説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】高分子量のポリ乳酸が、低コストで短時間に得られる簡易な製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸を触媒と活性化剤の存在下で重縮合反応させてポリ乳酸を製造する方法において、該重縮合反応をマイクロ波の照射下で行う。触媒として金属化合物を、活性化剤としてプロトン酸を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸から簡易にポリ乳酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、合成プラスチック樹脂は、日常生活に欠くことのできない製品として広く普及しており、その生産量は年々増加している。しかし、合成プラスチック樹脂を利用することにより生活が便利になるのと相反して、その使用済み廃棄物の問題は益々深刻化している。このような背景の下、土や水中で微生物により無害化される有用な生分解性樹脂に関する研究開発が活発化している。
【0003】
現在までに知られている生分解性樹脂の中でも、ポリ乳酸は唯一透明、最も良好な生分解性を有する材料の一つであり、繊維、容器、ボトル等の成型品などの広範な分野に応用され始めている。市販のポリ乳酸は、通常、脱水二量化し一旦環状二量体(ラクチド)を得た後、各種触媒の存在下、開環溶融重合することで高分子量のポリマーとしたものである(非特許文献1)。この方法は、ラクチドの製造に際して多大な労力と費用を要するため代替法の開発が望まれている。
【0004】
一方、乳酸からの直接脱水法によってポリ乳酸を得る方法が幾つか開示されている(特許文献1、2参照)。
しかしながら、これらの方法では得られるポリ乳酸の分子量は一般に数千程度であり十分な機械物性を有さず、その用途、目的によっては使用できない。また、同様の方法により高分子量のポリマーを得ようとすると、12〜72時間と長時間の重合が必要で、迅速簡便な方法の開発が必要であった。
【0005】
最近、マイクロ波を用いた有機合成法が注目されており、マイクロ波を利用することにより化学反応が促進された例が多数報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
この方法は、クリーンで低コストであり、簡便でありながら短時間に高収率で目的生成物が得られる場合が多いことから、工業的にも有用視されている。
乳酸からの直接脱水重縮合によるポリ乳酸の合成法も検討されている(非特許文献3)。この方法は、常圧、無触媒の条件において、家庭用電子レンジにより重縮合反応を行うものであるが、得られるポリ乳酸の分子量は高々2000以下にとどまっていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−096123号公報
【特許文献2】特開昭61−028521号公報
【非特許文献1】「ポリ乳酸」高分子刊行会 1997、p14
【非特許文献2】Tetrahedron 2001,57,9225−9283
【非特許文献3】Macromol.Rapid Commun.2004,25,1739−1764
【非特許文献4】Macromol.Rapid Commun.2001,22,1063−1064
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術における上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子量のポリ乳酸が、低コストで短時間に得られる簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記したポリ乳酸の製法に関する従来の問題点を解消すべく鋭意検討を重ねた結果、触媒と活性剤の存在下、好ましくは減圧条件下において、乳酸にマイクロ波を照射すると、従来の加熱方法に比較して重縮合反応が促進されることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
この出願によれば、以下の発明が提供される。
(1)乳酸を触媒と活性化剤の存在下で重縮合反応させてポリ乳酸を製造する方法において、該重縮合反応をマイクロ波の照射下で行うことを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
(2)触媒が金属系触媒であることを特徴とする上記(1)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(3)活性化剤がプロトン酸であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(4)重縮合反応を減圧下で行うことを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間に安全で簡易な方法により高分子量のポリ乳酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリ乳酸の製造方法は、乳酸を触媒と活性化剤の存在下で重縮合反応させてポリ乳酸を製造するに当たり、該重縮合反応をマイクロ波の照射下で行うことを特徴としている。
【0012】
原料として用いる乳酸は特に制約されず、D-乳酸、L-乳酸、DL-乳酸のいずれを用いてもよく、好ましくは一般に入手可能な水溶液状の乳酸を用いる。またこれらの乳酸は単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0013】
触媒としては、好ましくは金属系触媒が用いられる。このような金属触媒しては、チタン、スズ、アンチモン、セリウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選ばれた、少なくとも一種の金属の有機または無機の金属化合物が挙げられる。
その使用量は、特に制約されないが、好ましくは、生成する脂肪族ポリエステル100重量部に対し、0.001〜2.0重量部である。また、これらの触媒は二種類以上複合して用いることもできる。
【0014】
活性化剤としては、好ましくはプロトン酸が用いられる。プロトン酸としては、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、塩素酸、次亜塩素酸などのハロゲン系プロトン酸;硝酸、亜硝酸などの窒素系プロトン酸;硫酸、亜硫酸、p−トルエンスルホン酸、フルオロ硫酸、硫化水素などのイオウ系プロトン酸;リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、フェニルホスホン酸、メチルアシッドホスフェートなどのリン系プロトン酸;ホウ酸、フェニルボロン酸などのホウ素系プロトン酸;テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロチタン酸、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム酸などのフッ素含有プロトン酸;リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸などのヘテロポリ酸;ケイ酸、チタン酸、アルミン酸、テルル酸、セレン酸などその他の無機元素の酸素酸;炭酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸、グルタミン酸などのカルボン酸;およびフェノール、フルオロフェノール、ピクリン酸などのフェノール類などが挙げられる。
これらの中では、イオウ系プロトン酸が好ましく、特に硫酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。これらのプロトン酸化合物は、1種単独で用いても2種以上用いてもよい。その使用量は、生成する脂肪族ポリエステル100重量部に対し、0.001〜2.0重量部である。また、これらのプロトン酸は二種類以上複合して用いることもできる。
【0015】
本重縮合反応は、マイクロ波照射下で行われる。マイクロ波の出力に特に制限はないが、最大出力30W〜10KWの装置を用いることが望ましい。この場合、マイクロ波を連続照射してもよいが、照射により反応系内は速やかに所望の温度に上昇するため、必ずしも連続してマイクロ波を照射せずに間欠的に照射することも可能である。また、最適な重合反応温度に達した後、一定の温度を保持できるようにマイクロ波出力を制御することが望ましい。
【0016】
マイクロ波照射のマグネトロン周波数としては300MHz〜300GHz程度のものであれば使用可能であるが、入手容易性の観点からみて2,450MHzのものが好ましく使用される。
マイクロ波照射の時間は、限定されるわけではないが、10秒から60分の範囲、更には20分以内で終了させることが好ましい。
【0017】
次に、本発明のポリ乳酸の製造方法を具体的に説明する。
まず、反応原料の乳酸と触媒と活性化剤を重合反応器に供給した後、上述したような形態でマイクロ波を適宜照射する。反応は空気中で行ってもよいが、副生物の生成を防ぐために窒素などの不活性気体中に行ってもよい。反応が進行するに従って、脱離する水が留出するため、これを取り除くための分留管もしくは枝管を取り付ける。更に効率的な留出を促進するため排気装置を取り付ける。
【0018】
本発明に用いられる重合反応器は、マイクロ波が照射されるものであるため、その照射を妨げず、また、原料と反応しないものであって副反応を起こさないものであれば特に制限はないが、反応器の材質としては、通常ガラス、セラミックス、フッ素樹脂等が使用される。また、撹拌手段は有してもよいが、必ずしも撹拌を必要とするものではない。
【0019】
重合温度は120〜250℃の範囲であるが、好ましくは140〜200℃に設定する。120℃未満では重合反応が進行しない場合があり、他方250℃を越える場合には、目的生成物中に分岐構造が高度に進行したものが生成し、所望のものが得られない或いは着色の原因となるなどの好ましくないことが生じる。
【0020】
反応圧力は、減圧、常圧、高圧のいずれでもよいが、好ましくは、20hPaから60hPa程度の減圧で行うことが好ましい。
また、反応時間は1分から300分、好ましくは10〜90分の範囲である。
【0021】
重合反応の終了後に、重合反応生成物を反応器より取り出した後、クロロホルム、塩化メチレンなどの溶剤に溶解させ、次に、アルコール類などにより再沈殿させる。この精製処理操作は、必要に応じて繰り返され、未反応原料、低分子量成分、触媒、活性化剤及び副反応生成物を除去し、減圧下に乾燥させることにより、白色の純粋な目的生成物であるポリ乳酸を得ることができる。その再沈殿の操作は、場合によっては省略し、反応器より生成物を取り出してそのまま使用することもできる。
【0022】
上記の重合方法を採用することにより、分子量が数千から数万に及ぶ範囲のポリ乳酸を得ることができる。得られるポリ乳酸の分子量の上限は、必ずしも明確ではないが、この重合方法によって60分以内に1万5千以上のポリ乳酸が得られており、さらに反応条件を適宜変更することによって、より高分子量のものを得ることも可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において、目的生成物の確認は、以下の方法により行った。
[高分子化合物の基本単位の構造の確認]
得られるポリ乳酸を構成する基本単位の構造については、赤外線分光分析(IR)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI)及び核磁気共鳴分析(NMR)のスペクトルを解析することにより行った。
[分子量の測定]
得られるポリ乳酸をDMFに溶解後、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析し、平均分子量を算出した。
実施例1
【0024】
攪拌子を備えた容量10 mlのパイレックス(登録商標)製試験管に、85〜92 %L-乳酸水溶液を3.0 g、塩化スズ(II)10 mg、p-トルエンスルホン酸一水和物10 mgを入れ、20 cmの分留管を試験管の上に取り付け、シングルモードマイクロ波照射装置用いて、窒素雰囲気下、最大出力200W、20hPaにおいて、140℃で5分間加熱した。引き続き170℃において15分間、更に200℃において45分間加熱した。加熱の際、攪拌しながら系外に水を除去した。マイクロ波出力は、開始直後、200Wのマイクロ波が照射されるが、速やかに設定温度に到達した後は、30Wから100Wの間で自動的にON/OFFを繰り返した。容器を冷却後、クロロホルム3 mlを加え、溶解させた後メタノール150 ml中にゆっくりと滴下し再沈殿させた。析出した固体をろ別、乾燥し、白色の固体状ポリ乳酸 632mgを得た。収率は31.0%、重量平均分子量Mwは17000、多分散度3.75(ポリスチレン換算)であった。
【0025】
比較例1
実施例1において、マイクロ波を照射しない以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸を製造した。その結果、白色のポリ乳酸1399mgを得た。収率は68.6%、重量平均分子量Mwは1400、多分散度3.75(ポリスチレン換算)であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、マイクロ波加熱という簡易な方法を用いて、短時間で生分解性ポリマーである高分子量のポリ乳酸を容易に製造できるものであるから、工業的生産に有用な製法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸を触媒と活性化剤の存在下で重縮合反応させてポリ乳酸を製造する方法において、該重縮合反応をマイクロ波の照射下で行うことを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
触媒が金属系触媒であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
活性化剤がプロトン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
重縮合反応を減圧下で行うことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−119597(P2007−119597A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313730(P2005−313730)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】