説明

ポリマー改質された湿式コンクリート混合物の適用方法

本発明の対象は、セメントと、フィラーと、水と、1種以上の重合体と、場合により他の混和剤又は添加剤とを含有する湿式コンクリート混合物を湿式吹き付けコンクリート法により適用するための方法において、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキルカルボン酸の1種以上のビニルエステルと、場合により1種以上の他のエチレン性不飽和モノマーとを基礎とする少なくとも1種の重合体を含有する湿式コンクリート混合物をコンクリート吹き付け機に投入し、そして湿式吹き付けコンクリート法によって≧3cmの層厚で下地に塗布することを特徴とする前記方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式吹き付け法によるポリマー改質された湿式コンクリート混合物の適用方法並びに該方法を、例えば建築構造の製造のために、坑道構造又はトンネル構造の範囲において用いる使用に関する。
【0002】
コンクリート混合物の加工及び適用のために通常行われる方法は、吹き付けコンクリート法である。その際に、コンクリート混合物はコンクリート吹き付け機へと入れられ、それにより該コンクリート混合物は、移送導管を介して吹き付けノズルによってその都度の下地に塗布される。コンクリート混合物は、セメントと、砂又は砂利などのフィラー(Fuellstoff)と、場合により他の添加剤とを含有する。
【0003】
これに関して知られているのは、乾式吹き付けコンクリート法と湿式吹き付けコンクリート法である。乾式吹き付けコンクリート法の場合に、コンクリート混合物は乾式形(コンクリート乾燥混合物)で使用される。コンクリート乾燥混合物の調合は、水の添加によって吹き付けノズル中で行われる。こうして得られるコンクリート材料は、乾式吹き付けコンクリート法では、従って、水との調合の直後に下地へと吹き付けられる。コンクリート混合物のための添加剤は、例えばポリマーであり、これらはコンクリート乾燥混合物に含まれていてもよいか、また吹き付けノズル中ではじめて添加されてもよい。JP−A61097152号及びJP−A60152778号は、酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニル−ターポリマーを種々の乾式吹き付けコンクリート法で使用することによって、下地にコンクリート混合物を塗布する際のリバウンド(Rueckprall)が低減されることを開示している。乾式吹き付けコンクリート法の実施に際してのダスト発生と、それに関連する工事現場の作業者についての健康への負担の軽減のために、JP−A09−255387号は、コンクリート混合物への酢酸ビニル−エチレン−コポリマーなどのポリマーの使用を推奨している。JP−A63−270334号及びJP−A63−002847号は、この目的のために、エチレン性不飽和のカルボン酸の単位を追加で含む酢酸ビニル−エチレン−コポリマーを提案している。
【0004】
湿式吹き付けコンクリート法の場合に、コンクリート混合物は、水性形(湿式コンクリート混合物)でコンクリート吹き付け機に入れられる。この場合、コンクリート混合物は、従ってまず水と調合されてから、次にコンクリート吹き付け機に入れられ、それにより湿式コンクリート混合物は、移送導管を介して吹き付けノズルにより下地へと塗布される。建築構造のための湿式吹き付けコンクリート法を使用する場合に、重合体は、今までは吹き付けノズル中で添加されていた。
【0005】
JP−A11−107506号は、下地への衝突に際して湿式吹き付けコンクリートのリバウンドを低減するために、酢酸ビニル−エチレン−アクリル酸エステル−ターポリマーを吹き付けノズル内で添加する湿式吹き付けコンクリート法を記載している。DE−A102007024965号及びDE−A102007024964号は、ポリマー改質された硬化促進剤と該促進剤を湿式吹き付けコンクリート法で用いる使用を記載しており、その際、前記ポリマー改質された硬化促進剤は、湿式コンクリート混合物に吹き付けノズル内で混和される。JP−A2004−051422号は、湿式吹き付けコンクリート法により適用される補修用コンクリート混合物であって、超微細なγ−Ca2SiO4に加えて添加剤として酢酸ビニル−エチレン−コポリマーを含有する混合物を使用することを開示している。前記の補修用コンクリート混合物は、その際に、湿式吹き付けコンクリート材料に引き続き、手作業で2cmまでの塗布厚さにコンクリートの修繕作業をすることで使用されていた。アニオン性のコモノマー単位を有するポリアクリルアミドを含有するコンクリート組成物は、EP−A1726432号から、防火被覆の製造のために知られている。DE−A19723474号は、乳化剤で安定化されたスチレン−アクリル酸エステル−共重合体であって、アニオン荷電されるモノマー単位を含むものを有する乾式と湿式のコンクリート混合物を記載している。かかる共重合体は、しかしながら、湿式コンクリート混合物中では安定ではなく、そのため貯蔵安定性と更に輸送安定性並びに湿式コンクリート混合物の応用技術的特性に悪影響が及ぼされる。更に、該アニオン性の共重合体は、その負電荷の結果として、湿式コンクリート混合物中で液化剤としても作用する。しかしながら、実際には、液化剤と他の添加剤とは、その都度の工事現場の各建築時期につき、丁度望まれるコンクリート特性に調整しうるために、互いに独立して計量供給できることが好ましい。また乳化剤も液化作用をもたらすことがある。DE−A19723474号の硬化コンクリートは、高められた弾性率(E−モジュラス)を有し、それに関連してより低い弾性を有し、これは、その硬化コンクリートの亀裂形成に寄与しうる。
【0006】
今までに知られるコンクリート混合物とその吹き付けコンクリート法による適用は、その水不透過性に関して十分ではない硬化コンクリートをもたらす。硬化コンクリートは、湿式コンクリート混合物の硬化によって得られる。まさに建築構造において、例えばトンネル構造又は坑道構造などの建築構造においては、硬化コンクリートに特に高い要求が課される。というのは、この場合、硬化コンクリートは、例えば岩泉水又は地下水と絶えず接触し、加えてその水は、塩含量などの組成の点で季節や地域的な環境に応じて激しく変動し、そしてそれが硬化コンクリートに浸透するとこれを激しく害するからである。
【0007】
この背景に対し、より高い水不透過性の点で優れ、また上述の他の問題点も克服する硬化コンクリートを提供するという課題が存在した。
【0008】
本発明の課題は、驚くべきことに、ポリマー改質された湿式コンクリート混合物をコンクリート吹き付け機に入れ、そして湿式吹き付けコンクリート法により≧3cmの塗布厚さで適用したことによって解決された。前記重合体は、湿式コンクリート混合物に、本発明によれば従って吹き付けノズル内ではじめて添加されるわけではない。
【0009】
本発明の対象は、セメントと、フィラーと、水と、1種以上の重合体と、場合により他の混和剤又は添加剤とを含有する湿式コンクリート混合物を湿式吹き付けコンクリート法により適用するための方法において、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキルカルボン酸の1種以上のビニルエステルと、場合により1種以上の他のエチレン性不飽和モノマーとを基礎とする少なくとも1種の重合体を含有する湿式コンクリート混合物をコンクリート吹き付け機に入れ、そして湿式吹き付けコンクリート法によって≧3cmの層厚で下地に塗布することを特徴とする前記方法である。
【0010】
好ましいビニルエステルは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1−メチルビニルアセテート、ビニルピバレート及び9〜13個の炭素原子を有するα分岐したモノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)もしくはVeoVa10(登録商標)(Shell社の商品名)である。特にビニルアセテートが好ましい。
【0011】
前記重合体の製造のための他のエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、1〜15個の炭素原子を有するアルコールのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエン又はビニルハロゲン化物を含む群から選択される。
【0012】
好ましいメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノルボルニルアクリレートである。特に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。オレフィン及びジエンのための例は、エチレン、プロピレン及び1,3−ブタジエンである。好適なビニル芳香族化合物は、例えばスチレン及びビニルトルエンである。好適なビニルハロゲン化物は、塩化ビニルである。エチレン性不飽和のアニオン性モノマーは、前記重合体の製造のためには、該重合体の製造のためのモノマーの全質量に対してそれぞれ質量%で示して、好ましくは≦5質量%、特に好ましくは≦1質量%、最も好ましくは≦0.1質量%で使用される。アニオン性モノマーは、蒸留水中で少なくとも部分的に、負に荷電されるエチレン性不飽和化合物、例えばエチレン性不飽和のカルボン酸又はスルホン酸などの化合物として存在するモノマーである。エチレン性不飽和のカチオン性モノマーは、該重合体の製造のためのモノマーの全質量に対してそれぞれ質量%で示して、好ましくは≦5質量%、特に好ましくは≦1質量%、最も好ましくは≦0.1質量%で使用される。カチオン性モノマーは、蒸留水中で少なくとも部分的に、正に荷電されるエチレン性不飽和化合物、例えばエチレン性不飽和のアミンなどの化合物として存在するモノマーである。
【0013】
重合体として適した単独重合体及び混合重合体のための例は、ビニルアセテート単独重合体、ビニルアセテートとエチレンとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及び1種以上の他のビニルエステルとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及びアクリル酸エステルとの混合重合体並びにビニルアセテートとエチレン及び塩化ビニルとの混合重合体である。
【0014】
好ましいのは、ビニルアセテート−単独重合体;ビニルアセテートと1〜40質量%のエチレンとの混合重合体;ビニルアセテートと1〜40質量%のエチレン及び1〜50質量%の、カルボン酸基中に1〜15個の炭素原子を有するビニルエステル、例えばビニルプロピオネート、ビニルドデカノエートなどのビニルエステル、9〜13個の炭素原子を有するα分岐したカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)、VeoVa10(登録商標)、VeoVa11(登録商標)などのビニルエステルの群からの1種以上の他のコモノマーとの混合重合体;ビニルアセテート、1〜40質量%のエチレン、好ましくは1〜60質量%の、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状もしくは分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリレートもしくは2−エチルヘキシルアクリレートの混合重合体;及び30〜75質量%のビニルアセテート、1〜30質量%の、ビニルラウレート又は9〜13個の炭素原子を有するα分岐したカルボン酸のビニルエステル及び1〜30質量%の、1〜15個の非分枝鎖状もしくは分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリレートもしくは2−エチルヘキシルアクリレートの混合重合体であって、更に1〜40質量%のエチレンを含む混合重合体;ビニルアセテート、1〜40質量%のエチレン及び1〜60質量%の塩化ビニルを有する混合重合体である;その際、前記重合体は、更に上述の補助モノマーを上述の量で含有してよく、かつ質量%の表記はそれぞれ足して100質量%となる。
【0015】
特に好ましいのは、ビニルアセテート−単独重合体;ビニルアセテートと1〜40質量%のエチレンと、場合により1〜50質量%の、カルボン酸基中に1〜15個の炭素原子を有するビニルエステル、例えばビニルプロピオネート、ビニルドデカノエートなどのビニルエステル、9〜13個の炭素原子を有するα分岐したカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)、VeoVa10(登録商標)、VeoVa11(登録商標)などのビニルエステルの群からの1種以上の他のコモノマーとの混合重合体である。
【0016】
コモノマーのモノマーの選択あるいは質量割合の選択は、その際に、重合体が、一般に、−50℃〜+50℃の、好ましくは−30℃〜+20℃の、特に好ましくは−20℃〜+5℃の、最も好ましくは−15℃〜0℃のガラス転移温度Tgをもたらすように行われる。重合体のガラス転移温度Tgは、公知のようにして示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。Tgは、またFoxの式によって近似的に見積もることもできる。Fox T.G.,Bull.Am.Physics Soc.1,3,page 123(1956)によれば、以下の式が適用される: 1/Tg=x1/Tg1+x2/Tg2+…+xn/Tgn[式中、xnは、モノマーnの質量分率(質量%/100)を表し、そしてTgnは、モノマーnのホモポリマーのケルビンにおけるガラス転移温度である]。単独重合体のためのTg値は、Polymer Handbook 2nd Edition,J.Wiley&Sons,New York(1975)に挙げられている。重合体の最低皮膜温度MFTは、好ましくは−5℃〜+50℃、好ましくは0℃〜+20℃、特に好ましくは0℃〜+10℃、最も好ましくは0℃〜5℃である。
【0017】
重合体の製造は、水性媒体中で行われ、かつ好ましくは、DE−A102006007282号に記載される乳化重合法により行われる。重合体は、その際に、水性分散液の形で生じる。重合に際して、DE−A102006007282号に記載されるように、通常の保護コロイド及び/又は乳化剤を使用することができる。好ましいのは、部分鹸化又は完全鹸化されたポリビニルアルコールであって、加水分解度80〜100モル%を有するもの、特に部分鹸化されたポリビニルアルコールであって、加水分解度80〜94モル%及び4%水溶液中でのヘップラー粘度1〜30mPas(20℃でヘップラーによる方法、DIN53015)を有するものである。挙げられる保護コロイドは、当業者に公知の方法によって得られ、そして一般に、モノマーの全質量に対しいて全体で1〜20質量%の量で重合に際して添加される。
【0018】
水性分散液の形の重合体は、通常の乾燥法によって、相応の水に再分散可能な粉末に変換することができる。その際、一般に、乾燥助剤は、分散液のポリマー成分に対して、3〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の全量で使用される。乾燥助剤としては、上述のポリビニルアルコールが好ましい。
【0019】
該重合体は、好ましくは保護コロイドで安定化された水性分散液の形で又は保護コロイドで安定化された水に再分散可能な粉末の形で存在する。
【0020】
典型的な湿式コンクリート混合物の配合は、9〜30質量%の、特に15〜25質量%のセメント、例えばポルトランドセメントもしくは高炉セメント、好ましくはポルトランドセメントCEM I 42.5、ポルトランドセメントCEM I 52.5、ポルトランドシリカセメントCEM II A−D 52.5又は高炉セメントCEM III 42.5 Aなどのセメントを含有する。重合体は、0.1〜5.0質量%で、好ましくは0.2〜2.0質量%で、特に好ましくは0.5〜1.5質量%で使用され、それぞれ好ましくは、10〜75質量%の、特に好ましくは40〜60質量%の固体含量を有する水性分散液の形で使用される。他の成分は、65〜90質量%の、好ましくは75〜90質量%の、砂又は砂利などのフィラーである。添加剤としては、通常は、硬化促進剤が、水性のコンクリート組成物のセメント含量に対して、3〜10質量%で使用される。好ましくは、水性の硬化促進剤が、好ましくは10〜75質量%の、特に好ましくは30〜60質量%の、最も好ましくは40〜60質量%の固体含量で使用される。特に記載がない限り、質量%の表記は、それぞれ配合の乾燥質量100質量%に対するものである。湿式コンクリート混合物の製造のためには、通常は、使用されるセメントの全質量に対して、20〜80質量%の、特に好ましくは35〜65質量%の、殊に好ましくは40〜60質量%の、最も好ましくは40〜50質量%の水が使用される。
【0021】
例えばアルミニウム化合物、ケイ酸塩、アルカリ金属水酸化物又は炭酸塩などの通常の硬化促進剤を使用することができる。好ましい硬化促進剤は、アルミニウム塩、アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、例えば水ガラスなど、アルカリ金属炭酸塩又は水酸化カリウムである。特に好ましい硬化促進剤は、硫酸アルミニウム、アルカリ金属アルミン酸塩、例えばアルミン酸カリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カリウム又はスルホアルミン酸塩、例えばスルホアルミン酸カルシウムなどである。
【0022】
湿式コンクリート混合物の応用技術的特性は、更なる混和剤によって改善することができる。水性のコンクリート組成物の好ましい実施態様に含まれる混和剤は、例えばセメントに対して0.2〜2質量%の、好ましくは0.2〜1.5質量%の、特に好ましくは0.4〜1.0質量%のコンクリート液化剤(当業者には、流動化剤としても知られる)又は顔料、発泡安定化剤、疎水化剤、可塑剤、フライアッシュ、分散性ケイ酸、コンクリート嵩密度の制御のための起泡剤又はポンプ圧送性の改善のためのポンプ助剤である。更に、水性のコンクリート組成物には、場合により、硬化促進剤の湿式コンクリート混合物への硬化促進効果を改変する添加剤、例えばリン酸、ホスホン酸、ポリリン酸塩、ポリヒドロキシカルボン酸又は有機添加剤、特にポリアクリル酸、ヘキサメチレンテトラアミン、アルカノールアミン、例えばジエタノールアミン(DEA)もしくはトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどの添加剤を添加してよい。
【0023】
配合の個々の成分からの湿式コンクリート混合物の製造は、特定の措置又は混合装置に限定されない。混合は、例えばコンクリートミキサ又は生コンクリート混合装置において行うことができる。
【0024】
重合体の使用は、湿式コンクリート混合物の一連の特性に好ましい作用をもたらす。ここで、湿式コンクリート混合物自体は、上述の非常に低い含水量でも本発明による方法に従って非常に良好にポンプ圧送可能である。より低い含水量を有する湿式コンクリート混合物は、硬化後に、より高い強度を有する生成物をもたらす。更に、本発明による方法に従う重合体の使用は、湿式コンクリート混合物の均展性の向上をもたらすので、コンクリート液化剤もしくは流動化剤の添加を減らすことができる。
【0025】
下地への湿式コンクリート混合物の適用のためには、吹き付けコンクリート法について公知の装置、例えば吹き付けロボット又は吹き付け機などの装置を使用することができる。
【0026】
本発明による方法による湿式コンクリート混合物の塗布厚さは、好ましくは5〜40cm、特に好ましくは5〜30cm、最も好ましくは11〜20cmである。
【0027】
好ましくは、本発明による方法の実施に際して、従来の方法と比較して少ないリバウンドしか生じない。リバウンドとは、下地に塗布するに際して、下地に付着して留まらずに離脱するため、廃棄物として処理せねばならないコンクリートの量を指す。リバウンドは、本発明による方法の実施に際して、それぞれ、適用される湿式コンクリート混合物の全量に対して、好ましくは≦45質量%、特に好ましくは3〜45質量%、最も好ましくは5〜15質量%である。示される値は、該方法の総使用の場合にも当てはまる。
【0028】
本発明による方法は、建築構造、表面シーリング、斜面の固定又は岩塊もしくは岩石の保全措置を含む吹き付けコンクリート法の使用全体において使用することができる。従って、通常のコンクリート建造物は、本発明による方法により得られる。
【0029】
建築構造は、建物、縦穴、供給路、橋梁、べた基礎又は好ましくはトンネルもしくは坑道を含む。
【0030】
本発明による方法によれば、1層以上の湿式コンクリート混合物層を重ねて塗布することでコンクリート複合物を製造することもできる。その際、場合により層間又は層中に構造エレメントを取り付けてよい。
【0031】
好適な構造エレメントは、例えば鋼、水不透過性のシート、好ましくはPEもしくはPVC含有シート又は水不透過性の膜である。水不透過性の膜は、ポリマー及びセメント成分を含有し、それは当業者には、TSL(thin sprayable liner)という用語として知られている。
【0032】
コンクリート複合物の製造のためには、湿式コンクリート混合物は、好ましくは、場合により鋼補強された下地に直接塗布される。塗布される層厚は、通常は10〜40cmである。特に、より厚いコンクリート層の製造に際しては、湿式コンクリート混合物を、それぞれより薄いコンクリート層厚を有する複数の塗布層で重ねて塗布することが好ましい。同様に好ましくは、コンクリート複合物は、下地と事前に完成された構成部材との間の残りの空間を水性のコンクリート組成物で充填することで製造することもできる。その際、該複合物の安定性の向上のために、場合により鋼補強が取り付けられる。
【0033】
コンクリート複合物の製造のためには、構成部材と湿式コンクリート混合物の層との間又は湿式コンクリート混合物の2つの層の間であって、それぞれ互いに無関係に場合により鋼で補強されているものには、水不透過性のシート又は水不透過性の膜を取り付けてよい。
【0034】
本発明による方法で得られるコンクリート建築物は、従来技術から公知の相応の建築物に対して、より高い水不透過性を示し、更に、より高い強度並びにより低い亀裂形成傾向を有する。更に、本発明により製造される建築物は、臨界的な下地にも湿った下地にも非常に良好に付着されるという点で特徴的である。
【0035】
硬化コンクリートの水不透過性は、DIN1048に従って硬化コンクリートへの水の浸透深さによって特徴付けられる。硬化コンクリートの最低限の要求として、DIN1048による50mmまでの最大浸透深さが受け入れられる。低い水透過性を有する硬化コンクリートは、DIN1048による30mmの水浸透深さを有する。本発明による方法によれば、硬化コンクリートにおける水の浸透深さは、好ましくは≦20mmに至り、特に好ましくは≦15mmに至る(DIN1048により測定)。
【0036】
乾式吹き付けコンクリート法と異なって、本発明による湿式コンクリート混合物は、下地へのその適用の前に、含水量、粘稠性又は可塑性などのそのコンクリート特性に基づいて試験し、必要に応じて適合させることができる。乾式吹き付けコンクリート法で生ずるダスト発生並びにかかる方法で生ずる高められた跳ね上げも、本発明により回避される。本発明により使用される湿式コンクリート混合物は、輸送安定性である。液化剤と重合体との個別の添加によって、例えば任意の好適な水/セメント値に調整することができる。
【0037】
以下の実施例は、本発明を詳細に説明するものであって、決して本発明を限定することを意味するものではない。
【0038】
コンクリートドリルコア(Bohrkern)の製造:
比較例1(VBsp.1):ポリマーを用いない湿式吹き付けコンクリート法:
1077kgの砂(4.0mmまでの粒径)
823kgの砂利(4.0〜8.0mmの粒径)
400kgのポルトランドセメントCEM I 52.5 R
20kgのフライアッシュ Safament
2.7kgのMuraplast FK 804.2(コンクリート液化剤)
0.465の水/セメント値(該水/セメント値は水セメント値を表し、その都度の湿式コンクリート混合物における水対セメントからなる質量比を指す)
4.0kgのRetard 360(遅延剤)
上述の成分を、2m3の体積を有する通常のコンクリートミキサ中で2分間の撹拌によって均一に混合した。
【0039】
こうして得られた湿式コンクリート混合物を、通常の吹き付けロボットに入れ、そして吹き付けノズルを介して型枠(長さ/高さ/幅=70cm/40cm/70cm)中に塗布した。その間に、該湿式コンクリート混合物に、吹き付けノズルを介して、全体で40kgの硬化促進剤Mayco SA 160を均一に添加した。15℃及び65%の相対空気湿度で24時間貯蔵した後に、こうして得られた硬化コンクリートから、200mmの底面と100mmの高さを有する円柱状のドリルコアを得て、DIN EN 196による試験期間に相応して貯蔵した。引き続き、該ドリルコアを、応用技術的試験に供した。
【0040】
実施例2(Bsp.2):ポリマーを用いる湿式吹き付けコンクリート法:
比較例1とは異なって、湿式コンクリート混合物に、1.96kgのMuraplast FK 804.2、6.0kgのRetard 360並びに22kgの粉末形のポリビニルアルコール安定化ビニルアセテート−エチレン−共重合体(−7℃のTg、0℃のMFT)を添加した。水/セメント値は、0.465であった。
【0041】
実施例3(Bsp.3):ポリマーを用いる湿式吹き付けコンクリート法:
比較例1とは異なって、湿式コンクリート混合物に、1.96kgのMuraplast FK 804.2、4.0kgのRetard 360並びに40kgのポリビニルアルコール安定化ビニルアセテート−エチレン−共重合体の水性分散液(53%の固体含量FG、−7℃のTg、0℃のMFT)を添加した。水/セメント値は、0.47であった。
【0042】
実施例4(Bsp.4):ポリマーを用いる湿式吹き付けコンクリート法:
実施例2とは異なって、湿式コンクリート混合物に、4.0kgのRetard 360を添加するが、Muraplast FK 804.2(コンクリート液化剤)を添加せず、水/セメント値は0.45であった。
【0043】
実施例5(Bsp.5):ポリマーを用いる湿式吹き付けコンクリート法:
実施例3とは異なって、湿式コンクリート混合物に、1.96kgのRetard 360を添加し、かつ水/セメント値は0.45であった。
【0044】
比較例6(VBsp.6):ポリマーを用いる乾式吹き付け法:
1077kgの砂(4.0mmまでの粒径)
823kgの砂利(4.0〜8.0mmの粒径)
300kgのポルトランドセメントCEM I 52.5 R
20kgの促進剤である硫酸アルミニウム(固体)
上述の成分を、2m3の体積を有する通常の乾式モルタルミキサ中で2分間の撹拌によって均一に混合した。
【0045】
こうして得られた乾式コンクリート混合物を、通常の吹き付けロボットに入れ、そして吹き付けノズルを介して型枠(長さ/高さ/幅=70cm/40cm/70cm)中に塗布した。この場合に、吹き付けノズルを介して、全体で40kgのポリビニルアルコール安定化ビニルアセテート−エチレン−共重合体の水性分散液(53%の固体含量FG、−7℃のTg、0℃のMFT)を均一に添加した。
【0046】
水も吹き付けノズルを介して、コンクリート混合物の水/セメント値が0.45となるように添加した。こうして得られる生成物から、比較例1に記載されるようにドリルコアを得た。
【0047】
比較例7(VBsp.7):ポリマーを用いる乾式吹き付け法:
比較例6とは異なり、コンクリート乾式混合物に、20kgのポリビニルアルコール安定化ビニルアセテート−エチレン−共重合体の水性分散液(53%の固体含量FG、−7℃のTg、0℃のMFT)を添加して、吹き付けノズルを介してポリビニルアルコール安定化ビニルアセテート−エチレン−共重合体の水性分散液(53%の固体含量FG、−7℃のTg、0℃のMFT)を添加しなかった。
【0048】
応用技術的試験:
DIN1048−5による比較例あるいは実施例のドリルコアの試験により、本発明による方法により製造されたポリマーを含有しない比較例6及び7のドリルコアが、ポリマーを含有しない比較例1のドリルコアよりさえも劇的に水透過性が高かったことが示された(第1表)。比較例6及び7のドリルコアを通じて、水は0.5日後に流通しはじめた。本発明による方法により製造されたドリルコア(実施例2〜5)においては、それに対して、DIN1048−5による試験の終わりまで、非常に僅かな水しか浸透しなかった(第1表)。
【0049】
実施例2、3及び5の湿式コンクリート混合物は、種々の塗布厚さであるが、それでもそれぞれ同じ条件下で自然トンネル内で下地に塗布した(第2表)。7日後に、個々の例について水分が通った箇所の数を目視で測定した。水分が通った箇所は、トンネルの下地と反対のコンクリート塗布物の側の水の平らなシミとして現れる。第2表から、水分が通った箇所の数は、本発明による措置によってかなり低減できたことが明らかである。
【0050】
第1表:DIN1048−5による硬化コンクリートの水不透過性の測定:
【表1】

【0051】
a) 該ドリルコアは、水が0.5日後にドリルコアを通じて流通しはじめるほど透過性であることが判明した。
【0052】
第2表:コンクリートの塗布厚さに依存する硬化コンクリートの水透過性:
【表2】

【0053】
実施例2〜5のポリマー改質されたフレッシュコンクリート材料は、所望の貯蔵安定性を示すため輸送安定性である。このことは、変わらない均展性で、湿式コンクリート混合物の成分の混合の直後と、1時間の貯蔵後に現れる(第3表)。水/セメント値の低下(実施例4)によって、ポンプ圧送性を損ねることなく均展性を下げることができた。更に、水/セメント値の低下によって、コンクリートの初期強度を向上させることができる(実施例4)。更に、本発明による方法の実施に際して、より低いリバウンドが生ずる。
【0054】
第3表:フレッシュコンクリート特性の試験:
【表3】

【0055】
a) 均展性は、湿式コンクリート混合物の個々の成分を混合した後にDIN12350のパート5に従って測定した。
【0056】
b) 均展性は、湿式コンクリート混合物の1時間の貯蔵後にDIN12350のパート5に従って測定した。
【0057】
c) 記載は、比較例1での結果に対するものである。
【0058】
d) 硬化したコンクリートの圧縮強度の測定は、DIN EN 12504−1に従って実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、フィラーと、水と、1種以上の重合体と、場合により他の混和剤又は添加剤とを含有する湿式コンクリート混合物を湿式吹き付けコンクリート法により適用するための方法において、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状のもしくは分枝鎖状のアルキルカルボン酸の1種以上のビニルエステルと、場合により1種以上の他のエチレン性不飽和モノマーとを基礎とする少なくとも1種の重合体を含有する湿式コンクリート混合物をコンクリート吹き付け機に入れ、そして湿式吹き付けコンクリート法によって≧3cmの層厚で下地に塗布することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
ビニルエステルが、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1−メチルビニルアセテート、ビニルピバレート及び9〜13個の炭素原子を有するα分岐したモノカルボン酸のビニルエステルを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項3】
他のエチレン性不飽和モノマーが、1〜15個の炭素原子を有するアルコールのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエン及びビニルハロゲン化物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項4】
重合体が、−50℃〜+50℃のガラス転移温度Tgを有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項5】
重合体の割合が、湿式コンクリート混合物の乾燥質量に対して、0.1〜5.0質量%であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項6】
湿式コンクリート混合物の使用されるセメントの全質量に対して、20〜80質量%の水が使用されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項7】
混和剤として、湿式コンクリート混合物の使用されるセメントの全質量に対して、0.2〜2質量%のコンクリート液化剤が使用されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項8】
建築構造の製造、表面シーリング、斜面の固定又は岩塊もしくは岩石の保全措置のための、請求項1から7までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。
【請求項9】
建物、縦穴、供給路、橋梁、べた基礎、トンネル又は坑道の製造のための、請求項1から7までのいずれか1項に記載の湿式コンクリート混合物の適用方法。

【公表番号】特表2012−507467(P2012−507467A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535069(P2011−535069)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063972
【国際公開番号】WO2010/052136
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】