説明

ポリマーフィルム、その製造方法、それを用いた位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】液晶表示装置の光学補償フィルムとして有用であり、且つ着色のないポリマーフィルムの提供。
【解決手段】主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)下記関係式(1)及び(2)を満足する少なくとも1種の化合物を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有し、波長λnmにおける面内レターデーションRe(λ)、及び波長λnmにおける厚み方向レターデーションRth(λ)がそれぞれ下記式(3)〜(6)を満足するポリマーフィルムである。
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
[上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。]
(3):Re(450)−Re(550)≦0nm
(4):Rth(450)−Rth(550)≧0nm
(5):60nm ≦ Re(550)≦ 100nm
(6):40nm ≦ Rth(550)≦ 80nm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の部材として有用なポリマーフィルム、及びその製造方法に関する。また、本発明は、当該ポリマーフィルムを用いた、位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置に用いられる光学フィルムについては、光学特性を調整するために種々の添加剤を添加することが試みられている。特に、面内レターデーションReが逆波長分散性であり、且つ厚み方向レターデーションRthが順分散性である二軸性フィルムは、液晶表示装置に用いられる光学補償フィルムとして有用であり、かかる特性のフィルムを製造するために、紫外線吸収剤を添加することが試みられている。例えば、特許文献1及び2には、波長300〜380nmの範囲に少なくとも一つの吸収極大を有する化合物が添加された、Reについて逆分散性で且つRthについて順分散性を示すセルロースアシレートフィルム等の透明ポリマーフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−64007号公報
【特許文献2】特開2009−64006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者が検討したところ、波長300〜380nmの範囲という比較的長波長の紫外線領域に吸収極大を有する化合物を添加すると、黄色味の着色が生じる場合があり、可視光に対して高い光透過性が求められる表示装置の部材として用いるのに弊害となる場合があることがわかった。
本発明は、液晶表示装置の光学補償フィルムとして有用であり、且つ着色のないポリマーフィルムを提供することを課題とする。
また、本発明は、面内レターデーションについて逆波長分散性を示し、且つ厚み方向レターデーションについて順波長分散性を示し、着色のないポリマーフィルムを提供することを課題とする。
また、本発明は、前記ポリマーフィルムを有する位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)を満足する少なくとも1種の化合物を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有し、波長λnmにおける面内レターデーションRe(λ)、及び波長λnmにおける厚み方向レターデーションRth(λ)がそれぞれ下記式(3)、(4)、(5)及び(6)を満足するポリマーフィルム:
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
[上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。]
(3):Re(450)−Re(550)≦0nm
(4):Rth(450)−Rth(550)≧0nm
(5):60nm ≦ Re(550)≦ 100nm
(6):40nm ≦ Rth(550)≦ 80nm 。
[2] 下記式(3’)及び(4’)を満足する[1]のポリマーフィルム:
(3’):−150nm≦Re(450)−Re(550)≦0nm
(4’):150nm≧Rth(450)−Rth(550)≧0nm 。
[3] 下記式(3”)及び式(4”)を満足する[1]のポリマーフィルム:
(3”):−50nm≦Re(450)−Re(550)≦−3nm
(4”):50nm≧Rth(450)−Rth(550)≧3nm 。
[4] 前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(I)で表されるメロシアニン系化合物であり、且つ該化合物のλmaxが、370nm≦λmax≦400nmを満足する[1]〜[3]のいずれかのポリマーフィルム:
【化1】

式(I)中、Nは窒素原子を表し;R1〜R7はそれぞれ水素原子又は置換基を表す。
【0006】
[5] 一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、互いに結合して窒素原子を含む環を形成していてもよく;R6及びR7はそれぞれ、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表わすか、あるいはR6とR7とは互いに結合して環状の活性メチレン化合物構造を形成していてもよく;R3、R4及びR5はそれぞれ水素原子を表わす[4]のポリマーフィルム。
【0007】
[6] 前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(Ia)で表されるメロシアニン系化合物である[1]〜[5の]いずれかのポリマーフィルム:
【化2】

式(Ia)中、R11及びR12はそれぞれ、アルキル基、アリール基、シアノ基、又は−COOR13を表すか、互いに結合して窒素原子を含む環を形成し;R6及びR7はそれぞれ、−シアノ基、−COOR14、又は−SO215を表すか、互いに結合して、下記の環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成し;R13、R14及びR15はそれぞれ、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
【化3】

(式中、「**」は、式(Ia)との結合位置は示し;Ra及びRbはそれぞれ、水素原子、又はC1〜C20のアルキル基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0008】
[7] 前記一般式(Ia)で表されるメロシアニン系化合物が、下記式(Ia−a)、(Ia−b)又は(Ia−c)で表される化合物である[6]のポリマーフィルム:
【化4】

式中、R6a及びR7a、R6b及びR7b、並びにR6C及びR7Cは、前記式(Ia)中のR6及びR7とそれぞれ同義である。
【0009】
[8] 前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(II)で表されるベンゾジチオール系化合物であり、且つ該化合物のλmaxが、387nm≦λmax≦400nmを満足する[1]〜[4]のいずれかのポリマーフィルム:
【化5】

式(II)中、Sは硫黄原子を表し、R21〜R26はそれぞれ水素原子又は置換基を表し、可能な場合は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0010】
[9] 前記少なくとも1種の化合物が、下記式(IIa)で表されるベンゾジチオール系化合物である[1]〜[3]及び[8]のいずれかのポリマーフィルム:
【化6】

式(IIa)中、R31及びR32はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表し;R33及びR34はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表し;但し、R31〜R34でそれぞれ表されるアルキル基中の1つのCH2、及び互いに隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよい。
【0011】
[10] 前記少なくとも1種ポリマーが、下記式(5)を満足するセルロースアシレートである[1]〜[9]のいずれかのポリマーフィルム:
(5): 2.70<SA+SB≦3.00
式中、SAはセルロースアシレートのアセチル基による置換度を表し、SBはアセチル基以外のアシル基による置換度を表す。
[11] 主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)を満足する化合物の少なくとも1種を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有するポリマー溶液を、流延してウェブを形成する流延工程、
流延工程により得られたウェブを、残留溶媒量が100〜300質量%の間に、搬送方向に沿って4〜100%延伸する延伸工程、及び
延伸工程後、ウェブの残留揮発分が100〜10%の間に、膜面温度50〜100℃で乾燥する乾燥工程、
を含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれかのポリマーフィルムの製造方法:
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。
[12] [1]〜[10]のいずれかのポリマーフィルム、及びその上に、液晶組成物を硬化して形成された光学異方性層を有する位相差フィルム。
[13] [1]〜[10]のいずれかのポリマーフィルム又は[12]の位相差フィルム、及び偏光膜を有する偏光板であって、前記ポリマーフィルム又は前記位相差フィルムの面内の遅相軸と偏光膜の面内の透過軸との交差角が平行であることを特徴とする偏光板。
[14] [1]〜[10]のいずれかのポリマーフィルムを少なくとも有する液晶表示装置。
[15] [12]の位相差フィルムを少なくとも有するTNモード液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液晶表示装置の光学補償フィルムとして有用であり、且つ着色のないポリマーフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、面内レターデーションについて逆波長分散性を示し、且つ厚み方向レターデーションについて順波長分散性を示し、着色のないポリマーフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、前記ポリマーフィルムを有する位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光学補償フィルムの一態様の断面模式図である。
【図2】本発明の偏光板の一態様の断面模式図である。
【図3】本発明の液晶表示装置の一態様の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
1.ポリマーフィルム
本発明は、主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)を満足する少なくとも1種の化合物を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有するポリマーフィルムであって、波長λnmにおける面内レターデーションRe(λ)、及び波長λnmにおける厚み方向レターデーションRth(λ)がそれぞれ下記式(3)及び(4)を満足するポリマーフィルムに関する。本発明のポリマーフィルムは、下記式(3)及び(4)を満足し、即ち、面内レターデーションReが、可視光域において逆分散性又は波長によらず一定という特性を示し、及び厚み方向レターデーションRthが、可視光域において順分散性又は波長によらず一定という特性を示す。
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
[上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。]
(3):Re(450)−Re(550)≦0nm
(4):Rth(450)−Rth(550)≧0nm
【0015】
Reについて逆分散性で且つRthについて順分散性の位相差フィルムは、種々のモード(例えば、TNモード、VAモード及びIPSモード)の液晶表示装置に有用である。特にTNモード液晶表示装置に用いた場合、視野角特性を改善できる。当該光学特性を達成する一つの方法として、ポリマーフィルム中に紫外線吸収剤を添加することが提案されていた。しかし、該紫外線吸収剤によって、フィルムに着色(特に黄味の着色)が生じ、表示装置の部材として用いるのに弊害となる場合があった。本発明によれば、着色のない上記特性を満足するポリマーフィルムを提供することができる。
【0016】
本発明のポリマーフィルムは、Re(450)−Re(550)(以下、「ΔRe」という)が、0nm以下であり、且つRth(450)−Rth(550)(以下、「ΔRth」という)が、0nm以上である。ΔReは−3nm以下であるのが好ましく、−5nm以下であるのがより好ましく、−8nm以下であるのがさらに好ましく;及びΔRthは3nmを超えるのが好ましく、ΔRthは5nm以上であるのがより好ましく、10nm以上であるのがさらに好ましい。ΔRe及びΔRthそれぞれの下限値及び上限値については特に制限はないが、製造適性等の観点では、一般的には、ΔReは−150nm程度以上であり、ΔRthは150nm程度以下であり、即ち、下記式(3’)及び(4’)
(3’):−150nm≦Re(450)−Re(550)≦0nm
(4’):150nm≧Rth(450)−Rth(550)≧0nm
を満足するのが好ましい。特に、TNモード液晶表示装置に利用される態様では、下記式(3”)及び式(4”)
(3”):−50nm≦Re(450)−Re(550)≦−3nm
(4”):50nm≧Rth(450)−Rth(550)≦3nm
を満足するのが好ましい。
【0017】
また、本発明のポリマーフィルムのRe及びRthは、下記式(5)及び(6)を満足する。
(5):60nm ≦ Re(550)≦ 100nm
(6):40nm ≦ Rth(550)≦ 80nm
上記式を満足することにより、液晶表示装置、特にTNモード液晶表示装置、の光学補償に適し、視野角の拡大に寄与する。好ましくは、Reは下記式(5’)を満足し、好ましくは、Rthは下記式(6’)を満足する。
(5’):70nm ≦ Re(550)≦ 95nm
(6’):50nm ≦ Rth(550)≦ 75nm
【0018】
本発明のポリマーフィルムの厚みについても特に制限はない。液晶表示装置の部材として用いられる態様では、一般的には30〜200μm程度であるのが好ましく、30〜100μm程度であるのがより好ましく、40〜90μm程度であるのがさらに好ましい。
【0019】
以下、本発明のポリマーフィルムの製造に利用可能な材料、及び方法について詳細に説明する。
1−(1) ポリマー(主成分)
本発明のポリマーフィルムは、少なくとも1種のポリマーを主成分として含有する。主成分とは、ポリマーフィルムが1種のポリマーのみを含む場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーを含む場合には、その中で最も質量分率の高いポリマーのことを意味する。前記ポリマーは、負の固有複屈折を持つポリマーから選択されることが好ましい。当該ポリマーとしては、セルロースエステル(例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルローストリプロピオネート、セルロースジアセテート)が好ましく、セルローストリアセテートがより好ましい。
【0020】
前記セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられ、その中でもセルロースアシレートが特に好ましい。
【0021】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸が最も好ましい。
前記セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースエステルは、セルロースと複数の酸とのエステルであってもよい。また、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0022】
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されているアセチル基以外のアシル基(具体的には、炭素数3以上のアシル基)の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、ポリマーフィルムの光学特性を調整することができる。
本発明で用いるセルロースエステルは、SA+SBで表される全置換度(全アシル化度)が好ましくは2.70≦SA+SB≦3.00、より好ましくは2.88≦SA+SB≦3.00であり、さらに好ましくは2.89≦SA+SB≦2.99であり、さらにより好ましくは2.90≦SA+SB≦2.98であり、特に好ましくは2.92≦SA+SB≦2.97である。SA+SBを大きくすることにより、熱処理後に得られるReを大きくし、レターデーションの湿度依存性も改善することができる。なお、セルロースアシレートのセルロースの水酸基のすべてがアシル基に置換されている場合、SA+SBで表される全置換度は3.00である。
また、SBを調整することにより、セルロースエステルフィルムのレターデーションの湿度依存性を調整することができる。SBを大きくすることにより、レターデーションの湿度依存性を低減させることができ、融点が下がる。レターデーションの湿度依存性および融点の低下のバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0<SB≦3.0、より好ましくは0<SB≦1.0であり、さらに好ましくは0.1≦SB≦0.7である。
【0023】
セルロースエステルは公知の方法により合成することができる。
例えば、セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0024】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0025】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0026】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの重合度や分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0027】
前記ポリマーとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。また、前記ポリマーの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。前記ポリマーの含水率が好ましい範囲内にない場合には、前記ポリマーを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
【0028】
1−(2) 波長分散調整剤
本発明のポリマーフィルムは、下記関係式(1)及び(2)を満足する少なくとも1種の化合物を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有することを特徴とする。該化合物は、波長分散調整剤として作用し、上記式(3)及び(4)を満足する光学特性の発現に寄与する。
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
式中、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。本発明者が鋭意検討した結果、紫外線吸収剤の中でも、上記式(1)を満足するλmaxを有するとともに、上記式(2)を満足する急峻な吸収ピークを有する化合物を添加することによって、上記式(3)及び(4)を満足するとともに、着色(特に黄色味の着色)のないポリマーフィルムが得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。従来、波長分散調整剤として用いられていた化合物の中には、紫外線域の極大吸収波長λmaxが360m未満のもの、あるいは400nmを超えるものも提案されているが、前者の化合物を用いると、上記式(3)及び(4)を満足しつつ、Re及びRthが所望の範囲(例えば、Reが60〜100nmであり、且つRthが40〜80nm)であるポリマーフィルムを製造するのは困難であり、また後者の化合物を用いると、着色が生じる。さらに、極大吸収波長λmaxが上記式(1)を満足していても、吸収ピークがブロードであると、得られるポリマーフィルムに黄色味の着色が生じる。本発明では、上記式(1)及び(2)を満足する化合物を用いることにより、上記式(3)及び(4)を満足するとともに、着色(特に黄色味の着色)のないポリマーフィルムを提供している。
なお、波長300nm以下の吸収(例えば、ベンゼン、ナフタレン骨格由来の吸収)はλmaxに含まない。
【0029】
本発明において波長分散調整剤として用いられる化合物の種類等については、特に制限はなく、上記式(1)及び(2)を満足する化合物であれば、いずれも用いることができる。
・メロシアニン系化合物
本発明に使用可能な波長分散調整剤の例には、下記一般式(I)で表されるメロシアニン系化合物が含まれる。該メロシアニン系化合物の中でも、λmaxが、370nm≦λmax≦400nmを満足する化合物を用いるのが好ましい。また、メロシアニン系化合物を添加すると、後述するベンゾジチオール系化合物を添加したポリマーフィルムと比較して、耐光性が改善するので好ましい。なお、本明細書で「耐光性」とは、ポリマーフィルムが経時で光に曝された後も、その光学特性(光学補償能)を損なわないことを指標として判断されるポリマーフィルムの耐光性をいうものとし、化合物自体の耐光性とは区別される。以下、「耐光性」というときは、この意味で用いられる。
【0030】
【化7】

【0031】
式(I)中、Nは窒素原子を表し;R1〜R7はそれぞれ水素原子又は置換基を表す。式(I)において、紙面の水平方向(左右方向)が分子長軸方向となるように置換基を組み合わせることが好ましい。
【0032】
1〜R7でそれぞれ表される置換基の例としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イル)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−4−イル)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、より好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、
【0033】
シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは炭素原子数3〜20、より好ましくは炭素原子数3〜10のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0034】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素原子数0〜30、より好ましくは炭素原子数0〜10の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、
【0035】
ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜30、より好ましくは炭素原子数0〜10の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N'フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、
【0036】
アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0037】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0038】
前記一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表わし、R1とR2とは互いに結合して窒素原子を含む環を形成してもよく;R6及びR7はそれぞれ、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表わすか、あるいはR6とR7とは互いに結合して環状の活性メチレン化合物構造を形成していてもよく;R3、R4及びR5はそれぞれ水素原子を表わすのが好ましい。
【0039】
1およびR2がそれぞれ表すアルキル基としては、炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5)のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。該アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基上の任意の位置に置換基を有していてもよい。置換基としては例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、ヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。また、置換基は更に置換されていてもよく、置換基が複数ある場合は、同じでも異なってもよい。また置換基同士で結合して環を形成してもよい。
【0040】
1とR2とは互いに結合して窒素原子を含む環を形成してもよい。該環は、飽和環であるのが好ましく、飽和6員環であるのが好ましく、ピペリジン環であるのがさらに好ましい。
【0041】
1およびR2は、無置換アルキル基、又はシアノ基、アルコキシカルボニル基、もしくはフェニル基で置換されたアルキル基であるか、あるいは互いに結合して、ピペリジン環を形成しているのが好ましい。
【0042】
6及びR7はそれぞれ、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表わし、R6とR7とは互いに結合して環を形成してもよい。ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange's Handbook of Chemistry」第12版,1979年(Mc Graw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページなどに詳しい。本発明におけるハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基とは電子求引性基であることを示している。σp値として好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。
【0043】
6及びR7の例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(−COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(−COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(−COOPh:0.44)、カルバモイル基(−CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(−COMe:0.50)、アリールカルボニル基(−COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(−SO2Me:0.72)、又はアリールスルホニル基(−SO2Ph:0.68)などが挙げられる。本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表わす。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページから抜粋したものである。
【0044】
6とR7とは互いに結合してR6とR7とは互いに結合して環状の活性メチレン化合物構造を形成していてもよい。なお、「活性メチレン化合物」とは、2個の電子求引基にはさまれたメチレン基(−CH2−)を持つ一連の化合物群を意味する。R6及びR7が結合している炭素原子が、活性メチレンであるのが好ましい。
【0045】
前記メロシアニン系化合物の中でも、下記一般式(Ia)で表されるメロシアニン系化合物が好ましい。
【化8】

【0046】
式(Ia)中、R11及びR12はそれぞれ、アルキル基、アリール基、シアノ基、又は−COOR13を表すか、互いに結合して窒素原子を含む環を形成し;R6及びR7はそれぞれ、−シアノ基、−COOR14、又は−SO215を表すか、互いに結合して、下記の環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成し;R13、R14及びR15はそれぞれ、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
【0047】
【化9】

【0048】
式中、「**」は、式(Ia)との結合位置は示し;Ra及びRbはそれぞれ、水素原子、又はC1〜C20(好ましくはC1〜C20、より好ましくはC1〜C5)アルキル基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0049】
11及びR12がそれぞれ表す、アルキル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基の例は、R1及びR2がそれぞれ表す置換基の例と同様である。アルキル基は炭素原子数1〜20であるのが好ましく、1〜15であるのが好ましく、1〜6であるのがより好ましい。
11及びR12がそれぞれ表す、アリール基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基の例は、R1及びR2がそれぞれ表す置換基の例と同様である。アリール基はフェニル基であるのが好ましく、無置換のフェニル基であるのがより好ましい。
11及びR12がそれぞれ表す−COOR13は、R13がアルキル基であるのが好ましく、無置換のアルキル基であるのがより好ましい。アルキル基は炭素原子数1〜20であるのが好ましく、1〜15であるのがより好ましく、1〜6であるのがより好ましい。
11及びR12が互いに結合して形成する環は、飽和環であるのが好ましく、6員の飽和環であるのがより好ましく、ピペリジン環であるのがさらに好ましい。
【0050】
11及びR12は、双方がシアノ基又は無置換フェニル基であるか、互いに結合してピペリジン環を形成しているのが好ましく、双方がシアノ基又は無置換フェニル基であるのがより好ましい。
【0051】
6及びR7がそれぞれ表す−COOR14は、R14がアルキル基であるのが好ましく、無置換のアルキル基であるのがより好ましい。アルキル基は炭素原子数1〜20であるのが好ましく、5〜15であるのがより好ましい。
6及びR7がそれぞれ表す−SO215は、R15がアリール基であるのが好ましく、フェニル基であるのがより好ましい。
【0052】
6及びR7が互いに結合して、環状の活性メチレン構造を形成する例では、式(Ia-1)又は(Ia-4)を形成するのが好ましく、式(Ia-1)を形成するのがより好ましい。
6及びR7は少なくとも一方が−シアノ基を表すか、互いに結合して、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成するのがより好ましく;少なくとも一方が−シアノ基を表すか、互いに結合して、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)及び(Ia-4)のいずれかを形成するのがさらに好ましく;いずれも−シアノ基を表すか、互いに結合して、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)及び(Ia-4)のいずれかを形成するのがよりさらに好ましい。
【0053】
前記式(I)で表されるメロシアニン系化合物の好ましい例には、下記式(Ia−a)、(Ia−b)及び(Ia−c)で表される化合物が含まれる。特に、下記式(Ia−a)及び(Ia−b)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【化10】

【0055】
式中、R6a及びR7aは、R6及びR7とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。中でも、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成する化合物が、着色の抑制のみならず、耐光性の観点でも好ましい。
式中、R6b及びR7bは、R6及びR7とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。中でも、いずれもシアノ基を表すか、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)(より好ましくは式(Ia-1)又は(Ia-4)、さらに好ましくは式(Ia-1))のいずれかを形成する化合物が、着色の抑制のみならず、耐光性の観点でも好ましい。特に、いずれもシアノ基である化合物が好ましい。
式中、R6C及びR7Cは、R6及びR7とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。中でも、一方が、シアノ基で、他方が−COOR14(R14の定義及び好ましい範囲については上記と同様である)を表すか、前記環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成する化合物が、好ましい。
【0056】
但し、前記式(I)の化合物であっても、下記式の化合物は、吸収波長が短波長となり、式(1)を満足しない化合物である。
【化11】

【0057】
また、前記式(1)の化合物中、R6及びR7の一方が−COOR14であり、及び他方が−SO215を表す化合物は、耐光性が低下する傾向がある。
【0058】
本発明に利用可能な前記式(I)で表される化合物の例を以下に示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0059】
【化12】

【0060】
・ベンゾジチオール系化合物
また、本発明に使用可能な波長分散調整剤の他の例には、下記一般式(II)で表されるベンゾジチオール系化合物が含まれる。該ベンゾジチオール系化合物の中でも、λmaxが、387nm≦λmax≦400nmを満足する化合物を用いるのが好ましい。
【0061】
【化13】

【0062】
式(II)中、Sは硫黄原子を表し、R21〜R26はそれぞれ水素原子又は置換基を表し、可能な場合は、互いに結合して環を形成していてもよい。上記式(II)において、紙面の水平方向(左右方向)が分子長軸方向となるように置換基を組み合わせることが好ましい。R21〜R26がそれぞれ表す置換基の例については、式(I)中のR1〜R7がそれぞれ表す置換基の例と同様である。
【0063】
22及びR23は互いに結合して環を形成しているのが好ましく、互いに結合してジチオール環を形成しているのが好ましい。R26及びR25は、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表わすのが好ましく、当該置換基の好ましい例は、R6及びR7がそれぞれ表す好ましい置換基の例と同様である。
【0064】
前記一般式(II)で表されるベンゾジチオール化合物の中でも、下記一般式(IIa)で表される化合物が好ましい。
【0065】
【化14】

【0066】
式(IIa)中、R31及びR32はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表し;R33及びR34はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表す。R31〜R34がそれぞれ表す置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基中のアルキル鎖は、C1〜C20(より好ましくはC1〜C15、さらに好ましくはC1〜C10)の置換もしくは無置換のアルキル基であるのが好ましい。アルキル基中の1つのCH2及び互いに隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよい。アルキル基及びアルコキシ基は置換基を有していてもよく、該置換基の例は、前記一般式(I)中のR1〜R7がそれぞれ表す置換基の例と同様である。アルキル基の置換基としては、アルコキシ基(例えば、C1〜C10のアルコキシ基)が好ましい。R31及びR32がそれぞれ表すアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であるのが、波長分散調整能の観点で、及び耐光性の観点で好ましい。また、末端にアルコキシ基置換基を有しているのが、同様の観点で好ましい。
【0067】
以下に、本発明に使用可能な式(II)で表される化合物の例を示すが、以下の例に限定されるものではない。
【0068】
【化15】

【0069】
本発明のポリマーフィルムには、前記式(1)及び(2)を満足する化合物の1種のみを添加してもよいし、2種以上を添加してもよい。添加量は、主成分となるポリマーに対して、0.2〜20質量%であるのが好ましく、0.2〜10質量%であるのがより好ましく、0.5〜5質量%であるのがさらに好ましい。また、前記式(1)及び(2)を満足する化合物の分子量については特に制限はないが、フィルムの製膜性の観点では、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは200〜2000である。
【0070】
1−(3) その他の添加剤
本発明のポリマーフィルムは、前記式(1)及び(2)を満足する化合物以外の添加剤を含んでいてもよい。以下に、本発明に使用可能な他の添加剤の例を記載するが、これらに限定されるものではない。
・長波長分散調整剤
本発明のポリマーフィルムには、700〜1200nmの波長域に吸収極大を持つ化合物(長波長分散調整剤)を添加してもよい。長波長側波長分散調整剤としては、例えば、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポリメチン系化合物、チオール系金属錯塩、アミノチオフェレート系金属錯塩、インモニウム系化合物、ジインモニウム系化合物、アミニウム塩、ピリリウム系化合物、スクアリリウム系化合物、ピロロピロール系化合物、クオータリレン系化合物、クロコニウム系化合物、トリアリルメタン系化合物、アズレニウム系化合物、インドフェノール系化合物およびアントラキノン系化合物等の有機化合物、およびアルミニウム塩等の無機化合物等を挙げることができる。
【0071】
具体的には、特開平6−256564号公報および特開2001−208913号公報に開示されている各種化合物、特開昭61−154888号、特開昭61−197281号、特開昭61−246091号、特開昭63−37991号、特開昭63−39388号、特開昭62−233288号、特開昭63−312889号、特開平2−43269号、特開平2−138382号、特開平2−296885号、特開平3−43461号、特開平3−77840号、特開平3−100066号、特開平3−62878号、特開平6−214113号、特開平10−78509号各公報等に開示されているフタロシアンニン類あるいはナフタロシアニン類、特公昭58−56533号、特開昭62−54143号、特公平2−4881号、特開平4−45546号、特開2003−221523号、特開2003−327865号各公報等に開示されているようなチオール系金属錯塩、特開昭63−112593号公報、特開2001−89492号公報等に開示されているようなアミノチオフェレート系金属錯塩、特開2003−96040号公報、特開2003−327865号公報等に開示されているようなジインモニウム系化合物、特開2002−286931号公報、特開2001−194522号公報等に開示されているようなピリリウム系化合物、スクアリリウム系化合物あるいはクロコニウム系化合物、特開昭61−291651号、特開昭61−291652号、特開昭62−15260号、特開昭62−132963号、特開平1−129068号、特開平1−172458号各公報等に開示されているようなアントラキノン類が挙げられる。
【0072】
本発明に使用可能な長波長側波長分散調整剤の好ましい例を下記に示すが、これらの具体例に限定されるものではない。
KAYASORB IRG−022、KAYASORB IRG−040(日本化薬社製)、NIR−IM1、NIR−IM2、NIR−IM3、NIR−IM4(ナガセケムテックス社製)、MIR−369(山本化成社製)、IR−301(山田化学工業社製)、SDA4428、SDA4927、SDA5688、SDA6104、SDA7611、SDA7775、SDA9800、SDG7047(H.W.SANDS社製)、Projet830NP、Projet900NP(アビシア社製)、下記式化合物IR−1、IR−2等が挙げられる。なお、下記IR−1の構造式中、PTS-は、パラトルエンスルホンイオンを表す。
【0073】
【化16】

【0074】
前記長波長側波長分散調整剤の添加量は、主成分であるポリマーに対して0.001〜2質量%程度であることが好ましく、0.002〜1質量%程度であることがより好ましく、0.01〜0.5質量%程度であることが特に好ましい。
前記長波長側波長分散調整剤の分子量は、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは200〜2000である。
【0075】
・可塑剤、光学異方性制御剤
本発明のポリマーフィルムには、可塑剤(好ましい添加量は、主成分であるポリマーに対して0.01〜10質量%、以下同様)、及び/又は光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)を添加してもよい。前記可塑剤や前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であるのが好ましく、より好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物から選択される。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レターデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、主成分としてセルロースアシレートを用いると、フィルムの疎水性を向上させ、レターデーションの湿度変化を低減させることができる。
【0076】
このような前記可塑剤や前記光学異方性制御剤としては、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することがさらに好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。
前記可塑剤や前記光学異方性制御剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上の添加剤を組み合わせて使用してもよい。
Rthを上昇させる効果のある可塑剤や前記光学異方性制御剤としては、具体的には、特開2005−104148号公報の33〜34頁に記載の可塑剤や、特開2005−104148号公報の38〜89頁に記載の光学異方性のコントロール剤などが挙げられる。
【0077】
・安定剤
前記安定剤(好ましい添加量は、0.0001〜1質量%)は、製膜時等にポリマーが着色したり、熱劣化するのを低減させるために添加するものであり、ポリマー自体の分解・変性を抑制する化合物であり、酸化防止剤、ラジカル禁止剤、過酸化物分解剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、光安定剤から選ばれるものをいう。本発明では、いかなる安定剤を用いてもよいが、安定剤の中でも、酸化防止剤、ラジカル禁止剤を用いることが好ましく、酸化防止剤を用いることがより好ましい。
【0078】
前記酸化防止剤としては、亜リン酸骨格を有するリン酸系の化合物、チオエーテル構造を有する硫黄系の化合物、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル系の化合物、またはラクトン構造を有するラクトン系の化合物が好ましく、ラジカル禁止剤としては、水酸基で置換された芳香環を有するフェノール系の化合物、置換または無置換のアミノ基を有するアミン系の化合物が好ましく、過酸化物分解剤としては、フェノール系の化合物、アミン系の化合物が好ましく、金属不活性化剤としては、アミド結合を有するアミド系の化合物が好ましく、酸捕獲剤としては、エポキシ基を有するエポキシ系の化合物が好ましく、光安定剤としては、アミン系の化合物が好ましい。
これらの安定剤は1種類のみを用いてもよく、2種類以上混合してもよく、また、同一分子内に2種類以上の機能を備えた化合物であってもよい。
【0079】
前記安定剤は高温で揮発性が十分に低いことが好ましく、分子量500以上の安定剤を少なくとも一種含むことが好ましい。さらに、分子量は500〜4000が好ましく、より好ましくは530〜3500であり、特に特に好ましくは550〜3000である。分子量が500以上であれば熱揮散性をより低く抑えやすく、また分子量が4000以下であれば、特に、セルロースアシレートとの相溶性がより良好になる。
【0080】
前記安定剤としては、市販の安定剤を用いることもでき、例えばサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト((株)ADEKA製「アデカスタブPEP−36」)などのペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル系酸化防止剤を用いることが好ましい。
【0081】
その他、本発明のポリマーフィルムは、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、及び剥離剤(0.0001〜1質量%)の少なくとも1種を含有していてもよい。これらの添加剤は、フィルム調製工程において液体または固体の状態で添加することができる。本発明に用いる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。なお、これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上の添加剤を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
1−(4) ポリマーフィルムの製造方法
本発明のポリマーフィルムの製造方法については特に制限はない。溶液製膜法又は溶融製膜法等、種々の製膜法を利用して製造することができる。
溶液製膜法では、例えば、上記ポリマー、式(1)及び(2)を満足する化合物、並びに所望により上記各種他の添加剤を含有するポリマー溶液を用いて製膜する。
溶融流延製膜方法では、ポリマー、式(1)及び(2)を満足する化合物、並びに所望により上記各種他の添加剤を含有するポリマー組成物を加熱して溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフィルムを形成する。ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融流延製膜方法を採用することが可能である。溶融流延製膜方法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
【0083】
上記式(3)〜(6)を満足するフィルムを安定的に製造するには、溶液製膜法を利用し、特に下記のWET延伸及び結晶化工程を経て形成するのが、好ましい。溶液製膜法を利用した、本発明のポリマーフィルムの製造方法の一例は、
主成分である少なくとも1種のポリマー、及び上記関係式(1)及び(2)を満足する化合物の少なくとも1種を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有するポリマー溶液を、流延してウェブを形成する流延工程、
流延工程により得られたウェブを、残留溶媒量が100〜300質量%の間に、搬送方向に沿って4〜100%延伸する延伸工程、及び
延伸工程後、ウェブの残留揮発分が100〜10%の間に、膜面温度50〜100℃で乾燥する乾燥工程、
を含む製造方法である。この方法によれば、上記式(3)及び(4)を満足し、且つRe及びRthが十分に発現されたポリマーフィルムを安定的に製造することができる。
以下において、溶液流延製膜方法の手順を具体的に説明する。以下では、セルロースアシレートを主原料ポリマーとして用いた例を説明する。
【0084】
(ポリマー溶液の調製)
本発明におけるポリマー溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過して、本発明におけるポリマー溶液を得る。
【0085】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒との混合物を冷却および/または加熱する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0086】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程よりも前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却よりも後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0087】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0088】
(ウェブの製膜)
本発明におけるウェブは、本発明におけるポリマー溶液を用いて溶液流延製膜方法により形成することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従って、公知の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(本発明におけるポリマー溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製する。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(ドープ流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0089】
本発明においては、ウェブの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。
【0090】
〈WET延伸工程〉
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法においては、延伸工程において、前記流延工程において形成された前記ウェブを搬送しながら搬送方向に延伸する。この際、ウェブの延伸開始時の残留溶媒量は100〜300質量%である。即ち、本発明のポリマーフィルムの製造においては、残留溶媒量が多い状態で延伸処理する、WET延伸を行うのが好ましい。
【0091】
このWET延伸開始時におけるセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出することができる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを120℃で2時間乾燥させたときの質量を表す]
【0092】
前記WET延伸工程において、ウェブの延伸開始時における残留溶媒量は、150〜300質量%であり、剥ぎ取り、ウェブの判断、延伸温度、延伸倍率等のバランスを考慮すると、200〜300質量%がさらに好ましい。前記残留溶媒量が150質量%未満であると、延伸温度を低くすると延伸の際にウェブの破断が生じやすい。このため、延伸温度を高く設定する必要があり、エネルギー効率が低下してしまう。また、延伸温度を高くしても、高倍率で延伸しようとするとやはりウェブに破断が生じてしまう。更に、前記残留溶媒量が100質量%未満であるとフィルムが硬くなり延伸が難しくなるため、目的の光学特性が得られない。また、残留溶媒量が300質量%を越えると、ウェブの剥ぎ取り性や延伸適正(シワ、ハンドリングなど)、回収性が著しく低下してしまう。特に前記残留溶媒量が、200〜300質量%の範囲内にあると、延伸倍率を上げやすく、更に、ウェブの破断をより効果的に抑制することができる。
【0093】
セルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、本発明におけるポリマー溶液の濃度、金属支持体の温度や速度、乾燥風の温度や風量、乾燥雰囲気中の溶媒ガス濃度等を変更することにより、適宜調整することができる。
【0094】
前記WET延伸工程において、ウェブは搬送されながら、搬送方向に延伸される。この際、ウェブの延伸倍率としては、高い延伸倍率を達成しつつウェブの破断を防止する観点から、5〜100%が好ましく、15〜50%がさらに好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0095】
前記WET延伸工程において、延伸時におけるウェブの膜面温度(延伸温度)は特に限定されないが、延伸効率およぶ揮発分変化を小さくする観点から、30℃以下であることが好ましい。また、延伸工程におけるウェブの延伸速度は、特に限定されるものではないが、延伸適正(シワ、ハンドリングなど)の観点から、1〜1000%/minが好ましく、1〜100%/minがさらに好ましい。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。また、さらに、搬送方向に対して直行する方向(横方向)に延伸を加えてもよい。
【0096】
前記WET延伸工程を経たウェブは、続いて乾燥(結晶化)処理工程へ搬送する。乾燥工程においてウェブは、テンターで両端をクリップやピンで固定されたりしながら乾燥される。
【0097】
〈乾燥(結晶化)処理工程〉
前記WET延伸処理が完了したウエブは、乾燥工程の開始残留揮発分が10〜100質量%好ましくは20〜100質量%の範囲で平均膜面温度30〜100℃でフィルムを乾燥する工程で処理する(結晶化処理)。
この上記特定の条件を満たす事により、流延したウエブ内の分子動きが低温でありながら十分であり、かつ、結晶化を阻害するような分子も結晶化する条件としては十分少ないため、結晶化が効率的に低温で進行する。これより、揮発分が多い場合には、分子運動は十分起こるが結晶化する条件としては阻害分子が多数存在するため結晶化が進行しなくなる。また、これより揮発分が少ない場合には、低温で十分な分子運動が得られない。また、膜面温度をこれより低くした場合には、分子運動が十分得られず、高くした場合には分子運動が激しくなりすぎるため結晶化が進行しない。
結晶化処理工程は、セルロースアシレートフィルム(ウェブ)を搬送しながら行うことが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送手段は特に制限されないが、典型的な例としてニップロールやサクションドラムにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段(空気圧で浮上搬送する手段)などを挙げることができる。好ましいのは、ピン状テンターで固定しながら搬送する手段、隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段であり、より好ましいのは、ピン状テンターで固定しながら搬送する手段である。
【0098】
ピン状テンターで固定しながら搬送する手段は、具体的には、搬送方向に直交する線上にあるセルロースアシレートフィルム両端部をそれぞれピン状テンターで固定し、一方の端部を固定したテンターと他方の端部を固定したテンターとの間の距離を制御しながら搬送することにより行うことができる。テンター間の距離は、テンターレールパターンを適宜設定することにより制御することが可能である。このようにして、テンター間の距離を制御することにより、幅方向の寸法変化率を所望の値に抑制しながらセルロースアシレートフィルムを乾燥処理することができる。
ウエブの破断、シワ、搬送不良を防止するために、ピンテンターのピンにおいて、内側のピン密度を大きく、外側のピン密度を小さくすると好ましい。
【0099】
隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段は、具体的には、隣り合う搬送ロール間の隙間が0.1cm〜50cmとなるように結晶化処理ゾーン内に設置された複数の搬送ロールにセルロースアシレートフィルムを通して搬送することにより行うことができる。隣り合う搬送ロール間の隙間とは、搬送されるフィルムが1つの搬送ロールから離れてから次の搬送ロールにラップされるまでの間の距離を指す。このような搬送ロール間の隙間の狭い一群の搬送ロール(いわゆる密ロール)の間を通すことにより、フィルム幅方向に搬送ロールによる保持力が作用し、フィルムの幅方向への寸法変化率を抑制することができる。この方法では、テンタークリップ法のような幅方向の拡幅は不可能だが、収縮を最小限に抑制することができる。
【0100】
搬送の速度は、通常は1〜500m/分であり、5〜300m/分が好ましく、10〜200m/分がより好ましく、20〜100m/分がさらに好ましい。搬送速度が、前記の下限値である1m/分以上であれば産業上、十分な生産性を確保することができるという点で好ましくなる傾向があり、前記の上限値である500m/分以下であれば実用的な結晶化処理ゾーン長で十分に結晶成長を進行させることができるという点で好ましくなる傾向がある。搬送速度を速くすればフィルムの着色を抑制することができる傾向があり、搬送速度を遅くすれば結晶化処理ゾーン長を短くすることができる傾向がある。結晶化処理中の搬送速度(搬送速度を決定するニップロールやサクションドラム等の装置の速度)は一定にしておくことが好ましい。
【0101】
テンター内においてウエブ自体の発泡やウエブが保持手段に付着するのを防止するために、テンター乾燥装置において、ウエブの両側縁部保持ピンを吹出型冷却器でウエブの発泡温度未満に冷却すると共に、ウエブを喰い込ます直前のピンをダクト型冷却器でのドープの0℃以下に冷却する事が好ましい。
結晶化処理方法として、例えば、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を通過させる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風をあてる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱線を照射する方法、セルロースアシレートフィルムを昇温されたロールに接触させる方法などを挙げることができる。
【0102】
好ましくは、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を、熱風をあてながら通過させる方法である。この方法によれば、セルロースアシレートフィルムを均一に加熱することができるという利点がある。ゾーン内の温度は、例えば温度センサでモニターしつつヒータで一定温度に制御することにより温度Tに維持することができる。温度Tのゾーン内のセルロースアシレートフィルムの搬送長は、製造しようとするセルロースアシレートフィルムの性質や搬送速度によって異なるが、通常は(搬送長)/(搬送するセルロースアシレートフィルムの幅)の比が0.1〜100となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。この比は、本明細書において縦横比と略すこともある。温度Tのゾーンの通過時間(結晶化処理の時間)は、通常0.01〜60分であり、好ましくは0.03〜10分であり、さらに好ましくは0.05〜5分である。前記範囲とすることにより、レターデーションの発現に優れ、フィルムの着色を抑制することができる。
【0103】
また、溶液流延法により速度を上げたり、テンターにてウェブの幅を広げたりする時の平面性等の品質低下を防止するために、テンター内でウエブを乾燥する際には、風速を0.5〜20(40)m/s、横手方向温度分布を10%以下、ウェブ上下風量比を0.2−1とする発明が記載されている。
乾燥ガスの吹き出し延長方向に位置するフィルム表面上での風速分布を風速の上限値を基準にした時、上限値と下限値との差を上限値の20%以内にして、乾燥ガスを吹き出し、ウェブを乾燥させることが好ましい。
【0104】
本発明の製造方法では、Re及び/又はRthの調整のため、揮発分が300〜10%の間に搬送方向に対し垂直方向に、延伸もしくは収縮処理を行ってもよい。Reを低減調整及びRthを増加調整するためには、延伸処理することが好ましく、一方、Reを増加調整及びRthを低減調整するためには、収縮処理することが好ましい。
また、セルロースアシレートフィルムを結晶化処理中に搬送方向と直交する方向に延伸することによって、遅相軸方向の調整(均一化)および面状を改良することができる。
【0105】
例えば、セルロースアシレートフィルムの両端をピン状テンターで固定し、これを搬送方向と直交する方向(横方向)に延伸または収縮しながら加熱ゾーンを通過させることにより実施することができる。
搬送方向に直交する方向の延伸倍率は、通常0.8〜10倍、好ましくは1.0〜5倍、より好ましくは1.1〜3倍である。また、前記延伸における延伸速度は20〜10000%/分が好ましく、より好ましくは40〜1000%/分であり、さらに好ましくは50〜500%/分である。
収縮させる場合の収縮率は5〜80%であることが好ましく、10〜70%であることがより好ましく、20〜60%であることがさらに好ましく、25〜50%であることが最も好ましい。幅方向の収縮率は、フィルムが収縮する直前と直後の全幅を計測し、下記式から求めることができる。
幅方向の収縮率(%)=100×(収縮直前の全幅−収縮直後の全幅)/収縮直前の全幅
【0106】
本発明における結晶化処理工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行うとは、前の結晶化処理が終了した後に再び温度をTcを越えTm0未満に設定して搬送しながら結晶化処理を行うことを意味する。複数回結晶化処理を行う場合は、すべての結晶化処理が完了した段階で前記の延伸倍率の範囲を満たすことが好ましい。本発明の製造方法における結晶化処理は、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましく、1回が最も好ましい。
【0107】
上記では、溶液流延製膜とともに、多量の残留溶媒を含むウェブをWET延伸し、その後、乾燥(結晶化工程)を実施して、本発明のポリマーフィルムを製造する方法について説明した。この方法によれば、安定的に上記式(3)〜(6)を満足するポリマーフィルムを製造することができる。しかし、添加剤などの種類を選択すること等により、他の方法によっても、上記式(3)〜(6)を満足するポリマーフィルムの製造は可能である。例えば、溶液製膜したウェブを乾燥後、残留溶媒をほとんど含まないウェブをDRY延伸し、その後加熱処理する方法等によっても、上記式(3)〜(6)を満足するポリマーフィルムを製造できる。
【0108】
(重層流延)
セルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。
また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更にまた、特開昭61−94724号および特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。或いはまた2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことにより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらにセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0109】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。共流延の場合、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることができる。例えば、マット剤は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多くいれることができ、コア層のみにいれてもよい。また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えばスキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離促進剤を金属支持体側のスキン層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、スキン層に貧溶媒であるアルコールをコア層より多く添加することも好ましい。スキン層とコア層のTgが異なっていても良く、スキン層のTgよりコア層のTgが低いことが好ましい。また、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度もスキン層とコア層で異なっていても良く、スキン層の粘度がコア層の粘度よりも小さいことが好ましいが、コア層の粘度がスキン層の粘度より小さくてもよい。
【0110】
(揮発分が10〜0%の間の延伸)
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムの結晶化処理後に延伸を行ってもよい。このとき、TD(搬送方向に直交する方向)延伸することにより、最終的に得られる透明フィルムのレタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減することができる。延伸時の揮発分は10〜0%であり、温度は、60〜200℃であることがより好ましく、90〜140℃であることがさらに好ましい。90℃以下であると延伸が不十分となり、また、200℃以上であると泣き出しや揮散の問題が発生する.
【0111】
TD延伸の実施により、結晶部分を大きく動かすことなく、配向した非晶部分を減少させることができると考えられる。したがって、Reを大きく動かすことなく、Reの湿度依存性を低減させることが可能となる、また、波長分散をコントロールできる。このようなTD延伸は、配向した非晶部分を効率的に減少させる観点から、搬送方向に対し直交方向への延伸を行うことが好ましい。
【0112】
ここで、熱処理後に延伸を行うことにより、得られるフィルムの湿度依存性の改良および波長分散を調整することができる。フィルムの湿度依存性および波長分散は、主に、非晶部と添加剤(波長分散調整剤)の配向によって決定する。一方、フィルムの遅相軸の向き、およびReとRthの絶対値は、主に、結晶部の配向によって決定する。ここで、前記フィルムの延伸前の配向方向を検討すると、結晶化処理のみを行ったフィルムでは、結晶部、非晶部および添加剤が結晶化処理工程時のフィルム搬送方向に配向している。これらの結晶化処理工程後のフィルムに対し、前記特定の範囲で延伸を行うことに本発明の特徴があり、本発明は熱処理後の延伸では結晶部の配向よりも非晶部と添加剤の配向の変化速度が速いことを新たに見出したことに基づく。すなわち、結晶部分を大きく動かすことなく、非晶部分等の配向を支配的に変化させることができる。本発明の製造方法によれば結晶化処理工程後の延伸により、非晶部と添加剤の配向が結晶部の配向と直交した状態にすることができ、遅相軸の向きを変えずに湿度依存性および波長分散を自由に制御することが可能となる。
【0113】
TD延伸の方法としては、前記の結晶化処理中の延伸の説明にて記載した方法等を採用することができる。TD延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。好ましいのは、ポリマーフィルムの両端をピン状テンターで把持してこれを搬送方向と直交する方向に広げることより延伸する方法である。
【0114】
TD延伸の延伸倍率はセルロースアシレートフィルムに要求するレターデーションに応じて適宜設定することができ、1〜50%が好ましく、1〜30%がより好ましく、1〜5%がさらに好ましい。
結晶化処理が終わった後、TD延伸を行う前の状態のセルロースアシレートフィルムのReやRthは特に制限されない。
この湿度依存性の改良により、表示の湿度変化による変動が低減し表示安定性が向上する。
【0115】
(後乾燥・ハンドリング)
本発明のセルロースアシレートフィルムの支持体から剥離された後、もしくはテンターから後の乾燥工程における乾燥温度は40〜180℃、特に70〜150℃が好ましい。さらに残留溶媒を除去するために、50〜150℃で乾燥され、その場合逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることが好ましく用いられている。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。最終仕上がりフィルムの残留溶媒量は2質量%以下、更に0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0116】
また、乾燥後のフィルムの残留溶媒量に関しては、特開2002−241511号に、20〜60μmの薄手フィルムであっても経時的の変形をなくし、光学的に等方性で、且つ擦り傷が起こらず、気泡や未溶解物をなくすことを目的として、巻き取り時の残留溶媒量を0.05質量%以下とする発明が記載されている。さらに好ましい態様として、・幅手方向で残留溶媒量の最大値と最小値との差が0.02質量%以下あること、・残留溶媒量は好ましくは0.04質量%以下、特に好ましくは0.02質量%以下であること、・そのために乾燥温度としては、100〜150℃、乾燥時間としては5〜30分とすること、等が開示されている。
また、添加剤の泣き出しや揮散が問題ない範囲で200℃程度の温度で処理し、さらに結晶化度を向上させてもよい。
【0117】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。乾燥のために遠赤外線や特開平8−134336号、特開平8−259706号、特開平8−325388号の各公報に記載されているように、マイクロ波を用いて乾燥することもできる。
【0118】
また、特開2002−283370号には、乾燥装置、或いは熱矯正装置への導入前及び/又は搬出後にフィルムクリーン化装置を配置して、ウェブに付着している粉塵などを除去することが記載されている。クリーン化手段としては、振動・高圧風供給・吸引方法以外の方法として、火炎処理(コロナ処理、プラズマ処理)を行なう方式、粘着ロールを設置する方式など用いることが開示されている。また、さらなる異物の混入を阻止するための、好ましい態様として、・巻取元巻接線内に巻き込む位置に除電器を設置すること、・除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が<±2KVとなるように巻取時に除電装置或いは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行なうこと・強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもこと、・イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することが開示されている。
【0119】
(表面処理)
フィルムには、例えば、後述する液晶組成物からなる光学異方性層、又は偏光膜等、他の機能層との密着性を良化するために、表面処理を施すのが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理が挙げられる。また、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下とすることが好ましい。
得られたフィルムを、偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光膜との接着性の観点から、例えば、主成分ポリマーがセルロースアシレートである態様では、酸処理またはアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対するケン化処理を実施することが特に好ましい。以下、アルカリ鹸化処理を例について、具体的に説明する。
【0120】
アルカリ鹸化処理は、フィルムの表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液の例としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。アルカリ溶液の水酸化イオンの規定濃度は、0.1〜3.0Nの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0Nの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液の温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0121】
表面処理後のフィルムの表面エネルギーは、55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることがさらに好ましい。
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースアシレートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0122】
2.位相差フィルム
本発明は、前記本発明のポリマーフィルムと、その上に、液晶組成物からなる光学異方性層を有する位相差フィルムに関する。本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置、特にTNモード液晶表示装置の光学補償に有用である。
図1に、本発明の位相差フィルムの一態様の断面模式を示す。図1に示す位相差フィルム10は、液晶組成物から形成された光学異方性層11と、それを支持する本発明のポリマーフィルム12とを有する。光学異方性層11とポリマーフィルム12との間には、液晶組成物から光学異方性層11を形成する際に、液晶性分子の配向を制御する配向膜を配置してもよい。なお、図1は模式図であり、各層の相対的厚みは実際の光学補償フィルムにおける各層の相対的厚みを必ずしも反映していない。後述する図2および図3においても同様である。
【0123】
2−(1) 支持体(本発明のポリマーフィルム)
本発明の位相差フィルムでは、後述する光学異方性層の支持体として、本発明のポリマーフィルムを用いる。TNモード液晶表示装置の光学補償用に用いる態様では、上記式(3)及び(4)を満足しているとともに、Reが60〜100nmであり、且つRthが40〜80nmであるポリマーフィルムを用いるのが好ましい。
【0124】
2−(2) 光学異方性層
本発明の位相差フィルムは、液晶組成物からなる光学異方性層を少なくとも1層有する。2層以上を有していてもよい。TNモード液晶表示装置の光学補償用に用いられる態様では、光学異方性層は、Re(550)が20〜100nmであり、Re(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないという特性を有するのが好ましい。かかる特性の光学異方性層の一例として、液晶組成物をハイブリッド配向状態に固定して形成される光学異方性層が挙げられる。特に、円盤状化合物を含む液晶組成物をハイブリッド配向状態に固定して形成される光学異方性層であることが好ましい。光学異方性層のRe(550)は、20〜40nmであることがより好ましい。
【0125】
前記光学異方性層の形成に用いる液晶組成物は、ネマチック相およびスメクチック相を形成し得る液晶組成物であるのが好ましい。液晶化合物は、一般的に、その分子の形状に基づいて、棒状液晶化合物および円盤状液晶化合物に分類されるが、本発明ではいずれの形状の液晶化合物を用いてもよい。
【0126】
・円盤状液晶化合物
前記光学異方性層の作製に用いられる円盤状液晶化合物としては、特開2006−76992号公報明細書中の段落番号[0012]以降に詳しく記載されている一般式(D1)で表される化合物が好ましい。具体的な化合物としては、特開2006−76992号公報明細書中の段落番号[0052]、特開2007−2220号公報明細書中の段落番号[0040]〜[0063]に記載の化合物が適している。これらは、高い複屈折性を示すので好ましい。一般式(DI)表される化合物の中でも、ディスコティック液晶性を示す化合物が好ましく、特に、ディスコティックネマチック相を示す化合物が好ましい。
【0127】
また、前記円盤状液晶化合物の好ましい例には、特開2005−301206号公報に記載の化合物も含まれる。
【0128】
・棒状液晶化合物
前記光学異方性層の材料として、棒状液晶化合物を用いることもできる。
棒状液晶化合物を用いる場合は、前記光学異方性層に要求される特性を満足するために、2種以上の棒状液晶化合物を用いるのが好ましい。好ましい組み合わせとしては、下記一般式(X)で表される棒状液晶化合物の少なくとも一種と、下記式(XI)で表される棒状液晶化合物の少なくとも一種との組み合わせが挙げられる。
【0129】
【化17】

【0130】
式中、AおよびBはそれぞれ、芳香族もしくは脂肪族炭化水素環、またはヘテロ環の基を表し;R101〜R104はそれぞれ、置換もしくは無置換の、C112(好ましくはC37)のアルキレン基、またはC112(好ましくはC37)のアルキレン鎖を含むアルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基もしくはアルコキシカルボニルオキシ基を表し;Ra、RbおよびRcはそれぞれ置換基を表し;x、yおよびzはそれぞれ、1〜4の整数を表す。
【0131】
前記式中、R101〜R104に含まれるアルキル鎖は、直鎖状および分岐状のいずれであってもよい。直鎖状であるのがより好ましい。また、組成物を硬化させるために、R101〜R104は末端に重合性基を有しているのが好ましく、該重合性基の例には、アクリロイル基、メタクリロイル基、およびエポキシ基等が含まれる。
【0132】
前記式(X)中、xおよびzは0で、且つyが1であるのが好ましく、1個のRbは、オキシカルボニル基またはアシルオキシ基に対してメタ位もしくはオルト位の置換基であるのが好ましい。RbはC1〜12のアルキル基(例えばメチル基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子)等が好ましい。
【0133】
前記式(XI)中、AおよびBはそれぞれ、フェニレン基またはシクロへキシレン基であるのが好ましく、AおよびBの双方がフェニレン基でありか、または一方がシクロへキシレン基で且つ他方がフェニレン基であるのが好ましい。
【0134】
・光学異方性層の形成方法
前記光学異方性層は、液晶化合物を少なくとも一種含有する組成物を、本発明のポリマーフィルムの表面又はその上に形成された配向膜表面に配置し、液晶化合物の分子を所望の配向状態とし、重合により硬化させ、その配向状態を固定して形成するのが好ましい。Re(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないという、特性を満足するためには、液晶化合物の分子(棒状および円盤状分子の双方を含む)をハイブリッド配向状態に固定するのが好ましい。ハイブリッド配向とは、層の厚み方向で液晶分子のダイレクタの方向が連続的に変化する配向状態をいう。棒状分子の場合は、ダイレクタは長軸方向、円盤状分子の場合はダイレクタは円盤面の法線方向となる。
【0135】
液晶化合物の分子を所望の配向状態とするため、および組成物の塗布性もしくは硬化性の良化のために、前記組成物は一種以上の添加剤を含んでいてもよい。
液晶化合物(特に棒状液晶化合物)の分子をハイブリッド配向させるために、層の空気界面側の配向を制御し得る添加剤(以下、「空気界面配向制御剤」という)を添加してもよい。該添加剤として、フッ化アルキル基およびスルホニル基等の親水性基を有する低分子量もしくは高分子量の化合物が挙げられる。使用可能な空気界面配向制御剤の具体例には、特開2006−267171号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0136】
また、前記組成物を塗布液として調製し、塗布により前記光学異方性層を形成する場合は、塗布性の良化のために界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、フッ素系化合物が好ましく、具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。また市販の「メガファックF780」(大日本インキ製)などを用いてもよい。
【0137】
また、前記組成物は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。前記重合開始剤は、熱重合開始剤であっても光重合開始剤であってもよいが、制御が容易である等の観点から、光重合開始剤が好ましい。光の作用によりラジカルを発生させる光重合開始剤の例としては、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等が好ましい。アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4'−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン等が挙げられる。ベンジル系化合物としては、例えば、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、ベンジル−β−メトキシエチルアセタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラーズケトン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。このような芳香族ケトン類からなる感光性ラジカル重合開始剤の中でも、アセトフェノン系化合物およびベンジル系化合物が、硬化特性、保存安定性、臭気等の面で特に好ましい。これらの芳香族ケトン類からなる感光性ラジカル重合開始剤は、1種または2種以上のものを所望の性能に応じて配合して使用することができる。
また、感度を高める目的で重合開始剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントン等が含まれる。
【0138】
光重合開始剤は複数種を組み合わせてもよく、使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。液晶化合物の重合のための光照射は紫外線を用いることが好ましい。
【0139】
前記組成物は、重合性液晶化合物とは別に、非液晶性の重合性モノマーを含有していてもよい。重合性モノマーとしては、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。なお、重合性の反応性官能基数が2以上の多官能モノマー、例えば、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレートを用いると、耐久性が改善されるので好ましい。
前記非液晶性の重合性モノマーは、非液晶性成分であるので、その添加量が、液晶化合物に対して15質量%を超えることはなく、0〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0140】
前記光学異方性層は、前記組成物を塗布液として調製し、該塗布液を、支持体となる本発明のポリマーフィルム上に形成された配向膜の表面に塗布し、乾燥して溶媒を除去するとともに、液晶化合物の分子を配向させ、その後、重合により硬化させて、形成することができる。利用可能な配向膜の例としては、ポリビニルアルコール膜やポリイミド膜等が挙げられる。
塗布方法としてはカーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーテティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ワイヤーバー法等の公知の塗布方法が挙げられる。
塗膜を乾燥する際には、加熱してもよい。塗膜を乾燥して溶媒を除去すると同時に、塗膜中の液晶化合物の分子を配向させて、所望の配向状態を得る。
【0141】
次に、紫外線照射等によって重合を進行させて、配向状態を固定化し、光学異方性層を形成する。重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100mJ/cm2〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0142】
前記光学異方性層の厚さについては特に制限されないが、一般的には、0.1〜10μm程度であるのが好ましく、0.5〜5μm程度であるのがより好ましい。
【0143】
3.偏光板
本発明は、本発明のポリマーフィルム又は本発明の位相差フィルムと、偏光膜とを少なくとも有する偏光板にも関する。本発明の偏光板を液晶表示装置に組み込む際は、本発明のポリマーフィルム又は位相差フィルムを液晶セル側にして配置するのが好ましい。また、本発明の位相差フィルムを有する態様では、支持体である本発明のポリマーフィルムの裏面(光学異方性層が形成されていない側の面)と、偏光膜の表面とを貼り合わせるのが好ましい。いずれの態様においても、本発明のポリマーフィルムの面内遅相軸と、偏光膜の透過軸との交差角は、略0度として貼り合せるのが好ましい。厳密に0度である必要はなく、製造上許容される±5度程度の誤差は、本発明の効果に影響するものではなく、許容される。また、偏光膜の他方の面にも、セルロースアシレートフィルム等の保護フィルムが貼り合せられているのが好ましい。
【0144】
図2に本発明の偏光板の一態様の断面模式図を示す。図2に示す偏光板15は、偏光膜13と、その表面に、偏光膜13を保護する、本発明の位相差フィルム10と保護フィルム14とを有する。位相差フィルム10を構成する支持体12は、本発明のポリマーフィルムであり、その裏面、即ち、光学異方性層11が形成されていない側の表面と、偏光膜13の表面とが貼り合わされている。偏光板15を液晶表示装置に組み込む際は、位相差フィルム10を液晶セル側にして配置する。なお、図中示さないが、図2の偏光板15は、他の機能層を有していてもよく、例えば、保護フィルム14の外側に、拡散層、防眩層等を有していてもよい。
【0145】
以下、本発明の偏光板を構成する、本発明のポリマーフィルム又は位相差フィルム以外の部材について、それらの作製に使用可能な種々の材料とともに説明する。
【0146】
・偏光膜
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜があり、本発明にはいずれを使用してもよい。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0147】
・保護フィルム
偏光膜の他方の表面に貼合される保護フィルムには、透明なポリマーフィルムを用いることが好ましい。透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。保護フィルムとしては、セルロースアシレートフィルム、およびポリオレフィンを含むポリオレフィンフィルムが好ましい。セルロースアシレートフィルムの中でも、セルローストリアセテートフィルムが好ましい。また、ポリオレフィンフィルムの中でも、環状ポリオレフィンを含むポリノルボルネンフィルムが好ましい。
保護フィルムの厚さは、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがさらに好ましい。
【0148】
・光拡散フィルム
本発明の偏光板は、偏光膜の片側表面上に光拡散フィルムを有していてもよい。光拡散フィルムは一層のフィルムであっても、また積層フィルムであってもよい。積層フィルムの態様の例としては、光透過性ポリマーフィルムの上に、光散乱層を有する光拡散フィルムが挙げられる。光拡散フィルムは、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良に寄与するものであり、表示面側の偏光膜の外側に反射防止層を配置した態様において、特に高い効果を奏する。光拡散フィルム(またはその光散乱層)は微粒子をバインダー中に分散させた組成物から形成することができる。微粒子は無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。バインダーと微粒子とは、屈折率差が0.02〜0.20程度あるのが好ましい。また、前記光拡散フィルム(またはその光散乱層)は、ハードコート機能を兼ね備えていてもよい。本発明に利用可能な光拡散フィルムについては、例えば、光散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0149】
・偏光板の作製方法
本発明の偏光板は、長尺状の偏光板として製造することができる。例えば、長尺状に作成した本発明のポリマーフィルムを用い、その表面に、所望により配向膜形成用塗布液を塗布して配向膜を形成し、引き続き、光学異方性層形成用塗布液を連続的に塗布して、乾燥により所望の配向状態とした後、光照射して配向状態を固定して光学異方性層を形成して、長尺状の本発明の位相差フィルムを作製することができる。その後、該位相差フィルムを、一旦、ロール状に巻き上げてもよい。別途、長尺状の偏光膜、および保護フィルム用の長尺状のポリマーフィルムをロール状に巻き上げたものと、ロール・トゥー・ロールで貼り合せ、長尺状の偏光板として作製することができる。長尺状の偏光板は、例えば、ロール状に巻き上げられた状態で搬送および保管等され、液晶表示装置に組み込まれる際に、所定の大きさに裁断される。なお、本発明の偏光板は長尺状でなくてもよく、ここに記載した作製方法は一例に過ぎない。
本発明のポリマーフィルムを作製する際に、フィルムの搬送方向へ延伸すれば、偏光板作製時にロールツーロールの加工が可能となり、工程の簡略化、偏光膜の軸との貼り合わせ精度の向上等が達成できるため好ましい。
【0150】
4. 液晶表示装置
本発明のポリマーフィルム、位相差フィルム、及び偏光板は、種々のモードの液晶表示装置に用いることができる。また、透過型、反射型、および半透過型のいずれの液晶表示装置にも用いることができる。本発明のポリマーフィルムは、上記式(3)及び(4)の特性を満足するとともに、着色のないポリマーフィルムであるので、ポリマーフィルムに起因した着色を生じさせずに、液晶表示装置の視野角特性の改善に寄与する。
特に、本発明の位相差フィルムは、少なくとも一方に電極を有する対向配置された一対の基板と、該一対の基板間に挟持され、ネマチック液晶材料を含み、黒表示時に該ネマチック液晶材料の液晶分子が前記一対の基板の表面に対して略垂直に配向する液晶表示装置、特に、ツイストネマチック(TN)モードの液晶表示装置に有効である。特に、本発明は、透過型ツイストネマチックモードモードの液晶表示装置の態様において特に有効である。
TNモードの液晶表示に用いる場合は、本発明の位相差フィルムを2枚、液晶セルを中心に対称的な位置に配置するのが好ましく、また本発明の偏光板を、上下(視認側とバックライト側)の偏光板として液晶セルを中心として対称的な関係で配置するのが好ましい。TNモードの液晶セルの液晶層は、通常、厚さd(ミクロン)と屈折率異方性Δnとの積Δn・dが0.1〜1.5μm程度である。
【0151】
図3に、本発明の液晶表示装置の一実施形態であるTNモード液晶表示装置の断面模式図を示す。図3に示す液晶表示装置は、TNモード液晶セル16と、それを挟んで上下に、互いに対称的に配置された2枚の本発明の偏光板15とを有する。液晶セル16はネマチック液晶材料からなる液晶層を有し、液晶層は駆動電圧無印加時にはねじれ配向状態に、および駆動電圧印加時には基板面に対して垂直配向状態になるように構成されている。上下の偏光板15はその偏光膜13の透過軸を互いに直交にして配置されているので、駆動電圧無印加時に、下偏光板15の背後に配置されたバックライト(不図示)から液晶セル16に入射した直線偏光は、液晶層のねじれ配向に沿って90°回転し、上偏光板15の透過軸を通過して、白表示となる。一方、駆動電圧印加時には、液晶セル16に入射した直線偏光は、偏光状態を維持したまま通過するので、上偏光板15によって遮光され、黒表示となる。液晶セル16の上下に配置された、本発明の位相差フィルム10は、黒表示時に斜め方向に生じる複屈折性を補償する。
【0152】
・本発明の好ましい態様の液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと該液晶セルの少なくとも一方の側に配置された偏光板とを備えるTNモード液晶表示装置であって、前記液晶セルが、赤、緑および青のカラーフィルターと、該赤、緑および青のカラーフィルターにそれぞれ対応する液晶層を含み、前記液晶層が、dR≧dG>dB、または、dR>dG≧dBの関係を満足するマルチギャップ構造を有し、前記偏光板が、偏光膜と、該偏光膜の前記液晶セル側に配置された本発明の光学補償フィルムとを有することが好ましい。このような構成とすることで、上記本発明の効果を奏するとともに、斜め横方向に生じる白味変化をも抑制することができる。以下、このようなマルチギャップ構造を有する液晶セルを用いた本発明の液晶表示装置の態様を、「本発明の好ましい態様の液晶表示装置」と言うことがある。
【0153】
本発明の好ましい態様の液晶表示装置は、前記液晶セルの両方の側に偏光板が配置されていることが好ましく、前記液晶セルの両方の側に本発明の光学補償フィルムを保護層として用いた偏光板が配置されていることが好ましい。
【0154】
本発明の好ましい態様の液晶表示装置は、液晶層が、マルチギャップ構造を有することによって、各色のカラーフィルターに対応する液晶層の厚みに応じて、位相差値が異なる。液晶層全体としては、長波長ほど位相差値が大きい特性、いわゆる逆波長分散特性を得ることができる。
この逆分散特性を示す液晶層と、本発明の位相差フィルムとを組み合わせれば、液晶表示装置の視認側へ出射する光の強度が波長によらず等しくなるため、上記本発明の効果が得られるとともに、斜め横方向に生じる白味変化をも抑制することができる。以下、本発明の好ましい態様の液晶表示装置の、各構成部材の詳細について説明するが、本発明は、下記の特定の実施形態のみに限定されるものではない。
【0155】
前記液晶セルは、赤、緑および青のカラーフィルターと、該赤、緑および青のカラーフィルターにそれぞれ対応する液晶層とを含む。液晶層は、第1の基板と第2の基板との間に挟持されることが好ましい。第1の基板には、好ましくは、前記カラーフィルターが形成される。第2の基板には、好ましくは、液晶の電気光学特性を制御するTFT素子と、このアクティブ素子にゲート信号を与える走査線及びソース信号を与える信号線とが設けられる。
【0156】
本発明の好ましい態様の液晶表示装置において、前記カラーフィルターは、第1の基板又は第2の基板の、いずれの側に形成されもよい。
【0157】
本発明の好ましい態様の液晶表示装置に用いられるカラーフィルターは、赤、緑および青の3原色フィルターを有するものであれば、任意の適切なものが用いられ得る。前記カラーフィルターは、例えば、深紅のような他色のフィルターをさらに有するものであってもよい。赤フィルターは、波長400nm〜480nmの範囲内で透過率の最大値を示し、緑フィルターは、波長520nm〜580nmの範囲内で透過率の最大値を示し、青フィルターは、波長590nm〜780nmの範囲内で透過率の最大値を示すものが好ましい。各色における透過率の最大値は、好ましくは80%以上である。
【0158】
前記カラーフィルターの厚みは、適宜、適切に選択され得る。好ましくは0.4〜4.0μmであり、さらに好ましくは0.7〜3.5μmである。前記カラーフィルターの画素パターンは、ストライプ型、モザイク型、トライアングル型、ブロック型など、任意のパターンが採用され得る。
【0159】
前記カラーフィルターが形成される画素部分には、必要に応じて、各色のフィルターの境界部分に配置されたブラックマトリックスや、カラーフィルターを覆うように形成されたプロテクト層や、該プロテクト層上に形成された透明導電膜が、配置される。
【0160】
前記カラーフィルターを形成する色材としては、特に制限はなく、例えば、染料又は顔料が用いられる。染料系カラーフィルターは、透明性やコントラストに優れ、分光のバリエーションが豊富である特徴を有する。一方、顔料系カラーフィルターは、耐熱性や耐光性に優れる。上記カラーフィルターの形成方法は、例えば、フォトリソグラフィー法、エッチング法、印刷法、電着法、インクジェット法、蒸着法等が用いられ得る。
【0161】
好ましくは、前記カラーフィルターを形成する色材は、顔料である。顔料系カラーフィルターは、アクリルやポリイミドなどのバインダー樹脂中に顔料を分散させた着色樹脂によって得ることができる。上記顔料としては、例えば、Color Index Generic Name; Pigment Red177(クリムソンレーキ)、同 Red168、Pigment Green7(フタロシアニングリーン)、同 Green36、Pigment Blue15(フタロシアニンブルー)、同 Blue6、Pigment Yellow83(アゾ系イエロー)等が挙げられる。前記顔料は、色を調整するために、複数の色を混合して用いてもよい。
【0162】
前記顔料の分散状態は、二次粒子の平均粒径として、好ましくは0.2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。なお、上記二次粒子は、顔料の微粒子(一次粒子)が、いくつか結合した凝集体をいう。このような分散状態の顔料系カラーフィルターであれば、透過率が高く、消偏性の低いものとすることができる。
【0163】
本発明の好ましい態様の液晶表示装置に用いられる液晶層は、各色のフィルターに対応する厚みが、dR≧dG>dB、または、dR>dG≧dBの関係を満足するマルチギャップ構造を有する。ここで、前記dR、前記dGおよび前記dBは、前記赤、緑および青のカラーフィルターにそれぞれ対応する液晶層の厚みをそれぞれ表す。各色のフィルターに対応する液晶層の厚みは、dR>dG>dBの関係を満足することが最も好ましいが、dR=dGであっても、dG>dBであれば、影響の大きい青領域における、液晶表示装置の光漏れを低減することができるので、比較的良好な表示特性が得られる。また、dG=dBであっても、dR>dGであれば、同様に比較的良好である。
【0164】
前記(dR−dG)および(dG−dB)は、好ましくは0.1〜1.5μmであり、さらに好ましくは0.5〜1.2μmである。好ましくは、上記dRは2.8〜7.9μmであり、上記dGは2.7〜5.7μmであり、上記dBは2.6〜5.6μmである。
【0165】
本発明の液晶表示装置は、前記dRおよび前記dBが、0μm<dR−dB≦3.0μmを満たすことが、斜め横方向に生じる白味変化をさらに抑制できる観点から好ましい。
前記液晶層のマルチギャップ構造は、0.2μm≦dR−dB≦3.0μmを満たすことがより好ましく、1.0μm≦dR−dB≦2.5μmを満たすことが特に好ましい。
【0166】
前記マルチギャップ構造を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。前記マルチギャップ構造は、赤、緑および青のカラーフィルターの厚みをそれぞれ変えることにより形成されることが好ましい。このとき、各色のフィルターの厚みは、好ましくは、三原色中、青が最も分厚く、次いで緑であり、赤が最も薄い。なお、各色のカラーフィルターの厚みは、例えば、フォトリソグラフィー法やエッチング法が選択される場合は、着色樹脂の塗布量により、増加ないし減少させることが可能である。電着法や蒸着法が選択される場合は、電着液への浸漬時間や、蒸着時間により、各色のカラーフィルターの厚みを調整できる。
【0167】
別の方法としては、前記マルチギャップ構造は、各色のカラーフィルターの第1の基板側に、アンダーコート層を設け、各色に対応するアンダーコート層の厚みをそれぞれ変えることによって形成される。さらに別の方法としては、前記マルチギャップ構造は、各色のカラーフィルターの液晶層側に、オーバーコート層を設け、各色に対応するオーバーコート層の厚みをそれぞれ変えることによって形成される。このとき、前記オーバーコート層は、カラーフィルターのプロテクト層を兼ねていてもよい。
【0168】
各色のカラーフィルターの厚みは、同一であっても、色ごとに異なっていてもよい。この場合も、前記アンダーコート層またはオーバーコート層の厚みを適宜、調整することによって、マルチギャップ構造を得ることができる。また、本発明の好ましい態様の液晶表示装置に用いられる液晶セルは、前記のアンダーコート層とオーバーコート層の両方を有していてもよく、あるいは、赤、緑および青のうち一部の色のフィルターのみにアンダーコート層および/またはオーバーコート層を有していてもよい。
【0169】
前記アンダーコート層及びオーバーコート層を形成する材料は、透明性が高く、耐熱性に優れるものが好ましい。そのような材料は、例えば、ポリイミド系樹脂、や、アクリルやエポキシ等の紫外線硬化樹脂である。
【0170】
液晶層の波長分散特性は逆波長分散特性が好ましく、このような液晶層は、従来、表示特性を悪化させる原因であった青色領域の光漏れを小さくすることができる。
【0171】
5.測定法
以下において、本発明における物性や光学的性質等を測定する方法を記載する。
(1)ReとRth
本明細書において、Re(λ)およびRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション(単位:nm)および厚さ方向のレターデーション(単位:nm)を表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(商品名、王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定した。
【0172】
測定するフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)を算出する。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)フィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定したレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0173】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の数式(1)および数式(2)によりRthを算出することもできる。
【0174】
【数1】

【0175】
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
【0176】
測定するフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)を算出する。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定したレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0177】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRがnx、ny、nzを算出する。算出したnx、ny、nzによりNz=(nx−nz)/(nx−ny)をさらに算出することができる。
【0178】
また、本明細書において、測定波長を特に付記しない場合は、波長550nmにおけるReおよびRthであるとする。また、本明細書において、光学特性等を示す数値や数値範囲については、液晶表示装置やそれに用いられる部材について一般的に許容される誤差を含む数値または数値範囲であると解釈されるものとする。
【0179】
(2)置換度
セルロースの水酸基に置換する酢酸および/または炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。
【実施例】
【0180】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0181】
1.ポリマーフィルムの作製
下記の組成のセルロースアシレート溶液A−1を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液Aの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・平均置換度2.94のセルロースアセテート 100.0質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 475.9質量部
・メタノール(第2溶媒) 113.0質量部
・ブタノール (第3溶媒) 5.9質量部
・平均粒子サイズ16nmのシリカ粒子 0.13質量部
(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
・高分子量可塑剤 * 10.0質量部
・波長分散調整剤(下記表に示す) 下記表に記載
・クエン酸エステル 0.01質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)
【0182】
【化18】

【0183】
上記調製したそれぞれのセルロースアシレート溶液Aを、ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムを残留溶媒量約260%でフィルムをドラムから剥離し、ピンテンターによって搬送し、下記表1に示す延伸倍率で搬送方向に延伸した。残留揮発分が40%のときにフィルム膜面温度が80℃となるように乾燥を行い、更に140度で20分乾燥して、膜厚80μmのセルロースアシレートのフィルムをそれぞれ作成した。
なお、フィルムの延伸倍率(%)は、フィルムの搬送方向と直交する方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を延伸工程前後で計測し、下記式から求めた。後述する実施例および比較例でも同じ方法によりフィルムの延伸倍率を求めた。
【0184】
【数2】

【0185】
上記で得られたセルロースアセテートフィルムそれぞれの光学特性を下記表1に示す。また、作製に用いた波長分散調整剤の添加量、λmax、λ1/2−λmax、並びに式(1)及び式(2)をそれぞれ満足しているか否か(表中「○」が満足していることを意味し、「×」が満足していないことを意味する)も合わせて表1中に示した。
【0186】
2.位相差フィルムの作製
(1)セルロースアセテートフィルムの鹸化処理
上記で得られたそれぞれのセルロースアセテートフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、下記に示す組成のアルカリ溶液をバーコーターを用いて14mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外線ヒーター((株)ノリタケカンパニー製)の下に10秒滞留させた後に、同じくバーコーターを用いて純水を3mL/m2塗布した。この時のフィルム温度は40℃であった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に70℃の乾燥ゾーンに2秒滞留させて乾燥した。
────────────────────────────────────
鹸化処理用アルカリ溶液の組成
────────────────────────────────────
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
・界面活性剤(C1633O(CH2CH20)10H) 1.0質量部
────────────────────────────────────
【0187】
(2)配向膜の形成
鹸化したそれぞれのセルロースアセテートフィルムの鹸化処理面に、下記の組成の配向膜形成用塗布液を#14のワイヤーバーコーターで24mL/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥した。配向膜の厚さは1.0μmであった。次に、フィルムの長手方向(搬送方向)を0°とし、0°方向に、形成した膜にラビング処理を実施した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜形成用塗布液の組成
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・下記の変性ポリビニルアルコール 40質量部
・水 728質量部
・メタノール 228質量部
・グルタルアルデヒド(架橋剤) 2質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学(株)) 0.69質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0188】
【化19】

【0189】
(3)光学異方性層の形成
上記配向膜のラビング処理面に、下記に示す組成の光学異方性層形成用塗布液をワイヤーバーでそれぞれ塗布した。その後、130℃の恒温槽中で120秒間加熱し、円盤状液晶化合物を配向させた。次に、80℃で160W/cm高圧水銀灯を用いて、40秒紫外線照射し架橋反応を進行させて、円盤状液晶化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。得られた光学異方性層の、波長550nmで測定したRe、膜厚は下表の様になった。また、光学異方性層中、円盤状液晶化合物の分子は、ハイブリッド配向状態に固定されていて、Re(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないことを、フィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRから確認した。
【0190】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
光学異方性層形成用塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・メチルエチルケトン 270質量部
・下記に示す円盤状液晶性化合物(化合物(1)) 90質量部
・下記に示す円盤状液晶性化合物(化合物(2)) 10質量部
・下記構造の空気界面配向制御剤 1.0質量部
・光重合開始剤(イルガキュア907、チバ・ジャパン(株)製) 3.0質量部
・増感剤(カヤキュア DETX、日本化薬(株)製) 1.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0191】
【化20】

【0192】
それぞれの光学異方性層の膜厚は、面内レターデーションReが28nmとなるように調整した。しそれぞれの光学異方性層の厚みは0.9μm〜1.2μm程度であった。
【0193】
3.偏光板の作製
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光膜を得た。
作製した光学フィルムのセルロースアセテートフィルム側の露出面(光学異方性層が形成されていない側の表面)を1.5モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬して希硫酸水溶液を十分に洗い流し、最後に120℃で十分に乾燥させた。
前記のように鹸化処理を行った光学フィルムを、同じく鹸化処理を行った市販のセルロースアセテートフィルムと組合せて前記の偏光膜を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて、鹸化処理面を貼り合せることにより図2に示す層構成を有する偏光板を得た。ここで市販のセルロースアセテートフィルムとしてはフジタックTF80UL(富士フイルム(株)製)を用いた。このとき、偏光膜および偏光膜両側の保護膜はロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わせた。従って光学フィルムロールの長手方向(フィルムの流延方向)と偏光膜の吸収軸とは平行な方向となった。
【0194】
4.TNモード液晶表示装置の作製と評価
図3と同様の構成のTNモード液晶表示装置を作製した。具体的には、TNモード液晶セルを使用した液晶表示装置(AL2216W、日本エイサー(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記の作製した偏光板を、光学異方性層が液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。このとき、観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とが直交するように配置した。この様にして、TNモード液晶表示装置をそれぞれ作製した。
【0195】
作製した各液晶表示装置について、以下の評価を行った。
・上下左右の視野角特性評価
作製した各液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)と白表示(L8)のコントラスト視野角を測定した。極角80度における上下左右方向で、コントラスト比(白透過率/黒透過率)の平均値求めた。以下の基準で評価した。
5: 50以上
4: 50未満、45以上
3: 45未満、35以上
2: 35未満、30以上
1: 30未満
【0196】
・黄色味評価
作製した各液晶表示装置を目視観察し、着色(黄色味)の程度を以下の基準で評価した。
◎: 黄着色が認められなかった場合
○: 黄着色が弱く認められるが、実用上問題のない場合
×: 実用上問題のあるレベルで黄着色が認められた場合
【0197】
・耐光性評価
実施例1〜7にそれぞれ用いた偏光板について、「スーパーキセノンウェザーメーター SX75 (スガ試験機株式会社製)」にセットし、偏光板の保護フィルム(フジタックTF80UL)側から光を、150W/m2の条件で、200時間照射した。その後、上記と同様にしてTNモード液晶表示装置をそれぞれ作製し、上記と同様にして、視野角特性を同様の基準で評価した。
【0198】
評価結果を下記表に示す。
【表1】

【0199】
【表2】

【0200】
表1に示す結果から明らかなように、上記式(1)及び(2)を満足する化合物が添加された本発明のポリマーフィルムを有する実施例1〜12のTNモード液晶表示装置は、いずれも視野角特性に優れ、且つ黄色味着色が軽減されていることが理解できる。特に、実施例1及び4に用いたポリマーフィルムは、視野角特性、着色、及び耐光性のいずれの観点でも優れていることが理解できる。
一方、上記式(1)及び/又は(2)を満足しない紫外線吸収剤が添加されたポリマーフィルムを有する比較例1〜6のTNモード液晶表示装置は、視野角特性の観点で及び/又は黄色味着色の観点で、実施例と比較して、いずれも劣っていることが理解できる。
【0201】
5.ポリマーフィルムの延伸
実施例1で用いたポリマーフィルムの作製において、延伸工程における延伸条件を変更し、延伸倍率を35%から10%にかえた以外は、同様にしてポリマーフィルムを製造した。得られたポリマーフィルムは、ΔReが負で且つΔRthが正であり、即ち、式(3)及び(4)を満足する光学特性を示した。一方、当該ポリマーフィルムのReは16nmであり、且つRthは55nmであった。このポリマーフィルムの表面に、配向膜、及び光学異方性層を、上記と同様にして形成し、さらに偏光板及びTNモード液晶表示装置を作製し、上記と同様にして評価した。その結果、実施例1と同様、黄色味の着色はなかったが、視野角特性の評価結果は、劣っていた(上記評価基準の「2」であった)。この結果から、溶液製膜した後、所定の残留溶媒量の状態で搬送方向に行う延伸は、ポリマーフィルムのRe及びRthに大きく影響することが理解できる。当該工程における延伸倍率が、15%を超えていると、安定的に所望の範囲のRe及びRthを示すポリマーフィルムを製造することができる。
一方、当該延伸工程における延伸条件を変更して種々の延伸倍率で延伸を実施したところ、延伸倍率が120%まで達成したところでフィルムに破断が生じた。この結果から、当該延伸工程における延伸倍率は100%以下であることが好ましいことが理解できる。
【符号の説明】
【0202】
10 位相差フィルム
11 光学異方性層
12 支持体(本発明のポリマーフィルム)
13 偏光膜
14 保護フィルム
15 偏光板
16 液晶セル
17 TNモード液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)を満足する少なくとも1種の化合物を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有し、波長λnmにおける面内レターデーションRe(λ)、及び波長λnmにおける厚み方向レターデーションRth(λ)がそれぞれ下記式(3)、(4)、(5)及び(6)を満足するポリマーフィルム:
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
[上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。]
(3):Re(450)−Re(550)≦0nm
(4):Rth(450)−Rth(550)≧0nm
(5):60nm ≦ Re(550)≦ 100nm
(6):40nm ≦ Rth(550)≦ 80nm 。
【請求項2】
下記式(3’)及び(4’)を満足する請求項1に記載のポリマーフィルム:
(3’):−150nm≦Re(450)−Re(550)≦0nm
(4’):150nm≧Rth(450)−Rth(550)≧0nm 。
【請求項3】
下記式(3”)及び式(4”)を満足する請求項1に記載のポリマーフィルム:
(3”):−50nm≦Re(450)−Re(550)≦−3nm
(4”):50nm≧Rth(450)−Rth(550)≧3nm 。
【請求項4】
前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(I)で表されるメロシアニン系化合物であり、且つ該化合物のλmaxが、370nm≦λmax≦400nmを満足する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーフィルム:
【化1】

式(I)中、Nは窒素原子を表し;R1〜R7はそれぞれ水素原子又は置換基を表す。
【請求項5】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表し、互いに結合して窒素原子を含む環を形成していてもよく;R6及びR7はそれぞれ、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表わすか、あるいはR6とR7とは互いに結合して環状の活性メチレン化合物構造を形成していてもよく;R3、R4及びR5はそれぞれ水素原子を表わす請求項4に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(Ia)で表されるメロシアニン系化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマーフィルム:
【化2】

式(Ia)中、R11及びR12はそれぞれ、アルキル基、アリール基、シアノ基、又は−COOR13を表すか、互いに結合して窒素原子を含む環を形成し;R6及びR7はそれぞれ、−シアノ基、−COOR14、又は−SO215を表すか、互いに結合して、下記の環状の活性メチレン構造(Ia-1)〜(Ia-6)のいずれかを形成し;R13、R14及びR15はそれぞれ、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
【化3】

(式中、「**」は、式(Ia)との結合位置は示し;Ra及びRbはそれぞれ、水素原子、又はC1〜C20のアルキル基を表し;Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項7】
前記一般式(Ia)で表されるメロシアニン系化合物が、下記式(Ia−a)、(Ia−b)又は(Ia−c)で表される化合物である請求項6に記載のポリマーフィルム:
【化4】

式中、R6a及びR7a、R6b及びR7b、並びにR6C及びR7Cは、前記式(Ia)中のR6及びR7とそれぞれ同義である。
【請求項8】
前記少なくとも1種の化合物が、下記一般式(II)で表されるベンゾジチオール系化合物であり、且つ該化合物のλmaxが、387nm≦λmax≦400nmを満足する請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーフィルム:
【化5】

式(II)中、Sは硫黄原子を表し、R21〜R26はそれぞれ水素原子又は置換基を表し、可能な場合は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項9】
前記少なくとも1種の化合物が、下記式(IIa)で表されるベンゾジチオール系化合物である請求項1〜3及び8のいずれか1項に記載のポリマーフィルム:
【化6】

式(IIa)中、R31及びR32はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基を表し;R33及びR34はそれぞれ、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアルコキシ基を表し;但し、R31〜R34でそれぞれ表されるアルキル基中の1つのCH2、及び互いに隣接しない2以上のCH2は、酸素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよい。
【請求項10】
前記少なくとも1種ポリマーが、下記式(5)を満足するセルロースアシレートである請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマーフィルム:
(5): 2.70<SA+SB≦3.00
式中、SAはセルロースアシレートのアセチル基による置換度を表し、SBはアセチル基以外のアシル基による置換度を表す。
【請求項11】
主成分である少なくとも1種のポリマー、及び下記関係式(1)及び(2)を満足する化合物の少なくとも1種を、前記少なくとも1種のポリマーに対して0.2〜20質量%含有するポリマー溶液を、流延してウェブを形成する流延工程、
流延工程により得られたウェブを、残留溶媒量が100〜300質量%の間に、搬送方向に沿って4〜100%延伸する延伸工程、及び
延伸工程後、ウェブの残留揮発分が100〜10%の間に、膜面温度50〜100℃で乾燥する乾燥工程、
を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマーフィルムの製造方法:
(1) : 360nm≦λmax≦400nm
(2) : λ1/2−λmax≦20nm
上式において、λmaxは前記化合物の極大吸収波長(単位;nm)を表し、λ1/2(但し、λmax<λ1/2)はλmaxにおける吸収強度が、1/2になる波長を表す。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマーフィルム、及びその上に、液晶組成物を硬化して形成された光学異方性層を有する位相差フィルム。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマーフィルム又は請求項12に記載の位相差フィルム、及び偏光膜を有する偏光板であって、前記ポリマーフィルム又は前記位相差フィルムの面内の遅相軸と偏光膜の面内の透過軸との交差角が平行であることを特徴とする偏光板。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマーフィルムを少なくとも有する液晶表示装置。
【請求項15】
請求項12に記載の位相差フィルムを少なくとも有するTNモード液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−186358(P2011−186358A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54064(P2010−54064)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】