説明

ポリマー改質アスファルト組成物

【課題】バインダの粘度を低くするとともに、低温において混合物の製造や実施工時の締め固めを行う際にも施工性を損なうことが無く、且つ、相容性に優れ排水性舗装として十分な強度を発現させる。
【解決手段】スチレン含有量が20〜40重量%未満の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、スチレン含有量が40〜60重量%未満の範囲にあり、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有し、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計がアスファルト組成物全体に対して8〜12重量%であり、更に上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比が23:77〜83:17である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として道路舗装に適用されるポリマー改質アスファルト組成物のうち、特に排水性舗装に適用する上で好適なポリマー改質アスファルト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスファルトは道路舗装及び防水用途等の幅広い分野で使用されている。アスファルト組成物を実際に道路舗装へ適用する用途の1つに排水性舗装がある。排水性舗装は一般道でも多く施工され、走行時の安全確保や騒音対策に大きく貢献している。
【0003】
排水性舗装は雨水を舗装表面から基層に通すために骨材と骨材の間に空隙をもたせる必要がある。このため、骨材同士の接触点が少なくなっても、骨材同士を強固に接着する骨材の把握力が大きいバインダを使用する必要がある。
【0004】
かかる見地から、熱可塑性エラストマー等の改質剤を10重量%程度添加した高粘度ポリマー改質アスファルトが開発され、日本改質アスファルト協会でポリマー改質アスファルトH型として、品質規格を定めている。
【0005】
アスファルト等のバインダと骨材を必須とする舗装用混合物は、バインダを溶融し、骨材に被覆させる必要がある。このため、かかるバインダの溶融が必要となる観点より、その製造及び舗設を行う上でかなりの高温に加熱する必要がある。特に熱可塑性エラストマー等の改質剤を10重量%程度添加した高粘度ポリマー改質アスファルトを用いる排水性舗装では、一般的に製造時の混合温度として170℃前後の加熱を要し、また舗設時の締め固め温度も130℃を下回らない温度となる。このため、製造、舗設時においてバインダの加熱に多大なエネルギーを要し、その際、二酸化炭素に代表される温室効果ガスを発生させてしまうという問題点があった。
【0006】
さらに、アスファルト等のバインダと骨材を必須とする舗装用混合物は、合材プラントで製造された後、舗装現場まで運搬する間に温度が低下してしまう場合があり、その結果、バインダの粘度が増加して施工性が著しく悪化し、施工現場での取り扱いが低下してしまうため、施工現場での取り扱い性を向上させる観点から、合材プラントにおける製造時の混合温度をさらに高くすることにより、輸送中の冷却による施工性の悪化を防ぐ手法がとられることが多い。しかしながら、そのような場合は、過度に加熱を行うことにより逆にアスファルトの粘度が低下しすぎてしまい、バインダが骨材から垂れ落ち、設計したアスファルト量以下となってしまう問題が起こる。これは空隙率が大きく、骨材に被覆するアスファルト量の多い排水性舗装において起こりやすく、製造、舗設時の温度コントロールの難しさが問題となっていた。
【0007】
以上のような問題点を解決するために、従来、アスファルトバインダーの粘度を下げて、バインダと骨材との混合作業や、製造された混合物を道路に敷きならす上での、作業性を向上する方法として、例えば特許文献1乃至4に開示された技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、バインダに潤滑油等を加えることにより粘度を下げることができる反面、アスファルトが軟化し、強度が出なくなってしまうという問題がある。
【0009】
また特許文献2および特許文献3の各開示技術では、いずれもバインダの低粘度化手法としてワックスを使用する技術が開示されているが、かかる方法によれば、このワックスの軟化点以上の温度においては低粘度化させることができるものの、軟化点以下の温度域においては、著しく粘度が上昇してしまい、施工時の温度管理が非常に難しくなる。また、ワックス含有量が増加するため、アスファルト中の熱可塑性エラストマーの相溶性が悪化し、貯蔵安定性が悪くなるという問題もある。
【0010】
さらに特許文献4では、製造時の混合の際に水蒸気成分を発生させる成分を添加することによって、バインダ中に微細な気泡を発生させ、バインダ中の微細気泡によるベアリング効果によってより低い温度での製造・舗設が可能となる技術が開示されているが、微細気泡によって舗装強度が低下する点や、製造時の添加剤の混入方法等、従来と比較して製造方法が煩雑化する問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−072862号公報
【特許文献2】特開2002−538231号公報
【特許文献3】特開2002−302905号公報
【特許文献4】特開2001−640652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、バインダの粘度を低くするとともに、低温において混合物の製造や実施工時の締め固めを行う際にも施工性を損なうことが無く、且つ、相容性に優れ排水性舗装として十分な強度を発現させることができるポリマー改質アスファルト組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明者らは、ポリマー改質アスファルトに必須成分として添加するスチレン系熱可塑性エラストマー自体を最適化することにより、バインダの粘度を下げて、かつ、必要な強度と貯蔵安定性が得られることに着目し、鋭意検討を行った。その結果、スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレン含有量と25%トルエン溶液粘度で特定される同一分子量に対する分子の長さがバインダに添加した場合のバインダ溶融粘度や低温時の柔軟性ならびに舗装後の強度に影響を及ぼすことを見出し、これら2つの特性を最適化するため、2種類のスチレン系熱可塑性エラストマーを組み合わせることによって、上述した従来の課題を解決し得るポリマー改質アスファルト組成物を発明するに至った。
【0014】
請求項1記載のポリマー改質アスファルト組成物は、スチレン含有量が20〜40重量%未満の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3,000mPa・sの範囲にある第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、スチレン含有量が40〜60重量%の範囲にあり、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有し、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計がアスファルト組成物全体に対して8〜12重量%であり、更に上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比が23:77〜83:17であることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載のポリマー改質アスファルト組成物は、剥離防止剤0.3〜1.0重量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリマー改質アスファルトは、排水性舗装に求められる強度、すなわち、耐轍掘れ性(DS値)や低温時の骨材飛散(低温カンタブロ損失量)を保ちながら、かつ、従来の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトと比較して30℃以上低い温度条件でも製造・舗設が可能であり、さらに、相容性に優れた貯蔵安定性の高いポリマー改質アスファルト組成物を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】動的粘弾性試験機の測定部を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用したポリマー改質アスファルト組成物は、ベースアスファルト中にスチレン含有量が20〜40重量%未満の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、スチレン含有量が40〜60重量%の範囲にあり、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有するものであり、必要に応じて剥離防止剤(樹脂酸や脂肪酸アミド)が添加される。
【0019】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計がアスファルト組成物全体に対して8〜12重量%であり、剥離防止剤は0.3〜1.0重量%含有している。
【0020】
以下、本発明を実施するための形態として、ポリマー改質アスファルト組成物について、詳細に説明する。
【0021】
スチレン系熱可塑性エラストマー
【0022】
本発明のポリマー改質アスファルト組成物に用いるスチレン系熱可塑性エラストマーは、以下に規定する第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを混合させてなる。
【0023】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン含有量が20〜40重量%未満の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある。
【0024】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの例としては、上述した条件を満たす限り、その種類については特に制約はなく、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、SBSのブタジエンブロック中の二重結合部分を完全に水添処理したスチレン−エチレン/ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、および、SBSのブタジエンブロック中の二重結合を選択的に一部分水添処理したスチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)等、他にはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、SISのブタジエンブロック中の二重結合部分を完全に水添処理したスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等を挙げることができる。中でもSBSを使用するのが好ましい。
【0025】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、従来からアスファルト改質剤として使われてきたスチレン含有量30重量%前後のスチレン系熱可塑性エラストマーの分子量を低くすることによって、分子長をより短くしており、これによってアスファルト組成物に与える増粘効果が従来のものと比べて低くなるとともに、ヒステリシスロスが高くなり、低温における柔軟性が高くなる。
【0026】
この第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量は20重量%以上から40重量%未満、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜3000mPa・sとする必要があり、好ましくは、スチレン含有量は28.5〜32.5重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度500〜2500mPa・s、より好ましくは、スチレン含有量は28.5〜30.5重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度1300〜2000mPa・sである。
【0027】
ここで、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量は20重量%未満の場合、スチレンのもたらす改質効果が弱いため、アスファルトに与える力学的強度が低く、改質アスファルト組成物自体の複素弾性率やDS値、ひいては強度を始めとした械的特性が低くなるため好ましくない。一方、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量は40重量%以上の場合、スチレンのもたらす改質効果が強くなりすぎる為、改質アスファルト組成物自体の、低温時の骨材飛散(低温カンタブロ損失量)、ひいては柔軟性が低くなるため好ましくない。
【0028】
また、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおける25%トルエン溶液粘度が150mPa・sより小さい場合は、分子量が低くなりすぎることにより、改質効果が得られなくなるため好ましくない。
【0029】
一方、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおける25%トルエン溶液粘度が3000mPa・sより大きい場合は、分子量が高くなりすぎることにより、ポリマー改質アスファルト組成物の粘度が著しく上昇してしまい、本発明で目的とする従来の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトと比較して30℃以上低い温度条件で製造・舗設することが出来なくなるため好ましくない。
【0030】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン含有量が40〜60重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある。
【0031】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの例としては、上述した条件を満たす限り、その種類については特に制約はなく、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、SBSのブタジエンブロック中の二重結合部分を完全に水添処理したスチレン−エチレン/ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、および、SBSのブタジエンブロック中の二重結合を選択的に一部分水添処理したスチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)等、他にはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、SISのブタジエンブロック中の二重結合部分を完全に水添処理したスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等を挙げることができる。中でもSBSを使用するのが好ましい。
【0032】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、従来からアスファルト改質剤として使われてきたスチレン含有量30重量%前後のスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量を高くすることによって、直鎖成分の多いポリブタジエンブロックの比率を低くし、分子長をより短くしており、これによってアスファルト組成物に与える増粘効果が従来のものと比べて低くなる。また、また嵩高い芳香族基が結合されてなるポリスチレンブロックの含有比率を増大させることにより、スチレン系熱可塑性エラストマー自体の剛性を向上させることが可能となり、改質アスファルト組成物自体の複素弾性率やDS値、ひいては強度を始めとした機械的特性を向上させることが可能となる。
【0033】
この第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量は40〜60重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜3000mPa・sとする必要があり、好ましくは、スチレン含有量は40〜55重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜1500mPa・s、より好ましくは、スチレン含有量は40〜46重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜1000mPa・sである。
【0034】
ここで、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン含有量が40重量%以下であると、ブタジエンブロックの割合が大きくなり、粘度が増加する。その為現行品よりも低い温度での作業性が悪くなり、混合物の作成が非常に困難となり、また、施工性も悪くなるため好ましくない。一方、スチレン含有量が60重量%を超えると、スチレンはブタジエン等の直鎖成分と比べてガラス転移温度が高く、低温域においては破断しやすいことから低温性状を悪化させてしまうために好ましくない。さらに、ブタジエン等の直鎖成分のもたらす柔軟性の効果が少なくなることから、アスファルト組成物の弾性力がなくなり、機械的特性を劣化させてしまう要因にもなる。
【0035】
また、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにおける25%トルエン溶液粘度が150mPa・sより小さい場合は、分子量が低くなりすぎることにより、改質効果が得られなくなるため好ましくない。一方、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにおける25%トルエン溶液粘度が3000mPa・sより大きい場合は、分子量が高くなりすぎることにより、アスファルト組成物の粘度が著しく上昇し、本発明で目的とする従来の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトと比較して30℃以上低い温度条件でも製造・舗設が出来なくなるため、好ましくない。
【0036】
本発明では、いずれも25%トルエン溶液粘度の低いスチレン系熱可塑性エラストマーであって、それぞれ低温性状に優れる反面、剛性が低い第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、剛性に優れる反面、柔軟性が低く低温性状の悪い第2のスチレン系熱可塑性エラストマーという2種類の熱可塑性エラストマーを組み合わせることによって、一般的に市販されているポリマー改質アスファルトH型よりも全体の粘度を下げることによって、従来よりも30℃以上低い温度条件でも製造・舗設が可能としながら、アスファルト組成物の低温特性と機械的特性という相反する性能をバランス良く満たすための配合を見出したものである。
【0037】
ここで、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比は23:77〜83:17、好ましくは、39:61〜74:26、より好ましくは、55:45〜65:35の範囲である。
【0038】
この第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が両者の総和に対して23重量%未満では、アスファルト組成物に与える柔軟性が十分ではなく、低温域での供用に耐えることが出来ない。また、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が両者の総和に対して77重量%超では、低温性状が悪化してしまう。一方、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が両者の総和に対して83重量%超では、140℃粘度が高くなり混合物の作成が困難になる。また、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が両者の総和に対して17重量%未満では複素弾性率で示されるように十分な強度が得られない。 このため、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比は23:77〜83:17とされていることが望ましい。
【0039】
また、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの割合を39:61〜74:26、より好ましくは、55:45〜65:35の範囲にすることよって、互いの弱点をより良く補完し、十分な舗装強度を持ち、且つ、低温性状に優れる配合とすることが出来る。
【0040】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計がアスファルト組成物全体に対して8〜12重量%、好ましくは9〜10重量%としている。これは一般に排水性舗装用ポリマー改質アスファルトに用いられる配合量の観点から、かかる範囲にとしたものである。(例、小柳智子、ポリマー改質アスファルトの技術動向、改質アスファルト 第35号 平成22年7月9日発行、木谷貴宏、ポリマー改質アスファルトの環境貢献、改質アスファルト 第33号 平成21年7月10日発行)
【0041】
アスファルト組成物全体に対する、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマー合計の配合量が少ない場合は、改質効果が低く機械的特性等が得られないが、増粘効果が少ない。一方、配合量が多い場合は、改質効果が高く、機械的特性等に優れるが、増粘効果が高く目的とする施工性が得られない。また、相溶性も悪くなり、加熱貯蔵中における品質低下を起こしやすくなる。
【0042】
ベースアスファルト
【0043】
本発明におけるアスファルトとしては、例えば、ストレートアスファルト(JIS K 2207 参照)、ブローンアスファルト(JIS K 2207 参照)、セミブローンアスファルト(「アスファルト舗装要綱」,社団法人日本道路協会発行,平成9年1月13日,p.51,表−3.3.4 参照)、溶剤脱瀝アスファルト(「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.308 参照)等のアスファルト又はこれらの混合物、並びにこのような各種アスファルトに芳香族系重質鉱油等が添加されたもの等を使用することができる。
【0044】
本発明ではアスファルトの針入度グレードごとに検討し、ストレートアスファルト40/60〜100/120相当品まで使用することができる。
【0045】
一般に針入度グレードが低いほど、DS値に代表される機械的強度が良いが、一方で曲げ仕事量と曲げスティフネスに代表される低温性状が悪くなる。
【0046】
また、本発明では使用するベースアスファルトとしては、溶剤脱瀝アスファルトに芳香族系重質鉱油を添加したアスファルトが好ましい。
【0047】
溶剤脱瀝アスファルトとしては、プロパン、または、プロパンとブタンを使用したプロパン脱瀝アスファルトが好ましい。
【0048】
芳香族系重質鉱油としては、石油系溶剤抽出油やJISK6200に規定されている、芳香族炭化水素を少なくとも35質量%含むアロマ系の炭化水素系プロセスオイル等や、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱瀝して得られた溶剤脱瀝油を更にフルフラール等の極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、ブライトストック(重質潤滑油)を得る際の溶剤抽出油、すなわち、エキストラクトがある。
【0049】
本発明では、芳香族重質鉱油としては、エキストラクトを添加することが好ましい。
【0050】
本発明におけるエキストラクトの役割は、熱可塑性エラストマーのアスファルトへの溶解性を高め、貯蔵安定性において分離させないようにするもので、熱可塑性エラストマーの添加量が多いとエキストラクトの必要な添加量も増加する。また、熱可塑性エラストマーの添加量に対して必要以上のエキストラクトを添加すると強度が低下する。
【0051】
アスファルト組成物全体に対するベースアスファルトの含有量は、87〜92重量%とされていることが望ましい。
【0052】
アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は、針入度、軟化点、貯蔵安定性、強度を示す複素弾性率とホイールトラッキング試験における動的安定度(DS値)、及び、低温性状を示す曲げ仕事量と曲げスティフネスを考慮して決められるが、本発明で検討した範囲では、アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は18〜30重量%が好ましい。
【0053】
剥離防止剤
【0054】
本発明では、アスファルト組成物と骨材の剥離を防止するために、剥離防止剤を添加することが好ましい。
【0055】
剥離防止剤として樹脂酸が好適に使用できるが、樹脂酸とはカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンであって、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸のうち何れか1種以上を含有するロジンのことである。
【0056】
ここでロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが使用される。これらロジンは、原産地、原材料、採取方法の違いにより上述したガムロジン、ウッドロジン等の如き分類が可能となるが、少なくとも松脂の水蒸気蒸留時の残渣成分として得られるものである。このロジンでは、成分としてアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、サンダラコピマール酸、イソピマール酸等を含む混合物である。このロジンは、通常約80℃で軟化し、90〜100℃で溶融する。なお、ロジン中にはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸などの各種樹脂酸が含まれているが、これら樹脂酸をそれぞれ精製して単独で使用するようにしてもよい。
【0057】
本発明では好ましいロジンとしてガムロジンを使用したが、これによって制限をうけるものではない。
【0058】
仮にこの樹脂酸の含有量が0.3重量%未満では、樹脂酸の効果が充分ではなく、最終生成物としての剥離防止及び相溶性の向上を図ることができない。これに対して、この樹脂酸の含有量が1重量%を超えてしまうと、この剥離防止及び相溶性の向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な樹脂酸の添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。即ち、樹脂酸の含有量を1重量%を超えて添加しても、剥離防止及び相溶性の向上はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。このため、樹脂酸の含有量は、0.3〜1.0重量%とされていることが望ましい。
【0059】
また、剥離防止剤の中には滑材としての性能を併せ持つものもあり、これらは前述の剥離防止効果に加えて、施工・転圧時の締め固め性を向上させる滑剤としても働く。
【0060】
脂肪酸又は脂肪酸アミドは、はく離防止剤、並びに滑剤として機能させるために添加されるものである。脂肪酸は、例えばステアリン酸、パルチミン酸、ミリスチン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、リノール酸、リシレノン酸等の不飽和脂肪酸に代表されるものであるがこれに限定されるものではない。
【0061】
脂肪酸アミドは、例えばステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)等に代表されるものであるがこれに限定されるものではない。
【0062】
仮にこの脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量が0.3重量%未満では、効果が充分ではなく、最終生成物としてのはく離防止剤、並びに滑剤として機能の向上を図ることができない。これに対して、この脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量が1重量%を超えてしまうと、このはく離防止剤、並びに滑剤として機能向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な脂肪酸、又は、脂肪酸アミドの添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。即ち、脂肪酸又は脂肪酸アミドの含有量を1重量%を超えて添加しても、はく離防止剤、並びに滑剤としての機能向上はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明で使用した試験方法、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において単に%のみ記載されている場合は、重量%を示すものとする。
【0064】
本発明では、実験的検討を行うために得たサンプルについて、表1〜4に示すように、針入度(25℃)、軟化点、粘度(140℃)、複素弾性率(60℃)、曲げ仕事量(−20℃)、曲げスティフネス(−20℃)、分離試験(140℃)の項目からなる性状試験を行う。また、DS値(60℃)、低温カンタブロ損失量(−20℃)、ダレ量(140℃)の項目からなる混合物性能試験を行う。以下、詳細な試験方法について説明をする。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
針入度(25℃)は、JIS K 2207「石油アスファルト−針入度試験方法」で測定した。この値は40(0.1mm)以上が好ましい。
【0070】
軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト−軟化点試験方法」で測定した。この値は80.0(℃)以上が好ましい。
【0071】
粘度(140℃)は、JPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度140℃、使用スピンドルSC4−21、スピンドル回転数20回転/分で測定した。粘度が2000mPa・sを超えると、その温度において骨材と混合し、混合物を製造することが困難となる。従って、粘度(140℃)は2000mPa・s以下が好ましい。
【0072】
複素弾性率(G*)は、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に規定されているダイナミックシアレオメータ(DSR)試験方法に準拠して測定した。本試験の測定原理は、図1に示すように、測定試料であるアスファルト組成物を2枚の平行円盤2a,2b(直径が25mm)間に挟み、一方の円盤2aに所定の周波数の正弦波歪みを加え、アスファルト組成物1(厚さが1mm)を介して他方の円盤2bに伝わる正弦的応力σを測定し、正弦的応力と正弦波歪から複素弾性率が求められる。
【0073】
本発明において用いた測定条件は、供用中(夏場)の耐久性を評価するために測定温度を60℃とし、アスファルト流動が発生しやすい低いせん断速度で評価するため測定周波数を0.1rad/秒、歪が10%とした。その測定結果に基づき、下記数式(1)から複素弾性率(G*)を求めた。ここで、下記数式(1)におけるγは円盤に加えた最大歪みである。
【0074】
【数1】

【0075】
複素弾性率(G*)は0.1rad/秒の周波数領域においてDS値と相関関係にあることが知られており、混合物を作製することなく、舗装体としての性能をある程度知ることができる。本発明で目的とする複素弾性率(G*)は700Pa以上、好ましくは、1000Pa以上であり、このような値を示すアスファルト組成物は、後述のDS値が6000回/mm、更には9000回/mmの高い値が得られる可能性が高い。しかしながら、この値は目安的なものであり、舗装体としての性能を明らかにするには実際に混合物を作製する必要がある。
【0076】
曲げ仕事量(−20℃)及び曲げスティフネス(−20℃)は改質アスファルトポケットガイド(日本改質アスファルト協会、平成19年1月発行)にて紹介されているバインダ曲げ試験方法(P49〜53)を用いた。
【0077】
バインダ曲げ試験は主に、排水性舗装用アスファルトの積雪寒冷地での適応性について評価するものである。曲げ仕事量(−20℃)は100kPa以上、より好ましくは400kPa以上である。曲げスティフネス(−20℃)は、400MPa以下、より好ましくは100MPa以下である。この値を満たさない場合は、低温域において破断等を起こし、特に積雪寒冷地等での使用に耐えられない。
【0078】
分離試験(140℃)は、内径が5.2cm、高さが13cmのアルミニウム製円筒缶に、深さ12cmの位置まで本発明アスファルト組成物(約250g)を注入して密封し、140℃で48時間加熱した。その後、アルミニウム製円筒缶に注入されているアスファルト組成物の上部4cm、下部4cmにおける軟化点をJISK2207に基づいて測定した。この上部の軟化点と、上部の軟化点と下部の軟化点との差分値の絶対値をとった、即ち軟化点の差分絶対値が、3以下である場合であることが好ましい。従って、表1〜4では軟化点の差分絶対値が、3以下である場合は○とし、3を超える場合は×とした。
【0079】
DS値(動的安定度)は、各改質アスファルト組成物と表5に示す配合の骨材を使用し、混合物に占めるアスファルト量を5.0重量%として作製した縦30cm、横30cm、厚さ5cmのシート状の供試体を使用し、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に規定されているホイールトラッキング試験方法に準拠して行った。日本の道路は、夏場には60℃程度の温度になることが実験的に確認されている。この状態で、その上を車が通過すると、流動変形して轍掘れ等が発生する。ホイールトラッキング試験は、この轍掘れの発生の程度を実験的に確認するために考案された試験であり、舗装材における耐流動性の指標である動的安定度を評価するために実施される試験である。具体的には、60℃に保持された恒温槽の中で、試験体(供試体)上に所定の荷重をかけたタイヤを1時間往復走行させ、その変形量を測定した。
【0080】
DS値(回/mm)は、試験開始後45分から60分までの15分間の変形量(mm)と、試験開始後45分から60分までの15分間のタイヤ走行回数(回)を用いて以下の数式(2)を用いて求める。
【0081】
DS値(回/mm)=(45分〜60分までの間のタイヤ走行回数(回))/(45分〜60分までの間の変形量(mm))・・・・・・・・・(2)
【0082】
このDS値が高いほど、アスファルトの強度が高く、轍掘れに強い舗装材料を提供できることを意味している。前記の舗装調査・試験法便覧にはDS値が6000回/mm以上となった場合は、DS値が6000回/mm以上と報告することになっているが、本発明では実際に得られたDS値を用いた。また、前述の複素弾性率の結果も勘案して、望ましいDS値は5000回/mm以上、好ましくは7000回/mm以上とした。
【0083】
【表5】

【0084】
低温カンタブロ損失量は、以下に説明するカンタブロ試験によって求められる。このカンタブロ試験はポーラスアスファルト混合物の骨材飛散抵抗性を評価する試験で、舗装調査・試験法便覧に記載されている方法に準拠して行なった。マーシャル安定度試験用の供試体を−20℃のロサンゼルス試験機(粗骨材のすり減り試験法に規定する機械)に入れ、鋼球を使用しないでドラムを300回転させ、試験後の損失量を測定した。損失量は数式(3)より算出した。
【0085】
低温域での骨材飛散抵抗性の指標として、−20℃の低温カンタブロ試験による損失率が21.4%以下が望ましいものとしている。これは同じ骨材を使用した際の市販品の値であり、これを下回る場合は現行品よりも低温域において骨材飛散しやすいことを示唆する。
【0086】
損失量(%)={試験前の供試体質量(g)− 試験後の供試体質量(g)}/試験前の供試体質量(g)×100・・・・・・・・・(3)
【0087】
ダレ量は、所定粒度のアスファルト混合物に対して、ある一定量のアスファルトを添加した際の余剰アスファルトモルタル分を判定するために用いる。一般には、排水性舗装の配合設計時に混合温度と同一の温度条件で行い、最適なアスファルト量を設定するものである。本検討では、舗装調査・試験法便覧に記載されている方法に準拠して行い、ダレ量は数式(4)より算出した。なお、ここでいう受け皿とはアスファルト混合物を一層均一に敷きならせる程度の、約42cm×約27cmのものである。
【0088】
ダレ量(%)=[受け皿に付着したモルタル質量(g)−受け皿の質量(g)]/[受け皿と試験前の混合物質量(g)−受け皿の質量(g)]×100・・・・・・(4)
【0089】
140℃におけるダレ量は、1.0%以下が望ましいものとしている。これを上回る場合は、製造時は運搬時にバインダが骨材から垂れ落ちてしまい、設計した舗装体が舗設出来なくなってしまう。
【0090】
(実施例1〜18と比較例1〜9について)
【0091】
以下、本発明を適用した改質アスファルト組成物において、効果を検証するため、改質材としてのスチレン系熱可塑性エラストマーとして、SBS、SBBS、SEBSを使用した実施例と比較例について、詳細に説明をする。
【0092】
表1〜4の実施例1〜18、並びに比較例1〜9に示す配合比率からなる、プロパン脱瀝アスファルト、エキストラクト、スチレン系熱可塑性エラストマー、剥離防止剤からなる試料を準備した。
【0093】
使用したプロパン脱れきアスファルトの性状は、代表的な性状が針入度が8(1/10mm)、軟化点が66.5℃、15℃における密度が1028kg/m3であるものである。また、使用したエキストラクトは、代表的な性状が100℃における動粘度が61.2mm2/s、40℃における動粘度が3970mm2/s、15℃における密度が976.4kg/m3であるのものである。
【0094】
使用したスチレン系熱可塑性エラストマーを表1〜4に示す。スチレン含有量、並びに25%トルエン溶液粘度の異なるSBSを11種類、SBBS(部分水添)については1種類、SEBS(完全水添)については3種類で、合計15種類である。この表1〜4に示される合計15種類のスチレン系熱可塑性エラストマーのうち、上から6段目までが第1のスチレン系熱可塑性エラストマーであり、上から6段目以下が第2のスチレン系熱可塑性エラストマーである。
【0095】
ちなみに、スチレン含有量の測定方法は、ビニル芳香族重合体ブロック(A)の含有量(重量%)=(ベース非水添共重合体中のビニル芳香族重合体ブロック(A)の重量/ベース非水添共重合体の重量)×100から求める。
【0096】
なお、重合体ブロック(A)の水添共役ジエン系共重合体に対する含有率を直接測定する場合には、水添共重合体を検体として、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行う(Y.Tanaka,et al.,RUBBER CHEMISTRY and TECHNOLOGY 54,685(1981))。
【0097】
また、25%トルエン溶液粘度の測定方法は、例えば特開2008−31267号公報等に記載されている方法を用いた。即ち、溶媒にトルエンを使用し、所定の試料を溶液の25重量%溶かしたものを、25℃にてブルックフィールド(BL)型粘度計により測定するものである。
【0098】
使用した樹脂酸は、骨材との剥離防止剤及び相溶化剤として用いたもので、酸価156(mgKOH/g:JIS K0070)、軟化点77.0℃(JIS K2207)の不均化ガムロジンである。このガムロジンは、採取した生松脂をろ過して不純物を除去し、その後、蒸留することにより、低沸点成分のテレピン油を分離して得られるロジンである。このガムロジンは、一般的に、アビエチン酸が20〜40重量%、ネオアビエチン酸が15〜25重量%、パラストリン酸が20〜30重量%、ピマール酸が3〜8重量%、イソピマール酸が10〜20重量%、デヒドロアビエチン酸が3〜8重量%含まれている。本実施例では、このガムロジンを添加する場合において、組成物全体に対する含有量を0.5重量%としている。
【0099】
また、使用した脂肪酸アミドは、骨材との剥離防止剤および滑剤として用いたもので、エチレンビスステアリン酸アミド(EBS)であり、組成物全体に対する含有量を0.5重量%としている。
【0100】
上述した構成からなる本発明の評価用ポリマー改質アスファルト組成物を作成した方法について以下で述べる。
【0101】
プロパン脱瀝アスファルトを150℃程度の温度溶融した状態で、エキストラクトが上述した配合比率となるように混合し、同様な手順にて上述したスチレン系熱可塑性エラストマーからなる改質剤を添加し、更に、上述したガムロジンを添加しする。混合時のホモミキサーで温度は170〜215℃、回転数を1500〜5000回転/分として3〜5時間程度、混合並びに攪拌した。
【0102】
作製したポリマー改質アスファルト組成物についてそれぞれ測定した物性を表1に示す。物性の測定項目は、性状試験と、混合物性能試験に大別される。性状試験では、針入度(0.1mm)、軟化点(℃)、140℃における粘度(mPa・s)、複素弾性率G*、曲げ仕事量(kPa)、曲げスティフネス(MPa)、140℃×48時間の分離試験(25℃での軟化点の差分絶対値が3以下であれば○、3超であれば×)の各項目について試験を行っている。また、混合物性能試験では、60℃におけるDS値、−20℃における低温カンタブロ損失量、140℃におけるダレ量について試験を行っている。
【0103】
これら測定する各物性値において、本発明で好ましい範囲は以下に示すとおりである。
【0104】
針入度(25℃)及び軟化点は、日本改質アスファルト協会の定める、排水性舗装用ポリマー改質アスファルトの品質規格のうち、針入度(25℃)が40以上、軟化点80℃以上を満たす。
【0105】
粘度(140℃)は、2000mPa.s以下とされている。この値を超えてしまうと、粘度が高すぎて、その温度での施工が困難になる。
【0106】
高温域におけるアスファルトの剛性の目標値は、DSR(60℃) で測定した複素弾性率(G*)を指標とした場合に、700以上とした。この値未満となると、剛性が低く充分な舗装強度を保てない。
【0107】
低温域におけるアスファルトの柔軟性の目標値は、−20℃のバインダ曲げ試験によって得られる曲げ仕事量を100kPa以上、曲げスティフネスを400Mpa以下とした。この値を満たさない場合は、低温域において破断等を起こし、特に積雪寒冷地等での使用に耐えられない。
【0108】
加熱貯蔵中における安定性は分離試験(140℃)で測定した。上部の軟化点と、上部の軟化点と下部の軟化点との差分値の絶対値をとり、差分絶対値が3以下である場合は○とし、3を超える場合は×とした。
【0109】
夏季のわだち掘れのしにくさの指標として、ホイールトラッキング試験結果より得られるDS値が5,000回/mm以上とした。排水性舗装として求められる値であり、これを下回る場合はわだち掘れしやすいことを示唆する。
【0110】
低温域での骨材飛散抵抗性の指標として、−20℃の低温カンタブロ試験による損失率が21.4%以下が望ましいものとしている。これは同じ骨材を使用した際の市販品の値であり、これを下回る場合は現行品よりも低温域において骨材飛散しやすいことを示唆する。
【0111】
140℃におけるダレ量は、1.0%以下が望ましいものとしている。これを上回る場合は、製造時は運搬時にバインダが骨材から垂れ落ちてしまい、設計した舗装体が舗設出来なくなってしまう。
【0112】
実施例1〜18は、スチレン系熱可塑性エラストマー全重量に対するスチレン含有量並びに25%トルエン溶液粘度、更には、改質アスファルト全体に対する、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率が、共に本発明において規定した第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの範囲内にある。
【0113】
これにより、実施例1〜18は、何れも140℃粘度が2000mPa・s以下、140℃でのダレ損失量が1.0重量%以下であり、また、同時に道路舗装として必要な強度を維持する観点からは、複素弾性率G*が700Pa以上かつDS値が5000回/mm以上、曲げ試験(−20℃)による曲げ仕事量が100kPa以上、曲げスティフネスが400MPa以下である。
【0114】
これに対して、比較例1は一般的に使用されているポリマー改質アスファルトH型の性状である。比較例2〜9は、スチレン系熱可塑性エラストマー全重量に対するスチレン含有量並びに25%トルエン溶液粘度、更には、改質アスファルト全体に対する、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量のいずれか1つ以上が、本発明において規定した第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの範囲から逸脱している。
【0115】
なお、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレン含有量31%、25%トルエン溶液粘度4000mPa・sのSBSはポリマー改質アスファルトの原料として、一般的に用いられるSBSである。
【0116】
それ以外のスチレン系熱可塑性エラストマーは、本発明の課題を解決するための検討に選定したものである。
【0117】
比較例2〜4は、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は本発明において規定した範囲内であるが、目的とする性能が発現できず、特に曲げ仕事量又は曲げスティフネスが低くなっている。
【0118】
比較例2で示す、スチレン含有量30%,トルエン溶液粘度1700mPa・sの低分子量のSBSを使用した結果では、現行品と比べて粘度の低下、低温性状の向上が見られるものの、剛性、DS値の著しい低下が起こり、舗装体としての性能を満足できない。
【0119】
比較例3に示す、スチレン含有量45%、25%トルエン溶液粘度172mPa・sのSBBSを使用した結果では、現行品と比べて粘度の低下、剛性、DS値の向上が見られるものの、低温性状が悪く、目的とする性能を満足できない。
【0120】
比較例4に示す、スチレン含有量45%、25%トルエン溶液粘度172mPa・sのSBBSを5重量%、一般的に使われるSBSを5重量%使用した結果においても、比較例3と同様の結果であった。即ち、一般的なSBSを合わせて用いることによって、低温性状を改善するには至らなかった。
【0121】
一方、実施例1〜3においては、スチレン含有量30%、トルエン溶液粘度1700mPa・sの低分子量のSBSと組み合わせることによって、低温性状を改善している。
【0122】
実施例1では、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、スチレン含有量45%、25%トルエン溶液粘度172mPa・sのSBBSを5重量%と、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、スチレン含有量30%、トルエン溶液粘度1700mPa・sの低分子量のSBSを組み合わせた。これにより、比較例1に示す、ポリマー改質アスファルトH型市販品の半分以下の粘度とし、且つ剛性、DS値、低温性状を目標の範囲内とすることが出来た。
【0123】
実施例2では、スチレン系熱可塑性エラストマーの配合は実施例1と同一としつつ、剥離防止剤として、エチレンビスステアリン酸アミド(EBS)を0.5重量%添加した。EBSは剥離防止の効果に加えて、滑剤としての効果もあり、粘度を若干低下することができる。これによって、他の性状をほぼ維持したまま、さらに粘度を低下することが出来た。
【0124】
実施例3では、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとしてスチレン含有量45%、25%トルエン溶液粘度170mPa・sのSBS5重量%と、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、スチレン含有量30重量%、トルエン溶液粘度1700mPa・sの低分子量のSBSを組み合わせた。これも目標とする性能を満たした。
【0125】
実施例4〜7及び比較例5、6は第1及び第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを配合する割合について検討したものである。
【0126】
この実施例4〜7及び比較例5、6では、何れも第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとしてスチレン含有量30重量%、トルエン溶液粘度1700mPa・sの低分子量のSBS、また第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、スチレン含有量45%、25%トルエン溶液粘度170mPa・sのSBSを組み合わせてなるものであって、その配合比率をともに本発明において規定した範囲内又は範囲外としたものである。
【0127】
実施例4〜7は目標とする性能を満足した一方、比較例5、6では目標とする性能を満足出来なかった。即ち、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー又は第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの何れかの配合比率が2.5重量%未満では、低温性能の悪化や剛性の低下等、それぞれの持つ欠点が顕在化し、目標とする性能を満足出来なかった。なお、実施例4〜7との間では、特に曲げ仕事量の点において実施例7の方が実施例4よりも優れているのが分かる。即ち、実施例7のように、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率を第2のスチレン系熱可塑性エラストマー以上とすることにより、低温性状を飛躍的に向上させることができることが分かる。
【0128】
実施例8〜12及び比較例7は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率を7.5重量%とし、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率を2.5重量%とした上で、その第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有比率、トルエン溶液粘度を変えて検討を行っている。
【0129】
中でも実施例9、10、11は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が28.5〜30.5重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が1300〜2000mPa・sの範囲にあるため、特に耐轍掘れ性(DS値)や低温カンタブロ損失量を保ちながら、かつ、粘度が低い。
【0130】
実施例8〜12は、目標とする性能を満足した一方、比較例7では目標とする性能を満足出来なかった。即ち、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーについては、25%トルエン溶液粘度が3000mPa・s以上となった際に、粘度増加が顕著になり、本発明の目的とする140℃での製造・舗設が難しくなった。また、低温性状も著しく悪化した。
【0131】
実施例11、13〜18及び比較例8、9は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率を7.5重量%とし、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率を2.5重量%とした上で、その第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン含有比率、トルエン溶液粘度を変えて検討を行っている。
【0132】
実施例11、13〜18は、目標とする性能を満足した一方、比較例8、9では目標とする性能を満足出来なかった。即ち、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーついては、SBSではスチレン含有比率が75重量%以上となった際に、またSEBSではスチレン含有量が67重量%以上となった際に、柔軟性が著しく失われ、低分子量のSBSを用いても低温性状を改善することができなくなった。また、柔軟性が減少したことによって、舗装体としても脆くなってしまい、DS値も著しく減少していることが示されている。
【0133】
中でも実施例11、13、14、17、18は、スチレン含有量が40〜46重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1000mPa・sの範囲にあるため、曲げ仕事量や、低温カンタブロ損失量に示される低温性状に特に優れる。また、これらの性状には、SBS、SEBS及びSBBSというスチレン系熱可塑性エラストマーの種類の違いによって、大きな性状差を生じることはなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン含有量が20〜40重量%未満の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと、
スチレン含有量が40〜60重量%の範囲にあり、25%トルエン溶液粘度が150〜3000mPa・sの範囲にある第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有し、
上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計がアスファルト組成物全体に対して8〜12重量%であり、更に上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの重量比が23:77〜83:17であることを特徴とするポリマー改質アスファルト組成物。
【請求項2】
剥離防止剤を0.3〜1.0重量%含有することを特徴とする請求項1記載のポリマー改質アスファルト組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116897(P2012−116897A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265655(P2010−265655)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】