説明

ポリマーの溶融押出方法および溶融押出装置

【課題】ポリマーの溶融押出において、異物の捕集によるフィルター濾材の目詰まりに起因する圧力損失の増加を遅らせる。
【解決手段】多段濾過工程を含むポリマーの溶融押出方法であって、前記多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを用いることを特徴とするポリマーの溶融押出方法。また、前記の溶融押出方法により得られる溶融ポリマーを製膜して得られるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの溶融押出工程における、溶融ポリマーの濾過方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマーの溶融押出工程において、溶融させたポリマーを金網や金属不織布、あるいはそれらを焼結させた濾材を用いたフィルターにより濾過し、混入異物や未溶融物を除去することで、これらに起因するトラブルを防止して操業性を向上させるとともに、品位の高い製品を製造する方法が行われていた。
【0003】
混入異物や未溶融物を除去する濾過方法としては、比較的濾過精度の低い1段目の濾材で粗濾過をおこなったあと、1回目の濾過に用いた濾材と同等かより高い濾過精度を持つ濾材によってポリマーを再度濾過する方法が特許文献1や特許文献2に示されているが、劣化ポリマーなどからなる未溶融物は濾過時に変形を生じて濾材の繊維間等を通過する場合があり、有効な手段になりえない。
【0004】
濾材中の空隙率の小さい濾材、特に焼結させた金属パウダーフィルターからなる濾材を用いる方法が特許文献3に提案されているが、これらの濾材はわずかな異物の通過により圧力損失が増加し、大きな濾過面積が必要になるという問題がある。濾過面積を増やすと、ポリマーの滞留時間が増加し、ポリマー劣化物を生じやすくなるため望ましくない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−027396号公報
【特許文献2】特開2007−125735号公報
【特許文献3】特開2008−222826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリマーの溶融押出において、濾過精度の高いフィルターと、それより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターとの組み合わせにより、焼結金属パウダーフィルターの異物の捕集によるフィルター濾材の目詰まりに起因する圧力損失の増加を遅らせることで、焼結金属パウダーフィルターで未溶融物を取り除くことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはあらかじめ比較的高い濾過精度のフィルターで濾過して固形異物を十分に取り除いたポリマーを、前段より低い濾過精度の焼結金属パウダーフィルターで濾過することにより、未溶融物の除去とフィルター濾材における圧力損失の維持を両立できることを見出し、本発明に達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)多段濾過工程を含むポリマーの溶融押出方法であって、前記多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを用いることを特徴とするポリマーの溶融押出方法。
(2)(1)記載の溶融押出方法により得られる溶融ポリマーを製膜して得られるフィルム。
(3)多段濾過機構を備えたポリマーの溶融押出装置であって、前記多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを備えていることを特徴とするポリマーの溶融押出装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、焼結金属パウダーフィルターの異物の捕集による圧力損失の増加を遅らせることで、焼結金属パウダーフィルターで未溶融物を取り除くことができる。
また、前記方法により得られた溶融ポリマーを用いてフィルムを得ることにより、未溶融物からなる異物や、未溶融物を核とする延伸ムラを少なくすることができ、フィルムの品位を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
従来、ポリマーの溶融押出工程において、溶融させたポリマーを金網や金属不織布、あるいはそれらを焼結させた濾材を用いたフィルターにより濾過し、混入異物や未溶融物を除去することで、これらに起因するトラブルを防止して操業性を向上させるとともに、品位の高い製品を製造する方法が行われている。
【0011】
これらのフィルターを組み合わせ、まず比較的濾過精度の低い濾材で粗濾過をおこなったあと、同等かより高い濾過精度を持つ濾材によってポリマーを再度濾過する多段濾過によって高い濾過精度を持つフィルターが直接異物による目詰まりにさらされることを防ぎ、目詰まりを遅らせることも行われている。
【0012】
本発明においては、多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを用いる。
なお、「濾過精度が低い」とはフィルターの目開きが大きく、より粗いフィルターであることを意味する。
【0013】
焼結金属パウダーフィルターとは、金属のパウダーを圧縮、成形後に高温で焼結された多孔質のものである。濾材の材質は特に限定されないが、ステンレススチール、銅などが適し、樹脂との反応性、耐腐食性の点でステンレススチールが好ましい。ステンレススチールの中でも、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS430などが加工性や耐腐食性の点で好適である。なお、濾材以外の支持体などの部材の材質についてもステンレススチール、銅などの金属が適し、ステンレススチールとしては前記したものを好適に用いることができる。
【0014】
焼結金属パウダーフィルターの前段までで用いられるフィルター濾材の濾過精度は60μm以下であることが望ましく、さらに好ましくは5〜30μmである。このような濾過精度を得るためには金属繊維からなる不織布フィルターが適しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、このほかに金網などを濾材とするフィルターを用いることができる。また、これらの濾材を用いたフィルターによる多段濾過を行ってもよい。
【0015】
焼結金属パウダーフィルターの前段までのフィルター濾材の濾過精度は、十分に固形異物を取り除き、焼結パウダーフィルターの目詰まりによる圧力損失の増加を抑えるため、焼結金属パウダーフィルターの濾過精度を上回っている必要がある。
【0016】
また、焼結金属パウダーフィルターに用いられる濾材の濾過精度は、80μm以下であることが望ましく、さらに好ましくは20〜60μmである。80μmより低い濾過精度では未溶融物を十分に取り除くことができないことがある。また、濾材の空隙率は60%以下であることが望ましく、より好ましくは30〜50%の範囲である。60%より高い空隙率では未溶融物を十分に取り除くことができないことがある。
【0017】
本発明に用いられるフィルターの形状としてはリーフ型、キャンドル型、リーフディスク型などが挙げられるが、滞留時間分布の均一性が高く、濾過面積を増やしやすい形状のリーフディスク型が望ましい。このようなフィルターおよび濾材は、日本国内であれば日本精線株式会社、長瀬産業株式会社などから購入することができる。
【0018】
本発明に用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリカーボネートなどが挙げられ、ポリエステルの場合は、ポリエチレンテレフタレート、プリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ポリアミドの場合はナイロン−6、ナイロン−66などが挙げられる。
【0019】
上記ポリマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば他のポリマー、スリップ剤、無機フィラー、酸化防止剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。スリップ剤はフィルムのアンチブロッキング性、透明性の点から、平均粒子径0.05μm以上、5μm以下の酸化ケイ素や酸化チタンなどを0.005〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%添加することが望ましい。
【0020】
本発明で用いられるフィルターはいずれも、ポリマーを溶融した後、ダイス等から押出すまでの間のポリマー配管中に配置され、ポリマーを濾過する。溶融押出のための押出機は特に限定されず、単軸押出機でも2軸押出機でもよく、また、1台であっても複数台であってもよい。さらに、必要に応じていずれかのフィルターの前後にギヤポンプなどを配置し、ポリマーの計量を行ってもよい。
フィルムを製造する際には、ポリマーをT型ダイス等を用いて押出して冷却ドラム上で冷却することにより未延伸フィルムを得、必要に応じて縦延伸装置、横延伸装置、もしくは同時2軸延伸機などの延伸装置の任意の組み合わせで延伸し、延伸フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0022】
<参考例1>
90mm口径の単軸押出機、630mm幅のT型ダイス、直径600mmの冷却ロール(以下、CR)を用いて280℃でPET樹脂の溶融押出を行い、未延伸フィルムを得た。ここでポリマーろ過フィルターは、押出機のヘッド部に、直径4mmの穴多数を流路として有する直径130mmのブレーカープレートに支持させてポリマー流路内に挿入した。フィルター濾材には直径130mmの日本精線社製不織布フィルターNF−10D(濾過精度30μm)のリーフフィルターを用いた。
未延伸フィルムをまずロール延伸法により縦方向に約90℃で3.5倍、次いでテンター延伸法により横方向に約120℃で約4.6倍に延伸し、230℃で3秒間熱処理を行った後冷却し、巻取機でロール状に巻取り、厚み25μmの延伸フィルムを得た。
このフィルターの組み合わせでは圧力損失がフィルター濾材の耐圧12MPaを超えることなく10時間以上の操業が可能であった。
得られた延伸フィルムを異物検知器により検査し、幅600mm長さ100mに含まれていた異物をカウントし、1平方メートルあたりに換算した数を表1に示した。
なお、評価する異物のサイズは、濾過精度30μmの不織布フィルターの目を通過し得る異物のサイズは30μm、異物が上記倍率で延伸された場合を仮定して、縦方向の寸法が144μm以下、105μm以下の異物をカウントした。
【0023】
<比較例1>
未溶融物を再現するため、原料の50%を、一度製膜、延伸したフィルムを粉砕、溶着させて作成したリサイクルチップとしたほかは参考例1と同様にした延伸フィルムを得た。このフィルターの組み合わせでは圧力損失がフィルター濾材の耐圧12MPaを超えることなく10時間以上の操業が可能であった。
このフィルムについて参考例1と同様の手段で異物検査を行い、1平方メートルあたりの数を表1に示した。
【0024】
<比較例2>
フィルターに長瀬産業社製の焼結金属パウダーフィルターP−55(濾過精度55μm、空隙率55%)を使用した他は参考例1と同様にして延伸を行ったところ、約20kgのポリマー吐出後、15分間でフィルターの圧力損失が18MPaを超え、フィルター濾材の耐圧を上回ったため押出を中止した。
【0025】
<実施例1>
フィルター濾材として、長瀬産業社製の焼結金属パウダーフィルターP−55(濾過精度55μm、空隙率55%)の上流側に、これより濾過精度の高い日本精線社製不織布フィルターNF−10D(濾過精度30μm)を積層して使用した他は参考例1と同様の方法で延伸フィルムを得た。このフィルターの組み合わせでは圧力損失がフィルター濾材の耐圧12MPaを超えることなく10時間以上の操業が可能であった。
このフィルムについて参考例1と同様の手段で異物検査を行い、1平方メートルあたりの数を表1に示した。
【0026】
<実施例2>
原料に比較例1と同様のリサイクルチップを50%添加したほかは実施例1と同様にした延伸フィルムを得た。
このフィルムについて参考例1と同様の手段で異物検査を行い、1平方メートルあたりの数を表1に示した。
【0027】
<比較例3>
フィルター濾材として、長瀬産業社製の焼結金属パウダーフィルターP−55(濾過精度55μm、空隙率55%)の上流側に、これより濾過精度の低い日本精線社製不織布フィルターNF−13D(濾過精度60μm)を積層して使用したほかは、実施例2と同様の方法で延伸フィルムを得た。このフィルターの組み合わせでは約4時間の操業後、圧力損失が18MPa以上となり、フィルター濾材の耐圧を超えた。
このフィルムについて参考例1と同様の手段で異物検査を行い、1平方メートルあたりの数を表1に示した。
【0028】
<実施例3>
フィルター濾材として、長瀬産業社製の焼結金属パウダーフィルターP−55(濾過精度55μm、空隙率55%)の上流側に、NF−10Dより濾過精度の高い日本精線社製不織布フィルターNF−07D(濾過精度15μm)を積層して使用したほかは、実施例2と同様の方法で延伸フィルムを得た。このフィルターの組み合わせでは圧力損失がフィルター濾材の耐圧12MPaを超えることなく10時間以上の操業が可能であった。
このフィルムについて参考例1と同様の手段で異物検査を行い、1平方メートルあたりの数を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
参考例1と比較例1の対比からわかるように、不織布フィルターのみでは、リサイクルチップの添加により、フィルム中に不織布フィルターを通過してくる異物の量が増えていた。その多くは未溶融の劣化ポリマーなどであった。
【0031】
実施例1では、焼結金属フィルターでの濾過の前段として、より濾過精度の高い不織布フィルターで濾過を行うことにより、比較例2のような急激な昇圧を防ぐことが出来た。
しかしながら、比較例3のように、前段の不織布フィルターの濾過精度が焼結パウダーフィルターより低いと、フィルター差圧の上昇が早くなった。
【0032】
実施例2では、不織布フィルターに加えて焼結金属パウダーフィルターを使用した場合であるが、リサイクルチップを添加しても濾過後のポリマーに混入する異物はほとんど増えなかった。
また、実施例3のように、前段に濾過精度がより高い不織布フィルターを用いたほうが、異物の濾過の効果がより高かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段濾過工程を含むポリマーの溶融押出方法であって、
前記多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを用いることを特徴とするポリマーの溶融押出方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶融押出方法により得られる溶融ポリマーを製膜して得られるフィルム。
【請求項3】
多段濾過機構を備えたポリマーの溶融押出装置であって、
前記多段濾過における2段目以降のフィルターとして、前段のいずれかのフィルターより濾過精度の低い焼結金属パウダーフィルターを備えていることを特徴とするポリマーの溶融押出装置。