説明

ポリロタキサン化合物、それを含有する組成物及びゲル状材料の製造方法

【課題】取り扱いが容易であり、ゲル化を光や熱などの外部刺激により自由にコントロールすることが可能な、新規なポリロタキサン化合物および組成物を提供する。
【解決手段】環状分子(A)に、両末端に置換基を有する直鎖状分子(B)が貫通した構造を有する化合物であって、前記環状分子(A)が重合性基を有することを特徴とする化合物、及び該化合物を含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリロタキサン化合物、及びそれを利用した種々のゲル状材料の作製に有用な組成物に関する。また、本発明は、ゲル状材料の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
種々のポリロタキサン及びその用途が提案されている。
例えば、2つのポリロタキサンを含み、それぞれに含まれる環状分子同士を架橋したいわゆる架橋ポリロタキサンを有する化合物が提案されている(特許文献1)。特許文献1の実施例では、架橋反応の進行によりゲル化したことが確認されている。
また、(A)少なくとも2つの環状分子の開口部に直鎖状分子が貫通し、前記環状分子が反応性基を有し、且つ、前記直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなるポリロタキサンと、(B)前記反応性基と反応し得る官能基を2つ以上有する粘着性高分子とを含む粘着剤組成物が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】WO01/083566号公報
【特許文献2】特開2007−224133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示のポリロタキサン材料は、すでに架橋構造を有するゲル状の材料であるため、種々の機能材料の作製に用いる際に、所望の溶剤に溶解し難く、取り扱い性の改善が望まれる。
また、特許文献2に開示の組成物は、反応性が高いので、保存中にゲル化が進行してしまうという問題があり、同様に取り扱い性の改善が望まれる。
【0004】
本発明は、ポリロタキサン材料の取り扱いの利便性を向上させることを目的としてなされたものであって、取り扱いが容易であり、重合によるゲル化を、光や熱などの外部刺激により自由にコントロールすることが可能な、新規なポリロタキサン化合物および組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、新規なゲル状材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 環状分子(A)に、両末端に置換基を有する直鎖状分子(B)が貫通した構造を有する化合物であって、前記環状分子(A)が重合性基を有することを特徴とする化合物。
[2] 前記重合性基が、熱又は光の供与により重合が進行する重合性基であることを特徴とする[1]の化合物。
[3] 前記重合性基が、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な重合性基であることを特徴とする[1]又は[2]の化合物。
[4] 前記重合性基が、下記一般式P1〜P4のいずれかで表される重合性基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの化合物。
【化1】

(式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544、及びR545はそれぞれ、水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基を表し;nは0又は1を表す。)
【0006】
[5] 前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が前記重合性基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[6] 前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が、前記重合性基、及び炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20のアルキル基又はシリルオキシ基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[7] 前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が、前記重合性基及び炭素数1〜20のアシル基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[8] 前記シクロデキストリン誘導体中の水酸基の水素原子の置換度が、5〜95%であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれかの化合物。
[9] [1]〜[8]のいずれかの化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする組成物。
[10] 少なくとも一種の溶剤を含み、塗布可能であることを特徴とする[9]の組成物。
[11] [1]〜[8]のいずれかの化合物に光及び/又は熱を供与して重合させる重合工程を含むことを特徴とするゲル状材料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来のポリロタキサン材料の取り扱い性の悪さを解消し、取り扱いが容易であり、重合によるゲル化を、光や熱などの外部刺激により自由にコントロールすることが可能な、新規なポリロタキサン化合物および組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、従来の架橋ポリロタキサンとは異なる物性を示す様々なゲル状材料を製造可能な方法を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
本発明は、環状分子(A)に、両末端に置換基を有する直鎖状分子(B)が貫通した構造を有する化合物であって、前記環状分子(A)が重合性基を有することを特徴とする化合物に関する。本発明の化合物は、いわゆる「ポリロタキサン」といわれる化合物であり、環状分子(A)とその空洞部を貫通した直線状分子(B)とからなる分子骨格を有する化合物である。本発明の化合物は、環状分子(A)が重合性基を有することを特徴とする。この重合性基の重合反応が進行すると、環状分子(A)間及び/又は環状分子(A)内に架橋構造が形成され、該化合物はゲル状になる。本発明の化合物は、重合する前は架橋構造を含んでいないので、種々の溶剤に可溶であり、取り扱い性に優れる。また、本発明の化合物の重合反応は、光や熱といった外部刺激によってはじめて進行するので、保管時及び使用時において、予期せずゲル化してしまうという問題がなく、その点でも、取り扱い性に優れている。
【0010】
・環状分子(A)
本発明の化合物において、環状分子(A)は上記直鎖状分子(B)を包接可能で、且つ前記直鎖状分子(B)に貫通された状態で、前記直鎖状分子(B)上で移動可能であれば、特に限定されない。本明細書において、「環状分子」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で移動可能であれば、環状分子は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。
【0011】
環状分子(A)は、上記条件を満足する限り、いずれの種類の化合物の分子であってもよい。その例には、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン等の環状ポリマー;α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン;が含まれる。環状分子(A)は、2種以上の化合物の分子の混合であってもよい。
【0012】
本発明では、環状分子(A)は、重合性基を有する。該重合性基は、環状分子の環骨格を構成している原子に直接結合していてもよいし、また環骨格を構成している原子と1以上の原子を介して結合していてもよい。上記例示した環状化合物の中でも、シクロデキストリン類は、分子中に水酸基を複数有するので、該水酸基中の水素原子を、種々の方法により、容易に重合性基に置換することができる。勿論、水酸基中の水素原子を重合性基以外の置換基、例えば、アシル基又はアルキル基等で置換した後、これらの置換基中の水素原子を重合性基で置換してもよい。例えば、前記重合性基は、環骨格を構成している原子が有する置換基、例えば、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアルコキシカルボニルオキシ基等に結合していてもよい。この態様では、環骨格を構成している原子と前記重合性基との間には、原子数1以上の2価の連結基が存在する。該連結基の例には、アルキレンオキシ基(例えばエチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、ヘキシレンオキシ、ヘプチレンオキシなどのアルキレンオキシ基、及びエチレンオキシエトキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシ基)、アルキレンオキシカルボニルオキシ基(例えばエチレンオキシカルボニルオキシ、プロピレンオキシカルボニルオキシ、ブチレンオキシカルボニルオキシ、ペンチレンオキシカルボニルオキシ、ヘキシレンオキシカルボニルオキシ、ヘプチレンオキシカルボニルオキシなどのアルキレンオキシカルボニルオキシ基、またエチレンオキシエトキシカルボニルオキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニルオキシ基)、アルキレンオキシカルボニル基(例えばエチレンオキシカルボニル基、プロピレンオキシカルボニル基、ブチレンオキシカルボニル基、ペンチレンオキシカルボニル基、ヘキシレンオキシカルボニル基、ヘプチレンオキシカルボニル基などのアルキレンオキシカルボニル基、又はエチレンオキシエトキシカルボニル基などのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニル基)などが含まれる。但し、上記した通り、重合性基は、環骨格を構成している原子に直接結合していてもよい。
【0013】
前記重合性基は、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な基であるのが好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。
前記重合性基の好ましい例には、下記P1、P2、P3及びP4で表される重合性基が含まれる。
【0014】
【化2】

【0015】
式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544、及びR545はそれぞれ、水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基を表し;nは0又は1を表す。
【0016】
重合性基P1中のR511及びR513はそれぞれ、水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基を表す。置換基R511及びR513は、各々独立に水素原子、又は炭素数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)が好ましく;水素原子、又はメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又はメチルがさらに好ましい。中でも、R511がメチル基でR513が水素原子、又はR511及びR513の双方が水素原子であるのが好ましい。
【0017】
重合性基P1中のR512は、水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチルがさらに好ましい。中でも、水素原子、又は無置換の低級アルキル基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0018】
即ち、重合性基P1は、重合活性の高い、ビニル基(n=0)又はビニルオキシ基であるのが好ましい。
【0019】
重合性基P2は、置換もしくは無置換のオキシラン基である。
重合性基P2中の置換基R521及びR522はそれぞれ、水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素原子数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチルがさらに好ましい。R521及びR522の双方が水素原子であるのが最も好ましい。
【0020】
重合性基P2中の置換基R523は、水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素原子数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がさらに好ましく;水素原子、又は無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がよりさらに好ましい。
【0021】
重合性基P3は、置換もしくは無置換のアクリロイルオキシ基である。
重合性基P3中の置換基R531及びR533はそれぞれ、水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素原子数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチルがさらに好ましい。中でも、R531がメチル基でR533が水素原子、又はR531及びR533の双方が水素原子であるのが好ましい。
【0022】
置換基R532は水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチルがさらに好ましい。中でも、水素原子、又は無置換の低級アルキル基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0023】
即ち、重合性基P3は、重合活性の高い、無置換のアクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、又はクロトニルオキシ基などが好ましい。
【0024】
重合性基P4は、置換もしくは無置換のオキセタン基である。
重合性基P4中、置換基R542、R543、R544及びR545はそれぞれ、水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素原子数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル及びエチルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチルがさらに好ましい。中でも、R542、R543、R544及びR545が全て水素原子であるのが好ましい。
【0025】
重合性基P4中、置換基R541は水素原子、又は置換もしくは無置換の炭素原子数1〜9のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチル)が好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がより好ましく;水素原子、又は置換もしくは無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がさらに好ましく;水素原子、又は無置換のメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基がよりさらに好ましい。
【0026】
環状分子(A)は、非重合性の置換基を有していてもよい。該置換基の例には、下記の置換基が含まれる。
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換又は無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換又は無置換の、芳香族又は非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5又は6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換又は無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、及びシリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)。
【0027】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0028】
環状分子(A)が有する非重合性の置換基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、及びシリル基から選択されるのが好ましく;アルキル基、アルケニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、及びシリル基から選択されるのがより好ましく;アルキル基、アルケニル基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、アシル基、及びアルコキシカルボニル基から選択されるのがさらに好ましい。
【0029】
環状分子(A)は、複数の種類の置換基を有していてもよく、そのうちの少なくとも一種が重合性基であればよい。環状分子(A)が有する複数種の置換基の組み合わせの例としては、炭素数1〜20のアシル基/重合性基、炭素数1〜20のアルキル基/重合性基、及びシリルオキシ基/重合性基などの組合せが挙げられる。この二つの置換基は、同一の環状分子上に存在していてもよいし、同一のポリロタキサン分子に包接されるが、但し同一ではない環状分子上に存在していてもよい。
【0030】
環状分子(A)が一分子中に有する置換基数は、一分子中に置換基導入可能なサイトがいくつあるかによって変化する。例えば環状分子(A)が、α−シクロデキストリン誘導体である場合、α−シクロデキストリンは、置換基を導入可能な水酸基を一分子中に18個有している。一分子中に、平均9個の置換基が導入された場合は、置換度は50%になる。環状分子(A)中における、前記重合性基(及び他の置換基が存在する場合は、その合計)の置換度は、5〜95%であることが好ましく、5〜90%であるのがより好ましい。置換度は、1H−NMR測定データから算出することができる。
【0031】
重合性基、及び所望により導入される非重合性置換基の置換度やその種類は、本発明の化合物又は組成物の取り扱い性を考慮して、選択する。例えば、溶剤への溶解性が必要な用途では、化合物の溶剤への溶解性が損なわれない範囲で、置換基の種類及び置換度を決定する。
【0032】
・直鎖状分子(B)
直鎖状分子(B)は、環状分子(A)に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる分子又は物質であって、直鎖状のものであれば、特に限定されない。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子(B)上で環状分子(A)が移動可能であれば、直鎖状分子(B)は分岐鎖を有していてもよく、また置換基を有してもよい。有しても良い置換基の例としては、上記環状分子(A)が有する置換基の例と同様である。
【0033】
直鎖状分子(B)としては、例えば、ポリエーテル類(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフランなど)、ポリオレフィン類(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、セルロース類(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)などを挙げることができる。これらの直鎖状分子(B)は、2種以上混在していてもよい。好ましくはポリエーテル類である。
【0034】
直鎖状分子(B)の好ましい分子量は数平均分子量1,000〜1,000,000であり、さらに好ましくは、5,000〜100,000である。
【0035】
直鎖状分子(B)は、両末端に置換基を有する。両末端の置換基は包接させた環状分子(A)が直鎖状分子(B)から離脱できないようにすることを目的として導入される末端封止基である。この目的を達成する置換基であれば、その種類や形状等については、特に制限されない。好ましくは、嵩高さ及び/又はイオン性を有するも置換基である。嵩高い置換基は、その嵩高さによって、環状分子(A)が脱離するのを防止するものであり、環状分子(A)の開口部の大きさに応じて選択される。イオン性を有する置換基は、静電的作用によって環状分子(A)が脱離するのを防止し、環状分子(A)の開口部の電子状態に応じて選択される。
【0036】
前記末端封止用の置換基の好ましい例には、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、及びアントラセン類等が含まれる。また、数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子の主鎖又は側鎖なども、末端封止に利用することができる。数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。
これらの封止用置換基は、直鎖状分子(B)の一分子中に、互いに異なる2種が混在していてもよく、また直鎖状分子(B)の分子間で異なっていてもよい。
また、環状分子(A)を、前記末端封止用の置換基として利用することもできる。末端封止に利用する該環状分子は、その直鎖状分子を包接する環状分子であっても、他の直鎖状分子を包接する環状分子であってもよい。
【0037】
直鎖状分子(B)の両末端を置換基で置換する方法については、種々の方法を利用することができる。例えば、WO01/83566号公報に記載の方法を利用することができる。
【0038】
本発明の化合物において、直鎖状分子(B)一分子に貫通されている環状分子(A)の数については特に制限はない。直鎖状分子(B)一分子に、2以上の環状分子(A)が貫通されているのが好ましい。直鎖状分子(B)一分子が貫通可能な環状分子(A)には限界があるので、必然的に直鎖状分子(B)一分子に貫通している環状分子(A)の数は、その最大数以下となる。本発明の化合物は、直鎖状分子(B)一分子に貫通される環状分子(A)の数が、1〜最大数のいずれであってもよい。用途に応じて、その数を所望の範囲に調整するのが好ましい。直鎖状分子(B)一分子に貫通される環状分子(A)の数は、環状分子(A)と直鎖状分子(B)との混合割合、及び/又は混合条件(時間、温度、圧力等)などにより調整することができる。
なお、直鎖状分子(B)一分子に貫通される環状分子(A)の数は、1H−NMRの測定データから算出することができる。
【0039】
本発明の化合物の合成例について以下に説明する。
本発明の化合物は、種々の文献に記載のポリロタキサンの合成例を参考にして、及び環状分子(A)中への重合性基等の置換基の導入については、種々の有機化合物の反応例を参考にして合成することができる。以下に、一般的な合成方法のスキームを示す。
【0040】
【化3】

【0041】
直鎖状化合物及び環状化合物を混合し(1)、定温に保持(又は所望により加熱もしくは冷却)すると、一以上の環状分子が直鎖状分子を包接する状態(2)になる。その状態のまま、直鎖状分子に末端に嵩高い置換基等を導入し、環状分子が直鎖状分子から離脱しない状態(3)にする。次に、環状分子の反応活性部位と、試薬とを反応させて置換基を導入する(4)。この置換基が、重合性基ならば、この工程までで、本発明の化合物が得られる。環状分子(A)が2種以上の置換基を有する化合物を合成する場合は、さらに、環状分子中の残りの反応活性部位と、試薬とを反応させて他の置換基を導入して(5)、本発明の化合物を得る。重合性基は(4)及び(5)のいずれの工程で導入してもよいが、予期せず重合してしまうのを避けるためには、非重合性の置換基を(4)で導入した後、(5)の工程で、重合性基を導入するのが好ましい。
【0042】
上記(1)工程に用いる直鎖状化合物は、上記(3)工程で両末端に末端封止用の置換基を導入するために、あらかじめ両末端を反応性基で修飾した化合物を用いるのが好ましい。例えば、直鎖状化合物が、ポリエーテル類から選択される場合は、両末端がアミノ基で修飾されたビスアミノポリエチレングリコール等を使用するのが好ましい。また、上記(1)工程の混合は、一般的には溶存状態で行われ、例えば、水中に直鎖状化合物及び環状化合物の双方を溶解して混合する。溶解させるために、加熱を行ってもよいし、また(2)の状態となった後に、沈殿させるために冷却してもよい。
【0043】
上記(3)〜(5)工程における置換基の導入は、上記した通り、種々の有機化合物の反応例を参考にして実施することができる。例えば、環状化合物としてデキストリン類を用いる場合は、デキストリン類は一分子中に水酸基を複数有するので、これを反応部位として利用して、置換基を導入するのが好ましい。例えば、上記(4)工程で、デキストリン分子中の水酸基の水素原子の一部を、常法によりアセチル基で置換した後、上記(5)工程で、アクリル酸クロライド等の試薬を利用して、デキストリン分子が有する残余の水酸基の水素原子(このとき、上記(4)工程で導入されたアセチル基の一部が置換されてもよい)を、(メタ)アクリロイル基で置換するなどの方法があげられる。
【0044】
本発明の化合物は単独で種々のゲル材料の製造に用いることができる。本発明の化合物に光、熱等の外部刺激を与えると、重合性基の重合が進行し、環状分子(A)内及び/又は環状分子(A)間に、架橋が形成される。これによって、該化合物はゲル化する。供与する外部刺激のエネルギーを種々変化させて、ゲル化の程度を調節することで、所望の物性のゲル状材料が得られる。また、供与する外部刺激のエネルギーを種々変化させるのに代えて、又はそれとともに、重合性基の置換度や分布を調節、即ち架橋点の密度及び分布を調整することでも、所望の物性のゲル状材料が得られる。
【0045】
環状分子(A)が有する重合性基の重合を進行させるための外部刺激は、光照射、及び/又は熱の供与などである。光照射はコントロールが容易である。光照射には、紫外線を利用するのが好ましい。照射エネルギーについては特に制限はないが、一般的には、10mJ〜50J/cm2であることが好ましく、50mJ〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。また、重合進行時の雰囲気中の酸素濃度は、重合度に関与するため、空気中では重合が進行しなかったり、所望の重合度に達しない場合には、窒素置換等の方法により酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましい。
【0046】
本発明は、本発明の化合物を含有する組成物にも関する。本発明の組成物は、重合開始剤、増感剤等の重合促進のための添加剤、及び重合性モノマー等の他の重合成分等を含有していてもよい。
・重合開始剤
本発明の組成物は、重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれであってもよいが、用途によっては、光重合開始剤が好ましい場合がある。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)等が挙げられる。
重合開始剤の添加量は、組成物の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
・重合性モノマー
本発明の組成物には、重合性のモノマーを添加してもよい。使用する重合性モノマーとしては特に限定はないが、例えば重合活性なエチレン性不飽和基、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基などを有する化合物が好ましく用いられる。また、また重合性基を2以上有する多官能重合性モノマーを用いることもできる。
重合性モノマーの添加量は、組成物の固形分の0.5〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
【0048】
また、重合性モノマーとして、光機能性化合物、例えば、紫外、可視光に対する吸収特性、高屈折率性、及び蛍光・燐光を発する特性を示す化合物などを用いると、該光機能性化合物が有する光機能性部位を、架橋構造中に組み込むことができる。また、重合性モノマーとして液晶性化合物を用いることもできる。このような化合物の残基がポリロタキサンの架橋部に組み込まれることで、これらの化合物が単分子状態では示さなかった物性を示すことが期待される。
【0049】
本発明の組成物は、本発明の化合物、及び所望により添加される添加剤を溶剤に溶解した、塗布液として調製してもよい。塗布液として調製すると、表面に種々の厚みで塗布し、塗膜とした後に、外部刺激によってゲル化させることが可能である。調製に用いる前記溶剤は、本発明の化合物が可溶であれば、いずれも用いることができる。例えば、ケトン系溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、アミド系溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド、N―メチルピロリドンなど)、ジメチルスルフォキシド、アルコール溶媒(メチルアルコール、エチルアルコールなど)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルムなど)、またそれらの混合溶媒を利用することができる。
【0050】
本発明の化合物及び組成物は、種々のゲル状材料の製造に有用である。ゲル状材料は、その高吸水性、高弾性、高粘弾性、高粘性等から種々の用途がある。例えば、コンタクトレンズ等の医療用材料、粘着剤、緩衝剤、吸水性材料等など種々の用途がある。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例]
(合成例1)
<末端封止したポリロタキサンの調製>
数平均分子量2万のポリエチレングリコールビスアミン4.5gとα−シクロデキストリン18.0gとを水150mLに加え、80℃に加熱して溶解させた。その溶液を冷却し5℃で16時間静置した。生成した白いペースト状の沈殿を分取、乾燥した。
そのものに、2,4−ジニトロフルオロベンゼン12.0gとジメチルホルムアミド50gの混合溶液に加えて室温で5時間攪拌した。その反応混合物にジメチルスルホキシド(DMSO)200mLを加えて溶解した後、水3750mLに注いで析出物を分取した。析出物を250mLのDMSOに再溶解した後、再び3500mLの0.1%食塩水へ注いで析出物を分取した。その析出物を水とメタノールで各3回ずつ洗浄後、50℃で12時間真空乾燥することで、ポリエチレングリコールビスアミンがα−シクロデキストリンに串刺し状に包接され、かつ両末端アミノ基に2,4−ジニトロフェニル基が結合した包接化合物2.0gを得た。
【0053】
得られたブロック化ポリロタキサンの紫外光吸収測定及び1H−NMR測定を行い、α−シクロデキストリンの包接量を算出したところ、ポリエチレングリコールビスアミン一分子あたりの包接量は72個であった。
【0054】
<α−シクロデキストリンのアセチル修飾>
上記で合成した末端封止したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて一晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.2gのアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
得られたアセチル修飾したポリロタキサンの1H−NMR測定を行い、アセチル導入量を算出したところ、導入量(置換度)は75%であった。
【0055】
<重合性基の導入>
上記で合成したアセチル修飾したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこにアクリル酸クロライド5.9g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて二晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、0.8gのアクリロイル及びアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
得られたアクリロイル及びアセチル修飾したポリロタキサンの1H−NMR測定を行い、アクリロイル及びアセチル導入量を算出したところ、導入量(置換度)は87%であった。
【0056】
(合成例2)
<α−シクロデキストリンのアセチル修飾>
実施例1で合成した末端封止したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて三晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.1gのアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
【0057】
得られたアセチル修飾したポリロタキサンの1H−NMR測定を行い、アセチル導入量を算出したところ、導入量は88%であった。
【0058】
<重合性基の導入>
上記で合成したアセチル修飾したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこにアクリル酸クロライド5.9g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて二晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、0.6gのアクリロイル及びアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
【0059】
得られたアクリロイル及びアセチル修飾したポリロタキサンの1H−NMR測定を行い、アクリロイル及びアセチル導入量を算出したところ、導入量(置換度)は90%であった。
【0060】
(ゲル化例1)
合成例1にて合成した化合物及びイルガキュア907(3重量部)をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を、ピペットにてガラス基板上に流し広げた。その液面に、600mJの紫外線を照射したところ、液状からゲル状に変化した。
【0061】
(ゲル化例2)
合成例1にて合成した化合物及びイルガキュア907(3重量部)をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を、ピペットにてガラス基板上に流し広げた。その液面に、マスクをかけ、マスク上部から600mJの紫外線を照射したところ、マスクされなかった紫外線の照射された部分はゲル状に変化し、マスクされ紫外線の照射されなかった部分は液状のまま変化しなかった。
【0062】
(ゲル化例3)
合成例1にて合成した化合物、下記円盤状化合物(X)、及びイルガキュア907(3重量部)をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を、ピペットにてガラス基板上に流し広げた。その液面に、600mJの紫外線を照射したところ、液状からゲル状に変化した。
【0063】
【化4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子(A)に、両末端に置換基を有する直鎖状分子(B)が貫通した構造を有する化合物であって、前記環状分子(A)が重合性基を有することを特徴とする化合物。
【請求項2】
前記重合性基が、熱又は光の供与により重合が進行する重合性基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記重合性基が、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な重合性基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記重合性基が、下記一般式P1〜P4のいずれかで表される重合性基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【化1】

(式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544、及びR545はそれぞれ、水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基を表し;nは0又は1を表す。)
【請求項5】
前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が前記重合性基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が、前記重合性基、及び炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20のアルキル基又はシリルオキシ基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記環状分子(A)が、水酸基の水素原子の全部又は一部が、前記重合性基、及び炭素数1〜20のアシル基で置換されているシクロデキストリン誘導体の分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
前記シクロデキストリン誘導体中の水酸基の水素原子の置換度が、5〜95%であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする組成物。
【請求項10】
少なくとも一種の溶剤を含み、塗布可能であることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物に光及び/又は熱を供与して重合させる重合工程を含むことを特徴とするゲル状材料の製造方法。



【公開番号】特開2009−120759(P2009−120759A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297889(P2007−297889)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】