説明

ポリマーエマルジョンの製造方法

【課題】重合安定性やポリマーエマルジョンの機械的安定性において十分に満足でき、更にポリマーエマルジョンの粒径が小さく、得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢の良好なポリマーエマルジョンの製造方法、並びに塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(a)一般式(I)で表される化合物と、(b)エタノールに対する溶解度が25℃で5g/100mL以下のアミド化合物および/またはアンモニウム塩とを必須成分とし、(a)成分100質量部に対して(b)成分が0.05〜2質量部含まれる乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、エチレン性二重結合を有するモノマーを乳化重合する工程を含むポリマーエマルジョンの製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーエマルジョンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニル、アクリル酸エステル等のビニル系モノマーの乳化重合によって得られるポリマーエマルジョンは、そのまま塗料、粘着剤、接着剤、紙加工、繊維加工等の分野に、あるいはポリマーが分離されてプラスチック、ゴムとして広く工業的に使用されている。乳化重合における乳化剤として、直鎖アルキル硫酸エステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、及びポリオキシエチレン直鎖アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤が、それぞれ単独に、あるいは陰イオン−非イオン界面活性剤の混合系で使用されている。
【0003】
乳化重合における乳化剤(乳化重合用界面活性剤)に要求される性能は、重合安定性、生成したポリマーエマルジョンの機械的安定性、化学的安定性が良好で、エマルジョンの粒径が小さく、粘度が低く、さらには環境問題が発生しないこと等である。
【0004】
特許文献1には、ポリオキシアルキレンスチレン化又は/及びベンジル化フェニルエーテル硫酸エステル塩の存在下にビニル系単量体を乳化重合する方法が記載されている。しかしこの技術では、重合安定性や機械的安定性において、まだ十分に満足できるものではなかった。また、特許文献2には、CMC(臨界ミセル濃度)の異なる2種類のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる乳化重合用界面活性剤組成物が開示されている。しかしこの技術であっても、重合安定性、得られるポリマーエマルジョンの機械的安定性、該ポリマーエマルジョンを用いて得られる塗膜の耐温水白化性において、まだ十分に満足できるものではなかった。特許文献3には、一分子中に反応性基として二重結合を1つ以上含有する、イオン性反応性活性剤にエタノールに不溶または微溶な窒素化合物を含有する界面活性剤組成物が開示されている。
【0005】
一方、経済性の観点から、一分子中に反応性基として二重結合を含有しない非反応性活性剤が知られているが、該活性剤において重合安定性が良好で、ポリマーエマルジョンの粒径が小さく、さらに塗膜の耐温水白化性が良好なものは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−161403号公報
【特許文献2】特許第3025763号公報
【特許文献3】特開2006−75808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、重合安定性やポリマーエマルジョンの機械的安定性において十分に満足でき、更にポリマーエマルジョンの粒径が小さく、得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢の良好なポリマーエマルジョンの製造方法、および塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)一般式(I)で表される化合物と、
(b)エタノールに対する溶解度が25℃で5g/100mL以下のアミド化合物および/またはアンモニウム塩とを必須成分とし、
(a)成分100質量部に対して(b)成分が0.05〜2質量部含まれる乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、エチレン性二重結合を有するモノマーを乳化重合する工程を含むポリマーエマルジョンの製造方法である。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は、−CH(CH3)−または−CH2−であり、
2は炭素数1〜6のアルキル基または水素原子であり、
1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜100の数であり、n個のA1Oは同一でも異なっていても良い。
mは1〜5の整数であり、
1は1価のカチオンを示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性やポリマーエマルジョンの機械的安定性において十分に満足でき、更にポリマーエマルジョンの粒径が小さく、得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢の良好なポリマーエマルジョンを与えるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<乳化重合用界面活性剤>
[(a)成分]
(a)成分は、前記のように、式(I)で表される。式(I)において、R2は炭素数1〜6のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、およびn−ヘキシル基などの直鎖状のアルキル基、または、i−プロピル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、および1−エチル−1−メチルプロピル基などの分岐鎖状のアルキル基を挙げることができ、製造時の重合安定性を向上させる観点から、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。R2は、製造時の重合安定性を向上させる観点から、炭素数1〜3のアルキル基および水素原子が好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0013】
式(I)において、A1Oは前記のように炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられ、中でも重合安定性の観点から、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基が好ましい。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、ポリマーエマルジョンの化学的安定性を向上させる観点から、1〜100であり、3〜50が好ましく、5〜40がより好ましく、8〜30が更に好ましい。n個のA1Oは同一でも異なっていても良い。n個のA1Oが異なる場合には、ランダム付加、ブロック付加又はこれらの組み合わせのいずれでもよい。n個のA1Oのうち、式(I)化合物を得る際の硫酸化反応率を向上させる観点からn/2個以上のA1Oがオキシエチレン基であることが好ましく、n個全てのA1Oがオキシエチレン基であることがより好ましい。
【0014】
式(I)において、mは1〜5の整数を示し、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性を向上させる観点から1〜3の整数が好ましく、1又は2がより好ましい。M1は1価のカチオンであり、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン;アンモニウム;およびアルカノールアミン等のアミンのカチオンであり、塗膜の耐水性を向上させる観点から、アルカリ金属のカチオンおよびアンモニウムが好ましく、アンモニウムがより好ましい。
【0015】
式(I)で表される化合物としては、例えば、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)スチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)トリスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)スチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)トリスチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)トリベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ベンジル化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジベンジル化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)トリベンジル化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩等が挙げられる。式(I)で表される化合物としては、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性を向上させる観点から、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩が好ましい。
【0016】
式(I)で表される化合物は、公知の方法によって製造できる。例えば、フェノールまたは炭素数1〜6アルキルフェノールに、スチレンまたはベンジルクロライドを、塩化アルミニウム、塩化亜鉛または活性白土等を触媒として、フリーデルクラフツ反応で付加させる。さらにこの付加生成物の水酸基に、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを、無触媒、塩基触媒または酸触媒の存在下に、常圧または加圧下に、1段階または多段階で付加させ、硫酸化剤を使用して硫酸エステル化し、必要により塩基性物質で中和することにより製造することができる。硫酸化剤としては、例えば、スルファミン酸、硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸などが挙げられ、中でも、式(I)化合物を得る際の硫酸化効率を向上させる観点から、およびベンゼン環がスルホン化されることを防止する観点から、スルファミン酸が好ましい。
【0017】
[(b)成分]
(b)成分は、前記のように、25℃におけるエタノールに対する溶解度が、5g/100mL以下(100mLのエタノールに溶解する量が5g以下)のアミド化合物および25℃におけるエタノールに対する溶解度が、5g/100mL以下(100mLのエタノールに溶解する量が5g以下)のアンモニウム塩である。これらのアミド化合物および/またはアンモニウム塩としては、例えば、尿素、スルファミン酸塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアミド化合物およびアンモニウム塩の中でも、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性を向上させる効果の観点から、尿素、スルファミン酸塩、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0018】
【表1】

【0019】
乳化重合用界面活性剤組成物において、(b)成分は、(a)成分100質量部に対して、0.05〜2質量部、好ましくは0.05〜1.0質量部、更に好ましくは0.05〜0.5質量部含まれる。(b)成分の含有量が0.05質量部以上であれば、乳化重合の際に重合安定性を向上させる効果が高く、2質量部以下であれば、ポリマーエマルジョン塗膜の耐水性が良好になる。なお、乳化重合用界面活性剤組成物において、25℃におけるエタノールに対する溶解度が5g/100mL以下のアミド化合物やアンモニウム塩が含まれると、該組成物の存在下で乳化重合する際の重合安定性が良好となり、得られたポリマーエマルジョンを塗工した塗膜の耐水性が良好となる。
【0020】
(b)成分は、任意の方法で乳化重合用界面活性剤組成物に含めることができ、乳化重合用界面活性剤組成物製造の際に、系内に(a)成分と独立に、同時に、あるいは予め混合して添加できる。また、(a)成分製造時にも添加することができ、添加時期は、(a)成分の製造前、(a)成分の製造中、(a)成分の製造後いずれでもよい。(a)成分の製造への影響を少なくする観点から好ましくは、(a)成分の製造後に添加するのがよい。また、(b)成分が、(a)成分の原料としても用いられる場合には、予め必要量以上の(b)成分を乳化重合用界面活性剤組成物に含めてもよい。
【0021】
[その他の成分]
本発明の製造方法において用いる乳化重合用界面活性剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分をさらに含むことができる。その他の成分としては、例えば、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルカノールアミドなどの非イオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、α−オレフィンスルホネート、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボキシレートなどのアニオン性界面活性剤、水等が挙げられる。
【0022】
<エチレン性二重結合を有するモノマー>
本発明の製造方法において用いられるエチレン性二重結合を有するモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。これらのモノマーは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。前記エチレン性二重結合を有するモノマーとしては、モノマーの反応性を高める観点から、ビニル系モノマーが好ましい。
【0023】
<乳化重合用界面活性剤組成物の使用量>
本発明のポリマーエマルジョンの製造方法において、前記乳化重合用界面活性剤組成物は、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性を向上させる観点から、モノマー100質量部に対して、(a)成分と(b)成分の総量が0.1〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましく、0.5〜5質量部の範囲で用いるのがさらに好ましい。
【0024】
<重合開始剤>
本発明のポリマーエマルジョンの製造方法において、乳化重合時には重合開始剤を用いることができる。この重合開始剤としては、通常の乳化重合に用いられるものであればいずれも使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスジイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系開始剤等が挙げられ、ハンドリング性および経済性に優れるため、過硫酸塩が好ましい。さらに、重合開始剤としては、過酸化物に亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系の開始剤も使用できる。
【0025】
<モノマーの量>
本発明のポリマーエマルジョンの製造方法において、乳化重合条件には特に制限がなく、用いるモノマーの量は全系に対して、エマルジョンの粘度、すなわちハンドリング性および経済性との両立を向上させる観点から、20〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。またモノマーの添加方法としては、モノマー滴下法、モノマー一括仕込み法、プレエマルジョン法等のいずれの方法も用いることができ、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性の向上の観点からプレエマルジョン法が好ましい。プレエマルジョン法において、プレエマルジョンの滴下時間は1〜8時間、熟成時間は1〜5時間が好ましい。重合温度は、開始剤の分解温度により調整されるが、ポリマーエマルジョン製造時の重合安定性の向上の観点から、50〜90℃が好ましく、過硫酸塩の場合は70〜85℃が好ましい。
【0026】
<ポリマーエマルジョン>
本発明のポリマーエマルジョンは、本発明のポリマーエマルジョンの製造方法により得られたものである。
【0027】
本発明のポリマーエマルジョンの固形分量は、ポリマーエマルジョンと顔料分散液との混合性を向上させる観点から、20〜70質量%が好ましく、40〜60質量%が更に好ましい。
【0028】
<塗料組成物>
本発明の塗料組成物は、前記のような本発明の製造方法で得られたポリマーエマルジョンを含有する。ポリマーエマルジョンの体積平均粒径は、該ポリマーエマルジョンを用いて得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢を向上させる観点から、30〜500nmが好ましく、100〜300nmがより好ましく、120〜170nmがさらに好ましい。ポリマーエマルジョンの体積平均粒径は、後記する実施例に示す方法で測定した値である。
【0029】
本発明の塗料組成物は、顔料や、必要に応じて、水、粘性制御剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を更に含有することができる。顔料としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料、ベンガラ、カーボンブラック、群青、黄酸化鉄等の着色顔料、二酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料、雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等のパール系顔料等の無機系顔料、有機合成色素としての染料、有機顔料等が挙げられる。これらの顔料は単独または、2種以上であってもよい。
【0030】
本発明の塗料組成物中のポリマーエマルジョンの含有量は、塗料組成物中の固形分に対し固形分換算で、塗膜の隠蔽性および基材密着性を向上させる観点から、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜85質量%、更に好ましくは15〜80質量%である。
【0031】
本発明の塗料組成物に顔料が含まれる場合、塗料組成物中の顔料の含有量は、塗膜の隠蔽性および基材密着性を向上させる観点から、塗料組成物中の全固形分に対し固形物換算(PWC)で、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%である。

PWC=塗料組成物中の顔料固形分/(塗料組成物中の全固形分)×100
【0032】
前記顔料は水分散液の形でポリマーエマルジョンと配合することが好ましく、顔料水分散液は公知の方法で作成することができる。例えば、顔料水分散液は、顔料単独又は混合物と、水、必要に応じて分散助剤とを、分散装置を用いて分散することにより得られる。顔料水分散液を製造するのに用いる分散装置としては、ホモミキサー、サンドミル、ボールミル、ロールミル、ペイントシェーカー等が使用できる。また、必要に応じて顔料水分散液には、消泡剤、防腐剤等を加えても良い
【実施例】
【0033】
下記に示す方法により、(a)成分として下記(a−1)〜(a−5)を製造した。
<(a)成分>
(a−1):ポリオキシエチレン(20)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩
(a−2):ポリオキシエチレン(13)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩
(a−3):ポリオキシプロピレン(3)ポリオキシエチレン(10)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩
(a−4):ポリオキシエチレン(7)ジスチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩
(a−5):ポリオキシエチレン(10)ベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩
【0034】
<製造例1:(a’−1)の製造>
市販のジスチレン化フェノール(川口化学工業社製)608g(2モル)および水酸化カリウム0.56g(0.01モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、145℃まで昇温した後、エチレンオキサイド(EO)を1760g(40モル)仕込んだ。145℃にて付加反応および該温度にて1時間熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のEOを反応系から除去した。未反応EO除去後、吸着剤を使用して、触媒の水酸化カリウムを除去し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が20モルのポリオキシエチレン(20)ジスチレン化フェノールを得た。
【0035】
このポリオキシエチレン(20)ジスチレン化フェノール592.0g(0.5モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えた反応器に仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。70〜80℃に冷却後、スルファミン酸を46.1g(0.475モル)仕込み、110℃に昇温し、3時間反応させ、ポリオキシエチレン(20)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩(a’−1)を得た。
【0036】
<製造例2:(a’−2)の製造>
市販のジスチレン化フェノール(川口化学工業社製)608g(2モル)および水酸化カリウム0.56g(0.01モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、145℃まで昇温した後、エチレンオキサイドを1144g(26モル)仕込んだ。145℃にて付加反応および該温度にて1時間熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のEOを反応系から除去した。未反応EO除去後、吸着剤を使用して、触媒の水酸化カリウムを除去し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が13モルのポリオキシエチレン(13)ジスチレン化フェノールを得た。
【0037】
このポリオキシエチレン(13)ジスチレン化フェノール438.0g(0.5モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えた反応器に仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。70〜80℃に冷却後、スルファミン酸を46.1g(0.475モル)仕込み、110℃に昇温し、3時間反応させ、ポリオキシエチレン(13)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩(a’−2)を得た。
【0038】
<製造例3:(a’−3)の製造>
市販のジスチレン化フェノール(川口化学工業社製)608g(2モル)および水酸化カリウム0.56g(0.01モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、120℃まで昇温した後、プロピレンオキサイドを348g(6モル)仕込んだ。120℃にて付加反応および熟成を行った後、脱水後窒素置換を行い、145℃まで昇温した後、エチレンオキサイドを880g(20モル)仕込んだ。145℃にて付加反応および該温度にて1時間熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のEOを反応系から除去した。未反応EO除去後、吸着剤を使用して、触媒の水酸化カリウムを除去し、プロピレンオキサイドの平均付加モル数3モル、エチレンオキサイドの平均付加モル数が10モルのポリオキシプロピレン(3)ポリオキシエチレン(10)ジスチレン化フェノールを得た。
【0039】
このポリオキシプロピレン(3)ポリオキシエチレン(10)ジスチレン化フェノール459.0g(0.5モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えた反応器に仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。70〜80℃に冷却後、スルファミン酸を46.1g(0.475モル)仕込み、110℃に昇温し、3時間反応させ、ポリオキシプロピレン(3)ポリオキシエチレン(10)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩(a’−3)を得た。
【0040】
<製造例4:(a’−4)の製造>
市販のポリオキシエチレン(7)ジスチレン化メチルフェノール(日本乳化剤社製 ニューコール707)313.0g(0.5モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えた反応器に仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。70〜80℃に冷却後、スルファミン酸を46.1g(0.475モル)仕込み、110℃に昇温し、3時間反応させ、ポリオキシエチレン(7)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステルアンモニウム塩(a’−4)を得た。
【0041】
<製造例5:(a’−5)の製造>
市販のトリベンジル化フェノール(川口化学工業社製)592g(2モル)および水酸化カリウム0.56g(0.01モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えたオートクレーブに仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。脱水後窒素置換を行い、145℃まで昇温した後エチレンオキサイドを880g(20モル)仕込んだ。145℃にて付加反応および熟成を行った後、80℃まで冷却し、4.0kPaで未反応のEOを反応系から除去した。未反応EO除去後、吸着剤を使用して、触媒の水酸化カリウムを除去し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が10モルのポリオキシエチレン(10)トリベンジル化フェノールを得た。
【0042】
このポリオキシエチレン(10)トリベンジル化フェノール368.0g(0.5モル)を攪拌装置、温度制御装置および自動導入装置を備えた反応器に仕込み、110℃、1.3kPaにて30分間脱水を行った。70〜80℃に冷却後、スルファミン酸を46.1g(0.475モル)仕込み、110℃に昇温し、3時間反応させ、ポリオキシエチレン(10)トリベンジル化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(a’−5)を得た。
【0043】
前記(a’−1)〜(a’−5)の化合物各100質量部に対して、300mLのエタノールを加え、室温(25℃)で攪拌して溶解させた。この溶液を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した。
【0044】
ろ液を減圧トッピングし、エタノールを除去し、エタノール不溶分を含有しないサンプルを得た。(a’−1)、(a’−2)、(a’−3)、(a’−4)および(a’−5)から得られた化合物それぞれを、(a−1)、(a−2)、(a−3)、(a−4)および(a−5)と呼ぶ。また、ろ紙上の残留物(エタノール不溶物量)を測定したところ、エタノール不溶解分はいずれも0.05質量%未満であった。
【0045】
なお、例中の%は特記しない限り質量%である。
[実施例1〜12および比較例1〜12]
(a)成分として前記(a−1)〜(a−5)、下記(b)成分及び比較品を使用し、表2に示す割合で配合し、本発明及び比較の製造方法で用いられる乳化重合用界面活性剤組成物を調製した。得られた乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、下記方法で乳化重合を行い、ポリマーエマルジョンを得た。得られたポリマーエマルジョンについて、下記方法で性能を評価した。また、得られたポリマーエマルジョンを用い、下記方法で塗料組成物を作成し、下記方法で光沢を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0046】
<(b)成分>
(b−1):スルファミン酸アンモニウム塩(和光純薬工業社製試薬)
(b−2):尿素(和光純薬工業社製試薬)
(b−3):硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製試薬)
【0047】
<その他の成分>
比較品
(c−1)特許第3025763号公報の実施例1記載の界面活性剤組成物。すなわち、(a−1):C817O(CH2CH2O)18SO3Na(CMC0.029mol/L)と、(b−1):C1225O(CH2CH2O)18SO3Na(CMC0.0046mol/L)とを、(a)/(b)モル比20/80で含有する界面活性剤組成物。
(d−1)特開2006−75808号公報の実施例記載の、発明品5の界面活性剤組成物。すなわち、下記構造で表される界面活性剤(2−e)(100質量部)、尿素(窒素化合物1、0.1質量部)およびスルファミン酸アンモニウム(窒素化合物2、0.05質量部)を含有する界面活性剤組成物。
【0048】
界面活性剤(2−e)
【化2】

【0049】
<乳化重合方法>
攪拌機、原料投入口を備えた1Lフラスコに、イオン交換水112.5g、重合開始剤として過硫酸カリウム0.36g、本発明の製造方法において用いる乳化重合用界面活性剤組成物又は比較の乳化重合用界面活性剤組成物3.6gを混合し、500r/minで攪拌しながら、アクリル酸ブチル110.8g、メタクリル酸メチル110.8gおよびアクリル酸3.4gのモノマー混合物を約5分間かけて滴下し、30分間攪拌して乳化物滴下液を得た。
【0050】
次に攪拌機、還流冷却器および原料投入口を備えた1Lセパラブルフラスコ内に、イオン交換水162.5g、重合開始剤として過硫酸カリウム0.09g、本発明の製造方法で用いられる乳化重合用界面活性剤組成物又は比較の乳化重合用界面活性剤組成物0.90g、前記乳化物滴下液の5質量%(17.1g)を仕込み、80℃に昇温し、30分間1段目重合を行なった。その後、残りの乳化物滴下液を3時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに1時間熟成した。得られたポリマーエマルジョンを30℃以下に冷却し、200メッシュステンレス金網でろ過し、ポリマーエマルジョン中の凝集物を回収した。フラスコ内、及び攪拌羽根に付着した凝集物も回収した。なお、実施例、比較例のポリマーエマルジョンの固形分濃度は44.8〜45.4質量%になるように調整した。
【0051】
<塗料の作成方法>
250mLポリ容器に1mm径と2mm径のガラスビーズ各50g、二酸化チタン150g、ポリアクリル酸ナトリム(40質量%品)(花王社製、ポイズ530)3.75g、およびイオン交換水62gを仕込み、ペイントシェーカーで3時間攪拌し、顔料固形分が70質量%である顔料水分散液を調製した。
【0052】
次にフラスコに前記顔料水分散液7.1g、各ポリマーエマルジョン11.1gおよびイオン交換水1.8gを秤取り、均一に混合し、仕上がり塗料固形分50質量%、塗料組成中の固形分に対するポリマーエマルジョンの固形分換算50質量%かつ、PWCが50質量%の塗料を得た。なお、PWCとは、下記式によって算出される値である。
PWC=塗料組成物中の顔料固形分/(塗料組成物中の全固形分)×100
【0053】
<性能評価方法>
(1)ポリマーエマルジョンの重合安定性
回収した凝集物を水洗後26.6kPa、105℃で2時間乾燥後、秤量して、凝集物量を求めた。使用したモノマーの総量に対する凝集物の質量%で、重合安定性を表した。凝集物の質量%が少ないほど重合安定性に優れることを示す。
【0054】
(2)ポリマーエマルジョン粒子の体積平均粒径
得られたポリマーエマルジョンを25%アンモニア水で中和し、pH8〜9とした。ベックマン・コールター社製の動的光散乱法粒径測定装置N4 Plusを使用して、中和後のポリマーエマルジョン粒子の体積平均粒径を測定した。
【0055】
(3)ポリマーエマルジョンの機械的安定性
前記中和後のポリマーエマルジョン50gを秤取し、マロン式機械的安定性試験機にて、荷重98N、1000r/minの条件で5分間ロータを回転し、凝集物を生成させた。この凝集物を200メッシュステンレス金網でろ過し、ろ取物を水洗後、26.6kPa、105℃で2時間乾燥した。得られた凝集物を秤量して、ポリマーに対する凝集物量を質量%で表した。凝集物量が少ないほど機械的安定性に優れることを示す。
【0056】
(4)ポリマーエマルジョン塗膜の耐温水白化性
前記中和後のポリマーエマルジョンを、透明アクリル板上にアプリケーターを使用して、乾燥膜厚が50μmとなるよう塗工し、熱風乾燥機で100℃、10分間乾燥した。このアクリル板を60℃の温水に48時間浸漬した後、ヘイズメーターを使用して、塗膜のヘイズ値を測定した。ヘイズ値が小さい程、耐温水白化性は良好であることを示す。
【0057】
(5)塗料の塗膜光沢
前記の塗料をバーコーターNo.8でポリプロピレンフィルム上に塗工し、塗工後、室温で一昼夜乾燥し評価用塗膜を得た。この塗膜の表面光沢を光沢計(GM−60、ミノルタ社製)で、入射角度60°の条件において測定した。表面光沢の値が高いほど、塗膜光沢に優れることを示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、本発明のポリマーエマルジョンの製造方法によれば、重合安定性やポリマーエマルジョンの機械的安定性において十分に満足でき、更にポリマーエマルジョンの粒径が小さく、得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢の良好なポリマーエマルジョンを与えることが確認できた。
【0060】
[実施例13〜24および比較例13〜24]
表3に示す乳化重合用界面活性剤組成物及び比較の乳化重合用界面活性剤組成物を用い、モノマーとして、アクリル酸ブチル109.7g、スチレン109.7g、アクリル酸5.6gを用いる以外は、実施例1〜12および比較例1〜12と同じ条件で乳化重合を行い、同様に性能を評価した。また、実施例1〜12および比較例1〜12と同様に顔料水分散液を調製し、フラスコに顔料水分散液4.76g、各ポリマーエマルジョン11.1g、イオン交換水0.8gを秤取り、均一に混合し、仕上がり塗料固形分50質量%、塗料組成物中の固形分に対するポリマーエマルジョンの固形分換算60質量%かつPWCが40質量%の塗料を得た。この塗料を実施例1〜12および比較例1〜12と同様にポリプロピレンフィルム上に塗工し、塗膜の表面光沢を測定した。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3に示すように、本発明のポリマーエマルジョンの製造方法によれば、重合安定性やポリマーエマルジョンの機械的安定性において十分に満足でき、更にポリマーエマルジョンの粒径が小さく、得られる塗料組成物の耐水性、および塗膜光沢の良好なポリマーエマルジョンを与えることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法は、塗料用ポリマーエマルジョン作成の用途にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(I)で表される化合物と、
(b)エタノールに対する溶解度が25℃で5g/100mL以下のアミド化合物および/またはアンモニウム塩とを必須成分とし、
(a)成分100質量部に対して(b)成分が0.05〜2質量部含まれる乳化重合用界面活性剤組成物の存在下、エチレン性二重結合を有するモノマーを乳化重合する工程を含むポリマーエマルジョンの製造方法。
【化3】

(式中、R1は、−CH(CH3)−または−CH2−であり、
2は炭素数1〜6のアルキル基または水素原子であり、
1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す1〜100の数であり、n個のA1Oは同一でも異なっていても良い。
mは1〜5の整数であり、
1は1価のカチオンを示す。)
【請求項2】
(b)成分のアミド化合物および/またはアンモニウム塩が、尿素、スルファミン酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載のポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項3】
式(I)で表される化合物が、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ジスチレン化メチルフェニルエーテルモノ硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレン(アルキレンの炭素数2〜4)ベンジル化フェニルエーテルモノ硫酸エステル塩からなる群から選択される請求項1または2に記載のポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項4】
モノマー合計の100質量部に対し、成分(a)と成分(b)の総量が0.1〜20質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られるポリマーエマルジョンを含む塗料組成物。

【公開番号】特開2011−231183(P2011−231183A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101093(P2010−101093)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】