ポリ乳酸の製造方法
【課題】乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造するに際し、原料の光学純度を維持し、かつ高分子量のポリ乳酸を効率的に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、130〜170℃で溶融重合を行った後、100〜170℃で固相重合を行うことを特徴とする。これにより、重量平均分子量が100,000以上であり、且つ原料の乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下であるポリ乳酸を高い収率で得ることができる。
【解決手段】乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、130〜170℃で溶融重合を行った後、100〜170℃で固相重合を行うことを特徴とする。これにより、重量平均分子量が100,000以上であり、且つ原料の乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下であるポリ乳酸を高い収率で得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の製造方法に関する。特に、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の向上により、非石油資源より製造されるポリ乳酸樹脂の需要が高まりつつある。ポリ乳酸樹脂は、機械的・物理的性能、化学的性能に優れるため、汎用樹脂の代替素材や医療用材料など、幅広い分野での普及が期待されている。このようなポリ乳酸樹脂の製造方法として、一般には、1)乳酸の環状二量体であるラクチドを金属塩の触媒存在下で開環重合させる方法(開環重合法)と、2)乳酸を脱水縮合して直接ポリ乳酸を得る方法(直接重合法)が知られている。コストの面から2)の脱水縮合による製造が有利であり、従来技術としていくつかの製造方法が提案されている。
【0003】
(特許文献1)には、塩化スズとパラトルエンスルホン酸の混合物を触媒とし、溶融重合及び固相重合を含む工程でポリ乳酸を製造する方法が開示されている。実施例として、乳酸オリゴマーに塩化第一スズ0.2gとp−トルエンスルホン酸0.2gとを添加し、180℃/1300Pa/6時間で溶融重合させることが記載されている。
【0004】
(非特許文献1)には、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを触媒とし、溶融重合のみでポリ乳酸を製造する方法が開示されている。具体的には、170℃/5時間の溶融重合によって数平均分子量が73,000のポリ乳酸を得る例が記載されている。
【0005】
さらに(特許文献2)には、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用い、溶融重合及び固相重合を含む工程によりポリ乳酸を製造する方法が開示されている。溶融重合温度が160℃、固相重合温度が160℃以下の条件での実施例が挙げられている。
【0006】
ポリ乳酸を、汎用樹脂の代替品として使用する場合の利便性を考慮すると、光学純度が高く、また10万以上の重量平均分子量を有することが求められる。しかし、上記従来の技術ではいずれも、光学純度保持のために穏和な重合条件を採用し、かつ高分子量のポリ乳酸を得る方法について十分検討されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−307071号公報
【特許文献2】特開2001−89558号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.44, 5247-5253(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造するに際し、原料の光学純度を維持し、かつ高分子量のポリ乳酸を効率的に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための条件を見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
【0010】
(1)乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、溶融重合を行った後、固相重合を行う前記製造方法。
(2)130〜170℃で溶融重合を行う前記(1)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(3)100〜170℃で固相重合を行う前記(1)又は(2)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(4)ポリ乳酸の重量平均分子量が100,000以上であり、且つ乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、分子量が140,000以上と高く、かつ高光学純度のポリ乳酸を高い収率で製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、130〜170℃で溶融重合を行った後、100〜170℃で固相重合を行うことを特徴とする。
【0013】
原料として用いる乳酸は特に限定されず、D−乳酸、L−乳酸のいずれを用いても良いが、製造するポリ乳酸の機械的・化学的性質を考慮して、光学純度(鏡像体過剰率)が95%ee以上の乳酸原料を使用することが好ましい。ここで光学純度とは、多い方(D−又はL−乳酸)の物質量から少ない方(L−又はD−乳酸)の物質量を引き、全体の物質量で割った値で表される。また、乳酸に代え、もしくは乳酸と任意の割合で組み合わせた混合物として平均重合度2〜20程度の乳酸オリゴマーを用いても良い。このような乳酸オリゴマーは、例えば、乳酸の水溶液を60〜150℃、0.1kPa〜10kPaの圧力条件下で1〜10時間攪拌させ、水を留出させることで得ることができる。
【0014】
上記原料には、乳酸又は乳酸オリゴマー以外に、必要に応じて、例えば重合体の着色を抑えるための着色防止剤等、各種の添加剤を加えても良い。着色防止剤の例としては、リン酸、リン酸トリフェニル、ピロリン酸、亜リン酸、亜リン酸トリフェニル等のリン化合物等を挙げることができる。これら添加剤の使用量は、乳酸又は乳酸オリゴマーの合計量に対して、10重量%以下、望ましくは0.01〜5重量%である。
【0015】
本発明の製造方法においては、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用いる。この触媒を原料に添加する際は、必要に応じて、触媒の加水分解を防ぐために乳酸を脱水してから添加することが望ましい。また、触媒の添加量は、反応を促進する量であれば特に限定されるものではないが、一般的には乳酸又は乳酸オリゴマー(あるいはそれらの混合物)に対して0.0001〜10重量%、好ましくは、0.0001〜1重量%、さらに好ましくは、0.0001〜0.4重量%である。
【0016】
原料に触媒を加えた後、無溶媒、減圧下にて溶融重合を行う。溶融重合時の温度は、170℃以下、好ましくは130〜170℃とする。さらに好ましくは、140〜160℃である。
【0017】
溶融重合における圧力は、反応により生成した水を系外へ除去する観点から適宜設定することができる。具体的には、0.1kPa〜10kPa、好ましくは1.3kPa〜10kPaである。また、重合時間は2〜60時間とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0018】
溶融重合に続いて、得られたプレポリマーを固相重合することにより、目的のポリ乳酸を得ることができる。固相重合時の温度は170℃以下とし、好ましくは100〜170℃、さらに好ましくは120〜160℃で行うものとする。
【0019】
固相重合は減圧下、又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。また、固相重合の際の重合時間は、5〜100時間とすることが好ましい。
【0020】
なお、固相重合の初期段階においては、ポリ乳酸の結晶化処理を行うことにより、軟化温度及び融解開始温度を高温化させることが望ましい。例えば、原料として乳酸オリゴマーを用いた場合には、80〜120℃で1分〜4時間程度加熱することにより結晶化処理を行うことができる。また、結晶化させた後の固相重合においては、一定の温度下で重合させても良いが、プレポリマー同士の融着を防ぐため、最初はプレポリマーの融点以下で重合を行うなど、段階的に昇温しつつ反応を行うことが好ましい。
【0021】
上記の方法により得られるポリ乳酸は、分子量が100,000以上であり、また原料である乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下に抑制されるため、機械的・化学的性質に優れ、汎用樹脂の代替品等として好適に利用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)1kgを150℃/4,000Paで6時間攪拌しながら水を留出させて乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを45g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で2時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で4時間、160℃で90時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を41g得た。
【0024】
(比較例1)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法により乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gに、触媒として塩化第一スズ及びp−トルエンスルホン酸を合計0.05g添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを44g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で1時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で5時間、160℃で40時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を31g得た。
【0025】
(比較例2)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法により乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gに、触媒としてp−トルエンスルホン酸を0.2g添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを46g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で2時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で4時間、160℃で90時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を42g得た。
【0026】
(比較例3)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法によりオリゴマー化した。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させて、ポリ乳酸を45g得た。
【0027】
(比較例4)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法によりオリゴマー化した。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、180℃/1300Pa/24時間で溶融重合させて、ポリ乳酸を43g得た。
【0028】
上記実施例1及び比較例1〜2について、重合時間の増加に伴うポリ乳酸の重量平均分子量の変化を表1及び図1に示す。また、得られたポリ乳酸の収率、及び光学純度(%ee)を表1に示す。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、クロロホルム溶媒)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0029】
また、光学純度の測定は次のようにして行った。すなわち、まず得られたポリ乳酸1gを50mlの三角フラスコに秤量し、イソプロピルアルコール2.5ml及び5N−NaOH5mlを添加し、40℃のホットプレート上で攪拌しながら加水分解を行う。ポリ乳酸を分解し完全に溶解した後、室温まで冷却し、1N−HClを20ml添加して中和を行う。続いて、中和した溶液1mlを25mlメスフラスコに採取して、下記組成からなるHPLC移動相液でメスアップした後、以下の条件に設定されたHPLC法により測定を行い、乳酸のD/L体ピークの面積比から光学純度を求めた。
【0030】
<測定条件>
カラム:SUMICHIRAL OA−5000
移動相:1ml CuSO4水溶液/イソプロピルアルコール=98/2
流量:1ml/分
検出波長:254nm
温度:室温
注入量:5μl
【0031】
また、ポリ乳酸の収率は以下の式に従って求めた。この収率で計算した場合、脱水により質量が減少するため、理論収率は72%となる。
【0032】
【数1】
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図1から明らかなように、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、本発明の条件にて溶融重合及び固相重合を行うことにより、140,000の分子量を有するポリ乳酸が60%以上の高い収率で得られることが分かった。また、原料からの光学純度の減少量を1%ee以下に抑制することができた。
【0035】
これに対し、触媒として塩化第一スズ/p−トルエンスルホン酸を用いた比較例1では、ポリ乳酸の収率が46%と低い値であった。また、触媒としてp−トルエンスルホン酸のみを用いた比較例2では、62%の収率が得られたものの、合計126時間重合した後のポリ乳酸の分子量は88,000であった。
【0036】
さらに、重合方法が異なる実施例1、及び比較例3〜4について、得られたポリ乳酸の分子量を比較したものを表2及び図2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
上記結果から明らかなように、所定の温度条件にて溶融重合及び固相重合を行う本発明の場合には140,000という高い分子量が得られるのに対し、溶融重合のみを行う比較例3と、さらに溶融重合の温度条件を180℃とした比較例4の場合には、得られるポリ乳酸の分子量はそれぞれ9,000、及び33,000にとどまった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1及び比較例1〜2について、重合時間に対するポリ乳酸の重量平均分子量の変化を示すグラフである。
【図2】実施例1及び比較例3〜4について、重合時間に対するポリ乳酸の重量平均分子量の変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の製造方法に関する。特に、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の向上により、非石油資源より製造されるポリ乳酸樹脂の需要が高まりつつある。ポリ乳酸樹脂は、機械的・物理的性能、化学的性能に優れるため、汎用樹脂の代替素材や医療用材料など、幅広い分野での普及が期待されている。このようなポリ乳酸樹脂の製造方法として、一般には、1)乳酸の環状二量体であるラクチドを金属塩の触媒存在下で開環重合させる方法(開環重合法)と、2)乳酸を脱水縮合して直接ポリ乳酸を得る方法(直接重合法)が知られている。コストの面から2)の脱水縮合による製造が有利であり、従来技術としていくつかの製造方法が提案されている。
【0003】
(特許文献1)には、塩化スズとパラトルエンスルホン酸の混合物を触媒とし、溶融重合及び固相重合を含む工程でポリ乳酸を製造する方法が開示されている。実施例として、乳酸オリゴマーに塩化第一スズ0.2gとp−トルエンスルホン酸0.2gとを添加し、180℃/1300Pa/6時間で溶融重合させることが記載されている。
【0004】
(非特許文献1)には、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを触媒とし、溶融重合のみでポリ乳酸を製造する方法が開示されている。具体的には、170℃/5時間の溶融重合によって数平均分子量が73,000のポリ乳酸を得る例が記載されている。
【0005】
さらに(特許文献2)には、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用い、溶融重合及び固相重合を含む工程によりポリ乳酸を製造する方法が開示されている。溶融重合温度が160℃、固相重合温度が160℃以下の条件での実施例が挙げられている。
【0006】
ポリ乳酸を、汎用樹脂の代替品として使用する場合の利便性を考慮すると、光学純度が高く、また10万以上の重量平均分子量を有することが求められる。しかし、上記従来の技術ではいずれも、光学純度保持のために穏和な重合条件を採用し、かつ高分子量のポリ乳酸を得る方法について十分検討されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−307071号公報
【特許文献2】特開2001−89558号公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol.44, 5247-5253(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造するに際し、原料の光学純度を維持し、かつ高分子量のポリ乳酸を効率的に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するための条件を見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
【0010】
(1)乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、溶融重合を行った後、固相重合を行う前記製造方法。
(2)130〜170℃で溶融重合を行う前記(1)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(3)100〜170℃で固相重合を行う前記(1)又は(2)に記載のポリ乳酸の製造方法。
(4)ポリ乳酸の重量平均分子量が100,000以上であり、且つ乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、分子量が140,000以上と高く、かつ高光学純度のポリ乳酸を高い収率で製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、130〜170℃で溶融重合を行った後、100〜170℃で固相重合を行うことを特徴とする。
【0013】
原料として用いる乳酸は特に限定されず、D−乳酸、L−乳酸のいずれを用いても良いが、製造するポリ乳酸の機械的・化学的性質を考慮して、光学純度(鏡像体過剰率)が95%ee以上の乳酸原料を使用することが好ましい。ここで光学純度とは、多い方(D−又はL−乳酸)の物質量から少ない方(L−又はD−乳酸)の物質量を引き、全体の物質量で割った値で表される。また、乳酸に代え、もしくは乳酸と任意の割合で組み合わせた混合物として平均重合度2〜20程度の乳酸オリゴマーを用いても良い。このような乳酸オリゴマーは、例えば、乳酸の水溶液を60〜150℃、0.1kPa〜10kPaの圧力条件下で1〜10時間攪拌させ、水を留出させることで得ることができる。
【0014】
上記原料には、乳酸又は乳酸オリゴマー以外に、必要に応じて、例えば重合体の着色を抑えるための着色防止剤等、各種の添加剤を加えても良い。着色防止剤の例としては、リン酸、リン酸トリフェニル、ピロリン酸、亜リン酸、亜リン酸トリフェニル等のリン化合物等を挙げることができる。これら添加剤の使用量は、乳酸又は乳酸オリゴマーの合計量に対して、10重量%以下、望ましくは0.01〜5重量%である。
【0015】
本発明の製造方法においては、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用いる。この触媒を原料に添加する際は、必要に応じて、触媒の加水分解を防ぐために乳酸を脱水してから添加することが望ましい。また、触媒の添加量は、反応を促進する量であれば特に限定されるものではないが、一般的には乳酸又は乳酸オリゴマー(あるいはそれらの混合物)に対して0.0001〜10重量%、好ましくは、0.0001〜1重量%、さらに好ましくは、0.0001〜0.4重量%である。
【0016】
原料に触媒を加えた後、無溶媒、減圧下にて溶融重合を行う。溶融重合時の温度は、170℃以下、好ましくは130〜170℃とする。さらに好ましくは、140〜160℃である。
【0017】
溶融重合における圧力は、反応により生成した水を系外へ除去する観点から適宜設定することができる。具体的には、0.1kPa〜10kPa、好ましくは1.3kPa〜10kPaである。また、重合時間は2〜60時間とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0018】
溶融重合に続いて、得られたプレポリマーを固相重合することにより、目的のポリ乳酸を得ることができる。固相重合時の温度は170℃以下とし、好ましくは100〜170℃、さらに好ましくは120〜160℃で行うものとする。
【0019】
固相重合は減圧下、又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。また、固相重合の際の重合時間は、5〜100時間とすることが好ましい。
【0020】
なお、固相重合の初期段階においては、ポリ乳酸の結晶化処理を行うことにより、軟化温度及び融解開始温度を高温化させることが望ましい。例えば、原料として乳酸オリゴマーを用いた場合には、80〜120℃で1分〜4時間程度加熱することにより結晶化処理を行うことができる。また、結晶化させた後の固相重合においては、一定の温度下で重合させても良いが、プレポリマー同士の融着を防ぐため、最初はプレポリマーの融点以下で重合を行うなど、段階的に昇温しつつ反応を行うことが好ましい。
【0021】
上記の方法により得られるポリ乳酸は、分子量が100,000以上であり、また原料である乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下に抑制されるため、機械的・化学的性質に優れ、汎用樹脂の代替品等として好適に利用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)1kgを150℃/4,000Paで6時間攪拌しながら水を留出させて乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを45g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で2時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で4時間、160℃で90時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を41g得た。
【0024】
(比較例1)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法により乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gに、触媒として塩化第一スズ及びp−トルエンスルホン酸を合計0.05g添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを44g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で1時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で5時間、160℃で40時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を31g得た。
【0025】
(比較例2)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法により乳酸オリゴマーを750g得た。このオリゴマー50gに、触媒としてp−トルエンスルホン酸を0.2g添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させた。その後固体を粉砕し、プレポリマーを46g得た。次いで、減圧下(1300Pa)、100℃で2時間プレポリマーを結晶化させた後、140℃で4時間、160℃で90時間加熱して固相重合を行いポリ乳酸を42g得た。
【0026】
(比較例3)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法によりオリゴマー化した。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、160℃/1300Pa/30時間で溶融重合させて、ポリ乳酸を45g得た。
【0027】
(比較例4)
原料として濃度90重量%のL−乳酸水溶液(和光純薬、光学純度99.9%ee)を用い、実施例1と同様の方法によりオリゴマー化した。このオリゴマー50gにトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム0.2gを添加し、180℃/1300Pa/24時間で溶融重合させて、ポリ乳酸を43g得た。
【0028】
上記実施例1及び比較例1〜2について、重合時間の増加に伴うポリ乳酸の重量平均分子量の変化を表1及び図1に示す。また、得られたポリ乳酸の収率、及び光学純度(%ee)を表1に示す。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、クロロホルム溶媒)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0029】
また、光学純度の測定は次のようにして行った。すなわち、まず得られたポリ乳酸1gを50mlの三角フラスコに秤量し、イソプロピルアルコール2.5ml及び5N−NaOH5mlを添加し、40℃のホットプレート上で攪拌しながら加水分解を行う。ポリ乳酸を分解し完全に溶解した後、室温まで冷却し、1N−HClを20ml添加して中和を行う。続いて、中和した溶液1mlを25mlメスフラスコに採取して、下記組成からなるHPLC移動相液でメスアップした後、以下の条件に設定されたHPLC法により測定を行い、乳酸のD/L体ピークの面積比から光学純度を求めた。
【0030】
<測定条件>
カラム:SUMICHIRAL OA−5000
移動相:1ml CuSO4水溶液/イソプロピルアルコール=98/2
流量:1ml/分
検出波長:254nm
温度:室温
注入量:5μl
【0031】
また、ポリ乳酸の収率は以下の式に従って求めた。この収率で計算した場合、脱水により質量が減少するため、理論収率は72%となる。
【0032】
【数1】
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図1から明らかなように、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、本発明の条件にて溶融重合及び固相重合を行うことにより、140,000の分子量を有するポリ乳酸が60%以上の高い収率で得られることが分かった。また、原料からの光学純度の減少量を1%ee以下に抑制することができた。
【0035】
これに対し、触媒として塩化第一スズ/p−トルエンスルホン酸を用いた比較例1では、ポリ乳酸の収率が46%と低い値であった。また、触媒としてp−トルエンスルホン酸のみを用いた比較例2では、62%の収率が得られたものの、合計126時間重合した後のポリ乳酸の分子量は88,000であった。
【0036】
さらに、重合方法が異なる実施例1、及び比較例3〜4について、得られたポリ乳酸の分子量を比較したものを表2及び図2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
上記結果から明らかなように、所定の温度条件にて溶融重合及び固相重合を行う本発明の場合には140,000という高い分子量が得られるのに対し、溶融重合のみを行う比較例3と、さらに溶融重合の温度条件を180℃とした比較例4の場合には、得られるポリ乳酸の分子量はそれぞれ9,000、及び33,000にとどまった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1及び比較例1〜2について、重合時間に対するポリ乳酸の重量平均分子量の変化を示すグラフである。
【図2】実施例1及び比較例3〜4について、重合時間に対するポリ乳酸の重量平均分子量の変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、溶融重合を行った後、固相重合を行う前記製造方法。
【請求項2】
130〜170℃で溶融重合を行う請求項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
100〜170℃で固相重合を行う請求項1又は2に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
ポリ乳酸の重量平均分子量が100,000以上であり、且つ乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項1】
乳酸又は乳酸オリゴマーを含む原料を脱水縮合してポリ乳酸を製造する方法であって、触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを用い、溶融重合を行った後、固相重合を行う前記製造方法。
【請求項2】
130〜170℃で溶融重合を行う請求項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
100〜170℃で固相重合を行う請求項1又は2に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
ポリ乳酸の重量平均分子量が100,000以上であり、且つ乳酸又は乳酸オリゴマーからの光学純度の減少量が1%ee以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2010−24375(P2010−24375A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188534(P2008−188534)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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