説明

ポリマ溶液からの有機溶剤除去方法

【課題】 釜内の減圧を効率良く行い、短時間でポリマ溶液内から有機溶剤を除去する方法を提供する。
【解決手段】 反応釜中のポリマ溶液を真空設備によって減圧状態にして有機溶剤を除去する方法において、加熱部を備えた反応釜1、蒸発させた有機溶剤を凝縮させるコンデンサ4、有機溶剤を回収するレシーバタンク5、レシーバタンク内の液を抜出すポンプ6、釜内を減圧する真空設備8、及び常圧のタンク7を備え、レシーバタンクに溜まった有機溶剤をレシーバタンク内の液を抜出すポンプ(送液ポンプ)により減圧状態の系内から系外の常圧タンクに移送するポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマと有機溶剤の混合物であるポリマ溶液から有機溶剤を取り除く方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマなどの高分子化合物に分散または溶解している有機溶剤を除去する方法としては、有機溶剤を蒸発させ、出てきた蒸気をコンデンサで凝縮させ、タンクに回収する方法が一般に使用されている。特に有機溶剤を効率よく除去する方法として、スチームストリッピング法がある(例えば特許文献1)。
しかし、スチームストリッピング法では有機溶剤が水と混合した状態で回収されることや、ポリマ溶液中に水が入るため、用途によってはスチームストリッピング法を使用できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−29765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
沸点が低い有機溶剤を低圧状態で蒸発させて除去しようとする場合には、コンデンサで凝縮させた有機溶剤がレシーバタンク内で蒸発し、減圧設備側に蒸気が流れてしまい、釜内の減圧の妨げになる場合がある。そのため、回収した有機溶剤の再蒸発を抑えながら溶剤除去操作を続けることができる方法が必要とされている。
本発明は、釜内の減圧を効率良く行い、短時間でポリマ溶液内から有機溶剤を除去する方法(有機溶剤除去方法)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
1.反応釜中のポリマ溶液を真空設備によって減圧状態にして有機溶剤を除去する方法において、加熱部を備えた反応釜、蒸発させた有機溶剤を凝縮させるコンデンサ、有機溶剤を回収するレシーバタンク、レシーバタンク内の液を抜出すポンプ、釜内を減圧する真空設備、及び常圧のタンクを備え、レシーバタンクに溜まった有機溶剤をレシーバタンク内の液を抜出すポンプ(送液ポンプ)により減圧状態の系内から系外の常圧タンクに移送することを特徴とするポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
2.加熱部を備えた反応釜の内部の温度を、0℃〜300℃とする上記1.に記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
3.加熱部を備えた反応釜の内部の圧力を、101.3kPa〜1kPaの減圧状態に減圧する上記1.または2.に記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
4.加熱部を備えた反応釜の内部の圧力を5kPa以下の減圧状態にする上記1.〜3.のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
5.有機溶媒の沸点が100℃以下である上記1.〜4.のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
6.有機溶剤が、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジシクロロメタン、メチルエチルケトン、アセトンの群から選択される少なくとも1種である上記1.〜5.のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
7.ポリマ溶液に含まれるポリマが、ブタジエンゴム、イソプレン、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレンゴム、エチレン・α-オレフィン共重合ゴム、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のいずれかである上記1.〜6.のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法で、有機溶剤の除去を行った場合には、短時間で釜内の圧力を1kPaまで下げることが出来、有機溶剤の濃度を0.01質量%以下まで除去することができる。
本発明の方法は、ポリマ溶液中の有機溶剤の濃度を0.01質量%程度まで下げるために、反応釜内の圧力を5kPa以下に操作する時に、特に有効である。
また、真空設備の排気能力が小さいエゼクタなどを使用して減圧を行う際にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す装置の模式図。
【図2】減圧操作時間と釜内圧力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の詳細を示す。
[脱溶剤方法]
本発明の実施形態の一例を、図1を用いて説明する。
上記ポリマと有機溶剤の混合物であるポリマ溶液を反応釜1に仕込み、あるいは有機溶剤中でモノマーを重合ないし縮合させたポリマ溶液を攪拌機3で攪拌を行いながら、加熱用ジャケット2を使用して混合液を加熱する。加熱の温度はポリマの品質に影響が出ない温度とするため液温の限定はされない。反応釜内の温度が目標値まで達したら、液温が下がらないように熱媒を介して熱を供給しながら、真空設備8を使用して一定速度で減圧を行う。
加熱及び減圧操作によって反応釜内の有機溶剤を蒸発させ、蒸発させた有機溶剤はコンデンサ4で冷却させ、凝縮液をレシーバタンク5に回収する。さらに、レシーバタンクに回収した有機溶剤はレシーバタンク内の液を抜出すポンプ(送液ポンプ)6を使用して、常圧タンク7に抜き出すものである。
【0009】
本発明で使用している上記真空設備8は、反応釜及びコンデンサ、レシーバタンクの内部を減圧するためのものであり、真空ポンプやスチームエゼクタ等を使用することが出来る。
圧力コントロール弁10を使用して、反応釜の内部の圧力を常圧〜1kPaまで調節することができる真空設備が好ましい。
【0010】
本発明で使用している上記送液ポンプ6は、レシーバタンク内に貯まった有機溶剤を抜き出すため、有機溶剤の時間あたりの蒸発量[L/h]より大きい送液能力を持つ必要がある。ポンプの種類としては、ダイヤフラムポンプ等が使用できる。
レシーバタンク内が減圧になるため、最終到達圧力でもレシーバタンク内の液を抜き出せる能力を持った送液ポンプが好ましい。
【0011】
上記コンデンサ4に使用する冷媒の温度は、最終到達圧力での有機溶剤の沸点以下であることが望ましい。そのため、冷媒には工水(工業用水)やチラー、ブライン、オイル、エチレングリコールなどの不凍液を使用することができ、−5℃以下であることが好ましい。
【0012】
[レシーバタンク内からの有機溶剤の抜き出し方法]
上記レシーバタンク内に貯まった有機溶剤は送液ポンプを常時起動させて、抜き出しすることが好ましい。また、レシーバタンクに液面計を設置し、タンク容量の10体積%以上に液が貯まった時にポンプを起動し、液を抜き出す等の制御方法でも良い。
【実施例】
【0013】
図1に示す装置を使用し、アクリル樹脂とアクリル酸−2−エチルヘキシル(AOEC)とメチルエチルケトン(MEK)の混合液からMEKを除去し、樹脂溶液中のMEK濃度を0.01質量%とする操作を行った。
【0014】
(実験方法)
10KL反応釜にアクリル樹脂2500Kg−AOEC2500Kg−MEK2000Kgの混合物を仕込み、釜底から空気(Air)を2.5KL/時間で通気しながら攪拌機の回転数を40rpm(回転/分)として攪拌し、反応釜のジャケット部に熱媒(オイル)を流して、混合溶液の液温を90℃まで昇温した。その後、真空設備(スチームエゼクタ)を使用し減圧速度が−20kPa/時間となるように圧力コントロール弁を調節しながら系内の圧力を約1.3kPa(10mmHg)まで減圧した。
実施例1では、レシーバタンク内に貯まったMEKの抜き出しを、Airポンプを使用して、常時抜き出しを行った。
比較例1では、レシーバタンク内のMEKを抜き出さずに加熱及び減圧操作を行った。
実施例1と比較例1の実験方法で、釜内圧力を1.3kPaに下げるまでにかかる時間を比較した。
【0015】
その実験結果を図2に示した。
反応釜内圧力50kPaまでは実施例1、比較例1共に目標の減圧速度で減圧することが出来た。しかし、50kPa以下に達した時に比較例1では圧力コントロール弁10を全開で減圧を行ったが、反応釜内の減圧速度は遅くなってしまった。
また、このとき比較例1の方法では系内の圧力を10kPa付近まで減圧した時に、レシーバタンク内で回収した液(MEKと少量のAOEC)が沸騰していた。このことから、レシーバタンク内のMEKが再度蒸発し、反応釜側あるいは真空設備(スチームエゼクタ)側に流れるため、反応釜内の圧力が低下しにくくなっていると推察される。
一方、実施例1では、MEKを系外のタンクに抜き出しているため、レシーバタンク5内での蒸発を最小限にすることができ、これにより反応釜内の減圧を速やかに行えることができたと考えられる。
樹脂溶液中のMEK濃度は、実施例1と比較例1共に釜内圧力が1.3kPaに到達してから4時間で0.01質量%に到達した。比較例1では、樹脂溶液中のMEK濃度を0.01質量%とするのに要した時間は、31時間であったが、実施例1では12時間に短縮することができた。
【符号の説明】
【0016】
1:反応釜
2:加熱用ジャケット
3:攪拌機
4:コンデンサ
5:レシーバタンク
6:送液ポンプ(レシーバタンク内の液を抜出すポンプ)
7:常圧タンク
8:真空設備
9:Air通気ライン
10:圧力コントロール弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応釜中のポリマ溶液を真空設備によって減圧状態にして有機溶剤を除去する方法において、加熱部を備えた反応釜、蒸発させた有機溶剤を凝縮させるコンデンサ、有機溶剤を回収するレシーバタンク、レシーバタンク内の液を抜出すポンプ、釜内を減圧する真空設備、及び常圧のタンクを備え、レシーバタンクに溜まった有機溶剤をレシーバタンク内の液を抜出すポンプ(送液ポンプ)により減圧状態の系内から系外の常圧タンクに移送することを特徴とするポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項2】
加熱部を備えた反応釜の内部の温度を、0℃〜300℃とする請求項1に記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項3】
加熱部を備えた反応釜の内部の圧力を、101.3kPa〜1kPaの減圧状態に減圧する請求項1または請求項2に記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項4】
加熱部を備えた反応釜の内部の圧力を5kPa以下の減圧状態にする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項5】
有機溶媒の沸点が100℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項6】
有機溶剤が、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジシクロロメタン、メチルエチルケトン、アセトンの群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。
【請求項7】
ポリマ溶液に含まれるポリマが、ブタジエンゴム、イソプレン、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレンゴム、エチレン・α-オレフィン共重合ゴム、アクリル樹脂、ウレタン樹脂のいずれかである請求項1〜6のいずれかに記載のポリマ溶液からの有機溶剤除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172072(P2012−172072A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35780(P2011−35780)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】