説明

ポリマーエマルジョンの製造方法およびそれを含んでなるインク組成物

【課題】インク組成物の印刷安定性および吐出安定性を向上させるポリマーエマルジョンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合反応させることと、そして、その後に、一価の無機水酸化物を添加して所望のpHに調製することによって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポリマーエマルジョンの製造方法、特にインク組成物に用いられるポリマーエマルジョンの製造方法に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録は、微細なノズルからインクを小滴として吐出して、文字や図形を記録媒体表面に記録する方法である。インクジェット記録用インクとしては、一般に各種の水溶性染料を水性媒体に溶解させたものが使用されている。
また、顔料を水性媒体に分散させたインクが提供されている。顔料を水性媒体に分散させたインクは、水溶性染料に比べて耐水性や耐光性に優れるという特徴を有する。
【0003】
一方、記録媒体に顔料を含んでなるインクが印刷された場合に、着色剤としての顔料が記録媒体に十分定着されていないと、外力により画像部分が擦れて画像部分が汚れることがあった。このため、顔料を含んでなるインクにあっては、着色剤としての顔料が記録媒体に堅固に定着し、耐擦過性に優れたものであることが要求されていた。
【0004】
従来、着色剤としての顔料の記録媒体への定着性を改善するため、インク組成物に樹脂を添加する提案がなされている。例えば、特公昭62−1426号公報では顔料と樹脂エマルジョンとを水に分散させたインクが、特開昭55−157668号公報では水不溶の樹脂エマルジョン分散液中に顔料を分散させることが、特開平1−217088号公報では特定の造膜温度を有するエマルジョンを使用することが、特開平3−60068号公報および特開平4−18462号公報では同様に樹脂エマルジョンを用いたインクが開示されている。また、特開平8−259869号公報には、コア部とそれを取り囲むシェル部とからなるコアシェル型の樹脂粒子をインクジェト記録用インクに用いることが検討されている。
【0005】
しかしながら、このような樹脂エマルジョンを含んでなるインク組成物にあっては、場合によっては、インク組成物の粘度が高くなり、インクジェット記録方法に適さないものとなってしまうことが観察された。また、インクジェット記録用ヘッドは、ノズルプレートに撥水処理を施して、インク滴がノズルより飛翔しやすいように工夫されている。しかしながら、塗料や接着剤用として市販されている一般的なポリマー構造を有するポリマー微粒子からなる樹脂エマルジョンを添加剤として使用したインク組成物は、このノズルプレートを非常に濡らす傾向がある。その結果、インク滴の飛行曲がりやインクの吐出不良の発生が観察された。また、印刷物の速乾性を得るために、グリコールエーテル類やアセチレングリコール系界面活性剤等の界面活性剤などが浸透剤としてインクに含有されることがある。しかしながら、これらの浸透剤とある種の樹脂エマルジョンとが混合されると、樹脂エマルジョンを構成するポリマー微粒子が膨潤し、その結果、インクの吐出性安定性、長期保存安定に欠けることがあった。
【0006】
さらにまた、樹脂エマルジョンは、水と、乳化剤と、重合開始剤とを混合し適切な条件下で重合反応させて製造される。製造された樹脂エマルジョンは一般に酸性値を示しことから、それ自体、粘度上昇や凝集が起こることがあった。このため、従来、製造された樹脂エマルジョンにアンモニア水を添加しpHを調製し、それ自体の安定性を図っていた。しかしながら、アンモニア水で中和した樹脂エマルジョンを長期間保管したところ、pHの低下や粘度の上昇が見られた。そして、この樹脂エマルジョンを用いたインク組成物もまた長期間保管したところ、pHの低下や粘度の上昇が見られ、吐出安定性に影響を及ぼすことがあった。
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、今般、ポリマー微粒子を含んでなるポリマーエマルジョンの製造方法において、水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合反応させることと、そして、その後に、一価の無機水酸化物を添加してpH値を中性〜アルカリ性の範囲に調整することにより、保存安定性を向上させたポリマーエマルジョンを製造することができる、との知見を得た。さらに、本発明者は、本発明によって製造されたポリマーエマルジョンをインク組成物に添加することによって、インク組成物の保存安定性、目詰まり信頼性、および吐出安定性を向上させるとともに、このインク組成物で印刷された印刷物の画像は堅固性、耐擦過性に優れたものである、との知見をも得た。本発明は、これら知見によるものである。
【0008】
従って、本発明は、記録媒体に印刷された顔料の定着性を向上させ、耐擦過性に優れた画像を実現できる、ポリマー微粒子を含んでなるポリマーエマルジョンの製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
よって、本発明による、ポリマー微粒子を含んでなるポリマーエマルジョンの製造方法は、水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合反応させることと、そして、その後に、
一価の無機水酸化物を添加して、pH値を中性〜アルカリ性の範囲に調製することを含んでなるものである。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、インク組成物が提供され、そのインク組成物は、顔料と、ポリマーエマルジョンと、水と、水溶性有機溶剤とを含んでなるものであって、ポリマーエマルジョンが、本発明による製造方法によって製造されたものである。
【発明の具体的説明】
【0011】
定義
「ポリマーエマルジョン」とは、連続相が水であり、分散粒子がポリマー微粒子である水性分散液を意味する。「ポリマーエマルジョン」は、樹脂エマルジョンと呼ばれることがある。「ポリマー微粒子」とは、ポリマー成分の微粒子を意味する。ポリマー微粒子を構成するポリマー成分の具体例としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、などが挙げられる
ポリマーエマルジョンの製造方法
a)モノマー
本発明にあって、モノマーは、好ましくは、不飽和ビニルモノマーを用いる。
不飽和ビニルモノマーの具体例としては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステルモノマー類、メタクリル酸エステルモノマー類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルシアン化合物モノマー類、ハロゲン化モノマー類、オレフィンモノマー類、ジエンモノマー類が挙げられる。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル、等のハロゲン化モノマー類;スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー類;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー類が挙げられる。カルボキシル基を有さないモノマーには、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーの利用が必須となるが、好ましいその例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸が挙げられ、メタクリル酸の利用が好ましい。
【0012】
また、本発明にあっては、上記モノマー由来の分子を、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性モノマーによって架橋された構造を付与したものが好ましい。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性モノマーの例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンが挙げられる。
【0013】
さらに、上記モノマーに加えて、アクリルアミド類または水酸基含有モノマーを添加することによって、さらに印刷安定性を向上させることが出来る。アクリルアミド類の具体例としてはアクリルアミドおよびN,N’−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。また、水酸基含有モノマーの具体例としては2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、および2−ヒドロキシプロピルメタクリレートが挙げられ、これらを一種または二種以上の混合物として使用することができる。
【0014】
b)乳化剤、重合開始剤、その他の成分
乳化剤の具体例としては、アルキルアリルスルホン酸塩または硫酸塩、アルキルスルホン酸塩または硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ソルビタンモノラウリン酸エステル等のノニオン性界面活性剤などが挙げられる。また、本発明において、「乳化剤」は保護コロイドをも包含するものである。保護コロイドの具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、トラガントガム、ゼラチン、等が挙げられる。
【0015】
重合開始剤としては、過硫酸カリウムまたは過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。その他の成分としては、重合調製剤、連鎖移動剤、分子量調整剤などが挙げられる。
【0016】
c)乳化重合および反応条件
ポリマー微粒子は、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤と、その他の任意成分を混合し乳化重合反応させて製造することができる。これら成分の添加量は、適宜定めることができる。乳化重合反応温度は60〜90℃であり、好ましくは70〜80℃程度である。
【0017】
後記するコアシェル構造を有するポリマー微粒子は、公知の手法により、一般的には多段階の乳化重合などによって製造される。例えば、特開平4−76004号公報で開示されている方法によって製造することができる。重合に用いられる不飽和ビニルモノマーの具体例としては、上記したものと同様であってよい。
【0018】
また、上記のコア部へのエポキシ基の導入は、エポキシ基を有する不飽和ビニルモノマーである、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を他の不飽和ビニルモノマーと共重合する方法、あるいは一種以上の不飽和ビニルモノマーを重合してコア粒子を調製する際にエポキシ化合物を同時に添加し複合化させる方法、等が挙げられる。重合の容易さや重合安定性等の点から前者の方法が好ましくは利用される。
【0019】
d)pH調製
本発明にあっては、上記した乳化重合によって得られたポリマーエマルジョンは、一価の無機水酸化物を添加することによって、pH値を中性〜アルカリ性の範囲に調製されてなる。
【0020】
本発明において用いられる一価の無機水酸化物の具体例としては、一価の金属水酸化物であり、好ましくはアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物のなかでも、特に、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、および水酸化カリウム(KOH)からなる群から選択される一種または二種以上の混合物が好ましい。
【0021】
pH値は中性〜アルカリ性の範囲に調製し、好ましくは7〜10程度の範囲内、より好ましくは7〜9程度の範囲内に調整する。従って、一価の無機水酸化物の添加量は、ポリマーエマルジョンが上記したpH値の範囲内になるように添加されてよい。
【0022】
e)製造方法
ポリマーエマルジョンの製造法は、概説すれば以下の通りである。水、乳化剤を仕込み、重合開始剤を添加して、所定温度に調整された攪拌機、環流コンデンサー、滴下装置、温度計等を具備した反応容器に、乳化したモノマーを加えて反応させてポリマーエマルジョンを得る。これに、所望のpHとなるように一価の無機水酸化物を添加する。これによって、本発明によるポリマーエマルジョンが製造される。
【0023】
ポリマーエマルジョン
本発明によって製造されるポリマーエマルジョンは、ポリマー微粒子と水との割合が、1:1〜4程度であり、好ましくは1:1〜3程度の範囲である。なお、本発明の好ましい態様によれば、ポリマー微粒子は親水性部分と疎水性部分とを併せ持つポリマー成分からなるものが好ましい。また、ポリマー微粒子の重量平均分子量は、10,000程度以上である。ポリマー微粒子の平均粒子径は400nm程度以下が好ましく、より好ましくは10〜200nm程度、さらに好ましくは50〜200nm程度である。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、ポリマー微粒子のガラス転移点は30℃程度以下、好ましくは25℃程度以下、より好ましくは20℃程度以下、であることが好ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、ポリマーエマルジョンの最低成膜温度が、30℃程度以下の、好ましくは室温(約25℃)程度以下の、より好ましくは20℃程度以下であることが好ましい。ポリマー微粒子の成膜形成が30℃以下で行うことができれば、印刷された記録媒体を加熱および乾燥することなく、室温以下において印刷面の成膜化が自動的に進行し顔料が記録媒体に強固に定着するので好ましい。ここで、「最低成膜温度」とは、ポリマー微粒子を水に分散させて得られたポリマーエマルジョンをアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。最低成膜温度以下の温度領域では白色粉末状となる。
【0026】
「成膜性」とは、ポリマー微粒子を水に分散させてポリマーエマルジョンの形態としたとき、このポリマーエマルジョンの連続相である水成分を蒸発させていくと、ポリマーの皮膜が形成されることを意味する。このポリマー微粒子が添加されたインク組成物は、水または水性有機溶剤がそのポリマー微粒子の周囲から除去されると、ポリマー皮膜が同様に形成されるという性質が付与される。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、ポリマー微粒子は、その表面にカルボキシル基を有し、さらに二価金属塩と高い凝集性を有するものであることが好ましい。
【0028】
具体的には、ポリマー微粒子は、その微粒子を0.1重量%有するポリマーエマルジョン3容量と、1mol/lの濃度の二価金属塩水溶液1容量とを接触させたとき、波長700nmの光の透過率が初期値の50%となる時間が1×10秒以下(好ましくは1×10秒以下、より好ましくは1×10秒以下)となるような二価金属塩との凝集性を有するものである。ポリマー微粒子は、二価金属イオンと接触すると凝集して浮遊物を生じ溶液の透明度を落とす。この浮遊物の生成量を光の透過率をもって測定する。ここで、二価金属イオンとは、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+が挙げられ、それと塩を形成する陰イオンとしては、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-およびCHCOO-があげられる。このような高い凝集性は、ポリマー微粒子がその表面に比較的多くのカルボキシル基を有することに起因するものと考えられる。上記の様な多量のカルボキシル基をその表面に有するポリマー微粒子を含んでなるインク組成物は、撥水処理されたインクジェット記録用ヘッドのノズルプレートに親和性を有さない。従って、従来、樹脂を含んでなるインク組成物は、インク組成物がノズルプレートを必要以上に濡らし、その結果インク滴の飛行曲がりおよび吐出不良の発生が問題となっていた。しかしながら、本発明によるポリマーエマルジョンを含んでなるインク組成物はこのような問題を有効に防止することができるとの利点を有する。また、比較的多量のカルボキシル基を有するポリマー微粒子の利用は、より良好な耐擦性および耐溶剤性を実現する。さらにまた、このポリマー微粒子表面の高い親水性によって、インク組成物は優れた保存安定性が得られるとの利点も有する。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、ポリマー微粒子を濃度10重量%で水に分散させたポリマーエマルジョンは、四フッ化エチレン樹脂(テフロン:登録商標)板上で、その接触角が70°程度以上、より好ましくは80°程度以上であることが好ましい。さらに、ポリマー微粒子を濃度35重量%で水に分散させたポリマーエマルジョンの表面張力が、40×10−3N/m(40dyne/cm、20℃))程度、好ましくは50×10−3N/m程度以上であることが好ましい。上記の様なポリマー微粒子を利用することによって、インクジェット記録方法において、より飛行曲がりを防止でき、良好な印刷が可能となる。
【0030】
本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマー微粒子は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーに由来する構造を1〜10重量%含んでなり、かつ重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性モノマーによって架橋された構造を有し、架橋性モノマーに由来する構造を0.2〜4重量%含有してなるものであることが好ましい。重合の際に重合可能な二重結合を二つ以上さらに好ましくは三つ以上有する架橋性モノマー類を共重合させて三次元架橋させた架橋性ポリマーの利用により、ノズルプレート表面がインク組成物によりさらに濡れ難くなり、飛行曲がりをより防止でき、吐出安定性をより向上させることが出来る。
【0031】
本発明においては、ポリマー微粒子として単粒子構造のものを利用することができる。一方、本発明においてはコア部とそれを囲むシェル部とからなるコアシェル構造を有するポリマー微粒子を利用することも可能である。本発明において「コアシェル構造」とは、「組成の異なる二種以上のポリマーが粒子中に相分離して存在する形態」を意味する。従って、シェル部がコア部を完全に被覆している形態のみならず、コア部の一部を被覆しているものであってもよい。また、シェル部ポリマーの一部がコア粒子内にドメインなどを形成しているものであってもよい。さらに、コア部とシェル部の中間に、更にもう一層以上、組成の異なる層を含む三層以上の多層構造を持つものであってもよい。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、コア部がエポキシ基を有するポリマーからなり、シェル部がカルボキシル基を有するポリマーから形成されるものであることが好ましい。エポキシ基とカルボキシル基とは互いに反応する性質を有するが、これら二つの基をコア部とシェル部とに分離して存在させる。水または水溶性有機溶媒の減少により、ポリマー微粒子同士が合一し成膜に伴う圧力によって変形する。これによって、コア部のエポキシ基とシェル部のカルボキシル基とが結合して、網目構造を形成する。これにより、より強度の大きな皮膜を形成することが出来るとの利点が得られる。エポキシ基を有する不飽和ビニルモノマーの量は1〜10重量%であることが好ましい。なお、ここで成膜前の一部のエポキシ基とカルボキシル基との反応は、成膜能力が失われていない限り、本発明にあっては許容されるものである。このようなポリマー微粒子内に反応性の官能基を共存させ、硬化剤を添加しなくとも成膜時にそれらの基を反応させ網目構造を形成させる性質を本発明にあっては「自己架橋性」と呼ぶ。
【0033】
インク組成物
本発明におけるインク組成物は、顔料と、ポリマーエマルジョンと、水と、水溶性有機溶剤とを含んでなるものであって、ポリマーエマルジョンが、上記した製造方法によって製造されたポリマーエマルジョンであることを特徴とするものである。本発明によるインク組成物は、インク組成物を用いた記録方法に用いられる。インク組成物を用いた記録方法とは、例えば、インクジェット記録方法、ペン等による筆記具による記録方法、その他各種の印字方法が挙げられる。特に本発明によるインク組成物は、インクジェット記録方法に好ましく利用される。
【0034】
a)ポリマーエマルジョン
ポリマーエマルジョンは、上記した本発明による製造方法によって製造されたポリマーエマルジョンを用いる。ポリマーエマルジョンの添加量は、ポリマーエマルジョンを構成するポリマー微粒子のインク組成物に対する添加量によって適宜定めることができる。よって、ポリマー微粒子の添加量は、インク組成物全量に対して0.1〜30重量%であり、好ましくは5〜30重量%である。
【0035】
b)顔料
本発明におけるインク組成物は着色剤として顔料を用いる。顔料は耐光性、耐水性の面で優れた着色剤である。
【0036】
顔料は特に限定されず、無機顔料および有機顔料のいずれも使用することができる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネスト法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
【0037】
カーボンブラックの具体例としては、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が、コロンビア社製の Raven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700 等が、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、デグッサ社製の Color Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、 Color Black S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Special Black 6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0038】
イエローインクとして利用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ハンザイエロー)、2,3(ハンザイエロー10G)、4,5(ハンザイエロー5G)、6,7,10,11,12,13,14,16,17,24(フラバントロンイエロー),34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108(アントラピリミジンイエロー)、109,110,113,117(銅錯塩顔料)、120,124,128,129,133(キノフタロン)、138,139(イソインドリノン)、147,151,153(ニッケル錯体顔料)、154,167,172,180などを挙げることができる。
【0039】
マゼンタインクとして利用される顔料としては、、C.I.ピグメントレッド1(パラレッド)、2,3(トルイジンレッド)、4,5(lTR Red)、6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38(ピラゾロンレッド)、40,41,42,88(チオインジゴ)、112(ナフトールAS系)、114(ナフトールAS系)、122(ジメチルキナクリドン)、123,144,146,149,150,166,168(アントアントロンオレンジ)、170(ナフトールAS系)、171,175,176,177,178,179(ベリレンマルーン)、185,187,209(ジクロロキナクリドン)、219,224(ベリレン系)、245(ナフトールAS糸)、又は、C.I.ピグメントバイオレット19(キナクリドン)、23(ジオキサジンバイオレット)、32,33,36,38,43,50などを挙げることができる。
【0040】
シアンインクとして利用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー15,15:1,15:2,15:3,16(無金属フタロシアニン)、18(アルカリブルートナー)、25,60(スレンブルー)、65(ビオラントロン)、66(インジゴ)等を挙げることができる。
【0041】
マゼンタ,シアン又はイエローインク以外のカラーインクに用いる有機顔料として、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36,37;C.I.ピグメントブラウン3,5,25,26;あるいはC.I.ピグメントオレンジ1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。
【0042】
顔料の添加量はインク組成物全量に対して0.1〜25重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜15重量%程度である。また、顔料の粒径は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.1μm以下である。
【0043】
表面処理顔料
本発明の好ましい態様の一つとしては、顔料は、分散剤なしに水に分散可能なものを利用することが好ましい。そのような顔料は、その表面に、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、またはスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩が結合するような表面処理により、分散剤なしに水に分散可能とされたものが挙げられる。具体的には、例えば、真空プラズマなどの物理的処理や化学的処理(例えば、次亜塩素酸、スルホン酸などによる酸化処理)により、官能基または官能基を含んだ分子をカーボンブラックの表面にグラフトさせることによって得ることができる。本発明において、一つのカーボンブラック粒子にグラフトされる官能基は一種または二種以上であってもよい。グラフトされる官能基の種類およびその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、およびインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0044】
本発明において好ましく用いられる上記顔料は、例えば特開平8−3498号公報記載の方法によって得ることができる。この公報記載の方法によって処理されたカーボンブラックは、その表面活性水素含有量が1.5〜2.5mmol/gと高い値を示す。その結果、水に極めてよく分散する。また、上記顔料として市販品を利用することも可能であり、好ましい例としてはオリエント化学工業株式会社製のマイクロジェットCW1または2が挙げられる。
【0045】
本発明によるさらに好ましい態様によれば、親水性基を表面に有するように処理されたものが好ましい。親水性基を表面に有する顔料は、顔料粒子の表面を親水性基付与剤によって処理されたものである。親水性基を表面に有する顔料粒子を構成する顔料は、親水性基付与剤に溶解しない顔料であれば特に限定されず、上記した顔料であってよく、好ましくはカーボンブラックと有機顔料である。
【0046】
スルホン化処理
スルホン化処理は、親水性基付与剤としてスルホン化剤を利用して、顔料粒子の表面にスルホン酸基(−SO2OH)および/またはスルフィン酸基(−RSO2H:RはC1〜C12のアルキル基、または、フェニル基およびその誘導体)を付与する処理をいう。
【0047】
スルホン化剤としては、硫黄を含有する処理剤が好適には挙げられる。そのような処理剤の具体例としては、硫酸,発煙硫酸,三酸化硫黄,クロロ硫酸,フルオロ硫酸,アミド硫酸,スルホン化ピリジン塩,スルファミン酸が挙げられ、中でも、三酸化硫黄,スルホン化ピリジン塩またはスルファミン酸等のスルホン化剤が好適には挙げられ、これらは一種または二種以上の混合物として用いることができる。
【0048】
また、三酸化硫黄は、それと錯体を形成することのできる溶剤、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミドジオキサン,ピリジン,トリエチルアミン,トリメチルアミンのような塩基性溶剤、ニトロメタン、アセトニトリル等と、後述する溶剤との混合溶媒により、錯体化させて利用することが有用である。特に、三酸化硫黄を第三アミンにより錯体化したものを、顔料粒子の表面処理(この場合はスルホン化)に利用することが好ましい。三酸化硫黄を錯体化したものは、三酸化硫黄の酸としての反応を抑制することができ、その結果、顔料自身を分解または変質さることなくその表面を処理することができる。
【0049】
また、スルホン化剤として、硫酸や発煙硫酸,クロロ硫酸、フルオロ硫酸などを単体で使用する場合には、顔料粒子が溶解しないように、その反応を抑制する必要がある。その抑制手段としては、後述する溶剤の種類や使用量を調整することが挙げられる。
【0050】
反応に用いられる溶剤は、スルホン化剤と反応せず、また、顔料を溶解させないものが好ましく、その具体例としては、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、キノリン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、液体二酸化硫黄、二硫化炭素、トリクロロフルオロメタンなどが挙げられる。
【0051】
顔料表面のスルホン化処理の具体的な方法の一例としては、顔料粒子を溶剤に分散させ、この分散液に硫黄を含む処理剤を添加し、60〜200℃に加熱、3〜10時間攪拌して行うことが挙げられる。具体的には、顔料粒子と溶剤を、予めハイスピードミキサー等で高速せん断分散し、あるいはビーズミルやジェットミル等で衝撃分散し、スラリー状(分散液)とする。その後、穏やかな攪拌に移行した後、硫黄を含む処理剤を添加し、親水性基を顔料粒子の表面に導入させる。
この後加熱処理し、顔料粒子のスラリーから、溶剤および残留する硫黄を含む処理剤を除去する。この除去は、水洗,限外濾過,逆浸透等の方法、遠心分離,濾過等を繰り返して行うことによってなされる。
【0052】
本発明による好ましい態様によれば、前記スルホン化処理により顔料表面に付与されたスルホン酸基および/またはスルフィン酸基をアルカリ化合物でさらにアルカリ処理することが好ましい。この処理によって、顔料表面に、親水性基として、スルホン酸アニオン基(−SO3-)及び/又はスルフィン酸アニオン基(−RSO2:RはC1〜C12のアルキル基又はフェニル基およびその誘導体)を付与することができる。
【0053】
アルカリ化合物としては、それ自体がイオン化した場合のカチオンが、アルカリ金属イオンまたは化学式R1234+(上記式中、R1,R2,R3およびR4は同一でも異なってもよく、水素原子,アルキル基,ヒドロキシアルキル基またはハロゲン化アルキル基を示す)で表される一価のイオンとなるものが挙げられる。その好ましい具体例としては、リチウムイオン(Li+),カリウムイオン(K+),ナトリウムイオン(Na+),アンモニウムイオン(NH4+)、および、トリエタノールアミンカチオン等のアルカノールアミンカチオンとなるものが挙げられる。
【0054】
アルカリ化合物としては、それ自体がイオン化した場合のアニオンが、水酸化アニオンが好ましくは挙げられr、その具体例としては、アンモニア,アルカノールアミン(モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,N,N−ブチルエタノールアミン,トリエタノールアミン,プロパノールアミン,アミノメチルプロパノール,2−アミノイソプロパノール等)、一価のアルカリ金属の水酸化物(LiOH,NaOH,KOH)が挙げられる。
【0055】
アルカリ化合物の添加量は、前記した顔料粒子の表面を処理して付与した親水性基の中和当量以上が好ましい。さらに、アルカリ化合物がアンモニア、アルカノールアミン等の揮発性のものである場合、中和当量の1.5倍以上の添加が好ましい。
【0056】
アルカリ化処理は、アルカリ化合物中に前記した親水性基が表面に化学結合された顔料粒子を入れ、ペイントシェーカー等で振とうすることにより行うことができる。
【0057】
カルボキシル化処理
カルボキシル化処理は、親水性基付与剤としてカルボキシル化剤を利用して、顔料粒子の表面に、カルボン酸基(−COOH)を付与する処理をいう。カルボキシル化剤の具体例としては、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウム等が挙げられ、これらの処理剤は顔料粒子の表面の一部の結合、例えばC=C、C−Cを切断し酸化してカルボキシル化処理を行う。
【0058】
一方、この化学処理のほかにプラズマ処理等のような物理的酸化によりカルボン酸基を顔料表面に付与する処理方法も、本発明は包含する。上記カルボキシル化処理にあっては、量的には少ないがキノン基等が導入される場合もある。
【0059】
顔料表面のカルボキシル化処理の具体的な方法の一例としては以下のものが挙げられる。顔料粒子を水性媒体中に予めハイスピードミキサー等で高速せん断分散し、あるいはビーズミルやジェットミル等で衝撃分散し、スラリー状(分散液)とする。次に、有効ハロゲン濃度で10〜30%の次亜塩素酸ナトリウム(カルボキシル化剤)を適量混合し、60〜80℃に加熱、5〜10時間程度、好ましくは10時間以上攪拌することにより行う。この後、表面処理された顔料粒子のスラリーから、溶剤および残留するカルボキシル化剤を加熱処理することで取り除く。また、必要によっては水洗,限外濾過,逆浸透等の方法、遠心分離,濾過等を繰り返して行って所望の表面処理顔料をうる。
【0060】
本発明による好ましい態様によれば、前記カルボキシル化処理により顔料表面に付与されたカルボン酸基をアルカリ化合物でさらにアルカリ処理することが好ましい。この処理によって、顔料表面に、親水性基として、カルボン酸アニオン基(−COO-)を付与することができる。この場合、アルカリ化合物の種類およびアルカリ化合物による処理方法は前記したのと同様であってよい。
【0061】
顔料の表面を処理して、親水性基を表面に有する顔料粒子は、その平均粒径を150nm以下とすることができる。好ましくは、その平均粒径を20nm〜80nmとすることができる。
【0062】
分散剤
本発明の好ましい別の態様によれば、顔料(前記した表面処理顔料も含む)は分散剤で水性媒体中に分散させた顔料分散液としてインクに添加することが好ましい。顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤の具体例としては、例えば高分子分散剤、界面活性剤が挙げられる。
【0063】
高分子分散剤の好ましい例としては天然高分子が挙げられ、その具体例としては、にかわ、ゼラチン、ガゼイン、アルブミンなどのタンパク質類;アラビアゴム、トラガントゴムなどの天然ゴム類;サボニンなどのグルコシド類;アルギン酸およびアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体などが挙げられる。さらに、高分子分散剤の好ましい例として合成高分子が挙げられ、その具体例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂;スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂;スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、および酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体およびそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーとの共重合体、および疎水性基と親水性基を分子構造中に併せ持ったモノマーからなる重合体が好ましい。上記の塩としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの一価の無機水酸化物、ジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどとの塩が挙げられる。これらの共重合体は、重量平均分子量が3,000〜30,000であるのが好ましく、より好ましくは5,000〜15,000である。
【0064】
また、分散剤として好ましい界面活性剤の具体例としては、アルカンスルホン酸塩、a−オレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、アルキルナフタリンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン塩、ジアルキルスルホこはく酸塩等のスルホン酸型;アルキル硫酸エイテル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩などの硫酸エステル型;脂肪酸塩(石鹸)、アルキルザルコシン塩などのカルボン酸型;アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩などのリン酸エステル型;等で代表されるアニオン性界面活性剤、また、アルキルピリジウム塩などのピリジウム型;アルキルアミノ酸塩などのアミノ酸型、アルキルジメチルベタインなどのベタイン型;などで代表される両性イオン性界面活性剤、さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどのエチレンオキシド付加型;グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステなどのポリオールエステル型;多価アルコールアルキルエーテルななどのポリオールエーテル型;アルカノールアミン脂肪酸アミドなどのアルカノールアミド型;などで代表される非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0065】
これらの分散剤の添加量は、顔料に対して1〜50重量%の範囲が好ましく、より好ましくは5〜30重量%の範囲である。
【0066】
c)水溶性有機溶媒
本発明におけるインク組成物は水、水溶性有機溶媒を主成分として用いる。
【0067】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に使用するインク組成物は、水溶性有機溶媒として高沸点有機溶媒からなる湿潤剤を含んでなることが好ましい。高沸点有機溶媒の好ましい例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミンなどがあげられる。
【0068】
この中でも沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒の利用が好ましい。沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒の使用はインク組成物の保水性と湿潤性をもたらす。この結果、インク組成物を長期間保管しても顔料の凝集や粘度の上昇がなく、優れた保存安定性を実現できる。さらに、開放状態(室温で空気に触れている状態)で放置しても流動性と再分散性を長時間維持するインク組成物が実現できる。さらに、インクジェット記録方法においては、印刷中もしくは印刷中断後の再起動時にノズルの目詰まりが生じることもなく、高い吐出安定性が得られる。
【0069】
沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒の例としては、エチレングリコール(沸点:197℃;以下括弧内は沸点を示す)、プロピレングリコール(187℃)、ジエチレングリコール(245℃)、ペンタメチレングリコール(242℃)、トリメチレングリコール(214℃)、2−ブテン−1,4−ジオール(235℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(243℃)、2−メチル−2,4ーペンタンジオール(197℃)、N−メチル−2−ピロリドン(202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(257〜260℃)、2−ピロリドン(245℃)、グリセリン(290℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(243℃)、ジプロピレングリコールモノエチルグリコール(198℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(190℃)、ジプロピレングリコール(232℃)、トリエチレングリコルモノメチルエーテル(249℃)、テトラエチレングリコール(327℃)、トリエチレングリコール(288℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(230℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(202℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)が挙げられる。沸点が200℃以上であるものが好ましい。これらは一種または二種以上混合して使用することができる。
【0070】
これら高沸点有機溶媒の添加量は、インク組成物全量に対して好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜40重量%が好ましい。
【0071】
本発明において、低沸点有機溶剤を含むこともできる。その好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノールなどが挙げられる。特に一価アルコールは好ましい低沸点有機溶媒の添加量は、インク組成物に対して0.5〜10重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜6重量%の範囲である。
【0072】
d)浸透剤または湿潤剤
浸透剤
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は、浸透剤をさらに含んでなるものが好ましい。前記した水溶性有機溶媒のある種のものは浸透剤として機能しうるが、本発明にあっては、以下のものが好ましくは浸透剤として利用される。
【0073】
浸透剤の具体例としては、1,2−アルキルジオール、グリコールエーテル、アセチレングリコール系界面活性剤、およびアセチレンアルコール系界面活性剤が好ましく挙げられ、これらは一種または二種以上の混合物であってもよい。
【0074】
1,2−アルキルジオールの好ましい具体例としては、1,2−ヘキサンジオールまたは1,2−ペンタンジオールが挙げられる。
【0075】
グリコールエーテルの具体例としては、ジアルキレングリコールモノブチルエーテル、ジアルキレングリコールモノペンチルエーテル、ジアルキレングリコールモノヘキシルエーテル、トリアルキレングリコールモノブチルエーテル、トリアルキレングリコールモノペンチルエーテル、トリアルキレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラアルキレングリコールモノブチルエーテル、テトラアルキレングリコールモノペンチルエーテル、テトラアルキレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。さらに好ましい具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノペンチルエーテル、テトラエチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。
【0076】
1,2−アルキレングリコールまたはグリコールエーテルの添加量は、インク組成物の全重量に対して好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。
【0077】
アセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の添加は、インク組成物の記録媒体への浸透性を高くでき、種々の記録媒体においてにじみの少ない印刷が期待できる。アセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、下記の式(I)で表わされる化合物が挙げられる。
【化1】

[上記式中、
0≦m+n≦50、
、R、R、およびRは独立してアルキル基(好ましくは炭素数6以下のアルキル基)である]
【0078】
上記の式(I)で表される化合物の中で特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられる。上記の式(I)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤として市販品を利用することも可能であり、その具体例としてはサーフィノール104、82、465、485、またはTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上 日信化学社製 商品名)が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の添加量はインク組成物全量に対して0.01〜10重量%程度であり、より好ましくは0.1〜5.0重量%程度であり、さらに好ましくは0.5〜2.0重量%程度である。
【0079】
本発明にあっては、浸透剤として、他の界面活性剤を利用することができる。
そのような界面活性剤の具体例としては、アニオン性界面活性剤(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)、両性界面活性剤(例えば、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン)等が挙げられる。これらは一種または二種以上を併用することができる。
【0080】
これら界面活性剤の添加量はインク組成物に対して0.01〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.1〜5重量%の範囲、さらに好ましくは0.5〜2重量%の範囲である。
【0081】
湿潤剤
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は、湿潤剤をさらに含んでなるものが好ましい。前記した水溶性有機溶媒のある種のものは湿潤剤として機能しうるものであるが、本発明にあっては、以下のものが湿潤剤として好ましくは利用される。
【0082】
本発明にあっては、湿潤剤は、180℃以上の沸点を有し、且つ、吸水性と保水性を有する水溶性有機溶媒からなるものが好ましくは利用される。本発明において、特に好ましい湿潤剤は、グリセリン(沸点:290℃)、トリメチレングリコール(沸点:210℃)である。湿潤剤の添加量はインクジェット記録用インク組成物の全重量に対して、好ましくは5〜30重量%の範囲であり、より好ましくは10〜20重量%の範囲である。
【0083】
本発明にあっては、湿潤剤として、三級アミンを利用することもできる。三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン等が挙げられる。これらは一種または二種以上混合して使用されてよい。これら三級アミンの添加量は、インク組成物全量に対して0.1〜10重量%範囲程度であり、より好ましくは、0.5〜5重量%範囲程度である。
【0084】
本発明の好ましい別の態様によれば、インク組成物は固体湿潤剤を含んでなるものが好ましい。本発明において、固体湿潤剤は、保水機能を有し、かつ、常温(25℃)で固体の水溶性物質を言う。本発明において、特に好ましい湿潤剤の具体例としては、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールである。糖の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)および多糖類があげられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH (ここで、n=2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖など)があげられる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(分子量350000)として市販されているものを使用することができる。これらの固体湿潤剤は一種または二種以上を混合して使用することができる。二種以上混合して使用する場合の好ましい組み合わせは、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールからなる群から選択される二種以上の組み合わせが好ましい。
【0085】
固体湿潤剤の添加量は、インク組成物の全重量に対して好ましくは3〜20重量%、さらに好ましくは3〜10重量%である。
【0086】
e)pH調整剤
本発明によるインク組成物は、pH調整剤をさらに含んでなるものであってもよい。pH調整剤はインク組成物の粘度等の物性を長期間安定に保つ目的で添加される。pH調整剤の具体例としては、一価の無機水酸化物であり、より好ましくは、アルキル金属の水酸化物であり、その中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましい。pH調整剤の添加量は、インク組成物のpH値が7.5〜8.5の範囲となるように適宜決定されてよい。
【0087】
f)その他の成分
本発明によるインク組成物は、必要に応じて、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、ノズルの目詰まり防止剤等の添加剤をさらに含んでなるものであってもよい。防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などから選択することができる。
【0088】
インク組成物の製造
本発明によるインク組成物は、前記成分を適切な方法で分散、混合することによって製造することができる。適切な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)により、顔料を均一に分散させた顔料分散液を調製する。次に、この分散液に、ポリマーエマルジョン、水溶性有機溶媒、浸透剤、湿潤剤、pH調整剤、防腐剤、防かび剤等を加えて充分攪拌してインク溶液を調製する。充分に攪拌した後に、目詰まりの原因となる粗大粒子および異物を除去するためにろ過または遠心分離を行って目的のインク組成物が製造される。
【0089】
記録媒体
本発明において記録媒体は、紙などのインク組成物に対して吸収性を有するもの、また、インク受理層を有するものが好適には用いられる。さらに、印刷後に加熱工程を設ける場合には、インク組成物に対して実質的に非吸収性の記録媒体も用いられる。記録媒体の具体例としては、普通紙、再生紙、上質紙、インクジェット記録用専用紙などの記録紙;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリサルフォン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル等を基材とするプラスチックシート;黄銅、鉄、アルミニウム、SUS、銅等の金属表面または非金属の基材に蒸着等の手法により金属コーティング処理をした記録媒体;紙を基材として撥水処理などがなされた記録媒体;布等の繊維表面に撥水処理等がなされた記録媒体;無機質の材料を高温で焼成した、いわゆるセラミックス材料からなる記録媒体;などが挙げられる。
【実施例】
【0090】
本発明を以下の実施例によって説明するが、本発明は本実施例の内容に限定されるものではない。
【0091】
ポリマーエマルジョンの調製A
ポリマー微粒子を分散粒子とするポリマーエマルジョンを下記の方法によって調製した。また、得られたポリマーエマルジョンの諸特性を以下の方法によって測定した。
【0092】
調製
攪拌機、温度計、還流冷却器、および滴下漏斗を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、過硫酸カリウム0.5重量部と純水80重量部とを加えて溶解し攪拌しながら、内温を70℃まで加熱した。一方、下記の表A1および表A2(表A1および表A2中、数値の単位は重量部を表す)に示した各成分を混合し攪拌して乳化物を調製した。この乳化物を滴下漏斗を用いて上記フラスコ内に3時間かけて徐々に滴下し乳化重合反応を行った。得られたポリマーエマルジョンの一部にをKOH、NaOH、およびLiOH(例)を添加して、また残りのものにアンモニア(比較例)を添加して、固型分40重量%、pH8に調製したポリマーエマルジョンの形態とした。得らたポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が20℃程度で、その平均粒子経が150nmであった。
【0093】
最低成膜温度の測定A
最低成膜温度測定装置を用いて測定した。アルミニウム製の試料板上の温度勾配が平衡に達したところで、ポリマーエマルジョンを薄く延ばして乾燥させた。
乾燥終了後に試料板上を観察したとき、最低成膜温度以上の温度領域では透明な連続フィルムが形成されるが、最低成膜温度以下の温度領域では白色粉末状となる。この境界の温度を最低成膜温度として測定した。
【0094】
接触角の測定A
接触角測定装置を用いて25℃で測定した。ポリマー微粒子が10重量%となるように調製したポリマーエマルジョンの一滴を、表面が平滑な四フッ化エチレン樹脂(テフロン:登録商標)板上に滴下し、その時の接触角を顕微鏡で読み取る方法で測定を行った。
【0095】
表面張力の測定A
ポリマー微粒子が35重量%となるように調製したポリマーエマルジョンを、25℃において、全自動平衡式エレクトロ表面張力ディジオマチックESB−IV型(協和科学株式会社製)を使用して測定を行なった。
【0096】
二価金属イオンとの反応における半減期の測定A
ポリマー微粒子が0.1重量%となるように調製したポリマーエマルジョン3mlを、分光光度計用セルに気泡の入らないように入れ、分光光度計の試料室にセットした。セル内に1mol/lの塩化マグネシウム水溶液1mlを滴下すると同時に波長700nmでの透過率の時間変化を測定した。初期の透過率に対する所定時間の透過率が50%となる時間を求めた。
【0097】
平均粒子径の測定A
平均粒径は、リーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて測定した。
【0098】
インク組成物の調製A
下記の表A3〜表A6(表A3〜表A6中、数値の単位は重量%を表す)に示した各成分を次の操作を行うことによってインク組成物を調製した。先ず、顔料と分散剤と水とを混合し、サンドミル(安川製作所製:充填剤としてジルコニア(直径1mm、充填率60%))で2時間分散させた。その後、遠心分離機で粗粒分を除去して顔料の水系分散液を調製した。一方、ポリマーエマルジョンおよびその他の成分を混合し常温で20分間撹拌して攪拌物を得た。この攪拌物に上記顔料の水系分散液を徐々に滴下し、さらに20分間撹拌した。これを、5μmのメンブランフィルターでろ過してインク組成物を得た。
【0099】
評価試験A
ポリマーエマルジョンの評価試験A
上記で調製したポリマーエマルジョンを50mlをポリプロピレン容器に室温(約20℃)で入れた。その後、60℃で4週間放置した後、ポリマーエマルジョンのpHおよび粘性を調べて、下記の基準に従って評価した。その結果は、下記表1または表2に示した通りであった。表A1および表A2において、MFTはポリマーエマルジョンの最低成膜温度を示し、γは表面張力を示す。
評価A:初期値と比較して、pH、粘度に変化がなかった。
評価B:初期値と比較して、pHが1割低下して、粘度が1割上昇した。
評価C:初期値と比較して、pHが2割以上低下して、粘度が2割以上昇した。
【0100】
インク組成物の評価試験A
上記のインク組成物について、下記のインク評価試験を行った。なお、評価A2およびA3における印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタMJ−700C(セイコーエプソン株式会社製)によって、以下の各紙に文字の印刷を行った。インクの吐出量は0.07μg/dot、密度は360dpiであった。用いた印刷試験用紙は以下の通りであった。各評価の結果は、下記表A3〜表A6に示した通りであった。
Xerox P紙(ゼロックス株式会社)
Xerox 4024紙(ゼロックス株式会社)
Xerox R紙(ゼロックス株式会社:再生紙)
やまゆり紙(本州製紙株式会社:再生紙)
【0101】
評価A1:保存安定性
上記で調製したインク組成物を50mlをポリプロピレン容器に室温(約20℃)で入れた。その後、60℃で4週間放置した後、ポリマーエマルジョンのpHおよび粘性を調べて、下記の基準に従って評価した。
評価A:初期値と比較して、pH、粘度に変化がなかった。
評価B:初期値と比較して、pHが1割低下して、粘度が1割上昇した。
評価C:初期値と比較して、pHが2割以上低下して、粘度が2割以上昇した。
【0102】
評価A2:目詰まり信頼性
プリンタにインク組成物を充填し、10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印刷品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べて、下記の基準に従って評価した。
評価A:0〜2回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価B:3〜5回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価C:6回以上の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られなかった。
【0103】
評価A3:吐出安定性
プリンタにインク組成物を充填し、英数文字を連続印刷して、ドット抜けおよびインクの飛び散りを観察する。ドット抜けおよびインクの飛び散りが発生する記録紙の枚数を調べて、下記の基準で評価した。
評価A:1,000枚未満であった。
評価B:1,000以上5,000枚以内であった。
評価C:5,000枚超過であった。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【0110】
ポリマーエマルジョンの調製B
ポリマー微粒子を分散粒子とする水性エマルジョンを下記の方法によって調製した。また、得られた水性エマルジョンの特性を以下の方法によって測定した。
【0111】
最低成膜温度の測定B
最低成膜温度測定装置を用いて測定した。アルミニウム製の試料板上の温度勾配が平衡に達したところで、水性エマルジョンを薄く延ばして乾燥させた。乾燥終了後に試料板上を観察したとき、最低成膜温度以上の温度領域では透明な連続フィルムが形成されるが、最低成膜温度以下の温度領域では白色粉末状となる。
この境界の温度を最低成膜温度として測定した。
【0112】
接触角の測定B
接触角測定装置を用いて25℃で測定した。10重量%に調製した水性エマルジョン一滴を表面が平滑な四フッ化エチレン樹脂(テフロン:登録商標)板上に滴下し、その時の接触角を顕微鏡で読み取る方法で測定を行った。
【0113】
表面張力の測定B
水性エマルジョンの固形分を35重量%に調製し、25℃において、全自動平衡式エレクトロ表面張力ディジオマチックESB−IV型(協和科学株式会社製)を使用して、測定を行なった。
【0114】
二価金属イオンとの反応における半減期の測定B
ポリマー微粒子が0.1重量%となるように調製した水性エマルジョンの3mlを分光光度計用セルに気泡の入らないように入れ、分光光度計の試料室にセットした。セル内に1mol/lの塩化マグネシウム水溶液1mlを滴下すると同時に波長700nmでの透過率の時間変化を測定した。初期の透過率に対する所定時間の透過率が50%となる時間を求めた。
【0115】
平均粒子径の測定B
平均粒径は、リーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて測定した。
【0116】
ポリマーエマルジョンB1
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸30g、エチレングリコールジメタクリレート2gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を前記反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子B1のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化カリウムとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が22℃、表面張力が53×10-3N/m(53dyne/cm)、接触角が83°、平均粒子径が100nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が150秒であった。
【0117】
ポリマーエマルジョンB2
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸30g、エチレングリコールジメタクリレート40gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を、反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウムを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B2の水性エマルジョンは、最低成膜温度が22℃、表面張力が57×10-3N/m(57dyne/cm)、接触角が95°、平均粒子径が102nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が90秒であった。
【0118】
ポリマーエマルジョンB3
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸30g、エチレングリコールジメタクリレート10gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウムを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B3のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が22℃、表面張力が54×10-3N/m(54dyne/cm)、接触角が85°、平均粒子径が101nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が134秒であった。
【0119】
ポリマーエマルジョンB4
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し溶解した。予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸30g、およびテトラエチレングリコールジメタクリレート10gを攪拌下に加えて乳化物を調製した、反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウムを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が22℃、表面張力51×10-3N/m(51dyne/cm)、接触角80°、平均粒子径190nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が3860秒であった。
【0120】
ポリマーエマルジョンB5
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gを仕込み、素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。予めイオン交換水70g、ラウリル硫酸ナトリウム1.0gにスチレン53g、ブチルアクリレート59g、グリシジルメタクリレート48g、さらに分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン0.16gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に1時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間の熟成を行った。続いて、予めイオン交換水70g、ラウリル硫酸ナトリウム1.0g、アクリルアミド1gにスチレン79g、ブチルアクリレート80g、およびt−ドデシルメルカプタン0.16gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で1時間の熟成を行った。続いて、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2gをイオン交換水20gに溶解した水溶液を反応容器内に添加した。さらに予めイオン交換水300g、ラウリル硫酸ナトリウム2g、アクリルアミド16gにスチレン298g、ブチルアクリレート297g、メタクリル酸29g、エチレングリコールジメタクリレート10g、およびt−ドデシルメルカプタン0.65gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で時間の熟成を行った。得られたポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化カリウムを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B5のポリマーエマルジョンはコアシェル構造を有した平均粒子径90nmのポリマー微粒子からなり、最低成膜温度が24℃、表面張力が58×10-3N/m(58dyne/cm)、接触角が108°、平均粒子径が90nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が10秒であった。
【0121】
ポリマーエマルジョンB6
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。
予めイオン交換水70g、ラウリル硫酸ナトリウム0.5gにスチレン53g、ブチルアクリレート59g、グリシジルメタクリレート48g、さらに分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン0.16gを攪拌して乳化物を調製した。
この乳化物を反応容器内に連続的に1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で1時間の熟成を行った。続いて、予めイオン交換水70g、ラウリル硫酸ナトリウム0.5g、アクリルアミド1gにスチレン79g、ブチルアクリレート80g、およびt−ドデシルメルカプタン0.16gを攪拌して乳化物を調製した。この乳化物を、反応容器内に連続的に1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で1時間の熟成を行った。続いて、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2gをイオン交換水20gに溶解した水溶液を反応容器内に添加した。さらに予めイオン交換水300g、ラウリル硫酸ナトリウム2g、アクリルアミド16gにスチレン298g、ブチルアクリレート297g、メタクリル酸29g、テトラエチレングリコールジメタクリレート10g、およびt−ドデシルメルカプタン0.65gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後同温度で、3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化カリウムとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B6のポリマーエマルジョンはポリマー微粒子がコアシェル構造を有したものであった。ポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が24℃、表面張力が55×10-3N/m(55dyne/cm)、接触角が92°、平均粒子径が180nm、Mg2+イオンとの反応における半減期が3620秒であった。
【0122】
ポリマーエマルジョンB7(比較例)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水400gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを添加し、溶解した。予めイオン交換水300g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにブチルアクリレート470g、メタクリル酸30gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニアとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B7のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が5℃、平均粒子径が180nmであった。
【0123】
ポリマーエマルジョンB8(比較例)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解した。予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸30gおよびエチレングリコールジメタクリレート60gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子B8のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニアとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。
【0124】
ポリマーエマルジョンB9(比較例)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにスチレン435g、ブチルアクリレート475g、メタクリル酸3gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニアとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B9のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が12℃、表面張力が37×10-3N/m(37dyne/cm)、接触角が60°、平均粒子径が150nmであった。
【0125】
ポリマーエマルジョンB10(比較例)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水300gおよびラウリル硫酸ナトリウム4gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌し70℃まで昇温し、内温を70℃に保持して、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを添加し、溶解後、予めイオン交換水100g、ラウリル硫酸ナトリウム0.3gにアクリルアミド2gにスチレン260g、ブチルアクリレート47.5g、メタクリル酸2gを攪拌下に加えて乳化物を調製した。この乳化物を反応容器内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られたポリマー微粒子のポリマーエマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニアとを添加して固形分35重量%、pH8に調製した。得られたポリマー微粒子B10のポリマーエマルジョンは、最低成膜温度が75℃、平均粒子径が120nmであった。
【0126】
顔料の表面に親水性基を付与する調製B
ブラック顔料B1
市販の酸性カーボンブラック「MA−100(三菱化学社製)」300gを水1000mlに良く混合した後、これに次亜塩素酸ソーダ(有効塩素濃度12%)450gを滴下して、80℃で15時間攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2で濾過しながら、繰り返しイオン交換水で水洗した。水洗完了時の目安としては、濾紙を通過したイオン交換水に硝酸銀0.1規定水溶液を加えた場合に白濁がなくなるまで行った。この顔料スラリーを水2500mlに再分散し、電導度0.2マイクロシーメンス以下になるまで逆浸透膜で脱塩を行い、さらに顔料濃度15重量%程度になるよう濃縮した。得られた表面処理顔料分散液を酸処理(塩酸水で酸性化)、濃縮、乾燥及び微粉砕して、粉末とした。この表面処理カーボンブラックの粉末について、後記の方法で表面活性水素含有量を測定した。その結果は、2.8mmol/gであった。
【0127】
ブラック顔料B2
カーボンブラック(三菱化学社製「MA−7」)15部をスルホラン200部中に混合し、アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)で、ビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で1時間分散し、分散した顔料ペーストと溶剤の混合液をエバポレーターに移し、30mmHg以下に減圧しながら、120℃に加熱して、系内に含まれる水分をできるだけ留去した後、150℃に温度制御した。次いで、三酸化硫黄25部を加えて6時間反応させ、反応終了後、過剰なスルホランで数回洗浄した後、水中に注ぎ濾過し、ブラック顔料を得た。得られたブラック顔料の親水性基の導入量は、顔料1g当たり120×10-6当量であった。
【0128】
シアン顔料B
フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20部をキノリン500部と混合し、アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン社製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散し、分散した顔料ペーストと溶剤の混合液をエバポレーターに移し、30mmHg以下に減圧しながら120℃に加熱し、系内に含まれる水分をできるだけ留去した後、160℃に温度制御した。次いで、スルホン化ピリジン錯体20部を加えて8時間反応させ、反応終了後に過剰なキノリンで数回洗浄した後に水中に注ぎ、濾過することで、親水性基を表面に有するシアン顔料を得た。得られたシアン顔料の親水性基の導入量は、顔料1g当たり40×10-6当量であった。
【0129】
イエロー顔料B
前記シアン顔料Bにおいて、「フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20部」を「イソインドリノン顔料(C.I.ピグメントイエロー110)20部」に代えた以外は、同様な処理方法により、親水性基を表面に有するイエロー顔料を得た。得られたイエロー顔料の親水性基の導入量は、顔料1g当たり45×10-6当量であった。
【0130】
マゼンタ顔料B
前記シアン顔料Bにおいて、「フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20部」を「イソインドリノン顔料(C.I.ピグメントレッド122)20部」に代えた以外は、同様な処理方法により、親水性基を表面に有するマゼンタ顔料を得た。得られたイエロー顔料の親水性基の導入量は、顔料1g当たり60×10-6当量であった。
【0131】
親水性基の導入量の定量B
「顔料粒子の表面における親水性基の導入量」の定量は、以下の方法によって求めた。
【0132】
1)カルボキシル化剤によって親水性基を導入した場合
ツアイゼル法を用い手定量した。ジアゾメタンを適切な溶剤に溶解し、これを滴下して顔料粒子表面の活性水素を全てメチル基に交換した。その後、比重1.7のヨウ化水素酸を加え加熱し、メチル基をヨウ化メチルとして気化させた。このヨウ化メチルの気体を硝酸銀溶液でトラップしヨウ化メチル銀として沈殿させた。このヨウ化銀の重量より元のメチル基の量、即ち活性水素の量を測定した。
【0133】
2)スルホン化剤によって親水性基を導入した場合
スルホン化剤によって表面が処理された顔料粒子を酸素フラスコ燃焼法で処理し、0.3%過酸化水素水溶液に吸収させた。その後、イオンクロマトグラフ法(ダイオネクス社;2000i)で硫酸イオン(2価)を定量し、この値をスルホン酸基に換算して、顔料1g当たりの当量として示した。
【0134】
インク組成物の調製B
表B1に示す組成に基づいて、例B1〜B6のインク組成物および比較例B1〜B6のインク組成物を調製した。インクの調製は、水と表B1の浸透剤、湿潤剤、固体湿潤剤、その他の添加剤を所定量加えて混合溶解し、これを攪拌下の所定量のポリマー微粒子を分散粒子とするポリマーエマルジョンに徐々に加えた。
こうして得られた混合液を、上記で得られた親水性基を表面に有する顔料の分散液に徐々に滴下し、充分に撹拌した。これを、5μmのメンブランフィルターでろ過し、インク組成物とした。なお、表B1中、ポリマー微粒子の添加量は、それを分散粒子として含んでなるポリマーエマルジョンの固形分濃度から算出して行った。
【0135】
【表7】

【0136】
インク組成物の評価試験B
表B1で調製したインク組成物について、下記のインク評価試験を行った。印刷は、インクジェットプリンタPM−980C(セイコーエプソン株式会社製)を用いて行った。印刷試験用紙は、下記のものを使用した。各評価結果は表B2に示した通りであった。
Xerox P紙(ゼロックス株式会社製)
Ricopy 6200紙(リコー株式会社製)
Xerox 4024紙(ゼロックス株式会社製)
Neenah Bond紙(キンバリークラーク社製)
Xerox R紙(ゼロックス株式会社製・再生紙)
やまゆり紙(本州製紙株式会社製・再生紙)
【0137】
評価B1:耐擦(過)性(耐ラインマーカー性)
印刷物を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ社製イエロー水性蛍光ペン ZEBRA PEN2(商標)を用いて、印刷文字を筆圧4.9×105N/m2で擦り、汚れの有無を目視で観察し、その結果を以下の基準で評価した。
評価A:2回擦っても全く汚れが生じなかった。
評価B:1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れの発生する用紙があった。
評価C:1回の擦りで汚れの生じる用紙があった。
【0138】
評価B2:目詰まり信頼性
10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、プリンターを1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印字品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べて、その回数を次の基準で評価した。
評価A:0〜2回であった。
評価B:3〜5回であった。
評価C:6回以上であった。
【0139】
評価B3:吐出安定性
インク組成物を、インクジェットプリンタEM−900C(セイコーエプソン株式会社製)で、スーパーファイン用紙(セイコーエプソン株式会社製)に1mmの罫線パターン(図1参照)を、1000枚ずつ印刷した。下記に示す評価基準によって、記録ヘッドからのインクの吐出安定性を下記に示す基準により評価した。
評価A:1000枚を通じて、罫線の曲がりは発生しなかった。
評価B:1000枚を通じて、時折罫線の曲がりが発生して、正常に罫線を印字させるために、5回未満のクリーニング動作を必要とした。
評価C:1000枚を通じて、頻繁に罫線の曲がりが発生して、正常に罫線を印字させるために、5回以上のクリーニング動作を必要とした。
【0140】
評価B4:印字品質(にじみ)
インク組成物を印刷した印刷物を乾燥し、その後、印刷物の文字におけるにじみを下記の基準で評価した。
評価A:一部の用紙で僅かにひげ状のにじみの発生があったが、その他の用紙は鮮明な印刷画像であった。
評価B:全紙にひげ状のにじみの発生があった。
評価C:文字の輪郭がはっきりしないほどにじみが発生した。
【0141】
評価B5:印刷濃度
インク組成物を、インクジェットプリンタEM−900C(セイコーエプソン株式会社製)で、上質普通紙KA4250NP(セイコーエプソン株式会社製)にベタ印字を行った。印刷物の印字部分の濃度を分光光度計(グレタグマクベス社製、GRETAG SPM−50)を用いて測定して評価し、得られた結果を下記に示す基準により評価した。
評価A:ブラックインクのOD値が1.4以上であり、かつ、カラーインクのOD値が1.2以上であった。
評価B:ブラックインクのOD値が1.3以上1.4未満であり、かつ、カラーインクのOD値が1.15以上1.2未満であった。
評価C:ブラックインクのOD値:1.3未満であり、かつ、カラーインクのOD値:1.15未満であった。
【0142】
評価B6:保存安定性
インク組成物をガラス瓶に50cc入れ密栓して、60℃で2週間放置した。
その後の粘度の変化および異物(沈降物)の有無を調べ、その結果を下記の基準で評価した。
評価A:異物の発生および粘度の変化がない。
評価B:異物の発生はないが、粘度が僅か(1.0cps未満)に変化した。
評価C:異物の発生はないが、粘度が変化した。
評価D:異物が発生した。
【0143】
評価B7:速乾性
インク組成物を、インクジェットプリンタMJ-930C(セイコーエプソン株式会社製)で、Xerox P紙に10mm×10mmの領域に100%dutyでベタ印刷をした、それから10秒後にその印刷部分に新品の同紙を置いて300gの重りを乗せて10秒放置後に取外し、後者の用紙にインクが付着しているかどうかを確認し、その結果を以下の基準で評価した。
評価A:インクの付着が無った。
評価B:インクの付着があった。
【0144】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1は、インクジェット記録用インクの吐出安定性を測定するための罫線パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー微粒子を含んでなるポリマーエマルジョンの製造方法であって、
水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合反応させ、その後に、一価の無機水酸化物を添加して、pH値を中性〜アルカリ性の範囲に調製することを含んでなり、
前記ポリマー微粒子が、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーに由来する構造を1〜10重量%含んでなり、かつ、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性モノマーによって架橋された構造を有し、該架橋性モノマーに由来する構造を0.2〜4重量%含有してなるものである、方法。
【請求項2】
前記pH値が7〜10の範囲となるようにpH値を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pH値が8〜10の範囲となるようにpH値を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
顔料と、ポリマーエマルジョンと、水と、水溶性有機溶剤とを含んでなるインク組成物であって、
前記ポリマーエマルジョンが、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって製造されたものである、インク組成物。
【請求項5】
インク組成物を付着させて記録媒体に印刷を行う記録方法であって、前記インク組成物として請求項1〜4のいずれか一項に記載のものを用いる、記録方法。
【請求項6】
前記記録方法が、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法である、請求項5に記載の記録方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の記録方法によって印刷された、記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−1557(P2011−1557A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198860(P2010−198860)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2006−276436(P2006−276436)の分割
【原出願日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】