説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】より簡便かつ安価に耐熱性に優れたポリ乳酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】ラクチドを重合してポリ乳酸を製造する方法であって、ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを、有機カルボン酸類及びパーオキシエステルで処理することにより得られる結晶化促進剤を添加して、ラクチドを重合するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱性に優れたポリ乳酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のポリ乳酸には、耐熱性が低いという欠点があり、これを解決する方法としては、本発明者の一人である山口が提案した方法(特許文献1)が有力な方法として挙げられる。この方法では、まず結晶化促進剤となる樹脂組成物を調製し、その結晶化促進剤をポリ乳酸に混合することにより、耐熱性のポリ乳酸組成物が得られる。この方法で得られたポリ乳酸組成物の耐熱性は熱分解開始温度(HDT)で155℃であり、従来のポリ乳酸の耐熱性(HDTは約58℃)を大幅に上回っている。
【0003】
しかし、この方法では、ポリ乳酸中に結晶化促進剤を充分に混合・分散させる工程が必要であるが、この工程にはエクストルーダー等の設備を要するとともに手間がかかる上、条件によっては、操作中に原料ポリ乳酸の分子量低下を引き起こすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2006/059606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、より簡便かつ安価に耐熱性に優れたポリ乳酸を製造する方法を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従前の方法を改良すべく種々の検討を行った結果、重合前のラクチドに結晶化促進剤を添加し、その後でラクチドを開環重合することにより、従来よりも簡単な方法で、ポリ乳酸の耐熱性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、得られたポリ乳酸を用いて簡単かつ安価にステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造できることも、合わせて見出した。
【0007】
すなわち本発明に係るポリ乳酸の製造方法は、ラクチドを重合してポリ乳酸を製造する方法であって、ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを、有機カルボン酸類及びパーオキシエステルで処理することにより得られる結晶化促進剤を添加して、ラクチドを重合することを特徴とする。
【0008】
なお、ラクチドに結晶化促進剤の各成分を直接添加すると、各成分の阻害作用によりラクチドの重合が進まなくなるが、本発明者らによって、予め各成分を原料として結晶化促進剤を調製し、これをラクチドと混合することにより、阻害作用をなくして、重合を進めることができることが見出された。
【0009】
前記脂肪族環状エポキシは、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートであることが好ましく、前記有機カルボン酸類は、有機カルボン酸、有機カルボン酸無水物、又は、有機カルボン酸塩であることが好ましく、前記パーオキシエステルは、t−ブチルパーオキシラウレート、及び/又は、2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイドであることが好ましい。
【0010】
前記結晶化促進剤の添加量は、ラクチドと前記結晶化促進剤との合計量に対して0.5〜1.5重量%であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る製造方法を用いてステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造するには、前記ラクチドとして、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方を用い、更に、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方から得られたポリ乳酸と異なる光学異性体からなるポリ乳酸とを混合してステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造する工程を行うことが好ましい。
【0012】
本発明に係る製造方法を用いて得られるポリ乳酸組成物もまた、本発明の1つであり、更に、当該ポリ乳酸組成物を成形してなる成形品もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、従来の方法とは異なり、重合後ペレット状に加工されたポリ乳酸を再度溶融してから、これに結晶化促進剤を添加する工程が不要となるので、ポリ乳酸の品質が損なわれず、また、製造コストも低減される。更に、本発明によれば、原料のラクチドに直接結晶化促進剤を添加するので、ポリ乳酸組成物中での分散性が向上し、少量の結晶化促進剤であっても充分な結晶化促進効果が発揮され、得られるポリ乳酸又はポリ乳酸組成物の耐熱性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例5で得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸のDSC曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳述する。
【0016】
本発明は、ラクチドを重合してポリ乳酸を製造する方法である。本発明においては、ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを、有機カルボン酸類及びパーオキシエステルで処理することにより得られる結晶化促進剤を添加して、ラクチドの重合を行う。
【0017】
本発明で用いられるポリ乳酸としては、通常、使用されるものであれば特に限定されない。
【0018】
本発明で用いられる脂肪族環状エポキシとしては特に限定されないが、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、YDCN700−5(東都化成社製)等が挙げられる。これらの脂肪族環状エポキシは、必要に応じて、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。各種脂肪族環状エポキシのなかでも、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートが好ましく、ポリ乳酸の透明性及び耐熱性を大きく向上させることができる。
【0019】
前記ポリ乳酸と前記脂肪族環状エポキシとの配合割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、脂肪族環状エポキシが1〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜30重量部であり、更に好ましくは1〜2重量部である。また、ポリ乳酸の分解を抑制する観点からは、前記ポリ乳酸と前記脂肪族環状エポキシとの配合割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、脂肪族環状エポキシが5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは2重量部以下であり、更に好ましくは1重量部以下である。5重量部以下の脂肪族環状エポキシを配合することにより、特にポリ乳酸の分解を抑制し耐熱性を向上させることが可能となる。
【0020】
なお、本発明においては、(1)脂肪族環状エポキシを前もってパーオキシエステルにより変性させてからポリ乳酸と混練しても、(2)ポリ乳酸と脂肪族環状エポキシとを予め混練したものをパーオキシエステルで処理してもよい。
【0021】
本発明で用いられる有機カルボン酸類としては、例えば、有機カルボン酸、有機カルボン酸無水物、有機カルボン酸塩が挙げられる。前記有機カルボン酸としては特に限定されず、例えば、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ステアリン酸、トリメリット酸等が挙げられ、前記有機カルボン酸無水物としては、これらの有機カルボン酸の無水物が挙げられ、前記有機カルボン酸塩としては、これらの有機カルボン酸の塩であって、亜鉛塩、鉄塩等が挙げられる。なかでも、脂肪族環状エポキシの硬化反応の点から、有機カルボン酸無水物が好ましい。また、これらの有機カルボン酸類は、2種以上を併用することが好ましく、3種以上を併用することがより好ましい。特に、トリメリット酸無水物と他の有機カルボン酸無水物とを混合して使用した場合は、ポリ乳酸の結晶化を促進する効果が大きく、なかでも、マレイン酸無水物及びコハク酸無水物とトリメリット酸無水物とを組み合わせて用いた場合に、著しい結晶化促進効果の向上がみられる。
【0022】
前記有機カルボン酸類の配合量は、脂肪族環状エポキシ100重量部に対して、5〜70重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜65重量部であり、更に好ましくは10〜60重量部、特に好ましくは20〜40重量部である。また、2種以上の有機カルボン酸類を混合して用いる場合は、それぞれの化合物を等量用いることが好ましい。
【0023】
本発明で用いられるパーオキシエステルとしては特に限定されず、例えば、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0024】
これらのパーオキシエステルは、必要に応じて、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよいが、特に、t−ブチルパーオキシラウレートと2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイドとを併用することが好ましい。なお、パーオキシエステルを添加しない場合でも、ポリ乳酸分子の中にエポキシ樹脂が生成し、いわゆるインターポリマーネットワークを構成し、耐熱性及び耐衝撃性に対して一定の効果が期待できる。しかし、より効果を上げるためにはパーオキシエステルの添加が極めて有効である。
【0025】
前記パーオキシエステルの配合量は、前記結晶化促進剤中に、3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜2重量%であり、更に好ましくは0.01〜1重量%である。t−ブチルパーオキシラウレートと2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイドとを併用する場合には、t−ブチルパーオキシラウレート20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、及び、2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイド80〜20重量%、好ましくは70〜30重量%を使用することが好ましい。
【0026】
前記結晶化促進剤は、(1)ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを混練し、樹脂組成物を得る工程、及び、(2)得られた樹脂組成物に、有機カルボン酸類とパーオキシエステルとを混練する工程を経て製造することができる。しかし、前記結晶化促進剤を得る方法としては、上記方法に限定されるものではなく、例えば、工程(1)において、ポリ乳酸、脂肪族環状エポキシ及び有機カルボン酸類を混練し、工程(2)で、パーオキシエステルと混練する方法によれば、耐熱性効果を更に向上させることが可能である。一方、これらの化合物を全て同時に混合するとポリ乳酸の分解と架橋とが同時に進行し、耐熱性向上の効果がほとんど得られない。
【0027】
なお、上述した工程(1)及び(2)の混練は、通常の1軸押出機等を用いて行うことができる。
【0028】
ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを混練し、樹脂組成物を得る工程(1)は、反応時間及び混練に用いる機械にもよるが、好ましくは160〜220℃、より好ましくは170〜200℃で行うことができる。工程(1)において、有機カルボン酸類を添加してもよい。
【0029】
前記工程(1)で得られた樹脂組成物に、有機カルボン酸類とともにパーオキシエステルを混練する工程(2)は、反応時間及び混練に用いる機械にもよるが、ポリ乳酸と脂肪族環状エポキシとの反応により前記樹脂組成物の熱分解温度が上昇するので、前記工程(1)よりも高い温度である210〜250℃で反応させることが好ましく、より好ましくは220〜240℃で反応させる。
【0030】
前記工程(2)も、上記条件下において行ってもよいが、より好ましくは、炭酸ガスの存在下、炭酸ガスが超臨界状態又は亜臨界状態となる条件下(例えば、温度100〜350℃、好ましくは135〜155℃、反応最高圧力7.48〜29.4MPa、好ましくは15.7〜23.5MPaの条件下)で行う。なお、圧力が低すぎると、反応率が低下する。炭酸ガスの使用量は、例えば、前記樹脂組成物の重量に対して、好ましくは1〜20重量%とすることができる。
【0031】
前記工程(1)及び(2)における混練時間は、例えば、50mmの押出機を用いた場合は、それぞれの工程について10〜20分であることが好ましく、より好ましくは約15分である。更に、50mmの押出機を用いた場合、工程(1)及び(2)の混練時間がそれぞれ15分である場合に、得られる樹脂組成物の耐熱性を充分に向上させることができる。混練時間が10分未満では、未反応物が残りやすい傾向がある。
【0032】
混練時には、上述の各種原料のほかに、可塑剤や増量剤等を添加してもよい。可塑剤としては、通常用いられるものであれば特に限定されないが、生分解性等を考慮した場合、松脂が好ましい。また、増量剤としては、例えば、タルク、カオリナイト、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、二酸化チタン、カーボンブラック、セリサイト、フロゴパイト、珪酸カルシウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0033】
また、前記結晶化促進剤は必要に応じてアニール処理をしてもよい。アニール処理をすることで耐熱性を向上させることができる。アニール処理はいかなる段階で行ってもよく、例えば、ポリ乳酸と脂肪族環状エポキシとを混練した直後であっても、成形した後であってもよい。アニール処理の温度は、100〜180℃であることが好ましく、より好ましくは120〜160℃である。
【0034】
本発明では、以上のようにして調製された結晶化促進剤とラクチドとを混合し、通常は重合用触媒の存在下にラクチドを開環重合させ、ポリ乳酸を製造する。
【0035】
ポリ乳酸の原料として用いるラクチドの光学純度としては、理論的に結晶化できる光学純度の範囲内であれば特に限定されないが、光学純度90%以上のLまたはD−ラクチドが好ましく、より好ましくは光学純度95%以上であり、更に好ましくは光学純度98%以上である。
【0036】
前記結晶化促進剤の添加量は、ラクチドと前記結晶化促進剤との合計量に対して、経済性の観点からは20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5重量%である。本発明では、ラクチドに直接結晶化促進剤を添加することにより、特許文献1に記載の方法のようにポリ乳酸に結晶化促進剤を添加する場合に比べて、分散性が向上し、遥かに少量の添加量で結晶化を促進させることができる。このため、0.5〜1.5重量%の少量であっても、充分な結晶化促進効果を得ることができる。
【0037】
本発明におけるラクチドの重合方法としては特に限定されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。原料であるラクチドには、通常、結晶化促進剤が添加される以外に、更にオクチル酸スズ等の公知の各種乳酸重合用触媒が添加される。更に、必要に応じて、オクタノール、オレイルアルコール等の重合開始剤を添加してもよい。
【0038】
ラクチドの重合温度も特に限定されないが、例えば、140〜210℃であることが好ましい。また、重合終了後に得られるポリ乳酸組成物には、各種の触媒失活剤(重合停止剤)等を添加してもよい。前記触媒失活剤としては特に限定されず、例えば、リン酸系の失活剤等が挙げられる。
【0039】
また、重合終了後に得られるポリ乳酸組成物中に残存するラクチドは、溶融状態又は固化した状態で減圧下に加熱する方法や、溶媒で抽出する方法により除去することが好ましい。そして、除去処理後のポリ乳酸組成物中に残存するラクチド量は、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以下である。
【0040】
本発明で得られるポリ乳酸組成物は、例えば、水中カッター等を用いる公知の方法によりペレットとすることができる。
【0041】
本発明では、前記結晶化促進剤を添加して、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方を重合し、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方からポリ乳酸を製造した後、更に、得られたポリ乳酸と異なる光学異性体からなるポリ乳酸とを混合することにより、簡便かつ安価に、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造することができる。
【0042】
耐熱性について比較すると、一般的なポリ乳酸のHDTは58℃であり、特許文献1に記載の方法を用いて得られるポリ乳酸組成物のHDTでも154〜155℃であるが、本発明で得られるポリ乳酸組成物では更に耐熱性が向上し、そのHDTは158℃である。従って、本発明によれば、電子レンジ等の使用に耐えるポリ乳酸組成物を、従来よりも工程数の少ない方法で安価に製造することができる。
【0043】
本発明で得られるポリ乳酸組成物には、一般に使用されるポリマー用添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、着色剤(顔料、染料)、抗菌剤、防臭剤、防腐剤、防虫剤、静電防止剤、耐光剤、耐熱剤、ブロッキング防止剤等の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの添加剤の使用に関しては用途により、食品としての特性、薬品としての特性、廃棄時の生分解性等に悪影響のないように配慮すべきである。
【0044】
本発明で得られるポリ乳酸組成物は、繊維からなる乾式不織布、湿式不織布、熱融着不織布、ケミカルボンド不織布等の不織布及び布帛等の繊維製品、フィルム、シート、パイプ、棒等の押出成形品、モールド成形品及び射出成形品の原料として使用することができる。
【0045】
本発明で得られるポリ乳酸組成物は、例えば、溶融紡糸によって紡糸することができる。すなわち、ポリ乳酸組成物を押出し機で溶融、混練し、ギアポンプで計量しつつ、ノズルから紡出し、オイリングした後、巻取ることによって、フィラメントを得ることができる。このフィラメントを、更に延伸したり、他の繊維と混繊したり、仮撚り加工をしたり、交撚等の加工をすることにより、各種の繊維製品を得ることができる。
【0046】
溶融紡糸するための材料としては、溶融粘度が100〜500、とりわけ200〜400のポリ乳酸組成物が好ましい。溶融粘度は、温度190℃、荷重2.16kgの条件下における2mm径のノズルからの10分間の流出量(g)で規定することができる。溶融粘度が100未満、又は、500を超える組成物では、繊維製品を製造する際の可紡性が低い。
【0047】
例えば、紡出された糸を、整流された気流(空気)により冷却する場合、急速に冷却するよりも、緩やかに冷却した方が、可紡性がよくなる傾向がある。気流によりポリ乳酸組成物に含まれた水分が除去される。紡糸と同時又は紡糸後に延伸を行ってもよい。未延伸糸の引張破断強度は、例えば、0.2g/d程度であり、引張破断伸度は、例えば、530%程度である。未延伸糸を延伸することにより、繊維強度を向上させることができる。繊維強度を向上させる点から、ポリ乳酸組成物のガラス転移点以上の温度で、未延伸糸を延伸することが好ましい。未延伸糸を延伸することにより、例えば、引張破断強度が2g/d以上、延伸条件によっては3g/d以上の繊維を得ることができる。
【0048】
本発明で得られるポリ乳酸組成物を紡糸した後、集束して繊維束とし、熱延伸した後、オイリング、クリンピング及びカットすることにより、ステープル(短繊維)を得ることができる。カットすることにより得られたステープルは、通常、カットした後、すぐに梱包される。ステープルは、混紡により、他の繊維と混合して用いることができる。
【0049】
本発明で得られるポリ乳酸組成物の繊維を用いた紡績糸は、他の糸と交撚したり、引き揃えをしたりして用いることもできる。本発明で得られるポリ乳酸組成物の繊維は、一般的なフィラメント又は紡績糸と同様にして、編織物を製造するために用いることができる。本発明で得られるポリ乳酸組成物のステープルは、一般的なステープルと同様にして、ニードルパンチング法、エアレイ法、スパンレース法、抄紙法により、不織布を製造するために使用することができる。
【0050】
本発明で得られるポリ乳酸組成物を用いて、フィルム及びシート成形品を製造することができる。例えば、本発明で得られるポリ乳酸組成物をTダイ法により押出し成形することにより、フィルム及びシートを製造することができる。Tダイ法でフィルム又はシートを製造する場合、得られるフィルム又はシートの厚さは、押出し量と引き取り速度とを調節することにより、制御することができる。本発明で得られるポリ乳酸組成物のフィルム及びシートは、インフレーション法によっても製造することができる。インフレーション法によってフィルム又はシートを製造する場合には、操業上、粘度が、MI値で1〜10、とりわけ1〜5のポリ乳酸組成物を用いることが好ましい。
【0051】
本発明で得られるポリ乳酸組成物からフィルム又はシートを製造する場合、本発明で得られるポリ乳酸組成物の押出し温度は、本発明で得られるポリ乳酸組成物の融点の上下20℃以内の範囲とすることが好ましく、例えば140〜230℃とすることが好ましい。
【0052】
Tダイ法又はインフレーション法で得られた本発明で得られるポリ乳酸組成物のフィルム又はシートを延伸することにより、延伸フィルム又は延伸シートを製造することができる。本発明で得られるポリ乳酸組成物のフィルム及びシートを延伸する際の温度は、ガラス転位点以上、その30℃上までの範囲とすることが好ましい。
【0053】
本発明で得られるポリ乳酸組成物の未延伸シートを、例えば、真空モールド成形することにより、モールド成形品を製造することができる。例えば、厚さ0.2〜2mmのシートを赤外線ヒーター等でガラス転位点以上に加熱し、真空モールド成形金型の上に移動し、金型から吸引することによりシートを金型の形に成形することができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
<製造例1>結晶化促進剤の調製
重量平均分子量180000のポリL−乳酸100重量部と、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(セロキサイド2021P、ダイセル化学工業社製)1重量部、マレイン酸無水物0.1重量部、コハク酸無水物0.1重量部、及び、トリメリット酸無水物0.1重量部を、180℃に設定した1軸押出機で混練して、固形物を得た。
【0056】
次に、炭酸ガスを導入して、超臨界条件となるように設定した条件で、得られた固形物と、t−ブチルパーオキシラウレート(パーブチルL、日本油脂社製)0.05重量%(結晶化促進剤に対して)と、2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイド0.05重量%(結晶化促進剤に対して)とを、300℃に設定した1軸押出機で混練して、結晶化促進剤を得た。
【0057】
<実施例1〜4、比較例1>
L−ラクチドと、製造例1で得られた結晶化促進剤とを、下記表1に記載の比率となるように混合し、更にL−ラクチド100重量部に対して、重合開始剤としてオクタノール0.2重量部と、乳酸重合用触媒としてオクチル酸スズ0.005重量部を添加して、攪拌しながら180℃、2時間、L−ラクチドを重合した。
【0058】
重合終了後、原料L−ラクチド100重量部に対して、重合停止剤としてメタリン酸ナトリウム0.02重量部を反応物に添加し、ペレット状にした後、減圧下で残存するラクチドを0.2重量%以下となるまで除去して、ポリ乳酸(ポリL−乳酸)組成物を得た。得られたポリ乳酸組成物中の、ポリ乳酸の重量平均分子量は、比較例1では178000、実施例1〜4ではそれぞれ、175000、172000、175000、165000であった。得られたポリ乳酸組成物について、示差走査熱量天秤装置(TG−DSC)によりHDTを測定して、耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
<比較例2〜6>
製造例1で用いた重量平均分子量180000のポリL−乳酸と、製造例1で得られた結晶化促進剤とを、下記表2に記載の比率となるように混合し、混練して、ポリ乳酸組成物を得た。得られたポリ乳酸組成物の耐熱性について、実施例1と同様にしてHDTを測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表1及び2に示す結果のとおり、比較例では特許文献1に記載されている結果と同様の結果が得られた。これに対して。実施例では、比較例と比べて明らかにHDTが上昇し、耐熱性が向上したことが確認された。
【0063】
<実施例5>
D−ラクチドを原料とし、結晶化促進剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、ポリD−乳酸組成物(重量平均分子量168000)を得た。当該ポリD−乳酸組成物1重量部と、実施例2で得られたポリL−乳酸組成物1重量部とを250℃で混合し、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を作成した。得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸に対して示差走査熱量分析(DSC)による測定を行った。得られたDSC曲線を図1に示す。得られたステレオコンプレックス型ポリ乳酸の融点は210℃であり、DSC曲線は図1に示すように、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の単一ピークを示し、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸のピークは見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチドを重合してポリ乳酸を製造する方法であって、
ポリ乳酸及び脂肪族環状エポキシを、有機カルボン酸類及びパーオキシエステルで処理することにより得られる結晶化促進剤を添加して、ラクチドを重合することを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族環状エポキシが、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートであり、
前記有機カルボン酸類が、有機カルボン酸、有機カルボン酸無水物、又は、有機カルボン酸塩であり、
前記パーオキシエステルが、t−ブチルパーオキシラウレート、及び/又は、2,5−ジメチル−ビスヘキサン−2,5−ベンゾイルパーオキサイドである請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
前記結晶化促進剤の添加量が、ラクチドと前記結晶化促進剤との合計量に対して0.5〜1.5重量%である請求項1又は2記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
前記ラクチドが、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方であり、
更に、L−ラクチド及びD−ラクチドのいずれか一方から得られたポリ乳酸と異なる光学異性体からなるポリ乳酸とを混合してステレオコンプレックス型ポリ乳酸を製造する工程を有する請求項1、2又は3記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の製造方法を用いて得られることを特徴とするポリ乳酸組成物。
【請求項6】
請求項5記載のポリ乳酸組成物を成形してなることを特徴とする成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−91742(P2013−91742A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235671(P2011−235671)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(301050223)
【出願人】(511260713)
【Fターム(参考)】