説明

ポリマーアロイ繊維カーペット

【課題】耐摩耗性に優れるとともに、軽量性や反発性に優れたカーペットの提供。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなるポリマーアロイ繊維をパイル部に用いたカーペットであって、相溶化剤(C)が付加重合体からなるエラストマーであって、ポリマーアロイ繊維のモルフォロジーが、ポリ乳酸系樹脂(A)が島成分となり、ポリオレフィン系樹脂(B)が海成分である海島構造であり、ポリマーアロイ繊維の断面異形度が1.1〜5であるポリマーアロイ繊維を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが均一にブレンドされ、かつポリオレフィン系樹脂が海島構造の海成分を形成してなる異形断面ポリマーアロイ繊維をパイル部に用いたカーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されており、地球規模において環境に対する意識が高まりつつある。このような背景において、環境負荷の低い材料からなるカーペットが要望されている。
【0003】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。そのため、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0004】
これまで、バイオマスプラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いという課題があり、汎用プラスチックとして使われることは少なかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0005】
ポリ乳酸に代表されるポリ乳酸系樹脂は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、ポリ乳酸系樹脂については、カーペット用途としての商品開発も活発化してきている。
【0006】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として、衣料用途、カーテンおよびカーペット等のインテリア用途、車両内装用途、および産業資材用途への応用も期待されている。
【0007】
また、植物由来ではないものの、同様の目的で最近脚光を浴びつつある樹脂としてポリプロピレン樹脂がある。ポリプロピレン樹脂は、数あるプラスチッの中でも単位生産量当たりのエネルギー使用量が少なく、かつ耐久性に優れるため消費財としてのライフが長い。更には、性能面でも高い機械的特性、耐薬品性および寸法安定性を有し、比重が0.9と極めて低く軽量であることからも、環境に優しい素材として注目されている。ポリプロピレン樹脂は、繊維としても同様の特性を有しており、特に不織布を中心とした資材用途では前記特性が強みとなって、高い競争力を有している。
【0008】
一方で、ポリ乳酸系等の脂肪族ポリエステル樹脂やポリプロピレン樹脂は、それぞれ次に示すような課題を有しており、そのために用途が限定されるものである。
【0009】
ポリ乳酸系樹脂からなる繊維をカーペットのパイル部に適応する場合には、耐摩耗性の低さが大きな問題となる。特に強い擦過を受けるカーペット等に用いた場合には、ポリ乳酸繊維の毛倒れが容易に生じるとともに、削れが起こり、酷い場合には穴が開くこともある。また、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)は加水分解が生じやすいこともあり、上記のようなフィブリル化や削れは経時的に酷くなる傾向にあり、製品寿命が短いということがわかってきている。
【0010】
ポリ乳酸系樹脂からなる繊維の耐摩耗性を改善する方法としては、例えば、加水分解を抑制する方法が提案されている。例えば、ポリ乳酸の水分率をできるだけ抑制することにより、繊維の製造工程での加水分解を抑制する方法が提案されている(特許文献1参照。)。また別に、モノカルボジイミド化合物を添加して耐加水分解性を向上させたポリ乳酸からなる繊維が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、いずれの提案においても、ポリ乳酸からなる繊維の経時的な脆化を抑制するという点では耐摩耗性の低下は抑えられているものの、いずれもポリ乳酸からなる繊維の「フィブリル化しやすい」という特性を変えるものではなく、初期の耐摩耗性は従来品となんら変わらないものであることが判明している。
【0011】
また、ポリ乳酸からなる繊維の耐摩耗性を大幅に改善する方法として、脂肪酸ビスアミド等の滑剤を添加して繊維表面の摩擦係数を低下させることにより、摩耗を抑制したポリ乳酸からなる繊維が提案されている(特許文献3〜6参照。)。しかしながら、これらのポリ乳酸からなる繊維は、与えられる力が小さい場合には有効であるが、例えば、カーペットのように強い踏込力がかかる場合には、繊維間凝着を十分に抑制することができないため、ポリ乳酸からなる繊維の破壊が生じてしまい用途が限定されるものであった。
【0012】
一方、ポリプロピレン樹脂は高い性能を有しつつも、繊維用途ではポリエステルに大きく後塵を拝している。その理由としては、融点が165℃近傍と、ポリエステル(PETの融点:255℃)に比して低いこと、また、極性基を持たないために染色性に劣るという課題があった。
【0013】
上記のとおり、ポリ乳酸系樹脂とポリプロピレン樹脂は、それぞれに利点と欠点を有しているものの、それぞれの特徴によってそれぞれの欠点を補う設計ができれば、非常に高いポテンシャルを有する素材にすることができる。
【0014】
例えば、ポリ乳酸とポリプロピレン系ポリマーを芯鞘構造とした繊維が提案がなされているが(特許文献7参照。)、この提案では、芯部のポリ乳酸がエージングにより劣化して摩耗性が経時的に悪くなっていくという問題がある。また、ポリ乳酸とポリオレフィンとの相溶化剤としてアミン変性エラストマーを用いることが提案されている(特許文献8および特許文献9参照。)。これらの方法は、2成分間の相溶性が飛躍的に向上するために、成形体としての伸度が飛躍的に向上するため、ドアトリムやピラーガーニッシュ等の成形体に使用することができることを示唆している。しかしながら、これらの提案により繊維化を試みても、口金を出てからの伸長変形時の応力が極めて高く、高ドラフトが要求される溶融紡糸では繊維化できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−136435号公報(第4頁)
【特許文献2】特開2001−261797号公報(第3頁)
【特許文献3】特開2004−91968号公報(第4〜5頁)
【特許文献4】特開2004−204406号公報(第4〜5頁)
【特許文献5】特開2004−204407号公報(第4〜5頁)
【特許文献6】特開2004−277931号公報(第5〜6頁)
【特許文献7】特開2008−280665号公報(第1〜2頁)
【特許文献8】特開2008−056743号公報(第1〜2頁)
【特許文献9】特開2008−111043号公報(第1〜2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、耐摩耗性に優れるとともに、軽量性や反発性に優れたポリマーアロイ繊維をパイル部に用いたカーペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決せんとするものであって、本発明のポリマーアロイ繊維カーペットは、ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなるポリマーアロイ繊維をパイル糸に用いたカーペットであって、該相溶化剤(C)が付加重合体からなるエラストマーであり、該ポリマーアロイ繊維のモルフォロジーが、ポリ乳酸系樹脂(A)が島成分となりポリオレフィン系樹脂(B)が海成分である海島構造であり、該ポリマーアロイ繊維の断面異形度が1.1〜5.0であることを特徴とするポリマーアロイ繊維カーペットである。
【0018】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記の付加重合体からなるエラストマーは、アクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーである。
【0019】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記の付加重合体からなるエラストマーは、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基からなる群から選択された官能基を含有するアクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーである。
【0020】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記のポリマーアロイ繊維のアルカリエッチング後の繊維側面に存在する筋状クレーターの面積比率は10%以下である。
【0021】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記のポリマーアロイ繊維の島成分のドメインサイズは0.005〜2μmである。
【0022】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記のポリマーアロイ繊維中のポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の融点はいずれも150℃以上である。
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、前記のポリマーアロイ繊維の組成は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量を100質量部として、ポリ乳酸系樹脂(A)が1〜45質量部、ポリオレフィン系樹脂(B)が99〜55質量部、相溶化剤(C)が1〜30質量部である。
【0023】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの好ましい形態によれば、本発明のカーペット表皮のパイル目付は500〜3000g/mである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、環境に優しい植物由来系材料のポリ乳酸樹脂を含みながら耐摩耗性が格段に向上し優れるとともに、軽量性や反発性に優れた高品位のポリマーアロイ繊維カーペットが得られる。
【0025】
また、本発明によれば耐久性に優れたポリマーアロイ繊維カーペットが得られ、そのカーペットの用途としては、住居用、商業用および自動車用等あり、特に長期耐久性や耐摩耗性等が求められる自動車内装用に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットは、ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなるポリマーアロイ繊維をパイル糸に用いたカーペットである。
【0027】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)は、結晶性であることが好ましい。ポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。ポリ乳酸系樹脂(A)の重合度は、800〜8,000であることが好ましい。
【0028】
乳酸には、D−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸あるいはL−乳酸の光学純度は、それらが低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。ポリ乳酸の融点は、繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃であり、さらに好ましくは170℃以上であり、特に好ましくは180℃以上である。
【0029】
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の温度で高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができる。この場合、ポリ乳酸系樹脂(A)は、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)の混合物の場合は、そのブレンド比を40/60〜60/40にするとステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができる。また、前記2種類の光学異性体ポリマーのブレンドとは別に、L乳酸ブロックとD乳酸ブロックの両方からなるL−D―ブロック共重合のポリ乳酸を用いることによっても、ステレオコンプレックス結晶を形成させることができる。この場合、ポリマーが単一成分になるため、紡糸設備が簡略化できるという利点がある。
【0030】
上記のステレオコンプレックス結晶を溶融紡糸で効率的に形成させるために、結晶核剤を添加することが好ましい。結晶核剤としては、タルクや層状粘土鉱物の他、ポリ乳酸との相溶性が高いステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸鉛等を適用することができる。
【0031】
また、ポリ乳酸中には、低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これらの低分子量残留物は、延伸や嵩高加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる場合がある。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる場合がある。そのため、繊維中の残存ラクチド量は、好ましくは0.2重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
【0032】
ポリ乳酸系樹脂(A)には、さらに改質剤として粒子、艶消し剤、着色顔料、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤や滑剤等を添加してもよい。着色顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムおよび酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系およびチオインディゴ系などの有機顔料等を使用することができる。
【0033】
同様に、炭酸カルシウム、シリカ、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリンおよびジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子、および各種金属粒子などの粒子類などの改質剤も使用することができる。さらに、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種フッ素樹脂類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリアミド類、エチレン・アクリレート共重合体、メチルメタクリレート重合体等のポリアクリレート類、各種ゴム類、アイオノマー類、およびポリウレタン類およびその他熱可塑性エラストマー類などのポリマーなどを少量含有することができる。
【0034】
また、ポリ乳酸系樹脂(A)は、後述するポリオレフィン系樹脂(B)との粘度比が高い、すなわちポリ乳酸系樹脂(A)は、溶融粘度が高いほど耐摩耗性に優れている。そのため、ポリ乳酸系樹脂(A)の分子量は高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、溶融紡糸での成形性や延伸性が低下する傾向にある。ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、より好ましくは10万以上であり、さらに好ましくは12万以上である。また、分子量が35万を超えると、前記したように紡糸性や延伸性が低下するため、結果として分子配向性が悪くなり繊維強度が低下することがある。そのため、重量平均分子量は、35万以下であることが好ましく、より好ましくは30万以下であり、さらに好ましくは25万以下である。上記の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0035】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)を得るために好ましく用いられる製造方法としては、具体的には、乳酸を有機溶媒および触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法(特開平6−65360号公報参照。)、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法(特開平7−173266号公報参照。)、さらには、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法(米国特許第2,703,316号明細書参照。)が挙げられる。
【0036】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)とは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセンおよび1−オクタデセンなどのオレフィン、ビニルアルコールまたはその誘導体等のオレフィンアルコール等のオレフィン類を重合または共重合して得られる未変性のオレフィン樹脂であり、不飽和カルボン酸またはその誘導体およびカルボン酸ビニルエステルなどの化合物で変性した変性ポリオレフィン樹脂は含まない。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂(B)の具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン樹脂、ポリ1−ペンテン樹脂、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂などの単独重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体、または、これらに1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、および5−(1′−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンモノマーを一種以上共重合させた共重合体などが挙げられる。
【0038】
本発明で用いられる上記のエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンと好ましくは炭素原子数3以上、具体的には炭素数3〜20のα−オレフィンの少なくとも一種以上との共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上の点から好ましく用いられる。このエチレン/α−オレフィン共重合体は、α−オレフィン含量が好ましくは1〜20モル%であり、より好ましくは2〜15モル%であり、さらに好ましくは3〜10モル%である。
【0040】
本発明において、ポリマーアロイ繊維に用いられるポリオレフィン系樹脂(B)は、相構造の制御のし易さから、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂およびポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂が好ましく、耐熱性の点からポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)を得るために好ましく用いられる製造方法としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂においては、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、およびメタロセン触媒を用いた配位重合などの方法を用いることができる。また、ポリオレフィン系樹脂(B)がポリプロピレン樹脂である場合には、立体規則性の高いポリプロピレン樹脂を用いることが好ましく、さらに曵糸性や繊維の引張り強度、耐摩耗性および耐熱性に優れている点から、高アイソタクチシチーのポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。立体規則性としては、アイソタクチシチーが80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0042】
また、本発明において立体規則性の異なるポリプロピレン樹脂を併用することは、流動性や耐熱性に優れるポリマーアロイ繊維が得られやすくなるため好ましい態様である。本発明で用いられる高アイソタクチシチーのポリプロピレン樹脂は、触媒としてチーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合により容易に得ることができる。
【0043】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂の融点は、ポリマーアロイ繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃であり、さらに好ましくは170℃以上である。また、融点の上限値は、ポリ乳酸と同じく180℃程度であることが好ましい。
【0044】
また、本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)の溶融粘度は、間接的にポリマーの分子量を表す情報となる。すなわち、溶融粘度が低すぎると繊維化した後の強度が低くなるため、ある程度の溶融粘度が必要である。ここで、後述するポリ乳酸系樹脂(A)との粘度比を考慮した上で、ポリオレフィン系樹脂(B)の溶融粘度の指標となるメルトフローレート(MFR)は、測定温度230℃で30〜100g/10分であることが好ましく、より好ましくは50〜90g/10分である。
【0045】
また、ポリオレフィン系樹脂(B)には、粒子、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤や、ポリ乳酸系樹脂(A)に好ましく用いられる上記滑剤等を添加することができる。
【0046】
本発明では、相溶化剤(C)として付加重合体からなるエラストマーが用いられ、好ましく用いられるエラストマーとして、アクリル系エラストマーとスチレン系エラストマーが挙げられる。
【0047】
本発明で相溶化剤(C)として用いられる付加重合体からなるエラストマーは、好ましくは、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含有するアクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーである。
【0048】
相溶化剤(C)は、曵糸性および線径安定性、強度、耐摩耗性および耐熱性の点から、酸無水物基、アミノ基、イミノ基およびエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含有するアクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーであることが好ましく、酸無水物基、アミノ基およびイミノ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含有するスチレン系エラストマーであることがより好ましく、アミノ基を含有するスチレン系エラストマーであることが特に好ましく用いられる。
【0049】
また、本発明で用いられる相溶化剤(C)の重量平均分子量Mwは、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との界面に作用して界面剥離特性に大きな影響を及ぼす。そのため、相溶化剤(C)の重量平均分子量を1万以上の重合体にすることにより良好な耐界面剥離性を呈し、35万以下にすることにより曵糸性に優れたポリマーアロイになり好ましい態様である。相溶化剤(C)の重量平均分子量は、より好ましくは3万〜25万である。
【0050】
ここで、重量平均分子量Mwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の値である。
【0051】
また、本発明で用いられる相溶化剤(C)は、好ましくは(メタ)アクリル酸エステル系ビニル単位またはスチレン系ビニル単位を含むものであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル系ビニル単位またはスチレン系ビニル単位を主成分として、60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含むものであればよく、オレフィン系単量体を除くその他のビニル系単量体成分単位を好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下共重合した共重合体でもよい。
【0052】
また、本発明において、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含有するスチレン系エラストマーの場合、相構造の制御性に優れ、曵糸性、強度、耐熱性および耐摩耗性(耐界面剥離性)が優れているという点で、スチレン系ビニル単位が含まれていればよく、その単量体成分単位は1〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15重量%である。
【0053】
また、(メタ)アクリル酸エステル系ビニル単位を形成する原料モノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、さらに、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく挙げられる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0054】
また、スチレン系ビニル単位を形成する原料モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン,o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、1−ビニルナフタレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼンおよびビニルトルエンなどが挙げられ、中でもスチレンとα−メチルスチレンが好ましく使用される。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0055】
本発明で用いられる相溶化剤(C)の構成成分の単位となるエポキシ基含有ビニル系単位を形成する原料モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、p−スチリルカルボン酸グリシジルなどの不飽和モノカルボン酸のグリシジルエステル、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ポリカルボン酸のモノグリシジルエステルあるいはポリグリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、およびスチレン−4−グリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0056】
これらの中では、ラジカル重合性の点でアクリル酸グリシジルまたはメタアクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。さらには、相溶化剤(C)の構成成分単位となる酸無水物基含有ビニル系単位を形成する原料モノマーの具体例としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物およびアコニット酸無水物などが挙げられ、中でも、マレイン酸無水物が好ましく使用される。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0057】
また、カルボキシル基含有単位となる不飽和ジカルボン酸系単位を形成する原料モノマーとして、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などが挙げられ、中でも、マレイン酸とイタコン酸が好ましく使用される。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。相溶化剤(C)は、2種以上を併用配合してもよい。
【0058】
また、本発明で用いられる相溶化剤(C)の溶融粘度は、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の界面に作用してポリマーアロイ全体の溶融粘度に影響を及ぼし相構造に大きな影響を与える。よって、曵糸性、強度、耐熱性および耐摩耗性の点から、メルトフローレート(MFR)は使用するポリオレフィン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)よりも高いことが好ましい。一方で、MFRが3g/10分未満になるような極めて高い溶融粘度であると、ポリマーの系全体の溶融粘度を高くして曵糸性を悪化させる傾向がある。相溶化剤(C)のより好ましいMFRは、測定温度230℃で5〜20g/10分である。
【0059】
また、相溶化剤(C)がエポキシ基含有アクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーである場合、ポリマーアロイの相構造を制御する上で、エポキシ価は0.1〜10meq/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜7meq/gの範囲であり、さらに好ましくは2〜5meq/gの範囲である。エポキシ価が0.1meq/g以上であれば、海島各成分間の界面接着性が向上し、エポキシ価が10meq/g以下のものを使用することにより、ゲル化などを抑制することができる。ここで、エポキシ価は、塩酸−ジオキサン法で測定した値である。グリシジル基含有ビニル系単位を含むポリマーのエポキシ価は、グリシジル基含有ビニル系単位の含有量を調節することにより調節することができる。
【0060】
また、本発明で用いられる相溶化剤(C)のガラス転移温度は、取り扱い性の点から30〜100℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは40〜70℃の範囲である。ここでいうガラス転移温度とは、JIS K7121に記載されている方法に従って示差走査熱量計(DSC)で測定した値であり、10℃/分で昇温した時の中間点ガラス転移温度である。相溶化剤(C)のガラス転移温度は、共重合成分の組成を調節することにより制御可能である。ガラス転移温度は通常、スチレンなどの芳香族系ビニル単位を共重合することにより高くすることができ、アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系ビニル単位を共重合することにより低くすることができる。
【0061】
本発明で用いられる相溶化剤(C)は、低分子量体を得るために連鎖移動剤(分子量調整剤)として硫黄化合物を使用することがあるが、その場合には重合体には硫黄が含まれる。ここで、硫黄は不快な臭いを発するため、硫黄含有量が少ない方が好ましい。具体的には、硫黄含有量が硫黄原子として1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは1ppm以下である。
【0062】
本発明で用いられる相溶化剤(C)の市販製品例としては、東亞合成製“ARUFON”(登録商標)、ジョンソンポリマー製“JONCRYL”(登録商標)、クレイトン製“クレイトン”(登録商標)、旭化成ケミカルズ製“タフテック”(登録商標)、およびJSR製“ダイナロン”(登録商標)などが挙げられる。
【0063】
本発明においては、相溶化剤(C)を配合することにより、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の親和性が向上し、相構造を制御しやすくなる。そのため、次に説明する各成分の海/島成分の溶融粘度比や、海成分の溶融粘度、および口金面温度や口金孔スペックとの組み合わせ技術により、曵糸性や線径斑の抑制、強度、耐熱性、および耐摩耗性に優れたポリマーアロイ繊維を得ることができる。
【0064】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とのブレンド比率は、ポリ乳酸系樹脂(A)を島成分とし、ポリオレフィン系樹脂(B)を海成分とする海島構造のポリマーアロイにすることが必要なため、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量を100質量部として、ポリ乳酸系樹脂(A)を1〜45質量部とし、ポリオレフィン系樹脂(B)を99〜55質量部とすることが好ましい。より好ましくは、ポリ乳酸系樹脂(A)の比率は下の方としては10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、また、上の方としては40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下である。
【0065】
また、相溶化剤(C)の配合割合は、相溶化効果が発揮されると共に良好な繊維形成性を示すことから、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の総量(100質量部)に対し、相溶化剤(C)を1〜30質量部とすることが好ましく、相溶化剤(C)の割合は、より好ましくは、2〜15質量部である。
【0066】
また、本発明で用いられるポリマーアロイ繊維の繊維表面(繊維側面)には、島成分であるポリ乳酸系樹脂(A)がほとんど露出していないことが好ましい。ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とは、相溶性がほとんどないことが知られており、ポリマーアロイ界面の接着強度も低いものである。そのため、繊維表面にポリ乳酸系樹脂が露出していると、その界面を起点として亀裂が入り、ポリマーアロイ繊維がフィブリル化しやすくなる。
【0067】
この繊維表面のポリ乳酸系樹脂の露出状態は、光学顕微鏡等で観察してもポリオレフィン樹脂(B)の部分とほとんど判別がつかない。そのため、ポリ乳酸系樹脂(A)が繊維表面にどの程度露出しているかを調べるために、アルカリ溶液により繊維表面をエッチングしてポリ乳酸系樹脂(A)のみを溶解し、電子顕微鏡(SEM)観察することで露出程度を捉えることができる。アルカリエッチング後のSEM観察により、ポリ乳酸系樹脂(A)が脱落した筋状クレーターの面積が10%以下であればフィブリル化抑制に効果があるが、より高い耐久性が要求される産業資材用途の場合には、筋状クレーターの面積は7%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0068】
この筋状クレーターとは、繊維軸方向にほぼ平行(繊維軸に対して10°以内の角度)で伸びた凹状の溝である。筋状クレーターのSEMでの観測は、通常5,000倍、必要に応じて1,000〜10,000倍に拡大した写真で捉えることができる。この筋状溝の面積は、SEM観察像において10μm×10μmの視野角で捉えられる筋状溝の面積を、画像解析ソフト「WinROOF」を用い、視野中の全部の筋状クレーターの面積を測定して求めることができる。
【0069】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂(A)が島成分として、またポリオレフィン系樹脂(B)が海成分としてほぼ均一に存在していることが重要である。「均一に存在している」と判断するには、次のモルフォロジーのものとして定義することができる。すなわち、ポリマーアロイ繊維の横断面スライスを透過型電子顕微鏡(TEM)(4万倍)により観察すると、連続したマトリックス成分を海成分、略円形状を成して分散した成分を島成分とするいわゆる海島構造を採っている。島成分を構成するポリ乳酸系樹脂(A)のドメインサイズが直径換算(ドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径)で0.005〜2μmまで小さくなっていれば、ブレンド状態が十分均一となり好ましい態様である。また、島成分のドメインサイズを前記範囲にすることにより、アロイ繊維の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
【0070】
島成分を構成するポリ乳酸系樹脂(A)と海成分を構成するポリオレフィン系樹脂(B)との接着性は、ドメインサイズが小さいほど界面での応力集中が分散されるため向上するが、一方、ドメインサイズがある一定以下のサイズになると初期摩耗性が低下する傾向にある。そのため、島ドメインのサイズは、より好ましくは0.01〜1.5μmであり、さらに好ましくは0.02〜1.0μmである。
【0071】
また、捲縮糸の光沢感を制御するためには、さらにドメイン径を特定の範囲にすることが好ましい。ドメイン径が可視光の波長範囲(0.4〜0.8μm)およびその波長の1/5波長(0.08〜0.16μm)までをカバーすることにより、繊維内部で適度な光散乱を生じ、しっとりとした審美性の高い光沢感とすることができる。美しい光沢感を表現するには、ドメイン径は0.08〜0.8μmの範囲にすることが好ましい。
【0072】
本発明での上記ドメインサイズとは、実施例において後述するように、延伸糸1試料あたり100個のドメインについて計測し、ドメイン径の最も大きい10個および最も小さい10個の値を除いた80個の分布を指す。
【0073】
また、本発明で用いられるポリマーアロイ繊維は、1分子鎖中にポリ乳酸系樹脂(A)ブロックとポリオレフィン樹脂ブロックが交互に存在するブロック共重合体とは異なり、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)は、ほぼ別のドメインで存在していることが重要である。
【0074】
また、ポリマーアロイ繊維をカーペットパイル糸として用いる場合は、工程通過性や製品の力学的強度を高く保つために強度は1cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは1.2cN/dtex以上であり、さらに好ましくは1.5cN/dtex以上である。
【0075】
このような強度を有するポリマーアロイ繊維は、後述する溶融紡糸および延伸法により製造することが可能である。また、ポリマーアロイ繊維の破断伸度が15〜80%であると、カーペット製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい態様である。破断伸度はより好ましくは20〜70%であり、さらに好ましくは25〜60%である。現行の工業的な汎用プロセスの範疇では、ポリマーアロイ繊維の強度を7cN/dtex以上にすることは極めて困難であるが、本発明ではこれに拘らない。
【0076】
また、本発明のポリマーアロイ繊維カーペットで用いられるポリマーアロイ繊維は、好ましくは、マルチフィラメントにして仮撚加工したりエアジェットスタッファ加工を行い、長繊維捲縮糸とすることができる。
【0077】
本発明で用いられるポリマーアロイ繊維からなる捲縮糸は、捲縮発現性や弾性回復性に優れるとともに、軽量で保温性にも優れるという特徴を有する。例えば、捲縮特性として沸騰水処理後の捲縮伸長率を測定した場合は、捲縮伸長率を3〜30%の範囲で調整することが可能である。
【0078】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットに用いられるポリマーアロイ繊維は、染色や嵩高加工処理等の布帛構造体にするための加工工程あるいは製品にした後の長期使用において、強度保持率等の耐久性に優れ、製品の外観が長期に渡って保持される。
【0079】
また、ポリマーアロイ繊維の断面形状は、カーペットノボリューム感を高め品位の良いものを得るために、Y孔中空断面、三葉断面等の多葉断面、扁平断面、W断面、Y断面およびX断面その他の異形断面についても自由に選択することが可能であり、ポリマーアロイ繊維のバルキー性を高めてボリューム感のある繊維構造体にするためには、異形度(D1/D2)1.1〜5.0のポリマーアロイ繊維の異形断面にすることが必要である。異形断面糸の異形度は、高いほどボリューム感のある繊維構造体とすることができるが、一方で、異形度が過度に高いと繊維の曲げ剛性が高くなり、柔軟性の低下、繊維の割れ(フィブリル化)の発生、およびギラツキのある光沢が発生する等の問題がある場合がある。そのため、好ましい異形度の範囲は1.2〜3.0である。
【0080】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットに用いられるポリマーアロイ繊維は、カーペットの意匠性、風合いおよび手触り等の観点から、複数本を合糸して撚りをかけた撚糸とすることも好ましい態様である。撚りの回数は、30〜300回/mが好ましく、より好ましくは50〜250回/mである。撚りの回数を上記の範囲内とすることにより、タフト後の意匠性、風合いおよび手触り等に優れた特徴を発現する。また、撚りをかけた後に、形態を保持させる為に熱セットを施すことがも好ましい態様である。その熱セット温度は、ポリマーアロイ繊維撚糸後の糸の形態安定性を良好なものとする上で、100〜150℃が好ましく用いられる。
【0081】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットは、上記アロイ繊維以外の繊維をパイル部に含んでいてもよい。混繊の具体的な態様としては、例えば、片撚りや諸撚りとインターミングル機による混繊などを挙げることができる。弾性回復性やバルキー性を活かすために、カーペットのパイル部における上記ポリマーアロイ繊維捲縮糸の含有量は、50質量%以上とすることが好ましい。
【0082】
カーペットの加工形態としては、例えば、段通、ウイルトン、ダブルフェイスおよびアキスミンター等の織りカーペットや、タフティングやフックドラグ等の刺繍カーペットや、ボンデッド、電着およびコード等の接着カーペット、あるいはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0083】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの耐摩耗性および湿熱処理後の摩耗性は、JIS L 1096に規定されるテーバ形法に準じて後述のように定義される等級が3級以上(3〜5級)であることが好ましい。摩耗性を3級以上とすることにより、自動車内装用のように特定箇所に摩擦が集中する用途にも問題なく使用することができる。
【0084】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットの目付は、500〜3000g/mであることが好ましい。目付が500g/m以下では、パイル層の糸密度が低いためカーペット層において十分な吸音効果や摩耗性が得られないため、ポリマーアロイ繊維をカーペットとしたときの性能が低くなることがあることがある。逆に、目付が3000g/m以上では、カーペットの重量が重くなってしまうことがある。目付は、さらに好ましくは700〜1600g/mである。
【0085】
本発明のポリマーアロイ繊維カーペットは、耐久性に優れており、用途として、特に、住居用、商業用および自動車用等が挙げられ、特に長期耐久性や耐摩耗性等が求められる自動車内装用に好適に用いられる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明のポリマーアロイ繊維カーペットについて、実施例を用いて詳細に説明する。実施例中の測定方法は、次の方法を用いた。
【0087】
(1)ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量
試料(ポリ乳酸系樹脂)のクロロホルム溶液に、テトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。繊維中のポリ乳酸の重量平均分子量を測定する場合には、試料をクロロホルムに溶かし、ポリオレフィン残渣を濾過して取り除き、そのクロロホルム溶液を乾化してポリ乳酸系樹脂を取り出して測定を行った。
【0088】
(2)ポリ乳酸系樹脂の残存ラクチド量
試料(ポリ乳酸系樹脂)1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。繊維中のポリ乳酸の場合は、予めポリ乳酸とポリオレフィンのブレンド比率を後述するTEM像から求め、上記ラクチド量をブレンド比率により補正して求めた。
【0089】
(3)カルボキシル基末端濃度
精秤した試料(下記方法で抽出したポリ乳酸系樹脂)をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。このとき、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端、モノマー由来のカルボキシル基末端およびオリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度を求めた。ポリマーアロイ繊維からポリ乳酸系樹脂を抽出する方法は特に限定されないが、本発明においてはクロロホルムを用いてポリ乳酸系樹脂を溶解し、濾過してポリオレフィンを取り除き、濾過液を乾化させて抽出した。
【0090】
(4)ポリマーの融点、結晶融解熱量
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度10℃/分にて測定して得られた融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。また、該極値を形成するピークとベースラインとで囲まれる面積(結晶融解ピーク面積)から、ポリマーの結晶融解熱量△H(J/g)を求めた。
【0091】
(5)溶融粘度η
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において測定温度を230℃に設定し、剪断速度6.1(sec−1)で、ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)および相溶化剤(C)の溶融粘度の測定をした。測定は、3回行い平均値を溶融粘度とした。
【0092】
(6)ポリマーアロイ繊維の島成分のドメインサイズおよびブレンド比率
ポリマーアロイ繊維の繊維軸と垂直の方向(繊維横断面方向)に超薄切片を切り出し、該切片を4万倍の透過型電子顕微鏡(下記のTEM装置)を用いてブレンド状態を観察・撮影した。この撮影画像を三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、島ドメイン(非染色部)のサイズとしてドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径(直径換算)(2r)をドメインサイズとした。計測するドメイン数は1試料あたり100個とし、ドメイン径の最も大きい10個および最も小さい10個の値を除いた80個のドメイン径について分布を求めた。
【0093】
繊維におけるポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)のブレンド比率は、上記のTEM像(5.93×4.65μm)から求められる断面積比を、各成分の比重により補正して重量比として求めた。ここで、本実施例での各成分の比重は、ポリ乳酸:1.24、ポリオレフィン:0.91を用いた。
・TEM装置:日立社製H−7100FA型、条件:加速電圧 100kV。
【0094】
(7)繊維表面(側面)の形態観察
ポリマーアロイ繊維を水酸化ナトリウム20重量%溶液に一昼夜、浸漬(アルカリエッチング)した後、ニコンインステック(株)社製の電子顕微鏡ESEM−2700を用いて倍率5,000倍で繊維表面状態を観察し撮影した。この撮影画像を三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、繊維表面中の任意の10μm×10μmの視野角で捉えられる筋状クレーターの面積を測定して、次式により筋状クレーターの面積比率を求めた。1試料あたり3カ所の視野について測定を行い、その平均値を筋状クレーターの面積比率(%)とした。
・筋状クレーターの面積比率(%)=(筋状クレーター面積)/(繊維表面積)×100
(8)繊度
検尺機を用いて100mの糸をかせ状に測長し、糸長100mの糸の重量を測定し、その重量を100倍することにより繊度(dtex)を求めた。測定は3回行い、その平均値を繊度(dtex)とした。
【0095】
(9)強度および破断伸度
試料糸を、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件で測定した。掴み間隔(試料長)は200mmとした。破断伸度は、S−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0096】
(10)捲縮伸長率
環境温度25±5℃、相対湿度60±10%の雰囲気中に20時間以上放置されたパッケージ(捲縮糸巻取ドラムまたはボビン)から解舒した捲縮糸を、無荷重状態で30分間沸騰水で浸漬処理する。処理した後、前記環境下において1昼夜(約24時間)風乾し、これを沸騰水処理後の捲縮糸の試料として使用する。この試料に1.8mg/dtexの初荷重をかけ、30秒経過した後に、試料長50cm(L1)にマーキングをする。次いで、初荷重の代わりに90mg/dtexの測定荷重をかけて30秒経過後に、試料長(L2)を測定する。そして下式により、沸騰水処理後の捲縮伸長率(%)を求める。
・捲縮伸長率(%)=[(L2−L1)/L1]×100。
【0097】
(11)目付
タフト後のカーペット層を50cm角に切り取り、当該試料におけるパイル糸の総質量を測定し、単位面積(1m)あたりに換算したものをパイル糸の目付とした。
【0098】
(12)カーペットの摩耗性
JIS L 1096−1999 8.17.3 テーバー形法に準じて、H−18摩耗輪を使用し、左右一対のそれぞれの摩耗輪に1kgf(9.8N)の荷重をかけて300回転してカーペットを摩耗させ、次の基準で外観変化を級判定し3級〜5級を合格とした。
5級:カーペットパイル部分の変化が全く認められない。
4級:カーペットのパイル部分に僅かに変化が見られるが、ほとんど変化がない。
3級:カーペットのパイル部分に変化が見られるが、目立たない。
2級:パイル部分の摩耗が激しく基布が透けて見え、変化が激しい。
1級:パイル部分の摩耗が激しく基布が見え、変化がかなり激しい。
【0099】
(13)湿熱処理後のカーペットの摩耗性
カーペットを、恒温恒湿槽(ナガノ科学機械製作所社製、型式LH−20−11M)を用いて槽内温度70℃、相対湿度95%で、7日間処理した後、温度25℃、相対湿度65%の雰囲気下において300時間乾燥したカーペットを試料とした。そして、上記(13)と同様にして、摩耗性を測定し評価した。
【0100】
(14)カーペットの品位評価
カーペットの手触り感や品位について、次のとおり評価を実施した。
◎:手触り感、カーペットの表面品位が非常に優れる(合格)。
○:手触り感に優れ、カーペットの表面品位が優れる(合格)。
△:手触り感がやや劣り、カーペットの表面品位がやや悪い(不合格)。
×:手触り感が悪く、カーペットの表面品位が悪い(不合格)。
【0101】
[製造例]
[ポリ乳酸樹脂(A)]
光学純度99.8%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃の温度で240分間重合を行い、ポリ乳酸P1を得た。得られたポリ乳酸P1の重量平均分子量は23.3万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。
【0102】
[ポリ乳酸樹脂(A)]
光学純度99.8%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃の温度で150分間重合を行い、ポリ乳酸P2を得た。得られたポリ乳酸P2の重量平均分子量は15万であった。また、残留しているラクチド量は0.10重量%であった。
【0103】
[ポリオレフィン樹脂(B)]
次のポリオレフィン樹脂(B)を用いた。
(O1)プライムポリマー製“S119”(主成分:ポリプロピレン MFR:60g/10分[温度230℃]、融点166℃、結晶融解熱量110J/g、溶融粘度128Pa・s)
(O2)プライムポリマー製“ZS1337A”( 主成分:ポリプロピレン MFR:26g/10分[温度230℃]、融点165℃、結晶融解熱量107J/g、溶融粘度195Pa・s)。
【0104】
[相溶化剤(C)]
次の相溶化剤(C)を用いた。
(C1)アミノ基変性SEBS(JSR製“ダイナロン”(登録商標)8630P、スチレン含有量15重量%、MFR15g/10分(230℃、21.2N))
(C2)イミン基変性SEBS(旭化成ケミカルズ製“タフテック”(登録商標)N503、スチレン含有量30重量%、MFR20g/10分(230℃、21.2N))
(C3)無水マレイン酸変性SEBS(クレイトン製“クレイトン”FG1924、スチレン含有量13重量%、無水マレイン酸含有量1重量%、MFR11g/10分(230℃、21.2N))
・SEBS:スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体。
【0105】
(実施例1)
(捲縮糸)
ポリ乳酸系樹脂(A)として上記製造例のポリ乳酸P1(融点177℃、溶融粘度770Pa・s)を用い、ポリオレフィン系樹脂(B)として上記製造例のO1(“S119”)を用い、相溶化剤(C)として上記製造例のC1(溶融粘度555Pa・sのスチレン系エラストマー)をそれぞれ表1に示した割合で用い、ポリオレフィン樹脂(B)に黒顔料を20質量%ブレンドしたポリオレフィン樹脂(B1)をそれぞれ、ポリ乳酸系樹脂(A)30質量部、ポリオレフィン系樹脂(B)64質量部、相溶化剤(C)3質量部、および上記の黒顔料をブレンドしたポリオレフィン樹脂(B1)1重量部の割合(合計103質量部)でチップブレンドした。なお、ポリ乳酸系樹脂(A)は110℃、真空下で約5時間乾燥し、水分率を100ppmに調湿した。次に紡糸温度220℃で、ブレンドしたポリマーを溶融混練しながらギヤポンプにて計量・排出し、内蔵された紡糸パックに溶融ポリマーを導き、Y型の口金孔から繊維状に吐出させた。次に、吐出させた繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度700m/分、ロール温度100℃で引いて糸条を得た。得られた糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度1700m/分、ロール温度110℃で第1延伸を行い、引き続いて、ロール回転速度1850m/分、ロール温度125℃で第2延伸を行った。次に、糸条を巻き取ることなく引き続いて、延伸糸条を捲縮加工装置に導き、140℃の温度の加熱蒸気によって捲縮加工を施し、回転移送装置上に噴出させ冷却した。次いで、プラグ状の糸の塊を2個1対のセパレートロールを用いてストレッチをかけ、塊を解した。得られた糸条に交絡処理を施し、チーズ状に巻き取り、フィラメント数54、総繊度1450dtex、異形度1.43のポリマーアロイ繊維からなる捲縮糸を得た。繊維物性を表1に示す。
【0106】
(合撚糸)
上記の捲縮糸に下撚りとしてS撚りを210回/mかけ、2本合糸し、上撚りとしてZ撚りを210回/mかけ、115℃の温度で熱セットを施し合撚糸を得た。
【0107】
(カーペット)
上記の合撚糸をパイル糸として、目付け100g/mのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維基布に、1/10ゲージ、ステッチ10.1個/25.4mm、パイル長10mmでタフトし、パイル目付1100g/mのレベルカット品カーペットを得た。カーペットの裏側にはタフト糸の抜けを防ぐために、100g/m(乾燥質量)のスチレンーブタジエンゴムラテックスを塗布してカーペット層とした。得られたカーペットの摩耗性や耐加水分解性も良好でカーペットとして優れていた。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例2)
ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を、それぞれ10質量部および90質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られた、カーペットの摩耗性や耐加水分解性も良好でカーペットとして優れていた。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例3)
ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)をそれぞれ40質量部および60質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られたポリマーアロイ繊維の島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.6μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きく、アルカリエッチング後の筋状クレーター面積も約5.5%であり、該クレーターに起因すると思われる耐摩耗性の低下が見られたが、実用耐久性を有するものであった。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例4)
ポリオレフィン系樹脂(B)を上記製造例のO2(“ZS1337A”)としたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られたポリマーアロイ繊維の島ドメインサイズは直径換算で0.5〜0.6μmと実施例1よりも大きいため、耐摩耗性の低下が見られたが、実用耐久性を有するものであった。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例5)
相溶化剤(C)をC2(溶融粘度430Pa・sのスチレン系エラストマー)に変更し、添加量を10質量部にしたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られたポリマーアロイ繊維の島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.5μmと実施例1よりも大きいため、耐摩耗性の低下が見られたが、実用耐久性を有するものであった。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例6)
ポリ乳酸樹脂(A)をP2(融点177℃、溶融粘度240Pa・s)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。やや均一性に劣る海島構造であり、島ドメインサイズは直径換算で0.07〜0.9μmであった。また、カーペットの耐摩耗性が実施例1よりは劣るものの、実用耐久性を有するレベルであった。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例7)
相溶化剤(C)をC2(溶融粘度650Pa・sのスチレン系エラストマー)したこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。島ドメインサイズは直径換算で0.05〜0.9μmであった。また、カーペットの耐摩耗性が実施例1よりは劣るものの、実用耐久性を有するレベルであった。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
相溶化剤(C)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして紡糸を行ったところ、口金直下でのバラス効果により膨らみが生じ、糸切れが多発して紡糸することができなかった。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例2)
ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の配合割合を、それぞれ70質量部および30質量部とし、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、やや不均一ではあるが分散した海島構造をとっていた。また、糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、海成分が欠落しており、ポリプロピレンが島成分を形成していることが確認された。また、得られたカーペットの耐摩耗性および耐加水分解性はカーペットとして利用できないレベルであった。結果を表1に示す。
【0116】
(比較例3)
繊維成分として、ポリオレフィン系樹脂を用いず、ポリ乳酸系樹脂(A)(ポリ乳酸P1)のみとしたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。得られたカーペットは品位が硬く、耐摩耗性及び耐加水分解性はカーペットとして利用できないレベルであった。結果を表1に示す。
(比較例4)
実施例1と口金孔を丸型に変えたこと以外は、同じ方法にて紡糸を実施し、カーペットを作成した。得られたカーペットは異形度が1.05と低いためにボリューム感が少なく、品位がやや悪いカーペットとなった。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなるポリマーアロイ繊維をパイル糸に用いたカーペットであって、該相溶化剤(C)が付加重合体からなるエラストマーであり、該ポリマーアロイ繊維のモルフォロジーが、ポリ乳酸系樹脂(A)が島成分となりポリオレフィン系樹脂(B)が海成分である海島構造であり、該ポリマーアロイ繊維の断面異形度が1.1〜5.0であることを特徴とするポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項2】
付加重合体からなるエラストマーが、アクリル系エラストマーまたはスチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項1記載のポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項3】
付加重合体からなるエラストマーが、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基からなる群から選択された官能基を含有するエラストマーであることを特徴とする請求項1記載のポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項4】
ポリマーアロイ繊維のアルカリエッチング後の繊維側面に存在する筋状クレーターの面積比率が10%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーア
ロイ繊維カーペット。
【請求項5】
ポリマーアロイ繊維の島成分のドメインサイズが0.005〜2μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項6】
ポリマーアロイ繊維中のポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の融点がいずれも150℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項7】
ポリマーアロイ繊維の組成が、ポリ乳酸系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の合計量を100質量部として、ポリ乳酸系樹脂(A)が1〜45質量部、ポリオレフィン系樹脂(B)が99〜55質量部、相溶化剤(C)が1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維カーペット。
【請求項8】
カーペット表皮のパイル目付が500〜3000g/mであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに1項に記載のポリマーアロイ繊維カーペット。

【公開番号】特開2011−250978(P2011−250978A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126603(P2010−126603)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】