説明

ポリマー材料の改善された滅菌

放射線に対して感受性のあるポリマー材料を滅菌する方法。この方法は、ポリマー材料に少なくとも1つの放射線増感剤を与えるステップと、ポリマー材料を滅菌するのに有効な線量および時間で、好適な放射線をポリマー材料に照射するステップとを含む。放射線による滅菌に耐える医療用装置の能力を高める方法、および生体吸収性ポリマー製医療用装置もまた、開示されている。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本発明は、ポリマーに関し、より詳細には、活動性の生物学的汚染物質の削減のための放射線感受性のポリマー材料の滅菌のための方法に関する。
【0002】
植え込みのために設計された医療用装置は、多くの場合、排出されるか、または代謝される生成物へと身体により徐々に分解される材料から構成されている。これらの生体吸収性材料から作成された装置は、医療用装置を滅菌するのに必要なものを含めた、ある物理的および化学的処理に感受性が高い傾向がある。特に、生体吸収性ポリマーから作成された医療用装置の機械的な完全性は、従来の照射技術を用いて滅菌されると、しばしば損害を受ける。
【0003】
ガンマ照射、電子ビーム照射、およびX線照射といった電離放射線処理は、汚染している細菌、真菌、およびウイルスの生物学的成分を損傷させ、それ故、それらの不活化を確実にする、フリーラジカルおよびその他の活性化された分子を発生させる。しかしながら、生体吸収性材料の構成原子もまた、フリーラジカルおよび活性化された分子による損傷を受け、このことが、材料の構造的な完全性を損ねる。
【0004】
滅菌問題をいっそう大きくしているのは、蒸気滅菌が、熱的または加水分解的に不安定なポリマーには適合しないという事実である。一般的で、かつ広く使用されている滅菌剤であるエチレンオキシドは、多くの場合、そのようなポリマーと反応し、長期間のガス放出が必要でもある。
【0005】
これらの問題ゆえに、滅菌産業界が製造プロセスのパートとして好適な滅菌剤を提供することができないため、多くの新しい医療上の進歩が実行されることができない。上述で示したように、ステント、縫合糸、カテーテル、および内視鏡といった医療用装置は、蒸気、照射、またはエチレンオキシドに耐性を示すことができない、感受性のあるポリマーから組み立てられているか、またはこのようなポリマーでコーティングされている。その上、プラズマ滅菌は、いくらかの医療用設備と適合しないことが示されて来ており、また、有毒な残留物を残す。
【0006】
滅菌に関係する問題は、静脈内、筋肉内、または注入または導入のその他の形態により矯正されるか、または処置される輸血、血液因子補充療法、器官移植、ならびにその他の形態のヒト治療のような、医療処置のその他の領域にも存在する。種々のタイプの血漿および/または血漿誘導体、あるいはその他の生物学的な材料を含み、また、有害なプリオン、細菌、ウイルス、およびその他の生物学的な汚染物質または病原体を含み得る媒体中で調製される種々の生物学的材料にとっても、滅菌は重大な意味を持つ。
【0007】
米国特許第5,362,442号は、ウイルス、細菌、酵母菌、カビ、マイコプラズマ、および寄生生物のような生物学的汚染物質を除去するために、製品を殺菌するための方法を提案している。提案されているこの方法は、20%未満の固体を含む形態にある製品を提供することと、引き続き、長期間の時間にわたってガンマ照射をこの製品に照射することとを必要とする。この製品は、10時間以上の期間にわたって照射される。製品における低レベルの固体と組み合わせた長い照射時間は、製品に対する損傷を十分に減少させると言われている。この方法は、血液および血液成分といった感受性のある材料を殺菌するのに有用であると言われている。
【0008】
米国特許第6,187,572号は、赤血球および血小板のような血液細胞性物質、またはタンパク質画分におけるウイルス性および/または細菌性の汚染物を不活化する方法を提案している。細胞またはタンパク質画分は、化学的増感剤と混合され、凍結されるかまたは凍結乾燥され、固体状態の間に例えばUV光、可視光、ガンマ線、またはX線の放射線が照射されることが、かかる特許により提案されている。
【0009】
米国特許第6,239,048号は、光で活性化される色素が単独で結合されるか、または追加の従来の抗菌剤と組み合わせて結合された織布または不織布といった基体を提案している。提案されているこの基体は、この基体に分け与えられることができる抗菌特性および/または抗ウイルス特性を有すると言われている、光で活性化される浸出しない色素が含浸されている。光に曝露すると、この色素は、微生物およびウイルスを殺すと言われている一重項酸素を発生させると報告されている。
【0010】
米国特許第6,908,591号は、ウイルス、細菌、酵母菌、カビ、真菌、プリオン、またはTSEおよび/または単一性もしくは多細胞性の寄生生物の原因である同様の媒介物といった、1つ以上の活動性の生物学的汚染物質または病原体のレベルを減少させるために、生物学的材料を滅菌するための方法を提案している。提案されているこの方法は、照射を用いて生物学的材料を滅菌する際に、フラボノイド/フラボノール安定剤を用いることを含んでいる。
【0011】
本分野におけるこれらの進歩にもかかわらず、それらのいずれも、ポリマー材料を滅菌する問題には取り組んでおらず、その材料に対して有害な影響を与えることなく、活動性の生物学的汚染物質または病原体のレベルを減らすために有効な、そのような材料を滅菌する方法に対する必要性が残っている。
【0012】
ある一つの側面において、放射線に対して感受性のあるポリマー材料を滅菌する方法が提供され、この方法は、少なくとも1つの放射線増感剤をポリマー材料に与えるステップと、ポリマー材料を滅菌するのに有効な線量および時間で、好適な放射線をポリマー材料に照射するステップとを含む。
【0013】
他の側面において、ポリマー製医療用装置が提供され、この装置は、少なくとも第1の表面を有する医療用装置の形態にあるポリマー組成物と、この医療用装置の少なくとも第1の表面に与えられた少なくとも1つの放射線増感剤とを含み、ここで、医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0014】
さらなる他の側面において、ポリマー製医療用装置を作製する方法が提供され、この方法は、ポリマー組成物から少なくとも第1の表面を有する医療用装置を形成することと、このポリマー製医療用装置の少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることとを含み、ここで、この医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0015】
さらにまた他の側面において、物品を作成する方法が提供され、この方法は、ポリマーの組成物を提供することと、このポリマーを溶融加工温度まで加熱することと、溶融加工器機を用いてポリマーの組成物から少なくとも第1の表面を有する物品を形成することと、この物品の少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることとを含み、ここで、この物品は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0016】
さらなる側面において、放射線による滅菌に耐える医療用装置の能力を高める方法が提供され、この方法は、医療用装置に少なくとも1つの放射線増感剤を与えるステップを含み、ここで、この物品は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0017】
本発明は、本明細書中で開示されていて、例としてのみ示されており、添付の図面を参照している、形態を参照してより詳細に記述されるであろう。
【0018】
別段定義されていない限り、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有するものと意図されている。
【0019】
本明細書中で使用される単数形「ある(a)」、「ある(an)」、「その/この(the)」は、その文脈が別段はっきりと指示していない限り、複数表示(plural reference)を含む。
【0020】
本明細書中で使用される用語「滅菌する」は、本明細書に従って処理される放射線感受性の生体吸収性材料上で見付かる少なくとも1つの活動性または潜在的に活動性の生物学的汚染物質または病原体のレベルにおける削減を意味するものと意図されている。
【0021】
本明細書中で使用される用語「生物学的汚染物質または病原体」は、放射線感受性のポリマー材料との直接的または間接的な接触により、その宿主に対して有害性の影響を有し得る汚染物質または病原体を意味するものと意図されている。本明細書中で使用される用語「活動性の生物学的汚染物質または病原体」は、放射線感受性のポリマー材料の宿主に対して、単独で、あるいは、第2の生物学的汚染物質もしくは病原体、または天然タンパク質もしくは抗体といった、他の因子との組み合わせで、有害性の影響を引き起こすことができる生物学的汚染物質または病原体を意味するものと意図されている。
【0022】
本明細書中で使用される用語「放射線増感剤」は、種々のウイルス、細菌(細胞間および細胞内の細菌、例えば、マイコプラズマ属、ウレアプラズマ属、ナノバクテリア属(nanobacteria)、クラミジア属、リケッチア属を含む)、酵母菌、およびカビを含む、生物学的汚染物質または病原体を選択的に標的とし、放射線による不活化に対する感受性を高め、そのため、増感剤が無いときよりも低い線量の放射線を使用することを可能にする物質を意味するものを意図されている。
【0023】
本明細書中で使用される用語「放射線」は、照射されたポリマー材料の少なくともいくらかの成分を滅菌するのに十分なエネルギーの放射線を意味するものと意図されている。放射線のタイプとしては、限定されるものではないが、下記のもの、すなわち(i)粒子(corpuscular)(中性子、電子、および/または陽子といった亜原子粒子の流れ);(ii)電磁(可変電磁界、例えば、電波、可視光(単色光および多色光(mono and polychromatic)の両方)および不可視光、赤外線、紫外放射線、X−放射線、およびガンマ線、ならびにこれらの混合物から生じるもの);および(iii)音波および圧力波を含む。そのような放射線は、多くの場合、ガンマ線のような電離放射線(放射された材料においてイオンを生成することができる)、および可視光のような非電離放射線(non-ionizing radiation)のいずれかとして記述されている。そのような放射線の源は異なってもよく、全般に、十分な放射線が滅菌をもたらすのに適切な時間かつ適切な線量で与えられるのであれば、放射線の特定の源の選択は、重大な意味を持たない。実際には、γ線は通常、コバルトまたはセシウムの同位体により生成されるのに対して、UVおよびX−線は、それぞれUVおよびX−放射線を放射する機械により生成され、電子は多くの場合、機械を介したそれらの生成物を含む「E−ビーム」照射として知られている方法で材料を滅菌するのに使用される。可視光は、単色光および多色光の両方とも、機械により生成され、実際には、赤外線およびUVのような、同じ機械または異なる機械により生成される不可視光と組み合わされてもよい。
【0024】
上述で示されているように、多くの植え込まれる医療用装置は、身体により徐々に分解されて、排出されるか、または代謝される生成物になる材料から構成されている。したがって、これらの「生体吸収性材料」は、ある物理的および化学的処理、特には、医療用装置を滅菌するのに必要なものに対する感受性が高い。このことは、ガンマ照射、電子ビーム照射、およびX−線照射といった電離放射線に対するこれらの材料の曝露について特にあてはまる。そのような処理は、汚染している細菌、真菌、およびウイルスの生物学的成分に損傷を与え、それ故、これらの不活化を確実にする、フリーラジカル、およびその他の活性化された分子を発生させる。生体吸収性材料の構成原子もまた、フリーラジカルおよび活性化された分子により損傷し、このことが、材料の構造的な完全性を損ねる。
【0025】
ある一つの形態において、材料の構造特性に有意な影響を及ぼさないレベルにまで、ポリマー材料の消毒のために必要な電離放射線の有効線量を減少させる滅菌方法が、開示されている。この方法は、少なくとも1つの放射線増感剤をポリマー材料に与えるステップと、このポリマー材料を滅菌するために、有効な線量で好適な放射線をポリマー材料に照射するステップとを含む。放射線増感剤を低い線量の照射と組み合わせることが、放射線感受性材料を含む医療用装置の有効な滅菌を可能にすることが発見された。
【0026】
他の形態において、ポリマー製医療用装置が提供され、この装置は、少なくとも第1の表面を有する医療用装置の形態にあるポリマー組成物と、この医療用装置の少なくとも第1の表面に与えられた少なくとも1つの放射線増感剤とを含み、ここで、この医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0027】
さらなる他の形態において、ポリマー製医療用装置を作製する方法が提供され、この方法は、ポリマー組成物から少なくとも第1の表面を有する医療用装置を形成することと、このポリマー製医療用装置の少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることとを含み、ここで、この医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0028】
さらにまた他の形態において、ポリマー製物品を作成する方法が提供され、この方法は、ポリマー組成物を提供することと、このポリマーを溶融加工温度まで加熱することと、溶融加工器機を用いてポリマー組成物から少なくとも第1の表面を有する物品を形成することと、このポリマー製物品の少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることとを含み、ここで、このポリマー製物品は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0029】
さらなる形態において、放射線による滅菌に耐えるポリマー製医療用装置の能力を高める方法が提供され、この方法は、ポリマー製医療用装置に少なくとも1つの放射線増感剤を与えるステップを含み、ここで、このポリマー製物品は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である。
【0030】
好適な放射線増感剤としては、当業者に知られた多数の化合物を含み、この化合物としては、限定されるものではないが、ソラレンならびにその誘導体および類似体(3−カルボエトキシソラレンを含めた);イナクチン(inactines)ならびにそれらの誘導体および類似体;四級アンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンといったハロゲン置換基および水溶化部分(water solubilization moiety)を含む、アンゲリシン(angelicin)、ケリン、およびクマリン;核酸結合性化合物(nucleic acid biding compounds);ブロム化ヘマトポルフィリン;フタロシアニン;プルプリン;ポルフィリン;ジヘマトポルフィリンエステル(dihematoporphyrin esters)のハロゲン化されたか、または金属原子が置換された誘導体、ヘマトポルフィリン誘導体、ベンゾポルフィリン誘導体、ヒドロジベンゾポルフィリンジマレイミド(hydrodibenzoporphyrin dimaleimade)、ヒドロジベンゾポルフィリン、ジシアノジスルホン、テトラカルベトキシヒドロジベンゾポルフィリン(tetracarbethoxy hydrodibenzoporphyrin)、およびテトラカルベトキシヒドロジベンゾポルフィリンジプロピオンアミド(tetracarbethoxy hydrodibenzoporphyrin dipropionamide);ハロゲンまたは金属原子で改質され得る、ドキソルビシンおよびダウノマイシン;ネトロプシン(netropsin);BDペプチド、S2ペプチド;S−303(ALE化合物);ヒペリシン、メチレンブルー、エオシン、フルオレセイン(およびそれらの誘導体)、フラビン、メロシアニン540(merocyanine 540)といった色素;ベルガプテンといった光活性化合物;およびSEペプチドを含む。認識され得るように、これらの化合物の誘導体、特に、ハロゲン化された(ブロム化された)実体もまた、使用されることができる。ある一つの形態において、ポリマー材料であるポリグラクチン910(polygalactin 910)のコーティングにリボフラビンを組み込むことが企図されている。当業者により認識され得るように、ポリグラクチン910は、Vicryl(登録商標)縫合糸材料を生成するために使用される。メチレンブルーが放射線増感剤として選択されるときには、用いられるべき有効量は、約20μg/mL〜約75μg/mL(約20ppm〜約75ppm)の範囲にわたるであろう。リボフラビンが放射線増感剤として選択されるときには、用いられるべき有効量は、約200μg/mL〜約5mg/mL(約200ppm〜約5ppt)の範囲にわたるであろう。
【0031】
少なくとも1つの放射線増感剤は、当業者に知られており利用可能である、いかなる方法および技術にしたがってポリマー材料に取り込まれてもよく、これら方法および技術としては、例えば、限定するものではないが、大気圧および室温で、放射線増感剤を含む溶液中にポリマー材料を浸漬することを含む。その代わりに、少なくとも1つの放射線増感剤は、加圧下、高温中、および/またはジメチルスルホキシドといった浸透促進剤(penetration enhancer)の存在下で、放射線増感剤を含む溶液中にポリマー材料を浸漬することにより取り込まれてもよい。
【0032】
少なくとも1つの放射線増感剤をポリマー材料に取り込むその他の方法としては、限定されるものではないが、下記のもの、すなわち、加圧下および/または高温中、放射線増感剤を含むガスを与えること;放射線増感剤、または放射線増感剤を含む溶液をポリマー材料に直接注入すること;ポリマー材料を減圧下に置き、その後放射線増感剤を含むガスまたは溶液を導入すること;ポリマー材料を、例えば高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度(osmolar strength)の緩衝剤を用いることにより、脱水し、このポリマー材料を、放射線増感剤を含む溶液で再水和すること;放射線増感剤を含む高いイオン強度の溶媒を与えること(これは、オプションで、溶媒のイオン強度を制御しながら減少させることを伴ってもよい);高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液と、放射線増感剤を含む低いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液との間を、ポリマー材料を循環させること;マイクロエマルジョンの成分内の、またはマイクロエマルジョンの成分として、少なくとも1つの放射線増感剤を与えること;およびこれらの方法の2つ以上の組み合わせを含む。
【0033】
これらの化合物の多くの作用の機構は、汚染している微生物の核酸(DNA/RNA)とその化合物との結合を含む。照射により、化合物は、エネルギーを吸収し、核酸への損傷を局所的に引き起こし、これにより、微生物の複製を妨げる。ポリマー材料は、核酸を含んでいないので、照射の後、放射線増感剤によりほとんど損傷が生じない。好都合なことに、放射線増感剤の多くは、血液生成物の滅菌に対しては安全だと考えられているので、それらの安全性/毒性のプロフィールは概ね都合がよく、それらは、患者に対してほとんどリスクを生じることなく、医療用装置上に残存することができる。
【0034】
本明細書中に開示されている方法は、種々のウイルス、細菌(マイコプラズマ属、ウレアプラズマ属、ナノバクテリア属、クラミジア属、リケッチア属といった細胞間および細胞内の細菌を含めた)、酵母菌、およびカビを含めた、生物学的汚染物質または病原体に対して有効である。
【0035】
本明細書中に開示されている方法で用いられる放射線は、処理されるポリマー材料の滅菌に対して有効な、いかなる放射線であってもよい。放射線は、急速電子照射(accelerated electron irradiation)(E−ビーム)放射線を含めた粒子であってもよい。放射線は、X−線、赤外線、可視光、UV光、および種々の波長の電磁放射線の混合物を含めた、電磁放射線であってもよい。放射線は、コバルトもしくはその他の同位体源からのγ線、またはX線での照射であってもよい。
【0036】
本明細書中で開示されている方法に従えば、ポリマー材料は、ポリマー材料の滅菌には有効であるが、容認できないレベルの損傷を材料に対して生み出さない線量で、放射線が照射される。照射の好適な線量は、照射される特定のポリマー材料、含まれる放射線の特定の形態、および/または不活化される特定の生物学的汚染物質または病原体の性質および特性に依存して変化してもよい。照射の好適な線量は、当業者により経験的に決定されることができる。照射の線量は、滅菌手順の持続時間の間、一定とされてもよい。これが実行できないか、あるいは望まれていないときには、可変の照射または非連続的な照射が用いられてもよい。
【0037】
本明細書中に開示されている方法に従えば、照射の線量は、生成物回収率および操作を完了させるのに必要な時間の最も有利な組み合わせを生み出すように最適化されてもよい。有利なことには、低い(3kGy未満)線量が、そのような結果を達成するために本明細書中に記述されている方法で用いられてもよい。照射の線量は、ポリマー材料の構造上の損傷を最小限としながらも、それでもなおポリマー材料を滅菌するように選択される。
【0038】
ある一つの形態に従うと、照射の線量は、5.0kGy以下であるか、または約0.1kGy〜3.0kGyの間であるか、または約0.1kGy〜1.0kGyの間であるか、または約0.1kGy〜0.5kGyの間であるか、または約0.1kGy〜0.3kGyの間である。
【0039】
本明細書中に開示されている方法に従えば、滅菌されるポリマー材料は、ポリマー材料の滅菌のために有効な線量で照射される。好適な照射線量は、含まれる放射線の特定の形態、および/または照射される特定のポリマー材料の性質および特性に依存して変化してもよい。認識され得るように、好適な照射線量は、当業者により経験的に決定されることができる。
【0040】
本明細書中で開示されているある形態においては、処理されるポリマー材料が、水性溶媒もしくは非水溶媒、またはそのような溶媒の混合物を含むときには、少なくとも1つの安定剤が、当業者に知られていて利用可能である方法および技術のいずれかに従って導入され、そのような方法および技術としては、好ましくは、加圧下、高温中、および/またはジメチルスルホキシドといった浸透促進剤の存在下で、より好ましくは、安定剤がタンパク質のときには高い濃度で、安定剤を含む溶液中にポリマー材料を浸漬することを含む。少なくとも1つの安定剤をポリマー材料に導入するその他の方法としては、限定されるものではないが、下記のもの、すなわち、好ましくは加圧下および/または高温中で、安定剤を含むガスを与えること;安定剤、または安定剤を含む溶液をポリマー材料に直接注入すること;ポリマー材料を減圧下に置き、その後、安定剤を含むガスまたは溶液を導入すること;ポリマー材料を、例えば高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の緩衝剤を用いることにより、脱水し、このポリマー材料を、安定剤を含む溶液で再水和すること;安定剤を含む高いイオン強度の溶媒を与えること(これは、オプションで、溶媒のイオン強度を制御しながら減少させることを伴ってもよい);高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液と、安定剤を含む低いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液との間を、ポリマー材料を循環させること;マイクロエマルジョンの成分内の、またはマイクロエマルジョンの成分として、少なくとも1つの安定剤を与えること;およびこれらの方法の2つ以上の組み合わせを含む。
【0041】
本明細書中で開示されているある形態において、少なくとも1つの低温保存剤(cryopreservative)が、当業者に知られていて利用可能である方法および技術のいずれかに従って、ポリマー材料に導入され、そのような方法および技術としては、好ましくは、加圧下、高温中、および/またはジメチルスルホキシドといった浸透促進剤の存在下で、低温保存剤を含む溶液中にポリマー材料を浸漬することを含む。少なくとも1つの低温保存剤をポリマー材料に導入するその他の方法としては、限定されるものではないが、下記のもの、すなわち、加圧下および/または高温中で、低温保存剤を含むガスを与えること;低温保存剤、または低温保存剤を含む溶液をポリマー材料に直接注入すること;ポリマー材料を減圧下に置き、その後、低温保存剤を含むガスまたは溶液を導入すること;ポリマー材料を、例えば高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の緩衝剤を用いることにより、脱水し、このポリマー材料を、低温保存剤を含む溶液で再水和すること;低温保存剤を含む高いイオン強度の溶媒を与えること(これは、オプションで、溶媒のイオン強度を制御しながら減少させることを伴ってもよい);高いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液と、低温保存剤を含む低いイオン強度および/またはモル浸透圧強度の溶液との間を、ポリマー材料を循環させること;マイクロエマルジョンの成分内の、またはマイクロエマルジョンの成分として、少なくとも1つの低温保存剤を与えること;およびこれらの方法の2つ以上の組み合わせを含む。
【0042】
本明細書中で開示されているある形態に従えば、ポリマー材料は、1つ以上の安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の、ポリマー材料への浸透を高めるのに有効な処理に供されてもよい。そのような処理としては、物理的処理、および化学的処理を含む。
【0043】
例えば、化学的処理に関しては、ポリマー材料は、ポリマー材料における分子と分子との間の距離を増加させ、それ故、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤のポリマー材料への浸透を促進する1つ以上の化合物で処理されてもよい。その代わりに、化学的処理は、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤のポリマー材料への浸透を高めるのに有効なマイクロエマルジョンでポリマー材料を処理することを含んでもよい。
【0044】
同様に、ポリマー材料は、ポリマー材料中の高分子が、より密集していない状態、またはゆるんだ状態になるようにし、それ故、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤のポリマー材料への浸透を促進するか、または安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤と接触するポリマー材料の表面積を大きくする1つ以上の化合物で処理されてもよい。ポリマー材料中の高分子がより密集していない状態、またはゆるんだ状態になるようにする化合物は、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の導入前に与えられてもよく、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤はその後、同様の溶液中に導入されてもよく、その後に、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の量は同様であるが、ポリマー材料中の高分子がより密集していない状態、またはゆるんだ状態になるようにする化合物の量が減らされた、これらを含む溶液の適用が続いてもよい。ポリマー材料中の高分子がより密集していない状態、またはゆるんだ状態になるようにする化合物の量を段々と低くして、そのような溶液の適用を繰り返すことが、引き続き行われてもよい。
【0045】
浸透を促進する化合物は、単独で使用されてもよいし、あるいは、ポリマー材料中の高分子がより密集していない状態になるようにする化合物と、ポリマー材料中の分子と分子との間の距離を増加させる化合物との組み合わせのように、組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
さらに、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤が陽イオン性である形態においては、1つ以上の陰イオン性の化合物が、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤を含む溶液に、それらのポリマー材料への適用前および/または適用間に加えられてもよい。陰イオン性の化合物もまた、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の導入前に与えられてよく、これらはその後、同様の溶液中に導入されてもよく、その後に、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の量は同様であるが、陰イオン性の化合物の量が減らされた、これらを含む溶液の適用が続いてもよい。陰イオン性の化合物の量を段々と低くして、そのような溶液の適用を繰り返すことが、引き続き行われてもよい。
【0047】
同様に、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤が陰イオン性である形態においては、1つ以上の陽イオン性の化合物が、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤を含む溶液に、それらのポリマー材料への適用前および/または適用間に加えられてもよい。陽イオン性の化合物もまた、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の導入前に与えられてよく、これらはその後、同様の溶液中に導入されてもよく、その後に、安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の量は同様であるが、陽イオン性の化合物の量が減らされた、これらを含む溶液の適用が続いてもよい。陽イオン性の化合物の量を段々と低くして、そのような溶液の適用を繰り返すことが、引き続き行われてもよい。
【0048】
ポリマー材料への1つ以上の安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の浸透を高めるのに有効な物理的処理については、例として、限定されるものではないが、物理的攪拌、例えば、振盪または超音波処理を含む。
【0049】
物理的な攪拌、例えば超音波処理または振盪を用いる形態に従えば、物理的攪拌は、ポリマー材料への1つ以上の安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の浸透を高めるのに有効な時間にわたって実施される。そのような処理の持続時間は、その他の因子の中、1つ以上のポリマー材料の性質、用いられる溶媒の性質、および1つ以上の安定剤および/または低温保存剤および/または増感剤の性質に依存してもよい。好適な時間は、当業者により経験的に容易に決定され得る。
【0050】
本明細書中で開示されている医療装置および物品に使用するために企図されているポリマーは、限定されるものではないが、生体吸収性ポリマー、例えば、L(−)、D(+)、メソ、およびラセミのラクチド形態を含めたポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシブチラート)、ポリ(β−ヒドロキシブチラート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(テトラメチルカルボネート)、およびポリ(アミノ酸)、ならびに、これらのコポリマーおよびターポリマーを含む。ポリ(ラクチド)−コ−ポリ(グリコリド)を含むコポリマーブレンドも本明細書中では企図されており、このブレンドは、約40,000〜約100,000ダルトン(約6.642×10−20〜約1.661×10−19g)の間の重量平均分子量の第1のコポリマーと、約5,000〜約30,000ダルトン(8.303×10−21〜4.982×10−20g)の間の重量平均分子量の第2のコポリマーとを50/50重量%で有する。
【0051】
上述で示されているように、乳酸(ラクチド)の環状ジエステルから開環重合により調製されるポリ乳酸(PLAまたはポリ(ラクチド))が本明細書中での使用のために企図されている。認識され得るように、乳酸は、2つの光学異性体または鏡像異性体として存在する。L−鏡像異性体は天然で生じ、D,Lラセミ混合物は、乳酸の人工的な調製の結果として生じる。「L」ポリ(ラクチド)(融点170℃)から紡ぎ出された繊維は、引き出されると、高い結晶化度を有するが、一方、DL−ラクチドから紡ぎ出された繊維は、非晶質である。結晶性のポリ−L−ラクチドは、非晶質のDL形態よりも、加水分解による崩壊に対してより抵抗性がある。
【0052】
高分子量のPLAポリマーは容易に調製されることができ、高い引っ張り強さを有する繊維サンプルが、商業的に入手可能であり、溶液から紡ぎ出された熱伸フィラメントにより生成される。γ線へのポリ乳酸の曝露は、分子量における減少につながることが示されて来た。
【0053】
ゆっくりと吸収されるPLAとは異なり、PGAは、加水分解の感受性がより大きいために、植え込み後、数ヶ月以内に吸収される。インビトロの実験で、酵素、緩衝剤、pH、アニーリング処理、およびガンマ照射による崩壊に対する影響が示されて来た。ガンマ照射に起因するインビボの崩壊の加速が、早期の細分化が望まれている装置を作るために活用されて来た。ポリグリコール酸(PGAまたはポリ(グリコリド))は、本明細書中での使用のために企図された、全く合成の吸収性ポリマーである。
【0054】
PGAおよびPLAのコポリマー、すなわちポリ(ラクチド−コ−グリコリド)もまた、本明細書中での使用のために企図されている。このコポリマーは、組成範囲(compositional range)25〜70モルパーセントグリコリドの間で非晶質である。純ポリグリコリドは、約50%結晶性であり、一方で、純ポリ−L−ラクチドは、約37%結晶性であると報告されている。純PGAおよび純PLAのように、90/10のPGA/PLAもまた、ガンマ照射により弱められる。共重合のための他のアプローチとしては、ラクチドでもグリコリドでもないが、むしろ1つの乳酸部分および1つのグリコール酸部分を含む非対称性の環状ジエステルである開始モノマーを使用することを含む。このモノマーは、ポリ(ラクチド−コ−50%−グリコリド)と同じ実験式を備えたポリマーを生成するが、より立体規則性の立体配置に起因して異なる特性をもつ。
【0055】
本明細書中での使用のために企図されている他のポリマーは、ポリジオキサノン(polydioxanone)である。モノマーであるp−ジオキサノンは、グリコリドと類似しているが、ポリ−(エーテル−エステル)をもたらす。ポリ(ジオキサノン)モノフィラメント繊維は、編組ポリグリコリドよりも長く引っ張り強さを保持するものとして知られており、最小の組織反応で約6ヶ月以内に吸収される。インビトロのポリ(ジオキサン)の崩壊は、ガンマ照射の線量により影響を及ぼされるが、酵素の存在により影響を及ぼされることは実質的にはない。
【0056】
ポリマーであるポリ(ε−カプロラクトン)もまた、本明細書中での使用のために企図されている。ポリ(ε−カプロラクトン)は、ε−カプロラクトンから合成される。加えて、ε−カプロラクトンおよびL−ラクチドのコポリマーが、本明細書中での使用のために企図されている。これらは、25%ε−カプロラクトン,75%L−ラクチドから調製されたときにはエラストマーであり、10%ε−カプロラクトン,90%L−ラクチドから調製されたときには硬質であることが知られている。
【0057】
生体吸収性ポリマーであるポリ(ヒドロキシブチレート)およびポリ(ヒドロキシバレレート)もまた、本明細書中での使用のために企図されている。ポリ(β−ヒドロキシブチレート)(PHB)は、いずれも天然でも生じるし、インビトロで容易に合成されることもできる生分解性ポリマーである。しかしながら、合成PHBは、天然の生成物中に見られる立体規則性を示して来なかった。高いMWで結晶性の光学活性なPHBが、細菌から抽出されて来た。PHBポリマーは、溶融加工処理可能(melt processable)であり、吸収可能な縫合糸としての使用のために提案されて来た。抽出プロセスにおける近年の改善により、医療用および非医療用の両方のために、PHBに対する新たな興味へとつながって来た。ヒドロキシブチレートおよびヒドロキシバレレートのコポリマーは、広く多岐にわたる機械的特性、および純PHBにより達成されることができるよりも急速な崩壊を提供するように開発されて来ており、本明細書中での使用のためにも企図されている。
【0058】
ポリ(アミノ酸)として知られる吸収性ポリマーの分類もまた、本明細書中で開示されている方法から潜在的に利益を得る。合成の吸収性ポリマーのための構成要素(building blocks)としてアミノ酸を使用することは、長足の進歩をして来た。
【0059】
タンパク質性ポリマー(proteinaceous polymer)として分類される生体吸収性ポリマーもまた、本明細書中での使用のために企図されている。そのようなポリマーとしては、非限定的に、アルギン酸アルブミン(alginate albumins)、藻類タンパク質、アポタンパク質、レクチン、リポタンパク質、金属タンパク質、ポリタンパク質、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、フィブロイン、ゼラチン、ケラチン、レチクリン、ポリ(アルファ−アミノ酸)、ポリ(ベータ−アミノ酸)、ポリ(ガンマ−アミノ酸)、ポリイミノ酸、ポリペプチド、および上述のいずれかの誘導体を含む。以下により詳細に示されるように、タンパク質性ポリマーは、ゼラチンを含んでもよい。
【0060】
非吸収性ポリマーもまた本明細書中での使用のために企図されており、このようなポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンを含めたスチレン、ナイロン、アクリル、熱可塑性ウレタン、熱可塑性エラストマー、熱硬化性プラスチック、ポリアミド、ポリエステル、およびポリエチレンテレフタラートを含む。本明細書中での使用のためのポリオレフィンの例としては、限定されるものではないが、チーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒により生成されるアルファ−オレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらのコポリマーおよびターポリマーを含む。
【0061】
本明細書に従って作成される医療用装置は、本明細書中で開示されている方法に従って滅菌が行われたときなど、滅菌の間に、物理的または機械的損傷を受けないものと考えられる。本明細書中に開示されている医療用装置の作成においては、放射線増感剤が、照射の前に、医療用装置またはパッケージング材料上にコーティングされるか、パッケージ中に注入されるか、または、その他のいくつかの方法で送達される。本明細書中で企図されている医療用装置としては、縫合糸、クリップ、ステープル、ピン、ネジ、繊維、フィルム、ステント、ゲルキャップ(gelcaps)、タブレット、ミクロスフィア、および注入可能なポリマー溶液からなる群より選択されるものを含む。
【0062】
本発明の特定の実施形態は、実施例によってこれよりさらに記述される。下記の実施例は、本発明のある実施形態を実証するものであって、本発明の対象範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、むしろ本発明の完全な記述に寄与するものとして解釈されるべきである。
【0063】
〔実施例〕
例1:材料表面上にコーティングされた細菌の放射線増感
振盪することなく、37℃でトリプシン大豆ブロス中において一晩成長させたEnterococcus faecalis ATCC 29212を、2%グルコース中に約5x10cfu/mLの濃度で、遠心し、再懸濁させた。下記に列挙した放射線増感剤化合物、すなわちリボフラビン、メチレンブルー、アスコルビン酸、亜硝酸ナトリウム、およびトルイジンブルーを、示した濃度で細菌に加え、その後、振盪しながら室温で2時間インキュベートした。各サンプルに含まれていたcfuを、希釈プレーティングにより数量化し、その値を、「加えた処理後のcfu」として列挙する。放射線増感剤処理はいずれも単独では、細菌に対する有意な有害な影響を有するようには見えなかった。
【0064】
放射線増感剤処理に続いて、0.05mLの各混合物(約1x10cfuを含む)を無菌の12mmペーパーディスク上に点状に付け(spot)、このディスクを30分間風乾した。その後、このディスクを、無菌チューブに配置し、未処置のままにするか、または0.3kGyで照射した。0.35g/Lレシチンおよび2.5mL/LTween 80を含む0.85%生理食塩水中で1分間、ガラスビーズを用いてボルテックスすることにより、ディスクからcfuを回収した。その後、トリプシン大豆寒天上に希釈プレーティングすることにより、cfuの数量化を実施した。
【0065】
照射しなかったサンプルと比較して、照射された放射線増感剤処理したサンプルから回収されたcfuの割合は、未処置の対照のcfuの割合よりも低かった。このように、放射線増感剤処理は、照射の殺傷効率を高め、メチレンブルー、アスコルビン酸、トルイジンブルー、および亜硝酸ナトリウムが、最大の効果を有していた。
【表1】

【0066】
例2:合成ポリマーで構成された医療用装置上にコーティングされた細菌の放射線増感
振盪することなく、37℃でトリプシン大豆ブロス中において一晩成長させたEnterococcus faecalis ATCC 29212を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中におおよそ2x10cfu/mLの濃度で遠心し、再懸濁させた。その後この細菌を、50μg/mLメチレンブルーがある場合と無い場合とで、室温で2時間インキュベートした。このインキュベーション後、各サンプルに含まれていたcfuを、希釈プレーティングにより数量化した。未処理のサンプルは、1.8x10cfu/mL含み、メチレンブルーで処理したサンプルは、1.6x10cfu/mL含んでおり、メチレンブルーを用いたインキュベーションが細菌数に有意に影響を及ぼさなかったことを示していた。
【0067】
放射線増感剤処理に続いて、0.01mLの各混合物(約2x10cfuを含む)を1cmx1cm角の9つのVicryl(登録商標)メッシュ上に点状に付け、その後このメッシュを60分間風乾した。その後、三通りのサンプルを、無菌チューブに配置し、未処置のままにするか、または0.1kGyもしくは0.2kGyで照射した。0.35g/Lレシチンおよび2.5mL/LTween 80を含む0.85%生理食塩水中で1分間、ガラスビーズを用いてボルテックスすることにより、メッシュからcfuを回収した。その後、トリプシン大豆寒天上に希釈プレーティングすることにより、cfuの数量化を実施した。
【表2】

【0068】
図1は、表2のデータについての照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。図2は、表2のデータについての照射線量の関数としての[対数変化]対[接種材料](log change vs. inoculum)のプロットを表している。理解され得るように、対照の照射されていないサンプルから15%の回収が観察された。メチレンブルー処理された照射されていないサンプルから4.6%の回収が観察された。また、メチレンブルーはこの実験における細菌の回収に対して効果が小さいことにも注目され得る。0.1kGy線量は、未処置の対照において0.8対数減少(0.8-log reduction)を引き起こし、一方、0.2kGy線量は、未処置の対照において1.5対数減少を引き起こした。メチレンブルーと0.1線量または0.2kGy線量との組み合わせが、回収されたcfuにおいて3〜4の対数減少を引き起こした。
【0069】
例3:Prolene(登録商標)およびVicryl(登録商標)合成ポリマーから構成された医療用装置上にコーティングされた細菌の放射線増感
振盪することなく、37℃でトリプシン大豆ブロス中において一晩成長させたEnterococcus faecalis ATCC 29212を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に約5x10cfu/mLの濃度で遠心し、再懸濁させた。その後この細菌を、50μg/mLメチレンブルーがある場合と無い場合とで、室温で2時間インキュベートした。このインキュベーション後、各サンプルに含まれていたcfuを、希釈プレーティングにより数量化した。未処理のサンプルは、4.8x10cfu/mL含み、メチレンブルーで処理したサンプルは、4.2x10cfu/mL含んでおり、メチレンブルーを用いたインキュベーションが細菌数に有意に影響を及ぼさなかったことを示していた。
【0070】
放射線増感剤処理に続いて、0.01mLの各混合物(約5x10cfuを含む)を1cmx1cm角の9つのProlene(登録商標)メッシュ上に点状に付け、その後このメッシュを60分間風乾した。その後、三通りのサンプルを、無菌チューブに配置し、未処置のままにするか、または0.1kGyもしくは0.3kGyで照射した。0.35g/Lレシチンおよび2.5mL/LTween 80を含む0.85%生理食塩水中で1分間、ガラスビーズを用いてボルテックスすることにより、メッシュからcfuを回収した。その後、トリプシン大豆寒天上に希釈プレーティングすることにより、cfuの数量化を実施した。
【表3】

【0071】
放射線増感剤処理に続いて、0.01mLの各混合物(約5x10cfuを含む)を1cmx1cm角の9つのVicryl(登録商標)メッシュ上に点状に付け、その後このメッシュを60分間風乾した。その後、三通りのサンプルを、無菌チューブに配置し、未処置のままにするか、または0.1kGyもしくは0.3kGyで照射した。0.35g/Lレシチンおよび2.5mL/LTween 80を含む0.85%生理食塩水中で1分間、ガラスビーズを用いてボルテックスすることにより、メッシュからcfuを回収した。その後、トリプシン大豆寒天上に希釈プレーティングすることにより、cfuの数量化を実施した。
【表4】

【0072】
図3は、表3および表4のデータについての照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。理解され得るように、メチレンブルーと照射との組み合わせは、メチレンブルーまたは照射単独と比較して、Prolene(登録商標)およびVicryl(登録商標)メッシュサンプルから回収される細菌の数を有意に減少させた。メチレンブルーおよびガンマ照射は、相乗的に作用し、医療用装置の表面から細菌を排除する、すなわち、メチレンブルーは、装置の滅菌において照射の効果を高めるように見える。
【0073】
例4:Spongostan(登録商標)ゼラチンスポンジから構成された医療用装置上にコーティングされた細菌の放射線増感
振盪することなく、37℃でトリプシン大豆ブロス中において一晩成長させたEnterococcus faecalis ATCC 29212を、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に約5x10cfu/mLの濃度で遠心し、再懸濁させた。その後この細菌を、50μg/mLメチレンブルーと共に、もしくは2.5mg/mLリボフラビンと共に、あるいは、あらゆるさらなる処理無しで、室温で2時間インキュベートした。このインキュベーション後、各サンプルに含まれていたcfuを、希釈プレーティングにより数量化した。未処理のサンプルは、4.8x10cfu/mL含み、メチレンブルーで処理したサンプルは、4.2x10cfu/mL含んでおり、メチレンブルーを用いたインキュベーションが細菌数に有意に影響を及ぼさなかったことを示し、また、リボフラビンで処理したサンプルもまた、4.2x10cfu/mL含んでおり、リボフラビンを用いたインキュベーションもまた細菌数に有意に影響を及ぼさなかったことを示していた。
【0074】
放射線増感剤処理に続いて、0.01mLの各混合物(約5x108cfuを含む)を1cmx1cm角の9つのSpongostan(登録商標)ゼラチンスポンジ上に点状に付け、その後このスポンジを60分間風乾した。(Spongostan(登録商標)は、フィブリノゲンのフォームまたは溶液をトロンビンで凝固させることにより調製されたフィブリンの乾燥した人工のスポンジである。これは、トロンビンと組み合わせて、出血がより一般的な方法により制御することができない部位での手術において止血剤として使用される。)その後、三通りのサンプルを、無菌チューブに配置し、未処置のままにするか、または0.1kGyもしくは0.3kGyで照射した。0.35g/Lレシチンおよび2.5mL/LTween 80を含む0.85%生理食塩水中で1分間、ガラスビーズを用いてボルテックスすることにより、スポンジからcfuを回収した。その後、トリプシン大豆寒天上に希釈プレーティングすることにより、cfuの数量化を実施した。
【0075】
図4は、50μg/mLメチレンブルーまたは2.5mg/mLリボフラビンで処理したか、または対照として未処理のままにした、Spongostan(登録商標)ゼラチンサンプルについての照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。図5は、例1〜4のデータについての照射線量の関数としての[対数変化]対[未処理の対照]の概要を表している。
【0076】
前述で実証されたように、放射線増感剤の使用は、消毒のために使用される放射線の線量を有意に減少させ、これにより、確実に、ポリマー材料の構造上の特徴が有意に影響を及ぼされないようにすることが分った。本明細書中に開示されている方法は、ポリマー材料を含む医療用装置の滅菌のコスト、環境的影響、およびプロセスの時間を削減することにより、エチレンオキシド処理といった現在使用されている滅菌方法に優る明確な利点を提供する。
【0077】
対象発明が、図面および先の記述で詳細に説明され記述されて来たが、開示されている実施形態は、例証であり、特性を制限するものではない。本発明の対象範囲内に付随する全ての変更および修正が保護されることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、表2のデータについての照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。
【図2】図2は、表2のデータについての照射線量の関数としての[対数変化]対[接種材料]のプロットを表している。
【図3】図3は、表3および表4のデータについて照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。
【図4】図4は、50μg/mLメチレンブルーまたは2.5mg/mLリボフラビンで処理されるか、または対照として未処理のままにしたSpongostan(登録商標)ゼラチンサンプルについての照射線量の関数としての回収されたcfuのプロットを表している。
【図5】図5は、実施例1〜4のデータについての照射線量の関数としての「対数変化」対「未処理の対照」の概要を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に対して感受性のあるポリマー材料を滅菌する方法において、
(a)前記ポリマー材料に少なくとも1つの放射線増感剤を与えるステップと、
(b)前記ポリマー材料を滅菌するのに有効な線量および時間で、好適な放射線を前記ポリマー材料に照射するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記少なくとも1つの放射線増感剤は、ソラレンならびにその誘導体および類似体;イナクチンならびにそれらの誘導体および類似体;アンゲリシン;ケリン;クマリン;核酸結合性化合物;ブロム化ヘマトポルフィリン;フタロシアニン;プルプリン;ポルフィリン;ジヘマトポルフィリンエステルのハロゲン化されたか、または金属原子が置換された誘導体、ヘマトポルフィリン誘導体、ベンゾポルフィリン誘導体、ヒドロジベンゾポルフィリンジマレイミド、ヒドロジベンゾポルフィリン、ジシアノジスルホン、テトラカルベトキシヒドロジベンゾポルフィリン、およびテトラカルベトキシヒドロジベンゾポルフィリンジプロピオンアミド;ドキソルビシン;ダウノマイシン;ネトロプシン;BDペプチド、S2ペプチド;S−303(ALE化合物);ヒペリシン、メチレンブルー、トルイジンブルー、エオシン、フルオレセイン(およびそれらの誘導体)、フラビン、メロシアニン540といった色素;ベルガプテンといった光活性化合物;およびSEペプチドからなる群より選択される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記少なくとも1つの放射線増感剤は、約20μg/mL〜約75μg/mLの量で存在するメチレンブルーである、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、
前記少なくとも1つの放射線増感剤は、約200μg/mL〜約5mg/mLの量で存在するリボフラビンである、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記ポリマー材料は、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシブチラート)、ポリ(β−ヒドロキシブチラート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(テトラメチルカルボネート)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(アミノ酸)、ならびに、これらのコポリマーおよびターポリマーからなる群より選択される生体吸収性ポリマーである、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記ポリマー材料は、アルギン酸、アルブミン、藻類タンパク質、アポタンパク質、レクチン、リポタンパク質、金属タンパク質、ポリタンパク質、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、フィブロイン、ゼラチン、ケラチン、レチクリン、ポリ(アルファ−アミノ酸)、ポリ(ベータ−アミノ酸)、ポリ(ガンマ−アミノ酸)、ポリイミノ酸、ポリペプチド、およびこれらの誘導体からなる群より選択されるタンパク質性ポリマーである、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記タンパク質性ポリマーは、ゼラチンおよびコラーゲンを含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記ポリマー材料は、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンを含めたスチレン、ナイロン、アクリル、熱可塑性ウレタン、熱可塑性エラストマー、熱硬化性プラスチック、ポリアミド、ポリエステル、成形用シリコン、およびポリエチレンテレフタラートからなる群より選択される非吸収性ポリマーである、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
前記放射線は、γ線、E−ビーム放射線、可視光、紫外光、X−線放射線、多色性可視光、赤外線、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
前記有効な線量は、約1.0kGy未満である、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、
前記有効な線量は、約0.3kGy未満である、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、
前記有効な線量は、約0.1kGy未満である、方法。
【請求項13】
ポリマー製医療用装置において、
(a)医療用装置の形態にあるポリマー組成物であって、前記医療用装置は、少なくとも第1の表面を有する、ポリマー組成物と、
(b)前記医療用装置の前記少なくとも第1の表面に与えられた少なくとも1つの放射線増感剤と、
を含み、
前記医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である、装置。
【請求項14】
ポリマー製医療用装置を作製する方法において、
(a)ポリマー組成物から医療用装置を形成することであって、前記医療用装置は、少なくとも第1の表面を有する、形成することと、
(b)前記ポリマー製医療用装置の前記少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることと、
を含み、
前記医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である、方法。
【請求項15】
物品を作成する方法において、
(a)ポリマーの組成物を提供することと、
(b)前記ポリマーを溶融加工温度まで加熱することと、
(c)溶融加工器機を用いて前記ポリマーの組成物から物品を形成することであって、前記物品は、少なくとも第1の表面を有する、形成することと、
(d)前記物品の前記少なくとも第1の表面に少なくとも1つの放射線増感剤を与えることと、
を含み、
前記物品は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である、方法。
【請求項16】
放射線による滅菌に耐える医療用装置の能力を高める方法において、
前記医療用装置に少なくとも1つの放射線増感剤を与えるステップを含み、
前記医療用装置は、放射線での滅菌に続く意図された使用のために有効である、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの放射線増感剤は、約20μg/mL〜約75μg/mLの量で存在するメチレンブルーである、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの放射線増感剤は、約200μg/mL〜約5mg/mLの量で存在するリボフラビンである、方法。
【請求項19】
放射線に対して感受性のあるポリマー材料を滅菌する方法において、
(a)前記ポリマー材料にメチレンブルーを与えるステップと、
(b)前記ポリマー材料を滅菌するのに有効な線量および時間で、好適な放射線を前記ポリマー材料に照射するステップと、
を含み、
前記ポリマー材料は、ゼラチンを含む、方法。
【請求項20】
放射線に対して感受性のあるポリマー材料を滅菌する方法において、
(a)前記ポリマー材料にリボフラビンを与えるステップと、
(b)前記ポリマー材料を滅菌するのに有効な線量および時間で、好適な放射線を前記ポリマー材料に照射するステップと、
を含み、
前記ポリマー材料は、ゼラチンを含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−508403(P2010−508403A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534936(P2009−534936)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/082977
【国際公開番号】WO2008/055143
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(507209506)エシコン・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Ethicon Incorporated
【住所又は居所原語表記】Rt. 22 West,P.O.Box 151,Somerville,NJ 08876−0151 United States of America
【Fターム(参考)】