説明

ポリマー微粒子の製造方法

【課題】単分散性に優れたポリマー微粒子を、ふるい分けや分級などの分別工程を経ずに製造することのできる方法を提供すること。
【解決手段】2種以上のポリマーを含有し、前記2種以上のポリマーにより構成された海島相分離構造を有する多成分系ポリマーから、海相を構成しているポリマーを除去するポリマー微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子は、液晶などに用いられている各種スペーサ、各種フィルムの滑り性改質剤、液体クロマトグラフィー用充填剤、イオン交換樹脂、プラスチック改質剤等の分野で広く使用されている。
【0003】
従来、ポリマー微粒子は、乳化重合、懸濁重合、シード重合、分散重合、ポリマー析出法により製造されており、このうち、単分散性を向上させるための手段として、例えば、懸濁重合などにより得られたスチレン系共重合体微粒子をふるい分けし、その後、膨潤工程を経て、比較的均一で、かつ、大きな粒子を得る方法(例えば、特許文献1参照)、単純にふるい分けにより微粒子を得る方法などがあった。
【0004】
近年、粒径分布の狭い単分散なポリマー微粒子への要求が高まっている。しかしながら、従来の方法では、ふるい分けなどにより得ているため、粒径分布の広いポリマー微粒子となってしまっていた。
【0005】
また、ふるい分けや分級などは繁多な工程であるため、これらの工程を経る必要がない簡便なポリマー微粒子の製造方法が望まれていた。
【特許文献1】特開昭62−109807公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、単分散性に優れたポリマー微粒子を、ふるい分けや分級などの分別工程を経ずに製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来の技術における課題を解決するために、鋭意検討した結果、海島構造に相分離させたポリマーアロイの海相を選択的にエッチングすることにより、単分散性に優れたポリマー微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、2種以上のポリマーを含有し、前記2種以上のポリマーにより構成された海島相分離構造を有する多成分系ポリマーから、海相を構成しているポリマーを除去するポリマー微粒子の製造方法に関する。
本発明の一実施態様においては、海島相分離構造が、スピノーダル分解により形成される。また、本発明の他の実施態様においては、海島相分離構造が、反応誘起相分解により形成される。
本発明において、ポリマー微粒子の平均粒子径は0.01〜30μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリマー微粒子の製造方法によれば、単分散性に優れたポリマー微粒子を、ふるい分けや分級などの繁多な分別工程を経ずに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明を実施するための最良の形態について下記に説明する。ただし、本発明は下記の発明を実施するための最良の形態に制限されるものではない。
本発明は、2種以上のポリマーを含有し、前記2種以上のポリマーにより構成された海島相分離構造を有する多成分系ポリマーから、海相を構成しているポリマーを除去するポリマー微粒子の製造方法に関する。
【0010】
本発明は、2成分以上のポリマーが相分離してなる海島構造を形成し、その海相を選択的に除去し、島相を回収することで、ふるい分けや分級などの分別工程を経ずに、単分散性に優れたポリマー微粒子を得ることができる方法である。
2成分以上のポリマーからなる海島相分離構造を有する多成分系ポリマーでは、球状島相の粒子径の分布が狭いという特徴を有している。本発明は、この特徴に着目したものであり、海島相分離構造を形成後に、海相を構成しているポリマーを選択的に除去することで、島相を構成しているポリマーが、ポリマー微粒子として得られるというものである。
【0011】
本発明において、多成分系ポリマーは、海島相分離構造を有しており、海相を構成しているポリマーと、島相を構成しているポリマーの少なくとも2種のポリマーを含むポリマー混合物である。海相を構成しているポリマー及び/又は島相を構成しているポリマーが、さらにそれぞれ2種以上のポリマーを含んでいてもよい。
【0012】
多成分系ポリマーに含まれるポリマーとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂、アクリルゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのエラストマーなどが挙げられる。
【0013】
多成分系ポリマーに含まれるポリマーの組み合わせ、すなわち、海島相分離構造を構成しているポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリカーボネート/ポリスチレン、ポリウレタン/アクリルゴム、などが挙げられる。これらの組み合わせの例示において、前者が島相を構成しているポリマーであり、後者が海相を構成しているポリマーであることが好ましい。
【0014】
海島相分離構造を形成する方法としては、2種以上のポリマーを混合し、溶媒に均一に溶解した後に、溶媒を加熱や減圧により除去する方法を一般的に用いることができる。また、ポリマーが溶媒に溶解しない、または溶解しにくい場合には、例えば、押出し機を用いて、ポリマーの溶融温度以上の温度で、2種以上のポリマーを混合しせん断をかけることなどにより、一度、均一に溶かしてから、その後に冷却する方法を用いることができる。均一に溶かした後、射出成形してもよい。
これらの方法では、通常、核形成又はスピノーダル分解により海島相分離構造が形成される。
【0015】
ポリマーの配合比率は、特に制限はないが、微粒子として得たいポリマーの配合比率を多くすると、得られるポリマー微粒子の量が多くなり生産性が高くなるといえる。
しかし、生産性を考慮して、微粒子として得たいポリマーの配合比率を多くしすぎると、微粒子として得たいポリマーが海相となってしまう傾向があり、その後の工程で海相を除去しても、所望とするポリマーの微粒子を得ることができない。
【0016】
すなわち、一般的に、配合比率の低いポリマーが島相となり、配合比率の高いポリマーが海相となる傾向がある。以上のことを鑑みて、海島相分離構造を有する多成分系ポリマーを形成するために用いられるポリマーの合計量100重量部に対して、微粒子として得たいポリマーの配合量は、10〜80重量部が好ましい。より好ましくは15〜60重量部、さらに好ましくは20〜40重量部である。配合量が10重量部未満であると生産性が悪く、配合量が80重量部を超えると、所望とするポリマーからなる微粒子を得ることが難しくなるという傾向がある。
【0017】
また、多成分系ポリマーに含まれるポリマーとして、高分子量化した(硬化した)熱硬化性樹脂が挙げられる。高分子量化した熱硬化性樹脂は、通常、上述の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーと組み合わせて用いられ、高分子量化した熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーとを含む多成分系ポリマーにより海島相分離構造が構成される。この態様においては、島相、つまり、得られるポリマー微粒子が、熱硬化性樹脂硬化物から構成されていることが好ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、高分子量化する前(硬化する前)の状態において、熱可塑性樹脂やエラストマーと相溶するものが好ましく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。島相になりやすい傾向があり、エッチングされにくいという観点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0019】
この場合、海島相分離構造を形成する方法として、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーに、さらに、硬化する前の状態の熱硬化性樹脂を加え、混合物を得て、その後、混合物中の熱硬化性樹脂を硬化させる方法をとることができる。この現象は、熱硬化性樹脂が高分子量化し、高分子量化した熱硬化性樹脂が、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーと相分解することにより起こるもので、反応誘起相分解といわれる。
【0020】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーとの組み合わせは、熱硬化性樹脂が硬化する前はこれらの混合物が均一であるが、熱硬化性樹脂が硬化することで相分離し、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーと、高分子量化した(硬化した)熱硬化性樹脂とを含む多成分系ポリマーからなる海島相分離構造を形成する組み合わせが好ましい。例えば、エポキシ樹脂/アクリルゴム、エポキシ樹脂/アクリルニトリルブタジエンゴム、ポリウレタン/アクリルゴム、などが挙げられる。これらの組み合わせの例示において、前者の硬化物が島相を構成するポリマーであり、後者が海相を構成するポリマーであることが好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂として具体的には、芳香族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂、又は、脂肪族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂のような、グリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂であることが好ましく、芳香族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂であることがより好ましい。芳香族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂としては、分子内に芳香環及びグリシジルエーテル基を有していれば特に制限はない。本発明において用いられるエポキシ樹脂は、分子内にグリシジルエーテル基を2個以上有していることが好ましい。
【0022】
芳香族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂及びナフタレンジオールのジグリシジルエーテル等、各種フェノール化合物類のグリシジルエーテルが挙げられる。
【0023】
脂肪族グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂の具体例としては、脂肪族ジオールのジグリシジルエーテル、脂肪族トリオールのトリグリシジルエーテル、両末端に水酸基を有するポリアルキレンエーテルのジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の水添化合物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の水添化合物及びシリコーン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
エポキシ樹脂は、その重量平均分子量が700以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましい。重量平均分子量が700を超えると、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーと硬化前でも相分離する傾向にある。また、エポキシ樹脂は、その重量平均分子量が110以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。重量平均分子量が110未満であると、エポキシ樹脂硬化物を成分とする島相がエッチングされやすくなる傾向がある。
なお、本発明において「重量平均分子量」とは、ゲルバーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0025】
また、熱硬化性樹脂を硬化させるために、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーと、硬化する前の状態の熱硬化性樹脂とを含む混合物には、硬化剤や硬化促進剤を、単独でまた組み合わせて加えることがある。硬化剤及び硬化促進剤は、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び熱硬化性樹脂と相溶するものを用いることが好ましい。
【0026】
例えば、エポキシ樹脂の硬化剤では、2官能又は多官能フェノールに代表されるフェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、及び芳香族ジアミンに代表される芳香族アミン系硬化剤等が挙げられる。2官能又は多官能フェノールとしては、例えば、ビスフェノールA及びビスフェノールFが挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。芳香族ジアミン系硬化剤としては、例えば、4、4’−ジアミノジフェニルメタンが挙げられる。
【0027】
これらの中で、相分離して形成されるエポキシ樹脂硬化物を成分とする島相がエッチングされにくいという観点から、フェノール系硬化剤又は芳香族アミン系硬化剤が好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールF又は4,4’−ジアミノジフェニルメタンがより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、相溶性の観点から、硬化剤の重量平均分子量が400以下であることが好ましい。さらに、エポキシ樹脂硬化物を成分とする島相がエッチングされにくいという観点から、硬化剤の重量平均分子量が100以上であることが好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂と硬化剤との比率は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対する、硬化剤の活性水素の当量比が、0.7〜1.3となるようにすることが好ましい。より好ましくは0.8〜1.2、さらに好ましくは0.9〜1.0である。この比率が前記範囲からはずれると、相分離によりエポキシ樹脂硬化物を成分とする島相が形成された場合、島相がエッチングされやすくなる傾向がある。
【0029】
また、硬化促進剤として、例えば、第三級アミン、第四級アンモニウム塩、イミダゾール類が挙げられる。特に、エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤との硬化反応における硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類が好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と必要に応じ硬化剤との合計100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。配合量が0.05重量部未満であると硬化性に劣る場合があり、10重量部を超えると未反応成分として硬化促進剤が残る場合があり、いずれの場合もエポキシ樹脂硬化物を成分とする島相がエッチングされやすくなる傾向がある。
【0031】
熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーの合計に対する、硬化前の熱硬化性樹脂、必要に応じ硬化剤、及び硬化促進剤を含む熱硬化性樹脂成分の合計の比率は特に制限はない。熱硬化性樹脂硬化物からなるポリマー微粒子を得たい場合には、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーの合計100重量部に対する、熱硬化性樹脂成分の合計の配合量は15〜300重量部が好ましい。より好ましくは20〜200重量部、さらに好ましくは25〜100重量部である。この配合量が15重量部未満であると、得られるポリマー微粒子が少なく生産性が低くなり、300重量部を超えると硬化後の熱硬化性樹脂が島相でなく海相となる可能性が高く、所望の樹脂を成分とするポリマー微粒子を得ることができなくなるおそれがある。
【0032】
海島相分離構造は、溶媒の蒸発、温度変化、高分子量化反応などに起因して、相図の一相領域から二相領域に移る過程で形成される。相図の臨界点付近で、上記過程が起こるときに、海島相分離構造は、スピノーダル分解により形成されることが多い。スピノーダル分解で形成される海島相分離構造は、特に周期性が高く、大きさの分布が狭い島相となる。つまり、本発明において、島相をスピノーダル分解により形成することにより、単分散性により優れるポリマー微粒子を製造することができる。
【0033】
また、反応誘起相分解を利用した海島相分離構造の形成では、島相の大きさの分布が極めて狭く、相分解速度や硬化速度の調整により島相の大きさを制御できるという特徴を有する。すなわち、相分解速度に比べて硬化速度が速いときには島相が小さくなり、反対に、相分解速度に比べて硬化速度が遅いときには島相が大きくなる傾向がある。本発明では、この現象を利用して島相の大きさの分布が狭く、目的に応じた大きさの島相を形成させて、その後に海相を選択的に除去することで、単分散性に優れたポリマー微粒子を得ることができる。
【0034】
本発明の製造方法により、任意の粒子径を有するポリマー微粒子を得ることが可能であるが、ポリマー微粒子の粒子径は好ましくは0.01〜30μmである。特に、海島構造の形成を反応誘起相分解により行い、相分解速度や硬化速度の調整を行うことにより、ポリマー微粒子の粒子径を0.01〜30μmの間で制御することができる。
【0035】
海島相分離構造を有する多成分系ポリマーの形態は特に限定されず、例えば、フィルム状の形態とすることができる。多成分系ポリマーからなるフィルムは、従来公知の方法により形成することが可能である。
【0036】
本発明では、海島相分離構造を有する多成分系ポリマーを形成した後に、海相を除去する工程が必要である。海相の除去は、例えば、海相を構成しているポリマーをエッチングすることにより行うことが可能である。本発明における海相のエッチングでは、通常、海相を選択的にエッチングできる方法を用いる。すなわち、島相を構成しているポリマーがエッチングされにくいことが好ましい。島相がエッチングされにくいという観点から、島相は三次元的にネットワークが形成された熱硬化性樹脂の硬化物などが好ましく、エポキシ樹脂硬化物がより好ましい。また、海相はエッチングされやすいという観点から、熱可塑性樹脂やエラストマーなどが好ましい。
【0037】
海相を選択的にエッチングさせる方法として、一般的に、海相を構成しているポリマーと島相を構成しているポリマーとの溶解度の差を利用した溶媒エッチング、酸エッチング、アルカリエッチングなどが使われる。
溶媒エッチングに用いる溶媒としては、塩化メチレン、メチルエチルケトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、キシレン、トルエン、ヘプタン、デカリンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
酸エッチングでは、硫酸、リン酸及び過マンガン酸カリウムからなる混合液、クロム酸カリウム及び硫酸からなる混合液などの酸水溶液を用いることができる。
アルカリエッチングでは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。
【0039】
また、これらの溶媒、溶液を、加熱又は冷却することでエッチング速度を調整することも可能である。溶媒、溶液を用いてエッチングする際には、海島相分離構造を有する多成分系ポリマーからなるフィルムを、溶媒又は溶液に浸漬する方法、ポリマー微粒子を通さないろ紙などの上に多成分ポリマーからなるフィルムをおいて、溶媒又は溶液を噴射する方法などがある。
【0040】
また、海相を選択的にエッチングさせる別の方法として、ポリマーをエッチングできる活性なイオンを真空条件で発生させるイオンエッチング装置を用いる方法が挙げられる。
【0041】
エッチング後に形成されるポリマー微粒子の回収は、ポリマー微粒子を通さないろ紙やフィルターを用いることが好ましいが、これに制限されるものではない。回収されたポリマー微粒子は、そのポリマー微粒子を溶解しない液体などで洗浄することが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法により、単分散性に優れた単分散ポリマー微粒子を得ることができる。得られるポリマー微粒子の分散性は、1.00〜1.20であることが好ましく、1.00〜1.10であることがより好ましい。なお、分散性は、数平均粒子径に対する体積平均粒子径の比をいう。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
ポリマー成分としてアクリルゴム(ナガセケムテックス社製、重量平均分子量(Mw)80万、分子量分布(Mw/Mn)2.2)230重量部、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YD−8125」、エポキシ当量175)60重量部、硬化剤としてビスフェノールA(和光純薬工業社製、試薬名「ビスフェノールA」、分子量228)40重量部及び溶媒としてメチルエチルケトン600重量部を配合した。
【0045】
これを撹拌モータで30分間混合し、ワニスを得た。このワニスを、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、90℃で5分間加熱乾燥後、170℃で1時間硬化させて、膜厚50μmのエポキシ樹脂の硬化物を島相にもつ海島相分離構造フィルムを得た。
【0046】
その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはがして、海島相分離構造フィルムをメチルエチルケトンに室温で5時間浸漬して、海相であるアクリルゴムをエッチングした。その後、島相を固形分として含むメチルエチルケトンを桐山ロート(ろ紙No.5C)を用いてろ過した。超音波分散機(VELBO社製、VS150)を用いて、ロート上に残った固形分をメチルエチルケトンに分散させた後、分散液を桐山ロート(ろ紙No.5C)でろ過した。この分散−ろ過工程を3回繰り返し、ロート上に残った固形分を、60℃、750mmHgの減圧下で20時間乾燥させた。卓上ミルを用いて乾燥した固形分を解砕し、ポリマー微粒子を得た。
【0047】
(実施例2)
上述の硬化剤の代わりに、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成工業社製、商品名「キュアゾール2PZ−CN」)を用いて、実施例1と同様にして配合した。
【0048】
具体的には、ポリマー成分としてアクリルゴム(ナガセケムテックス社製、重量平均分子量(Mw)80万、分子量分布(Mw/Mn)2.2)230重量部、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YD−8125」、エポキシ当量175)60重量部及び硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成工業社製、商品名「キュアゾール2PZ−CN」)1.8重量部を配合した。配合以外の操作については、ろ過に用いるろ紙をメンブレンフィルター(ADVANTEC社製、商品名「A045A」)に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリマー微粒子を作製した。
【0049】
(実施例3)
ポリマー成分としてポリカーボネート(三菱化学社製、Mn=32400、Mw/Mn=1.8)20重量部、ポリスチレン(和光純薬工業社製、Mw=115000、Mw/Mn=1.8)80重量部、及び溶媒としてテトラヒドロフラン100重量部を配合した。これを撹拌モータで30分間混合し、ワニスを得た。
【0050】
このワニスを、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、45℃で1時間、120℃で1時間加熱乾燥させて、膜厚50μmのポリカーボネート成分を島相にもつ海島相分離構造フィルムを得た。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはがして、海島相分離構造フィルムをトルエンに室温で8時間浸漬して、海相であるポリスチレンをエッチングした。
【0051】
その後、島相を固形分として含むトルエンを桐山ロート(ろ紙No.5C)を用いてろ過した。超音波分散機(VELBO社製、VS150)を用いて、ロート上に残った固形分をトルエンに分散させた後、分散液を桐山ロート(ろ紙No.5C)でろ過した。この分散−ろ過工程を3回繰り返し、ロート上に残った固形分を、60℃、750mmHgの減圧下で20時間乾燥させた。卓上ミルを用いて乾燥した固形分を解砕し、ポリマー微粒子を得た。
【0052】
(比較例1)
ジムロート冷却管、窒素導入管、撹拌装置及び温度計を備えたフラスコ内に、メタノール500重量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム3重量部、及びポリビニルピロリドン(Mw=40000)10重量部を配合し、窒素ガスを流し、70℃で30分間撹拌して溶解させた。単量体としてスチレン120重量部、重合開始剤として2,2’―アゾビスイソブチロニトリル1.2重量部を予め溶解した溶液を、前記フラスコ内に入れて撹拌した。
【0053】
その後、反応液を30℃以下に冷却し、150メッシュ金網に通過させ、粗大樹脂塊を除去し、金網を通過した分散液をさらに桐山ロート(ろ紙No.5C)を用いてろ過した。超音波分散機(VELBO社製、VS150)を用い、ロート上に残った固形分をメタノール及びイオン交換水の順で洗浄し、60℃、750mmHgの減圧下で20時間乾燥し、種粒子を得た。種粒子が凝集していたため、卓上ミル(三紳工業社製、WS−2型)で解砕した。
【0054】
前述の装置を備えたフラスコ内に、イオン交換水500重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1重量部を配合し溶解させた。超音波分散機を用いて、前述で得た種粒子を分散させ、窒素ガスを流し、15〜30℃に保ちながら撹拌した。
次に、単量体としてスチレン720重量部、ジビニルベンゼン0.01重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.7重量部を予め溶解した溶液を、前記フラスコ内に入れて24時間撹拌した。その後、前記フラスコに5%ポリビニルアルコール水溶液(重合度1500以上)100重量部を加えた。
【0055】
さらに、重合禁止剤としてp−ベンゾキノン1.4重量部、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム0.7重量部を添加して70℃で24時間保持し、85℃に昇温し4時間保持した。30℃以下に冷却後、反応液を150メッシュ金網に通過させ、金網を通過した分散液を桐山ロート(ろ紙No.5C)でろ過した。
【0056】
超音波分散機(VELBO社製、VS150)を用いて、ロート上に残った固形分をメタノール/イオン交換水(50重量%/50重量%)に分散させた後、分散液を桐山ロート(ろ紙No.5C)でろ過した。この分散−ろ過工程を5回繰り返し、ロート上に残った固形分を、60℃、750mmHgの減圧下で20時間乾燥させた。卓上ミルを用いて乾燥した固形分を解砕し、ポリマー微粒子を得た。
【0057】
[評価方法]
実施例1〜3及び比較例1で得られた微粒子について、体積平均粒子径、分散性を評価した。数平均粒子径及び体積平均粒子径の測定は、ベックマン・コールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置LS13 320マルチウェーブ、及び同社製サブミクロン粒子アナライザーN5を用いて行った。具体的には、まず、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置LS13 320マルチウェーブで測定を行い、得られた体積平均粒子径の値が1μm以上であった場合は、この装置により得られる数平均粒子径及び体積平均粒子径の値を評価に用いた。得られた体積平均粒子径の値が1μm未満であった場合は、さらにサブミクロン粒子アナライザーN5で測定を行い、これにより得られる数平均粒子径及び体積平均粒子径の値を評価に用いた。分散性は、これらの測定で得られる数平均粒子径と体積平均粒子径を用いて、数平均粒子径に対する体積平均粒子径の比で評価した。
実施例1〜3及び比較例1で得られた微粒子の評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1又は2の製造過程で得た海島相分離構造は、反応誘起相分解を利用したものであり、実施例1に比べて実施例2では、得られる微粒子の平均粒子径が小さかった。これは、実施例2は実施例1に比べて、硬化速度が速く、相分解速度が遅いことに起因すると考えられる。このように、反応誘起相分解により海島相分離構造を形成して、微粒子を作製する場合には、硬化速度と相分解速度の調整により、得られる微粒子の粒子径を制御することができた。
また、実施例3では、溶媒の蒸発によりスピノーダル分解が進行し、海島相分離構造が形成された。
【0060】
実施例1〜3の製造工程では、ふるい分けや分級などの分別工程を経ずに、単分散性に優れた単分散ポリマー微粒子を製造できた。また、樹脂を得る工程自体も簡便であり、生産性に優れていた。
これに対して、比較例1で得られる微粒子は、ラジカル重合により得たものであり、単分散性に劣っていた。また、繁多な製造工程を経る必要があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のポリマーを含有し、前記2種以上のポリマーにより構成された海島相分離構造を有する多成分系ポリマーから、海相を構成しているポリマーを除去するポリマー微粒子の製造方法。
【請求項2】
海島相分離構造が、スピノーダル分解により形成される請求項1記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項3】
海島相分離構造が、反応誘起相分解により形成される請求項1記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項4】
ポリマー微粒子の平均粒子径が0.01〜30μmである請求項1〜3いずれか記載のポリマー微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−120828(P2009−120828A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274109(P2008−274109)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】