説明

ポリリン酸を安定化剤とするエリスロポエチン溶液製剤

【課題】安定なエリスロポエチン溶液製剤、特にこれまで製剤処方例のない安定なネコエリスロポエチン溶液製剤の提供。
【解決手段】安定化剤としてポリリン酸を含むエリスロポエチン溶液製剤は、エリスロポエチンの活性を保持し、長期間安定であるため、安定なエリスロポエチン溶液製剤処方として有効である。さらに好ましくは、ポリリン酸の濃度が1μM〜1mMであること、pH6.0〜7.0のクエン酸緩衝液を含むこと、等張化剤として塩化ナトリウムを含むこと、吸着防止剤としてポリソルベート80を含むこと、安定化剤としてさらにマルトースを含むことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定なエリスロポエチン溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(以下、本明細書において「EPO」と記載することがある。)は、赤血球産生を促進するホルモンで、主に腎臓において生産される。ヒトEPOは192残基のアミノ酸で構成されており、その内、N末端から27残基がシグナルペプチド、165残基が成熟タンパク質のアミノ酸配列からなり、N型結合糖鎖およびO型結合糖鎖修飾を受けた分子量約34,000Daの糖タンパク質である。組織が低酸素ストレスを受けると、EPOは骨髄中の原始前駆細胞が、前赤芽球に変換されるのを促進することにより赤血球の産生を増大させる。その他、ヒト以外にも、マウス、ラット、イヌ、ネコなどのEPO cDNAクローニングがなされている(非特許文献1)。
【0003】
EPOは慢性腎不全、化学療法剤又は外科手術によって引き起こされる貧血の改善に有効であり、ヒトEPOは医薬品として利用されている。なお、コンパニオンアニマルであるイヌおよびネコにおいても上記ヒトと同様の貧血が見られ、これらの動物の死亡および能力障害の主な原因となっており、医薬品として唯一開発されているヒトEPOがその治療薬として利用されている(非特許文献2)。しかしながら、ヒトEPOがイヌおよびネコに投与された場合には種の違いにより中和抗体が発現し、この抗体により投与したEPOの有効性が減弱したり、またイヌ、ネコ本来のEPOと交叉反応して貧血を悪化させたりする(非特許文献1)などの問題点がある。
【0004】
ヒトEPO製剤としては、安定化剤としてタンパク質ではなくアミノ酸を含む溶液製剤があり、10℃で2年間、25℃で6ヶ月以上、40℃で2週間以上保存し、その剤のエリスロポエチン残存率は95%以上との結果が示されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1にはEPO溶液製剤の安定化剤としてポリリン酸が使用できることについては記載がなく、また、特許文献1にはネコEPO溶液製剤に関する記載もない。
【特許文献1】特開平10−182481号公報
【非特許文献1】ヴェンら:ブラッド(Blood)、82、1507(1993)
【非特許文献2】コーキルら:ジャーナル・アメリカン・ベターナリー・メディカル・アソシエーション(J.Am.Vet.Med Assc)、15,214(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は安定なエリスロポエチン溶液製剤、特にこれまで製剤処方例のない安定なネコエリスロポエチン溶液製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、エリスロポエチン溶液製剤においてポリリン酸が安定化剤として有効であることを新規に見いだし、発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)安定化剤としてポリリン酸を含むことを特徴とする安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(2)ポリリン酸の濃度が1μM〜1mMであることを特徴とする(1)に記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(3)pH6.0〜7.0のクエン酸緩衝液を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(4)等張化剤として塩化ナトリウムを含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(5)吸着防止剤としてポリソルベート80を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(6)安定化剤としてさらにマルトースを含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(7)エリスロポエチンが組換え動物細胞で生産されることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
(8)エリスロポエチンがネコエリスロポエチンであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、安定で不溶性微粒子が少なく、注射剤として調製可能なEPO溶液製剤を調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用するEPOは、哺乳動物由来であれば特に限定されないが、好ましくはヒト、イヌまたはネコのEPOであり、より好ましくはネコのEPOである。と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のものや遺伝子組換えにより得られた天然由来のEPOと実質的に同じ生物学的活性を有するものであってもよく、遺伝子組換えにより得られるEPOは天然のEPOとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列の1または複数個を欠失、置換、付加したもので生物学的活性を有するものであってもよい。また、本発明で使用するEPOはポリエチレングリコール(PEG)等の化学修飾されたEPOであってもよい。
【0010】
本発明で使用されるEPOはいかなる方法で製造されたものでもよく、例えば尿より種々の方法で抽出・分離精製したもの、遺伝子工学的手法により得られた組換え動物細胞で産生し、種々の方法で抽出・分離精製したものであってもよいが、好ましくは組換え動物細胞より産生されたものであり、より好ましくは組換えCHO細胞より産生されたものである。
【0011】
本発明で使用されるEPOを組換え動物細胞を用いて製造する場合の製造方法について、以下に説明する。
【0012】
組換え動物細胞の製造方法としては、例えば、EPOをコードするDNAを組み込んだプラスミドすなわち、発現ベクターを調製し、定法により動物細胞に形質転換する方法が挙げられる。該発現ベクターに組込まれるプロモーターは、宿主である動物細胞により、SV40初期、後期、hCMVなど最終的に活性型のEPOを得られるものであればよい。マーカー遺伝子は、ネオマイシン(neo)遺伝子やジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)遺伝子などが用いられる。選択用添加物質として、マーカー遺伝子がneo遺伝子の場合はG−418、dhfr遺伝子の場合はメトトレキセートが例示される。宿主細胞への形質転換は、公知の方法、例えばリン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法。リポフェクチン法などの沈殿法、プロトプラストポリエチレン法、エレクトロポレーション法などが利用できる。
【0013】
前記組換え動物細胞から産生されたEPOの精製方法は、上記のようにして動物細胞を培養して培養上清中に得られたEPOを数種類のカラムクロマトを実施することで精製可能である。例えば、銅キレート担体、陰イオン交換体、ゲル濾過担体の組み合わせにより精製可能である。
【0014】
本発明に使用される安定化剤としては、ポリリン酸が適している。好ましいポリリン酸は、オルトリン酸が脱水縮合して得られる直鎖縮合ポリリン酸が挙げられ、2個以上のPO四面体が頂点の酸素原子を共有して直鎖状に連なった構造をした直鎖縮合ポリリン酸が挙げられる。なお、ここでいうポリリン酸は、ポリリン酸の水酸基の水素が金属と置換した分子構造をしたポリリン酸塩であってもよく、金属としてはナトリウム、カリウムが挙げられる。なお、ポリリン酸のリン酸の重合数を表すnは好ましくは15〜2000である。
【0015】
製剤中の安定化剤であるポリリン酸の含有量としては特に限定されないが、好ましくは1μM〜1mMである。なお、本発明の溶液製剤は血清アルブミンまたはゼラチン等のEPO以外のタンパク質あるいはアミノ酸を実質的に含まなくても安定であることから、前記タンパク質またはアミノ酸を含まないことが好ましい。
【0016】
また、本発明においては安定化剤として前記ポリリン酸に加えてマルトースを含有することも好ましい態様の1つである。マルトースは、別名麦芽糖とも呼ばれており、α−グルコース2分子がα1−4グリコシド結合した還元性二糖である。マルトースの含有量は、好ましくは110mg/mL〜440mg/mLであり、より好ましくは150mg/mL〜400mg/mLである。なお、溶液製剤中に安定化剤としてポリリン酸を1μM〜1mM、マルトースを150mg/mL〜400mg/mLを含有する場合、40℃、1ヶ月の加速試験において、最も高いEPOの残存活性を示した。
【0017】
本発明の溶液製剤は、トリス緩衝液やクエン酸緩衝液などの溶液製剤の分野で公知の緩衝液に溶解することにより好ましく調製可能であるが、安定性の観点からクエン酸緩衝液が好ましく使用される。クエン酸緩衝液としては、クエン酸ナトリウムの緩衝液が好ましい。緩衝液の好ましいpHは5.0〜8.0、より好ましくは6.0〜7.0である。
【0018】
本発明の溶液製剤は、等張化剤が好ましく使用され、中でも塩が好ましく使用される。等張化剤として使用される塩の具体例としては、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムが挙げられるが、本発明の溶液製剤での好ましい塩は塩化ナトリウムである。等張化剤の好ましい含有量としては、5mg〜10gであり、より好ましくは8mg〜20mgである。
【0019】
さらに、本発明の溶液製剤は、吸着防止剤が好ましく使用される。吸着防止剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル系の界面活性剤が好ましく、具体例として、ポリソルベート20、21、40、60、65、80または85が挙げられるが、中でもポリソルベート80がより好ましい。吸着防止剤の好ましい添加量は、0.01〜1mg/mL、より好ましくは0.02〜0.1mg/mLである。
【0020】
本発明に溶液製剤中に含まれるネコEPOの量は、治療対象となる疾患の種類、重症度、年齢などに応じて設定できるが、一般的には100〜5000U/mL、好ましくは200〜2000U/mLである。本発明の溶液製剤は、経口、注射剤(皮下もしくは静注)、経皮、経粘膜、経鼻などで投与されるが、好ましくは注射剤により投与される。
【0021】
本発明の溶液製剤には、EPO、ポリリン酸の他にも、ポリエチレングリコール、デキストラン、D−マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、スクロースなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩、などの溶液製剤に通常添加される成分を含むことも可能である。
【0022】
本発明の溶液製剤は、通常密封、滅菌されたプラスチックまたはガラス容器に収納されている。注射剤である場合、容器はアンプル、バイアル、ディスポーザブル注射器などの形状のもので供給される。
【0023】
本発明の溶液製剤が安定な溶液製剤であるかどうかについては、40℃、2ヶ月の加速試験中または加速試験後のEPOの残存活性を測定することにより確認することができる。EPOの残存活性はヒトEPO ELISA kit(R&D system社製)に添付の方法に従い測定し、その添加効果を調べることで確認することができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0025】
参考例1 ネコEPOを発現する組換えCHO細胞の作製およびネコEPO産生
市販のpcDNA3.1ベクター(インビトロジェン社製)にネコEPO遺伝子(配列番号1)またはマウスdhfr遺伝子(配列番号2)を挿入したベクターをそれぞれ100μg、10μgを調製し、CHO/dhfr-細胞1×10cells/750μL DMEM/F12培地を調製したものと混合した。室温で30分静置し、エレクトロポレーション装置(バイオラッド社製)に設置し、330μF、400Vで通電した。5分間静置後、氷上でさらに10分静置し、10%FBS、ヒポキサンチン、チミジンを含むIMDM培地(インビトロジェン社製)10ccに懸濁し、10cmシャーレにまいた。37℃、5%CO条件下2日間培養し、細胞を遠心操作により回収し、10%FBS、0.3mg/mL G−418を含むIMDM培地(インビトロジェン社製)10ccに懸濁し、100μL/wellの割合で96穴プレートに処理した。3日毎に10%FBS、0.3mg/mL G−418を含むIMDM培地で交換し、15日間培養を行った。15日後、顕微鏡観察を行い、生存している細胞を選択し、コロニー単離を行った。
【0026】
得られたクローンを10%FBS、0.3mg/mL G−418を含むIMDM培地(インビトロジェン社製)で増殖させ、2×10cells/10cc/10cmシャーレを準備し、最終濃度5nMメトトレキセート(MTX)を添加した。3日毎に5nM MTXを含む上記培地と交換し、10−15日間培養を継続し、細胞が生存していてコロニーを形成しているものについて、細胞を回収し、2×10cells/10cc/10cmシャーレを準備し、最終濃度50nM MTXを添加した。同様の方法で、500nM MTXまで処理を行い、細胞の生存が確認できる2クローンを選別した。
【0027】
得られた動物細胞形質転換体2クローン(rFeEPO/CHO1、rFeEPO/CHO2)を用いて、無血清培地への馴化を行った。無血清培地として、20μg/mLインスリンおよび抗生物質としてペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を添加したDMEM/F12(インビトロジェン社製)を準備した。上記(2)の10%FBSを含むIMDM培地(血清培地とする)で継代した細胞を用いて以下の方法で馴化した。無血清培地:血清培地=0:100(培地A)、50:50(培地B)、100:0(培地C)の混合液をそれぞれ用意し、250mL三角フラスコを用いて細胞接種時に細胞密度5×10cells/mLとなるように調製し、まず培地Aで37℃、5%CO存在下細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Bで37℃、5%CO存在下で細胞培養を行った。継代を4−6回行い、次に培地Cで37℃、5%CO存在下で細胞培養を行い、継代を4−6回実施した。その結果、得られた細胞をそれぞれrFeEPO/CHO1’またはrFeEPO/CHO2’とした。これらの細胞は、20μg/mLインスリン存在下生育可能なインスリン要求性の細胞であり、浮遊性細胞であった。
【0028】
得られた細胞をそれぞれ、250mL三角フラスコにより初期細胞密度5×10cells/mLとなるように調製し、5%CO・37℃・100rpm条件下、前記無血清培地で5日間培養すると組換えネコEPOの生産性はいずれも約10mg/Lであった。
【0029】
参考例2 ネコEPOの検出
参考例1で得られた培養上清中のネコEPOをウエスタンブロッティング法によって検出した。培養上清をアトー(株)製のアクリルアミドゲル“パジェル”中、SDS−PAGEに供した。その後、アトー(株)製の“クリアブロットメンブラン”に常法に従ってブロッティング後、メンブランを、抗ヒトEPOポリクローナル抗体を含むウサギ血清を含む“ブロックエース”(大日本製薬(株)製)溶液に6時間反応させ、0.02%Tween20を含むPBSにて3回洗浄し、さらにペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG(バイオラット(株)製)を含むブロックエース溶液に6時間反応させ、同様に洗浄した後、コニカ(株)製のコニカイムノステインHRP1000にて発色を行った。その結果、rFeEPO/CHO1’およびrFeEPO/CHO2’の細胞培養上清から、いずれも約30〜35kDaのバンドを検出した。
【0030】
ヒトEPO ELISA kit(R&D system社製)を用いて、培養液中のネコEPOの定量を行った。その結果、ネコEPOの生産速度は800〜1200U/10cells/48hであった。ネコEPOの推定分子量がおよそ30〜35kDaであり、ヒトEPO ELISA kitによる測定の結果、EPOの定量が可能であったことから、参考例1の培養上清中にネコEPOが発現したものと判断した。
【0031】
参考例3 CHO細胞生産ネコEPOの精製
1.限外濾過法による濃縮・バッファー交換
参考例1で得られたネコEPOを含む細胞培養上清を、限外ろ過装置(ミリポア社製)により、分子量10000以下の物質の除去およびHCO60を含む10mM Tris緩衝液(pH7)にバッファー置換を行い、30倍濃縮を行った。限外ろ過に使用した膜は、YM10(ミリポア社製、分子量10000カット)を使用した。
【0032】
2.陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
次に、HCO60を含む10mM Tris緩衝液(pH7)で平衡化した陰イオン(アニオン)交換担体であるDEAEセファロース(アマシャム社製)を用意し、濃縮したネコEPOを含む溶液を導入した。十分にカラムの洗浄を行った後、HCO60を含む10mM Tris−AcOH緩衝液(pH6)、HCO60を含む10mM Tris−AcOH(pH5)を通液し、カラム内のpHを低下させて不純物を除去した。次に、pH5に達したところで、50mM NaCl/10mM Tris−AcOH(pH5)/0.01% HCO60、100mM NaCl/10mM Tris−AcOH(pH5)/0.01% HCO60、200mM NaCl/10mM Tris−AcOH(pH5)/0.01% HCO60、500mM NaCl/10mM Tris−AcOH(pH5)/0.01% HCO60で段階的に溶出させ、200mM NaCl/10mM Tris−AcOH(pH5)/0.01% HCO60の画分を次の銅キレートカラムクロマトグラフィーに供した。
【0033】
本操作における活性回収率をヒトEPO ELISA kitによる測定した結果、約50−70%であった。
【0034】
3.銅キレートカラムクロマトグラフィー
次に、上記2の精製フラクションを、銅イオンをキレート結合させた銅キレーティングセファロースファーストフロー(アマシャム社製)を予めHCO60を含む10mM Tris緩衝液(pH5)で平衡化させた後、通液した。さらにHCO60を含む10mM Tris−AcOH緩衝液(pH5)でカラムに通液したところ、ネコEPO以外の高分子量不純物が除去され、これらのフロースルーを回収した。
【0035】
本操作における活性回収率をヒトEPO ELISA kitによる測定した結果、70−80%であった。
【0036】
4.ゲル濾過
最後に、上記3の精製フラクションを、セファクリルS−200(アマシャム社製)のカラムに導入し脱塩操作を行った。このカラムは、pH6.8〜7.0の20mMクエン酸ナトリウム/150mM塩化ナトリウム/0.01% HCO60で展開した。
【0037】
5.得られたネコEPOの純度、精製収率および比活性
上記1〜4の操作の結果得られたネコEPOサンプルをSDS−PAGEを行い、図1のレーン5に示すように銀染色によるゲル染色において、ネコEPOの単一化を確認した。また、イメージアナライザー(バイオラッド社製)により染色したゲルを用いた純度検定を行った結果、90%の純度を確認することができた。さらに、得られたネコEPOサンプルをC4樹脂カラム(VYDAC社製)に供した。測定条件は、流速1mL/minで通液し、0〜80%エタノール/10mM Tris−HCl(pH7)のグラジエント溶出を行い、230nmのUV吸光度測定を行った。その結果、リテンションタイム50−60min、約66−80%エタノールの画分に溶出が見られ、得られたネコEPOの純度は約90%であった。
【0038】
さらに、上記1〜4の操作の結果得られたネコEPOの最終的な精製収率をヒトEPO ELISA kitによる測定した結果、35−50%であった。また、ゲル濾過精製溶液のタンパク定量をBCA protein assay(PIERCE社製)を用いて定量した結果、比活性は約100000U/mgであった。また、エンドトキシン含量は0.9ng/mg蛋白量であった。
【0039】
参考例4 精製ネコEPOを用いたpH安定性検討
ネコEPO500U、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム 8.5mgを10mM Tris緩衝液または10mMクエン酸緩衝液で1mLに調製した。各緩衝液のpHは、pH4,5,6,7,8,9に調製した。それぞれ調製した溶液を2mLのガラスバイアルに充填し、40℃恒温槽内に1ヶ月放置した。製剤中のネコEPOの残存活性は、ヒトEPO ELISA kitを用いて評価した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
本結果から、pHが6〜7で最もネコEPOの残存活性が高いことが判明した。
【0042】
実施例1 安定化剤であるポリリン酸の効果
ネコEPO 500U、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム8.5mgを、10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で1mLに調製した。さらに、ポリリン酸(SIGMA社製、P8510、重合数n=12)を最終濃度1mM、100μM、10μM、1μM、100nM、10nM、1nMになるように添加した。それぞれ調製した溶液を2mLのガラスバイアルに充填し、40度恒温槽内に3ヶ月放置した。製剤中のネコEPOの残存活性は、ヒトEPO ELISA kitを用いて評価した。得られた結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
本結果から、ポリリン酸を添加すると安定性が向上することが判明した。
【0045】
実施例2 安定化剤であるポリリン酸およびマルトースを含むネコEPO溶液製剤の保存安定性検討
ネコEPO500U、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム8.5mgを10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で1mLに調製した。さらに、マルトースが最終濃度440mg/mLになるように添加し、さらにポリリン酸(SIGMA社製、P8510、重合数n=12)が最終濃度1mM、100μM、10μMになるように調製した溶液を2mLのガラスバイアルに充填し、40℃恒温槽内に4ヶ月放置した。1ヶ月毎の製剤中のネコEPOの残存活性は、ヒトEPO ELISA kitを用いて評価した。得られた結果を図1に示す。保存4ヶ月に渡り活性が約100%維持できていた。
【0046】
実施例3 マウスを用いた急性毒性試験
実施例2で調製したネコEPO溶液製剤(ネコEPO 500U、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム8.5mg、マルトース440mgを、ポリリン酸100μMを含む10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で1mLに調製)を用いて急性毒性試験を実施した。Crj:CD−1(ICR)マウス1群5匹(メス)に対して、皮下投与を行った。用量は1μg/頭、10μg/頭、100μg/頭、1mg/頭、10mg/頭の5用量を設定し、投与した。投与後から投与14日間一般状態観察、体重測定は週1回、14日後に剖検を行ったところ、異常を示す症状は見られなかった。
【0047】
実施例4 貧血モデル猫へのネコEPO製剤投与試験
実施例2で調製したネコEPO溶液製剤(ネコEPO 500U、ポリソルベート80 0.05mg、塩化ナトリウム8.5mg、マルトース440mgを、ポリリン酸100μMを含む10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で1mLに調製)を用いて、貧血モデル猫への投与試験を実施した。貧血モデル猫は、ネコEPO投与前1週間にフェニルヒドラジン(PHZ)7mg/kgを週2回皮下投与して作出した。コントロールとして、PHZのみ投与およびPHZおよびヒトEPO製剤(500U/kg)投与した群を設定し、投薬群はネコEPO製剤100U/kg投与群、500U/kg投与群をそれぞれ設定し、皮下および静注を行った(表3)。
【0048】
コントロール1では投薬期間中の赤血球数の増加は見られなかったが、投薬群全て(コントロール2も含める)で赤血球数の増加を確認することができた。投薬開始3週目には赤血球数は1000×10μLになり、健常猫と同等にまで回復した。また、投与後から終了後までの一般状態観察、体重測定は週1回、5週後に剖検を行ったところ、異常を示す症状は見られなかったことから、安全性の高い溶液製剤であることが確認された。
【0049】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本願の発明によれば、安定なEPO溶液製剤、特にネコ貧血治療用のネコEPO溶液製剤を提供することが可能になり、注射剤等医薬品を提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ポリリン酸存在下、保存4ヶ月間でのネコEPO残存活性の推移を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤としてポリリン酸を含むことを特徴とする安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項2】
ポリリン酸の濃度が1μM〜1mMであることを特徴とする請求項1に記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項3】
pH6.0〜7.0のクエン酸緩衝液を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項4】
等張化剤として塩化ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項5】
吸着防止剤としてポリソルベート80を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項6】
安定化剤としてさらにマルトースを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項7】
エリスロポエチンが組換え動物細胞で生産されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。
【請求項8】
エリスロポエチンがネコエリスロポエチンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の安定なエリスロポエチン溶液製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249292(P2009−249292A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94973(P2008−94973)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】