説明

ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物からなるフィルム層の分析方法

【課題】紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在してなる状態にある紫外線硬化樹脂に適用可能であり、光重合開始剤の特性に基づいて紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法等を提供する。
【解決手段】モノマー又はオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と、紫外線の照射により蛍光を放射する光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の状態を推定する方法であり、
前記紫外線硬化樹脂が、紫外線の照射により蛍光を放射する材料を含有する基材とともに存在してなる状態にある紫外線硬化樹脂であり、
前記紫外線硬化樹脂に、前記基材に含有される材料が放射する蛍光の強度が、前記光重合開始剤によって放射される蛍光の強度を上回らないような波長を有する紫外線を照射する照射ステップと、
前記照射ステップにおいて照射される紫外線を受けて、基材に含有される材料が放射する蛍光と前記光重合開始剤によって放射される蛍光との両者のうち後者が優先的又は選択的に測定されるような波長における蛍光強度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定される蛍光強度に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の状態を推定する推定ステップと
を含む、ことを特徴とする紫外線硬化樹脂の状態推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物からなるフィルム層の分析方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、TV用の画像表示装置として、これまで主流だったCRTに代わりLCDやPDP等のフラットパネルディスプレイが急速に普及している。従来、TV用途のフラットパネルディスプレイは画面サイズが大きいため、画素サイズはPCモニター等と比較して大きかった。しかしながら近年、TV用途のフラットパネルディスプレイの画素の高精細化に伴い、外光や視聴者の像等の映り込み防止や、画面の白茶け感・ギラツキ防止等の画像表示品位のさらなる向上が求められている。
例えば、特許文献1には、透明なフィルム基材の少なくとも一方の面に、微粒子を含有し、表面が凹凸状のハードコート層を備えた防眩性フィルム層が開示されている。前記防眩性フィルム層には平均粒径を6μm〜15μmのポリマー微粒子が含まれ、さらに前記防眩性フィルム層は前記ポリマー微粒子の平均粒径以上の膜厚を有している。近年の高精細化した画素を有する画像表示装置における画像表示品位の向上をさらに満足する防眩性フィルム層が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−41533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、充分な防眩性を有し、かつ画素が高精細化されたフラットパネルディスプレイに用いても、画面上のギラツキの発生が抑制された防眩性フィルム層を探索・開発するために不可欠である、防眩性フィルム層の分析方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、
1.ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物(以下、本防眩性樹脂組成物と記すこともある。)からなる防眩性フィルム層の分析方法であって、
1)前記防眩性フィルム層と、超臨界状態の低級アルコールとを接触させる接触工程
2)接触工程後、前記防眩性フィルム層を、前記低級アルコールに対する非溶解部と前記低級アルコールに対する溶解部とに分離する分離工程、及び、
3)分離工程後、(1)得られた前記非溶解部を検体として、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析する解析工程、及び/又は、(2)得られた前記溶解部を検体として、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析する解析工程、
を含むことを特徴とする分析方法(以下、本発明分析方法と記すこともある。);
2.防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層が、(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から単離して取得される、防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層であることを特徴とする前項1記載の分析方法;
3.前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層が、保護フィルム層、接着剤層及び粘着剤層からなる群から選ばれる層であることを特徴とする前項2記載の分析方法;
4.防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の取得方法であり、
1)(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から、前記他の層を溶媒により溶解し又は膨潤後に物理的に剥離することにより除去する除去工程、及び、
2)前記偏光板から剥離された前記防眩性フィルム層を回収する回収工程
を含むことを特徴とする取得方法(以下、本発明取得方法と記すこともある。);
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の分析方法等を提供可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明取得方法(具体的には、実施例1)により得られた防眩性フィルム層を超臨界状態のメタノールと接触させることにより得られた反応残渣(即ち、メタノールに対する非溶解部に相当する)が熱分解されてなる試料のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示す図である。
【0009】
【図2】図2は、本発明取得方法(具体的には、実施例1)により得られた防眩性フィルム層を超臨界状態のメタノールと接触させることにより得られた反応濾液(即ち、メタノールに対する溶解部に相当する)のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示す図である。
【0010】
【図3】図3は、本発明取得方法(具体的には、実施例2)により得られた防眩性フィルム層を超臨界状態のメタノールと接触させることにより得られた反応残渣(即ち、メタノールに対する非溶解部に相当する)が熱分解されてなる試料のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示す図である。
【0011】
【図4】図4は、本発明取得方法(具体的には、実施例2)により得られた防眩性フィルム層を超臨界状態のメタノールと接触させることにより得られた反応濾液(即ち、メタノールに対する溶解部に相当する)のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を示す図である。
【0012】
【図5】図5は、本発明に適用可能な偏光板の構成の一例を示す図である。
【0013】
【図6】図6は、本発明取得方法(具体的には、実施例1)により得られた防眩性フィルム層を光学顕微鏡の透過モードで撮像した写真図である。
【符号の説明】
【0014】
1.アクリル系バインダー樹脂
2.ポリマー微粒子
3.保護フィルム層
4.接着剤層
5.偏光フィルム層
6.粘着剤層
7.防眩性フィルム層
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明分析方法は、ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物(即ち、本防眩性樹脂組成物)からなる防眩性フィルム層の分析方法であって、
1)前記防眩性フィルム層と、超臨界状態の低級アルコールとを接触させる接触工程
2)接触工程後、前記防眩性フィルム層を、前記低級アルコールに対する非溶解部と前記低級アルコールに対する溶解部とに分離する分離工程、及び、
3)分離工程後、(1)得られた前記非溶解部を検体として、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析する解析工程、及び/又は、(2)得られた前記溶解部を検体として、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析する解析工程、
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明分析方法において分析の対象となる防眩性フィルム層は、ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物(即ち、本防眩性樹脂組成物)からなるフィルム層である。
【0017】
ここで「架橋されたアクリル系バインダー樹脂」としては、アクリレート系官能基を有するオリゴマー若しくはプレポリマー、又は、単官能モノマー若しくは多官能モノマー、を構成単位として含有する、架橋されたアクリル系バインダー樹脂等を挙げることができる。
【0018】
「オリゴマー若しくはプレポリマー」としては、例えば、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等を挙げることができる。「ポリエステルアクリレート」としては、例えば、ポリエステル系ポリオールのオリゴマーの(メタ)アクリレート、その混合物等から構成されるもの等を挙げることができる。また「ウレタン(メタ)アクリレート」としては、例えば、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とからなるオリゴマーを(メタ)アクリレート化したものから構成されるもの等を挙げることができる。
「単官能モノマー」としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。「多官能モノマー」としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0019】
次いで「ポリマー微粒子」としては、例えば、プラスチックビーズ等を挙げることができる。具体的には例えば、スチレンビーズ、メラミンビーズ、アクリル−スチレンビーズ等を挙げることができる。プラスチックビーズの粒子径としては、例えば、0.5μm以上15μm以下等を挙げることができる。
【0020】
本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層としては、例えば、(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から単離して取得される、本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層等を挙げることができる。
上記のような偏光板としては、具体的には例えば、防眩性フィルム層(ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む)、保護フィルム層、接着剤層、偏光フィルム層、接着剤層、保護フィルム層及び粘着剤層をこの順で積層してなる偏光板等を挙げることができる。
【0021】
「偏光フィルム層」としては、特に制限されず、各種のものを挙げることができる。具体的には例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて1軸延伸してなる偏光フィルム層、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩処理物等のポリエン系配向フィルム層等を挙げることができる。
【0022】
「前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層」としては、例えば、保護フィルム層、接着剤層及び粘着剤層からなる群から選ばれる層等を挙げることができる。
ここで「保護フィルム層」としては、例えば、可視光の光線透過率に優れ(好ましくは可視光の光線透過率が90%以上である)、透明性に優れる(好ましくはヘイズが1%以下である)ものであり、且つ、溶媒(例えば、ギ酸、クロロホルム、N−メチルピロリドン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等)により溶解することにより除去可能なもの等を挙げることができる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート等のエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルム層等を挙げることができる。
因みに、溶解除去のために使用される溶媒の量としては、例えば、保護フィルム層の全面が充分浸漬できるような量を好ましく挙げることができる。
「接着剤層」としては、例えば、保護フィルムと偏光フィルムとを接着することができ、且つ、溶媒(例えば、(好ましくは60℃〜80℃の)温水等)により溶解することにより除去可能なもの等を挙げることができる。具体的には例えば、ビニルアルコール系ポリマーからなる接着剤層等を挙げることができる。
因みに、溶解除去のために使用される溶媒の量としては、例えば、接着剤層の全面が充分浸漬できるような量を好ましく挙げることができる。
「粘着剤層」としては、例えば、液晶セルへ容易に積層することができ、且つ、溶媒(例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、メタノール等)により溶解し又は膨潤後に物理的に剥離することにより除去可能なもの等を挙げることができる。具体的には、例えば、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテルからなる粘着剤層等を挙げることができる。好ましくは、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と良好な凝集性と良好な接着性とからなる優れた粘着特性を示し、且つ、耐候性や耐熱性等にも優れるという点で、例えば、アクリル系重合体からなる粘着剤層等が挙げられる。
因みに、溶解除去や膨潤後剥離除去のために使用される溶媒の量としては、例えば、粘着剤層の全面又は一部に滴下された溶媒が表面張力に保持されるような量を挙げることができる。
【0023】
本発明分析方法における接触工程では、本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層と、超臨界状態の低級アルコールとを接触させればよい。
本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層と、超臨界状態の低級アルコールとを接触させ、前記防眩性フィルム層に含まれる架橋されたアクリル系バインダー樹脂と低級アルコールとを反応させるための条件としては、例えば、特開2001−141725号の段落0038〜0042に示された公知な条件等を挙げることができる。好ましくは、例えば、接触温度は250℃以上300℃以下、接触時間は30分間以上60分間以下等が挙げられる。
【0024】
本発明分析方法における分離工程では、接触工程後、本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層を、前記低級アルコールに対する非溶解部と前記低級アルコールに対する溶解部とに分離すればよい。
前記接触工程において、本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層に含まれる架橋されたアクリル系バインダー樹脂と低級アルコールとを反応させ(下記の式1(1)参照)、反応後に生じる反応混合物を濾過することにより、反応濾液として「前記低級アルコールに対する溶解部」を得る。そして、当該「前記低級アルコールに対する溶解部」には、(a)前記低級アルコールの水酸基と結合している残基(下記の式1(1)中では「CH」)が、前記アクリル系バインダー樹脂におけるエステル結合のアルコール結合側の残基(下記の式1中では「R」)に交換されてなるアルコール(下記の式1(1)中では「ROH」)、(b)前記アクリル系バインダー樹脂におけるエステル結合のアルコール結合側の残基(下記の式1(1)中では「R」)が、前記低級アルコールの水酸基と結合している残基(下記の式1(1)中では「CH」)に交換されてなるアクリル系バインダー樹脂のオリゴマー及び/又はモノマーが含まれることになる。
【0025】

(式中、R及びRは、互いに独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0026】
一方、前記接触工程において、本防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層に含まれるポリマー微粒子と低級アルコールとを反応させても、例えば、300℃付近の温度ではポリマー微粒子が有するポリマー主鎖の切断が起こり難いため、未反応のまま反応系内に残ることになる。当該未反応物は低級アルコールに溶解しないため、反応後に生じる反応混合物を濾過することにより、反応残査として「前記低級アルコールに対する非溶解部」を得る。そして、当該「前記低級アルコールに対する非溶解部」には、ポリマー微粒子が含まれることになる。
【0027】
本発明分析方法における解析工程では、分離工程後、(1)得られた前記非溶解部(即ち、「前記低級アルコールに対する非溶解部」)を検体として、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析する解析工程、及び/又は、(2)得られた前記溶解部(即ち、「前記低級アルコールに対する溶解部」)を検体として、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析すればよい。
【0028】
前記分離工程において、得られた(ポリマー微粒子が含まれる)「前記低級アルコールに対する非溶解部」を検体として、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析することが可能となる。ここで、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出するには、例えば、
(a)まず、前記検体を強熱することにより熱分解し、
(b)次いで、熱分解されてなる混合物を、例えば、低分子化合物を定性・定量分析するための通常の分析方法、具体的には例えば、GC−MS等の通常の機器分析方法等を利用して分析すればよい。
因みに、ポリマーの熱分解法としては、例えば、検体を入れた微小カップ(試料ホルダー)を、予め所定の温度に加熱された炉心へと自由落下させることにより、前記検体を急速熱分解する方法等が知られている(例えば、柘植新、大谷肇、渡辺忠一編・著「高分子の熱分解GC−MS基礎およびパイログラム集」(株)テクノシステム発行(2006年)等参照)。
【0029】
一方、前記分離工程において、得られた(上記(a)のアルコール並びに上記(b)のアクリル系バインダー樹脂のオリゴマー及び/又はモノマー、が含まれる)「前記低級アルコールに対する溶解部」を検体として、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析することが可能となる。ここで、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出するには、例えば、低分子化合物を定性・定量分析するための通常の分析方法、具体的には例えば、GC−MS等の通常の機器分析方法等を利用して分析すればよい。
【0030】
本発明取得方法は、防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の取得方法であり、
1)(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から、前記他の層を溶媒により溶解し又は膨潤後に物理的に剥離することにより除去する除去工程、及び、
2)前記偏光板から剥離された前記防眩性フィルム層を回収する回収工程
を含むことを特徴とする。
該取得方法は、基本的には、上述の本発明分析方法についての説明に記載したものと同様であればよい。
【0031】
本発明取得方法における除去工程では、(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から、前記他の層を溶媒により溶解し又は膨潤後に物理的に剥離すればよい。
該除去工程は、基本的には、上述の本発明分析方法についての説明に記載したものと同様であればよい。
【0032】
本発明取得方法における回収工程では、前記偏光板から剥離された前記防眩性フィルム層を回収すればよい。
該回収工程は、基本的には、上述の本発明分析方法についての説明に記載したものと同様であればよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。尚、各例中、部及び%は、特記がない限り、いずれも重量基準である。
【0034】
実施例1
試料は、以下の方法に従い調製された。
【0035】
<塗布液1の調製>
以下の2つの各成分が固形分濃度55%となるようにトルエンで希釈することにより、塗布液1(紫外線硬化性樹脂組成物)を得た。
(1)ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA;日本化薬社製)60部
(2)多官能ウレタン化アクリレート40部(尚、構造は化1参照)

(当該化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの反応生成物であり、特開2007−262281号の0053段落に記載された合成法に準じて調製された。)
【0036】
<塗布液2の調製>
塗布液1(紫外線硬化性樹脂組成物)に、その固形分100部当り、光重合開始剤Lucirin(登録商標)TPO(BASF社製、化学名;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド)を固形分量で5部添加し、これを混合した。得られた混合物に、前記塗布液1(紫外線硬化性樹脂組成物)の固形分100部当たり、スチレンとエチレングリコールジメタクリレートからなる共重合体樹脂ビーズ(平均粒子径:7.0μm)を35部添加することにより、塗布液2を調製した。
【0037】
<防眩性フィルム層を有するフィルムの作製>
トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(厚さ:80μm)の上に、上記で調製された塗布液2を、乾燥後の塗膜厚みが10μmとなるように、バーコーダーを用いて塗布した。塗布後のTACフィルムを乾燥(80℃、3分間)させた後、このようにして形成された塗膜側に、ニッケル製平板を貼り付けた。この状態で、前記塗膜側と反対側となるトリアセチルセルロースフィルム側から、フュージョン社製Vバルブランプ(最大発光波長:420nm)を光源として、積算光量550mJ/cmの紫外線を照射した(第一照射)。
次いで、ニッケル製平板から硬化した塗膜を剥がした後、その硬化した塗膜側から、フュ−ジョン社製Dバルブランプ(最大発光波長:380nm)を光源として、積算光量850mJ/cmの紫外線を2回連続して照射した(第二照射)。
このようにして、表面に、防眩性フィルム層を有するフィルムを作製した。
【0038】
<防眩性フィルム層の分離>
上記で作製された防眩性フィルム層をN−メチルピロリドンに、12時間浸漬することにより、保護フィルム層を溶解した。こうして前記フィルムから防眩性フィルム層を分離した。
【0039】
<防眩性フィルム層と超臨界状態の低級アルコールとの接触工程>
SUS316製オートクレーブ(径:1/4インチ[6.35mm]、長さ:10cm)の内に、上記で分離された防眩性フィルム層18.7mgと、メタノール0.4mLとを投入した後、当該オートクレーブを、スウェッジ式の栓を用いて密栓した。密栓されたオートクレーブを、サンドバス内で300℃まで昇温することにより、前記防眩性フィルム層と超臨界状態の低級アルコールとの反応を開始させた。尚、反応時の圧力は、約16MPaであり、反応時間は1時間であった。
【0040】
<低級アルコールに対する非溶解部と低級アルコールに対する溶解部との分離工程>
上記の反応終了後、前記オートクレーブを急冷し、室温に戻した。室温に戻されたオートクレーブの内から反応後の混合物を取り出した後、取り出された混合物を濾過することにより、濾過残査3.39mgと濾液とに分離した。このようにして、濾過残査として「低級アルコールに対する非溶解部」を得て、また濾液として「低級アルコールに対する溶解部」を得た。
【0041】
<解析工程(その1)>
上記で得られた濾過残査(即ち、「低級アルコールに対する非溶解部」)を検体として、以下の手順に従い分析を実施した。
まず、前記検体10μgをダブルショットパイロライザーPY−2010D(フロンティア・ラボ社製)を用いて、550℃で12秒間熱分解した。次いで、発生したガス状反応物をGC−MSを利用して分析した。このようにしてポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析した。
得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図1に示した。分離・検出された化合物の構造は、質量フラグメントから推定された。その結果、下記のB1、B2、B5、B8、B13、B14、B20及びB24が検出された。
以上より、ポリマー微粒子は、スチレン(Str.)とエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)との共重合体であることが確認された。
【0042】
因みに、スチレンとエチレングリコールジメタクリレートの熱分解物として、具体的には例えば、以下の共重合のオリゴマー体(単独重合体を含む)を例示することができる。
【0043】
スチレンのモノマー体(以下、Str.と記すこともある。)

【0044】
エチレングリコールジメタクリレートのモノマー体(以下、EGDMAと記すこともある。)

【0045】
スチレンのダイマー体(以下、Str.−2merと記すこともある。)

【0046】
スチレンのトライマー体(以下、Str.−3merと記すこともある。)

【0047】
スチレン(1ユニット)とエチレングリコールジメタクリレート(1ユニット)との共重合体(以下、Str.−EGDMAと記すこともある。)

【0048】
エチレングリコールジメタクリレートのダイマー体(以下、EGDMA−2merと記すこともある。)

【0049】
スチレン(2ユニット)とエチレングリコールジメタクリレート(1ユニット)との共重合体(以下、Str.−Str.−EGDMAと記すこともある。)

【0050】
<解析工程(その2)>
また、上記で得られた濾液(即ち、「低級アルコールに対する溶解部」)を検体として、GC−MS(尚、分析条件は下記参照)を利用して分析した。このようにして架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析した。
【0051】
(分析条件)
(a)装置:Agilent Technologies(株)社製GC−MS装置HP6890/5973MSD
(b)カラム:J&Wサイエンティフィック製DB−5型カラム(0.25μm、0.25mmφ×30m)
(c)検出器:質量分析型検出器
(d)キャリアーガス:He
(e)流量:1mL/分
(f)スプリット比:30/1
(g)カラム温度:50℃(5分ホールド)→300℃(10分ホールド)昇温速度5℃/分
(h)気化室温度:320℃
(i)注入口温度:250℃
(j)イオン源温度:230℃
(k)電子衝撃(EI):電圧70eV、電流60μA
(l)測定範囲:35−600(m/z)
【0052】
得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図2に示した。分離・検出された化合物の各構造は、質量フラグメントから推定された。その結果、メチルアクリレート(MA)のオリゴマー体(1〜6量体)、アルコール成分として下記のA2、ウレタンの架橋成分として下記のA3が検出された。
以上より、バインダー樹脂のモノマー構造は、ペンタエリスリトールトリアクリレート又は多官能ウレタン化アクリレート(ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの反応生成物)(尚、構造は化1参照)であることが確認された。
【0053】
因みに、ペンタエリスリトールトリアクリレートと超臨界状態の低級アルコールとが反応して得られる化合物としては、具体的には例えば、アクリル酸メチル(MA)の繰り返し構造単位(下記のA1)とエリスリトール(下記のA2)とが例示される。(尚、構造は化2参照)
【0054】

【0055】
また、アクリル酸メチルと超臨界状態の低級アルコールとが反応して得られる化合物としては、例えば、特開2001−141725公報の段落0044〜0048に開示された構造が例示される。
また、多官能ウレタン化アクリレート(ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの反応生成物)(尚、構造は化1参照)と超臨界状態の低級アルコールとが反応して得られる化合物としては、具体的には例えば、以下のA1〜A5のようなものが例示される。
【0056】

【0057】
実施例2
構造が不明である防眩性フィルム層16.5mgと、メタノール0.4mLとを投入した後、当該オートクレーブを、スウェッジ式の栓を用いて密栓した。密栓されたオートクレーブを、サンドバス内で300℃まで昇温することにより、前記防眩性フィルム層と超臨界状態の低級アルコールとの反応を開始させた。尚、反応時の圧力は、約16MPaであり、反応時間は1時間であった。
上記の反応終了後、前記オートクレーブを急冷し、室温に戻した。室温に戻されたオートクレーブの内から反応後の混合物を取り出した後、取り出された混合物を濾過することにより、濾過残査3.25mgと濾液とに分離した。このようにして、濾過残査として「低級アルコールに対する非溶解部」を得て、また濾液として「低級アルコールに対する溶解部」を得た。
【0058】
上記で得られた濾過残査(即ち、「低級アルコールに対する非溶解部」)を検体として、以下の手順に従い分析を実施した。
まず、前記検体10μgをダブルショットパイロライザーPY−2010D(フロンティア・ラボ社製)を用いて、550℃で12秒間熱分解した。次いで、発生したガス状反応物をGC−MSを利用して分析した。このようにしてポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析した。
得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図3に示した。分離・検出された化合物の構造は、質量フラグメントから推定された。その結果、上記のB1、B2、B5、B8、B13、B14、B20及びB24が検出された。
以上より、ポリマー微粒子は、スチレン(Str.)とエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)との共重合体であることが判明した。
【0059】
更にまた、上記で得られた濾液(即ち、「低級アルコールに対する溶解部」)を検体として、GC−MS(尚、分析条件は下記参照)を利用して分析した。このようにして架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析した。
【0060】
(分析条件)
(a)装置:Agilent Technologies(株)社製GC−MS装置HP6890/5973MSD
(b)カラム:J&Wサイエンティフィック製DB−5型カラム(0.25μm、0.25mmφ×30m)
(c)検出器:質量分析型検出器
(d)キャリアーガス:He
(e)流量: 1mL/分
(f)スプリット比:30/1
(g)カラム温度:50℃(5分ホールド)→300℃(10分ホールド) 昇温速度5℃/分
(h)気化室温度:320℃
(i)注入口温度:250℃
(j)イオン源温度:230℃
(k)電子衝撃(EI):電圧70eV、電流60μA
(l)測定範囲:35−600(m/z)
【0061】
得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図4に示した。分離・検出された化合物の各構造は、質量フラグメントから推定された。その結果、メチルアクリレート(MA)のオリゴマー体(1〜6量体)、アルコール成分として下記のA2、ウレタンの架橋成分として下記のC1及びC2が検出された。
以上より、バインダー樹脂のモノマー構造は、ペンタエリスリトールトリアクリレート及び多官能ウレタン化アクリレート(イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの反応生成物;C3)であることが判明した。
【0062】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により、ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の分析方法等を提供可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー微粒子と架橋されたアクリル系バインダー樹脂とを含む防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の分析方法であって、
1)前記防眩性フィルム層と、超臨界状態の低級アルコールとを接触させる接触工程
2)接触工程後、前記防眩性フィルム層を、前記低級アルコールに対する非溶解部と前記低級アルコールに対する溶解部とに分離する分離工程、及び、
3)分離工程後、(1)得られた前記非溶解部を検体として、前記ポリマー微粒子を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記ポリマー微粒子の構造を解析する解析工程、及び/又は、(2)得られた前記溶解部を検体として、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂を構成する樹脂の繰り返し構造単位を分離・検出することにより、前記架橋されたアクリル系バインダー樹脂の構造を解析する解析工程、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層が、(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から単離して取得される、防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層が、保護フィルム層、接着剤層及び粘着剤層からなる群から選ばれる層であることを特徴とする請求項2記載の分析方法。
【請求項4】
防眩性樹脂組成物からなる防眩性フィルム層の取得方法であり、
1)(1)前記防眩性フィルム層と、(2)偏光フィルム層と、(3)前記防眩性フィルム層と偏光フィルム層との両者以外の他の層を少なくとも一層以上と、を積層してなる偏光板から、前記他の層を溶媒により溶解し又は膨潤後に物理的に剥離することにより除去する除去工程、及び、
2)前記偏光板から剥離された前記防眩性フィルム層を回収する回収工程
を含むことを特徴とする取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230528(P2010−230528A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78936(P2009−78936)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】