説明

ポリマー粒子及びその製造方法

【課題】シリコーン系界面活性剤を共存させることにより、圧縮性流体中で、付加重合性モノマーから効率良く、分子量分布の小さいポリマー粒子を製造する方法、及びこの製造方法により得られ、電子写真の現像剤、印刷用インク、建築用塗料及び化粧品などの各種用途に用いることができるポリマー粒子を提供する。
【解決手段】圧縮性流体中で、シリコーン系界面活性剤の存在下、付加重合性モノマーを重合させつつ造粒するポリマー粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮性流体中で付加重合性モノマーの重合によりポリマー粒子を製造する方法及びこの製造方法により得られるポリマー粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界二酸化炭素中でモノマーを重合することによって微小なポリマー粒子を製造する方法はよく知られており、乳化重合、分散重合及び懸濁重合などがある。
超臨界二酸化炭素中でのモノマーの重合は、水や有機溶媒中での不均一重合と比べて下記(1)〜(5)のような利点を有するため、種々のモノマーから微小なポリマー粒子を製造する方法に適用され、得られたポリマー粒子は、電子写真の現像剤、印刷用インク、建築用塗料及び化粧品などの各種用途に用いられている。
(1)重合後の溶媒除去や乾燥工程を簡素化できる。
(2)廃溶剤処理が不要である。
(3)毒性の高い有機溶剤を使用しなくてよい。
(4)洗浄工程により、残存する未反応のモノマー成分や有害物質を除去することが可能である。
(5)使用した二酸化炭素は回収・再利用することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、パーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤の存在下で、ラジカル重合性モノマーを重合して着色ポリマー粒子を合成する方法が開示されている。しかし、この合成方法で用いるフッ素系界面活性剤は非常に高価であり、安全性の面でも問題がある。また、この方法では、本発明のような分子量分布(Mw/Mn)が小さい(約2以下)ポリマー粒子を得ることはできない。
また、特許文献2には、オルガノシロキサン骨格を有する高分子ラジカル重合開始剤を用い、モノマーに応じた界面活性剤を別途合成して準備することなく、1ポットで高分子界面活性剤を合成すると同時に、ポリマー粒子を得る方法が開示されている。しかし、この方法でもポリマー粒子の分子量分布(Mw/Mn)が2以下のものを得ることはできない。
したがって、超臨界流体などの圧縮性流体中で付加重合性モノマーを用いて、低コストで安全性の高い手段により分子量分布の小さいポリマー粒子を製造する方法は知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、シリコーン系界面活性剤を共存させることにより、圧縮性流体中で、付加重合性モノマーから効率良く、分子量分布の小さいポリマー粒子を製造する方法、及びこの製造方法により得られるポリマー粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下に挙げる。
1.本発明のポリマー粒子の製造方法は、圧縮性流体中で、シリコーン系界面活性剤の存在下、付加重合性モノマーを重合させつつ造粒することを特徴とする。
2.本発明のポリマー粒子の製造方法は、更に、前記シリコーン系界面活性剤が、下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれかで表される界面活性剤であることを特徴とする。
【化1】

(式中、Meメチル基であり、R、R及びRのうちの一つ又は二つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【化2】

(式中、Meメチル基であり、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基又はエチレン基である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【化3】

(式中、R及びRのうち少なくとも一つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。また、R〜R13は水素原子又は炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
3.本発明のポリマー粒子の製造方法は、更に、前記圧縮性流体が、二酸化炭素からなることを特徴とする。
4.本発明のポリマー粒子の製造方法は、更に、前記ポリマー粒子の分子量分布(Mw/Mn:Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)が2.0以下であることを特徴とする。
5.本発明のポリマー粒子は、前記製造方法により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、シリコーン系界面活性剤を共存させることにより、圧縮性流体中で、付加重合性モノマーから効率良く分子量分布の小さいポリマー粒子を製造する方法、及び該方法により得られるポリマー粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】温度と圧力に対する物質の状態を示す一般的な相図である。
【図2】温度と圧力に対する物質の状態を示す一般的な相図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明における実施の形態の例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
本発明は、圧縮性流体中で付加重合性モノマーの重合と生成したポリマーの造粒(粒状化)とを一挙に行い、かつ使用するシリコーン系界面活性剤が低コストで安全性が高く、生成するポリマー粒子の分子量分布が小さい点に特徴を有する。
本発明において「圧縮性流体」とは、図1で表される相図の中で、物質が、図2に示す(1)、(2)及び(3)のいずれかの領域に存在するときの状態を意味する。
このような領域においては、物質はその密度が非常に高い状態となり、常温常圧時とは異なる挙動を示すことが知られている。なお、物質が図2の(1)の領域に存在する場合には超臨界流体となる。超臨界流体とは、気体と液体とが共存できる限界(臨界点)を超えた温度・圧力領域において非凝縮性高密度流体として存在し、圧縮しても凝縮を起こさず、臨界温度以上かつ臨界圧力以上の状態にある流体のことである。また、物質が図2の(2)の領域に存在する場合には液体となるが、本発明においては、常温(25℃)、常圧(0.1MPa(1気圧))において気体状態である物質を圧縮して得られた液化ガスを表す。また、物質が図2の(3)の領域に存在する場合には気体状態であるが、本発明においては、圧力が1/2Pc以上の高圧ガスを表す。
本発明における圧縮性流体は上述したとおりであるが、反応の効率化、ポリマー転化率等を考慮すると、例えば、圧縮性流体が二酸化炭素の場合、その温度は25℃以上であることが好ましく、圧力は5MPa以上であることが好ましい。より好ましくは超臨界流体の状態である。
【0009】
圧縮性流体の状態で用いることができる物質としては、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素、メタン、エタン、プロパン、2,3−ジメチルブタン及びエチレンなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも二酸化炭素は、臨界圧力が約7.4MPa、臨界温度が約31℃であって、容易に超臨界状態を作り出せること、廃液が発生しないこと、乾燥工程が不要であること、不燃性で取扱いが容易であること、疎水性を有するのでトナー樹脂として用いた場合にトナー特性が良好であること、などの点で特に好ましい。
圧縮性流体の臨界温度及び臨界圧力には特に制限はないが、好ましい臨界温度範囲は−200〜200℃であり、より好ましくは−100〜150℃、更に好ましくは0〜100℃である。
【0010】
更に、圧縮性流体に対し、有機溶媒をエントレーナーとして加えることもできる。
エントレーナーの添加により、ポリマー粒子を構成する材料の、圧縮性流体中での溶解度や可塑化の程度を制御することができる。
前記有機溶媒は、ポリマー粒子の用途に応じて適宜選択することができる。例えばポリマー粒子をトナー樹脂として電子写真用トナーに適用する場合、常温常圧下(25℃、0.1MPa)でトナー樹脂を溶解させないものの中から目的に応じて適宜選択する。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アンモニア、メラミン、尿素及びチオエチレングリコールなどが挙げられる。
エントレーナーの添加量は、圧縮性流体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
【0011】
付加重合性モノマーとしては、重合して得られる高分子成分の使用目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ビニル系モノマーに代表される不飽和二重結合を有する付加重合性モノマーが挙げられ、多種多様なものが市販されている。
付加重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン及びp−エチルスチレンなどのスチレン化合物;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、フェニルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート及びジエチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;アクリルアミドなどが挙げられる。
【0012】
本発明では、圧縮性流体に溶解し且つ圧縮性流体と付加重合性モノマーの双方に親和性を有する界面活性剤を重合系に共存させる。例えば、圧縮性流体として超臨界二酸化炭素を用いた場合には、親CO基(二酸化炭素に親和性を有する基)と親モノマー基(モノマーに親和性を有する基)を分子内に持つ界面活性剤を用いる。この場合の親CO基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、ポリジメチルシロキサン基、エーテル基及びカルボニル基などが挙げられる。また、親モノマー基として好ましいのは、使用する付加重合性モノマーからなるポリマー鎖である。
界面活性剤を重合系に共存させる場合、界面活性剤は、圧縮性流体に加えても付加重合性モノマーに加えてもよい。
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられるが、本発明においては、シリコーン系界面活性剤を用いる。シリコーン系界面活性剤としては、下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれかで表されるシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0013】
【化4】

式中、Meメチル基であり、R、R及びRのうちの一つ又は二つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基又はエチレン基である。R及びRのうち少なくとも一つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。また、R〜R13は水素原子又は炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。
ここで、長鎖アルキル基として炭素数が6以上のアルキル基をいう。長鎖アルキル基における炭素数の上限は特にないが、長くなり過ぎると圧縮性流体に対する親和性に問題が生じることがある。したがって、長鎖アルキル基の炭素数は、好ましくは6〜30、より好ましくは8〜28である。
炭素数1〜4の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基及び各種−ブチル基が挙げられる。炭素数6〜30の長鎖アルキル基としては、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基及び各種イコシル基などが挙げられる。
mは、通常1〜70程度、好ましくは10〜40である。また、nは、通常1〜30程度、好ましくは10〜20である。
【0014】
一般式(1)で表される界面活性剤の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【化5】

(式中、Meはメチル基、R21〜R26はアルキル基を示す。kは4、16又は28である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0015】
一般式(2)で表される界面活性剤の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【化6】

(式中、Meはメチル基、R27はメチレン基又はエチレン基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0016】
一般式(3)で表される界面活性剤の具体例としては、次のようなものが挙げられる。なお、この化合物は、クローダ社より「モナシルPCA」という製品名で販売されている。
【化7】

(式中、Meはメチル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0017】
前記シリコーン系界面活性剤は、一般的な合成方法で得ることができる。例えば末端又は側鎖変性した反応性シリコーンオイルを用いてアミド化又はエステル化する手法により、原料のシリコーンオイルの分子量や粘性を変えて様々な物性の界面活性剤を得ることができる。
反応性シリコーンオイルとしては、片末端ジオール変性、片末端カルビノール変性,片末端カルボキシル変性、側鎖カルビノール変性、側鎖アミノ変性、側鎖アミノ両末端メトキシ変性、側鎖カルボキシル変性、両末端カルビノール変性、両末端アミノ変性、両末端シラノール変性及び両末端カルボキシル変性などのシリコーンオイルが挙げられる。
【0018】
本発明で用いるシリコーン系界面活性剤は、使用する圧縮性流体の種類、あるいはポリマー粒子の製造か種粒子(後述)の製造かにより適宜選択されるが、特にポリマー粒子同士の合体を立体的に防ぐ意味で、ポリマー粒子表面への親和性、吸着性が高く、しかも圧縮性流体への親和性、溶解性の高いものが好ましい。
また、立体的に粒子同士の反発を高めるため、分子鎖がある程度の長さのもの、好ましくは分子量が1万以上のものが選ばれる。
しかし、分子量が大き過ぎると、液粘度の上昇が著しく、操作性、撹拌性が悪くなり、生成ポリマーの粒子表面への析出確率のばらつきが生じるため注意を要する。
【0019】
界面活性剤の使用量は、付加重合性モノマーの種類や界面活性剤の種類によって異なるが、通常の場合、圧縮性流体100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。
圧縮性流体における界面活性剤の濃度が低い場合、生成するポリマー粒子は比較的大粒径となり、濃度が高い場合には小粒径となるが、10質量%を越えて用いても小粒径化への効果は小さい。
また、界面活性剤に対し無機化合物微粉体を併用すると、生成ポリマー粒子の安定化及び粒子径分布の改善が更に促進される。
重合初期に生成する粒子は、圧縮性流体とポリマー粒子表面に平衡を保ちつつ存在する界面活性剤によって安定化されるが、未反応の付加重合性モノマーが圧縮性流体中にかなり多く存在する場合は、ポリマー粒子濃度が高くなるので、界面活性剤の立体的反発力に打ち勝って凝集してしまう。
更に圧縮性流体に対して付加重合性モノマーの量が極端に多い場合は、生成するポリマーがモノマーに溶解してしまい、重合がある程度進行しないと析出してこない。この場合の析出の状態は粒子ではなく塊状物を形成することとなる。
したがって、ポリマー粒子を製造する時の、圧縮性流体に対する付加重合性モノマーの量は、自ずと制限されることになり、圧縮性流体の状態により密度が異なるため多少異なるが、圧縮性流体100質量部に対して、500質量部以下、好ましくは250質量部以下である。
【0020】
本発明では、付加重合性モノマーを重合させてポリマー粒子を得る。重合法としては、圧縮性流体を用いるメリットを活かすことができ、ポリマー粒子の単分散性や粒子径の狭分布化の点で、分散重合の方が懸濁重合や乳化重合よりも優れている。
また、あらかじめ目的の粒子径よりも小さく粒度分布の狭いポリマー粒子(種粒子)を加えておき、上述と同様の系でモノマーを反応させて成長させる方法を利用してもよい。
成長反応に用いるモノマーは、種粒子の製造に用いたモノマーと同じモノマーでも、別のモノマーでもよいが、生成したポリマーは圧縮性流体に溶解してはならない。
前記のような方法で得られたポリマーが分散した圧縮性流体を、常温常圧(25℃、0.1MPa)へ戻すことにより、乾燥したポリマー粒子を得ることができる。
【0021】
本発明では、付加重合性モノマーの重合に重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤を使用することができる。
ラジカル開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオクトエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、イソプロピルパーオキシカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、過硫酸カリウム等の過酸化物系開始剤;あるいはこの過酸化物系開始剤にチオ硫酸ナトリウム、アミン等を併用した系などが用いられている。
重合開始剤の使用量は、付加重合性モノマー100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0022】
重合の手順は、例えば圧縮性流体に界面活性剤を完全に溶解させた後、1種又は2種以上の付加重合性モノマー、重合開始剤を添加し、反応槽内の流れが均一になるような速度で撹拌しながら、重合開始剤の分解速度に対応する温度に加熱すればよい。加熱温度は、一般に40〜100℃が好ましく、50〜85℃がより好ましい。
なお、重合初期の温度が、生成するポリマー粒子の粒子径に大きな影響を与えるため、付加重合性モノマーを添加した後に温度を重合温度まで上げ、開始剤を少量の圧縮性流体に溶かして投入する方が望ましい。
重合の際には窒素ガス、アルゴンガス、二酸化酸素ガスなどの不活性気体で反応容器の空気中の酸素を充分に追い出す必要がある。酸素パージが不充分である場合、微粒子が発生し易くなる。
重合率を高くするためには、5〜72時間の重合時間が必要であるが、所望の粒子径、粒子径分布の状態で重合を停止させたり、重合開始剤を順次添加したり、高圧下で反応を行ったりすることにより重合速度を速めることができる。
また、付加重合性モノマーの重合を行う際には、平均分子量を調節することを目的として連鎖移動定数の大きな化合物を共存させて重合を行ってもよい。
連鎖移動定数の大きな化合物としては、例えば、メルカプト基を持つ低分子化合物、四塩化炭素及び四臭化炭素などが挙げられる。他に好ましく用いられる化合物として、二臭化酢酸エチル、三臭化酢酸エチル、二臭化エチルベンゼン、二臭化エタン及び二塩化エタンなどのハロゲン化炭化水素;ジアゾチオエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどの炭化水素;第3ドデシルメルカプタン及びn−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;ジイソプロピルザントゲンジスルフィドなどのジスルフィド類;チオグリコール酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸ブチル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス−(チオグリコレート)、チオグリコール酸アンモニウムなどのチオグリコール酸誘導体;チオグリセロールなどが挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、付加重合性モノマー100質量部に対して10−3〜10質量部とすることができる。
特に、重合体開始前に連鎖移動剤を存在させておく場合には、初期生成する重合体の分子量を調節する事により析出核粒子の大きさをコントロールすることができる。
また、核粒子析出後添加する場合には、生成する重合体粒子の分子量を調整し、所望の熱により溶融した時の流動特性を得ることができる。
このようにして製造された本発明のポリマー粒子は、分子量分布(Mw/Mn:Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)が2.0以下のものである。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0024】
(合成例1)−界面活性剤1の合成−
50mLナス型フラスコに、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)1.4質量部、クロロホルム(和光純薬社製)33.3質量部、脱水ピリジン(関東化学社製)1.7質量部及びステアロイルクロライド(アルドリッチ社製)1.4質量部を加え、室温において12時間撹拌し、反応液を得た。
飽和炭酸水素ナトリウム水溶液5mLを加え、析出したステアリン酸ナトリウムを桐山ロートでろ過した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5mL×4)で反応溶液を洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムを用いて反応溶液を乾燥させた後、シリカゲルろ過をし、減圧濃縮し、下記構造式で表される界面活性剤1を得た(収率69%)。(MS-244)界面活性剤1についての分析結果は下記のとおりである。
mp: 47.0-53.0 °C
1H NMR (CDCl3, 300 MHz, MS-231-re) δ
= 0.044 (br, -SiCH3), 0.877 (t, J
= 6.15 Hz, 5.45H, -CH3), 1.25 (br, -CH2(CH2)14CH3),
1.56-1.65 (m, -CH2(CH2)14CH3)
IR (KBr, cm-1,
MS-258) 3301.9 (NH伸縮振動), 2954.7, 2918.1, 2850.6 (s, CH2基C-H伸縮振動),
1645.2 (C=O伸縮振動)
【化8】

(式中、R21はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0025】
(合成例2)−界面活性剤2の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を側鎖カルビノール変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、X−22−4039)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤2を得た(収率100%)。
【化9】

(式中、R22はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0026】
(合成例3)−界面活性剤3の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を側鎖アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、KF−868)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤3を得た(収率100%)。
【化10】

(式中、R23はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0027】
(合成例4)−界面活性剤4の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を片末端ジオール変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、X−22−176DX)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤4を得た(収率100%)。
【化11】

(式中、R24〜R26はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0028】
(合成例5)−界面活性剤5の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を片末端カルビノール変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、X−22−170BX)に変更し、ステアロイルクロライドをポリアクリル酸(和光純薬社製、分子量5,000)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤5を得た(収率90%)。
【化12】

(式中、R27はメチレン基又はエチレン基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0029】
(合成例6)−界面活性剤6の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を側鎖カルビノール変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、X−22−4039)に変更し、ステアロイルクロライドをメリシッククロライド(Melissic chloride)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤6を得た(収率93%)。
【化13】

(式中、R22はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0030】
(合成例7)−界面活性剤7の合成−
合成例1において、両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、PAM−E)を側鎖カルビノール変性シリコーンオイル(信越シリコーン社製、X−22−4039)に変更し、ステアロイルクロライドをカプロイッククロライド(Caproic chloride)に変更した以外は合成例1と同様の手順により、界面活性剤7を得た(収率92%)。
【化14】

(式中、R22はアルキル基を示す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【0031】
(合成例8)−界面活性剤9の合成−
1H,1H−パーフルオロオクチルアクリレート(アヅマックス社製)1250質量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、V−65)62.5質量部を耐圧反応セル(耐圧容器セルの50体積%)に充填し、超臨界流体として二酸化炭素を選択し、この二酸化炭素を供給ボンベにより前記反応セルに供給し、加圧ポンプと温度調整器で15MPa、85℃に調節しながら、24時間反応を行った。次いで、0℃まで温度を下げ、背圧弁を使用して常圧まで圧力を下げ、界面活性剤9を得た。界面活性剤9の数平均分子量(Mn)は、2,500であった
【化15】

(式中、nは繰り返し単位を表す整数である。)
【0032】
(実施例1)
(1)付加重合性モノマー組成物の調製
スチレンモノマー(和光純薬社製)20質量部と前記界面活性剤1 5質量部とを攪拌し、均一な重合性モノマー組成物1を調製した。
(2)超臨界重合工程
前記重合性モノマー組成物1 20質量部を耐圧反応セル(耐圧容器セルの20体積%)に充填し、超臨界流体として二酸化炭素を選択し、この二酸化炭素を供給ボンベにより前記反応セルに供給し、加圧ポンプと温度調製器で30MPa、65℃に調節した。
これに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社製)を1質量部添加し、40時間反応を行った。
反応終了後、圧力を維持したまま、5℃に冷却し、加圧ポンプと背圧弁を使用して、背圧弁の出口側流量を5.0L/minに調整し、超臨界二酸化炭素を6時間フローして残留モノマーを除去した後、常温、常圧まで徐々にもどしてポリマー粒子1を得た(収率31%)。このポリマー粒子の数平均分子量(Mn)は6,886であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.96であった。
【0033】
(実施例2〜7)
実施例1において、界面活性剤1を界面活性剤2〜7に変更した以外は実施例1と同様の手順により重合性モノマー組成物2〜7を調製し、超臨界重合工程を経て、ポリマー粒子2〜7を得た。
(実施例8)
実施例1において、界面活性剤1を下記構造式で表される界面活性剤8(クローダ社製、モナシルPCA)に変更した以外は実施例1と同様の手順により重合性モノマー組成物8を調製し、超臨界重合工程を経て、ポリマー粒子8を得た。
【化16】

【0034】
(比較例1)
(1)付加重合性モノマー組成物の調製
スチレンモノマー(和光純薬社製)20質量部と前記界面活性剤8 5質量部とを攪拌し、均一な重合性モノマー組成物9を調製した。
(2)超臨界重合工程
重合性モノマー組成物9 20質量部を耐圧反応セル(耐圧容器セルの20体積%)に充填し、超臨界流体として二酸化炭素を選択し、この二酸化炭素を供給ボンベにより前記反応セルに供給し、加圧ポンプと温度調製器で30MPa、65℃に調節した。
これに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社製)を1質量部添加し、40時間反応を行った。
反応終了後、圧力を維持したまま、5℃に冷却し、加圧ポンプと背圧弁を使用して、背圧弁の出口側流量を5.0L/minに調整し、超臨界二酸化炭素を6時間フローして残留モノマーを除去した後、常温、常圧まで徐々にもどしてポリマー粒子9を得た(収率31%)。このポリマー粒子の数平均分子量(Mn)は7,242であり、分子量分布(Mw/Mn)は7.10であった。
【0035】
(比較例2)
(1)重合性モノマー組成物の調製
スチレンモノマー(和光純薬社製)を、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、減圧蒸留することによってラジカル重合禁止剤を除去し、精製スチレンモノマーを得た。
この精製スチレンモノマーに、撹拌子で撹拌しながら窒素ガスを15分間バブリングすることにより、スチレンモノマー中に含まれる酸素を除去した。
この精製及び脱酸素を行ったスチレンモノマー1900質量部を、高分子アゾ重合開始剤(和光純薬社製、VPS−1001)13質量部に加え、高分子アゾ重合開始剤(和光純薬社製、VPS−1001)が完全に溶解するまで、室温において撹拌子で撹拌し、高分子アゾ重合開始剤のスチレン溶液を得た。
内容量10mLの高圧セルに窒素ガスを吹き込むことによって酸素を除去した後、この高圧セルに、アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)95質量部と、前記高分子アゾ重合開始剤(和光純薬社製、VPS−1001)のスチレン溶液とを加えて反応させ、重合性モノマー組成物10を得た。
(2)超臨界重合工程
前記重合性モノマー組成物10 40質量部を耐圧反応セル(耐圧容器セルの20体積%)に充填し、超臨界流体として二酸化炭素を選択し、この二酸化炭素を供給ボンベにより前記反応セルに供給し、加圧ポンプと温度調製器で40MPa、65℃に調節して24時間反応を行い、ポリマー粒子10を得た。反応終了後、高圧セルを室温まで冷却し、二酸化炭素を徐々に排出して常圧に戻すことによって白色粉末状のポリマー粒子を得た。
このポリマー粒子の数平均分子量(Mn)は5,900であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.48であった。
得られたポリマー粒子について測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
<ポリマーの分子量測定>
実施例及び比較例におけるポリマーの分子量は、GPC(gel permeation chromatography)によって以下の条件で測定した。
・装置:GPC−8020(東ソー社製)
・カラム:TSK G2000HXL及びG4000HXL(東ソー社製)
・温度:40℃
・溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
・流速:1.0mL/分
濃度0.5質量%の試料1mLをカラムに注入し、前記の条件で測定したポリマーの分子量分布から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用してトナーの個数平均分子量Mn、質量平均分子量Mwを算出した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリマー粒子は、電子写真の現像剤、印刷用インク、建築用塗料及び化粧品などの各種用途に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2009−167409号公報
【特許文献2】特開2009−132878号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮性流体中で、シリコーン系界面活性剤の存在下、付加重合性モノマーを重合させつつ造粒する
ことを特徴とするポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記シリコーン系界面活性剤が、下記一般式(1)、(2)及び(3)のいずれかで表される界面活性剤である
ことを特徴とする請求項1に記載のポリマー粒子の製造方法。
【化1】

(式中、Meメチル基であり、R、R及びRのうちの一つ又は二つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【化2】

(式中、Meメチル基であり、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基又はエチレン基である。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【化3】

(式中、R及びRのうち少なくとも一つは、炭素数が6〜30の長鎖アルキル基を有する残基であり、残りは、炭素数1〜4の低級アルキル基を有する残基である。また、R〜R13は水素原子又は炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。m及びnは繰り返し単位を表す整数である。)
【請求項3】
前記圧縮性流体が、二酸化炭素からなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー粒子の分子量分布(Mw/Mn:Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)が2.0以下である
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られた
ことを特徴とするポリマー粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184531(P2011−184531A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49992(P2010−49992)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】