説明

ポリマーミセル含有製剤およびその製造方法

【課題】
本発明は、従来技術の問題を解決するものであって、有機溶剤を用いることなく製造することができ、さらに水溶性の薬剤を内包するポリマーミセルを有するポリマーミセル含有製剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係るポリマーミセル含有製剤は、水溶性薬剤を内包してなるブロック共重合体のポリマーミセルを含有する製剤であって、前記ブロック共重合体が、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとから形成されていることを特徴とする。また、本発明に係るポリマーミセル含有製剤の製造方法は、水溶性薬剤の水溶液とブロック共重合体とを攪拌混合しながら液温を40〜70℃に昇温し、次いで、得られた懸濁液を強攪拌するとともに液温を15〜35℃に冷却して、該ブロック共重合体から形成されたポリマーミセル内に水溶性薬剤を内包させること特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性薬剤を内包してなるポリマーミセルを含有するポリマーミセル含有製剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロック共重合体から形成される高分子ミセル(ポリマーミセル)を薬物キャリアとして用い、このポリマーミセルに薬剤を内包させて薬物送達システム(DDS)に応用する研究が行われている。ポリマーミセルは、疎水性セグメントと親水性セグメントを有するブロック共重合体が多数会合した微粒子であり、この共重合体は、疎水性部分はポリアミノ酸、親水性部分はポリエチレングリコールからなる合成高分子である。したがって、これらのセグメントの長さや構造を変えることにより、ポリマーミセルの安定性や薬物の放出速度などをコントロールすることができるため、薬物キャリアとしての開発が期待されている。
【0003】
薬剤を内包してなるポリマーミセルの製造方法としては、水難溶性薬剤を有機溶媒に溶解し、この溶液とブロック共重合体の分散水溶液とを混合し、その後有機溶媒を揮散させる方法が挙げられる(例えば、特許文献1〜2を参照)。また、水難溶性薬剤とブロック共重合体を有機溶媒に溶解し、これらを均一に混合した後溶媒を留去し、次いで残存物を水に溶解する方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0004】
しかしながら、このような方法では水難溶性薬剤を溶解させる際に有機溶媒を使用することが避けられないため、得られるポリマーミセル含有製剤には有機溶媒が少なからず残留する問題があり、人体へ投与した場合に副作用が生ずる問題があった。
【0005】
また、これら文献の記載に見る限り、水溶性薬剤をポリマーミセルなどの薬物キャリアに内包させる検討がなされていない。つまり、ブロック共重合体は、疎水性セグメントと親水性セグメントとからなる構造であり、水溶液中では、疎水性部分が内方を向いて絡まりあって中心部分を形成し、親水性部分が外方(水溶液側)を向いてミセルを形成する。したがって、ポリマーミセルを薬物キャリアとして用いる場合には、疎水性部分に内包されやすい水難溶性薬剤を用いており、水溶性薬剤を用いた研究はされていない。
【特許文献1】特許第2777530号公報
【特許文献2】特開2001−226294号公報
【特許文献3】特開2003−342168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の問題を解決するものであって、有機溶剤を用いることなく製造することができ、さらに水溶性の薬剤を内包するポリマーミセルを有するポリマーミセル含有製剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポリマーミセル含有製剤は、水溶性薬剤を内包してなるブロック共重合体のポリマーミセルを含有する製剤であって、
前記ブロック共重合体が、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとから形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るポリマーミセル含有製剤の製造方法は、水溶性薬剤の水溶液とブロック共
重合体とを攪拌混合しながら液温を40〜70℃に昇温し、次いで、得られた懸濁液を強攪拌するとともに液温を15〜35℃に冷却して、該ブロック共重合体から形成されたポリマーミセル内に水溶性薬剤を内包させること特徴とする。
【0009】
前記懸濁液を冷却した後に、該懸濁液に少なくとも5分間超音波を照射することが好ましく、さらに超音波の周波数が、10〜100kHzであることも好ましい。
前記ブロック共重合体が、下記式(I)または(II)で表されることが好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
[上記各式中、R1およびR3は、水素原子、または保護されていてもよい官能基が置換したもしくは非置換のC1〜C4低級アルキル基を表し、
2は、水素原子、飽和もしくは不飽和のC1〜C29脂肪族カルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、
4は、水酸基、飽和もしくは不飽和のC1〜C30脂肪族オキシ基、またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し、
5は、ベンジル基、アルキルベンジル基、またはアリル基を表し、
1およびL2は、連結基を表し、
nは10〜2500の整数であり、xおよびyは、同一もしくは異なり、それらの合計が10〜300となる整数であり、そしてx:yが8:2〜0:1の範囲内にあり、かつ−COC(CH2COOH)HNH−および−COC(CH2COOR5)HNH−の繰り返し
単位は、それぞれランダムに存在する。]
前記式(I)のL1が、−NH−、−O−、−CO−、−CH2−、−O−Z−S−Z−、−O−Z−NH−および−OCO−Z−NH−(ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表し、
前記式(II)のL2が、−OCO−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−、−O−
Z−NH−(ここで、ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表すことが好ましい。
【0012】
前記水溶性薬剤が、造影化合物または抗がん性物質であることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリマーミセル含有製剤は、有機溶剤が残留せず、さらに水溶性の薬剤を内包するポリマーミセルを有する。したがって、有機溶剤による人体への副作用がなく、水溶性薬剤であってもポリマーミセルを用いた薬物送達システムに適用することができる。
【0014】
さらに、本発明のポリマーミセル含有製剤の製造方法によれば、有機溶剤を使用する必要がなく、水溶性薬剤をポリマーミセルに効率よく内包させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るポリマーミセル含有製剤は、水溶性薬剤を内包してなるブロック共重合体のポリマーミセルを含有し、このブロック共重合体が、親水性ポリマーセグメントと疎水
性ポリマーセグメントとから形成されている。
【0016】
なお、本明細書で用いる、「ポリマーセグメント」は、本発明の目的に沿う限り、オリゴマーを包含する概念である。
上記各成分について説明する。
【0017】
(ブロック共重合体)
本発明に用いられるブロック共重合体は、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有し、ポリマーミセルを形成することができれば、特に限定されることなく用いることができる。ブロック共重合体の親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとしては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0018】
親水性ポリマーセグメントとしては、ポリ(エチレングリコール)[または、ポリ(エチレンオキシド)とも称される]、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(サッカライド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)等が挙げられる。
【0019】
また、疎水性セグメントとしては、ポリ(β−アルキルアスパルテート)、ポリ(β−アルキルアスパルテート−コ−アスパラギン酸)、ポリ(β−アラルキルアスパルテート)、ポリ(β−アラルキルアスパルテート−コ−アスパラギン酸)、ポリ(β−アルキルアスパルタミド)、ポリ(β−アルキルアスパルタミド−コ−アスパラギン酸)、ポリ(β−アラルキルアスパルタミド)、ポリ(β−アラルキルアスパルタミド−コ−アスパラギン酸)、ポリ(γ−アルキルグルタメート)、ポリ(γ−アルキルグルタメート−コ−グルタミン酸)、ポリ(γ−アラルキルグルタメート)、ポリ(γ−アラルキルグルタメート−コ−グルタミン酸)、ポリ(γ−アルキルグルタミド)、ポリ(γ−アルキルグルタミド−コ−グルタミン酸)、ポリ(γ−アラルキルグルタミド)、ポリ(γ−アラルキルグルタミド−コ−グルタミン酸)、ポリ(ラクチド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)およびポリ(γ−ブチロラクトン)が挙げられる。
【0020】
なお、上記のセグメント中における、アルキルは、C1−C22の直鎖もしくは分岐のア
ルキルであり、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘキシル等の低級アルキル、さらに炭素数の多い中級アルキル、また、テトラデシル、ヘキサデシル、オクトデシル、ドコサニル等が挙げられる。これらの基は、場合により、1以上のハロゲン(例えば、フッ素、塩基、臭素)で置換されていてもよく、また、中〜高級アルキルにおいては、1個の水酸基で置換されていてもよい。上記のセグメント中におけるアラルキルとしては、フェニル−C1〜C4アルキル、例えばベンジルを挙げることができ、場合によって、ベンゼン環上の水素がハロゲンまたは低級アルキルによって1〜3個置換されていてもよい。
【0021】
このようなポリマーセグメントは、それ自体公知の、例えば、ポリ(β−ベンジルアスパルテート)またはポリ(γ−ベンジルグルタメート)のベンジル基を相当するアルコールまたはアミンによるエステルまたはアミド交換することによって得ることができる。疎水性ポリマーセグメントが共重合体として表示されているのは、対応するアルキル−もしくはアラルキル−エステルもしくはアミドを部分エステル化又は、部分加水分解することにより得られる。部分エステル化の程度は、一般的に、20〜80%である。また、アスパラギン酸、グルタミン酸、ラクチドは、いずれかの光学活性型のものであるか、それらの混合物である。
【0022】
以上のような親水性セグメントと疎水性セグメントは、水性溶液(または水性媒体)中でポリマーミセルを形成しうるものであれば、それぞれのセグメントの大きさに制限がな
いが、一般的には、上記のような親水性セグメントは、その繰り返し単位が10〜2500にあり、他方、疎水性セグメントは、その繰り返し単位が10〜300にある。
【0023】
本発明においては、下記式(I)または(II)で示されるブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
上記式(I)(II)中、R1およびR3は、水素原子、または保護されていてもよい官能基が置換したもしくは非置換のC1〜C4低級アルキル基を表し、
2は、水素原子、飽和もしくは不飽和のC1〜C29脂肪族カルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、
4は、水酸基、飽和もしくは不飽和のC1〜C30脂肪族オキシ基、またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し、
5は、ベンジル基、アルキルベンジル基、またはアリル基を表し、
1およびL2は、連結基を表し、
nは10〜2500の整数であり、xおよびyは、同一もしくは異なり、それらの合計が10〜300となる整数であり、そしてx:yが8:2〜0:1の範囲内にあり、かつ−COC(CH2COOH)HNH−および−COC(CH2COOR5)HNH−の繰り返し
単位は、それぞれランダムに存在する。
【0026】
前記R1およびR3において保護されていてもよい官能基としては、ヒドロキシル基、アセタール、ケタール、アルデヒド、糖残基等が挙げられる。R1およびR3が保護されていてもよい官能基が置換した低級アルキル基を表す場合の親水性セグメントは、例えば、WO96/33233、WO96/32434、WO97/06202に記載の方法に従って製造することができる。
【0027】
前記L1およびL2で表わされる連結基は、主として、ブロック共重合体の製造方法により変化しうるので限定されるものでないが、具体的なものとしては、L1が、−NH−、
−O−、−CO−、−CH2−、−O−Z−S−Z−および−OCO−Z−NH−、−O
−Z−NH(ZはC1〜C4アルキレン基である。)からなる群より選ばれ、L2が−OC
O−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−、−O−Z−NH(ここで、ZはC1〜C4アルキレン基である。)からなる群より選ばれる基を挙げることができる。
【0028】
本発明において、式(I)または(II)で示されるブロック共重合体は、疎水性ポリマーセグメントと親水性ポリマーセグメントの形や、その長さを自由に変えることができ、薬剤の内包率や放出速度、ポリマーの粒径や保存安定性などを考慮して、ブロック共重合体の構造を設計することができる。
【0029】
(水溶性薬剤)
本発明で用いられる水溶性薬剤は、ブロック共重合体のポリマーミセル内に内包させる薬物類であり、具体的には、造影物質、抗がん性物質、光線力学療法用の光増感性化合物
、抗酸化性物質、抗菌性物質、抗炎症性物質、血行促進性物質、美白物質、肌荒れ防止物質、老化防止物質、発毛促進性物質、保湿性物質、ホルモン剤、ビタミン類、色素、およびタンパク質類などの水溶性薬剤が挙げられる。本発明のポリマーミセル含有製剤は、水溶性薬剤として造影性物質、または抗がん性物質を用いることが好ましい。
【0030】
造影物質としては、水溶性ヨウド化合物を用いることができる。水溶性ヨウド化合物は、造影性があればイオン性、非イオン性を問わず、特に規定されない。一般的には非イオン性ヨウド化合物の方が、イオン性ヨウド化合物よりも浸透圧が低く、投与された人体に対する負荷が小さいためにより望ましい。水溶性の非イオン性ヨウド化合物としてヨウ化フェニルを含み、例えば2,4,6−トリヨードフェニル基を少なくとも1個有する非イオン性ヨウド化合物が好適である。
【0031】
そのような非イオン性ヨウド化合物として、具体的には、イオパミドール(Iopamidol
)、イオメプロール(Iomeprol)、イオヘキソール(Iohexol)、イオペントール(Iopentol)
、イオプロミド(Iopromide)、イオシミド(Iosimide)、イオベルソール(Ioversol)、イ
オトロラン(Iotrolan)、イオタズル(Iotasul)、イオジキサノール(Iodixanol)、イオデシノモール(Iodecimol)、(1,3−ビス−(N−3,5−ビス−[2,3−ジヒドロキシプロピ
ルアミノカルボニル]−2,4,6−トリヨードフェニル)−N−ヒドロキシアセチルアミノ
)プロパンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明のポリマーミセル含有製剤をX線検査用造影剤として用いる場合、好適なヨウド化合物としては、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならないイオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノールが好ましい。特にイオトラン、イオジキサノールといった二量体非イオン性ヨウド化合物では、同一ヨウド濃度の造影剤を調製しても全体のモル数が低いために浸透圧をさらに低下させる利点がある。
【0033】
本発明のポリマーミセル含有製剤における水溶性ヨウド化合物の濃度は、該造影化合物の性質、意図する製剤の投与経路および臨床上の指標といった要因に基づき任意に設定することができる。ポリマーミセル内に封入されたヨウド化合物の量は、典型的にはポリマーミセル含有製剤における全ヨウド化合物の5〜40質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜25質量%であることが望ましい。
【0034】
抗がん化合物としては、具体的には、メトトレキサート、エビルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
なお本明細書において、上記化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物なども含めて言及することがある。
本発明に係るポリマーミセル含有製剤は、上記のような各成分を用いて以下のようにして製造することができる。
【0036】
具体的には、まず、水溶性薬剤の水溶液とブロック共重合体とを攪拌混合しながら液温を40〜70℃に昇温して懸濁液を調製する。
水溶性薬剤の水溶液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。薬剤水溶液は、室温(15〜25℃)で過飽和の状態であることが好ましく、過飽和状態であれば、後述のように加温後、強攪拌しながら冷却することにより、ブロック共重合体からなるポリマーミセル内に、水溶性薬剤の一部を封入させることができる。
【0037】
水溶性薬剤を溶解させる水性媒体としては、蒸留水、局方注射用水、純水などの水のほ
か、生理食塩水、製剤助剤を含む水溶液などが用いられる。製剤助剤としては、具体的には生理学的に許容される各種の緩衝剤、キレート化剤、浸透圧調節剤、安定化剤、粘度調節剤、pH調整剤、α‐トコフェロールなどの抗酸化剤、パラオキシ安息香酸メチルといった保存剤などが挙げられる。
【0038】
水溶性薬剤の水溶液とブロック共重合体とを攪拌混合する際の攪拌条件は、特に限定されず、水溶液にブロック共重合体を分散することができればよい。攪拌混合しながら、30分程度の時間をかけて、液温を40〜70℃、好ましくは40〜60℃に昇温して懸濁液を調製することが望ましい。このような温度範囲に昇温することにより、水溶液にブロック共重合体を効率よく分散させ溶解させることができ、さらにブロック共重合体からなるポリマーミセルの形成が容易になるため好ましい。
【0039】
このようにポリマーミセルを有する懸濁液を調製し、次いで、懸濁液を強攪拌するとともに液温を15〜35℃、好ましくは15〜30℃に冷却して、該ブロック共重合体から形成されたポリマーミセル内に水溶性薬剤を内包させる。
【0040】
強攪拌とは、懸濁液の容量や攪拌手段によって好ましい範囲が異なるが、例えば、懸濁液の容量が100〜500ml程度の場合において、ホモミキサー型攪拌機を用いて回転数5000〜25000rpm、好ましくは8000〜20000rpmで攪拌することを意味する。さらに、この強攪拌の時間は、10〜60分間、好ましくは10〜40分間であることが望ましい。なお、懸濁液の容量や攪拌手段が上記とは異なる場合であっても、前記攪拌条件で懸濁液に与えられるせん断力等を考慮して、適宜攪拌条件を定めることが好ましい。
【0041】
このような条件で懸濁液を冷却するとともに強攪拌することにより、懸濁液中に溶解していた水溶性薬剤がポリマーミセル内に内包される。すなわち、上記条件で強攪拌を行うことによりポリマーミセルの再構築が起き、この際上記温度に冷却することにより懸濁液中に溶解していた水溶性薬剤がポリマーミセル内に内包されると考えられる。
【0042】
ポリマーミセルは、PEG化リポソームと異なり内部が空洞ではなく、ミセル内部で絡み合った疎水性セグメント内に水溶性薬物を内包していると考えられる。
したがって、水溶性薬物を完全なカプセル構造により内包しておらず、薬剤が比較的放出されやすいため、セグメントの長さや構造を変えることにより、ポリマーミセルの安定性や薬物の放出速度などをコントロールすることが重要である。
【0043】
本発明の製造方法においては、さらにポリマーミセルの懸濁液に超音波を照射することが好ましい。この超音波照射は、懸濁液を強攪拌下に冷却する際に行ってもよく、また強攪拌下に冷却した後、強攪拌を継続しながら行ってもよい。超音波の照射条件は、製剤の容量、攪拌条件などによって適宜選択されるが、周波数10〜100kHz、好ましくは15〜45kHzの超音波を、少なくとも5分間、好ましくは5〜20分間程度照射することが望ましい。照射量は、使用する超音波分散機の定格出力、照射する分散液の量、照射する時間から計算することができる。
【0044】
このような条件で超音波を照射することにより、ポリマーミセルにおいてブロック共重合体の再配置を促し、ポリマーミセル内により効率的に水溶性薬剤を内包させることができ、さらにポリマーミセルを微細化することもできる。
【0045】
また、ポリマーミセルの懸濁液に上記のような条件で超音波を照射した後、さらに、懸濁液を濾過膜などで濾過することが好ましい。濾過は、0.05〜0.45μm、好まし
くは0.1〜0.4μm、さらに好ましくは0.15〜0.2μmの孔径のフィルターを
装着した静圧式押出し装置に通すことにより行われる。具体的には、各種の静圧式押出し装置、たとえば「エクストルーダー」(商品名、日油リポソーム製)、「リポナイザー」(商品名、野村マイクロサイエンス製)などを使用して、フィルターを強制的に通過させる。フィルターは、ポリカーボネート系、セルロース系などのタイプを適宜使用することができ、押出し濾過法については、たとえばBiochim. Biophys.Acta 557巻,9ページ(1979)に記載されている。
【0046】
このような「押出し」操作工程を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、ポリマーミセル分散液の交換、望ましくない物質の除去、濾過滅菌も併せて可能になるという利点もある。
【0047】
本発明のポリマーミセル含有製剤は、ポリマーミセルの懸濁液を上記のように濾過膜で濾過し、必要に応じて遠心分離、限外濾過、ゲル濾過などの方法により、ポリマーミセル内に未保持の薬剤を除去して精製してもよく、また所定の濃度となるように濃縮し、さらに通常使用される希釈剤等の製剤補助剤を適宜混合して製造することもできる。
【0048】
また、本発明のポリマーミセル含有製剤は、常法にしたがって、ポリマーミセルの懸濁液から、ポリマーミセルを凍結乾燥させて得ることもできる。ポリマーミセルを凍結乾燥した場合には、使用直前に水性媒体などで再懸濁させて用いる。
【0049】
このような本発明のポリマーミセル含有製剤の製造方法によれば、有機溶剤を使用する必要がなく、水溶性薬剤をポリマーミセルに効率よく内包させることができる。
上述のようにして製造される本発明のポリマーミセル含有製剤は、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合体から形成されたポリマーミセルを有し、このポリマーミセルが水溶性薬剤を内包してなる。
【0050】
ポリマーミセルの平均粒径は、通常0.05〜0.30μm、好ましくは0.05〜0.20μm、より好ましくは0.05〜0.13μmであることが望ましい。平均粒径は、治療、診断、X線撮像の目的に応じて適切に設定することが好ましく、たとえば腫瘍部分に選択的に送達させるには、ポリマーミセルの粒径を0.10〜0.20μm、より好ましくは0.11〜0.13μmnmとすることが望ましい。これにより癌組織へ選択的に薬効物質または造影剤を集中させることが可能となる。つまり、固形癌組織にある新生血管壁の孔は、正常組織の毛細血管壁窓(fenestra)の孔サイズ(0.03〜0.08μm程度)に比べて異常に大きく、0.1〜0.2μm程度の大きさの分子でも血管壁から漏れ出るため、上記範囲のポリマーミセルであれば癌組織へ選択的に集中させることができる。これは「EPR効果」として知られており、癌組織にある新生血管壁では、正常組織の微小血管壁より透過性が高いことを利用するものである。
【0051】
本発明のポリマーミセル含有製剤のように、造影剤や抗がん性化合物などの薬物をポリマーミセルに封入する場合には、抗がん性化合物などの送達効率および保持安定性に加えてポリマーミセルのブロック共重合体の重量も考慮する必要がある。具体的には、ポリマーミセル内への薬物の封入量は、ブロック共重合体に対して1〜8、好ましくは3〜8、より好ましくは5〜8の重量比で薬物が内包されていることが望ましい。
【0052】
ポリマーミセル内に内包された薬物の重量比が1未満であると、比較的多量の製剤を投入することが必要となり、結果的に薬物の送達効率が悪くなる。また製剤の粘度が増大し、注入する際に加える力が増大するため、患者に与える苦痛が大きくなる。一方、ポリマーミセル内に内包された薬物の重量比が8を超えると、ポリマーミセルは構造的にも不安定となり、貯蔵中または生体内に注入された後に、ポリマーミセルから薬物が拡散、漏出する。
【0053】
本発明のポリマーミセル含有製剤は、そのポリマーミセル内に、上記したように様々な薬物類を内包させることができ、薬剤の作用効果や保存安定性などを考慮して、製剤形態が決定される。造影剤や抗がん性化合物などの薬物をポリマーミセルに封入して用いる場合には、ポリマーミセル含有製剤は注射剤または点滴注入剤として用いられ、この製剤は、非経口的に、具体的には患者の血管内に投与される。
【0054】
本発明のポリマーミセル含有製剤は、有機溶剤が残留せず、さらに水溶性の薬剤を内包するポリマーミセルを有する。したがって、有機溶剤による人体への副作用がなく、また水溶性薬剤であってもポリマーミセルを用いた薬物送達システムに適用することができる。
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
尚、本実施例においては以下のブロック共重合体を用いた。
ブロック共重合体:次式で表される、ポリエチレングリコール(分子量12000)50%加水分解ポリアスパラギン酸ベンジルエステル
【0056】
【化3】

【0057】
〔n:ポリ(エチレングリコール)の分子量が約12000になるような数、x+y:約50x/(x+y)〕
[実施例1]
造影剤溶液〔日局 イオパミドール溶液306.2mg/mL(ヨウド含有量150mg/mL)、トロメ
タモールを1mg/mL、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mLを含
有し、適量の塩酸および水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整〕100mLに、ブロック共
重合体を0.3g加え、緩やかに撹拌しながら30分ほどかけて50℃まで昇温した。次に、ホモミキサー(品名:オムニミキサGLH、オムニ社製)を用い、回転数15000rpmで30分間激し
く撹拌しながら、液温を25℃まで冷却した。さらに、得られた懸濁液を超音波分散機(商品名:UH-600-SR(セスエムティー社製) 出力600W、周波数20kHz)で10分間処理し、
ポリマーミセル含有製剤を得た。ポリマーミセルの粒径を、光散乱粒径測定装置(マルバーン社製、ゼータサイザー1000)にて測定したところ、平均粒径は110nmであった。
【0058】
ポリマーミセル含有製剤0.5gを透析膜中に入れ、生理食塩水中で3回透析を行った後、エタノール/水、3/1の中に入れ、ポリマーミセルを壊し、内包していた造影剤濃度を分光光度計で測定したところ、薬剤の12%が内包されていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性薬剤を内包してなるブロック共重合体のポリマーミセルを含有するポリマーミセル含有製剤であって、
前記ブロック共重合体が、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとから形成されていることを特徴とするポリマーミセル含有製剤。
【請求項2】
前記ブロック共重合体が、下記式(I)または(II)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリマーミセル含有製剤;
【化1】

[上記各式中、R1およびR3は、水素原子、または保護されていてもよい官能基が置換したもしくは非置換のC1〜C4低級アルキル基を表し、
2は、水素原子、飽和もしくは不飽和のC1〜C29脂肪族カルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、
4は、水酸基、飽和もしくは不飽和のC1〜C30脂肪族オキシ基、またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し、
5は、ベンジル基、アルキルベンジル基、またはアリル基を表し、
1およびL2は、連結基を表し、
nは10〜2500の整数であり、xおよびyは、同一もしくは異なり、それらの合計が10〜300となる整数であり、そしてx:yが8:2〜0:1の範囲内にあり、かつ−COC(CH2COOH)HNH−および−COC(CH2COOR5)HNH−の繰り返し
単位は、それぞれランダムに存在する。]。
【請求項3】
前記式(I)のL1が、−NH−、−O−、−CO−、−CH2−、−O−Z−S−Z−、−O−Z−NH−および−OCO−Z−NH−(ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表し、
前記式(II)のL2が、−OCO−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−、−O−
Z−NH−(ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表すことを特徴とする請求項2に記載のポリマーミセル含有製剤。
【請求項4】
前記水溶性薬剤が、造影化合物または抗がん性物質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーミセル含有製剤。
【請求項5】
水溶性薬剤の水溶液とブロック共重合体とを攪拌混合しながら液温を40〜70℃に昇温し、次いで、得られた懸濁液を強攪拌するとともに液温を15〜35℃に冷却して、該ブロック共重合体から形成されたポリマーミセル内に水溶性薬剤を内包させること特徴とするポリマーミセル含有製剤の製造方法。
【請求項6】
前記懸濁液を冷却した後に、該懸濁液に少なくとも5分間超音波を照射することを特徴とする請求項5に記載のポリマーミセル含有製剤の製造方法。
【請求項7】
前記超音波の周波数が、10〜100kHzであることを特徴とする請求項5〜6のい
ずれかに記載のポリマーミセル含有製剤の製造方法。
【請求項8】
前記ブロック共重合体が、下記式(I)または(II)で表されることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のポリマーミセル含有製剤の製造方法;
【化2】

[上記各式中、R1およびR3は、水素原子、または保護されていてもよい官能基が置換したもしくは非置換のC1〜C4低級アルキル基を表し、
2は、水素原子、飽和もしくは不飽和のC1〜C29脂肪族カルボニル基、またはアリールカルボニル基を表し、
4は、水酸基、飽和もしくは不飽和のC1〜C30脂肪族オキシ基、またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し、
5は、ベンジル基、アルキルベンジル基、またはアリル基を表し、
1およびL2は、連結基を表し、
nは10〜2500の整数であり、xおよびyは、同一もしくは異なり、それらの合計が10〜300となる整数であり、そしてx:yが8:2〜0:1の範囲内にあり、かつ−COC(CH2COOH)HNH−および−COC(CH2COOR5)HNH−の繰り返し
単位は、それぞれランダムに存在する。]。
【請求項9】
前記式(I)のL1が、−NH−、−O−、−CO−、−CH2−、−O−Z−S−Z−、−O−Z−NH−および−OCO−Z−NH−(ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表し、
前記式(II)のL2が、−OCO−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−、−O−
Z−NH−(ここで、ZはC1〜C4アルキレン基である)からなる群より選ばれる基を表すことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のポリマーミセル含有製剤の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性薬剤が、造影化合物または抗がん性物質であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のポリマーミセル含有製剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−45135(P2006−45135A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229631(P2004−229631)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】