説明

ポリマーヒューズおよびそれを用いた電子機器

【課題】電子機器や家電機器に使用されるヒューズに関して、微小化、軽量化が容易で、断線が確認しやすいポリマーヒューズを提供する。
【解決手段】共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマーを主成分とするヒューズ素子1の両端に電気導体2を形成した。当該ヒューズ素子1は当該導電性ポリマー2を溶解した後、塗布(印刷)して形成する。導電性ポリマーはポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリチオフェン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つであり、ドーパントはスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基およびこれらの塩基からなる群から選ばれた少なくとも一つを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーヒューズおよびそれを用いた電子機器に関するものであり、詳しくは、流れる電流が一定値を超えると断線または高抵抗化し電気的損害を防止する過電流防護装置として用いられる、ポリマーヒューズおよびそれを用いた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒューズは、定格以上の大電流から電気回路を保護する部品で、電気回路内に置かれ、普段は導体として振る舞うが、何らかの異常によって電気回路に定格以上の電流が流れると、自らを流れる電流によって発生したジュール熱が自らを溶かし、切断して電気回路に流れる電流を断つ。このように、ヒューズは、電気的損害を防止するための過電流防護装置として用いられている。ヒューズのうち、特に電力回路や電力機器で利用するものを電力ヒューズという。ヒューズは切断する電流の大きさにより、導体部分の大きさ・太さ・構成成分が異なる。上記導体部分は、通常、露出もしくは容器に収められており、導体の状態を確認できるよう、容器を透明なものとしたり、表示器を設ける等している。また、電気加熱を利用する機器(ドライヤー,コタツ等)では、設定温度以上に達すると溶断する温度ヒューズが設置されている場合が多い。このようなヒューズとしては、例えば、感温材に特定の融点を持つ絶縁性化学物質を使用する感温ペレット型温度ヒューズ(特許文献1)や、ヒューズ要素層が第1の中間絶縁層上に形成され、かつ第2の絶縁層が前記ヒューズ要素層に積層されてなる低抵抗ヒューズ(特許文献2)等が提案されている。
【特許文献1】特開2003−229042号公報
【特許文献2】特開2003−263949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものは、ヒューズの構造が複雑で、サイズの微小化、軽量化に限界があるとともに、製造コストが高価である。また、上記特許文献2に記載のものは、ヒューズ材料に金属を用いているため、強度や柔軟性に劣り、製造工程の簡略化が困難である。また、上記特許文献1,2に記載のものは、ヒューズが断線しても確認しにくい等の難点もある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、微小化、軽量化が容易で、断線が確認しやすいポリマーヒューズおよびそれを用いた電子機器の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(A)を主成分とするヒューズ材料からなるヒューズ素子を備えたポリマーヒューズを第1の要旨とする。また、本発明は、上記ポリマーヒューズを用いた電子機器を第2の要旨とする。
(A)共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマー。
【0006】
すなわち、本発明者らは、微小化、軽量化が容易で、断線が確認しやすいポリマーヒューズを得るため、共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマーに着目し、鋭意研究を重ねた。そして、共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマーは、ドーピングによって電子が非局在化するため導電性となるが、熱やアルカリによってドーピングが逆に進み、脱ドープ状態となり、導電性が低下して絶縁化することを突き止めた。また、大きな電流を流すことでも、部分的に発熱が起こり、脱ドーピング現象が確認できる。この脱ドープにより絶縁化する特性を利用し、導電性ポリマーをヒューズ材料として用いることにより、所期の目的を達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明のポリマーヒューズは、そのヒューズ素子が、共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマーを主成分とするヒューズ材料からなるため、上記導電性ポリマーが、熱やアルカリによって脱ドープ状態となり、導電性が低下して絶縁化する。また、大きな電流を流すことでも、部分的に発熱が起こり、脱ドーピング現象が確認できる。この脱ドープにより絶縁化する特性を利用し、導電性ポリマーをヒューズ材料として用いているため、微小化、軽量化が容易で、断線が確認しやすいという効果が得られる。
【0008】
また、上記導電性ポリマーが、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリチオフェン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つであると、重合しやすい、脱ドープ反応が起こしやすく、ヒューズへの加工が容易で、断線が確認しやすい着色が可能な点で優れている。
【0009】
また、上記ドーパントが、スルホン酸基,リン酸基,カルボン酸基およびこれらの塩基からなる群から選ばれた少なくとも一つを有すると、導電性を得るのに充分なドーピングが可能で、重合の均一性を付与したり、ヒューズ製造時の加工性を向上できる。
【0010】
そして、上記ドーパントが、有機溶剤に可溶であると、ヒューズを薄膜化、複層化、微細化したり、他の非共役系ポリマーとの微細な複合化が容易になる。
【0011】
また、上記導電性ポリマーと、非共役系ポリマーとを併用したヒューズ材料を用いてヒューズ素子を形成すると、ポリマーヒューズに機能性(強度、伸び、加工性)を付与することができる。
【0012】
また、上記ヒューズ素子の表面に、アミン化合物等のアルカリ性材料からなるアルカリ層を積層して配置すると、アミン化合物が熱等によりヒューズ素子側に移って脱ドープが促進されるため、わずかな電流(温度)での脱ドープ、断線化が可能となる。また、塗布、インクジェット等の簡便で微細なパターン形成により、微細で低コストなポリマーヒューズを作製することも可能となる。
【0013】
そして、上記アルカリ層が、非共役系ポリマーを含有していると、物性(強度、伸び、耐クリープ性、耐摩耗性等)を付与したり、溶解性の向上によるヒューズ素子との微細なパターン形成も可能になる。
【0014】
また、上記ヒューズ素子が、非共役系ポリマーで封止されてなると、電気的絶縁性を付与でき、漏電等による電子機器の誤動作を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明のポリマーヒューズは、下記の(A)を主成分とするヒューズ材料からなるヒューズ素子を備えている。
(A)共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマー。
【0017】
本発明のポリマーヒューズは、ドーパントの種類を代えることにより、必要に応じた電流量のヒューズ特性(流れる電流が一定値を超えると断線する)を制御することができる。上記ドーパントとしては、例えば、スルホン酸基,リン酸基,カルボン酸基およびこれらの塩基からなる群から選ばれた少なくとも一つを有するものが好ましい。このドーピングの強さは、ドーパントの分子構造によって異なり、例えば、分子量が小さいものや、立体障害のあるもの、官能基のドープ力が弱いものほど、少ないエネルギー(熱,電気)で脱ドープさせることが可能である。例えば、脱ドープのし難さ(ドープ力)は、塩素基<硫酸基であり、同じ硫酸基系では、立体障害の少ないものの方が強いため、ドデシルベンゼンスルホン酸<トルエンスルホン酸である。なお、重合時の溶剤でもある塩酸は、上記スルホン酸基含有のドーパントと比較し、塩素はドープ力が弱いためドーパントとなり得る。
【0018】
上記ドーパントの具体例としては、ルイス酸、Lowry−Brφnsted酸、レドックスドーパント、電荷移動錯体、ポリマー化したドーパント、低分子量のアルキル化剤、酸無水物等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0019】
上記ルイス酸およびLowry−Brφnsted酸としては、例えば、米国特許第5,160,457号に記載されているドーパント、米国特許第5,232,631号に記載されている官能化プロトン酸、米国特許第5,378,402号に記載されている重合体ドーパント等があげられる。
【0020】
上記ルイス酸およびLowry−Brφnsted酸の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸(HDBSA)、ドデシルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸(HBSA)、dl−カンファースルホン酸(HCSA)、メタンスルホン酸(HMSA)、アミノナフトールスルホン酸、メタニル酸、スルファニル酸、アリルスルホン酸、ラウリル硫酸、オクチルナフタレンジスルホン酸、ノニルナフタレンジスルホン酸、ジプロピルナフタレンジスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸、HClO4 、HBF4 、HPF6 、HF、燐酸、ピクリン酸、m−ニトロ安息香酸、ジクロロ酢酸、セレン酸、ホウ素酸、有機スルホン酸、およびポリオキソメタレートの無機クラスター、フルオロホウ酸、フルオロリン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリリン酸、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、フッ素含有ポリマーnafion、脂肪酸、環状脂肪酸、多塩基酸、酢酸、n−酪酸、ペンタデカフルオロオクタン酸、ペンタフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、モノブロモ酢酸、モノクロロ酢酸、シアノ酢酸、アセチル酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸、ギ酸、シュウ酸、安息香酸、m−ブロモ安息香酸、p−クロロ安息香酸、m−クロロ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、2,4−ジニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、ピクリン酸、o−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、トリメチル安息香酸、p−シアノ安息香酸、m−シアノ安息香酸、サリチル酸、5−アミノサリチル酸、o−メトキシ安息香酸、1,6−ジニトロ−4−クロロフェノール、マンデル酸、フタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸およびチオグリコール酸、リン酸エステル(ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、CF3 (CF2 7 SO3 H等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、HBSAが好適に用いられる。
【0021】
上記レドックスドーパントとしては、例えば、テトラフルオロボレート(BF4 - )、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6 - )、ヘキサフルオロホスフェート(PF6 - )、パークロレート(ClO4 - )、ナトリウム(Na+ )、プロトン(H3 + )およびナトリウムナフタリド等があげられる。
【0022】
上記電荷移動錯体としては、例えば、p−ベンゾキノン、フラビン、1,3,5−トリニトロベンゼン、1,2,4,5−テトラシアノベンゼン、ピロメリット酸無水物、クロラニル、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、3,5−ジニトロ安息香酸、1,3,7,9−テトラメチル尿酸、ベンゾトリフロキサン、テトラシアノテトラアザナフタレン、テトラシアノエチレン等があげられる。
【0023】
上記ポリマー化したドーパントとしては、例えば、末端もしくはペンダント型の炭素、燐もしくは硫黄含有酸基を有するポリマー類そしてそれらの塩類およびエステル、またはそれらの混合物が含まれる。具体例には、エチレン/アクリル酸のコポリマー類、ポリアクリル酸、エチレン/メタアクリル酸のコポリマー類、カルボン酸もしくはスルホン酸官能性ポリスチレン、ポリアルキレンオキサイド類およびポリエステル類、そしてポリエチレンもしくはポリプロピレンとアクリル酸もしくは無水マレイン酸ばかりでなくそれらの混合物から作られたグラフトコポリマー類、スルホン化ポリカーボネート類、スルホン化エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー類(EPDM)、スルホン化エチレン−スチレンコポリマー類、ポリビニルスルホン酸、スルホン化ポリ(フェニレンオキサイド)およびスルホン化ポリエステル類、例えばポリエチレンテレフタレート等に加えて、上記酸の特定のアルカリ金属および遷移金属塩、好適には上記酸のリチウム、マグネシウムおよび亜鉛塩等が含まれる。
【0024】
上記低分子量のアルキル化剤としては、例えば式R−X(式中、Rは、アルキル基、アリール基もしくはベンジル置換基を1つ以上含むC1-20ヒドロカルビル基を示し、Xは、Cl、BrまたはIを示す)で表されるものがあげられる。また、上記低分子量のアルキル化剤の具体例としては、ヨウ化メチル、臭化ベンジルがあげられる。
【0025】
上記酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水酢酸等があげられる。
【0026】
また、上記共役系ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリエチルアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリへプタジイン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0027】
そして、上記共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリチオフェン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つがあげられる。
【0028】
上記ポリアニリン誘導体としては、例えば、ポリトルイジン、ポリエチルアニリン、ポリsec-ブチルアニリン、ポリアニシジン、ポリエトキシアニリン等があげられる。
【0029】
上記ポリピロール誘導体としては、例えば、3位がアルキル基で置換されたピロールの重合体、ピロールカルボン酸アルキルの重合体、3−メチル−4−ピロールカルボン酸エチルの重合体、それらの共重合体等があげられる。
【0030】
上記ポリチオフェン誘導体としては、例えば、ポリアルキルチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン等があげられる。
【0031】
本発明のポリマーヒューズに用いる導電性ポリマーは、例えば、共役系ポリマーのモノマー(例えば、アニリン)と、ドーパントと、開始剤(例えば、過硫酸アンモニウム)と、溶剤(有機溶剤、水)とを重合(条件:−40〜40℃×3〜100時間)することにより作製することができる。
【0032】
本発明のポリマーヒューズに用いるヒューズ材料は、上記導電性ポリマーを主成分とする。
【0033】
ここで、本発明において、主成分とは、上記ヒューズ材料が導電性ポリマーのみからなる場合も含む意味である。
【0034】
上記ヒューズ材料には、上記導電性ポリマーとともに、非共役系ポリマー、架橋剤、界面活性剤、カーボンブラックやシリカ、炭酸カルシウムのような無機充填剤、補強材、可塑剤、難燃剤、架橋剤、架橋促進剤、酸化防止剤、染料や顔料等の着色剤等を用いることも可能である。
【0035】
上記非共役系ポリマーとしては、例えば、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、エポキシ樹脂、ポリイミド、ゴム系ポリマー(天然ゴム,合成ゴム等)、ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性エラストマー等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0036】
本発明のポリマーヒューズとしては、例えば、図1に示すように、ポリマー材料からなるヒューズ素子1の両端に、電気導体2が形成されたものがあげられる。このポリマーヒューズは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、電気導体2を設置しその端に、前記と同様にして作製したポリマー材料(ヒューズ材料)を、溶解した後塗布(印刷)して接続し、ヒューズ素子1を形成する。このポリマーヒューズにおいては、一方の電気導体2からヒューズ素子1を介して、他方の電気導体2に電流が流れる。
【0037】
また、上記ヒューズ素子1の大きさは、用途に応じて異なるが、通常、0.01μm×1μm〜1mm×20mmの範囲であり、厚みは、通常、0.01〜1000μmの範囲である。
【0038】
上記電気導体2は、上記ヒューズ素子1が接続されていれば良いため、ヒューズとしての接点を形成する端子を確保できれば短いものから長いものまで、自由に設計できる。
【0039】
なお、本発明のポリマーヒューズは、上記ヒューズ素子1の表面に、アルカリ性材料からなるアルカリ層を積層して配置しても差し支えない。
【0040】
上記アルカリ性材料としては、例えば、ポリアリルアミン,ジエチルアミン等のアミン化合物を含む重合体や有機・無機化合物、アルカリ性を示す物質を分散したポリマー(ポリスチレン、ポリウレタンポリマー、アクリルポリマー、エポキシ樹脂、ポリイミド、天然ゴムや合成ゴムを含むゴム系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性エラストマー等)があげられる。上記アルカリ性材料は、弱アルカリ性が好ましいが、強アルカリ性であってもブレンド材料によって濃度を調整することが可能であるため差し支えない。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0041】
また、上記アルカリ層の厚みは、0.01μm〜1mmの範囲が好ましく、特に好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0042】
本発明のポリマーヒューズの電流の範囲は、1μA〜10Aの範囲が好ましく、特に好ましくは10μA〜10mAの範囲である。
【0043】
本発明のポリマーヒューズを用いてなる電子機器としては、例えば、マイクロマシン、人工筋肉、携帯電話の充電器等の微細なサイズ程、必要性が高いが、これに限定されるものではなく、例えば、ドライヤー、冷蔵庫、エアコン、パソコン、電気ストーブや電気毛布等のヒーター、ディスプレイ等の家電機器にも使用することができる。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
共役系ポリマーのモノマー(エチルアニリン)1molと、開始剤(過硫酸アンモニウム)1molと、有機溶剤である1N塩酸(ドーパント兼用)2.5Lとを重合(条件:0℃×24時間)することにより、導電性ポリマーを調製した。つぎに、電気導体を10mmの間隔で設置し、上記導電性ポリマーからなるポリマー材料をコーティングして、1mm×10mm×2μmのサイズのヒューズ素子を接続し、ポリマーヒューズを作製した。
【0046】
〔実施例2〜5,8〕
共役系ポリマーのモノマー、ドーパント、溶剤の種類や配合量を、下記の表1および表2に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして、導電性ポリマーを作製した。そして、この導電性ポリマーを用いて、実施例1と同様にして、ポリマーヒューズを作製した。
【0047】
〔実施例6〕
実施例3と同様にして、導電性ポリマーを作製した。そして、この導電性ポリマーからなるポリマー材料を用いて、実施例3と同様にして、ヒューズ素子を作製した。このヒューズ素子の片面に、ポリアリルアミンからなるアルカリ膜(厚み1μm)を積層する以外は、実施例3と同様にして、ポリマーヒューズを作製した。
【0048】
〔実施例7〕
実施例5と同様にして、導電性ポリマーを作製した。そして、この導電性ポリマーからなるポリマー材料を用いて、実施例5と同様にして、ヒューズ素子を作製した。このヒューズ素子の片面に、ジエチルアミン34(重量%)とポリスチレン(重量%)とからなるアルカリ膜(厚み1μm)を積層する以外は、実施例5と同様にして、ポリマーヒューズを作製した。
【0049】
〔実施例9〕
実施例3と同様にして、導電性ポリマーを作製した。つぎに、この導電性ポリマー(60重量%)と、非共役系ポリマー(ポリウレタン樹脂)(40重量%)とからなるポリマー材料を用いる以外は、実施例3と同様にして、ヒューズ素子を作製した。このヒューズ素子の片面に、ポリアリルアミンからなるアルカリ膜(厚み1μm)を積層する以外は、実施例3と同様にして、ポリマーヒューズを作製した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
〔比較例1〕
特開2003−263949号公報の段落0038〜0044の記載(同公報の図3のフローチャート参照)に準じて、ヒューズ(同公報の図1参照)を作製した。
【0053】
〔比較例2〕
特開2003−229042号公報の段落0042,0043に記載の実施例1に準じて、ヒューズを作製した。
【0054】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記表1および表2に併せて示した。
【0055】
〔導電性〕
上記ポリマーヒューズを用いて、JISK7194に記載の四端子法に準じて、導電性の評価を行った。
【0056】
〔強度〕
上記ポリマーヒューズを用いて、長さに垂直な方向にねじることにより、強度の評価を行った。評価は、45度のねじりで変化がないものを○、90度のねじりで変化がないものを◎、硬くて試験不可能であったものを×とした。
【0057】
〔柔軟性〕
上記ポリマーヒューズ材料を用いて、JIS5400(屈曲試験)に準じて、柔軟性の評価を行った。評価は、心棒の直径を8としヒューズ素子を取り付けて割れ(断線)の有無を確認し、断線のあるものを×、断線のないものを○、心棒の直径2でも断線のないものを◎とした。
【0058】
〔有機溶剤への溶解性〕
上記ポリマーヒューズ材料を、トルエンとMEKとの混合重量比が1:1である有機溶剤に溶解し、有機溶剤への溶解性の評価を行った。評価は、20%の有効成分で混合した場合、沈殿が生じ完全に分離するものを×、溶解しないが均一な分散が可能なものを○、沈殿が発生しないものを◎とした。
【0059】
〔断線の確認(変色)〕
断線の確認の評価は、断線によって、ポリマーヒューズの色が変色したものは、色の変化によって断線を一目で見分けることができるため◎、変色しなかったものは、断線を見分けることが困難であるため×とした。
【0060】
〔導電性低下量〕
図2に示すように、ポリマー材料からなるヒューズ素子1(大きさ:10mm×1mm×1μm)の両端の電気導体2に100mA通電し、電流計3(ケスレー社製、ケスレー237)を用いて、導電性低下量(桁)を測定した。評価は、導電性低下量(桁)が1.9桁以上のものを○とし、特に4.8桁以上のものを◎とした。
【0061】
上記表1および表2の結果から、実施例品は、断線時の状態を色の変化で容易に認識することができる。また、実施例品は、柔軟性に優れ、有機溶剤への溶解性に優れているため、製造工程の簡略化も可能である。なかでも、実施例1品は、ドープ力が弱い塩酸をドーパントとして用いているため、少ないエネルギー(熱,電気)で脱ドープさせることが可能である。そのため、導電性の低下幅が大きく、ポリマーヒューズとして優れている。また、実施例6,7,9品は、ヒューズ素子の表面にアルカリ膜を積層させているため、アルカリ膜を積層させていない他の実施例品に比べて、さらに導電性の低下幅を大きくすることができた。
【0062】
これに対して、比較例1,2品は、柔軟性、有機溶剤への溶解性が劣り、製造工程の簡略化は困難である。また、導電性の変化によって変色しないため、断線しても一目で見分けることは困難である。また、比較例2品は、硬くて強度試験が不可能であった。
【0063】
つぎに、上記ポリマーヒューズを用いて、二次電池の過充電保護回路を作製した。
【0064】
〔実施例10〕
特開平10−56742号公報の段落0007〜0009に記載の実施の形態1に準じて、二次電池の過充電保護回路を作製した。すなわち、同公報の図1に記載の発熱素子21と、温度ヒューズ(1)19,温度ヒューズ(2)20に代えて、実施例7で作製したポリマーヒューズを用いて、二次電池の過充電保護回路を作製した。その結果、4V以上の電圧で電流を低下させることが可能であった。これは、実施例のポリマーヒューズを、二次電池の保護回路として使用できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリマーヒューズは、例えば、マイクロマシン,人工筋肉,携帯電話の充電器等,二次電池の電子機器に用いることができる。なお、本発明のポリマーヒューズは、電子機器の保護を目的にしているため、完全に断線するものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のポリマーヒューズの一例を示す模式図である。
【図2】導電性低下量の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ヒューズ素子
2 電気導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)を主成分とするヒューズ材料からなるヒューズ素子を備えたことを特徴とするポリマーヒューズ。
(A)共役系ポリマーをドーパントにより導電化してなる導電性ポリマー。
【請求項2】
発熱または電流によって導電性が低下することによりヒューズ特性を発揮する請求項1記載のポリマーヒューズ。
【請求項3】
上記導電性ポリマーが、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体およびポリチオフェン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載のポリマーヒューズ。
【請求項4】
上記ドーパントが、スルホン酸基,リン酸基,カルボン酸基およびこれらの塩基からなる群から選ばれた少なくとも一つを有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマーヒューズ。
【請求項5】
上記ドーパントが、有機溶剤に可溶である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマーヒューズ。
【請求項6】
上記ヒューズ材料が、非共役系ポリマーを含有している請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマーヒューズ。
【請求項7】
上記ヒューズ素子の表面に、アルカリ性材料からなるアルカリ層が積層されてなる請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマーヒューズ。
【請求項8】
上記アルカリ性材料が、アミン化合物である請求項7記載のポリマーヒューズ。
【請求項9】
上記アルカリ層が、非共役系ポリマーを含有している請求項7または8記載のポリマーヒューズ。
【請求項10】
上記ヒューズ素子が、非共役系ポリマーで封止されてなる請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリマーヒューズ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリマーヒューズを用いた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−205037(P2008−205037A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36801(P2007−36801)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(506142510)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】