説明

ポリメトキシフラボン類の製造方法

【課題】 みかん属植物の果皮油から、ポリメトキシフラボン類を他の成分から一度に大量に分離でき、安価で食品に使用可能な安全性の高い、さらには様々な製剤化が容易な汎用性のあるポリメトキシフラボン類の製造方法およびその利用方法を提供すること。
【解決手段】 みかん属植物の果皮油から揮発性成分を蒸留によって除去した後の残渣を薄膜減圧蒸留装置で蒸留して留出させ分離することを特徴とするポリメトキシフラボン類の製造方法、並びに当該製造方法により製造されたポリメトキシフラボン類を含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来のポリメトキシフラボン類の簡便な製造方法に関する。詳しくは、みかん属植物の果皮中に存在する果皮油を常圧蒸留もしくは減圧蒸留によりテルペン類等の揮発性成分を除去した後の残渣を、さらに薄膜減圧蒸留装置で蒸留することによりポリメトキシフラボン類を留出させ分離する製造方法である。当該方法によれば、ポリメトキシフラボン類を効率的に、有機溶剤等を使用することなく、低コストで短時間に製造することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から下記一般式(I)の構造式で表されるポリメトキシフラボン類は、みかん属植物、すなわち柑橘類の果皮に多く含まれていることが知られている。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は各々独立して水素又はメトキシ基である。)
特にノビレチン(上記式(I)でR1、R2、R3、R4、及びR5の全てがメトキシ基)に関しては、発ガン抑制作用等の生理活性が明らかにされている物質である(非特許文献1)。
【0003】
さらにポリメトキシフラボン類は食品の分野において、呈味改善剤及び呈味改善方法(特許文献1)や、香味劣化抑制剤(特許文献2)など、様々な有用な効果が見出され注目されている。
【0004】
みかん属植物の果皮油にはポリメトキシフラボン類以外に、非常に性質の異なる多種多様な数多くの成分が含まれている(例えば非特許文献2、非特許文献3)。例えば、テルペン類等の炭化水素化合物、アルデヒド、エステル等のカルボニル化合物、アルコール類等の揮発性成分および通常の条件では揮発しないワックス類、カロテノイド色素等の不揮発性成分が含まれており、簡便な方法でポリメトキシフラボン類を選択的に分離することは困難とされている。
【0005】
みかん属植物の果皮油からポリメトキシフラボン類を製造する従来技術としては、ミカン科植物の果実、果皮、果皮油、葉部等の原料をメタノール、エタノールまたはクロロホルム等の有機溶剤を用いて加熱抽出する方法、または超臨界流体溶媒を用いて抽出する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかし、上記方法ではポリメトキシフラボン類以外に原料由来のリモネン、リナロール、ゲラニオール、ネロール、α−タピネオール、シトラール等の炭化水素化合物類、カルボニル化合物類、エステル類、アルコール類、その他香気成分、およびカロチノイド等の色素成分が含有され、純度の高いポリメトキシフラボン類を得ることができなかった。従って、従来の抽出法によって得られたポリメトキシフラボン類を呈味改善剤または香味劣化抑制剤等の用途に使用する場合、抽出物中の夾雑物による香味、異臭、着色等の問題が生じるので極めて用途が制限されていた。
【0007】
そのため、さらに純度の高いポリメトキシフラボン類を得るため、従来技術においては、ポリメトキシフラボン類を含有する抽出物をシリカゲル、アルミニウムオキシド、アルキルシリル化シリカゲル、アリルシリル化シリカゲル等の担体を充填したカラムに担持させ、例えば酢酸エチル−ヘキサンまたは水−アセトニトリル等の展開溶剤を用いたカラムクロマトグラフィー法または高速液体クロマトグラフィーにより分離精製されている。また、ヘキサン又はペンタン等と含水メタノール又はエタノールによる液液分配クロマトグラフィー、ヘキサン又はペンタン等と含水メタノール又はエタノールによる液液向流抽出法クロマトグラフィーが用いられることもある。
【0008】
しかしながら、これらの方法で得られるポリメトキシフラボン類は、非常に純度が高い反面、一度に多量のポリメトキシフラボン類を分離精製することが困難である。また、多量のポリメトキシフラボン類を調製するには非常に時間がかかり、さらには大量の高価な有機溶媒、特別な装置を必要とすることから、非常にコストがかかるという欠点は避けられず工業的生産には適していない方法であるとされている。またさらには、上記方法においては、n−ヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどの人体に悪影響を与える可能性のある有機溶媒を使用するので、得られたポリメトキシフラボン類を食品に用いることは安全性の面からも適切でない方法である。
【0009】
ポリメトキシフラボン類の簡便な分離方法としては、みかん属植物の果皮油から揮発性成分を蒸留によって除去した後の残渣からアルコール水溶液で抽出する方法も提案されている(特許文献3)。この方法によると、黒褐色タール状の蒸留残渣から簡便な操作で高含有のメトキシフラボン類組成物を得ることができる。しかしながら、この方法で得られる組成物はアルコール溶液であり、そのまま水性製剤として用いることについては有用な方法ではあるが、他の製剤化においては汎用性に欠ける点があった。すなわち、当該アルコール溶液から溶媒を留去した場合、メトキシフラボン類組成物は飴状に固化してしまうため取り扱いが難しくなり、油溶性製剤や粉末製剤への製剤化が困難となることがあった。
【0010】
したがって、みかん属植物の果皮油から、安全性を懸念することなく食品に使用可能であり、簡便で経済的に有利で、なおかつ汎用性のあるポリメトキシフラボン類組成物を製造する方法の開発に成功した例は未だ知れていないのが現状であり、新たな製造方法の提供に期待が寄せられている。
【特許文献1】特開平6−335362号公報
【特許文献2】特開平11−169148号公報
【特許文献3】特開2003−292488号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会誌75巻、12号、2001年、1283〜1290頁
【非特許文献2】香料化学総覧(I)232頁、廣川書店、昭和42年
【非特許文献3】果実の科学、130頁、朝倉書店、1991年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の従来技術における問題点を解決し、みかん属植物の果皮油から、ポリメトキシフラボン類を一度に大量に他の成分から分離でき、安価で食品に使用可能な安全性の高い、さらには汎用性のあるポリメトキシフラボン類組成物の製造方法を提供することである。
【0012】
また、原料であるみかん属植物の果皮油、特にオレンジ果皮油に関しては、工業的にリモネン等のテルペン類や、テルペン類を除いた精油(テルペンレスオイル)等の香料原料として大量に利用されており、その残渣はほとんど有効利用されないまま廃棄されているのが現状である。しかしながら、リモネン等の香料採取後の残渣には大量のポリメトキシフラボン類が含まれており、無償に近い安価な原材料として本発明を適用することができ、廃棄物の有効利用という目的にも資する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリメトキシフラボン類が生理活性、呈味改善効果など様々な効果を有することに着目し、その簡便かつ効率的な分離方法について鋭意研究を行った結果、みかん属植物の果皮油からテルペン化合物等の揮発性成分を除去した後の残渣を、さらに薄膜減圧蒸留装置で蒸留することにより、汎用性の高いポリメトキシフラボン類を留出させて、低コストかつ極めて簡便に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、みかん属植物の果皮油から揮発性成分を蒸留によって除去した後の残渣を、さらに薄膜減圧蒸留装置で蒸留して留出させることを特徴とするポリメトキシフラボン類の製造方法であり、詳しくは、原材料のみかん属植物が、スイートオレンジ(Citrus sinensis)、サワーオレンジ(Citrus aurantium)、タンジェリン(Citrus reticlata Blanco var. tangerine)、マンダリン(Citrus reticlata Blanco var. mandarin)、シイクワシャー(Citrus depressa Hayata)から選ばれる1種または2種以上であり、更に詳しくは、第一の揮発性成分の蒸留による除去工程が圧力1〜100Paかつ温度120〜220℃の条件であり、第二の薄膜減圧蒸留装置での蒸留工程が圧力0.4〜2Paかつ温度190〜260℃の条件であることを特徴とする。
さらに、ポリメトキシフラボン類が、下記一般式(I):
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は各々独立して水素又はメトキシ基である)で表される化合物、より具体的にはポリメトキシフラボン類が、ペンタメトキシフラボン、ノビレチン、テトラメトキシフラボン、タンゲレチン、ヘプタメトキシフラボンからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の製造方法により製造されたポリメトキシフラボン類を20質量%以上含有するポリメトキシフラボン類組成物であり、また、該ポリメトキシフラボン類組成物を含有することを特徴とする経口組成物である。さらに、該ポリメトキシフラボン類組成物を粉末化したことを特徴とするポリメトキシフラボン類の粉末製剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入手しやすい原材料のみかん属植物の果皮油から、純度の高いポリメトキシフラボン類を一度に大量に他の成分から分離でき、安価で食品に使用可能な安全性の高い、さらには汎用性のあるポリメトキシフラボン類の製造方法を提供することができる。
また、本発明のポリメトキシフラボン類組成物は、上記のポリメトキシフラボン類を20%質量以上含有しており、粘性の低い透明な液状組成物であるため、取り扱いに簡便であり容易に油溶性製剤や粉末製剤に加工可能な有用性の高い組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、(a)みかん属植物の果皮油から揮発性成分を蒸留によって除去する工程、次いで(b)前記工程における蒸留除去後の残渣(以下「蒸留残渣」という)をさらに薄膜減圧蒸留装置で蒸留して留出させ分離する工程、からなるポリメトキシフラボン類の製造方法である。
【0018】
本発明のポリメトキシフラボン類を含有する食品の形態は、カプセル、顆粒状、錠剤、ペースト状又は飲料の形態などであってもよい。また、該ポリメトキシフラボン類は、必要に応じて、公知の製剤添加剤などと混合することができる。
【0019】
公知の製剤添加剤としては、賦形剤、基剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤、可塑剤、消泡剤、糖衣剤、剤皮、光沢化剤、発泡剤、防湿剤、界面活性剤、可溶化剤、緩衝剤、溶解剤、溶解補助剤、溶剤、安定化剤、乳化剤、懸濁剤、分散剤、抗酸化剤、充填剤、粘稠剤、粘稠化剤、pH調整剤、防腐剤、保存剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤、着香剤・香料、芳香剤、着色剤などが挙げられる。
【0020】
また、その他、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、大豆レシチン、卵黄レシチン、トコトリエノール、GABA(γ−アミノ酪酸)、テアニン、リコピン、ヤマブシタケ、イチョウ葉、明日葉、ホップ、菊の花、ガジュツ、サフラン、ニンニク、発芽玄米、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、ローヤルゼリー、プロポリス、コラーゲン、植物ステロール、植物性油脂類(オリーブ油、大豆油など)、不飽和脂肪酸、ミツロウ、亜鉛酵母、セレン酵母等と配合してもよい。
【0021】
以下に本発明の実施形態について説明する。
〔1〕ポリメトキシフラボン類およびその原材料:
本発明で抽出・分離されるポリメトキシフラボン類は、下記一般式(I):
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は各々独立して水素又はメトキシ基である)で表される化合物であり、具体的には、ペンタメトキシフラボン(Mp 179℃)、ノビレチン(Mp 134℃)、テトラメトキシフラボン(Mp 128℃)、ヘプタメトキシフラボン(Mp 129〜131℃)、タンゲレチン(Mp 154℃)が該当する。
【0022】
上記ポリメトキシフラボン類は、みかん属植物の外果皮に含まれる果皮油中に多く含有されている。中でも、入手の容易さの観点から特にスイートオレンジ(Citrus sinensis)、サワーオレンジ(Citrus aurantium)、タンジェリン(Citrus reticlata Blanco var. tangerine)、マンダリン(Citrus reticlata Blanco var. mandarin)、シイクワシャー(Citrus depressa Hayata)の果皮油を原材料として用いることが好ましい。果皮油の採取方法は特に限定されるものではないが、例えば、果皮を冷時又は常温下で圧搾して果皮油(コールドプレスオイル)を得る方法が挙げられる。また、オレンジ果皮油から工業的に生産されている天然リモネンの残渣も使用可能である。
【0023】
〔2〕揮発性成分を除去する工程
果皮油中の揮発性成分は常圧又は減圧蒸留によって除去されるが、なるべく低い温度で揮発性成分を除去するという観点から減圧蒸留が好ましい。減圧蒸留は、単蒸留、精留、分子蒸留等一般的な方法で行うことができる。
また、リモネン(bp 175〜176℃)等の揮発性が特に高い低沸点成分を予め蒸留(好ましくは圧力1000〜10000Paで温度50〜200℃の条件)で除去する前処理を行い、次いで得られた残液を本工程に付する、すなわち高真空の条件で蒸留して残液中に残存する難揮発性成分を十分に除去する多段階蒸留が純度の高い製品が得られる点で望ましい。
【0024】
この揮発性成分除去工程における蒸留は、圧力が1〜100Paで蒸留温度が120〜220℃で行われる減圧蒸留が好ましく、特に圧力が10〜50Paで蒸留温度が160〜200℃が好ましい。120℃未満では揮発性成分が十分に除去できない傾向にあり、一方、220℃を超えるとポリメトキシフラボン類が一部留去してしまうためである。
【0025】
ここで、本発明において、果皮油から除去する揮発性成分とは、果皮油中に含まれるリモネン、リナロール(bp 198℃)、ゲラニオール(bp 229〜230℃)、ネロール(bp 225〜226℃)、α−タピネオール(bp 217〜218℃)、シトラール(bp 229℃)等の炭化水素化合物類、カルボニル化合物類、エステル類、アルコール類、その他香気成分であり、前記ポリメトキシフラボン類よりも揮発度の高い、すなわち沸点のより低い成分をいう。
【0026】
〔3〕ポリメトキシフラボン類を分離する工程
本工程は、先の揮発性成分除去工程による蒸留除去後の残渣(以下「蒸留残渣」という)をさらに薄膜減圧蒸留装置で蒸留してポリメトキシフラボン類を留出させて分離する工程である。
本工程において用いられる蒸留は薄膜蒸留で行う。薄膜蒸留とは、ある一定の温度に加熱された面上に被蒸留物(前記蒸留残渣)を連続的に供給して均一な薄膜を形成させ、該被蒸留物をその面上にある間だけ加熱し、揮発性成分を蒸発させることにより揮発性成分と不揮発性成分を分離する蒸留方法である。
【0027】
本工程において、圧力および温度条件は0.1〜5Pa、190〜260℃、好ましくは0.4〜2Pa、190〜260℃で行われる。190℃未満ではポリメトキシフラボン類の留出に時間がかかり、一方、260℃を超えるとポリメトキシフラボン類以外の成分が留出してしまい、ポリメトキシフラボン含量が低下してしまう。
【0028】
以上述べた製造方法によって得られるポリメトキシフラボン類は、各種のポリメトキシフラボン化合物の混合物のままであっても、食品の呈味改善剤又は香味劣化抑制剤等として使用することができる。従って、みかん属植物の果皮油からポリメトキシフラボン類だけを他の成分から分離できればよい場合が多く、必ずしもポリメトキシフラボン類の個々の成分を化合物ごとに単離精製する必要はない。
【0029】
ただし、純度の高いポリメトキシフラボン類、例えばヘプタメトキシフラボン等の単品が必要な場合は、再結晶法またはカラムクロマトグラフィー法により容易に精製することが可能であり、必要に応じて当業者間で公知である適切な精製法を適宜選択して使用することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例は例示の目的にのみ用いられ、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0031】
〔測定例〕
市販のオレンジ果皮油(FISCHER S/A社製「ORANGE PEEL OIL」)を酢酸エチルで5倍希釈し、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてポリメトキシフラボン類の含有成分量について定量した。
定量した結果を以下の表1に示す。なお、本実験例で用いたHPLCの条件を以下に示す:
装置:アジレント・テクノロジー株式会社製 「Agilent 1100 HPLC システム」
カラム:株式会社資生堂製「CAPCELL PAK C18MG」 (カラム温度:40℃)
溶離液:A. アセトニトリル
B. 10%アセトニトリル水溶液(pH2.5 H3PO4
グラジエント条件: 0分 → 25分
A. アセトニトリル 0% 100%
B. 10%アセトニトリル水溶液
(pH2.5 H3PO4) 100% 0%
流速: 1ml/分間
検出波長: 325nm
【0032】
各成分の含有量は、予め単離した純品で作成した検量線を用いて算出した。表1のポリメトキシフラボン類の含量は、ペンタメトキシフラボン、ノビレチン、テトラメトキシフラボン、ヘプタメトキシフラボン、タンゲレチンの含有量の総和を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔蒸留例〕
測定例で用いた市販のオレンジ果皮油1000kgを圧力1330Pa、釜温度150℃にて前処理の減圧蒸留を行い、リモネン等の高揮発性の低沸点成分が除去された釜残液50kgを得た。
前処理の蒸留で得られた釜残液100gを各種の温度、圧力条件で減圧蒸留を行い、揮発性成分を除去した。
このようにして得られた留分及び蒸留残渣を分析した結果を表2に示す。
【0035】
表中で「収率」は減圧蒸留で得られた留分および蒸留残渣の重量を前処理蒸留の釜残液重量の百分率で表し、ポリメトキシフラボン類の回収率とは、オレンジ果皮油中に含まれるポリメトキシフラボン類の釜残液への回収率を示し、下記計算式(I)を用いて算出した。
回収率(%)=(c×d)/(a×b)×100(%) (I)
〔式中a:蒸留に使用した油の重量(kg)b:蒸留に使用した油のポリメトキシフラボン(類)の含量(%)c:蒸留残渣の重量(kg)d:蒸留残渣のポリメトキシフラボン(類)の含量(%)〕
【0036】
また、蒸留により得られた蒸留残渣25gに30%エタノール水溶液を500g加え、1時間かけて加熱還流し抽出を行った。25℃まで冷却後、上層のオイル部とエタノール水溶液層を分液した。エタノール水溶液層を濾過後、減圧濃縮乾固することにより得られたポリメトキシフラボン類を50%エタノール水溶液で1%に希釈し、希釈液をグルコースの10%水溶液に0.1%添加することにより異味異臭の有無を評価した結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示したように、蒸留温度が200℃を超える場合は、留分にポリメトキシフラボン類が留出してしまい、蒸留残渣のポリメトキシフラボン類の回収率が低下してしまう。一方、蒸留温度が160℃以下ではオレンジ様の香気が残ってしまう。
【0039】
〔実施例1〕
(1)揮発性成分除去工程
測定例で用いた市販のオレンジ果皮油1000kgを、前処理として、圧力1330Pa、釜温度150℃にて減圧蒸留を行い、リモネン等の低沸点成分が除去された釜残液50kgを得た。
上記前処理で得られた釜残液50kgを圧力40Pa、温度190℃で、薄膜蒸留装置(アルバックテクノ株式会社製「CEH-400BII」)を用いて蒸留を行い、難揮発性成分が除去された蒸留残渣25.6kgを得た。
得られた蒸留残渣を酢酸エチルで1000倍に希釈し、測定例と同条件で測定した。その結果を表3に示す。
【0040】
なお、回収率とは、オレンジ果皮油中に含まれるポリメトキシフラボン類の蒸留残渣への回収率を示し、下記計算式(I)を用いて算出した。
回収率(%)=(c×d)/(a×b)×100(%) (I)
〔式中a:蒸留に使用した油の重量(kg)b:蒸留に使用した油のポリメトキシフラボン(類)の含量(%)c:蒸留残渣の重量(kg)d:蒸留残渣のポリメトキシフラボン(類)の含量(%)〕
【0041】
【表3】

【0042】
表3に示したように、揮発性成分除去工程では、ポリメトキシフラボン類は損失することなく、オレンジ果皮油から蒸留残渣中に回収された。以下に示すポリメトキシフラボン類分離工程は、上記の揮発性成分除去工程で得られた蒸留残渣を用いて行った。
【0043】
(2)ポリメトキシフラボン類分離工程
揮発性成分除去工程で得られた蒸留残渣150gを圧力2Pa、温度210℃で、薄膜蒸留装置(大科工業株式会社製「MS-F」)を用いて蒸留を行い、ポリメトキシフラボン類を56g得た。得られたポリメトキシフラボン類は、橙黄色の粘性の高いペースト状のオイルであった。このようにして得られたポリメトキシフラボン類を99.5%アルコール水溶液で1000倍希釈し、前記の測定例と同条件で固形分中のポリメトキシフラボン類の含量を測定した結果を表4に示す。なお、回収率とは前処理蒸留で得られた蒸留残渣からのポリメトキシフラボン(類)の回収率を示しており、揮発性成分除去工程における回収率の計算と同様にして算出した。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示したように容易にかつ高含有のポリメトキシフラボン類組成物を高い回収率で製造することが可能であった。
【0046】
〔実施例2〕
(1)揮発性成分除去工程
実施例1の揮発性成分除去工程と全く同様の処理を行って揮発性成分が除去された蒸留残渣25.6kgを得た。
【0047】
(2)ポリメトキシフラボン類分離工程
得られた蒸留残渣100gを圧力は0.4Paに設定し、各種温度条件で減圧薄膜蒸留を行った。このようにして得られた留分及び蒸留残渣を、実施例1と同条件で分析した結果を表5に示す。なお、回収率は減圧蒸留で得られた留分および蒸留残渣の重量を揮発性成分除去工程の釜残液重量の百分率で表し、ポリメトキシフラボン類の回収率は揮発性成分除去工程における回収率と同様な方法を用いて算出した。
【0048】
【表5】

【0049】
表5に示したように、蒸留温度が260℃を超える場合は、ポリメトキシフラボン類以外の成分が留出してしまい、ポリメトキシフラボン類の含量が低下してしまう。一方、蒸留温度が190℃以下ではポリメトキシフラボン類の回収率が低下してしまう。
【0050】
〔実施例3〕油溶性製剤
実施例1で得られたポリメトキシフラボン類を用いて、以下の表6の処方に従い油溶性製剤を調製した。
【0051】
【表6】

【0052】
このようにして得られた油溶性製剤は、流動性の高い液状組成物であり、安定性が高い製剤であった。
【0053】
〔実施例4〕
実施例3で得られた油溶性製剤を用いて、常法に従って、下記の表7の組成を有するソフトカプセル形状の食品を調製した。
【0054】
【表7】

【0055】
〔実施例5〕乳化粉末製剤
アラビアガム65質量部を200質量部の水に加温溶解させた後、微結晶セルロース5質量部を分散させ、これに実施例1で得たポリメトキシフラボン類30質量部を添加して乳化した。これを噴霧乾燥して乳化粉末製剤を調製した。この粉末製剤は、流動性があり、かつ安定性の高い製剤であった。
【0056】
〔実施例6〕吸着粉末製剤
マルトース75質量部に実施例1で得たポリメトキシフラボン類25質量部を添加して攪拌混合し、吸着粉末製剤を調製した。この粉末製剤は、流動性があり、かつ安定性の高い製剤であった。
【0057】
〔実施例7〕
実施例5で得られた粉末製剤を用いて、常法に従って、下記の表8の組成を有する錠剤を調製した。
【0058】
【表8】

【0059】
〔実施例8〕エタノール製剤
実施例1で得られたポリメトキシフラボン類10gにエタノール水溶液を100g加え、60℃に加温して1時間攪拌抽出を行った。−5℃まで冷却後、上層のオイル部とエタノール水溶液層を分液し、エタノール水溶液層をろ過した。得られたポリメトキシフラボンを実施例1と同条件で分析した結果を表9に示す。
【0060】
【表9】

【0061】
表9から抽出に使用するアルコール濃度が10%〜20%の場合には分離されるポリメトキシフラボン類の純度は高いものの、回収率が33〜60%と低く非効率的であった。
一方、アルコール濃度が60%と80%の場合には、分離されるポリメトキシフラボン類の回収率は97〜99%と高いものの、純度は25〜64%と低かった。
アルコール濃度が30%〜50%の場合には、分離されるポリメトキシフラボン類の純度が73〜87%と高く、さらに回収率も78〜94%と非常に効率よくポリメトキシフラボン類を得ることができた。
【0062】
〔実施例9〕水溶性製剤の調製
本発明のポリメトキシフラボン類を使用して以下のように水溶性製剤を調製した。
実施例1で得られたポリメトキシフラボン類10gに40%エタノール水溶液を100g加え、60℃に加温して1時間攪拌抽出を行った。−5℃まで冷却後、上層のオイル部とエタノール水溶液層を分液し、エタノール水溶液層をろ過し、ろ液99.0gを得た。得られたろ液を10.1gまで濃縮し、99%エタノールを11.0g加えることにより、エタノール製剤21.1gを得た。得られたエタノール製剤のポリメトキシフラボン類を実施例1と同条件で分析した結果を表10に示す。
【0063】
【表10】

【0064】
このようにして得られたエタノール製剤は、異味・異臭がなく、粘性の低い黄色の液体であった。
【0065】
〔実施例10〕オレンジ飲料の調製
以下の表11の処方に従ってオレンジ飲料を調製した。
【0066】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、蒸留(特に減圧蒸留)及び減圧薄膜蒸留による精製を組み合わせたことにより、みかん属植物の果皮油から不純物が少なく異味異臭のないポリメトキシフラボン類を簡便にしかも非常に効率よく分離することができる。また、本発明により食品に使用可能な安価で且つ安全性の高いポリメトキシフラボン類を工業的に得ることが可能となる。さらに、本発明を適用すれば、これまで廃棄されていたリモネン等のテルペン類及びテルペン類を除いた精油(テルペンレスオイル)採取後のオレンジ果皮油残渣を利用することも可能となり、資源の有効利用に多大な貢献をすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
みかん属植物の果皮油から揮発性成分を蒸留によって除去した後の残渣を薄膜減圧蒸留装置で蒸留して分離することを特徴とするポリメトキシフラボン類の製造方法。
【請求項2】
みかん属植物がスイートオレンジ(Citrus sinensis)、サワーオレンジ(Citrus aurantium)、タンジェリン(Citrus reticlata Blanco var. tangerine)、マンダリン(Citrus reticlata Blanco var. mandarin)、シイクワシャー(Citrus depressa Hayata)から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載のポリメトキシフラボン類の製造方法。
【請求項3】
揮発性成分の蒸留による除去工程が圧力1〜100Paおよび温度120〜220℃の条件であり、次の薄膜減圧蒸留装置での蒸留工程が圧力0.1〜5Paおよび温度190〜260℃の条件であることを特徴とする請求項1または2記載のポリメトキシフラボン類の製造方法。
【請求項4】
みかん属植物の果皮油を、最初に圧力1000〜10000Paおよび温度50〜200℃の条件で蒸留に付して残渣(1)を得、次いで残渣(1)を圧力1〜100Paおよび温度120〜220℃の条件で蒸留に付して残渣(2)を得、最後に残渣(2)を薄膜蒸留装置を用い圧力0.4〜2Paおよび温度190〜260℃の条件で蒸留に付して留出させ分離することを特徴とするポリメトキシフラボン類の製造方法。
【請求項5】
ポリメトキシフラボン類が、下記一般式(I):
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、及びR5は各々独立して水素又はメトキシ基である)で表される化合物である請求項1〜4のいずれかの項に記載のポリメトキシフラボン類の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載のポリメトキシフラボン類の製造方法により製造されたポリメトキシフラボン類を20質量%以上含有するポリメトキシフラボン類組成物。
【請求項7】
請求項6記載のポリメトキシフラボン類組成物を含有することを特徴とする経口組成物。
【請求項8】
請求項6記載のポリメトキシフラボン類組成物を粉末化したことを特徴とするポリメトキシフラボン類の粉末製剤。

【公開番号】特開2010−37317(P2010−37317A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205527(P2008−205527)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】