ポリマーの製造方法
【課題】 同一槽での連続バッチ反応において、洗浄を行わなくても、目的とする分子量の共重合ポリマーを再現性良く効率的に製造できる方法の提供。
【解決手段】 重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
【解決手段】 重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリマーは分散剤、増粘剤のような分野で用いられている。共重合反応により共重合ポリマーの重合を行う際に、各々のモノマーの反応速度はその構造により異なる為、重合時の各々のモノマー濃度を制御する事で目的とする分子量の共重合ポリマーを得ることが出来る。
【0003】
バッチ方式による製造において、同一槽で洗浄を行わずに次バッチを行う場合、前バッチの付着残りに重合開始剤が残存している事があり、重合開始剤を添加する前に重合が始まってしまうことにより目的とする分子量のポリマーが得られないという問題がみられた。
【0004】
特許文献1には生体活性セメントの製造において、重合禁止剤を予め添加する事で硬化時の重合速度をコントロールする方法が開示されている。しかし、この重合禁止剤は、重合反応を完全に停止させるためではなく、重合速度を制御するために添加されている。
【0005】
特許文献2には、重合開始剤を少量添加し、モノマー等の原料に含まれる重合禁止剤等を無害化し、重合が可能な状態になる重合開始点を重合槽内の温度上昇により確認した後、重合開始剤等を更に添加して、目的の分子量を持つ重合体を製造する方法が開示されている。しかし、この方法は原料に含まれる重合禁止剤等を無害化した後に重合する方法であり、反応系に重合開始剤が存在している場合には重合開始剤添加前より温度上昇が起こってしまい、重合を制御できない場合がある。また重合制御が充分できない場合には、目的とする分子量のポリマーが得られなかったり、重合後のポリマー水溶液に濁りが発生したりする場合もある。
【特許文献1】特開2000−279506号公報
【特許文献2】特開2003−268010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、同一槽での連続バッチ反応において、洗浄を行わなくても、目的とする分子量の共重合ポリマーを再現性良く効率的に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法を提供する。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
また、本発明は更に下記条件2を満たす、上記共重合ポリマーの製造方法を提供する。
条件2:前バッチの反応物を反応槽から抜出した後に、反応槽を洗浄しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、同一槽での連続バッチ反応において、予め重合禁止剤を添加して前バッチの付着残りに存在する重合開始剤を無害化する事で重合開始剤添加前の重合反応を抑制し、且つ、重合開始剤添加後に即座に反応を開始させる事により、バッチ間での洗浄を行うことなく、目的とする分子量の共重合ポリマーを再現性良く効率的に製造する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法により製造される共重合ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、使用されるモノマーも特に限定されるものではないが、本発明の方法は、疎水性基及び親水性基の両方を有する両親媒性ポリマーの製造に好適に用いることができる。
【0010】
両親媒性ポリマーは、例えば親水性モノマー及び疎水性モノマーを含むモノマー成分を重合する方法、あるいは反応性界面活性剤と親水性モノマーを共重合させる方法等により製造することができる。
【0011】
親水性モノマー及び疎水性モノマーを含むモノマー成分を重合させる場合に、親水性モノマーとして、イオン性親水性モノマー及び非イオン性親水性モノマーを用いることができる。イオン性親水性モノマーとしては、分子中に陽イオン性または陰イオン性の親水性基を有するモノマーを用いることができる。
【0012】
陽イオン性親水性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アリルアミンまたはこれらの塩酸、硫酸、酢酸、リン酸等の無機酸、有機酸の塩類、もしくはメチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、エチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、ジアルキル(メチル、エチル等)硫酸、ジアルキル(メチル、エチル等)炭酸等の4級化剤との反応によって得られる4級アンモニウム塩を含有するビニルモノマーを用いることができる。
【0013】
陰イオン性親水性モノマーとしては、不飽和カルボン酸や不飽和2重結合を持つ有機スルホン酸及びその中和塩等を用いることができる。不飽和カルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和2重結合を持つ有機スルホン酸としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0014】
これらの陰イオン性親水性モノマーを中和塩として用いる場合には、中和塩基として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。
【0015】
非イオン性親水性モノマーとしては不飽和カルボン酸アミド化合物、その他の親水性ビニル化合物、及び親水性アリル化合物からなる群より選択される1種以上の化合物が使用できる。不飽和カルボン酸アミド化合物の例としては、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。その他の非イオン性の親水性ビニル化合物としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニル−5−メチルオキサゾリドン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。親水性アリル化合物としては、アリルアルコール、メタリルアルコール等が例示される。
【0016】
尚、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0017】
両親媒性ポリマーを製造する場合、高分子鎖中の疎水性を強化するために、疎水性のモノマーを同時に用いることができ、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、ビニルカルボン酸エステル化合物、アルキルビニルエーテル化合物、その他のビニル化合物、および疎水性アリル化合物からなる群より選択された1種以上の化合物が挙げられる。
【0018】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、2,5−ジクロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。ジエン化合物としては、アレン、ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン化合物、及びクロロプレン等を挙げることができる。ビニルカルボン酸エステル化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレート類やウレタン(メタ)アクリレート類、ジビニル化合物等を挙げることができる。
【0019】
両親媒性ポリマーを、反応性界面活性剤と親水性モノマーを共重合させる方法で合成する際に用いられる反応性界面活性剤とは、分子内に重合性の不飽和2重結合、イオン性の親水性基及び疎水性基を有する物質である。例えば、分子内にビニル基あるいはアリル基と、イオン性の親水性基を1つ以上もつ両親媒性の化合物である、例えばコハク酸ポリオキシエチレンアルキルエステル等の公知の反応性界面活性剤を使用することができる。
【0020】
反応性界面活性剤と共重合させる親水性モノマーとしては、分子内に陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のいずれかの親水性基を持った重合性のモノマーを用いることができる。この親水性モノマーは、上記の陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性親水性モノマーを使用することができる。
【0021】
親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー及び疎水性(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分を用いて両親媒性ポリマーを製造する場合には、初期反応時の原料モノマー比率が得られたポリマー溶液の濁度に重要な影響を与える。両親媒ポリマーの濁りを抑制する観点から、下記式(I)で表される初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度は0.5〜10モル%が好ましく、1〜5モル%が更に好ましい。
【0022】
W=B/(A+B)×100 (I)
(式中、W:初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度[モル%]、A:初期反応時の非イオン性親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー量[モル]、B:初期反応時の疎水性(メタ)アクリレート系モノマー量[モル]を示す。)
【0023】
本発明に用いられる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のパーオキシド等を挙げることができるが、アゾ化合物が好ましい。
【0024】
本発明に用いられる重合禁止剤としては、パラベンゾキノン(PBQ)、メトキノン(MeHQ)、ハイドロキノン(HQ)等のキノン系重合禁止剤、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、フェノチアジン(PHEN)等を挙げることができるが、キノン系重合禁止剤が好ましい。
【0025】
本発明においては、上記のようなモノマーの1種または2種以上を使用して、バッチ方式で、懸濁重合、溶液重合等により重合させる。
【0026】
本発明において、ポリマーを製造する際に用いられる有機溶剤は特に限定されるものではなく、使用するモノマーあるいは合成されるポリマーの溶解度により選定することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、n-ヘプタン等の炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などがあげられる。これらの有機溶剤は単独でも用いることができるが、モノマー混合物の溶解性を示すようこれらの2種以上を混合したものを用いることができる。
【0027】
本発明の方法で得られるポリマーの平均分子量としては、重量平均で5000〜1000000が好ましく、10000〜500000が更に好ましく、20000〜200000が特に好ましい。
【0028】
本発明の方法は、上記条件1、好ましくは条件1及び2を満たすものであるが、本発明の方法を行うには反応槽に残留した前バッチの反応物の重量を把握していることが望ましい。残留重量は物質収支(仕込み量と抜出し量の差)から計算しても良く、テスト的に溶剤洗浄を行う等で一度実測を行っておけば次回からその値を用いることができる。
【0029】
また反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の量は計算で求めることができるが、前バッチ反応で一部が失活しているので、活性を一度実測しておけば次回からその値を用いることができる。
【0030】
条件1において、反応槽に加える重合禁止剤の量は、重合反応開始前に重合反応が始まってしまうことを抑制する観点から、反応槽に残留している重合開始剤の0.9当量倍以上であり、1.0当量倍以上が好ましい。また経済性及び重合開始後の反応を遅延なく行う観点から、反応槽に残留している重合開始剤の50当量倍以下であり、20当量倍以下がより好ましく、10当量倍以下が更に好ましく、5当量倍以下が特に好ましい。
【0031】
なお反応開始前に反応槽に仕込む原料モノマー中に重合禁止剤が含まれている場合には、反応槽中に存在する重合禁止剤の合計量として、上記範囲内にすることが好ましい。
【0032】
本発明の方法においては、反応槽に重合禁止剤を加えた後に反応槽を撹拌等で混合しておくことが望ましい。外部循環ラインを有する反応槽では外部循環ラインも含めて混合しておくことが望ましい。重合禁止剤の添加は、反応槽に原料モノマーを仕込む前に行うことがモノマーの重合抑制の観点から望ましい。
【0033】
原料滴下槽、重合反応槽の材質は特に限定されず、ガラス、鉄、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)等を用いることができるが、鉄やステンレスを用いる場合には槽からの微量金属の溶出により、目的とする分子量のポリマーが得られなかったり、重合後のポリマー水溶液に濁りが発生したりする場合がある。従って、このような材質の反応槽を用いる場合には、キレート剤を添加して反応を行うことが好ましい。
【0034】
キレート剤としてはホスホン系キレート剤、カルボン酸系キレート剤、グリセリンオキシム系キレート剤等を用いることができ、ホスホン系キレート剤が好ましい。ホスホン系キレート剤としては、下記一般式(1)〜(4)で表されるホスホン酸又はその塩が好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
〔式中、nは1〜8の数であり、Xは式(5)
【0037】
【化2】
【0038】
で表されるホスホン酸基又はホスホン酸塩基を示す。M及びM’はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、水酸基が置換していていもよいモノ、ジ又はトリアルキル(炭素数2〜6が好ましい)アンモニウムを示す。〕
【0039】
これらのホスホン系キレート剤の中でも一般式(1)、(3)又は(4)で表されるものが好ましく、更に一般式(3)又は(4)で表されるものが好ましく、特に一般式(3)及び(4)において、n=2のものが好ましい。また、式(5)で表されるホスホン酸(塩)基中のM、M’(対イオン)は、水素原子、ナトリウム、カリウムが好ましい。これら一般式(1)〜(4)で表される化合物は、例えばソルシア ヨーロッパ社(Solutia Europe S.A./N.V.)の「デイクエスト(DEQUEST)」シリーズ、具体的には、デイクエスト2006〔アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩〕、デイクエスト2010(1−ヒドロキシエチリデン−1,1-ジホスホン酸)、デイクエスト2041〔エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)〕、デイクエスト2066〔ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩〕等として入手可能である。
キレート剤の使用量は、ポリマー溶液の濁りを抑制する観点から、原料モノマー重量に対して100〜3000ppmが好ましく、200〜2000ppmが更に好ましく、300〜1500ppmが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下の例において「%」は、特記しない限り重量基準である。また、ポリマーの重量平均分子量及び濁度は以下に示す方法で測定した。
【0041】
<重量平均分子量の測定方法>
カラムとして東ソー(株)製 TSKgel α-Mを2つ直列につないだものを用いる。溶離液として、エタノール:水を容積比30:70に混合したものに、LiBr 50mmol/L、酢酸1%を溶解させたものを1ml/minの流速で流す(カラム温度40℃)。ポリマー濃度を、この溶離液を用いて2μg/mlに調整した後、100μlをカラムに注入して測定を行う。検出器はRIを使用する。また、分子量は同条件で測定したポリエチレングリコールの値に換算したものである。
【0042】
<濁度の測定方法及び評価>
濁度は、JIS K 0101 9.4の方法で測定する。
測定した濁度(mg/L)に対して、次の基準で評価を行なった。
○:濁度10未満、目視で透明。
△:濁度10以上〜20未満、目視でわずかに濁りを認める。
×:濁度20以上、目視で濁りを認める。
【0043】
合成例1
初期仕込み:2リットルのガラス製反応槽に、水203.1g、イソプロピルアルコール(IPA)135.3g、モノマーA(アクリルアミド)35.3g、モノマーB(ブチルメタクリレート)2.2g、90%モノマーC(メタクリロイルオキシエチレンジメチルエチルアミノエチルサルフェート)水溶液3.6g、及び85%リン酸0.7gを仕込み、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。
【0044】
重合反応:ガラス製滴下容器に水153.4g、IPA153.4g、モノマーA98.5g、モノマーB57.8g、90%モノマーC水溶液83.1g、及び85%リン酸4.1gの混合溶液を仕込み、別のガラス製滴下容器にV−50(和光純薬工業(株)製、重合開始剤、分子量271.2)2%水溶液69.5gを仕込み、これら2つの滴下容器から62℃に維持した反応 槽に同時に5時間で滴下した。次いで62℃で2時間熟成させて、ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量は27700、濁度は2であった。
【0045】
反応槽から重合で得られたポリマー溶液を抜出したが、10.0gが反応槽に付着して残留した。以下の実施例1〜5、比較例1〜2ではこの残留量を次バッチのコンタミネーション量とした。残留物中には物質収支による計算から0.014gの重合開始剤(重合開始剤純分換算)が含まれていたが、重合開始剤としての活性は23%減少しており、新重合開始剤換算で0.011gに相当した。
なお反応に用いたモノマーには重合禁止剤メトキノン(MeHQ、分子量124.1)が98ppm含まれていた。
【0046】
実施例1
初期仕込み:合成例1の反応物が10.0g残留した反応槽をそのまま用い、重合禁止剤メトキノン(MeHQ)0.00813gを仕込んだ他は合成例1と同じく水203.1g、IPA135.3g、モノマーA35.3g、モノマーB2.2g、90%モノマーC水溶液3.6g、85%リン酸0.7gを仕込んだ後、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。昇温終了後に槽内液をサンプリングして分析したところ重合は起こっていなかった。
この時の前記式(I)で表される原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度Wは3.0モル%(式(I)中のA:0.5モル、B:0.015モル)である。
【0047】
重合反応:以降、合成例1と同じ手順でポリマーを合成した。滴下開始30分後に槽内液をサンプリングして分析したところ重合反応は進行しており、重合反応の遅延は認められなかった。また反応終了後に得られたポリマーは濁り及び分層は確認されなかった。
【0048】
実施例2
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0122gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0049】
実施例3
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0163gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0050】
実施例4
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0203gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0051】
実施例5
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.122gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。滴下開始後に槽内液を経時的にサンプリングして分析したところ30分間は重合反応が進行していなかった。得られたポリマーの重量平均分子量は33100であり、濁度は3で、分層は確認されなかった。
【0052】
比較例1
実施例1において重合禁止剤(メトキノン)を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は21300であり、ポリマー溶液は白濁しており濁度は100以上であった。また初期仕込み液をサンプリングし、62℃で2時間加熱したところ、初期仕込みモノマーの57%が重合していた。
【0053】
比較例2
実施例1においてメトキノンの添加量を0.00407gとした以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマー溶液は白濁していた。また初期仕込み液をサンプリングし、62℃で2時間加熱したところ、初期仕込みモノマーの28%が重合していた。
【0054】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜2の反応条件及び結果を表1にまとめて示した。
【0055】
【表1】
【0056】
*1:反応槽中の重合開始剤(V−50)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]
*2:反応槽中の原料由来の重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー ]
*3:反応槽中の添加した重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]*4:反応槽中の全重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]
*5:初期仕込み、昇温後2時間でのモノマー重合率[重量%対初期仕込みモノマー]
【0057】
合成例2
合成例1において、初期仕込み時の反応槽を3リットルのSUS304製反応槽に代える以外は合成例1と同様にして反応させた。反応槽から重合で得られたポリマー溶液を抜出したが、10.0gが反応槽に付着して残留した。以下の実施例6〜9ではこの残留量を次バッチのコンタミネーション量とした。残留物中には物質収支による計算から0.014gの重合開始剤(重合開始剤純分換算)が含まれていたが、重合開始剤としての活性は23%減少しており、新重合開始剤換算で0.011gに相当した。
【0058】
実施例6
初期仕込み:合成例2の反応物が10.0g残留した反応槽をそのまま用い、重合禁止剤メトキノン(MeHQ)0.00813g及びキレート剤(ディクエスト2066、ソルシア ヨーロッパ社(Solutia Europe S.A./N.V.)製)0.0242gを仕込んだ他は合成例2と同じく水203.1g、IPA135.3g、モノマーA35.3g、モノマーB2.2g、90%モノマーC水溶液3.6g、85%リン酸0.7gを仕込んだ後、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。
【0059】
重合反応:ガラス製滴下容器1にキレート剤(ディクエスト2066)0.137g、水153.4g、IPA153.4g、モノマーA98.5g、モノマーB57.8g、90%モノマーC水溶液83.1g、及び85%リン酸4.1gの混合溶液を仕込み、別のガラス製滴下容器2にV−50(和光純薬工業(株)製)2%水溶液69.5gを仕込み、これら2つの滴下容器から62℃に維持した反応槽に同時に5時間で滴下した。次いで62℃で2時間熟成させて、ポリマー溶液を得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は28900、濁度は5であった。
【0060】
実施例7
実施例6のキレート剤の添加量を、反応槽0.0403g、滴下容器1 0.228gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は26600、濁度は4であった。
【0061】
実施例8
初期仕込み:実施例6のキレート剤の添加量を反応槽0.0403gに変更した以外は実施例6と同様の方法でおこなった。
【0062】
重合反応:実施例6のガラス製滴下容器1をSUS304製の滴下容器に、キレート剤の添加量を0.228gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は26800、濁度は8であった。
【0063】
実施例9
実施例6のキレート剤の添加量を、反応槽0.0121g、滴下容器1 0.0685gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は27600であり、ポリマー溶液はわずかに白濁しており濁度は17であった。
【0064】
【表2】
【0065】
*1〜*5:表1と同じ意味を示す。
*6:反応槽及び滴下槽中の添加したキレート剤存在量[ppm対槽中のモノマー]
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリマーは分散剤、増粘剤のような分野で用いられている。共重合反応により共重合ポリマーの重合を行う際に、各々のモノマーの反応速度はその構造により異なる為、重合時の各々のモノマー濃度を制御する事で目的とする分子量の共重合ポリマーを得ることが出来る。
【0003】
バッチ方式による製造において、同一槽で洗浄を行わずに次バッチを行う場合、前バッチの付着残りに重合開始剤が残存している事があり、重合開始剤を添加する前に重合が始まってしまうことにより目的とする分子量のポリマーが得られないという問題がみられた。
【0004】
特許文献1には生体活性セメントの製造において、重合禁止剤を予め添加する事で硬化時の重合速度をコントロールする方法が開示されている。しかし、この重合禁止剤は、重合反応を完全に停止させるためではなく、重合速度を制御するために添加されている。
【0005】
特許文献2には、重合開始剤を少量添加し、モノマー等の原料に含まれる重合禁止剤等を無害化し、重合が可能な状態になる重合開始点を重合槽内の温度上昇により確認した後、重合開始剤等を更に添加して、目的の分子量を持つ重合体を製造する方法が開示されている。しかし、この方法は原料に含まれる重合禁止剤等を無害化した後に重合する方法であり、反応系に重合開始剤が存在している場合には重合開始剤添加前より温度上昇が起こってしまい、重合を制御できない場合がある。また重合制御が充分できない場合には、目的とする分子量のポリマーが得られなかったり、重合後のポリマー水溶液に濁りが発生したりする場合もある。
【特許文献1】特開2000−279506号公報
【特許文献2】特開2003−268010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、同一槽での連続バッチ反応において、洗浄を行わなくても、目的とする分子量の共重合ポリマーを再現性良く効率的に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法を提供する。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
また、本発明は更に下記条件2を満たす、上記共重合ポリマーの製造方法を提供する。
条件2:前バッチの反応物を反応槽から抜出した後に、反応槽を洗浄しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、同一槽での連続バッチ反応において、予め重合禁止剤を添加して前バッチの付着残りに存在する重合開始剤を無害化する事で重合開始剤添加前の重合反応を抑制し、且つ、重合開始剤添加後に即座に反応を開始させる事により、バッチ間での洗浄を行うことなく、目的とする分子量の共重合ポリマーを再現性良く効率的に製造する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法により製造される共重合ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、使用されるモノマーも特に限定されるものではないが、本発明の方法は、疎水性基及び親水性基の両方を有する両親媒性ポリマーの製造に好適に用いることができる。
【0010】
両親媒性ポリマーは、例えば親水性モノマー及び疎水性モノマーを含むモノマー成分を重合する方法、あるいは反応性界面活性剤と親水性モノマーを共重合させる方法等により製造することができる。
【0011】
親水性モノマー及び疎水性モノマーを含むモノマー成分を重合させる場合に、親水性モノマーとして、イオン性親水性モノマー及び非イオン性親水性モノマーを用いることができる。イオン性親水性モノマーとしては、分子中に陽イオン性または陰イオン性の親水性基を有するモノマーを用いることができる。
【0012】
陽イオン性親水性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アリルアミンまたはこれらの塩酸、硫酸、酢酸、リン酸等の無機酸、有機酸の塩類、もしくはメチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、エチルハライド(クロライド、ブロマイド等)、ジアルキル(メチル、エチル等)硫酸、ジアルキル(メチル、エチル等)炭酸等の4級化剤との反応によって得られる4級アンモニウム塩を含有するビニルモノマーを用いることができる。
【0013】
陰イオン性親水性モノマーとしては、不飽和カルボン酸や不飽和2重結合を持つ有機スルホン酸及びその中和塩等を用いることができる。不飽和カルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和2重結合を持つ有機スルホン酸としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0014】
これらの陰イオン性親水性モノマーを中和塩として用いる場合には、中和塩基として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を用いることができる。
【0015】
非イオン性親水性モノマーとしては不飽和カルボン酸アミド化合物、その他の親水性ビニル化合物、及び親水性アリル化合物からなる群より選択される1種以上の化合物が使用できる。不飽和カルボン酸アミド化合物の例としては、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。その他の非イオン性の親水性ビニル化合物としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニル−5−メチルオキサゾリドン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。親水性アリル化合物としては、アリルアルコール、メタリルアルコール等が例示される。
【0016】
尚、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0017】
両親媒性ポリマーを製造する場合、高分子鎖中の疎水性を強化するために、疎水性のモノマーを同時に用いることができ、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ジエン化合物、ビニルカルボン酸エステル化合物、アルキルビニルエーテル化合物、その他のビニル化合物、および疎水性アリル化合物からなる群より選択された1種以上の化合物が挙げられる。
【0018】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、2,5−ジクロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。ジエン化合物としては、アレン、ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン化合物、及びクロロプレン等を挙げることができる。ビニルカルボン酸エステル化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレート類やウレタン(メタ)アクリレート類、ジビニル化合物等を挙げることができる。
【0019】
両親媒性ポリマーを、反応性界面活性剤と親水性モノマーを共重合させる方法で合成する際に用いられる反応性界面活性剤とは、分子内に重合性の不飽和2重結合、イオン性の親水性基及び疎水性基を有する物質である。例えば、分子内にビニル基あるいはアリル基と、イオン性の親水性基を1つ以上もつ両親媒性の化合物である、例えばコハク酸ポリオキシエチレンアルキルエステル等の公知の反応性界面活性剤を使用することができる。
【0020】
反応性界面活性剤と共重合させる親水性モノマーとしては、分子内に陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のいずれかの親水性基を持った重合性のモノマーを用いることができる。この親水性モノマーは、上記の陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性親水性モノマーを使用することができる。
【0021】
親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー及び疎水性(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分を用いて両親媒性ポリマーを製造する場合には、初期反応時の原料モノマー比率が得られたポリマー溶液の濁度に重要な影響を与える。両親媒ポリマーの濁りを抑制する観点から、下記式(I)で表される初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度は0.5〜10モル%が好ましく、1〜5モル%が更に好ましい。
【0022】
W=B/(A+B)×100 (I)
(式中、W:初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度[モル%]、A:初期反応時の非イオン性親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー量[モル]、B:初期反応時の疎水性(メタ)アクリレート系モノマー量[モル]を示す。)
【0023】
本発明に用いられる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のパーオキシド等を挙げることができるが、アゾ化合物が好ましい。
【0024】
本発明に用いられる重合禁止剤としては、パラベンゾキノン(PBQ)、メトキノン(MeHQ)、ハイドロキノン(HQ)等のキノン系重合禁止剤、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、フェノチアジン(PHEN)等を挙げることができるが、キノン系重合禁止剤が好ましい。
【0025】
本発明においては、上記のようなモノマーの1種または2種以上を使用して、バッチ方式で、懸濁重合、溶液重合等により重合させる。
【0026】
本発明において、ポリマーを製造する際に用いられる有機溶剤は特に限定されるものではなく、使用するモノマーあるいは合成されるポリマーの溶解度により選定することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、n-ヘプタン等の炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などがあげられる。これらの有機溶剤は単独でも用いることができるが、モノマー混合物の溶解性を示すようこれらの2種以上を混合したものを用いることができる。
【0027】
本発明の方法で得られるポリマーの平均分子量としては、重量平均で5000〜1000000が好ましく、10000〜500000が更に好ましく、20000〜200000が特に好ましい。
【0028】
本発明の方法は、上記条件1、好ましくは条件1及び2を満たすものであるが、本発明の方法を行うには反応槽に残留した前バッチの反応物の重量を把握していることが望ましい。残留重量は物質収支(仕込み量と抜出し量の差)から計算しても良く、テスト的に溶剤洗浄を行う等で一度実測を行っておけば次回からその値を用いることができる。
【0029】
また反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の量は計算で求めることができるが、前バッチ反応で一部が失活しているので、活性を一度実測しておけば次回からその値を用いることができる。
【0030】
条件1において、反応槽に加える重合禁止剤の量は、重合反応開始前に重合反応が始まってしまうことを抑制する観点から、反応槽に残留している重合開始剤の0.9当量倍以上であり、1.0当量倍以上が好ましい。また経済性及び重合開始後の反応を遅延なく行う観点から、反応槽に残留している重合開始剤の50当量倍以下であり、20当量倍以下がより好ましく、10当量倍以下が更に好ましく、5当量倍以下が特に好ましい。
【0031】
なお反応開始前に反応槽に仕込む原料モノマー中に重合禁止剤が含まれている場合には、反応槽中に存在する重合禁止剤の合計量として、上記範囲内にすることが好ましい。
【0032】
本発明の方法においては、反応槽に重合禁止剤を加えた後に反応槽を撹拌等で混合しておくことが望ましい。外部循環ラインを有する反応槽では外部循環ラインも含めて混合しておくことが望ましい。重合禁止剤の添加は、反応槽に原料モノマーを仕込む前に行うことがモノマーの重合抑制の観点から望ましい。
【0033】
原料滴下槽、重合反応槽の材質は特に限定されず、ガラス、鉄、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)等を用いることができるが、鉄やステンレスを用いる場合には槽からの微量金属の溶出により、目的とする分子量のポリマーが得られなかったり、重合後のポリマー水溶液に濁りが発生したりする場合がある。従って、このような材質の反応槽を用いる場合には、キレート剤を添加して反応を行うことが好ましい。
【0034】
キレート剤としてはホスホン系キレート剤、カルボン酸系キレート剤、グリセリンオキシム系キレート剤等を用いることができ、ホスホン系キレート剤が好ましい。ホスホン系キレート剤としては、下記一般式(1)〜(4)で表されるホスホン酸又はその塩が好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
〔式中、nは1〜8の数であり、Xは式(5)
【0037】
【化2】
【0038】
で表されるホスホン酸基又はホスホン酸塩基を示す。M及びM’はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、水酸基が置換していていもよいモノ、ジ又はトリアルキル(炭素数2〜6が好ましい)アンモニウムを示す。〕
【0039】
これらのホスホン系キレート剤の中でも一般式(1)、(3)又は(4)で表されるものが好ましく、更に一般式(3)又は(4)で表されるものが好ましく、特に一般式(3)及び(4)において、n=2のものが好ましい。また、式(5)で表されるホスホン酸(塩)基中のM、M’(対イオン)は、水素原子、ナトリウム、カリウムが好ましい。これら一般式(1)〜(4)で表される化合物は、例えばソルシア ヨーロッパ社(Solutia Europe S.A./N.V.)の「デイクエスト(DEQUEST)」シリーズ、具体的には、デイクエスト2006〔アミノトリ(メチレンホスホン酸)5Na塩〕、デイクエスト2010(1−ヒドロキシエチリデン−1,1-ジホスホン酸)、デイクエスト2041〔エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)〕、デイクエスト2066〔ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩〕等として入手可能である。
キレート剤の使用量は、ポリマー溶液の濁りを抑制する観点から、原料モノマー重量に対して100〜3000ppmが好ましく、200〜2000ppmが更に好ましく、300〜1500ppmが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下の例において「%」は、特記しない限り重量基準である。また、ポリマーの重量平均分子量及び濁度は以下に示す方法で測定した。
【0041】
<重量平均分子量の測定方法>
カラムとして東ソー(株)製 TSKgel α-Mを2つ直列につないだものを用いる。溶離液として、エタノール:水を容積比30:70に混合したものに、LiBr 50mmol/L、酢酸1%を溶解させたものを1ml/minの流速で流す(カラム温度40℃)。ポリマー濃度を、この溶離液を用いて2μg/mlに調整した後、100μlをカラムに注入して測定を行う。検出器はRIを使用する。また、分子量は同条件で測定したポリエチレングリコールの値に換算したものである。
【0042】
<濁度の測定方法及び評価>
濁度は、JIS K 0101 9.4の方法で測定する。
測定した濁度(mg/L)に対して、次の基準で評価を行なった。
○:濁度10未満、目視で透明。
△:濁度10以上〜20未満、目視でわずかに濁りを認める。
×:濁度20以上、目視で濁りを認める。
【0043】
合成例1
初期仕込み:2リットルのガラス製反応槽に、水203.1g、イソプロピルアルコール(IPA)135.3g、モノマーA(アクリルアミド)35.3g、モノマーB(ブチルメタクリレート)2.2g、90%モノマーC(メタクリロイルオキシエチレンジメチルエチルアミノエチルサルフェート)水溶液3.6g、及び85%リン酸0.7gを仕込み、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。
【0044】
重合反応:ガラス製滴下容器に水153.4g、IPA153.4g、モノマーA98.5g、モノマーB57.8g、90%モノマーC水溶液83.1g、及び85%リン酸4.1gの混合溶液を仕込み、別のガラス製滴下容器にV−50(和光純薬工業(株)製、重合開始剤、分子量271.2)2%水溶液69.5gを仕込み、これら2つの滴下容器から62℃に維持した反応 槽に同時に5時間で滴下した。次いで62℃で2時間熟成させて、ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量は27700、濁度は2であった。
【0045】
反応槽から重合で得られたポリマー溶液を抜出したが、10.0gが反応槽に付着して残留した。以下の実施例1〜5、比較例1〜2ではこの残留量を次バッチのコンタミネーション量とした。残留物中には物質収支による計算から0.014gの重合開始剤(重合開始剤純分換算)が含まれていたが、重合開始剤としての活性は23%減少しており、新重合開始剤換算で0.011gに相当した。
なお反応に用いたモノマーには重合禁止剤メトキノン(MeHQ、分子量124.1)が98ppm含まれていた。
【0046】
実施例1
初期仕込み:合成例1の反応物が10.0g残留した反応槽をそのまま用い、重合禁止剤メトキノン(MeHQ)0.00813gを仕込んだ他は合成例1と同じく水203.1g、IPA135.3g、モノマーA35.3g、モノマーB2.2g、90%モノマーC水溶液3.6g、85%リン酸0.7gを仕込んだ後、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。昇温終了後に槽内液をサンプリングして分析したところ重合は起こっていなかった。
この時の前記式(I)で表される原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度Wは3.0モル%(式(I)中のA:0.5モル、B:0.015モル)である。
【0047】
重合反応:以降、合成例1と同じ手順でポリマーを合成した。滴下開始30分後に槽内液をサンプリングして分析したところ重合反応は進行しており、重合反応の遅延は認められなかった。また反応終了後に得られたポリマーは濁り及び分層は確認されなかった。
【0048】
実施例2
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0122gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0049】
実施例3
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0163gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0050】
実施例4
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.0203gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。
【0051】
実施例5
実施例1の重合禁止剤(メトキノン)の添加量を0.122gに変更した以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。滴下開始後に槽内液を経時的にサンプリングして分析したところ30分間は重合反応が進行していなかった。得られたポリマーの重量平均分子量は33100であり、濁度は3で、分層は確認されなかった。
【0052】
比較例1
実施例1において重合禁止剤(メトキノン)を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は21300であり、ポリマー溶液は白濁しており濁度は100以上であった。また初期仕込み液をサンプリングし、62℃で2時間加熱したところ、初期仕込みモノマーの57%が重合していた。
【0053】
比較例2
実施例1においてメトキノンの添加量を0.00407gとした以外は実施例1と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマー溶液は白濁していた。また初期仕込み液をサンプリングし、62℃で2時間加熱したところ、初期仕込みモノマーの28%が重合していた。
【0054】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜2の反応条件及び結果を表1にまとめて示した。
【0055】
【表1】
【0056】
*1:反応槽中の重合開始剤(V−50)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]
*2:反応槽中の原料由来の重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー ]
*3:反応槽中の添加した重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]*4:反応槽中の全重合禁止剤(MeHQ)存在量[ppm対反応槽中のモノマー]
*5:初期仕込み、昇温後2時間でのモノマー重合率[重量%対初期仕込みモノマー]
【0057】
合成例2
合成例1において、初期仕込み時の反応槽を3リットルのSUS304製反応槽に代える以外は合成例1と同様にして反応させた。反応槽から重合で得られたポリマー溶液を抜出したが、10.0gが反応槽に付着して残留した。以下の実施例6〜9ではこの残留量を次バッチのコンタミネーション量とした。残留物中には物質収支による計算から0.014gの重合開始剤(重合開始剤純分換算)が含まれていたが、重合開始剤としての活性は23%減少しており、新重合開始剤換算で0.011gに相当した。
【0058】
実施例6
初期仕込み:合成例2の反応物が10.0g残留した反応槽をそのまま用い、重合禁止剤メトキノン(MeHQ)0.00813g及びキレート剤(ディクエスト2066、ソルシア ヨーロッパ社(Solutia Europe S.A./N.V.)製)0.0242gを仕込んだ他は合成例2と同じく水203.1g、IPA135.3g、モノマーA35.3g、モノマーB2.2g、90%モノマーC水溶液3.6g、85%リン酸0.7gを仕込んだ後、窒素雰囲気下62℃まで昇温した。
【0059】
重合反応:ガラス製滴下容器1にキレート剤(ディクエスト2066)0.137g、水153.4g、IPA153.4g、モノマーA98.5g、モノマーB57.8g、90%モノマーC水溶液83.1g、及び85%リン酸4.1gの混合溶液を仕込み、別のガラス製滴下容器2にV−50(和光純薬工業(株)製)2%水溶液69.5gを仕込み、これら2つの滴下容器から62℃に維持した反応槽に同時に5時間で滴下した。次いで62℃で2時間熟成させて、ポリマー溶液を得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は28900、濁度は5であった。
【0060】
実施例7
実施例6のキレート剤の添加量を、反応槽0.0403g、滴下容器1 0.228gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は26600、濁度は4であった。
【0061】
実施例8
初期仕込み:実施例6のキレート剤の添加量を反応槽0.0403gに変更した以外は実施例6と同様の方法でおこなった。
【0062】
重合反応:実施例6のガラス製滴下容器1をSUS304製の滴下容器に、キレート剤の添加量を0.228gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。反応終了後に得られたポリマーに濁り及び分層は確認されなかった。また得られたポリマーの重量平均分子量は26800、濁度は8であった。
【0063】
実施例9
実施例6のキレート剤の添加量を、反応槽0.0121g、滴下容器1 0.0685gに変更した以外は実施例6と同様の方法で重合反応をおこないポリマーを得た。得られたポリマーの重量平均分子量は27600であり、ポリマー溶液はわずかに白濁しており濁度は17であった。
【0064】
【表2】
【0065】
*1〜*5:表1と同じ意味を示す。
*6:反応槽及び滴下槽中の添加したキレート剤存在量[ppm対槽中のモノマー]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
【請求項2】
更に下記条件2を満たす、請求項1記載の製造方法。
条件2:前バッチの反応物を反応槽から抜出した後に、反応槽を洗浄しない。
【請求項3】
共重合ポリマーが両親媒性ポリマーである、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
重合開始剤がアゾ化合物である、請求項1〜3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
重合禁止剤がキノン系重合禁止剤である、請求項1〜4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
キレート剤を原料モノマー重量に対して100〜3000ppm用いて反応を行う、請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
キレート剤がホスホン系キレート剤である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー及び疎水性(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分を用いて両親媒性ポリマーを製造する方法であって、以下の式(I)で表される初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度が0.5〜10モル%である、請求項3〜7いずれかに記載の製造方法。
W=B/(A+B)×100 (I)
(式中、W:初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度[モル%]、A:初期反応時の非イオン性親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー量[モル]、B:初期反応時の疎水性(メタ)アクリレート系モノマー量[モル]を示す。)
【請求項1】
重合開始剤を用いてバッチ方式で共重合ポリマーを製造する方法であって、下記条件1を満たす共重合ポリマーの製造方法。
条件1:反応槽に残留した前バッチの反応物中に含まれる重合開始剤の0.9〜50当量倍の重合禁止剤を加えた後に反応を行う。
【請求項2】
更に下記条件2を満たす、請求項1記載の製造方法。
条件2:前バッチの反応物を反応槽から抜出した後に、反応槽を洗浄しない。
【請求項3】
共重合ポリマーが両親媒性ポリマーである、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
重合開始剤がアゾ化合物である、請求項1〜3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
重合禁止剤がキノン系重合禁止剤である、請求項1〜4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
キレート剤を原料モノマー重量に対して100〜3000ppm用いて反応を行う、請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
キレート剤がホスホン系キレート剤である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー及び疎水性(メタ)アクリレート系モノマーを含むモノマー成分を用いて両親媒性ポリマーを製造する方法であって、以下の式(I)で表される初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度が0.5〜10モル%である、請求項3〜7いずれかに記載の製造方法。
W=B/(A+B)×100 (I)
(式中、W:初期反応時の原料疎水性(メタ)アクリレート系モノマー濃度[モル%]、A:初期反応時の非イオン性親水性(メタ)アクリルアミド系モノマー量[モル]、B:初期反応時の疎水性(メタ)アクリレート系モノマー量[モル]を示す。)
【公開番号】特開2006−199919(P2006−199919A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183367(P2005−183367)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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