヒドの比を表わす。
【0037】
この明細書では、“遷移金属錯体”という用語は、遷移金属イオンと、ポリマー骨格に結合した配位子とを含む独立した分子を意味する。1つの特徴では、遷移金属錯体は配位化合物である。別の特徴では、金属錯体は“有機金属錯体”である。これは、その錯体が、遷移金属イオンと、炭素含有化合物を含む配位子上の炭素とに挟まれていることを意味する。本発明の金属錯体出発材料を形成するための適切な遷移金属として、例えばCo、Cr、Fe、V、Mg、Ni、Ru、Zn、Al、Sc、Zr、Ti、Sn、La、Os、Yb、Ceといった遷移金属がある。好ましい遷移金属イオンは、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中から選択される。
【0038】
この明細書では、“多分散性”または“多分散性指数”という用語は、ポリマーの重量平均分子量とポリマーの数平均分子量の関係を表わす。より詳細には、多分散性指数は、重量平均分子量と数平均分子量の比である。
【0039】
本発明は、新規な触媒組成物とその利用法に関する。この触媒組成物は、遷移金属含有化合物と結合して遷移金属錯体を形成するための多座配位子で官能化されたポリマーを含んでいる。この官能性ポリマーは、遷移金属とで遷移金属錯体を形成する。この官能性ポリマーは、数平均分子量が5,000〜30,000g/モルであり、多分散性指数が約1.0〜2.0である。別の特徴では、この官能性ポリマーは、数平均分子量が、約5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、1 1,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000g/モルのいずれか、またはその間の範囲である。この官能性ポリマーは、例えば、約6,000〜25,000g/モル、7,000〜20,000g/モル、8,000〜15,000g/モル、and 9,000〜12,000g/モルからなる範囲の中から選択した数平均分子量を持つことができる。多分散性指数は、約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0のいずれか、またはその間の範囲である。
【0040】
官能性ポリマーの選択は、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピロリジン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレンイミン、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンイミノ二酢酸)、ポリファゼン、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、樹枝状ポリマーからなるグループの中からなされ、その中にはこれらのブロックポリマーやコポリマーが含まれる。官能基は、1つ以上のモノマー(この明細書に記載してあるように、例えば実施例1の化合物(5)とスチレン)との共重合によってポリマー鎖に結合させることができる。あるいは官能性ポリマーは、すでに形成されているポリマーを官能化することによって調製できる。その例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)に示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。官能性ポリマーは、架橋していてもいなくてもよい。1つの特徴では、ポリマーは架橋しており、架橋モノマーのモル数に対するモノマーのモル数が8〜12という架橋比を持つ。ポリマー骨格のクラスの例が、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10), 3345〜3384ページ (2002年)に開示されている(この論文は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0041】
官能性ポリマー(例えばポリスチレン)は、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を含むことが好ましい。 別の特徴では、官能性ポリマーの選択は、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、配位子は、この明細書に開示されているようなホスフィン部分、ホスフィナン部分、ホスフィニン部分、ホスフィナイト部分、亜リン酸塩部分、亜ホスホン酸塩部分のいずれかを含んでいる。官能性ポリマーの一例として、亜リン酸塩をベースとした二座配位子がある。ビス(リン酸塩)官能性ポリマー・配位子は、遷移金属(ロジウム)を2つの亜リン酸塩で封鎖することができる。
【0042】
本発明は、反応剤と、基質と、この明細書に記載した触媒組成物とを含む反応混合物に関する。この反応混合物は、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0043】
ヒドロホルミル化反応混合物
【0044】
ヒドロホルミル化は、均一な反応系の中で実施する。“均一な反応系”という用語は、一般に、ガスで増やした液体(例えばCXL)と、この明細書に記載した触媒組成物と、合成ガスと、オレフィン型不飽和化合物と、反応生成物とからなる一様な溶液を表わす。
【0045】
触媒組成物に含まれるロジウム化合物(または他の遷移金属化合物)の量には特に制限がないが、場合によっては、触媒の活性と経済に関して好ましい結果が得られるように選択される。一般に、反応媒体に含まれるロジウムの濃度は、遊離金属として計算して10〜10,000ppmである。この量は、50〜500ppmであることがより好ましい。
【0046】
合成ガス中の一酸化炭素と水素の体積比は、一般に、10:1〜1:10の範囲である。この比は6:1〜1:6であることが好ましく、2:1〜1:2であること、特に1:1であることが最も好ましい。
【0047】
本発明のオレフィン基質として、少なくとも1つのエチレン型不飽和官能基(すなわち炭素-炭素二重結合)を有する任意の有機化合物が可能であり、例えば芳香族オレフィン、脂肪族オレフィン、芳香族-脂肪族混合オレフィン(例えばアラルキル)、環式オレフィン、分岐鎖オレフィン、直鎖オレフィンが挙げられる。好ましいオレフィンはC2〜C20オレフィンであり、最も好ましいのは“高級オレフィン”である。これは、6個以上の炭素原子を含む化合物を表わす。オレフィンには2つ以上の炭素-炭素二重結合が存在していてもよいため、ジエン、トリエンや、他の多不飽和基質も使用できる。オレフィンは、場合によっては炭化水素置換基以外の置換基を含んでいてもよい。そのような置換基として、ハロゲン化物、カルボン酸、エーテル、ヒドロキシ、チオール、ニトロ、シアノ、ケトン、エステル、無水物、アミノなどがある。
【0048】
本発明の方法に適したオレフィンの例として、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、イソプレン、1-ヘキセン、3-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、ジイソブチレン、1-ノネン、1 -テトラデセン、ペンタミルセン、カンフェン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1 -テトラデセン、1-ペンタデセン、1 -ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、プロピレンの三量体と四量体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、メタリルケトン、アリルクロリド、アリルブロミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、クロチルクロリド、メタリルクロリド、ジクロロブテン、アリルアルコール、炭酸アリル、酢酸アリル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、不飽和トリグリセリド(例えばダイズ油)、不飽和脂肪酸(例えばオレイン酸、リノレン酸、リノール酸、エルカ酸、パルミトレイン酸、リシノレイン酸と、これらのエステル(その中には、モノグリセリドエステル、ジグリセリドエステル、トリグリセリドエステルが含まれる))、アルケニル芳香族化合物(例えばスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,2-ジヒドロナフタレン、インデン、スチルベン、シンナミルアルコール、2-メチル-1-フェニル-1-プロペン、2-メチル-3-フェニル-2-プロペン-1-オール、酢酸シンナミル、シンナミルブロミド、シンナミルクロリド、4-スチルベンメタノール、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-t-ブチルスチレン、α-クロロスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、ビニルベンジルクロリド、ビニルナフタレン、ビニル安息香酸、α-アセトキシスチレン、α-ヒドロキシスチレン (すなわちビニルフェノール)、2-メチルインデン、3-メチルインデン、2,4,6-トリメチルスチレン、1-フェニル-1-シクロヘキセン、1,3-ジイソプロペニルベンゼン、ビニルアントラセン、ビニルアニソール)などがある。
【0049】
一例では、オレフィンは脂肪化合物(例えばモノ不飽和遊離脂肪酸、 ポリ不飽和遊離脂肪酸、脂肪エステル、トリグリセリド油、または他の脂肪由来材料)である。適切なオレフィンは、Frankelのアメリカ合衆国特許第4,083,816号に記載されている(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0050】
これらのうちで、直線状の高級オレフィンが最も好ましい。オレフィンは、反応混合物の約0.1〜99.99モル%が存在していることが好ましい。当業者には、反応が起こる液相中のオレフィンの濃度(すなわち利用可能性)が最も重要であることがわかるであろう。沸点が低いオレフィンでは、これは作業圧力と作業温度によって決まる。
【0051】
本発明のヒドロホルミル化触媒組成物は、触媒を用いた変換を実行できる任意の遷移金属を含んでいる。この点に関して任意の遷移金属が考えられる。好ましい金属は、周期表のVIII族 (8〜10族)に含まれる金属である。ヒドロホルミル化のための好ましい金属は、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金である。VIII族の金属はロジウムであることが好ましい。
【0052】
ヒドロホルミル化に適したVIII族の触媒は、従来からよく知られている技術に従って調製すること、または生成させることができる。
【0053】
ポリマーに組み込まれる配位子は単座または多座が可能であり、キラル・配位子の場合には、ラセミ化合物、1つの鏡像異性体、ジアステレオマーのいずれかを使用できる。好ましい配位子は、ドナー原子として窒素、リン、ヒ素、アンチモンのいずれかを含む配位子である。特に好ましいのはリン含有配位子であり、例えばホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩などがある。
【0054】
ホスフィンの例は、トリフェニルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(m-トリル)ホスフィン、トリス(o-トリル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、プロピルジフェニルホスフィン、t-ブチルジフェニルホスフィン、n-ブチルジフェニルホスフィン、n-ヘキシルジフェニルホスフィン、c-ヘキシルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(1-ナフチル)ホスフィン、トリ-2-フリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、ベンジルジフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-i-ブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、ビス(2-メトキシフェニル)フェニルホスフィン、ネオメンチルジフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(2,5-ジエチルホスホラノ)ベンゼン [Et-DUPHOS]、1,2-ビス(2,5-ジエチルホスホラノ)エタン [Et-BPE]、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス(ジメチルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(2,5-ジメチルホスホラノ)ベンゼン [Me-DUPHOS]、1,2-ビス(2,5-ジメチルホスホラノ)エタン [Me-BPE]、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン [NORPHOS]、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル [BINAP]、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビフェニル [BISBI]、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1 ,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、2,2'-ビス(ジ-p-トリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル、O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン [DIOP]、2-(ジフェニルホスフィノ)-2'-メトキシ-1,1'-ビナフチル、1-(2-ジフェニルホスフィノ-1-ナフチル)イソキノリン、1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィンである。
【0055】
ホスフィナンの例として、2,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1-オクチル-4-フェニルホスフィナン、1-オクチル-2,4,6-トリフェニルホスフィナンや、WO 02/00669に記載されているさらに別の配位子がある。
【0056】
ホスフィニンの例として、2,6-ジメチル-4-フェニルホスフィニン、2,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-4-フェニルホスフィニンや、WO 00/55164に記載されているさらに別の配位子がある。
【0057】
亜リン酸塩は、 ホスホン酸トリメチル 、ホスホン酸トリエチル、ホスホン酸トリ-n-プロピル、ホスホン酸トリ-i-プロピル、ホスホン酸トリ-n-ブチル、ホスホン酸トリ-i-ブチル、ホスホン酸トリ-t-ブチル、ホスホン酸トリス(2-エチルヘキシル)、ホスホン酸トリフェニル、ホスホン酸トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)、ホスホン酸トリス(2-t-ブチル-4-メトキシフェニル)、ホスホン酸トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)、ホスホン酸トリス(p-クレシル)である。さらに別の例は、立体障害の亜リン酸塩配位子であり、それが記載されているのは特に、ヨーロッパ特許第155 508号;アメリカ合衆国特許第4,668,651号;アメリカ合衆国特許第4,748,261号;アメリカ合衆国特許第4,769,498号;アメリカ合衆国特許第4,774,361号;アメリカ合衆国特許第4,835,299号;アメリカ合衆国特許第4,885,401号 ;アメリカ合衆国特許第5,059,710号;アメリカ合衆国特許第5,113,022号;アメリカ合衆国特許第5,179,055号;アメリカ合衆国特許第5,260,491号;アメリカ合衆国特許第5,264,616号;アメリカ合衆国特許第5,288,918号;アメリカ合衆国特許第5,360,938号;ヨーロッパ特許第472 071号;ヨーロッパ特許第518 241号 ;WO 97/20795である。フェニル環上で(ホスホン酸エステル基に対してオルト位が好ましい)1個または2個のイソプロピル基および/またはt-ブチル基によって置換されたホスホン酸トリフェニルを用いることが好ましい。特にヨーロッパ特許第1 099 677号;ヨーロッパ特許第1 099 678号;WO 02/00670;日本国特開10-279587;ヨーロッパ特許第472017号;WO 01/21627;WO 97/40001;WO 97/40002;アメリカ合衆国特許第4,769,498号;ヨーロッパ特許第213639号;ヨーロッパ特許第214622号に記載されているビス亜リン酸塩配位子を用いることが好ましい。
【0058】
通常用いられるホスフィナイト・配位子は、特に、アメリカ合衆国特許第5,710,344号;WO 95/06627;アメリカ合衆国特許第5,360,938号;日本国特開07082281に記載されている。例は、ジフェニル(フェノキシ) ホスフィンと、その誘導体のうちで水素原子のすべてまたはいくつかがアルキル基、アリール基、ハロゲン原子のいずれかで置換されたもの、ジフェニル(メトキシ)ホスフィン、ジフェニル(エトキシ)ホスフィンなどである。
【0059】
亜ホスホン酸塩の例は、メチルジエトキシホスフィン、フェニルジメトキシホスフィン、フェニルジフェノキシホスフィン、6-フェノキシ-6H-ジベンズ[c,e][1,2]オキサホスホリンと、これらの誘導体のうちで水素原子のすべてまたはいくつかがアルキル基、アリール基、ハロゲン原子のいずれかで置換されたものと、WO 98/43935;日本国特開09-268152;ドイツ国特許第198 10 794号、ドイツ国特許出願第199 54 721号と第199 54 510号に記載されている配位子である。
【0060】
例として調べた触媒の構造は、Subramaniamらのアメリカ合衆国特許第7,365,234号にまとめられている(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0061】
液体反応混合物に含まれるロジウムの濃度は、一般に、10〜500重量ppmである。この値は30〜350ppmであることが好ましく、50〜300ppmであることが特に好ましい。
【0062】
本発明のヒドロホルミル化法は、溶媒の存在下で実施できることが望ましい。一般に、溶媒の極性が位置選択性に影響を与え、非極性溶媒は一般により大きなn/i比となる。圧縮ガス(例えばCO2)を溶媒に添加すると、溶媒系の極性を連続的に調節してより非極性の系にすることができる。溶媒として、個々のオレフィンをヒドロホルミル化する際に形成されるアルデヒドと、その下流反応生成物でより沸点の高いもの、すなわちアルドール縮合の生成物を用いることが好ましい。同様に適している溶媒は、オレフィンそのもの、芳香族化合物(例えばトルエンやキシレン)、炭化水素または炭化水素混合物である。これらも、上記のアルデヒドと、アルデヒドの下流生成物を希釈するのに役立つ。可能なさらに別の溶媒は、脂肪族カルボン酸とアルカノールのエステル(例えば酢酸エチルやTexano(登録商標)、エーテル(例えばt-ブチルメチルエーテルやテトラヒドロフラン)である。非極性溶媒であるアルコール (例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール)やケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン)などを用いることも可能である。“イオン性液体”も溶媒として使用できる。これは液体塩であり、例えばN,N'-ジアルキルイミダゾリウム塩(N-ブチル-N'-メチルイミダゾリウム塩など)、テトラアルキルアンモニウム塩(テトラ-n-ブチルアンモニウム塩など)、N-アルキルピリジニウム塩(n-ブチルピリジニウム塩など)、テトラアルキルホスホニウム塩(トリスヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩など)、テトラフルオロホウ酸塩、酢酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、塩化物、トシラートがある。
【0063】
他の反応混合物系
【0064】
この明細書の触媒組成物と、その触媒組成物をバッチ操作または連続操作の間保持しリサイクルする方法は、ヒドロホルミル化系に加えて他の反応混合物系(例えば水素化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物、またはこれらの組み合わせ)にも容易に適合させうることが予想される。一般論については、Bergbreiter、「可溶性ポリマーを用いた触媒と配位子の回収」、Chem. Rev. 第102巻(10) 3345〜3384ページ (2002年)を参照のこと(この論文は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。例えば「超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素で増やした有機溶媒媒体の中で遷移金属錯体を触媒とした有機物質の酸化」という題名のSubramaniamのアメリカ合衆国特許第6,740,785号(この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)には、酸化反応混合物が開示されている。酸化反応混合物には、広く、反応混合物の体積を増やして酸化を容易にするとともに酸化を加速するための二酸化炭素などの圧縮ガスを補足した酸化可能な基質と酸化触媒が含まれる。増量ガスとして圧縮可能なガス性基質または酸化剤が可能だが、典型的には、不活性ガスとは別の基質または酸化剤が使用される。したがって圧縮ガスは、酸化剤としての酸素、空気、またはこれらの組み合わせからなるグループの中から選択できる。あるいは酸化剤(例えば過酸化水素)は液相で提供することができる。一般に、反応混合物には有機溶媒系が含まれる。本発明の触媒組成物は、この明細書に記載した遷移金属錯体で容易に置換することができる。
【0065】
膜濾過
【0066】
本発明には、ポリマーに担持された本発明の触媒を膜濾過を利用してリサイクルする方法も含まれる。フィルタは、溶質が90%拒否されることを基準として100〜1000g/モル、または150〜600g/モル、または200〜500g/モルからなるグループの中から選択した分子量カット-オフ範囲を持つことが好ましい。いくつかの膜(例えば溶媒耐性ナノ濾過(SRNF)膜として知られる膜)が、有機溶媒中でのナノ濾過が可能であることを特徴とする。Koch SelRO(登録商標)膜システム(アメリカ合衆国)は溶媒に対して安定で市販されており、湿潤形態で提供される。最も広く調べられている膜(MPF-60、MPF-44、MPF-50))のうちで、MPF-50が、多くの用途で最もよく研究されている市販のSRNFである。メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)のSTARMEM(登録商標)とソルセップBV-ロバスト・メンブレン・テクノロジー社(オランダ国)のSolsep膜が最近市場に登場し、有機溶媒ナノ濾過に関してうまくいくことが文献で明らかにされている。別の一連の膜としてGEオスモニクス社(アメリカ合衆国)のDesal-5とDesal-5-DKが水の用途用に設計されているが、これらは SRNFにおいても選択的である。Vandezande他、「溶媒耐性ナノ濾過:分子レベルでの分離」、Chemical Society Reviews 第37巻(2) 365〜405ページ (2008年)に、膜に関するより多くの情報がまとめられている。
【0067】
文献に記載されている膜ナノ濾過の構成は、膜表面に対する流れの方向によって2つのグループに分類できる。すなわち行き止まりフィルタ(垂直)と横断流フィルタ(平行)である。市販されている行き止まり濾過セルとして、ミリポア社(アメリカ合衆国)の溶媒耐性撹拌セル、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)のMET、スターリテック・コーポレーション社(アメリカ合衆国)のHP4750などがある。しかし別の装置GE SepaTM CF II Med/Highファウラントにより、任意の膜で横断流濾過が可能になる。横断流濾過装置が記載されているのは、Nair他、「非常に安定な触媒系を用い、ナノ濾過と組み合わせたヘック反応のために増大させた触媒生産性」、Green Chemistry 第4巻(4) 319〜324ページ (2002年) ;Patterson他、「トリアルキルアミン塩基の有機溶媒ナノ濾過における膜選択性」、Desalination 第218巻(1〜3) 248〜256ページ (2008年);Roengpithya他、「膜支援二容器プロセスを利用した1-フェニルエチルアミンの連続的でダイナミックな動的分離に向けて」、Chemical Communications 第33巻 3462〜3463ページ (2007年);Peeva他、「有機溶媒ナノ濾過において濃度局在と浸透圧が流速に及ぼす効果」、Journal of Membrane Science 第236巻 (1〜2)、121〜136ページ (2004年)である。
【0068】
本発明を以下の実施例によって説明するが、実施例が以下のものに限られることはない。
【実施例1】
【0069】
ポリマーに担持された亜リン酸塩配位子の合成
【0070】
この実施例では、分子量が比較的小さくて分子量の分布が狭い、特徴がよくわかったポリマー(1.2×104g/モル、多分散性指数=1.3)を、以下のスキームを利用して調製した。官能性モノマー(5)は重合に対してスチレンと同じように活性であることがわかっているため、PDIは、純粋なポリスチレンで報告されているのと似た値になることが予想された。Dollin他、「添加剤なしでのスチレンの安定なフリーラジカル重合」、J. Polym. Sci. Part A 第45巻 5487〜5493ページ (2007年)を参照のこと。分子量と分布の制御は、安定なニトロキシル・ラジカルTEMPOを媒介とした現在のフリーラジカル重合技術を採用することによって実現した。官能性モノマー(5)とスチレン(比1:10)を123℃で共重合することにより、ポリスチレン骨格への配位子の組み込みが1H NMRスペクトルから10%と推定される官能性モノマーが製造された。興味深いことに、1H NMRスペクトルのビニル領域の末端基の分析から、このポリマーはこの条件下で架橋していないことが示唆される。言い換えるならば、ビス-アルケン(1)に含まれる1つのアルケンだけが重合する。得られたポリマーは保護が外れていて、ポリマー骨格に亜リン酸塩配位子が導入されていた。その結果は、ビフェホス誘導体に担持されたポリマーであり、“JanaPhos”または化合物PBB10と名づけられた。ポリマーへの亜リン酸塩の組み込みが完全であったなら、1.10ミリモル/gというP負荷が期待されるため、配位子の負荷は0.55ミリモル/gになったであろう。31P NMR分光によるP負荷の評価から、P負荷が0.65ミリモル/gであることがわかる。この値は、ポリマーの誘導結合プラズマ発光分光(“ICP-OES”)分析によってさらに確認され、ポリマーは、1gにつき0.32ミリモルのロジウムを担持できることがわかった。
【0071】
可溶性ポリマーに担持された亜リン酸塩配位子の合成を以下のスキームに示す。
【0072】
【化1】
【0073】
化合物PBB10(8)は2つのポリスチレン結合を持つように示してあるが、この明細書に記載してあるように、ポリスチレンは表示した芳香族基のうちの1つだけに結合すると考えられる。
【0074】
5,5'-ジメトキシ-3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2'-ジオール(1)の合成:化合物(1)を報告されている手続きに従って調製した。Vlugt他、「立体的な条件のあるジ亜ホスホン酸塩配位子 - ニッケルを触媒とした2-メチル-3-ブテンニトリルの異性化における合成と応用」、Adv. Synth. Catal. 第346巻 993〜1003ページ (2004年)を参照のこと。 3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(10.00g、55.5ミリモル)を メタノール(300ml)に溶かした溶液を調製し、 KOH(11.07g、198ミリモル)とK3Fe(CN)6(18.32 g、55.5ミリモル)を水(300ml)に溶かした溶液を室温にて一滴ずつ1時間かけて添加した。得られた混合物を2時間にわたって撹拌した後、水200ml を添加した。この懸濁液を500mlの酢酸エチルで2回抽出した。この水溶液を150mlのエーテルで抽出し、有機相を1つにまとめ、200mlの飽和ブラインで洗浄した。有機相をNa2SO4上で乾燥させた。真空下で溶媒を除去すると、明るい茶色の固形物が得られた。n-ヘキサンで洗浄すると、灰白色の粉末が得られた;収量:9.80g(98%)。
【0075】
5,5'-ジメトキシ-3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2'-ジオール(1):茶色っぽい固形物、融点220〜222℃;1H NMR (400MHz, CD2Cl2) δppm 6.99 (d, J=4.12Hz, 2H)、6.66 (d, J=4.12Hz, 2H)、5.15 (s, br, 2H)、3.79 (s, 6H)、1.47 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 153.33 (2C)、145.82 (2C)、138.80 (2C)、123.55 (2C)、115.02 (2C)、111.92 (2C)、55.63 (2C)、35.03 (2C)、29.25 (6C);IR (CH2Cl2):ν3533 (br)、3001、2985、1596、1414、1392、1215、1159cm-1;C22H30O4 (M+)に関するHRMSの計算値、358.2144;実測値、358.2123。
【0076】
3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2',5,5'-テトラオール(2)の合成:化合物1(3.6g、10ミリモル)をCH2Cl2(150 ml)に溶かして撹拌している溶液に、三臭化ホウ素(24ml、24ミリモル、DCMの中に1M)を0℃にて一滴ずつ1時間かけて添加した。添加後、反応混合物を室温まで戻し、30分間にわたって撹拌した。それに氷水を添加してクエンチさせた後、ジエチルエーテルを添加して白い沈殿物を溶かした。それを分離用漏斗に入れ、1(N)のHClとブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させた。減圧下で溶媒を除去すると、白色のチョーク状固形物が残る。それは、次の反応で用いるのに十分なほど純粋である。収量(3.1g、93%)。
【0077】
3,3'-ジ-t-ブチルビフェニル-2,2',5,5'-テトラオール(2):無色のチョーク状固形物、融点224℃ ;1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δppm 8.88 (s, 2H)、8.41 (s, 2H)、6.71 (d, J= 4.00Hz, 2H)、6.51 (d, J=4.00Hz, 2H)、1.38 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.46 (2C)、144.14 (2C)、140.81 (2C)、131.58 (2C)、115.41 (2C)、113.65 (2C)、35.10 (2C)、30.32 (6C);IR (CH2Cl2):ν3533 (br)、3001、2985、1596、1414、1392、1215、1159、927、741cm-1、C20H26O4 (M+l)に関するHRMSの計算値、331.1909;実測値、331.1912。
【0078】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)5,5'-ジ-t-ブチル-6,6'-ジヒドロキシビフェニル-3,3'-ジイル(3)の合成:化合物2(3.30g、10ミリモル)を250mlの乾燥ジクロロメタンに溶かした。この溶液を-78℃に冷却し、ピリジン(3.2ml、40ミリモル)を一滴ずつ添加した。無水トリフルオロ酢酸(3.5ml、20ミリモル)をジクロロメタン(100 ml)に希釈した溶液を1時間かけて添加した。添加後、反応混合物を室温まで戻し、30分間にわたって撹拌した。反応混合物をEt2Oとブラインと1(N)のHClに分けた。有機層を水とブラインで洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させた。それを濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製すると、明るい茶色のゴム状液体が得られた(5.24g、収率92%)。
【0079】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)5,5'-ジ-t-ブチル-6,6'-ジヒドロキシビフェニル-3,3'-ジイル(3):ゴム状液体;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.29 (d, J= 4.00Hz, 2H)、7.04 (d, J= 4.0Hz, 2H)、5.37 (s, br, 2H)、1.44 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.66 (2C)、142.88 (2C)、140.56 (2C)、122.28 (2C)、121.87 (2C)、121.24 (2C)、121.19、120.36、117.17、114.17、113.96 (2SO2CF3)、35.47 (2C)、29.19 (6C);IR (CH2Cl2):ν3554 (br)、2970、1583、1425、1371、1263、1245、1217、745cm-1;C22H24F6O8S2 (M+Na)に関するHRMSの計算値、617.0714;実測値、617.0716。
【0080】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)6,6'-ビス(t-ブトキシカルボニルオキシ)-5,5'-ジ-t-ブチルビフェニル-3,3'-ジイル(4)の合成:化合物3(5.94g、10ミリモル)をCH2Cl2(120 ml)に溶かして撹拌している溶液に、ジ炭酸ジ-t-ブチル(5.5ml、24ミリモル)と4-ジメチルアミノピリジン(0.12g、1.0ミリモル)を添加した。得られた溶液を25℃で一晩にわたって撹拌した後、 Et2Oとブラインと1(N)のHClに分けた。有機層をNaHCO3水溶液で2回洗浄し、ブラインで1回洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製すると、無色の固形物が得られたため、それをヘキサンの中で再結晶させた(7.62g、収率96%)。
【0081】
ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)6,6'-ビス(t-ブトキシカルボニルオキシ)-5,5'-ジ-t-ブチルビフェニル-3,3'-ジイル(4):無色の固形物、融点132〜134℃;1H NMR (400MHz, CD2Cl2) δppm 7.39 (d, J=4.00Hz, 2H)、7.17 (d, J=4.0Hz, 2H)、1.45 (s, 18H)、1.23 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 150.12 (2C)、146.72 (2C)、146.28 (2C)、145.33 (2C)、133.61 (2C)、122.62 (2C)、120.76 (2C)、123.57、120.39、117.20、114.01 (2SO2CF3)、83.49 (2C)、35.27 (2C)、29.80 (6C)、26.91 (6C);IR (CH2Cl2):ν3053、2985、2304、1760、1425、1263、1245、1217、1139、746cm-1;C32H40F6O12S2 (M+Na)に関するHRMSの計算値、817.1763;実測値、817.1719。
【0082】
ジ炭酸t-ブチル-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル(5)の合成:化合物4 (4.76g、6.0ミリモル)を80mlの乾燥1,4-ジオキサンに溶かした。トリ-n-ブチル(ビニル)スズ (4.2ml、13.2ミリモル)と、Pd(PPh3)4(0.28g、0.24ミリモル)と、塩化リチウム(1.52g、36ミリモル)と、 2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールのいくつかの結晶を添加した。得られた反応混合物を98℃にて4時間にわたって還流させた。反応が完了した(TLC)後、室温まで冷却した。ジオキサンを除去した後、残留物をEt2Oに溶かし、次いで5%のKF水溶液を添加した。得られた溶液を25℃にて2時間にわたって撹拌した。この溶液が分離した後、Et2O(3×50ml)で抽出した。有機部を1つにまとめ、ブラインで1回洗浄し、無水Na2SO4 上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去すると粗材料が得られたため、それを、酢酸エチル:ヘキサン(10:90)を用いたシリカゲル上のフラッシュ・クロマトグラフィによって精製した。MeOHの中で再結晶させると無色の固形物が得られた(2.8g、収率87%)。
【0083】
ジ炭酸t-ブチル 3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル(5):無色の固形物、融点82℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.40 (s, 2H)、7.29 (s, 2H)、6.71 (dd, J1 = 16.0Hz, J2 = 12.0Hz, 2H)、5.70 (d, J= 20.0Hz, 2H)、5.22 (d, J=12.0Hz, 2H)、1.44 (s, 18H)、1.15 (s, 18H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 151.21 (2C)、146.95 (2C)、141.62 (2C)、136.51 (2C)、135.29 (2C)、133.13 (2C)、127.97 (2C)、125.01 (2C)、113.79 (2C)、82.26 (2C)、34.93 (2C)、30.58 (6C)、27.33 (6C);IR (CH2Cl2):ν3088、2877、1757、1580、1475、1456、1397、1275、1216、766cm-1;C34H47O6 (M+l)に関するHRMS の計算値、551.3373;実測値、551.3355。
【0084】
ポリ[スチレン-コ-(2,2'-ジ-t-ブトキシカルボニルオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニル-1,1'-ビフェニル)](6)の合成:化合物4(2.201g、4ミリモル)とスチレン(4.6ml、40ミリモル)の混合物をシェンク・フラスコの中に入れた。TEMPO(40mg、0.25ミリモル)と過酸化ベンゾイルBPO(48mg、0.20ミリモル)を添加し、アルゴンをその混合物に半時間にわたって吹き込んだ後、加熱した。次にこの混合物を4時間にわたって123℃に加熱した。室温まで冷却した後、 MeOH(300ml)を入れたビーカーに注ぐと、白色の固形沈殿物が得られた。トルエン/MeOHを用いて溶解-沈殿を2回繰り返すことによってさらに精製した。最終生成物を減圧下で乾燥させると、白色の固形物が得られた(1.25g、収率52%)。
【0085】
ポリ[スチレン-コ-(2,2'-ジ-t-ブトキシカルボニルオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニル-1,1'-ビフェニル)](6):糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2) δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、5.63 (m, C=CH, 反応せず)、5.14 (m, C=CH, 反応せず)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (s,t-ブチル)、1.31 (s, t-ブトキシ);13C NMR (125MHz, CD2Cl2) δppm 145.82、144.23、135.60、1135.45、134.39、132.33、127.07、124.93、81.04、39.84、33.96、29.45、26.15;IR (CH2Cl2) ν3103、3083、3027、3001、1757、1601、1584、1493、1452、1352、1276、1260、745cm-1。
【0086】
ポリスチレン-コ-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジオール)(7)の合成:コポリマー 5(2.0g)を乾燥CH2Cl2(60ml)に溶かした溶液にTFA(2.0ml)を添加した。IRと1H NMRによってBocが完全に除去されたことがわかるまで、この混合物を25℃ にて48時間にわたって撹拌した。0℃まで冷却した後、溶液が中性になるまで飽和NaHCO3水溶液を添加した。有機層が二相溶液から分離し、水層をCH2Cl2(3×50ml))で抽出した。1つにまとめた有機抽出液をブラインで2回洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去すると、淡い茶色の固形物が得られた。トルエン/MeOHを用いて溶解-沈殿を2回繰り返すことによってさらに精製した。最終ポリマーを真空下で一晩にわたって乾燥させた(収率83%)。
【0087】
ポリスチレン-コ-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジオール) (7):糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2):δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (m, br, t-ブチル);13C NMR (125MHz, CD2Cl2) δ 145.01、128.96、128.84、127.92、125.7、124.90、43.24、39.61、29.64;IR (CH2Cl2) ν3524、3510、3065、2926、1493、1434、1417、1269、1283、1261cm-1。
【0088】
ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピン(8)の合成:反応容器の中で、コポリマー6をCH2Cl2に溶かした溶液に、15当量のEt3N と10当量の2,2'-ビスフェノキシリンクロリドを0℃にてゆっくりと添加した。この反応混合物を36時間にわたって還流させた。25℃まで冷却した後に溶液を乾燥,MeOHに注ぐと白色の沈殿物が得られたため、CH2Cl2/MeOH、トルエン/MeOH 、THF/MeOHを用いて溶解-沈殿を3回繰り返すことによってさらに精製した。最終生成物を真空下で一晩にわたって乾燥させた(収率86%)。
【0089】
ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l-3,2]ジオキサホスフェピン(8) または“JanaPhos”:糸状の白色固形物、1H NMR (500MHz, CD2Cl2):δppm 7.46 (m, br, 芳香族)、7.09 (m, br, 芳香族)、6.63 (m, br, 芳香族)、1.90 (m, br, CH-CH2ポリマー骨格)、1.48 (m, br, t-ブチル);13C NMR:δ (125MHz, CD2Cl2) 145.01、128.96、128.84、127.92、125.7、124.90、43.24、39.61、34.17、29.92、28.63;31P NMR:δppm 145.4;IR ν(CH2Cl2) 3027、2994、2925、2851、1493、1477、1453、1373、1269、1259、1254、1194、768、746、723、712、697cm-1。
【0090】
内部標準としてトリフェニルホスフィンを用い、ポリマー骨格(8)中のリンの含有量を31P NMRによって見積もった。リンの含有量は1.06ミリモル/gであり、それはさらにICP-OES分析によって確認された。したがって配位子の組み込みは、ポリマー1gにつき0.53ミリモルである。
【実施例2】
【0091】
ポリマーに担持されたロジウム触媒の合成
【0092】
以下の実施例のため、ポリマーに担持されたロジウム触媒をトルエンの中で12時間にわたって調製した後、ヒドロホルミル化反応を実施した。不活性雰囲気下でポリマーを乾燥トルエン(最大溶解度は60g/1)に溶かした後、Rh(acac)(CO)2(Rh/P=1/3)を添加し、一晩にわたって撹拌した。溶液は黄色っぽくなる。配位子へのRhの結合を31P NMRによって確認した。NMRにおける変化を図1Aと図1Bに示す。
【実施例3】
【0093】
ポリマーに担持されたロジウム触媒を用いたヒドロアリール化
【0094】
この実施例は、触媒を用いたエノンのヒドロアリール化において、実施例2に従って製造した触媒組成物を利用する方法に関する。典型的な実験手続きは直截的かつ単純である。エノン(1ミリモル)とアリールボロン酸(1.3当量)の混合物を丸底フラスコの中に入れた後、Rh(acac)(CO)2と実施例2で調製したJanaPhosを含むトルエン溶液(3ml)を不活性雰囲気下で添加した。最後に、メタノールと水の溶液(1:1、0.5ml)を注射器でそのフラスコに添加し、得られた反応混合物を50℃に加熱した。反応の改善によってリンの負荷が実施例1の1.06ミリモル/gになったことがわかるであろう。しかしこの実施例で報告する実験では、リンの負荷がより少ない(0.65ミリモル/g)ポリマーを用いた。
【0095】
表1からわかるように、脂肪族エノン、カルコン、環式エノンのどれからも、触媒を用いてヒドロアリール化生成物が高い収率で得られる。重要なことだが、こうした高い収率は、ちょうど1.3当量のボロン酸パートナーを用いたときに得られた。ポリマーに担持されたロジウム触媒を用いた以前の反応では4〜5倍の過剰なボロン酸が必要とされる。実際、リサイクル可能な触媒は、一般に1.3〜10当量のボロン酸を用いる典型的な小分子触媒と同程度、またはそれ以上の性能である。
【0096】
【表1】
【0097】
3-フェニルプロパナール(エントリー1、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.85 (t, J=4.00Hz, IH)、7.31〜7.33 (m, 2H)、7.22〜7.26 (m, 3H)、2.99 (t, J=8.00Hz, 2H)、2.80〜2.83 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 201.70、140.43、128.70 (2C)、128.39 (2C)、126.40、45.39、28.21。
【0098】
4-フェニルブタン-2-オン(エントリー2、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.31 (d, J= 8.13Hz, 2H)、7.21〜7.24 (m, 3H)、2.93 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.78 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.16 (s, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 208.02、141.04、128.54 (2C)、128.35 (2C)、126.15、45.18、30.11、29.74。
【0099】
l-(4-メトキシフェニル)-3,3-ジフェニルプロパン-l-オン(エントリー3、表1):無色の固形物、融点113℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.96 (d, J= 8.13Hz, 2H)、7.28〜7.30 (m, 8H)、7.19〜7.22(m, 2H)、6.94 (d, J=8.13Hz, 2H)、4.86 (t, J= 8.17Hz, IH)、3.88 (s, 3H)、3.72 (d, J= 4.13Hz, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 196.63、163.57、144.39 (2C)、130.45 (2C)、130.25、128.64 (4C)、127.96 (4C)、126.43 (2C)、113.82 (2C)、55.58、46.13、44.43。
【0100】
3-フェニルシクロペンタノン(エントリー4、表l)5:無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.36 (t, J= 8.13Hz, 2H)、7.25〜7.27 (m, 3H)、3.38〜3.47 (m, IH)、2.66 (dd, J= 8.12Hz, IH)、2.25〜2.51 (m, 4H)、1.94〜2.05 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 218.51、143.03、128.68 (2C)、126.73 (2C)、45.81、42.22、38.89、31.02。
【0101】
3-フェニルシクロヘキサノン(エントリー5、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.36 (t, J=8.17Hz, 2H)、7.24〜7.28 (m, 3H)、3.01〜3.05 (m, IH)、2.40〜2.65 (m, 4H)、2.07〜2.17 (m, 2H)、1.78〜1.90 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 211.13、144.39、128.73 (2C)、126.74、126.62 (2C)、49.00、44.79、41.24、32.82、25.60。
【0102】
3-フェニルシクロヘプタノン(エントリー6、表1):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.31〜7.38 (m, 2H)、7.19〜7.24 (m, 3H)、2.92〜2.99 (m, 2H)、2.60〜2.69 (m, 3H)、2.00〜2.14 (m, 3H)、1.71〜1.79 (m, 2H)、1.51〜1.63 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 213.65、147.01、128.75 (2C)、126.52 (2C)、126.45、51.36、44.05、42.84、39.31、29.35、24.27。
【0103】
次に、使用可能なボロン酸の範囲を簡単に調べた。より詳細には、エノンにアリールボロン酸を1,4-付加するための一般的な実験手続きを、2-シクロヘキセン-l-オンとフェニルボロン酸を用いて記述する。2-シクロヘキセン-l-オン(96mg、1ミリモル)とフェニルボロン酸(158mg、1.3ミリモル)の混合物を丸底フラスコに入れた。 Rh(acac)(CO)2(5mg、0.02ミリモル)とJanaPhos(70mg、0.03ミリモル、Rh/P=1/3)を含むトルエン溶液(3ml)を不活性雰囲気中でそのフラスコに添加した。メタノールと水の溶液(1:1、0.5ml)を注射器でそのフラスコに添加した。TLCによって出発材料が消費されたことがわかるまで、得られた反応混合物を15時間にわたって50℃に加熱した。次いで25mlのメタノールをその混合物に添加すると、触媒が白色の固形物として沈殿した。その沈殿物をシュレンク・フィルタで濾過して除去し、続けて操作を実行した。濾液を減圧下で蒸発させると粗生成物が得られたため、それをカラム・クロマトグラフィ(10%の酢酸エチルを含むヘキサン)でさらに精製すると、純粋な生成物が得られた(144mg、収率83%)。
【0104】
さまざまなエナールとエノンを用いると、単純なアリールボロン酸とビアリールボロン酸はすべて、アリール化された生成物を高収率で生成させた(表2)。さらに、ジベンジリデンアセトンは、選択的モノアリール化により、二重付加生成物をほんの5%しか生成させなかった(表2、エントリー4)。最後に、ビニルボロン酸は適切な反応パートナーであり、γ/δ不飽和ケトンへのアクセスを可能にした(表2、エントリー7と8)。
【0105】
【表2】
【0106】
l-p-トリルペンタン-3-オン(エントリー1、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.10〜7.15 (m, 4H)、2. 91 (t, J=8.12Hz, 2H)、2. 75 (t, J=8.12Hz, 2H)、2.44 (q, J=8.12Hz, 2H)、2.36 (s, 3H)、1.09 (t, J=8.12Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.77、138.11、135.54、129.18 (2C)、128.21 (2C)、44.06、36.13、29.47、21.02、7.79。
【0107】
l-(ビフェニル-4-イル)ペンタン-3-オン(エントリー2、表2):無色の固形物、融点62℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.63 (d, J= 8.12Hz, 2H)、7.57 (d, J= 8.12Hz, 2H)、7.48 (t, J= 8.00Hz, 2H)、7.38〜7.40 (m, IH)、7.31 (d, J= 8.00Hz1 2H)、3.00 (t, J=8.00Hz, 2H)、2.81 (t, J= 8.00Hz, 2H)、2.47 (q, J= 8.00Hz, 2H)、1.11 (t, J= 8.00Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.60、140.99、140.36、139,08、128.81 (2C)、128.80 (2C)、127.25 (2C)、127.16、127.03 (2C)、43.84、36.18、29.49、7.84;IR (CH2Cl2):ν2979、2939、1712、1519、1487、1409、1377、1363、1112、831、765cm-1。C17H18ONa (M+Na)に関するHRMSの計算値、261.1255;実測値、261.1294。
【0108】
3-(ビフェニル-4-イル)ブタナール(エントリー3、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.77 (t, J= 4.00Hz, IH)、7.57〜7.62 (m, 4H)、7.47 (t, J=8.00Hz, 2H)、7.28〜7.39 (m, 3H)、3.42〜3.48 (m, IH)、2.70〜2.86 (m, 2H)、1.39 (d, J= 4.00Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCI3) δppm 201.93、144.64、140.92、139.60、128.85 (2C)、127.51 (2C)、127.30 (3C)、127.12 (2C)、51.83、34.03、22.28。
【0109】
(E)-l,5-ジフェニル-5-p-トリルペント-l-エン-3-オン(エントリー4、表2):無色の固形物、融点120℃;1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.48〜7.53 (m, 3H)、7.37〜7.39 (m, 3H)、7.26〜7.27 (m, 4H)、7.14〜7.7.16 (m, 3H)、7.08 (d, J=8.00Hz, 2H)、6.69 (d, J=16.0Hz, IH)、4.69 (d, J= 8.00Hz, IH)、3.41 (d, J= 8.00Hz, 2H)、2.28 (s, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 198.31、144.38、142.87、141.14、136.04、134.56、130.61、129.37 (2C)、129.04 (2C)、128.65 (2C)、128.42 (2C)、127.88 (2C)、127.79 (2C)、126.45、126.39、47.17、45.88、21.09;IR (CH2Cl2):ν3060、2350、16087、1604、1589、1421、1367、1259、757cm-1. C24H22ONa (M+Na)に関するHRMSの計算値、349.1568;実測値、349.1581。
【0110】
3-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)シクロヘキサノン(エントリー5、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.58 (d, J=8.00Hz, 2H)、7.33 (d, J=8.00Hz, 2H)、3.05〜3.08 (m, IH)、2.38〜2.62 (m, 4H)、2.14〜2.19 (m, IH)、2.07〜2.11 (m, IH)、1.72〜1.89 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.37、148.29、129.29、127.09 (4C)、125.79、122.89、48.60、44.58、41.18、32.59、25.49。
【0111】
3-(4-アセチルフェニル)シクロヘキサノン(エントリー6、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.91 (d, J=8.00Hz, 2H)、7.31 (d, J=8.00Hz, 2H)、3.04〜3.09 (m, IH)、2.57 (s, 3H)、2.35〜2.55 (m, 4H)、2.07〜2.17 (m, 2H)、2.07〜2.11 (m, IH)、1.77〜1.90 (m, IH);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.40、197.75、149.73、135.83、128.94 (2C)、126.93 (2C)、48.48、44.70、41.17、32.49、26.68、25.49。
【0112】
(E)-7-フェニルヘプト-6-エン-3-オン(エントリー7、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 7.28〜7.37 (m, 4H)、7.21〜7.24 (m, IH)、6.43 (d, J=8.12Hz, IH)、6.19〜6.26 (m, IH)、2.63 (t, J=4.13Hz, 2H)、2.45〜2.54 (m, 4H)、1.10 (t, J=8.12Hz, 3H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 210.84、137.51、130.75、129.10、128.58 (2C)、127.15、126.07 (2C)、41.92、36.14、27.28、7.88。
【0113】
(E)-5-フェニルペント-4-エナール(エントリー8、表2):無色の液体、1H NMR (400MHz, CDCl3) δppm 9.83 (t, J=4.00Hz, IH)、7.27〜7.34(m, 6H)、7.19〜7.23 (m, IH)、6.43 (d, J=8.00Hz, IH)、6.17〜6.24 (m, IH)、2.62〜2.66 (m, 2H)、2.53〜2.58 (m, 2H);13C NMR (101MHz, CDCl3) δppm 201.96、137.32、131.25、128.67 (2C)、128.27、127.37、126.17 (2C)、43.46、25.64。
【0114】
最後に、触媒の有用性をいくらかより大きなスケールで調べるため、シクロヘキセノンとフェニルボロン酸の反応を20ミリモルのスケールで実施したところ、生成物である2-フェニルシクロヘキサノンが小スケールの反応と同じ収率(83%)で分離された(表1、エントリー5)。したがってこの明細書に記載した配位子は、より大きなスケールの反応において実用性を有するであろう。
【実施例4】
【0115】
ヒドロアリール化反応からの触媒のリサイクル
【0116】
実施例3のヒドロアリール化反応で用いるポリマーに担持された亜リン酸塩は、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トルエンによく溶ける(例えばトルエンには60mg/ml)が、メタノールには溶けない、したがってポリマーに担持された亜リン酸塩は、過剰なメタノールを用いた単純な沈殿と濾過によって大量に回収される。また、ヒドロアリール化で用いるMeOH/H2O共溶媒は触媒を沈殿させるには十分でないことに注意することが重要である。実際、共溶媒として水を用いると、反応の収率に対して顕著なプラスの効果がある。プロトン性溶媒がないと、シクロヘキセノンのヒドロアリール化は、15時間後に35%の変換率までしか進まない。
【0117】
この実施例では、シクロヘキセノンとフェニルボロン酸の反応を調べた。(実施例3に記載してあるようにして)触媒系の再利用可能性も連続した5回のヒドロアリール化操作まで調べた。その結果、空気中での濾過は、生成物の収率に関して触媒の活性が徐々に失われることと関係していることが観察されたのに対し、シュレンク系のもとでの濾過では、その後の操作で触媒活性の顕著な喪失はなかった。結果を表3に示す。
【0118】
【表3】
【実施例5】
【0119】
均一な有機溶液からのロジウム触媒のバッチ式膜ナノ/限外濾過
【0120】
この実施例では、設計したポリマー結合Rh錯体触媒のナノ/限外濾過が、均一なヒドロアリール化反応系にとって有効なその場での触媒回収法であることがわかった。トルエンに溶かしたさまざまな可溶性ポリマー結合ロジウム錯体を用いたバッチ式膜濾過実験において、金属ロジウムの回収量と、リンをベースとした配位子の回収量を調べた。有機マトリックス中のRhとPを分析するためICP技術を利用した。
【0121】
実験装置
【0122】
STARMEM(登録商標)ナノ/限外濾過膜はW.R. Grace-Davison(アメリカ合衆国)によって製造され、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(イギリス国)によって供給された。この膜は高度に架橋したポリイミドからなり、濾過する溶液と接触する活性な側を有する非対称なものである。この膜は直径が90mmであり、活性面積は54cm2である。活性層の厚さは0.2mm未満、小孔のサイズは50オングストローム未満である。この膜の分子量カット-オフ(MWCO)は、溶質が90%拒否されることを基準として200〜400ダルトンの範囲である。この膜は、従来からあるたいていの有機溶媒(例えばアルカン、アルデヒド、アルコール、芳香族)に適合性がある。この膜の使用可能期間は、最大動作温度75℃で1年までである。
【0123】
METセルは316ステンレス鋼でできており、メンブレン・エクストラクション・テクノロジー社(ロンドン、イギリス国)から購入した。平らな紙のようなこの膜をMETセルの底に置き、焼結した多孔性ステンレス鋼製円板で担持した。この円板は膜に機械的強度を与える。したがってこの膜は、行き止まりフィルタとして機能する。METセルの最大有効体積は270mlであり、滞留体積が5mlである。2つの入口(1つは供給用、他方は加圧ガス用)によって空気なしの連続動作が可能になる。このセルには、テフロン(登録商標)で被覆した磁気撹拌棒が取り付けられている。磁気撹拌棒は、頂部の蓋にハンダ付けした金属製ブラケットに固定されている。最大動作圧は1000psi(69バール)である。これは、平坦な膜シートを有する行き止まり式フィルタである。
【0124】
図2は、膜濾過装置の模式図である。セル本体を加熱用テープと絶縁体で包み、混合と加熱のため磁気撹拌器とホット・プレートの上に置いた(撹拌器の設定値が1〜12で、撹拌速度が60〜1200rpmの範囲のBarnstead Cimarec撹拌器)。LabView(登録商標)データ取得装置をインターフェイスとして用い、熱電対で溶液の温度を測定する。ポンプを用い、0.01〜20ml/分の範囲の一定流速で溶媒または基質をセルに入れる。供給物リザーバと透過液レシーバの両方とも不活性な窒素ガスで覆った。この装置により、空気なしの条件下でバッチ式濾過または連続濾過が可能になる。さまざまな不活性ガスを加圧ガスとして利用できる。この実施例では窒素を用いた。CO2で増やした粘度がより小さい溶媒媒体を作り出すため、CO2も将来の研究で用いることになろう。均一なヒドロホルミル化反応を行なわせると同時に触媒錯体を濾過するため、合成ガス(CO/H2=モル比1:1)、またはそれをCO2と混合したものを加圧ガスとして使用する。濾過後、弁を調節してセルの圧力を徐々に解放し、突然の圧力変化によって膜が半球状に膨らむのを回避する。透過液はリサイクルしてセルに戻すが、分析を目的としてサンプルを取り出せるようにしておく。
【0125】
触媒系と分析法
【0126】
濾過に関してテストした均一な触媒系は、触媒前駆体Rh(acac)(CO)2(Rh-50)とさまざまなリン・配位子をトルエンに溶かしたものからなる。トリフェニルホスフィン(TPPine)を、分子量が最も小さいベンチマーク・配位子として用いた。ビフェホスとBiPhPhMというかさばる二座亜リン酸塩配位子は、カンサス大学、化学部で合成されて提供された。配位子をポリマーで担持した後は、同じ合成手続きの後の異なるポリマー・バッチを指定するため、記号で表記したプロトコル(a、b、c)を利用する。1つのPBB10サンプルのPDIは1.3であると見積もられたが、PDIはバッチごとに大きく異なるはずがないことが予想される。表2に、すべてのリン・配位子の構造とその分子量を示してある。影を付けた丸はポリマー骨格を表わす。表4に、調べた触媒系を示す。
【0127】
【表4】
【0128】
量がわかっているRh(acac)(CO)2(Rh-50)と他の配位子をトルエンに溶かし、グローブ・ボックスの中で一晩にわたって溶液を撹拌したままにしてRhを結合させることにより、触媒溶液を調製した。混合中、結合中、移送中には、この溶液を不活性ガスで覆った。触媒錯体または配位子を含む出発溶液、すなわち供給する溶液をFで表わす。膜を通過する溶液を透過液と呼び(Pで表わす)、膜によって拒否された溶液を保持液と呼ぶ(文字Rで表わす)。
【0129】
改変されていない純度99%のロジウム触媒Rh(acac)(CO)2(Rh-50と表記)と、配位子である純度99%のトリフェニルホスフィン(PPh3)をアルファ・イーサー社から取得した。Sure/Seal(登録商標)に入った純度99.8%の無水トルエンをシグマオールドリッチ社から購入した。
【0130】
誘導結合プラズマ発光分光(“ICP-OES”)を利用し、出発触媒溶液と、保持液と、透過液に含まれるロジウムとリンの濃度を測定した。ICPは、励起されたイオンから出る光の強度が分析する溶液中の各元素の濃度に比例するという原理に基づく発光分光技術である。励起エネルギーは、電磁誘導によって生じる電流から供給される。ICPは、冶金学、農業、生物学、環境、地質学の材料の元素分析に広く利用されている。たいていの場合、不均一なサンプルを酸で消化させた後に水溶液を分析することが好ましい。逆に、有機マトリックス分析は、有機マトリックスの基準が少なくて貯蔵寿命が短いため、稀にしか用いられない。この実施例では、リン結合ロジウム錯体の調製にトルエンを溶媒として選択した。なぜなら、触媒錯体とヒドロホルミル化反応混合物に関しては溶媒和力が強いからである。
【0131】
この実験で用いたICP装置は、径方向プラズマ・ビューとモノクロメータ光学系を有するJobin Yvon 2000 2であった。溶液となった液体サンプルを蠕動ポンプで導入した後、マインハート社の同軸噴霧器でスプレーしてエーロゾルに変換した。エーロゾルはサイクロン式スプレー・チェンバーによって選別するため、10μmよりも小さい液滴だけがトーチとプラズマに到達する。プラズマが消滅しないようにするため、少量のエーロゾル・サンプルだけが許されることに注意されたい。ラジオ周波数発生装置が、プラズマを維持するエネルギーを供給するとともに、高周波電磁場を誘導コイルの中に作り出す。その出力パワーは、40.68MHzの周波数で800〜1500Wである。高温プラズマの内部において、アルゴン・ガスによって運ばれたエーロゾルをあらかじめ加熱して乾燥させた後、イオン化したガスによって高エネルギーの原子とイオンへと励起する。これらの粒子は照射領域を通過した後、所定の周波数または波長を持つ光子の形態でエネルギーを放出する。各元素は、固有の特徴的な発光線を有する。原子発光の原理、操作の安全性、マトリックスの選択、メンテナンスは、製造者が提供するマニュアル「ユーザー・マニュアルJobin-Yvon ICP分光器」と「ユーザー・マニュアルICP V5ソフトウエア」に詳述されている。
【0132】
較正の基準は、Rh(acac)(CO)2とトリフェニルホスフィン(“TPPine”)をトルエンに溶かして作った。トルエンは、サンプルと較正溶液を希釈してサンプル溶液の粘度をより小さくするのにも使用し、結果に対する粘度の影響を小さくした。較正グラフから、RhとPの両方で、ppbレベルまでの数桁にわたって線形性が優れていることがわかった。例えば溶けたRhは、数十ppbという小さな濃度まで定量的に検出することができる。付録IIIに、ICP法の開発、較正手続き、分析プロトコル、操作に関する詳細を提示してある。
【0133】
実験手続き:事前コンディショニングと流束測定
【0134】
濾過の前に、窒素圧を3.0MPaにして純粋なトルエンを1時間にわたって流して膜を通過させることで、膜の条件を整えた。このコンディショニング操作からの透過液は廃棄した。なぜなら溶媒は、膜を潤滑にする保護油で汚染されているからである。この事前コンディショニング・ステップの後、新鮮なトルエンを流し続けた。このトルエンは、連続的に循環してセルに戻る。膜を通過する流束(1分あたりのトルエンのml数)が一定になって膜が平衡したことがわかるまで、このステップを続けた。この平衡ステップは、通常は約3日間かかる。これら前処理ステップの後、膜は、溶けた触媒錯体を含む溶液のナノ濾過の研究を行なえる状態になる。濾過操作と次の濾過操作の間には必ず膜を3回洗浄し、トルエンに一晩浸す。
【0135】
各濾過操作の間、透過する流束を定期的に記録して濾過プロセスを通じて一定速度であることが保証されるようにすることで、膜の物理的損傷(すなわち割れ、詰まりや、膜表面における他の欠陥)に起因するあらゆる変動を除去した。さらに、溶けた触媒錯体を含む溶液を用いた各濾過の前後に純粋なトルエンを用いたブランクの濾過操作を実施した。同じガス圧のもとでは、溶けた触媒錯体を用いた濾過操作において、純粋なトルエンと比べてより小さい流束が一般に観察された。これは、溶けたポリマー担持体を含む触媒溶液の粘度が大きくなったことに帰せられる。
【0136】
透過液の体積を100mlのビュレットで測定した。そのビュレットの目盛のない底部は5.5mlであった。このビュレットの精度は±0.2mlである。精度が±1秒のストップウォッチを用い、所定体積の透過液を回収する時間を記録した。透過流束は、短時間の平均流束によってJ=ΔV/AΔtという形に表わされる。ここに、Jは膜の流束(リットル/m2・時間)であり、ΔVは透過する体積(リットル)であり、Δtは時間(時間)であり、Aは膜の活性な表面の面積(m2)であり、製造者は54cm2に等しいとしている。膜の流束を特徴づける別のパラメータは、膜の透過率である。これは、過渡的透過流束を圧力に対する比として規格化した値であり、単位はリットル/m2・時間・バールである。
【0137】
バッチ式濾過の実験手続き
【0138】
バッチ式濾過を開始するため、気密な注射器で触媒溶液を供給用入口を通じてMETセルに移す。そのとき、数psiという低圧の窒素を同時に流してパージした。初期溶液の典型的な体積は60mlである。次にセルを窒素で望む圧力(1.0MPa)に加圧する。膜を通って流出する溶けたガスに代わる新鮮な窒素を供給源のガス・シリンダから補充することにより、セルの圧力を一定に維持する。磁気撹拌の速度を0〜12のうちの4に設定し、100mlのビュレットを用いた透過液レシーバを窒素でパージする。透過液弁を開放して濾過を開始し、最初の体積の半分が透過液として回収されるまで、膜でセルの中身を濾過する。濾過液の流束は、流れの中に配置した100mlのビュレットを用いて体積流を計測することによって計算する。望む量の透過液を回収した後、透過液逆止め弁を閉じて濾過を停止する。次に保持液と透過液の蒸気を採取し、ICPによってRhとPの元素分析を行なう。手続きに関する上記の全ステップは、室温(約21℃)で実施した。次に、METセルをグローブ・ボックスに移し、3回洗浄して一晩浸した後に保持液を回収する。膜を再利用する前に目視検査と流束測定を行なって膜がよい状態であることを確認する。
【0139】
金属の通過率は以下のようにして計算した。
通過率=(透過液に含まれるすべてのRhまたはP)/(出発溶液に含まれるすべてのRhまたはP)
【0140】
バッチ式濾過実験の結果
【0141】
ポリマーに担持された3種類の配位子(PBB10a、PBB10b、PBB10c)と1つの二座配位子(BiPhPhM)をテストした。P負荷は、調べた3つのバッチ(それぞれPBB10a、PBB10b、PBB10c)でそれぞれ0.949、0.634、0.645ミリモル/gであった。触媒溶液は、表5に示してあるように、ロジウムとリンをそれぞれ70〜110ppm、90〜300ppmの濃度で含んでおり、モルP/Rh比は4〜8であった。
【0142】
【表5】
【0143】
すべての濾過と流束の測定は、室温(21℃)で実施した。膜の流束の再現性をチェックして膜がよい状態であることを保証するため、ブランクとしての純粋なトルエンを用いて各濾過操作の前後に透過流束を測定した。表6に、各操作で使用した膜と窒素圧を示す。
【0144】
【表6】
【0145】
図3は、異なる溶液と異なる膜を用いて実施したさまざまな濾過操作において得られた透過流束を示している。白い棒は、純粋なトルエンだけを用いたブランクの濾過操作を表わしているのに対し、斜線のある棒と点のある棒は、溶けた触媒錯体を含む溶液を用いて実施した1回目の濾過と2回目の濾過をそれぞれ表わしている。予想通り、粘度がより小さい純粋なトルエンは、一定のガス圧では、触媒溶液と比べて透過流束が大きい。
【0146】
ポリマーに担持された3種類の配位子PBB10a、PBB10b、PBB10cのそれぞれについて、同じ膜で2回連続した操作を行なうと、透過流束はほぼ同じであった。これは、膜が安定であることの確認になっている。二座配位子(BiPhPhM)に関しては、2つの異なる膜でそれぞれ操作を2回繰り返した。その流束にはやはり再現性があった。
【0147】
図4と図5は、各バッチ操作で透過液の蒸気に含まれるRhとPの濃度をICPで測定した結果である。金属の通過率は以下のように計算した。
通過率=(透過液に含まれるすべてのRhまたはP)/(出発溶液に含まれるすべてのRhまたはP)
【0148】
PBB10a配位子に関しては、透過液に含まれるRhの濃度は、1回目の操作と2回目の操作でそれぞれ約5.5μg/g(ppm)と約3.8μg/g(ppm)である。Rhの通過率推定値は、初期溶液の体積の半分を濾過することを基準にして約3%と約4%である。通過率の値が比較的大きいことは、より大きなMWCO膜では小孔がより大きいことに帰される。また、膜の平衡の不完全さ、および/またはポリマーに含まれていて膜の表面を劣化させる不純物も原因である可能性がある。
【0149】
PBB10b配位子とPBP10a配位子に関しては、膜の流束速度を一定にした最初の2回の操作で、数十ppb程度の顕著に小さなRh通過率の値になる。2回目の操作では透過液に含まれるロジウムの濃度がいくらかそれよりも大きくなったが、やはりppbのレベルである。
【0150】
二座配位子(BiPhPhM)に関しては、透過液に含まれるRhの濃度は、予想されるように、ポリマーに担持された配位子(PBB10bとPBP10a)よりも大きい。これは、非ポリマーに担持された配位子と錯体がほぼ1/10のサイズであることに帰される。図5は、透過液に含まれるPの濃度がRhと同じ傾向であることを示している。ポリマーに担持された配位子(PBB10bとPBP10a)は、透過液に含まれるPの濃度が最低であるため、それに対応して透過液の通過率の値も最低である。
【実施例6】
【0151】
インサイチュ膜濾過を利用した1-オクテンの連続的均一ヒドロホルミル化
【0152】
この実施例では、高温高圧での連続的膜濾過とヒドロホルミル化反応の組み合わせを取り扱い、一定の流束と安定な基質の変換と選択性を特徴とする安定な動作が長期にわたって保証されるかどうかを明らかにする。実施例5に記載したバッチ式濾過操作と連続濾過操作のときに最高の保持特性を示した可溶性ポリマー・配位子を、ヒドロホルミル化の条件下での研究に使用した。
【0153】
連続的な膜濾過の実験手続き(反応なし)
【0154】
連続濾過に関しては、膜とサンプルの調製手続きはすべて、上記のバッチ式操作の場合と同じである。主な違いは、HPLCポンプを用いて純粋なトルエンを所定の流速でセルの中に連続して入れることで、濾過中にセル内の液体の体積が一定に維持されるようにすることである。蒸気流の中で計量弁を用い、供給物の流速と透過液の流速が一定に維持されていることを確認する。分析のため透過液のサンプルを定期的に採取する。高温での操作時にはセルをあらかじめ加熱し、濾過を開始する前にセルの中身の温度を安定にする。
【0155】
連続的な膜濾過の実験手続き(反応あり)
【0156】
トルエンと1-オクタン(v/v=70:30)からなる基質溶液を調製した。膜を反応装置の中に取り付けた後、3.0MPaという窒素圧のもとで無水トルエンを用いて膜の条件を整え、平衡させた。
【0157】
窒素雰囲気下にて、Rh(acac)(CO)2とポリマー結合配位子を含む60mlのトルエン溶液を注射器でMETセルに注入した。このシステムを合成ガスで再加圧しながらこの混合物を撹拌し、温度を60℃まで上げた。ストック供給ポンプを0.1〜0.5ml/分の流速からスタートさせると同時に、透過液弁をゆっくりと開いて透過液の流速が供給物の流速と同じになるように調節した。この範囲の流速にすることで、基質が触媒反応装置の中で十分な滞留時間(少なくとも120分間)になることが保証される。1時間ごとに透過液の蒸気からサンプルを採取した。このサンプルのわずかな一部をジクロロメタンで希釈し、ガス・クロマトグラフィVarian GC 5800(CP-Si 15CB Chromapack(登録商標)キャピラリー・カラム)で分析した。このサンプルの残りを用い、ICP JY 2000 2でRhとPを分析した。
【0158】
各操作は、合成ガスの供給を停止し、供給弁と透過液弁を閉じることによって終わらせた。しかし反応は、平衡に達するまで膜反応装置の中で相変わらず続くであろう。それは合成ガスの圧力低下によって示され、基質である1-オクテンが過剰であるときにはゼロまで下がることがある。合成ガスを再度確立し、ストックしてある供給物を流し、透過液弁を開くことによって連続操作を再開する。変換率と時間の関係を示すグラフは、開始段階を通じて上昇した後、安定状態に達するという挙動を示していた。
【0159】
反応なしの連続的な膜濾過:結果
【0160】
トルエンをベースとした中にポリマーに担持された配位子(PBB10c)が溶けている溶液を用いて2つの新鮮な膜(MWCOは200ダルトン)で濾過操作を2回繰り返した。この触媒溶液は、RhとPを100〜150ppmの範囲の濃度で含んでおり、モルP/Rh比は4である。
【0161】
図6に示した最初の連続濾過操作は7.5時間続いた。操作中を通じて透過流束は8リットル/m2・時間という一定値に留まった。これは、セルの圧力が同じ場合に純粋なトルエンを用いて得られる流束の約40%である。流れの中のRhとPの濃度は最初は大きく、時間経過とともに低下した。これは、おそらく、初期混合物からの結合しなかったRhとPと、ポリマーのうちで膜のMWCOよりも軽い部分からの結合しなかったRhとPが除去されたことを示している。RhとPの濃度は、数時間後にppbのレベル(約50ppb)までラインアウトした。このラインアウト期間中のRhとPの全損失量はそれぞれ2.1%と1.9%であり、これらの値は、実験的にフィットさせた濃度-時間曲線の下の面積を積分することによって得られる。これは、RhとPの約98%がセルの中に保持されたことを意味する。この直線的な期間中のRhとPの漏れが実質的にすべてであり、その値に留まったと仮定すると、1回の通過ごとのロジウムの目標回収率99.8%がこの直線的な期間を越えて容易に達成される。
【0162】
図7は、2回目の連続濾過操作について、透過流束と、透過液に含まれるRhとPの濃度を時間に対して示している。この濾過操作は合計で17時間継続させ、以下の3段階で実施した。第1段階(最初の8時間)は、第1の連続操作の繰り返しである。この操作の後はセルの中身を一定圧力の窒素雰囲気中に2週間にわたって保持した。その後に濾過を再開してさらに6時間継続させた。1回目の操作と同様、透過流束は一定に留まる。透過液に含まれるロジウムとリンの濃度は、濾過を14時間実施した後にそれぞれ20ppbと90ppbまで低下した。直線的な期間の間のRhとPの全損失量はそれぞれ1.9%と2.6%であり、これらの値は、実験的にフィットさせた濃度-時間曲線の下の面積を積分することによって得られる。RhとPの損失量は、1回目の操作の直線的な期間で得られたのと同様である。
【0163】
温度の効果を調べるため、前のセルの混合物の濾過を、セルを50℃に加熱して2週間後まで続けた。直線的な期間の後に透過液に含まれるRhとPの濃度がより大きいのは、膜流束が約2.5倍大きいことに帰され、一部はより高温で混合物の粘度がより小さいことに帰される。しかしRhの濃度は相変わらず数十ppbのレベルである。
【0164】
Pの濃度曲線は、各連続操作の開始時にスパイクを示す。これは、(膜装置の下の)滞留体積に溜まった可能性のあるRhとPが2週間の間に膜を通ってゆっくりと拡散することによって流れたことに帰される。図7からわかるように、濾過を再開すると、溜まったRhとPが最初に洗い流された後、曲線は以前に到達した値(数十ppbのレベル)に戻る。
【0165】
反応ありの連続的な膜濾過:結果
【0166】
PBB10dで改変したロジウム錯体を触媒とした1-オクタン・ヒドロホルミル化の連続実験を、60℃の温度にて0.6MPaの合成ガス圧下で実施した。溶液を1000rpmに等しい設定で撹拌し続けた。初期溶液に含まれるRhとPの濃度は、それぞれ139ppmと184ppmである。モルP/Rh比は4.4である。
【0167】
図8からわかるように、変換率は最初の操作の最初の8時間にゆっくりと上昇した後、次の8時間は11%に留まるのに対し、滞留時間は一定の3.5時間に維持される。位置選択性n/i比は、最初のサンプルの13という値から、15時間の操作の最後には6という値まで低下する。アルデヒド生成物に対する選択性は60〜65%の範囲の安定な値に到達し、変動は比較的少ない。
【0168】
反応混合物を前の反応と同じ撹拌速度で反応装置の中に8日間密封した後、連続操作をより大きな合成ガス圧(2.0MPa)で再開してさらに15時間実施した。平均滞留時間は約3時間である。この操作の目的は、合成ガスの部分圧が変換率と選択性に及ぼす効果を調べることであった。図9からわかるように、2.0MPaの合成ガス圧下での反応により、0.6MPaの合成ガス圧下での反応と比較してより大きな変換率(40%超)と、アルデヒドに対するより大きな選択性(90%超)が得られる。逆に、n/i比は6から3.5へと徐々に低下する。
【0169】
異なる動作条件で2回続けて行なった連続操作で透過液に含まれるRhとPの濃度のIPC分析結果を図10に示してある。合成ガスが0.6MPaでの1回目の連続操作では、透過液に含まれるRhの量は、15時間の操作中に120ppb未満であり、Pの量は、ポリマーに結合した配位子のサイズがより小さくて通過するために1.3ppmから570ppbへと低下する。
【0170】
合成ガス圧が2.0MPaでの2回目の連続操作におけるRhとPのレベルは、数ppmのレベルである。通過が増大した理由は今回は明確ではないが、2回目の連続操作の後、保持液の色(濃い赤)は、バッチ式操作の保持液の色(黄色)とまったく異なっていた。続けて実施する2回の操作の間の時間に、合成ガスが欠乏した環境で60℃という高温によってロジウム二量体が形成されたと推測される。しばしば報告されるロジウム二量体の形成は、低い水素圧と高いロジウム濃度で起こる。色の変化は、トリフェニルホスフィン(PPh3)を配位子とする以下の反応と関係している可能性がある。
【0171】
【化2】
【0172】
ポリマー結合配位子を用いると同じタイプの反応が起こる可能性があろう。得られるロジウム二量体とポリマー結合配位子PBB10の間の結合は弱い可能性があるため、二量体のサイズがPBB10ロジウム錯体よりも小さいことが原因でRhが膜を通じて多く漏れる。
【0173】
連続実験の最初の8時間で安定な1-オクタンの変換と生成物の選択性が得られるが、これらの量の実際の値は、バッチ式実験の間に得られた値よりもはるかに小さい。これは、受け取ったままのMETセルの中での激しい混合が欠けていることが原因であったことが疑われる。つまり不十分な混合によって液相中で“合成ガスの欠乏”が起こったのであろう。これは、変換と生成物の選択性の両方にマイナスの影響があることが知られている。混合を改善するため、METセルに磁気駆動の撹拌装置を取り付け、液相がはるかによく撹拌されるようにした。結果を以下の第2の実施例に示す。
【0174】
反応ありの連続的な膜濾過:結果(第2の実施例)
【0175】
関連した実施例において、PBB10dで改変したロジウム錯体を触媒とする1-オクタンのヒドロホルミル化の連続実験を、50℃の温度で合成ガスの圧力を3.0MPaにして実施した。1000rpmに等しい設定にした新しい撹拌装置で溶液を撹拌し続けた。初期溶液に含まれるRhとPの濃度は、それぞれ241.6ppmと400.4ppmである。モルP/Rh比は5.6である。
【0176】
図11からわかるように、変換率はゆっくりと増大し、8時間後に約50%の安定状態に到達した。位置選択性n/i比は約3.0〜3.5という一定値に留まった。アルデヒド生成物に対する選択性は、安定状態の値である90%以上の範囲に到達した。この値の典型値は95%よりも大きい。変換率と選択性の値の改善は、膜反応装置の中での十分な混合が、望む変換率と選択性を実現する上で重要であることを証明している。
【0177】
RhとPの濃度に関するICP分析の結果を図12に示してある。どちらの濃度も、透過液の中で8時間後に安定値に到達している。膜を通過する流速は、22時間の操作の間を通じてほぼ一定であった。これは、膜が詰まっていなかったことを示している。透過液に含まれるRhの量は140ppb未満であり、8〜22時間の間は30ppb未満であった。透過液に含まれるPの量は、より小さいサイズのポリマー結合配位子が通過することが原因で6.7ppmから1.5ppmに低下する。22時間の操作の間のRhとPの全損失量は、0.08質量%と3.43質量%であった。
【実施例7】
【0178】
触媒組成物を用いた1-オクテンのバッチ式ヒドロホルミル化
【0179】
この実施例では、本発明の触媒組成物を用いて1-オクテンのヒドロホルミル化を調べた。そのとき、液相の体積を増やすのに加圧した二酸化炭素を用いた。厚いガラス窓と磁気撹拌棒を備えるステンレス鋼製の高圧反応装置の中で、不活性雰囲気下にて、Rh(acac)(CO)2(2.6mg、0.01ミリモル)とポリマー(Rh/P=1/3)をトルエン(3.6ml)に溶かした。この溶液を25℃にて一晩にわたって撹拌すると、溶液は黄色っぽい色に変化する。不活性雰囲気下で1-オクテン(1.5ml、10.0ミリモル)を添加した後、反応装置に合成ガス(CO:H2、1:1v/v)を装填した。反応装置の周囲に巻いた熱コイルを用いて反応装置を加熱した。60℃に到達した後(約12時間かかる)、反応混合物に合成ガスを5回流し、合成ガスの圧力を6バールの一定値に維持した。2時間後、反応混合物を室温まで冷却し、合成ガスを効果的な換気装置の内部でゆっくりと放出することによって圧力を低下させた。次いで反応混合物を回収し、メタノールを5回添加した。白い触媒沈殿物を濾過によって大量に分離し、洗浄して乾燥させた後に次の操作で再利用した。生成物をGCによって分析し、直線状/分岐アルデヒドの比を1H NMR分光の積分値から決定した。
【0180】
同じ実験を、CO2で増やした液体系でも実施した。その場合、反応装置をCO2(32バール)で加圧して1時間放置し、60℃で平衡に到達させた。合成ガスの圧力は6バール(合計の圧力は38バール)であった。結果を表7に示す。
【0181】
【表7】
【実施例8】
【0182】
粘度と曇点の測定
【0183】
触媒をより容易に保持するのに用いるこの明細書の溶けたポリマー結合亜リン酸塩配位子は、特に高濃度において、ヒドロホルミル化反応混合物の粘度を顕著に増大させることができた。CO2を有機溶媒(ここではトルエン)に添加すると有機溶媒は体積が増え、このCO2で増やした溶媒の物理的特性はCO2圧とともに変化する。それに関する一般的なことが、Jin他、「CO2で増やした媒体における、触媒を用いたオレフィンのヒドロホルミル化の増強」、AIChE Journal 第52巻(7) 2575〜2581ページ (2006年);Jin他、「CO2で増やした媒体における、触媒を用いた1-オクテンの均一なヒドロホルミル化」、Chemical Engineering Science 第59巻 4887〜4893ページ (2004年);Subramaniam他、 アメリカ合衆国特許第7,365,234号に記載されている(これらはすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0184】
透過流束は、膜フィルタのスループットの予測、サイズとその投資コストの推定をするカギとなるパラメータである。多孔性膜に大きな濃度勾配がない場合には、ポリイミド膜に関し、ハーゲン-ポワズイユの式を用い溶媒の流束と粘度を相関させた。
J=(εrp2/8ητ)・(ΔP/ι)=(εrp2/8τι)・(ΔP/η)
ここにJは溶媒の体積流束(m3/m2秒)であり、ΔPは膜を横断する圧力低下(Pa)であり、ηは溶液の粘度(kg/m秒)であり、εは膜の空孔度であり、rpは膜の小孔の半径(m)であり、τは湾曲度であり、ιは膜の厚さ(m)である。P. Vandezande他、「溶媒耐性ナノ濾過:分子レベルでの分離」、Chemical Society Reviews 第37巻(2) 365〜405ページ (2008年)を参照のこと。溶媒の流束Jは、膜を横断する圧力低下が上昇するときと粘度が低下するときに増加する。明らかに、粘度は、他のすべての膜パラメータ以外に溶媒の流束に影響を与える唯一の溶液パラメータである。膜の小孔のサイズは、使用する溶媒のタイプによって変化する可能性がある。なぜなら溶媒のタイプによって膜ポリマーの膨張状態が異なるからである。それに加え、濃度の局在と、溶液が理想的でないことは、この明細書では考慮しない。
【0185】
有機溶媒にCO2を溶かすと粘度が低下し、有機溶媒の拡散性が増大する。CO2は、他の不活性ガス(例えば窒素)と比べると、加圧ガスとしてだけでなく、有機混合物の粘度を調節する試薬としても機能することができた。トルエンさまざまなリン・配位子が溶けた有機混合物の粘度を異なるCO2圧と異なる温度で測定した結果から、CO2の調節能力に関する証拠が得られるであろう。
【0186】
粘度測定は、ViscoPro 2000システム4の中で、ケンブリッジ・アプライド・システムズ社(現在はケンブリッジ・ヴィスコシティ社)が供給しているSPL-440高圧粘度計とViscolabソフトウエアを用いて実施した。実験全体の構成は、空気バス・ユニットと、供給ポンプと、CO2供給システムからなる。一様な温度環境を得るため、Jergusonビュー・セルと循環ポンプと粘度計を収容する空気浴を、ヤマト低温炉DKN400というディジタル制御装置で制御する。Jergusonビュー・セルは5000psiにされ、全サンプルの体積は30mlである。装備を取り付けたJergusonビュー・セルを用いると、曇点と膨張データも回収することができた。循環用マイクロポンプは5000psiにされ、圧力ヘッドは75psi、最大温度は250℃である。供給ポンプ(エルデクス・ラボラトリーズ社、1020 BBB-4)を用いて有機溶媒をシステムの中に入れる。CO2をシリンジ・ポンプ(ISCOモデル260D)で加圧する。CO2を一定温度に維持するため、このポンプは循環する水浴(Isotemp 30165 Sisher Scientific)で断熱されている。最大圧力限界が30000psiのその場での圧力変換器とHeiseディジタル圧力インディケータを用いてシステムの圧力を記録する。
【0187】
粘度計は、ピストンを内部に備える円筒形セルである。流体がピストンと円筒形セル壁部の間に捕獲される。センサー本体の内部にある2つの磁気コイルがピストンを固定された距離で振動させるため、流体は、ピストンとチェンバーに挟まれた環状スペースを通り抜ける。ピストンが二方向サイクルを完了するのに必要な時間は流体の粘度に直接関係している。粘度センサーは、粘度を0.02cPから10,000cPまで測定することができ、最大動作圧力は20,000psi(1379バール)、動作温度は-40〜+190℃の範囲である。
【0188】
粘度計を45°傾け、内部に捕獲された気体の泡をすべて容易にパージできるようにする。製造者の仕様書によると、粘度測定の精度は、粘度の測定値の±1%である。粘度計の温度は、粘度計の底部に位置する温度センサーで測定され、精度は±0.01℃である。この装置から読み取る粘度の生データは、製造者が提供するプログラムを用いて温度と圧力による補正をした。
【0189】
粘度測定の前に、Jergusonビュー・セルの中で、トルエンにさまざまなリン・配位子が溶けた有機混合物の体積を増やした。この混合物にCO2を少しずつ添加し、温度と圧力が安定化した後、この混合物が雲のようになる最大CO2圧に達するまで、混合物の体積を望むそれぞれの温度と圧力で記録した。この最大CO2圧は曇点圧と呼ばれ、有機混合物が均一な状態を維持しながら許容できる最大CO2圧である。曇点は、リン・配位子の濃度が異なっているそれぞれの具体的な混合物で異なる。膨張と曇点を測定している間、曇点が近づくと粘度計をバイパスさせ、粒子による引っかき傷がピストンにつくのを防止する。
【0190】
図13に示したこの実験でテストしたシステムのうちで、純粋なトルエンと、トルエンとBiPhPhM配位子の混合物がCO2と混和し、調べた圧力と温度の範囲では曇点を示さない。ポリマーに担持された配位子PBB10b、PBP10a、PBB10cは、図面に示した最大CO2圧で沈殿する。曇点圧は温度が上昇するにつれて上昇する。曇点の測定は、本質的に動作温度と動作圧力の範囲を与える。その範囲では、CO2を添加したときにポリマーに担持された触媒が溶液の状態に留まるため、均一な触媒反応が容易になる。
【0191】
図14は、トルエンと0.7質量%のPBB10cの混合物について、4つの温度と、曇点圧よりも低い5つのCO2圧で測定した粘度を示している。粘度は、同じCO2圧では温度の上昇とともに低下し、同じ温度ではCO2圧の上昇とともに低下する。粘度は、温度30℃と60℃でCO2を40バールまで添加することによってそれぞれ50%と30%低下する。CO2圧が40バールだと、粘度は温度が変化しても無視できる程度の変化しかしないことが観察された。ヒドロホルミル化反応混合物にCO2を添加すると直線状アルデヒドの選択性が向上する(Subramaniam他、アメリカ合衆国特許第7,365,234号に示されており、この特許は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)だけでなく、粘度も低下するため、膜流束を調節する能力が生じる。
【0192】
同じ温度において圧力が同じ55バールの窒素ではなくCO2で純粋なトルエンの流束が2〜3倍大きいことが観察されたという別の証拠により、CO2の添加によって溶媒の透過を容易にできることが証明された。トルエンと0.7質量%の濃度のPBB10cの混合物について、さまざまな温度での粘度とCO2圧の関係を図15にプロットしてある。明らかに、どの温度でも、CO2圧が上昇すると粘度は低下する。より低温では、粘度はより高温におけるよりも急速に低下する。この観察結果は、同じCO2圧だと高温よりも低温で混合物の体積の増加がより多い(CO2の溶解度がより大きい)という事実と合致している。
【0193】
より大きな濃度(1.8質量%)のポリマー結合配位子を含む系について、同じ傾向が、図16に示した粘度の温度変化と、図17に示した粘度のCO2圧による変化で観察された。
【0194】
図18は、異なる濃度のポリマーについて、60℃でCO2圧によって粘度が変化することを示している。同じ温度と同じCO2圧では、粘度はポリマーの濃度が上昇すると増大する。CO2を添加したときの粘度の低下は、ポリマーの濃度が小さい混合物と大きい混合物の両方で同様である。
【0195】
有機溶媒にCO2を溶かすと粘度が低下し、有機溶媒の拡散性が増大する。CO2は、他の不活性ガス(例えば窒素)と比べると、加圧ガスとしてだけでなく、有機混合物の粘度を調節する試薬としても機能することができた。さまざまなリン・配位子を溶かしたトルエンを用いた異なるCO2圧と異なる温度での有機混合物の粘度の測定から、CO2の調節能力に関する証拠が得られる。
【0196】
以上から、本発明は、冒頭に示したすべての目的のほか、明白であって本発明に固有の他の利点を達成するのに非常に適していることがわかるであろう。本発明の範囲を逸脱することなく、多くの可能な実施態様が可能であるため、この明細書に開示するか添付の図面に示したあらゆる事柄は、例示であって本発明を制限する意味はないことを理解すべきである。特定の実施態様を示して議論してきたが、もちろんさまざまな改変が可能であり、本発明が、この明細書に記載した部品およびステップの特定の形態や配置に限定されることはない。ただし、そのような制限が以下の請求項に含まれている場合は別である。さらに、いくつかの特徴と下位の組み合わせは有用であり、他の特徴および下位の組み合わせに言及することなく利用できるものと理解する。これは請求項によって考慮され、請求項の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体を形成するために遷移金属含有化合物と結合する多座配位子で官能化されたポリマーと、該多座配位子と錯形成する遷移金属とを含み、該官能化ポリマーが約5,000〜30,000g/モルの数平均分子量と、約1.0〜2.0の多分散性指数を有する、触媒組成物。
【請求項2】
前記官能化ポリマーの選択が、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、前記配位子が、ホスフィン、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩のいずれかを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記官能化ポリマーが、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を有するポリスチレンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記官能化ポリマーが、ホスフィン、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩からなる配位子のグループの中から選択した前記多座配位子で官能化されたポリスチレンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記官能性ポリマーの数平均分子量が約9,000〜12,000g/モルである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記多分散性指数の選択が、約1.0〜1.5のグループの中からなされる、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記遷移金属の選択が、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記官能性ポリマーが、ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
基質と請求項1に記載の触媒組成物を液相状態で含む反応混合物。
【請求項10】
前記基質が、ケトン、アルデヒド、エノン、エナール、オレフィン、アルキン、アルコール、酸化可能な基質のいずれか、またはこれらの混合物である、請求項9に記載の反応混合物。
【請求項11】
反応混合物から触媒組成物を分離する方法であって、
反応剤と、液相状態の基質と、場合によっては用いる溶媒と、液相状態の請求項1に記載の触媒組成物とを含む反応混合物を形成するステップと;
圧縮ガスを前記反応混合物の中に添加するステップと;
その液相状態の反応混合物をフィルタで濾過して保持組成物と透過組成物を形成するステップを含んでいて、前記保持組成物が前記触媒組成物を含んでいる方法。
【請求項12】
前記反応剤が、CO、O2、H2、H2/CO合成ガスからなるグループの中から選択した反応ガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応ガスが前記圧縮ガスでもある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記圧縮ガスが不活性ガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記不活性ガスの選択が、窒素、二酸化炭素、キセノン、SF6、アルゴン、ヘリウムからなるグループの中からなされる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記圧縮ガスが圧縮二酸化炭素であり、前記液相が、その圧縮二酸化炭素を用いて体積を増やされており、前記液相の粘度が、その圧縮二酸化炭素なしの液相と比べて低下している、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記反応混合物が、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記基質がオレフィン基質を含んでおり、前記反応剤がH2/CO合成ガスを含んでおり、前記触媒組成物がヒドロホルミル化触媒を前記液相状態の反応混合物の中に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記オレフィン基質が、6個以上の炭素を有する高級オレフィンであり、そのオレフィン基質の選択が、直線状オレフィン、分岐したオレフィン、末端に二重結合を有するオレフィン、内部に二重結合を有するオレフィンからなるグループの中からなされる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒドロホルミル化触媒が、リン含有配位子で官能化されたポリマーと結合して錯体を形成するロジウム含有化合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記反応混合物が有機溶媒をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記有機溶媒が、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンのいずれかである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記有機溶媒が、前記オレフィン基質と、ヒドロホルミル化反応の生成物であるアルデヒドとの混合物である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記圧縮ガスが、液相中に10%〜90%の体積を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項25】
前記圧縮ガスが高密度二酸化炭素である、請求項11に記載の方法。
【請求項26】
前記基質が酸化可能な基質であり、前記圧縮ガスが、酸素、空気、またはこれらの組み合わせからなるグループの中から選択されるガスを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項27】
前記基質が水素化基質であり、前記圧縮ガスがH2を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項28】
前記基質がカルボニル化基質であり、前記圧縮ガスがCOを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項29】
前記濾過ステップを、バッチ式で、または半連続的に、または連続的に実施する、請求項11に記載の方法。
【請求項30】
前記濾過ステップが、ポリイミド膜で前記液相状態の反応混合物を濾過する操作を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項31】
前記濾過ステップが、溶質が90%拒否されることを基準として100〜1000g/モルからなるグループの中から選択した分子量カット-オフ範囲を持つフィルタで前記液相状態の反応混合物を濾過する操作を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記透過組成物に含まれる遷移金属の濃度が0.00001%(100ppb)未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項33】
前記液相状態の反応混合物に含まれる前記遷移金属の濃度が0.00001%〜0.2%(100ppb〜2000ppm)である、請求項11に記載の方法。
【請求項34】
前記遷移金属の選択が、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
遷移金属錯体を形成するために遷移金属含有化合物と結合する多座配位子で官能化されたポリマーと、該多座配位子と錯形成する遷移金属とを含み、該官能化ポリマーが約5,000〜30,000g/モルの数平均分子量と、約1.0〜2.0の多分散性指数を有する、触媒組成物。
【請求項2】
前記官能化ポリマーの選択が、ポリスチレンまたはポリエチレングリコールのコポリマーからなるグループの中からなされ、前記配位子が、ホスフィン、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩のいずれかを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記官能化ポリマーが、アミノ、エポキシ、カルボン酸、カルボン酸エステル、オルトエステル、無水物、炭素-炭素二重結合、ホスフィン、亜リン酸塩、ピリジルからなるグループの中から選択した少なくとも1つの部分を有するポリスチレンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記官能化ポリマーが、ホスフィン、ホスフィナン、ホスフィニン、ホスフィナイト、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩からなる配位子のグループの中から選択した前記多座配位子で官能化されたポリスチレンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記官能性ポリマーの数平均分子量が約9,000〜12,000g/モルである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記多分散性指数の選択が、約1.0〜1.5のグループの中からなされる、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記遷移金属の選択が、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記官能性ポリマーが、ポリスチレン-コ-6,6'-(3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジビニルビフェニル-2,2'-ジイル)ビス(オキシ)ジジベンゾ[l,3,2]ジオキサホスフェピンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
基質と請求項1に記載の触媒組成物を液相状態で含む反応混合物。
【請求項10】
前記基質が、ケトン、アルデヒド、エノン、エナール、オレフィン、アルキン、アルコール、酸化可能な基質のいずれか、またはこれらの混合物である、請求項9に記載の反応混合物。
【請求項11】
反応混合物から触媒組成物を分離する方法であって、
反応剤と、液相状態の基質と、場合によっては用いる溶媒と、液相状態の請求項1に記載の触媒組成物とを含む反応混合物を形成するステップと;
圧縮ガスを前記反応混合物の中に添加するステップと;
その液相状態の反応混合物をフィルタで濾過して保持組成物と透過組成物を形成するステップを含んでいて、前記保持組成物が前記触媒組成物を含んでいる方法。
【請求項12】
前記反応剤が、CO、O2、H2、H2/CO合成ガスからなるグループの中から選択した反応ガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応ガスが前記圧縮ガスでもある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記圧縮ガスが不活性ガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記不活性ガスの選択が、窒素、二酸化炭素、キセノン、SF6、アルゴン、ヘリウムからなるグループの中からなされる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記圧縮ガスが圧縮二酸化炭素であり、前記液相が、その圧縮二酸化炭素を用いて体積を増やされており、前記液相の粘度が、その圧縮二酸化炭素なしの液相と比べて低下している、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記反応混合物が、水素化反応混合物、ヒドロホルミル化反応混合物、酸化反応混合物、カルボニル化反応混合物のいずれか、またはこれらの組み合わせである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記基質がオレフィン基質を含んでおり、前記反応剤がH2/CO合成ガスを含んでおり、前記触媒組成物がヒドロホルミル化触媒を前記液相状態の反応混合物の中に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記オレフィン基質が、6個以上の炭素を有する高級オレフィンであり、そのオレフィン基質の選択が、直線状オレフィン、分岐したオレフィン、末端に二重結合を有するオレフィン、内部に二重結合を有するオレフィンからなるグループの中からなされる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒドロホルミル化触媒が、リン含有配位子で官能化されたポリマーと結合して錯体を形成するロジウム含有化合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記反応混合物が有機溶媒をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記有機溶媒が、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンのいずれかである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記有機溶媒が、前記オレフィン基質と、ヒドロホルミル化反応の生成物であるアルデヒドとの混合物である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記圧縮ガスが、液相中に10%〜90%の体積を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項25】
前記圧縮ガスが高密度二酸化炭素である、請求項11に記載の方法。
【請求項26】
前記基質が酸化可能な基質であり、前記圧縮ガスが、酸素、空気、またはこれらの組み合わせからなるグループの中から選択されるガスを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項27】
前記基質が水素化基質であり、前記圧縮ガスがH2を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項28】
前記基質がカルボニル化基質であり、前記圧縮ガスがCOを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項29】
前記濾過ステップを、バッチ式で、または半連続的に、または連続的に実施する、請求項11に記載の方法。
【請求項30】
前記濾過ステップが、ポリイミド膜で前記液相状態の反応混合物を濾過する操作を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項31】
前記濾過ステップが、溶質が90%拒否されることを基準として100〜1000g/モルからなるグループの中から選択した分子量カット-オフ範囲を持つフィルタで前記液相状態の反応混合物を濾過する操作を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記透過組成物に含まれる遷移金属の濃度が0.00001%(100ppb)未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項33】
前記液相状態の反応混合物に含まれる前記遷移金属の濃度が0.00001%〜0.2%(100ppb〜2000ppm)である、請求項11に記載の方法。
【請求項34】
前記遷移金属の選択が、ロジウム、コバルト、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、パラジウム、白金からなるグループの中からなされる、請求項11に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2012−508649(P2012−508649A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536558(P2011−536558)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/064595
【国際公開番号】WO2010/057099
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(508176441)ユニバーシティ・オブ・カンザス (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/064595
【国際公開番号】WO2010/057099
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(508176441)ユニバーシティ・オブ・カンザス (9)
【Fターム(参考)】
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