説明

ポリマー成型体の表面改質方法及びポリマー成型体の表面改質装置

【課題】 この出願発明は、反応速度を速くすることにより、ポリマー成型体の表面改質に要する時間を短くできるポリマー成型体の表面改質方法及び表面改質装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 この出願発明は、ガス状及び/又は霧状の反応剤が存在する状態で、ポリマー成型体の両面に対して、フリーラジカル発生エネルギーを照射するポリマー成型体の表面改質方法及びその装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願発明はフリーラジカル発生エネルギーを利用したポリマー成型体の表面改質方法及びその表面改質装置に関し、特に紫外線によるスルホン酸基の導入方法に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、ポリオレフィン系繊維からなる不織布は耐アルカリ性に優れているため、ニッケル−水素電池やニッケル−カドミウム電池などのアルカリ電池のセパレータとして好適に使用することができる。しかし、ポリオレフィン系繊維は電解液との親和性が悪く、ポリオレフィン系繊維からなる不織布をセパレータとして使用したアルカリ電池は、起電反応をスムーズに生じることができないため、ポリオレフィン系繊維に電解液との親和性を付与するために、様々な表面改質が実施されている。この表面改質方法の1つとして、スルホン酸基を導入するスルホン化処理がある。このスルホン酸基を導入することにより電解液との親和性を付与するとともに、自己放電抑制作用にも優れているため好適な表面改質方法である。このスルホン化処理方法として、例えば、W097/11989には二酸化硫黄ガスと酸素ガスとの存在下において、紫外線を照射することによリスルホン化する方法が開示されている。この方法によれば、反応速度が速く、スルホン化処理に要する時間が短くなるという利点を有する。しかしながら、W097/11989に開示されているような方法、つまり反応容器の周囲に紫外線ランプを配置する方法であると、利用されない紫外線が多く、効率が悪いという問題があった。一方、工業的にスルホン化するためには、更に反応速度が速く、スルホン化処理に要する時間が短いスルホン化処理方法及びスルホン化処理装置が待望されていた。また、スルホン化処理以外にも、カルボキシル基などの酸素含有官能基を導入する場合などのように、別の表面改質方法においても同様に、更に反応速度が速く、表面改質に要する時間が短い方法及び表面改質装置が待望されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この出願発明はこれらの問題点を解決するものであり、反応速度を速くすることにより、ポリマー成型体の表面改質に要する時間を短くできるポリマー成型体の表面改質方法及び表面改質装置を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】この出願発明のポリマー成型体の表面改質方法は、ガス状及び/又は霧状の反応剤が存在する状態で、ポリマー成型体の両面に対して、フリーラジカル発生エネルギーを照射する方法である。このように、この出願発明のポリマー成型体の表面改質方法においては、ポリマー成型体の両面に対してフリーラジカル発生エネルギーを照射しており、ポリマー成型体への照射量を多くすることができるため、反応速度を速くすることができ、結果として表面改質に要する時間を短くすることができる。なお、ポリマー成型体の両面に対してフリーラジカル発生エネルギーを照射していることによって、均一に表面改質できるという特長も生じる。
【0005】この出願発明のポリマー成型体の表面改質装置は、2つ以上のフリーラジカル発生エネルギー源、及び前記フリーラジカル発生エネルギー源の間をポリマー成型体が通過するように搬送することのできる手段を備えている反応器、前記反応器ヘポリマー成型体を搬入することのできる手段、及び前記反応器からポリマー成型体を搬出することのできる手段を備えたものである。この表面改質装置によれば、ポリマー成型体の両面に対してフリーラジカル発生エネルギーを照射することができるため、表面改質に要する時間を短くすることができ、しかも均一に表面改質することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】この出願発明のポリマー成型体の表面改質方法及び表面改質装置について、この出願発明の表面改質装置の模式的断面図である図1をもとに説明する。図1のポリマー成型体の表面改質装置は、(1)ガス状及び/又は霧状の反応剤の雰囲気にすることができるように、周囲を囲った反応器1、(2)前記反応器1ヘポリマー成型体を搬入することができる一対の搬入ロール2、(3)前記反応器1からポリマー成型体を搬出することのできる一対の搬出ロール3、を備えており、前記反応器1には、(i)ガス状及び/又は霧状の反応剤を供給できる供給パイプ11、(ii)5個の低圧水銀ランプ(フリーラジカル発生エネルギー源12)を−列に並べたものを、互いに平行に5列に配置したエネルギー発生源、及び(iii)前記フリーラジカル発生エネルギー源12の間をポリマー成型体が通過するように搬送することのできる搬送ロール13を備えている。
【0007】この出願発明で使用できる反応剤としては、例えば、疎水性を付与又は向上させるもの、或いは親水性を付与又は向上させるものなどを使用することができる。後者のように親水性を付与又は向上させるためには、親水性基を導入できる反応剤を使用する必要があり、親水性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基などを挙げることができる。これらの中でもスルホン酸基を導入するのが好ましい。特に、アルカリ電池用セパレータとして使用するポリマー成型体に対してスルホン酸基を導入すると、自己放電抑制作用にも優れているため好適である。
【0008】より具体的には、反応剤として二酸化硫黄、酸素、二酸化炭素、二酸化窒素の中から選ばれる少なくとも1つを含んでいることによって、前記のようなスルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基などを導入することができる。なお、好適であるスルホン酸基を導入する場合には、二酸化硫黄単独、或いは二酸化硫黄及び酸素を使用するのが好ましい。後者のように二酸化硫黄と酸素との混合ガスを使用する場合、その体積比率は(二酸化硫黄):(酸素)=4:1〜1:2であるのが好ましい。この反応剤はガス状及び/又は霧状である。基本的にはガス状の反応剤を使用するが、湿気や温度などの影響によって霧状となることがある。しかしながら、この出願発明においては霧状の反応剤が混在していても、或いは霧状の反応剤のみから構成されていても何ら問題はない。
【0009】図1における反応器1は前述のような反応剤の雰囲気にすることができるように周囲が囲まれている。この反応器1の大きさは、後述のようなフリーラジカル発生エネルギー源12、及びポリマー成型体を搬送できる搬送ロール13を収納できる大きさであれば良く、特に限定されるものではない。
【0010】図1の反応器1は前述のような反応剤を供給できる供給パイプ11を備えている。この供給パイプ11はどのように配置されていても良いが、反応剤がポリマー成型体の表裏両面と接触するように及び/又はポリマー成型体の表裏両面近傍に存在するように供給できるように配置されているのが好ましい。なお、図1の態様においては反応剤を供給できる供給パイプ11を備えているが、ポリマー成型体が反応器1に到達する前の段階で反応剤を担持することができるのであれば、供給パイプ11は特に必要はない。
【0011】他方、反応後の反応剤の排気はどのように実施しても良い。図1においては、四隅から排気できるように排気パイプ14を備えている。
【0012】また、反応器中には2つ以上のフリーラジカル発生エネルギー源12が配置されている。この「フリーラジカル発生エネルギー」とは、少なくとも2つの原子が結合した分子を個々の原子へ分裂させることのできるエネルギーをいう。このフリーラジカル発生エネルギーとしては、例えば、紫外線、ガンマ線、電子線などを使用することができる。
【0013】図1においては、5個の低圧水銀ランプを−列に並べたものを、互いに平行に5列に配置したエネルギー発生源を配置しているが、フリーラジカル発生源は2つ以上配置されていれば良い。また、一列に整然と配置している必要はなく、ランダムに配置されていても良い。
【0014】なお、図1に示すように、フリーラジカル発生源12は石英板などにより覆うことにより、反応剤のフリーラジカル発生源への付着を防止するのが好ましい。なお、石英板を使用する場合には、合成石英板を使用することもできるし、溶融石英板を使用することもできるが、合成石英板を使用するのがより好ましい。
【0015】更に、この出願発明の反応器内には前述のようなフリーラジカル発生エネルギー源12の間をポリマー成型体が通過するように搬送できる搬送ロール13を備えている。このような搬送ロール13を備えていることにより、ポリマー成型体の両面に対して、フリーラジカル発生エネルギーを照射することができる。
【0016】図1においては、一列に並べた5個の低圧水銀ランプ群の端部ごとに折り返すように搬送ロール13を配置しているが、個々の低圧水錦ランプごとに折り返すように搬送ロール13を配置しても良い。特に、効率的にフリーラジカル発生エネルギーを照射できるように、図1のようなポリマー成型体の長手方向断面において、フリーラジカル発生エネルギー源12の周囲の180°を越える範囲内にポリマー成型体が存在するように、搬送ロール13を配置するのが好ましい。
【0017】この搬送ロール13により形成されるポリマー成型体とフリーラジカル発生エネルギー源12との距離は、短い程照射強度が強くなるため短い程好ましい。実際には、0〜20cm程度であるのが好ましく、0.5〜5cm程度であるのがより好ましい。
【0018】この出願発明の表面改質装置は、更に前述のような反応器1へポリマー成型体を搬入することができる一対の搬入ロール2、及び前述のような反応器1からポリマー成型体を搬出することのできる一対の搬出ロール3、を備えている。このような搬入ロール2及び搬出ロール3を備えていることによって、連続的な表面改質が可能である。
【0019】この出願発明において表面改質できるポリマー成型体としては、前述のような反応器1へ搬入・搬出でき、しかも反応器内において搬送できる程度の強度を有するものであれば何でも良い。より具体的には、繊維、糸、ロープ、多孔性シート(例えば、皮革、織物、編物、不織布、発泡体、これらの複合体など)、或いは非多孔性シート(例えば、フィルム)などを表面改質することができる。
【0020】また、ポリマーの組成も特に限定するものではなく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン系樹脂などを挙げることができる。
【0021】なお、ポリマー成型体を電池用セパレータとして使用する場合には、不織布を含んでいるのが好ましく、そのポリマー組成はポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂からなるのが好ましい。更に、表面改質を実施する場合、表面改質の進行が阻害されないように、ポリマー成型体は十分に乾燥したものを使用するのが好ましい。
【0022】以上のような図1の表面改質装置により表面処理を実施した場合、次のようになる。まず、−対の搬入ロール2などの搬入手段により、ポリマー成型体は反応器1へ搬入される。なお、この搬入より前又は搬入と同時に、反応器内にガス状及び/又は霧状の反応剤が供給される。また、反応器内にガス状及び/又は霧状の反応剤を供給する前に、反応器内の空気を排気パイプ14から排気しても良い。更に、ポリマー成型体が多孔質、例えば、不織布のように、空気を含んでいるときは、ポリマー成型体内の空気を予め除去してもよい。なお、ポリマー成型体が反応剤を担持することができるのであれば、ポリマー成型体を反応器内に搬入する前に反応剤を担持させても良い。この反応器1へ搬入されたポリマー成型体は反応剤と接触しながら(ポリマー成型体が多孔性である場合には内部にも侵入している場合もある)、搬送ロール13などによって、フリーラジカル発生エネルギー源12の間を通過するように搬送される。この搬送されている間に、このポリマー成型体の両面に対して、フリーラジカル発生エネルギー源12からフリーラジカル発生エネルギーが照射され、前記反応剤のフリーラジカルが発生し、ポリマー成型体を構成するポリマーへ官能基が導入されて、親水性又は疎水性が付与又は向上する。なお、フリーラジカル発生エネルギーの照射時間は0.1分〜5分程度で十分である。このように表面改質されたポリマー成型体は一対の搬出ロール3などの搬出手段によって反応器1から搬出される。なお、このような表面改質は大気圧下で実施することができるため、製造上好適である。このように、この出願発明の表面改質方法においては、ポリマー成型体の両面に対してフリーラジカル発生エネルギーを照射しており、ポリマー成型体への照射量を多くすることができるため、反応速度を速くすることができ、結果として表面改質に要する時間を短くすることができる。また、ポリマー成型体の両面に対してフリーラジカル発生エネルギーを照射していることによって、均一に表面改質できる。更に、フリーラジカル発生エネルギー源12から発生するフリーラジカル発生エネルギーの無駄が少なく、効率的に利用することができる。
【0023】
【発明の効果】この出願発明のポリマー成型体の表面改質方法によれば、反応速度を速くすることができ、結果として表面改質に要する時間を短くすることができる。また、均一に表面改質できるという特長も生じる。この出願発明のポリマー成型体の表面改質装置によれば、表面改質に要する時間を短くすることができ、しかも均一に表面改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この出願発明のポリマー成型体の表面改質装置の模式的断面図
【符号の説明】
1 反応器
11 供給パイプ
12 フリーラジカル発生エネルギー源
13 搬送ロール
14 排気パイプ
2 搬入ロール
3 搬出ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス状及び/又は霧状の反応剤が存在する状態で、ポリマー成型体の両面に対して、フリーラジカル発生エネルギーを照射することを特徴とする、ポリマー成型体の表面改質方法。
【請求項2】 反応剤が親水性基を導入できるものであることを特徴とする、請求項1記載のポリマー成型体の表面改質方法。
【請求項3】 親水性基がスルホン酸基であることを特徴とする、請求項2記載のポリマー成型体の表面改質方法。
【請求項4】 反応剤として二酸化硫黄を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー成型体の表面改質方法。
【請求項5】 反応剤として酸素、二酸化炭素、二酸化窒素の中から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー成型体の表面改質方法。
【請求項6】 2つ以上のフリーラジカル発生エネルギー源、及びフリーラジカル発生エネルギー源の間をポリマー成型体が通過するように搬送することのできる手段を備えている反応器、反応器へポリマー成型体を搬入することのできる手段、及び反応器からポリマー成型体を搬出することのできる手段を備えていることを特徴とする、ポリマー成型体の表面改質装置。

【図1】
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【公開番号】特開2001−131312(P2001−131312A)
【公開日】平成13年5月15日(2001.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−317712
【出願日】平成11年11月9日(1999.11.9)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】