説明

ポリマー表面上の耐引掻性および耐摩耗性の被覆

本発明は、
a)a1)一般式(I)〔式中、Y(1)は、3−グリシジルオキシプロピル基であり、R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとa2)一般式(II)〔式中、Y(2)は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピル基またはNH2(CH22NH(CH22NH(CH)3−基であり、R'1、R'2、R'3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとの少なくとも1つの反応生成物、b)少なくとも1つの無機充填剤、c)85℃以下の温度の沸点を有する溶剤、d)水およびe)無機酸または有機酸から選択された触媒を含有する組成物、本発明による組成物を施こすことによってポリマー表面上に表面被覆を形成させる方法ならびに本発明による表面被覆を有する少なくとも1つのポリマー表面を有する製品およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル技術により多種多様のポリマー上に耐引掻性の硬質表面被覆を形成させる方法に関する。
【0002】
鋼またはポリマー上へのガラス状被覆の形成は、久しく公知であり、しばしば記載されている。
【0003】
耐引掻性とは、この状況で、以下、マーテスター(Mar Tester、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力のテスター)が算出するスクレーパーの取付けに抗する材料の表面被覆の耐性能力であると理解される。定義された形状および寸法を有する円板は、定義された力、即ちNで測定される押付力で、表面被覆を備えた材料上に押し付けられ、定義された傾斜で前記の押付力を維持しながら流動運動で表面被覆の表面上に案内される。この運動は、最大の押付力で、表面の筋状の変化が目視可能になるまでしばしば繰り返される。その際に調節された押付力は、本発明の範囲内で耐引掻性に対する基準である。本発明の範囲内では、ERICHSEN GmbH & Co. KG社, Iserbach 14, D-58675 Hemer在、のマーテスター型式435(Mar Tester Model 435)が使用される。
【0004】
耐磨耗性とは、前記状況で次に述べるように、定義された条件下で生じた摩耗のために材料の表面被覆が蒙る質量損失である。この摩耗は、その前面が定義された荒さを有しかつ定義された回転数で摩擦歯車の質量によって定義される載置力で表面被覆上を擦る2個の摩擦歯車によって引き起こされる。その際に使用される装置は、TABER INDUSTRIES社(455 Bryant Street, North Tonawanda, New York 14120, USA, http://www.laberindustries.com)により記載され、そこから入手可能である。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第3828098号明細書A1には、有機官能性シランおよび少なくとも1つのアルミニウムアルコキシドから出発する耐引掻性材料の製造が記載されている。少なくとも1つのアルミニウム化合物と少なくとも1つの有機官能性シランとの加水分解重縮合によって得られる組成物は、支持体上に施こされ、加熱によって硬化される。前記組成物の製造における特殊な工程は、前記組成物を支持体上に塗布する前に、前記組成物を水の添加によって化学量論的不足量の割合で前縮合させなければならないことにある。水は、望ましくない沈殿を阻止するために、数工程で添加されなければならない。
【0006】
また、ドイツ連邦共和国特許出願公開第3917535号明細書A1には、加水分解可能な珪素化合物を基礎とする耐引掻性被覆のための組成物の製造が記載されている。有機官能性シランと共に、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドが使用される。耐引掻性を達成させるために、加水分解化合物の易揮発性部分は、蒸発される。この方法においては、同様に水の添加によって化学量論的不足量の割合で加水分解可能な珪素化合物の混合物が前縮合され、このことは、特殊な処理工程を必要とする。この前縮合は、縮合触媒の使用によって促進させることができる。前縮合および易揮発性の加水分解化合物の蒸発の後に初めて、組成物は、支持体上に施こされ、引続き数分間ないし2時間、加熱によって硬化される。
【0007】
Al、Tiおよび/またはZrと少なくとも1つの有機官能性シランとからなるアルコキシドの組合せ物は、米国特許第4746366号明細書中に記載されている。この組合せ物は、水の段階的な添加によって前縮合される。加水分解生成物は、真空下に組合せ物から除去される。こうして得られた生成物は、支持体上に施こされ、熱的加熱によって数分間ないし2時間の間、硬化される。
【0008】
プラスチックからなる支持体上への耐磨耗性保護層を製造するための被覆材料は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19952040号明細書A1およびドイツ連邦共和国特許出願公開第10245725号明細書A1中に記載されている。前記刊行物中に開示された塗料は、少なくとも2層で、即ち所謂耐磨耗性層または基本層と被覆層で塗布されなければならず、前縮合されなければならず、引続き少なくとも部分的に硬化されなければならない。前縮合のための時間は、縮合促進剤の添加によって短縮されることができる。前記層から形成された被覆の硬化のために、130℃の温度で少なくとも30分間の時間が必要とされる。
【0009】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第4011045号明細書A1には、耐磨耗性塗料の製造が記載されており、この場合この塗料は、市場で入手可能な光開始剤が添加される。この塗料は、プラスチック支持体上への塗布後に熱的に硬化されてもよいし、UV光での照射によって硬化されてもよい。この光化学的処理によって、120秒間の短い硬化時間が達成される。
【0010】
前記の全ての刊行物には、被覆または塗料の製造が前縮合の時間がかかる工程を含むことが共通している。公知技術のもう1つの欠点は、望ましい耐引掻性または耐磨耗性を達成させるために、被覆が15μmを上廻る厚さになるまで数回塗布されなければならないことにある。即ち、このような被覆のためには、被覆されたプラスチック表面が負荷可能または使用可能になるまで比較的高い時間的負担および費用的負担を掛けなければならない。2時間までである、硬化するための一般に長い時間は、公知技術水準において、単に、光開始剤の使用によって短縮され、この場合この光開始剤は、UV照射により硬化を生じる。公知の刊行物には、熱的に5分間までの時間で硬化しうる、ゾルゲル技術により形成される被覆または塗膜に関する情報は見出せない。
【0011】
本発明の課題は、公知技術水準の1つ以上の欠点を有しない、ポリマー表面上に耐引掻性および耐磨耗性の被覆を形成させる、公知技術水準と比較して改善された方法を提供することであった。
【0012】
この課題は、意外なことに、
a)
a1)一般式
【化1】

〔式中、Y(1)は、3−グリシジルオキシプロピル基であり、R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランと
a2)一般式
【化2】

〔式中、Y(2)は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピル基またはNH2(CH22NH(CH22NH(CH)3−基であり、R'1、R'2、R'3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとの少なくとも1つの反応生成物、
b)少なくとも1つの無機充填剤、
c)85℃以下の温度の沸点を有する溶剤、
d)水および
e)無機酸または有機酸から選択された触媒を含有する組成物によって解決される。
【0013】
即ち、本発明の対象は、
a)
a1)一般式
【化3】

〔式中、Y(1)は、3−グリシジルオキシプロピル基であり、R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランと
a2)一般式
【化4】

〔式中、Y(2)は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピル基またはNH2(CH22NH(CH22NH(CH)3−基であり、R'1、R'2、R'3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとの少なくとも1つの反応生成物、
b)少なくとも1つの無機充填剤、
c)85℃以下の温度の沸点を有する溶剤、
d)水および
e)無機酸または有機酸から選択された触媒を含有する組成物である。
【0014】
更に、本発明の対象は、本発明による組成物をポリマー表面上に浸漬、塗布、ナイフ塗布、刷毛塗り、回転塗布、ローラ塗布または吹き付けによって施こし、そこで硬化させることによって特徴付けられる、ポリマー表面上に表面被覆を形成させる方法である。
【0015】
本発明の対象は、同様に、表面被覆が3N〜20Nの耐引掻性を有することによって特徴付けられる、珪素を有する表面被覆である。
【0016】
同様に、本発明の対象は、少なくとも1つのポリマー表面を有する製品であり、この場合このポリマー表面は、本発明による表面被覆を有する。
【0017】
更に、本発明の対象は、装置、計器類、器具、測定機器、衛生的装置、調理器具、家庭用器具、自動車用インテリア、コックピット、ディスプレイ、点検窓または家具を被覆するための本発明による製品の使用である。
【0018】
更に、本発明の対象は、板、外殻、成形品、ケーシング、ノブ、レバー、脚、ドア、蓋、床、側壁、グリップ、装飾用パッドまたは泥よけ部材としての本発明による製品の使用である。
【0019】
本発明の対象は、同様に、家庭用品、家庭用の作業道具類ならびにその一部分、器具ケースまたは器具用枠縁、食器、パーティー用器具セット、盆、鍋またはフライパン類、花瓶、壁掛け時計のカバー、ステレオ装置、家庭用機器のケーシング、クリスマスツリー用玉、腕用ベルト、装身具、ランプおよび照明器具、遊び、スポーツおよび自由時間のための装備品、機器および補助手段、庭用家具、庭用機器、公園または遊び場での座席の設備、医学的目的または患者のための機器、補助手段および装置、めがねフレーム、病院での装置またはその一部分としての本発明による製品の使用である。
【0020】
本発明の方法の利点は、本発明による表面被覆がプラスチック表面またはポリマーフィルム上で150℃の温度で単に1分間で硬化することにある。このような表面またはフィルムをRoll to Rollプロセス、ベルト装置中または他の連続的方法で被覆する場合には、本発明による被覆のための公知技術水準と比較して短い時間のために、単位時間当り本質的によりいっそう高い通過速度または生産量を実現させることができ、ひいては抗議技術水準と比較して生成物のための製造費用を明らかに減少させることができる。
【0021】
更に、本発明の方法の利点は、亀裂がなく間隙がない表面被覆を得るために、表面被覆を単に1回だけ施こす必要があることにある。
【0022】
亀裂がない表面被覆とは、本発明の範囲内で、倍率10000倍での表面被覆の表面の走査電子顕微鏡(REM)画像で亀裂を全く確認することができない表面被覆であり、この場合には、この表面での10個所の異なる位置で判断される。
【0023】
本発明による表面被覆は、公知技術水準と比較して明らかに僅かな、最大5μmの厚さを有する。それによって、本発明の他の利点として常用の被覆よりも表面被覆に対する僅かな材料使用量が明らかとなり、したがって公知技術水準と比較してさらに費用の節約が達成されうる。
【0024】
同様に、本発明の方法の利点は、本発明方法により被覆されるポリマーの熱的溶接可能性が本発明による表面被覆によって損なわれないことにある。
【0025】
本発明の方法は、本発明による表面被覆に対するマーテスト(Mar Test、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力の試験)は、公知技術水準に記載の被覆と比較して本質的に良好な結果を生じるといる他の利点を有する。本発明方法により本発明による表面被覆が施こされる印刷されたポリ塩化ビニル(PVC)フィルムの場合、印刷は、マーテスト(Mar Test、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力の試験)により使用される20Nの力になるまで損傷なしにそのままである。印刷されたPVCフィルム上に公知技術水準により施こされた被覆の場合には、既に2.5Nを上廻る力で印刷の損傷を生じる。
【0026】
次に、本発明による組成物および本発明による方法は、例示的に記載されるが、その権利範囲が特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載から明らかである本発明は、実施例によって制限されるものではない。特許請求の範囲それ自体も本発明の開示内容に含まれる。以下、本明細書中で記載範囲または好ましい範囲を記載する場合には、この範囲内にある理論的に可能な全ての部分的な記載範囲は、本発明の開示内容に属するが、これは、よりいっそう明瞭であるという理由から明示されていない。
【0027】
本発明による組成物は、該組成物が
a)
a1)一般式
【化5】

〔式中、Y(1)は、3−グリシジルオキシプロピル基であり、R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランと
a2)一般式
【化6】

〔式中、Y(2)は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピル基またはNH2(CH22NH(CH22NH(CH)3−基であり、R'1、R'2、R'3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとの少なくとも1つの反応生成物、
b)少なくとも1つの無機充填剤、
c)85℃以下の温度の沸点を有する溶剤、
d)水および
e)無機酸または有機酸から選択された触媒を含有することを示す。
【0028】
アルキルR1、R2、R3および/またはR'1、R'2、R'3は、本発明による組成物中で有利に少なくとも対で同一であってよい。本発明による組成物において、アルキル基としてメチル基および/またはエチル基は、特に好ましい。
【0029】
好ましい組成物は、成分a)に記載の反応生成物がジアミノアルキルアルコキシシランおよび/またはトリアミノアルキルアルコキシシランを基礎とするものである。
【0030】
本発明による組成物の成分b)は、有利にSiO2、TiO2、ZnO、Al23、BaSO4、CeO2、ZrO2またはこれらの充填剤からなる混合物を含む。更に、有利には、本発明による組成物中の無機充填剤は、SiO2、TiO2、ZnOまたはこれらの充填剤の混合物から選択されてよい。殊に有利には、本発明による組成物の成分b)は、無機充填剤として、Degussa AG, Rodenbacher Chaussee 4, 63457 Hanau-Wolfgang、から入手可能なAerosil(登録商標)R7200、R8200、R9200および/またはR812Sを含むことができる。
【0031】
更に、本発明による組成物の成分b)が10〜200nm、有利に20〜180nm、さらに有利に30〜150nm、さらに好ましくは50〜135nm、特に有利に75〜120nm、さらに特に有利に90〜110nmの平均粒度d50%を有する粒子を含有することは、好ましい。
【0032】
特に、この組成物は、無機充填剤としてSiO2、TiO2、ZrO2の粒子または前記粒子の混合物を記載された粒度で含有する。
【0033】
更に、本発明による組成物の成分b)が凝集されていてもよいし、凝集されていなくともよい粒子を含有することは、好ましい。特に有利には、粒子は、本発明による組成物の成分b)中で凝集されていてよい。更に、この粒子がAerosil(登録商標)R7200、R8200、R9200および/またはR812Sを含むかまたはAerosil(登録商標)R7200、R8200、R9200および/またはR812Sであることは、好ましい。
【0034】
本発明による組成物の成分c)は、一般式Cn2n+1OH〔式中、nは1〜4である〕で示される一連のアルコールまたはこれらのアルコールの混合物から選択されてもよいし、アセトン、メチルエチルケトンから選ばれたケトンまたは該ケトンの混合物から選択されてもよい。好ましくは、本発明による組成物の成分c)は、メチルエチルケトン(MEK)を含むことができる。特に、本発明による組成物の成分c)は、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールまたはこれらのアルコールの混合物から選択されている。殊に有利には、本発明による組成物の成分c)は、エタノールである。
【0035】
本発明による組成物の成分c)が最大85℃の沸点を有することは、特に好ましい。
【0036】
本発明による組成物の成分e)は、有利に硝酸水溶液から選択されていてよい。好ましくは、成分e)は、硝酸を0.5〜1質量%、特に有利に0.6〜0.9質量%、殊に有利に0.65〜0.75質量%の濃度で含有することができる。
【0037】
更に、本発明による組成物が他のシラン
【化7】

〔式中、Y(3)は、フルオロ基、フルオロアルキル基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基から選択されており、R''1、R''2、R''3は、1〜6個の炭素原子を有する同一または異なるアルキル基である〕で示される少なくとも1つの反応生成物であってよい他の成分a3)を含有することは、好ましい。好ましくは、前記成分a3)のアルキル基R''1、R''2、R''3は、少なくとも対で同一であることができる。本発明による組成物において、アルキル基としてメチル基およびエチル基は、特に好ましい。
【0038】
ポリマー表面上に表面被覆を形成させる本発明による方法は、本発明による組成物をポリマー表面上に浸漬、塗布、ナイフ塗布、刷毛塗り、回転塗布、ローラ塗布または吹き付けによって施こし、そこで硬化させることを示す。
【0039】
好ましくは、本発明による方法において、本発明による組成物は、1回でポリマー表面上に施こされ、そこで硬化される。更に、好ましくは、本発明による方法において、本発明による組成物は、塗布、回転塗布または吹き付けによってポリマー表面上に施こされ、そこで硬化される。
【0040】
本発明による組成物は、本発明による方法において、特に90℃〜150℃の温度、特に有利に100〜150℃の温度、さらに特に有利に110〜150℃、殊に有利に130〜150℃の温度に加熱されることができ、それによって本発明による組成物は、硬化させることができる。
【0041】
本発明による方法において、本発明による組成物が、赤外線での照射によって、有利に熱的に、さらに有利に炉内で、特に有利に熱風の吹込によって硬化されることは、特に好ましい。
【0042】
更に、本発明による方法において、本発明による組成物が1〜300秒間加熱されることによって硬化されることは、好ましい。好ましくは、本発明による組成物は、2〜250秒間、さらに有利に5〜200秒間、さらに有利に10〜150秒間、特に有利に20〜120秒間、殊に有利に30〜90秒間の加熱によって本発明による方法により硬化されることができる。
【0043】
前記状況での本発明による組成物への成分の混入は、以下、攪拌、振盪または超音波フィンガー(Ultraschallfinger)による分散である。
【0044】
本発明による方法において、本発明による組成物に成分a1)を5〜40質量%、有利に10〜25質量%の量で、成分a2)を5〜50質量%、有利に10〜30質量%の量で、成分b)を2〜20質量%の量、有利に2.5〜20質量%の量で、成分c)を20〜60質量%、有利に30〜50質量%の量で、成分d)を0.5〜5質量%、有利に1〜3質量%の量で、成分e)を0.02〜0.5質量%、有利に0.03〜0.3質量%の量で混入することは、好ましく、この場合この量の記載は、それぞれ組成物に対するものであり、但し、質量分の総和は、100%となる。
【0045】
本発明による組成物の硬化後に特に耐引掻性および耐摩耗性の表面被覆を得るために、本発明による方法において、成分a1)およびa2)を本発明による組成物に1:3〜3:1のモル比で混入することは、好ましい。特に有利には、成分a1)およびa2)は、本発明による組成物に1.5:2.5〜2.5:1.5のモル比、特に有利に1:2〜2:1のモル比で混入されることができる。本発明による方法において、この組成物を引続き1秒間〜2分間、有利に30秒間〜1分間加熱し、それによってこの組成物を硬化させることができることは、特に好ましい。
【0046】
更に、本発明による方法において、成分a3)を0.5〜10質量%の量で、この場合この量の記載は、組成物に対するものであり、但し、成分a1)、a2)、a3)およびb)〜e)の全体の割合の総和は、100%であるものとし、本発明による組成物に混入することは、好ましい。
【0047】
更に、本発明による方法において、他の成分f)としてメラミン樹脂、アクリレートから選択される塗料結合剤またはこれらの塗料結合剤の混合物を、有利に0.001〜15質量%の量、特に有利に2〜10質量%の量、殊に有利に5〜8質量%の量で、および/またはg)エポキシ樹脂を、有利に0.001〜15質量%の量、特に有利に2〜10質量%の量、殊に有利に5〜8質量%の量で、この場合量の記載は、それぞれ組成物に対するものであり、但し、成分a)〜g)の質量%の割合の総和は、100%であるものとし、本発明による組成物に混入することは、好ましい。
【0048】
更に、本発明による方法において、もう1つの成分h)として、酸化ジルコニウム、酸化セリウムまたは二酸化チタン、またはこれら無機吸収剤の混合物から選択された無機UV吸収剤、および/またはヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン、HALS安定剤、またはこれらの有機吸収剤の混合物から選択された有機UV吸収剤を本発明による組成物に混入し、表面上に施こされた本発明による組成物をUV線で処理することは、好ましい。
【0049】
HALS安定剤は、この状況に対して以下、立体障害アミンである。本発明による方法において、有利にCiba社から入手可能なTinuvin 123、またはGreat Lakes Chemical Corporation社から入手可能なLowilite 94、または前記安定剤の混合物から選択されるHALS安定剤を使用することができる。
【0050】
本発明による方法において、本発明による組成物に成分b)として成分h)を混入することは、好ましい。
【0051】
更に、本発明による方法において、本発明による組成物に最初に成分a1)およびa2)を混入し、引続き成分b)〜e)を混入することは、好ましい。特に有利には、本発明による方法において、成分a1)およびa2)を本発明による組成物に攪拌または振盪によって混入することができる。更に、特に有利には、本発明による方法において、成分a)〜e)は、攪拌によって本発明による組成物に混入することができる。更に、特に有利には、本発明による方法において、最初に成分h)を成分c)中に溶解しおよび/または分散させ、この溶液および/または分散液を本発明による組成物に混入し、その後に成分a1)、a2)、b)、d)およびe)を本発明による組成物に混入することは、特に好ましい。本発明による方法において、最初に成分b)を成分c)中に溶解しおよび/または分散させ、本発明による組成物に成分a1)、d)およびe)を混入し、次にb)およびc)から得られた溶液および/または分散液を混入し、引続き成分a2)を混入することは、殊に有利である。
【0052】
更に、顕著な本発明による方法において、成分h)は、0.5〜5質量%の量、有利に1〜4質量%の量、特に有利に2〜3質量%の量で、この場合この量の記載は、組成物に対するものであり、但し、成分a)〜h)の質量の割合の総和は、100%であるものとし、本発明による組成物中に含有されていてよい。
【0053】
本発明による方法で、表面被覆、殊に本発明による表面被覆は、得ることができる。
【0054】
本発明による珪素を有する表面被覆は、この表面被覆が3N〜20Nの耐引掻性を有することを示す。特に、本発明による表面被覆は、6N〜20N、有利に8N〜20N、特に有利に10N〜20N、さらに特に有利に12N〜20N、殊に有利に14N〜20Nの耐引掻性を有することができる。
【0055】
この表面被覆は、特に0.1〜0.5質量%の耐摩耗性、特に有利に0.2〜0.4質量%の耐摩耗性を有する。
【0056】
本発明による表面被覆は、有利に1〜10μmの層厚、さらに有利に1.5〜9μmの層厚、特に有利に2〜8μm、さらに特に有利に2.5〜7μm、殊に有利に3〜5μmの層厚を有することができる。
【0057】
本発明による表面被覆は、有利に、この表面被覆が無機充填剤を粒子の形で有し、この粒子は、本発明による表面被覆によって占有された体積で均一な分布を有し、この場合この分布は、本発明による表面被覆による区間によって得られる表面に対する10000倍の倍率で走査電子顕微鏡(REM)画像によって測定された。
【0058】
本発明による表面被覆は、有利に0.5〜10%、有利に2〜7.5%、特に有利に3〜6%の伸縮性を有することができる。伸縮性は、本発明の範囲内で、百分率での倍率の長さであり、この長さについては、本発明による表面被覆を有する材料が、前記表面被覆の表面内にある任意であると考えられる直線に沿って伸びることができ、この場合本発明による表面被覆は、亀裂を有することがなく、これは、本発明による表面被覆が伸び後に亀裂なしのままであることと同じことを意味する。
【0059】
本発明による表面被覆は、有利に熱的溶接可能性を有することができる。熱的溶接可能な表面被覆とは、本発明の範囲内で、本発明による表面被覆を有する2つのポリマーフィルムの熱的溶接後に熱的溶接の継ぎ目に沿って亀裂自由度の定義の範囲内で亀裂がない表面被覆である。1つの好ましい実施態様において、熱的溶接の継目は、本発明による表面被覆の表面内に延在する。
【0060】
本発明による表面被覆は、本発明による方法により得ることができる。
【0061】
また、本発明の対象は、少なくとも1つのポリマー表面を有する製品であり、この場合このポリマー表面は、本発明による表面被覆を有する。
【0062】
この製品は、特にポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはこれらポリマー表面の組合せから選択されてよいポリマー表面を有することができる。
【0063】
本発明による製品は、装置、計器類、器具、測定機器、衛生的装置、調理器具、家庭用器具、自動車用インテリア、コックピット、ディスプレイ、点検窓または家具を被覆するために使用されてもよいし、このような製品であってもよい。
【0064】
更に、本発明による製品は、板、外殻、成形品、ケーシング、ノブ、レバー、脚、ドア、蓋、床、側壁、グリップ、装飾用パッドまたは泥よけ部材として使用されてもよいし、このような製品であってもよい。
【0065】
特に、本発明による製品は、家庭用品、家庭用の作業道具類ならびにその一部分、器具ケースまたは器具用枠縁、食器、パーティー用器具セット、盆、鍋またはフライパン類、花瓶、壁掛け時計のカバー、ステレオ装置、家庭用機器のケーシング、クリスマスツリー用玉、腕用ベルト、装身具、ランプおよび照明器具、遊び、スポーツおよび自由時間のための装備品、機器および補助手段、庭用家具、庭用機器、公園または遊び場での座席の設備、医学的目的または患者のための機器、補助手段および装置、めがねフレーム、病院での装置またはその一部分として使用されることができる。
【実施例】
【0066】
実施例1:
3−グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン5.6gを攪拌容器中に装入し、濃硝酸5mgおよび水0.495gを撹拌下に添加した。10分間の攪拌後、単相の溶液を得た。この溶液中に、先に超音波フィンガーによりメチルエチルケトン6.51g中に分散させたAerosil R8200 1.63gを添加した。引続き、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン4.78g(DAMO)を5分間で添加した。
【0067】
こうして得られた組成物を螺旋型ナイフ(Spiralrakel)により25μmの厚さにPVCフィルム上にナイフ塗布し、炉内で150℃の温度で1分間硬化させた。こうして硬化した層は、3μmの厚さを有していた。
【0068】
Erichsen GmbH社のマーテスター(Mar Tester、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力のテスター)型式435で測定したマーテスト(Mar Test、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力の試験)は、20Nの耐引掻性を生じた。
【0069】
耐摩耗性を、500gの載置質量のReibrad CS 10を有するテーバーアブレーザー(TaberAbraser)により、100回転後に測定した。100回転後、0.1質量%の質量損失を算出した。
【0070】
比較例1
3−グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン5.6gを攪拌容器中に装入し、濃硝酸5mgおよび水0.495gを撹拌下に添加した。10分間の攪拌後、単相の溶液を得た。この溶液中に、先に超音波フィンガーによりメチルエチルケトン6.51g中に分散させたAerosil R8200 1.63gを添加した。最後に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン4.75gを5分間で添加した。
【0071】
こうして得られた組成物を螺旋型ナイフ(Spiralrakel)により25μmの厚さにPVCフィルム上にナイフ塗布し、炉内で150℃の温度で2分間硬化させた。硬化した表面被覆は、3μmの厚さを有していた。
【0072】
Erichsen GmbH社のマーテスター(Mar Tester、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力のテスター)型式435で測定したマーテスト(Mar Test、即ち表面上の引っ掻き傷または擦れた印に抵抗する仕上げ能力の試験)は、5Nの耐引掻性を生じた。
【0073】
耐摩耗性を、500gの載置質量でReibrad CS 10を有するTABER INDUSTRIES社, 455 Bryant Street, North Tonawanda, New York 14120, USA, のテーバーアブレーザー(TaberAbraser)機器により、100回転後に1質量%であることを測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)
a1)一般式
【化1】

〔式中、Y(1)は、3−グリシジルオキシプロピル基であり、R1、R2、R3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランと
a2)一般式
【化2】

〔式中、Y(2)は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピル基またはNH2(CH22NH(CH22NH(CH)3−基であり、R'1、R'2、R'3は、1〜6個の炭素原子を有する同一かまたは異なるアルキル基である〕で示されるシランとの少なくとも1つの反応生成物、
b)少なくとも1つの無機充填剤、
c)85℃以下の温度の沸点を有する溶剤、
d)水および
e)無機酸または有機酸から選択された触媒を含有する組成物。
【請求項2】
1、R2、R3および/またはR'1、R'2、R'3は、少なくとも対で同一である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
無機充填剤がSiO2、TiO2、ZnO、Al23、BaSO4、CeO2、ZrO2またはこれらの充填剤からなる混合物から選択されている、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
無機充填剤が10〜200nmの粒度d50%を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
成分c)が、一般式Cn2n+1OH〔式中、nは1〜4である〕で示される一連のアルコールまたはこれらのアルコールの混合物から選択されていてもよいし、アセトン、メチルエチルケトンから選ばれたケトンまたは該ケトンの混合物から選択されていてもよい、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
成分c)が、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールまたはこれらのアルコールの混合物から選択されている、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
成分e)が硝酸水溶液から選択されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が他のシラン
【化3】

〔式中、Y(3)は、フルオロ基、フルオロアルキル基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基から選択されており、R''1、R''2、R''3は、1〜6個の炭素原子を有する同一または異なるアルキル基である〕で示される少なくとも1つの反応生成物である他の成分a3)を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
表面被覆をポリマー表面上に形成させる方法において、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物をポリマー表面上に浸漬、塗布、ナイフ塗布、刷毛塗り、回転塗布、ローラ塗布または吹き付けによって施こし、そこで硬化させることを特徴とする、表面被覆をポリマー表面上に形成させる方法。
【請求項10】
前記組成物に成分
a1)を5〜40質量%の量で、および
a2)を5〜50質量%の量で、および
b)を2〜20質量%の量で、および
c)を20〜60質量%の量で、および
d)を0.5〜5質量%の量で、および
e)を0.02〜0.5質量%の量で混入し、この場合この量の記載は、それぞれ組成物に対するものであり、但し、質量分の総和は、100%となるものとする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記組成物に成分a1)およびa2)を1:3〜3:1のモル比で混入する、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記組成物に成分a3)を0.5〜10質量%の量で混入し、この場合この量の記載は、組成物に対するものであり、但し、成分a1)、a2)、a3)およびb)〜e)の全体の割合の総和は、100%であるものする、請求項9から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物に他の成分
f)としてメラミン樹脂、アクリレートから選択される塗料結合剤またはこれらの塗料結合剤の混合物を、0.001〜15質量%の量で、および/または
g)エポキシ樹脂を、0.001〜15質量%の量で混入し、この場合この量の記載は、それぞれ組成物に対するものであり、但し、成分a)〜g)の質量%の割合の総和は、100%であるものとする、請求項9から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物を60℃〜150℃の温度に加熱し、それによって前記組成物を硬化させる、請求項9から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を加熱によって1〜300秒間硬化させる、請求項9から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物に、もう1つの成分h)として、酸化ジルコニウム、酸化セリウムまたは二酸化チタン、またはこれら無機吸収剤の混合物から選択された無機UV吸収剤、および/またはヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン、HALS安定剤、またはこれらの有機吸収剤の混合物から選択された有機UV吸収剤を混入し、表面上に施こされた組成物をUV線で処理する、請求項9から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
成分h)を0.5〜10質量%の量で含有させ、この場合この量の記載は、組成物に対するものであり、但し、成分a)〜h)の全体の割合の総和は、100%であるものする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
珪素を有する表面被覆において、該表面被覆が3N〜20Nの耐引掻性を有することを特徴とする、珪素を有する表面被覆。
【請求項19】
該表面被覆が0.1〜0.5質量%の耐磨耗性を有する、請求項18記載の表面被覆。
【請求項20】
該表面被覆が1〜10μmの層厚を有する、請求項18または19記載の表面被覆。
【請求項21】
該表面被覆が均一な分布を有する粒子の形で無機充填剤を有する、請求項18から20までのいずれか1項に記載の表面被覆。
【請求項22】
該表面被覆が0.5〜10%の1〜10μmの伸縮性を有する、請求項18から21までのいずれか1項に記載の表面被覆。
【請求項23】
該表面被覆が熱的溶接可能性を有する、請求項18から22までのいずれか1項に記載の表面被覆。
【請求項24】
請求項9から17までのいずれか1項に記載の方法で得られる、請求項18から23までのいずれか1項に記載の表面被覆。
【請求項25】
請求項18から24までのいずれか1項に記載の表面被覆を有する少なくとも1つのポリマー表面を有する製品。
【請求項26】
ポリマー表面がPVC、PET、PE、PC、PMMAまたはこれらのポリマー表面の組合せから選択されている、請求項25記載の製品。
【請求項27】
装置、計器類、器具、測定機器、衛生的装置、調理器具、家庭用器具、自動車用インテリア、コックピット、ディスプレイ、点検窓または家具を被覆するための請求項25または26記載の製品の使用。
【請求項28】
板、外殻、成形品、ケーシング、ノブ、レバー、脚、ドア、蓋、床、側壁、グリップ、装飾用パッドまたは泥よけ部材としての請求項25または26記載の製品の使用。
【請求項29】
家庭用品、家庭用の作業道具類ならびにその一部分、器具ケースまたは器具用枠縁、食器、パーティー用器具セット、盆、鍋またはフライパン類、花瓶、壁掛け時計のカバー、ステレオ装置、家庭用機器のケーシング、クリスマスツリー用玉、腕用ベルト、装身具、ランプおよび照明器具、遊び、スポーツおよび自由時間のための装備品、機器および補助手段、庭用家具、庭用機器、公園または遊び場での座席の設備、医学的目的または患者のための機器、補助手段および装置、めがねフレーム、病院での装置またはその一部分として請求項25または26記載の製品の使用。

【公表番号】特表2009−540073(P2009−540073A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514727(P2009−514727)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054461
【国際公開番号】WO2007/144235
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】