説明

ポリマー層の製造方法

【課題】簡単な方法で所定のおよび均一な層厚を有するポリマー層の製造を可能にする支持部上のポリマー層の製造方法を提供すること。
【解決手段】透明の支持部上のポリマー層の製造方法であって、(a)支持部の配設工程と、(b)支持部上に光重合可能の液状組成物の塗布工程と、(c)前記液状組成物が部分的に重合し、所定の厚さを有するポリマー層が支持部上に形成されるように、支持部を通して光重合可能な液状組成物を照射工程する、(d)ポリマー層から残留する液状組成物の除去工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合可能の液状組成物の光重合による支持部上のポリマー層の製造方法、支持部上のポリマー層の製造に適した装置およびその中に挿入した指示薬を有するポリマー層を含むセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持部上のポリマー層の製造が知られている。そのために重合可能の液体が可能な限り均一な厚さで支持部上に塗布され、完全に重合される。この重合は化学的重合開始剤または液体の照射によって開始することができる。
【0003】
接着剤フィルムの製造に関連して、官能化アクリレートプレポリマーの混合物が支持部上に塗布され、ポリマーコンパウンドの表面の照射によって全部または一部硬化される重合技術が知られている。重合の層厚の制御は、露光強度および−時間の選択と、使用するプレポリマーの固有吸収とによって行われる。
【0004】
従来技術の方法では、支持部上のポリマー層の所定のかつ均一な厚さに調整するためしばしば高い費用を必要とすることが欠点である。さらに、慣用の重合方法の場合は、しばしば支持部上のポリマー層の付着が極く僅かしかない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の基礎におく課題は、従来技術の前記欠点を少なくとも部分的に防止することであった。特に、簡単な方法で所定のおよび均一な層厚を有するポリマー層の製造を可能にする支持部上のポリマー層の製造方法が提供されるべきである。
【0006】
閉じた、疎水性のポリマー層が生成される従来技術において接着剤製造に関連して記載される方法と異なり、開いた水性試液および分析物の吸収能力のある親水性層が調製されるものである。
【0007】
この課題は、液状の重合可能の組成物が支持部上に塗布され、そこで完全にではなく、所定の厚さを有する層内でのみ直接支持部上で重合されることによって解決される。この方法により均一かつ非常に良好に支持部に付着する層の支持部を簡単な方法で製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって本発明の目的は、(a)支持部の配設工程と、(b)支持部上に光重合可能の液状組成物の塗布工程と、(c)液状組成物の部分的な重合のみが行われ、所定の厚さを有するポリマー層が支持部上に形成されるように、支持部を通した光重合可能の液状組成物の照射工程と、(d)ポリマー層から残留する液状組成物の除去工程とを含む透明の支持部上のポリマー層の製造方法である。
【0009】
ポリマー層の製造に使用する支持部は、少なくとも部分的に光学的に透明な支持部、たとえばポリカーボネートフィルム、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルムまたはポリエーテルフィルムのような、たとえばプラスチック支持部、ガラス支持部または石英支持部である。また結合材料からなる支持部を使用してもよい。このような少なくとも部分的に光学的に透明な支持部を使用する際に、好ましくは支持部を通して液状組成物の照射が行われる。支持部の厚さは好適な方法で、一方でポリマー層に対して充分な機械的安定性と、他方で、照射に使用する光に対して充分な透過性とを有するように選択される。たとえば厚さ5μm〜20μmを有する支持部が使用される。同様に紫外線(UV)透過性の支持部の使用が有利である。
【0010】
光重合可能の液状組成物は、少なくとも1種の光重合可能の物質、すなわち照射によって(必要な場合は光開始剤の存在下に)重合可能の物質を含む。このような物質の好ましい例は、たとえばオレフィン不飽和物質、すなわち1個の炭素=炭素結合を有する物質のような光重合可能のモノマーである。好適な光重合可能の物質のその他の例は、光による照射下に交差架橋する官能化オリゴマーまたはポリマーである。このような光活性官能化は、たとえばアクリレート、アジド、カルバジド、スルホナジド、ジアゾケトン、ジメチルマレインイミド、光環化可能の残基(たとえばカルコン)およびベノフェン誘導体を含む。好適なオリゴマーまたはポリマーは、たとえばポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレートまたはオリゴサッカライドである。特に好ましくは、光重合可能の物質が、たとえばアクリルアミドのようなアクリルモノマー、たとえばポリエチレングリコールジアクリレートのようなアクリルエステル、たとえば4−ビニルベンゾールスルホン酸のようなビニル芳香族モノマー、官能化ポリビニルピロリドンおよび前記物質の1種またはそれ以上の任意の組合せから選択される。
【0011】
好ましい実施形態において、被重合モノマーが溶解した形態で存在する水性の重合可能の組成物が使用される。したがって目的に応じて前記実施形態のために水性溶剤中で充分に高い可溶性を有する親水性モノマーが使用される。
【0012】
液状組成物中の重合開始は光の照射によって生ぜしめられる。好ましくは前記組成物は、重合を誘発するために、1種またはそれ以上の光開始剤を含む。好適な光開始剤の例は、ベンゾフェノン、ベンジル、アントラキノン、チオスルホン、アゾ化合物のようなラジカル開始剤または、たとえばトリアリールスルホニウム塩、アリリウムヘキサフルオロアンチモン酸塩のようなイオン開始剤である。
【0013】
組成物の照射は支持部を通して行われ、それによって重合が支持部表面で開始され、−それぞれの重合条件の調整に応じて−重合可能の液体内部の光吸収に基づく支持部表面上の所定の除去で終了する。支持部で水平の状態からの落差または偏差は、ポリマー層の厚さに影響を及ぼしてはならない。機械的許容差は広範囲に排除される。
【0014】
ポリマー層の厚さは、好適な措置によって幅広い範囲で調整することができる。特にポリマーの層厚は照射強度、照射時間の変化によって、または/および重合開始剤、たとえば液状組成物に対するUV吸収性物質の添加によって制御することができる。さらに、制御は支持部の厚さまたは/および支持部の材料によっても可能である。ポリマー層の厚さは、好ましくは≦500μmおよび特に好ましくは≦100μmになる。センサとして、特にバイオセンサとしてのポリマー層の使用において、しばしば好ましくは≦50μm、特に≦5μmの薄い層厚も製造される。
【0015】
ポリマー層がセンサの構成要素として使用されるべきである場合、該ポリマー層は目的に応じてすでに挙げた構成要素のほかに、ポリマー層を取り囲む媒体中のパラメータに応答できる指示薬、たとえば光学的または/および電気化学的指示薬を含む。この指示薬は光重合可能の液状組成物に添加してよく、または−特に小さい分子の場合は−既製のポリマー層の中に拡散させてもよい。ポリマー層が複数の指示薬を含むべきである場合、上記措置の組合せも可能である。
【0016】
指示薬は、たとえば分子量≧10kDおよび特に≧20kDを有する巨大分子であってもよい。特に好ましくは、指示薬として触媒物質、たとえば必要な場合は酵素−補酵素錯体の形態で存在してよい酵素が使用される。特に好ましい酵素の例は、オキシドレダクターゼ、特にたとえばグルコース脱水素酵素(E.C.1.1.1.47)のような脱水素酵素または酸化酵素である。補酵素は、好ましくは酵素に共有結合または非共有結合で結合し、酵素の基質との反応によって変化たとえば酸化または還元される好ましくは有機分子である。補酵素の好ましい例は、たとえばFAD、FADH2、NAD+、NADH/H+、NADP+、NADPH/H+またはPQQのような、フラビン誘導体、ニコチン誘導体、キノン誘導体である。
【0017】
ポリマー層は、酵素および必要な場合は補酵素のほかに媒介物、すなわち補酵素の再生を生ぜしめることができる物質を含有してもよい。この場合、酵素は触媒指示薬として作用する。すなわち基質たとえば添加する試料中に存在する、たとえば血中のグルコースのような分析物の複数の分子を変換することができる。
【0018】
特に好ましい実施形態において、ポリマー層は被検出酵素基質に対する化学量論的反応パートナーとして酵素−補酵素錯体を含む。この場合、補酵素は一回だけ変換され、かつ再生されない。この実施形態では、低い安定性と高い妨害発生率の錯体試薬混合物の使用と組合せた媒介物の使用が不要になる。
【0019】
指示薬として巨大分子の物質を使用する場合、ポリマーの好適な架橋(たとえば2−または/および多官能化モノマーの使用によって)巨大分子の指示薬物質が不動化形態で挿入されており、他方、たとえば補酵素、酵素基質などの低分子の物質を層中に拡散できる架橋ポリマー層を製造することができる。
【0020】
ポリマー層の製造は連続的なプロセスとして実施してよく、ポリマー層の連続的な形成が支持部上に塗布した液状の光重合可能の組成物中に生じる。連続的な重合では、好ましくは光重合可能の液状組成物が連続的に移動する支持部上の第1位置で塗布され、連続的に第2位置で照射される。もちろん支持部は固定して保持し、液体塗布および照射の位置を移動させてもよい。同様にポリマーフィルムの製造のために非連続的な方法も考えられる。これらの実施形態の共通点は、支持部を通して光重合可能の液状組成物の照射によって直接支持部で開始し、液体の不完全な重合が生じ得ないことである。
【0021】
本発明のもう1つの観点は、(a)支持部の収容と必要な場合は輸送のための手段と、(b)支持部上の光重合可能の液状組成物の塗布のための手段と、(c)支持部上で所定の厚さを有するポリマー層の形成を生じるために、支持部を通して光重合可能の液状組成物の照射のための手段と、(d)必要な場合はポリマー層から重合しない液状組成物の除去のための手段とを含む、ポリマー層の製造装置である。
【0022】
この方法および装置はセンサの製造に使用することができ、ポリマー層の中に指示薬、たとえば酵素のような、たとえば生物分子が挿入される。指示薬はポリマー層中で不動化した形態で存在してよい。特に好ましくは、指示薬は、必要な場合は酵素−補酵素錯体の形態をもつ酵素である。センサは、たとえば光学的または/および電気化学的センサとしてよい。特に好ましくは、センサは蛍光に基づくセンサである。
【0023】
本発明のもう1つの目的は、(a)支持部の配設工程と、(b)支持部上に少なくとも1種の指示薬を含む、光重合可能の液状組成物の塗布工程と、(c)所定の厚さを有するポリマー層が支持部上に形成されるように、支持部を通して光重合可能の液状組成物の照射工程と、(d)ポリマー層から残留する液状組成物の除去工程と、(e)試料中の分析物と指示薬の反応の検出手段を含有するセンサ内に指示薬を含有するポリマー層を有する支持部の取り込み工程とを含む、センサの製造方法である。
【0024】
検出手段は、特に光学的または/および電気化学的検出手段である。特に好ましくは、この検出手段はポリマー層の照射用の光源と、ポリマー層から光を捕集する検出器とを含む光学的検出手段である。光源たとえばレーザーまたはLEDは、好ましくはポリマー層中へ支持部を通して光を入射させるために設けている。検出器は、好ましくはポリマー層から光線、たとえば蛍光放射の捕集のために設けている。
【0025】
センサは、任意の分析物、たとえばO2、CO2、NOXなどのような気体の、たとえば温度、分圧のような物理的化学的パラメータの同定または生物学的試料、たとえば体液中の、たとえば分析物のような生化学的パラメータの同定に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による方法によって製造したセンサの第1実施形態である。
【図2】本発明によるポリマー層の製造である。
【図3】下方からの蛍光に基づくセンサの実施形態である。
【図4】円盤の形態の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
さらに、本発明は以下の図および例によって説明する。
【0028】
光学的に透明な支持部1上に、ポリマー層2は、指示薬、たとえば酵素反応に対する検出試薬を塗布している。ポリマー層上に、試料3たとえば血液が付与される。試料3の中に含有される分析物とポリマー層2の中に含有される検出試薬とのあいだの酵素反応の同定は光学的方法によって行う。光源4たとえばレーザーまたはLEDからの光は、下方から(支持部を通して)試薬層2に照射される。試料から戻り照射された吸収−または蛍光光は検出器5で検出される。必要な場合−特に蛍光光の検出のために−蛍光励起光の誘導妨害を阻止するため検出器の前に光学的フィルム素子6が接続される。
【0029】
光学的に透明な支持部11、たとえばプラスチックフィルム上に、液状試薬12がたとえば第1位置13で塗布される。液状試薬12は第2位置で下方から支持部11を通して光源14からの光で照射される。同時に支持部が矢印で示した方向15に移動される。直接支持部11上に重合した試薬層16が形成される。ポリマー層16の上に過剰の液状試薬がある。重合した試薬層16の厚さは試薬組成物、光線照射の時間および強度ならびに支持部11の性質によって制御することができる。
【0030】
たとえば連続的方法によって図2で製造した、指示薬を含有するポリマー層は切断し、公知の技術を使用してセンサ21に取り込むことができる。表面への試料の塗布後、光源から下方から励起光23たとえばUV光が照射される。検出試薬と分析物の反応によってポリマー層22の中に生成される蛍光24たとえば青色光は検出器で検出される。
【0031】
複数の(同じまたは異なる)試薬を支持部上に塗布してもよい。円盤の形態のこのような実施形態の一例を図4に示している。光学的に透明な支持部31上に複数の指示薬を有するポリマー層からなる試薬スポット32が配置されている。
【実施例】
【0032】
実施例1:ポリマーフィルム中のグルコース脱水素酵素(GlucDH)NAD+系内のグルコースの検出
以下の物質の懸濁液をプラスチック試薬ガラスで混合した。
【0033】
【表1】

【0034】
前記懸濁液0.5mlをGlucDH(100mg/ml)の溶液0.5mlと反応させ、この混合物を超音波槽で気泡なしに均質化した。
【0035】
透明の溶液をコロナ処理したフィルム(?)上に注入し、20分間支持部を通して慣用の露光装置(イーゼルUV露光装置2)で露光した。このフィルムを短く水で洗浄し、それに続き空気で乾燥した。
【0036】
生じる層厚は<2μmであった。新鮮な添加したグルコース/NAD+溶液(GKL−3−溶液、グルコース300ml/dl、NAD+1ml/6.4mg)をフィルム上に滴下した。直ちにUVランプ下に強い蛍光を観察できた。
【0037】
実施例2:UV吸収体の添加による層厚の影響
良好に識別するために青色の染料(吸収極大≒650nm)を含有するポリマー層を製造した(調剤2)。別の実験で出発調剤に黄色の染料をUV吸収体として混加した(調剤3)。
【0038】
【表2】

【0039】
この混合物を攪拌および超音波槽処理によって均質化し、140μmポカロンフィルム(コロナ処理、工程4)にピペットで分配し、UV露光装置(アクティナU4、ヴェー.レンメン有限会社)で1分間露光した。
【0040】
生じる層厚をマイクロメーターゲージで測定し、240.5μmになった。
【0041】
【表3】

【0042】
この混合物を、上述のように、フィルム上に分配し、次に重合した。生じる層厚はマイクロメーターゲージで測定し、79.3μmになった。
【0043】
この実験は層厚制御を実現できることを示している。UV吸収体なしでは、層厚はそれ以外同じ反応条件下で240.5μmになる(上記参照);UV吸収体(モルダントイエロー7)を用いると、わずか79.3μmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明の支持部上のポリマー層の製造方法であって、(a)支持部の配設工程と、(b)支持部上に光重合可能の液状組成物の塗布工程と、(c)前記液状組成物が部分的に重合し、所定の厚さを有するポリマー層が支持部上に形成されるように、支持部を通して光重合可能な液状組成物を照射工程する、(d)ポリマー層から残留する液状組成物の除去工程とを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275233(P2009−275233A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190529(P2009−190529)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【分割の表示】特願2004−506514(P2004−506514)の分割
【原出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】