説明

ポリマー改質アスファルト組成物

【課題】高速道路や交差点部流入部や大型車の交通量が多い場所など、負荷がかかりやすい場所においても、空隙潰れや轍ぼれ、骨材飛散等、舗装体の損傷の発生を防止し、さらにポリマー改質アスファルトH型と同等の温度条件で、製造・舗設が可能なポリマー改質アスファルトを提供する。
【解決手段】ベースアスファルトと、スチレン含有量が35〜70重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1500mPa・sの範囲にあるSBS及びSBBSから選ばれる少なくともを1種類を含有したスチレン系熱可塑性エラストマー:13〜19重量%と、を含有する。このとき、剥離防止剤0.3〜1.0重量%を更に含有するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久型の排水性舗装に適した、低粘度、かつ、高強度を発現できるポリマー改質アスファルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスファルトは道路舗装及び防水等の幅広い分野で使用されている。アスファルト組成物の用途の1つに、舗装表面から雨水を効果的に排水させることが可能な排水性舗装がある。排水性舗装は高速道路や一般道で多く施工され、走行時の安全確保や騒音対策に大きく貢献している。
【0003】
排水性舗装は雨水を舗装表面から基層に通すために骨材と骨材の間に空隙をもたせる必要がある。このため、骨材同士の接触点が少なくなっても、骨材同士を強固に接着する骨材の把握力が大きいバインダを使用する必要がある。
【0004】
かかる見地から、熱可塑性エラストマー等の改質剤を10重量%程度添加したポリマー改質アスファルトが開発され、日本改質アスファルト協会でポリマー改質アスファルトH型として、品質規格を定めている。
【0005】
しかし、ポリマー改質アスファルトH型を使用した排水性舗装において、高速道路や交差点流入部や大型車の交通量が多い箇所等のより負荷のかかりやすい場所では、空隙潰れや轍ぼれ、骨材飛散等、舗装体の損傷が発生している。このような舗装体の損傷によって、排水性舗装において期待される排水性能を発揮させることができず、雨天時の対向車や歩行者への撥水、走行時のハンドル捉られ、滑り止め効果の減少や走行の悪化といった、交通安全上無視できない問題が起こっている。
【0006】
これらの問題を解決するために、上述した排水機能を維持しつつポリマー改質アスファルトH型よりも熱可塑性エラストマーの配合量を増加させることで複素弾性率等の力学的強度を高めた、高耐久性の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトが開発され、製品化されている。
【0007】
しかしながら、アスファルトの溶融粘度は熱可塑性エラストマーの配合量に比例してアスファルトの粘度が高くなる。このため、高耐久性の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトは、ポリマー改質アスファルトH型と同じ温度条件では製造・舗設の際の作業効率が著しく悪い。
【0008】
従って、高耐久性の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトは、特に冬場等において、ポリマー改質アスファルトH型の製造・舗設時の温度条件よりも10℃以上高い温度条件で運用することで、溶融粘度を低下させ作業性を確保していた。
【0009】
しかしながら、特に冬季では、合材プラントで製造された混合物を舗装現場まで運搬する間に外気温の影響により、想定以上に温度が低下することが多い。このような場合、粘度が増加するため施工性が著しく悪化し、施工現場での取り扱いが困難になる。
【0010】
このような問題点を解決するため、混合温度をさらに高くして、輸送中の冷却による施工性の悪化を防ぐ手法がとられることが多い。しかし、かかる手法を採用した場合には、アスファルトの溶融粘度が低下しすぎてしまい、アスファルトが骨材からダレ落ち、設計したアスファルト量以下となってしまう問題が起きることが多い。このような場合、舗装体としての性能が著しく低下し、高耐久性が発現できない問題が起きる。
【0011】
即ち、高耐久性の排水性舗装用ポリマー改質アスファルトは、製造・舗設時の温度コントロールが非常に難しい点が課題となっていた。
【0012】
以上のような、溶融粘度が高いことに起因した製造・舗設時の作業性について生じる問題点を解決するため、近年において以下に示す技術が提案されている。
【0013】
先ず、特許文献1、2には、泡系材料を添加し、アスファルト中に微細な気泡を発生させることによるベアリング効果を利用した技術が開示されている。
【0014】
また特許文献3には、アスファルト中に水または水蒸気などを添加し、泡を発生させ粘度を低下させる技術が開示されている。
【0015】
更には、特許文献4、5には、アスファルトの粘度を低減させる添加剤(中温化材)を使用する技術が開示されている。
【0016】
しかしながら、この特許文献1〜3の開示技術は、発泡時間を確保するため、アスファルト混合物の製造時に1バッチ(大半の加熱式アスファルト混合物製造所は、1トン〜4トン/1バッチ)ごとに添加剤あるいは水分を含有する物質を添加する必要がある。このため、かかる開示技術では、製造時間が異なる混合物の間で品質のばらつきが生じやすい。さらに、添加剤あるいは水分を含有する物質を人力により投入しなければならないため、工事に使用するアスファルト混合物が大量であれば多大な労力を必要とするとともにアスファルト混合物の生産能力の低下を招くこととなる。
【0017】
また、特許文献4、5の開示技術にあるアスファルトの粘度低減剤として用いられる添加剤として、石油系ワックス、合成系ワックスが検討されているが、これらは舗装材の性能低下を招くことがあるため別途補強材の添加を必要とするなどの問題が有る。また、アスファルト中における熱可塑性エラストマーの相溶性を悪化させ、貯蔵安定性が低下する傾向があり、別途相溶化剤の添加を必要とするなどの問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−131321号公報
【特許文献2】特開2002−332606号公報
【特許文献3】特開2001−64065号公報
【特許文献4】特開2006−57077号公報
【特許文献5】特表2002−538231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、ポリマー改質アスファルトH型と同等以上の製造・舗設における作業効率を維持しつつ、高耐久性排水性舗装として望まれる性能を発現できるポリマー改質アスファルト組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決するために、本発明者らは、ポリマー改質アスファルトに必須成分として添加するスチレン系熱可塑性エラストマー自体を最適化することにより、高耐久性排水性舗装として求められる性能が得られ、且つ、バインダの溶融粘度が下がることに着目し、鋭意検討を行った。
【0021】
その結果、スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレン含有量と25%トルエン溶液粘度の性状が、ポリマー改質アスファルトの溶融粘度や舗装体としての強度に影響を及ぼすことを見出し、上述した従来の課題を解決し得るポリマー改質アスファルト組成物を発明するに至った。
【0022】
請求項1記載のポリマー改質アスファルト組成物は、ベースアスファルトと、スチレン含有量が35〜70重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1500mPa・sの範囲にあるSBS及びSBBSから選ばれる少なくとも1種類を含有したスチレン系熱可塑性エラストマー:13〜19重量%と、を含有することを特徴とする。
【0023】
請求項2記載のポリマー改質アスファルト組成物は、請求項1記載の発明において、剥離防止剤:0.3〜1.0重量%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
上述した構成からなる本発明に係るポリマー改質アスファルトにより、高耐久性排水性舗装に求められる性能、すなわち、耐流動性(DS値)、低温時の骨材飛散(低温カンタブロ損失量)、耐水性(残留安定度)、ダレ性(ダレ試験)を保持しつつ、かつ、ポリマー改質アスファルトH型と比較して同等以下の低粘度の物性とすることが可能となる。このため本発明では、従来のポリマー改質アスファルトH型の製造・舗設時の温度条件と同等以下の温度条件で製造・舗設が可能となり、作業性、取扱性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】動的粘弾性試験機の測定部を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態として、ポリマー改質アスファルト組成物について、詳細に説明する。
【0027】
以下、本発明を適用したポリマー改質アスファルト組成物は、ベースアスファルト、スチレン含有量が35〜70重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1500mPa・sの範囲にあるSBS、SBBSを1種類以上含有したスチレン系熱可塑性エラストマー:13〜19重量%、を含有する。このとき、剥離防止剤0.3〜1.0重量%含有するものであってもよい。
【0028】
以下、本発明を適用したポリマー改質アスファルト組成物の各構成要素の詳細並びに数値限定理由について説明する。
【0029】
ベースアスファルト
【0030】
本発明におけるアスファルトとしては、例えば、ストレートアスファルト(JIS K 2207 参照)、ブローンアスファルト(JIS K 2207 参照)、セミブローンアスファルト(「アスファルト舗装要綱」,社団法人日本道路協会発行,平成9年1月13日,p.51,表−3.3.4 参照)、溶剤脱瀝アスファルト(「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.308 参照)等のアスファルト又はこれらの混合物、並びにこのような各種アスファルトに芳香族系重質鉱油等が添加されたもの等を使用することができる。
【0031】
本発明ではアスファルトの針入度グレードごとに検討し、ストレートアスファルト60/80〜100/120相当品まで使用することができる。
【0032】
一般に針入度グレードが低いほど、DS値に代表される機械的強度が高いが、一方で曲げ仕事量と曲げスティフネスに代表される低温性状が悪くなる。
【0033】
また、本発明では使用するベースアスファルトとしては、溶剤脱瀝アスファルトに芳香族系重質鉱油を添加したアスファルトが好ましい。
【0034】
溶剤脱瀝アスファルトとしては、プロパン、または、プロパンとブタンを使用したプロパン脱瀝アスファルトが好ましい。
【0035】
芳香族系重質鉱油としては、石油系溶剤抽出油やJISK6200に規定されている、芳香族炭化水素を少なくとも35質量%含むアロマ系の炭化水素系プロセスオイル等や、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱瀝して得られた溶剤脱瀝油を更にフルフラール等の極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、ブライトストック(重質潤滑油)を得る際の溶剤抽出油、すなわち、エキストラクトがある。
【0036】
本発明では、芳香族重質鉱油としては、エキストラクトを添加することが好ましい。
【0037】
本発明におけるエキストラクトの役割は、熱可塑性エラストマーのアスファルトへの溶解性を高め、貯蔵安定性において分離させないようにするもので、熱可塑性エラストマーの添加量が多いとエキストラクトの必要な添加量も増加する。また、熱可塑性エラストマーの添加量に対して必要以上のエキストラクトを添加すると強度が低下する。
【0038】
アスファルト組成物全体に対するベースアスファルトの含有量は、87〜80重量%とされていることが望ましい。
【0039】
アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は、針入度、軟化点、貯蔵安定性、強度を示す複素弾性率とホイールトラッキング試験における動的安定度(DS値)、及び、低温性状を示す低温カンタブロ損失量を考慮して決められるが、本発明で検討した範囲では、アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は20〜27重量%が好ましい。
【0040】
スチレン系熱可塑性エラストマー
【0041】
本発明のポリマー改質アスファルト組成物に用いるスチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)及び、SBS中のブタジエンブロックのビニル基を選択的に水素添加したスチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)のうち、以下に規定するもの、少なくとも1種類を配合に含む。
【0042】
なお、ここでSBBSは、SBS中のブタジエンブロックのビニル基を選択的に水素添加することによって、製造、加工、使用時における熱、光、機械的せん断などの耐熱性・耐候性に優れた性能を持つものである。SBS中のポリブタジエンブロックには、1,4-シス結合、1,4-トランス結合、1,2‐結合があり、それぞれに残った不飽和二重結合は熱や紫外線によって損傷しやすい。そこで、SBSの不飽和二重結合を水素添加し、耐熱性と耐候性を付与したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が開発され、上記問題を解決する配合が可能になった。しかしながら、水素添加によって、分子鎖の屈曲性が変化することで、SEBSはSBSに比べて低温域における性能が低く、ポリマー改質アスファルトとして使用した際には、積雪寒冷地でのひび割れや石飛び等の原因となる問題点があった。
【0043】
この問題点を鑑み、改良したのがSBBSである。これは、1,4-シス結合、1,4-トランス結合、1,2結合のうち、一番反応性が高く、ゲル化の原因となりやすい1,2結合を選択的に水添処理したものである。これにより、主鎖中の二重結合を残すことで、分子鎖の屈曲性を保持したまま、耐熱性・耐候性を大きく向上することができる。
【0044】
従って、SBBSはSBSと低温性能や加工性、その添加による改質効果がほぼ同一である。つまり、SBBSは耐熱性・耐候性を向上させつつ、その他の物性はSBSとほぼ同程度の熱可塑性エラストマーである。
【0045】
SBS、SBBSは、スチレン含有量が35〜70重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1500mPa・sの範囲にある必要があり、好ましくは、スチレン含有量は35〜55重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜1000mPa・s、より好ましくは、スチレン含有量は39〜46重量%、且つ、25%トルエン溶液粘度150〜700mPa・sである。
【0046】
前記SBS及びSBBSは、スチレン含有量を高くすることを特徴としている。従来使用していた、スチレン含有量を30重量%程度のSBS及びSBBSよりも、スチレン含有量を高めることによって、直鎖成分の多いポリブタジエンブロックの比率を低くし、ポリマー全体の分子長をより短くしており、これによってアスファルト組成物に与える増粘効果が従来のものと比べて低くなる。また、嵩高い芳香族基が結合されてなるポリスチレンブロックの含有比率を増大させることにより、SBS及びSBBS自体の剛性を向上させることが可能となり、改質アスファルト組成物自体の複素弾性率やDS値、ひいては強度を始めとした機械的特性を向上させることが可能となる。
【0047】
ここで、SBS及びSBBSにおけるスチレン含有量が35重量%未満であると、ブタジエンブロックの割合が大きくなり、粘度が増加する。そのため、高耐久性排水性舗装用ポリマー改質アスファルトの配合に用いると、製造・舗設時において、一般排水性と同等の温度では作業性が悪化してしまう。
【0048】
一方、スチレン含有量が70重量%を超えると、スチレンはブタジエン等の直鎖成分と比べてガラス転移温度が高く、低温域においては破断しやすいことから低温性状を低下させてしまう。また、ブタジエン等の直鎖成分のもたらす柔軟性の効果が少なくなることから、アスファルト組成物の弾性力がなくなり、機械的特性を劣化させてしまう要因にもなる。
【0049】
このため、SBS及びSBBSにおけるスチレン含有量は、35〜70重量%とされている必要がある。
【0050】
また、SBS及びSBBSにおけるスチレン含有量の上限が55重量%とすることにより、上述した低温性状の低下をより防止することができ、しかも直鎖成分のもたらす柔軟性の効果をより向上させることによるアスファルト組成物の弾性力の向上、ひいては機械的特性の劣化防止をより確実に実現することが可能となる。
【0051】
更にSBS及びSBBSにおけるスチレン含有量を39〜46重量%とすることにより、粘度の増加抑制と、アスファルト組成物の機械的特性の向上の双方をより効果的にバランスよく実現することが可能となる。
【0052】
また、SBS及びSBBSにおける25%トルエン溶液粘度が150mPa・sより小さい場合は、分子量が低くなりすぎることにより、充分な改質効果が得られなくなるため好ましくない。
【0053】
一方、SBS及びSBBSにおける25%トルエン溶液粘度が1500mPa・sより大きい場合は、分子量が高くなりすぎることにより、得られるアスファルト組成物の粘度が著しく上昇してしまい、製造・舗設が困難となるため好ましくない。
【0054】
また、このSBS及びSBBSにおける25%トルエン溶液粘度の上限を1000mPa・sとすることにより、分子量が大きくなることによる粘度の増加を効果的に抑制することで取扱容易性をより好適なものとすることが可能となる。また、このSBSにおける25%トルエン溶液粘度の上限を700mPa・sとすることにより、その効果を更に増強させてより好適な性状とすることが可能となる。
【0055】
上述したSBS及びSBBSの添加量は、アスファルト組成物全体に対して13〜19重量%、好ましくは13〜18重量%、より好ましくは15〜18重量%としている。ここでいう添加量は、上述したSBS又はSBBSのみを添加する場合には、それぞれのSBS、SBBSの添加量を意味するが、SBSとSBBSを混合する場合には、その合計の添加量を意味するものである。
【0056】
ここで、SBS及びSBBSの配合量が13重量%未満の場合、改質効果が低く高耐久性排水性舗装用ポリマー改質アスファルトとしての機械的特性等が得られない。一方、配合量が19重量%を超える場合は、改質効果が高く、機械的特性等に優れるが、増粘効果が高く目的とする施工性が得られない。
【0057】
また、このSBS及びSBBSの添加量の上限を、アスファルト組成物全体に対して18重量%以下とすることにより、増粘効果をより低減させることが可能となり、例えば180℃における粘度を700mPa・s程度まで低減させることが可能となり、施工性、取扱容易性を向上させることが可能となる。
【0058】
更に、このSBS及びSBBSの添加量の下限をアスファルト組成物全体に対して15重量%以上とすることにより、得られるアスファルト組成物の機械的特性をより好適なものとすることが可能となる。
【0059】
なお、本発明では、上述した物性の範囲内にあるSBS又はSBBSを添加する場合に限定されるものではなく、SBS及びSBBSの双方を添加するようにしてもよい。このSBS及びSBBSとが混合された熱可塑性エラストマーが、13〜19重量%添加されていればよい。つまり上述した物性の範囲内にあるSBS及びSBBSから選ばれる少なくとも1種類を含有したスチレン系熱可塑性エラストマーが13〜19重量%含有されていればよい。
【0060】
剥離防止剤
【0061】
本発明では、アスファルト組成物と骨材の剥離を防止するために、剥離防止剤を添加することが好ましい。
【0062】
剥離防止剤として樹脂酸が好適に使用できるが、樹脂酸とはカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンであって、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸のうち何れか1種以上を含有するロジンのことである。
【0063】
ここでロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどが使用される。これらロジンは、原産地、原材料、採取方法の違いにより上述したガムロジン、ウッドロジン等の如き分類が可能となるが、少なくとも松脂の水蒸気蒸留時の残渣成分として得られるものである。このロジンでは、成分としてアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、サンダラコピマール酸、イソピマール酸等を含む混合物である。このロジンは、通常約80℃で軟化し、90〜100℃で溶融する。なお、ロジン中にはアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸などの各種樹脂酸が含まれているが、これら樹脂酸をそれぞれ精製して単独で使用するようにしてもよい。
【0064】
本発明では好ましいロジンとしてガムロジンを使用したが、これによって制限をうけるものではない。
【0065】
また、樹脂酸の多くは、相溶性の向上の効果を併せ持つものが多い。
【0066】
仮にこの樹脂酸の含有量が0.3重量%未満では、樹脂酸の効果が充分ではなく、最終生成物としての剥離防止及び相溶性の向上を図ることができない。これに対して、この樹脂酸の含有量が1重量%を超えてしまうと、この剥離防止及び相溶性の向上という効果が飽和してしまうばかりでなく、高価な樹脂酸の添加量が増加することによる原料コストの上昇が著しくなるという問題が生じる。即ち、樹脂酸の含有量を1重量%を超えて添加しても、剥離防止及び相溶性の向上はこれ以上大幅に向上するものではなく、却って原料コストの面において不利となる。このため、樹脂酸の含有量は、0.3〜1.0重量%とされていることが望ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明で使用した試験方法、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において単に%のみ記載されている場合は、重量%を示すものとする。
【0068】
本発明では、実験的検討を行うために得たサンプルについて、表1に示すように、針入度(25℃)、軟化点、粘度(180℃)、複素弾性率(60℃)、分離試験(170℃、72時間)の項目からなる性状試験を行う。また、ホイールトラッキング試験(60℃)、低温カンタブロ試験(−20℃)、マーシャル安定度試験(60℃)、水浸マーシャル安定度試験(60℃)、ダレ試験(170℃)の項目からなる混合物性能試験を行う。以下、詳細な試験方法について説明をする。
【0069】
【表1】

【0070】
針入度(25℃)は、JIS K 2207「石油アスファルト−針入度試験方法」で測定した。この値は40(0.1mm)以上が好ましい。
【0071】
軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト−軟化点試験方法」で測定した。この値は80.0(℃)以上が好ましい。
【0072】
粘度(180℃)は、JPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度180℃、使用スピンドルSC4−21、スピンドル回転数20回転/分で測定した。粘度が2000mPa・sを超えると、その温度において骨材と混合し、混合物を製造することが困難となる。従って、粘度(180℃)は2000mPa・s以下が好ましい。
【0073】
複素弾性率(G*)は、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に規定されているダイナミックシアレオメータ(DSR)試験方法に準拠して測定した。本試験の測定原理は、図1に示すように、測定試料であるアスファルト組成物を2枚の平行円盤2a,2b(直径が25mm)間に挟み、一方の円盤2aに所定の周波数の正弦波歪みを加え、アスファルト組成物1(厚さが1mm)を介して他方の円盤2bに伝わる正弦的応力σを測定し、正弦的応力と正弦波歪から複素弾性率が求められる。
【0074】
本発明において用いた測定条件は、供用中(夏場)の耐久性を評価するために測定温度を60℃とし、アスファルト流動が発生しやすい低いせん断速度で評価するため測定周波数を0.1rad/秒、歪が10%とした。その測定結果に基づき、下記数式(1)から複素弾性率(G*)を求めた。ここで、下記数式(1)におけるγは円盤に加えた最大歪みである。
【0075】
【数1】

【0076】
複素弾性率(G*)は0.1rad/秒の周波数領域においてDS値と相関関係にあることが知られており、混合物を作製することなく、舗装体としての性能をある程度知ることができる。
【0077】
本発明で目的とする複素弾性率(G*)は2000Pa以上、好ましくは、2500Pa以上であり、このような複素弾性率(G*)の値を示すアスファルト組成物は、後述のDS値が6000回/mm、更には7000回/mmの高い値が得られる可能性が高い。しかしながら、この値は目安的なものであり、舗装体としての性能を明らかにするには実際に混合物を作製する必要がある。
【0078】
分離試験(170℃)は、内径が5.2cm、高さが13cmのアルミニウム製円筒缶に、深さ12cmの位置まで本発明アスファルト組成物(約250g)を注入して密封し、170℃で72時間加熱した。その後、アルミニウム製円筒缶に注入されているアスファルト組成物の上部4cm、下部4cmにおける軟化点をJISK2207に基づいて測定した。この上部の軟化点と下部の軟化点との差分値の絶対値をとった、即ち軟化点の差分絶対値が、3以下である場合であることが好ましい。従って、表1では軟化点の差分絶対値が、3以下である場合は○とし、3を超える場合は×とした。
【0079】
DS値(動的安定度)は、各改質アスファルト組成物と表2に示す配合の骨材を使用し、混合物に占めるアスファルト量を5.0重量%として作製した縦30cm、横30cm、厚さ5cmのシート状の供試体を使用し、舗装調査・試験法便覧(社団法人 日本道路協会編)に規定されているホイールトラッキング試験方法に準拠して測定した。日本の道路は、夏場には60℃程度の温度になることが実験的に確認されている。この状態で、その上を車が通過すると、流動変形して轍掘れ等が発生する。ホイールトラッキング試験は、この轍掘れの発生の程度を実験的に確認するために考案された試験であり、舗装材における耐流動性の指標である動的安定度を評価するために実施される試験である。具体的には、60℃に保持された恒温槽の中で、試験体(供試体)上に所定の荷重をかけたタイヤを1時間往復走行させ、その変形量を測定した。
【0080】
DS値(回/mm)は、試験開始後45分から60分までの15分間の変形量(mm)と、試験開始後45分から60分までの15分間のタイヤ走行回数(回)を用いて以下の数式(2)を用いて求める。
【0081】
DS値(回/mm)=(45分〜60分までの間のタイヤ走行回数(回))/(45分〜60分までの間の変形量(mm))・・・・・・・・・(2)
【0082】
このDS値が高いほど、アスファルトの強度が高く、轍掘れに強い舗装材料を提供できることを意味している。前記の舗装調査・試験法便覧にはDS値が6000回/mm以上となった場合は、DS値が6000回/mm以上と報告することになっているが、本発明で、より高い舗装強度が求められるため、実際に得られたDS値を用いた。また、前述の複素弾性率の結果も勘案して、望ましいDS値は6000回/mm以上、好ましくは7000回/mm以上とした。
【0083】
【表2】

【0084】
マーシャル安定度は、各改質アスファルト組成物と表2に示す配合の骨材を使用し、混合物に占めるアスファルト量を5.0重量%として作製した供試体を使用し、舗装調査・試験法便覧に記載されているマーシャル安定度試験方法に準拠して測定した。同様に、水浸マーシャル安定度も測定した。これは、供試体を60℃の温水に48時間浸水養生させてからマーシャル安定度試験を行うものである。なお、マーシャル安定度と水浸マーシャル安定度から数式(3)を用いて残留安定度(%)が算出できる。
【0085】
残留安定度(%)=水浸マーシャル安定度(kN))/マーシャル安定度(kN))・・・・・・・・・(3)
【0086】
この、マーシャル安定度は、粗・細骨材とアスファルトの配合割合を決定するために行われる試験であり、この値が高いほど、高温における流動や波状の変形をしにくいことを表す。本発明に望ましいマーシャル安定度は4.5kN以上ある。
【0087】
また、水浸マーシャル安定度は、耐水性を評価する試験であり、本発明で望ましい残留安定度は75%以上、より好ましくは80%以上である。
【0088】
低温カンタブロ損失量は、以下に説明するカンタブロ試験によって求められる。このカンタブロ試験はポーラスアスファルト混合物の骨材飛散抵抗性を評価する試験で、舗装調査・試験法便覧に記載されている方法に準拠して行なった。マーシャル安定度試験用の供試体を−20℃のロサンゼルス試験機(粗骨材のすり減り試験法に規定する機械)に入れ、鋼球を使用しないでドラムを300回転させ、試験後の損失量を測定した。損失量は数式(4)より算出した。
【0089】
損失量(%)={試験前の供試体質量(g)− 試験後の供試体質量(g)}/試験前の供試体質量(g)×100・・・・・・・・・(4)
【0090】
低温カンタブロ損失量は、積雪寒冷地等の舗装体の骨材飛散抵抗性を評価するものである。本発明で望ましくは20%以下より好ましくは15%以下である。
【0091】
ダレ量は、所定粒度のアスファルト混合物に対して、ある一定量のアスファルトを添加した際の余剰アスファルトモルタル分を判定するために用いる。一般には、排水性舗装の配合設計時に混合温度と同一の温度条件で行い、最適なアスファルト量を設定するものである。本検討では、舗装調査・試験法便覧に記載されている方法に準拠して行い、温度条件を170℃とし、ダレ量は数式(5)より算出した。なお、ここでいう受け皿とはアスファルト混合物を一層均一に敷きならせる程度の、約42cm×約27cmのものである。
【0092】
ダレ量(%)=[受け皿に付着したモルタル質量(g)−受け皿の質量(g)]/[受け皿と試験前の混合物質量(g)−受け皿の質量(g)]×100・・・・・・(5)
【0093】
ダレ試験は、排水性舗装用アスファルトが混合温度で静的に保持する最大アスファルト量を求めることを目的として利用される。本発明では、0.5%以下が望ましく、さらに望ましくは0.35%以下が望ましい。
【0094】
(実施例1〜12と比較例1〜7について)
【0095】
以下、本発明を適用した改質アスファルト組成物において、効果を検証するため、改質材としてのスチレン系熱可塑性エラストマーとしてSBS、SBBSを使用した実施例と比較例について、詳細に説明をする。
【0096】
表1の実施例1〜12、並びに比較例1〜7に示す配合比率からなる、プロパン脱瀝アスファルト、エキストラクト、スチレン系熱可塑性エラストマー、剥離防止剤(ガムロジン)からなる試料を準備した。
【0097】
本検証で使用したプロパン脱れきアスファルトの性状は、代表的な性状が針入度が8(1/10mm)、軟化点が66.5℃、15℃における密度が1028kg/m3であるものである。
【0098】
また、使用したエキストラクトは、代表的な性状が100℃における動粘度が61.2mm2/s、40℃における動粘度が3970mm2/s、15℃における密度が976.4kg/m3であるのものである。
【0099】
また、本検証において使用したSBSを表1に示す。SBSはスチレン含有量、並びに25%トルエン溶液粘度の異なるSBSは7種類である。この表1に示される合計7種類のSBSのうち、上から2段目までが、市販品として用いられているSBSである。これに対して上から3段目から最下段までのSBSが、本発明に係る改質アスファルト組成物に適用するべく新たに検討するために見出した物性の範囲のものである。
【0100】
また、本検証において使用したSBBSも表1に示す。SBBSは、スチレン含有量、並びに25%トルエン溶液粘度について表1に示すような1種類のものを使用している。係るSBBSも本発明に係る改質アスファルト組成物に適用するべく新たに検討するために見出した物性の範囲のものである。
【0101】
ちなみに、スチレン含有量の測定方法は、ビニル芳香族重合体ブロック(A)の含有量(重量%)=(ベース非水添共重合体中のビニル芳香族重合体ブロック(A)の重量/ベース非水添共重合体の重量)×100から求める。
【0102】
なお、重合体ブロック(A)の水添共役ジエン系共重合体に対する含有率を直接測定する場合には、水添共重合体を検体として、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて行う(Y.Tanaka,et al.,RUBBER CHEMISTRY and TECHNOLOGY 54,685(1981))。
【0103】
また、25%トルエン溶液粘度の測定方法は、例えば特開2008−31267号公報等に記載されているように、ブルックフィールド(BL)型粘度計により測定することができる。
【0104】
使用した剥離防止剤は、骨材との間での剥離防止性及び相溶化性を発揮させるために用いたもので、酸価156(mgKOH/g:JIS K0070)、軟化点77.0℃(JIS K2207)の不均化ガムロジンである。このガムロジンは、採取した生松脂をろ過して不純物を除去し、その後、蒸留することにより、低沸点成分のテレピン油を分離して得られるロジンである。このガムロジンは、一般的に、アビエチン酸が20〜40重量%、ネオアビエチン酸が15〜25重量%、パラストリン酸が20〜30重量%、ピマール酸が3〜8重量%、イソピマール酸が10〜20重量%、デヒドロアビエチン酸が3〜8重量%含まれている。本実施例では、このガムロジンを添加する場合において、組成物全体に対する含有量を0.5重量%としている。
【0105】
上述した構成からなる本発明の評価用ポリマー改質アスファルト組成物を作成した方法について以下で述べる。
【0106】
プロパン脱瀝アスファルトを150℃程度の温度溶融した状態で、エキストラクトが上述した配合比率となるように混合し、同様な手順にて上述したスチレン系熱可塑性エラストマーからなる改質剤を添加し、更に、上述したガムロジンを添加する。混合時のホモミキサーで温度は170〜215℃、回転数を1500〜5000回転/分として3〜5時間程度、混合並びに攪拌した。
【0107】
作製したポリマー改質アスファルト組成物についてそれぞれ測定した物性を表1に示す。物性の測定項目は、性状試験と、混合物性能試験に大別される。性状試験では、針入度(0.1mm)、軟化点(℃)、180℃における粘度(mPa・s)、複素弾性率G*、170℃×72時間の分離試験(25℃での軟化点の差分絶対値が3以下であれば○、3超であれば×)の各項目について試験を行っている。また、混合物性能試験では、60℃におけるDS値(回/mm)、マーシャル安定度(kN)、水浸マーシャル安定度(kN)、−20℃における低温カンタブロ損失量(%)、170℃におけるダレ量(%)について試験を行い、更に残留安定度(%)を算出している。
【0108】
これら測定する各物性値において、本発明で好ましい範囲は以下に示すとおりである。
【0109】
針入度(25℃)及び軟化点は、針入度(25℃)が40以上、軟化点80℃以上である。これは、日本改質アスファルト協会の定める、排水性舗装用ポリマー改質アスファルトの品質規格の値である。
【0110】
粘度(180℃)は、2000mPa・sを超えてしまうと、粘度が高すぎて、その温度での施工が困難になるため、この値以下とした。
【0111】
高温域におけるアスファルトの剛性の目標値は、DSR(60℃) で測定した複素弾性率(G*)を指標とした場合に、2000Pa以上好ましくは2500Pa以上とした。この値未満となると、剛性が低く目的とする舗装強度を保てない。
【0112】
加熱貯蔵中における安定性は分離試験(170℃)で測定した。上部の軟化点と下部の軟化点との差分値の絶対値をとり、差分絶対値が3以下である場合は○とし、3を超える場合は×とした。
【0113】
夏季のわだち掘れのしにくさの指標として、ホイールトラッキング試験結果より得られるDS値は6000回/mm以上、より好ましくは7000回/mm以上とした。これを下回る場合はわだち掘れしやすいことを示唆する。
【0114】
低温域での骨材飛散抵抗性の指標として、−20℃の低温カンタブロ試験による損失率が20.0%以下、より好ましくは15.0%以下が望ましいものとしている。これを下回る場合は、現行品よりも低温域において骨材飛散しやすいことを示唆する
【0115】
マーシャル安定度は4.5kN以上である。残留安定度は75%以上、より好ましくは80%以上である。
【0116】
170℃におけるダレ量は、0.5%以下が望ましく、さらに好ましくは0.35以下である。これを上回る場合は、製造時は運搬時にアスファルト組成物が骨材から垂れ落ちてしまい、設計したアスファルト量の舗装体が舗設できなくなってしまう。
【0117】
実施例1〜12は、スチレン系熱可塑性エラストマー全重量に対するスチレン含有量並びに25%トルエン溶液粘度、更には、改質アスファルト全体に対する、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有比率が、共に本発明において規定した範囲内にある配合である。
【0118】
これにより、実施例1〜12は、何れも180℃粘度が2000mPa・s以下、170℃でのダレ損失量が0.35重量%以下であり、また、同時に道路舗装として必要な強度を維持する観点からは、複素弾性率G*が2000Pa以上である。
【0119】
これに対して、比較例1は現在市販されているポリマー改質アスファルトH型の性状である。同様に比較例2は、現在市販されているポリマー改質アスファルトH−F型の性状である。比較例3〜7は、スチレン系熱可塑性エラストマー全重量に対するスチレン含有量並びに25%トルエン溶液粘度、更には、改質アスファルト全体に対する、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量のいずれか1つ以上が、本発明において規定した範囲から逸脱している。
【0120】
比較例3〜4は、使用するSBSのスチレン含有量、25%トルエン溶液粘度を本発明において規定した範囲から逸脱させ、含有量は本発明において規定した範囲内としたものであるが、目的とする性能が発現できず、特に粘度が大きくなり、期待している効果を発現させることができないことが示されている。
【0121】
比較例3に示すように、スチレン含有量31%、25%トルエン溶液粘度4000mPa・sのSBSを配合した場合、複素弾性率は大きく向上するものの、粘度が非常に高くなってしまっており、また貯蔵安定性も低下しているのが示されている。
【0122】
比較例4は、一般的なSBSよりも、スチレン含有量30%、トルエン溶液粘度1700mPa・sとした低分子量のSBSを使用したものであるが、比較例1及び2で示すポリマー改質アスファルトH型及びH−F型市販品と比べて180℃粘度は依然として高い状態にある。
【0123】
これに対して実施例1〜4においては、請求項1で規定する範囲のスチレン含有量、トルエン溶液粘度のSBSを使用した。これにより、SBSを15重量%添加した場合の例で示されるように、市販品同等以下の粘度とし、且つ高耐久性排水性舗装用ポリマー改質アスファルトとして求められる性能目標を満たすことができた。
【0124】
但し、比較例5に示す、スチレン含有量が本発明で規定する範囲を逸脱するSBSを添加した場合、粘度、複素弾性率ともに目標値を満足するものの、針入度が悪化し、混合物としたときの性状が著しく悪くなった。これは、スチレン含有量を高めすぎた結果、柔軟性が著しく失われ、舗装体としても脆くなってしまったものと考えられる。
【0125】
また、実施例5は、実施例3で使用したSBSとほぼ程度のスチレン含有量、25%トルエン溶液粘度を持つSBBSを使用した。実施例3と実施例5の物性はほぼ同程度であることから、SBBSの添加効果はSBSとほぼ同程度であることが示唆できる。
【0126】
実施例6〜12及び比較例6、7は、スチレン含有量並びに25%トルエン溶液粘度が本発明において規定した範囲内のものであるが、その添加量に対する物性の変化について検討したものである。即ち、この実施例6〜12及び比較例6、7は、実施例5で使用したスチレン系熱可塑性エラストマーを用いて、その添加配合量を互いに異ならせている。なお、実施例5と実施例8は互いにSBBSの含有量が15重量%と同一であるが、ベースアスファルト中のプロパン脱れきアスファルト、エキストラクトの含有比率を異ならせている。
【0127】
この実施例6〜12におけるSBBSの添加量は、本発明にて規定した範囲内である。一方、比較例6、7におけるSBBSの添加量は、本発明において規定した範囲外としたものである。
【0128】
実施例6〜12は目標とする性能を満足した一方、比較例6、7では目標とする性能を満足できなかった。即ち、本発明で規定するスチレン系熱可塑性エラストマーを用いて、高耐久性排水性舗装用ポリマー改質アスファルトとして求められる性能目標を満たすことができるのは、SBBSの添加量が13〜19重量%の範囲である。SBBSの添加量が12重量%である比較例6の場合、SBBSの改質効果が少なく、ポリマー改質アスファルトH型市販品と複素弾性率やDS値等といった物性値が同等の性状となってしまう。一方、比較例7に示す、SBBSの添加量が20重量%の場合、SBBSの改質効果が大きすぎて、180℃粘度が2000mPa・s超に増粘してしまうことが示されている。
【0129】
また実施例11は、SBBSを18重量%添加する例であるが、これを19重量%添加する実施例12よりも粘度を一気に下げることができることが示されている。また、実施例8は、SBBSを15重量%添加する例であるが、これを14重量%添加する実施例7と比較して複素弾性率並びにDS値をより好適な範囲まで向上させることができることが示されている。このため、SBBSの添加量は、アスファルト組成物全体に対して15〜18重量%とすることが望ましいことが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースアスファルトと、
スチレン含有量が35〜70重量%の範囲にあり、かつ、25%トルエン溶液粘度が150〜1500mPa・sの範囲にあるSBS及びSBBSから選ばれる少なくとも1種類を含有したスチレン系熱可塑性エラストマー:13〜19重量%と、
を含有することを特徴とするポリマー改質アスファルト組成物。
【請求項2】
剥離防止剤:0.3〜1.0重量%を含有することを特徴とする請求項1記載のポリマー改質アスファルト組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136661(P2012−136661A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291176(P2010−291176)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】