説明

ポリマー基材の表面を改質するための方法

ポリマー基材の表面を改質するためのプロセスである。このプロセスには、少なくとも1種の光化学電子供与体を含む光反応性材料を、ポリマー基材の領域にデジタル的に塗布することと、その領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させることを含む。ポリマー基材の改質された表面は、1種または複数の追加の基材に接着させることができ、または、流体を用いてコーティングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー基材の表面を改質するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を用いてポリマー表面を濡らす性能や、ポリマー表面を他の材料(たとえば、他のポリマー)と接着させる性能は、典型的には、そのポリマー表面の表面エネルギーによって決まる。各種のポリマーの表面を改質させるための多くの方法が、工夫されてきた。
【0003】
そのような方法の1つとして、ポリマー表面に光化学的な改質を加えるものがあるが、この場合、典型的には、光と材料との間の相互作用の結果として、そのポリマー表面の表面性質に変化がもたらされる。たとえば、疎水性のフルオロポリマー表面を、化学線照射(すなわち、紫外線および/または可視光線の電磁線照射)に暴露させることによって、親水性とすることができるが、その際には、そのような表面は、フルオロポリマーとの間の光電子移行反応に加わることができるという理由から選択された、1種または複数の光反応性材料と、密に接触した状態にある。有機光反応性材料(たとえば、有機アミン)および無機光反応性材料(たとえば、チオ硫酸塩)のいずれもが、この方法によるフルオロポリマー表面の改質のために用いられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
典型的な光化学的表面改質方法においては、改質される全部の表面を光反応性材料と接触させて、化学線照射に暴露させる。そのような方法では典型的には、表面改質を望まない領域に化学線照射が届くことを阻止するための、不透過性のマスクを通して化学線を通過させない限り、表面改質の細かいパターンを形成させることは不可能である。そのようなマスキングの手順は、典型的には、手間も費用もかかり、パターンを頻繁に変更するような用途には適していない。ポリマー表面の上に表面改質のパターンを発生させるための化学線照射のマスキングを行う必要が無いような、ポリマー(たとえば、フルオロポリマー)の表面を容易に改質できるような方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様において本発明は、ポリマー基材の表面を改質するためのプロセスを提供し、そこには、
第1の表面を有する第1のポリマー基材を備える工程と、
第1の表面の第1の領域に、少なくとも1種の光化学電子供与体を含む光反応性材料をデジタル的に適用する(digitally applying)工程と、
第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させる工程と、が含まれる。
【0006】
また別な態様において本発明は、ポリマー基材の表面を改質するためのプロセスを提供し、そこには、
第1の表面を有する第1のポリマー基材を備える工程と、
第1の表面の第1の領域に、少なくとも1種の光化学電子供与体を含む光反応性材料をデジタル的に適用する工程と、
第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させる工程と、
第1の領域を化学線照射に暴露させた後で、第1の基材の第1の表面に第2の基材を適用する工程と、
暴露させた第1の領域を第1の基材に接着させる工程と、が含まれる。
【0007】
また別な態様において本発明は、ポリマー基材の表面を改質するためのプロセスを提供し、そこには、
第1の表面を有する第1のポリマー基材を備える工程と、
第1の表面の第1の領域に、少なくとも1種の光化学電子供与体を含む光反応性材料をデジタル的に適用する工程と、
第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させる工程と、
第1の領域を化学線照射に暴露させた後で、第1の基材の第1の表面に流体を適用する工程と、が含まれる。
【0008】
いくつかの実施態様において本発明は、デジタル的に調節した非接触の流体付着方法、たとえば、スプレージェット、バルブジェット、またはインクジェット印刷技術を用いて、実施することができる。
【0009】
本発明によって改質された表面を有するポリマー基材は、(たとえば、複合材料物品を形成させるために)他の固体基材と接合させた場合に、改良された接着性を示すことができる。
【0010】
本出願において使用する場合、
「化学線照射」という用語は、約200ナノメートル〜約700ナノメートルの範囲の少なくとも1つの波長を有する、電磁線照射を意味する。
「無機」という用語は、C−H結合が無く、炭素−炭素多重結合が無く、四配位炭素原子が無いことを意味し、無機光化学電子供与体がイオン性である本発明の実施態様においては、「無機」という用語は、イオン性化合物のアニオン部分のみを指しているが、それはすなわち、イオン性化合物のカチオン部分は、全体の電荷のバランスを維持するのに必要であるから存在しているのであって、したがって、それらは有機であってもよく、そのような例としてはたとえば、チオシアン酸テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。
「非揮発性塩」という用語は、カチオンとアニオンとからなる塩を指していて、ここで、そのカチオンと、カチオンと平衡を保って存在している各種対応する共役塩基とを組み合わせた蒸気圧が25℃で約10ミリパスカル未満のものである。
「有機」という用語は、本明細書で「無機」と定義したもの以外のものである。
「光化学電子供与体」という用語は、光化学的一電子酸化を受ける化合物を指し、そして
「可溶性」という用語は、選択された溶媒の中に、約0.001モル/リットルを超える濃度で溶解することが可能であることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、少なくとも1種の光化学電子供与体を含む光反応性材料を、典型的にはポリマー基材の表面の第1の領域に画像に従った方法(image−wise fashion)で適用し、そしてその第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させることによって、ポリマー基材の第1の領域の暴露させた部分の表面が改質されるようにする。表面改質の程度は、各種の周知の表面分析技術を用いて調べることができるが、そのような技術としては、たとえば、減衰内部全反射赤外分光光度法(ATR IR)および化学分析電子分散法(ESCA)、さらには接触角測定などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0012】
本発明の方法に従って改質することが可能なポリマー基材としては、典型的には高分子有機材料が挙げられ、それらは、いかなる形状、形態、サイズであってもよい。高分子有機材料は、熱可塑性、熱硬化性、エラストマー性、またはその他であってよい。
【0013】
好適な高分子有機材料としては、ポリイミド、ポリエステル、およびフルオロポリマーが挙げられる。有用なポリイミドを例示すれば、変性ポリイミドたとえば、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド、およびポリエーテルイミドなどが挙げられる。多くのポリイミドが市販されているが、たとえば、イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. DuPont de Nemours and Company)からの商品名「カプトン(KAPTON)」(たとえば、「カプトン(KAPTON)H」、「カプトン(KAPTON)E」、「カプトン(KAPTON)V」)がある。
【0014】
有用なポリエステルを例示すれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、それらのブレンド物およびコポリマーなどが挙げられる。市販されているポリエステルとしては、たとえば、マサチューセッツ州ミドルトン(Middleton,Massachusetts)のボスティック(Bostik)からの商品名「バイテル(VITEL)」や、独国マール(Marl,Germany)のヒュールス・AG(Huls AG)からの商品名「ダイナポール(DYNAPOL)」などが挙げられる。
【0015】
有用なフルオロポリマーとしては、過フッ素化ポリマー(すなわち、水素含量が3.2重量パーセント未満のもので、いくつかのフッ素原子の代わりに塩素または臭素原子があってもよい)または部分フッ素化ポリマーがある。たとえば、高分子有機材料が、テトラフルオロエチレン(すなわち、TFE)のホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。
【0016】
フルオロポリマーは溶融加工することが可能であってよく、そのようなケースの例としてはたとえば、ポリフッ化ビニリデン(すなわち、PVDF)、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンのターポリマー(すなわち、THV)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、およびその他の溶融加工可能なフッ素樹脂などが挙げられる。それとは別に、フルオロポリマーが溶融加工不能であってもよく、そのようなケースとしては、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレンコポリマー(たとえば、TFEと少量のフッ素化ビニルエーテルからのコポリマー)、および硬化させたフルオロエラストマーなどが挙げられる。
【0017】
そのフルオロポリマーが、押出し加工や溶媒コーティングが可能な材料であってもよい。そのようなフルオロポリマーは、典型的には、少なくとも100℃(たとえば、少なくとも150℃)から330℃まで(たとえば、270℃まで)の範囲の融点を有するフッ素樹脂であるが、融点がより高い、またはより低いフルオロポリマーでも使用することはできる。有用なフッ素樹脂は、フッ化ビニリデン(すなわち、VDF)および/またはTFEから誘導される共重合単位を有しているのがよく、さらに、その他のフッ素含有モノマー、フッ素非含有モノマー、またはそれらの組合せから誘導される共重合単位を含んでいてもよい。フッ素含有モノマーを例示すれば、TFE、ヘキサフルオロプロピレン(すなわち、HFP)、クロロトリフルオロエチレン、3−クロロペンタフルオロプロピレン、過フッ素化ビニルエーテル(たとえば、ペルフルオロアルコキシビニルエーテル、たとえばCF3OCF2CF2CF2OCF=CF2、およびペルフルオロアルキルビニルエーテルたとえばCF3OCF=CF2およびCF3CF2CF2OCF=CF2)、およびフッ素含有ジ−オレフィン(たとえば、ペルフルオロジアリルエーテル、ペルフルオロ−1,3−ブタジエン)などが挙げられる。フッ素非含有モノマーの例としては、オレフィンモノマー(たとえば、エチレン、プロピレン)が挙げられる。
【0018】
VDF含有フルオロポリマーは、乳化重合法を用いて調製することができるが、そのような技術はたとえば、米国特許第4,338,237号明細書(スルツバッハ(Sulzbach)ら)または米国特許第5,285,002号明細書(グローテルト(Grootaert))に記載がある。市販されているVDF含有フッ素樹脂を例示すれば、商品名ダイネオン(DYNEON)「THV200」、「THV400」、「THVG」および「THV610X」(ミネソタ州オークデール(Oakdale,Minnesota)のダイネオン(Dyneon)から入手可能)、「カイナール(KYNAR)740」(ペンシルバニア州フィラデルフィア(Philadelphia,Pennsylvania)のアトケム・ノース・アメリカ(Atochem North America)から入手可能)、「ハイラール(HYLAR)700」(ニュージャージー州モリスタウン(Morristown,New Jersey)のアウジモント・USA(Ausimont USA)から入手可能)、および「フルオレル(FLUOREL)FC−2178」(ダイネオン(Dyneon)から入手可能)などのフルオロポリマーなどが挙げられる。
【0019】
有用なフルオロポリマーの1つは、少なくともTFEおよびVDFから誘導される共重合単位を有し、その中で、VDFの量が、ポリマーの全重量を基準にして、少なくとも0.1重量パーセント(たとえば、少なくとも3重量パーセントまたは少なくとも10重量パーセント)で20重量パーセント未満(たとえば、15重量パーセント未満)のものである。
【0020】
フルオロエラストマーは、硬化させる前に、射出成形または圧縮成形または通常熱可塑性樹脂で用いられるその他の方法によって、加工しておくことができる。硬化または架橋をさせた後では、フルオロエラストマーにそれ以上の溶融加工をすることはできない。フルオロエラストマーは、その未架橋の形態においては、溶媒からのコーティングをすることができる。フルオロポリマーは、水性分散体の形態からのコーティングをすることも可能である。好適なフルオロポリマーの例を挙げれば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)コポリマー(たとえば、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル))、ペルフルオロエラストマー(たとえば、VDF−HFPコポリマー、VDF−HFP−TFEターポリマー、TFE−プロピレンコポリマー、およびそれらの混合物)、およびそれらの混合物などがある。
【0021】
ポリマー基材はどのような形状(たとえば、フィルム、シート、成形物品)であってもよく、また、2層以上の異なった材料で構成されていてもよい。本発明によるいくつかの実施態様においては、ポリマー基材が、2種以上のポリマーのブレンド物で構成されていてもよい。ポリマーフィルムは、キャスティングまたは溶融押出しなど、公知の技術を用いて調製することができる。
【0022】
本発明においては、光化学電子供与体、ポリマー基材、および任意成分の増感剤を選択して、光吸収性化学種(たとえば、ポリマー基材、光化学電子供与体、任意成分の増感剤)の最低励起状態の励起エネルギーが、光化学電子供与体の酸化とポリマー基材の還元を起こさせるのに充分なエネルギーとなるようにする。
【0023】
実際においては、このことは、光化学電子供与体の酸化電位(ボルト)マイナスポリマー基材の表面の還元電位(ボルト)マイナス励起された化学種の励起エネルギー(すなわち、光吸収性化学種の最低三重項励起状態のエネルギー)がゼロよりも小さくなるように、ポリマー基材、光化学電子供与体、および任意成分の増感剤を選択することによって、得ることができる。
【0024】
化合物の酸化電位(および還元電位)は、当業者には公知の方法、たとえば、ポーラログラフィーによって求めることができる。たとえば、酸化電位の測定法については、A.J.バード(Bard)およびL.R.フォークナー(Faulkner)「エレクトロケミカル・メソッズ、ファンダメンタルズ・アンド・アプリケーションズ(Electrochemical Methods,Fundamentals and Applications)」(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレーテッド(John Wiley & Sons Inc.)ニュー・ヨーク(New York)、2001年);およびD.T.ソーヤー(Sawyer)およびJ.L.ロバーツ(Roberts)「エクスペリメンタル・エレクトロケミストリー・フォア・ケミスツ(Experimental Electrochemistry for Chemists)」(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)ニュー・ヨーク(New York)、1974年)p.329〜394に記載がある。
【0025】
ポリマーの還元電位は、何通りかの方法、特に電気化学的に求めることができるが、たとえば、D.J.バーカー(Barker)「ザ・エレクトロケミカル・リダクション・オブ・ポリテトラフルオロエチレン(The Electrochemical Reduction of Polytetrafluoroethylene)」、エレクトロキミカ・アクタ(Electrochimica Acta)、1978年、第23巻、p.1107〜1110;D.M.ブルーイス(Brewis)「リアクションズ・オブ・ポリテトラフルオロエチレン・ウィズ・エレクトロケミカリイ・ジェネレーテッド・インターミディエーツ(Reactions of polytetrafluoroethylene with Electrochemically Generated Intermediates)」、ディ・アンゲバンテ・マクロモレクラーレ・ヘミー(Die Angewandte Makromolekulare Chemie)、1975年、第43巻、p.191〜194;S.マズア(Mazur)およびS.ライヒ(Reich)「エレクロトケミカル・グロウス・オブ・メタル・インターレイヤーズ・イン・ポリイミド・フィルム(Electrochemical Growth of Metal Interlayers in Polyimide Film)」、ザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(The Journal of Physical Chemistry)、1986年、第90巻、p.1365〜1372、などに記載がある。どれか特定のポリマーの還元電位が測定されていなかったとしても、そのポリマーに構造的に類似したモデル化合物の還元電位を利用することによって、検証することを条件とした上ではあるが、都合よく近似値を得ることが可能である。膨大な数の有機化合物の還元電位が、L.マイテス(Meites)、P.ズーマン(Zuman)および(一部)E.ラップ(Rupp)「CRC・ハンドブック・シリーズ・イン・オーガニック・エレクトロケミストリー(CRC Handbook Series in Organic Electrochemistry)」第1〜6巻、CRC・プレス(CRC Press)、クリーブランド(Cleveland)、発行1977〜1983年)に集められている。
【0026】
当業者には周知のことであるが、酸化電位および還元電位は、各種の実験パラメーターによって幾分変化する可能性がある。そのような状況であるので、酸化電位および還元電位は、本発明を実施する場合に使用する条件(たとえば、同一の溶媒、濃度、温度、pHなど)に従った条件下で測定すべきである。
【0027】
本明細書で使用するとき、「励起エネルギー」という用語は、光吸収性化学種(たとえば、光化学電子供与体、増感剤または基材)の最低エネルギー三重項状態のことを指す。それぞれのエネルギーの測定方法は当業者には周知であって、リン光測定によって求めることができるが、それについては、たとえば、R.S.ベッカー(Becker)「セオリー・アンド・インタープリテーション・オブ・フルオレセンス・アンド・ホスホレセンス(Theory and Interpretation of Fluorescence and Phosphorescence)」(ワイリー・インターサイエンス(Wiley Interscience)、ニュー・ヨーク(New York))、1969年、第7章に記載がある。そのような測定をすることが可能な分光光度計は、たとえば、メリーランド州イーストン(Easton,Maryland)のジャスコ(Jasco)や、ニュージャージー州ローレンスビル(Lawrenceville,New Jersey)のフォトン・テクノロジー・インターナショナル(Photon Technology International)などから、容易に入手することができる。
【0028】
三重項エネルギーレベルを測定するには、酸素摂動法を使用することも可能であるが、これについては、D.F.エバンス(Evans)「パーターベーション・オブ・シングレット−トリプレット・トランジション・オブ・アロマチック・モレキュールズ・バイ・オキシジェン・アンダー・プレッシャー(Perturbation of Singlet−Triplet Transitions of Aromatic Molecules by Oxygen under Pressure)」、ザ・ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサイエティ(The Journal of Chemical Society)(ロンドン(London))、1957年、p.1351〜1357に記載がある。酸素摂動法には、化合物をたとえば、13.8メガパスカルのような酸素増強高圧環境下におきながら、その化合物の吸収スペクトルを測定することが含まれる。それらの条件下では、スピン選択則が破綻して、化学線照射に対して化合物を暴露させることで、基底状態から直接に、最低励起三重項状態が生成する。そのような遷移が起きる波長(すなわち、λ)を用いて、E=hc/λの関係を使用して、最低エネルギー三重項状態のエネルギーを計算するが、ここでEは三重項状態エネルギー、hはプランク定数、そしてcは真空中での光速である。
【0029】
光化学電子供与体は、有機種でも、無機種でも、あるいは有機種と無機種の混合物であってもよい。本発明を実施するのに使用される光化学電子供与体は、典型的には、ポリマー基材の性質と、先に挙げた光化学電子供与体、ポリマー基材および任意成分の増感剤のための選択基準を満たす能力とを基準にして、選択する。
【0030】
好適な有機光化学電子供与体としては、有機アミン(たとえば、芳香族アミン、脂肪族アミン)、芳香族ホスフィン、芳香族チオエーテル、チオフェノール、チオラート、およびそれらの混合物が挙げられる。有用な有機アミンとしては、モノ−、ジ−およびトリ−置換アミン(たとえば、アルキルアミン、アリールアミン、アルケニルアミン)や、アミノ置換オルガノシラン(たとえば、少なくとも1つの加水分解性置換基を有するアミノ置換オルガノシラン)などが挙げられる。芳香族アミンの例を挙げれば、アニリンおよびその誘導体(たとえば、N,N−ジアルキルアニリン、N−アルキルアニリン、アニリン)などがある。
【0031】
本発明によるいくつかの実施態様においては、有機光化学電子供与体には、たとえばフルオロアルキル基のようなフッ素化部分が含まれていてもよい。いくつかのケースでは、フッ素化部分があることによって、浸潤性の面でプラスになることがある。フッ素化有機光化学電子供与体を例示すれば、N−メチル−N−2,2,2−トリフルオロエチルアニリン、N−2,2,2−トリフルオロエチルアニリン、4−(n−ペルフルオロブチル)−N,N−ジメチルアニリン、4−(ペンタフルオロイソプロピル)−N,N−ジメチルアニリン、4−(ペルフルオロテトラヒドロフルフリル)−N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,2,2−トリフルオロエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミン、およびフェニルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
有用な無機光化学電子供与体としては、中性の無機化合物や無機アニオンが挙げられる。中性の無機光化学電子供与体の例を挙げれば、アンモニア、ヒドラジン、およびヒドロキシルアミンなどがある。無機光化学電子供与体がアニオン性の場合には、典型的にはそれは、カチオンを有する塩の形で得られる。カチオンの例としては、アルカリ金属カチオン(たとえば、Li+、Na+、K+)、アルカリ土類カチオン(たとえば、Mg2+、Ca2+)、オルガノアンモニウムカチオン、アミジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン、オルガノスルホニウムカチオン、オルガノホスホニウムカチオン、オルガノアルソニウムカチオン、オルガノヨードニウムカチオン、およびアンモニウムなどが挙げられる。
【0033】
無機の光化学的電子アニオンを含む塩を例示すれば、
(a)硫黄含有塩たとえば、チオシアン酸塩(たとえば、チオシアン酸カリウムおよびチオシアン酸テトラアルキルアンモニウム)、硫化物塩(たとえば、硫化ナトリウム、水硫化カリウム、二硫化ナトリウム、四硫化ナトリウム)、チオ炭酸塩(たとえば、チオ炭酸ナトリウム、トリチオ炭酸カリウム)、チオシュウ酸塩(たとえば、ジチオシュウ酸カリウム、テトラチオシュウ酸ナトリウム)、チオリン酸塩(たとえば、チオリン酸セシウム、ジチオリン酸カリウム、モノチオリン酸ナトリウム)、チオ硫酸塩(たとえば、チオ硫酸ナトリウム)、亜ジチオン酸塩(たとえば、亜ジチオン酸カリウム)、亜硫酸塩(たとえば、亜硫酸ナトリウム)、
(b)セレン含有塩、たとえばセレノシアン酸塩(たとえば、セレノシアン酸カリウム)、セレン化物塩(たとえば、セレン化ナトリウム)、
(c)無機窒素含有塩、たとえばアジ化物塩(たとえば、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム)、および
(d)ヨウ素含有塩、たとえばヨウ化物、三ヨウ化物、
およびそれらの混合物、などが挙げられる。
【0034】
本発明を実施するのに有用な光化学電子供与体は、各種の化学種と平衡した状態で水溶液中に存在させることができる(たとえば、共役酸または共役塩基として)。そのような場合には、溶液のpHは好ましい化学種の濃度が最大になるように調節するのがよい。
【0035】
光化学電子供与体は溶媒、たとえば、化学線照射を受けない限りその光化学電子供与体と反応しないような溶媒の中に溶解させることもできる。好ましくは、そのような光反応性材料のための溶媒は、無機光化学電子供与体や(もし加えているのなら)各種の増感剤と同じ波長では、化学線照射を顕著に吸収しないようなものとするべきである。起こりうる副反応を避ける目的で、場合によっては、ポリマー基材よりは還元されにくい溶媒を選択するのが好ましいのではあるが、ポリマー基材よりも溶媒の方が還元されやすいような、ある種の溶媒(たとえば水性溶媒)の中で本発明を実施することも可能である。
【0036】
本質的には、いかなる公知の溶媒も使用することができるが、光反応性材料の各種成分に対する溶解性および相溶性、ポリマー基材、吸収スペクトル、使用する吐出装置との適合性などを考慮して、特定の溶媒を選択すればよい。いかなる溶媒を使用するにしても、ポリマー基材を溶解させたり、顕著に膨潤させたりすることのないような溶媒を選択するのが好ましい。有用な溶媒の例を挙げれば、水および有機溶媒で、有機溶媒としては、アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、イソ−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール、グリセロール、ジアセトンアルコール)、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(たとえば、酢酸エチル、乳酸エチル)、および低級アルキルエーテル(たとえば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
溶媒中における光化学電子供与体の濃度は、典型的には、少なくとも0.001モル/リットル(たとえば、0.01モル/リットル)から、1モル/リットル(たとえば、0.1モル/リットル)未満までの範囲であるが、この範囲の外の濃度を使用することも可能である。
【0038】
溶媒とポリマー基材の選択に応じて、得られる表面改質が異なってくる可能性がある。たとえば水性溶媒中では、典型的には、フルオロポリマーの表面にはヒドロキシル基が多くなる。
【0039】
光反応性材料には、任意に、カチオン性助剤が含まれていてもよい。このカチオン性助剤は、有機カチオンと非妨害性アニオンとからなる化合物(すなわち、塩)である。「非妨害性アニオン」という用語は、化学線照射がない場合に、20℃、5分間では、ポリマー基材の表面と実質的に反応しないような、(有機または無機)アニオンのことを言う。この判定基準に適合する非妨害性アニオンを例示すれば、ハロゲン化物(たとえば、臭化物、塩化物、フッ化物);硫酸塩;スルホン酸塩(たとえば、パラ−トルエンスルホン酸塩);リン酸塩;ホスホン酸塩;錯体金属ハロゲン化物(たとえば、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、テトラクロロスズ酸塩);過塩素酸塩;硝酸塩;炭酸塩;および重炭酸塩などが挙げられる。非妨害性アニオンは、光化学電子供与体として機能することが可能なアニオンであればよい。
【0040】
有用なカチオン性助剤としては、オルガノスルホニウム塩、オルガノアルソニウム塩、オルガノアンチモニウム塩、オルガノヨードニウム塩、オルガノホスホニウム塩、オルガノアンモニウム塩、およびそれらの混合物などが挙げられる。これらのタイプの塩については、これまでにも、たとえば、米国特許第4,233,421号明細書(ウォーム(Worm))、米国特許第4,912,171号明細書(グローテルト(Grootaert)ら)、米国特許第5,086,123号明細書(ギュンスナー(Guenthner)ら)、および米国特許第5,262,490号明細書(コルブ(Kolb)ら)などに記載がある。
【0041】
好適なオルガノホスホニウム塩としては、非フッ素化オルガノホスホニウム塩(たとえば、塩化テトラフェニルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラオクチルホスホニウム、塩化テトラ−n−ブチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラメチルホスホニウム、臭化テトラメチルホスホニウム、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム、臭化ベンジルトリフェニルホスホニウム、ステアリン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム、安息香酸ベンジルトリフェニルホスホニウム、臭化トリフェニルイソブチルホスホニウム、塩化n−ブチルトリオクチルホスホニウム、塩化ベンジルトリオクチルホスホニウム、酢酸ベンジルトリオクチルホスホニウム、塩化2,4−ジクロロベンジルトリフェニルホスホニウム、塩化(メトキシエチル)トリオクチルホスホニウム、塩化トリフェニル(エトキシカルボニルメチル)−ホスホニウム、塩化アリルトリフェニルホスホニウム)、およびフッ素化オルガノホスホニウム塩(たとえば、塩化トリメチル(1,1−ジヒドロペルフルオロブチル)ホスホニウム、塩化ベンジル−[3−(1,1−ジヒドロペルフルオロプロポキシ)プロピル]ジイソブチルホスホニウム)、塩化ベンジルビス[3−(1,1−ジヒドロペルフルオロプロポキシ)プロピル]イソブチルホスホニウム)、C613CH2CH2P(CH2CH2CH2CH33+-)、などが挙げられる。
【0042】
カチオン性助剤は、オルガノアンモニウム塩であってもよい。好適なアンモニウム塩の例を挙げれば、非フッ素化オルガノアンモニウム塩、たとえば、塩化テトラフェニルアンモニウム、臭化テトラフェニルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、塩化テトラ−n−ブチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、フッ化トリフェニルベンジルアンモニウム、臭化トリフェニルベンジルアンモニウム、酢酸トリフェニルベンジルアンモニウム、安息香酸トリフェニルベンジルアンモニウム、臭化トリフェニルイソブチルアンモニウム、塩化トリオクチル−n−ブチルアンモニウム、塩化トリオクチルベンジルアンモニウム、酢酸トリオクチルベンジルアンモニウム、塩化トリフェニル−2,4−ジクロロベンジルアンモニウム、塩化トリオクチルメトキシエトキシエチルアンモニウム、塩化トリフェニルエトキシカルボニルメチルアンモニウム、塩化トリフェニルアリルアンモニウム、および塩化1−ブチルピリジニウム;およびフッ素化オルガノアンモニウム塩、たとえば塩化トリメチル(1,1−ジヒドロペルフルオロブチル)アンモニウム、C715CONHCH2CH2NMe3+-、C49OCF2CF2OCF2CH2CONHCH2CH2NMe3+-、などがある。
【0043】
光反応性材料中にフッ素化アニオン性界面活性剤(たとえば、ペルフルオロアルカン酸塩、たとえばペルフルオロオクタン酸塩)が存在すると、特に光反応性材料が水性である場合、表面改質の見掛けの速度や、表面改質されたポリマー基材の結合性が低下する可能性がある。この理由から、光反応性材料では、改質すべきポリマー基材の表面上にはフッ素化アニオン性界面活性剤が実質的に存在しない(たとえば、ほぼ単分子層で覆うよりも少ない量)のが好ましい。
【0044】
表面改質を起こさせるためには、典型的には化学線照射が、光化学電子供与体によるか、ポリマー基材によるか、あるいはその他の材料(たとえば、増感剤)によるか、のいずれかにより吸収されなくてはならない。増感剤は、化合物であるか、または塩の場合であれば化合物のイオン性部分(たとえば、アニオンまたはカチオン)であって、それ自体は、化学線照射の有無に関わらず、ポリマー表面の性質に対して効果を有する光反応性材料ではないが、光を吸収することにより、光化学電子供与体によるポリマー基材の表面の改質を促進させるようなものである。したがって、増感剤を使用するならば、それは典型的には、光化学電子供与体によるポリマー基材の光還元を促進させるのに充分な、高い三重項励起状態エネルギーを有するものとするべきである。
【0045】
増感剤を例示すれば、芳香族炭化水素(たとえば、ベンゼン、ナフタレン、トルエン、スチレン、アントラセン)、芳香族エーテル(たとえば、ジフェニルエーテル、アニソール)、アリールケトン(たとえば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、キサントン)、芳香族チオエーテル(たとえば、ジフェニルスルフィド、メチルフェニルスルフィド)、およびそれらの水溶性変性物などが挙げられる。増感剤を使用するならば、その典型的な濃度は、0.001〜0.1モル/リットルである。
【0046】
この光反応性材料には、さらなる添加剤、たとえばクラウンエーテルやクリプタンドを加えてもよいが、これらは、イオン性の塩の溶解性を改良し、場合によっては(たとえば低極性溶媒の場合など)効果的である。クラウンエーテルの例としては、15−クラウン−5、12−クラウン−4、18−クラウン−6、21−クラウン−7、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5などが挙げられるが、これらは、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,Wisconsin)のアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.)などから市販されていて、容易に入手することが可能である。
【0047】
任意成分としての追加の添加剤としてはさらに、求核試薬(すなわち、低電子密度の領域に対して好適な親和性を有する物質)があるが、その例としては、たとえば、水、水酸化物、アルコール、アルコキシド、シアニド、シアン酸塩、塩化物、およびそれらの混合物が挙げられる。ポリマー基材の表面は、いったん本発明によって改質されれば、図1に見られるように、(有機または無機の)第2の基材と接着させることが可能である。ここで図1を参照すると、複合材料物品10には、改質された表面層50の区別された領域を有するポリマー基材20が含まれているが、その改質された表面層は、光反応性材料をポリマー基材の表面60に接触させ、次いで、その界面を化学線照射に暴露させた結果として得られたものである。第2の基材30の表面40を、改質された表面層50の区別された領域に接着させる。表面層50は、典型的には、分子の次元のオーダーの、たとえば10ナノメートル以下の厚みを有している。
【0048】
ポリマー基材の表面改質された領域の、第2の基材への接着は、たとえば、第2の基材(たとえば、ポリマーフィルム)を改質されたポリマー基材の表面と接触させてから、熱(たとえば、高温)および/または圧力、好ましくは熱と圧力の両方をかけることによって、達成される。好適な熱源としては、加熱炉、加熱ローラー、加熱プレス、赤外線源、火炎などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。好適な圧力源は周知であるが、たとえばプレス、ニップローラーなどが挙げられる。必要とされる熱量や圧力は、接着させる特定の材料によって変わるが、容易に決めることができる。
【0049】
第2の基材は、ポリマーフィルム、金属、ガラス、その他のものであってよい。たとえば、第2の基材は、フルオロポリマーまたは非フッ素化ポリマーを含むフィルムでもよく、それらは、ポリマー基材とは同一であっても、異なっていてもよい。第2の基材を構成する非フッ素化ポリマーの例を挙げれば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリウレア、アクリル樹脂、およびそれらの混合物などがある。非フッ素化ポリマーを例示すれば、非フッ素化エラストマー(たとえば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム、塩素化およびクロロスルホン化ポリエチレン、クロロプレン、エチレン−プロピレンモノマー(EPM)ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、エピクロロヒドリン(ECO)ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニルとNBRとのブレンド物、スチレンブタジエン(SBR)ゴム、エチレン−アクリレートコポリマーゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム)、ポリアミド(たとえば、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6,12、ナイロン−6,9、ナイロン−4、ナイロン−4,2、ナイロン−4,6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−6,Tおよびナイロン−6,1)、非エラストマー性ポリオレフィン(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステル、ポリケトン、およびポリウレアなどがある。
【0050】
第2の基材はその表面上に、たとえば、強力な接着結合を形成するのに役立つ、極性基を有していてもよい。極性基は、公知の方法、たとえばコロナ処理などによって導入することができる。
【0051】
ある種の状況においては、2つを超える第2の基材(たとえば、2枚のポリマーフィルム)を、2つ以上のポリマー基材の表面に接触させることができる(たとえば、3層フィルムサンドイッチ構造)。さらに他の状況においては、2つのポリマー基材を、第2の基材の2つの表面に接触させることもできる。
【0052】
場合によっては(たとえば、ポリマー基材の改質と接着工程を順に行う場合)、改質させた後の改質ポリマー基材の表面を(たとえば溶媒を用いて)洗い流すのが望ましいこともある。洗い流しによって典型的には、ポリマー基材には直接結合していない光反応性材料からの成分が除かれる。
【0053】
化学線照射は、光反応性材料の存在下でポリマー基材を改質することが可能な波長を有する、電磁線の照射である。たとえば、その化学線照射は、表面改質を10分未満(たとえば、3分未満)に起こすために充分な、強度と波長を有するものとすることができる。化学線照射は、200ナノメートル(たとえば、少なくとも240ナノメートル、または少なくとも250ナノメートル)から、700ナノメートル(たとえば、400ナノメートル以下、または300ナノメートル以下、または260ナノメートル以下)までの波長を有することができる。化学線照射には、(たとえば、パルスレーザーを使用することによって)充分な強度で供給されるより長波長のフォトンも含まれていて、同時に吸収されるようになっていてもよい。
【0054】
典型的な化学線の照射源は、多重で連続波長の出力を有している場合が多いが、レーザーを使用することも可能である。それらの照射源の出力の少なくとも幾分かが、光化学電子供与体、ポリマー基材、および/または任意成分の増感剤によって吸収される1種または複数の波長である限りにおいて、それらは典型的に適している。化学線照射を効果的に使用するためには、使用する化学線照射の波長を選択して、そのような波長における光化学電子供与体および/または任意成分の増感剤のモル吸光係数が、100リットル/モル・センチメートルより大きい(たとえば、1,000リットル/モル・センチメートルより大きい、10,000リットル/モル・センチメートルより大きい)となるようにするのがよい。それを用いてモル吸光係数を計算することが可能な、多くの化合物の吸収スペクトルは、一般的に入手することが可能であるし、あるいは、当業者周知の方法を用いて測定することができる。本発明によるいくつかの実施態様においては、UVC紫外線照射(すなわち、290ナノメートル未満の波長を有する紫外線の照射)が有用である。
【0055】
化学線照射源として適当なものを挙げれば、水銀ランプ、たとえば、低圧水銀および中圧水銀アークランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、タングステンフィラメントランプ、レーザー(たとえば、エキシマーレーザー)、マイクロ波駆動ランプ(たとえば、メリーランド州ゲーサーズバーグ(Gaithersburg,Maryland)のフュージョン・UV・システムズ(Fusion UV Systems)から販売されているもの(H型およびD型電球を含む))、フラッシュランプ(たとえば、キセノンフラッシュランプ)、日光、その他がある。典型的には、低圧(たとえば、殺菌用)水銀ランプが高効率で、使いやすい、化学線の照射源である。
【0056】
任意に、ある波長を吸収し、別の波長は透過させるフィルターを使用してもよい。フィルターは、ポリマー表面の選択された領域に到達する化学線照射の相対的な量を調節するためにも使用することができる。任意に、ポリマー表面の選択された領域を、化学線照射に暴露されることから防ぐために、マスクを使用することもできる。
【0057】
化学線照射による暴露の時間は、1秒未満から10分以上までとすることが可能であるが、吸収パラメーターと、使用する特定の加工条件によって変わる。本発明の実施態様においては、ポリマー基材が透明または半透明である場合には、化学線照射は、光反応性材料の中を通過させるのではなく、ポリマー基材の中を通過させて、光反応性材料/ポリマー基材界面に直射させるのが有利である。
【0058】
化学線照射がその界面に達するまでに、光反応性材料を通過させねばならないような場合には、その光反応性材料を薄い層(たとえば、厚み約20マイクロメートル未満)とするのが好都合である。そのように薄いコーティングは、標準的なコーティング法(たとえば、ナイフコーティング、ロールコーティング)や浸漬法などで得るのは、困難または不可能である。いくつかのケースにおいては、光反応性材料の厚みは、基材に塗布した後の光反応性材料に、(たとえば、光反応性材料とポリマー基材をニップローラーに通したり、あるいは、光反応性溶液の上にガラススライドを置いたりして)負荷をかけることによって薄くすることができる。しかしながら、塗布した後の光反応性材料に負荷をかけて、厚みを減らそうとすると、光反応性材料を横に拡げる原因となり、そのため、細かいパターンを作ることが困難となる。そのような場合には、負荷をかけることなく、光反応性材料の薄層を得ることができれば望ましい。
【0059】
本発明においては、いくつかのケースにおいては、デジタル印刷技術(たとえば、インクジェット印刷)を使用して、光反応性材料をポリマー基材に塗布することによって、薄膜コーティングが達成できる。
【0060】
光反応性材料は、デジタル画像形成技術(たとえば、流体を採用したデジタル画像形成技術)を用いて、ポリマー表面の区別された領域に塗布することが可能である。好適なデジタル画像形成技術としては、たとえば、スプレージェット、バルブジェット、およびインクジェット印刷方法が挙げられる。それらの方法は周知で、たとえば、米国特許第6,513,897号明細書(トーキー(Tokie))に記載されている。インクジェット印刷技術は、高い解像度を必要とする用途には、適していることが多い。
【0061】
本発明を実施するには、各種のインクジェット印刷技術が使用できるが、そのような技術としては、サーマルインクジェット印刷、連続インクジェット印刷、および圧電気(すなわち、ピエゾ)インクジェット印刷などが挙げられる。サーマルインクジェットのプリンターおよび/またはプリントヘッドは、カリフォルニア州パロ・アルト(Palo Alto,California)のヒューレット・パッカード・コーポレーション(Hewlett−Packard Corporation)や、ケンタッキー州レキシントン(Lexington,Kentucky)のレックスマーク・インターナショナル(Lexmark International)などのプリンターメーカーから容易に商品として入手できる。連続インクジェットプリントヘッドは、英国ケンブリッジ(Cambridge,United Kingdom)のドミノ・プリンティング・サイエンシズ(Domino Printing Sciences)のような、連続プリンターメーカーから商品として入手できる。ピエゾインクジェットプリントヘッドは、たとえば、コネチカット州ブルックフィールド(Brookfield,Connecticut)のトライデント・インターナショナル(Trident International)、カリフォルニア州トランス(Torrance,California)のエプソン(Epson)、カリフォルニア州サンタ・クララ(Santa Clara,California)のヒタチ・データ・システムズ・コーポレーション(Hitachi Data Systems,Corporation)、英国ケンブリッジ(Cambridge,United Kingdom)のザール・PLC(Xaar PLC)、ニューハンプシャー州レバノン(Lebanon,New Hampshire)のスペクトラ(Spectra)、およびイスラエル国リション・レ・ジオン(Rishon Le Zion,Israel)のイダニット・テクノロジーズ・リミテッド(Idanit Technologies,Limited)、などから、商品として入手できる。ピエゾインクジェット印刷は、広い範囲の物理的および化学的性質を有する各種の流体に対応できるフレキシビリティを有しているので、光反応性材料を塗布するための1つの有用な方法である。
【0062】
光反応性材料は、典型的には、具体的に選択したデジタル印刷技術によって、ポリマー性の表面に塗布することができるような、充分に低い粘性を有するような配合とする。インクジェット印刷技術のためには、光反応性材料を、吐出温度(典型的には、25℃〜65℃の範囲)において、30mPa・s未満(たとえば、25mPa・s未満、20mPa・s未満)の粘度となるように、配合する。しかしながら、特定の溶液における最適な粘度特性は、吐出温度や、その溶液を塗布するために使用するインクジェットシステムのタイプに依存するであろう。
【0063】
光反応性材料は、典型的には、具体的に選択したデジタル印刷技術によって、ポリマー性の表面に塗布することができるような、充分に低い表面張力を有するような配合とする。たとえば、光反応性材料をインクジェット印刷するためには、吐出温度における表面張力を、20mN/m(たとえば、22mN/m)から50mN/m(たとえば、40mN/m)の範囲とする。
【0064】
この光反応性材料は、ニュートン流体であっても、非ニュートン流体(すなわち、剪断によって実質的に低粘稠化挙動を示す流体)であってもよい。インクジェット印刷の場合には、吐出温度では光反応性材料が、剪断による低粘稠化をほとんど、または全く示さないように配合するのが好ましい。
【0065】
光反応性材料は、各種の方法を用いて表面の種々な部分に塗布することができるが、そのような方法としてはたとえば、固定したプリントヘッドに対してポリマー基材を移動させてもよいし、あるいは、ポリマー基材に対してプリントヘッドを移動させてもよい。したがって、本発明の方法では、ポリマー基材の表面に光反応性材料による細かいパターンを形成させ、(次いで表面改質させる)ことが可能であって、ポリマー表面の全体に光反応性材料を塗布することによる各種の不都合はない。
【0066】
光反応性材料は、典型的には、基材に所定のパターンになるように塗布するが、光反応性材料のランダムまたは擬似ランダムな配置も、場合によっては有用なこともある。光反応性材料を塗布することによって形成することができるパターンを例示すれば、線(たとえば、直線、曲線または折れ曲がり線)、二次元幾何学的形状(たとえば、円、三角形または四角形)、英数記号(たとえば、文字または数字)、グラフィカルシンボル(たとえば、会社のロゴ、動物、植物)などが挙げられる。そのようなパターンを本発明における化学線照射に暴露させた後では、そのポリマー基材の表面は典型的には、対応するパターンに合わせて改質される。したがって、低い表面エネルギーを有するポリマー基材(たとえば、フルオロポリマー基材)が、その少なくとも1つの表面の上に形成された、比較的高い表面エネルギー(たとえば、よりフッ素化が低いまたは非フッ素化)のパターンを有することができるようになる。その結果として、高い表面エネルギーの流体(たとえば、水)をそのパターンの上に置くと、そのパターン化された表面の改質された部分に、流体の浸潤性(および流れ)を限定することが可能となる。したがって本発明は、たとえばミクロ流体素子において使用可能な、流体路(fluidic path)(たとえば、ミクロ流体路)を構築するのには有用である。
【0067】
本発明によるいくつかの実施態様においては、改質されたポリマー基材の表面は、流体を用いてフラッドコーティングをして、その流体が、表面の改質された領域だけ、または改質されていない領域だけ、のいずれかを濡らすようにすることができる。たとえば、低い表面エネルギーを有するポリマー基材(たとえば、フルオロポリマー基材)が、その少なくとも1つの表面の上に形成された、比較的高い表面エネルギー(たとえば、よりフッ素化が低いまたは非フッ素化)のパターンを有することができるようになる。したがって、高い表面エネルギーの流体(たとえば、水)を、その改質された表面の上に(たとえば、スプレー法、ロールコート法、ディップコート法により)フラッドコーティングすると、それにより、パターン化された表面の改質された部分だけに、浸潤を限定することが可能となる。たとえば、流体が通常のジェット吐出法では塗布することが困難な場合(たとえば、高粘度流体)、流体に剪断の影響を受けやすい物質が含まれている場合(たとえばタンパク質、これは、高い剪断応力または剪断速度のもとでは変性されることがある)、あるいは、流体がジェット吐出することが困難な物質を含んでいる場合(たとえば、フレーク、粒子(たとえば、顔料粒子)、微小球、再帰反射性ビーズ、繊維)には、この技術は有用である。したがって、本発明は、流体をデジタルに印刷することなく、基材の上にデジタルに発生させた流体のパターンを作るのには有用である。
【0068】
本発明によるいくつかの実施態様においては、改質されたポリマー基材の表面は、1種または複数の化学物質を用いて処理することにより、誘導体化することができる。たとえば、1つの実施態様においては、本発明に従って改質して、露出された反応性のアミノ基を有するようにしたポリマー基材の表面を利用すれば、その上にアミン反応性の基を有する生物学的活性分子を固定することが可能となる。
【0069】
また別な実施態様においては、本発明に従って改質して、露出された反応性のアミノ基のパターンを有するようにしたポリマー基材の表面を、無電解めっき触媒(たとえば、コロイド状スズ−パラジウム触媒)で処理すると、それによって、その触媒をアミノ基に優先的に結合させることができる。それに続けて、無電解めっき溶液に暴露させることにより、元のパターンに従って、金属(たとえば、銅、ニッケル、金、パラジウム)が析出する。これにより、本発明におけるポリマー基材の表面上に、金属のパターンを作り出すことが可能となるが、その解像度は、インクジェット印刷法によって得られる解像度(たとえば、567ドット/センチメートル、すなわち、1440dpi)よりは低いか同等である。無電解めっき触媒と溶液は、周知であって、たとえば、シップレー・カンパニー(Shipley Company)から、たとえば、商品名キャタプレップ(CATAPREP)またはキャタポジット(CATAPOSIT)(触媒)、キュポジット・385・カッパー・ミックス(CUPOSIT 385 COPPER MIX)(無電解銅)、ロナマース(RONAMERSE)SMT(無電解ニッケル浸漬金)、パラマース(PALLAMERSE)SMT(無電解パラジウム)として入手することができる。
【0070】
本発明について、以下に示す実施例(これらに限定される訳ではない)を参照しながら、より完全な理解を図るが、ここで全ての部、パーセント、比率などは、特に断らない限り、重量基準である。
【実施例】
【0071】
以下の実施例において使用される原料は、特に記さない限り、一般的な化学薬品供給業者、たとえば、たとえば、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,Wisconsin)のアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.)などから、容易に入手可能である。以下の実施例を通して、次に示す略号を使用する。
「FEP」という略語は、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレン(重量比85/15)のコポリマーのフィルム(厚み51マイクロメートル)で、商品名「FEP X6307」(ダイネオン・LLC(Dyneon LLC)製)を指す。
「KHN」という略語は、ポリイミドのフィルム(フィルム厚み12マイクロメートル)で、商品名「カプトン(KAPTON)HN」(イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. du Pont de Nemours and Company)製)を指す。
「PET」という略語は、ポリエチレンテレフタレートのフィルム(厚み61マイクロメートル)で、商品名「マイラー・タイプ・A(MYLAR TYPE A)」(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,Delaware)のデュポン・テイジン・フィルムス・U.S.・リミテッド・パートナーシップ(DuPont Teijin Films U.S.Limited Partnership)製)を指す。
「BYN」という略語は、酸で改質されたエチレン−酢酸ビニルコポリマーで、商品名「バイネル(BYNEL)3101」(イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. du Pont de Nemours and Company)から市販)を指す。以下の実施例においては、「バイネル(BYNEL)3101」のペレットをプレスにかけて、厚み1.3〜1.8ミリメートルのフィルムを形成させた。
【0072】
ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順A
以下の実施例のそれぞれにおいて、光反応性材料は、ザール・PLC(Xaar)XJ128−200ピエゾインクジェットプリントヘッド(ザール・PLC(Xaar PLC)製)を用いて、ポリマーフィルムの上に印刷した。プリントヘッドを固定位置に搭載し、それに対して基材をx−y方向に並進が可能なステージに搭載した。光反応性材料を317×295ドット/インチ(125×116ドット/cm)の解像度で印刷させた。溶液を、ポリマーフィルムの上に溶液を、図2に示したような、線、点、およびベタ塗り(solid fill)の正方形(2.54cm×2.54cm)と円のテストパターンに印刷させた。
【0073】
その印刷したフィルムを、UVプロセッサー(フュージョン・UV・システムズ(Fusion UV Systems)から、商品名フュージョン・UV・プロセッサー(FUSION UV PROCESSOR)として得られるもの)に通したが、これには単一のH型電球が用いられており、100%パワーで操作した。それぞれのサンプルを、40フィート/分(12m/分)の速度で、UVプロセッサーを5回通過させた。その後、それぞれのポリマーフィルムを蒸留水とメタノールで洗浄してから、完全に乾燥させた。
【0074】
接触角の測定
前進接触角は、マサチューセッツ州ビルリカ(Billerica,Massachusetts)のAST・プロダクツ(AST Products)から商品名「VCA2500XE・ビデオ・コンタクト・アングル・メジャリング・システム(VIDEO CONTACT ANGLE MEASURING SYSTEM)」として得られる装置を用い、脱イオン水を使用して測定した。
【0075】
実施例1
10グラムのN,N−ジメチルアニリンと90グラムのメタノールを混合して、光反応性材料を調製した。その光反応性材料を、FEPフィルムの上に印刷し、ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順Aに従って、化学線照射で露光させた。印刷した領域における前進接触角は72度であったが、それに比較して、印刷しなかった領域での接触角は109度であった。その改質されたFEPフィルムを水を用いてフラッドコーティングした。水は印刷した領域を選択的に濡らした。
【0076】
実施例2
3グラムのNa2S・9H2O、3グラムのNa223、3グラムの3−アミノプロピルトリエトキシシラン、および3グラムの臭化テトラブチルホスホニウムを、48ミリリットルの水に溶解させて、光反応性材料を調製した。その光反応性材料を、KHNフィルムの上に印刷し、ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順Aに従って、化学線照射で露光させた。印刷した領域における前進接触角は30度であったが、それに比較して、印刷しなかった領域での接触角は73度であった。
【0077】
実施例3
実施例2の光反応性材料を、PETフィルムの上に印刷し、ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順Aに従って、化学線照射で露光させた。印刷した領域における前進接触角は55度であったが、それに比較して、印刷しなかった領域での接触角は109度であった。
【0078】
実施例4
実施例2の光反応性材料を、FEPフィルムの上に印刷し、ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順Aに従って、化学線照射で露光させた。印刷と硬化の工程を実施してから、その基材を0.1重量パーセントの水性PdCl2を含む水溶液の中に1分間浸漬させて、活性化させた。基材を乾燥させてから、NaBH4の0.1モル濃度水溶液の中に1分間浸漬させた。最後にそのサンプルを、7.2グラムのNiCl2、6.4グラムのNaH2PO2、77グラムの50重量%グルコン酸水溶液、2グラムの水酸化ナトリウム、5ミリリットルの濃水酸化アンモニウム、および300ミリリットルの水を混合することにより調製した溶液の中に、5分間浸漬させた。
【0079】
この方法によって、FEP基材の印刷した領域の上に選択的にニッケルをめっきすることができた。
【0080】
実施例5
実施例2の光反応性材料を、FEPフィルムの上に印刷し、ポリマーフィルムを改質させるための一般的手順Aに従って、化学線照射で露光させた。このFEPフィルムの光改質された表面にBYN基材を、加熱した段プレス中で温度200℃、圧力30キロパスカルで2分間加圧して、加熱積層させた。その積層サンプルを急冷して室温に戻した。そのBYN基材をFEPフィルムから剥がそうとすると、印刷した領域では分離するのに抵抗があったのに対して、印刷していない領域では分離するのに何の抵抗もなかった。
【0081】
本発明の範囲と精神から外れることなく、本発明についての各種の修正や変更が可能であることは当業者には明らかであろう。本発明が、本明細書に記載された説明のための実施態様に不当に限定されるべきではないことは、理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の1つの実施態様による、複合材料物品の横断面図である。
【図2】実施例において使用されたインクジェット印刷パターンの代表例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー基材の表面を改質するための方法であって、
第1の表面を有する第1のポリマー基材を備える工程であって、任意に、前記基材がフルオロポリマー、ペルフルオロポリマー、ポリイミド、またはポリエステルの少なくとも1種を含む工程と、
前記第1の表面の第1の領域に、少なくとも1種の光化学電子供与体、および任意に増感剤を含む光反応性材料をデジタル的に適用する工程と、
前記第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させる工程と、を含む方法。
【請求項2】
デジタル的に適用することに、インクジェット印刷、ピエゾインクジェット印刷、バルブジェット印刷、およびスプレージェット印刷の少なくとも1種が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光化学電子供与体が、有機光化学電子供与体、任意に、有機アミン、芳香族ホスフィン、および芳香族チオエーテル、チオフェノール、チオラート、またはそれらの混合物の少なくとも1種を含む;無機光化学電子供与体、任意に、硫黄含有塩、セレン含有塩、無機窒素含有塩、ヨウ素含有塩、またはそれらの混合物の少なくとも1種を含む;またはそれらの組合せの少なくとも1種、および任意にカチオン性助剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光反応性材料の粘度が約30mPa・s未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学線照射が紫外線照射を含み、任意に前記化学線照射が約240nm〜約290nmの範囲の少なくとも1つの波長を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の領域の少なくとも一部を化学線照射に暴露させた後に前記第1の基材を洗浄する工程、または前記第1の基材の前記第1の領域の少なくとも一部を無電解めっきする工程の少なくとも1つの工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の領域を化学線照射に暴露させた後で、前記第1の基材の前記第1の表面に第2の基材を適用する工程と、前記暴露させた第1の領域を前記第2の基材に接着させる工程と、をさらに含み、任意に、前記第2の基材がポリマーを含み、そして任意に、接着することに、加熱または加圧の少なくとも一方が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の領域を化学線照射に暴露させた後で、前記第1の基材の前記第1の表面に流体を適用する工程をさらに含み、任意に、前記流体が、高分子結合剤;タンパク質、フレーク、粒子、微小球、再帰反射性ビーズ、または繊維の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
適用することに、スプレー法、ロールコーティング、またはディップコーティングの少なくとも1種が含まれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1、7、または8のいずれか一項に記載の方法により製造した物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−512441(P2006−512441A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564857(P2004−564857)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2003/035109
【国際公開番号】WO2004/060983
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】