説明

ポリマーナノコンポジット樹脂組成物

【課題】耐熱性の高さの指標であるガラス転移温度が高く、且つ高密着性及び低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】熱硬化性樹脂3と、硬化剤4と、シルセスキオキサン誘導体2により表面改質処理された無機ナノフィラー1とを含んでなるポリマーナノコンポジット樹脂組成物、かかる組成物を硬化してなるポリマーナノコンポジット樹脂硬化物、かかる組成物の製造方法、かかる組成物により封止してなる半導体モジュール、ならびに半導体モジュールの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールの封止に適用される絶縁性、高耐熱性、低吸湿性、高機械特性などの物性を有するポリマーナノコンポジット樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量、高電圧環境下でも動作可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワーモジュールが、民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、搭載している半導体素子によって生成される熱が高温に達するものがある。その理由としては、半導体素子が扱う電力が大きい場合、半導体素子における回路の集積度が高い場合、または回路の動作周波数が高い場合などが挙げられる。この場合、半導体モジュールを構成している絶縁封止樹脂には、発熱温度以上のガラス転移温度(Tg)が必要となる。
【0003】
Tgを向上させるためには樹脂の分子運動を抑制するために、無機フィラーをナノメートルサイズにしたナノフィラーを樹脂に混合させる方法が用いられている。樹脂としてはエポキシ系樹脂が用いられている(特許文献1)。
【0004】
また、無機フィラーと樹脂の結合を強くするために、フィラーに表面改質処理を行うことが知られており、表面改質処理として、シランカップリング剤が一般的に用いられている。
【0005】
一方、半導体モジュールの絶縁封止樹脂は、高耐熱性だけでなく、様々な特性を同時に有することが求められる。この特性としては、低吸湿性(低含水化)、低熱膨張、密着性、機械的強度などが挙げられる。この中で特に高耐熱性を実現するためのいくつかの技術が知られている(非特許文献1)。
【0006】
非特許文献1には、無機ナノフィラーを分散させることによってポリマー架橋点が多くなり、その結果Tgが上がることが記載されている。しかし、エポキシ樹脂などの架橋構造とする、フェニル基などの剛直な骨格を入れる、自由体積空間を少なくし緻密にする等の工夫によって、樹脂そのものの耐熱性を上げるだけでは、さらなる耐熱性の向上、長期の機能保持を実現することができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−292866号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ネットワークポリマー vol.25, No.11(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐熱性の高さの指標であるガラス転移温度が高く、且つ高密着性及び低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂組成物、樹脂硬化物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
半導体モジュールの絶縁性封止樹脂は、高耐熱性を要求されると同時に、低吸湿性(低含水化)、低熱膨張、密着性、機械的強度など多くの特性が必要とされる。本発明者らは、特に、高Tgと密着性の向上に着目した。すなわち、高Tg化を実現するために、樹脂そのものの高Tg化、及び無機ナノフィラーとポリマーとの密着性を高めることに加え、樹脂による水分の吸収を抑えることを見出した。無機ナノフィラーとポリマーとの密着性が低いと、水分の吸収による剥離増長が、フィラーの添加によって実現した耐熱性を失わせ、所望の耐熱性を保持できなくなり、長期信頼性に影響を与えることが考えられる。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、シロキサン結合を有するシルセスキオキサン誘導体を用い、無機ナノフィラーに表面改質処理を行うことを考え、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、一実施形態によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化1)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーとを含んでなる。
【0013】
Rは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェノール基、イソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を含むことが好ましい。
【0014】
前記シルセスキオキサン誘導体の構造は、ランダム構造、ラダー構造、カゴ構造からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0015】
前記無機ナノフィラーは、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0016】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
本実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物は、半導体封止材として用いられることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明は別の実施形態によれば、前記ポリマーナノコンポジット樹脂組成物を硬化させてなる、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物である。
【0019】
本発明はまた、別の局面によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法であって、下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化2)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーを、熱硬化性樹脂に所定の配合割合で混合する第1の混合ステップと、前記無機ナノフィラーと、前記熱硬化性樹脂との混合物に、硬化剤を所定の配合割合で混合する第2の混合ステップとを含む。
【0020】
前記表面改質処理された無機ナノフィラーは、無機ナノフィラーと、下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化3)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体とを溶液中で分散させ、反応させるステップと、反応後の無機ナノフィラーを乾燥させるステップとにより調製されることが好ましい。
【0021】
本発明は、さらにまた別の実施形態によれば、半導体モジュールであって、金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、前述のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる。かかる半導体モジュールの製造方法は、金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、前述のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップとを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、半導体モジュールの封止に用いることができる、高いガラス転移温度を保持し、且つ高密着性及び低吸湿性を実現するポリマーナノコンポジット樹脂組成物を得ることができる。これにより、半導体モジュールの基板と封止樹脂との界面近傍への水分の吸収を抑えることができ、半導体モジュールの長期信頼性に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の一例を示す模式図である。
【図2】本発明のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の一例として、アミノ基を有するシルセスキオキサン誘導体を用いた場合における、無機ナノフィラーとシルセスキオキサン誘導体の化学結合及びエポキシ樹脂とシルセスキオキサン誘導体の化学結合を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、第一実施の形態によれば、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化4)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーとを含んでなる。
【0025】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。特に好ましくは、ビスフェノール型や多官能型を用いることができる。
【0026】
エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂などを用いることができる。
【0027】
硬化剤としては、特に限定されないが、アミン硬化剤、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、酸無水物系、フェノールノボラック型、フェノールアラルキル、トリフェノールメタン型フェノール樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂の種類によって、組み合わせて用いる硬化剤の種類が異なり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂にアミン硬化剤、といった好適な組み合わせを挙げることができるが、これらには限定されない。
【0028】
硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂のエポキシ当量及び硬化剤のアミン当量もしくは酸無水物当量から決定することができる。エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を用いる場合にも、同様に、各樹脂の反応当量、硬化剤の反応当量に基づき、配合割合を決定することができる。
【0029】
本実施形態においては、シルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーを構成成分とする。未処理の無機ナノフィラーとしては、溶融シリカ(SiO)、結晶シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも一つであってよいが、これらには限定されない。これらのうち1種、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。無機ナノフィラーは、特に好ましくは、溶融シリカである。
【0030】
本実施形態に係る表面改質処理前の無機ナノフィラーは、1〜100nmの平均粒径を有することが好ましく、3〜50nmの平均粒径を有することがより好ましく、5〜30nmの平均粒径を有することがさらに好ましい。十分なTg向上効果が得られるためである。本明細書において、無機ナノフィラーの平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定した値をいうものとする。
【0031】
シルセスキオキサンは、基本構成単位が下記式で示されるT単位:
RSiO3/2 ・・・(化5)
(式中、Rは有機官能基である。)
であるポリシロキサンの総称である。本明細書において、シルセスキオキサン誘導体とは、上記式で示されるT単位の繰り返し構造を有する化合物:
nRSiO3/2 ・・・(化6)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
をいうものとする。上記式中、nは4〜12の範囲であることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るシルセスキオキサン誘導体のシロキサン骨格(Si−O−Si骨格)の構造は、ランダム構造、ラダー構造、カゴ構造からなる群から選択される少なくとも一つの構造を含むことが好ましい。カゴ構造の場合は、例えば、八量体、十量体、十二量体が挙げられ、これらの混合物であってもよい。
【0033】
本実施形態に係るシルセスキオキサン誘導体の有機官能基は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェノール基、イソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を含むことが好ましい。これにより、シルセスキオキサン誘導体と熱硬化性樹脂などのポリマーとの架橋反応を進行させることができるため、分子間運動が抑制される。
【0034】
シルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーの調製は、スラリー法と呼ばれる湿式法で行うことができる。具体的には、有機溶媒、例えば、テトラヒドロフラン中に分散したシルセスキオキサン誘導体に、無機ナノフィラーを加え、約30分攪拌する。シルセスキオキサン誘導体の添加量は、無機ナノフィラーの重量を100重量部として、0.5〜5重量部とすることが好ましい。次に、濾過を行って余分な溶液を取り除き、例えば、トレー等に広げて、100〜200℃にて約90分乾燥させる。その後、表面改質処理された無機ナノフィラーを粉砕する。粉砕には、例えばボールミルや、円筒状容器内でブレードが高速回転するヘンシェルミキサーを用い、一次粒子径になるまで粉砕することが好ましい。
【0035】
表面改質処理された無機ナノフィラーの配合量は、熱硬化性樹脂の重量を100重量部として、0.1〜10重量部とすることが好ましく、0.5〜5重量部とすることがさらに好ましい。
【0036】
次に、本実施形態に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物を製造方法の観点から説明する。ポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法は、シルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーを、熱硬化性樹脂に所定の配合割合で混合する第1の混合ステップと、前記無機ナノフィラーと、前記熱硬化性樹脂との混合物に、硬化剤を所定の配合割合で混合する第2の混合ステップとを含む。表面改質処理された無機ナノフィラーは、未処理の無機ナノフィラー、未反応のシルセスキオキサン誘導体を含んでもよい。また、前記表面改質処理された無機ナノフィラーは、無機ナノフィラーと、シルセスキオキサン誘導体とを溶液中で分散させ、反応させるステップと、反応後の無機ナノフィラーを乾燥させるステップとにより調製されることが好ましい。第1の混合ステップでは、例えば、オリフィス加圧通過型分散機を用いて実施することができる。
【0037】
本実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物及びその製造方法によれば、半導体封止材として好適に用いることができる、組成物及びその製造方法を提供することができる。かかるポリマーナノコンポジット樹脂組成物を、加熱硬化させると、ガラス転移温度が従来よりも向上し、且つ高密着性及び低吸湿性を備えたポリマーナノコンポジット樹脂硬化物が得られる。以下、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物について説明する。
【0038】
ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の製造方法は、上記組成物の製造方法に、さらに組成物を加熱硬化するステップを含む。加熱硬化は、一段階で行うこともできるし、二段階に分けて行うこともできる。また、硬化温度及び時間は、熱硬化性樹脂の種類により、当業者が適宜、決定することができるが、例えば、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を使用する場合には、2段階硬化では、50〜100℃で1〜3時間程度、さらに100〜150℃で1〜3時間程度、硬化することができる。
【0039】
硬化して得られたポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の一例の模式図を示す。図1を参照すると、一例として示す硬化物は、シルセスキオキサン誘導体2で表面改質処理された無機ナノフィラー1と、エポキシ樹脂3と、硬化剤4とで構成された組成物を硬化したものである。
【0040】
硬化して得られたポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の一例として、アミノ基を有するシルセスキオキサン誘導体を用いた場合における、無機ナノフィラーとシルセスキオキサン誘導体の化学結合及びエポキシ樹脂とシルセスキオキサン誘導体の化学結合を表した模式図を示す。図2を参照すると、無機ナノフィラー1表面の水酸基が加熱乾燥によって除去された後、シルセスキオキサン誘導体2のアミノ基による置換反応が進行し、化学結合が形成される。また、シルセスキオキサン誘導体2のアミノ基は、エポキシ樹脂3のエポキシ基とも反応し、化学結合が形成される。
【0041】
本実施形態において、シルセスキオキサン誘導体は、表面改質処理剤として用いる。これにより、無機ナノフィラーとシルセスキオキサン誘導体との界面に結合が形成されるため、分子間運動が拘束される。また、シルセスキオキサン誘導体中のシロキサン骨格に起因する撥水力により、無機ナノフィラーとシルセスキオキサン誘導体との界面近傍への水分の吸収を抑えることができる。そのため、無機ナノフィラーとシルセスキオキサン誘導体との界面の密着性の低下が抑制される。
【0042】
半導体素子の封止材として用いられる際、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物は、半導体モジュールと一体になって製造される。そのような半導体モジュールは、金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、前述の実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる。そして、かかる半導体モジュールの製造方法は、金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、前述の実施形態によるポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップとを含む。本発明に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより、生成される熱が高温に達する半導体素子であっても有効に封止することができ、高密着性及び低吸湿性を達成することができる。また、本発明に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物は、半導体素子の封止材としてだけではなく、感光ドラムのオーバーコートとしても用いられる。
【実施例】
【0043】
作製手順を以下に述べる。なお、本実施例のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物は半導体モジュールの金型への成型ではなく、試験片として作製した。
【0044】
(実施例)
無機ナノフィラーとして溶融シリカ(SiO)の粒子径12nmのものを準備した(日本アエロジル社製 AEROSIL200)。これに表面改質処理剤にて表面改質処理を行った。表面改質処理剤には、有機官能基にアミノ基を有するシルセスキオキサン誘導体を用いた。表面改質処理剤は無機ナノフィラー100重量部に対し1重量部とした。表面改質処理剤による処理は、スラリー法で実施した。テトラヒドロフラン溶液に分散したシルセスキオキサン誘導体に無機ナノフィラーを加え、約30分攪拌し、濾過を行い、余分な溶液を取り除いたのち、トレーに広げて、150℃にて約90分乾燥させた。その後、微粒化装置ナノマイザーを用いて、無機ナノフィラーを平均粒径として12nmにまで粉砕した。
【0045】
次に、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、JER828)を、硬化剤としては、アミン硬化剤(三菱化学(株)製、JERキュア113)を、エポキシ当量と活性水素当量比の配合重量となるよう準備した。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に対し、アミン硬化剤を、60重量部とした。
【0046】
エポキシ樹脂に、先立って調製した表面改質処理された無機ナノフィラーを混合し、オリフィス加圧通過型分散機にて混合した。この混合物に上記配合量に従ってアミン硬化剤を加え、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物を得た。次に、吸湿性試験の試験片金型(縦1×横5×高さ0.2cm)に流し込み、80℃×2時間、後硬化にて150℃×4時間の硬化を行い、実施例のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0047】
(比較例1)
表面改質処理剤として、従来のシランカップリング剤である反応性官能基部にアミン、加水分解性基にメトキシ基をもつシラン化合物(東レ・ダウコーニング社製、Z−6011)を用いたこと以外は上記実施例と同様にして、比較例1のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0048】
(比較例2)
無機ナノフィラーに表面改質処理を行わなかったこと以外は上記実施例と同様にして、比較例2のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0049】
(実験例)
実施例と比較例1、2のポリマーナノコンポジット樹脂硬化物について、吸湿性試験、密着性試験およびガラス転移温度の測定を行った。吸湿性試験は、半導体における高温高湿試験として一般的なプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。試験は、プレッシャークッカー槽(TPC−412M、ESPEC(株)製)を用い、温度130℃、湿度85%RH、さらし時間100Hr、中間取出し時間25Hr/50Hrの条件で行った。密着性試験は、一般的なクロスカット法(JIS K 5600−5−6)により行った。石英ガラス上に表面改質処理剤を塗布し、その塗膜に1mm角の格子パターン(100マス)をカッターで切り込んだ後、セロハンテープを貼って引き剥がした。剥離後の塗膜の剥離個数をカウントした。ガラス転移温度の測定は、示差走査熱量計(DSC6200 SII製)を用い、25〜270℃の範囲で10℃/minの昇温速度、Nガス 35ml/min下で測定を行った。表1に結果を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例では、高いTgを保持しながら、高い密着性及び低い吸湿性を実現することができた。これは、シルセスキオキサン誘導体中のシロキサン部分の撥水性により吸湿を防いだことと、エポキシ樹脂のエポキシ基とシルセスキオキサン誘導体のアミノ基の反応により架橋が進行し、従来のシランカップリング剤を用いたときと比較してよりポリマー架橋点が増えたため、分子間運動が抑制されたことが考えられる。このような低い吸湿性は、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物の長期の安定性に繋がると考えられる。比較例1は表面改質処理剤として従来のシランカップリング剤を用いているため、吸湿性、密着性及びガラス転移温度の全てにおいて、実施例よりも劣る結果となった。比較例2は表面改質処理を行っていないため、吸湿性及びガラス転移温度が実施例よりも明らかに劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るポリマーナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物によれば、生成される熱が高温に達する半導体素子であっても有効に封止することができ、且つ高密着性及び低吸湿性を実現することができるため、半導体モジュールの製造に極めて有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 無機ナノフィラー
2 シルセスキオキサン誘導体
3 エポキシ樹脂
4 硬化剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化1)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーと、
を含んでなるポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項2】
Rが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、フェノール基、イソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を含む、請求項1に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項3】
前記シルセスキオキサン誘導体の構造が、ランダム構造、ラダー構造、カゴ構造からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1又は2に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機ナノフィラーが、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、チタニア、窒化アルミ、窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項6】
半導体封止材として用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を硬化させてなる、ポリマーナノコンポジット樹脂硬化物。
【請求項8】
下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化2)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体により表面改質処理された無機ナノフィラーを、熱硬化性樹脂に所定の配合割合で混合する第1の混合ステップと、
前記無機ナノフィラーと、前記熱硬化性樹脂との混合物に、硬化剤を所定の配合割合で混合する第2の混合ステップと
を含む、ポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記表面改質処理された無機ナノフィラーが、無機ナノフィラーと、下記式:
nRSiO3/2 ・・・(化3)
(式中、Rは有機官能基であり、nは2以上の整数である。)
で示されるシルセスキオキサン誘導体とを溶液中で分散させ、反応させるステップと、
反応後の無機ナノフィラーを乾燥させるステップと
により調製される、請求項8に記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
金属ブロックと、前記金属ブロックの一方面に形成された絶縁層と、前記金属ブロックの他方面に実装された回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止してなる半導体モジュール。
【請求項11】
金属ブロックの一方面に絶縁層を形成する絶縁層形成ステップと、
前記金属ブロックの他方面に回路素子を実装する素子実装ステップと、
前記回路素子を実装してなる半導体素子組立体を、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーナノコンポジット樹脂組成物により封止する樹脂封止ステップと
を含む半導体モジュールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87191(P2013−87191A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228880(P2011−228880)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】