説明

ポリマーアロイを含有するグリース組成物、それを封入した機構部品及びグリース組成物の製造方法

【課題】自動車部品やOA/AV機器などの機構部品に使用するのに適した、油分による汚れや不具合の発生を低減することができ、高温条件下での油の分離を抑制したグリース組成物を提供する。
【解決手段】増ちょう剤、炭化水素油を含む基油、及びオレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイで、重量平均分子量が10,000〜450,000であるポリマーアロイを、組成物の全量を基準として、0.1〜10.0質量%含むグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品やOA/AV機器などの機構部品に使用するのに適した、ポリマーアロイを含有するグリース組成物、それを封入した機構部品及びグリース組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品やOA/AV機器などの機構部品の摺動部にはグリースが用いられている。特に高温条件下においてグリースから油分が分離することがある。分離した油分は、機構部品を汚損したり、不具合を引き起こす恐れがある。従って、自動車部品やOA/AV機器などの機構部品の摺動部に使用するグリースには、油の分離を抑制することが要求される。油分離現象には様々な態様がある。例えば、グリースから油が滲み出す現象や、ペール缶やドラム缶に長期保存しておいたときに、グリース表面に油が浮いてくる現象(所謂「離しょう」)が挙げられる。
これまでに、スチレン系ブロック共重合体を添加することで油の分離を抑制することが可能であるとの報告がある(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-327188号公報
【特許文献2】特開2004-339447号公報
【特許文献3】特開2007-297422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、高温条件下における油の分離を抑制したグリース組成物を提供することである。
本発明はまた、前記グリース組成物を封入した機構部品を提供することを課題とする。
本発明はまた、前記グリース組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、オレフィン共重合体とスチレン系ブロック共重合体とのポリマーアロイがポリ-α-オレフィンとの相溶性に優れることを見出し、このポリマーアロイを、炭化水素油を含む基油に含ませることにより、高温条件下での油分離を抑制できるグリース組成物を得た。
本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、以下のグリース組成物、それを封入した機構部品及びグリース組成物の製造方法を提供するものである。
【0006】
1.増ちょう剤、炭化水素油を含む基油、及びオレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイを含むグリース組成物。
2.前記オレフィン共重合体が、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−αオレフィン共重合体であり、前記スチレン系共重合体が、スチレンと、ブテン、プロペン、ブタジエン及びイソプレンからなる群から選ばれるモノマーとの共重合体である前記1項記載のグリース組成物。
3.前記ポリマーアロイが、エチレン−プロピレン共重合体と、スチレンとイソプレンとのブロック共重合体とのポリマーアロイである前記1項記載のグリース組成物。
4.前記ポリマーアロイの重量平均分子量が10,000〜450,000である前記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.前記ポリマーアロイの含有量が、組成物の全量を基準として、0.1〜10.0質量%である前記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
6.前記1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機構部品。
7.増ちょう剤及び炭化水素油を含む基油を含有するベースグリースと、オレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイを含有する、炭化水素油を含む基油とを混練することを含む、前記1〜5記載のグリース組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高温条件下における油分離抑制効果に優れるグリース組成物を提供することができる。本発明のグリース組成物を封入した機構部品は、油分離が抑制されているため、油分による汚れや不具合の発生を低減することができる。さらに、本発明により、油分離抑制効果に優れるグリース組成物を短時間で安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】IP離油概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔炭化水素油を含む基油〕
本発明に使用可能な基油は、炭化水素油を含有する。炭化水素油は、合成油でも鉱油でもよい。合成炭化水素油と鉱油との混合油でもよい。炭化水素油が、合成炭化水素油を含有するのが好ましい。合成炭化水素油としては、ポリ-α-オレフィン、ポリブテン等を使用することができる。炭化水素油が、ポリ-α-オレフィンを含有するのがより好ましい。
本発明の基油は、合成炭化水素油以外の合成油を含んでいても良い。具体的には、エステル、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素油などがあげられる。エステル系合成油、エーテル系合成油が好ましい。
基油中の炭化水素油、好ましくは合成炭化水素油、さらに好ましくはポリ-α-オレフィンの含有量は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。このような量で炭化水素油を含むことにより、良好な低温性を得ることが出来るので好ましい。
基油の40℃における動粘度は、5〜100mm2/sであるのが好ましく、15〜50mm2/sであるのがより好ましい。
【0010】
〔増ちょう剤〕
本発明に使用可能な増ちょう剤としては、Li石けんやLiコンプレックス石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられる。
好ましくは石けん系増ちょう剤であり、より好ましくはリチウム石けんであり、さらに好ましくはステアリン酸リチウム又は12−ヒドロキシステアリン酸リチウムであり、特に好ましくは12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。リチウム石けんは、欠点が少なく、且つ高価でないため、実用性のある増ちょう剤である。
増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。
【0011】
〔ポリマーアロイ〕
本発明で用いるポリマーアロイは、オレフィン共重合体とスチレン系共重合体との化学結合により得られるポリマーアロイである。
本発明で用いるポリマーアロイを構成するオレフィン共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体などがあげられる。好ましくはエチレン-プロピレン共重合体である。
オレフィン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜150,000、より好ましくは30,000〜100,000である。重量平均分子量が10,000未満では油の分離が多くなる傾向にある。重量平均分子量が150,000を超えると基油への相溶性が悪くなる傾向にある。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0012】
本発明で用いるポリマーアロイを構成するスチレン系共重合体は、スチレンモノマーとそれ以外の構成モノマーとの共重合物であり、スチレンモノマー以外の構成モノマーとしては、アルケン又はアルカジエンが挙げられる。
前記アルケンとしては、ブテン、プロペンが好ましい。前記アルカジエンとしては、ブタジエン又はイソプレンが好ましい。スチレンモノマー以外の構成モノマーとしては、アルカジエンが好ましく、イソプレンが特に好ましい。スチレン系共重合体は、ブロック共重合体であるのが好ましい。
スチレン系共重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜300,000、より好ましくは50,000〜150,000である。
【0013】
本発明で用いるポリマーアロイの重量平均分子量は、好ましくは10,000〜450,000、より好ましくは80,000〜250,000である。
本発明で用いるポリマーアロイの添加量は、本発明のグリース組成物中、好ましくは0.1〜10.0質量%、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。添加量が0.1質量%未満では効果が十分に発揮されず、10.0質量%を超えると効果が頭打ちになり、低温作動性が悪化することがある。
本発明で用いることができるポリマーアロイとしては、商業的に入手可能なものを使用することができる。例えば日本ルーブリゾール株式会社からLubrizol 7460として販売されている。
【0014】
〔添加剤〕
前記ポリマーアロイに加え、必要に応じて、グリース組成物に通常使用されているその他の添加剤が使用可能である。例えば、フェノール系、アミン系に代表される酸化防止剤、ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤などが挙げられる。これらの添加量は通常0.01〜10質量%である。
【0015】
本発明の組成物の混和ちょう度は、使用目的に合わせて調整されるが、好ましくは200〜350、より好ましくは235〜325である。
【0016】
本発明のグリース組成物は、増ちょう剤を、炭化水素油を含む基油に含ませたベースグリースに、前記ポリマーアロイを、炭化水素油を含む基油に予め溶解させたものを添加し、混練することにより製造することができる。温度や時間等の条件は、当業者であれば適宜決定することができる。本発明の組成物は、添加剤として、炭化水素油を含む基油との相溶性が良好な、オレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイを使用しているため、炭化水素油を含む基油への溶解時間を短縮することができ、従って短時間で製造することができる。
【実施例】
【0017】
<試験グリース>
・基油として、ポリ-α-オレフィン(動粘度30.5mm2/s@40℃)、パラフィン系鉱物油(動粘度40.3mm2/s@40℃)、エステル系合成油(動粘度30.5mm2/s@40℃)、エーテル系合成油(動粘度100mm2/s@40℃)を使用した。なお、動粘度はJIS K 2220 23.に準拠して測定した。
・増ちょう剤として、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム(Li-(12OH)St)を使用した。
・ポリマーアロイとして、エチレン-プロピレン共重合体とスチレン-イソプレンブロック共重合体とのポリマーアロイ(日本ルーブリゾール株式会社、Lubrizol 7460、重量平均分子量150,000)を用いた。
比較用添加剤として、オレフィン共重合体(日本ルーブリゾール株式会社、Lubrizol 2019)、スチレン系ブロック共重合体A(日本ルーブリゾール株式会社、Lubrizol 7306)、スチレンブロック共重合体B(インフィニアム ジャパン株式会社、Infineum SV150)を使用した。
増ちょう剤と基油を含むベースグリース(増ちょう剤量:18.0%)を準備した。ベースグリースとは別に、ポリマーアロイ又は比較用添加剤を基油に溶解させたものを準備した。
これを、ベースグリースに添加し、3本のロールミルで混練することにより、混和ちょう度280のグリース組成物を製造した。混和ちょう度は、JIS K2220 7.に規定の方法により測定した。
このようにして製造したグリース組成物を、以下の試験方法により評価した。なお、各試験方法により評価した離油度%は、いずれも、
(分離油の質量/グリース組成物の質量)×100
により求めた値である。結果を表1〜3に示す。なお、表中の増ちょう剤、基油及び添加剤の欄に記載の数値は、質量%である。
【0018】
<試験方法>
・離油度(高温時の油分離性の評価)
JIS K2220 11.に規定の方法により測定した。
【0019】
・IP離油(加圧時の油分離性の評価)
IP 121に規定の方法により測定した。IP離油の概略を図1に示す。
規定されている底が円錐型のメッシュで出来た金属性の試料容器にグリースを充填した。この時のグリースの重量を測定した。容器内のグリースの上に100gの重りを載せ、規定温度(40℃)で規定時間(16時間)静置した。オイルカップに分離した油分を秤量した。
【0020】
・クレーター離油(離しょう性の評価)
下記試料容器に、実施例及び比較例のグリース組成物を充填し、そこに下記三角形型板を押しつけて円錐状の溝を作った。このようにして成形したグリース組成物を規定温度において規定時間静置し、分離して円錐溝に滲出した油分量を測定した。
試験条件
試料容器:内径約53mm、深さ約56mmのガラス製円筒容器
三角形型板:一辺50mmの正三角形の頂点を有し、辺の厚さが1mmの金属製の板
温度:60℃
時間:168h
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤、炭化水素油を含む基油、及びオレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイを含むグリース組成物。
【請求項2】
前記オレフィン共重合体が、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−αオレフィン共重合体であり、前記スチレン系共重合体が、スチレンと、ブテン、プロペン、ブタジエン及びイソプレンからなる群から選ばれるモノマーとの共重合体である請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記ポリマーアロイが、エチレン−プロピレン共重合体と、スチレンとイソプレンとのブロック共重合体とのポリマーアロイである請求項1記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記ポリマーアロイの重量平均分子量が10,000〜450,000である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記ポリマーアロイの含有量が、組成物の全量を基準として、0.1〜10.0質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物を封入した機構部品。
【請求項7】
増ちょう剤及び炭化水素油を含む基油を含有するベースグリースと、オレフィン共重合体とスチレン系共重合体とのポリマーアロイを含有する、炭化水素油を含む基油とを混練することを含む、グリース組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−177105(P2012−177105A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18707(P2012−18707)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】