説明

ポリマーエマルションの製造方法

【課題】ポリマーエマルションの製造方法の提供。
【解決手段】反応性アニオン性界面活性剤(a)と、臨界ミセル濃度(CMC)が0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)とを使用してビニル系モノマーを含むモノマー(A)を乳化重合することを含むポリマーエマルションの製造方法であって、工程I:前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の存在重量比[b/(a+b)]が0.40〜1.00を満たす条件下で前記モノマー(A)を重合すること、並びに、工程II:工程Iで得られた反応液にさらに前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記モノマー(A)を添加して前記モノマー(A)を重合すること、を含み、上記工程I及びIIにおいて使用する前記反応性アニオン性界面活性剤(a)の総量と前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の総量の重量比[b/(a+b)]が0.01〜0.30であるポリマーエマルションの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニル、アクリル酸エステル等のビニル系モノマーの乳化重合によって得られるポリマーエマルションは、そのまま塗料、粘・接着剤、紙加工、繊維加工等の分野に、あるいは重合体が分離されてプラスチック、ゴムとして広く工業的に使用されている。乳化重合には乳化剤として、直鎖アルキル硫酸エステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、及びポリオキシエチレン直鎖アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤が、それぞれ単独で或いは陰イオン−非イオン界面活性剤の混合系で使用されている。
【0003】
乳化重合における乳化剤は、重合の開始反応、生長反応に影響を及ぼすのみでなく、重合中のポリマーエマルションの安定性(重合安定性)、さらに生成したポリマーエマルションの機械的安定性、化学的安定性、凍結安定性、貯蔵安定性に大きな影響を及ぼす。しかし、重合安定性や機械的安定性、塗膜の耐水性において、まだ十分に満足できるものではなかった。
【0004】
これら乳化重合用界面活性剤に要求される性能は、重合安定性、生成したポリマーエマルションの機械的安定性、及び化学的安定性が良好で、エマルションの粒径が小さく、粘度が低く、さらには環境問題が発生しないこと等である。これらの性能を満足させるために、各種モノマーと共重合可能な反応性基を有する、反応性界面活性剤が数多く提案されてきた(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−80506号公報
【特許文献2】特開昭63−319035号公報
【特許文献3】特開2005−232330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の乳化重合においては、さらなる塗膜の耐水性の向上が求められている。そこで、本発明は、重合安定性及びエマルション粒径が良好なことに加えて、塗膜の耐水性に優れるポリマーエマルションの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、反応性アニオン性界面活性剤(a)と、臨界ミセル濃度(CMC)が0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)とを使用してビニル系モノマーを含むモノマー(A)を乳化重合することを含むポリマーエマルションの製造方法であって、工程I: 前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の存在重量比[b/(a+b)]が0.40〜1.00を満たす条件下で前記モノマー(A)を重合すること、並びに、工程II: 工程Iで得られた反応液にさらに前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記モノマー(A)を添加して前記モノマー(A)を重合すること、を含み、上記工程I及びIIにおいて使用する前記反応性アニオン性界面活性剤(a)の総量と前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の総量の重量比[b/(a+b)]が0.01〜0.30であるポリマーエマルションの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重合安定性及びエマルション粒径が良好なポリマーエマルションであって、塗膜の耐水性に優れるポリマーエマルションを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、乳化重合反応において、反応性アニオン性界面活性剤(a)とCMCが0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)とを併用すること、及び、該乳化重合反応の初期(例えば、種重合反応時)において、成分(b)を所定量使用する反応を行うことにより、重合安定性及びエマルション粒径が良好なことに加えて、塗膜の耐水性に優れたポリマーエマルションが得られ、とりわけ、塗膜の耐水性が向上するという知見に基づく。
【0010】
すなわち、本発明は、一態様において、反応性アニオン性界面活性剤(a)と、臨界ミセル濃度(CMC)が0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)とを使用してビニル系モノマーを含むモノマー(A)を乳化重合することを含むポリマーエマルションの製造方法であって、工程I:前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の存在重量比[b/(a+b)]が0.40〜1.00を満たす条件下で前記モノマー(A)を重合すること、並びに、工程II:工程Iで得られた反応液にさらに前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記モノマー(A)を添加して前記モノマー(A)を重合すること、を含み、上記工程I及びIIにおいて使用する前記反応性アニオン性界面活性剤(a)の総量と前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の総量の重量比[b/(a+b)]が0.01〜0.30であるポリマーエマルションの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)に関する。
【0011】
本発明の製造方法において、重合安定性及びエマルション粒径が良好なことに加えて、塗膜の耐水性に優れたポリマーエマルションが得られる。本発明では、一定量以上の非反応性アニオン活性剤(b)成分を工程Iでの重合に使用することで、エマルジョン
粒径が小さくなるとともに、(b)成分がエマルジョン内部に閉じ込められ、エマルジョンの粒子表面近傍での(b)成分の存在確率が小さくなり、耐水性が向上すると考えられる。但し、本発明はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0012】
本明細書において、重合安定性が良好なこととは、製造されたエマルション中に凝集物が少ないことをいう。重合安定性は、具体的には実施例に記載される方法で評価することができる。
【0013】
本明細書において、エマルション粒径が良好なこととは、製造されたエマルションの平均粒径が大きくならないこと、すなわち、小さいことをいい、具体的には、平均粒径が100〜150nm、好ましくは110〜130nmであることをいう。本明細書において、エマルションの平均粒径は、動的光散乱法において検出角90度で測定される散乱強度分布に基づく平均粒径をいい、具体的には実施例に記載される方法で測定できる。
【0014】
本明細書において、塗膜の耐水性が優れるとは、製造されたエマルションの塗膜の耐水性が優れることをいい、具体的には、該塗膜の耐温水白化性が優れるこという。耐温水白化性は、実施例に記載される方法で評価できる。
【0015】
[成分(a)]
本明細書において、成分(a)とは、反応性アニオン性界面活性剤(a)を指す。成分(a)としては、分子中に反応性二重結合を有する反応性アニオン性界面活性剤が挙げられ、とりわけ、従来、乳化重合反応に使用されている公知の反応性アニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0016】
成分(a)としては、反応性二重結合を有する炭化水素基とアニオン性基とを有する化合物が好ましく挙げられる。
【0017】
反応性二重結合を有する炭化水素基としては、好ましくは炭素数3〜18、より好ましくは炭素数3〜12の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基であり、反応性を高めて塗膜の耐水性を向上させる観点から、末端に反応性二重結合を有するアルケニル基がより好ましく、具体的には、アリル基、3−メチル−3−ブテニル基が挙げられる。
【0018】
アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基が使用できるが、界面活性能を高めて塗膜の耐水性を向上させる観点から、硫酸基が好ましい。中和のために使用する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0019】
成分(a)は、さらに、界面活性能を高めて塗膜の耐水性を向上させる観点から、1以上の疎水性基を有することが好ましい。疎水性基としては、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又はアルキレン基の炭素数が3〜18のオキシアルキレン基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベヘニル基等が挙げられる。オキシアルキレン基は、炭素数4〜18のものが好ましく、オキシブチレン基がより好ましい。オキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。
【0020】
成分(a)は、さらに、界面活性能を高めて塗膜の耐水性を向上させる観点から、オキシエチレン基を有していてもよく、前記疎水性基とアニオン性基との間に結合基として用いることが好ましい。オキシエチレン基の平均付加モル数は、好ましくは1〜100、さらに好ましくは4〜80、より好ましくは4〜50である。
【0021】
好ましい成分(a)としては、重合安定性及びエマルション粒径が良好で、塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩がより好ましい。上記アルキレン基としては、炭素数が2〜4のものが好ましく、前記アルケニル基としては、3−メチルー3−ブテニル基又はアリル基が好ましい。ポリオキシブチレン基の平均付加モル数、ポリオキシエチレン基の平均付加モル数は前述のものが好ましい。塩を形成するための塩基としては、前述のものが挙げられ、ナトリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0022】
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩の具体例としては、特開2002−80506及び特開2003−261605に開示される反応性界面活性剤(ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩 商品名:ラテムルPD−104(花王社製))が挙げられる。
【0023】
成分(a)の分子量としては、塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、好ましくは250〜6000、より好ましくは500〜3000である。
【0024】
[成分(b)]
本明細書において、成分(b)とは、CMCが0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)を指す。ここで、CMCは、臨界ミセル濃度をいい、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。成分(b)としては、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、スルホン酸基又は硫酸基を有するアニオン性界面活性剤が好ましく、好ましくは炭素数11〜22、より好ましくは炭素数11〜18の炭化水素基を有するものが好ましい。具体的には、LAS(リニアアルキルベンゼンスルホン酸塩)、アルカンスルホン酸塩(SAS)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、LASがより好ましい。塩を形成するための塩基としては、前述のものが挙げられ、塩としてはナトリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0025】
成分(b)のCMCは、0.30重量%以下であるが、エマルションの小粒径化及び塗膜の耐水性向上の観点から0.20重量%以下が好ましい。また、CMCは、過度の小粒径化の抑制及び重合安定性の観点から、0.01重量%以上が好ましい。したがって、これらの観点から、成分(b)のCMCは、0.01〜0.30重量%が好ましく、0.01〜0.20重量%であることがより好ましい。なお、CMCの値が前記範囲となる非反応性アニオン性界面活性剤は、例えば、市販品などとして入手可能である。
【0026】
これらの中で、塗膜の耐水性向上の観点から、成分(a)がポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩を含有し、成分(b)がリニアアルキルベンゼンスルホン酸塩を含有することが好ましい。
【0027】
[モノマー(A)]
本明細書において、モノマー(A)とは、本発明の製造方法において乳化重合する対象のモノマーを指す。モノマー(A)は、単一種類のモノマーからなるものであってもよく、2種類以上のモノマーを含む組成物若しくは混合物であってもよい。モノマー(A)は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、ビニル系モノマーを含む。モノマー(A)中、塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、ビニル系モノマーは50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上が、よりさらに好ましい。
【0028】
モノマー(A)として使用できるビニル系モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6のアルキル基を有する、アクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6のアルキル基を有するメタクリル酸エステル; アクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸又はそれらの混合物を指す);塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。
【0029】
その他のモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。上述のとおり、これらのモノマーは単独で重合させても、2種以上を併用して共重合させてもよい。
【0030】
これらの中でモノマー(A)として好ましいのは、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、スチレン系モノマー、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上を含有する疎水性モノマーと(メタ)アクリル酸とを含むことがより好ましい。
【0031】
上記疎水性モノマーと、(メタ)アクリル酸との重量比(疎水性モノマー/(メタ)アクリル酸)は、前記の観点から、90/10〜99.5/0.5が好ましく、95/5〜99.5/0.5がより好ましく、95/5〜99/1がさらに好ましい。
【0032】
本発明の製造方法は、下記2つの工程を含む。
工程I: 前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の存在重量比[b/(a+b)]が0.40〜1.00を満たす条件下で前記モノマー(A)を重合する工程。
工程II: 工程Iで得られた反応液にさらに前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記モノマー(A)を添加して前記モノマー(A)を重合し、ポリマーエマルションを得る工程。
【0033】
工程Iにおいて、存在重量比[b/(a+b)]は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.80以上であり、成分(a)で後述するプレエマルションを作製する生産性の観点から、1以下であり、1未満が好ましい。これらの観点から、存在重量比[b/(a+b)]は、好ましくは0.60〜1、より好ましくは0.70〜1であり、さらにより好ましくは0.70以上1未満であり、さらにより好ましくは0.80以上1未満である。
【0034】
工程IIでは、成分(a)及びモノマー(A)に加えて、成分(b)をさらに添加することが好ましい。その場合、成分(a)及びモノマー(A)、好ましくはさらに成分(b)を予め混合した後、系内に添加する方法(プレエマルション法)が製造上の簡便性の観点から好ましい。
【0035】
前記工程I及びIIにおいて使用する成分(a)の総量と成分(b)の総量の重量比[b/(a+b)]は、エマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、0.01以上であって、0.05以上が好ましく、0.13以上がさらに好ましく、重合安定性が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、0.30以下であって、0.25以下が好ましく、0.23以下がさらに好ましく、これらの観点から、0.01〜0.30であって、0.05〜0.25が好ましく、0.13〜0.23が好ましい。
【0036】
工程I及び工程IIを通じて使用する成分(a)の総量と成分(b)の総量の総重量比[(a)/(b)]は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から好ましくは99/1〜70/30、より好ましくは90/10〜75/25である。
【0037】
前記工程I及びIIを通じて使用する、成分(a)の総量と成分(b)の総量との合計量のモノマー(A)の総量に対する重量比[(a+b)/モノマー(A)]は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、好ましくは0.001〜0.2、より好ましくは0.005〜0.05である。
【0038】
前記工程I及びIIを通じて使用する、成分(a)の総量のモノマー(A)の総量に対する重量比[(a)/モノマー(A)]は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、好ましくは0.001〜0.1、より好ましくは0.005〜0.05であり、成分(b)の総量のモノマー(A)の総量に対する重量比[(b)/モノマー(A)]は、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、好ましくは0.0005〜0.05、より好ましくは0.001〜0.01である。
【0039】
成分(a)について、工程I及びIIでそれぞれ使用する重量比(工程I/工程II)は、成分(a)を工程IIで主に使用し、エマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、0〜0.40が好ましく、0を超え0.40以下がより好ましく、0.01〜0.30がより好ましく、0.03〜0.13がよりさらに好ましい。
【0040】
成分(b)について、工程I及びIIでそれぞれ使用する重量比(工程II/工程I)は、成分(b)を工程Iで主に使用し、重合安定性及びエマルション粒径が良好で塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、0〜0.50が好ましく、0〜0.30がより好ましく、0〜0.20がさらに好ましい。
【0041】
モノマー(A)について、工程I及びIIでそれぞれ使用する重量比(工程I/工程II)は、工程Iの重合で粒径の小さいエマルションを製造するとともに、工程IIで
塗膜の耐水性に優れるエマルションを得る観点から、1/99〜15/85が好ましく、3/97〜10/90がより好ましい。
【0042】
本発明の製造方法におけるモノマーの添加方法は、モノマー滴下法、モノマー一括仕込み法、又はプレエマルション法等を用いることができる。重合安定性からプレエマルション法が好ましい。
【0043】
本発明の製造方法は、一実施形態において、下記の工程(i)〜(iv)を含む製造方法とすることができる。
工程(i):成分(a)を含む水相を調製する。
工程(ii):工程(i)の水相を用いてモノマー(A)のエマルションを調製する。
工程(iii):工程(ii)のエマルションの一部、重合開始剤、成分(b)、さらに必要に応じて成分(a)を混合仕込み、重合を行い、種ポリマーを生成する。
工程(iv):前記工程(iii)で重合した種ポリマーに、工程(ii)のエマルションの残部を滴下して乳化重合を完了し、ポリマーエマルションを製造する。
【0044】
本実施形態における工程(i)〜(iii)は、本発明の製造方法の工程Iに該当し、工程(iv)は工程IIに該当する。
【0045】
本発明の製造方法に用いる重合開始剤としては、通常の乳化重合に用いられるものであればいずれも使用できる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスジイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系開始剤等が挙げられる。これらの中でも過硫酸塩が好ましい。さらに過酸化物に亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系の開始剤も使用できる。
【0046】
工程(i)では、成分(a)と水とを混合して、成分(a)を含む水相を調製する。さらに必要に応じて重合開始剤を添加してもよい。水相中、成分(a)の含有量は、0.5〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。
工程(ii)では、工程(i)の水相とモノマー(A)とを混合して、エマルションを調製する。混合する温度は、5〜40℃が好ましい。エマルション中、モノマー(A)の含有量は、30〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。
工程(iii)では、工程(ii)のエマルションの一部、重合開始剤、成分(b)、さらに必要に応じて成分(a)を混合仕込み、重合を開始して種ポリマーを生成する。
混合仕込み中のモノマー(A)の含有量は、1〜30重量%が好ましく、2〜20重量%がより好ましい。
【0047】
工程Iの重合温度は、開始剤の分解温度により調整されるが、50〜90℃が好ましく、過硫酸塩の場合は70〜85℃が好ましい。重合時間は、10分〜2時間程度が好ましく、30分〜1時間程度がより好ましい。
【0048】
工程Iの重合反応の終点は、工程Iで添加したモノマー(A)の重合反応率が95重量%以上であることが好ましい。重合反応率は、未反応モノマー量をガスクロマトグラフィー等により測定することで求めることができる。
【0049】
工程(iv)では、前記工程(iii)で重合した種ポリマーに、工程(ii)のエマルションの残部を滴下して乳化重合を完了し、ポリマーエマルションを製造する。
【0050】
上記実施形態において、工程(iv)におけるモノマー(A)エマルションの滴下時間は1〜8時間が好ましく、熟成時間は1〜5時間が好ましい。重合温度は、工程Iと同じである。
【0051】
本発明の製造方法により製造されたポリマーエマルションによるポリマー塗膜は、耐水性に優れ、塗料、特に水性塗料分野や、粘着製品分野に好ましく用いることができる。したがって、本発明は、その他の態様として、ポリマー塗膜の製造方法であって、本発明の製造方法によりポリマーエマルションを製造すること、及び、前記ポリマーエマルションの塗膜を形成することを含むポリマー塗膜の製造方法に関する。
【0052】
本発明のポリマー塗膜の製造方法は用途に応じた実施形態とすることができる。例えば、粘着用途では、本発明の製造方法によって、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル等のポリマーTg(ガラス転移温度)の低いポリマーエマルションを製造する。このポリマーエマルションに必要に応じて増粘剤、粘着付与剤等を配合したものを紙やフィルム等の基材に塗工し、熱風乾燥して厚さ20μm程度のポリマー塗膜を形成させると耐水性、及び粘着性能に優れた粘着製品を得ることができる。
【0053】
あるいは、塗料用途では、本発明の製造方法によって、アクリル酸n−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体等のポリマーエマルションを製造する。このポリマーエマルションに必要に応じて成膜助剤、顔料等を配合したものを建築壁材等に乾燥膜厚が100μm程度になるように塗工し、これを自然乾燥、又は熱風乾燥することにより、耐水性、耐候性に優れた塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0054】
下記に示す反応性アニオン性界面活性剤(a)、非反応性アニオン性界面活性剤(b)及び(c)、並びに、モノマー混合物(A)を用いて、下記乳化重合方法によりポリマーエマルション組成物(実施例1〜10、比較例1〜8)を製造し、下記に示す方法により、重合安定性、エマルション粒径、及び、ポリマーエマルション塗膜の耐温水白化性を評価した。なお、下記において、%は特記しない限り重量%(wt%)である。
【0055】
反応性アニオン性界面活性剤(a)(以下、単に「成分(a)」ともいう。)として、下記の(a−1)及び(a−2)を使用した。
(a−1):ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:ラテムルPD−104、花王社製)
(a−2):ポリオキシエチレン2−アリルオキシ−1−アルコキシメチルエチルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:リアソープSR−1025、アデカ社製)
【0056】
非反応性アニオン性界面活性剤(b)(以下、単に「成分(b)」ともいう。)として、下記の(b−1)、(b−2)及び(b−3)を使用した。なお、臨界ミセル濃度(CMC)は下記のように測定した。
(b−1):リニアアルキルベンゼンスルホネートナトリウム塩(商品名:ネオペレックスG−25、花王社製、CMC=0.06wt%)
(b−2):アルカンスルホネートナトリウム塩(商品名:ラテムルPS、花王社製、CMC=0.07wt%)
(b−3):ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(商品名:エマール20C、花王社製、CMC=0.10wt%)
【0057】
成分(b)の比較成分である非反応性アニオン性界面活性剤(c)(以下、単に「(c)成分」ともいう。)として、下記の(c−1)及び(c−2)を使用した。なお、臨界ミセル濃度(CMC)は下記のように測定した。
(c−1):アルキルジフェニルエーテルジスルホネートナトリウム塩(商品名:ペレックスSS‐L、花王社製、CMC=0.70wt%)
(c−2):ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(商品名:ラテムルE−118B、花王社製、CMC=0.55wt%)
【0058】
CMCの測定方法
界面活性剤のCMCは次のように測定した。100mLの蒸留水をビーカーにとり、攪拌しながら電気伝導度を測定した(電気伝導度計は東亜電波工業(株)CM−20S型、セルCG−511B)。あらかじめ所定濃度に調整した界面活性剤溶液を0.2mLずつビーカー内に滴下し、滴下するごとに電気伝導度を読みとった。滴定液の界面活性剤濃度をxmolL-1、滴下した滴定液の量をymLとすると、ビーカー内の溶液中の界面活性剤濃度Cは、C=x・y/(100+y)となる。電気伝導度をCに対してプロットしたときの屈曲点がCMCである(温度25℃)。
【0059】
<乳化重合方法:実施例1のエマルションの製造>
実施例1のエマルションは、下記工程(i)〜(iv)に従って製造した。
工程(i):攪拌機、原料投入口を備えた1Lフラスコに、イオン交換水112.5g、重合開始剤として過硫酸カリウム0.36g、成分(a−1)3.6gを混合し、界面活性剤水溶液を調製した。
工程(ii):上記水溶液を500r/minで攪拌しながら、アクリル酸ブチル110.8g、メタクリル酸メチル110.8g、アクリル酸3.4gのモノマー混合物を約5分間かけて滴下し、30分間攪拌してモノマー乳化物滴下液(341.5g)を得た。
工程(iii):次に攪拌機、還流冷却器、原料投入口を備えた1Lセパラブルフラスコ内に、イオン交換水162.5g、重合開始剤として過硫酸カリウム0.09g、成分(b−1)0.90g、及び、上記モノマー乳化物滴下液の17.1g(5wt%量、成分(a)は0.18g)を仕込み、80℃に昇温し、30分間種重合を行なった。なお、工程(iii)において、全アニオン界面活性剤(成分(a)+(b))中の成分(b)の割合は83.3%であった。
工程(iv):残りの乳化物滴下液(324.4g)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに1時間熟成し、実施例1のポリマーエマルションを得た。工程(i)〜(iv)で使用した全アニオン界面活性剤(成分(a)+(b))中の成分(b)の割合は20.0%であった。
【0060】
<実施例2〜10及び比較例1〜8のエマルションの製造>
成分(a)として下記表1に示すものを使用し、成分(b)として下記表1に示す成分(b)又は成分(c)を使用した。また、実施例1の工程(i)の成分(a−1)3.6gにかえて下記表2の成分を添加し、実施例1の工程(iii)で仕込んだ成分(b−1)0.90gにかえて下記表2の成分を添加し、実施例2〜10及び比較例1〜8のエマルションを製造した。下記表3に、それぞれのエマルションを製造するために工程I及びIIで使用した成分及びその量を示す。なお、下記表3における工程Iは、上記乳化重合方法の工程(i)〜(iii)の種重合までの工程を指し、工程IIは、上記工程(iv)を指す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
<性能評価方法>
製造した実施例1〜10及び比較例1〜8のエマルションについて下記に示す条件で、重合安定性、エマルション粒径、及び、塗膜の耐水性を評価した。その結果を下記表3に示す。
【0064】
(1)重合安定性
上記乳化重合の工程(iv)における1時間の熟成の後、得られたポリマーエマルションを30℃以下に冷却し、200メッシュステンレス金網でろ過し、エマルション中の凝集物を回収した。フラスコ内、及び攪拌羽根に付着した凝集物も回収した。回収した凝集物を水洗後26.6kPa、105℃で2時間乾燥・秤量して、凝集物量を求めた。使用したモノマーの総量に対する凝集物の重量%で、重合安定性を表した。
【0065】
(2)エマルション粒径
得られたポリマーエマルションを25%アンモニア水で中和してpH8〜9とし、動的光散乱法粒径測定装置(商品名:N4 Plus、ベックマン・コールター社製)を使用して、中和後のポリマーエマルション粒子の平均粒径を測定し、エマルション粒径とした。
【0066】
(3)塗膜の耐水性(ポリマーエマルション塗膜の耐温水白化性)
上記中和後のポリマーエマルションを、透明アクリル板上にアプリケーターを使用して、乾燥膜厚が50μmとなるよう塗工し、熱風乾燥機で100℃、10分間乾燥した。このアクリル板を60℃の温水に48時間浸漬した後、ヘイズメーターを使用して、塗膜のヘイズ値を測定した。耐温水白化性はヘイズ値が小さい程良好である。
【0067】
【表3】

【0068】
上記表3の結果から明らかなように、実施例1〜10は、比較例1〜8と比べて、良好な重合安定性及び良好なエマルション粒径を維持しつつ、優れた塗膜の耐水性(耐温水白化性)を示した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、例えば、塗料、接着剤、紙加工、繊維加工、プラスチック、ゴム等の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性アニオン性界面活性剤(a)と、臨界ミセル濃度(CMC)が0.30重量%以下の非反応性アニオン性界面活性剤(b)とを使用してビニル系モノマーを含むモノマー(A)を乳化重合することを含むポリマーエマルションの製造方法であって、
工程I: 前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の存在重量比[b/(a+b)]が0.40〜1.00を満たす条件下で前記モノマー(A)を重合すること、並びに、
工程II: 工程Iで得られた反応液にさらに前記反応性アニオン性界面活性剤(a)及び前記モノマー(A)を添加して前記モノマー(A)を重合すること、を含み、
上記工程I及びIIにおいて使用する前記反応性アニオン性界面活性剤(a)の総量と前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)の総量の重量比[b/(a+b)]が0.01〜0.30である、ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項2】
前記工程I及びIIで使用する反応性アニオン性界面活性剤(a)の重量比(工程I/工程II)が、0〜0.40である、請求項1記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項3】
前記工程I及びIIで使用する非反応性アニオン性界面活性剤(b)の重量比(工程II/工程I)が、0〜0.50である、請求項1又は2に記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項4】
前記モノマー(A)が、スチレン系モノマー、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の疎水性モノマーと(メタ)アクリル酸とを含む、請求項1から3のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項5】
前記反応性アニオン性界面活性剤(a)が、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩を含む、請求項1から4のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。
【請求項6】
前記非反応性アニオン性界面活性剤(b)が、リニアアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種類を含む、請求項1から5のいずれかに記載のポリマーエマルションの製造方法。

【公開番号】特開2012−111816(P2012−111816A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260322(P2010−260322)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】