説明

ポリ乳酸モノフィラメント、その製造方法並びにその用途

【課題】従来技術では達成することが難しかった高い耐熱性と強度とを兼ね備え、且つ生分解性を有するポリ乳酸モノフィラメントおよびその製造法、並びにこのポリ乳酸モノフィラメントを使用した工業用織物の提供。
【解決手段】ポリL乳酸とポリD乳酸からなる樹脂組成物からなり、ポリL乳酸とポリD乳酸がステレオコンプレックス構造を形成しているモノフィラメントであって、直径が0.05〜1.0mm、融点が200〜235℃の範囲にあるとともに、JIS L−1013:1999−8.5に準じて測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメント、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、高い強度を有するポリ乳酸モノフィラメントおよびその製造方法、並びにポリ乳酸モノフィラメントを使用した工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球的規模での環境問題に対して、自然環境の中で分解するポリマー素材の開発が期待されており、特に微生物により分解される生分解性ポリマーに注目が集まっている。 ポリエチレンテレフタレートやナイロンなどの従来の汎用樹脂は、そのほとんどが石油資源を原料としているが、これらの汎用樹脂は、使用後に焼却されると炭酸ガスを排出するため、汎用ポリマーを大量に焼却処分すると、二酸化炭素が大気中に多量に放出し、地球温暖化などの異常気象の原因の一つにもなっている。
【0003】
また、近年では、地球温暖化問題に加えて、石油資源の枯渇や原油価格の上昇も問題となっており、これらの問題を一挙に解決できる技術開発が求められている。
【0004】
そこで、近年、石油資源を原料とする従来の汎用樹脂の代替として、植物資源を原料とするバイオマスを利用した樹脂、例えば、ポリ乳酸やポリカプロラクトンなどの生分解性樹脂が大きな注目を集めている。
【0005】
これらの生分解性樹脂は、空気中の二酸化炭素を利用して光合成を行う植物を原料として利用しているため、二酸化炭素を循環利用することができるとともに、地球温暖化の抑制と資源枯渇等の問題を解決できる可能性を秘めている。
【0006】
しかし、ポリ乳酸やポリカプロラクトンなどの生分解性樹脂を使用した製品は、ポリエチレンテレフタレートやナイロンといった従来の汎用樹脂を使用した製品に比べて一般に力学的特性や耐熱性が劣るばかりか、生分解性樹脂を使用した製品はコストが高くなるため、生分解性樹脂の各種製品への利用は、まだ実用化できるレベルではなかった。
【0007】
生分解性樹脂の製品への利用として現在期待されているのは、モノフィラメントを使用した各種産業用資材であるが、特に抄紙用プレスフェルトや抄紙用ドライヤーキャンバスなど抄紙用織物、搬送用コンベアベルトおよび各種フィルターなどの各種工業用織物は、過酷な条件で使用される場合があるため、これら工業用織物に使用されるモノフィラメントには高い力学的特性と耐熱性が求められている。
【0008】
この要求に対して、分子量が10000〜50000のポリ乳酸系樹脂を重量比で5〜50重量%と分子量50000〜200000のポリ乳酸系樹脂を重量比で50〜95重量%とからなり、融点が150℃以上のモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)が知られている。このモノフィラメントは主に漁網や海洋構造物などに利用されるため十分な強度を有してはいるものの、融点が高々180℃と低く、漁網や海洋構造物以外の用途には十分に利用できるものではなかった。
【0009】
また、融点を向上させる技術としては、紡糸速度3500〜12000m/分の高速条件下で、ポリL乳酸とポリD乳酸のブレンド物を溶融紡糸し、紡糸線上でステレオコンプレックス構造を形成させたポリ乳酸繊維(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0010】
このポリ乳酸繊維の製造方法は、高速紡糸を行うことにより、ポリ乳酸を紡糸線上で結晶化させ、さらに延伸および熱処理工程においてステレオコンプレックス構造を形成させるという、特にマルチフィラメントの製造に適した方法である。しかし、この方法をモノフィラメントの製造に適用しようとすると、モノフィラメントの場合は糸直径がマルチフィラメントに比べて太く、低速で紡糸せざるを得ないので、ポリ乳酸は紡糸線上で十分に結晶化されない。そして、このような結晶状態で延伸や熱セットを行ってもステレオコンプレックス構造が十分に形成されないため、耐熱性に欠けたモノフィラメントしか得られなかった。
【特許文献1】特開2005−146425号公報
【特許文献2】特許2003−293220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術では達成することが困難であった高い耐熱性と強度とを兼ね備え、且つ生分解性を有するポリ乳酸モノフィラメントおよびその製造方法、並びにこのポリ乳酸モノフィラメントを使用した工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリL乳酸とポリD乳酸からなる脂組成物からなり、ポリL乳酸とポリD乳酸がステレオコンプレックス構造を形成しているモノフィラメントであって、直径が0.05〜1.0mm、融点が200〜235℃の範囲にあるとともに、JIS L−1013:1999−8.5に準じて測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメントが提供される。
【0013】
なお、本発明においては、前記樹脂組成物がポリL乳酸30〜70重量%とポリD乳酸70〜30重量%とからなること、JIS1013:1999−8.18に準じて測定した沸騰水収縮率が4%以下であることが、さらに好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たすことにより、さらに優れた効果を取得することができる。
【0014】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法は、ポリL乳酸とポリD乳酸との混合物を溶融紡糸した後、2段以上の多段延伸および熱セットをするに際し、多段延伸のうち少なくとも1段目の延伸温度が60〜150℃の範囲にあり、且つトータルの延伸倍率が4.0〜10.0倍であるとともに、熱セット温度が160〜230℃の範囲にあることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の産業用資材、特に工業用織物は、上記ポリ乳酸モノフィラメントを少なくとも一部に使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に説明する通り、従来技術では達成することが困難であった高い耐熱性と強度とを兼ね備え、且つ生分解性を有するポリ乳酸モノフィラメントおよび高い耐熱性と耐久性を兼ね備えた工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のポリ乳酸モノフィラメント、その製造方法並びに工業用織物について説明する。
【0018】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、ポリL乳酸とポリD乳酸からなる樹脂組成物からなり、ポリL乳酸とポリD乳酸がステレオコンプレックス構造を形成しているモノフィラメントであって、直径が0.05〜1.0mm、融点が200〜235℃の範囲にあるとともに、JIS L−1013:1999−8.5に準じて測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、これを構成するPLLAとPDLAとが、後に説明する製造方法によりステレオコンプレックス構造を有することが必要であり、ステレオコンプレックス構造を有していない場合は、融点が200〜235℃という耐熱性に優れたポリ乳酸モノフィラメントが得られにくくなる。
【0020】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの直径は0.05〜1.0mmであることが必要であり、さらに好ましくは0.08〜0.7mmである。
【0021】
この理由は、直径が上記範囲を下まわると、ポリ乳酸モノフィラメントを溶融紡糸する際に、糸切れ等のトラブルが発生しやすく、操業性が困難になりやすいからであり、逆に、直径が上記範囲を上まわると、ポリ乳酸モノフィラメントを溶融紡糸する際に結晶化が十分になされず、延伸および熱セット工程においてステレオコンプレックス構造が十分に形成されにくくなり、耐熱性に欠けたポリ乳酸モノフィラメントが得られやすいからである。
【0022】
さらに、本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、後に説明する製造方法により、JIS L−1013:1999−8.5に準じて測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることが必要であり、さらには5.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0023】
この理由は、引張強度が上記範囲を下まわると、産業用資材、特に工業用織物に使用した場合に、耐久性の低い製品が得られやすくなるからである。
【0024】
なお、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの引張強度は高いほど、工業用織物などの各種産業用資材用途として好ましいが、引張強度が高くなるにともない、伸度が低くなり、衝撃性に欠けたポリ乳酸モノフィラメントが得られやすいことから、引張強度の上限は8.0cN/dtexであることが好ましい。
【0025】
ここで、本発明で言うPLLAおよびPDLAとは、モノマーである乳酸やその2量体、さらにはオリゴマーなどを重合したものであるが、本発明で使用するPLLAおよびPDLAは、高融点のポリ乳酸モノフィラメントが得られやすいとの理由から、L体光学純度およびD体光学純度が90%以上であることが好ましい。
【0026】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメントを構成するPLLAとPDLAの組成比は、ステレオコンプレックス構造を形成しやすいとの理由から、PLLAが30〜70重量%に対してPDLAが70〜30重量%であることが好ましく、さらには、PLLAが45〜55重量%に対してPDLAが55〜45重量%であることがより好ましい。
【0027】
特に、PLLAの重量平均分子量をl、PDLAの重量平均分子量をdとした際のl/dまたはd/lの値が1.5〜20の範囲にあると、より優れた耐熱性を発揮するとの理由からより好ましい。
【0028】
ポリ乳酸モノフィラメントのステレオコンプレックス構造の形成状態を調べる方法としては、従来から示差走査熱量計(DSC)による融解ピーク温度と融解熱量で判断する方法が知られているが、本発明においては、ポリ乳酸モノフィラメントを広角X線回折(以下、WAXDと称す)で分析し、赤道線においてθ=12.0°付近に観測されるステレオコンプレックス結晶の(100)面に由来するX線のピーク強度の有無を調べる方法が採用される。
【0029】
本発明において、ポリ乳酸モノフィラメントのステレオコンプレックス構造の状態をWAXDで判断する理由は以下の通りである。
【0030】
繊維学会予稿集F−133(1989)には、未延伸糸のWAXD結果からは結晶化もステレオコンプレックス構造も認められないが、熱分析では225℃付近でステレオコンプレックス構造の融解ピークが観測されたことが記載されている。
【0031】
これは、熱分析の昇温過程において、90℃付近でPLLAとPDLAが単独で結晶化し、180℃付近でそれらが融解、再結晶化してステレオコンプレックス構造を形成し、さらに225℃付近でステレオコンプレックス構造が融解したためによるものであると考えられる。
【0032】
よって、分析前はステレオコンプレックス構造が形成されていない状態であっても、熱分析を行うと、あたかも分析前はステレオコンプレックス構造が形成されていたと判断される問題があるため、本発明においては、DSCによる上記問題点を回避すべく、非破壊試験の一種であるWAXDを採用したのである。
【0033】
さらにまた、本発明のモノフィラメントは、特に工業用織物用途として使用した場合に、織物の寸法変化に不具合が生じにくいとの理由から、JIS1013:1999−8.18に準じて測定した沸騰水収縮率が4%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、以下の方法で製造することができる。
【0035】
まず、PLLAチップとPDLAチップとを公知の溶融紡糸機、例えば、エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で両方のチップを十分に溶融混練した後、溶融状態の樹脂組成物を口金孔から押し出す。
【0036】
この際、溶融紡糸時の分解ガスの発生を抑制し、ポリ乳酸の分子量低下を抑制するために、溶融紡糸機内の温度は200〜250℃となるようにすることが好ましい。また、PLLAとPDLAとが互いに微分散されていると、ステレオコンプレックス構造が形成されやすくなるとの理由から、紡糸パック内に静止混練器や金属製不織フィルターを用いるとさらに好ましい。
【0037】
その後、押し出された樹脂組成物は、冷却浴内で冷却固化され、さらに多段延伸および熱セット処理が施されるが、延伸および熱セット工程において、ステレオコンプレックス構造を形成しやすくするためには、まずPLLAおよびPDLAの結晶化を促進させる必要がある。そこで、多段延伸の前段階の延伸工程においてPLLAおよびPDLAの結晶化を促進させるため、少なくとも1段目の延伸温度を60〜150℃の範囲にすることが必要であり、さらには60〜130℃の範囲にすることが好ましい。
【0038】
この理由は、少なくとも1段目の延伸温度が上記範囲を下まわる場合は、PLLAおよびPDLAが結晶化されないため、ステレオコンプレックス構造が形成されにくく、耐熱性の低いポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるばかりか、非晶状態で延伸されるため、低強度のポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからであり、逆に、延伸温度が上記範囲を上まわる場合は、PLLAおよびPDLAの分子配向度が全体的に低下するため、低強度のポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからである。
【0039】
なお、本発明においては、さらに結晶化を促進させるために、2段目以降の延伸温度も上記範囲に設定することができるが、延伸工程の段数が多すぎると設備上の問題や高コストの問題が生じる場合があるため、延伸工程の段数は2段または3段が好ましい。
【0040】
さらに、高強度のポリ乳酸モノフィラメントを得るためには、延伸工程におけるトータル延伸倍率が4.0〜10.0倍であることが必要であり、さらには7.0〜10.0倍であることが好ましい。
【0041】
次に、延伸工程で結晶化および分子配向されたPLLAとPDLAは、熱セット工程においてステレオコンプレックス構造に形成される。ここで、ステレオコンプレックス構造を形成させるためには、熱セット温度が160〜230℃の範囲にあることが必要であり、さらには200℃〜220℃の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
この理由は、熱セット温度が上記範囲を下まわる場合は、ステレオコンプレックス構造が形成しにくくなるため、耐熱性に欠けたポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからであり、逆に、熱セット温度が上記範囲を上まわる場合は、ステレオコンプレックス構造が溶融し、低強度のポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからである。
【0043】
なお、熱セット工程も延伸工程と同じく2段以上の多段で行うことができ、さらにステレオコンプレックス構造を形成させる上でより好ましい。
【0044】
ここで、本発明のポリ乳酸モノフィラメンを溶融紡糸する際の紡糸速度は、10〜1000m/分の紡糸速度で行うことが好ましく、さらには50〜300m/分の紡糸速度で行うことがより好ましい。
【0045】
この理由は、紡糸速度が上記範囲を下まわる場合は、延伸および熱セット工程において糸が部分的に融解し、糸が粗硬化するばかりか、強度の低いポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからであり、逆に、紡糸速度が上記範囲を上まわる場合は、延伸および熱セット工程おいてステレオコンプレックス構造が十分に形成することができず、耐熱性に欠けたポリ乳酸モノフィラメントが得られやすくなるからである。
【0046】
こうして得られたポリ乳酸モノフィラメントは、実際にWAXDで分析をするとθ=12.0付近にステレオコンプレックス結晶に由来するピークが観察されるため、ステレオコンプレックス構造を有するものであることが分かる。
【0047】
そして、このポリ乳酸モノフィラメントは、従来のポリ乳酸モノフィラメントに比べて高い耐熱性と強度を有しているため、各種産業用資材、例えば、釣り糸や漁網などの水産資材、歯ブラシ、化粧ブラシ、ボディブラシ、工業用ブラシなどのブラシ分野、ガット、楽器弦、電気部材、園芸用資材などに使用することができ、特に抄紙用プレスフェルトや抄紙用ドライヤーキャンバスなど抄紙用織物、搬送用コンベアベルトおよび各種フィルターなどの各種工業用織物に使用した場合は、耐熱性と耐久性に優れた工業用織物を得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を基に本発明のポリ乳酸モノフィラメントをさらに詳細に説明する。
【0049】
なお、直径、融点、引張強度、沸騰水収縮率、ステレオコンプレックス構造の確認および操業性評価については次の方法で行った。
【0050】
[直径]
MITUTOYO社製マイクロメータを使用して測定した。
【0051】
[融点]
DSC(PERKIN ELMER社製 DSC−7)を使用して、1st runの融点Tmを得られたポリ乳酸モノフィラメントの融点(℃)とした。
【0052】
[引張強度]
JIS L1013:1999−8.5の規定に準じて、糸長250mmのポリ乳酸モノフィラメントを引張速度300mm/分の条件で測定し、破断時の引張強力(N)を求めた。そして、引張強力(N)をポリ乳酸モノフィラメントの繊度(dtex)で割り返して引張強度(cN/dtex)を算出した。この測定および算出を10本のポリ乳酸モノフィラメントについて行い、その平均値を引張強度(cN/dtex)とした。
【0053】
[沸騰水収縮率]
JIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した。
【0054】
[ステレオコンプレックス構造の確認]
得られたポリ乳酸モノフィラメントをWAXD(理学電機社製 4036A2型X線回折装置)を使用して分析し、赤道線においてθ=12.0°付近に観測されるステレオコンプレックス結晶の(100)面に由来するX線のピークの高さH12とθ=16.0°付近に観測されるホモPLLAまたはホモPDLAのピークの高さH16とから、H12とH16の比H12/H16を求めた。
【0055】
そして求めたH12/H16の値から、ステレオコンプレックス構造の形成状態を次の2つの基準で評価した。
○:0.1以上、
×:0.1未満。
【0056】
[操業性]
4日間連続して溶融紡糸を行い、延伸工程における糸切れの発生頻度を次の3段階で評価した。
○:全く問題なく、至って良好であった、
△:糸切れが多少発生したが、十分操業可能であった、
×:糸切れが多発し、操業が極めて困難であった。
【0057】
[PLLAチップの作製]
温度180℃の窒素雰囲気中で、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を使用して、光学純度99.5%のL乳酸からなるラクチドを180分間重合し、重量平均分子量19万、且つL体光学純度99%のPLLAチップを得た。
【0058】
[PDLAチップの作製]
温度180℃の窒素雰囲気中で、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を使用して、光学純度99.5%のD乳酸からなるラクチドを100分間重合し、重量平均分子量10万、且つD体光学純度99%のPDLAチップを得た。
【0059】
[実施例1]
PLLAチップ40重量%とPDLAチップ60重量%との混合物をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給した後、240℃で溶融混練した樹脂組成物を口金孔から押し出し、冷却浴中に導いて冷却固化して未延伸糸を得た。
【0060】
その後、紡糸速度150m/分の条件で、未延伸糸を100℃且つ4.0倍の条件で1段目の延伸を行い、さらに190℃且つ2.0倍の条件で2段目の延伸を行い、トータル8.0倍の延伸を行った。そして、さらに200℃且つ0.90倍の条件で熱セットをすることにより、直径0.4mmのポリ乳酸モノフィラメントを製糸した。
【0061】
[実施例2〜9]
紡糸速度、延伸および熱セット条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同じ方法でポリ乳酸モノフィラメントを製糸した。
【0062】
[実施例10〜12]
PLLAチップとPDLAチップの配合量を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同じ方法でポリ乳酸モノフィラメントを製糸した。
【0063】
[比較例1〜8]
紡糸速度、延伸温度および熱セット温度を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同じ方法によりポリ乳酸モノフィラメントを製糸した。
【0064】
[比較例9〜10]
直径を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同じ方法によりポリ乳酸モノフィラメントを製糸した。
【0065】
実施例および比較例で得られたポリ乳酸モノフィラメントの各種物性および評価結果を表1〜4に併せて記載する。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
表1〜4に結果から明らかなように、本発明の製造条件により得られたポリ乳酸モノフィラメント(実施例1〜11)は、融点が高く、且つ十分な強度を有するものであることが分かる。
【0071】
これに対して、本発明の製造条件を満たさずに得られたポリ乳酸モノフィラメント(比較例1〜11)は、融点や強度が低いことが分かる。
【0072】
よって、この結果から、実施例1〜11のポリ乳酸モノフィラメントは、十分な結晶状態とステレオコンプレックス構造を有し、従来の汎用樹脂と同じように、各種産業用資材として利用できるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、生分解性を有するのみならず、従来のポリ乳酸モノフィラメントに比べて融点が高く、且つ十分な強度を兼ね備えているため、耐熱性と耐久性が要求される各種産業用資材、特に抄紙用プレスフェルトや抄紙用ドライヤーキャンバスなど抄紙用織物、搬送用コンベアベルトおよび各種フィルターなどの各種工業用織物に使用した場合は、耐熱性と耐久性に優れた工業用織物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリL乳酸とポリD乳酸からなる樹脂組成物からなり、ポリL乳酸とポリD乳酸がステレオコンプレックス構造を形成しているモノフィラメントであって、直径が0.05〜1.0mm、融点が200〜235℃の範囲にあるとともに、JIS L−1013:1999−8.5に準じて測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメント。
【請求項2】
前記樹脂組成物がポリL乳酸30〜70重量%とポリD乳酸70〜30重量%とからなることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸モノフィラメント。
【請求項3】
JIS1013:1999−8.18に準じて測定した沸騰水収縮率が4%以下であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリ乳酸モノフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸モノフィラメントを少なくとも1部に使用したことを特徴とする産業用資材。
【請求項5】
工業用織物であることを特徴とする請求項4に記載の産業用資材。
【請求項6】
ポリL乳酸とポリD乳酸との混合物を溶融紡糸した後、2段以上の多段延伸および熱セットをするに際し、多段延伸のうち少なくとも1段目の延伸温度が60〜150℃の範囲にあり、且つトータルの延伸倍率が4.0〜10.0倍であるとともに、熱セット温度が160〜230℃の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2007−314899(P2007−314899A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143484(P2006−143484)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】