説明

ポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法及びそれによって得られる成型品

【課題】再現性のよいポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法及び耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の温度で射出成型して得られたポリ乳酸射出成型物に局所的に加熱して、成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度にすることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法、またポリ乳酸を溶融状態から通常結晶の形成温度以下の金型温度で成型中の成型物に局所的に加熱し、成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度にしてポリ乳酸射出成型品を得ることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法、および前記の耐熱性改良法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法及びそれによって得られる射出成型品に関し、さらに詳しくは通常結晶状態にある又は通常結晶に成型中のポリ乳酸射出成型物をレーザ照射により特定温度に加熱することによってポリ乳酸製射出成型品の耐熱性を大幅に改良することができるポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法及びそれによって得られる射出成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA(Poly Lactic Acid)とも表記される。)は、トウモロコシ、イモ類、ビート、サトウキビなどの植物から取り出されるでんぷんを発酵することによって得られるL−乳酸をモノマーとして重合させて合成されるポリマーが代表的であり、自然環境下で水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックであることからプラスチック廃棄物問題の解決策の一手段として、また再生可能資源である前記植物を原料としていることにより、循環型社会の構築に向けての材料として注目されている。
一方、ポリ乳酸はカーボンニュートラルな材料でもあり、自動車や家電製品、農業用資材、バイオマテリアルなど様々な用途に展開できれば、地球環境の保全の観点から極めて大きな効果が期待できる。
【0003】
そして、ポリ乳酸は、硬質で機械的強度が高く、射出成型による機械部品への適用の期待が大きいが、通常の射出成型品は耐熱性が低く、熱変形しやすいことが知られている。
これは、ポリ乳酸の結晶化速度が遅く、約60℃にガラス転移温度を有するため、射出成型品は前記ガラス転移温度以上の温度で軟化し変形してしまうことによる。
【0004】
このため、ポリ乳酸の射出成型品は、これまで耐熱性の要求されない(使用温度の上限が80℃以下)雑貨用途の一部で使用されているに過ぎず、本格的な用途展開には至っていないのが実情である。
そこで、ポリ乳酸の特性、特に耐熱性を改良するために種々の試みがなされた(特許文献1〜4)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−287347号公報
【特許文献2】特開平7−247345号公報
【特許文献3】特開2004−269588号公報
【特許文献4】特開2005−194415号公報
【0006】
上記の特開平6−287347号公報には、乳酸系ポリマー発泡成形物であって成形物の表層部の非発泡層の耐熱性が熱処理により改良されることが記載されている。そして、熱処理の具体例としては、金型内又は加熱容器内にて成型物全体を75℃〜150℃、例えば70℃で10分、90℃で5分、110℃で5分間の加熱を低温側から高温側に徐々に温度を上昇させることによって発泡シートの耐熱性が140℃まで改良されることが示されている。しかし、上記公報には射出成型品の耐熱性の改良については記載されていない。
【0007】
また、上記の特開平7−247345号公報には、ラクチドを120〜150℃で溶融重合により固形のポリ乳酸とし、得られた固形のポリ乳酸を100〜175℃の一定温度または昇温または降温しながら固相で2段目の重合を行うポリ乳酸の製造法が記載されている。しかし、上記公報には射出成型品を得た例は示されていない。
【0008】
また、上記の特開2004−269588号公報には、ポリ乳酸を含む樹脂組成物をシート状にした後、処理温度110〜150℃および処理時間1〜30秒にて熱処理するとともに成形を行うポリ乳酸系成形体の製造方法が記載されている。しかし、上記公報には具体例としてシート全体の熱処理について記載されているが局所的な熱処理については記載されてなく、処理温度は雰囲気温度であって成形体(シート)そのものの温度については示されていない。さらに、上記公報に具体例としては厚みが500μmのシートを成形した例が示されていて、射出成型品を得た例は示されていない。
【0009】
また、上記の特開2005−194415号公報には、ポリ乳酸を含む樹脂組成物からなるシートを120〜150℃の温度で1〜30秒間熱処理することによりポリ乳酸の結晶性が向上することが記載されている。しかし、上記公報にはシート全体の熱処理について記載されているが局所的な熱処理については記載されてなく、また、上記公報に具体例としては厚みが300μmのシートを成形した例が示されているが、射出成型品を得た例は示されていない。
【0010】
このように、従来公知のポリ乳酸成型品の耐熱性改良の技術に関しては、成型品が厚みが300〜500μmのシート状物に限られる。
また、従来公知のポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法は、成型品(シート)全体を熱処理するものであり、この熱処理法を厚みが数mm以上の射出成型品に適用した場合に耐熱性改良の効果が達成されるか不明である。
さらに、従来公知のポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法においては、熱処理の雰囲気温度を調整しているが成型品そのものの温度管理はされてなく、耐熱性改良効果の再現性が不明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、この発明の目的は、再現性のよいポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法及び耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の温度で射出成型して得られたポリ乳酸射出成型物に局所的に加熱して、成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度にすることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法に関する。
また、この発明は、ポリ乳酸を溶融状態から通常結晶の形成温度以下の金型温度で成型中の成型物に局所的に加熱し、成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度にしてポリ乳酸射出成型品を得ることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法に関する。
また、この発明は、前記の耐熱性改良法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品に関する。
【0013】
この発明において、成型物の局所範囲の温度とは、雰囲気温度ではなく成型物自体の温度をいう。
また、この発明において、前記の成型物の温度は、後述の実施例の欄に詳細に説明される測定法によって求められる。
また、この発明において、射出成型機によって成型中の成型物の温度とは、別に加熱条件を何点か変えた場合の成型物の温度との関係を求めておき、得られた検量線によって求められる成型物の局所範囲自体の温度をいう。
さらに、この発明において、通常結晶および高耐熱結晶とは、ポリ乳酸の結晶であって後述の実施例の欄に詳細に説明されるそれぞれ特定のX線回折ピーク値を示す結晶相である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、簡単な処理によって、再現性良く且つ効率的にポリ乳酸射出成型品の耐熱性を改良することが可能である。
また、この発明によれば、必要な箇所である局所的に耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)金型の一部に開けた窓からレーザ照射する前記の耐熱性改良法。
2)レーザ照射する時間が20mm当たり1秒間未満である前記の耐熱性改良法。
3)ポリ乳酸射出成型物が、カーボンブラック粉末を分散したものである前記の耐熱性改良法。
【0016】
4)ポリ乳酸射出成型品が、X線回折分析で2θ(deg)が16.7°にピークを有する高耐熱結晶からなる局所範囲と2θ(deg)が16.5°にピークを有する通常結晶からなる残部とからなる前記の耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品。
【0017】
前記の第1の発明において、ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の温度、好適には110℃以下30℃以上、特に30〜80℃の温度で射出成型して得られたポリ乳酸射出成型物を局所的に加熱して、成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度にすることが必要であり、これによって必要な箇所を含む局所に高耐熱結晶が形成され、耐熱性が必要な箇所のみの耐熱性を改良することが可能であり、再現性良く且つ効率的にポリ乳酸射出成型品の耐熱性を改良することが可能となる。
【0018】
前記の方法において、局所的に加熱されるポリ乳酸射出成型物は、溶融したポリ乳酸を好適には、特に60〜80℃の温度の金型温度で射出成型して成型機から取り出したものであって、通常は室温に冷却された状態にあるものである。
この発明においては、前記状態にある成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度に加熱することが重要であり、140℃未満の温度に加熱しても、高耐熱結晶が充分形成されず成型品の耐熱性は充分には向上せず、また成型物の局所範囲を160℃より高くしても成型品の耐熱性は本件加熱条件で得られる特性以上には向上せずむしろプロセス上不利である。
また、前記の局所的という意味は、耐熱性が求められる箇所を含む範囲をいい耐熱性が求められる箇所と同じ表面範囲であってもよい。
【0019】
前記の方法において、ポリ乳酸の射出成型物を得る射出成型工程と局所的加熱工程とは別々の独立した工程によって実施してもよく、あるいは射出成型工程と局所的加熱工程とを連続した工程によって実施してもよい。
前記の射出成型工程と局所的加熱工程とを連続した工程によって実施する場合の射出成型物は、室温まで冷却されてなくてもよいが、取り扱いの容易さから約50℃以下程度に冷却されたものが好ましい。
この第1の発明の方法は後述の第2の発明の方法に比べて、局所的加熱に必要な設備の設計の自由度が高いという利点がある。
【0020】
また、前記の第2の発明においては、ポリ乳酸を溶融状態から通常結晶の形成温度以下の金型温度で成型中の成型物を局所的に加熱し、成型中の成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度にすることが必要であり、これによって局所に高耐熱結晶が形成され、耐熱性が必要な箇所のみの耐熱性を改良することが可能であり、再現性良く且つ効率的にポリ乳酸射出成型品の耐熱性を改良することが可能となる。
【0021】
前記の方法においては、ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の金型温度、好適には110℃以下で30℃以上、特に30〜80℃の金型温度で成型中の成型物を、局所的に加熱し、成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度にすることを組み合わせることが必要である。120℃未満の温度に加熱しても、高耐熱結晶が充分形成されず成型品の耐熱性は充分には向上せず、また成型物の局所範囲を140℃より高くしてもそれ以上は成型品の耐熱性は向上せずむしろプロセス上不利である。
【0022】
前記の方法において、ポリ乳酸射出成型物は、溶融したポリ乳酸を射出成型機によって成型中にあるものであり、局所的加熱を射出成型機の金型の所定個所に開けられた窓からのレーザー照射によって行うことが好ましい。
この第2の発明の方法は前述の第1の発明の方法に比べて、局所的加熱に必要な金型設備の設計の自由度が低いという不利な点があるが、一旦金型を設置すると局所的な加熱が容易でありエネルギー的には有利である。
【0023】
また、この発明の耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品は、前記のいずれかの耐熱性改良法によって得られるものである。
さらに、この発明の方法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品は、好適にはX線回折分析で2θ(deg)が16.7°付近にピークを有する高耐熱結晶からなる局所範囲と2θ(deg)が16.5°付近にピークを有する通常結晶からなる残部とからなるものである。
【0024】
以下、この発明の方法について、前記の第1の方法の1例を示す部分的説明図である図1、および前記の第2の方法の1例を示す部分的説明図である図2を用いて説明する。
図1において、ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の温度で射出成型して得られたポリ乳酸射出成型物の片側全体(図中の灰色部分)に局所的に複数のレーザ光(図では照射方向が矢印示される)が照射され、成型物の局所範囲が140℃以上160℃以下の温度に加熱される。この場合、成型品が板状であって厚さが薄い場合、例えば厚さが数mm(例えば2〜3mm)の場合は成型品のすべてが高耐熱結晶からなることもあり得る。
図2において、ポリ乳酸を溶融状態から通常結晶の形成温度以下の温度で成型中の成型物に金型の一部に開けた窓(図示せず)から局所的に複数のレーザ光が照射され、成型物の局所範囲が120℃以上140℃以下の温度に加熱される。
【0025】
この発明の方法において、成型物の複数の個所に耐熱性が求められる場合は、「局所的に加熱」とは1つの成型物の複数の個所を意味する。前記の複数の個所に局所的に加熱する場合、例えばレーザ照射して加熱する場合には、加熱、例えばレーザ照射は同時に行っても良く逐次的に行ってもよい。
【0026】
この発明の方法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品について、この発明の方法である第2の方法の1例によって得られる射出成型品の高耐熱性結晶相のX線回折図と通常結晶相のX線回折図をまとめて示す図3と、この発明の方法の1例によって得られる射出成型品における通常結晶と高耐熱結晶との耐熱性を比較して示す図4を用いて説明する。
図3において、80℃に加熱して得られた通常結晶のX線回折分析による2θ(deg)=16.5°付近のピークと、レーザ照射して120、130℃又は140℃に加熱して得られた高耐熱結晶のX線回折分析による2θ(deg)=16.9°付近のピークとは明確に区別することができる。
そして、図4によれば、通常結晶の試験片は約100℃の耐熱性温度を示すが、高耐熱結晶の試験片は約130℃の耐熱性温度を示す。
【0027】
この発明において、成型品が板状であって厚さが薄い場合は、耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品は、例えば厚さが数mm(例えば2〜3mm)の場合は成型品の通常結晶のすべてが高耐熱結晶化された場合も含まれる。
【0028】
この発明におけるポリ乳酸としては、通常結晶を与えるポリ乳酸であれば特に制限はなく、L−乳酸及び/又はD−乳酸由来のモノマー単位のみ、好適にはL−乳酸のみで構成されるポリマーである。
この発明におけるポリ乳酸として、この発明の効果を損なわない範囲で他の共重合モノマー単位を20モル%以下の割合で含んでいてもよい。
前記の他の共重合モノマー成分としては、乳酸モノマー又はラクチドと共重合可能な他のモノマー成分、例えば2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどを挙げることができうる。
【0029】
前記のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
前記の多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリコールなどのエーテルグリコールや、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加させたものなどの芳香族多価アルコールが挙げられる。
前記のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などが挙げられる。
また、前記のラクトンとしては、グリコリド、e−カプロラクトングリコリド、β−プロピオラクトン、β−又はγ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0030】
この発明におけるポリ乳酸は、前記のモノマー成分を既知の任意の重合方法を採用することによって得ることができる。最も代表的な重合方法は、乳酸の無水環状二量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)であるが、乳酸を直接縮合重合しても構わない。
また、前記のポリ乳酸として、市販のもの、例えば米国ネイチャーワークス社、トヨタ自動車社、アルドリッチ社(Aldrich)、東レ社、三井化学社、大日本インキ化学工業社、東洋紡績社、ユニチカ社などのポリ乳酸を使用することができる。
また、この発明におけるポリ乳酸は、一旦ペレット化したものを用いてもよいが、重合後溶融混合した後直接射出成型することも可能である。
この発明におけるポリ乳酸は、質量平均分子量が50000〜1000000程度であるものが好ましい。
【0031】
この発明におけるポリ乳酸は、必要に応じて従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤などの各種添加剤を配合してもよい。
特に、少なくとも耐熱性が必要な局所範囲に、好適には全成型物中に均一にカーボンブラック粉末を分散したポリ乳酸成型物は、カーボンブラック粉末の存在によりレーザー光の熱交換効率が向上するので好適である。
前記のカーボンブラック粉末は、ポリ乳酸100質量部に対して0.01〜1質量部、特に0.1〜0.5質量部程度であることが好ましい。
【0032】
この発明の方法におけるポリ乳酸の射出成型物は、前記のポリ乳酸を用いてそれ自体公知の方法によって射出成型することによって得ることができる。
例えば、前記のポリ乳酸のチップを二軸押し出し機にて混練し、シリンダー温度200〜2220℃の範囲内の温度、金型温度60〜80℃の範囲内の温度で金型に射出し、10秒〜1分間程度保持して冷却して、ポリ乳酸の射出成型物を得ることができる。
【0033】
前記の第1の発明におけるポリ乳酸の射出成型物は、アニール処理されてないものであってもよいが、例えばアニール処理されたものであってよい。前記のアニール処理としては、80〜110℃で10分〜4時間程度であることが好ましい。一般的に、処理温度が高いほど処理時間は短くてよく、処理温度が低いと処理時間は長時間必要である。
前記の第1の発明におけるポリ乳酸の射出成型物は、特にアニール処理などによって通常結晶からなるものであって耐熱温度が約100℃程度のものであることが好ましい。
【0034】
この発明の方法においては、前記の射出成型物に局所的にレーザ照射して、成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度に加熱するか、又は前記の射出成型中の成型物に局所的にレーザ照射し、成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度に加熱することが好ましい。
前記のレーザ照射は、直径1〜10mm程度、特に2.5〜7.5mm程度の一点又は多点の照射スポット径によって走査照射して行うことが好ましい。
前記のレーザ光を走査する際の線速度は、10〜1000mm/秒、特に10〜500mm/秒程度であることが好ましい。レーザ光を走査する際の線速度はレーザー光の出力が大きいと線速度は小さくなりレーザー光の出力が小さくなると線速度は大きくなる。
また、レーザ照射する時間は、直径20mm面積当たり1秒間未満、好適には0.01秒間以上0.5秒間以下である。
【0035】
前記のレーザ照射は、出力が1〜100W、特に5〜20W程度の比較的出力が強くないレーザが好ましい。
このようなレーザとしては、赤外線レーザ、Arイオンレーザ、Cu蒸気レーザ、HF化学レーザ、色素レーザ、ルビーレーザ、YAGレーザ、ガラスレーザ、チタンサファイアレーザ、アレキサンドライトレーザ、GaAlAsアレイ半導体レーザなど、好適には赤外線レーザが挙げられる。
【0036】
この発明によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品は、必要な箇所が高耐熱性を有しており局部的に温度の上昇が予測される材料、例えば自動車の部材、例えば夏季の直射日光によって日光が当たる表面が高温となる自動車のインパネ材や局部的に加熱される電子機器などに好適である。
【実施例】
【0037】
以下、この発明をさらに説明するために実施例を示すが、この発明は実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、成型物の局所範囲の温度および射出成型機によって成型中の成型物の局所範囲の温度は、以下の方法によって求めた。
また、ポリ乳酸射出成型品の耐熱性評価は以下によって行った。
【0038】
1)成型物の温度測定
成型物の局所範囲を熱電対を用いて直接に温度測定して局所範囲の温度を測定した。
2)成型中の成型物の温度評価
出力10Wの赤外線レーザを用い、照射スポット直径5mm、レーザ走査速度を15〜25mm/秒の範囲で変えて、レーザ走査速度と成型物の局所範囲の温度との関係を求めて検量線とし、所定のレーザ照射条件における局所範囲の温度を求めた。
3)ポリ乳酸射出成型品の耐熱性評価
通常結晶のみからなるポリ乳酸射出成型物および高耐熱性結晶からなる成型物から作製した試験片(形状:10×80×4mm、角柱状)について、安田精機製作所製 148HDAにより熱変形温度(HDT)を測定した。
4)ポリ乳酸の結晶相の測定
ポリ乳酸の結晶相をX線回折分析により測定した。
【0039】
実施例1
PLA(ポリ乳酸、トヨタ自動車製、質量平均分子量130000)にカーボンブラックを0.2質量%を加えて、二軸押し出し機にて混練し、射出成型機を用いてシリンダー温度200〜230℃の範囲内の温度、金型温度60〜80℃で射出成型を行った。
得られた射出成型物に対して、出力10Wの赤外線レーザを用い、照射スポット径を直径5mmに調整後、改質対象面全面に15〜25mm/秒の速度で走査照射を行い、140〜160℃まで昇温させて、対象面のみ高耐熱結晶相を有する射出成型品を得た。
【0040】
比較例1
赤外線レーザを照射しなかった他は実施例1と同様にして、全面が通常結晶相である射出成型品を得た。
【0041】
実施例2
PLA(ポリ乳酸、トヨタ自動車製、質量平均分子量130000)にカーボンブラックを0.2質量%を加えて、二軸押し出し機にて混練し、射出成型機を用いてシリンダー温度200〜230℃の範囲内の温度、金型温度60〜80℃で、成型を行うための型には赤外線に対して透明な窓が設置してあり、ここから、出力10Wの赤外線レーザを用い、照射スポット径を直径5mmに調整後、改質対象面全面に25mm/秒の速度で走査照射を行い、120℃まで昇温させて、射出成型を行った。
その後、製品を型から取り出し、対象面のみ高耐熱結晶相を有する射出成型品を得た。
【0042】
実施例3
赤外線レーザの走査速度を22.5mm/秒に変えて、改質対象面を130℃まで昇温させた他は実施例2と同様にして、対象面のみ高耐熱結晶相を有する射出成型品を得た。
【0043】
実施例4
赤外線レーザの走査速度を20mm/秒に変えて、改質対象面を140℃まで昇温させた他は実施例2と同様にして、対象面のみ高耐熱結晶相を有する射出成型品を得た。
【0044】
比較例2
赤外線レーザを照射しなかった他は実施例2と同様にして、全面が通常結晶相を有する製品を得た。
【0045】
実施例1、実施例2〜4おおび比較例2で得られた成型品について、レーザ処理面の高耐熱結晶相および通常結晶相のX線回折分析結果および耐熱性を各々測定した。
いずれの実施例も、レーザ処理して加熱した加熱面は高耐熱結晶相で耐熱性が130℃であり、レーザ処理しなかった非処理面は通常結晶相で耐熱性が100℃であった。
結果をまとめて図3および図4に示す。
これらの結果から、この発明の第1の方法および第2の方法によって得られるポリ乳酸射出成型品は、局所的に耐熱性が大幅に改良されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、この発明の第1の方法の1例を示す部分的説明図である。
【図2】図2は、この発明の第2の方法の1例を示す部分的説明図である。
【図3】図3は、この発明の方法の1例によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品の高耐熱性結晶相のX線回折図と通常結晶相のX線回折図をまとめて示す。
【図4】図4は、この発明の方法の1例によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品における通常結晶と高耐熱結晶との耐熱性を比較して示す図である。
【図5】図5は、この発明の方法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品の1例の概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品
2 高耐熱結晶化された局所範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を通常結晶形成温度以下の温度で射出成型して得られたポリ乳酸射出成型物に局所的に加熱して、成型物の局所範囲を140℃以上160℃以下の温度にすることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法。
【請求項2】
ポリ乳酸を溶融状態から通常結晶の形成温度以下の温度で成型中の成型物に局所的に加熱し、成型物の局所範囲を120℃以上140℃以下の温度にしてポリ乳酸射出成型品を得ることを特徴とするポリ乳酸射出成型品の耐熱性改良法。
【請求項3】
金型の一部に開けた窓からレーザ照射する請求項2に記載の耐熱性改良法。
【請求項4】
レーザ照射する時間が20mm当たり1秒間未満である請求項3に記載の耐熱性改良法。
【請求項5】
ポリ乳酸射出成型物が、カーボンブラック粉末を分散したものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱性改良法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱性改良法によって得られる耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品。
【請求項7】
ポリ乳酸射出成型品が、X線回折分析で2θ(deg)が16.7°にピークを有する高耐熱結晶からなる局所範囲とθ(deg)が16.5°にピークを有する通常結晶からなる残部とからなる請求項6に記載の耐熱性の改良されたポリ乳酸射出成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−307820(P2008−307820A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158972(P2007−158972)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】