説明

ポリマー粒子を含有するインキ、電極およびMEA

1種以上の触媒材料、液状媒体ならびに1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子を含有する触媒インキ、本発明による少なくとも1触媒インキを含む電極、本発明による少なくとも1電極ないし本発明による少なくとも1触媒インキを含む膜・電極ユニット、本発明による少なくとも1膜・電極ユニットを含む燃料電池ならびに、本発明による膜・電極ユニットを製造するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上の触媒材料、液状媒体ならびに1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子を含有する触媒インキ、本発明による少なくとも1種の触媒インキを含む電極、本発明による少なくとも1種の電極ないし本発明による少なくとも1種の触媒インキを含む膜・電極ユニット、本発明による少なくとも1つの膜・電極ユニットを含む燃料電池ならびに、本発明による膜・電極ユニットを製造するための方法に関する。
【0002】
ポリマー電解質膜燃料電池(PEM燃料電池)は従来の技術から公知である。これらの電池では、目下のところもっぱら、スルホン酸修飾ポリマーがプロトン伝導性膜として使用されている。その顕著な例はDuPont社のNafion(登録商標)である。プロトン伝導には、比較的高い、一般にスルホン酸基当たり4〜20個の水分子という膜含水量が必要である。こうした所要の含水量と、さらに、酸性水および反応ガス(水素、酸素)と組み合わされるポリマーの安定性からしても、PEM燃料電池スタックの運転温度は通例80〜100℃に制限されている。この運転温度は、加圧下で、120℃超の温度に高めることが可能である。そうでない場合、燃料電池の性能損失なしに、高い運転温度の実現は不可能である。
【0003】
しかしながら、燃料電池の場合、システム技術上の理由から、100℃超の運転温度が望ましい。高い運転温度時には、膜・電極ユニットに含まれた貴金属ベース触媒の活性は遥かに向上する。特に、炭化水素から得られるいわゆる改質油が使用される場合、改質装置ガス中には顕著な量の一酸化炭素が含まれており、これは通例、コストのかかるガス処理ないしガス浄化を通じて除去されなければならないが、運転温度が高い場合、CO不純物に対する触媒の許容度が高まる。
【0004】
さらに、燃料電池の運転時には熱が発生する。しかしながら、こうしたシステムを80℃未満にまで冷却するには非常なコストを要する。ただし、出力に応じて、冷却装置を遥かにシンプルなものとすることが可能である。このことは、100℃超の温度で運転される燃料電池では、排熱の著しく優れた利用が可能であり、それゆえ、熱電併給によって燃料電池システム効率を高められるということを意味している。こうした温度を達成するため、一般に、新しい伝導メカニズムを有する膜が使用される。100℃超運転温度(一般に120℃〜180℃の運転温度)にて無湿分またはごく僅かな湿分で作動する燃料電池を実現し得る非常に有望な方式は、膜の導電率が、膜のポリマー骨格に静電結合した、水の沸点を上回る温度で膜がほぼ完全に乾燥している場合にも運転ガスの付加的給湿なしにプロトン伝導性を達成する液体酸の含有量に依拠するタイプの燃料電池に関係している。従来の技術から公知のこの種の燃料電池タイプは、一般に、高温型ポリマー電解質膜燃料電池(HTM燃料電池)と称される。たとえば液体電解質としてのリン酸が含浸させられるこの種の膜の材料として特にポリベンゾイミダゾール(PBI)が知られている。
【0005】
酸性液体電解質が含浸させられた膜の効率をできるだけ高いものとするには、膜・電極ユニットないし燃料電池に使用される電極は、燃料電池膜の所与条件に適合されなければならない。その際、電池運転中の酸損失(液体電解質の損失)はできるだけ低くかつ電極内の遊離酸の濃度も同じくできるだけ低いことが特に重要である。
【0006】
ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書には、2つのガス拡散層の間に配置された燃料電池膜を有する膜・電極ユニットが記載されており、この場合、燃料電池膜は酸含浸ポリマーをベースとして形成されている。ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書によれば、燃料電池膜とガス拡散層との間には、水が膜・電極ユニット内および/または燃料電池膜内に保持されおよび/または酸が貯蔵されるようにしてそれぞれ少なくとも1つのポリマー添加触媒含有層が配置されている。ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書によれば、ポリマーとして、通例、ポリアゾールが使用される。膜・電極ユニットの製造は、粉末状触媒、溶媒、多孔形成材料およびポリマー溶液から、スクリーン印刷法で膜に被着される電極ペーストが製造されることによって行われる。ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書によれば、電極ペーストのポリマー含有量は、触媒ペースト1gを基準として、0.001〜0.06質量%である。ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書に挙げられた方法によっては、触媒ないしポリマー電解質膜へのポリマー添加剤とくにポリアゾールの適正かつ適確な被着は不可能である。
【0007】
国際公開第2006/005466号パンフレットには、触媒層内にある電極触媒と、水の沸点を上回るまでの運転温度にて使用可能であって耐久的な高いガス透過性を保証する隣接ポリマー電解質膜との間に配置される、プロトン伝導性の改善されたガス拡散電極が開示されている。この場合、触媒層中の導電担体材料の粒子の少なくとも一部は、水の沸点を上回るまでの運転温度にて使用可能な少なくとも1種の多孔質プロトン伝導性ポリマーによって積載されている。国際公開第2006/005466号パンフレットによれば、ポリマーの積載は位相反転法によって行われ、国際公開第2006/005466号パンフレットによれば、これによって、触媒と膜との間の優れたプロトン伝導性が達成される。好ましくは、触媒層はさらにプロトン伝導性ポリマーからなる多孔質粒子を有する。この場合、該ポリマーは特にN含有ポリマーである。国際公開第2006/005466号パンフレットによれば、このポリマーはドープ剤たとえばリン酸を吸収し、固定することができる。
【0008】
欧州公開第0 731 520号パンフレットには、1種以上の触媒と、1種以上のプロトン伝導性ポリマー、好ましくは、有機溶媒に溶解された溶液として、有機成分を含有していない水ベースの液状媒体に加えられる、イオン交換基を有するフッ素化ポリマーとを含む触媒インキが開示されている。
【0009】
上記従来の技術に比較した本発明の目的は、電極および膜・電極ユニットならびに燃料電池(この場合、当該燃料電池は高温運転使用に適した電池(高温型燃料電池)である)の製造に適した触媒インキを提供し、特別な触媒インキの使用によって、三相(触媒、イオノマーおよびガス)界面面積の増加、電極中の遊離酸濃度の低下、電池運転中の酸損失の減少または回避ならびに電池抵抗の減少を達成可能とすることである。この目的は、以下すなわち
(a) 成分Aとしての、1種以上の触媒材料と、
(b) 成分Bとしての、液状媒体と、
(c) 成分Cとしての、1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子と
を含有する触媒インキによって解決される。
【0010】
重要な点は、本出願による触媒インキはポリマー溶液を含んでいるのではなく、触媒インキの液状媒体中に分散させられたポリマー粒子を含んでいることである。
【0011】
本発明による触媒インキは、公知の標準的方法たとえばスクリーン印刷法、ドクターコート法、その他の印刷法、スプレーコーティングによって、ガス拡散相または膜に被着することが可能である。
【0012】
本発明による触媒インキは、上述したように、膜の導電率が膜のポリマー骨格に静電結合した液体酸の含有量に依拠する高温型燃料電池に特に適しており、この場合、膜は特にポリアゾールをベースとし、液体電解質としてたとえばリン酸が使用される。
【0013】
酸とくにリン酸は触媒層内に微細に分散したポリマー粒子によって吸収され、触媒層内に存在するポリマー粒子に結合され得る。これによって、三相(触媒、イオノマーおよびガス)界面面積を増加させることが可能である。本発明による触媒インキをベースとする膜・電極ユニットは、微細分散したポリマーを含まない触媒インキをベースとする膜・電極ユニットに比較して、低い抵抗を有することが見い出された。このことは、当業者によれば、触媒インキに含まれたポリマー粒子の膨潤によってガス・物質輸送のためのスペースは減少し、それゆえ、膜・電極ユニットの特性は低下すると予測されていたと考えられるがゆえに、驚くべきことである。
【0014】
ドイツ出願公開第10 2004 063457号明細書によって開示された触媒インキとの重大な相違は、本発明による触媒インキ中のポリマーは溶液としてではなく、微細分散粒子として存在している点にある。それゆえ、触媒はポリマーでコートされるのではないために、もっと高い割合でポリマーを使用することが可能であり、触媒活性が低下することはないことになる。そのため、相応してもっと多くの酸を結合することが可能である。
【0015】
成分A:触媒材料
本発明により、触媒インキは、成分Aとして、1種以上の触媒材料を含んでいる。これらの触媒材料は触媒活性成分として作用する。膜・電極ユニットないし燃料電池のアノードないしカソード用触媒材料として使用可能な適切な触媒材料は当業者には公知である。たとえば、適切な触媒材料は、触媒活性成分として少なくとも1貴金属を含む材料であり、その際、貴金属とは特に白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよび/またはルテニウムである。これらの物質はそれらの合金の形でも使用可能である。さらに、これらの触媒活性成分は合金添加剤として1種以上の卑金属を含んでいてよく、その際、該卑金属は、クロム、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム、鉄および銅からなる群から選択される。さらに、上記貴金属および/または卑金属の酸化物も触媒材料として使用可能である。
【0016】
触媒材料は担持触媒または非担持触媒の形で存在していてよいが、担持触媒が好ましい。担体材料としては、好ましくは導電性炭素、特に好ましくはカーボンブラック、グラファイトおよび活性炭から選択された導電性炭素が使用される。
【0017】
触媒材料は一般に粒子の形で使用される。触媒材料が非担持触媒として存在している場合、粒子(たとえば貴金属結晶)は5nmを下回る平均粒径を有していてよく、たとえば、XRD測定で測定して、1〜1000nmの平均粒径を有していてよい。触媒材料が担持触媒の形で使用される場合、粒径(触媒活性成分+担体材料)は一般に0.01〜100μm、好ましくは0.01〜50μm、特に好ましくは0.01〜30μmである。
【0018】
本発明による触媒インキは、一般に、触媒インキによって製造された電極ないし膜・電極ユニットの触媒層中の貴金属含有量が0.1〜10.0mg/cm2、好ましくは0.2〜6.0mg/cm2、特に好ましくは0.2〜3.0mg/cm2となる割合の貴金属を含んでいる。これらの数値は面状試料の元素分析によって求められる。
【0019】
本発明による触媒インキ使用下での膜・電極ユニットの製造に際しては、一般に、膜・電極ユニット中に存在する膜を製造するための膜ポリマーと、少なくとも1種の貴金属と場合により1種以上の担体材料とを含んでなる触媒インキに使用される触媒材料との質量比として、>0.05、好ましくは0.1〜0.6が選択される。
【0020】
本発明による触媒インキ中には、一般に、触媒インキの総量を基準として2〜30質量%、好ましくは2〜25質量%、特に好ましくは3〜20質量%の量の触媒材料(成分A)が存在している。
【0021】
本発明によって使用される触媒材料が担体材料を含んでいる場合、本発明によって使用される触媒材料中の担体材料の割合は、一般に、40〜90質量%、好ましくは60〜90質量%である。本発明によって使用される触媒材料中の貴金属の割合は、一般に、10〜60質量%、好ましくは10〜40質量%である。貴金属の他にさらに卑金属が合金添加剤として使用される場合、貴金属の割合は当該卑金属の当該量分だけ減少する。通例、合金添加剤としての卑金属の割合は、触媒材料中に存在する金属の総量を基準として、0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。金属に代えて当該酸化物が使用される場合、金属に関して上述の量値が適用される。
【0022】
成分B:液状媒体
一般に、本発明による触媒インキは、4〜30質量%の、好ましくは5〜25質量%の固体つまり成分Aおよび成分Cを含んでいる。
【0023】
本発明による触媒インキには、液状媒体として一般に水性媒体、好ましくは水が使用される。水性媒体は、水に加えて、アルコールまたはポリアルコールたとえばグリセリンまたはエチレングリコール、または有機溶媒たとえばジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)またはジメチルホルムアミド(DMF)を含んでいてよい。触媒インキ中の水、アルコールないしポリアルコールの含有量および/または有機溶媒の含有量は、触媒インキの流動学的性質を調整するために選択することが可能である。一般に、本発明による触媒インキは、水の他に、0〜50質量%のアルコールおよび/または0〜20質量%のポリアルコールおよび/または0〜50質量%の少なくとも1種の有機溶媒を含んでいる。
【0024】
液状媒体は、場合によりさらに、液状媒体が酸性またはアルカリ性、好ましくは酸性であるようにする成分を含んでいてよい。適切な成分は当業者には公知である。
【0025】
成分C:1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子
本発明による触媒インキは、成分Cとして、1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子を含んでいる。
【0026】
この場合、プロトン伝導性ポリマーとは、使用されるポリマーが酸または酸含有化合物を含んでなる電解質としての液体と共にプロトンを伝導し得ることとして理解されなければならない。
【0027】
電解質としての酸または酸含有化合物の存在においてプロトンを伝導し得る適切なポリマーは、たとえば、
ポリ(フェニレン)、ポリ(p−キシリレン)、ポリアリールメチレン、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルエーテル、ポリビニルアミン、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリジン、ポリビニルピリジン;
主鎖中にCO結合を有するポリマーたとえばポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリエーテル、ポリプロピレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエステル、特にポリヒドロキシ酢酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシベンゾエート、ポリヒドロキシプロピオン酸、ポリピバロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリマロン酸、ポリカーボネート;
主鎖中にC−S結合を有するポリマーたとえばポリスルフィドエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン;
主鎖中にC−N結合を有するポリマーたとえばポリイミン、ポリイソシアニド、ポリエーテルイミン、ポリエーテルイミド、ポリアニリン、ポリアラミド、ポリアミド、ポリヒドラジド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアゾール、ポリアゾールエーテルケトン、ポリアジン;
液晶ポリマーとくにTicona GmbHのVectra(登録商標)ならびに無機ポリマーたとえばポリシラン、ポリカーボシラン、ポリシロキサン、ポリ珪酸、ポリシリケート、シリコン、ポリホスファゼンおよびポリチアジル;
からなる群から選択される。
【0028】
この場合、塩基性ポリマーが好ましく、その際、酸をドープした後に、プロトン輸送を実現することのできる基本的にすべての塩基性ポリマーが顧慮される。使用される好ましい酸は、付加的な水なしに、たとえばいわゆるグロットゥスの機構によってプロトンを輸送し得る酸である。
【0029】
本発明の趣旨の塩基性ポリマーとしては、好ましくは、1反復単位内に少なくとも1個の窒素原子、酸素原子または硫黄原子、好ましくは少なくとも1個の窒素原子を有する塩基性ポリマーが使用される。さらに、少なくとも1種のヘテロアリール基を含んでなる塩基性ポリマーが好ましい。
【0030】
好ましい実施形態において、塩基性ポリマーの反復単位は少なくとも1個の窒素原子を有する芳香環を含んでいる。この芳香環は、好ましくは、他の環とくに他の芳香環と環生成されていてよい1〜3個の窒素原子を有する5員または6員環である。
【0031】
好ましい実施形態において、1反復単位または異なった反復単位内に少なくとも1個の窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子を含む高温安定性ポリマーが使用される。
【0032】
本発明の趣旨の高温安定性ポリマーとは、ポリマー電解質として燃料電池内で120℃超の運転温度にて耐久的に作動可能なポリマーである。この場合、耐久的とは、このポリマーからなる膜が、国際公開第01/18894号パンフレット記載の方法で測定可能な出力が当初出力を基準として50%超低下することがないようにして、少なくとも80℃、好ましくは少なくとも120℃、特に好ましくは少なくとも160℃の運転温度にて一般に少なくとも100時間、好ましくは少なくとも500時間にわたって作動可能であることを意味している。
【0033】
本発明の範囲において、上述したすべてのポリマーは個々にまたは混合物(ブレンド)として使用可能である。その際、ポリアゾールおよび/またはポリスルホンを含むブレンドが特に好ましい。この場合、好ましいブレンド成分は、ドイツ特許第100 522 42号明細書およびドイツ特許第102 464 61号明細書に記載されているように、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンおよび、スルホン酸基で修飾されたポリマーである。
【0034】
さらに、少なくとも1種の塩基性ポリマーと少なくとも1種の酸性ポリマーとを好ましくは1:99〜99:1の質量比で含んでなるポリマーブレンドも本発明の目的に適していることが判明した(いわゆる、酸−塩基−ポリマーブレンド)。この点で特に好適な酸性ポリマーは、スルホン酸基および/またはリン酸基を有するポリマーを含んでいる。本発明によるとりわけ特に好適な酸−塩基−ポリマーブレンドはたとえば欧州公開第1 073 690号パンフレットに記載されている。
【0035】
1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含んでなるポリマー粒子であって、とりわけ特に好ましいのは、ポリアゾールまたは、酸とくにリン酸がドープされてプロトン伝導性を有するポリアゾールの混合物である。
【0036】
ポリアゾールをベースとする塩基性ポリマーは特に好ましくは、一般式(I)および/または(II)および/または(III)および/または(IV)および/または(V)および/または(VI)および/または(VII)および/または(VIII)および/または(IX)および/または(X)および/または(XI)および/または(XII)および/または(XIII)および/または(XIV)および/または(XV)および/または(XVI)および/または(XVII)および/または(XVIII)および/または(XIX)および/または(XX)および/または(XXI)および/または(XXII)
【化1】

【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

[式中、
Arは同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい四価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar1は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar2は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価または三価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar3は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい三価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar4は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい三価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar5は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい四価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar6は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar7は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar8は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい三価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar9は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価または三価または四価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar10は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価または三価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Ar11は同一かまたは異なっており、単核または多核であってよい二価の芳香族基またはヘテロ環式芳香族基を表し、
Xは同一かまたは異なっており、酸素、硫黄を表すかまたは、水素原子1個、炭素原子1〜20個を有する基、好ましくは、枝分かれしたまたは枝なしのアルキル基またはアルコキシ基またはアリール基をその他の基として担持するアミノ基を表し、
Rは同一かまたは異なっており、水素、アルキル基または芳香族基を表し、Rが式(XX)において水素とは異なっていることを条件として、式(XX)においてはアルキレン基または芳香族基を表し、
n、mは10以上の、好ましくは100以上の整数を表す]の反復アゾール単位を含んでいる。
【0040】
好ましい芳香族基またはヘテロ環式芳香族基は、ベンゼン、ナフタリン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、キノリン、ピリジン、ビピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ピロール、ピラゾール、アントラセン、ベンゾピロール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン、ベンゾピリミジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、キノリジン、ピリドピリジン、イミダゾールピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アゼリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキサジン、フェノチアジン、アジリジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリンおよび、場合により置換されていてもよいフェナントレンから誘導される。
【0041】
その際、Ar1、Ar4、Ar6、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10およびAr11の置換パターンは任意であり、たとえばフェニレンの場合、Ar1、Ar4、Ar6、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10およびAr11は互いに独立にオルト−フェニレン、メタ−フェニレンおよびパラ−フェニレンであってよい。特に好ましい基はベンゼンおよび、場合により置換されていてよいビフェニレンから誘導される。
【0042】
好ましいアルキル基は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基およびt−ブチル基である。
【0043】
好ましい芳香族基はフェニル基またはナフチル基である。アルキル基および芳香族基は単置換または多置換されていてよい。
【0044】
好ましい置換基はハロゲン原子たとえばフッ素、アミノ基、ヒドロキシ基またはC1−C4−アルキル基たとえばメチル基またはエチル基である。
【0045】
ポリアゾールは、基本的に、たとえば基Xが相違する異なる反復単位を有していてよい。ただし、それぞれのポリアゾールは1反復単位内にもっぱら同一の基Xを有しているのが好ましい。
【0046】
本発明の特に好ましい実施形態において、ポリアゾール塩は上記の式(I)および/または(II)の反復アゾール単位を含むポリアゾールをベースとしている。
【0047】
一実施形態において、ポリアゾール塩の形成に使用されるポリアゾールは、互いに異なる、上記の式(I)〜(XXII)の少なくとも2つの単位を含むコポリマーまたはブレンドの形の反復アゾール単位を含むポリアゾールである。これらのポリマーは、ブロックコポリマー(二元、三元)、ランダムコポリマー、ペリオディックコポリマーおよび/または交互コポリマーとして存在していてよい。
【0048】
ポリマー中の反復アゾール単位の数は、好ましくは10以上、特に好ましくは100以上の整数である。
【0049】
さらに別の好ましい実施形態において、ポリアゾール塩を形成するためのポリアゾールとして、反復単位内の基Xが同一の、上記の式(I)の反復単位を含むポリアゾールが使用される。
【0050】
本発明のポリアゾール塩がベースとするさらにその他の好ましいポリアゾールは、ポリベンゾイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリイミダゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾールおよびポリ(テトラアザピレン)からなる群から選択される。
【0051】
特に好ましい実施形態において、ポリアゾール塩は、反復ベンゾイミダゾール単位を含むポリアゾールをベースとしている。以下に挙げたものは、反復ベンゾイミダゾール単位
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

[式中、
nおよびmは10以上、好ましくは100以上の整数である]を有する適切なポリアゾールであり、その際、上記のベンゾイミダゾール単位中に存在するフェニレン単位またはヘテロアリール単位は1つ以上のF原子で置換されていてよい。
【0056】
特に好ましくは、本発明によって使用されるポリアゾール塩がベースとするポリアゾールは以下の式
【化10】

[式中、
nは10以上、好ましくは100以上の整数であり、oは1、2、3または4を意味する]の反復単位を有している。ポリアゾール、好ましくは、ポリベンゾイミダゾールは、一般に、高い分子量を特徴としている。この分子量は、固有粘度として測定して、好ましくは少なくとも0.2dl/g、特に好ましくは0.8〜10dl/g、とりわけ特に好ましくは1〜10dl/gである。粘度ηi(固有粘度とも称される)は相対粘度ηrelから以下の式、ηi=(2,303×logηrel)/濃度、に基づいて計算される。その際、濃度はg/100mlで表される。ポリアゾールの相対粘度は、毛管粘度計を用いて、25℃での溶液の粘度から求められ、その際、相対粘度は溶媒t0と溶液t1の補正通過時間から以下の式、ηrel=t1/t0、に基づいて計算される。ηiへの換算は上記の関係式に従って、"Methods in Carbohydrate Chemistry",VolumeIV,Starch,Academic Press, New York and London, 1964, p.127の記載に依拠して行われる。
【0057】
好ましいポリベンゾイミダゾールは、たとえば商品名Celazol(登録商標)でPBI(PBI Performance Products Inc.)から市販されている。
【0058】
とりわけ特に好ましい実施形態において、プロトン伝導性ポリマーは、酸のドープ後にプロトン伝導性を有するpPBI(ポリ−2,2’−p−(フェニレン)−5,5’−ジベンゾイミダゾール)および/またはF−pPBI(ポリ−2,2’−p−(ペルフルオロフェニレン)−5,5’−ジベンゾイミダゾール)である。
【0059】
本発明による触媒インキの一つの重要な着眼点は、プロトン伝導性ポリマー(単数または複数)がポリマー粒子の形(通例、分散系の形)で触媒インキ中に存在していることである。こうしたポリマー粒子は一般に100μm以下、好ましくは50μm以下の平均粒径を有している。粒径ならびに粒度分布はMalvern Master Sizer(登録商標)を用いレーザ回折によって測定される。
【0060】
以下に、レーザ回折によって粒径ならびに粒度分布を求めるための適切な規定を記載する:
物質:触媒インキ
分散媒:VE水
調製:約0.3mlの原懸濁液を2mlのVE水に稀釈、攪拌。その後、約0.5mlを125mlのVE水に加え、測定装置に装入。減光率約20%
測定装置:Fa.Malver社のレーザ回折Mastersizer(登録商標)2000
分散モジュール:Hydro S:ポンプ=3000回転/分、USW=100%付き/無し、約5分
分析モデル:ユニバーサル
評価モデル:フラウエンホーファーによる
測定域:20nm〜2000μm
代表的な濃度域10-2<cv<10-4
測定方式:フラウエンホーファー回折の反転によって検出素子での強度が粒度分布に換算され、体積分布として出力される。
測定:赤色光源(波長=633nm)および青色光源(波長=466nm)による。
【0061】
通例、本発明による触媒インキは、インキに使用された触媒材料の量を基準として、1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは1〜15質量%の少なくとも1種のプロトン伝導性ポリマーを含んでいる。
【0062】
本発明による触媒インキは、場合により、さらに少なくとも1種の分散助剤を成分Dとして含んでいてよい。その際、分散助剤は一般に、プロトン伝導性ポリマーを基準として、0.1〜4質量%、好ましくは0.1〜3質量%の量で存在している。適切な分散助剤は当業者には基本的に公知である。特に好ましくは、成分Dとして使用される分散助剤は少なくとも1種の過フッ素化されたポリマーたとえば少なくとも1種のテトラフルオロエチレンポリマー、好ましくは、少なくとも1種の過フッ素化されたスルホン酸ポリマーたとえば少なくとも1種のスルホン化テトラフルオロエチレンポリマー、特に好ましくはDuPont社のNafion(登録商標)、Fumatech社のFumion(登録商標)またはIonpower社のLigion(登録商標)である。
【0063】
したがって、さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、分散助剤として下記の成分Dすなわち
(d) 少なくとも1種の過フッ素化されたポリマーたとえば少なくとも1種のテトラフルオロエチレンポリマー、好ましくは、少なくとも1種の過フッ素化されたスルホン酸ポリマーたとえば少なくとも1種のスルホン化テトラフルオロエチレンポリマー、特に好ましくはDuPont社のNafion(登録商標)、Fumatech社のFumion(登録商標)またはIonpower社のLigion(登録商標)
を含む本発明による触媒インキに関する。
【0064】
その他の適切な過フッ素化されたポリマーは、たとえは、テトラフルオロエチレンポリマー(PTFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PFA)および/またはペルフルオロメチルビニルエーテル(MFA)である。
【0065】
加えて、本発明による触媒インキはさらに、少なくとも1種の界面活性剤を成分Eとして含んでいてよい。適切な界面活性剤は当業者には公知である。これは、触媒インキの被着後に洗い流されるかまたは、たとえば、触媒インキの被着によって製造された電極がたとえば200℃を下回る温度に加熱される場合に、熱分解される界面活性剤であってよい。好ましい界面活性剤は、アニオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群から選択され、たとえばフッ素系界面活性剤たとえば一般式CF3−(CF2p−X[式中、p=3〜12であり、Xは−SO3H、−PO32および−COOHからなる群から選択される]の界面活性剤たとえばヘプタデカフルオロオクタン酸のテトラエチルアンモニウム塩である。その他の適切な界面活性剤は、オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x[この場合、xはたとえば10であってよい]たとえばRoche Diagnostics GmbHのTriton(登録商標)X−100、ノニルフェノールエトキシレートたとえばDow Chemical CompanyのTergitol(登録商標)シリーズのノニルフェノールエトキシレート、ナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩たとえばBASF SEのTamol(登録商標)シリーズのナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩、フッ素系界面活性剤たとえばDuPont社のZonyl(登録商標)シリーズのフッ素系界面活性剤、主として線状の脂肪アルコールのアルコキシル化生成物たとえばBASF SEのPlurafac(登録商標)シリーズの主として線状の脂肪アルコールのアルコキシル化生成物たとえばPlurafac(登録商標)LF 711、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドからなるアルコキシレートたとえばBASF SEのPluriol(登録商標)シリーズのエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドからなるアルコキシレート、特に、式HO(CH2CH2O)nHのポリエチレングリコールたとえばBASF SEのPluriol(登録商標)EシリーズたとえばPluriol(登録商標)E300ならびにβ−ナフトールエトキシレートたとえばBASF SEのLugalvan(登録商標)BNO12である。
【0066】
通例、界面活性剤が使用される場合、少なくとも1種の界面活性剤は、触媒インキの総量を基準として、0.1〜4質量%、好ましくは0.1〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2.5質量%の量で使用される。
【0067】
したがって、本発明のさらなる対象は、触媒インキがさらに成分Eを含んでいる本発明による触媒インキである。成分Eは
(e) 好ましくは非イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤たとえば一般式CF3−(CF2p−X[式中、p=3〜12であり、Xは−SO3H、−PO32および−COOHからなる群から選択される]の界面活性剤たとえばヘプタデカフルオロオクタン酸のテトラエチルアンモニウム塩である。その他の適切な界面活性剤は、オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x[この場合、xはたとえば10であってよい]たとえばRoche Diagnostics GmbHのTriton(登録商標)X−100、ノニルフェノールエトキシレートたとえばDow Chemical CompanyのTergitol(登録商標)シリーズのノニルフェノールエトキシレート、ナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩たとえばBASF SEのTamol(登録商標)シリーズのナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩、フッ素系界面活性剤たとえばDuPont社のZonyl(登録商標)シリーズのフッ素系界面活性剤、主として線状の脂肪アルコールのアルコキシル化生成物たとえばBASF SEのPlurafac(登録商標)シリーズの主として線状の脂肪アルコールのアルコキシル化生成物たとえばPlurafac(登録商標)LF 711、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドからなるアルコキシレートたとえばBASF SEのPluriol(登録商標)シリーズのエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドからなるアルコキシレート、特に、式HO(CH2CH2O)nHのポリエチレングリコールたとえばBASF SEのPluriol(登録商標)EシリーズたとえばPluriol(登録商標)E300ならびにβ−ナフトールエトキシレートたとえばBASF SEのLugalvan(登録商標)BNO12である。
【0068】
本発明による触媒インキの製造は、成分A、BおよびCならびに場合により成分Dおよび場合により成分Eの単純な混合によって行われる。その際、混合は通例の混合装置で行うことができる。通例の混合装置は当業者には公知である。この混合は、当業者に公知のあらゆる方法により、当業者に公知の装置たとえば攪拌型反応器、ボール振盪型混合機または連続型混合装置にて、場合により超音波を使用して行うことが可能である。通例、触媒インキの成分の混合は室温にて行われる。ただし、触媒インキの成分を0〜70℃、好ましくは10〜50℃の温度範囲で混合することも可能である。
【0069】
本発明による触媒インキは、電極、膜・電極ユニットの製造ならびに燃料電池および燃料電池スタックの製造に適している。
【0070】
本発明による触媒インキの使用により、三相(触媒、イオノマーおよびガス)界面面積の増加、電極中の遊離酸濃度の低下、電池運転中の酸損失の減少または回避ならびに電池抵抗の減少を達成することができる。
【0071】
本発明のさらなる対象は、本発明による触媒インキを使用して製造される膜・電極ユニットである。
【0072】
本発明により、膜・電極ユニットは、ポリマー電解質膜によって分離された少なくとも2つの電気化学的活性電極(アノードおよびカソード)を含んでなり、その際、電極は本発明による触媒インキの被着によって得られる。「電気化学的活性」なる用語は、電極が水素および/または少なくとも改質油の酸化および酸素の還元を触媒し得ることを示している。「電極」なる用語は、材料が導電性を有することを意味している。
【0073】
好ましくは、本発明による膜・電極ユニットはさらに、電極を形成する触媒層とそれぞれ接触しているガス拡散層を含んでいる。
【0074】
ガス拡散層としては、通例、導電性を有する耐酸性面状構造物が使用される。たとえばグラファイト繊維紙、炭素繊維紙、グラファイトクロスおよび/または、カーボンブラックの添加によって導電性の付与された紙がそうしたものである。これらの層によって、ガスまたは液体流れの精密分布が達成される。
【0075】
さらに、少なくとも1種の導電材料たとえば炭素(たとえばカーボンブラック)の含浸させられた機械的に安定した保護材料を含むガス拡散層も使用可能である。そのために特に適した保護材料は、たとえば不織布の形の繊維、特に、炭素繊維、グラスファイバーまたは、有機ポリマーたとえばポリプロピレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリフェニレンスルフィドまたはポリエーテルケトンを含む有機ポリマーである。この種の拡散層に関するその他の詳細はたとえば国際公開第97/20358号パンフレットから看取可能である。
【0076】
ガス拡散層は、好ましくは80μm〜2000μm、特に好ましくは100μm〜1000μm、とりわけ特に好ましくは150μm〜500μmの範囲の厚さを有する。
【0077】
さらに、ガス拡散層は、有利には、高い空隙率を有する。空隙率は20%〜80%の範囲内にあるのが好ましい。
【0078】
ガス拡散層は通例の添加剤を含んでいてよい。それらは、とりわけフルオロポリマー、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および界面活性物質である。
【0079】
一実施形態において、ガス拡散層の少なくとも1つは圧縮性材料からなっていてよい。本発明の範囲において、圧縮性材料は、ガス拡散層がその一体性を喪失することなく加圧によって本来の厚さの少なくとも二分の一、好ましくは少なくとも三分の一に圧縮可能であるとの特性を有している。
【0080】
こうした特性は、一般に、グラファイトクロスおよび/または、カーボンブラックの添加によって導電性の付与された紙からなるガス拡散層が有している。
【0081】
本発明による燃料電池に使用されるポリマー電解質膜としては、基本的に、当業者に公知のあらゆるポリマー電解質膜が適している。ポリマー電解質膜はポリマー粒子(成分C)に関連して挙げた材料のうちの少なくともいずれか1材料から構成されているのが好ましい。それゆえ、特に好ましい実施形態において、上記ポリマー電解質膜は、酸とくにリン酸の添加によってプロトン伝導性の付与されたポリアゾール膜である。ポリアゾール膜に代わるその他の適切な材料の実施形態は成分Cに関連して挙げた一連の材料と同じである。
ポリマー電解質膜は、当業者に公知の方法たとえば、ポリマー電解質膜の製造に使用される成分を含む溶液または分散液を支持体上に流し込み、吹き付けまたはドクターコートすることによって製造される。支持体としては、当業者に公知のあらゆる通例の支持体材料が適しており、それらは、たとえば、ポリマー材料たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエーテルスルホンまたは金属ストリップであり、金属ストリップが使用される場合、膜は続いて当該金属ストリップから引き剥がされる。
【0082】
本発明による膜・電極ユニットに使用されるポリマー電解質膜は、一般に、20〜4000μm、好ましくは30〜3500μm、特に好ましくは50〜3000μmの層厚さを有する。
【0083】
本発明による触媒インキをベースとして形成される本発明による膜・電極ユニットの触媒層(電極)は一般に自立性を有しておらず、通例、ガス拡散層上および/またはポリマー電解質膜上に被着される。この場合、触媒層の一部はたとえばガス拡散層内および/または膜内に拡散可能であり、これによって移行層が形成される。これにより、触媒層はガス拡散層の一部として解することもできることとなる。
【0084】
したがって、触媒層(電極)は、先ずガス拡散電極が製造され、その際、ガス拡散層が本発明による触媒インキでコートされるようにして、異なる方法で製造することが可能である。かくて、膜・電極ユニットはポリマー電解質膜と、電極でコートされたガス拡散層との加熱およびプレスによって製造される。
【0085】
ただし、触媒インキがポリマー電解質膜の表面に被着され、こうして、ポリマー電解質膜上に電極が形成されるようにすることも可能である。
【0086】
ポリマー電解質膜上またはガス拡散層上への触媒インキの被着は、当業者に公知のあらゆる方法たとえば吹き付け、プリント、ドクターコート、転写、スクリーン印刷またはインクジェット印刷で行うことができる。
【0087】
こうして得られた触媒層は、一般に、1〜1000μm、特に5〜500μm、特に好ましくは10〜300μmの厚さを有する。この値は、走査電子顕微鏡(REM)を用いて得られる断面撮像の層厚さ測定によって測定可能な平均値を表している。
【0088】
したがって、本発明のさらなる対象は、ポリマー電解質膜によって分離された少なくとも2つの電気化学的活性電極を含んでなり、少なくとも2つの該電気化学的活性電極はポリマー電解質膜上への本発明による触媒インキの被着によって得られる膜・電極ユニットである。ポリマー電解質膜上に本発明による触媒インキを被着するための適切な方法ならびにこうして得られた触媒層の適切な層厚さは上述した通りである。
【0089】
したがって、本発明による膜・電極ユニットにおいて、ポリマー電解質膜の表面は、第1の電極がポリマー電解質膜の前面を、第2の電極がポリマー電解質膜の裏面をそれぞれ部分的または全面的に、好ましくはもっぱら部分的に、覆うようにして電極と接触している。この場合、ポリマー電解質膜の前面および裏面とはポリマー電解質膜の観察者側に向いた面ないし反対側の面を意味しており、その際、観察は第1の電極(前方)(好ましくはカソード)から出発して、第2の電極(後方)(好ましくはアノード)の方向に向かって行われることとする。
【0090】
本発明による膜・電極ユニットのアノードないしカソードへの被着に使用される触媒インキは同一かまたは異なっていてよい。特にアノードの製造ないし特にカソードの製造にそれぞれいかなる貴金属ならびにその他の成分が触媒インキ中に存在しなければならないかは当業者には公知である。
【0091】
適切なポリマー電解質膜ならびに膜・電極ユニットの構造および製造に関するその他の情報については以下の文献、国際公開第01/18894号パンフレット、ドイツ特許第195 097 48号明細書、ドイツ特許第195 097 49号明細書、国際公開第00/26982号パンフレット、国際公開第92/15121号パンフレットおよびドイツ特許第197 574 92号明細書を参照されたい。
【0092】
本発明による膜・電極ユニットの製造は、基本的に、当業者には公知である。通例、膜・電極ユニットを構成する異なる要素は上下に重ねられ、圧力および熱が加えられて互いに結合され、その際、通例、10〜300℃、好ましくは20〜200℃の温度および一般に1〜1000bar、好ましくは3〜300barの圧力にて貼り合わされる。
【0093】
本発明による膜・電極ユニットの利点は、120℃を超える温度での燃料電池の運転を可能にし得る点にある。これはガス状および液状燃料たとえば前置された改質ステップで炭化水素から製造される水素含有ガスに当てはまる。その際、酸化剤としては、たとえば酸素または空気を使用することができる。
【0094】
本発明による膜・電極ユニットのさらなる利点は、それが120℃を超える温度での運転時に純白金触媒で、つまり、他の合金成分なしでも、一酸化炭素に対する高い許容度を有しているということである。燃料ガスには、温度160℃時に、たとえば1%を超えるCOが含まれていてもよく、それによって燃料電池の性能の顕著な低下が招来されることはない。
【0095】
たとえばポリアゾール膜を含む好ましい膜・電極ユニットは燃料電池内で、可能な運転温度にもかかわらず燃料ガスならびに酸化剤が給湿されなければならないということなしに、使用可能である。燃料電池は安定的に稼動し、膜はその導電性を喪失することはない。これによって燃料電池システム全体は簡素化され、さらに、水循環系が簡素化されるために、コスト節減がもたらされる。さらに、これにより、0℃を下回る温度時の燃料電池システムの挙動も改善される。
【0096】
本発明のさらなる対象は、本発明による少なくとも1つの膜・電極ユニットを含む燃料電池である。適切な燃料電池は当業者には公知である。
【0097】
単セルの出力は多くの利用にとって低すぎることが多いため、本発明の範囲内において一般に、複数の単セルがセパレータを介して組み合わされ、燃料電池スタックが形成される。その際、セパレータは、場合により、その他のシール材料と連携して、カソードおよびアノードのガススペースを外部に対して封止すると共に、カソードおよびアノードのガススペース間を封止しなければならない。そのため、セパレータは膜・電極ユニットに好ましくは封止式に付設される。その際、セパレータと膜・電極ユニットとからなる複合体を圧着することにより封止効果をさらに高めることが可能である。
【0098】
セパレータは好ましくは、好適には電極に向いた側に配置されたそれぞれ少なくとも1つの反応ガス流路を有する。これらのガス流路は反応体液の配分を可能としなければならない。
【0099】
本発明のさらなる対象は、本発明による触媒インキを膜・電極ユニットの製造に使用することである。適切な製造方法ならびに膜・電極ユニットの成分および触媒インキの成分は上述した通りである。以下の実施例は本発明をさらに補足的に説明するものである。
【0100】
実施例
触媒インキの製造:
2O(10質量%)EW1100(DuPont社)に溶解された構成比率2.4のNafion(登録商標)・イオノマー(過フッ素化されたスルホン酸ポリマー)、構成比率1.85のH2Oおよび構成比率x(第1表、参照)のポリマー粉末がガラス瓶に入れられて、磁気型攪拌機で攪拌される。続いて、構成比率1の触媒Pt/Cが秤量されて、攪拌しながらゆっくりと上記配合物と混合される。この配合物は約5〜10分間、室温にて磁気攪拌機で再攪拌される。試料は、次いで、持ち込まれたエネルギーの値が0.015KWhに達するまで、超音波で処理される。この値は20gの配合物量に関するものである。
【0101】
第1表:触媒インキ中のポリマー構成比率
【表1】

【0102】
触媒コート膜(CCM)(触媒コートされたガス拡散電極(GDE))の製造およびセル測定:
触媒コートされたガス拡散電極(GDE)はアノード側およびカソード側からスクリーン印刷によって製造される。ポリマー粉末を含有する触媒インキはカソードGDE用にのみ使用される。アノードGDEおよびカソードGDEの厚さおよび積載は第2表に挙げた通りである。
【0103】
第2表:
【表2】

【0104】
セルテストのために、製造されたGDEとCeltec(登録商標)−P膜(BASF Fuel Cell GmbH)(ポリベンゾイミダゾール・ベースのポリマー電解質膜、ゾルゲル法によってリン酸から直接に製造)とからなるMEA(Membrane−Electrode−Assembly)(膜・電極ユニット)はスペーサによって、140℃にて、30秒間、当初厚さの75%に圧縮される。MEAの活性表面積は45cm2である。続いて、試料はセルブロックに取り付けられ、160℃にて、H2(アノード−化学量論比1.2)、空気(カソード−化学量論比2)でテストされる。1A/cm2時の試料の出力は第3表で比較される。
【0105】
第3表:1A/cm2時の試料出力
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下
(a) 成分Aとしての、1種以上の触媒材料と、
(b) 成分Bとしての、液状媒体と、
(c) 成分Cとしての、1種以上のプロトン伝導性ポリマーを含むポリマー粒子と
を含有する触媒インキ。
【請求項2】
前記触媒材料は触媒活性成分として少なくとも1種の貴金属、とくに白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよび/またはルテニウムおよびそれらの合金を含み、前記触媒活性成分は合金添加剤として1種以上の卑金属を含んでいてよく、前記卑金属は、クロム、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム、鉄および銅からなる群から選択され、さらに、上述の貴金属および/または卑金属の酸化物も触媒材料として使用可能であり、前記触媒活性成分は担持触媒または非担持触媒の形で存在していてよく、担持触媒の場合、好ましくは導電性炭素、特に好ましくはカーボンブラック、グラファイトおよび活性炭から選択された導電性炭素が担体として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒インキ。
【請求項3】
前記液状媒体は水性媒体、好ましくは水であることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒インキ。
【請求項4】
前記プロトン伝導性ポリマーは、ポリアゾールまたは、酸、好ましくはリン酸をドープしたポリアゾールの混合物であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項5】
前記プロトン伝導性ポリマーは、酸、好ましくはリン酸をドープしたポリ−2,2’−p−(フェニレン)−5,5’−ジベンゾイミダゾールおよび/またはポリ−2,2’−p−(ペルフルオロフェニレン)−5,5’−ジベンゾイミダゾールであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項6】
前記ポリマー粒子はレーザ回折によって測定された、100μm以下、好ましくは50μm以下の平均粒径を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項7】
前記触媒インキは、使用された触媒材料の量を基準として、1〜30質量%、好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは5〜15質量%のプロトン伝導性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項8】
前記触媒インキはさらに、下記の成分D:
(d) 少なくとも1種の過フッ素化されたポリマー、好ましくは少なくとも1種の過フッ素化されたスルホン酸ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項9】
前記成分Dが、前記プロトン伝導性ポリマーを基準として、0〜4質量%、好ましくは0.1〜3質量%の量で含まれていることを特徴とする、請求項8に記載の触媒インキ。
【請求項10】
前記触媒インキはさらに、以下の成分E:
(e) 好ましくはアニオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤、特に好ましくはフッ素系界面活性剤たとえば一般式CF3−(CF2p−X[式中、p=3〜12であり、Xは−SO3H、−PO32および−COOHからなる群から選択される]の界面活性剤、たとえばヘプタデカフルオロオクタン酸のテトラエチルアンモニウム塩、オクチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)x[この場合、xはたとえば10であってよい]、ノニルフェノールエトキシレート、ナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩、主として線状の脂肪アルコールのアルコキシル化生成物、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドからなるアルコキシレート、とくに式HO(CH2CH2O)nHのポリエチレングリコール、およびβ−ナフトールエトキシレートを含むことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の触媒インキ。
【請求項11】
前記成分A,B,C、場合によりDおよび場合によりEの混合によって請求項1から10までのいずれか1項記載の触媒インキを製造するための方法。
【請求項12】
ポリマー電解質膜によって分離された少なくとも2つの電気化学的活性電極を含み、該電極は請求項1から10までのいずれか1項に記載の触媒インキを前記ポリマー電解質膜に被着することによって得られる膜・電極ユニット。
【請求項13】
請求項12記載の少なくとも1つの膜・電極ユニットを含む燃料電池。
【請求項14】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の触媒インキを膜・電極ユニットを製造するために用いる使用。

【公表番号】特表2012−533144(P2012−533144A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518955(P2012−518955)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059597
【国際公開番号】WO2011/003884
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】