説明

ポリマー被覆カーボンナノチューブ近赤外線光起電デバイス

光起電デバイスは、二つの電極の間に電気的に接続されて配置された光活性領域を含み、その光活性領域は、略400nmから1400nmの範囲の光の吸収に対して励起子を生成する光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[米国政府の権利]
本発明は、米国空軍委託研究局(Office of Sponsored Research)、認可番号FA9550‐07‐1‐0364及びDAAB07‐01‐D‐G602、Army Night Vision and Electronic Sensors Directorate(CECOM)による政府の補助によりなされたものである。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国仮出願第61/049594号(2008年5月1日出願)及び米国仮出願第61/110220号(2008年10月31日出願)の合衆国法典第35編第119条(e)の利益を主張し、これらの開示内容は全体が本願に組み込まれる。
【0003】
本願は、有機半導体、カーボンナノチューブ、赤外光検出器及び光起電セルに関する。
【背景技術】
【0004】
オプトエレクトロニクスデバイスは、電磁放射の電子的な生成若しくは検出、又は環境電磁放射から電気を発生させるという物質の光学的及び電子的性質に基づくものである。
【0005】
感光性オプトエレクトロニクスデバイスは、電磁放射を電気信号又は電気に変換する。太陽電池(光起電(PV,photovoltaic)デバイスとも称される)は、特に電力を発生させるのに用いられるタイプの感光性オプトエレクトロニクスデバイスである。光伝導体セルは、吸収光による変化を検出するためにデバイスの抵抗をモニタリングする信号検出回路と組み合わせて用いられるタイプの感光性オプトエレクトロニクスデバイスである。光検出器(印加バイアス電圧を受け得る)は、その光検出器が電磁放射に晒された際に発生する電流を測定する電流検出回路と組み合わせて用いられるタイプの感光性オプトエレクトロニクスデバイスである。
【0006】
これら三つの種類の感光性オプトエレクトロニクスデバイスは、以下で定義されるような整流接合が存在するかどうかに従って、また、デバイスが外部印加電圧(バイアス又はバイアス電圧とも称される)で動作するのかどうかに従っても、区別され得る。光伝導体セルは、整流接合を有さず、一般的にはバイアスで動作する。PVデバイスは、少なくとも一つの整流接合を有し、バイアス無しで動作する。光検出器は、整流接合を有し得て、通常はバイアスで動作するが、常にという訳ではない。
【0007】
適切なエネルギーの電磁放射が有機半導体に入射すると、光子が吸収されて、励起分子状態が生じ得る。有機光伝導体では、励起分子状態は一般的に、“励起子”、つまり、準粒子として輸送される結合状態の電子‐正孔対であると考えられる。励起子は対再結合(“クエンチング”)の前に十分な寿命を有することができる。ここで、対再結合とは、もともとの電子及び正孔が互いに再結合することである(他の対の正孔又は電子と再結合することの逆である)。光電流を生じさせるために、励起子を形成している電子‐正孔は典型的には、整流接合において分離される。
【0008】
感光性デバイスの場合、整流接合は、光起電へテロ接合と称される。有機光起電へテロ接合のタイプには、ドナー物質とアクセプタ物質との界面に形成されるドナー‐アクセプタヘテロ結合と、光伝導体と金属との界面に形成されるショットキー障壁へテロ接合が含まれる。
【0009】
有機物に関して、“ドナー”及び“アクセプタ”との用語は、二つの接触しているが異なる有機物の最高被占分子軌道(“HOMO”,Highest Occupied Molecular Orbital)及び最低空分子軌道(“LUMO”,Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の相対的な位置を称する。他の物質に接触している或る一つの物質のHOMO及びLUMOエネルギー準位が低い場合、その物質はアクセプタである。他の物質に接触している或る一つの物質のHOMO及びLUMOエネルギー準位が高い場合、その物質はドナーである。外部バイアスが存在していないと、ドナー‐アクセプタ接合の電子はアクセプタ物質内に移動することをエネルギー的に好む。
【0010】
本願において、第一HOMO又はLUMOエネルギー準位は、その第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位に近い場合、第二HOMO又はLUMOエネルギー準位よりも“大きい”又は“高い”。より高いHOMOエネルギー準位は、真空準位に対してより小さな絶対エネルギーを有するイオン化ポテンシャル(“IP”,ionization potential)に対応する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、真空準位に対してより小さな絶対エネルギーを有する電子親和力(“EA”,electron affinity)に対応する。最上部に真空準位を有する従来のエネルギー準位ダイアグラムに対して、或る物質のLUMOエネルギー準位は、その同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも高い。
【0011】
物質内への光子の吸収が励起子を生成した後に、励起子は、接合界面において分離する。ドナー物質は正孔を輸送し、アクセプタ物質は電子を輸送する。
【0012】
有機半導体の顕著な特徴はキャリア移動度である。移動度は、電荷キャリアが電場に応答して伝導体中を移動できる容易さを測る。有機感光性デバイスに関して、高い電子移動度によって電子による伝導を優先的に行なう物質は、電子輸送物質と称され得る。高い正孔移動度によって正孔による伝導を優先的に行なう物質は、正孔輸送物質と称され得る。移動度及び/又はデバイス内での位置によって電子による伝導を優先的に行なう層は、電子輸送層(“ETL”,electron transport layer)と称され得る。移動度及び/又はデバイス内での位置によって正孔による伝導を優先的に行なう層は、正孔輸送層(“HTL”,hole transport layer)と称され得る。アクセプタ物質が電子輸送物質であり、ドナー物質が正孔輸送物質であることが好ましいが必須ではない。
【0013】
キャリア移動度並びに相対的なHOMO及びLUMO準位に基づいて、どのようにして二つの有機光伝導体を対にして光起電へテロ接合におけるドナー及びアクセプタとして作用させるかについては、当該分野において周知であり、ここでは述べない。
【0014】
本願において、“有機”との用語は、有機オプトエレクトロニクスデバイスを製造するのに用いることができるポリマー物質及び小分子有機物質を含む。“小分子”とは、ポリマーではないあらゆる有機物質のことを称するものであり、“小分子”が実際には極めて大きいものであり得る。小分子は、状況によっては繰り返しユニットを含み得る。例えば、代用として長鎖アルキル基を用いることは、分子を“小分子”クラスから除外するものではない。小分子は、ポリマー内に組み込まれ得て、例えば、ポリマー骨格に対するペンダント基としてや、骨格の一部としてである。また、小分子は、デンドリマーの主要部として機能し得て、そのデンドリマーはその主要部上に構成された一続きの化学シェルで構成される。デンドリマーの主要部は、蛍光性又は燐光性の小分子エミッターであり得る。デンドリマーは“小分子”であり得る。一般的に、小分子は、分子同士で同じである分子量の決められた化学式を有する一方、ポリマーは、分子同士で異なり得る分子量の決められた化学式を有する。本願において、“有機”は、ヒドロカルビル及びヘテロ原子置換ヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0015】
有機感光性デバイスは、光が吸収されて励起子を形成する少なくとも一つの光活性領域を備え、その励起子は後で電子と正孔に分離し得る。光活性領域は典型的に、ドナー‐アクセプタへテロ接合を備え、電磁放射を吸収して励起子を発生させる感光性デバイスの一部であり、その励起子は電流を発生させるために分離し得る。
【0016】
有機感光性デバイスは、EBLを含み得る。EBLは、Forrest外の特許文献1で説明されていて、そのEBLに関する開示内容は参照として本願に組み込まれる。EBLは(とりわけ)、励起子がドナー及び/又はアクセプタ物質の外に移動することを防止することによって、クエンチングを低減する。一般的に、EBLは、その励起子ブロック特性を、そこから励起子がブロックされる隣接する有機半導体のものよりも実質的に大きなLUMO‐HOMOエネルギーギャップを有することから引き出している。従って、閉じ込められた励起子は、エネルギー的観点からEBL中に存在することが許されない。EBLは励起子をブロックすることが望ましいが、EBLが全ての電荷をブロックすることは望ましくない。しかしながら、隣接するエネルギー準位の性質によって、EBLは、一方の符号の電荷キャリアをブロックし得る。設計によって、EBLは、他の二つの層(一般的には、有機感光性半導体層及び電極又は電荷移動層)の間に存在する。隣接する電極又は電荷移動層は、ここではカソード又はアノードのどちらかである。従って、デバイス中の所定の位置のEBL用の物質は、所望の符号のキャリアが、その電極又は電荷移動層への輸送を妨げられないように選択される。適切なエネルギー準位に揃えることによって、電荷移動に対する障壁が存在しないことが保証されて、直列抵抗の増大を防止する。
【0017】
物質の励起子ブロック特性は、そのHOMO‐LUMOエネルギーギャップの固有の特性ではないことは留意されたい。所定の物質が励起子ブロッカーとして作用するかどうかは、隣接する有機感光性物質の相対的なHOMO及びLUMOエネルギー準位、並びに、その物質のキャリア移動度及びキャリア伝導性に依存する。従って、励起子ブロッカーとしてのアイソレーションでの化合物の種類を、そうした化合物が使用されるデバイスを考慮せずに識別することは不可能である。しかしながら、当業者であれば、有機PVデバイスを構築するために選択された物質の組と共に用いられる際に、所定の物質が励起子ブロック層として機能するかどうかを識別することができる。EBLの更なる背景説明は、特許文献2として2008年1月3日に公開されたBarry P.Rand外の米国特許出願第11/810782号、及び非特許文献1に見出すことができ、これらは参照として本願に組み込まれる。
【0018】
“電極”及び“コンタクト”との用語は、光生成電流を外部回路に伝えるための、又は、バイアス電流又は電圧をデバイスに提供するための媒体を提供する層を指称するものとして、本願では相互可換に使用される。電極は、金属又は“金属代替物”で構成され得る。ここで、“金属”との用語は、一種の元素的に純粋な金属からなる物質と、二種以上の元素的に純粋な金属からなる物質である金属合金の両方を包含して用いられている。“金属代替物”との用語は、一般的な定義においては金属ではないが、伝導性等の金属的な性質を有する物質のことを称し、ドープされたワイドバンドギャップ半導体、縮退半導体、伝導性酸化物、伝導性ポリマー等が挙げられる。電極は、単一層又は多層(“化合物”電極)を備え得て、透明、半透明又は不透明であり得る。電極及び電極物質の例として、Bulovic外の特許文献3及びParthasarathy外の特許文献4に開示されているものが挙げられ、これらの文献それぞれの特徴は参照として本願に組み込まれる。本願において、層が“透明”であると言われるのは、その層が、関連する波長において環境電磁放射の少なくとも50%を透過する場合である。
【0019】
有機感光性デバイスの機能性構成要素は通常、非常に薄くて機械的に弱いので、デバイスは一般的に基板の表面上にアセンブリされる。基板は、所望の構造特性を提供する適切な基板であり得る。基板は、フレキシブル又はリジッドであり、平面状又は非平面状であり得る。基板は、透明、半透明又は不透明であり得る。リジッドなプラスチック又はガラスが好ましいリジッドな基板物質の例である。フレキシブルなプラスチック又は金属箔が好ましいフレキシブルな基板材料の例である。
【0020】
光活性領域に使用される有機ドナー及びアクセプタ物質は、有機金属化合物を含み得て、シクロ金属化有機金属化合物が挙げられる。本願において、“有機金属”との用語は一般的に当業者に理解されているようなものであり、また、例えば、非特許文献2に与えられるようなものである。
【0021】
有機層は、真空堆積、スピンコーティング、有機気相堆積、有機蒸気ジェット堆積、インクジェット印刷及び当該分野で知られている他の方法を用いて形成可能である。
【0022】
ドナー層及びアクセプタ層は、バイレイヤーにおいて会合し、平面状ヘテロ接合を形成する。ハイブリッド又は混合へテロ接合は、ドナー物質及びアクセプタ物質の混合物を備え、ドナー物質の層とアクセプタ物質の層との間に配置されている。理想的な光電流の場合、バルクヘテロ接合は、ドナー物質とアクセプタ物質との間に単一の連続的な界面を有する。しかしながら、実際のデバイスには典型的に複数の界面が存在する。混合へテロ接合及びバルクヘテロ接合は、複数の物質領域を有する結果として、複数のドナー‐アクセプタ界面を有し得る。逆タイプの物質で囲まれている領域(例えば、アクセプタ物質で囲まれたドナー物質領域)は電気的にアイソレートされ得て、そうした領域が光電流に寄与しなくなる。他の領域は、パーコレーション経路(連続的な光電流経路)によって接続され得て、そうした他の領域が光電流に寄与し得るようになる。混合へテロ接合とバルクへテロ接合との違いは、ドナー物質及びアクセプタ物質の間の相分離の程度による。混合へテロ接合では、相分離はほとんど又は全く存在しない(領域は非常に小さく、例えば、数ナノメートル未満である)一方、バルク接合では、顕著な相分離が存在する(例えば、数ナノメートルから100nmのサイズで領域を形成する)。アイソレート状態のカーボンナノチューブは、個々の領域として機能し、もし十分な濃度で存在すれば、パーコレーション経路を生じさせ得る。
【0023】
小分子混合へテロ接合は、例えば、真空堆積又は蒸着を利用したドナー物質及びアクセプタ物質の共堆積によって、形成され得る。小分子バルク接合は、例えば、制御成長、堆積後のアニーリングを伴う共堆積、又は溶液処理によって、形成され得る。ポリマー混合又はバルクへテロ接合は、例えば、ドナー物質及びアクセプタ物質のポリマーブレンの溶液処理によって、形成され得る。
【0024】
一般的に、平面状ヘテロ接合は、キャリア伝導に優れるが、励起子分離に優れない。混合層は、キャリア伝導に優れないが、励起子分離に優れる。そして、バルクへテロ接合は、キャリア伝導に優れ、励起子分離にも優れるが、物質の端部(“クルドサック”)における電荷の蓄積によって、効率が低下し得る。特に断らない限り、本願で開示される実施形態全体にわたって、平面状の、混合の、バルクの及びハイブリッドのへテロ接合は、ドナー‐アクセプタへテロ接合として相互可換に使用され得る。
【0025】
光活性領域は、ショットキー障壁へテロ接合の一部であり得て、そこで、光伝導層が、金属層とショットキーコンタクトを形成する。光伝導層がETLの場合には、高仕事関数の金属(金等)が使用され得る一方、光伝導層がHTLの場合には、低仕事関数の金属(アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)が使用され得る。ショットキー障壁セルでは、ショットキー障壁に伴う内蔵電場が、励起子中の電子及び正孔を引き離す。一般的に、この電場にアシストされた励起子分離は、ドナー‐アクセプタ界面における分離ほどは十分ではない。
【0026】
デバイスは、電力を消費又は貯蔵する抵抗負荷に接続され得る。デバイスが光検出器の場合、そのデバイスは、その光検出器が光に晒された際に発生させる電流を測定する電流検出回路に接続されていて、デバイスにバイアスを印加し得る(例えば、Forrest外の特許文献5(2005年5月26日公開)に説明されているように)。整流接合がデバイスから排除される場合(例えば、光活性領域として単一の光伝導体を使用する場合)、その結果物の構造は、光伝導体セルとして使用可能であり、この場合、デバイスは、光の吸収によるデバイスに対する抵抗の変化をモニタリングする信号検出回路に接続される。特に断らない限り、これらの構成及び変形のそれぞれが、本願で開示される図面及び実施形態のそれぞれにおけるデバイス用に使用可能である。
【0027】
また、有機感光性オプトエレクトロニクスデバイスは、透明な電荷移動層や、電極、電荷再結合領域を備え得る。電荷移動層は、有機又は無機であり得て、光伝導的に活性であり又は活性ではない。電荷移動層は電極と同様のものであるが、デバイスの外部の電気接続を有さず、電荷キャリアをオプトエレクトロニクスデバイスの一つのサブセクションから隣接するサブセクションへと伝えるのみである。電荷再結合領域は電荷移動層と同様のものであるが、オプトエレクトロニクスデバイスの隣接するサブセクション間の電子及び正孔の再結合を可能にする。電荷再結合領域は、ナノクラスター、ナノ粒子及び/又はナノロッドを備えた半透明の金属又は金属代替物の再結合中心部を含み得て、これらについては、例えば、Forrest外の特許文献6、Rand外の“Organic Photosensitive Devices”との名称の特許文献7(2006年2月16日公開)、Forrest外の“Stacked Organic Photosensitive Devices”との名称の特許文献8(2006年2月9日公開)に記載されており、各文献の再結合領域の物質及び構造の開示内容については参照として本願に組み込まれる。電荷再結合領域は、再結合中心部が埋め込まれる透明マトリクス層を含んでもよいし含まなくてもよい。電荷移動層、電極又は電荷再結合領域は、オプトエレクトロニクスデバイスのサブセクションのカソード及び/又はアノードとして作用し得る。電極又は電荷移動層は、ショットキーコンタクトとして作用し得る。
【0028】
有機感光性デバイスの分野の状況についての更なる背景説明(一般的な構成、性質、物質、特徴等を含む)については、Forrest外の特許文献9、特許文献6及び特許文献10並びにBulovic外の特許文献3の全文が参照として本願に組み込まれる。
【0029】
共役ポリマーとフラーレンとの間の光誘起電荷移動の1992年の発見(非特許文献3)は、光起電デバイス及び光電デバイスにおけるフラーレンの使用可能性についての研究に大きな刺激を与えた。これが、ポリマー及びフラーレンの組み合わせを採用したいくつかの光起電システムの製造につながった。フラーレンは光酸化の影響を受け易いことがわかっている。多層カーボンナノチューブ‐共役ポリマー界面における光誘起電子移動の観測(非特許文献4)は、カーボンナノチューブ(CNT,carbon nanotube)、特に単層カーボンナノチューブ(SWNT,single−walled carbon nanotube)を光起電デバイスの電子アクセプタ物質として使用する試みに刺激を与えた。
【0030】
バルクヘテロ接合光起電セルの電子アクセプタとしてのCNTの最初に報告された使用は、SWNTとポリチオフェンのブレンドであり、光電流の二桁の増大が観測された(非特許文献5)。2005年に、1.5μm(0.8eV)の放射で照射されたアイソレート状態のSWNTにおける光起電効果が観測された(非特許文献6)。
【0031】
Kymakisの非特許文献7には、ポリ(3‐オクチルチオフェン)ベースのポリマー光起電システムにおける電子アクセプタとしてのカーボンナノチューブの使用について記載されている。このシステムでは、ナノチューブは、電子アクセプタ及び電子伝導体として作用し、光電流は、略1%以上のCNT濃度において低下しており、Kymakisは、ナノチューブは光電流に寄与しないと結論付けている。
【0032】
Ajayan外の特許文献11は、光起電デバイスにおける電子輸送成分としてのSWNTの使用について記載されていて、共有結合有機色素が光応答成分として用いられている。最近になって、Mitra外は、C60‐有機半導体ヘテロ接合ベースの光起電デバイスにおいて、同じ様にSWNTを電子輸送成分として採用した(非特許文献8、非特許文献9)。これらのデバイスでは、電子アクセプタ及び電子伝導要素としてSWNTが採用されている。以前の研究者は、これらのデバイスにおける金属型SWNTが、正孔及び電子の再結合用の短絡経路を提供すると指摘していて、アイソレートされた半導体型SWNTを採用するとデバイスがより効率的になると考えていた(非特許文献10、非特許文献11)。しかしながら、こうした設計における半導体型SWNTの使用では、SWNTは、光生成励起子のソースとしてよりも、電子アクセプタ要素及び電子伝導要素としてのみ採用されている。既存のデバイス及び提案されているデバイスでは、半導体型SWNTの光電特性が活かされていない。
【0033】
現状では、SWNTを成長させるための合成方法では全て、構造パラメータ(長さ、直径、カイラル角)が異なり、その電子及び光学特性(伝導性、電気的バンドギャップ、光学的バンドギャップ)の異なるSWNTの不均一混合物が得られる(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)。現在まで報告されている全てのCNTベースの光起電デバイスでは、こうした混合物が採用されている。
【0034】
最近の進展として、ポリエチレンテレフタレート(PET,polyethylene terephthalate)、ガラス、ポリメチルメタクリレート(PMMA,polymethylmethacrylate)、シリコン等の多様な基板上のCNT薄膜の形成方法が挙げられる(非特許文献15)。本方法は、CNTマットの真空濾過生成を転写法と組み合わせたものであり、大面積、高均一性、高伝導性CNT膜の制御された堆積及びパターニングを可能にする。このような膜は、一般的に使用されている正孔収集電極物質であるインジウム錫酸化物(ITO,indium−tin oxide)(高価であり、ロール・ツー・ロール製造処理に未だ不適合である)を代替する可能性がある。
【0035】
カーボンナノチューブの性質は、チューブの直径及びねじれ具合に大きく影響される。整列したチューブとねじれを有するチューブとはどちらも、円周方向のエネルギー状態が所謂フェルミ点を通過するかどうかによって、金属的にも半導体的にもなる。フェルミ点において、価電子バンド及び伝導バンドが交わると、チューブの円周方向の伝導が許容される。直径及びカイラリティの正確な組み合わせを有するチューブは、チューブの長さ方向全体にわたるグリッド構造の周囲にフェルミ点の組を有する。こうしたチューブは、導電体同様の金属性を示す。直系及びカイラリティがフェルミ点の組を生じさせない場合、そのチューブは半導体的振る舞いを示す(非特許文献16)。
【0036】
フェルミ点のマッチアップに加えて、チューブのシリンダー形状及び直径は、量子状態がチューブ周囲に存在する経路にわたる電子輸送に影響を与える。直径の小さなチューブは、大きな円周方向バンドギャップを有し、利用可能なエネルギー状態の数が少ない。チューブの直径が大きくなると、エネルギー状態の数が増え、円周方向バンドギャップが減少する。一般的に、バンドギャップは、チューブの直径に反比例する。
【0037】
更に、電子の波動特性は、定在波がカーボンナノチューブ周囲の半径方向に設定可能なものである。これらの定在波、直径の小さなチューブにおける伝導状態の不足、及びグラファイトシートの単層の厚さが組み合わさって、チューブ周囲の電子の運動を禁止して、電子がチューブ軸に沿って輸送されるようになる。
【0038】
しかしながら、フェルミ点のマッチアップが存在する場合、電子の輸送は、軸方向の伝導に加えて、チューブ周囲でも生じ得て、電子の輸送の選択肢が増えて、金属的な伝導特性となる。チューブの直径が増大すると、より多くのエネルギー状態が、チューブ周囲に許容されて、これもまたバンドギャップを減少させる。従って、軸方向の伝導のみが許容される場合、チューブは半導体的振る舞いを示す。軸方向及び円周方向の伝導の両方が許容される場合、チューブは金属的伝導を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】米国特許第6451415号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0001144号明細書
【特許文献3】米国特許第6352777号明細書
【特許文献4】米国特許第6420031号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0110007号明細書
【特許文献6】米国特許第6657378号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0032529号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2006/0027802号明細書
【特許文献9】米国特許第6972431号明細書
【特許文献10】米国特許第6580027号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2006/0272701号明細書
【特許文献12】米国特許第7341774号明細書
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】Peumans外、“Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double−heterostructure photovoltaic diodes”、Applied Physics Letters、2000年、第76巻、p.2650−2652
【非特許文献2】Gary L.Miessler及びDonald A.Tarr著、“Inorganic Chemistry”、第2版、Prentice Hall、1999年、第13章
【非特許文献3】N.S.Sariciftci外、Proc.SPLE、1993年、第1852巻、p.297−307
【非特許文献4】H.Ago外、Phys.Rev.B、2000年、第61巻、p.2286
【非特許文献5】E.Kymakis、G.A.J.Amaratunga、Appl.Phys.Lett.、2002年、第80巻、p.112
【非特許文献6】J.U.Li、Appl.Phys.Lett.、2005年、第87巻、p.073101
【非特許文献7】E.Kymakis、G.Amaratunga、Rev.Adv.Mat.Sci.、2005年、第10巻、p.300−305
【非特許文献8】C.Li外、J.Mater.Chem.、2007年、第17巻、p.2406
【非特許文献9】C.Li、S.Mitra、Appl.Phys.Lett.、2007年、第91巻、p.253112
【非特許文献10】E.Kymakis外、J.Phys.D:Appl.Phys.、2006年、第39巻、p.1058−1062
【非特許文献11】M.Vignali外、(日付無し)、http://re.jrc.cec.eu.int/solarec/publications/paris_polymer.pdf
【非特許文献12】M.S.Arnold、A.A.Green、J.F.Hulvat外、Nature Nanotech.、2006年、第1巻、第1号、p.60
【非特許文献13】M.S.Arnold、S.I.Stupp、M.C.Hersam、Nano Letters、2005年、第5巻、第4号、p.713
【非特許文献14】R.H.Baughman、A.A.Zakhidov、W.A.de Heer、Science、2002年、第297巻、第5582号、p.787
【非特許文献15】Y.Zhou、L.Hu、G.Griiner、Appl.Phys.Lett.、2006年、第88巻、p.123109
【非特許文献16】P.Avouris、Chemical Physics、2002年、第281巻、p.429−445
【非特許文献17】R.B.Weisman外、NANO LETT、2003年、第3巻
【非特許文献18】V.Barone、J.E.Peralta、J.Uddin外、“Screened exchange hybrid density−functional study of the work function of pristine and doped single‐walled carbon nanotubes”、Journal of Chemical Physics、2006年、第124巻、第2号
【非特許文献19】P.C.Collins、M.S.Arnold、P.Avouris、Science、2001年、第292巻、第5517号、p.706
【非特許文献20】G.Y.Zhang、P.F.Qi、X.R.Wang外、Science、2006年、第314巻、第5801号、p.974
【非特許文献21】H.Q.Peng、N.T.Alvaret、C.Kittrell外、J.Amer.Chem.Soc.、2006年、第128巻、第26号、p.8396
【非特許文献22】M.Zheng、A.Jagota、M.S.Strano外、Science、2003年、第302巻、第5650号、p.1545−1548
【非特許文献23】Spataru外、“Excitonic effects and optical spectra of single‐walled carbon nanotubes”、Physical Review Letters、2004年、第92巻、第7号
【非特許文献24】Perebeinos外、“Scaling of excitons in carbon nanotubes”、Physical Review Letters、2004年、第92巻、第25号、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
既存の有機光起電デバイスの出力は未だ、従来のシリコンベースの光起電デバイスに匹敵するものではない。効率が十分ではないことに加えて、他の薄膜方法と同様に、これらのデバイスは、空気に晒された際の酸化的劣化の影響を受け易いので、封止の必要がある。シリコン太陽電池のコスト及び脆弱性を考えると、また、簡単に製造でき安価な有機等価物の可能性を考えると、より効率的でより安定な有機光起電デバイス及び有機光電デバイスが必要とされている。また、IR(赤外線)及びNIR(近赤外線)に対する有機物質の感度の悪さのせいで、IR及びNIR放射で照射された際に効率的に励起子を生成することができる有機光起電物質が必要とされている。
【0042】
半導体型CNTは、その強力な近赤外線バンドギャップ吸収性にも関わらず、光生成電子‐正孔対の強力な結合エネルギーのせいで、オプトエレクトロニクスデバイスの光学吸収成分としてのインパクトは限られたものにすぎなかった。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本願は、半導体型カーボンナノチューブが有機光伝導体、つまり集光成分として作用する光電デバイス及び光起電デバイスを提供する。特に、本願は、薄膜デバイス構造における赤外線放射の検出用の物質としてのカーボンナノチューブの使用を開示する。こうしたデバイスでは、半導体型カーボンナノチューブが電子ドナーとして作用して、光生成電荷の分離が、半導体型カーボンナノチューブと有機半導体との間の界面において生じる。半導体型カーボンナノチューブの直径及び光学バンドギャップの適切な選択を用いて、スペクトルの可視光から赤外線領域まで光起電デバイスの応答度を変更することができる。代表的な物質、デバイス構造、その構造の製造手順について、ここで概説する。
【0044】
本願の実施形態によると、光起電デバイスの光活性領域中の有機アクセプタ層及びドナー層の少なくとも一方又は両方が、カーボンナノチューブを含む。本願は、大面積オプトエレクトロニクスデバイスの光学活性成分としてのカーボンナノチューブの使用を開示する。
【0045】
一実施形態では、光起電デバイスは、第一の電極と、第二の電極と、第一の電極と第二の電極との間に電気的に接続されて配置された光活性領域とを備える。光活性領域は更に、第一の電極の上方に形成されたドナー層と、ドナー層の上方に形成されたアクセプタ層とを備え、ドナー層及びアクセプタ層がドナー‐アクセプタヘテロ接合を形成するようになり、アクセプタ層又はドナー層のいずれかがポリマー被覆カーボンナノチューブの層を備える。
【0046】
他の実施形態では、光起電デバイスは、第一の電極と、その第一の電極の上方に形成されたドナー層と、そのドナー層の上方に形成されたバルクヘテロ接合とを備え、そのバルクへテロ接合は、有機電子アクセプタ内に配置されたポリマー被覆カーボンナノチューブを備える。アクセプタ層がバルクへテロ結合の上方に形成され、第二の電極がアクセプタ層の上方に形成される。アクセプタ層又はドナー層のいずれかが、ポリマー被覆カーボンナノチューブの層を備えることができる。
【0047】
本発明者は、CNT中の励起子(束縛された電子‐正孔対)が、CNTと蒸着C60等の電子アクセプタとの界面によって効率的に分離可能であることを発見した。二つのフラーレンベースの物質が、ドナー‐アクセプタへテロ結合を形成し、そのバンド/軌道のずれは、CNTから蒸着C60への電子移動をもたらすのに十分なものである。有機半導体の可視光吸収度及びCNTの近赤外線吸収度の組み合わせによって、400〜1400nmの波長の電磁照射に対する広帯域感度がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】本願の平面状へテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図1B】本願の平面状へテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図2A】本願のバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図2B】本願のバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図2C】本願のバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図2D】本願のバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図3A】本願の更なるバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図3B】本願の更なるバルクへテロ接合の実施形態の構造を示す。
【図4】PTCDA(3,4,9,10‐ペリレン‐テトラカルボキシル‐ビス‐二無水物)上へのカーボンナノチューブ膜の堆積によって形成された平面状ヘテロ接合を示す。
【図5】暗状態での及び模擬太陽近赤外線放射(NIR)で照射された際のヘテロ接合の電流‐電圧曲線を示す。
【図6】異なる吸収波長に対するCNTの伝導バンド(CB)及び価電子バンド(VB)エネルギー並びに許容可能なドナー又はアクセプタに対して必要なエネルギーを示す。
【図7】650nmで励起されたトルエン中に懸濁されたポリマー被覆カーボンナノチューブのフォトルミネッセンスを示す。
【図8】トルエン溶液からのドクターブレード法によるCNT及びPFOを含む厚膜のフォトルミネッセンス強度を示す。
【図9A】MDMO‐PPV対ナノチューブの重量比が1:1であるポリマー被覆カーボンナノチューブ/C60ヘテロ接合ダイオードの構造の一例を示す。
【図9B】図9Aのデバイスの電流‐電圧特性を示す。
【図9C】図9Aのデバイスのスペクトル分解光応答度を示す。
【図9D】図9Aのデバイスの内部量子効率(IQE)及びポリマー被覆カーボンナノチューブの吸収度を示す。
【図10A】本願の一実施形態によるカーボンナノチューブ/C60ヘテロ接合に対する概略的なエネルギー準位ダイアグラムである。
【図10B】対照用デバイスの概略的なエネルギー準位ダイアグラムである。
【図10C】対照用デバイスの概略的なエネルギー準位ダイアグラムである。
【図11A】MDMO‐PPV対ナノチューブの重量比が1:1であるポリマー被覆カーボンナノチューブ/C60ヘテロ接合ダイオードの構造の他の例を示す。
【図11B】図11Aのデバイスの電流‐電圧特性を示す。
【図11C】図11Aのデバイスのスペクトル分解光応答度を示す。
【図11D】図11Aのデバイスの内部量子効率(IQE)及びポリマー被覆カーボンナノチューブの吸収度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
添付図面に示される特徴は、概略的に例示されているものであり、縮尺通りに描かれたものではなく、正確な位置関係で示されたものでもない。同様の参照符号は同様の要素を示す。
【0050】
好ましい実施形態の以下の詳細な説明において、本願の一部をなし例示目的で特定の実施形態を示し本発明が実施され得る添付図面を参照する。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用でき、また、構造の変更を行うことができることは理解されたい。
【0051】
本願の一実施形態による有機感光性オプトエレクトロニクスデバイスを用いて、例えば、入射電磁放射、特にIR及びNIRスペクトルの電磁放射を検出することができ、又は、電力を発生させる太陽電池として用いることができる。本発明の実施形態は、アノードと、カソードと、アノード及びカソードの間の光活性領域とを備え得て、半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブ及び有機半導体が光活性領域内部にヘテロ接合を形成する。光活性領域は、電磁放射を吸収して励起子を生成する感光性デバイスの一部であり、その励起子は電流を発生させるために分離し得る。また、有機感光性オプトエレクトロニクスデバイスは、少なくとも一つの透明電極を含み得て、入射放射がデバイスによって吸収されることを可能にする。
【0052】
カーボンナノチューブで形成された効率的な感光性オプトエレクトロニクスデバイスは、カーボンナノチューブによる光子の吸収によって生じる励起子が自由電子及び自由正孔に分裂するような適切なエネルギーの化合物を含む。励起子を効率的に分裂させるため、ドナー物質のHOMOは、カーボンナノチューブベースのアクセプタの価電子バンド(VB)よりも高く(負の値が小さく)なければならない。逆に、アクセプタ物質のLUMOは、カーボンナノチューブベースのドナーの伝導バンド(CB)よりも低く(負の値が大きく)なければならない。CB及びVBのエネルギー並びに許容可能なドナー又はアクセプタに必要なエネルギーは図6に示されている(非特許文献17を参照)。
【0053】
本願において、“整流”との用語は、特に、界面が非対称な伝導特性を有すること、つまり、界面が、好ましくは一方向の電荷輸送をサポートすることを意味する。“半導体”との用語は、熱的又は電磁的な励起によって電荷キャリアが誘起された際に電気を伝えることができる物質を意味する。“光伝導”との用語は、一般的に、電磁放射エネルギーが吸収されることによって、電荷キャリアの励起エネルギーに変換されて、キャリアが物質中で電荷を伝える(つまり、輸送する)プロセスに関する。“光伝導体”との用語は、その電磁放射を吸収して電荷キャリアを生じさせる特性のために利用される半導体のことを称する。本願において、“頂部”は基板から最も離れていることを意味する一方、“底部”は基板に最も近いことを意味する。第一の層が、第二の層に“物理的に接触している”又は“真上”に存在していると特に断らない限りは、介在する層が存在し得る(例えば、第一の層が第二の層の“上”又は“上方”に存在する場合)。しかしながら、このことは、表面処理(例えば、水素プラズマへの第一の層の露出)を除外するものではない。
【0054】
図1A及び図1Bを参照すると、光起電デバイス100A及び100Bに対する二つの平面状ヘテロ接合の実施形態の構造が示されている。光起電デバイス100Aは、伝導アノード層110Aと、そのアノード層の上方に形成された電子ドナー層120Aと、そのドナー層120Aの上方に形成された電子アクセプタ層130Aと、その電子アクセプタ層130Aの上方に形成された伝導カソード層150Aとを備える。本実施形態では、ポリマー被覆カーボンナノチューブの薄膜が電子ドナー層120Aを形成する。平面状ヘテロ接合は、電子ドナー層120Aと電子アクセプタ層130Aとの間に形成される。電子ドナー層120A及び電子アクセプタ層130Aはデバイス100Aの光活性領域122Aを形成する。好ましくは、ポリマー被覆カーボンナノチューブ(PW‐CNT,polymer−wrapped carbon nanotube)は実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブ(PW‐SWNT,polymer−wrapped single‐wall carbon nanotube)である。PW‐SWNTが好ましいが、多層カーボンナノチューブを含むポリマー被覆カーボンナノチューブも、本願で開示される発明の範囲内にある。従って、本願で示される多様な実施形態において、PVデバイスに関してPW‐SWNTが言及されている場合、これらの実施形態は単に例であり、PW-CNTを一般的に用いポリマー被覆多層カーボンナノチューブを含む他の実施形態も本願開示の範囲内にある。
【0055】
PW‐CNTが電子ドナーとして使用される場合、電子アクセプタ層130Aを形成するのに適切な有機半導体として、−4.0eVのLUMOを有する蒸着C60、−4.1eVのLUMOを有する[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、−4.4eVのLUMOを有するF16‐CuPc、−4.0eVのLUMOを有するPTCBI(3,4,9,10ペリレンテトラカルボキシルビスベンズイミダゾール)、−4.7eVのLUMOを有するPTCDA(3,4,9,10ペリレン-テトラカルボキシル二無水物)、−4.5eVのLUMOを有するポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、3.9eVのLUMOを有するTCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、5.2eVのLUMOを有するF4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
電子アクセプタ層130A用の有機半導体は、電子を効率的にカソード150A又は電子輸送層に運ぶことができることが好ましい。電子アクセプタ層130A用に適した有機半導体は典型的に、カーボンナノチューブのLUMOよりも低いエネルギーのLUMOを有して、照射されたカーボンナノチューブ(好ましくはPW‐SWNT)からの電子移動が高速且つ不可逆的なものになる。
【0057】
半導体PW‐CNTと整流ヘテロ接合を形成することができる有機半導体は多様なものが存在し、光生成電荷の電荷分離及び電荷移動並びに光起電効果をもたらす。1eVの光学バンドギャップ及び0.5eVの励起子結合エネルギーを有するCNTに対して、予想されるHOMO‐LUMOバンドギャップ又は電気的バンドギャップは1.5eVである。p型ドーピングを考えて、仕事関数として4.6eVとすると(非特許文献18の計算を参照)、LUMO又は伝導バンドは真空に対して3.5eVに位置する一方、HOMO又は価電子バンドは真空から5.0eVに位置する。従って、半導体PW‐CNTは、電子アクセプタとしての蒸着C60と整流へテロ接合を形成する。
【0058】
上述のように、半導体型CNTの正確なバンドエネルギー準位は、直径、カイラル角、電気的バンドギャップ、光学バンドギャップ、局所的誘電環境、及びドーピングに依存する。従って、半導体型CNTは、他の有機半導体とのヘテロ接合において、そのナノチューブの構造及び有機半導体の性質に応じて、電子アクセプタ物質又は電子ドナー物質のいずれかとして作用することができる。小分子有機半導体に加えて、電子アクセプタ物質又は電子ドナー物質のいずれかとして伝導ポリマーを利用することもできる。
【0059】
図1Bに示される実施形態では、光起電デバイス100Bは、伝導アノード層110Bと、そのアノード層110Bの上方に形成された電子ドナー層120Bと、電子アクセプタ層130Bと、伝導カソード層150Bとを備える。本実施形態では、ポリマー被覆カーボンナノチューブの薄膜が電子アクセプタ層130Bを形成する。平面状ヘテロ接合が、電子ドナー層120Bと電子アクセプタ層130Bとの間に形成される。電子ドナー層120B及び電子アクセプタ層130Bは、デバイス100Bの光活性領域122Bを形成する。
【0060】
好ましくは、ポリマー被覆カーボンナノチューブは実質的に半導体PW‐SWNTである。カーボンナノチューブは単層又は多層であり得る。多層カーボンナノチューブは、チューブの同心状に配置された複数のグラファイト層を含む。一般的に、SWNTは、多層ナノチューブよりも優れた電気特性を示す。バルク量で市販されているSWNTは一般的に、高圧一酸化炭素(HiPCO(登録商標))プロセス(米国カリフォルニア州メンロパークのUnidymから入手可能なHiPCO(登録商標)ナノチューブ等)又はアーク放電プロセス(親水性カルボキシル基で終端された二つの開端を備えた純粋なアーク放電ナノチューブであるCarbon Solutions社製のP3ナノチューブ等)を用いて生成される。
【0061】
本願において、“実質的に半導体PW‐SWNT”とは、そのナノチューブの少なくとも80重量%が半導体型、つまり非金属型であるPW‐SWNTの割合のことを称する。伝導性ナノチューブの割合が減ると、光検出デバイスの光活性領域中のナノチューブ密度が増大し得る一方で、パーコレーション伝導経路の非常に低い確率が維持される。従って、好ましい実施形態では、ナノチューブの少なくとも90%が半導体型のものであり、より好ましい実施形態では、少なくとも95%が半導体型のものである。最も好ましい実施形態では、ナノチューブの少なくとも99%が半導体型のものである。
【0062】
典型的なCNT混合物では、本来的に、CNTの三分の一が金属型であり、残りの三分の二が半導体型であり、光学的及び電気的バンドギャップはおおまかには直径に反比例する。この不均一性は、金属型CNTの存在に附随する励起子クエンチング及び非整流電気経路のせいで、生成したままのCNT混合物から効率的な光起電太陽電池を製造する際の障害となる。分離(アイソレート)された半導体型カーボンナノチューブの用意が、効率的な有機半導体‐半導体型カーボンナノチューブヘテロ接合光起電太陽電池の生成には必要である。現在のところ、半導体型SWNTを分離する唯一の方法は、合成後の処理方法によるものである。
【0063】
現状では、半導体型CNTを豊富にする又は分離するためのこうした処理方法は、研究室規模でいくつか存在する。これらの方法として、“コンストラクティブ・ディストラクション”(非特許文献19)、単層薄膜中の金属型CNTの選択的エッチング(非特許文献20)、誘電泳動に基づいたフィールドフローフラクショネーション(非特許文献21)、DNA被覆CNTのアニオン交換クロマトグラフィ(非特許文献22)が挙げられる。しかしながら、こうした方法の多くの有効性(得られるCNTの半導体型の割合)は限られたものであるか、不明確なものであり、使いものになる量の半導体型CNTを生成するには実用的ではない大きな欠点がある。
【0064】
PW‐CNTが電子アクセプタとして用いられる場合、電子ドナー層120Bを形成するのに適切な有機半導体として、−4.97eVのHOMOを有するBTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン); Poly(2,5−bis(1,4,7,10‐tetraoxaundecyl)‐1,4‐phenylenevinylen))、−4.5eVのHOMOを有するポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、5.3eVのHOMOを有するCuPc(銅フタロシアニン)、5.4eVのHOMOを有するNPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、5.0eVのHOMOを有するペンタセン、5.4eVのHOMOを有するテトラセン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。電子ドナー層120B用の有機半導体は、正孔をアノード110Bに又は正孔輸送層に効率的に運ぶことができなくてはならない。電子ドナー層120Bに適した有機半導体は、カーボンナノチューブのHOMOよりも高いエネルギーのHOMOを有するものであり、照射されたCNTからの正孔輸送(照射されたCNTへの電子移動)が高速且つ不可逆的になることが好ましい。
【0065】
100A及び100Bの両方の実施形態において、オプションの励起子ブロック層140A、140Bを、光活性領域122A、122Bとカソード層150A、150Bの間に提供することができる。更に、オプションの励起子ブロック層115A、115Bを、光活性領域112A、112Bとアノード層110A、110Bとの間に提供することができる。また、アノード平坦化層を、アノードとドナーとの間に配置し得る。アノード平坦化層については、Forrest外の特許文献6で説明されていて、その特徴に関する記載は参照として本願に組み込まれる。
【0066】
〈ポリマー被覆〉
生成されたままのカーボンナノチューブは、高度に凝集化及びバンドル化している。効率的な光学吸収及び励起子分裂を得て、励起子クエンチングを防止するため、チューブのバンドル化を解く必要がある。これは既知のポリマー被覆プロセスを介して行われる。カーボンナノチューブは、ポリマー及び適切な溶媒の溶液中に入れられて、カーボンナノチューブを、高出力ホーンソニケータ(細胞ディスメンブレータ)を用いて分離する。適切なポリマー(特に、多様なポリ‐チオフェンポリマー、ポリ‐フェニレンビニレンポリマー、ポリ‐フルオレンポリマー誘導体)を用いると、ポリマーが、ポリマー上の可溶性側基で被覆して、可溶性のカーボンナノチューブ‐ポリマー錯体が得られる。ポリマー被覆の主な目的は、個々のナノチューブを懸濁することである。カーボンナノチューブとドナー‐アクセプタヘテロ接合を形成して励起子の分裂を促進するポリマーは、PW‐CNTとドナー‐アクセプタへテロ接合を形成することができる他の物質がデバイス中に存在している限り、被覆物質にとって必要ではない。
【0067】
カーボンナノチューブがポリマー被覆されて可溶化された後、必要に応じてカーボンナノチューブをドナー又はアクセプタ分子又はポリマー内に入れ、デバイスに成型することによって、光起電デバイスを製造することができる。適切な量の光を吸収するのに十分なカーボンナノチューブを備えた光起電デバイスを製造するには、十分高いカーボンナノチューブ濃度が必要とされ得て(膜中の略1重量%よりも多いカーボンナノチューブ)、パーコレーション(浸透)ネットワークが形成される。これは、半導体型カーボンナノチューブに接触する金属型カーボンナノチューブが、励起子クエンチング中心部として作用して、光起電デバイスの効率を顕著に低下させる。また、金属型カーボンナノチューブは、セル全体の厚さ方向にわたる金属繊維を形成することによってデバイスをショートさせ得て、シャント抵抗が減少する。この現象を回避するため、カーボンナノチューブは、密度勾配超遠心分離法等の方法によって分類されて、ほぼ全ての金属型カーボンナノチューブが取り除かれて、励起子クエンチングを顕著に減少する。
【0068】
一部実施形態では、ポリ[2‐メトキシ‐5‐(3’,7’‐ジメチルオクチルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン](MDMO‐PPV)、ポリ[2‐メトキシ‐5‐(2’‐エチル‐ヘキシルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン](MEH‐PPV)、ポリ(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)(PFO)等の光活性ポリマーを用いて、カーボンナノチューブを被覆及び可溶化することができる。こうした実施形態では、CNTを被覆する光活性ポリマーが励起子を生成する光を吸収し、その励起子は、被覆ポリマーとカーボンナノチューブの界面、又はCNTとは無関係に被覆ポリマーと有機物(ドナー又はアクセプタ)界面において分離される。
【0069】
SWNTを被覆するのに使用可能な光活性ポリマーの他の例は、PFO(ポリ(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)や、同じ骨格及び異なる可溶化基を備えたポリマー、PFH(ポリ(9,9‐ジヘキシルフルオレニル‐2,7‐ジイル))、ポリ[9,9‐ジ‐(2‐エチルヘキシル)‐フルオレニル‐2,7‐ジイル]等である。更に、場合によっては、コポリマーを用いることができて、PFOと他のモノマーとの間で交互になり、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐オルト‐(1,4‐ビニレンフェニレン)]、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐オルト‐(ビニレンアントラセン)]、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐コ‐1,4‐ベンゾ‐{2,1’‐3}‐チアジアゾール]等が挙げられる。
【0070】
他の例は、フェニレンビニレンベースのポリマーであり、MDMO‐PPV(ポリ[2‐メトキシ‐5‐(3,7‐ジメチル‐オクチルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン])、MEH‐PPV(ポリ[2‐メトキシ‐5‐(2‐エチル‐ヘキシルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン])等や、同じ骨格及び異なる可溶化基を備えたポリマー、ポリ[2,5‐ビス(3,7‐ジメチルオクチルオキシ)‐1,4‐フェニレン‐ビニレン]等が挙げられる。場合によっては、コポリマー等の骨格の代わりを使用することができて、PFOと他のモノマーとの間で交互になり、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐オルト‐(1,4‐ビニレンフェニレン)]、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐オルト‐(ビニレンアントラセン)]、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐コ‐1,4‐ベンゾ‐{2,1’‐3}‐チアジアゾール]等が挙げられる。
【0071】
P3HT等のチオフェンベースのポリマーや他の可溶化基を用いたものを使用することができて、P3BT(ポリ(3‐ブチル‐チオフェン‐2,5‐ジイル))、P3HT(ポリ(3‐ヘキシル‐チオフェン‐2,5‐ジイル))、P3OT(ポリ(3‐オクタル‐チオフェン‐2,5‐ジイル))、P3DT(ポリ(3‐デシル‐チオフェン‐2,5‐ジイル))等が挙げられる。場合によっては、コポリマー等の骨格の代わりを使用することができて、PFOと他のモノマーとの間で交互になり、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐オルト‐(1,4‐ビニレンフェニレン)]、ポリ[(9,9‐ジオクチルフルオレニル‐2,7‐ジイル)‐コ‐1,4‐ベンゾ‐{2,1’‐3}‐チアジアゾール]等が挙げられる。PPEポリマー等の他の導電性ポリマー骨格(ポリ(2,5‐ジオクチル‐1,4‐フェニレン)を、ポリ[2,6‐(4,4‐ビス‐(2‐エチルヘキシル)‐4H‐シクロペンタ[2,1‐b;3,4‐b]‐ジチオフェン)‐オルト‐4,7‐(2,1,3‐ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)等の同一添加で低バンドギャップのポリマーと共に用いることも適している。骨格又は代わりのユニットについては変形がなされ得る。
【0072】
図7は、トルエン中に懸濁されたポリマー被覆カーボンナノチューブのフォトルミネッセンスを示し、650nmで励起されていて、被覆がMDMO‐PPVで有効に行われ、特定のカーボンナノチューブのカイラリティに対して、PFOがはるかに明るいフォトルミネッセンスを与えることが示されている。信号強度は、個々に分散されているカーボンナノチューブの量の指標である。凝集しバンドル化したナノチューブは、半導体型ナノチューブに接触する金属型ナノチューブによるクエンチングが原因で、フォトルミネッセンス信号を示さない。これは、MDMOが、トルエン中にカーボンナノチューブを溶解する性能に関して、MEH‐PPVに匹敵することを示している。これは、側基の微差は被覆効率を顕著には変更せず、多くの同様のポリマーが使用可能であることとを示唆している。
【0073】
MDMO‐PPV被覆は、有機溶媒中のカーボンナノチューブに溶解性を与えて、そのカーボンナノチューブの溶液ベースの処理を容易にする。また、MDMO‐PPVは、カーボンナノチューブ同士を効率的にアイソレートするとも考えられ、光学的に活性な半導体型ナノチューブとクエンチング金属型ナノチューブとの間の直接的な電子的結合を最小化する。
【0074】
本発明者の実験においては、まず、カーボンナノチューブを、半導体ポリマー、ポリ[2‐メトキシ‐5‐(3’,7’‐ジメチルオクチルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン](MDMO‐PPV)で被覆した。直径0.7〜1.1nmの高圧一酸化炭素(HiPCO)成長ナノチューブを用いて、波長1400nmまでのスペクトル応答性を確かめた。ナノチューブバンドル及び不溶性物質を除去するために、MDMO‐PPV被覆ナノチューブを、遠心分離によって精製した。ポリマー‐ナノチューブ混合物を、不活性な窒素雰囲気下において、ドクターブレード法を用いて熱いインジウム錫酸化物(ITO)コーティングガラス基板上に分散させた。蒸着C60の薄膜を、ポリマー‐ナノチューブ混合物の頂部に熱蒸着させて、ドナー‐アクセプタ界面を形成し、続いて、2,9‐ジメチル‐4,7‐ジフェニル‐1,10‐フェナントロリン(BCP)の10nmのバッファ層及びAgカソードを形成した。
【0075】
図8は、[84]PCBMに対する本発明者の実験結果を示し、図6に示されるエネルギー準位に対する理論的クエンチングが比較的正確であることを立証している。図8に示されるデータは、トルエン溶液からのドクターブレード法による厚膜から得られたものである。PFO及びCNTを含む膜は、フラーレン添加物を加えた効果に対する参照用である。[84]PCBMの添加は、調べられた波長(650nmで励起された際の950から1350nm)において全てのナノチューブルミネッセンスをクエンチングして、[84]PCBMエネルギー準位が、LUMOから励起子結合エネルギーを引いたものよりも深く、CNT中の励起子の効率的な分裂をもたらすことを示している。これは、[84]PCBMがCNTに対して励起子を分裂させるのに有効な物質であることを示している。従って、[84]PCBMは、光伝導体として用いられる実質的に半導体PW‐CNTと共に用いられる効果的な電子アクセプタ物質である。
【0076】
図9A〜図9Dを参照すると、図9AのPW‐CNT/C60ヘテロ接合ダイオード(MDMO‐PPV対ナノチューブの重量比は1:1である)の電流‐電圧特性(図9B)及びスペクトル分解光応答度(図9C)が示されている。デバイスの層の厚さは図9Aに示されている。ダイオードは、暗条件下において四桁以上の整流効率を有する(図9B)。順方向バイアスの電流‐電圧特性は、2.5のダイオード理想因子及び120Ωの直列抵抗でショックレーのダイオード方程式に従う。図9Cを参照すると、0Vバイアス(プロット線92)及び−0.5Vバイアス(プロット線93)でのダイオードの近赤外線応答度が、脱イオンHO中のコール酸ナトリウムの界面活性剤水溶液中のアイソレートされた半導体型CNTの吸収スペクトル(プロット線94)と比較されている。光応答度は、溶液の吸収スペクトルから略40meVだけ赤方偏移しているが、同じ形状に従っている。0V(プロット線92)及び−0.5V(プロット線93)のバイアスにおける1155nmでのデバイスのピーク光応答度はそれぞれ、略10、17mA/Wであった。これに対して、カーボンナノチューブを備えない対照用デバイスの応答度は、近赤外線においては測定不能であった(<0.1μA/W)。
【0077】
図9Dは、図9Aのデバイスの内部量子効率(IQE,internal quantum efficiency)のプロットを示す(実線95を参照)。IQEは、PW‐CNTの近赤外線吸収度(図9Dの破線97)に対する−0.5Vバイアス(図9Cのプロット線93)下でのデバイスの光応答度の比である。PW‐CNTの近赤外線吸収度(破線97)は、デバイスのスペクトル分解された反射率を測定した後にITOによる吸収を引くことによって、定量化された。図示されるように、近赤外線でのピークIQEは、1000から1350nmの広いスペクトル範囲にわたって、略20%を超えている。実質的に大きなIQEは、デバイス内の励起子分離にとって好ましいメカニズムが存在していることを示している。
【0078】
本デバイスの活性/分離界面がPW‐CNT/C60界面であるという仮説を検証するため、本発明者は、PW‐CNT/C60界面が破られている二つの対照用デバイス構造を作製した。これらの構造の概略的なエネルギーダイアグラムが図10B及び図10Cに示されている。図10Bに示される第一の対照用デバイス構造では、40nmのサブフタロシアニン(SubPc)の層14が、PW‐CNT層11と蒸着C6013との間に挿入されて、PW‐CNT/C60界面が破られている。SubPcのHOMO及びLUMOエネルギーは、MDMO‐PPVのものと同様である。第二の対照用デバイス構造は、MDMO‐PPV被覆カーボンナノチューブ層自体内部での励起子分離をテストするために作製された。この構造では、蒸着C60層13が除去されて、PFOのバッファ層15が、ITOとPW‐CNT層11との間の正孔輸送層として挿入されて、ナノチューブがアノード及びカソードを直接架橋するのを防止している。第二の対照用デバイス構造に対するエネルギーダイアグラムは図10Cに示されている。
【0079】
PW‐CNTに起因する近赤外線応答度は、どちらの対照用デバイスにおいても観測されず(応答度<0.1μA/W)、PW‐CNT/ITO界面、PW‐CNT/SubPC界面、PW‐CNT/MDMO‐PPV界面における励起子分離のための駆動力が不十分であることを示している。近赤外線照射に応答する測定可能な光電流は、PW‐CNT/C60界面が損なわれていない場合にのみ観測された。
【0080】
図10A〜図10Cは、多様な有機半導体と(8,4)半導体型PW‐CNTとの間の予測によるエネルギー整列を示す。(8,4)ナノチューブは、0.84nmの直径を有し、1155nmにおいてポリマーマトリクス中における予測による光学バンドギャップを有する。ナノチューブの電子親和力(EA)及びイオン化ポテンシャル(IP)は、Spataru外(非特許文献23)及びPerebeinos外(非特許文献24)によるナノチューブ電子バンド構造の第一原理計算、並びに、Barone外(非特許文献18)による仕事関数の第一原理計算から求められた。蒸着C60の電子構造の第一原理計算は、ナノチューブのEAと蒸着C60のLUMOとの間に0.2eVのずれが予測されることを示している(図10A及び図10Bを参照)。これに対して、比誘電率が3.5の(8,4)半導体型PW‐CNTの結合エネルギーは、0.1eVと予測される。従って、エネルギーのずれは、励起子分離及びカーボンナノチューブから蒸着C60への電荷移動をもたらすのに十分なものである。
【0081】
一方、MDMO‐PPV及びカーボンナノチューブの界面における励起子分離は予測されない。むしろ、これら二つの物質は、カーボンナノチューブのIP及びEAが両方ともMDMO‐PPVのHOMO及びLUMO準位内に存在しているストラドリングタイプIヘテロ接合を形成すると予測される。MDMO‐PPVとカーボンナノチューブとの間のストラドリングタイプIへテロ接合の存在は、フォトルミネッセンス分光法により実験的にサポートされていて、ポリマー被覆半導体型カーボンナノチューブからの強力なフォトルミネッセンスが、ポリマー吸収バンドの直接光学励起子に応答して、ナノチューブの光学バンドギャップにおいて観測された。
【0082】
上述の平面状ヘテロ結合は、CNTのバーコレーションネットワークの頂部に直接、有機半導体の薄膜を堆積させることによって、形成可能である。電子輸送及び/又は励起子ブロック層140Aをオプションで追加することができて、これにカソード層150Aの堆積が続いて、図1Aに示される光起電デバイス構造100Aが生じる。代わりに、CNTの薄膜は、アノード上に堆積させた有機ドナー物質の薄膜上にスタンプ可能である。オプションの電子輸送及び/又は励起子ブロック層140Bの堆積、これに続くカソード層150Bの堆積によって、図1Bに示される光起電デバイス構造100Bが生じる。
【0083】
CNTのパーコレーションネットワークの薄膜は、直接成長、多孔質メンブレンを介した真空濾過、スプレー法に基づいた堆積法、スピンコーティング、層毎の堆積法、誘電泳動、蒸着によって、形成可能である。
【0084】
図2A〜図2Bは、光起電デバイス200A及び200Bに対する二つのバイブリッド平面状‐バルクヘテロ接合の実施形態を示す。図2Aを参照すると、光起電デバイス200Aは、伝導アノード層210Aと、そのアノード層210Aの上方に形成されたバルクヘテロ接合層220Aとを備え、そのバルクへテロ接合層220Aは、有機電子ドナー物質内に配置されたポリマー被覆カーボンナノチューブを備える。電子アクセプタ層230Aはバルクへテロ接合層220Aの上方に形成され、その電子アクセプタ層230Aの上方に、伝導カソード層250Aが形成される。バルクヘテロ接合層220A及び電子アクセプタ層230Aは、デバイス200Aの光活性領域222Aを形成する。代わりに、層220A及び230Aを、層220Aのポリマー被覆カーボンナノチューブ及び層230Aの電子アクセプタ物質がバルクへテロ接合を形成するように構成することができる。
【0085】
バルクへテロ接合層220Aを形成するのに適した有機半導体ドナー物質として、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。電子アクセプタ層230Aに適した有機半導体として、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI(3,4,9,10ペリレンテトラカルボキシルビスベンズイミダゾール)、PTCDA(3,4,9,10ペリレン‐テトラカルボキシル二無水物)、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
図2Bを参照すると、光起電デバイスの実施形態200Bは、伝導アノード層210Bと、そのアノード層210Bの上方に形成された電子ドナー層220Bとを備える。ポリマー被覆カーボンナノチューブを備えるバルクヘテロ接合層230Bは、ドナー層220Bの上方に形成された有機電子アクセプタ物質内に配置され、そのバルクへテロ接合層230Bの上方に、伝導カソード層250Bが形成される。バルクへテロ接合層230B及び電子ドナー層220Bは、デバイス200Bの光活性領域222Bを形成する。
【0087】
バルクへテロ接合層230Bを形成するのに適した有機半導体アクセプタ物質として、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI(3,4,9,10ペリレンテトラカルボキシルビスベンズイミダゾール)、PTCDA(3,4,9,10ペリレン‐テトラカルボキシル二無水物)、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。電子ドナー層220Bに適した有機半導体として、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
図2Cに示される他の実施形態200Cによると、光活性領域222C内の電子アクセプタ層230C及び電子ドナー層220Cの両方が、ポリマー被覆カーボンナノチューブ及びそれぞれアクセプタ型又はドナー型有機半導体を備えたバルクへテロ接合であり得る。
【0089】
図2Dは、他の実施形態によるバルクヘテロ接合PVデバイス200Dを示す。デバイス200Dは、伝導アノード層210Dと、伝導カソード層250Dと、これら二つの電極の間に電気的に接続されて提供されたバルクヘテロ接合層220Dとを備える。バルクヘテロ接合層220Dは、本願で開示される有機電子アクセプタ又は電子ドナー物質のいずれかであり得る有機半導体内に配置されたポリマー被覆カーボンナノチューブを備える。本実施形態では、バルクへテロ接合層220Dが、デバイス200Dの光活性領域を形成する。オプションで、本デバイスに一層以上の励起子ブロック層を提供することができる。励起子ブロック層215Dは、アノード層210とバルクへテロ接合層220Dとの間に提供可能である。他の励起子ブロック層240Dは、カソード層250Dとバルクヘテロ接合層220Dとの間に提供可能であり、第一の励起子ブロック層215Dと共に、又は第一の励起子ブロック層215Dとは関係なく提供可能である。
【0090】
200A、200B、200C及び200Dのデバイスでは、ポリマー被覆カーボンナノチューブは実質的に半導体PW‐SWNTであることが好ましい。オプションの励起子ブロック層240A、240B、240Cをそれぞれ、光活性領域222A、222B、222Cとカソード層250A、250B、250Cとの間に提供可能である。更に、オプションの励起子ブロック層215A、215B、215Cをそれぞれ、光活性領域222A、222B、222Cとアノード層210A、210B、210Cとの間に提供可能である。また、アノード平坦化層を、アノードとドナーとの間に配置し得る。
【0091】
図3A〜図3Bは、光起電デバイス300A及び300Bに対する更なるハイブリッド平面状‐バルクヘテロ接合の実施形態を示す。図3Aを参照すると、光起電デバイスの実施形態300Aは、伝導アノード層310Aと、そのアノード層310Aの上方に形成された電子ドナー層320Aとしてのポリマー被覆カーボンナノチューブの薄膜と、そのドナー層320Aの上方に形成された有機電子アクセプタ物質内に配置されたポリマー被覆カーボンナノチューブを備えたバルクへテロ接合層325Aとを備える。そのバルクヘテロ接合層325Aの上方に電子アクセプタ層330Aが形成され、そのアクセプタ層330Aの上方に伝導カソード層350Aが形成される。電子ドナー層320A、バルクヘテロ接合層325A及び電子アクセプタ層330Aは、デバイス300Aの光活性領域322Aを形成する。
【0092】
バルクヘテロ接合層325A及び電子アクセプタ層330Aを形成するのに適した有機半導体アクセプタ物質は、図1Aの実施形態において説明したものと同じである。
【0093】
図3Bを参照すると、光起電デバイスの実施形態300Bは、伝導アノード層310Bと、そのアノード層310Bの上方に形成された電子ドナー層320Bと、そのドナー層320Bの上方に形成された有機電子ドナー物質内に配置されたポリマー被覆カーボンナノチューブを備えたバルクへテロ接合層325Bとを備える。電子アクセプタ層330Bとしてのポリマー被覆カーボンナノチューブの薄膜がバルクへテロ接合層325Bの上方に形成され、伝導カソード層350Bがバルクへテロ接合層325Bの上方に形成される。電子ドナー層320B、バルクへテロ接合層325B及び電子アクセプタ層330Bは、デバイス300Bの光活性領域322Bを形成する。
【0094】
実施形態300Aにおいて、バルクヘテロ接合層325Bを形成するのに適した有機半導体アクセプタ物質は、図1Aの実施形態に関して説明したものと同じである。電子ドナー層320Bとして考えられる有機半導体は、図1Bの実施形態に関して説明したものと同じである。
【0095】
実施形態300A及び300Bの両方において、バルクヘテロ接合層325A及び325Bは、有機半導体及びポリマー被覆カーボンナノチューブの両方の混合膜を堆積させることによって、又は、ポリマー被覆カーボンナノチューブの薄いマット上への有機半導体の蒸着によって形成可能である。このバルクへテロ接合層は、ポリマー被覆カーボンナノチューブの層(320A、320B)と有機半導体の層(330A、330B)との間に挟まれ得る。
【0096】
実施形態300A及び300Bの両方において、ポリマー被覆カーボンナノチューブは実質的に半導体PW‐SWNTであることが好ましい。オプションの励起子ブロック層340A、340Bをそれぞれ、光活性領域322A、322Bとカソード層350A、350Bとの間に接続可能である。更に、オプションの励起子ブロック層315A、315Bをそれぞれ、光活性領域322A、322Bとアノード層310A、310Bとの間に接続可能である。アノード平坦化層をアノードとドナーとの間に配置し得る。
【0097】
本願で説明される小分子有機半導体は、真空熱蒸着(VTE,vacuum thermal evaporation)、有機気相堆積(OVPD,organic vapor phase deposition)によって、又は、溶液ベースの処理方法を用いて、堆積可能である。背景成長圧力、基板温度、成長速度、有機半導体の分子構造、基板の粗さに依存して、多様な形態及び結晶秩序の度合いを得ることができて、これらは荷電輸送及び界面形態に影響を与える。有機半導体をCNTのパーコレーションネットワークの頂部に直接堆積させる場合、CNTネットワークの固有の粗さを用いて、粗さ誘起結晶化又は結晶成長を生じさせて、デバイス特性を改善することができる。
【0098】
バンドギャップ、直径及び電子型によるカーボンナノチューブの分類方法として、有機半導体‐半導体型CNTへテロ接合光起電太陽電池の製造に現状において適しているものの一つは、密度勾配超遠心分離法(DGU,density gradient ultracentrifugation)(非特許文献12、非特許文献13)である。DGUを用いて、最大99%の単一電子型(半導体又は金属のいずれか)のバルクサンプル(グラムスケール)を高速で生成することができる。更に、DGUを用いて、直系、光学バンドギャップ、更には電気的バンドギャップによりSWNTを分類することもできる。
【0099】
マトリクス内へのナノチューブのネットワークの組み込みは、当該分野において知られているいくつかの方法によって行うことができ、マトリクス物質の蒸着及びポリマー‐ナノチューブブレンドのスピンキャスティング(特許文献12を参照、特許文献12及びその参考文献は参照として本願に組み込まれる)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
上述のように、カーボンナノチューブの性質は、その直径及びカイラリティの影響を受ける。これについては図11A〜図11Dに示されていて、図11AのPW‐CNT/C60ヘテロ接合ダイオード400に対する電流‐電圧特性及びスペクトル分解光応答が示されている。ダイオード400は、ITOアノード層410と、PW‐CNT層420と、C60アクセプタ層430と、オプションのBCP電子ブロック層440と、Agカソード450とを備える。層の厚さは図11Aに示されている。PW‐CNTは、1:1の重量比でMDMO‐PPVポリマーで被覆されていて、PW‐CNT/C60界面がヘテロ接合を形成する。ダイオード400は、±1Vにおいて暗電流整流比が>10であるが(図11Bを参照)、これは、PW‐CNT層420が高密度の金属型チューブからなるものであり、金属型チューブの存在が大きな分流をもたらすと予測されることを考慮すると、特筆すべきものである。金属型チューブからの寄生効果が存在しないことは、金属型チューブが、被覆ポリマーによって半導体型チューブから実際に電気的及びエネルギー的にアイソレート(分離)されていることを示唆している。
【0101】
図11Bを参照すると、順方向バイアスの電流‐電圧特性のフィッティング(実線)が、2.0の理想因子及び0.99Ω‐cmの特定の直列抵抗の理想的なダイオード方程式に従っている。ここで、理想因子が略2であることは、キャリア再結合が、暗電流の主たる源であることを示唆しているが、これも、高密度の金属型チューブが顕著な分流(つまりは抵抗制限輸送)をもたらし得ることを考慮すると、特筆すべきものである。
【0102】
図11Cにおいて、0V及び−0.7Vにおけるダイオードの近赤外線応答度が比較されている。ナノチューブの直径の不均一性により、光活性応答が、E11(λ≒900〜1450nm)及びE22(λ≒550〜900nm)吸収特徴からの広範囲にわたって、λ=500nmにおけるピークポリマー応答と共に観測される。各吸収特徴に対するナノチューブのカイラルインデックス(n,m)が図11Cにラベル付けされていて、デバイスのポリマー及び小分子成分の吸収領域も存在する。非常に広範なスペクトルをカバーしていることは、550nmから1600nmのスペクトルをまとめてカバーするSWNTの直径多分散性の直接的な結果である。
【0103】
図11Cを参照すると、0V及び−0.7Vのバイアスにおけるλ=1155nmでのダイオード応答度はそれぞれ、12mA/W、21mA/Wであり、ピークEQE=2.3%に対応する。λ=1300nmにおいて、ダイオード応答度はそれぞれ11mA/W、21mA/Wである(EQE=2.0%)一方、CNTを備えないデバイスのこれらの波長における応答は測定不能であった(<0.1μA/W)。近赤外線におけるSWNTのIQEは、λ=1000からλ=1400の間において>20%であり、より高いEQEを備えたSWNTベースのデバイスが達成可能であることを示唆している。
【実施例】
【0104】
〈I.物質〉
Arnold外の非特許文献12の方法を用いて、密度勾配超遠心分離法で半導体型CNTをアイソレート(分離)する。市販のCNT粉末を、ドデシル硫酸ナトリウム及びコール酸ナトリウムの1:4の混合物(2%界面活性剤)と共に、超音波処理によって水中に懸濁させる。そして、ナノチューブ懸濁液を、イオジキサノールの線形密度勾配にかけて、遠心分離して、浮遊密度によってナノチューブを分類する。密度勾配の分別の後で、イオジキサノールを、表面活性剤溶液中の透析によって取り除く。適切な有機半導体は当該分野において周知であり、数多くの供給者から入手可能である。
【0105】
〈II.近赤外線感度を有する平面状ヘテロ接合〉
生のHiPCO単層カーボンナノチューブ(Carbon Nanotechnologies社)(10mg)を、水中の2%(w/v)のチャコール酸(Sigma‐Aldrichの995)10mlと混合した。混合物を、ホーンプローブウルトラソニケータを用いて15分間、超音波バスで均一化した。単層カーボンナノチューブの粗い凝集体及び大きなバンドルを、超遠心分離(15000g、12時間)で取り除いた。一定量の結果物の懸濁液(100μl)を、Alメンブレン(0.02μmの細孔、Whatman社)上に真空濾過で濾過した。そして、ナノチューブ膜を、PDMSを指圧でメンブレン内に押すことによって、平面状のPDMSスタンプに移した。そして、膜を、AgコーティングITO(インジウム錫酸化物)上の100nmのPTCDA(3,4,9,10ペリレンテトラカルボキシル二無水物)からなる基板上にスタンプした(1000N・cm−2、60秒、室温、大気圧)。PTCDA及びAgを、1×10−7Torrの真空で0.15nm/sの速度で熱蒸着によって蒸着した。試験は、周囲環境下で行い、キセノンランプとAM1.5Gフィルタを用いて、太陽スペクトルを近似した。較正フォトダイオードを用いて、光度を決定した。
【0106】
結果物のデバイス(図4)の電流密度‐電流曲線を、SWNTネットワークの表面上に金コンタクトパッドを押圧して電圧を印加することによって、求めた。図5のx軸の電位は、ITO/Ag電極の電位に対するカーボンナノチューブ膜の電位を示す。暗状態において、デバイスは、典型的なダイオードの振る舞いを示すが、模擬的な近赤外線太陽放射(AM1.5Gスペクトル、950nmのカットオフで誘電体ロングパスフィルタによりフィルタリングされている)で照射すると、光電効果が観測された(図5)。
【0107】
〈IV.バルクヘテロ接合〉
一実施形態では、実質的に半導体型の又は混合SWNTの層を、PDMSスタンピングによって透明アノード上に転写する。有機アクセプタ溶液中の実質的に半導体型SWNTの懸濁液を、SWNT層上にスピンキャストする。そして、アクセプタ層及びオプションの電子輸送及び/又は励起子ブロック層を堆積させて、これにカソード層が続く。
【0108】
他の実施形態では、有機ドナー層をアノード基板上に堆積させて、有機アクセプタ溶液中の実質的に半導体型SWNTの懸濁液をドナー層上にスピンキャストする。実質的に半導体型の又は混合SWNTの層を、PDMSスタンピングによって加えて、これに、オプションの電子輸送及び/又は励起子ブロック層の堆積が続く。そして、カソード層を堆積させる。
【0109】
上述のように、カーボンナノチューブ中の励起子は、有機アクセプタ及び蒸着C60との界面によって分裂可能であり、1200nmにおいて略35%もの大きさの内部量子効率が観測された(図9Dを参照)。カーボンナノチューブ/有機物ハイブリッド光起電デバイスのスペクトル範囲は、より大きな直径のカーボンナノチューブを用いることによって、近赤外線に拡張可能であると予測される。
【0110】
特定の例及び好ましい実施形態に関して本発明を説明してきたが、本発明はこれらの例及び実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。従って、当業者には明らかなように、特許請求の範囲の本発明には、本願で説明される特定の例及び好ましい実施形態からの変形例が含まれる。
【符号の説明】
【0111】
100 光起電デバイス
110 アノード層
115 励起子ブロック層
120 ドナー層
122 光活性領域
130 アクセプタ層
140 励起子ブロック層
150 カソード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電気的に接続されて配置された光活性領域とを備えたデバイスであって、
前記光活性領域が、有機半導体と、前記有機半導体内に配置された光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブとを備えることによって、前記有機半導体及び前記光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブがバルクへテロ結合を形成している、デバイス。
【請求項2】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが、略400nmから1400nmの範囲の光の吸収に対して励起子を生成する、請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記バルクへテロ接合の層が、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI、PTCDA、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)のうち一つから選択された電子アクセプタ型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記バルクへテロ接合の層が、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセンのうち一つから選択された電子ドナー型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電気的に接続されて配置された光活性領域とを備えたデバイスであって、
前記光活性領域が更に、
前記第一の電極の上方に形成されたドナー層と、
前記ドナー層の上方に形成されたアクセプタ層とを備えることによって、前記ドナー層及び前記アクセプタ層がドナー‐アクセプタへテロ接合を形成していて、
前記アクセプタ層又は前記ドナー層のいずれかが光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、デバイス。
【請求項8】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが、略400nmから1400nmの範囲の光の吸収に対して励起子を生成する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ドナー層がポリマー被覆カーボンナノチューブを備え、前記アクセプタ層が、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI、PTCDA、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)のうち一つから選択された有機半導体を備える、請求項7に記載のデバイス。
【請求項12】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記アクセプタ層がポリマー被覆カーボンナノチューブを備え、前記ドナー層が、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセンのうち一つから選択された有機半導体を備える、請求項7に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記アクセプタ層と前記第二の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項7に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ドナー層と前記第一の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項7に記載のデバイス。
【請求項17】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電気的に接続されて配置された光活性領域とを備えたデバイスであって、
前記光活性領域が更に、
前記第一の電極の上方に形成されたドナー層と、
前記ドナー層の上方に形成されたアクセプタ層とを備え、
前記アクセプタ層と前記ドナー層との少なくも一方が、該一方の中に配置された光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、デバイス。
【請求項18】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが、略400nmから1400nmの範囲の光の吸収に対して励起子を生成する、請求項18に記載のデバイス。
【請求項21】
前記アクセプタ層と前記第二の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項17に記載のデバイス。
【請求項22】
前記ドナー層と前記第一の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項17に記載のデバイス。
【請求項23】
前記ドナー層が、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセンのうち一つから選択されたドナー型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項17に記載のデバイス。
【請求項24】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
前記アクセプタ層が、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI、PTCDA、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)のうち一つから選択されたアクセプタ型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項17に記載のデバイス。
【請求項27】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
前記ドナー層が、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセンのうち一つから選択されたドナー型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備え、
前記アクセプタ層が、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、−4.4eVのLUMOを有するF16‐CuPc、PTCBI、PTCDA、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)のうち一つから選択されたアクセプタ型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項17に記載のデバイス。
【請求項30】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に電気的に接続されて配置された光活性領域とを備えた光起電デバイスであって、
前記光活性領域が更に、
前記第一の電極の上方に形成されたドナー層と、
前記ドナー層の上方に形成されたバルクへテロ接合の層と、
前記バルクヘテロ接合の層の上方に形成されたアクセプタ層とを備え、
前記バルクへテロ接合が有機半導体内に配置された光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備え、
前記アクセプタ層又は前記ドナー層のいずれかが光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、光起電デバイス。
【請求項33】
前記バルクへテロ接合の層の有機半導体が電子アクセプタであり、前記ドナー層が光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項32に記載のデバイス。
【請求項34】
前記バルクへテロ接合の層が、蒸着C60、[84]PCBM([6,6]‐フェニルC84酪酸メチルエステル)、F16‐CuPc、PTCBI、PTCDA、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)、TCNQ(7,7,8,8‐テトラシアノキアノジメタン)、F4‐TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキアノジメタン)のうち一つから選択された電子アクセプタ型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項33に記載のデバイス。
【請求項35】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項34に記載のデバイス。
【請求項36】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項35に記載のデバイス。
【請求項37】
前記アクセプタ層と前記第二の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項33に記載のデバイス。
【請求項38】
前記ドナー層と前記第一の電極との間の提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項33に記載のデバイス。
【請求項39】
前記バルクヘテロ接合の層の有機半導体が電子ドナーであり、前記アクセプタ層が光活性ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項32に記載のデバイス。
【請求項40】
前記バルクへテロ接合の層が、BTEM‐PPV(ポリ(2,5‐ビス(1,4,7,10‐テトラオキサウンデシル)‐1,4‐フェニレンビニレン)、ポリ(3‐デシルオキシチオフェン)、CuPc(銅フタロシアニン)、NPD(4,4’‐ビス(N‐(1‐ナフチル)フェニルアミノ)ビフェニル)、ペンタセン、テトラセンのうち一つから選択された電子ドナー型の有機半導体内に配置された実質的に半導体ポリマー被覆カーボンナノチューブを備える、請求項39に記載のデバイス。
【請求項41】
前記ポリマー被覆カーボンナノチューブが実質的に半導体ポリマー被覆単層カーボンナノチューブである、請求項40に記載のデバイス。
【請求項42】
前記ポリマー被覆単層カーボンナノチューブが光活性ポリマーで被覆されている、請求項41に記載のデバイス。
【請求項43】
前記アクセプタ層と前記第二の電極との間に提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項39に記載のデバイス。
【請求項44】
前記ドナー層と前記第一の電極との間の提供された励起子ブロック層を更に備えた請求項39に記載のデバイス。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図9D】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図11D】
image rotate


【公表番号】特表2011−520263(P2011−520263A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507557(P2011−507557)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/041816
【国際公開番号】WO2010/036398
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(509119061)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン (14)
【Fターム(参考)】