説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】分子量の低下といった劣化を生じず、強度等の物性において優れたポリ乳酸の製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸プレポリマーをカンファースルホン酸の存在下で固相重合する。ポリ乳酸の製造方法は以下を包含する。(1)乳酸プレポリマーをカンファースルホン酸の存在下で固相重合する、ポリ乳酸の製造方法。(2)カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させ上記乳酸プレポリマーを合成する工程を含む(1)記載のポリ乳酸の製造方法。(3)上記乳酸プレポリマーは、カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させたものであることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸の製造方法。(4)上記溶融重合は、1.0〜3.0重量%のカンファースルホン酸を含有する反応系にて行われることを特徴とする(2)又は(3)記載のポリ乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単量体である乳酸から直接重合法によりポリ乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会の実現、すなわち環境低負荷型の社会の実現には、自然環境下で水と二酸化炭素に分解されるポリ乳酸等の生分解性プラスチックの利用が非常に重要な役割を果たす。ポリ乳酸を各種樹脂製品に利用するには、目的とする用途に適した強度などの各種物性を達成すること、製造コストの引き下げにより汎用性を高めることが重要となる。
【0003】
ところで、ポリ乳酸の製造方法としては、単量体の乳酸を二量体したラクチドを原料として開環重合する方法、乳酸を有機溶媒中で直接脱水重縮合する方法、粉末又は粒子状の低分子量のポリ乳酸を不活性ガス雰囲気下又は真空下で所定の温度で加熱することで分子量を増加させる方法が挙げられる。また、ポリ乳酸の製造方法としては、例えば、特許文献1に示すように、結晶化した低分子量のポリ乳酸を触媒の存在下で固相重合する技術において、特定の原料及び触媒を用い、流通ガス量を制御することにより高分子量のポリ乳酸を製造する方法が知られている。
【0004】
特に特許文献1では、固相重合の際の触媒として揮発性触媒、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸系化合物を使用することが開示されている。特許文献1によれば、得られるポリ乳酸における触媒残留率がより小さいほど、ポリ乳酸の安定性が優れることが示されている。すなわち、揮発性に優れた触媒を使用することで、得られたポリ乳酸に残留する触媒量を低減し、ポリ乳酸の経時劣化を防止できるとされている。なお、特許文献1において、具体的に使用された揮発性触媒としては、p-トルエンスルホン酸及びメチシレンスルホン酸の2種類である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−122954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において具体的に開示された揮発性触媒を用い、ポリ乳酸を固相重合により製造しても、例えば、射出成形時の滞留時間に相当する環境を経ると著しく分子量が低下してしまい、優れた強度のポリ乳酸成形品を製造できないといった問題があった。すなわち、従来の固相重合法では、分子量の低下といった劣化を生じず、強度等の物性において優れたポリ乳酸を製造することは困難であった。
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑み、分子量の低下といった劣化を防止し、強度等の物性に優れたポリ乳酸の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、固相重合法に使用する種々の揮発性触媒のなかから、高分子量を維持することができ、強度等の物性に優れたポリ乳酸を製造できる特定の触媒を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るポリ乳酸の製造方法は以下を包含する。
(1)乳酸プレポリマーをカンファースルホン酸の存在下で固相重合する、ポリ乳酸の製造方法。
(2)カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させ上記乳酸プレポリマーを合成する工程を含む(1)記載のポリ乳酸の製造方法。
(3)上記乳酸プレポリマーは、カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させたものであることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸の製造方法。
(4)上記溶融重合は、1.0〜3.0重量%のカンファースルホン酸を含有する反応系にて行われることを特徴とする(2)又は(3)記載のポリ乳酸の製造方法。
【0010】
また、本発明は、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造され、残留溶媒としてカンファースルホン酸を含むポリ乳酸も包含する。さらに、本発明は、本発明に係るポリ乳酸を用いて成形された成形品も包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、高分子量を維持することができ、強度等の物性に優れたポリ乳酸を製造することができる。すなわち、本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、各種成形品として加工された後においても、強度等の物性を良好に維持できるポリ乳酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】カンファースルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びメチシレンスルホン酸並びにドデシルベンゼンスルホン酸について、揮発性を比較した結果を示す特性図である。
【図2】各種触媒を用いた固相重合により製造されたポリ乳酸について、劣化試験後の分子量を比較検討した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係るポリ乳酸の製造方法は、低分子量のポリ乳酸(若しくは乳酸オリゴマー、以下、乳酸プレポリマーと称する場合もある)を固相重合する方法において、触媒として10−カンファースルホン酸(以下、単にカンファースルホン酸と称する場合もある)を使用する方法である。ここで、固相重合とは、結晶化した乳酸プレポリマーを固相状態で、好ましくは流通ガス雰囲気下で脱水重縮合する反応を意味する。したがって、固相重合によれば、固相重合終了後のポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)が、固相重合開始前の乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)を上回ることとなる。
【0014】
固相重合における触媒であるカンファースルホン酸は、乳酸プレポリマーを合成する溶融重合反応時に触媒として添加され、得られた乳酸プレポリマーを固相重合に供する際に乳酸プレポリマーとともに固相重合の反応系に持ち込まれることが好ましい。なお、乳酸プレポリマーをカンファースルホン酸以外の有機化合物を触媒として合成し、当該有機化合物を留去した後の乳酸プレポリマーを、カンファースルホン酸を触媒とする固相重合反応に供してもよい。
【0015】
ここで、カンファースルホン酸は、揮発性の有機スルホン酸系化合物である。特開2001−122954号公報においては、ポリ乳酸の固相重合において揮発性の有機スルホン酸系化合物を触媒とする技術が開示され、有機スルホン酸系化合物のなかでも揮発性が高いほど好ましいとされている。カンファースルホン酸は、特開2001−122954号公報において触媒として具体的に使用された有機スルホン酸系化合物(p-トルエンスルホン酸及びメチシレンスルホン酸)と比較すると揮発性は低い化合物である。これらカンファースルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びメチシレンスルホン酸並びにドデシルベンゼンスルホン酸について、揮発性を比較したデータを図1に示す。
【0016】
なお、図1は、熱重量分析計によって、カンファースルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メチシレンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸について温度と揮発性との関係を示している。図1に示すように、メチシレンスルホン酸の揮発性が最も高く、カンファースルホン酸の揮発性は、p-トルエンスルホン酸及びメチシレンスルホン酸と比較すると劣っていることが判る。
【0017】
すなわち、特開2001−122954号公報で示されるように、有機スルホン酸系化合物において揮発性の高さでは劣後するカンファースルホン酸を、固相重合における触媒として使用することで、揮発性のより高い有機スルホン酸系化合物を用いた場合よりも分子量の低下といった劣化の少ない優れたポリ乳酸を得ることができる。ここで、ポリ乳酸における分子量の低下とは、固相重合反応後のポリ乳酸が所定の条件下で保持されることで分解が促進され、分子量が低下する現象を意味する。所定の条件としては、例えば、射出成形機内部において高温条件(例えば、220℃)で滞留する場合の条件を挙げることができる。
【0018】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法において、固相重合反応における触媒量、すなわちカンファースルホン酸の存在量(若しくは添加量)は特に限定されない。ただし、カンファースルホン酸が多量に存在しすぎると、上述した分子量の低下が生じるとともに着色してしまう虞がある。また、カンファースルホン酸が少量である場合には、固相重合における重合反応の進行が遅くなり、高分子量のポリ乳酸を得ることが困難になる虞がある。例えば、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用するカンファースルホン酸を1.0〜3.0重量%、特に1.5〜2.5重量%の割合とすることが好ましい。カンファースルホン酸量を上記範囲とすることによって、より高分子量のポリ乳酸を合成することができる。すなわち、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用するカンファースルホン酸を1.0重量%未満とした場合には、固相重合後のポリ乳酸の分子量が低くなる虞がある。また、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用するカンファースルホン酸を3.0重量%より大とした場合には、固相重合後のポリ乳酸の分子量が低くなる虞、及び分子量が低下しやすくなる虞がある。
【0019】
固相重合における反応温度は、反応系に存在するポリマー(プレポリマー及び反応生成物であるポリ乳酸)が実質的に固体状態を維持していれば特に制限されないが、例えば、100℃以上、融点(Tm)未満であることが好ましい。また、反応温度が高い程、重合速度が速く、触媒であるカンファースルホン酸が揮散しやすくなる。このため、高分子量のポリ乳酸を得るには、ポリマー(プレポリマー及び反応生成物である脂肪族ポリエステル)の融点(Tm)以下の温度範囲の中で、カンファースルホン酸の揮散速度を考慮して、反応温度を設定する。反応温度としては、例えば100〜170℃、好ましくは110〜160℃、より好ましくは120〜150℃である。
【0020】
また、固相重合は、不活性ガスや乾燥空気の雰囲気下で行っても良い。また、固相重合は、これら不活性ガスや乾燥空気を流通させせた雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトンガス等を挙げることができる。また、流通ガスの雰囲気下で固相重合を行う場合、流通ガスの含水量を低く、実質的に無水状態とすることが好ましい。含水量を低く、実質的に無水状態とすることで、固相重合反応で生成した水を効率よく除去することができ、重合速度を高く維持することができる。
【0021】
さらに、固相重合は減圧下で行うことが好ましい。反応系内の減圧度は、実質的に固相重合反応の進行を維持して、充分に高い重量平均分子量を有するポリ乳酸が得られれば、特に制限されない。減圧下で固相重合を行う場合、反応系内の減圧度は、重合速度や、揮発性触媒の種類及び使用量、固相重合反応の過程においてポリ乳酸から揮発性触媒が揮散していく速度や効率、脱水重縮合反応により生成した水を除去する速度や効率、到達重量平均分子量(Mw)等を考慮して設定される。
【0022】
一方、固相重合は加圧下で行っても良い。反応系内の圧力は、実質的に固相重合反応の進行を維持して、充分に高い重量平均分子量を有するポリ乳酸が得られれば、特に制限されない。加圧下で固相重合を行う場合、反応系内の圧力は、重合速度や、揮発性触媒の種類及び使用量、固相重合反応の過程においてポリ乳酸から揮発性触媒が揮散していく速度や効率、脱水重縮合反応により生成した水を除去する速度や効率、到達重量平均分子量(Mw)等を考慮して設定される。
【0023】
さらにまた、固相重合において、固体状プレポリマーの粒子径固体状のプレポリマーの粒子径は特に制限されない。固体状のプレポリマーの粒子径は、固相重合工程等の工程における操作容易性や、固相重合工程において、揮発性触媒が揮散していく速度や効率を考慮して設定される。特に、揮発性触媒が有する揮発性が十分に発現されるよう、粒子径は設定される。このように、触媒の揮発性が十分に発揮されるように固体状のプレポリマーの単位重量あたりの表面積を考慮すると、一般的には、固体状のプレポリマーの粒子径は、10μm〜10mmであることが好ましく、0.1mm〜10mmがより好ましく、1mm〜5mmが更に好ましい。
【0024】
ところで、固相重合に用いる乳酸プレポリマーは、ポリ乳酸のホモポリマーでもよいし、乳酸単位と他の成分とを含有するコポリマーでも良いし、これらの混合物でも良い。また、ここで、他の成分としては、乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。また、これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、単独で、または2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
乳酸プレポリマーを構成する乳酸単位は、D体、L体、及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、得られるプレポリマー重合体が結晶性を有していれば、それらの何れも使用することができる。なかでも光学純度が95%以上、好ましくは98%以上の発酵法で製造されるL-乳酸が特に好ましい。
【0026】
固相重合に用いる乳酸プレポリマーは、乳酸単位の他に2以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコール、2以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸を含んでいても良い。
【0027】
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族二価アルコールを挙げることができる。脂肪族多価アルコールとしては、上記の脂肪族二価アルコール以外に、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、イノシトール等を挙げることができる。
【0028】
脂肪族多塩基酸としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3−ジメチルペンタン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸を挙げることができる。脂肪族多塩基酸としては、上記の脂肪族二塩基酸以外に、例えば、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン2R,3T,4T,5C−テトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、4−カルボキシ−1,1−シクロヘキサンジ酢酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、(1α,3α,5β)−1,3,5−トリメチル−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、2,3,4,5−フランテトラカルボン酸等の環状化合物及びその無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、2−メチロールプロパントリカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸等の線状化合物及びその無水物を挙げることができる。
【0029】
脱水重縮合反応によりプレポリマーを製造する方法には、溶融重合方法、有機溶媒を使用する溶液重合方法があり、所望の重量平均分子量(Mw)や操作の簡便性に応じて、適宜、公知の反応方法を選択して用いられる。例えば、特開昭59−96123号公報記載の溶融重合方法、USP5,310865、5,401,796、5,817,728及びEP 0829503−A記載の溶液重合方法に準じた方法が用いられる。また、プレポリマーの製造に触媒を用いる場合、前記の固相重合において用いるカンファースルホン酸を用いることが好ましい。
【0030】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、固相重合する際の触媒としてカンファースルホン酸を使用することにより、他の有機スルホン酸系化合物を触媒として使用した場合と比較して、固相重合後のポリ乳酸における分子量の低下といった劣化を防止することができる。ポリ乳酸における分子量の低下は、例えば、ポリ乳酸の融点を超える高温条件下にポリ乳酸を曝すことで生じる。具体的に、ポリ乳酸を原料として射出成形により所望の形状の成形体を製造する際、射出成形装置内において例えば220℃といった高温条件下でポリ乳酸を滞留させる場合がある。このような温度条件で滞留すると、ポリ乳酸の分子量が低下し、得られた成形品における機械的強度が期待値よりも大幅に低くなってしまうことがある。しかしながら、本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、このような高温条件下を経た後においても分子量の低下が抑制され、所望の機械的強度を有する成形品を製造することができる。
【0031】
固相重合後のポリ乳酸における分子量の低下抑制効果は、特に限定されないが、例えば、固相重合によって得られたポリ乳酸を220℃、大気雰囲気下で30分の条件で熱処理した後、室温にまで冷却し、ポリ乳酸の分子量を測定することにより評価することができる。なお、本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、上記熱処理後のポリ乳酸の分子量残存率が75%以上となるようなポリ乳酸を製造することができる。特に、本発明に係るポリ乳酸の製造方法において、固相重合の反応系におけるカンファースルホン酸量を1.0〜3.0重量%とした場合には、上記熱処理後のポリ乳酸の分子量残存率が80%以上となるようなより優れたポリ乳酸を製造することができる。ここで、ポリ乳酸の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ−(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて、ポリスチレン換算の数値として測定することができる。また、分子量残存率は、100×[上記熱処理後のポリ乳酸の分子量]÷[固相反応後のポリ乳酸の分子量]で算出することができる。
【0032】
また、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されたポリ乳酸は、残留溶媒としてカンファースルホン酸若しくはその分解物を含有しているため、他の製造方法で製造されたポリ乳酸と区別することができる。ポリ乳酸に残留溶媒として含まれるカンファースルホン酸若しくはその分解物は、ガスクロマトグラフィー等の手法により検出することができる。
【0033】
さらに、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されたポリ乳酸は、特に制限されないが、具体的には、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成形加工法により所望の形状が付与された成形品として広く利用される。本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されたポリ乳酸は、上述した成形加工法により高温条件下に曝された場合であっても、ポリ乳酸の分子量低下が抑制されているため、優れた機械的強度を有する成形品として加工される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例及び比較例]
プレポリマーの製造
本例では、90重量%の乳酸水溶液(ピューラック社製、商品名:Hipure90)を使用した。なお、使用したい乳酸の光学純度は、99.9%であった。光学純度は、100×([L-乳酸]−[D-乳酸])/[L-乳酸+D-乳酸]によって算出した。この乳酸水溶液を試験管に5g採取し、下記表1に示す量の触媒を添加した。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、試験管内を、室温及び常圧から段階的に昇温、減圧し、最終的に150℃、30torrで3時間、脱水縮合反応を行った。
【0038】
以上により乳酸プレポリマーを製造した。なお、カンファースルホン酸を触媒として使用した場合(実施例1〜4)、乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は3800であった。また、メシチレンスルホン酸を触媒として用いた場合(比較例1)、乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は5040であった。また、ドデシルベンゼンスルホン酸を触媒として用いた場合(比較例2)、乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は3890であった。また、p−トルエンスルホン酸を触媒として用いた場合(比較例3)、乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は6210であった。
【0039】
ポリ乳酸の製造(固相重合)
上記で得られた乳酸プレポリマーを乳鉢にて微粉(平均粒径200μm以下)とした後、試験管に1.0gずつ採取した。表2に示す温度、圧力及び反応時間にて固相重合を行った。
【0040】
【表2】

【0041】
固相重合終了後のポリ乳酸の分子量を測定した。分子量の測定後、劣化試験を行い、得られた各ポリ乳酸における分子量の低下を比較した。劣化試験は、得られたポリ乳酸を試験管に0.5gずつ採取し、大気中、220℃の雰囲気にて30分間保持することで行った。劣化試験後のポリ乳酸の分子量を測定し、劣化試験前の分子量と比較した結果を表3及び図2に示す。なお、比較のため、市販のポリ乳酸(三井化学社製、商品面:レイシアH-100)についても、劣化試験を行い、分子量を測定した。また、得られたポリ乳酸について、着色度合いを目視により評価した。着色は、より白色に近いものを◎とし、白色と評価できるものを○とし、若干黄色みがかった白色のものを△とし、黄色みが強いクリーム色のものを▲とし、黄色みが比較的強いものを×とした。着色に関する評価結果は表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3及び図2に示すように、固相重合の際の触媒としてカンファースルホン酸を使用した場合には、分子量残存率が75%以上といった非常に高い値を示し、高温条件下にて処理されても分子量を高く維持できるポリ乳酸を製造できることが判明した。また、表3に示すように、固相重合の際の触媒としてカンファースルホン酸を使用した場合には、黄色系の着色のない高品質なポリ乳酸を製造できることが判明した。これに対して、メシチレンスルホン酸やp-トルエンスルホン酸等、カンファースルホン酸よりもの揮発性の高い触媒を用いた場合、劣化試験による分子量の低下が抑制できないことが明らかとなった。また、ドデシルベンゼンスルホン酸を用いた場合には、得られたポリ乳酸に着色が顕著であり、白色とするにはアセトン等の溶媒で触媒成分を除去するといった作業を要することが判った。
【0044】
また、表3及び図2の結果から、固相重合の際の触媒としてカンファースルホン酸を1.0〜3.0重量%とした場合には、より高分子量のポリ乳酸を合成でき、且つ、劣化試験による分子量の低下をより抑制できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸プレポリマーをカンファースルホン酸の存在下で固相重合する、ポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させ上記乳酸プレポリマーを合成する工程を含む、請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
上記乳酸プレポリマーは、カンファースルホン酸の存在下で乳酸を溶融重合させたものであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
上記溶融重合は、1.0〜3.0重量%のカンファースルホン酸を含有する反応系にて行われることを特徴とする請求項2又は3記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項記載のポリ乳酸の製造方法により製造され、残留溶媒としてカンファースルホン酸を含むポリ乳酸。
【請求項6】
請求項5記載のポリ乳酸を用いて成形された成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116837(P2011−116837A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274401(P2009−274401)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】