説明

ポリマーマトリクスの高温での機械特性を改善するためのナノチューブ、特にカーボンナノチューブの使用

周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブの、少なくとも一種の半結晶性熱可塑性ポリマーを含むポリマーマトリクスの高温機械特性を改善するための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種の半結晶熱可塑性ポリマーを含むポリマーマトリクスの高温機械特性を改善するための、周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沖合の油田から採掘された炭化水素を輸送するためのパイプのようなある種のパイプは厳しい条件に曝されるということは知られている。すなわち、炭化水素は約130℃の高温かつ約700バールの圧力で輸送されるため、設備運転中に材料の機械抵抗、耐熱性および耐薬品性に重大な問題が生じる。
【0003】
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)のようなポリマーは優れた耐熱性と耐溶剤性の他に気体非透過性および液体非浸透性といった他の有益な特性も有している。従って、このポリマーは沖合または海岸の油田からの炭化水素の輸送に使用するパイプの製造で用いられている。
【0004】
しかし、このポリマーは応力を受けた場合、高温では必ずしも十分な寿命を有するとは限らない。同じ問題は化学工業でもあり、高温流体、例えば約120℃の硫酸、約70℃の40%水酸化ナトリウム溶液または高温の硝酸の輸送に適したパイプで問題がある。
【0005】
従って、ポリマーマトリクスの高温に対する抵抗力、特に流れに対する抵抗力を改善する手段に対するニーズが依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、上記マトリクス中でナノチューブ、例えばカーボンナノチューブを使用することによって上記ニーズを満足させることができるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対象は、少なくとも一種の半結晶性熱可塑性ポリマーを含むポリマーマトリクスの高温での機械特性を改善するための、周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブの使用にある。
「高温」とは75〜250℃、好ましくは100〜200℃の温度を意味する。「機械特性」とは好ましくは流れおよび/またはモジュラスに対する抵抗力を意味する。
【0008】
流れに対する抵抗力は下記方法に従って測定できる。この試験では試験材料に一定の引張応力を加え、生じる経時的歪みの変化を測定する。応力が同じ場合、流れに対する抵抗力が高ければ高いほど歪みは小さい。応力は試験片の幾何形状と無関係で、断面積当たりの力で表される。この試験片は一般にISO 529−型の引張試験片である。歪みは引張試験片に取り付けられた変位センサー(一般にLVDT型)によって測定し、プロセスの経時的スローダウンを考慮に入れ且つ収集システムを飽和させないように一般的な対数の周波数で、歪みをコンピュータに記録する。試験機は動力計(dynamometer)、例えば標準的引張試験に用いる動力計にすることができる。ただし、経時的に一定応力で運転できるように、試験片が取り付けられた機械の可動クロスピースを移動させる変位システムを正確に制御することができなければならない。すなわち、試験片の経時的伸びを補償するために、機械のクロスピースの移動は連続的且つ均一でなければならない。試験片に死荷重を置く別のより単純なシステムを用いることができる。
【0009】
本発明で用いるナノチューブは炭素、ホウ素、リンおよび/または窒素で構成でき、例えば窒化炭素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン化ホウ素、窒化リンおよび窒化ホウ素炭素で構成できる。本発明ではカーボンナノチューブが好ましい。
【0010】
本発明で用いるナノチューブは単一壁または多重壁ナノチューブにすることができる。多重壁ナノチューブは例えば非特許文献1に記載の方法に従って製造でき、多重壁ナノチューブは例えば下記特許文献1に記載の方法に従って製造できる。
【非特許文献1】Flahaut et al. in Chem. Com.(2003),1442
【特許文献1】国際特許第03/02456号公報
【0011】
ナノチューブは一般に平均直径が0.1〜200nm、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.4〜50nm、さらに好ましくは1〜30nmである。長さは0.1〜10μm、好ましくは約6μmにすることができる。長さ/直径比は10以上、大抵は100以上であるのが好ましい。比表面積は例えば100〜300m2/gで、かさ密度は0.05〜0.5g/cm3、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cm3にすることができる。多重壁ナノチューブは例えば5〜15枚、さらに好ましくは7〜10枚の壁を含むことができる。
【0012】
本発明で使用可能なカーボンナノチューブの例としてはアルケマ(ARKEMA)社から商品名グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100で市販のものが挙げられる。
ナノチューブは、本発明の方法で用いる前に精製および/または酸化および/または粉砕および/または官能化することができる。
【0013】
ナノチューブの粉砕は低温または高温条件で行うことができ、ボールミル、ハンマーミル、グラインディングミル、ナイフミル、ガスジェットミルや、絡み合ったナノチューブ網の寸法を縮小できるその他任意の粉砕設備で公知の方法を用いて実施できる。この粉砕はエアジェットミルプロセスで行なうのが好ましい。
【0014】
粗ナノチューブまたは粉砕済みナノチューブの精製は、硫酸の溶液を用いて洗浄することで製造プロセスで生じる可能性のある残留無機および/または金属不純物をナノチューブから除去することで行なうことができる。ナノチューブの硫酸に対する重量比は特に1:2〜1:3にすることができる。精製操作は90〜120℃の温度で例えば5〜10時間行なうことができる。必要に応じて、この操作の後に精製ナノチューブを水で洗浄し、乾燥する段階を行なうことができる。
【0015】
ナノチューブの酸化は0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させて行なうのが有利である。ナノチューブの次亜塩素酸ナトリウムに対する重量比は例えば1:0.1〜1:1にする。この酸化は60℃以下の温度、好ましくは室温で数分〜24時間行うのが有利である。必要に応じて、この酸化段階の後にナノチューブを濾過および/または遠心分離、洗浄および/または乾燥する段階を行なうことができる。
【0016】
ナノチューブの官能化はナノチューブの表面に反応性単位、例えばビニルモノマーをグラフトして行なうことができる。ナノチューブの構成材料を酸素を含まない無水媒体中で900℃以上で熱処理してその表面から酸素基を除去した後に、フリーラジカル重合開始剤として用いる。従って、いくつかのマトリクス、例えばPVDFまたはポリアミド中の分散を改善するために、ナノチューブの表面でメチルメタクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを重合することができる。
【0017】
本発明では、粗ナノチューブ、必要に応じて粉砕したナノチューブ、すなわち、酸化も精製も官能化もせず、且つその他の任意の化学的処理をしていないナノチューブを用いるのが好ましい。
【0018】
ポリマーマトリクスは半結晶性熱可塑性ポリマーを含む。このポリマーは下記の中から選択できるが、これらに限定されるものではない:
(1)ポリアミド、例えばポリアミド6(PA−6)、ポリアミド11(PA−11)、ポリアミド12(PA−12)、ポリアミド6,6(PA−6,6)、ポリアミド4,6(PA−4,6)、ポリアミド6,10(PA−6,10)およびポリアミド6,12(PA−6,12)(これらのポリマーのいくつかはアルケマ社から商品名リルサン(Rilsan、登録商標)で市販されており、(Rilsan、登録商標)AMNO TLDのような流体グレードのものが好ましい)、および、アミドモノマーとその他のモノマーを含むコポリマー、例えばブロックコポリマー、例えばポリテトラメチレングリコール(PTMG)(ペバックス(Pebax、登録商標)、
【0019】
(2)芳香族ポリアミド、例えばポリフタルアミド、
(3)少なくとも50モル%の式(I)のモノマーを含む、好ましくは式(I)のモノマーで構成されるフルオロポリマー:
CFX=CHX' (I)
(ここで、XおよびX'は独立して水素またはハロゲン原子(特にフッ素または塩素)または過ハロゲン化(特に過フッ素化)アルキル基、例えば(好ましくはα型の)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデンと例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはぺルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーを表す(これらのポリマーのうちのいくつかはアルケマ社から商品名カイナー(Kyner、登録商標)で市販されており、(Kyner、登録商標)710または720のような射出成形グレードのものが好ましい)、
【0020】
(4)ポリオレフィン、例えばポリエチレンおよびポリプロピレン、
(5)熱可塑性ポリウレタン(TPU)、
(6)ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)または環状ポリブチレンテレフタレート(CPBT)、
(7)シリコンポリマー、
(8)これらの混合物。
【0021】
ポリマーマトリクスは可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、衝撃改質剤、難燃剤、潤滑剤、およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の添加剤をさらに含むことができる。
ナノチューブは熱可塑性ポリマーの重量の0.5〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%にすることができる。
ナノチューブとポリマーマトリクスとを一般的な装置、例えば二軸押出機またはニーダを用いて混合するのが好ましい。この方法では、一般にポリマーマトリクスの顆粒をナノチューブと溶融混合する。
【0022】
変形例では、任意の適当な手段によってナノチューブを溶剤中の溶液としてマトリクス中に分散させることができる。この場合、特定の分散装置または特定の分散剤を用いることで分散性を改善できる。具体的には、超音波またはロータ−ステータ装置によってポリマーマトリクス中にナノチューブを分散させることができる。
【0023】
ロータ−ステータ装置は一般に、エンジンで制御されるステータとロータを有する。ロータはロータシャフトに直角な流体案内手段を備える。このロータは必要に応じてさらに歯車を有する。この案内手段はほぼ放射方向に配置されたブレードまたは羽根または周縁辺に歯の付いた平らなディスクを有することができる。ステータはロータと同心に且つロータの少し外側に配置される。このステータはその周囲の少なくとも一部に例えば格子で作られた開口部を有し、互いに歯列を規定する。この開口部は、ロータによって延伸され、且つ案内システムによって上記開口部へ向かって流れる流体の通過に適合されている。一つ以上の上記の歯に鋭いエッジを設けることができる。従って、流体は、ロータとステータとの空隙中と、ステータに形成された開口部の両方を通して高せん断を受ける。
【0024】
このようなロータ−ステータ装置は特にシルバーソン(Silverson)社から商品名Silverson(登録商標)L4RTで市販されている。別のロータ−ステータシステムがイケベルケ(Ika-Werke)社から商品名Ultra-Turrax(登録商標)で市販されている。その他のロータ−ステータ装置としては例えばコロイドミルが挙げられる。
【0025】
分散剤は下記からなる群の中から選択できる可塑剤にすることができる:ホスフェートアルキルエステル、ヒドロキシ安息香酸エステル、ラウリン酸エステル、アゼライン酸エステル、ペラルゴン酸エステル、フタレート、例えばジアルキルまたはアルキルアリールフタレート、ジアルキルアジペート、ジアルキルセバケート(特にポリマーマトリクスがフルオロポリマーを含む場合)、グリコールベンゾエートまたはグリセロールベンゾエート、ジベンジルエーテル、クロロパラフィン、プロピレンカーボネート、スルホンアミド、特にアリールスルホンアミド、例えばN−置換またはN,N−二置換ベンゼンスルホンアミド(特にポリマーマトリクスがポリアミドを含む場合)、グリコール、および上記の混合物。
【0026】
通常、可塑剤の量は熱可塑性ポリマーの重量に対して6重量%以下に制限される。
【0027】
変形例では、分散剤は少なくとも一種のアニオン性親水性モノマーと、少なくとも一種の芳香族環を含む少なくとも一種のモノマーとを含むコポリマー、例えば下記特許文献2に記載のコポリマーにすることができ、分散剤とナノチューブとの重量比は0.6:1〜1.9:1である。
【特許文献2】フランス国特許第2,766,106号公報
【0028】
別の実施例では分散剤はビニルピロリドンのホモポリマーまたはコポリマーにすることができ、この場合、ナノチューブと分散剤の重量比は好ましくは0.1〜2以下である。
【0029】
さらに別の実施例では、ナノチューブを少なくとも一種の化合物Aと接触させてナノチューブの分散性を改善する。この化合物Aは種々のモノマー、ポリマー、可塑剤、乳化剤、カップリング剤および/またはカルボン酸の中から選択でき、2つの成分を固体状態で混合するか、用いた溶剤の除去後に混合物を微粉状にして混合する。
【0030】
さらに別の実施例では、ナノチューブをポリマーマトリクス中に導入できる。従って、本発明ではナノチューブを低融点、低分子量樹脂中に分散して使用できる。この樹脂は環状ポリブチレンテレフタレートにするのが好ましい。この樹脂中のナノチューブの濃度は10〜50%、好ましくは25%にすることができる。
【0031】
上述の手段によってポリマーマトリクス中のナノチューブの分散性を改善でき且つ導電性を高めることもでき、多くの用途で有用であることが分かっている。
【0032】
本発明のナノチューブは高温で、場合によっては加圧および/または腐食性のある、流体を保持または輸送するための種々の物品、例えばパイプ、その他の中空部品(例えばパイプ取付け具)、例えばオフショアフレキシブルダクトまたは化学工業で用いるパイプの不浸透性シースおよび単層または多層フィルムの製造で、ポリマーマトリクスを強化するために使用できる。
上記の物品は押出または射出成形のような任意の適切な方法で製造できる。
【0033】
オフショアフレキシブルダクトとしての使用では、本発明で用いる熱可塑性ポリマーは下記の中から選択するのが好ましい:融点が140℃以上、例えば約165℃のフッ化ビニリデンコポリマー、100s-1および450°F(232℃)(ASTM D3835)で測定した粘度が12キロポアズ(kp)以上で、好ましくはコア−シェルによって可塑化および耐衝撃性を強化できる、押出グレードであるポリフッ化ビニリデンのホモポリマー。これを使用することで低温条件下での高い機械強度(特にシャルピー衝撃および多軸歪み強度)と、高温条件(例えば130℃)下での高い流動抵抗性およびブリスター抵抗性(一般に130℃、750〜2500バール、例えば減圧率が70バール/分)とを両立させることができる。
【0034】
低温下(100℃以下)での用途では、熱可塑性ポリマーとしてポリアミド、例えばPA−11を用いることができる。このポリアミドを強化して、衝撃強度を改善し、高温条件下の耐久性と流動抵抗とをうまく両立させるのが好ましい。
【0035】
化学工業での使用、例えば加圧下腐食性流体を輸送するための平滑管または射出成形されたパイプ取付具の製造で使用する場合、本発明の熱可塑性ポリマーはパイプ製造用押出グレード、また、パイプ取付け具製造用射出グレードのポリフッ化ビニリデンホモポリマーにすることができる。ナノチューブの添加によって、これらの物品の使用温度、流体の内圧および/またはパイプまたはパイプ取付け具の直径を大幅に上げることができる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明するが、下記実施例は単に説明のためであり、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】PVDFで作られた2つの試験片の歪み経時変化を示す図で、一方の歪みだけがカーボンナノチューブで強化してある。
【図2】100%のポリエチレンテレフタレートであるマトリクスと比較した時の、1%のカーボンナノチューブ、3%の環状ポリブチレンテレフタレートおよび9%ポリエチレンテレフタレートである複合材料でのDMA分析結果を示す図。
【実施例】
【0037】
実施例1
カーボンナノチューブで強化されたPVDFマトリクスの流動抵抗
溶剤としてDMF(ジメチルホルムアミド)を用いたPVDFホモポリマー(アルケマ社の製品カイナー(Kynar、登録商標)K710)と、ポリマーの重量に対して2.5%重量のカーボンナノチューブ(グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100)とを混合した。
9MPaの応力下、130℃で上記一般試験法に従って流動抵抗を測定し、カーボンナノチューブを含まない同じポリマーの同じ条件下での流動特性と比較した。得られた曲線は[図1]に示してある。この図から、強化したポリマーはカーボンナノチューブを含まないポリマーよりもゆっくり変形し、変形量がはるかに少ないことがわかる。
【0038】
実施例2
カーボンナノチューブで強化されたポリプロピレンマトリクスの流動抵抗
ポリプロピレンホモポリマー(PPH)と4重量%のカーボンナノチューブ(CNT)(グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100)との混合物を静的ミキサーRheocord Haake装置で作った。混合時間は210℃で7分で、回転速度は100回転/分にした。
試験片を210℃で圧縮成形し、下記の試験を実施した。
試験片をレオメトリックス(Rheometrics)社の動的機械分析装置ARES(登録商標)で1Hzの周波数で分析した。用いた幾何形状は−100〜200℃の温度範囲での矩形ねじである(30秒の温度平衡時間で2℃ごとに測定)。棒に加わる初期歪みは0.05%であり、次いで0.5〜180gのトルクを与えるように自動調整した。
結果は[表1]に示してある。ここで、G’はモジュラス(弾性率)であり、「オンセット(Onset)」は開始温度で、G’の傾きの変化に対応する点で定義される(結晶相の溶融)。
【0039】
【表1】

【0040】
この表から、PPHにカーボンナノチューブを添加したときに、弾性率G’は全温度域にわたって増加したということになる。弾性率G’はガラス状態およびガラス転移温度までは約40%増加し、約50℃以上および融点までは約70%増加した。さらに、ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)には変化がない。
【0041】
実施例3
カーボンナノチューブで強化されたPVDFマトリクスの流動抵抗
2重量%のカーボンナノチューブをPVDFのホモポリマー710に導入して実施例2と同様の実験を行なった。種々のグレードのカーボンナノチューブを試験した。粗CNT:グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100。
結果は[表2]に示してある。
【表2】

【0042】
この表から、CNTのポリマーマトリクスへの添加によって、少量のCNTの添加で、実施例2ほどではないが弾性率が増加することが分かる。
【0043】
実施例4
カーボンナノチューブで強化されたポリアミドマトリクスの流動抵抗
環状ポリブチレンテレフタレート(CBT)中にカーボンナノチューブ(CNT)を含む複合材料を以下のように製造した:21gのCNT(アルケマ社の製品グラフィストレングス(Graphistrength)、登録商標)C100)を800gの塩化メチレンに添加し、磁気撹拌棒で連続撹拌しながら、Sonics&Materials VC505ユニットを用いて約4時間、設定振幅の50%で超音波処理した。次いで、64gのCBTを導入する。混合物を約3日間、ロールミルに通した後、得られた混合物をアルミホイル上に流し、溶剤を蒸発させた。得られた粉末中のCNTは約25重量%である。
得られた複合材料をポリアミド−11(アルケマ社の製品リルサン(Rilsan)、登録商標)BMNO PCG)中に種々の量で添加し、DSMミディ押出機(15cc容量)で溶融混合した。パラメータは210℃、75rpm、10分。
強化マトリクスの熱分析(DSC)およびオーブン溶融実験を行ない、単独またはCBTのみと混合した、同じポリマーで作られた比較用マトリクスと比較した。試験した種々の試験片は[表3]に示してある。
【表3】

【0044】
結果は[表4]に示してある。
【表4】

【0045】
この表から、下記のことがいえる:
(1)CNTが存在するとPA−11の結晶化度が上がる。これは高温性能の改善に直接つながる。増加率はCBTのみを用いた対応対照実験で観察された増加率を上回る。
(2)単純なオーブン溶融実験では、CNTが存在することでPA−11の融点をはるかに上回る280℃でも流動抵抗が増加する。
【0046】
実施例5
カーボンナノチューブで強化されたポリエステルマトリクスの流動抵抗
実施例4に記載の方法で調製したCNT/CBT複合材料を結晶性ポリエチレンテレフタレート(CPET)(Associated Packaging Technologiesの製品)に、それぞれ1%CNT、3%CBT、96%CPETの量で添加し、DSMミディ押出機(15cc容量)で溶融混合した。CPETは使用前に約110℃で約16時間、部分的減圧(約0.25atm)下で乾燥した。
次いで、押出物を約100℃で16時間、部分的減圧(約0.25atm)下で乾燥した後、285℃で5〜10分間溶融し、80℃で射出成形した。射出成形部品は約100℃で16時間、部分的減圧(約0.25atm)下で乾燥し、DMA分析した。
DSC熱分析の結果は[表5]に示してある。
【表5】

【0047】
この表から、CNTが存在することによって、溶融温度(Tm)は変化しないが、結晶化温度(Tc)はわずかに変化することがわかる。これはCNTが核形成剤の役目をしたことを示す。さらに、CNTの存在によって結晶化度が上がる。これは耐熱性の改善につながる。
[図5]に示すDMA分析の結果から1%のCNT(3%CBT)の存在によって無添加のCPETと比較して貯蔵弾性率が改善され、高温での性能が良くなるということが導き出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブの、少なくとも一種の半結晶性熱可塑性ポリマーを含むポリマーマトリクスの高温機械特性を改善するための使用。
【請求項2】
機械特性が流動および/またはモジュラスに対する抵抗力である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ナノチューブが炭素、ホウ素、リンおよび/または窒素からなる請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ナノチューブが窒化炭素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン化ホウ素、窒化リンまたは窒化ホウ素炭素から成る請求項3に記載の使用。
【請求項5】
ナノチューブがカーボンナノチューブである請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
ナノチューブの平均直径が0.1〜150nmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
ナノチューブの含有量が熱可塑性ポリマーの0.5〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
熱可塑性ポリマーが下記(1)〜(8)の中から選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用:
(1)ポリアミド、例えばポリアミド6(PA−6)、ポリアミド11(PA−11)、ポリアミド12(PA−12)、ポリアミド6,6(PA−6,6)、ポリアミド4,6(PA−4,6)、ポリアミド6,10(PA−6,10)およびポリアミド6,12(PA−6,12)(これらのポリマーのいくつかはアルケマ社から商品名リルサン(Rilsan、登録商標)で市販されており、リルサン(Rilsan、登録商標)AMNO TLDのような流体グレードポリマーが好ましい)、および、アミドモノマーと他のモノマーとを含むコポリマー、特にブロックコポリマー、例えばポリテトラメチレングリコール(PTMG)(ペバックス(Pebax、登録商標))、
(2)芳香族ポリアミド、例えばポリフタルアミド、
(3)少なくとも50モル%の式(I)のモノマーを含む、好ましくは式(I)のモノマーで構成されるフルオロポリマー:
CFX=CHX' (I)
(ここで、XおよびX'は独立して水素またはハロゲン原子(特にフッ素または塩素)または過ハロゲン化(特に過フッ素化)アルキル基、例えば(好ましくはα型の)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデンと例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはぺルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーを表す(これらのポリマーのいくつかはアルケマ社から商品名カイナー(Kyner、登録商標)で市販されており、カイナー(Kyner、登録商標)710または720のような射出成形グレードポリマーが好ましい)、
(4)ポリオレフィン、例えばポリエチレンおよびポリプロピレン、
(5)熱可塑性ポリウレタン(TPU)、
(6)ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)または環状ポリブチレンテレフタレート(CPBT)、
(7)シリコンポリマー、
(8)これらの混合物。
【請求項9】
ポリマーマトリクスが可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、衝撃改質剤、難燃剤、潤滑剤およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の添加剤をさらに含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
ナノチューブを低融点、低分子量樹脂、例えば環状ポリブチレンテレフタレート中に分散して用いる請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−531911(P2010−531911A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514240(P2010−514240)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/IB2008/053504
【国際公開番号】WO2009/001324
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】