説明

ポリマー表面のための、特にポリマー表面のヒドロキシル化のための修飾プロセス、及びそうして得られた生成物

本発明は、ポリマー表面(当該ポリマーは、後記のRが水素を表す場合に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)又はポリマー混合物表面(特には疎水性のもの)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化(ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のためのROラジカルの使用に関し、Rは、水素、炭素数2〜15のアルキル基、アシル基−COR’(但し、R’は、炭素数2〜15のアルキル基、又はアロイル基−COAr(但し、Arは、炭素数6〜15の芳香族基を表す)を表す)を表し、上記ROラジカルは、電気化学的又は光化学的手段により生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、ポリマー表面の修飾プロセス、特にポリマー表面のヒドロキシル化プロセス、並びにそうして修飾された表面に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトログラフトは、導電性表面及び半導電性表面の官能基化を可能にする。エレクトログラフトの主な有益性の1つは、表面上での界面結合の形成とフィルムの成長の両方を可能にするエネルギーであり、したがって表面自体が、その官能基化を起こす。この特性は、例えばエレクトログラフトされた層は、ナノメートルスケールでさえも、それらが実施された表面トポロジーを非常に正確に満たすという結果をもたらす。また、マクロスケールでも、この特性は、エレクトログラフトが、全体にわたって一様な品質で任意の複雑な形態を有する片上にコーティングを送達し、表面がエレクトログラフト溶液により湿っている場所はいずれも、エレクトログラフトされたフィルムが形成されるという
結果をもたらす。
【0003】
その性質から絶縁体の直接的な活性化が電気的手段では不可能であることを考慮すると、絶縁体表面上でエレクトログラフトを、少なくともその通常の形態下で実施することは明らかに不可能である。
【0004】
任意の型の表面に同様の品質の官能基化を提唱するためには、分子前駆体或いは表面活性化技法のいずれかにおいて、エレクトログラフトに必要とされる必須要素を維持することを可能にする特異性:界面結合(共有結合又は非共有結合)、適合性、均質性等を探索することにより、絶縁体に関するグラフトプロセスを開発することが必要である。
【0005】
ポリマー表面を官能基化して、親水性、疎水性、タンパク質若しくは他の生物学的分子の吸着又は非吸着、任意の型の有機若しくは無機材料の結合、接着といった特定の特性、より一般的には所望の用途に対する任意の望ましい特性をポリマー表面に付与することは興味深く、考えられている物体の表面により提供される官能基の修飾に言及することが可能である。このことは、表面をより反応性にさせることとなる初期処理後に、直接的に或いはポスト官能基化により実現され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリマー表面からの修飾した表面を、特にOH又はORラジカルを用いて、調製するプロセスを提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、後に続く官能基化反応で使用することが可能である、特に親水性にさせた修飾ポリマー表面を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマー表面(なお、当該ポリマーは、Rが水素を表す場合に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)又はポリマー混合物表面(特に疎水性のもの)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化のためのROラジカルの使用に関し、ROラジカル中、Rは、水素、炭素数2〜15のアルキル基、アシル基−COR’(式中、R’は、炭素数2〜15のアルキル基を表す)、又はアロイル基−COAr(式中、Arは、炭素数6〜15の芳香族基を表す)であり、上記ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットからなり、そして上記ROラジカルは、電気化学的又は光化学的手段により生成される。
【0009】
本発明はまた、疎水性ポリマー表面のヒドロキシル化のためのHOヒドロキシルラジカルの使用に関し、前記ポリマーは、少なくとも50%が脂肪族ユニットであるモノマーユニットで構成され、且つポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
「表面ヒドロキシル化」という用語は、該表面上でのヒドロキシル基(−OH)の結合を意味する。
【0011】
「表面アルコキシル化」という用語は、該表面上でのアルコキシ基(−OR)の結合を意味し、Rは、上記に定義されるようなアルキル基である。
【0012】
「表面オキシカルボニル化」という用語は、上記表面上でのオキシカルボニル基(−OCOR’又は−OCOAr、R’及びArは上記で定義される通りである)の結合を意味する。
【0013】
「ポリマー混合物」という用語は、少なくとも2つのポリマーを混合することにより得られる物質を意味する。
例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンというポリマーは、スチレン相:スチレン−アクリロニトリル共重合体中に、グラフトされたエラストマー相(ブタジエン)を分散させることにより得られる物質である。
【0014】
「モノマーユニット」という用語は、ポリマー中の反復ユニットを意味する。
【0015】
「脂肪族ユニット」という用語は、芳香族基、即ち環全体中に非局在化された4n+2電子を含有する環状基を含有しないユニットを意味する。
【0016】
好ましい実施形態によれば、本発明のヒドロキシル化プロセスが適用される疎水性ポリマーは、ポリマーの主鎖上の原子:炭素、窒素又は酸素が単結合により結合されていないポリマーである。
【0017】
「主鎖」という用語は、ポリマー鎖上に見出すことが可能な最長の鎖を意味する。
【0018】
好ましい実施形態によれば、本発明のヒドロキシル化プロセスが適用される疎水性ポリマーは、ポリマーの主鎖上の原子:炭素、窒素又は酸素が単結合により結合されていないポリマーであり、側鎖の置換基は、カルボキシル基又はそれらのエステル或いはフッ素原子ではなく、好ましくは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、並びに最終的にはN、O及びS、シアノ基又は塩素原子から選択されるヘテロ原子である。
【0019】
好ましい実施形態によれば、本発明のヒドロキシル化プロセスが適用される疎水性ポリマーは、ケイ素ポリマーではない。
【0020】
本発明はまた、ポリマー表面(なお、ヒドロキシル化反応は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なるポリマー上で実施される)又はポリマー混合物表面(なお、これらのポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のヒドロキシル化、アルコキシル化又はオキシカルボニル化のためのフェントン反応の使用に関し、当該フェントン反応は、電気化学的又は光化学的手段により実施される。
【0021】
「フェントン反応」という用語は、過酸化水素と鉄(II)との反応によりヒドロキシルラジカルを生成することを可能にする
反応を意味する。
【0022】
この反応は、下記反応スキームで表すことができる:
【化1】

【0023】
この反応は、特に下記文献に記載されている:
Fenton, H., J., H. J. Chem. Soc. 1894, 65, 899; Haber, F.; Weiss, J. Proc. Roy. Soc. A. 1934, 134, 332; Barb.; W.G.; Baxendale, J., H.,; George, P.; Hargrave, K. R. Nature 1949, 163. 692; Walling, C.; Weil, T. Int. J. Chem. Kinet. 1974, 6, 507; Gallard, H.; DeLaat, J.; Legube, B. Wat. Res. 1999, 33, 2929。
【0024】
この反応はまた、過酸化水素を過酸化物ROOR(Rは上記で定義する通りである)で置き換えることにより、本発明の範囲で適用されている。
【0025】
表面ヒドロキシル化、アルコキシル化又はオキシカルボニル化のためのフェントン反応の使用により、特にプラズマ又はγ線照射処理よりも最も簡素な方法でヒドロキシルラジカル、アルコキシラジカル又はオキシカルボニルラジカルを得ることが可能である。
【0026】
フェントン、電気フェントン及び光フェントン反応は、それらの化学構造に関係なくポリマーに適用可能であり、したがって反応は、ポリマーの化学構造に非特異的であるため、それらを使用することは特に有利である。
【0027】
好都合な有利な実施形態によれば、本発明は、フェントン反応が、電気化学的手段により、即ち電気フェントン反応を用いることによって実現されることを特徴とする上記で規定するような使用に関する。
【0028】
電気フェントン反応は、陰極でFe2+を継続的に再生させることにより、及び同じ陰極で二酸素を過酸化水素へ還元することにより、ヒドロキシラジカルを連続的に生成することを可能にする。
フェントン反応のこの変形形態は、十分な量の時間、電気分解を存続することにより大量のラジカルを生成することが可能である。
【0029】
電気フェントン反応(Tomat, R.; Vecchi, A. J. Appl. Electrochem. 1971, 1, 185; Oturan, M. A.; Pinson, J. New J. Chem 1992, 16, 705; Fang, X.; Pam, X.; Rahman, A. P. Chem. Eur. J.. 1995, 1, 423; Gallard, H.; DeLaat, J. Chemosphere 2001, 42, 405; Matsue. T., Fujihira, M.; Osa, T. J. Electrochem. Soc. 1981, 128, 2565; Fleszar, B.; Sobkoviak, A. Electrochim. Act. 1983, 28, 1315; Tzedakis, T.; Savall, A.; Clifton, M., J. J. Appl. Electrochem. 1989, 19, 911; Oturan, M.A.; Oturan, N.; Lahitte, C.; Trevin, S. J. Electranal. Chem. 2001, 507, 96; Brillas, E.; Casado, J. Chemosphere 2002, 47, 241)は、フェントン反応の変形形態であり、Fe2+が陰極で連続して再生され、同時に酸素が還元されて過酸化水素を生じる触媒反応から構成される。
【0030】
触媒サイクルを以下に記載する:
【化2】

【0031】
さらに、本発明のプロセスに関して、表面オキシカルボニル化は、電気分解セル中で直接、過酸化物を導入することにより実施されており、これは、溶液の脱酸素化を伴っていない。
【0032】
別の有利な実施形態によれば、本発明は、フェントン反応が、光化学的手段により、即ち光フェントン反応を用いることによって実現されることを特徴とする上記で規定するような使用に関する。
【0033】
光フェントン反応(Brillas, E., Sauleda, R.; Casado, J. J. Electrochem. Soc. 1998, 145, 759)は、次のメカニズムに相当するフェントン反応の変形形態である:
【化3】

【0034】
光フェントン反応は、過酸化水素とFe(II)の水溶液の照射によりヒドロキシルラジカルを生成することを可能にする。この反応は、連続してFe(II)を再生し、したがって過酸化水素が存在する限りはヒドロキシルラジカルを生成することを可能にする。したがって、この反応は、連続してヒドロキシルラジカルを生成することを可能にする。
【0035】
本発明はまた、
ヒドロキシル化された表面、アルコキシル化された表面或いはオキシカルボニル化された表面を得るための、ポリマー表面(なお、当該ポリマーは、ヒドロキシル化プロセスに関してはポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)又はポリマー混合物表面(なお、これらのポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化プロセスに関し、上記プロセスは、上記表面を、ROラジカル(Rは、水素、炭素数2〜15のアルキル基、アシル基−COR’(式中、R’は、炭素数2〜15のアルキル基、特にブチル基若しくはラウリル基を表す)、又はアロイル基−COAr(式中、Arは、炭素数6〜15の芳香族基、特にフェニル基を表す)である)と反応させることから構成されることを特徴とし、上記ROラジカルは、電気化学的又は光化学的手段により生成される。
【0036】
「ヒドロキシル化された表面」という用語は、ヒドロキシル基(−OH)を含有する表面を意味する。
【0037】
「アルコキシル化された表面」という用語は、アルコキシ基(−OR)を含有する表面を意味し、Rは、上記で定義されるようなアルキル基を表す。
【0038】
「オキシカルボニル化された表面」という用語は、オキシカルボニル基(−OCOR’又は−OCOAr、R’及びArは上記で定義される通りである)を含有する表面を意味する。
【0039】
特定の実施形態によれば、本発明のプロセスにより得られるオキシカルボニル化された表面は、−COR’又は−COAr基を含有し、R’及びArは上記で定義される通りである。
【0040】
ROラジカルは、鉄(II)により触媒作用されるRO−OR過酸化物の切断により得られる。
【0041】
HOラジカルは、鉄(II)により触媒作用される過酸化水素Hの切断により形成される。
【0042】
本発明による好ましいヒドロキシル化プロセスは、表面とHOヒドロキシルラジカルとを反応させることを包含することを特徴とする。
【0043】
本発明はまた、ヒドロキシル化された表面を得るための、ポリマー表面、特に疎水性表面(前記ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%がアルカンユニットである)のヒドロキシル化プロセスに関し、該プロセスは、上記表面と、フェントン反応、電気化学的手段又は光化学的手段(電気フェントン反応又は光フェントン反応)によって得られるHOヒドロキシルラジカルとを反応させることを包含すること特徴とする。
【0044】
本発明は、上記で規定されるようなプロセスに関し、HOヒドロキシルラジカルは、過酸化水素と第二鉄イオン(Fe3+)又は第一鉄イオン(Fe2+)とを混合することにより得られることを特徴とする。
【0045】
有利な実施形態によれば、本発明のプロセスは、HOヒドロキシルラジカルが、電気フェントン反応を用いて得られることを特徴とする。
【0046】
有利な実施形態によれば、電気フェントン反応の使用を含む本発明のプロセスは、過酸化水素が、酸性媒質中での酸素の電気化学的還元により直接得られること、並びにHOヒドロキシルラジカルが、第一鉄イオンと過酸化水素との反応から供給されることを特徴とする。
【0047】
「酸素の電気化学的還元」という用語は、2つの電子及び2つのプロトンが酸素へと移動し、過酸化水素を生成することを意味する。
【0048】
「酸性媒質」という用語は、pHが7以下であり、より具体的には2〜4であり、より正確には3に等しい媒質を意味する。
【0049】
本発明はまた、HOヒドロキシルラジカルが、光フェントン反応を用いて得られることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0050】
有利な実施形態によれば、光フェントン反応の使用に関して、本発明のプロセスは、過酸化水素がポリマー表面に添加されることを特徴とし、並びにHOヒドロキシルラジカルは、過酸化水素と第一鉄塩(特に塩化鉄又は硫酸鉄)を含有する水溶液と上記表面を接触させることにより、並びに上記表面及び上記溶液の照射により得られることを特徴とする。
【0051】
「上記表面及び上記溶液の照射」という用語は、溶液及び表面(複数可)を、適切な波長、具体的には紫外線領域、即ち400nm以下の波長を放出するランプで照射することを意味する。
【0052】
別の有利な実施形態によれば、本発明は、ポリマーが、過酸化水素と第一鉄塩(特に塩化鉄又は硫酸鉄)とを含有する水溶液中に浸漬されること、並びに上記溶液及びポリマーがUVランプで照射されることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0053】
本発明はまた、ポリマーが、約500〜約500万ダルトンの分子量を有するモノマーユニットを含有することを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0054】
500ダルトンの分子量は、ポリマー分子量の下限に相当し、500万ダルトンの分子量は、UHMWポリエチレン(超高分子量)の質量に相当する。
【0055】
本発明はまた、ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン(P−IB)、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAC)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVFM)、ポリビニルアルコール(PVAL)、種々のポリアミド、ポリオキソメチレン(POM)、セルロース誘導体及びポリアクリロニトリル(PAN)から選択されることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0056】
本発明のプロセスに好ましいポリマーは、下記から選択される:
【化4】

【0057】
好ましくは、本発明のプロセスで使用されるポリマーは、オレフィン重合により、即ち、重合を導くために破断できる少なくとも1つの二重結合を有する化合物により得られるポリマーであるポリオレフィンである。
【0058】
好ましくは、本発明に関与するポリマーは、ポリシロキサンポリマーと異なる。
【0059】
本発明はまた、ポリマーが、少なくとも1つの芳香族ユニット、特にペンダントアリール基及び少なくとも1つのアルカンユニットを有するモノマーユニットで構成されることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関し、上記ポリマーは、ランダム共重合体、交互共重合体及びブロック共重合体(ジブロック、トリブロック、マルチブロック又は放射状)から選択される。
【0060】
交互共重合体は、次の形態のポリマーである:
−ABABABAB−
【0061】
ブロック共重合体又は逐次共重合体は、次の形態のポリマーである:
−AAAAAABBBBBBAAAAAABBBBBBB− 又は
−AAAAAABBBBBBCCCCCCAAAAAABBBBBB−
【0062】
ランダム共重合体は、次の形態のポリマーである:
−AABABBAAABABB−
【0063】
二重逐次(bisequential)共重合体は、次の形態のポリマーである:
−(A)−(B)
【0064】
三重逐次(trisequential)共重合体は、次の形態のポリマーである:
−(A)−(B)−(A)
【0065】
星型共重合体(又はラジカル)は、次の形態のポリマーである:
【化5】

【0066】
A、B及びCは、上記で規定されるようなモノマーユニットを表す。
【0067】
本発明はまた、ポリマー表面が、シート、編み材料、管(例えば、カテーテル)、ストランド、くぎ又はねじ、球の形態であることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関し、様々な形態の物体は、プロテーゼ又は眼球外若しくは眼球内レンズとして機能を果たすことが可能である。
【0068】
好ましい実施形態によれば、本発明のプロセスは、細網化工程を包含しないことを特徴とする。
【0069】
本発明はまた、HOヒドロキシルラジカルを反応させる工程が、約5分間〜約5時間実施されることを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0070】
本発明はまた、ポリマー表面上に結合されたヒドロキシル基への後続の官能基化工程を含むことを特徴とする、上記で規定されるようなプロセスに関する。
【0071】
後続の官能基化反応の中でも、カルボン酸との反応によるエステルの形成、別のアルコールとのウィリアムソン反応によるエーテルの形成、ハライドアシッド又はPClとの反応によるハライドの形成、光延反応によるN−アルキルアミドの形成又はチオールとの反応によるスルフィドの形成を挙げることができる。
【0072】
概して、ポスト官能基化により、当業者は目標とする用途用に(例えば、生物学的ドメイン、接着タンパク質及び非接着タンパク質、薬学的物質(抗菌薬)の結合において)表面上に選択した有機官能基を配置させることが可能である。
【0073】
後続の官能基化反応は、例えば、生物学的に活性な分子(例えば、酵素)又は薬学的特性を有する分子を結合させることにより表面に特異的な特性を与えることが可能である。これは、所望の分子へ直接的に或いは中間結合に関する中間体により、表面上のOH基を結合させることにより実施することができる。エステル形成(無水物、酸塩化物又はさらには酸との反応による)、アミド形成(イソシアネートとの反応による)又はエーテル形成(アルキルハライドとの反応による)によりアルコール官能基特性を結合することができる。
【0074】
本発明はまた、水滴と得られたヒドロキシル化された表面との間で測定される接触角が、水滴とヒドロキシル化されていない表面との間で測定される接触角と比較して、5°以上、特に10°以上減少していることを特徴とする、後記で規定されるようなヒドロキシル化プロセスに関する。
【0075】
接触角は、シリンジでポリマー表面上に水滴を置き、続いてポリマー表面と水滴のポリマーとの接触点における接線との間に形成される角度を、顕微鏡を用いて計測することにより測定される。
【0076】
表面がより親水性であるほど、測定される接触角は小さくなり、そして、表面がより疎水性であるほど、測定される接触角は大きくなる。
【0077】
本発明はまた、得られるヒドロキシル化された表面、アルコキシル化された表面又はオキシカルボニル化された表面が、下記試験に従って、特に何週間もの間、時間安定性であることを特徴とする、上記で規定されるプロセスに関する。
【0078】
10分間、又は120分間のいずれかの電気フェントン反応により修飾され、続いてトリフルオロアセチル化されたPET及びPEEKサンプルの赤外線スペクトルを、74日後に再記録する。スペクトルの差(t=0及びt=74日)を記録することにより、有意な差、及び特にトリフルオロアセチル基に相当する特徴的なバンドの消失は観察されない。
【0079】
本発明はまた、上記で規定されるような本発明のプロセスを用いて得られるヒドロキシル化された表面、アルコキシル化された表面又はオキシカルボニル化された表面に関する。
【0080】
以下の実施例の部で報告する接触角の測定により示されるように、本発明のヒドロキシル化プロセスに従って処理した表面は、親水性となっており、その結果遥かにより生体適合性になるだろう。
【0081】
ポリマーとOH基との間の結合は、共有結合であり、そのエネルギーは、390(CHOH)〜470(COH)kJ/molの範囲である。
【実施例】
【0082】
I.電気フェントン反応
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)のヒドロキシル化
【0083】
基材
・編んだPP及びGoodfellow PP301400シート
・超高分子量PE(シート)(Goodfellow ET301400)
・ABS板(Goodfellow、AB3030090)(アクリロニトリルとスチレンとの共重合により得られるスチレン相(SAN)中にエラストマー相(ブタジエン)を分散させることにより得られる)
【0084】
電気化学的装置:
非分離コンパートメントセル
陽極:炭素
陰極:炭素フェルト(約10cm
ポリマーシート又は編み材料は、1枚のシートに対してしっかり固定されたか、或いは陰極として機能を果たす2枚の炭素フェルトシート間に配置された。
溶媒:水酸化ナトリウムでpH3にした0.1M HSO
触媒:0.5mM Fe2+(FeSO・7HO)
連続的なエアバブリング
定電流法:定電流:実験に応じて10mA又は5mA
定電位法:定電位:E=−0.6V/SCE
【0085】
A)PPのヒドロキシル化
PPシート(Goodfellow)のヒドロキシル化
定電流i=5mA(2時間)により、対電極を参照上に短絡させた。陰極電位は、実験の開始時の約−0.6V/SCEから、電気分解終了時の約−2V/SCEに増加し、この電位では、プロトンは還元され、したがって酸素の還元効率が低下した。サンプルを超音波下に蒸留水で10分間、続いてアセトニトリル(分析用)中で10分間慎重にすすいで、40℃にて真空下で一晩乾燥した。
【0086】
定電圧により、電流は約30mAから10mAに減少した。サンプルは上述するように処理した。
【0087】
IR分析のために、サンプルを、一晩トリフルオロ酢酸無水物(1mL)をエーテル(30mL)に溶解した溶液で処理して、アセトニトリルですすいだ後、真空下で一晩乾燥した。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
CFバンドは、定電流電気分解よりも定電圧電気分解に相当するスペクトルで大きく、収率は定電圧を用いた場合により大きいようであったが、バンド位置に関して差は見られなかった。
【0090】
ToF−SIMS解析により、表面トリフルオロメチル化:
−OH+CF(C=O)O(O=C)CF → −O(C=O)CF
が良好に確認された(以下の表2に記載されるフラグメントを参照)。
【0091】
【表2】

【0092】
トリフルオロメチル基(及び特にトリフルオロメチル化されたアルキル鎖)の存在により、表面が良好にヒドロキシル化され、続いてトリクロロメチル化されたことが確認された。しかしながら、(CHOC(=O)CFという型のフラグメントが観察されなかったため、解析中にCOの損失を伴うイオンの再配置の可能性が高い。
【0093】
処理していないPPを用いて測定した水の接触角の分析結果は124°であり、処理後には、水滴を置いた直後に102°へ減少し、その後徐々に減少し続け、10分後及び20分後には73°であった(水滴の顕著な蒸発はない)。
【0094】
編み材料のヒドロキシル化
電気分解1時間。定電流法:i=10mA
表面のIR解析は、処理していないサンプルとの差により、OH伸縮振動に相当する3419cm−1でのバンドを示し、1037cm−1での弱いバンドは、C−OH変形によるものとすることができる。
【0095】
ToF−SIMSにより、観察されるO及びOHピークは、表3に示した参照上に存在しないピークと同様に、参照よりも明らかに大きい。
【0096】
【表3】

【0097】
トリフルオロメチル化後、フッ素化されたピークが観察された:F、CF、OCOCF、C15OCOCF。この後者のピークは特に興味深く、それは、ポリマーの一部及びトリフルオロアセチル化されたOH官能基を含有しており、したがってOH官能基が表面へ良好に共有結合で付着されたことを示している。シートのスペクトルと編み材料のスペクトルとの間で、わずかな差が観察され、これは、実験の再現性或いは2つの物質の異なる反応性のいずれかに起因し得る(たとえそれらが同一の化学組成を有していたとしても)。
【0098】
編み材料上では、接触角は測定するのが非常に困難であったが、ヒドロキシル化後に水滴は表面を通り抜けた。
【0099】
B)PEのヒドロキシル化
表面修飾は、−0.6V/SCEの定電圧モードで2時間、エアバブリングしながら0.5mMFeSOの存在下で、水酸化ナトリウムの添加によりpH3にした0.1N硫酸の溶液中で実現させた。
【0100】
水との接触角を、グラフト前及び後に測定した:水との接触角は、約91°から約70°であった。これは、ポリプロピレン表面がヒドロキシル化されたことが良く示している。
【0101】
ヒドロキシル化された表面のIRスペクトルを記録した。
【0102】
【表4】

【0103】
サンプルを上記のようにトリフルオロアセチル化した。参照を得るために、ヒドロキシル化されていないサンプルに対して、トリフルオロアセチル化処理を実施した。
【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
接触角の変動、IRスペクトル、及びより特別にはアルキルOC(=O)CFフラグメントを示すToF−SIMSスペクトルの変動により、表面のヒドロキシル化及びポスト官能基化が良好に実証された。
【0107】
C)ABSのヒドロキシル化
PEと同じ条件下で実施した。
【0108】
水との接触角を、グラフト前及び後に測定した:水との接触角は、約69°から約37°であった。
【0109】
ヒドロキシル化された表面のIRスペクトルを記録した。
【0110】
【表7】

【0111】
サンプルを上記のようにトリフルオロアセチル化した。参照を得るために、ヒドロキシル化されていないサンプルに対して、トリフルオロアセチル化処理を実施した。
【0112】
【表8】

【0113】
【表9】

【0114】
時間の関数としてのグラフト安定性
74日後に、電気フェントン反応により10分間又は120分間修飾し、続いてトリフルオロアセチル化されたPPサンプルの赤外線スペクトルを記録した。スペクトル間での差(t=0及びt=74日)を記録することにより、有意な差、特に特徴的なトリフルオロアセチル基バンドの消失は観察されなかった。
【0115】
II.光フェントン反応
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)のヒドロキシル化
【0116】
A)ポリプロピレン(PP)のヒドロキシル化
循環ポンプ、サーモスタット付き二重ジャケット及び反応器の中央の石英管中に配置された低圧水銀ランプを装備した2Lのガラス反応器に、1mM HCl水溶液2L、塩化第二鉄1g及び過酸化水素2mLを満たした。ポリマーサンプルを溶液中に懸濁させた。ポンプを駆動し、照射を開始して、2時間30分後に、照射を停止した。サンプルを間超音波下蒸留水で15分間すすぎ、次いでアセトンですすいで、真空下40℃にて一晩乾燥した。
【0117】
サンプルのIR解析により、3343及び3230cm−1でのOH基の帰属可能バンドを認識することが可能であった(PPスペクトル自体を差し引いた後)。
【0118】
水の接触角の算出は、処理前及び後に実施した。
【0119】
【表10】

【0120】
次に、サンプルをトリフルオロ酢酸無水物(エーテル10mL中0.4mL)で処理して、IRにより解析した。1206〜1254cm−1及び1165〜1185cm−1に対するバンドが良好に観察され、これらは、トリフルオロ酢酸及びトリフルオロ酢酸無水物のスペクトルとの比較によりCF基の振動に帰属された。カルボニル基(C=O)CFに相当する振動が観察可能であった。これらのスペクトルにより、ポリマー表面における修飾が良好に確認された。
【0121】
【表11】

【0122】
【表12】

【0123】
ToF−SIMSスペクトルにより、酢酸無水物による処理後にOCF基によるポリマーグラフトが、すなわち表面ヒドロキシル化が良好に確認された。
【0124】
B)ポリエチレン(PE)のヒドロキシル化
ヒドロキシル化及びトリフルオロアセチル化を、ポリプロピレンと同じ条件下で実施した。サンプルをToF−SIMSにより解析した。
【0125】
【表13】

【0126】
表13により、OH基によるポリエチレングラフト、及び続くトリフルオロアセチル化が良好に示された。特に、m/z=182のフラグメントは、トリフルオロアセチル基を含有するPE鎖のフラグメントを表した。
【0127】
C)ABSのヒドロキシル化
PPと同じ条件下で、サンプルをToF−SIMSにより解析した。
【0128】
【表14】

【0129】
スペクトルにより、ABSのヒドロキシル化及びトリフルオロアセチル化が良好に確認された。
【0130】
過酸化ベンゾイルを使用したフェントン反応に類似した反応
この反応では、過酸化水素が過酸化ベンゾイルで置き換えられた。PP及びPEの2つのサンプルを炭素フェルトに包んで、これらの被覆を陰極として使用した。溶液は、水酸化ナトリウムの添加によりpH3にした0.1N HSO溶液400mL中に、過酸化ベンゾイル400mg(飽和溶液)及びFeSO・7HO 55mgを入れることにより調製した。溶液はアルゴンで酸素を除去した。電位は、E=−0.6V/SCEで2時間固定した。次に、サンプルを水道水ですすぎ、蒸留水で超音波下に2度すすぎ(10分)、続いてアセトンで超音波下1度すすいで、真空下で乾燥した。
【0131】
サンプルをToF−SIMSにより解析した。
【0132】
【表15】

【0133】
表15により、PE及びPPに関してCC(=O)又はCC(=O)O基によるグラフトが良好に示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー表面(該ポリマーは、後記のRが水素を表す場合に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)又はポリマー混合物表面(特に疎水性のもの)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化(前記ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のためのROラジカルの使用。
但し、Rは、水素、炭素数2〜15のアルキル基、アシル基−COR’(但し、R’は、炭素数2〜15のアルキル基、又はアロイル基−COAr(但し、Arは、炭素数6〜15の芳香族基を表す)を表す)を表し、前記ROラジカルは、電気化学的手段又は光化学的手段により生成される。
【請求項2】
ポリマー表面(後記ヒドロキシル化反応は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なるポリマー上で実施される)又はポリマー混合物表面(ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化のためのフェントン反応の使用。
但し、該フェントン反応は、電気化学的手段又は光化学的手段により実施される。
【請求項3】
ヒドロキシル化された表面、アルコキシル化された表面或いはオキシカルボニル化された表面を得るための、ポリマー表面(該ポリマーは、ヒドロキシル化プロセスに関してはポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)又はポリマー混合物表面(ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットである)のヒドロキシル化、アルコキシル化或いはオキシカルボニル化のためのプロセス。
但し、該プロセスは、前記表面を、ROラジカル(Rは、水素、炭素数2〜15のアルキル基、アシル基−COR’(式中、R’は、炭素数2〜15のアルキル基、特にはブチル基若しくはラウリル基を表す)、又はアロイル基−COAr(式中、Arは、炭素数6〜15の芳香族基、特にはフェニル基を表す)を表す)と反応させることから構成されることを特徴とし、前記ROラジカルは、電気化学的手段又は光化学的手段により生成される。
【請求項4】
表面を、HOヒドロキシルラジカルと反応させることから構成される、請求項3に記載のヒドロキシル化プロセス。
【請求項5】
ヒドロキシル化された表面を得るための、ポリマー表面のヒドロキシル化プロセス(ポリマーはモノマーユニットで構成され、この中の少なくとも50%が脂肪族ユニットであり、且つポリメチルメタクリレート(PMMA)及びフルオロカーボンポリマーから選択されるポリマーと異なる)。
但し、前記ポリマーは、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン(P−IB)、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAC)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVFM)、ポリビニルアルコール(PVAL)、種々のポリアミド、ポリオキソメチレン(POM)、セルロース誘導体及びポリアクリロニトリル(PAN)から選択され、前記プロセスは、表面を、電気化学的手段又は光化学的手段(電気フェントン反応又は光フェントン反応)によりフェントン反応を実施することにより得られるHOヒドロキシラジカルと反応させることから構成されることを特徴とする。
【請求項6】
HOヒドロキシルラジカルは、過酸化水素と、第二鉄(Fe3+)又は第一鉄(Fe2+)イオンとを混合することにより得られる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
ポリマーは、約500〜約500万ダルトンの分子量を示すモノマーユニットを含有する、請求項3〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
ポリマーの表面は、シート、編み材料、管(例えば、カテーテル)、ストランド、くぎ又はねじ、球の形態であり、様々な形態の物体は、プロテーゼ又は眼球外若しくは眼球内レンズとして機能を果たすことが可能である、請求項3〜7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
表面と、HOヒドロキシルラジカルとを反応させる工程は、約5分間〜約5時間実施される、請求項5〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
ヒドロキシル化された表面に連結されたヒドロキシル基に対する後続の官能基化工程を包含する、請求項5〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項3〜10のいずれか1項に記載のプロセスを実施することにより得られるヒドロキシル化された表面、アルコキシル化された表面又はオキシカルボニル化された表面。

【公表番号】特表2009−511696(P2009−511696A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535058(P2008−535058)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002270
【国際公開番号】WO2007/042659
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(508111316)
【氏名又は名称原語表記】ALCHIMER
【Fターム(参考)】