説明

ポリマー成形体の製造方法

【課題】ポリグリコール酸を含むポリマー構造体に凹部を形成することが可能なポリマー成形体の製造方法及びそれにより得られるポリマー成形体を提供すること。
【解決手段】
ポリグリコール酸を含むポリマー構造体を、真空度50mTorr以下、出力1〜6Wかつ電流3mA以下でドライエッチングして、上記ポリマー構造体に凹部を形成する工程を備える、ポリマー成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマー材料は、その種類ごとに有している弾性率、強度等の機械的性質、溶剤溶解性、親水性、疎水性等の化学的性質、耐熱性等の熱的性質に応じて、フィルム状、繊維状、板状、粒状等の各種形状に成形加工され、様々な分野で使用されている。また、有機ポリマー材料からなる構造体に細孔を施すことも検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3では、各種パターンを有するフォトレジストをマスクとして用い、ポリイミド膜等の有機高分子構造体をエッチングすることが開示されている。また、特許文献4及び5では、プラスチックフィルムのエンボスされた部分に細孔を形成する方法が開示されている。さらに、特許文献6では、開口を有する金属箔を表面に備えるプラスチックシートに、エキシマレーザー光の照射により貫通孔を形成する方法が開示されている。特許文献7では、流体音波により薄いシート材料に微小孔を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−296057号公報
【特許文献2】特開2001−305750号公報
【特許文献3】特開昭60−111243号公報
【特許文献4】特開昭62−267336号公報
【特許文献5】特開平5−86216号公報
【特許文献6】特開平5−15987号公報
【特許文献7】特開平6−198598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法では、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体をエッチングし、凹部を形成することが困難であった。また、特許文献1〜3に記載の方法は、ウェットエッチングを用いているため、廃溶剤の処理の問題がある。さらに、特許文献4〜7に記載の方法では多孔化するための工程が繁雑となってしまう傾向がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体に凹部を形成することが可能なポリマー成形体の製造方法及びそれにより得られるポリマー成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体を、真空度50mTorr以下、出力1〜6Wかつ電流3mA以下でドライエッチングして、上記ポリマー構造体に凹部を形成する工程を備える、ポリマー成形体の製造方法を提供する。
【0007】
本発明者らは、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体のエッチング方法について鋭意検討した結果、上記エッチング条件を選択することにより、ポリグリコール酸以外のポリマー成分はエッチングされずに、ポリグリコール酸のみを良好にエッチングすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。上記製造方法では、従来のような複雑な工程を経ることなく、かつ、ウエットプロセスのように廃液の発生もなく、簡便なプロセスでポリグリコール酸を含むポリマー構造体に凹部を形成することができる。また、ポリマー構造体がポリグリコール酸のみから構成される場合、所定のパターンを備えるマスクを介してエッチングすることにより、マスクの開口部に対応する位置に凹部が形成されたポリマー成形体を得ることができる。さらに、ポリマー構造体がポリグリコール酸と、ポリグリコール酸以外のポリマー成分とを含む場合、ポリマー構造体の表面付近に存在するポリグリコール酸部分のみが選択的にエッチングされて凹部が形成されたポリマー成形体を作製することができる。
【0008】
上記製造方法において、ドライエッチングはアルゴンイオンエッチングであることが好ましい。アルゴンイオンエッチングは垂直方向のエッチング性に優れるため、エッチング形状の整った(サイドエッチングが生じ難い)凹部を有するポリマー成形体をより温和な条件で形成することができる。
【0009】
本発明は、また、上記ポリマー成形体の製造方法により得ることのできるポリマー成形体を提供する。ポリマー構造体がポリグリコール酸のみからなる場合、ポリグリコール酸は生分解性ポリマーであることから、上記凹部が形成されたポリマー成形体は、生細胞の培養基材として使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体に凹部を形成することが可能なポリマー成形体の製造方法及びそれにより得られるポリマー成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本発明のポリマー成形体の製造方法は、ポリグリコール酸を含むポリマー構造体を、真空度50mTorr以下、出力1〜6Wかつ電流3mA以下でドライエッチングして、上記ポリマー構造体に凹部を形成する工程を備えるものである。
【0013】
上記ポリマー構造体は、使用目的に応じてポリグリコール酸を含むポリマーをフィルム状、シート状、板状等に成形したものである。
【0014】
ポリグリコール酸(以下、「PGA」と表記する)は、−(O−CH2−CO)−で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体又は上記グリコール酸繰り返し単位を有するグリコール酸共重合体を含むものである。ポリグリコール酸がグリコール酸共重合体である場合、上記繰り返し単位を、50質量%以上含むことが好ましく、75質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが更に好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0015】
グリコール酸共重合体は、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン)、カーボネート類(例えば、トリメチリンカーボネート)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノン)、アミド類(例えば、ε−カプロラクタム)等の環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類又はそのアルキルエステル類をコモノマーとして用い、グリコール酸モノマーと共重合したものである。上記コモノマーは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。ポリマー構造体が、ポリグリコール酸共重合体を含む場合、ポリグリコール酸繰り返し単位部分が選択的にドライエッチングされたポリマー成形体を作製することができる。
【0016】
また、ポリマー構造体は、PGA以外のポリマー、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートを含むポリマーブレンドであってもよい。ポリマー構造体が、PGA以外のポリマーを含む場合、ポリマー構造体表面(エッチング面)に存在するPGA部分が選択的にドライエッチングされて凹部が形成されたポリマー成形体を作製することができる。
【0017】
ポリマー構造体は、ドライエッチングの容易性の観点から、フィルム状であることがより好ましい。この場合の膜厚は0.1〜500μmであることが好ましく、1〜200μmであることがより好ましく、2〜50μmであることがさらに好ましい。ポリマーフィルムの膜厚が0.1μm未満では、取り扱い難くなる傾向があり、500μmを超えると、エッチング時間が長くなり、凹部の形成がし難くなる傾向がある。
【0018】
ポリグリコール酸のみからなるポリマー構造体に凹部を形成するための具体的な方法について、以下に説明する。
【0019】
ここで、本明細書における「凹部」とは、ポリマー構造体の表面をエッチングすることによりポリマー構造体の膜厚方向に形成されるくぼみやへこみ(「インデント」ともいう)又は貫通孔を意味する。本発明の製造方法により得られるポリマー成形体には、これらのいずれかが形成されている。
【0020】
図1は、本発明の製造方法により得られるポリマー成形体の実施形態を示す斜視図である。図1に示すポリマー成形体1はフィルム状を成しており、その厚さ方向に凹部3が複数形成されている。凹部3はそれぞれ独立し規則的に配列されている。
【0021】
図1に示すポリマー成形体1は、図2に示す工程により作製することができる。図2は、本発明に係るポリマー成形体1の製造方法の実施形態を斜視図により示す工程図である。まず、ポリマー構造体2、所定の開口部を有する第1のマスク4及び第2のマスク6を準備する。(図2(a))。次に、ポリマー構造体2上に、第1のマスク4と、第2のマスク6とをこの順に積層する。(図2(b))。次いで、ドライエッチング装置8から第2のマスク6上に反応性のガス等を照射してポリマー構造体2をドライエッチングし、ポリマー構造体2に凹部を形成する(図2(c))。そして、第1及び第2のマスクを除去し、ポリマー成形体1が製造される(図2(d))。
【0022】
第1のマスク4及び第2のマスク6には、複数の開口が形成されている。そして、本発明においては、第1のマスク4の平均開口径より、第2のマスク6の平均開口径が大きいことが好ましい。平均開口径は、表面に形成された開口部の面積を計算し、その開口部面積を持つ真円の直径として計算する。第2のマスク6の平均開口径は、第1のマスク4の平均開口径の5〜100倍であることが好ましく、7〜60倍であることがより好ましく、8〜20倍であることがさらに好ましい。第2のマスク6の平均開口径が第1のマスク4の平均開口径の5倍未満又は100倍を超えると、本発明の効果を奏し難くなる。
【0023】
平均開口径を具体的な数値で表すと、第1のマスクの平均開口径は、0.1〜1000μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましい。第1のマスクの平均開口径が0.1μm未満では、凹部の形成がし難くなり、100μmを超えると、形成した凹部が大きくなりすぎる。
【0024】
第2のマスクの平均開口径は、200〜5000μmであることが好ましく、400〜2500μmであることがより好ましい。第2のマスクの平均開口径が200μm未満では、第1のマスクとの開口径に対応した凹部が得られ難い傾向があり、5000μmを超えると、第1のマスクとポリマー構造体との密着性が低下する傾向がある。
【0025】
また、第1及び第2のマスクとして、平織り状の網目を有する網を用いる場合は、平均開口径の代わりに「メッシュ数」で表すこともできる。メッシュとは、1インチ(2.54×10μm)間に存在する網目を形成する糸の本数をいい、メッシュ数が大きいほど網目が細かいことを意味する。図3に、平織りメッシュ10の模式図を示す。図3中、糸と糸の間の距離を目開き12といい、下記式1に示すように、目開き12はメッシュ数と糸の線径14から算出することができる。この目開き12は平均開口径にほぼ対応しており、目開きに基づき好適なメッシュ数を選択することができる。
目開き(μm)=2.54×10/メッシュ数−線径(μm) (1)
【0026】
第1及び第2マスクの材質としては、ポリマー構造体2とのエッチング時の選択比が大きいものが好ましく、例えば、シリカ系、含フッ素ポリマー系、金属系、ポリエステル系、ポリアミド系のマスクを用いることができる。本発明においては、エッチング選択性の観点から、第1及び第2のマスクが同じ材質であることが好ましく、第1及び第2のマスクはSUS等の金属系マスクであることがより好ましい。
【0027】
第1及び第2のマスクの厚さとしては、特に限定されないが、第2のマスクは補強材として使用されるため、第1のマスクの厚さよりも第2のマスクの厚さが厚いほうが好ましい。
【0028】
上述したように、本発明では、平均開口径の異なる2種類のマスクを用いることが好ましい。第1のマスク上に第2のマスクを積層ことにより、第1のマスクをポリマー構造体により密着させることができる。これにより、ドライエッチング時における第1のマスクとポリマー構造体とを平坦に保つことができ、垂直方向へのエッチングがより有効となる。そして、第1のマスクの開口径に応じ、ポリマー構造体に目的とするサイズの凹部を確実に形成することができる。
【0029】
(エッチング条件)
本発明におけるドライエッチングとは、反応性のガス、イオン又はラジカル等によって、材料をエッチングする方法である。ドライエッチングとしては、プラズマエッチング、イオンエッチング、集束イオンビームエッチング等の公知の方法が利用できる。
【0030】
イオンエッチングは、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)及びその組合せを含む不活性ガス等で、固体表面をエッチングする方法である。本発明においては、垂直なエッチングが可能であり、エッチング形状の整った凹部を形成できることから、反応性イオンエッチング(RIE)を用いることがより好ましく、アルゴンガスを用いたアルゴンイオンエッチングであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明において、ドライエッチングは、真空度50mTorr(6.7Pa)以下で行う。真空度は、30〜50mTorrであることが好ましく、35〜45mTorrであることがより好ましい。真空度が50mTorrを超えると、放電が発生しエッチングが困難となる。一方、真空度が30mTorr未満では、電流値が小さくなり、Arイオン濃度が低下するため、エッチングし難くなる傾向がある。
【0032】
ドライエッチング時の電流値は、3mA以下であり、0.5〜3mAであることが好ましく、1〜3mAであることがより好ましい。エッチング時の電流が3mAを超えると、放電が発生しエッチングが困難となる。
【0033】
ドライエッチング時の出力は、1〜6Wであり、2〜5Wであることが好ましく、3〜4Wであることがより好ましい。エッチング時の出力が6Wを超えると、放電が発生しエッチングが困難となり、1W未満では、凹部の形成に長時間を要する。
【0034】
エッチング時間としては、0.5〜60分であることが好ましく、1〜10分であることがより好ましく、2〜5分であることが更に好ましい。エッチング時間が0.5分未満では、凹部を形成し難くなり、60分を越えると、工業的な生産に適合し難くなる。なお、エッチング時間を適宜調整することにより、凹部を貫通孔とすることができる。
【0035】
本発明においては、上述の条件、すなわち、真空度50mTorr以下、出力1〜6Wかつ電流3mA以下の範囲内でドライエッチング条件を適宜設定することにより、PGAのみを選択的にかつ良好にエッチングすることができる。
【0036】
ポリマー構造体がPGAのみからなる場合、エッチング時に所定の開口パターンを備えるマスクを用いることにより、開口パターンに対応した形状であって、エッチング形状の整った凹部を有するPGA成形体が得られる。また、PGAは生分解性ポリマーであることから、得られるPGA成形体は、生細胞の培養基材として使用することができる。
【0037】
一方、PGA以外のポリマー、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートからなるポリマー構造体では、上記エッチング条件では全くエッチングされないか、表面がわずかに削れる程度のエッチングしかされず、凹部を形成することができない。
【0038】
よって、ポリマー構造体がPGAとPGA以外のポリマーのブレンドである場合は、上述したような第1及び第2のマスクを使用せずに、直接ポリマー構造体をドライエッチングすることができる。すなわち、ポリマー構造体がPGAとPGA以外のポリマーのブレンドである場合、ドライエッチング装置からポリマー構造体上に反応性のガス等を直接照射してポリマー構造体をドライエッチングし、ポリマー構造体に凹部を形成する(図示せず)。この場合、ポリマー構造体の表面付近に存在するPGA部分のみが選択的にエッチングされ、凹部を形成する。このようなポリマー構造体においては、PGA以外のポリマーがマスクの役割を果たすため、その下部(ポリマー構造体の内部)に存在するPGAはエッチングされない。
【0039】
なお、凹部の形成状態は、作製したポリマー成形体の表面及び断面を走査型電子顕微鏡で観察すること、表面粗さ計で測定すること等で確認することができる。
【0040】
以上のように、本発明においては、上記製造方法により、凹部が形成されたポリマー成形体を作製することができる。
【0041】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の好適な実施例について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
膜厚13.5μmのポリグリコール酸(以下、「PGA」と表記する)フィルム上に、第1のマスクである300メッシュのSUSメッシュ(太陽金網社製、商品名「アヤ織金網」)、第2のマスクである40メッシュのSUSメッシュ(太陽金網社製、商品名「平織金網」)の順に積層した試料を準備した。上記試料をエッチング装置(エーコーエンジニアリング社製、商品名「IE−10」)のベルジャー内にセットした。約6mTorrで1時間脱気後、アルゴンガスを注入し、真空度約40mTorrにコントロール(電圧1.5kV、電流値1.5mAになるようアルゴンガスの注入量を調製)しながら、40メッシュのSUSメッシュ上から、PGAフィルムを30分間エッチングし、PGA成形体を作製した。
【0044】
(実施例2〜10)
表1に示す条件で実施例1と同様の操作を行い、PGA成形体をそれぞれ作製した。
【0045】
(実施例11)
PGAとポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と表記する)とのブレンドフィルム(ブレンド比:PGA/PET=5/95(質量部))を準備し、第1及び2のマスクは積層せずにエッチング装置(エーコーエンジニアリング社製、商品名「IE−10」)のベルジャー内にセットした。約6mTorrで1時間脱気後、アルゴンガスを注入し、真空度約40mTorrにコントロール(電圧1.5kV、電流値1.5mAになるようアルゴンガスの注入量を調製)しながら、PGA/PETフィルムを2分間エッチングし、PGA/PET成形体を作製した。
【0046】
(実施例12)
PGAとポリプロピレン(以下、「PP」と表記する)とのブレンドフィルム(ブレンド比:PGA/PP=20/80(質量部))を用いた以外は実施例11と同様の操作を行い、表1に示す条件でPGA/PP成形体を作製した。
【0047】
(実施例13)
PGAとポリ乳酸(以下、「PLA」と表記する)とのブレンドフィルム(ブレンド比:PGA/PLA=25/75(質量部))を用いた以外は実施例11と同様の操作を行い、表1に示す条件でPGA/PP成形体を作製した。
【0048】
(比較例1、2)
表1に示す条件で実施例1と同様の操作を行い、PGA成形体の作製をそれぞれ試みた。
【0049】
(比較例3)
PETフィルム(帝人デュポン社製、商品名「テトロンフィルム」)を用いた以外は実施例11と同様の操作を行い、表1に示す条件でPET成形体の作製を試みた。
【0050】
(比較例4)
PPフィルム(東洋紡社製、商品名「パイレンフィルム」)を用いた以外は実施例11と同様の操作を行い、表1に示す条件でPGA/PP成形体の作製を試みた。
【0051】
(比較例5)
ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と表記する)フィルム(クレハ社製)を用いた以外は実施例11と同様の操作を行い、表1に示す条件でPVDF成形体の作製を試みた。
【0052】
(エッチング状態の観察)
実施例及び比較例で作製したフィルムの表面及び断面を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と表記する)で観察した。観察結果を表1に示す。表中、A:300メッシュの開口部に応じた貫通孔が形成、B:300メッシュの開口部に応じた凹部(インデント)が形成、C:表面付近のPGA部分のみがエッチングされ凹部(インデント)を形成、D:エッチングされないことを意味する。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜10で作製したPGA成形体では、300メッシュの開口部に対応した凹部が形成されているこが確認された。これに対し、比較例1では放電が発生しエッチングすることができず、比較例2では、出力が足らず、凹部を形成することができなかった。
【0055】
実施例1〜10の代表的なSEM画像として、実施例1で作製したPGA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像を図4に、実施例7で作製したPGA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像を図5にそれぞれ示す。なお、図4及び5において、(b)の画像は(a)の画像を拡大したものである。
【0056】
図6は、実施例11のPGA/PET成形体をエッチング表面から観察したSEM画像であり、図7は、実施例12のPGA/PP成形体をエッチング表面から観察したSEM画像であり、図8は、実施例13のPGA/PLA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。図6〜8から表面付近に凹部が形成していることが確認できる。よって、実施例11〜13のようにPGAとPGA以外のポリマーとのブレンドフィルムを用いた場合、表面(エッチング面)付近に存在するPGAのみが選択的にエッチングされることが確認できた。
【0057】
図9は、比較例5のエッチング後のPVDFフィルムをエッチング表面から観察したSEM画像である。図9からわかるように、PVDFフィルムには凹部が形成されていない。比較例3〜5のようにPGAを含まないポリマー成形体の場合、本発明の製造方法に係る条件では、ドライエッチングにより凹部を形成できないことが確認された。
【0058】
以上のことから、本発明のポリマー成形体の製造方法によれば、フォトレジストプロセス等の複雑な工程を経ることなく、簡便なプロセスによりポリグリコール酸を含むポリマー構造体に凹部を形成することができることがわかった。また、ポリマー構造体がPGAのみから構成される場合は、凹部を有するPGA形成体を作製することができる。さらに、ポリマー構造体がPGAとPGA以外のポリマーとから構成される場合は、表面付近のPGA部分がエッチングされて形成された凹部を有するポリマー形成体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の製造方法により得られるポリマー成形体の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るポリマー成形体の製造方法の実施形態を斜視図により示す工程図である。
【図3】平織りメッシュを表す模式図である。
【図4】実施例1で得られたPGA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。
【図5】実施例7で得られたPGA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。
【図6】実施例11で得られたPGA/PET成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。
【図7】実施例12で得られたPGA/PPフ成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。
【図8】実施例13で得られたPGA/PLA成形体をエッチング表面から観察したSEM画像である。
【図9】比較例5で得られたエッチング後のPVDFフィルムをエッチング表面から観察したSEM画像である。
【符号の説明】
【0060】
1…ポリマー成形体、2…ポリマー構造体、3…凹部、4…第1のマスク、6…第2のマスク、8…ドライエッチング装置、10…平織りメッシュ、12…目開き、14…線径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸を含むポリマー構造体を、真空度50mTorr以下、出力1〜6Wかつ電流3mA以下でドライエッチングして、前記ポリマー構造体に凹部を形成する工程を備える、ポリマー成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ドライエッチングがアルゴンイオンエッチングである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得ることのできる、ポリマー成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate