説明

ポリマーセメントモルタル及び仕上げ方法

【課題】基材が乾燥状態であっても湿潤状態であっても高い接着性を有し、厚塗材及び薄塗材として使用可能なポリマーセメントモルタル等を提供する。
【解決手段】(X)セメント及び細骨材からなる粉体、(Y)(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水と、を混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを、常温で混合して生成され、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)である混和液、及び、(Z)水、を混合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントモルタル及びこのポリマーセメントモルタルを用いた仕上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの躯体などを施工する際に、型枠内または脱型後の若材齢コンクリート面の乾燥防止、保護、養生の目的、及び、ジャンカや欠損部を補修する目的でポリマーセメントモルタルをコンクリートの上に施すことが知られている。
ポリマーセメントモルタルとしては、酢酸ビニル重合体などの有機ポリマーが混合された高分子系の水性エマルジョン(emulsion;乳濁液)とセメント、細骨材等が混合されたポリマーセメントモルタルなどがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したポリマーセメントモルタルは、打設後一週間以上経過した乾燥状態のコンクリートや、表面に水が滴り落ちているような湿潤状態のコンクリートに薄塗り仕上げ材として用いた場合には、剥離が発生する虞があるという課題がある。
また、ジャンカや欠損部を補修するために厚塗り仕上げを施す際に、上記薄塗り仕上げ材を兼用すると、ひび割れが発生しやすい。このため、ひび割れの発生を抑え、また付着性を確保するために複数回に分けて施工する必要があり施工性が悪く、工期がかかるという課題がある。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基材が乾燥状態であっても湿潤状態であっても高い付着性を有し、厚塗材及び薄塗材として使用可能なポリマーセメントモルタル及び仕上げ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために本発明のポリマーセメントモルタルは、(X)セメント及び細骨材からなる粉体、(Y)(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水と、を混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを、常温で混合して生成され、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)である混和液、及び、(Z)水、を混合したことを特徴とするポリマーセメントモルタルである。
【0006】
本発明のポリマーセメントモルタルによれば、ポリエチレン又はポリプロピレンが混合された高分子エマルジョンに含まれている分散剤が保持している水分が、ポリマーセメントモルタルが硬化する際の水和反応に使用されるので、急激な乾燥が抑制され高い付着力を得ることが可能である。このため、本ポリマーセメントモルタルを薄塗材として施したとしてもポリマーセメントモルタルが剥がれ落ちる、所謂ドライアウトの発生を抑制することが可能である。このため、広い領域に薄塗りする仕上げ材として使用することが可能である。
【0007】
また、ポリマーセメントモルタルに混合されている高分子エマルジョンに含まれるポリエチレンまたはポリプロピレンは電荷の偏りがない非極性の樹脂なので、親水性を有する安定した状態にてポリマーセメントモルタル内の水分と混合されている。このため、ポリエチレンまたはポリプロピレンの粒子はセメント及び細骨材からなる粉体の隙間に水の如く浸入する。そして、水和反応が進行して水分が抜けた状態で、セメント及び細骨材からなる粉体の隙間を埋めるポリエチレンまたはポリプロピレンは皮膜を形成し、この皮膜が弾性を有するため、本ポリマーセメントモルタルをセメント系基材等に厚塗材として施したとしても、ひび割れ等の発生を抑制することが可能である。このため、ジャンカや欠損などに厚塗りする補修材として使用することが可能である。
【0008】
また、本ポリマーセメントモルタルは、耐水性及び付着力が高いため、セメント系基材の含水率が高い状態にて、当該セメント系基材の上に施すことが可能である。このため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、ポリマーセメントモルタルをセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができ、施工期間を短縮することが可能である。更に、本ポリマーセメントモルタルは付着力が高いため、十分に乾燥した状態のセメント系基材上に施すことが可能である。
【0009】
かかるポリマーセメントモルタルは、前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、の混合比率が1:0.1以上1:0.5以下であることが望ましい。これにより、ポリマーセメントモルタルの安定性及び耐水性を高めることができる。
【0010】
かかるポリマーセメントモルタルは、前記高分子エマルジョンが、前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、前記(A3)水と、(A4)平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂と、を混合して生成された高分子エマルジョンであることが望ましい。
このようなポリマーセメントモルタルによれば、高分子エマルジョンが石油樹脂をさらに含むことにより、ポリマーセメントモルタルの保存性を高めることができる。
【0011】
かかるポリマーセメントモルタルは、前記高分子エマルジョンと、前記(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、の混合比率が2:1以上5:1以下であることが望ましい。これにより、ポリマーセメントモルタルの耐水性を高めることができる。
【0012】
また、セメント系基材の上に、前記ポリマーセメントモルタルを施すことを特徴とする仕上げ方法である。
このような仕上げ方法によれば、ポリエチレン又はポリプロピレンが混合された高分子エマルジョンに分散剤が含まれており、この分散剤が保持している水分が水和反応に使用されるので、急激な乾燥が抑制される。このため、本ポリマーセメントモルタルを薄塗材として施したとしてもポリマーセメントモルタルが剥がれ落ちる、所謂ドライアウトの発生を抑制することが可能である。
【0013】
また、ポリマーセメントモルタルに混合されている高分子エマルジョンに含まれるポリエチレンまたはポリプロピレンは電荷の偏りがない非極性の樹脂なので、ポリエチレン又はポリプロピレンは親水性を有する安定した状態にてポリマーセメントモルタル内の水分と混合されている。このため、ポリエチレンまたはポリプロピレンの粒子はセメント及び細骨材からなる粉体の隙間に水の如く浸入する。そして、水和反応が進行して水分が抜けた状態で、セメント及び細骨材からなる粉体の隙間を埋めるポリエチレンまたはポリプロピレンの皮膜が弾性を有するため、本ポリマーセメントモルタルをセメント系基材等に厚塗材として施したとしても、ひび割れ等の発生を抑制することが可能である。
このように、薄塗材としても厚塗材としても区別することなく使用することが可能であるため施工性が向上する。
【0014】
更に、本ポリマーセメントモルタルは耐水性及び付着力が高いため、セメント系基材の含水率が高いセメント系基材の上に施すことが可能である。このため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、ポリマーセメントモルタルをセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができ、施工期間を短縮することが可能である。
【0015】
かかる仕上げ方法であって、前記ポリマーセメントモルタルの上に塗膜を形成することとしてもよい。
このような仕上げ方法によれば、基材の含水率が高い状態でポリマーセメントモルタルが施されており、そのポリマーセメントモルタル上に塗膜を形成するので、セメント系基材の施工開始から塗膜を形成する仕上げまでの施工時間を短縮することが可能である。
【0016】
かかる仕上げ方法であって、設置された型枠内にセメント系基材を流入し、前記型枠を撤去した後、前記セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、当該セメント系基材の上に、前記ポリマーセメントモルタルを施すことが望ましい。
このような仕上げ方法によればポリマーセメントモルタルは耐水性が高いため、セメント系基材の含水率が10%を超えるような含水率が高い状態であっても、セメント系基材の上に施すことが可能である。このため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、セメント系基材の上にポリマーセメントモルタルを早期に施すことが可能である。これにより、施工時間を大幅に削減することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材が乾燥状態であっても湿潤状態であっても高い接着性を有し、厚塗材及び薄塗材として使用可能なポリマーセメントモルタル及び仕上げ方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例にかかるポリマーセメントモルタルを用いた施工方法及び仕上げ方法を説明するための断面図である。
【図2】本発明のポリマーセメントモルタルの水和反応を説明するためのモデル図である。
【図3】一般的なポリマーセメントモルタルの水和反応を説明するためのモデル図である。
【図4】本発明のポリマーセメントモルタルを用いたスリップフォーム工法及び仕上げ方法を示すフローチャートである。
【図5】従来の施工例と本発明のポリマーセメントモルタルを用いた施工例との所要時間の相違を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例にかかるポリマーセメントモルタルを用いた施工方法及び仕上げ方法を説明するための断面図である。
【0020】
本実施形態においては、図1に示すように、型枠10間にコンクリートを順次上方に打設して煙突などの筒状構造物を構築するスリップフォーム工法にて本発明のポリマーセメントモルタルを下地調整材として使用する例について説明する。
【0021】
コンクリートを順次上方に打設していくスリップフォーム工法に用いる装置は、図1に示すように、対向配置される一対の型枠10と、一対の型枠10を互いに間隔を隔てて保持するヨーク12と、ヨーク12を構造物の構築方向すなわち上下方向に移動させるためのジャッキ18と、を有している。
【0022】
構造物の下端側にて既に打設済みのコンクリートでなるセメント系基材としてのコンクリート躯体14には、上方へ延びるロッド16が建て込まれている。ヨーク12は、ロッド16にジャッキ18を介して支持されており、ジャッキ18がロッド16に沿って上昇することにより、ヨーク12とともに一対の型枠10が上昇する。
【0023】
ヨーク12の上方には作業台(不図示)が設けられており、作業台上には、コンクリートをバケットで吊り上げるためのクレーン(不図示)等の、コンクリートの打設に必要な各種装置が設置されている。
【0024】
そして、筒状の構造物を構築する際には、ジャッキ18を駆動して型枠10を上昇させつつ一対の型枠10の間に連続的にコンクリートを打設する。このとき、型枠10の上昇、すなわち型枠10が移動されることにより露出されたコンクリート躯体14の表面に下地調整材としてのポリマーセメントモルタル20を順次塗布していく。
【0025】
本実施形態に係る筒状構造物は、表面に塗装することによって塗膜30が形成されている。このため、ポリマーセメントモルタル20は、筒状構造物を構成するコンクリート躯体14に対して塗装仕上げを行う際に、コンクリート躯体14の表面を塗膜形成に適した滑らかな面にするためにも機能している。
【0026】
また、コンクリート躯体14の表面の段差が数mm以上と大きい場合であっても、本ポリマーセメントモルタル20は補修材として塗布することも可能であり、段差も含めてポリマーセメントモルタル20を塗布することにより段差の補修と下地の調整を施すことが可能である。
【0027】
そして、塗装仕上げは、コンクリート躯体14の表面上に施したポリマーセメントモルタル20を下地にしてその上に塗膜30を形成することで完了する。ここで、本実施形態においては筒状構造物の表面に塗膜30を形成する例について説明するが、塗膜は必ずしも形成しなくても良い。
【0028】
ポリマーセメントモルタル20は、3段階の工程を経て調製される。3段階の工程は、ポリマーセメントモルタル20の材料の1つである高分子エマルジョン(以下、分散液Aともいう)を調製する分散液A調製工程と、調製した分散液Aを用いて混和液を調製する工程と、調製した混和液を用いてポリマーセメントモルタル20を調製する工程と、からなる。
【0029】
まず、分散液A調製工程について説明する。
分散液Aの材料(構成成分)として、有機ポリマーと、水と、有機ポリマーを水に分散させるための分散剤とを用意する。
【0030】
有機ポリマーとしては、ポリエチレンまたはポリプロピレンを用いる。有機ポリマーの数平均分子量は、3000以上100000以下の範囲内にあり、常温で固体である。有機ポリマーは数平均分子量が3000を下回ると、ポリマーセメントモルタルの躯体への付着性が低下すると共にポリマーセメントモルタルの耐水性や強度が低下し、数平均分子量が100000を超えると、ポリマーセメントモルタルの粘度が高くなりすぎてポリマーセメントモルタルを躯体の上に施しにくくなる。
【0031】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:poly-vinyl alcohol)が用いられる。PVAは、ビニル基に由来する油性の部分(以下、「親油基O」という)と、アルコールの水酸基に由来する、多数の水性の部分(以下、「親水基W」という)とを有する。このため、PVAは、乳化剤として機能する。PVAは、数平均分子量が500を下回ったり、3000を上回ったりすると、1分子中に含まれる親水基Wの数と親油基Oの数のバランスが崩れて、乳化剤としての機能が低下する。
【0032】
PVAとしては、親水基の一部をケン化した部分ケン化PVAを用いることが好ましく、より好ましくは、そのケン化度が70%〜98%、特には80%〜97%の部分ケン化PVAである。PVAは、ケン化度が70%を下回ると、上記有機ポリマーの水に対する溶けやすさ(可溶性)が高すぎてポリマーセメントモルタルの耐水性が低下し、ケン化度が98%を上回ると、上記可溶性が低くなりすぎてポリマーセメントモルタルが水性にならなくなる。なお、ケン化度が98%を上回るようなPVAを製造することは困難である。
【0033】
続いて、上記3つの材料を所定の混合比率で混合することで、有機ポリマーを主な固形分としたエマルジョン(以下、高分子エマルジョンともいう)を生成する。この混合の際、材料に対してせん断力を付与するために、混練機であるニーダー(kneading machine)を使用することが好ましく、より好ましくは、材料を加圧したり加熱したりする。これらにより、材料を均一に混合することができる。
【0034】
上記混合によって、PVAの親油基Oは上記有機ポリマーと馴染み、親水基Wは水と馴染む。この結果、多数の親水基Wが有機ポリマーの表面に配置された状態の粒子が、水に分散されることになる。こうして、水中に油性部分が分散されたO/W(oil in water)型のエマルジョン、つまり水性の高分子エマルジョンが形成される。このように調製された水性のエマルジョンを、本明細書では、「分散液A」と称している。分散液Aは、スラリー(slurry)状態又はペースト状態にある。
【0035】
ここで、混合比率について説明する。
分散剤は、有機ポリマーの質量を100%(1重量部)とすると、10質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、有機ポリマーと分散剤の質量比を示す混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。分散剤の添加量が10質量%を下回ると、高分子エマルジョンの安定性が低下し、添加量が50質量%を上回ると、ポリマーセメントモルタルの耐水性が低下する。
【0036】
水は、任意の割合で添加される。ただし、混合の際には、少量ずつ添加することが好ましい。これにより、均一な混合物を得ることが容易となる。最終的な水の添加量は、分散液Aにおける固形分量が約50%、例えば48%となるように調整される。なお、固形分量とは、液状成分及び固形分の総質量に対する固形分の総質量の割合(質量%)を示す。
【0037】
ところで、上記分散液Aの調製にあたり、数平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂を用意し、これを上記3つの材料とともに混合することが好ましい。石油樹脂としては、例えば、高級オレフィン系炭化水素を主原料とするものを用いることができる。このような石油樹脂は、ポリマーセメントモルタルの保存性を高める機能を有する。これは、石油樹脂が有機ポリマーや分散剤の親油基Oと馴染むためであると考えられる。石油樹脂の数平均分子量が500を下回ったり、5000を上回ったりすると、有機ポリマーや分散剤の親油基Oと馴染みにくくなり、ポリマーセメントモルタルの保存性を十分に高めることができなくなる。
【0038】
続いて、調製した分散液Aを用いて混和液を調製する工程について説明する。
まず、混和液の材料(構成成分)として、上記分散液Aと、下記に説明するアクリルエマルジョンと、タルク(Talc)とを用意する。
ここでいうアクリルエマルジョンとは、アクリル酸アルキルとスチレンとの共重合体を固形分とする水性のエマルジョン、又はアクリロニトリルとアクリル酸アルキルエステルの共重合体を固形分とする水性のエマルジョンをいう。アクリルエマルジョンとしては、アクリル酸ブチル(アクリル酸アルキルの一例である)とスチレンとの共重合体を固形分量50質量%となるように調製した水性分散液(市販品)が挙げられる。
【0039】
タルクとは、二酸化ケイ素(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)の混晶である含水ケイ酸マグネシウム[Mg3Si410(OH)2]のことをいう。タルクは、二酸化ケイ素を約60質量%含み、酸化マグネシウムを約30質量%含み、且つ結晶水を約4.8質量%含んでいる。本実施の形態では、タルクは、ポリマーセメントモルタルを躯体の上に施した後の硬化性を高める硬化剤として機能する。また、躯体がコンクリート躯体14である場合、タルクは、ポリマーセメントモルタルとコンクリート躯体14との親和結合力を高める機能を有する。
続いて、上記3つの材料を常温で混合する。これにより、混和液が生成される。このようにして得られた混和液は、スラリー状態又はペースト状態にある。
【0040】
ここで、混合比率について説明する。
アクリルエマルジョンは、分散液Aの質量を100%(1重量部)とすると、20質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、分散液Aとアクリルエマルジョンの質量比を示す混合比率(分散液A:アクリルエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。本実施の形態では、アクリルエマルジョンは、ポリマーセメントモルタルの耐水性を高める機能を有している。アクリルエマルジョンの添加量が20質量%を下回ると、ポリマーセメントモルタルの耐水性を十分に高めることができなくなる。一方、添加量が50質量%を上回ると、ポリマーセメントモルタルにおけるアクリルエマルジョンの割合が多くなりすぎて、本実施の形態によるポリマーセメントモルタルの機能や特性が十分に発現しなくなる。
【0041】
調製した混和液を用いてポリマーセメントモルタル20を調製する工程では、セメントと細骨材としての砂からなる粉体と、調製した混和液と、水とを混合してポリマーセメントモルタル20を生成する。
【0042】
このとき、ポリマーセメントモルタルは、実用上、粉体(X)と混和液(Y)と水(Z)との質量比を示す混合比率は、100:1〜25:20〜50の範囲とすることが好ましく、高分子エマルジョン(A)はポリマーセメントモルタルの0.5〜15%の範囲とすることが好ましく、粉体(X)のセメントと砂との質量比を示す混合比率は、1:1〜3の範囲とすることが好ましい。
【0043】
なお、予め、分散液A及び混和液を調製しておくことにより、ポリマーセメントモルタルの調製が容易となる。このため、例えば、ポリマーセメントモルタルを躯体の上に施す施工現場とは離れた場所で、分散液A及び混和液の調整を行い、施工現場の近傍においてポリマーセメントモルタルの最終調製を行うことも可能である。
【0044】
このようにして得られるポリマーセメントモルタル20は、少なくとも、分散液Aの材料(ポリエチレンまたはポリプロピレン,分散剤,水)と、アクリルエマルジョンと、タルクと、セメントと、砂とを含有しており、また、必要に応じて石油樹脂をさらに含有していることになる。このポリマーセメントモルタル20は、分散剤等を用いることで、有機溶剤を用いることなく製造される。このため、製造時や施工時に、周囲の人物に危険が及ぶことがなく安全である。
【0045】
次に、混和液の性質について説明する。
混和液は、O/W型のエマルジョンであるので、水性である。混和液における固形分量は、水の量に応じて変わるが、例えば62%である。また、混和液は、躯体の上に施された後は、水分が徐々に除去されて、硬化し、高強度の皮膜を形成する。
【0046】
また、この混和液は、水性であるにも関わらず、皮膜形成後の耐水性が高い。これは、混和液調製の際、分散液Aにアクリルエマルジョンを添加することや、混和液の粘度の範囲を下記範囲とすることなどによって、達成されるものと考えられる。さらに、この混和液は、躯体への付着力が高い。これは、混和液調製の際、分散液Aにタルクを添加することや、混和液の粘度の範囲を3000cps以上600000cps以下(SI単位に換算して、3Pa・s以上600Pa・s以下)とすることなどによって、達成されるものと考えられる。
【0047】
次に、上記混和液を用いたポリマーセメントモルタル20の特徴について説明する。
図2は、本発明のポリマーセメントモルタルの水和反応を説明するためのモデル図である。図3は、一般的なポリマーセメントモルタルの水和反応を説明するためのモデル図である。本実施形態においては、高分子エマルジョンに、ポリエチレンまたはポリプロピレンのうちポリエチレンが使用されている例について説明するが、ポリプロピレンを用いた場合も同様である。
【0048】
ポリマーセメントモルタル20は、ポリエチレンが混合された混和液としての高分子エマルジョンに分散剤としてPVA21が含まれており、PVA21が保持している水分が、ポリマーセメントモルタル20が硬化するための水和反応に使用される。このため、ポリマーセメントモルタル20の急激な乾燥が抑制されることにより、徐々に水和反応が進行して高い付着力が発生する。このため、本ポリマーセメントモルタル20をセメント系基材等の広い領域に薄塗材として施したとしてもポリマーセメントモルタル20の高い付着力によりセメント系基材等からポリマーセメントモルタル20が剥がれ落ちる、所謂ドライアウトの発生が抑制される。
【0049】
また、本ポリマーセメントモルタル20に混合されている高分子エマルジョンに含まれるポリエチレンの粒子22は電荷の偏りがない非極性の樹脂なので、電荷を有する物質がポリエチレンの粒子22に吸着されることはない。このため、高分子エマルジョンの中に含まれるPVA21は、電荷を有する他の物質に妨げられることなく、親油基O側がポリエチレンの粒子22側に、また親水基W側がポリエチレンの粒子22とは反対側に配向される。そして、親油基O側がポリエチレンの粒子22側、親水基Wがポリエチレンの粒子22とは反対側に配向されたポリエチレンの粒子22は親水性を有する安定した状態にてポリマーセメントモルタル20内の水25と混合されている。このため、ポリエチレンの粒子22は、図2に示すように、ポリマーセメントモルタル20のセメント23及び細骨材としての砂24からなる粉体の隙間に水25の如く浸入し、図3に示す一般的なポリマーセメントモルタルに含まれる電荷を帯びた樹脂の粒子29のように電荷を有する他の物質に引きつけられることなく水の中の全域に分散される。
【0050】
そして、水和反応が進行し水分が抜けた状態では、セメント23及び砂24からなる粉体の隙間にポリエチレンの皮膜26が形成され、形成された皮膜26により隙間が埋められた状態となる。このため、セメント23及び砂24の隙間がポリエチレンの皮膜26にて埋められることにより、本ポリマーセメントモルタル20をセメント系基材等に厚塗材として施したとしても、ひび割れ等の発生が抑制される。
【0051】
また、本ポリマーセメントモルタル20に含まれているポリエチレンは樹脂の中でも比較的弾性を有する樹脂であるため、セメント23及び砂24の隙間がポリエチレンの皮膜26にて埋められることにより、より一層ひび割れ等の発生が抑制される。
【0052】
更に、本ポリマーセメントモルタル20は、耐水性及び付着力が高いため、セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、当該セメント系基材の上に施すことが可能である。このため、セメント系基材を十分に乾燥させる必要がないので、ポリマーセメントモルタル20をセメント系基材の上に施すまでの期間を短くすることができ、施工期間を短縮することが可能である。
【0053】
また、躯体を乾燥させて、その含水率が低い状態において、躯体の上にポリマーセメントモルタル20を施してもよい。特に、本ポリマーセメントモルタル20は、躯体が十分に乾燥した状態であっても高い付着力が得られることが確認されている。したがって、躯体の含水率に依らずに、ポリマーセメントモルタル20を躯体の上に施すことができる。
【0054】
また、本ポリマーセメントモルタル20に混合されている混和液の粘度は、3000cps以上600000cps以下(SI単位に換算して、3Pa・s以上600Pa・s以下)である。このような粘度の範囲は、有機ポリマーの数平均分子量などを上述した範囲とし、アクリルエマルジョン及びタルクを添加することなどによって、達成される。このような粘度の混和液にてポリマーセメントモルタル20を生成することにより、適度な粘性を有するため躯体上に施しやすいばかりでなく、垂れ難いので厚い皮膜を形成することが可能である。
【0055】
次に、本発明のポリマーセメントモルタルを用いた施工方法及び仕上げ方法としてスリップフォーム工法にて筒状の構造物を構築する方法を例に挙げ、図1及び図4を参照しつつ説明する。
【0056】
図4は、本発明のポリマーセメントモルタルを用いたスリップフォーム工法及び仕上げ方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、筒状構造物を構築する際には、まず、筒状構造物を構築すべき施工現場に上述したスリップフォーム工法に用いる装置を設置する(ステップS10)。このとき、筒状構造物の基台部は既に施工されており、基台部からは鉛直方向に沿ってロッド16が建て込まれている。基台部から上方に突出されたロッド16には、ジャッキ18を介して、一対の型枠10が設けられたヨーク12が支持されている。そして、ヨーク12は型枠10の下端が基台部を狭持するように配置されている。
【0057】
次に、スリップフォーム工法により筒状構造物の構築を開始する(ステップS20)。スリップフォーム工法では、ヨーク12を上昇させつつ一対の型枠10間にコンクリートを打設していくため、コンクリートを打設する工程(ステップS21)と、型枠10を移動、すなわち上昇させる工程(ステップS22)と、型枠10が上昇することにより露出されたコンクリート躯体14にポリマーセメントモルタル20を塗布する工程(ステップS23)とが同時に進行していく。すなわち、構築開始直後に打設されたコンクリートは型枠10の下端側から順次型枠10間に充填されて天端が上昇していく。このとき、ジャッキ18が駆動されておりヨーク12が上昇されることにより型枠10も上昇される。型枠10が上昇することにより型枠10の下方には打設されたコンクリートにて形成されたコンクリート躯体14が露出する。露出されたコンクリート躯体14の表面には順次ポリマーセメントモルタル20がほぼ均一な厚さとなるように、ローラーやこてなどを用いて、コンクリート躯体14の全表面上に亘って塗布される。このように、構築されていくコンクリート躯体14の所定の部位ではコンクリートが打設される工程(ステップS21)、型枠10が移動されてコンクリート躯体14が露出される工程(ステップS22)、露出された部位にポリマーセメントモルタル20が塗布される工程(ステップS23)が、段階的に行われていく。このとき、ポリマーセメントモルタル20の塗布量は、コンクリート躯体14の表面積1m2当たり、固形分の質量で150g〜1200gの範囲内である。
【0058】
ところが、全体として見た場合には、対をなして上昇する型枠10の下側の部位に、既に打設されたコンクリートにてコンクリート躯体14が形成されており、型枠10の上昇に伴って型枠10の下側に露出されるコンクリート躯体14が順次延出されるとともに、型枠10間に形成されたコンクリート躯体14上には新たなコンクリートが打設されていく。すなわち、上昇する型枠10間の上部側では、新たなコンクリートを打設する工程(ステップS21)が、型枠10間の下部側では、既に打設されたコンクリートが養生されるとともに下端側から脱型される工程(ステップS22)が、型枠10より下側では、脱型されて露出されたコンクリート躯体14にポリマーセメントモルタル20を塗布する工程(ステップS23)がそれぞれ同時に進行している。このため、露出されたコンクリート躯体14は材齢が低い状態、すなわち含水率が高い状態、例えばコンクリート躯体14の含水率が14%以上である状態にてポリマーセメントモルタル20が塗布される。
【0059】
最後に、ポリマーセメントモルタル20が塗布されたコンクリート躯体14の表面に上記塗装仕上げ(下塗り及び上塗り)が施され塗膜30が形成される(ステップS30)。
【0060】
図5は、従来の施工例と本発明の施工例、すなわち上記ポリマーセメントモルタルを用いた施工例との所要時間の相違を説明するための図である。図5では、構築される構造物の所定の部位における工程と各工程に移行する時間を示している。
図5に示すように、コンクリートの打設を開始した時間を基準の0として、型枠10が上昇することにより露出される、すなわち脱型されるまでの時間は約0.2日後であり、脱型されたコンクリート躯体14にポリマーセメントモルタル20を塗布するまでの時間は、コンクリートの打設を開始した時間から約0.5日後である。コンクリートの打設開始からポリマーセメントモルタル20を塗布するまでの工程に費やされる時間は、従来の施工例と本発明の施工例とは同じである。
【0061】
ポリマーセメントモルタル20が塗布された後は、従来の施工方法では乾燥させるために約30日の養生期間を設けて、30日後に塗装の下塗りを行っていたが、本発明の上述したポリマーセメントモルタル20を用いた施工方法では、ポリマーセメントモルタル20を塗布した後約1日の養生期間の後に塗装の中塗りを行う。すなわち、本発明のスリップフォーム工法及び仕上げ方法では、従来のポリマーセメントモルタルと塗装の下塗り材とを、上述したポリマーセメントモルタル20のみで行っている。言い換えれば、上述したポリマーセメントモルタル20は、下地調整材としての機能と下塗り材としての機能とを持ち合わせている。そして、従来の施工方法では、下塗り後1日おいて中塗り、更に1日おいて上塗りを行う。一方、本発明のスリップフォーム工法及び仕上げ方法では、ポリマーセメントモルタル20を塗布した後に、1日おいて中塗り、更に1日おいて上塗りを行う。このため、塗装の下塗りを行う工程が削除されることにより施工における手間が軽減されるとともに、養生時間の大幅な短縮が実現される。
【0062】
上記ポリマーセメントモルタル20及び仕上げ方法は、有機溶剤を用いないポリマーセメントモルタル20の研究を本発明者らが鋭意行った結果に基づくものである。すなわち、本発明者らは、研究により、(X)セメント及び細骨材からなる粉体、(Y)(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水と、を混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを、常温で混合して生成され、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)である混和液、及び、(Z)水、を混合したポリマーセメントモルタル20を、コンクリート躯体14の上に施すと、コンクリート躯体14の美観を高めることができることを見出しており、さらに、塗装仕上げの際、上記ポリマーセメントモルタル20を、コンクリート躯体14の含水率が10%を超える状態にて、当該コンクリート躯体14の上に施すと、約1日の養生期間で上記ポリマーセメントモルタル20の表面が乾燥することにより、塗膜30をコンクリート躯体14の上に形成するまでの期間を短くすることができることを見出している。
【0063】
なお、上記実施の形態では、ポリマーセメントモルタル20の分散液Aを調製する際に、分散剤として、PVA21を用いたが、PVA21に代えて、数平均分子量が500以上3000以下の、カルボキシメチルスチロール、ポリアクリル酸、又はポリアクリル酸アミドなどを用いてもよい。また、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの場合にも、有機ポリマーと分散剤の混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。
【0064】
また、上記実施の形態では、ポリマーセメントモルタル20の耐水性を高める材料として、アクリルエマルジョンを用いたが、合成ゴムエマルジョンを用いてもよい。この場合にも、分散液Aと合成ゴムエマルジョンの混合比率(分散液A:合成ゴムエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。ここで、合成ゴムエマルジョンとは、合成ゴムを固形分とする水性のエマルジョンをいう。合成ゴムとしては、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR:styrene butadiene rubber),イソプレンゴム(IR:isoprene rubber),ブタジエンゴム(BR:butadiene rubber),クロロプレンゴム(CP:chloroprene rubber,例えば、商品名「ネオプレン(登録商標)」),エチレンとプロピレンの2成分系の共重合体(EPR:ethylene-propylene rubber),エチレンとプロピレンとジエンモノマーの3成分系の3次元共重合体(EPTゴム:ethylene-propylene-diene terpolymer rubber)などが用いられる。
【0065】
上記実施の形態において、上記ステップS40の下塗り工程は、コンクリート躯体14の含水率が14%以上である状態にて行われるとしたが、コンクリート躯体14の含水率が14%を下回った状態にて行われてもよい。
【0066】
本実施形態のポリマーセメントモルタル20によれば、平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレンと、平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、の混合比率が1:0.1以上1:0.5以下の混和液、セメント、及び砂が混合されて生成されたポリマーセメントモルタル20は安定性及び耐水性が高いので、脱型後の湿潤状態のコンクリートであっても高い付着力を有する。このため、打設したコンクリートの含水率が10%を超える状態において当該コンクリートの上にポリマーセメントモルタル20を施すことが可能であり、コンクリートを十分に乾燥させる必要がない。これにより、ポリマーセメントモルタル20をコンクリートの上に施すまでの期間を短くすることが可能であり、工期全体を短縮できるとともにコストの削減を図ることが可能である。更に、本ポリマーセメントモルタル20は付着力が高いため、十分に乾燥した状態のセメント系基材上に施すことも可能である。
【0067】
また、本実施形態のポリマーセメントモルタル20によれば、ポリエチレンが混合された高分子エマルジョンにPVA21が含まれているので、本ポリマーセメントモルタル20を薄塗材として施したとしてもポリマーセメントモルタル20が剥がれ落ちることを抑制することが可能である。
【0068】
また、ポリマーセメントモルタル20に混合されている高分子エマルジョンに含まれるポリエチレンの粒子22は電荷の偏りがない非極性の樹脂なので、ポリエチレンの粒子22はセメント23及び砂24の隙間に水25の如く浸入してセメント23及び砂24の隙間を埋めるポリエチレンの皮膜26が形成される。そして、隙間がポリエチレンの皮膜26にて埋められることにより付着力や強度が高められるばかりでなく、ポリエチレンが有する弾性によってひび割れ等の発生を抑制することが可能である。よって、本ポリマーセメントモルタル20をセメント系基材等に厚塗材として施したり、ジャンカや欠損などを補修する補修材として使用することが可能である。
【0069】
このように本ポリマーセメントモルタル20は、薄塗材としても厚塗り材としても高い付着力を有し、打設後の表面に施す下地調製材や仕上げ材としても、また、ジャンガや欠損部を補修する補修材としても使用することが可能なので、施工箇所に拘わらず使用することが可能であり、施工性が向上する。
【0070】
このため、例えば型枠10を移動させつつコンクリートを打設する上述したスリップフォーム工法により、型枠10が移動されることにより順次露出されるコンクリート躯体14にポリマーセメントモルタル20を施した場合であっても、確実に付着させることが可能である。また、薄塗材として使用してもドライアウトし難く、厚塗材として使用してもひび割れし難い本ポリマーセメントモルタル20は、型枠10を移動させつつコンクリートを打設することにより表面に凹凸ができやすく、且つ、型枠10が移動されて露出された直後のコンクリート躯体14の表面に施すことが要求されるスリップフォーム工法に、特に適しており、作業が効率良く進められるとともに、コンクリート躯体14の表面の不陸などを滑らかに改善してその美観を高めることが可能である。
【0071】
また、本ポリマーセメントモルタル20は、有機溶剤を用いることなく製造することが可能であり、平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレンと、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水と、を混合して生成される高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを常温で混合して生成することにより、粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)の範囲内にすることができる。そして、ポリマーセメントモルタル20の粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)の範囲内にあるので、ポリマーセメントモルタル20をコンクリート躯体14の上に施し易く作業性を向上させることが可能である。
【0072】
更にポリマーセメントモルタル20の上に早期に塗装を施して塗膜30を形成することも可能である。これにより、コンクリート構造物をより短時間にて仕上げることが可能である。また、コンクリートの表面にポリマーセメントモルタル20が施されることにより、滑らかに改善されたコンクリート躯体14の表面上に塗膜30が形成されるので、仕上げられたコンクリート構造物の美観をより高めることが可能である。
【0073】
また、ポリマーセメントモルタル20に混合されている混和液中の高分子エマルジョンには石油樹脂が含まれているので、ポリマーセメントモルタル20が高い保存性を有する。このため、当該ポリマーセメントモルタル20が表面に施されることにより、高い保存性を備えたコンクリート躯体14及び構造物を構築することが可能である。
【0074】
また、ポリマーセメントモルタル20に含まれる混和液の高分子エマルジョンと、アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、の混合比率が2:1以上5:1以下なので、ポリマーセメントモルタル20が高い耐水性を有しており、耐水性が高いポリマーセメントモルタル20がコンクリート躯体14の表面に施されることにより耐水性が高いコンクリート構造物を構築することが可能である。
【0075】
上記実施形態においては、ポリマーセメントモルタル20の上に塗膜30を形成す例について説明したが、塗膜を形成せずポリマーセメントモルタル20を塗布したままの状態としてもよい。
【0076】
さらに、ポリマーセメントモルタル20は、コンクリート躯体14の母材成分である骨材に似た性質を有するタルクを含むので、ポリマーセメントモルタル20の性質(体質)がコンクリート躯体14の性質(体質)に近づくことになる。その結果、ポリマーセメントモルタル20とコンクリート躯体14との間で親和結合力が高まる。その結果、ポリマーセメントモルタル20のコンクリート躯体14への付着力を高めることができる。
【0077】
上記実施形態においては、スリップフォーム工法にて筒状構造物を構築する例について説明したが、構築する構造物は防護柵、水路などのコンクリート構造物や、コンクリート舗装などでも構わない。
【0078】
また、ポリマーセメントモルタル20に混合される高分子エマルジョンに含まれる有機ポリマーは、ポリエチレンまたはポリプロピレンのいずれかのみではなく、ポリエチレンまたはポリプロピレンのいずれもが含まれていたり、またポリエチレンまたはポリプロピレンが主成分となり他の有機ポリマーが含まれていても構わない。
【0079】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0080】
10 型枠
12 ヨーク
14 コンクリート躯体
16 ロッド
18 ジャッキ
20 ポリマーセメントモルタル
21 PVA
22 ポリエチレンの粒子
23 セメント
24 砂
25 水
26 皮膜
29 電化を有する樹脂の粒子
30 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X)セメント及び細骨材からなる粉体、
(Y)
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロ
ピレンと、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
を混合して生成される高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)タルク
とを、常温で混合して生成され、
粘度が3Pa・s以上600Pa・s以下(3000cps以上600000cps以下)である混和液、及び、
(Z)水、
を混合したことを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマーセメントモルタルであって、
前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、
前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
の混合比率が1:0.1以上1:0.5以下であることを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマーセメントモルタルであって、
前記高分子エマルジョンは、
前記(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレンと、
前記(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
前記(A3)水と、
(A4)平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂と、
を混合して生成された高分子エマルジョンであることを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリマーセメントモルタルであって、
前記高分子エマルジョンと、
前記(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
の混合比率が2:1以上5:1以下であることを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項5】
セメント系基材の上に、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリマーセメントモルタルを施すことを特徴とする仕上げ方法。
【請求項6】
請求項5に記載のポリマーセメントモルタルの上に塗膜を形成することを特徴とする仕上げ方法。
【請求項7】
設置された型枠内にセメント系基材を流入し、
前記型枠を撤去した後、前記セメント系基材の含水率が10%を超える状態にて、
当該セメント系基材の上に、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリマーセメントモルタルを施すことを特徴とする仕上げ方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−1222(P2011−1222A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145630(P2009−145630)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(391051614)成瀬化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】