説明

ポリマー組成物、ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】タイヤ部材に用いることで、タイヤの低燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与し得るゴム組成物を与えるポリマー組成物、該ポリマー組成物を用いた前記の性状を有するゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】(A)主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーと、(B)無機充填材と、(C)前記の(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり平均1個以下有し、かつ前記(B)成分と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有するカップリング剤を含むポリマー組成物、該ポリマー組成物を含有するゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物、それを用いたゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関する。さらに詳しくは、本発明は、タイヤ部材に用いることで、タイヤの低燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与し得るゴム組成物を与えるポリマー組成物、該ポリマー組成物を用いた前記の性状を有するゴム組成物、及び該ゴム組成物をタイヤ部材に用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車の低燃費化に対する要求が強くなりつつあり、転がり抵抗の小さいタイヤが求められている。そのため、タイヤのトレッド等に使用するゴム組成物として、tanδが低く(以下、低ロス性とする)、低発熱性に優れたゴム組成物が求められている。また、トレッド用のゴム組成物においては、低ロス性に加え、安全性及び経済性の観点から、耐摩耗性や耐破壊特性に優れることが求められる。これに対して、ゴム成分にシリカ等の無機充填材やカーボンブラックを配合したゴム組成物の低ロス性、耐摩耗性及び耐破壊特性を改良するには、ゴム組成物中の無機充填材とゴム成分との親和性を向上させることが有効である。
【0003】
例えば、ゴム組成物中の無機充填材とゴム成分との親和性を向上させ、無機充填材による補強効果を向上させるために、末端変性により無機充填材との親和性を向上させた合成ゴム(例えば、特許文献1〜5参照)や、主鎖の変性により無機充填材との親和性を向上させた合成ゴム(例えば、特許文献6及び7参照)等が開示されている。
しかしながら、上記特許文献1〜7に記載の変性合成ゴムを用いたゴム組成物の低発熱性、耐摩耗性及び耐破壊特性については、一般的な合成ゴムを用いたゴム組成物に比べて低発熱性、耐摩耗性及び耐破壊特性に優れるものの、十分とは言えず、依然として改良の余地がある。
【0004】
一方、特許文献8には、主鎖エポキシ化した末端水酸基をもつ部分水添ジエン系液状ポリマーを、無水マレイ化スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体と部分的にグラフトさせたのちに、感圧型粘接着剤処方に用いる方法が開示されている。しかしながら、この技術では、エポキシ化ジエン系ポリマーの分子量範囲が非常に低く、またグラフト反応に供するホストポリマーが主鎖変性であるため、カップリング剤の官能基が関与する反応ではない上、該ホストポリマーは、1分子当たり1個を超える官能基が導入されたものである。
【0005】
さらに、主鎖エポキシ化ジエン系エラストマーのエポキシ基と、アミン官能基をもつ低分子化合物の反応を利用し、アミン系老化防止剤をグラフトさせて固定化する反応が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この技術は、アミン系老化防止剤がもつ老化防止機能を維持しながら、その移行を、該老化防止剤をポリマーに固定することにより、抑制することを目的とするもので、ゴム組成物における無機充填材の高度分散を目的とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/046020号パンフレット
【特許文献2】特表2004−513987号公報
【特許文献3】特開平11−29603号公報
【特許文献4】特開2003−113202号公報
【特許文献5】特公平6−29338号公報
【特許文献6】特表2003−534426号公報
【特許文献7】特開2002−201310号公報
【特許文献8】特表2003−517048号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】POLYMER DEGRADATION AND STABILITY Volume:44、Issue:1、Pages:79−83(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたものであり、タイヤ部材に用いることで、タイヤの低燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与し得るゴム組成物を与えるポリマー組成物、該ポリマー組成物を用いた前記の性状を有するゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
主鎖上に反応性官能基を有するエラストマー、好ましくはエポキシ化ジエン系エラストマーと、無機充填材と、上記エラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり、平均1個以下有し、かつ前記無機充填材と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有するカップリング剤とを混合することにより、目的のポリマー組成物が得られることを見出した。
さらに、上記ポリマー組成物を含むゴム組成物を、タイヤ部材に用いることにより、前記の性状を有するタイヤを与えることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)(A)主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーと、(B)無機充填材と、(C)前記(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり平均1個以下有し、かつ前記(B)成分と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有するカップリング剤を含むことを特徴とするポリマー組成物、
(2)(A)成分と(C)成分とを混練りして得られた混合物に、(B)成分を配合してなる上記(1)に記載のポリマー組成物、
(3)(A)成分の主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基が、エポキシ基である上記(1)又は(2)に記載のポリマー組成物、
(4)(A)成分のエラストマーが、ジエン系エラストマーである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリマー組成物、
(5)ジエン系エラストマーが、エポキシ化天然ゴムである上記(4)に記載のポリマー組成物、
(6)ジエン系エラストマーが、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合体ゴム又はエポキシ化ブロック共重合体である上記(4)に記載のポリマー組成物、
(7)エポキシ化ブロック共重合体が、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレン三元共重合体である上記(6)に記載のポリマー組成物、
【0011】
(8)(B)成分の無機充填材が、シリカ及び/又は下記一般式(1)で表わされる無機化合物である上記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリマー組成物。
M・xSiO2・yH2O ・・・・・(1)
〔式中、MはAl、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物であり、x,yは共に0〜10の整数であり、x,yが共に0である場合には、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物となる。〕
(9)(C)成分のカップリング剤が、一般式(2)で表される構造を有する化合物である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のポリマー組成物、
1−Ra−L2 ・・・・・(2)
[式中、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Raは鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜25の二価の炭化水素基、L2は−Si(Rbp(ORcq、−Si(Rbr(OH)s又は無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基であり、Rb及びRcはそれぞれ独立に炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、p及びrはそれぞれ0〜2の整数、q及びsはそれぞれ1〜3の整数、p+q=3、r+s=3である。]
(10)一般式(2)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物である上記9に記載のポリマー組成物。
【0012】
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜18の一価の炭化水素基又は−ORd、Rdは炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A1は鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Zは、R3O−又は−A2−L3を示し、R3は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A2は、鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L3は、無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基である。]
【0013】
(11)(A)成分の主鎖上の反応性官能基がエポキシ基であって、一般式(2)又は一般式(3)におけるL1が、活性水素含有基又は酸無水物基を有する官能基である上記(9)又は(10)に記載のポリマー組成物、
(12)活性水素含有基が、カルボキシ基、第一アミノ基、第二アミノ基、ヒドロキシ基、酸アミド基、N−モノ置換酸アミド基及びこれらが加水分解性の保護基で保護された基から選ばれる基である上記(11)に記載のポリマー組成物、
(13)一般式(1)におけるL3において、無機充填材に対して親和性をもつ基が、イソシアネート基、シラノール基、第一アミノ基含有基、第二アミノ基含有基、非環状第三アミノ基含有基及び環状第三アミノ基含有基から選ばれる基である上記(10)〜(12)のいずれかに記載のポリマー組成物、
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載のポリマー組成物を含むことを特徴とするゴム組成物、
(15)(B)成分であるシリカ及び/又は上記一般式(1)で表わされる無機化合物の含有量が、全ゴム成分100質量部に対して、10〜120質量部である上記(14)に記載のゴム組成物、及び
(16)上記(14)又は(15)に記載のゴム組成物を、タイヤ部材に用いたことを特徴とするタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タイヤの燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与し得るゴム組成物を与えるポリマー組成物、該ポリマー組成物を用いた前記の性状を有するゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明のポリマー組成物について説明する。
[ポリマー組成物]
本発明のポリマー組成物は、(A)主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーと、(B)無機充填材と、(C)前記(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり平均1個以下有し、かつ前記(B)成分と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有するカップリング剤を含むことを特徴とする。
【0016】
((A)主鎖上に反応性官能基を有するエラストマー)
本発明のポリマー組成物において、(A)成分として用いられるエラストマーは、主鎖上に反応性官能基を有するものであって、主鎖上に反応性官能基を導入する前のエラストマーとしては特に制限はないが、ジエン系エラストマーが好ましく、具体的には天然ゴムを始め、合成ジエン系ゴム、例えばポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等、さらにはジエン系三元ブロック共重合体、例えばスチレン−ブタジエン−スチレン三元共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン三元共重合体(SIS)等を用いることができる。
これらの中で、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)及びスチレン−ブタジエン−スチレン三元共重合体(SBS)が好ましく、前記ポリマー組成物を、本発明のゴム組成物の調製に用いる場合には、天然ゴム及びスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)がより好ましく、特に天然ゴムが好ましい。
前記SBRは、溶液重合又は乳化重合により製造されたものを用いることができ、例えば溶液重合SBRとして、JSR社製の「JSR SL563」や「JSR SL552」等が上市されており、乳化重合SBRとして、JSR社製の「JSR 1500」等が上市されている。
また、前記SBSとしては、例えば旭化成ケミカルズ社製の「タフプレン・アサプレンT」等が上市されている。
【0017】
前記エラストマーに導入される主鎖上の反応性官能基に特に制限はないが、導入の容易さ及び反応性等の観点から、エポキシ基が好ましい。したがって、本発明のポリマー組成物においては、(A)成分として、エポキシ化天然ゴム(エポキシ化NR)、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(エポキシ化SBR)及びエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレン三元共重合体(エポキシ化SBS)が好ましく用いられる。これらは一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。また、前記ポリマー組成物を、本発明のゴム組成物の調製に用いる場合には、性能の面から、エポキシ化NR及びエポキシ化SBRが好ましく、エポキシ化NRが特に好ましい。
これらのエポキシ化ジエン系エラストマーにおけるエポキシ基含有量は、本発明の目的が効果的に達成し得る観点から、1〜70モル%が好ましく、5〜65モル%がより好ましく、10〜60モル%がさらに好ましい。
【0018】
<ジエン系エラストマーのエポキシ化>
ジエン系エラストマーのエポキシ化としては、分子内にエチレン性二重結合を有する化合物において、該エチレン性二重結合をエポキシ化して、1,2−エポキシドを生成する従来公知の方法を用いることができる。
下記式(4)に、エポキシ化されたジエン系エラストマーの二重結合部分の構造を示す。
【0019】
【化2】

ここで、Rは水素原子又は炭化水素基であり、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0020】
ジエン系エラストマーをエポキシ化する方法は特に限定されず、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法が挙げられる。具体的には、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素等の不活性有機溶媒中において、有機過酸を用いて行われる。有機過酸としては、例えば過安息香酸、過酢酸、過ギ酸、過フタル酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸等を用いることができ、これらの中では、入手性及び工業的な観点から、過酢酸が好適である。
エポキシ化NRの場合、例えば天然ゴムラテックスに、過酢酸、又はギ酸とH22との混合物を適当な条件で反応させることにより、不安定なエポキシ開環反応物を含まない再現性の良いエポキシ化NRを得ることができる。
また、エポキシ化NRの市販品としては、具体的には、例えば、マレーシアンラバーボード(MRB)製のENR−25(エポキシ基含有量:25モル%)、ENR−50(エポキシ基含有量:50モル%)、ENR−60(エポキシ基含有量:60モル%)等が挙げられる。
【0021】
((B)無機充填材)
本発明のポリマー組成物において、(B)成分として用いられる無機充填材の種類については特に制限はなく、従来、プラスチック分野やゴム分野等で使用されている各種の無機充填材を用いることができるが、当該ポリマー組成物をゴム組成物の調製に用いる場合には、(B)成分である無機充填材としてシリカ及び/又は下記一般式(3)で表わされる無機化合物を用いることが好ましく、シリカが特に好ましい。
【0022】
シリカとしては特に制限はなく、従来ゴムの補強用無機充填材として慣用されているものの中から任意に選択して用いることができる。
このシリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも耐破壊特性の改良効果並びにウェットグリップ性の両立効果が最も顕著である湿式シリカが好ましい。
【0023】
シリカ以外の好適な無機充填材は下記一般式(1)で表わされる無機化合物である。
M・xSiO2・yH2O ・・・・・(1)
式中、MはAl、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物であり、x,yは共に0〜10の整数であり、x,yが共に0である場合には、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物となる。
【0024】
上記一般式(1)で表される無機化合物の具体例としては、アルミナ(Al23)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO2)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO3)等が挙げられる。
【0025】
また、上記一般式(1)は、下記一般式(5)で表される無機化合物又は水酸化アルミニウムであることが好ましい。
Al23・mSiO2・nH2O ・・・・・(5)
式(5)中のmは1〜4の整数であり、nは0〜4の整数である。
上記一般式(5)で表される無機化合物の具体例としては、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)等が挙げられる。また、本発明で用いる水酸化アルミニウムは、アルミナ水和物も含むものである。
本発明で用いる好ましい上記一般式(1)で表される無機化合物としては、クレー(Al23・2SiO2)、水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕、アルミナ(Al23)である。中でも水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕が特に好ましい。
【0026】
上記一般式(1)で表される無機化合物は、その平均粒径が100μm以下であることが好ましく、1〜90μmであることがさらに好ましい。シリカに比較して上記のように平均粒径の大きな上記一般式(1)で表される無機化合物を用いることによってゴム組成物の特に優れたウエット性能(湿潤路面性能)及び氷上性能(氷上路面性能)を得ることができる。
本発明のポリマー組成物において、(B)成分として用いられる無機充填材は、単独で又は2以上を混合して用いることができる。
【0027】
((B)無機充填材以外の他の充填材)
本発明のゴム組成物においては、(B)成分である無機充填材に加えて、無機充填材以外の他の充填材を用いても良い。無機充填材以外の他の充填材としては、カーボンブラックを好適に用いることができる。
カーボンブラックとしては特に制限はなく、例えばSRF、GPF、FEF、HAF、N339、IISAF、1SAF、SAF等が用いられ、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上、かつジブチルフタレート吸油量(DBP)が80ml/100g以上のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックを用いることにより、グリップ性能及び耐破壊特性の改良効果は大きくなるが、耐摩耗性に優れるHAF、N339、IISAF、ISAF、SAF等が特に好ましい。
【0028】
(B)成分として用いられる無機充填材は、補強性とそれによる諸特性の改良効果の観点から、全ポリマー成分100質量部に対して、好ましくは10〜120質量部、より好ましくは20〜120質量部、さらに好ましくは20〜100質量部の割合で配合される。(B)成分として用いられる無機充填材の量を上記範囲にすることによって混練作業性等の工場作業性に優れ、ゴム組成物として、所望の耐破壊特性を得ることができる。
【0029】
((C)カップリング剤)
本発明のポリマー組成物において、(C)成分として用いるカップリング剤は、前述した(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり平均1個以下有し、かつ前記(B)成分の無機充填材と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有する化合物である。
当該カップリング剤においては、該変性官能基は、一分子当たり、平均1個以下であることを要する。これは、(A)成分のエラストマーにおいては、主鎖上に反応性官能基を、通常複数有しているため、これと反応する(C)成分の変性官能基が複数存在すると架橋反応が進行してゲル化が生じやすいからである。
【0030】
前述した(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基がエポキシ基である場合、当該(C)成分のカップリング剤における変性官能基としては、該エポキシ基と反応し得る官能基であることを要することから、活性水素含有基又は酸無水物基を有する官能基であることが好ましい。
活性水素含有基としては、例えばカルボキシ基、第一アミノ基、第二アミノ基(環状イミノ基も含む)、ヒドロキシ基、酸アミド基、N−モノ置換酸アミド基及びこれらが加水分解性の保護基で保護された基から選ばれる基等を好ましく挙げることができる。
また、保護された活性水素含有基としては、共役ジエン系重合体の活性末端に変性反応を施した後、例えば、加水分解反応を行うことにより、上記の活性水素含有基に変換されるものであれば良い。例えば、第一アミノ基又は第二アミノ基の保護基としてトリメチルシリル基が挙げられる。
一方、上記酸無水物基を有する官能基としては、例えば無水コハク酸残基等が好ましく挙げられる。
【0031】
一方、前記(C)成分において、(B)成分の無機充填材と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基としては、例えば該無機充填材がシリカである場合には、Siに直接結合したヒドロカルビルオキシ基やシラノール基を有する珪素原子含有基、イソシアネート基含有基、第一アミノ基含有基、第二アミノ基含有基、非環状第三アミノ基含有基、環状第三アミノ基含有基等を挙げることができる。
【0032】
このような構造を有する(C)成分のカップリング剤としては、例えば下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。
1−Ra−L2 ・・・・・(2)
式中、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Raは鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜25の二価の炭化水素基、L2は−Si(Rbp(ORcq、−Si(Rbr(OH)s又は無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基であり、Rb及びRcはそれぞれ独立に炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、p及びrはそれぞれ0〜2の整数、q及びsはそれぞれ1〜3の整数、p+q=3、r+s=3である。
ここで、ヘテロ原子とは、炭素原子以外の原子をいい、珪素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる原子が好ましい。また、「鎖中」とは主鎖上に含まれることのみならず側鎖上に含まれることも包含される。
【0033】
本発明に係る(C)成分のカップリング剤として用いられる一般式(2)で表される構造を有する化合物は、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0034】
【化3】

式中、R1は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜18の一価の炭化水素基又は−ORd、Rdは炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A1は鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Zは、R3O−又は−A2−L3を示し、R3は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A2は、鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L3は、無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基である。
【0035】
前記一般式(3)において、R1、R2及びRdで表される炭素数1〜18の一価の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基等が挙げられるが、これらの中で、カップリング剤の反応性や性能の観点から、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。このアルキル基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであっても良く、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。これらの中で、カップリング剤の反応性や性能の観点から、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0036】
1及びA2で示される鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基としては、炭素数2〜10のアルカンジイル基が好ましく、炭素数2〜6のアルカンジイル基がより好ましい。
炭素数2〜6のアルカンジイル基は、直鎖状、枝分かれ状のいずれであっても良く、例えばエチレン基、1,3−プロパンジイル基、1,2−プロパンジイル基、各種ブタンジイル基、各種ペンタンジイル基、各種ヘキサンジイル基等を挙げることができるが、これらの中で直鎖状のもの、例えばエチレン基、1,3−プロパンジイル基、1,4−ブタンジイル基、1,5−ペンタンジイル基、1,6−ヘキサンジイル基等が挙げられ、特に1,3−プロパンジイル基が好ましい。
なお、これらのアルカンジイル基は、鎖中にヘテロ原子、例えばエーテル結合(−O−)、スルフィド結合(−S−)、エステル結合(−COO−)等を含んでも良い。
【0037】
1は、前記(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基であり、該主鎖上の反応性官能基がエポキシ基である場合、L1としては、例えば活性水素含有基又は酸無水物基を有する官能基であることが好ましい。
ここで、活性水素含有基及び酸無水物基としては、上記した基が好適に挙げられる。
【0038】
Zは、R3O−又は−A2−L3であり、無機充填材のみを配合し、カーボンブラックを配合しない場合は、当該カップリング剤のシリカ等の無機充填材に対する親和性や化学結合性の観点から、該ZはR3O−であることが好ましい。R3は上記で説明したとおりである。
一方、無機充填材に加えてカーボンブラックを配合する場合、即ちシリカとカーボンブラックとの混合系の場合には、Zは、−A2−L3であることが好ましい。ここでL3は、無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基であり、該親和性基としては、例えば
イソシアネート基、シラノール基、第一アミノ基含有基、第二アミノ基含有基、非環状第三アミノ基含有基、環状第三アミノ基含有基等を挙げることができる。これらの官能基の内、イソシアネート基、第一アミノ基含有基、第二アミノ基含有基、非環状第三アミノ基含有基、環状第三アミノ基含有基は、カーボンブラックに対しても親和性を示すので、シリカとカーボンブラックとの混合系において好ましい。なお、第一アミノ基含有基及び第二アミノ基含有基の第一アミノ基及び第二アミノ基は、加水分解性の保護基(例えば上記のトリメチルシリル基)で保護された基であっても良い。
2は上記で説明したとおりである。
【0039】
前記一般式(3)において、ZがR3O−である場合、該一般式(3)は、下記一般式(3−a)で表される。
【0040】
【化4】

(式中、R1〜R3、A1及びL1は前記と同じである。)
【0041】
前記一般式(3−a)で表されるカップリング剤としては、L1が活性水素含有基を有する官能基である場合、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、3−(N−メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(N−メチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−(N−メチルアミノ)エチルトリメトキシシラン、2−(N−メチルアミノ)エチルトリエトキシシラン、3−(N−エチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(N−エチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−(N−エチルアミノ)エチルトリメトキシシラン、2−(N−エチルアミノ)エチルトリエトキシシラン等の第一アミノ基又は第二アミノ基含有シラン化合物;3−(トリメトキシシリル)プロポキシ酢酸、3−(トリエトキシシリル)プロポキシ酢酸、2−(トリメトキシシリル)エトキシ酢酸、2−(トリエトキシシリル)エトキシ酢酸、3−[3−(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロピオン酸、3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]プロピオン酸、3−[2−(トリメトキシシリル)エトキシ]プロピオン酸、3−[2−(トリエトキシシリル)エトキシ]プロピオン酸等のカルボキシ基含有シラン化合物;3−(ヒドロキシエトキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(ヒドロキシエトキシ)プロピルトリエトキシシラン、2−(ヒドロキシエチル)エトキシトリメトキシシラン、2−(ヒドロキシエチル)エトキシトリエトキシシラン等のヒドロキシ基含有シラン化合物;3−(トリメトキシシリル)プロポキシ酢酸アミド、3−(トリエトキシシリル)プロポキシ酢酸アミド、2−(トリメトキシシリル)エトキシ酢酸アミド、2−(トリエトキシシリル)エトキシ酢酸アミド、3−[3−(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロピオン酸アミド、3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]プロピオン酸アミド、3−[2−(トリメトキシシリル)エトキシ]プロピオン酸アミド、3−[2−(トリエトキシシリル)エトキシ]プロピオン酸アミド等の酸アミド基含有シラン化合物等を挙げることができる。
【0042】
一方、前記一般式(3−a)におけるL1が、酸無水物基を有する官能基である場合、当該カップリング剤としては、例えば3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、2−(トリメトキシシリル)エチルコハク酸無水物、2−(トリエトキシシリル)エチルコハク酸無水物等を挙げることができる。
【0043】
前記一般式(3)において、Zが−A2−L3である場合、該一般式(3)は、下記一般式(3−b)で表される。
【0044】
【化5】

(式中、R1、R2、A1、A2、L1及びL3は、上記と同じである。)
【0045】
一般式(3−b)において、−A2−L3で示される基としては、例えば3−イソシアナトプロピル基、2−イソシアナトエチル基等のイソシアネート基含有基;N−(1,3−ジメチルブチリデン)−1−プロパンアミン−3−イル基、N−(1−メチルエチリデン)−1−プロパンアミン−3−イル基、N−エチリデン−1−プロパンアミン−3−イル基、N−(1−メチルプロピリデン)−1−プロパンアミン−3−イル基、N−(N,N−ジメチルアミノベンジリデン)−1−プロパンアミン−3−イル基、N−(シクロヘキシリデン)−1−プロパンアミン−3−イル基、3−ジメチルアミノプロピル基、2−ジメチルアミノエチル基等の非環状第三アミノ基含有基;3−(4,5−ジヒドロイミダゾール−1−イル)プロピル基、10−(4−オキサゾリン−3−イル)デシル基、3−(ヘキサメチレンイミノ)プロピル基、ヘキサメチレンイミノメチル基、2−(ヘキサメチレンイミノ)エチル基、3−(1−ピロリジニル)プロピル基、3−(ヘプタメチレンイミノ)プロピル基、3−(1−ドデカメチレンイミノ)プロピル基、2−(ピリジン−2−イル)エチル基、2−(ピリジン−4−イル)エチル基、3−(ピリジン−2−イル)プロピル基、3−(ピリジン−4−イル)プロピル基等の環状第三アミノ基含有基等を挙げることができる。
【0046】
前記一般式(3−b)で表されるカップリング剤としては、前記一般式(3−a)で表されるカップリング剤として例示した、トリメトキシシラン化合物、トリエトキシシラン化合物、トリメトキシシリル基含有化合物、トリエトキシシリル基含有化合物におけるトリメトキシ及びトリエトキシの中の一つのメトキシ基及びエトキシ基を、前記−A2−L3で示される基として例示した各種の基で置き換えた化合物を挙げることができる。
【0047】
(ポリマー組成物の調製)
本発明のポリマー組成物においては、前述した(C)成分のカップリング剤は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いても良い。
また、当該ポリマー組成物の調製においては、予め(A)成分のエラストマーと(C)成分のカップリング剤とを混合した後、(B)成分の無機充填材を加えることが好ましい。
(A)成分と(C)成分との混合方法は、溶液中での反応もしくはラテックス中での反応により(A)成分と(C)成分とを混合しても良いし、ドライ混練することにより(A)成分と(C)成分とを混合しても良い。(A)成分と(C)成分とを混合した後に同一工程内で(B)成分の無機充填材を混合できるという混合の簡便さからドライ混練することが特に好ましい。(B)成分の無機充填材を、(A)成分と(C)成分とを混合した後に配合するのは、(B)成分の無機充填材と(A)成分とが反応してしまうのを防止するためである。
この場合、(A)成分の反応性官能基に対する(C)成分の割合は、所望の(A)成分に対する(C)成分の結合割合により左右されるが、通常モル比で[{(A)成分の反応性官能基}:{(C)成分}]=(0.05:1)〜(50:1)の割合が好ましく、(0.1:1)〜(25:1)の割合がより好ましく、(0.2:1)〜(20:1)の割合がさらに好ましい。
【0048】
(A)成分に対する(C)成分の結合割合は、2モル%以上であることが好ましく、4モル%以上であることが好ましく、10〜100モル%であることがより好ましい。
(C)成分のカップリング剤においては、変性官能基同士が自己縮合するおそれがあり、(C)成分の揮発のリスクもあるので、この自己縮合や揮発をできるだけ抑え、(A)成分のエポキシ基との開環反応を促進させるような条件で、ドライ混練を行うことが有利である。混練り時の温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは30〜170℃、さらに好ましくは50〜160℃である。
(A)成分である主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーが、該主鎖上の反応性官能基としてエポキシ基を有し、一方(C)成分である結合反応性をもつ変性官能基が第一アミノ基含有変性官能基である場合、(A)成分と(C)成分との結合様式は、例えば下記式(6)に示すようになる。式(6)中のR1、R2、A1及びZは、上記と同じであり、R4は水素原子又は鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数1〜10の一価の炭化水素基である。
【0049】
【化6】

この混練り工程において、前記(A)成分と(C)成分との反応物と、(B)成分の無機充填材とが完全に反応してしまうと、該無機充填材が架橋点として機能し、流動加工が不可能となるおそれがある。したがって、少なくとも一部は、後で施される加硫時に、上記反応が達成されることが好ましい。
なお、加工性向上の観点から、前記(C)成分のカップリング剤と共に、例えばビス(3−トリエトキシシリルプロピル)スルフィド等を併用しても良い。
このようにして、無機充填材が高度に分散した加硫ゴム組成物が得られ、低ロス性に優れる上、耐破壊特性や耐摩耗性が向上したタイヤを与えることができる。
【0050】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、前述した本発明のポリマー組成物を含むことを特徴とする。
本発明のゴム組成物においては、加工性等を向上させるために、必要に応じ、前記(A)成分以外のゴム成分を配合することができる。そして、当該ゴム組成物としては、無機充填材がシリカ及び/又は上記一般式(1)で表わされる無機化合物であり、かつその含有量が、全ゴム成分100質量部に対して、10〜120質量部であるものが好ましく、20〜120質量部であるものがより好ましい。
【0051】
((A)成分以外のゴム成分)
本発明のゴム組成物において、前記(A)成分以外のゴム成分として、例えば天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化メチル基をもつスチレンとイソブチレンとの共重合体等の無変性ゴムの中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
全ゴム成分中の(A)成分の割合は、本発明の効果を十分に発揮し得る観点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0052】
(シランカップリング剤)
本発明のゴム組成物においては、補強性無機充填材としてシリカを用いる場合、その補強性及び低発熱性をさらに向上させる目的で、シランカップリッグ剤を配合することができる。
このシランカップリング剤としては、例えば前述したビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを始め、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−卜リエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられるが、これらの中で補強性改善効果等の点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド及び3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドが好適である。
これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0053】
本発明のゴム組成物においては、シランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤の種類等により異なるが、シリカに対して、好ましくは1〜20質量%の範囲で選定される。この量が1質量%未満ではカップリング剤としての効果が充分に発揮されにくく、また、20質量%を超えるとゴム成分のゲル化を引き起こすおそれがある。カップリング剤としての効果及びゲル化防止等の点から、このシランカップリング剤のより好ましい配合量は、5〜15質量%の範囲である。
【0054】
(ゴム組成物の調製、用途)
本発明のゴム組成物は、前述のポリマー組成物の調製と同様に予め(A)成分のエラストマーと(C)成分のカップリング剤とを混合した後、(B)成分の無機充填材を加えることが好ましく、同様の理由でドライ混練することが特に好ましい。
本発明のゴム組成物は、(A)成分と(C)成分とを混練等の手段により混合したのち、(B)成分の補強性無機充填材を加え、さらに本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を含有させることができる。
上記加硫剤としては、硫黄等が挙げられ、その使用量は、全ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1〜10.0質量部が好ましく、さらに好ましくは1.0〜5.0質量部である。0.1質量部未満では加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性、低発熱性が低下するおそれがあり、10.0質量部を超えるとゴム弾性が失われる原因となる。
【0055】
本発明で使用できる加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジスルフィド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)等のチアゾール系、あるいはDPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができ、その使用量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.2〜3.0質量部である。
【0056】
また、本発明のゴム組成物は、ロール等の開放式混練機、バンバリーミキサー等の密閉式混練機等の混練り機を用いて、前述したような順で混練りすることによって得られ、成形加工後に加硫を行ない、各種ゴム製品に適用可能である。例えば、タイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ用途を始め、防振ゴム、防舷材,ベルト、ホースその他の工業品等の用途に用いることができるが、特に、低発熱性、耐摩耗性、破壊強度のバランスに優れた、低燃費用タイヤ、大型タイヤ、高性能タイヤのトレッド用ゴムとして好適に使用される。
【0057】
次に、本発明のタイヤについて説明する。
[タイヤ]
本発明のタイヤは、前述した本発明のゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とする。
前記タイヤ部材としては、トレッド、ベーストレット及びサイドウォールを好ましく挙げることができ、これらのいずれかに、本発明のゴム組成物を用いることができるが、特にトレッドに用いることが好ましい。
本発明のゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、転がり抵抗が低く低燃費性に優れると共に、耐破壊特性及び耐摩耗性が優れる。なお、本発明のタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスが挙げられる。本発明のゴム組成物をトレッドに用いる場合は、例えばトレッド用部材に押出し加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
<加硫後のゴム組成物>
(1)損失正接(tanδ)
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、温度50℃、周波数52Hz、動歪1.0%でtanδを測定し、比較例1のtanδを100として、下記式により指数表示した。tanδは指数の値が低いほど、低発熱性に優れることを示す。
{(供試試料のtanδ)/(比較例1のゴム組成物のtanδ)}×100
(2)耐摩耗性
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用い、室温におけるスリップ率が25%の摩耗量を測定し、比較例1のゴム組成物の摩耗量の逆数を100として下記式により指数表示した。指数の大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
{(比較例1のゴム組成物の摩耗量)/(供試試料の摩耗量)}×100
【0059】
実施例1〜2及び比較例1
マトリックスゴムとして天然ゴムと、エポキシ化天然ゴムを用い、第1表に示す配合処方に従って各ゴム組成物を調製した。なお、エポキシ化天然ゴムとカップリング剤−1又はカップリング剤−2を予め145℃の温度で混練りしたのち、架橋系以外の成分を加え、150−151℃の温度で混練りし、さらに架橋剤等を加えて100℃以下で混練りすることにより、ゴム組成物を調製した。
各ゴム組成物を160℃で15分間加硫処理して加硫ゴムを得、該加硫ゴムの耐摩耗性及び損失正接(tanδ)を求めた。結果を第2表に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
[注]
1)エポキシ化天然ゴム:マレーシアンラバーボード(MRB)製、商品名「ENR−50」(エポキシ基含有量50モル%)
2)カップリング剤−1:3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物
3)カップリング剤−2:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
4)東ソーシリカ社製「ニプシルAQ」
5)アロマティックオイル:富士興産社製「アロマックス#3」
6)N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
7)デグサ社製「Si69」、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
8)ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド
9)ジフェニルグアニジン
10)N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
【0062】
【表2】

【0063】
第2表から明らかなように、本発明のポリマー組成物は耐摩耗性及び低発熱性に優れることがわかった。そして、本発明のポリマー組成物をタイヤ部材に用いることにより、タイヤの低燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与できることとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリマー組成物は、タイヤ部材に用いることで、タイヤの低燃費性を向上させ、かつタイヤに十分な耐摩耗性及び耐破壊特性を付与し得るゴム組成物を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーと、(B)無機充填材と、(C)前記(A)成分のエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ変性官能基を一分子当たり平均1個以下有し、かつ前記(B)成分と親和性を有するか、あるいは化学結合する官能基を有するカップリング剤を含むことを特徴とするポリマー組成物。
【請求項2】
(A)成分と(C)成分とを混練りして得られた混合物に、(B)成分を配合してなる請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
(A)成分の主鎖上に反応性官能基を有するエラストマーにおける主鎖上の反応性官能基が、エポキシ基である請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
(A)成分のエラストマーが、ジエン系エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項5】
ジエン系エラストマーが、エポキシ化天然ゴムである請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
ジエン系エラストマーが、エポキシ化スチレン−ブタジエン共重合体ゴム又はエポキシ化ブロック共重合体である請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
エポキシ化ブロック共重合体が、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である請求項6に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
(B)成分の無機充填材が、シリカ及び/又は下記一般式(1)で表わされる無機化合物である請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー組成物。
M・xSiO2・yH2O ・・・・・(1)
〔式中、MはAl、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物であり、x,yは共に0〜10の整数であり、x,yが共に0である場合には、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物又は金属水酸化物となる。〕
【請求項9】
(C)成分のカップリング剤が、一般式(2)で表される構造を有する化合物である請求項1〜8のいずれかに記載のポリマー組成物。
1−Ra−L2 ・・・・・(2)
[式中、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Raは鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜25の二価の炭化水素基、L2は−Si(Rbp(ORcq、−Si(Rbr(OH)s又は無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基であり、Rb及びRcはそれぞれ独立に炭素数1〜18の一価の炭化水素基であり、p及びrはそれぞれ0〜2の整数、q及びsはそれぞれ1〜3の整数、p+q=3、r+s=3である。]
【請求項10】
一般式(2)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物である請求項9に記載のポリマー組成物。
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜18の一価の炭化水素基又は−ORd、Rdは炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A1は鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L1は(A)成分の主鎖上の反応性官能基に対して、結合反応性をもつ基を有する官能基、Zは、R3O−又は−A2−L3を示し、R3は炭素数1〜18の一価の炭化水素基、A2は、鎖中にヘテロ原子を含んでも良い炭素数2〜10の二価の炭化水素基、L3は、無機充填材に対して親和性をもつ基を有する官能基である。]
【請求項11】
(A)成分の主鎖上の反応性官能基がエポキシ基であって、一般式(2)又は一般式(3)におけるL1が、活性水素含有基又は酸無水物基を有する官能基である請求項9又は10に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
活性水素含有基が、カルボキシ基、第一アミノ基、第二アミノ基、ヒドロキシ基、酸アミド基、N−モノ置換酸アミド基及びこれらが加水分解性の保護基で保護された基から選ばれる基である請求項11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
一般式(3)におけるL3において、無機充填材に対して親和性をもつ基が、イソシアネート基、シラノール基、第一アミノ基含有基、第二アミノ基含有基、非環状第三アミノ基含有基及び環状第三アミノ基含有基から選ばれる基である請求項10〜12のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のポリマー組成物を含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項15】
(B)成分であるシリカ及び/又は上記一般式(1)で表わされる無機化合物の含有量が、全ゴム成分100質量部に対して、10〜120質量部である請求項14に記載のゴム組成物。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のゴム組成物を、タイヤ部材に用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2011−6548(P2011−6548A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150067(P2009−150067)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】