説明

ポリマー複合材料およびその製法

【課題】ポリマーマトリックス、強化織布および添加剤材料の粒子を含むポリマー複合材料を製造するための方法を提供する。
【解決手段】本方法は、強化織布54の少なくとも1つをそれぞれが備える少なくとも2つの物品54に添加剤材料52の粒子を噴霧して、粒子含有物品56を形成するステップを含む。粒子含有物品56は、積層されて積層構造58を形成し、次いで、積層構造58の中に存在する樹脂が、硬化されて、ラミネートポリマー複合材料が形成される。この方法は、例えばファンナセルの吸気リップなど、航空機エンジンナセルの少なくとも一部分を製造する際に利用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料に関し、より詳細には、粉末含有樹脂で浸潤された強化織布を備える複合材料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、当技術において知られているタイプの高バイパスターボファンエンジン10を概略的に示す。エンジン10は、ファンアセンブリ12およびコアエンジン14を備えるものとして概略的に示される。ファンアセンブリ12は、複合ファンケーシング16、およびファンブレード18のアレイから前方に突出するスピナーノーズ20を備えるものとして図示される。スピナーノーズ20およびファンブレード18は共に、ファンディスク(図示せず)により支持される。コアエンジン14は、高圧コンプレッサ22、燃焼器24、高圧タービン26、および低圧タービン28を備えるものとして示される。ファンアセンブリ12に進入する空気の大部分は、エンジン10の後部へと迂回されることにより、さらなるエンジン推力を生成する。迂回される空気は、環状形状バイパスダクト30を通過し、ファンノズル32を通りダクト30から出る。ファンブレード18は、バイパスダクト30のラジアル方向外方境界部、ならびにエンジン10への吸気ダクト36およびファンノズル32を画定する、ファンナセル34によって囲まれる。コアエンジン14は、バイパスダクト30のラジアル方向内方境界部およびコアエンジン14から後方に延在する排気ノズル40を画定する、コアカウル38によって囲まれる。
【0003】
ファンナセル34は、空気力学的基準および耐異物損傷(FOD)性を設計上の考慮条件に含む重要な構造構成要素である。これらの理由から、ナセル34を製造する際には、適切な構造、材料、および組立方法を選択することが重要となる。様々な材料および構造が検討されてきたが、金属材料および特にアルミニウム合金が広く使用されている。また、炭素(グラファイト)繊維または炭素(グラファイト)織布により強化されたエポキシラミネートなどの複合材料は、空気力学的基準、輪郭制御、および重量の軽量化に合致するような十分なサイズの単体パーツとして製造することを可能にし、これによりエンジン効率が向上し、燃料消費率(SFC)が改善されるなどの利点をもたらすため、これらの複合材料もまた検討されてきた。
【0004】
航空機エンジンナセル、特に吸気リップ(図1の42)のナセル前縁は、エンジンが地上にあり、特に飛行条件下にある間に、着氷条件にさらされる。ナセル吸気リップ42上に着氷した氷を除去する(除氷)、およびナセル吸気リップ42上への氷の着氷を防止する(防氷)ための1つの公知の手法は、高温抽気システムの使用によるものである。一例としては、エンジンから供給される抽気を、燃焼室24から配管(図示せず)を通り吸気リップ42へと引き込むことが可能であり、これにより、高温の抽気が、吸気リップ42の内側表面に接触し、それによりリップ42を加熱し、着氷を除去/防止する。代替例としては、いくつかの比較的小型のターボファンおよびターボプロップ航空機エンジンが、ジュール加熱により電気エネルギーを熱に変換する電気防氷システムを利用している。抵抗タイプのヒータワイヤを加熱素子として使用することが可能であるが、さらに近年の例では、GrafTech International Holdings Inc.社よりGRAFOIL(登録商標)の名称で市販されている可撓性グラファイト材料が使用される。この加熱素子は、シリコンゴムなどのブーツに埋め込まれ、次いでナセル吸気リップ42の内部前縁に装着される。いずれの場合においても、リップ42がアルミニウム合金などの金属材料から構成される場合には、複合材料から構成される場合に比べると、吸気リップ42の均一かつ効率的な加熱を促進することが可能となる。炭素強化(繊維および/または織布)エポキシラミネートなどの複合材料から製造された吸気リップ42の均一な加熱を促進するためには、伝熱性を高めることが可能な伝導性添加剤を含むように、この複合材料を作製することが可能である。このような添加剤には、窒化ホウ素(NB)粉末、酸化アルミニウム(Al23)粉末、および窒化アルミニウム(AlN)粉末、ならびに炭素(グラファイト)ナノチューブが含まれていた。
【0005】
添加剤を混入させるための従来の手法は、樹脂系に添加剤粒子を混合し、次いで粒子含有樹脂系を炭素繊維に注入することを伴う。これは、効果的ではあるが、結果的に得られる樹脂系は、比較的高い粘度を有する傾向があり、それにより、この複合材料に混入させることの可能な添加剤の濃度が限定される。この限定は、一部においては、注入プロセスの際に強化織布により樹脂系から添加剤粒子が濾過される濾過効果によるものである。この濾過効果を低減させるために、ナノサイズの添加剤粒子を使用することができるが、樹脂系の粘度が急激に上昇するため、20体積パーセント未満の添加剤配合量が依然として典型であった。その結果、典型的には、炭素繊維強化エポキシラミネートなどの複合材料から製造された吸気リップの厚さ方向における伝熱性は、約0.6W/mK以下の伝熱率の値に限定されてきた。
【0006】
また、高粘度の樹脂系は、強化織布への非均一的な注入により複合材料中にドライスポット欠陥が発生するのを助長する傾向を有するため、その結果として、層間靱性および圧縮弾性率を含む機械特性もまた限定されるおそれがある。また、高粘度の樹脂系は、樹脂系を強化織布中に注入させ得るプロセスをも限定する。例えば、真空圧樹脂含浸成形法(VaRTM)などの比較的低コストのプロセスを利用して、約15体積パーセントのナノサイズの添加剤粒子を含む樹脂系を均一に注入することは、非常に難しい。
【0007】
上記に鑑みて、樹脂を注入される強化織布中にさらに多量の添加剤粒子を混入させることが可能となる方法があることが望ましい。特に、そのようなことが可能となれば、ファンナセルの製造において使用される織布強化ポリマー複合材料の中にさらに多量の伝導性添加剤を混入させるのに有利となる。また、そのようなことが可能となれば、例えば織布強化ポリマー複合材料から製造される電気筐体および航空機の翼/尾部領域などの様々な他の用途にとっても有利となり、これらの例では、添加剤は、伝熱性、導電性を向上させる(グラファイトタイプの添加剤など)、および/または層間靱性を向上させる(粉末形態の熱可塑性強靭化剤など)役割を果たし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,303,816号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明は、複数の強化織布および添加剤材料の粒子を含むポリマーマトリックスを備えるポリマー複合材料を製造するための方法を提供する。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、本方法は、強化織布の少なくとも1つをそれぞれが備える少なくとも2つの物品に添加剤材料の粒子を噴霧して粒子含有物品を形成するステップと、粒子含有物品を積層して積層構造を形成するステップと、次いで、積層構造の中に存在する樹脂を硬化して、強化織布(または複数の強化織布)および樹脂を硬化させることにより形成されるポリマーマトリックスを備えるラミネートポリマー複合材料を形成するステップとを含む。
【0011】
本発明の特定の一態様によれば、これらの物品は、樹脂を含まない乾燥織布であることが可能であり、限定量の高粘性樹脂により高粘化することが可能であり、その場合には、積層構造は、硬化ステップの前に、ポリマーマトリックスに対して樹脂で高粘化される。あるいは、これらの物品は、樹脂をさらに含むプリプレグであることが可能であり、この場合には、積層構造は、硬化ステップの前に樹脂で浸潤させる必要はない。
【0012】
本発明の他の態様によれば、上述の方法は、例えばファンナセルの吸気リップなど、航空機エンジンナセルの少なくとも一部分を製造する際に利用することが可能である。かかる用途については、必須ではないが好ましくは、添加剤材料は、窒化ホウ素粒子、酸化アルミニウム粒子、および/または窒化アルミニウム粒子を含む粉末である。
【0013】
本発明の技術的効果は、従来の樹脂注入技術に比べて、織布強化ポリマー複合材料の添加剤配合量を増大させ得ることである。比較的高い添加剤配合量を利用することにより、例えば伝熱性および/または機械特性などの複合材料の特性を向上させることが可能となる。機械特性に関しては、織布強化ポリマー複合材料から構成されるファンナセルの吸気リップ中の伝導性添加剤のレベルを上昇させることにより、吸気リップを加熱させることによって着氷を除去または防止し得る効率を向上させることが可能となる。
【0014】
以下の詳細な説明から、本発明の他の態様および利点がさらに理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高バイパスターボファンエンジンの概略断面図である。
【図2】図1のナセル吸気リップの詳細断面図である。
【図3】織布強化複合材料中に添加剤粒子を混入させることが可能な一方法を概略的に示す図である。
【図4】織布強化複合材料中に添加剤粒子を混入させることが可能な一方法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2は、ポリマー複合材料から製造された吸気リップ42の一実施形態を示す。以下に論じるように、本発明の一態様は、リップ42の防氷能力および除氷能力(以降、単に防氷と呼ぶ)を高めるために、吸気リップ42の伝熱性を最大化させるためのものである。本発明は、図1に示すターボファンエンジン10にその一例を示す高バイパスターボファンエンジンにおける使用に特によく適するが、他の用途も予期し得る点を理解されたい。最後に、本発明は、特に吸気リップ42を参照として論じることとなるが、本発明に伴う利点は、ナセル34全体に、ターボファンエンジン10の他の構成要素に、他の航空機構造体(例えば翼/尾部領域など)に、および、伝熱性、導電性、層間靱性等々の特性の向上により有利となるポリマー複合材料から製造し得る航空宇宙産業以外の広範な用途(例えば電気筐体など)にも適用することが可能である。
【0017】
吸気リップ42(およびファンナセル34全体)は、様々な複合材料から形成することが可能である。図2においては、吸気リップ42は、ラミネート構造を有し、その場合、リップ42は、織布強化材料または連続繊維強化材料により補強されたポリマーマトリックスをそれぞれが含む個別のポリマー複合層44から構成される。複合層44は、図2に示すラミネート構造を生成するために、公知の手法にしたがって積層され、成形され、硬化される。
【0018】
このポリマー複合材料におけるマトリックス材料の主要な役割は、繊維強化材料および複合材料構造全体の構造強度および他の物理特性に対して寄与をもたらす点である。このポリマーマトリックスについて好ましい材料には、FODおよびエンジン10の作動中に吸気リップ42がさらされるおそれのある他のタイプの損傷に耐えるのに適した耐温度性および耐衝撃性を示す最先端のマトリックス材料が含まれる。また、このマトリックス材料は、繊維強化材料を熱的に劣化させることのない、または繊維強化材料にとって別の形で有害にならない温度および条件下において、硬化が可能であるべきである。これに基づき、特に適切な樹脂系は、ポリ(アリル)エーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリル)エーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、およびエポキシなどの熱硬化材料および熱可塑性材料であると考えられるが、他のマトリックス材料の使用も予期し得る。
【0019】
複合材料層44の繊維強化構成要素は、繊維材料により所望の繊維構成を有するように作製され得る。例えば、炭素(グラファイト)繊維から形成された織布が、特に適した強化材料であると考えられるが、炭素繊維に加えて、またはその代替として、他の繊維材料が使用可能であることも予期し得る。この繊維構成は、公知の織布織成技術、ステッチング技術、ノンクリンプ技術、および、吸気リップ42(または複合材料層44により形成された任意の他のラミネートポリマー複合材料構造)の厚さ方向における面間熱伝導を促進させ得る三次元編組技術または三次元織成技術を含む編組技術を利用して生み出すことが可能である。
【0020】
図2の実施形態は、図2に示す複合材料層44の特定の層数および構成に限定されない点を理解されたい。さらに、エンジン吸気口、逆スラスト、コアカウル、およびトランスカウルなどの航空機エンジンのナセル構成要素、ならびに防音パネルを含む他の航空機構造物には一般的であるように、軽量フォームまたはハニカムポリマー材料などの心材(図示せず)をラミネートポリマー複合材料構造に組み込み得ることも予期され得る。上記の材料に鑑みて、吸気リップ42(および図2に示すタイプのラミネートポリマー複合材料構造により形成され得る他の構成要素)は、アルミニウムまたは先行技術において従来より使用される他の金属合金から形成された吸気リップよりも大幅に軽量となり得る。吸気リップ42の厚さは、必要以上に重量を増大させることなく構造完全性をもたらすのに十分なものであるべきである。広い範囲にわたる厚さが可能であるが、適切な葉には、約1.5〜約2.5ミリメートルであると考えられる。図2に示すものと同様のラミネートポリマー複合材料構成を有するように製造し得る他の構成要素については、さらに厚いおよびさらに薄い厚さが予期され得るが、そのような厚さもまた本発明の範囲内に含まれる。
【0021】
上記のように、本発明の特定の一態様は、例えば図2に示すラミネートポリマー複合材料構造により形成された吸気リップ42の防氷能力を促進させるためなどに、この複合材料構造の伝熱性を促進させるものである。先述のように、吸気リップ42およびさらに具体的にはその外方表面48は、エンジン10が地上にある間におよび飛行条件下にある間に、着氷条件にさらされる。防氷能力を与えるために、例えば吸気リップ42の内方表面46にエンジンから供給される高温の抽気を配向することによって、またはヒータストリップを備える電気防氷システムを利用してリップ42の着氷を最も受けやすい部分を局所的に加熱することによってなど、様々な方法およびシステムを利用することにより、吸気リップ42の外方表面48を加熱することが可能である。
【0022】
本発明の好ましい一態様によれば、吸気リップ42の内方表面46からその外方表面48への熱伝導は、ファンナセル34の少なくともリップ42を構成するラミネートポリマー複合材料に伝導性添加剤材料の粉末を混入させることによって促進される。適切な添加剤材料には、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、および窒化アルミニウムなどの無機材料が含まれるが、それらに限定されず、有機材料を混入させることも本発明の範囲に含まれる。添加剤材料の選択および量は、部分的には、複合材料層44および吸気リップ42(または層44から作製された他のラミネート)の所望の特性に基づくこととなる。窒化ホウ素が、吸気リップ42の厚さ方向における伝熱性を促進するのに特に適した添加剤材料であり、また、吸気リップ42の圧縮弾性率および層間靱性を向上させる有利な効果を有する。好ましくは、添加剤材料は、例えば約10〜約20体積パーセントなど、少なくとも3体積パーセントの量で各複合材料層44に混入され、結果的に、複合材料層44により作製された完成したラミネートポリマー複合材料中において均等な添加剤の含有量を得る。
【0023】
図3および図4は、粉末添加剤材料52(例えば窒化ボロン、酸化アルミニウム、および/または窒化アルミニウムなどの伝導性添加剤材料)の粒子を、図2のラミネートポリマー複合材料構造、したがってラミネートポリマー複合材料構造により形成される吸気リップ42(または他の構成要素)の各複合材料層44の1つまたは複数の中に混入させ得る、2つの技術を示す。これらの両技術は、添加剤材料52の乾燥粉末を噴霧して、例えば炭素(グラファイト)繊維から形成された前述の織布などの複合材料層44の強化材料中にこの添加剤材料52を混入させることを伴う。これらの技術は、主に、図3の技術では、乾燥した(樹脂を含まない)および/または高粘性の織布54に添加剤材料52を混入させ、次いで、結果として得られた粉末含有乾燥織布または粉末含有高粘性織布56に樹脂系(例えば前述の樹脂系の中の1つなど)を注入するのに対して、図4の技術では、樹脂系(例えば前述の樹脂系の中の1つなど)を事前に含浸された1つまたは複数の織布に添加剤材料52を混入させてプリプレグ74を作製するという点において異なる。いずれの場合でも、図3および図4の技術は、達成される複合材料層44内の添加剤材料濃度が、複合材料に粉末を混入させるための従来技術である粉末添加剤材料を含む樹脂系を乾燥織布に注入する試みにおいて可能となる濃度に比べて、より高くなるように意図される。
【0024】
図3を参照すると、乾燥粉末を噴霧するように構成されたタイプの従来的なスプレーガン50が、織布54中に乾燥粉末添加剤材料52を噴霧するために使用される。この織布54は、複合材料層44のポリマーマトリックスを形成することとなる樹脂を好ましくは含有しないことから、本明細書においては「乾燥」織布54と呼ぶ。しかし、本明細書において使用される「乾燥織布」という用語によれば、織布54は、織布54に対する添加剤材料52の粒子の接着性を促進するために、織布54を高粘化することが可能な限定量の樹脂を適宜含むことも可能であることとする。好ましくは、この粘着付与樹脂は、織布54の隣接し合う繊維同士の間の空間を完全に満たすような量では存在しない。図3の乾式噴霧技術は、乾燥織布54に粉末添加剤材料52の粒子を混入させるのに好ましいものと考えられるが、例えば流動床を利用した乾燥粉末による織布54の被覆によるものなどの他の技術も予期し得る。
【0025】
織布54は、図3においては、静電荷が存在することによって織布54に対する添加剤材料52の粒子の接着性が向上するように、電気的にバイアスされたものとして示される。一般的には、添加剤材料52の適切な粒径は、例えば約1〜約150マイクロメートルの粒径、より好ましくは約10〜約60マイクロメートルの粒径など、ミクロンサイズ以下である。注目すべき点としては、添加剤材料52は、ナノサイズの粒子を含む必要がないということである。好ましくは、噴霧条件は、添加剤材料52が、織布54の厚さ方向を貫通するような条件である。この方法によれば、添加剤材料52の粒子は、例えば約10〜約20体積パーセントなど、3体積パーセント以上の量にて織布54に混入され得る。
【0026】
十分な個数の乾燥織布54に添加剤材料52を混入させて吸気リップ42を形成した後に、結果的に得られた乾燥粉末含有織布56を積層して、乾燥積層構造58を形成し、次いで、この乾燥積層構造58は、所望の樹脂系による浸潤を受けて、吸気リップ42および複合材料層44が作製される。添加剤材料52は、乾燥積層構造58に既に混入されているため、構造58を浸潤させるために使用される樹脂系は、粉末添加剤材料を全く含まなくてもよい。この樹脂系が、粉末添加剤材料を含んだ場合には、樹脂系の粘度が上昇し、この樹脂系により積層構造58の浸潤が阻害されてしまうため、望ましくない。適切な浸潤技術には、樹脂含浸ラミネート複合材料構造の作製でよく知られている樹脂含浸成形法(RTM)および特に真空圧樹脂含浸成形法(VaRTM)が含まれるが、それらに限定されない。図3は、例示を目的として、VaRTMプロセス下にある粉末含有織布56の乾燥積層構造58を図示する。このVaRTMプロセスにより、樹脂系60は、当て板62とバッグ64との間に配置された積層構造58に注入される。当て板62とバッグ64との間に生成される真空により、樹脂系60での積層構造58の各織布56の浸潤が促進される。その後、樹脂注入された積層構造58は、固化および硬化されて、複合材料層44のラミネートスタックが生成され得る。かかるプロセスのさらなる詳細は、当業者の専門知識の範囲内に十分に含まれるものであり、したがって本明細書において詳細には論じる必要性はない。好ましくは、複合材料層44により作製された結果的に得られるラミネートポリマー複合材料は、少なくとも3体積パーセントの添加剤材料52を含み、より好ましくは約10〜約20体積パーセントの添加剤材料を含む。
【0027】
上記のように、図4の混入技術は、樹脂系(例えば前述の樹脂系の中の1つなど)で少なくとも部分的に事前に含浸された少なくとも1つの織布(例えば図3の織布54など)から形成されるプリプレグ74に、添加剤材料52を混入することを伴う。添加剤材料52は、プリプレグ74の単一の表面上に噴霧されるものとして示されるが、添加剤材料52は、プリプレグ74の両表面上に堆積することも可能である。図3の乾燥織布54と同様に、図4のプリプレグ74は、静電荷が存在することによってプリプレグ74に対する添加剤材料52の粒子の接着性が向上するように、電気的にバイアスされたものとして示される。プリプレグ74は、プリプレグ74に含まれる1つまたは複数の織布の隣接し合う繊維同士の間の空間を完全に満たし得る樹脂で含浸されるため、添加剤材料52の粒子は、プリプレグ74の厚さ方向を貫通する可能性は低く、その代わりにプリプレグ74の表面および近表面領域に堆積する傾向を有する。これらの粒子は、おそらくは1粒子を上回る厚さまで、プリプレグ74の表面上に実質的に均一な連続層を形成するように堆積され得る。添加剤材料52の適切な粒径は、図3の実施形態に関して上述したものと同一であることが可能であり、添加剤材料52の粒子は、図3の織布54に関して上述したものと同一の体積量で、プリプレグ74に混入させることが可能である。
【0028】
プリプレグ74に添加剤材料52を混入させた後に、好ましくは、結果的に得られた粉末含有プリプレグ76は、樹脂80を噴霧さることより、添加剤材料52の粒子を湿らせ、プリプレグ74に対するそれらの粒子の接着性を促進させ、粉末含有プリプレグ76を全体的に高粘化させる。樹脂80は、元のプリプレグ74を形成するために織布(または複数の織布)を浸潤するのに使用されたのと同一の樹脂系であってもよい。樹脂80は、粉末含有プリプレグ76の単一表面上に噴霧されるものとして示されるが、プリプレグ76の両表面を樹脂80で被覆することも可能である。好ましくは、添加剤材料52の全粒子が樹脂80の膜により覆われるように、十分な量の樹脂80が塗布される。
【0029】
十分な個数の粉末含有プリプレグ76が、吸気リップ42を形成するための上述の態様で作製される。次いで、結果的に得られた樹脂被覆された粉末含有プリプレグ76は、積層されて積層構造78を形成し、次いでこの積層構造78は、固化および硬化されて、複合材料層44のラミネートスタックが生成され得る。樹脂が、積層構造78に既に混入されているため、固化の前に追加の樹脂を構造78に浸潤させる必要はない。図4は、例示を目的として、スタック構造78が当て板82とバッグ84との間に配置され、次いで圧力および熱にさらされるオートクレーブプロセスを受けるものとして、粉末含有プリプレグ76のスタック構造78を示す。かかるプロセスのさらなる詳細は、当業者の専門知識の範囲内に十分に含まれるものであり、したがって本明細書において詳細には論じる必要性はない。
【0030】
本発明に至る調査においては、酸化アルミニウムまたは窒化ボロンの粉末からなる添加剤材料をさらに含むように、炭素織布で補強されたポリマーマトリックスを含むポリマー複合材料を作製した。基準の複合材料は、樹脂系にこの添加剤材料を混入させ、次いで先行技術の手法にしたがって粉末含有樹脂系で乾燥炭素織布を浸潤させることにより作製した。他の複合材料は、乾燥炭素織布に添加剤材料を直接混入し、図3にしたがって粉末非含有樹脂系で粉末含有織布を浸潤させることにより作製した。先行技術の方法では、約0.8W/mKの伝熱性および最大で約4体積パーセントの添加剤材料含有量が達成されたが、それとは対照的に、図3の方法では、最大で約2.58W/mKまでの厚さ方向伝熱性および最大で約20.6体積パーセントの添加剤材料含有量が達成された。この調査の焦点は、厚さ方向の伝熱性を上昇させることであったが、得られる可能性のある他の利点には、層間靱性、圧縮弾性率等々の機械特性の向上が含まれる。
【0031】
特定の実施形態に関して本発明を説明したが、当業者は、他の形態を採用することが可能である。例えば、ナセル34およびその吸気リップ42の物理的構成は、図面に示すものとは異なることが可能であり、本発明により作製し得るラミネートポリマー複合材料構造は、ナセル構造以外の広範な用途および航空宇宙産業以外の用途にも使用することが可能である。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲のみによって限定される。
【符号の説明】
【0032】
10 エンジン
12 アセンブリ
14 エンジン
16 ケーシング
18 ブレード
20 ノーズ
22 コンプレッサ
24 燃焼器
26 タービン
28 タービン
30 ダクト
32 ノズル
34 ナセル
36 ダクト
38 コアカウル
40 ノズル
42 リップ
44 層
46 表面
48 表面
50 ガン
52 材料
54 織布
56 織布
58 構造
60 系
62 当て板
64 バッグ
74 プリプレグ
76 プリプレグ
78 構造
80 樹脂
82 当て板
84 バッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化織布(54)および添加剤材料(52)の粒子を含むポリマーマトリックスを備えるラミネートポリマー複合材料を製造するための方法であって、
前記強化織布(54)の少なくとも1つをそれぞれが備える少なくとも2つの物品(54、74)に前記添加剤材料(52)の粒子を噴霧して、粒子含有物品(56、76)を形成するステップと、
前記粒子含有物品(56、76)を積層して、積層構造(58、78)を形成するステップと、
前記積層構造(58、78)の中に存在する樹脂を硬化して、前記強化織布(54)および前記樹脂を硬化させることにより形成される前記ポリマーマトリックスを備える前記ラミネートポリマー複合材料を形成するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記物(54)が前記樹脂を含まず、前記強化織布(54)が乾燥しており、噴霧する前記ステップにより、前記添加剤材料(52)の前記粒子が前記強化織布(54)を貫通することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
粘着付与剤が前記強化織布(54)の上に存在することにより、前記強化織布(54)に対する前記添加剤材料(52)の前記粒子の接着性が向上することを特徴とする、請求項2乃至3記載の方法。
【請求項4】
前記樹脂を硬化させる前に、前記積層構造(58)に前記樹脂を注入することをさらに特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記粒子含有物品(76)が粒子含有プリプレグ(76)となるように、前記物(74)の少なくとも1つが、前記樹脂および少なくとも1つの前記強化織布(54)を含むプリプレグ(74)であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記粒子含有プリプレグ(76)の少なくとも1つの表面の上にある量(80)の前記樹脂を噴霧することをさらに特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記強化織布(54)が炭素織布を備えることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤材料(52)が、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの材料であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ラミネートポリマー複合材料が、航空機エンジンナセル(34)の少なくとも一部分である、請求項1乃至8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記部分が、前記航空機エンジンナセル(34)の吸気リップ(42)であることを特徴とする、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−251551(P2012−251551A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−120402(P2012−120402)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【出願人】(310022132)エムアールエイ・システムズ・インコーポレイテッド (11)