説明

ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材及びその施工方法

【課題】 コンクリート構造物への施工に関し、アルカリ骨材反応によって発生したアルカリ・シリカゲルが、コンクリート中の余剰水を吸水し、それによって生じる膨張圧力がコンクリート構造物にひび割れを発生させて劣化を招くことを防止し、高い水蒸気透過性を有するとともに、高いひび割れ追従性を有して、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することができる、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材及び当該コンクリート表面被覆材の施工方法を提供する。
【解決手段】 ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、セメント、平均粒径が150μm以上で最大粒径が1180μm未満の増量材及び、アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンとを含有し、当該セメント及び当該増量材の無機粉体中、前記増量材は粒径150μm以上600μm未満の粒子が無機粉体中に20〜45質量%含有されるとともに、粒径600μm以上1180μm未満の粒子が無機粉体中1質量%以下の量で含有されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材及びその施工方法に関し、特に、コンクリート構造物の表面に塗布し、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することができる、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートは、自然環境の下で、時間の経過に従い、次第にその表面から劣化が進行することが広く知られている。
特に、アルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の劣化は、コンクリート中に含まれる骨材の種類によってアルカリ骨材反応が生じるためであり、具体的には、コンクリート中に含有される水酸化アルカリと砂や砂利などの骨材との間の化学反応によって生成するアルカリ・シリカゲルが、コンクリート中の余剰水を吸水し、それによって生じる膨張圧力がコンクリート構造物にひび割れを発生させ、当該ひび割れから、雨水が浸入したり、塩害を招いたりして、結局コンクリートが劣化してしまい、崩壊させるに至る。
【0003】
したがって、アルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の劣化を抑制するには、コンクリート中で生成するアルカリ・シリカゲルの吸水膨張を防止するために、外部からの水の補給を遮断し、さらにコンクリート中の余剰水が外部に蒸発できる性能を有する表面被覆材でコンクリート表面を保護する必要がある。
更に、かかる表面被覆材には、コンクリートの変形やひび割れの進行に追従できる伸び能力である追従性と、コンクリートへの高い付着性が要求される。
【0004】
このようなアルカリ骨材反応によるコンクリートの劣化を抑制するため、コンクリート表面に塗布する表面被覆材としては、主に有機系被覆材やポリマーセメント系被覆材がある。
一般に、有機系被覆材は、樹脂により緻密で柔軟性に富む被覆を形成することができるため、外部からの水を遮断し、コンクリートの変形やひび割れの進行に追従できる反面、コンクリート中の余剰水を外部に蒸発させることができないため、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することが困難である。
【0005】
一方、ポリマーセメント系被覆材は、ポリマーと無機粉体との混合割合を調整することによって防水性と水蒸気透過性との両特性を有する材料であるが、従来のポリマーセメント系被覆材中のポリマー成分と無機粉体との混合割合は、無機粉体100重量部に対してポリマー成分通常50重量部付近またはそれより少ないため、有機系被覆材と比較してひび割れ追従性が劣っている。
また、低温になるほどポリマーの伸び能力が低下し、ポリマーセメント系被覆材のひび割れ追従性がさらに低下するため、ポリマーの混合割合を高くしてひび割れ追従性を高めたポリマーセメント系被覆材が望まれる。
しかしながら、ポリマーの混合割合を多くするほど水蒸気透過性は低下し、アルカリ骨材反応による膨張を十分に抑制できない。
【0006】
この点に鑑み、例えば、特開2003−313486号公報には、アクリルエマルション樹脂溶液30〜50重量%と、無機質成分50から70重量%とを含んだ塗料であって、前記無機質成分が、少なくとも骨材30〜60重量%とセメント20〜50重量%とを含み、塗装層には水蒸気を通す複数の細孔が形成されて水蒸気透過性を有するとともに防水性を呈し、ひび割れ追従性を良好とすることを目的とした塗料が教示されている。
【0007】
また、例えば、特開2000−17742号公報には、コンクリート構造物の表面に、カチオン系(メタ)アクリル重合体エマルション及び無機質水硬性物質を含有する組成物を硬化させてなる塗膜を形成し、当該塗膜表面にエポキシ樹脂を含有する組成物を硬化させてなる下塗材塗膜を形成し、その表面に、アルキル基の炭素数が4〜10であるアルキル(メタ)アクリレートを30〜98重量%の共重合割合とする共重合体を含有する組成物を硬化させてなる塗膜を形成させたコンクリート構造物の保護方法が開示されており、コンクリート構造物内部に滞留した水分を速やかに放出してアルカリ骨材反応を防止し、コンクリート構造物のひび割れに治しても優れた追従性を有することを目的としたコンクリート構造物の保護方法が教示されている。
【0008】
しかし、特開2003−313486号公報に記載されている技術では、伸び率が100%以上で水蒸気透過性が5mg/cm・日(50g/m・日)以上有する塗膜を形成することができず、また、特開2000−17742号公報には、伸び率が100%以上で水蒸気透過性が5mg/cm・日(50g/m・日)以上有する塗膜の例がなく、コンクリート中の余剰水を外部に蒸発させることが不十分である。
更に、上記従来のものでは、コンクリート構造物の追従性が十分ではなく、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張の抑制が満足できるものではなく、コンクリート構造物の均一な劣化防止を十分に期待することはできない。
【特許文献1】特開2000−17742号公報
【特許文献2】特開2003−313486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解決し、コンクリート構造物への施工に関し、アルカリ骨材反応によって発生したアルカリ・シリカゲルが、コンクリート中の余剰水を吸水し、それによって生じる膨張圧力がコンクリート構造物にひび割れを発生させて劣化を招くことを防止し、高い水蒸気透過性を有するとともに、高いひび割れ追従性を有して、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することができる、伸び率が100%以上で水蒸気透過性が5mg/cm・日以上有するポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を提供することである。
また本発明の他の目的は、取り扱いが容易で、上記表面被覆材の特性を有効に発現させることができ、高強度で耐久性の高い構造物を得ることができる簡便な、当該コンクリート表面被覆材の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、表面被覆材中に含まれるポリマーの混合割合を多くして、高いひび割れ追従性を実現するだけでなく、高い水蒸気透過性を失わない、アルカリ骨材反応による劣化に対応したポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を得るべく検討を重ねた結果、特定の組成によりこの課題を解決できるとの知見を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、セメント、平均粒径が150μm以上で最大粒径が1180μm未満の増量材及び、アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンとを含有し、当該セメント及び当該増量材の無機粉体中、前記増量材は粒径150μm以上600μm未満の粒子が無機粉体中に20〜45質量%含有されるとともに、粒径600μm以上1180μm未満の粒子が無機粉体中1質量%以下の量で含有されてなることを特徴とするものである。
好適には、上記本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材において、セメント:増量材が質量比で40:60〜80:20である無機粉体100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーの水性ポリマーディスパージョンがポリマー固形分で40〜100質量部含有されてなることを特徴とするものである。
【0012】
また、更に好適には、上記本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材において、前記アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンのガラス転移温度が−50〜−20℃であることを特徴とするものである。
本発明のコンクリート表面被膜組成物の施工方法は、上記本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を、コンクリート構造物の表面に塗布または散布することを特徴とする施工方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、高い水蒸気透過性を有するとともに、高いひび割れ追従性を有するので、アルカリ骨材反応によって発生したアルカリ・シリカゲルが、コンクリート中の余剰水を吸水することがなく、従ってコンクリート構造物にひび割れを発生させて劣化を招くことを防止することができる。
更に、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張を抑制することが可能となり、更にコンクリート構造物との接着性能も優れるため、長期に渡り前記効果を維持することが可能となる。
【0014】
すなわち、コンクリート構造物にひび割れが発生した場合であっても、これに追従することが可能となり、外部からの水分の浸入を長期に渡り、防止することができることとなり、更に、水蒸気透過性に優れた成膜が形成されるので、コンクリート内部を乾燥状態とすることができ、アルカリ骨材反応の発生を抑制することもできるのである。
また本発明の当該コンクリート表面被覆材の施工方法は、施工方法が簡便で、上記表面被覆材の特性を有効に発現させることができ、高強度で耐久性の高い構造物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を好適な態様によって説明するが、これらに限定されるものではない。
すなわち、本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、セメント、平均粒径が150μm以上で最大粒径が1180μm未満の増量材及び、アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンとを含有し、当該セメント及び当該増量材の無機粉体中、前記増量材は粒径150μm以上600μm未満の粒子が無機粉体中に20〜45質量%含有されるとともに、粒径600μm以上1180μm未満の粒子が無機粉体中1質量%以下の量で含有されてなるものである。
ここで、本発明の表面被覆材が適用できるコンクリートとしては、劣化が進行する前のコンクリートや、劣化してしまったコンクリートのいずれのコンクリート構造物をも含むものであり、鉄筋コンクリート等の鋼材を含むコンクリート構造物やアルカリ骨材反応を起こした、または起こす可能性がある骨材を含むコンクリートも含まれるものである。
また、本発明において「コンクリート」とは、硬化したコンクリートのみならず、硬化したセメント、モルタルをも含む概念である。
【0016】
本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材に用いられるセメントとしては、水硬性カルシウムシリケート化合物を主体とするセメントであればその種類は限定されず、普通、早強などの各種ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント及びフライアッシュセメントの各種混合セメントや、白色ポルトランドセメント及びアルミナセメント等、市場で入手できる種々のセメントを例示することができ、これらを単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0017】
また、本発明における上記コンクリート表面被覆材に用いられる増量材は、長期強度の向上、収縮の緩和及びクラック発生防止のため、ポゾラン活性を有する材料である高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、I型及びII型及びIII型無水石膏、珪石粉、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂6〜7号などの、公知にセメントに混合することのできる増量材が挙げられ、これらを単独で、あるいは混合して用いることができる。
かかる増量材は、その粒子の平均粒径が150μm以上であって、かつ最大粒径が1180μm未満とするものである。
このように増量材の粒子の大きさを規定することにより、表面被覆材に十分な水蒸気透過性を与えるとともに、外部から侵入する水分を有効に遮断することが可能となる。
【0018】
また、セメント及び増量材の無機粉体中の前記増量材は、粒径150μm以上600μm未満の増量材を20〜45質量%含み、粒径600μm以上1180μm未満の増量材が1質量%以下の量で含有するものである。
このことが、上記効果をより有効に発現させるために望ましい。
粒径150μm以上600μm未満の増量材が無機粉体中、20質量%より少ない量で含まれていると、高い水蒸気透過性が得られず、一方45質量%を越える量で増量材に含まれていると、得られるコンクリート表面被覆材中に対する十分な水蒸気透過性が得られるが、外部から浸入する水分に対する防水性が劣ってしまうこととなる。
更に、粒径600μm以上1180μm未満の増量材を無機粉体中、1質量%を超えて含むと、高い水蒸気透過性は得られるものの、外部の水分に対する遮水性能が十分ではない。
【0019】
好適には、前記セメントと前記増量材とを含有する無機粉体中、当該セメントと増量材とは、セメント:増量材が質量比で40:60〜80:20、好ましくは45:55〜70:30であることが好適である。
これは、セメントが当該無機粉体中40質量%より少ない量で含有されると、コンクリート表面での十分な接着性能が得られず、一方、セメントが80質量%より多いと、得られる表面被覆被膜に十分な水蒸気透過性が付与されない場合があるからである。
更に望ましくは、得られるコンクリート表面被覆材の塗布または散布量の膜厚は、一般的に約0.5〜1.5mmであり、均一な膜をコンクリート構造物表面に成膜させることから、600μm以上1180μm未満の粒径の増量材は、多く含有されないことが望ましい。
【0020】
本発明のコンクリート表面被覆材に用いられるポリマーディスパージョンは、アクリル系ポリマー水性ディスパージョンであり、スチレン−アクリル系ポリマー水性ディスパージョンも含まれるものである。
上記無機粉体や、必要に応じて添加される増粘剤や消泡剤等の混和剤と安定に混合できるものであれば、特に限定されず、任意のアクリル系ポリマーディスパージョンが使用できる。
当該ポリマーディスパージョンは、水にアクリル系ポリマーを分散させた状態であるので、表面被覆材の水分が蒸発し、ポリマー粒子同士が結合しポリマーフィルムを形成するため、コンクリート構造物表面から水分蒸発を抑制することができる。
【0021】
当該アクリル系ポリマーディスパージョンとしては、アクリル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、メタクリル酸エステル共重合体樹脂、アクリル酸エステル・スチレン共重合体樹脂等の種々のディスパージョンが例示でき、これらを単独でまたは混合して用いることができる。
これらの混和用ポリマーは、変形追従性能、即ち弾性を付与することを目的に使用され、その変形追従性能は、使用するポリマーのガラス転位温度に依存しているところが大きいものである。
従って、本発明におけるポリマーセメント系表面被覆材に混合できる混和用アクリル系ポリマーとしては、そのガラス転移温度が−50〜―20℃であるものを使用することができ、好ましくは−25〜−45℃、より好ましくは−25〜−35℃である。
ガラス転移温度が−20℃よりも高いものは、常温でのひび割れ追従性に優れているが、低温でのひび割れ追従性が急激に低下してしまうことがあり、一方、ガラス転移温度が−50℃よりも低いものは、成膜したポリマーの強度が低く、表面被覆材の付着強度の低下を招くことがあるからである。
【0022】
かかるアクリル系混和用ポリマーは、セメントと増量材を含む無機粉体100質量部に対して、ポリマー固形分比が40〜100質量部、好ましくは45〜80質量部の量で添加混和されていることが望ましい。
かかる範囲であると、粘性を良好に保持でき、付着性が優れ、またひび割れ追従性も十分に確保できるからであり、40質量部より少ないと、ひび割れ追従性が低下する場合があり、一方、100質量部より多いと、表面被覆材の成膜が遅れ、相対的に含有されるセメント量が減少するためコンクリートとの付着性が低下してしまう場合があり、好ましくない。
【0023】
また本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材には、更に、必要に応じて、他の公知の化学混和剤、例えば、増粘剤、減水剤等も、適宜添加することができる。
【0024】
本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、原材料である上記セメント、増量材、アクリル系ポリマーディスパージョン及び水、必要に応じて上記公知の増粘剤や減水剤等の混和剤を混合して製造することができるものであるが、その混合方法は特に限定されず、前記材料中の一部を予め混合して用いてもよいし、また現場にて全材料を一度に混合してもよい。
【0025】
また、配合される水の量は、使用する材料の種類や配合により変化させることができるため、一義的に決定されるものではないが、通常、水/無機粉体比で25〜80質量%が好ましく、特に30〜60質量%が好ましい。
かかる範囲で水を配合することにより、十分な作業性と十分な強度発現性が得られることとなる。
なお、本発明における水/無機粉体比を算出する際の水には、上記混練水のほかに、ポリマーディスパージョン中に含まれる水も含むものである。
【0026】
このようにして、得られた本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材のコンクリート表面への塗布または散布方法としては、コンクリート構造物に均一に塗布または散布できるのであれば、手段は限定されず、刷毛やローラー、コテ塗り等の通常の塗布手段や、公知のスプレー噴霧及びポンプ吹付け機等による散布等、通常行なわれる方法を任意に選択することにより、施工することができる。
【0027】
また、当該塗布または散布量についても特に限定されないが、少ない塗布または散布量で上記効果が得られればよく、800〜1800g/m、好ましくは1000〜1600g/mであることが、伸び率および水蒸気透過性の確保の点から好ましい。
このようにして得られた本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材の塗膜は、伸び率が100%以上で、水蒸気透過性が5mg/cm・日以上である性能を有するものである。
但し、伸び率は及び水蒸気透過率は、後述する試験例で記載するように、伸び率は、JIS A 6910の「複層仕上塗材の伸び試験方法」に準じて測定した数値であり、水蒸気透過率は、JIS Z 0208の「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準じて測定した数値を示す。
【0028】
このように、本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材の塗膜の伸び率が100%以上となることで、コンクリート構造物にひび割れが発生した場合であっても、これに追従することが可能となり、外部からの水分の浸入を長期に渡り、防止することができることとなる。
更に、水蒸気透過性が5mg/cm・日以上である性能を有することで、水蒸気透過性に優れた成膜が形成されるので、コンクリート内部を乾燥状態とすることができ、アルカリ骨材反応の発生を抑制することもできることとなる。
【実施例】
【0029】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例により説明するが、これらに限定されるものではない。
使用材料
ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を調製し、試験するにあたり、以下の材料を使用した。
・セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
・増量材:下記表1に示す粒度分布及び平均粒径を有する石灰石粉末A、B、C、D、E
・アクリル系ポリマーディスパージョン:スチレン−アクリル系ポリマーディスパージョン(固形分57質量% ガラス転移温度−22℃、商品名LDM6481、ニチゴー・モビニール社製)
・増粘剤:商品名PS−20L(松本油脂製薬社製)
【0030】
【表1】


なお、粒径は各オーダーのJIS篩を用い篩残分と篩通過分を測定し表した値である。
【0031】
実施例1〜9;比較例1〜3
表2に示す配合割合で、各材料を20℃の恒温室内で高速ハンドミキサを用いて均一に混練し、JASS 15M−103に規定されるフロー値が120〜130mmになるように調整して、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を調製した。
但し、表2中、ポリマー/粉体比(%)は、ポリマーディスパージョン中のポリマー固形分の、普通セメント及び石灰石粉の無機粉体に対する質量%を表す。
また、150μm以上600μm未満の増量材/粉体比(%)は、石灰石粉中の150μm以上600μm未満の粒径を有する石灰石粉の、普通セメント及び石灰石粉の無機粉体に対する質量%を表すものである。
【0032】
【表2】

【0033】
試験例1〜4
上記実施例1〜9及び比較例1〜3で得られた各ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を以下の試験に供し、その結果を表3に示す。
1)水蒸気透過性試験
上記各ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を離型板に、コテを用いて均一に塗布し、厚さ1mmの膜を成膜した。
次いで20℃、65%の相対湿度の恒温室で28日静置した前記各膜を脱型し、直径65mmの円形に打ち抜いたものを試験体として、JIS Z 0208の「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準じて、各試験体の水蒸気透過性を測定した。
【0034】
2)伸び試験
上記各ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を離型板に、コテを用いて均一に塗布し、厚さ1mmの膜を成膜した。次いで20℃、65%の相対湿度の恒温室で28日静置した前記各膜を脱型し、JIS K 6301の「加硫ゴム物理試験方法」に規定するダンベル状1号に打ち抜いたものを試験体として、JIS A 6910の「複層仕上塗材の伸び試験方法」に準じて、各試験体の伸びを測定した。
【0035】
3)付着性試験
試験基板として70×70×20mmのモルタル板に、上記各ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を、コテを用いて均一に塗布し、厚さ1mmの膜を成膜した。
次いで20℃、65%の相対湿度の恒温室で28日静置したものを試験体として、JIS A 6909の「複層仕上塗材の付着強さ試験法方法」に準じて、各試験体の付着性を測定した。
【0036】
4)透水性試験
試験基板としてJIS A 5403に規定する4mm厚のフレキシブル板に、上記各ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材をコテを用いて均一に塗布し、厚さ1mmの膜を成膜した。
次いで、20℃、65%の相対湿度の恒温室で28日静置したものを試験体として、JIS A 6910の「複層仕上塗材の透水性試験方法」に準じて、各試験体の透水率を測定した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示した試験結果から明らかなように、実施例1〜9については、良好なひび割れの進行に追従できる伸び能力(伸び率)及びコンクリートへの高い付着性(付着強度)を保持しつつ、高い水蒸気透過性(透湿度)及び高い遮水性能(透水率)が得られたことがわかる。
一方、比較例1の試験結果から、粒径150μm以上600μm未満の増量材が無機粉体中20質量%より少ない場合には、高い水蒸気透過性が得られず、比較例2の試験結果から、粒径150μm以上600μm未満の増量材が無機粉体中45質量%より多い場合であると、高い水蒸気透過性は得られるものの外部の水分に対する遮水性能が十分ではない。
【0039】
また、比較例3の試験結果から、粒径150μm以上600μm未満の増量材が無機粉体中20〜45質量%の範囲にあっても粒径600μm以上1180μm未満の増量材が無機粉体中1質量%を超えて含む場合も、高い水蒸気透過性は得られるものの外部の水分に対する遮水性能が十分ではない。
更に、比較例4の試験結果から、ポリマーディスパージョンの添加量が少ない場合には、良好な水蒸気透過性と付着性を有するものの、ひび割れの進行に追従できる伸び能力は不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材は、アルカリ骨材反応を起こす可能性があるコンクリート構造物やアルカリ骨材反応によって劣化したコンクリート構造物への表面被覆に有効適用することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、平均粒径が150μm以上で最大粒径が1180μm未満の増量材及び、アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンとを含有し、当該セメント及び当該増量材の無機粉体中、前記増量材は粒径150μm以上600μm未満の粒子が無機粉体中に20〜45質量%含有されるとともに、粒径600μm以上1180μm未満の粒子が無機粉体中1質量%以下の量で含有されてなることを特徴とする、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材。
【請求項2】
請求項1記載のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材において、セメント:増量材が質量比で40:60〜80:20である無機粉体100質量部に対して、前記アクリル系ポリマーの水性ポリマーディスパージョンがポリマー固形分で40〜100質量部含有されてなることを特徴とする、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材において、前記アクリル系ポリマーの水性ディスパージョンのガラス転移温度が−50〜−20℃であることを特徴とする、ポリマーセメント系コンクリート表面被覆材。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のポリマーセメント系コンクリート表面被覆材を、コンクリート構造物の表面に塗布または散布することを特徴とする、コンクリート表面被膜の施工方法。



【公開番号】特開2006−248879(P2006−248879A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71585(P2005−71585)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】