説明

ポリマーブレンドポリエステル繊維

【課題】
常圧染色性が良好であり、さらにソフト性、ストレッチ耐久性に優れた布帛を得ることのできるポリマーブレンドポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】
ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを重量比率55/45〜90/10で混合してなるポリマーブレンドポリエステル繊維であって、該繊維の固有粘度が0.9〜1.5であり、20%伸長回復を5回繰り返し後の伸長弾性率が60%以上であり、さらに示差走査熱量分析による融点が200〜225℃、且つ単一のピークであることを特徴とするポリマーブレンドポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧染色性が良好であり、さらにソフト性、ストレッチ耐久性に優れた布帛を得ることのできるポリマーブレンドポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称する)に代表されるポリエステル繊維は耐熱性、機械特性に優れるのみならず、糸加工が容易であり最も汎用的な合成繊維である。中でも、ポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと称する)繊維は、伸長回復性が高く、かつ、初期引張抵抗度が低いので、布帛にしたときにストレッチ性及びソフト性に優れるという特徴を有することから、近年、鋭意検討されている。しかしながら、ポリエステル繊維は化学構造中に染料と反応し得る反応基を有さず、物理的構造が緻密であることから、染料が浸透しにくく、分散染料による染色では高温・高圧条件が必須であった。そのため、ナイロンやポリウレタン、天然素材など、高温・高圧下では強度や風合いの低下といった物性面の劣化を起こしてしまう他素材との複合が難しく、より低温にてポリエステル繊維を染色すべく様々な技術開発がなされてきた。
【0003】
従来、特許文献1に開示されるように、PETを高速紡糸することにより、より低温での染色が可能となることが知られている。しかしながら、常圧での染色にはなお不十分であり、濃色発現のためには110〜120℃で高圧染色機を用いて染色しなければならなかった。また、特許文献2にはPTTを5000〜10000m/分の高速にて紡糸することにより常圧でも濃色に染色可能な繊維について開示されている。しかしながら、高速紡糸では低強度高伸度の繊維しか得られず、また、PTTはPETと比較して曳糸性に劣るポリマーであることから、高速紡糸での製糸安定性が悪く、生産性に劣るものであった。
【0004】
ここで、共重合による染色性の改善も行なわれており、特許文献3に開示されるようにPTTにエステル形成性スルホン酸塩といった反応性官能基を有する成分を共重合させることにより、常圧での染色を可能にする技術が知られている。しかしながら、反応性官能基の存在により、溶融時の熱分解が著しく、加えて、異なる構造により配向結晶化が阻害され、強度が不足し、生産性に劣るものであった。また、特許文献4に開示されるように、PETにPTTを共重合することにより常圧での染色が可能になることも知られている。しかしながら、PET成分が主体となることから、PTTの特徴であるストレッチ性やソフト性は得られず、また、耐熱性の低いPTT成分は、高温での紡糸で熱分解し、生産性に劣るものであった。
【0005】
一方、特許文献5に開示されるように、PTT繊維の伸長回復性を生かし、高度のシボ立て性を有する強撚用ポリエステル原糸を製造するために、PTTとPETをブレンドしてなる繊維の検討が数多くなされている。しかしながら、何れの方法においても、美しいシボの織物を得ることを目的とした技術であり、シボの無い平滑な布帛組織を得ることは困難であった。また、ブレンドするのみでは染色性は向上せず、さらには高温での紡糸によるPTTの熱分解により、強力、ストレッチ耐久性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4134882号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−100722号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−339685号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−38333(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2001−89950号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決できるものであり、常圧染色性が良好であり、さらにソフト性、ストレッチ耐久性に優れた布帛を得ることのできるポリマーブレンドポリエステル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを重量比率55/45〜90/10で混合してなるポリマーブレンドポリエステル繊維であって、該繊維の固有粘度が0.9〜1.5であり、20%伸長回復を5回繰り返し後の伸長弾性率が60%以上であり、さらに示差走査熱量分析による融点が200〜225℃、且つ単一のピークであることを特徴とするポリマーブレンドポリエステル繊維である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、常圧染色性が良好であり、さらにソフト性、ストレッチ耐久性に優れた布帛を得ることのできるポリマーブレンドポリエステル繊維が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は、PETとPTTのブレンドポリマーからなる。本発明でいうPETとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、このPETには、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
また、本発明でいうPTTとは、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分として得られるポリエステルである。このPTTには、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体やリン系耐熱剤、着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【0011】
PTTの固有粘度は1.0以上とすると高強力で伸長弾性率に優れた繊維が得やすく、2.0以下とすると製糸安定性に優れ、ソフト性に優れた繊維を得やすい。PETの固有粘度は0.4〜0.9とすることで、ブレンドした際にPTT繊維のソフト性などの特性を阻害せず、遅延収縮による巻き締まりなどの短所を改良したポリエステル繊維を得やすい。
本発明は、PTTとPETからなるポリマーブレンドポリエステル繊維であるが、PTTポリマー中にPET成分がミクロに分散することで、ブレンドポリマーが単一の様相を示すようになり、また、PETがPTTの過度な結晶化を阻害し、分散染料が浸透し易い適度な非晶部を形成するため、染色性が向上し、常圧での染色が可能となる。加えて、凝固点降下作用により溶融温度、紡糸温度を低く設定でき、PTTの熱劣化を抑制することができる。PTTとPETの混合比率は重量比率で55/45〜90/10にすることが重要であり、PTTが主成分であることからブレンドした際の凝固点降下作用により低温での紡糸が可能となり、PTTの熱劣化が抑制できる。加えて、布帛にした際、PTT単独糸と同等のソフト性およびストレッチ性を得ることができる。PETの混合比率が10重量%より少ないと、PETの量が少なく、凝固点降下が起きないばかりか、染色性も向上しない。また、PTT繊維の欠点である遅延収縮が抑制できず、紡糸時や延伸時に巻き締まりが発生し、巻きフォーム不良が発生しやすい。一方、PETの混合比率が45重量%より多いとPETが主成分として存在することにより、融点がPTTより高くなり、またPTT繊維の特徴であるソフト性、ストレッチ性が失われてしまう。また、混合比率が50/50付近においては、融点のピークが2成分を示すようになり、強度が低く、不安定な繊維となってしまう。より好ましい混合比率は60/40〜80/20である。
【0012】
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は固有粘度が0.9〜1.5であることが重要である。固有粘度を0.9以上とすることで高強力な繊維を得ることができ、布帛にした際に十分な引き裂き強力を得ることができる。また、1.5以下とすることで常圧染色性とソフト性に優れた布帛を得ることができる。より好ましくは0.9〜1.2である。
【0013】
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は示差走査熱量分析による融点が200〜225℃であることが重要である。200℃以上とすることで後工程での熱処理にも耐え得るものとなり、225℃以下とすることで低温での紡糸が可能となるため、PTTの熱劣化を抑制することができる。より好ましい融点は210〜220℃である。加えて、示差走査熱量分析による融点のピークが単一であることが重要であり、ブレンド状態が均一であることにより、高強力且つストレッチ耐久性に優れた繊維を得ることができる。
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は、布帛にした際に十分な引き裂き強力を得るためには強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは3.2cN/dtex以上、更に好ましくは3.5cN/dtex以上である。加えて、強度と伸度の積である強伸度積は5.0以上であることが好ましい。ここで強伸度積は次式より計算した値である。
強伸度積=[強度(cN/dtex)]×[1+伸度(%)/100]
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は20%伸長回復を5回繰り返し後の伸長弾性率が60%以上であることが重要である。繰り返し伸長弾性率は高いほど好ましく、60%以上とすることで布帛にした際に優れたストレッチ耐久性を得ることができ、長期間の繰り返し使用に耐え得るものとなる。より好ましくは70%以上である。また、初期引張抵抗度は15〜50cN/dtexであることが好ましく、初期引張抵抗度が15cN/dtex以上であれば縫製時の寸法安定性に優れるとともに布帛に適度な張り感が得られ、50cN/dtex以下であれば優れたソフト性を有する布帛を得やすい。より好ましくは20〜40cN/dtexである。
【0014】
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は、常圧で染色した際の明度指数L値が40以下であると発色性に優れた布帛を得ることができるため好ましい。L値の測定方法は実施例に記載の方法に従う。より好ましくは35以下である。
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維は、複屈折率が0.04〜0.08であることが好ましく、0.04以上とすることで高強力な繊維を得ることができ、布帛にした際に十分な引き裂き強力を得ることができる。また、0.08以下とすることでソフト性に優れ、染色ムラのない布帛を得ることができる。より好ましくは0.05〜0.07である。
【0015】
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維の総繊度、単糸繊度に規制はないが、総繊度は10〜1000dtex、単糸繊度は0.3〜20dtex、フィラメント数は10〜1000とすると一般に好ましい。また、単糸の断面形状は特に限定されるものではなく、丸型、およびY字状、多葉形等の異型断面や、中空断面形状などであってもよい。
【0016】
本発明のポリマーブレンドポリエステル繊維を得るための具体例を以下に示す。
本発明の特徴であるPTT中にPETがミクロに分散したブレンドポリマーを得るためにはエクストルーダーを用いてブレンドポリマーに剪断、圧縮を加えて溶融混練することが重要である。そのため、PTTとPETをポリマーブレンドする方法としては、チップ状態でブレンドするチップブレンド方式と、溶融状態でブレンドする溶融ブレンド方式があるが、チップブレンド方式を用いる必要がある。予めチップをチップブレンダーによりブレンドし、分級防止のために仕切り板により分割したチップホッパーを用いると分散性に優れたブレンドポリマーを安定的に得ることができる。
本発明に使用するPTTとPETの溶融粘度の比は溶融混練時の分散性に影響を与え、PTTの溶融粘度に対するPETの溶融粘度の比を0.5以上とするとPTT中にPETが分散しやすく、融点のピークが単一のブレンドポリマーを得ることができ、2.0以下とするとPTT中にPETがミクロに分散したブレンドポリマーを得ることができる。より好ましい溶融粘度の比は0.7〜1.5である。
【0017】
エクストルーダーはバリヤフライト型のスクリューを用いることで、バリヤ部にてPTTとPETの混合チップを完全に溶融できると共に、溶融したブレンドポリマーがバリヤ部を通過する際に強力な剪断を受け、PTTとPETがミクロに分散することが可能となる。バリヤフライト型スクリューの中でもソリッド溝幅が広く、溶融性能に優れるBarrスクリューを用いると混合チップを均一に溶融することができる。また、スクリューは高剪断を加えるためにTorester型やMaddock型に代表されるようなミキシングエレメントを備えるものであると良い。
【0018】
スクリューの圧縮比を2.0以上とするとスクリューでのチップのブリッジングが起こりにくく、十分な剪断発熱が得られるため、均一に溶融することができ、また、ブレンドポリマーがミクロに分散するための十分な剪断を得ることができる。また、圧縮比を3.0以下とすると過剰な剪断発熱によるPTTの熱劣化を抑制することができる。圧縮比とは計量部の単位長さあたりの容積に対する供給部の単位長さあたりの容積の比である。
スクリューの外径(D)に対する長さ(L)の比であるL/Dを20以上とすると混合チップを未溶融無く完全に溶融することができるとともに、PTTとPETをミクロに分散するための十分な滞留時間を得ることができる。また、L/Dを30以下とすることで過剰な溶融によるPTTの熱劣化を抑制することができる。
【0019】
溶融温度および紡糸温度はより低温にすることで、PTTの熱劣化を抑制でき、高強力且つストレッチ耐久性に優れた繊維を得ることができる。PTTの熱劣化が進むと、強度が低下するばかりか、繰り返し伸長時にひずみが残留し、ストレッチ耐久性に劣るものになる。そのため、溶融温度は使用するPETの融点の5〜15℃高い温度に設定し、紡糸温度は使用するPETの融点以下、つまりはホモPETであれば255℃以下に設定することが重要である。また、口金面温度を保つために口金ヒーターを設置すると、より紡糸温度を低温に設定でき、安定的に紡糸することができる。また、ポリマーが溶融してから繊維として固化するまでの溶融時間を12分以下とすると、PTTの熱劣化を抑制することができ、高強力且つストレッチ耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0020】
また、紡糸速度は1000〜4000m/分とすると安定製糸に優れる。1000m/分以上とすると、紡糸での冷却過程が安定し、糸揺れや糸の固化点の変動が抑制され、糸斑を抑制することができる。また、4000m/分以下とすると、紡糸糸切れが少なく、操業性に優れる。なお、ここで言う紡糸速度とは、紡糸された繊維が最初に触れるゴデットローラーまたはホットローラーの速度を示す。
上記方法で得られた未延伸糸に延伸熱処理を施す際、引き取った繊維をそのまま延伸熱処理後巻き取る、いわゆる紡糸直接延伸法や、一旦繊維を巻取り、その後改めて延伸熱処理を施す、いわゆる2工程法を採用することができる。また、延伸熱処理の際に仮撚等の加工を施しても良い。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0022】
(1)固有粘度
試料0.8gをオルソクロロフェノール10mlに溶解し、30℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度を測定し、次の定義式により固有粘度を算出した。ここで、Cは溶液の濃度、ηrは相対粘度(溶媒の粘度に対する、ある濃度Cにおける溶液の粘度の比率)である。
【0023】
【数1】

【0024】
(2)溶融粘度
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、温度270℃、剪断速度1216sec−1における溶融粘度を測定した。測定は3回行い平均値を溶融粘度とした。
【0025】
(3)融点
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−7)を用い、試料10mgを昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度を融点とした。また、吸熱ピークの数が1つであり、且つピークに肩が存在しないものを単一のピークとした。
【0026】
(4)強度、初期引張抵抗度
JIS L1013(1999)に従い測定した。
【0027】
(5)繰り返し伸長弾性率
JIS L1013(1999)の伸長弾性率8.9B法を、伸長率を20%、除重後の放置時間を1分間とし、伸長回復を5回繰り返した後、6回目の伸長時の残留伸びを測定し、繰り返し伸長弾性率を算出した。
【0028】
(6)染色後の明度指数L値
染色した繊維を金属プレートに巻き取り、SMカラーコンピュータ型式SM−3(スガ試験機(株)社製)を用いて、2回測定し、平均値より求めた。染色方法は染料としてC.I.Disperse Blue 125を0.4%owf、助剤を5.0%owf、分散剤を1.0%owf、浴比1:100にて、50℃で20分間保持後、98℃に昇温し、20分間染色した。
【0029】
(7)複屈折率
偏光顕微鏡(OLYMPUS社製BH−2)を用いコンペンセーター法により試料1水準当たり5回の測定を行い、平均値として求めた。
【0030】
(8)ストレッチ耐久性
(5)繰り返し伸長弾性率の測定結果を3段階で評価した。
○:繰り返し伸長弾性率70%以上
△:繰り返し伸長弾性率60%以上、70%未満
×:繰り返し伸長弾性率60%未満
(9)常圧染色性
(6)染色後の明度指数L値の測定結果を3段階で評価した。
○:明度指数L値35以下
△:明度指数L値35より高く、40以下
×:明度指数L値40より高い
実施例1
固有粘度が1.14、溶融粘度が141Pa・sのPTTチップと固有粘度が0.65、溶融粘度が161Pa・sのPETチップを重量比率PTT/PET=70/30にて予めチップブレンダーで混合し、分級防止のために仕切り板により分割したチップホッパーに仕込んだ。混合チップを圧縮比が2.6、L/Dが25のBarrスクリューを備えたエクストルーダーを用い、溶融温度270℃にて溶融、混練し、口金ヒーターを設置した紡糸機にて紡糸温度250℃で計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て、丸孔の口金紡出孔から吐出させた。ポリマーの溶融時間は9分であった。吐出したポリマーは冷却、給油を経て、速度1500m/分の第1ホットローラーにて引き取り、速度4200m/分の第2ホットローラーにて延伸を行った後、交絡を付与し、巻取速度4000m/minにて巻き取った。この時、第1ホットロール温度は80℃、第2ホットロール温度は140℃とし、各ホットローラーには糸を6回巻きつけた。
【0031】
得られた繊維は56dtex、24フィラメント、繰り返し伸長弾性率は74%、固有粘度は0.95、融点は218℃のシャープな単一のピークであり良好な物性を示した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例2〜5、比較例1、2
PTTチップとPETチップの重量比率を表1のように変更した以外は実施例1と同様の手順で紡糸を行なった。実施例3、4については表1に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。実施例2については、本発明の規定範囲内ではあるが、繰り返し伸長弾性率が61%となり、布帛にした際のストレッチ耐久性が実施例1に一歩及ばないものであった。実施例5についても、本発明の規定範囲内ではあるが、常圧染色性が実施例1に一歩及ばないものであった。
比較例1、2については、ブレンドするPETの量が少ない、またはブレンドしていないため、PTTの欠点である遅延収縮を抑制できず、紡糸巻取りにて巻き締りが発生してしまった。また、得られた繊維についても常圧染色性に劣るものであった。
比較例3〜5
PTTチップとPETチップの重量比率を表1のように変更した以外は実施例1と同様の手順で紡糸を行なおうとしたところ、紡糸パック内圧が高くなり、紡糸することができなかった。急遽、溶融温度と紡糸温度を表1に記載の通り変更し、以降は実施例1と同様の手順で紡糸を行なった。得られたサンプルの物性は表1の通り、比較例3〜5とも融点が高く、また、比較例3についてはPETが100重量%のため、ストレッチ性がなく、また、常圧染色性も非常に劣るものであった。比較例4については、常圧染色性に優れるものの、繰り返し伸長弾性率が低く、布帛にした際にタルミが残留してしまう問題が発生してしまった。比較例5については、繰り返し伸長弾性率が低く、また、融点のピークが2つになり、構造が不均一であることから、布帛にした際に染斑が発生してしまうものだった。
【0033】
実施例6〜8
PTTチップの固有粘度、溶融粘度およびPETチップの固有粘度、溶融粘度を表2のように変更した以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例6、7については表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。実施例8については粘度が高くなったことによりブレンド状態の分散性が低下し、実施例1と比較して染色性が低下したが、常圧染色性としては十分なものであった。
【0034】
実施例9
溶融温度を265℃、紡糸温度を245℃とした以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0035】
比較例6
溶融温度を280℃、紡糸温度を275℃とした以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、常圧染色性には優れるが、高温での紡糸によりPTTが熱劣化し、固有粘度が低下し糸強度が低下してしまった。加えて、繰り返し伸長弾性率が大幅に低下し、布帛にした際にタルミは残留する問題が発生してしまった。
【0036】
実施例10
エクストルーダーにMaddock型のミキシングエレメントを備えるスクリューを用いた以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0037】
実施例11
使用するエクストルーダーのスクリューの圧縮比を3.0、L/Dを28とした以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0038】
実施例12
使用するエクストルーダーのスクリューの圧縮比を2.1、L/Dを20とした以外は実施例1と同様の手順にて紡糸を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0039】
比較例7
PTTチップとPETチップをそれぞれチップホッパーに仕込み、別々のエクストルーダーにてPTTを255℃、PETを290℃で溶融、混練し、紡糸パック内に設置した分割数10の静止混練器によりポリマーブレンドした。紡糸温度250℃にて紡糸しようとしたところ、紡糸パック内圧が高くなり、紡糸することができなかった。急遽、紡糸温度を275℃に変更し、以降は実施例1と同様の手順にて紡糸行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、溶融ブレンド方式のため、ブレンド状態の分散性が悪く、融点のピークが2つ存在し、構造が不安定なものであった。また、高温での紡糸によりPTTが熱劣化し、固有粘度が低下し糸強度が低下してしまった。加えて、繰り返し伸長弾性率が大幅に低下し、布帛にした際にタルミが残留する問題が発生してしまった。
【0040】
実施例13
実施例1と同様の手順にてブレンドポリマーを吐出後、速度1210m/分のゴデットローラーにて引き取り、巻取速度1200m/minにて巻き取った。得られた未延伸糸を延伸機を用いて延伸倍率3.2倍にて延伸を行なった。この時、第1ホットロール温度を70℃、第2ホットロール温度を140℃とし、各ホットローラーには糸を6回巻きつけた。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0041】
実施例14
実施例1と同様の手順にてブレンドポリマーを吐出後、速度2630m/分のゴデットローラーにて引き取り、巻取速度2600m/minにて巻き取った。得られた未延伸糸を仮撚機を用いて延伸倍率1.8倍、ヒーター温度160℃にて延伸仮撚を行なった。得られた繊維の物性は、表2に示すとおり、実施例1と同等に非常に優れた結果となった。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを重量比率55/45〜90/10で混合してなるポリマーブレンドポリエステル繊維であって、該繊維の固有粘度が0.9〜1.5であり、20%伸長回復を5回繰り返し後の伸長弾性率が60%以上であり、さらに示差走査熱量分析による融点が200〜225℃、且つ単一のピークであることを特徴とするポリマーブレンドポリエステル繊維。
【請求項2】
染色後の明度指数L値が40以下であることを特徴とするポリマーブレンドポリエステル繊維。