説明

ポリ乳酸廃棄物を用いた樹脂粘土及び接着剤

【課題】低コストで簡易な方法でポリ乳酸廃棄物をリサイクルすることにより樹脂粘土及び接着剤を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする樹脂粘土、及びポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸廃棄物のリサイクルに係り、特に、ポリ乳酸廃棄物をリサイクルして得た樹脂粘土及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂、さらには、再生可能資源からつくられるバイオマス由来の樹脂を種々の用途に用いる方法が提案されている。これらの生分解性樹脂やバイオマス由来のプラスチックは、バイオプラスチックと呼ばれ、化石資源の消費を削減し、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制するものと期待されている。
【0003】
バイオプラスチックのうち、現在最も有望な樹脂のひとつがポリ乳酸である。ポリ乳酸は、融点が170℃程度、ガラス転移点が60℃程度、分子量が10〜15万程度の結晶性ポリエステルである。現在では、非耐熱タイプの食用包装材、容器などの使用量が多く、今後も増加していくと思われる。また、ポリ乳酸に耐熱性、高耐久性を付加し、携帯電話の筐体などにも使用され始めているが、その使用量はまだ僅かである。
【0004】
ポリ乳酸は、廃棄されても分解性があるという長所はあるものの、廃棄せずにリサイクルすることに関しても研究がされ始めている。プラスチックのリサイクルとしては、回収した廃棄物を破砕して再度溶融・成形するマテリアルリサイクルが最も好ましいが、ポリ乳酸の場合、使用により劣化すること、再度溶融されることにより加水分解が促進されてしまうことなどのため、そのままリサイクルすることは困難である。そのため、ポリ乳酸をモノマーである乳酸やラクチドに分解し、再利用するケミカルリサイクルの研究が盛んに行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、ケミカルリサイクルは、分解に大量のエネルギーと大型の装置を必要とするため、コストの面で難点があるとともに、環境負荷の点でも問題がある。
【0006】
そのため、ケミカルリサイクル法に代わる他の方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2003−300927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされ、低コストで簡易な方法でポリ乳酸廃棄物をリサイクルすることにより樹脂粘土並びに接着剤を提供すること、及びポリ乳酸廃棄物をそのような用途にリサイクルする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする樹脂粘土を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする接着剤を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して、分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を、樹脂粘土に用いることを特徴とするポリ乳酸廃棄物のリサイクル方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して、分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を、接着剤に用いることを特徴とするポリ乳酸廃棄物のリサイクル方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、低コストで簡易な方法で、ポリ乳酸廃棄物をリサイクルして得た樹脂粘土並びに接着剤、及びポリ乳酸廃棄物をそのような用途にリサイクルする方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の種々の実施形態について説明する。
【0015】
本発明者らは、それ自体生分解性を有することから、そのまま廃棄されていたポリ乳酸廃棄物を、様々な用途にリサイクルして用いることを検討した。このようにポリ乳酸廃棄物を様々な用途にリサイクルすることが出来れば、より環境に対する負荷の低い製品を得ることが可能である。ここで、ポリ乳酸廃棄物とは、例えば、使用済の飲料用ポリ乳酸容器や、製造工程で発生する端材である。なお、飲料用ポリ乳酸容器は、ポリ乳酸のペレットを押出機で溶融混練し、射出成形機等により形成することにより製造される。
【0016】
しかし、通常、このようなポリ乳酸廃棄物は、市販されているポリ乳酸と同様、分子量が高く、混練物の粉砕性が悪いことから、そのままでは、様々な用途に用いることが出来ない。
【0017】
一般に、汎用樹脂をポリ乳酸に置き換えることを考えた場合、ポリ乳酸の分子量を高くし、光学純度を上げることで結晶性を上げ、耐熱性や耐衝撃性の改善を図る必要があるが、樹脂粘土や接着剤への使用を考えた場合、耐熱性や耐衝撃性は必要ではなく、むしろ分子量が低いほうが、造形性や感圧接着性の点で望まれる。
【0018】
そこで、本発明者らは、ポリ乳酸廃棄物の分子量を所定の範囲に調整することにより、樹脂粘土や接着剤として用いることが出来ることを見出し、本発明をなすに到った。
【0019】
即ち、本発明の第1の実施形態に係る樹脂粘土は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする。
【0020】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理したとしても、4,000を越える分子量に調整されたのでは、得られたポリ乳酸は硬く、粘土のようにこねたり、形を作ることが出来ず、樹脂粘土として用いることが出来ない。
【0021】
本実施例に係る樹脂粘土は、ポリ乳酸廃棄物から得たポリ乳酸のみから構成されたものであってもよいが、例えば粘度調整のための可塑剤や無機物、接着性向上のための低分子樹脂等の種々の添加剤を含有していてもよい。例えば、着色剤を含有することにより、種々の色彩のカラー粘土を得ることが出来る。
【0022】
本発明の第2の実施形態に係る接着剤は、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする。
【0023】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理したとしても、3,000を越える分子量に調整されたのでは、得られたポリ乳酸は感圧接着性が低く、接着剤として用いることが困難である。
【0024】
本実施例に係る樹脂粘土は、ポリ乳酸廃棄物から得たポリ乳酸のみにより構成されていてもよいが、例えば粘度調整のための可塑剤や無機物、接着性向上のための低分子樹脂等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0025】
本実施形態に係る樹脂粘土又は接着剤には、ポリ乳酸廃棄物の加水分解調整物以外に、必要に応じて、従来公知の樹脂を添加することができる。
【0026】
また、用いられるポリ乳酸廃棄物は、その主成分がポリ乳酸であることが必要である。即ち、ポリ乳酸廃棄物中のポリ乳酸の配合量は、好ましくは75〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%であることである。ポリ乳酸の配合量が75質量%未満では、原料として使用されるポリ乳酸廃棄物の量が限定されてしまう。
【0027】
ポリ乳酸廃棄物の樹脂粘土又は接着剤へのリサイクルは、次のようにして行うことが出来る。
【0028】
まず、ポリ乳酸廃棄物を必要に応じて洗浄し、粉砕機で破砕し、数mm程度のサイズのチップにする。次いで、ポリ乳酸廃棄物チップに加水分解処理を施すことにより、ポリ乳酸廃棄物中のポリ乳酸の分子量を調整する。加水分解処理は、例えば、温度70〜95℃、湿度70〜100%RHの環境下に、数日間〜10数日間、置くことにより行うことが出来る。このような加水分解処理は、恒温恒湿槽中で行うことが、最も簡易である。
【0029】
調整されるポリ乳酸の分子量は、樹脂粘土又は接着剤としての使用に最も重要なパラメータであり、樹脂粘土又は接着剤の品質を左右するものである。ポリ乳酸廃棄物は、様々な種類の形態、履歴のものを含むことを考慮すると、事前に予備試験を行い、加水分解の条件を定めておくことが望ましい。
【0030】
なお、加水分解処理は、恒温恒湿槽中で行うこと以外に、バッチ式の混練機で混練しながら適宜、水を足すことにより行うことも可能である。この方法は、混練時の粘性を測定することにより、加水分解レベルを把握することが出来るので、原料として使用履歴が不明なポリ乳酸廃棄物を用いる場合に有効な方法と言える。
【0031】
このようにポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して、分子量を、4,000以下に調整したものをリサイクルすることにより、優れた造形性を示す樹脂粘土を得ることが出来る。また、分子量を、3,000以下に調整したものをリサイクルすることにより、優れた感圧接着性を示す接着剤を得ることが出来る。
【0032】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合により結合したポリマーであり、近年、環境に優しい生分解性プラスチックとして注目を集めている。即ち、自然界には、エステル結合を切断する酵素(エステラーゼ)が広く分布していることから、ポリ乳酸は環境中でこのような酵素により徐々に分解されて、単量体である乳酸に変換され、最終的には二酸化炭素と水になる。
【0033】
本発明で使用されるポリ乳酸廃棄物の元のバージンポリ乳酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法により製造されたものでよい。例えば、原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や乳酸から環状二量体ラクチドを経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。
【0034】
以上説明した樹脂粘土又は接着剤には、必要に応じて従来公知の加水分解抑制剤を添加することができる。加水分解抑制剤としては、例えば、カルボジイミド系化合物、イソシアネート系化合物及びオキサゾリン系化合物などが挙げられる。このような加水分解抑制剤により、残存モノマーや分解により生じた水酸基やカルボキシル基末端が封止され、加水分解の連鎖反応を抑制することができる。
【0035】
具体的な加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物である日清紡績(株)製の“カルボジライトLA−1”などが市販されている。加水分解抑制剤の添加量は、生分解性樹脂に対し、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。添加量が多過ぎると、透明性が悪化し、トナーの発色が悪化する傾向となる。
【0036】
実施例
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0037】
1.実施例及び比較例で用いた成分の各物性値の測定方法は下記の通りである。
【0038】
(軟化点の測定)
装置:フローテスター(島津製作所(株)製、CFT−500D)
試料:1g
昇温速度:6℃/分
荷重:20kg
ノズル:直径1mm、長さ1mm
1/2法:試料の半分が流出した温度を軟化点とした。
【0039】
(ガラス転移点(Tg)の測定)
装置:示差走査熱量計(島津製作所社製:DSC−60)
試料:8mg
昇温条件:10℃/分で160℃まで昇温し、降温速度10℃/分で35℃まで冷却したあと、再度10℃/分で160℃まで昇温する。
【0040】
2回目の昇温時において、転移により得られる曲線部分の2つの接線の交点をガラス転移点とした。
【0041】
(分子量の測定)
装置:GPC(島津製作所(株)製)、検出器RI
分子量Mnは、分子量既知のポリスチレン試料によって作成した検量線を標準としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定される数平均分子量である。
【0042】
2.実施例及び比較例で用いたポリ乳酸廃棄物として、下記のようにして、ポリ乳酸廃棄物を加水分解したものを用いた。
【0043】
ポリ乳酸製容器(リスパック社製ニュートボール)を温度80℃、湿度90%RHに設定した恒温恒湿槽内に放置することにより加水分解処理を行った。
【0044】
加水分解処理時間を可変し、分子量の異なる下記表1に示す樹脂1〜12を得た。
【0045】
このようにして得られた12種の樹脂の造形性及び感圧接着性について、下記のように試験し、評価した。
【0046】
1.造形性
樹脂を手でこねて、下記の基準で評価した。
【0047】
○:樹脂を粘土のようにこねたり、形を作ることが出来る。
【0048】
×:樹脂が硬く、こねることが出来ない。
【0049】
2.感圧接着性
樹脂を紙に塗布してその上に他の紙を重ね、指で擦った後に、紙を剥がして、下記の基準で評価した。
【0050】
○:容易には剥がれず、接着性を示す。
【0051】
△:容易に剥がれ、接着性が低い。
【0052】
×:接着性が非常に低い。
【0053】
以上の評価結果を下記表1に示す。
【表1】

【0054】
上記表1より、以下のことが明らかである。
【0055】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して、分子量を4,000以下に調整した樹脂9〜12(実施例1〜4)は、いずれも造形性に優れており、樹脂粘土として使用することが出来る。これに対し、分子量が4,000を越える樹脂1〜8(比較例1〜8)は、いずれも造形性が劣っており、樹脂粘土として使用することが出来ない。
【0056】
また、ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して、分子量を3,000以下に調整した樹脂11及び12(実施例5及び6)は、いずれも感圧接着性に優れており、接着剤として使用することが出来る。これに対し、分子量が3,000を越える樹脂1〜10(比較例9〜18)は、いずれも感圧接着性造形性が低く、接着剤として使用することが困難である。特に、分子量が4,000を越える樹脂1〜8(比較例9〜16)は、接着性が非常に低く、接着剤として使用することは不可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする樹脂粘土。
【請求項2】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理することにより分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を主成分として含むことを特徴とする接着剤。
【請求項3】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して分子量を4,000以下に調整したポリ乳酸を、樹脂粘土に用いることを特徴とするポリ乳酸廃棄物のリサイクル方法。
【請求項4】
ポリ乳酸廃棄物を加水分解処理して分子量を3,000以下に調整したポリ乳酸を、接着剤に用いることを特徴とするポリ乳酸廃棄物のリサイクル方法。

【公開番号】特開2010−185046(P2010−185046A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31570(P2009−31570)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】